(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141361
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】水銀を除去する方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/64 20060101AFI20230928BHJP
B01D 53/81 20060101ALI20230928BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20230928BHJP
C01B 32/354 20170101ALI20230928BHJP
【FI】
B01D53/64 100
B01D53/81
B01J20/20 B
C01B32/354
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047648
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】横山 公一
(72)【発明者】
【氏名】吉川 博文
【テーマコード(参考)】
4D002
4G066
4G146
【Fターム(参考)】
4D002AA29
4D002AC01
4D002AC05
4D002AC10
4D002BA04
4D002BA14
4D002CA07
4D002DA44
4D002EA01
4D002GA01
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4D002GA03
4D002GB01
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4D002GB20
4G066AA05B
4G066BA03
4G066BA16
4G066CA47
4G066DA01
4G146AA06
4G146AB05
4G146AB06
4G146BA01
4G146CB22
4G146CB35
(57)【要約】 (修正有)
【課題】二酸化硫黄と水銀を含むガスの浄化処理などに好適な水銀除去方法および装置を提供する。
【解決手段】水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスを、水銀吸着装置31及びバイパスライン32に通し、水銀吸着装置から流出するガスとバイパスラインから流出するガスとを混ぜ合わせ、混ぜ合わされたガス中の水銀濃度を測定し、水銀濃度の測定値に基いて、水銀吸着装置に流入させるガスの量に対するバイパスラインに流入させるガスの量の体積比が0/100~99/1の範囲内で且つ水銀吸着装置に流入させるガスの量とバイパスラインに流入させるガスの量との合計の変化率が±5%以内であるように、水銀吸着装置に流入させるガスの量またはバイパスラインに流入させるガスの量を調節することを含む、水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスから水銀を除去する方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスを、水銀吸着装置に流入させ、水銀吸着装置内を通し、水銀吸着装置から流出させ、
水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスを、バイパスラインに流入させ、バイパスライン内を通し、バイパスラインから流出させ、
水銀吸着装置から流出するガスとバイパスラインから流出するガスとを混ぜ合わせ、
水銀吸着装置に流入させるガス中の水銀濃度および/または混ぜ合されたガス中の水銀濃度を測定し、
水銀濃度の測定値に基いて、水銀吸着装置に流入させるガスの量に対するバイパスラインに流入させるガスの量の体積比が0/100~99/1の範囲内で且つ水銀吸着装置に流入させるガスの量とバイパスラインに流入させるガスの量との合計の変化率が±5%以内であるように、水銀吸着装置に流入させるガスの量またはバイパスラインに流入させるガスの量を調節することを含む、
水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスから水銀を除去する方法。
【請求項2】
水銀吸着装置は、複数の板状水銀吸着材をそれらの各面が向かい合うように且つ対向する面の間にガスが通過できるように重ねてなる水銀吸着構造体を有するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
板状水銀吸着材は、金属若しくは樹脂を含んでなるメッシュ状板基材と繊維状活性炭を含んでなるシート材とを有し、シート材がメッシュ状板基材の少なくとも一方の面に沿うように重ね付けられている、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
水銀吸着装置に流入させるガスの量またはバイパスラインに流入させるガスの量の調節は、水銀濃度の測定値が高くなるほど、水銀吸着装置に流入させるガスの量に対するバイパスラインに流入させるガスの量の体積比を低くする、請求項1~3のいずれかひとつに記載の方法。
【請求項5】
水銀吸着装置に流入させるガスの量またはバイパスラインに流入させるガスの量の調節は、水銀濃度の測定値が所定値超過のときに、水銀吸着装置に流入させるガスの量に対するバイパスラインに流入させるガスの量の体積比を0/100以上30/70未満にする、請求項1~3のいずれかひとつに記載の方法。
