(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141327
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ASA系グラフト共重合体、およびそれを用いた樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 265/06 20060101AFI20230928BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C08F265/06
C08L51/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047584
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100150326
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 知久
(74)【代理人】
【識別番号】100076820
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 健次
(72)【発明者】
【氏名】和田 慎一
(72)【発明者】
【氏名】内藤 吉孝
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
【Fターム(参考)】
4J002BC06X
4J002BN12W
4J002CF06X
4J002CF07X
4J002CG01X
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
4J002HA09
4J026AA17
4J026AA18
4J026AA31
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4J026AC09
4J026AC15
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4J026BA05
4J026BA31
4J026BB03
4J026DA04
4J026DA07
4J026DA15
4J026DB04
4J026DB08
4J026DB15
4J026DB24
4J026DB40
4J026EA04
4J026FA07
4J026GA01
4J026GA09
(57)【要約】
【課題】 ポリカーボネートのようなマトリックス樹脂とASA系グラフト共重体とを併用するにあたり、耐衝撃性および発色性の両方を向上または保持することができる、ASA系グラフト共重合体、およびそれを用いた樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 本発明のASA系グラフト共重合体は、シードとコア層とシェル層とをこの順で有する。ここで、シードおよびコア層で構成される内部仮想粒子部分の平均粒子径は60~90nmであり、コア層の厚みは7~18nmである。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シードとコア層とシェル層とをこの順で有する、ASA系グラフト共重合体であって、
該シードおよび該コア層で構成される内部仮想粒子部分の平均粒子径が60~90nmであり、
該コア層の厚みが7~18nmである、ASA系グラフト共重合体。
【請求項2】
前記コア層の厚みが8~16nmである、請求項1に記載のASA系グラフト共重合体。
【請求項3】
前記内部仮想粒子部分の平均粒子径が65nm~80nmである、請求項1に記載のASA系グラフト共重合体。
【請求項4】
前記シードがスチレン単位を含み、前記コア層がアクリレート単位を含み、そして前記シェル層がアクリロニトリル単位を含む、請求項1に記載のASA系グラフト共重合体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のASA系グラフト共重合体とマトリックス樹脂とを含有する、樹脂組成物。
【請求項6】
前記マトリックス樹脂が、ポリカーボネート、ポリ(スチレン-アクリロニトリル)、ポリブチレンテレフタレート、およびポリエチレンテレフタレートからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂から構成される、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記マトリックス樹脂がポリカーボネートである、請求項5に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ASA系グラフト共重合体、およびそれを用いた樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは、耐衝撃性、発色性、透明性、強度、難燃性、電気的特性、耐熱性などの多くの良好な物性を有し、例えば自動車、電子部品などの製造に汎用される樹脂である。しかし、ポリカーボネートはそれ単独では溶融粘度が高くかつ成形性に欠き、特に耐衝撃性の厚さ依存性が非常に大きい欠点が知られている。
