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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141292
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】調理用水中油型乳化物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20230928BHJP
   A23D 7/01 20060101ALI20230928BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20230928BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20230928BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23D7/01
A23L5/00 L
A23L9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047528
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐本 裕美
(72)【発明者】
【氏名】小山 直也
【テーマコード(参考)】
4B025
4B026
4B035
【Fターム(参考)】
4B025LB20
4B025LG03
4B025LG14
4B025LG24
4B025LG32
4B025LK01
4B025LP01
4B025LP10
4B026DC01
4B026DC03
4B026DC06
4B026DG03
4B026DK01
4B026DK03
4B026DL04
4B026DP01
4B035LC01
4B035LC03
4B035LC16
4B035LE02
4B035LG09
4B035LG12
4B035LG15
4B035LG18
4B035LG34
4B035LK13
4B035LP01
4B035LP21
(57)【要約】      (修正有)
【課題】レトルト加熱等の条件でも強い耐熱性を有した、コク味を付与できる調理用の水中油型乳化物を提供する。
【解決手段】オーツに由来する蛋白質を0.02~1.2質量%、油脂を5~50質量%、ショ糖脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを含む調理用水中油型乳化物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーツに由来する蛋白質を0.02~1.2質量%、油脂を5~50質量%、ショ糖脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを含むことを特徴とする、調理用水中油型乳化物。
【請求項2】
ショ糖脂肪酸エステルのHLBが14以上である、請求項1に記載の調理用水中油型乳化物。
【請求項3】
動物性原料を使用しない、請求項1または請求項2に記載の調理用水中油型乳化物。
【請求項4】
レトルト加熱用である。請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の調理用水中油型乳化物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項を含有した加工食品。
【請求項6】
レトルト加熱処理を行う、請求項5に記載の加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱処理に対する安定性が要求される、調理用の水中油型乳化物に関する。
【背景技術】
【0002】
乳製品やそれを模した水中油型乳化物は、コクやまろやかさを持たせる効果があるため、幅広く加工食品に利用されている。一方、加工時の酸性環境や加塩環境での加熱処理、または長期保存の為の加熱殺菌時等に、油脂の分離、凝集や風味劣化が生じる問題がある。
水中油型乳化物に耐熱、耐酸、耐塩性を付与する技術としては、油脂組成に特徴をもたせるもの(特許文献1)、乳脂と乳蛋白に特定の油脂を配合するもの(特許文献2)、乳化剤に特徴を持たせるもの(特許文献3)、乳化剤にカラギーナンを添加するもの(特許文献4)等々が開示されている。
一方、近年は持続的な原料供給や健康等の問題から、動物性原料を忌避して乳を用いない需要がある。豆乳はその筆頭であり、加工にも使用できる風味の良い豆乳として、特許文献5などが挙げられる。
また、オーツを含む乳化物はオーツミルクやオーツクリームとも呼ばれ広く普及しているが、乳化剤と併用することによる加工食品用原料の可能性については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-146787号公報