【請求項6】
水銀吸着装置に流入させるガスの量またはバイパスラインに流入させるガスの量の調節は、水銀濃度の測定値が所定値未満のときに、水銀吸着装置に流入させるガスの量に対するバイパスラインに流入させるガスの量の体積比を30/70以上99/1以下にする、請求項1~3のいずれかひとつに記載の方法。
【請求項7】
水銀吸着装置に流入させるガスおよびバイパスラインに流入させるガスは、集塵処理または脱硫処理を施したガスである、請求項1~3のいずれかひとつに記載の方法。
【請求項8】
水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスが流入、通過、流出できるように構成された水銀吸着装置、
水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスが流入、通過、流出できるように構成されたバイパスライン、
水銀吸着装置から流出するガスとバイパスラインから流出するガスとを混ぜ合わせることができるように構成されたライン、
水銀吸着装置に流入させるガス中の水銀濃度および/または混ぜ合されたガス中の水銀濃度を測定できるように構成された水銀濃度測定器、
および
水銀濃度の測定値に基いて、水銀吸着装置に流入させるガスの量に対するバイパスラインに流入させるガスの量の体積比が0/100~99/1の範囲内で且つ水銀吸着装置に流入させるガスの量とバイパスラインに流入させるガスの量との合計の変化率が±5%以内であるように、水銀吸着装置に流入させるガスの量またはバイパスラインに流入させるガスの量を調節することができるように構成された制御装置を有する、
水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスから水銀を除去するための装置。
【請求項9】
水銀吸着装置は、複数の板状水銀吸着材をそれらの各面が向かい合うように且つ対向する面の間にガスが通過できるように重ねてなる水銀吸着構造体を有するものである、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
板状水銀吸着材は、金属若しくは樹脂を含んでなるメッシュ状板基材と繊維状活性炭を含んでなるシート材とを有し、シート材がメッシュ状板基材の少なくとも一方の面に沿うように重ね付けられている、請求項9に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀を含むガスから水銀を除去する方法に関する。より詳細に、本発明は、ゴミ焼却炉排ガスなどのような二酸化硫黄と水銀を含むガスの浄化処理などに好適な水銀除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物焼却施設排ガス、石炭火力発電所排ガス、セメントキルン排ガス、産業用石炭燃焼ボイラ排ガス、製鋼所排ガス、非鉄金属の製錬及び焙焼排ガスなどには、NOx、SOxの他にガス状水銀が含まれていることがある。ガス状水銀の大気への確実な排出抑制が、水俣条約の発効により、求められている。水銀の排出抑制には、粉末活性炭、粒状活性炭またはペレット状活性炭による除去技術が知られている。粒状活性炭またはペレット状活性炭は主に吸着塔に充てんして、粉末活性炭は主に排ガスに吹き付けるなどして、用いられている。
【0003】
特許文献1は、ごみ焼却炉から排出された排ガスの導入口と排出口とを有するバグフィルタであって、前記導入口から導入された排ガス中に含まれる煤塵及び有害成分を捕捉するろ布と、前記ろ布の下流側に配設され、前記ろ布を貫流した排ガスからさらに有害成分を吸着する繊維状吸着材と、前記繊維状吸着材を貫流した後の排ガスを前記排出口に導く短絡流路と、前記排ガスを前記繊維状吸着材を貫流させずに前記排出口に導く迂回流路と、前記短絡流路と前記迂回流路とを選択的に切り換える流路切換手段とを備えたバグフィルタを用いたごみ焼却炉排ガス処理方法であって、前記ろ布に対し、前記排ガス中に含まれる酸性成分を中和する薬剤及び水銀吸着剤を供給して所定厚さの反応層を形成するプレコート処理を行い、排ガスのろ過運転を行うとともに、前記薬剤及び水銀吸着剤を供給する位置の上流側で計測した排ガス中の水銀濃度が、所定の値を超過した状態が所定時間継続し、さらに上昇傾向にある場合に、前記ろ布を貫流した後の排ガスを前記繊維状吸着材に導く制御を行う、ことを特徴とするごみ焼却炉排ガス処理方法を開示している。
【0004】
特許文献2は、セメントキルンにおいて生ずる排ガスを排ガス処理装置により処理する排ガス処理方法であって、前記排ガス処理装置は、セメント原料を粉砕するように構成された粉砕機と、前記粉砕機で粉砕された粉末状のセメント原料を焼成してセメントクリンカを製造しつつ、焼成により内部で発生した燃焼ガスを前記粉砕機に供給するように構成された前記セメントキルンと、前記粉砕機から排出される粉砕機排ガスに含まれる粉粒体を集塵するように構成された集塵機と、前記粉砕機に導入又は前記粉砕機から排出されるセメント原料の量を計測するように構成された原料計測器と、前記集塵機から排出される集塵機排ガスに含まれる水銀を吸着する吸着材により前記集塵機排ガスを処理するように構成された処理部とを備え、前記排ガス処理方法は、前記原料計測器により前記セメント原料の量を計測する第1の工程と、前記第1の工程における計測結果に基づいて、前記集塵機排ガスの前記吸着材に対する接触量を調節する第2の工程とを含む、方法を開示している。