【0003】
このような性質を補完するため、ポリカーボネートは、例えば、ASA(アクリレート・スチレン・アクリロニトリル)樹脂とのアロイの形態で使用されることがある。また、ASA系樹脂は、例えばシード、コア層およびシェル層で構成される粒子(具体的には仮想粒子)の形態を有するASA系グラフト共重合体として提供されている。
【0004】
一方、ASA系グラフト共重合体とともに、ポリカーボネートやABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、SAN(スチレン・アクリロニトリル)樹脂などの各種樹脂をマトリックス樹脂として含有する樹脂組成物が知られている(特許文献1および2)。
【0005】
しかし、当該樹脂組成物を構成するASA系グラフト共重合体は、例えばマトリックス樹脂としてポリカーボネートを用いる場合、ポリカーボネートが本来有する良好な発色性を低下させることが指摘されている。そして、この発色性の低下によって、得られる樹脂組成物は満足すべき外観を有することが困難になっている。
【0006】
なお、このような外観の向上は例えば塗装によって改善され得るが、近年のカーボンニュートラル、SDGsに代表される環境負荷の影響を考慮して、こうした塗装自体の回避を所望する要請も高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6029029号公報
【特許文献2】特許第5948716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、ポリカーボネートのようなマトリックス樹脂とASA系グラフト共重体とを併用するにあたり、耐衝撃性および発色性の両方を向上または保持することができる、ASA系グラフト共重合体、およびそれを用いた樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、シードとコア層とシェル層とをこの順で有する、ASA系グラフト共重合体であって、
該シードおよび該コア層で構成される内部仮想粒子部分の平均粒子径が60~90nmであり、
該コア層の厚みが7~18nmである、ASA系グラフト共重合体である。
【0010】
1つの実施形態では、上記コア層の厚みは8~16nmである。
【0011】
1つの実施形態では、上記内部仮想粒子部分の平均粒子径は65nm~80nmである。
【0012】
1つの実施形態では、上記シードはスチレン単位を含み、上記コア層はアクリレート単位を含み、そして上記シェル層はアクリロニトリル単位を含む。
【0013】
本発明はまた、上記ASA系グラフト共重合体とマトリックス樹脂とを含有する、樹脂組成物である。
【0014】
1つの実施形態では、上記マトリックス樹脂は、ポリカーボネート、ポリ(スチレンーアクリロニトリル)、ポリブチレンテレフタレート、およびポリエチレンテレフタレートからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂から構成される。
【0015】
1つの実施形態では、上記マトリックス樹脂はポリカーボネートである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、マトリックス樹脂との併用によって耐衝撃性や発色性の低下が防止された樹脂組成物を得ることができる。これにより特に塗装のようなコーティング処理を省略して優れた外観を有する樹脂成形体を簡便に提供できる。さらに、コーティング処理の省略により、溶剤等の環境負荷の原因となる材料の使用も回避または低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳述する。
【0018】
(ASA系グラフト共重合体)
本発明のASA系グラフト共重合体は、シードとコア層とシェル層とをこの順で有する。
【0019】
シードは、後述する仮想粒子における中央部分を構成する微粒子の形態を有する。
【0020】
シードを構成する材料としては、例えば、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、およびアルキル(メタ)アクリレート化合物、ならびにそれらの組み合わせ(以下、これらをまとめてシード形成性材料ということがある)を由来とするものが挙げられる。
