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特開2023-141342アルブミン及びグロブリンの分離方法
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  • 特開-アルブミン及びグロブリンの分離方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141342
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】アルブミン及びグロブリンの分離方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/26 20060101AFI20230928BHJP
   G01N 27/447 20060101ALI20230928BHJP
   B01D 57/02 20060101ALI20230928BHJP
   B03C 5/00 20060101ALI20230928BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20230928BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20230928BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20230928BHJP
   C07K 1/34 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
C07K1/26
G01N27/447 331C
B01D57/02
B03C5/00 Z
B01D61/00 500
B01D61/02 500
B01D61/14 500
C07K1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047617
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】宮本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大森 雄太
【テーマコード(参考)】
4D006
4D054
4H045
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA14
4D006HA41
4D006KA31
4D006KB01
4D006MA03
4D006PA02
4D006PB52
4D054FA10
4D054FB02
4D054FB18
4H045AA20
4H045DA70
4H045GA10
4H045GA30
(57)【要約】
【課題】アルブミン及びグロブリンを含む複数のタンパク質を含有するタンパク質含有溶液から、アルブミン及びグロブリンをそれぞれ高収率で分離することができる方法を提供すること。
【解決手段】アルブミン及びグロブリンを含む複数のタンパク質を含有するタンパク質含有溶液からアルブミン及びグロブリンをそれぞれ分離する方法であって、
(i)前記タンパク質含有溶液のpHを5.5以上9.5以下に調整し、電気泳動を実施してアルブミンを分離する工程と、
(ii)前記(i)の後に、前記タンパク質含有溶液のpHを3.8以上5.5未満に調整し、電気泳動を実施してグロブリンを分離する工程と、
を含む、方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルブミン及びグロブリンを含む複数のタンパク質を含有するタンパク質含有溶液からアルブミン及びグロブリンをそれぞれ分離する方法であって、
(i)前記タンパク質含有溶液のpHを5.5以上9.5以下に調整し、電気泳動を実施してアルブミンを分離する工程と、