【0005】
特許文献3は、廃棄物焼却炉からの排ガスを処理する排煙処理塔の後段に水銀吸着塔を配置して、排ガスに含まれる水銀を除去する排ガスからの水銀除去方法であって、排煙処理塔よりも後段で排ガス中の水銀濃度を測定し、水銀濃度が設定値を超えたときに、高温空気により水銀吸着塔を加熱しつつ、水銀吸着塔に排ガスを供給することを特徴とする排ガスからの水銀除去方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-16848号公報(特許第6846778号公報)
【特許文献2】特開2019-51485号公報
【特許文献3】特開2018-132276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水銀は、排ガス中に様々な形態で存在する。例えば、Hg0(金属水銀)、Hg2+(HgCl2等のHg化合物)、ダストに付着したHgまたはHg化合物などを挙げることができる。ダストに付着したHgおよびHg化合物は粒子状水銀に分類され、Hg0(金属水銀)およびHg2+(HgCl2等のHg化合物)はガス状水銀に分類される。粒子状水銀(HgP)の大部分は、前述した電気集塵機やバグフィルタなどの集塵装置にて除去される。また、水溶性のHg2+は、湿式脱硫装置において硫黄酸化物(SOx)を除去する際に、同時に除去される。非水溶性のHg0は、集塵装置や湿式脱硫装置で除去されにくいため、Hg2+に酸化して、湿式脱硫装置において除去することが提案されている。いずれにしても、集塵装置や湿式脱硫装置では除き切れない水銀がわずかながら残る。除き切れない水銀の濃度が、排ガス発生源の変動、装置不具合、外乱などによって、急激に高くなることがある。
【0008】
水銀吸着剤や薬剤の供給による従来方法は、供給が開始されてもその効果がすぐに発揮されない。水銀濃度の監視に基いてバイパスラインから吸着塔に排ガス流を切換える従来方法は、ガス流の切り替えが完了するまでにある程度の時間を要する。また、結露水の蒸発除去などのウォームアップを要する場合には正常な吸着が行われるようになるまでにある程度の時間を要する。そのため、従来方法は、水銀濃度の急激な上昇への対応が遅れがちになる。
【0009】
本発明の課題は、ゴミ焼却炉排ガスなどのような二酸化硫黄と水銀を含む排ガスの浄化処理などに好適な水銀除去方法を提供することである。本発明の課題は、水銀濃度が急激に高くなっても、すぐに正常な水銀除去を行うことができる、水銀除去方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0011】
〔1〕 水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスを、水銀吸着装置に流入させ、水銀吸着装置内を通し、水銀吸着装置から流出させ、
水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスの残部を、バイパスラインに流入させ、バイパスライン内を通し、バイパスラインから流出させ、
水銀吸着装置から流出するガスとバイパスラインから流出するガスとを混ぜ合わせ、
水銀吸着装置に流入させるガス中の水銀濃度および/または混ぜ合されたガス中の水銀濃度を測定し、
水銀濃度の測定値に基いて、水銀吸着装置に流入させるガスの量に対するバイパスラインに流入させるガスの量の体積比が0/100~99/1の範囲内で且つ水銀吸着装置に流入させるガスの量とバイパスラインに流入させるガスの量との合計の変化率が±5%以内であるように、水銀吸着装置に流入させるガスの量またはバイパスラインに流入させるガスの量を調節することを含む、
水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスから水銀を除去する方法。
【0012】
〔2〕 水銀吸着装置は、複数の板状水銀吸着材をそれらの各面が向かい合うように且つ対向する面の間にガスが通過できるように重ねてなる水銀吸着構造体を有し、
板状水銀吸着材は、金属若しくは樹脂を含んでなるメッシュ状板基材と繊維状活性炭を含んでなるシート材とを有し、シート材がメッシュ状板基材の少なくとも一方の面に沿うように重ね付けられている、〔1〕に記載の方法。
【0013】
〔3〕 水銀吸着装置に流入させるガスの量またはバイパスラインに流入させるガスの量の調節は、水銀濃度の測定値が高いほど若しくは水銀濃度の測定値の経時変化の上昇が大きいほど、水銀吸着装置に流入させるガスの量に対するバイパスラインに流入させるガスの量の体積比を低くする、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
【0014】
〔4〕 水銀吸着装置に流入させるガスの量またはバイパスラインに流入させるガスの量の調節は、水銀濃度の測定値が所定値超過のときに、水銀吸着装置に流入させるガスの量に対するバイパスラインに流入させるガスの量の体積比を0/100以上30/70未満にする、〔1〕~〔3〕のいずれかひとつに記載の方法。
【0015】
〔5〕 水銀吸着装置に流入させるガスの量またはバイパスラインに流入させるガスの量の調節は、水銀濃度の測定値が所定値未満のときに、水銀吸着装置に流入させるガスの量に対するバイパスラインに流入させるガスの量の体積比を30/70以上99/1以下にする、〔1〕~〔4〕のいずれかひとつに記載の方法。