【0021】
芳香族ビニル化合物の例としては、スチレン、α-スチレン、p-スチレン、およびビニルトルエン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0022】
シアン化ビニル化合物の例としては、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリル、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0023】
アルキル(メタ)アクリレート化合物の例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、メチルエタクリレート、エチルエタクリレート、(メタ)アクリル酸メチルエステル、(メタ)アクリル酸エチルエステル、(メタ)アクリル酸プロピルエステル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルエステル、(メタ)アクリル酸デシルエステル、および(メタ)アクリル酸ラウリルエステル、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0024】
シードを構成するにあたり、上記シード形成性材料には必要に応じて架橋剤および/または乳化剤が添加されていてもよい。架橋剤の例としては、ジビニルベンゼン、3-ブタンジオールジアクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリールアミン、およびジアリルアミン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。乳化剤は特に限定されず、当該分野において公知のものが挙げられる。
【0025】
本発明においては、得られる樹脂組成物の耐衝撃性と透明性が向上する理由から、シードを構成する材料は、芳香族ビニル化合物と架橋剤とから構成されるものであることが好ましく、あるいは全体としてスチレン単位を含むものであることが好ましい。
【0026】
シードの大きさは特に限定されないが、ASA系グラフト共重合体として後述するマトリックス樹脂に対してより均一に分散させることを目的として所定の平均粒子径を有していることが好ましい。シードの平均粒子径は、好ましくは24nm~76nm、より好ましくは28nm~74nm、さらにより好ましくは40nm~65nm、最も好ましくは45~60nmである。シードの平均粒子径がこのような範囲内にあることにより、ポリカーボネートなどのマトリックス樹脂とともにアロイの形態で使用する際、得られる樹脂組成物に対して良好な耐衝撃性を付与できる。
【0027】
コア層は、上記シードとシェル層との間に介在する役割を果たし、コア層は、シードと一緒になって本発明のASA系グラフト共重合体における内部仮想粒子部分を構成する。
【0028】
ここで、本明細書中に用いられる用語「内部仮想粒子部分」とは、シードにコア層が付与して得られる理論上の仮想粒子(コア粒子ともいう)に相当する部分を指して言う。例えば、内部仮想粒子部分は、(1)上記シードの外表面の一部または全部がコア層を構成する材料で包囲して存在する状態、(2)シードの1粒子(シード粒子という)に、コア層を構成する材料の1粒子が付与している状態、および(3)1つまたはそれ以上のシード粒子と1つまたはそれ以上のコア層を構成する材料の粒子とが互い付与し、全体として1粒子を構成している状態、ならびにそれらの組み合わせのいずれをも包含する。
【0029】
本発明のASA系グラフト共重合体において、(上記シードおよびコア層で構成される)内部仮想粒子部分の平均粒子径は60nm~90nm、好ましくは65nm~80nmである。ここで、内部仮想粒子部分の平均粒子径が60nmを下回るか、または90nmを上回ると、それにより得られるASA系グラフト共重合体とマトリックス樹脂とを混合物(樹脂組成物)は耐衝撃性が低下することがある。
【0030】
コア層を構成する材料は、アクリル系ゴムであり、例えばアルキルアクリレート(以下、これをコア層形成性材料ということがある)と架橋剤との重合により得られるものである。
【0031】
アルキルアクリレートの例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、および2-エチルヘキシルアクリレート、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。アルキルアクリレートのさらに具体的な例としては、n-ブチルアクリレートおよび2-エチルヘキシルアクリレート、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0032】