(ii)前記(i)の後に、前記タンパク質含有溶液のpHを3.8以上5.5未満に調整し、電気泳動を実施してグロブリンを分離する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記(i)及び(ii)の工程が、少なくとも、一対の電極と、前記電極間にある3枚の分画膜によって区画されている4つの流路とを含む電気泳動手段を有するタンパク質分離装置を用いて実施されると共に、前記流路の1つに前記タンパク質含有溶液を導入し、前記1つの流路中の前記タンパク質含有溶液中のタンパク質濃度を調整する工程、及び/又は、前記タンパク質含有溶液が導入された流路と、前記タンパク質含有溶液が移動していく流路との間に圧力差を加える工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質濃度を調整する工程が、前記タンパク質含有溶液が導入された流路中の前記タンパク質含有溶液を濃縮することである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質含有溶液の濃縮が、限外濾過、正浸透、逆浸透、蒸留、又はそれらの組み合わせにより行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記圧力差が、前記タンパク質含有溶液が導入された流路の出口と、前記タンパク質含有溶液が移動していく流路の出口との高さを変えることによって得られる、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記圧力差が、前記タンパク質含有溶液が導入された流路中の前記タンパク質含有溶液と、移動後のタンパク質含有溶液との間に浸透圧差を加えることによって得られる、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記分画膜として多孔質膜が用いられる、請求項2~6のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルブミン及びグロブリンを含む複数のタンパク質を含有するタンパク質溶液からアルブミン及びグロブリンをそれぞれ分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血漿分画製剤は、血漿中のタンパク質をタンパク質ごとに分画・精製したものであり、アルブミン製剤、免疫グロブリン製剤、血液凝固因子製剤、アンチトロンビンIII製剤、フィブリン糊製剤等がある。これらは重要な機能を有し、他の物質ではその役割を代替できない。特に免疫グロブリン製剤は、適応疾患の拡大に伴い需要が拡大し、世界的に供給不足になっている(非特許文献1)。
【0003】
現在、血漿分画製剤はエタノール分画法により製造されている。しかし、この方法で得られる血漿分画製剤の収率は低く、グロブリン製剤では50~60%程度である。また、エタノール分画による血漿分画製剤の製造には、多額の設備投資が必要であり、特に沈殿タンパク質の回収に使用される大型遠心機のコストが大きく、新たな工場建設の妨げとなっている。
【0004】
エタノール分画法以外の方法として、カプリル酸を用いてグロブリンを沈殿させてグロブリン回収率を向上させる方法が報告されている(非特許文献2)。また、エクスパンデッドベッドカラムクロマトグラフイー(EBA)により血漿タンパク質回収率を向上させる方法も報告されている(非特許文献3)。更に、電気泳動及び膜分画によりアルブミン及びグロブリンを90%以上の収率で回収する方法も報告されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Guidance on increasing supplies of plasma-derived medical production in low-and middle-income countries through fractionation of domestic plasma(World Health Organization)
【非特許文献2】Vox Sanguinis(2015)108,169-177
【非特許文献3】Analytical Biochemistry 399(2010)102-109
【非特許文献4】Malaysian Journal of Fundamental and Applied Sciences Vol.16,No.1(2020)51-53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献2に記載の方法は、グロブリン回収率が5%程度にとどまり、遠心機による沈殿物の回収も必要となる。
非許文献3に記載の方法は、グロブリン回収率が68%にとどまる。また、厳密なpH管理、煩雑な洗浄操作が必要となる。