【0016】
〔6〕 水銀吸着装置に流入させるガスおよびバイパスラインに流入させるガスは、集塵処理または脱硫処理を施したガスである、〔1〕~〔5〕のいずれかひとつに記載の方法。
【0017】
〔7〕 水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスが流入、通過、流出できるように構成された水銀吸着装置、
水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスの残部が流入、通過、流出できるように構成されたバイパスライン、
水銀吸着装置から流出するガスとバイパスラインから流出するガスとを混ぜ合わせることができるように構成されたライン、
水銀吸着装置に流入させるガス中の水銀濃度および/または混ぜ合されたガス中の水銀濃度を測定できるように構成された水銀濃度測定器、
および
水銀濃度の測定値に基いて、水銀吸着装置に流入させるガスの量に対するバイパスラインに流入させるガスの量の体積比が0/100~99/1の範囲内で且つ水銀吸着装置に流入させるガスの量とバイパスラインに流入させるガスの量との合計の変化率が±5%以内であるように、水銀吸着装置に流入させるガスの量またはバイパスラインに流入させるガスの量を調節することができるように構成された制御装置を有する、
水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスから水銀を除去するための装置。
【0018】
〔8〕 水銀吸着装置は、複数の板状水銀吸着材をそれらの各面が向かい合うように且つ対向する面の間にガスが通過できるように重ねてなる水銀吸着構造体を有し、
板状水銀吸着材は、金属若しくは樹脂を含んでなるメッシュ状板基材と繊維状活性炭を含んでなるシート材とを有し、シート材がメッシュ状板基材の少なくとも一方の面に沿うように重ね付けられている、〔7〕に記載の装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法によると、水銀濃度が急激に高くなっても、すぐに正常な水銀除去を行うことができる。本発明の方法では、水銀吸着装置に排ガスが常に通される。水銀吸着装置は、常に通る排ガスによって吸着環境が整えられており、いつでも稼働できる状態にある。
複数の板状水銀吸着材をそれらの各面が向かい合うように且つ対向する面の間にガスが通過できるように重ねてなる水銀吸着構造体を有する水銀吸着装置を用いた場合は、排ガスを常に通していても、板状水銀吸着材に、結露、汚染、閉塞などが生じにくい。むしろ、排ガスを常に通していると、板状水銀吸着材の水銀吸着性能を向上させるようである。板状水銀吸着材の活性向上の理由は定かでないが、排ガスに含まれる硫黄酸化物が作用しているのではないかと推測する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る水銀除去装置の一例を示す図である。
【
図2】本発明に使用する板状水銀吸着材の一例を示す図である。
【
図3】本発明に使用する水銀吸着構造体の一例を示す図である。
【
図4】本発明に使用する板状水銀吸着材の一例を示す図である。
【
図5】本発明に使用する水銀吸着構造体の一例を示す図である。
【
図6】本発明に使用する水銀吸着構造体の一例を示す図である。
【
図7】本発明に使用する板状水銀吸着剤の一例を説明するための斜視図である。
【
図8】本発明に使用する板状水銀吸着剤の一例を示す横断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスから水銀を除去する方法および水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスから水銀を除去するための装置である。
【0022】
水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスとしては、廃棄物焼却施設排ガス、石炭火力発電所排ガス、セメントキルン排ガス、産業用石炭燃焼ボイラ排ガス、製鋼所排ガス、非鉄金属の製錬及び焙焼排ガスなどを挙げることができる。
【0023】
水銀及び二酸化硫黄を含む排ガス、すなわち水銀吸着装置に流入させるガスおよびバイパスラインに流入させるガスは、冷却処理、集塵処理または脱硫処理を施したガスであってもよい。
【0024】
冷却処理は、排ガスが持つ熱エネルギーを奪い、排ガスの温度を下げるための処理である。奪った熱エネルギーは、他において、利用することができる。
【0025】
集塵処理は、例えば、サイクロン分離機、電気集塵機、バグフィルタなどの集塵装置に排ガスを通すことによって行うことができる。これらのうちバグフィルタが好ましい。
【0026】
脱硫処理は、硫黄酸化物を吸収、除去するための処理である。脱硫処理は、例えば、ガスを湿式脱硫装置に通すことによって行うことができる。湿式脱硫の代表的な方法としては、石灰-石膏法、水酸化マグネシウム法、ソーダ法などを挙げることができる。
【0027】
本発明の方法は、水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスを、水銀吸着装置に流入させ、水銀吸着装置内を通し、水銀吸着装置から流出させ、水銀及び二酸化硫黄を含む排ガスの残部を、バイパスラインに流入させ、バイパスライン内を通し、バイパスラインから流出させる。