なお、コア層のために使用され得る架橋剤は、上記シードに使用され得るものと同様である。また、上記アルキルアクリレートと架橋剤との重合において、当該分野において公知の重合開始剤および/または乳化剤がこれらと一緒に添加されていてもよい。
【0033】
このようにコア層を構成する材料は、上記アルキルアクリレートに起因して、アクリレート単位を含むものであることが好ましい。
【0034】
コア層の厚みは7nm~18nm、好ましくは8nm~16nmである。コア層の厚みが7nmを下回ると、それにより得られるASA系グラフト共重合体とマトリックス樹脂とを混合物(樹脂組成物)は耐衝撃性が低下することがある。コア層の厚みが18nmを上回ると、それにより得られるASA系グラフト共重合体とマトリックス樹脂とを混合物(樹脂組成物)は発色性が悪化して外観を損なうことがある。
【0035】
コア層の厚みは、本発明のASA系グラフト共重合体の作製段階において、例えばマイクロトラック粒子径分布測定装置を用いて測定かつ算出することができる。すなわち、コア層の厚みは、まずシード単体の平均粒子径(Rs)を径分布測定装置で測定し、その後シードにコア層を付与した段階(内部仮想粒子部分が作製された段階)で再び粒子径分布測定装置を用いて当該内部仮想粒子部分の平均粒子径(Rn)を測定し、最終的にそれらの差(Rn-Rs)を算出して得ることができる。
【0036】
シェル層は、主としてコア層(または内部仮想粒子部分)に付与してASA系グラフト共重合体の外表面の一部または全部を構成する。
【0037】
シェル層を構成する材料としては、例えば、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、およびアルキル(メタ)アクリレート化合物、ならびにそれらの組み合わせ(以下、これらをまとめてシェル層形成性材料ということがある)を由来とするものが挙げられる。
シェル層形成性材料の具体的な例は、上記シード形成性材料と同様である。
【0038】
シェル層を構成するにあたり、上記シェル層形成性材料には必要に応じて架橋剤および/または乳化剤が添加されていてもよい。シェル層のために使用され得る架橋剤および乳化剤は、上記シードに使用され得るものと同様である。
【0039】
なお、シェル層を構成するにあたり、当該シェル層を形成する際の重合反応性を高め、かつ得られるASA系グラフト共重合体が適切な屈折率を有しているようにするために、シェル層形成性材料には、架橋剤および/または乳化剤以外にその他の成分(A)として、アルキルメタクリレートおよびα-メチルスチレン、ならびにそれらの組み合わせが添加されていてもよい。
【0040】
本発明のグラフト共重合体は、ポリカーボネートなどのマトリックス樹脂との相溶性を向上させる観点から、シェル層を構成する材料は、シアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物とから構成されるものであることが好ましく、アクリロニトリル単位を含むものであることがより好ましい。
【0041】
シェル層の厚みは7nm~18nm、好ましくは8nm~16nmである。シェル層の厚みが7nmを下回ると、マトリックス樹脂との併用により得られる樹脂組成物の耐衝撃性が低下することがある。シェル層の厚みが18nmを上回ると、マトリックス樹脂との併用により得られる樹脂組成物の透明性が低下することがある。
【0042】
シェル層の厚みは、本発明のASA系グラフト共重合体の作製段階において、例えばマイクロトラック粒子径分布測定装置を用いて測定かつ算出することができる。すなわち、シェル層の厚みは、シードにコア層を付与した段階(内部仮想粒子部分が作製された段階)でマイクロトラック粒子径分布測定装置を用いて当該内部仮想粒子部分の平均粒子径(Rn)を測定し、その後コア層(または内部仮想粒子部分)にシェル層を付与した段階(ASA系グラフト共重合体を作製した段階)で再び粒子径分布測定装置を用いて当該ASA系グラフト共重合体の平均粒子径(RZ)を測定し、最終的にそれらの差(RZ-Rn)を算出して得ることができる。
【0043】
本発明のASA系グラフト共重合体は、例えば以下のようにして作製され得る。
【0044】
まず、シード形成性材料および架橋剤、ならびに必要に応じて乳化剤を水性媒体(例えば、水)に添加して所定時間撹拌することにより、これらが重合して粒子を形成し、最終的にシードが当該水性媒体中に分散したラテックスが形成される。このラテックスにおいて、得られたシードは特に分離されることなく次の工程にそのまま使用され得る。
【0045】
次いで、上記で得られたシード(ラテックスの形態で存在する)と、コア層形成性材料および架橋剤と、必要に応じて重合開始剤とを、さらなる水性媒体(例えば、水)中に撹拌下で添加することにより、水性媒体内で当該シードにコア層が付与される(すなわち内部仮想粒子部分が形成される)。