非許文献4記載の方法は、分画膜にアクリルアミドゲルを使用するが、アクリルアミドゲル膜は物質移動の抵抗及び電気抵抗が大きいため、200~600Vの大きな電圧を必要とする。また、アクリルアミドゲルは膜としての厚み方向の均一性が乏しく、目詰まりを起こしやすい。さらに、面方向の均一性も乏しいため、スケールアップが困難であり、大量に血漿分画製剤を製造するには不向きである。
血漿分画製剤の工業的な製造には、低コストでの設備投資、簡便な回収操作、回収率の向上が重要であるが、上記の方法はいずれも十分とは言えない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、アルブミン及びグロブリンを含む複数のタンパク質を含有するタンパク質溶液、特にヒト血漿から、アルブミン及びグロブリンをそれぞれ高収率で分離することができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、pHの範囲を変えて2回の電気泳動を行うことにより、アルブミン及びグロブリンをそれぞれ高収率で分離することができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
[1]アルブミン及びグロブリンを含む複数のタンパク質を含有するタンパク質含有溶液からアルブミン及びグロブリンをそれぞれ分離する方法であって、
(i)前記タンパク質含有溶液のpHを5.5以上9.5以下に調整し、電気泳動を実施してアルブミンを分離する工程と、
(ii)前記(i)の後に、前記タンパク質含有溶液のpHを3.8以上5.5未満に調整し、電気泳動を実施してグロブリンを分離する工程と、
を含む、方法。
[2]前記(i)及び(ii)の工程が、少なくとも、一対の電極と、前記電極間にある3枚の分画膜によって区画されている4つの流路とを含む電気泳動手段を有するタンパク質分離装置を用いて実施されると共に、前記流路の1つに前記タンパク質含有溶液を導入し、前記1つの流路中の前記タンパク質含有溶液中のタンパク質濃度を調整する工程、及び/又は、前記タンパク質含有溶液が導入された流路と、前記タンパク質含有溶液が移動していく流路との間に圧力差を加える工程を更に含む、[1]に記載の方法。
[3]前記タンパク質濃度を調整する工程が、前記タンパク質含有溶液が導入された流路中の前記タンパク質含有溶液を濃縮することである、[2]に記載の方法。
[4]前記タンパク質含有溶液の濃縮が、限外濾過、正浸透、逆浸透、蒸留、又はそれらの組み合わせにより行われる、[3]に記載の方法。
[5]
前記圧力差が、前記タンパク質含有溶液が導入された流路の出口と、前記タンパク質含有溶液が移動していく流路の出口との高さを変えることによって得られる、[2]に記載の方法。
[6]前記圧力差が、前記タンパク質含有溶液が導入された流路中の前記タンパク質含有溶液と、移動後のタンパク質含有溶液との間に浸透圧差を加えることによって得られる、[2]に記載の方法。
[7]前記分画膜として多孔質膜が用いられる、[2]~[6]のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、分画膜の目詰まりがなく、アルブミン及びグロブリンをいずれも70%以上の収率で回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の方法に用いられる代表的なタンパク質分離装置の模式図である。
図2図2は、上記タンパク質分離装置に含まれる電気泳動手段の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0013】
本発明の方法は、アルブミン及びグロブリンを含む複数のタンパク質を含有するタンパク質含有溶液(以下、単に「タンパク質含有溶液」と言うことがある)から、タンパク質含有溶液のpHを変えて2回の電気泳動を行うことを特徴とする。
すなわち、本発明の方法は以下の2つの工程、すなわち、アルブミンを分離する工程(i)と、グロブリンを分離する工程(ii)とを含む。
工程(i)では、タンパク質含有溶液のpHを5.5以上9.5以下の範囲に調整する。pHが4.2以上5.5未満の範囲ではアルブミンの電荷量が小さくなるため、電気泳動によるアルブミン移動が起こりにくくなり、アルブミンの回収率が低下する。また、pHが4.2より小さい、または、9.5を超えると、アルブミンの移動と共にグロブリンも移動するため、2回目の電気泳動でのグロブリンの回収率が低下するため、好ましくない。