【0028】
水銀吸着装置は、排ガスに含まれる水銀を水銀吸着材に吸着させ、排ガスの水銀濃度を下げることができるよう構成されているものである。水銀吸着材は、公知のものを用いることができる。水銀吸着装置は、水銀吸着材を装置内に固定床として装填したものであることが好ましい。
本発明においては、複数の板状水銀吸着材をそれらの各面が向かい合うように且つ対向する面の間にガスが通過できるように重ねてなる水銀吸着構造体を有する固定床式の水銀吸着装置を用いることが好ましい。
水銀吸着構造体に用いられる板状水銀吸着材は、メッシュ状板基材3と、シート材2と、を有する。
【0029】
シート材2は、繊維状活性炭を含んでなるものである。繊維状活性炭は、活性炭繊維(Activated carbon fibers)であってもよいし、粉状若しくは粒状の活性炭が繊維に付着してなるものであってもよい。活性炭は、例えば、炭素含有物質を炭化し、次いで賦活処理することによって得ることができる。繊維状活性炭は、粉末若しくは粒状活性炭を繊維状に成形することによって、炭素含有物質を繊維状に成形して前駆体繊維を得、それを炭化し、賦活処理することによって、得ることができる。繊維状活性炭の前駆体繊維としては、例えば、フェノール系繊維、セルロース系繊維、ピッチ系繊維、PAN系繊維を挙げることができる。「炭化」は、例えば、炭素含有物質を約200℃~600℃で且つ無酸素状態で蒸焼きにすることを含む。「賦活」は、例えば、原料中の有機物や無機物の固形物を熱(約800~950℃で、水蒸気、二酸化炭素、空気などの気体を吹き付けて)または薬品(脱水性の塩類及び酸(塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどのアルカリ土類金属化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属化合物、塩化亜鉛、リン酸、硫酸)にて分解・蒸発させることを含む。
【0030】
シート材2は、繊維状活性炭またはそれの撚糸を織ってなる布(織布)であってもよいし、繊維状活性炭を熱的、機械的または化学的な作用によって接着または絡み合わせてなる布(不織布)であってもよい。
【0031】
本発明に用いられる繊維状活性炭若しくはシート材は、添着処理されたものであってもよい。本発明に用いられる繊維状活性炭若しくはシート材は、ヨウ素を添着したものであってもよい。ヨウ素の添着は、例えば、ヨウ素含有化合物の水溶液を、噴霧、含浸する方法などによって、行うことができる。ヨウ素含有化合物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなどのヨウ化アルカリ金属、ヨウ化カルシウムなどを挙げることができる。
また、本発明に用いられる繊維状活性炭若しくはシート材は、ナトリウム化合物、カリウム化合物などのアルカリ金属化合物、カルシウム化合物などのアルカリ土類金属化合物、遷移金属化合物、銀化合物などの金属化合物を添着したものであってもよい。これらのうち、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物が好ましく、カルシウム化合物がより好ましい。好ましい金属化合物としては、ヨウ化物、塩化物、臭化物を挙げることができる。金属化合物の添着は、繊維状活性炭の原材料、例えば、炭素含有物質、前駆体繊維などに若しくは繊維状活性炭に、金属化合物の粉末を機械的に直接混合する方法によって、または金属化合物溶液を噴霧若しくは含浸する方法によって、行うことができる。ヨウ素や金属化合物の添着量は本発明の効果を阻害しないかぎり特に制限されない。添着処理によって、水銀の吸着能力の向上が、期待できる。
【0032】
本発明に用いられる繊維状活性炭若しくはシート材は、撥水処理されたものであってもよい。撥水性を付与する方法としては、撥水剤を噴霧または含浸する方法を挙げることができる。撥水剤としてはフッ素樹脂系撥水剤、ワックス系撥水剤、セルロース反応系撥水剤、シリコン樹脂系撥水剤などを挙げることができる。これらのうちフッ素樹脂系撥水剤が好ましい。撥水剤の添着量は撥水剤固形分として好ましくは0.1~60質量%、より好ましくは1~40質量%である。撥水処理によって、防汚性、耐湿性などの向上が、期待できる。
【0033】
本発明に用いられるシート材は、エンボス加工などによって形成できる、微小凹凸の面を有してもよい。シート材の微小凹凸が、後述するメッシュ状板基材の網目による微小凹凸に嵌合するようにしてもよい。
【0034】
メッシュ状板基材3は、金属若しくは樹脂を含んでなるものである。
金属としては、ステンレス鋼、鋼(SS,SPCC-SD,SPHC-P)、亜鉛鋼(SGCC,SGHC)、高張力鋼、アルミニウム鋼、亜鉛メッキ鋼、アルミメッキ鋼、黄銅、銅、チタンなどを挙げることができる。
樹脂としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルなどを挙げることができる。これらのうち、ポリエステル、ポリプロピレンおよびポリエチレンからなる群から選ばれる少なくとも一つを含んでなるものが好ましい。繊維強化樹脂(例えば、炭素繊維強化熱可塑性樹脂など)を用いてもよい。
【0035】