【0046】
その後、これにシェル層形成性材料および架橋剤、ならびに必要に応じて乳化剤および/またはその他の成分(A)を添加して所定時間撹拌することにより、コア層(内部仮想粒子部分)の外部にシェル層が形成された粒子を得ることがきる。その後、この粒子が当該分野において周知の手段で凝析または凝集される。
【0047】
このようにして、シードとコア層とシェル層とをこの順で有するASA系グラフト共重合体を得ることができる。
【0048】
得られたASA系グラフト共重合体は、例えば、後述するようなマトリックス樹脂の物性を向上させるための樹脂添加剤として使用され得る。特に、本発明のASA系グラフト共重合体は、得られる樹脂組成物の耐衝撃性および発色性の両方を向上させることができる点で、ポリカーボネートのための樹脂添加剤として有用である。
【0049】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、上記ASA系グラフト共重合体とマトリックス樹脂とを含有する。
【0050】
樹脂組成物を構成し得るマトリックス樹脂の例としては、ポリカーボネート、ポリ(スチレン-アクリロニトリル)、ポリブチレンテレフタレート、およびポリエチレンテレフタレート、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。特に得られる樹脂組成物の耐衝撃性および発色性の両方をより効果的に向上させ得るという点から、マトリックス樹脂はポリカーボネートであることが好ましい。
【0051】
本発明の樹脂組成物における、ASA系グラフト共重合体およびマトリックス樹脂の含有量は特に限定されないが、例えば、0.5質量部~40質量部、好ましくは0.5質量部~30質量部のASA系グラフト共重合体に対して、好ましくは60質量部~99.5質量部、より好ましくは70質量部~99.5質量部のマトリックス樹脂が混合される。ASA系グラフト共重合体およびマトリックス樹脂がこれらの範囲内の含有量を有していることにより、得られる樹脂組成物は、マトリックス樹脂が固有に有する種々の物性を損なうことなく、耐衝撃性および発色性の両方を向上させることができる。
【0052】
本発明の樹脂組成物はまた、必要に応じて他の添加剤を含有していてもよい。他の添加剤の例としては、
活剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、顔料、染料、耐傷剤、難燃剤、抗菌剤、離型剤、核剤、可塑剤、相溶化剤、および無機物添加剤、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。樹脂組成物に含まれ得る他の添加剤の含有量は特に限定されず、本発明の上記効果を阻害しない範囲内において当業者によって適宜選択され得る。
【0053】
本発明の樹脂組成物によれば、その優れた耐衝撃性および発色性を活かして、塗装などのコーティング処理を必要とすることなく、良好な外観を有する樹脂成形体を作製することができる。得られた樹脂成形体は、例えば、自動車部品、電子・電気部品、およ/または建築用資材として有用である。
【実施例0054】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
なお、各実施例および比較例において以下の方法による評価を行った。
【0056】
(コア粒子径)
得られたコア粒子を含むラテックスから、当該コア粒子の平均粒子径(内部仮想粒子部分の平均粒子径(Rn)に相当)をマイクロトラック粒子径分布測定装置(日機装株式会社製(UPA―EX150))を用いて測定した。この平均粒子径をコア粒子径と称することにした。なお、耐衝撃性の観点からコア粒子径は60~90nmが好ましく、65~88nmがより好ましい。また、外観の観点からコア粒子径は90nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましい。
【0057】
(コア厚み)
上記で得られたコア粒子径(内部仮想粒子部分の平均粒子径(Rn))から予め測定したシードの平均粒子径(RS)を引いて(Rn-Rs)、コア厚みを算出した。なお、耐衝撃性の観点からコア厚みは7nm以上が好ましく、8nm以上がより好ましい。また、外観の観点からコア粒子径は18nm以下が好ましく、16nm以下がより好ましい。
【0058】
(グラフト率)