【特許文献2】特開2012-231756号公報
【特許文献3】特開平2-48034号公報
【特許文献4】特開2008-154469号公報
【特許文献5】特開2013-143931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
牛乳や生クリーム等の乳を含む乳化物に比較して、油脂と乳化剤のみで構成した水中油型乳化物はコク味等に乏しい。そこで蛋白質が併用されるが、乳蛋白質を豆乳等の他の植物性蛋白質で置換した水中油型乳化物は、乳蛋白質ほどの耐熱性を得ることができず、調理用途への適性が低い。
また、乳蛋白質であっても酸性環境では安定ではなく、レトルト等の過酷な加熱処理を行うと風味に問題を起こす場合があり、例えば調理に使用した場合に、素材の味を抑止する等が知られている。
本発明の目的は、乳蛋白質を上回る耐熱性を有した、調理用の水中油型乳化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、オーツに由来する蛋白質を使用し、油脂と乳化剤を適宜併用することで、強い耐熱性を有しコク味が付与された水中油型乳化物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は
(1)オーツに由来する蛋白質を0.02~1.2質量%、油脂を5~50質量%、ショ糖脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを含むことを特徴とする、調理用水中油型乳化物。
(2)ショ糖脂肪酸エステルのHLBが14以上である、(1)に記載の調理用水中油型乳化物。
(3)動物性原料を使用しない、(1)または(2)に記載の調理用水中油型乳化物。
(4)レトルト加熱用である。(1)乃至(3)の何れかに記載の調理用水中油型乳化物。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1項を含有した加工食品。
(6)レトルト加熱処理を行う、(5)に記載の加工食品の製造方法。

に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、レトルト加熱等の条件でも強い耐熱性を有した、コク味を付与できる調理用の水中油型乳化物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0009】
(調理用水中油型乳化物)
本発明の調理用水中油型乳化物とは、そのまま飲食に用いるのではなく、調理加工の材料として用いる水中油型乳化物のことである。これを用いた食品に、独特の「コク味」を含む風味食感を付加し、且つ耐熱性を有する。
【0010】
(油脂)
本発明の水中油型乳化物を構成する油脂は、通常食品に用いられる油脂を使用することができる。すなわち、ダイズ油、ナタネ油、トウモロコシ油、サフラワー油、コメ油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油、オリーブ油、落花生油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、豚脂、牛脂、魚油、中鎖脂肪酸油といったトリグリセリド類およびこれらをエステル交換や水素添加処理等で改質したものが挙げられる。
水中油型乳化物の油脂含量は5~50質量%が好ましく、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上が更に好ましい。また、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下が更に好ましい。油分が高すぎる場合は乳化が安定しない場合があり、低すぎる場合はコク味が低減し、調理用乳化物としての機能が得られない場合がある。
【0011】
(乳化剤)
本発明の水中油型乳化物を構成する乳化剤は、ショ糖脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを含むことを特徴とする。これら以外にも、種々の乳化剤が使用できる。例えば、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、コハク酸脂肪酸モノグリセライド、クエン酸脂肪酸モノグリセライド、ジアセチル酒石酸脂肪酸モノグリセライド、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム、ポリオキシエチレン誘導体、脂肪酸塩、加工デンプン、レシチン、酵素分解レシチン、水素添加酵素分解レシチン等のレシチン類、サポニン類等が挙げられ、これらの乳化剤の中から1種又は2種以上を選択して適宜使用する事が出来る。