金属を含んでなるメッシュ状板基材は、ワイヤー金網(Wired Metal Mesh)、エキスパンドメタル(Expanded Metal)および打抜金網(Perforated Metal)からなる群から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
ワイヤー金網は、ワイヤ(金属線材)を用いて網状にしたものである。ワイヤー金網としては、例えば、亀甲金網、菱形金網、クリンプ金網などを挙げることができる。線材の交差部を溶接したものであってもよい。
エキスパンドメタルは、金属板を千鳥状に切れ目を入れながら押し広げ、その切れ目を菱形や亀甲形に成形してなるものである。
打抜金網は、金属板に丸孔、角孔、長孔などの孔を多数開けたものである。
これらのうち、エキスパンドメタル、打抜金網が好ましく、高強度で且つ軽いという点で、エキスパンドメタルがより好ましい。
【0036】
樹脂を含んでなるメッシュ状板基材は、織布、不織布、樹脂パンチング(PERFORATED PLASTICS)、織網、交点融着樹脂網などを挙げることができる。
【0037】
本発明に用いられるメッシュ状板基材は、面が、まっ平らであってもよいし、凹凸に曲がっていてもよい。凹凸に曲った面としては、例えば、平坦部13と、V字形状、U字形状、S字形状、Z字形状、W字形状などに曲がった線条部14とからなるもの、平坦部と、錐形状、錘台形状などに曲った凸点部とからなるもの、全面若しくは部分面が平行に連続してなる複数の線条部14'からなるもの(波板、コルゲート板(corrugated plate))などを挙げることができる。線条部は、複数が、平行に配置されていてもよいし、交差するように配置されていてもよい。線条部は、リブ若しくはビードとしての機能を兼ね備え、本発明の板状水銀吸着材の強度を高めることがある。
【0038】
本発明に用いられる板状水銀吸着材は、前記のシート材が、前記のメッシュ状板基材の少なくとも一方の面に、沿うように重ね付けられている。シート材のメッシュ状板基材への重ね付ける方法は、特に限定されず、例えば、鎹(かすがい)、ステープラ用つづり針4などによる綴じ付け;糸(例えば、ポリプロピレンヤーンなど)、紐、針金などによる縫い付け、接着剤などによるもの、溶着、溶接、蝋接などによるものなどを挙げることができる。
上記のように、沿うように重ね付けると、シート材の面とメッシュ状板基材の面とがほぼ平行に、好ましくは平行に密着して、配置される(
図8参照)。面が凹凸に曲っているメッシュ状板基材において、シート材はメッシュ状板基材の凹凸に曲った面に沿って、凹凸に曲っていることが好ましい。曲げ加工は、例えば、シート材とメッシュ状板基材とを重ね付けた後、ロールによって圧力を加えるロールプレス機、若しくは往復運動によって圧力を加えるプレス機を用いて、行うことができる。
【0039】
水銀吸着構造体は、板状水銀吸着材を、複数、それらの各面が向かい合うように且つ対向する面の間にガスが通過できるように、重ねてなるものである。本発明に用いられる水銀吸着構造体は、板状水銀吸着材をユニットケース10に収納したものであってもよい。ユニットケース10は、重ねて収納した板状水銀吸着材の配置を安定させることができる。ユニットケース10は、ガス流入口とガス流出口とを有する枠体、筒体などであることができる。
【0040】
面が凹凸に曲っているメッシュ状板基材を具備する板状水銀吸着材を用いる場合は、重ねたときに、凸の部分の少なくとも一部が突き当り、凹の部分にガスの通過できる空間を設けることが、低い圧力損失の観点から好ましい。面が凹凸に曲っているメッシュ状板基材を具備する板状水銀吸着材と面が真っ平らなメッシュ状板基材を具備する板状水銀吸着材とを用いる場合には、それらを交互に重ねることによって段ボール(corrugated cardboard)形状などを形成することができる。例えば、
図6に示す水銀吸着構造体は、波板状の水銀吸着材1'と平板状の水銀吸着材1とを交互に重ねてなるものである。
図3に示す水銀吸着構造体は、
図2に示す平坦部と線条部とからなる板状水銀吸着材111を重ねてなるものである。
図5に示す水銀吸着構造体は、
図4に示す平坦部と波部とからなる板状水銀吸着材101を重ねてなるものである。
【0041】
本発明に用いられる板状水銀吸着材または水銀吸着構造体は、定期的に、水洗浄、エアブローを行うことができる。水洗浄、エアブローによって、汚れの除去、吸着力の回復などを、期待できる。複数の板状水銀吸着材をそれらの各面が向かい合うように且つ対向する面の間にガスが通過できるように重ねてなる水銀吸着構造体を有する水銀吸着装置を用いた場合は、後述するように排ガスを常に通していても、板状水銀吸着材に、結露、汚染、閉塞などが生じにくい。むしろ、排ガスを常に通していると、板状水銀吸着材の水銀吸着性能を向上させるようである。
【0042】
バイパスラインは、前記の水銀吸着装置を迂回して排ガスを通すラインである。バイパスラインを通る排ガスには何も処理を施さなくてもよいが、必要に応じて、冷却処理、調湿処理を施してもよい。バイパスラインから流出するガスの温度や湿度が、水銀吸着装置から流出するガスの温度や湿度に対して、大きな差がないようにすることで、水銀濃度の測定精度に影響が出ないようにすることを期待できる。
【0043】