後述するASA系グラフト共重合体を含むラテックスから凝析・凝集、脱水・乾燥工程を得て単離されたASA系グラフト共重合体1gを80mLのアセトンに添加し、65~70℃にて3時間加熱還流し、得られた懸濁アセトン溶液を遠心分離機(日立工機社製「CR21E」)により14,000rpmで30分間遠心分離して、沈殿成分(アセトン不溶成分)とアセトン溶液(アセトン可溶成分)を分取した。そして、沈殿成分(アセトン不溶成分)を乾燥させてその質量(Y(g))を測定し、下記式(1)によりグラフト率を算出した。なお、式(1)におけるYは、ASA系グラフト共重合体のアセトン不溶成分の質量(g)、XはYを求める際に使用したASA系グラフト共重合体の全質量(g)、ゴム分率はASA系グラフト共重合体の製造に用いたシードを含むコア粒子の水性分散体における固形分濃度である。
グラフト率(質量%)={(Y-X×ゴム分率)/X×ゴム分率}×100 (1)
【0059】
なお、グラフト率は耐衝撃性の観点から80%以上が好ましく、84%以上がより好ましい。
【0060】
(耐衝撃性)
樹脂組成物を射出成型機(東芝機械株式会社製、「IS55FP-1.5A」)によりシリンダー温度200℃~270℃、金型温度60℃の条件で、縦80mm、横10mm、厚さ4mmの成形品を成形し、シャルピー衝撃試験用成形品(成形品(Ma1))として用いた。成形品(Ma1)について、ISO 179-1:2013年度版に準拠し、試験温度23℃の条件で成形品(タイプB1、ノッチ有:形状A シングルノッチ)のシャルピー衝撃強度(打撃方向:エッジワイズ)を測定した。シャルピー衝撃強度が高いほど、耐衝撃性に優れることを意味する。
【0061】
(透明性)
樹脂組成物のペレットを射出成型機(東芝機械株式会社製、「IS55FP-1.5A」)によりシリンダー温度260℃、金型温度60℃の条件で、縦100mm、横100mm、厚さ3mmの成形品を成形し、透明性評価用成形品(成形品(Ma2))として用いた。成形品(Ma2)について、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社(NDH2000))により全光線透過率(Tt)を測定した。全光線透過率が大きいほど透明性が高いと判定した。
【0062】
(発色性)
溶融混錬時、カーボンブラックマスターバッチ(越谷化成工業株式会社(ROYALBLACK919P))1.6質量部を添加し着色した樹脂組成物のペレットを射出成型機(東芝機械株式会社製、「IS55FP-1.5A」)によりシリンダー温度260℃、金型温度60℃の条件で、縦100mm、横100mm、厚さ3mmの成形品を成形し、発色性評価用成形品(成形品(Ma3))として用いた。成形品(Ma3)について、分光測色計(コニカミノルタジャパン株式会社(CM-26d))により明度(L*:SCE)を測定した。明度が小さいほど発色性が高いと判定した。
【0063】
(スコア(耐衝撃性))
上記で得られた樹脂組成物の耐衝撃性の値を以下の基準で分類し、得られた樹脂組成物の耐衝撃性のスコアとして評価した:
<樹脂組成物のスコア(耐衝撃性)>
0点・・・樹脂組成物の耐衝撃性が42kJ/m2未満であった。このスコアを示す樹脂組成物では、ポリカーボネート100%の樹脂組成物に比べて耐衝撃性が著しく劣る。
2点・・・樹脂組成物の耐衝撃性が42kJ/m2以上49kJ/m2未満であった。このスコアを示す樹脂組成物はポリカーボネート用途に代用可能である。
4点・・・樹脂組成物の耐衝撃性が49kJ/m2以上55kJ/m2未満であった。このスコアを示す樹脂組成物はポリカーボネート代替用途として優れている。
8点・・・樹脂組成物の耐衝撃性が55kJ/m2以上であった。このスコアを示す樹脂組成物はポリカーボネート代替用途としてより優れている。
【0064】
(スコア(外観))
上記で得られた樹脂組成物の透明性の値を以下の基準で分類し、得られた樹脂組成物の外観のスコアとして評価した:
<樹脂組成物のスコア(外観)>
0点・・・樹脂組成物の透明性が44%未満であった。このスコアを示す樹脂組成物では透明性が著しく劣る。
2点・・・樹脂組成物の透明性が44%以上47%未満であった。このスコアを示す樹脂組成物では透明性が優れている。
4点・・・樹脂組成物の透明性が47%以上51%未満であった。このスコアを示す樹脂組成物では透明性がより優れている。
8点・・・樹脂組成物の透明性が51%以上であった。このスコアを示す樹脂組成物では透明性が更に優れている。
【0065】
(製造例1:シード(A1)の作製)
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応器に水338.5質量部を添加し、さらにスチレン90質量部およびジビニルベンゼン10質量部(架橋剤)およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3質量部(乳化剤)を添加して撹拌し、油滴として水中に分散させながら、窒素ガスでパージした後、これに水61.5質量部へ過硫酸カリウム1質量部と水61.5質量部との水溶液を添加し、60℃で180分間撹拌することにより、シード(A1)をラテックスの形態で得た。