本発明に用いるショ糖脂肪酸エステルのHLBは10以上、12以上、14以上が好ましく、16以上が最も好ましい。またHLB 18以下が好ましい。HLB 3~7のショ糖脂肪酸エステルを併用することもできる。併用するポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは7~14のものが好ましく、10~14のものが最も好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルも異なるHLBのものを併用することができる。有機酸脂肪酸エステル等を組み合わせることも好ましい。
ショ糖脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルの使用量は、水中油型乳化物中に各乳化剤を0.1~2質量%が好ましく、0.2~1質量%が更に好ましい。他の乳化剤についても、各乳化剤を0.02~2質量%が好ましく、0.05~1質量%が更に好ましい。
【0012】
(オーツ由来蛋白質)
本発明には、オーツに由来する蛋白質が必須である。この蛋白質が乳化の安定性を増すと同時に「コク味」を付与する。そして、数多くの蛋白質の中で、本蛋白質のみが強い耐熱性を有している。
オーツとは、オーツ麦、オート麦または燕麦とも呼ばれる穀類であり、脱穀して外皮を除いた種子を以下の方法等により破砕し利用する。
【0013】
オーツに由来する蛋白質は、蛋白質のみを精製して使用するには及ばず、蛋白質を含むオーツを乾式または湿式で粉砕したものをそのまま使用することもできるし、水や熱湯で抽出して繊維等を除去したエキスとして使用することもできる。
乾式粉砕の場合は、オーツ原料を、可能であればグラインダ等で予備粉砕した後に、フレーククラッシャー,ハンマーミル,ピンミル,ボールミル等の粉砕機で粉砕処理する。粉砕後に必要によりメッシュ等で粒度を揃えることもできる。または、これら粉砕オーツ粉として購入することも可能である。
粉砕した試料を水や熱湯に分散し、必要によりせん断力を掛けた後に、そのまま使用するか、不溶性成分をろ過または遠心分離等で分離し、可用性成分のみをエキスとして使用することができる。エキスは乾燥することもできる。
【0014】
湿式粉砕の場合は乾式粉砕同様にオーツ原料を、可能であればグラインダ等で予備粉砕した後に、水系にてコミットロール等の粉砕機で粉砕または摩砕処理する。摩砕処理したオーツの分散液をそのまま、または濃縮して、更には乾燥して使用することができる。あるいは、不溶性成分をろ過または遠心分離等で分離し、可用性成分のみをエキスとして使用することができる。エキスは乾燥することもできる。
【0015】
オーツの分散液を用いる場合もオーツエキスを用いる場合も、本発明の水中油型乳化物中に、オーツ由来の蛋白質として0.02~1.2質量%含まれていることが必須である。好ましくは0.1質量%以上であり、更に好ましくは0.3質量%以上であり、最も好ましくは0.4質量%以上である。また、好ましくは1.1質量%以下であり、更に好ましくは0.9質量%以下である。オーツ由来蛋白質は、耐熱性を有した乳化安定性を保持すると共に、乳化物に「コク味」を付与する特徴がある。
尚、蛋白質量は粗蛋白質としてケルダール法で測定する。具体的には、試料に対して、ケルダール法により測定した窒素の質量を、乾燥物中の粗蛋白質含量として「質量%」で表す。なお、窒素換算係数は6.25とする。
【0016】
(酵素類)
オーツに由来する食感を改良するために、各種の酵素類を添加することも有効である。ここで使用する酵素は、各種のα-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ等のアミラーゼ類、各種のセルラーゼ、各種のプロテアーゼ等を用いることができる。酵素類はオーツの粉砕物またはエキスを含む水中油型乳化物の調製時に添加するが、オーツの湿式粉砕時やエキス抽出時の加水中に添加しても良い。
【0017】
(その他の原料)
本発明の水中油型乳化物は、必要により、上記以外の原料も用いることができる。ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、ステビア、アスパルテーム、に例示される糖類あるいは糖アルコール類、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、プルラン、グァーガム、サイリウムシードガム、水溶性大豆多糖類、イヌリン、カラギーナン、タマリンド種子ガム及びタラガム糖の多糖類、更には、クエン酸ナトリム等のpH調整剤、塩化ナトリウム等の塩類、酸化防止剤、香料成分、着色料、酸味料、保存料、栄養強化剤等を添加することもできる。
【0018】
本発明の水中油型乳化物は、乳を使用しなくても、同等のコク味と、乳を上回る耐熱性および耐酸性を付与することができるため、例えば乳のアレルギー対策として乳原料を使用しないことが可能である。更に乳や卵等のアレルギーの対策として、または動物性原料を忌避する需要の為に、乳および乳に由来する蛋白質、脂質、糖質類、卵および卵白、卵黄等、更に、ゼラチン、動物由来の脂質類、並びに動物由来の各種の調味材等、動物原料を使用しないことも可能である。