バイパスラインから流出するガスと水銀吸着装置から流出するガスとを混ぜ合わせる。ガス混合は、温度ムラ、湿度ムラ、濃度ムラなどのムラによって、水銀濃度の測定精度に影響が出ないように、行うことが好ましい。ガスが混ざり合う地点から、水銀濃度を測定する地点までの、距離を十分にとることによって、ムラは解消できるが、距離を十分にとれないなどの理由でムラの解消が十分にできないときは、スタティクミキサ、オリフィスなどの攪拌機構を設けてもよい。
【0044】
水銀濃度測定は、公知の水銀濃度測定器によって行うことができる。水銀濃度測定器は、混ぜ合されたガス中の水銀濃度Cbおよび/またはバイパスラインまたは水銀吸着装置の入口側配管のガス中の水銀濃度Cfを測定する。大気汚染防止法で規定されている排ガス中の水銀濃度の計測方法はバッチ測定であり、例えば、「湿式吸収-還元気化原子吸光分析法」や「金アマルガム捕集-加熱気化原子吸光分析法」等が用いられる。試料採取方法は、排ガスをポンプで吸引したり、専用のサンプラー(例えば、特開2003-337085号公報、特開2020-139740号公報、JIS K 0095の試料採取装置(ガス状水銀の場合)、JIS Z 8808のダスト捕集器(粒子状水銀の場合))で捕集したりする。また、排ガス中の水銀濃度の連続測定を可能にした測定器が知られており、それを用いてもよい。ただし、連続測定可能な市販の水銀濃度測定器は粒子状水銀が測定対象外であることがあるが、これを用いてもよい。
【0045】
次に、水銀濃度の測定値に基いて、水銀吸着装置に流入させるガスの量に対するバイパスラインに流入させるガスの量の体積比が0/100~99/1の範囲内で、好ましくは0/100~90/10の範囲内で、且つ水銀吸着装置に流入させるガスの量とバイパスラインに流入させるガスの量との合計の変化率が±5%以内で、好ましくは±1%以内であるように、水銀吸着装置に流入させるガスの量またはバイパスラインに流入させるガスの量を調節する。このように、水銀吸着装置に排ガスが常に通されるようにガスの量を調節する。水銀吸着装置は、常に通る排ガスによって吸着環境が整えられており、いつでも稼働できる状態にある。また、水銀吸着装置に流入させるガスの量とバイパスラインに流入させるガスの量との合計をできるだけ変動しないようにすることによって、火炉での燃焼の安定化を図れる。
【0046】
水銀吸着装置に流入させるガスの量またはバイパスラインに流入させるガスの量の調節は、水銀濃度の測定値が高いほど若しくは水銀濃度の測定値の経時変化の上昇が大きいほど、水銀吸着装置に流入させるガスの量に対するバイパスラインに流入させるガスの量の体積比を低くすることが好ましい。また、水銀吸着装置に流入させるガスの量またはバイパスラインに流入させるガスの量の調節は、水銀濃度の測定値が低いほど若しくは水銀濃度の測定値の経時変化の下降が大きいほど、水銀吸着装置に流入させるガスの量に対するバイパスラインに流入させるガスの量の体積比を高くすることが好ましい。
【0047】
水銀吸着装置に流入させるガスの量またはバイパスラインに流入させるガスの量の調節は、水銀濃度の測定値が所定値超過のときに、水銀吸着装置に流入させるガスの量に対するバイパスラインに流入させるガスの量の体積比を0/100以上30/70未満にすることが好ましい。
水銀吸着装置に流入させるガスの量またはバイパスラインに流入させるガスの量の調節は、水銀濃度の測定値が所定値未満のときに、水銀吸着装置に流入させるガスの量に対するバイパスラインに流入させるガスの量の体積比を30/70以上99/1以下にすることが好ましい。
【0048】
水銀吸着装置に流入させるガスの量またはバイパスラインに流入させるガスの量の調節は、手動、半自動または自動で行うことができる。ガスの量の調節のために制御装置を用いることができる。制御装置は、水銀濃度測定器、流量計および比例制御弁を、電気通信技術などによって相互接続し、水銀濃度の測定値に基いて、比例制御弁の開度を、上記のような所望の流量になるように、自動的に制御することができるように構成されている。水銀濃度Cbに基づく場合はフィードバック制御を構築でき、水銀濃度Cfに基づく場合はフィードフォワード制御を構築できる。フィードバック制御のみでもよいし、フィードフォワード制御のみでもよいし、フィードバック制御とフィードフォワード制御とを組み合わせてもよい。
【0049】
本発明において、複数の板状水銀吸着材をそれらの各面が向かい合うように且つ対向する面の間にガスが通過できるように重ねてなる水銀吸着構造体を有する水銀吸着装置を用いた場合は、排ガスを常に通していても、板状水銀吸着材に、結露、汚染、閉塞などが生じにくい。むしろ、排ガスを常に通していると、板状水銀吸着材の水銀吸着性能を向上させるようである。
【0050】
次に、実施例を参照しながら本発明の方法を具体的に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
実施例1
エキスパンドメタル(板厚:0.3mm、材質:SUS316L、日建ラス工業製NK0510、単位面積当たりの重量:330g/m
2)の一方の面に、活性炭素繊維からなる不織布(比表面積1100m
2/g)を載せ、ステンレス製10号ステープラ用つづり針を矩形格子状に15mm間隔で打ち込み、不織布とエキスパンドメタルとを綴じ合わせ、次いで、成形ローラを用いて曲げ加工を施して、不織布がエキスパンドメタルの一方の面に沿うように重ね付けられた、
図4に示す平坦部と波板部とからなる板状水銀吸着材101を複数得た。