【0066】
得られたシード(A1)を含むラテックスから、当該シードの平均粒子径をマイクロトラック粒子径分布測定装置(日機装株式会社製(UPA-EX150))を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0067】
(製造例2:シード(A2)の作製)
乳化剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの添加量を4質量部に変更したこと以外は製造例1と同様にしてシード(A2)を含むラテックスを作製し、得られたシード(A2)の平均終止形を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
(製造例3:シード(A3)の作製)
乳化剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの添加量を2質量部に変更したこと以外は製造例1と同様にしてシード(A3)を含むラテックスを作製し、得られたシード(A3)の平均粒子径(Rs)終止形を測定した。結果を表1に示す。
【0069】
(製造例4:シード(A4)の作製)
乳化剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの添加量を5質量部に変更したこと以外は製造例1と同様にしてシード(A4)を含むラテックスを作製し、得られたシード(A4)の平均粒子径(Rs)終止形を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
(製造例5:シード(A5)の作製)
乳化剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの添加量を1質量部に変更したこと以外は製造例1と同様にしてシード(A5)を含むラテックスを作製し、得られたシード(A5)の平均粒子径(Rs)終止形を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
(製造例6:シード(A6)の作製)
乳化剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの添加量を0.1質量部に変更したこと以外は製造例1と同様にしてシード(A6)を含むラテックスを作製し、得られたシード(A6)の平均粒子径(Rs)終止形を測定した。結果を表1に示す。
【0072】
【0073】
(実施例1:ASA系グラフト共重合体(B1)の作製)
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応器に蒸留水109.199質量部を添加し、さらに製造例1で得られたシード1Aを含むラテックス(固形分として13.824質量部)を添加して撹拌し、窒素ガスでパージした後、75℃にてアクリル酸n-ブチル10.176質量部、メタクリル酸アリル0.076質量部、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル0.046質量部、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.031質量部の混合液を110分間かけて滴下し、さらに20分間撹拌することにより、シード(A1)にコア層が付与したコア粒子をラテックスの形態で得た。
【0074】
得られたコア粒子を含むラテックスの一部を分取し、得られたコア粒子のコア粒子径(そのスコア(耐衝撃性)およびスコア(外観)を含む)およびコア厚み(そのスコア(耐衝撃性)およびスコア(外観)を含む)を測定かつ評価した。結果を表2に示す。
【0075】
次いで、残りのコア粒子含むラテックスに、スチレン67.64質量部およびアクリロニトリル8.36質量部の混合液を150分間かけて滴下し、20分間撹拌した。これによりコア粒子にシェル層が付与したASA系グラフト共重合体(B1)を含むラテックスを得た。このASA系グラフト共重合体(B1)の評価結果を表2に示す。
【0076】
続いて、ASA系グラフト共重合(B1)のラテックス100質量部を、凝固剤(塩化カルシウム(2.5質量部)を1%溶解させた熱水200重量部に投入し、ASA系グラフト共重合体(B1)を凝析・凝集させた。次いで、凝析・凝集したASA系グラフト共重合体(B1)を、水に再分散させてスラリーとし、ASA系グラフト共重合体(B1)中に残存する乳化剤残渣を水中に溶出させ、洗浄した。その後、スラリーを脱水機等で脱水し、得られた固体を気流乾燥機等で乾燥することにより、ASA系グラフト共重合体(B1)を単離した。
【0077】