【0019】
(乳化物の製造法)
本発明の水中油型乳化物の製造方法について説明する。本発明の水中油型乳化物は、油脂及び油性成分を混合した油相と、水及び水性成分を混合した水相を、乳化することにより得ることができる。
例えば、水または温水に、オーツ破砕粉末もしくはオーツエキス、並びに乳化剤、必要によりpH調整剤等の添加物を加えて攪拌し、溶解あるいは分散させた水相を調製後、あらかじめ調合した油相を添加し予備乳化を行う。さらにこれを、好ましくはバルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミルなどの均質化装置により圧力0~100MPaの範囲で均質化する。そして、必要によりインジェクション式、インフージョン式等の直接加熱方式、あるいはプレート式、チューブラー式、掻き取り式などの間接加熱方式を用いたUHT・HTST・低温殺菌、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌もしくは加熱殺菌処理を施してもよい。
さらにこれを、好ましくはバルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミルなどの均質化装置により圧力0~100MPaの範囲でさらに均質化してもよい。そして、必要により急速冷却、徐冷却などの冷却操作を施してもよい。また、本発明の水中油型乳化物は、必要により、冷蔵若しくは冷凍状態で保存してもよい。
上記以外の当業者に公知の方法によっても製造する事ができる。
【0020】
(耐熱性)
本発明の水中油型乳化物は、高温加熱においても良好な安定性を有することから、特にレトルト殺菌が必要な食品用として好適に用いることができる。レトルト殺菌とは、加圧条件下、100~150℃、好ましくは110~150℃、更に好ましくは115~130℃で、1秒~90分間、好ましくは1分~60分間、更に好ましくは5分~40分間程度加熱殺菌する方法であり、アルミパウチ、テーブルカップ、透明パウチ、缶、チアパック等の密封容器に封入して行われる。またレトルト加熱に限らず、90~100℃付近での数時間の加熱等にも好適である。
本発明の水中油型乳化物は、これらの条件の加熱処理を行っても、乳化破壊、凝集、風味劣化等を引き起こしにくい耐熱性を有している。
また、本発明は、酸性での耐熱を併せ持つことが特徴である。酸性の耐熱性とは、鉱酸や有機酸により、または添加する果実類、野菜類または調味材等の酸性の原料により、当該乳化物をpH3~5.5、好ましくはpH3.5~5の酸性下に於いて上記と同様な加熱処理を行っても、乳化破壊、凝集、風味劣化等を引き起こさない状態である。更に本発明は、耐塩性を併せ持つ場合がある。耐塩性とは塩化ナトリウム0.3~3質量%、好ましくは0.5~1.5質量含んだ状態で上記と同様な加熱処理を行っても、乳化破壊、凝集、風味劣化等を引き起こさない状態である。尚、畜肉エキス、魚肉エキス、ソース等の調味料を添加する場合も、それら中の塩類のモル濃度を塩化ナトリウム濃度に換算して考えるものとする。
【0021】
(応用例)
次に本発明の加工食品について述べる。本発明の加工食品は、上記本発明の水中油型乳化物を使用した食品であり、本発明の添加によりコク味等を付与した上に、高い耐熱性を併せ持たせることができる。数時間~数十時間の加熱処理や、加工後にレトルト等の加圧加熱殺菌処理を行うことが可能となる。また、風味付与や保存性の為に、酸性あるいは塩濃度を高めた食品にも、本発明は有効である。
具体的には例えばカレー、シチュー、パスタソース等のソース類、ソーセージ、野菜加工品等の加工調理食品、グラタン、鍋等のベース、スープ、カフェオレ、ミルクティ、乳飲料、清涼飲料水等の飲料、プリン、杏仁豆腐、各種ゼリー等のデザート食品が挙げられる。
これら食品の加工に際して本発明の水中油型乳化物を使用すると、酸性環境や高塩環境を含めて、加工中の加熱処理や加工後の加熱殺菌処理に於いても、乳化破壊や悪風味の発生を抑止することができる。
【実施例0022】
以下に本発明の実施例を記載するが、この発明の技術思想がこれらの例示によって限定されるものではない。尚、特に示さない限り、部、%等は質量基準による。
【0023】
(オーツエキスの調製)
ロールドオーツ(オーストラリア産・兼松)1質量部に、温水6質量部およびα-アミラーゼ(天野エンザイム)を0.01質量部加え、グラインダで予備破砕後に、コミットロールで破砕した。破砕液を遠心分離(3,000×g,5分間)にて上清を回収して、オーツエキスAとした。オーツエキスAの組成は以下であった。水分:89.7質量%、粗蛋白質:0.6質量%、脂質:0.8質量%、灰分:0.1質量%未満、炭水化物:8.9質量%、食物繊維(酵素-HPLC法):0.8質量%、Na:0.002質量%。
【0024】
(オーツおよび大豆による乳化物調製)実施例1~2、比較例1~7