工程(ii)では、工程(i)の後に、タンパク質含有溶液のpHを3.8以上5.5未満の範囲に調整し、電気泳動によりグロブリンを分離する。pHが3.8より小さいとグロブリンが変性し、電気泳動中に変性したグロブリンが系内に吸着し、グロブリンの回収率が低下する。また、pHが5.5以上では、グロブリンの電荷量が小さくなるため、電気泳動によるグロブリン移動が起こり難くなり、グロブリンの回収率が低下する。
【0014】
本発明の方法によれば、アルブミン及びグロブリンを、タンパク質含有溶液中のそれぞれのタンパク質の初期量に対して、いずれも70%以上の収率で分離することができる。後述する、タンパク質含有溶液中のタンパク質濃度を調整する工程、及び/又は、前記タンパク質含有溶液が導入された流路と、前記タンパク質含有溶液が移動していく流路との間に圧力差を加える工程を更に実施することにより、アルブミン及びグロブリンを80%以上の収率で分離することができる。上記のタンパク質濃度を調整する工程、及び/又は上記の流路間に圧力差を加える工程は、工程(i)及び/又は工程(ii)に対して追加することができる。
【0015】
本明細書において「初期量」とは、電気泳動前のタンパク質含有溶液中のアルブミンの含有量、グロブリンの含有量を指す。初期量は、電気泳動を開始する前にHPLC等によって予め測定しておくことができる。
【0016】
タンパク質含有溶液は、アルブミン及びグロブリンを含んでいればよく、例えば、ヒト血漿、ヒト血清である。
【0017】
本発明の方法における工程(i)及び(ii)は、少なくとも電気泳動手段を含むタンパク質分離装置を用いて実施することができる。具体的には、図1に例示するタンパク質分離装置(1)を用いることができる。
タンパク質分離装置(1)は、少なくとも、電気泳動手段(2)と、電極に電気を供給する手段と、流路に液体(タンパク質含有溶液又は緩衝液)を導入及び/又は循環させる手段(14、15、16、17)と、流路の1つに導入されたタンパク質含有溶液のpHを調整する手段と、を含む。タンパク質分離装置(1)は、好ましくは、タンパク質濃度調整手段、及び/又は、タンパク質含有溶液が導入された流路と前記タンパク質含有溶液が移動していく流路との間に圧力差を加える手段を更に含む。図1には、タンパク質分離装置が、タンパク質濃度調整手段(19)を含むことを示す。図1中、太矢印は緩衝液の流れる方向を示す。
図2に、タンパク質分離装置(1)に含まれる例示的な電気泳動手段(2)を示す。
【0018】
電気泳動手段は、少なくとも、一対の電極(3、3’)と、電極間にある3つの分画膜(4、5、6)で区画されている4つの流路(7、8、9、10)とを含む。具体的には、電気泳動手段は、外板(20)、ガスケット、電極1(3)、ガスケット、流路A(7)、ガスケット、分画膜1(4)、ガスケット、流路B(8)、ガスケット、分画膜2(5)、ガスケット、流路C(9)、ガスケット、分画膜3(6)、ガスケット、流路D(10)、ガスケット、電極2(3’)、ガスケット、外板(20)の順に組み立てられている(図2)。
【0019】
電極の材料としては、例えば、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム等の白金族;金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、タングステン、タンタル等の金属類;黒鉛、グラファイト(単層又は複層のいずれでもよい)等を用いることができる。
【0020】
外板の素材としては、例えば、ポリスチレン系ポリマー、ポリスルホン系ポリマー、ポリエチレン系ポリマー、ポリプロピレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、アクリル系ポリマー、スチレン・ブタジエンブロックコポリマー等の混合樹脂などを使用することができる。コストの点から、ポリエチレン系ポリマー又はポリプロピレン系ポリマーが好ましい。
【0021】
ガスケットは、気密性や液密性を持たせるために用いるシール材である。素材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)に代表されるフッ素系樹脂、シリコン樹脂等の摺動性を有する素材を使用することができる。本発明における電気泳動手段においては、ガスケットを使用しなくても液密に保つことが可能である。
【0022】