(実施例2~10および比較例1~5:ASA系グラフト共重合体(B2)~(B10)および(BC1)~(BC5)の作製)
製造例1で得られたシード(A1)のラテックスを用いて、または当該シート(A1)のラテックスの代わりに製造例2または3で得られたシード(A2)または(A3)のラテックスを用い、かつ各成分の添加量を表2に示す通りに設定したこと以外は、実施例1と同様にしてコア粒子を含むラテックスを作製し、かつコア粒子にシェル層が付与したASA系グラフト共重合体(B2)~(B10)および(BC1)~(BC5)を含むラテックスを実施例1のASA系グラフト共重合体(B1)の作製と同様にして得た。
【0078】
得られたコア粒子のコア粒子径およびコア厚み、ならびにASA系グラフト共重合体(B2)~(B10)および(BC1)~(BC5)のグラフト率を測定かつ評価した。結果を表2に示す。
【0079】
【0080】
(参考例1:アクリロニトリル-スチレン共重合体の作製)
反応器に蒸留水120質量部、リン酸カルシウム0.60質量部、アルケニルコハク酸カリウム塩0.003質量部、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.18質量部、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン0.33質量部、t-ドデシルメルカプタン0.17質量部と、スチレン87質量部、及びアクリロニトリル13質量部からなる単量体混合物を使用し、蒸留水の一部を逐次添加しながら、開始温度65℃から6時間昇温加熱後、120℃に到達させた。更に、120℃で0.5時間保持した。その後、減圧処理で未反応モノマーを除去してから反応器から重合物を取り出し、脱水後にアクリロニトリル-スチレン共重合体を得た。得られたアクリロニトリル-スチレン共重合体に占めるアクリロニトリル単位の組成比率は11質量%、質量平均分子量は170,000であった。
【0081】
(実施例11:樹脂組成物(C1)の作製)
実施例1で得られたASA系グラフト共重合体(B1)12.5質量部と、ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製(S-2000F);重量平均分子量22,000;PC)75質量部と、参考例1で得られたアクリトニトリル-スチレン共重合体12.5質量部とを溶融混練して樹脂組成物(C1)を得た。
【0082】
得られた樹脂組成物(C1)について、上記方法および基準にしたがって耐衝撃性、透明性、発色性、総合スコア(耐衝撃性)および総合スコア(外観)を評価した。結果を表3に示す。
【0083】
(実施例12~実施例20および比較例6~10:樹脂組成物(C2)~(C10)および(CC1)~(CC5)の作製)
実施例1で得られたASA系グラフト共重合体(B1)の代わりに実施例2~10または比較例1~5で得られたASA系グラフト共重合体(B2)~(B10)または(BC1)~(BC5)を用い、かつ各添加量を表3に示す通りに設定したこと以外は、実施例11と同様にして樹脂組成物(C2)~(C10)および(CC1)~(CC5)を得た。
【0084】
得られた樹脂組成物(C2)~(C10)および(CC1)~(CC5)について、上記方法および基準にしたがって耐衝撃性、透明性、発色性、総合スコア(耐衝撃性)および総合スコア(外観)を評価した。結果を表3に示す。
【0085】
【0086】
表3に示すように、実施例11~20で作製された樹脂組成物(C1)~(C10)はいずれも、「耐衝撃性」および「外観」に関するスコアが2点~8点の範囲内にあり、耐衝撃性と外観との両方が優れていたものであった。これに対し、比較例6~10で得られた樹脂組成物(CC1)~(CC5)では、「耐衝撃性」および「外観」に関する総合スコアのいずれかが0点となっており、耐衝撃性および外観のいずれか一方は優れているものの、他方は劣るものであった。
【0087】
なお、表3に示す傾向に対し、表2に示すように、実施例1~10で作製されたASA系グラフト共重合体(B1)~(B10)はコア厚みおよびコア粒子径が最適な範囲内にあり、耐衝撃性と外観との両立が優れていたものであった。
【0088】
これに対し、比較例1で得られたASA系グラフト共重合体(BC1)はコア厚みが薄すぎるため耐衝撃性が劣っていた。比較例2で得られたASA系グラフト共重合体(BC2)はコア厚みが厚すぎるため透明性が劣っていた。また、比較例3で得られたASA系グラフト共重合体(BC3)はコア粒子径が小さすぎるため耐衝撃性が劣っていた。比較例4で得られたASA系グラフト共重合体(BC4)はコア粒子径が大きすぎるため耐衝撃性が劣っていた。比較例5で得られたASA系グラフト共重合体(BC5)は更に粒子径が大きいため耐衝撃性が更に劣るものであった。