水にオーツ粉末(日本食品製造合資会社製日食オーツ、粗蛋白質含量 10%)、各種乳化剤、pH調整剤(クエン酸ナトリウム)を表1の配合で添加し、ミキサーにて溶解して水相とした。また、加熱融解したヤシ油を油相として水相と混合し、予備乳化タンクにて60℃,20分間予備乳化を行った後、プレート式熱交換機にて70~80℃まで予備加熱を行い、超高温滅菌装置(岩井機械工業(株)製・直接蒸気吹き込み方式)によって、140~150℃まで加熱した。さらに殺菌保持チューブであるホールディングチューブにて140~150℃で3~12秒間保持し、蒸発冷却し70~80℃まで冷却した。その後、再均質化して、再びプレート冷却装置にて10℃以下に冷却する事により、水中油型乳化物を調製した。(実施例1)。尚、表中のポリグリセリンエステルはポリグリセリン脂肪酸エステルを、シュガーエステルはショ糖脂肪酸エステルを表す。
前述のオーツエキスA、分離大豆たん白(不二製油製フジプロCLE・粗蛋白質含量85.7質量%)、豆乳(販売者:不二製油株式会社 無調整豆乳・粗蛋白質含量4.7質量%)を用いて、表1の配合に従って、実施例1と同様の方法にて水中油型乳化物を調製した。尚、比較例1は蛋白質を何も加えていない。(実施例2、比較例1~5)
また、市販牛乳(明治社製・明治おいしい牛乳・固形分12.6%))および市販生クリーム(よつ葉社製・乳脂肪47%、固形分52.7%)を表1の濃度にて希釈し、後述のレトルトテストを行った(比較例6,7)。
【0025】
(評価)
評価はレトルト前の性状に加え、(1)3倍に希釈した後pHを積極的に調整せずに121℃,30分間のレトルト加熱を行った中性レトルト後、(2)10倍に希釈しpHを4.5に調整後に、121℃,30分間のレトルト加熱を行った酸性レトルト後の2条件とした。また、レトルト前に固化した試料については、酸性レトルト処理を行っていない。
【0026】
<レトルト前クリーム性状>
レトルト前の各乳化物試料の性状について、以下の何れかとした。
3:良好、2:許容範囲、1:固化している(ボテている)
<レトルト後官能評価>
熟練したパネラー5名にて行い、以下の基準で合議により判定した。
・コク味評価
3:コク味ある、2:コク味少ないが許容範囲、1:コク味ない
・風味評価
5:雑味全くなく非常に良好、4:雑味ほとんどなく良好、3:雑味わずかで許容範囲、2:雑味がありやや悪い、1:雑味が強く悪い
<レトルト後凝集>
レトルト後の凝集について、以下の何れかとした。
5:なし、4:わずかにあるが強く振るとなくなる。3:わずかにあるが許容範囲、2:ややあり、1:かなりあり
<総合評価>
熟練したパネラー5名にて行い、各項目を総合的に検討し合議により判定した。
3:良好、2:許容範囲、1:悪い
【0027】
(表1)各蛋白質乳化物の組成と評価1
【0028】
結果を表1下段に示す。オーツを用いた実施例1,2の水中油型乳化物は、レトルト処理後も風味が良好だったのに対して、それ以外の蛋白質添加系(比較例2~7)は全てレトルト後の風味に問題があった。蛋白質無添加のものは(比較例1)悪風味は認められなかったが、コク味がないものだった。分離大豆たん白(比較例2,3)を用いたものは、レトルトにより風味が劣化し、豆乳を用いたもの(比較例4,5)はレトルトにより風味が劣化し、酸性レトルトでは凝集も認められた。乳製品(比較例6,7)も、レトルト後に風味の劣化が認められ、酸性レトルトは耐性が無かった。
【0029】
(他蛋白原料による乳化物調製)比較例8~15
以下の原料を用いて、表2の配合にて、実施例1と同様に水中油型乳化物を調製し、評価を行った。試料として、エンドウたん白(DSP五協フード&ケミカル社製、Pea Protein80%、粗蛋白質含量80g以上/100g)、ひよこ豆たん白(DSP五協フード&ケミカル社製、Chickpea Protein、粗蛋白質含量80g以上/100g)、ソラマメたん白(DSP五協フード&ケミカル社製、Fava bean Protein、粗蛋白質含量88 g以上/100g)、アーモンドプロテインパウダー(日成共益社製、アーモンドプロテイン皮むき、粗蛋白質含量44.4%)を用いた。
【0030】
(表2)各蛋白質乳化物の組成と評価2
【0031】
結果を表2下段に示す。オーツ以外の植物性蛋白質は何れもレトルト後の風味が悪く、一部は凝集も認められた(比較例8~15)。レトルト後も乳化と風味を維持できるものは、オーツに限られることが判った。
【0032】
(乳化剤の種類検討)実施例3~6、比較例16~17
乳化剤の使用について、表3の配合にて、実施例1と同様に水中油型乳化物を調製し、評価を行った。
結果を表3下段に示すが、HLB 16のショ糖脂肪酸エステルに、HLB 13またはHLB 8.4のポリグリセリン脂肪酸エステルの併用が特に有効である一方、HLB 5のショ糖脂肪酸エステルではやや効果が弱かった。ショ糖脂肪酸エステルを用いない比較例16~17では、中性または酸性のレトルト後に凝集が認められた。