外板の大きさは例えば6cm×20cmである。電極、ガスケット及び流路の大きさは例えば、3cm×20cmである。ガスケットの中央部には1cm×20cm程度の空洞がある。ガスケットには網目状の突起を有する格子が組み込まれている。ガスケットに突起物が導入されることにより、電気泳動手段内を流れる溶液は乱流となり、層流の時よりも効率的に物質移動が行われることとなる。
分画膜は、例えば3cm×20cmの大きさであり、好ましくは多孔質膜である。
【0023】
流路にタンパク質含有溶液又は緩衝液を導入及び/又は循環させる手段としては、例えば、ペリスタルティックポンプ(蠕動ポンプ)、オシレーティングポンプ、ベローズポンプ等の脈動のあるポンプ、脈動を抑制したダイアフラムポンプなどが挙げられる。流路にタンパク質含有溶液又は緩衝液を導入及び/又は循環させる手段は同一でも、又は異なっていてもよい。
各流路と、各流路にタンパク質含有溶液又は緩衝液を導入及び/又は循環させる手段とは、例えば、ホース、チューブ、パイプ等で接続することができる。
【0024】
具体的には、タンパク質含有溶液又は緩衝液を導入及び/又は循環させる手段(14)により、リザーバー1(11)から流路Cにタンパク質含有溶液が導入され、導入されたタンパク質含有溶液はリザーバー1に戻る。
タンパク質含有溶液又は緩衝液を導入及び/又は循環させる手段(15、16)により、リザーバー2(12)から流路A及び流路Dそれぞれに緩衝液が導入され、導入された緩衝液はリザーバー2で回収される。
タンパク質含有溶液又は緩衝液を導入及び/又は循環させる手段(17)により、リザーバー3(13)から流路Bに緩衝液が導入され、導入された緩衝液はリザーバー3で回収される。
リザーバーは、例えばタンク等の容器である。
【0025】
電気泳動手段及び各リザーバーは、一定の範囲内に温度調整(好ましくは、0~20℃程度に冷却)されていることが好ましい。
また、タンパク質含有溶液又は緩衝液の流量は流量計によって調節することができる。
【0026】
電極に電気を供給する手段としては、外部から電気の供給を受けてもよく、発電装置により内燃機関装置により得られた熱や光を電気エネルギーに変換してその場において供給してもよい。電極に電気を供給する手段は、電極に対して接触電源及び/又は非接触電源を利用したものであってもよい。
【0027】
タンパク質含有溶液のpH調整手段としては緩衝液が用いられる。pHの調整は、基本的には、リザーバー1での緩衝液置換の際に行われるが、流路中のタンパク質含有溶液のpHをpH計で監視することにより、pH変動に伴い、リザーバーに貯蔵した緩衝液及び/又は水等を適宜追加して、目的とする範囲のpHに調整することもできる。
【0028】
本発明の方法を図1に基づいて詳細に説明する。
工程(i):
アルブミン及びグロブリンを含む複数のタンパク質を含有する溶液をpH5.5以上9.5以下に調整し、電圧を印加することにより、当該溶液を流路Cに流しながら、分画膜2を介してアルブミンを流路Cから流路Bに移動させる。このとき、電極1を陽極、電極2を陰極とする。上記pHではアルブミンは負に帯電しているため、陰極側(流路C)から正極側(流路B)に移動する。
【0029】
工程(ii):
工程(i)でリザーバー1に残ったグロブリン含有溶液をpH3.8以上5.5未満に調整後、流路Cに流しながら、電圧を印加することにより、分画膜2を介してグロブリンを流路Cから流路Bに移動させる。このとき、電極1を陰極、電極2を陽極とする。上記pHではグロブリンは正に帯電しているため陰極側(流路C)から正極側(流路B)に移動する。
【0030】
両工程において、分画膜1及び3として、好ましくは分画分子量10kDa以下の膜が使用される。流路Bに移動したタンパク質よりも孔径の小さな膜を使用することにより、流路Bに移動したタンパク質が流路Bから流路Aに移動することを抑制する。また、溶液中のイオンは分画膜1及び3を通過することができるため、電極1と電極2との間に電流が流れることができる。
【0031】
両工程において、分画膜2として、好ましくは公称孔径0.05μm~0.45μmの範囲の膜が使用される。公称孔径0.05μm未満の膜では抵抗が大きくなり、本発明には適さない。また、公称孔径が0.45μmよりも大きい膜では、膜抵抗が小さくなりすぎ、膜間圧力差による物質移動の影響を大きく受けるため、本発明には適さない。
【0032】