【0033】
(表3)乳化剤の種類検討と評価
【0034】
(蛋白質濃度の検討)実施例7~10,比較例18~19
オーツに由来する蛋白質の有効濃度について、表4の配合にて、実施例1と同様に水中油型乳化物を調製し、評価を行った。
結果を表4下段に示すが、オーツ蛋白質濃度として0.01質量%(比較例18)はコク味が感じられず、0.03質量%では(実施例7)コク味は少ないものの許容範囲だった。オーツ蛋白質濃度0.15質量%(実施例8)ではコク味に加えてレトルト後の風味が更に良好であり、0.4~0.8質量%ではレトルト後の風味が非常に良好であった。1.0質量%(実施例10)では、酸性加熱で僅かに凝集が認められたが、ほぼ問題ない状態だった。蛋白質濃度1.5質量%(比較例19)では、乳化が上手く行えなかった。
【0035】
(表4)有効蛋白質濃度の検討と評価
【0036】
(油分の検討)実施例11~15,比較例20
油分について、表5配合にて、実施例1と同様に水中油型乳化物を調製し、評価を行った。
結果を表5下段に示すが、油分が2質量%と極端に低いと(比較例20)、コク味が不足しており、調理用水中油型乳化物として適当ではなかった。油分5質量%でも、コク味は少ないものの許容範囲だった(実施例11)。一方、10~40質量%については(実施例1,12~15)コク味に加えてレトルト後の風味についても良好な結果が得られた。
【0037】
(表5)油分の検討と評価
【0038】
(耐塩性の種類検討)
ここまで試作した試料の一部について、その耐塩性を確認した。各試料を10倍に希釈しNaClを終濃度1.0質量%に添加した後にpHを積極的に調整せず、121℃,30分間のレトルト加熱後に、凝集、風味等を実施例と同様にパネラー5名にて評価した。
結果を表6下段に示すが、オーツは蛋白質濃度0.03%の実施例7を除き、概ね良好であり、大豆等の他の植物は風味が悪く使用できなかった。
【0039】
(表6)耐塩性試験の評価
【0040】
(チキンスープの調製)実施例16,比較例21~22
鍋に表7の配合で各原料及び水を加え加熱した。85℃に到達した際に増粘剤(キサンタンガム・ユニテックフーズ社製)を添加し、歩留まり90質量%に到達するまで加熱を継続した。100gずつレトルトパウチ袋に分注し、121℃,30分間のレトルト加熱を行った。
他の原料は以下のものを用いた。牛乳(明治社製)、豆乳、濃口醤油(キッコーマン社製)、炒めタマネギペースト(ハウス食品製)、チキンエキス、ビーフエキス(日研フード社製)、生おろしにんにく、生おろししょうが(エスビー食品社製)、加工澱粉(松谷化学工業社製)。
<凝集>
レトルト後の凝集について、以下の何れかとした。
5:なし、4:わずかにあるが強く振るとなくなる。3:わずかにあるが許容範囲、2:ややあり、1:かなりあり
<風味評価>
熟練したパネラー5名にて行い、、以下の基準で合議により判定した。
3:雑風味が無く良好、2:従来品、乳に由来する風味は残る、1:悪風味があり、許容できない
<総合評価>
熟練したパネラー5名にて行い、各項目を総合的に検討し合議により判定した。
3:良好、2:許容範囲、1:悪い
【0041】
(表7)チキンスープの組成と評価
【0042】
結果を表7下段に示すが、豆乳を用いた比較例22は、レトルト処理により凝集が起こり、使用できなかった。従来品である牛乳を用いた比較例21は、乳に由来する風味が残り、スープの風味がマスキングされるものだった。対して本発明品である実施例16は、雑味がなく非常に良好な風味を示した。
【0043】
(ホワイトソースの調製)実施例17,比較例23~24
表8の配合に従って以下を調製した。鍋に冷凍状態のベシャメルソース(不二製油社製・ベシャメルソースVG)を入れ、加熱溶融させた。そこに乳(オーツ,牛乳,豆乳)の各半量を加え、攪拌下に加熱した。歩留まり80質量%に到達後、更に乳の残り半量、他の原料および水を添加し、歩留まり75質量%に到達するまで加熱を継続した。100gずつレトルトパウチ袋に分注し、121℃,30分間のレトルト加熱を行った。共通する原料の選択、および試作品の評価は、実施例16のチキンスープと同様に行った。
【0044】
(表8)ホワイトソースの配合と評価
【0045】
結果を表8下段に示す。比較例24の豆乳は、加塩レトルト処理による凝集が認められた上に、悪風味もあり使用できなかった。従来品である牛乳を用いた比較例23は、乳に由来する風味が残り、スープの風味がマスキングされると共に、僅かな褐変が認められた。対して本発明品である実施例17は、雑味がなく非常に良好な風味を示した上に凝集も認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明により、耐熱耐酸耐塩性を有した調理加工の適性の高い水中油型乳化物を得ることができる。これにより風味が良く保存性の高い、各種の加工食品を調製することが可能となる。