両工程において、緩衝液の電気伝導度は好ましくは500μS以下に調整される。緩衝液の電気伝導度が500μSよりも大きくなると、タンパク質の電気泳動効率が低くなる。
【0033】
両工程において、印加電圧は好ましくは20V以上200V以下の範囲に設定される。電圧が20Vより小さくなると、系に流れる電流が小さくなりタンパク質の電気泳動効率が低くなる。また、電圧が200Vよりも大きくなると、系に流れる電流が大きくなり流路Bから流路Cへの水の流れが大きくなるため、タンパク質の電気泳動効率が低くなる。
【0034】
タンパク質含有溶液中のタンパク質濃度を調整する工程は、タンパク質含有溶液中のタンパク質濃度を調整する手段によって行われる。
本発明において「タンパク質濃度を調整する」とは、流路中のタンパク質含有溶液中のタンパク質濃度を調整することを指す。
すなわち、工程(i)及び(ii)において、タンパク質含有溶液を移動させる方向(すなわち、タンパク質含有溶液を導入した流路Cから、導入されたタンパク質含有溶液が移動していく流路Bへ)とは逆向き(すなわち、流路Bから流路Cへ)の水の流れに因って流路C中のタンパク質含有溶液中のタンパク質濃度が希釈され得るが、タンパク質溶液中のタンパク質濃度が低くなると、流路Cから流路Bへの単位時間当たりのタンパク質の移動量が少なくなる。したがって、タンパク質を効率的に移動させるためには、流路Cのタンパク質含有溶液が希釈されるのを抑制することが重要である。
【0035】
流路間に圧力差を加える工程は、流路間に圧力差を加える手段によって行われる。
本発明において「圧力差」とは、タンパク質含有溶液が導入された流路と、タンパク質含有溶液が移動していく流路との間の圧力差を指す。
すなわち、タンパク質含有溶液が導入された流路Cと、導入されたタンパク質含有溶液が移動していく流路Bとの間に圧力差を加えると、タンパク質の移動が推進される。
また、上述のように、タンパク質を移動させる方向と逆向きに水の流れが働くと、流路Cから流路Bへのタンパク質の移動が阻害される。したがって、タンパク質を効率的に移動させるためには、逆向きの水の流れを抑制することも重要である。流路間に圧力差を加えることによって、この逆向きの水の流れを抑制することもできる。
【0036】
タンパク質含有溶液中のタンパク質濃度を調整するには、例えば、タンパク質含有溶液を濃縮すればよい。
濃縮は、例えば、限外濾過、正浸透、逆浸透、蒸留、又はそれらの組み合わせにより行われる。限外濾過、正浸透又は逆浸透を行うためには、それぞれ、限外濾過膜、正浸透膜、逆浸透膜を使用できる。具体的には、リザーバー1のタンパク質含有溶液を、限外濾過膜を用いて脱水する方法が挙げられる。蒸留としては、例えば薄膜蒸留が挙げられる。
【0037】
流路間に圧力差を加えるには、例えば、流路Cの出口と流路Bの出口との高さを変えればよい。すなわち、流路Bの出口の高さよりも流路Cの出口の高さを高くすればよい。
また、流路Bよりも流路Cの圧力を高くしてもよい。その方法としては、例えば、流路Cを陽圧にしかつ流路Bを陰圧にすること、流路B中のタンパク質含有溶液の浸透圧を高くすることなどである。
【0038】
以下、実施例により本実施形態を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0039】
(1)緩衝液の調製
pH3.7~pH3.9の緩衝液は乳酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)とγ-アミノ酪酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)とを用いて調製した。また、pH4.8~pH5.6の緩衝液は酢酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)とγ-アミノ酪酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)とを用いて調製した。pH8.1の緩衝液はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(シグマアルドリッチ社製)とホウ酸(シグマアルドリッチ社製)とを用いて調製した。さらに、pH9.4~pH9.6の緩衝液はトリエチルアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製)と酢酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いて調製した。
【0040】
(2)タンパク質溶液の調製
ペンシル型モジュールマイクローザ(ACP-0013D;旭化成株式会社製)を用いて、緩衝液置換を行うことにより、タンパク質溶液を調製した。
【0041】
(3)アルブミン及びグロブリンの濃度測定
アルブミン及びグロブリンの濃度はHPLCにより測定した(本体:日本分光株式会社製LC-NetII/ADC、検出器:日本分光株式会社製MD-2018 Plus、カラム:昭和電工株式会社製shodex LW-803)。
【0042】
実施例1
電気伝導度500μS以下、pH8.1になるように調整した緩衝液を使用した。タンパク質溶液には、緩衝液置換を行った血清希釈液を使用した。血清はPrecision For Medicine(USA)から購入した。電極1を陽極、電極2を陰極とし、10倍希釈した血清溶液30mLを90分、100Vの電圧を印加し、1回目の電気泳動を行った。このとき、リザーバー1の溶液はペンシル型モジュールマイクローザ(ACP-0013D;旭化成株式会社製)を用いて、電気泳動中、溶液の濃縮を行った。また、分画膜1、3は、UE005(RisingSun Membrane Technology社製)、分画膜2はMS(登録商標)(Membrane Solutions社製)親水性PESメンブレン(孔径0.05μm)を使用した。このときの流路Bに移動したアルブミンの割合を回収率とし、表1-1に示す。
1回目の電気泳動を行った後、リザーバー1に残った溶液を電気伝導度500μS以下、pH4.8になるように調整した緩衝液を用いて緩衝液置換を行った。電極1を陰極、電極2を陽極とし、緩衝液置換を行った溶液を90分、100Vの電圧を印加し、2回目の電気泳動を行った。このとき、電気泳動中、リザーバー1の溶液はペンシル型モジュールマイクローザ(ACP-0013D;旭化成株式会社製)を用いて、溶液の濃縮を行った。また、流路Cの出口の高さを流路Bの出口よりも6cm高くし、リザーバー3に10倍濃度の緩衝液を添加した。このときの流路Bに移動したグロブリンの割合を回収率とし、表1-1に示す。
【0043】
実施例2
リザーバー1の溶液の濃縮を行わなかった以外は実施例1と同様の方法で1回目の電気泳動を行った。このときのアルブミン及びグロブリンの回収率を表1-1に示す。
【0044】
実施例3
1回目の電気移動において、緩衝液の電気伝導度500μS以下、pH5.6とした以外は実施例2と同様の方法で行った。このときのアルブミン及びグロブリンの回収率を表1-1に示す。
【0045】
実施例4
1回目の電気移動において、緩衝液の電気伝導度500μS以下、pH9.4とした以外は実施例2と同様の方法で行った。このときのアルブミン及びグロブリンの回収率を表1-1に示す。
【0046】
実施例5
1回目の電気泳動において、流路Cの出口の高さを流路B出口よりも6cm高くした以外は実施例2と同様の方法で行った。このときのアルブミン及びグロブリンの回収率を表1-1に示す。
【0047】
実施例6
1回目の電気泳動において、リザーバー3に10倍濃度の緩衝液を添加した以外は実施例2と同様の方法で行った。このときのアルブミン及びグロブリンの回収率を表1-1に示す。
【0048】
実施例7
1回目の電気泳動において、流路Cの出口の高さを流路Bの出口よりも6cm高くし、リザーバー3に10倍濃度の緩衝液を添加し、実施例1と同様の方法で行った。このときのアルブミン及びグロブリンの回収率を表1-1に示す。
【0049】
実施例8
2回目の電気泳動において、リザーバー1の濃縮は行わず、流路Bと流路Cの出口の高さを同じにし、リザーバー3への緩衝液の添加を行わなかった以外は実施例2と同様の方法で行った。このときのアルブミン及びグロブリンの回収率を表1-1に示す。
【0050】
実施例9
2回目の電気泳動において、リザーバー1の溶液を、ペンシル型モジュールマイクローザ(ACP-0013D;旭化成株式会社製)を用いて溶液の濃縮を行った以外は実施例8と同様の方法で行った。このときのアルブミン及びグロブリンの回収率を表1-1に示す。
【0051】
実施例10
2回目の電気泳動において、流路Cの出口の高さを流路Bの出口よりも6cm高くした以外は実施例8と同様の方法で行った。このときのアルブミン及びグロブリンの回収率を表1-1に示す。
【0052】
実施例11
2回目の電気泳動において、リザーバー3に10倍濃度の緩衝液を添加した以外は実施例8と同様の方法で行った。このときのアルブミン及びグロブリンの回収率を表1-2に示す。
【0053】
実施例12
2回目の電気泳動において、リザーバー1の濃縮は行わず、流路B及び流路Cの出口の高さを同じにし、リザーバー3への緩衝液の添加を行わなかった以外は実施例7と同様の方法で行った。このときのアルブミン及びグロブリンの回収率を表1-2に示す。
【0054】
実施例13
実施例7と同様の方法で1回目の電気泳動を行い、アルブミンを回収した後に、リザーバー1に残った溶液を電気伝導度500μS以下、pH3.9になるように調整した緩衝液を用いて緩衝液置換を行った。電極1を陰極、電極2を陽極とし、緩衝液置換を行った溶液を90分、100Vの電圧を印加し、2回目の電気泳動を行った。このときのアルブミン及びグロブリンの回収率を表1-2に示す。
【0055】
実施例14
実施例7と同様の方法で1回目の電気泳動を行い、アルブミンを回収した後に、リザーバー1に残った溶液を電気伝導度500μS以下、pH5.4になるように調整した緩衝液を用いて緩衝液置換を行った。電極1を陰極、電極2を陽極とし、緩衝液置換を行った溶液を90分、100Vの電圧を印加し、2回目の電気泳動を行った。このときのアルブミン及びグロブリンの回収率を表1-2に示す。
【0056】
実施例15
分画膜1、3として、REPLIGEN社製Spectra/Por(登録商標)1、分画膜2にMembrane Solutions社製MS(登録商標)親水性PTFEメンブレン(孔径0.05μm)を使用した以外は実施例7と同様の方法で電気泳動を行った。このときのアルブミン及びグロブリンの回収率を表1-2に示す。
【0057】
比較例1
電気伝導度500μS以下、pH5.4になるように調整した緩衝液を使用した以外は実施例2と同様の方法で1回目の電気泳動を行った。このとき、アルブミン回収率は70%に達しなかったため、2回目の電気泳動は行わなかった。
【0058】
比較例2
電気伝導度500μS以下、pH9.6になるように調整した緩衝液を使用した以外は実施例2と同様の方法で1回目の電気泳動を行った。このとき、グロブリンが31%回収され、2回目の電気泳動を実施してもグロブリン回収率が70%に達しないため、2回目の電気泳動は行わなかった。
【0059】
比較例3
実施例7と同様の方法で1回目の電気泳動を行い、アルブミンを回収した後に、リザーバー1に残った溶液を電気伝導度500μS以下、pH3.7になるように調整した緩衝液を用いて緩衝液置換を行った。電極1を陰極、電極2を陽極とし、緩衝液置換を行った溶液を90分、100Vの電圧を印加し、2回目の電気泳動を行った。このとき、グロブリン回収率は70%に達しなかった。
【0060】
比較例4
実施例7と同様の方法で1回目の電気泳動を行い、アルブミンを回収した後に、リザーバー1に残った溶液を電気伝導度500μS以下、pH5.6になるように調整した緩衝液を用いて緩衝液置換を行った。電極1を陰極、電極2を陽極とし、緩衝液置換を行った溶液を90分、100Vの電圧を印加し、2回目の電気泳動を行った。このとき、グロブリン回収率は70%に達しなかった。
【0061】
以下の表において、「pH1」は1回目の電気泳動のpHの値を、「pH2」は2回目の電気泳動のpHの値を指す。「UF」は限外濾過(UF)膜による濃縮を、「ヘッド差」は流路Cの出口の高さと流路Bの出口の高さとの差を、「浸透圧」は流路Cと流路Bとの間の浸透圧差を指す。また、「Alb」はアルブミンを、「G」はグロブリンを指す。
【0062】
【表1-1】
【表1-2】
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の方法は、血漿分画製剤の工業的な製造に有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 タンパク質分離装置
2 電気泳動手段
3 電極1
3’ 電極2
4 分画膜1
5 分画膜2
6 分画膜3
7 流路A
8 流路B
9 流路C
10 流路D
11 リザーバー1
12 リザーバー2
13 リザーバー3
14 ポンプ1
15 ポンプ2
16 ポンプ3
17 ポンプ4
18 流路Bに高濃度の緩衝液を導入するポンプ
19 タンパク質濃度調整手段
20 外板
図1
図2