ユニットケース(SUS316L製,開口部:600mm角,奥行方向300mm)に、板状水銀吸着材101を、交互に向きを変えて複数重ね合わせて、収納し、蓋(SUS316L製)によって、固定して、
図5に示す水銀吸着構造体109を得た。
【0052】
水銀吸着構造体109をポリテトラフルオロエチレン含有液に5分間浸漬し、次いで液切りし、140℃で1時間乾燥させた。これにより、ポリテトラフルオロエチレン10質量%が添着された不織布を含んでなる、水銀吸着構造体(以下、PTFE添着水銀吸着構造体という。)を得た。
【0053】
図1に示すバグフィルタと吸着装置とを含む水銀除去装置を用意した。吸着装置の中にガスが縦方向に流れるように水銀吸着構造体109を設置した。
バイパスラインの入口側に流量調節器および比例制御弁を設置した。吸着装置の入口側に流量調節器および比例制御弁を設置し、吸着装置の出口側に制御弁を設置した。バイパスラインから流出するガスと吸着装置から流出するガスとが合流する点の後方に水銀濃度測定器を設置した。制御装置、水銀濃度測定器、流量調節器および比例制御弁を相互接続して制御システムを構築した。
【0054】
模擬ごみ焼却炉排ガス1(低Hg濃度ガス〔成分組成:SO2=50ppmv、Hg0=50μg/Nm3、HgP=5μg/Nm3、温度:160℃)〕を、バグフィルタに10000Nm3/hで流入させた。バグフィルタから流出するガス(成分組成:SO2=50ppmv、Hg0=50μg/Nm3、HgP=0.5μg/Nm3、温度:160℃)を、バイパスラインと吸着装置とにふり分けて流入させた。水銀濃度測定器の測定値(法的な排出規制値未満)に基いて、制御装置が、流量調節器と比例制御弁を制御して、バイパスラインに流入するガスの量を30%(3000Nm3/h)に、吸着装置に流入するガスの量を70%(7000Nm3/h)に、ふり分けた。この状態を2時間継続した。
【0055】
バグフィルタに流入する模擬ごみ焼却炉排ガス1を模擬ごみ焼却炉排ガス2(高Hg濃度ガス〔成分組成:SO2=50ppmv、Hg0=150μg/Nm3、HgP=50μg/Nm3,温度160℃)〕に切り換えた。水銀濃度測定器の測定値(法的な排出規制値以上)に基いて、制御装置が、流量調節器と比例制御弁を制御して、バイパスラインに流入するガスの量を30%(3000Nm3/h)から0%(全閉:0Nm3/h)に、吸着装置に流入するガスの量を70%(7000Nm3/h)から100%(10000Nm3/h)に、ふり分け割合を0.3×t時間かけて定速で変更した。実施例1における弁の開度変更に要する時間は比較例のそれよりも短い。ガスふり分け割合の変更の開始から完了までの間(0.3×t時間)に、バイパスラインから流出するガス量は450×t(Nm3)で、吸着装置から流出するガス量は2550×t(Nm3)であった。バイパスライン通過ガス量と吸着装置通過ガス量の比は450:2550=0.15:0.85であった。Hg濃度が急激に増加しても、Hg濃度が変わらないバイパスラインを通過するガス量が比較例より少ない。ガスふり分け割合の変更中に吸着装置およびバイパスラインから流出するガスの混合物は、平均成分組成:SO2=50ppmv、Hg0=40μg/Nm3,HgP=0.5μg/Nm3、平均温度:160℃であった。なお、tは、比例制御弁が全開から全閉になるまでに要する時間若しくは全閉から全開になるまでに要する時間である。
【0056】
実施例2
模擬ごみ焼却炉排ガス1を流入させている状態の継続時間を24時間に変更した以外は実施例1と同じ方法で模擬ガスからの水銀除去を行った。ガスふり分け割合の変更中に吸着装置およびバイパスラインから流出したガスの混合物は、平均成分組成:SO2=50ppmv、Hg0=35μg/Nm3,HgP=0.5μg/Nm3,平均温度:160℃であった。SO2を含む排ガスが吸着装置に常時流れている状態が長くなると、水銀吸着剤の水銀吸着性能が向上し、急激なHg濃度上昇への対応が良好である。
【0057】
比較例
模擬ごみ焼却炉排ガス1を流入させているときに、流量調節器と比例制御弁を制御して、バイパスラインに流入するガスの量を100%(1000Nm3/h)に、吸着装置に流入するガスの量を0%(0Nm3/h)に、ふり分けた以外は、実施例1と同じ方法で模擬ガスからの水銀除去を行った。ガスふり分け割合の変更の開始から完了までの間(1.0×t時間)に、バイパスラインから流出するガス量は5000×t(Nm3)で、吸着装置から流出するガス量は5000×t(Nm3)で、バイパスライン通過ガス量と吸着装置通過ガス量の比は5000:5000=0.5:0.5であった。ガスふり分け割合の変更中に吸着装置およびバイパスラインから流出したガスの混合物は、平均成分組成:SO2=50ppmv、Hg0=90μg/Nm3、HgP=0.5μg/Nm3、平均温度:160℃であった。
【0058】
実施例3
模擬ごみ焼却炉排ガス3(極低Hg濃度ガス〔成分組成:SO2=50ppmv、Hg0=30μg/Nm3、HgP=10μg/Nm3、温度:160℃)〕を、バグフィルタに10000Nm3/hで流入させ、バグフィルタから流出するガス(成分組成:SO2=30ppmv、Hg0=30μg/Nm3、HgP=0.5μg/Nm3、温度:160℃)を、バイパスラインと吸着装置とにふり分けて流入させ、水銀濃度測定器の測定値(法的な排出規制値未満)に基いて、制御装置が、流量調節器と比例制御弁を制御して、バイパスラインに流入するガスの量を90%(9000Nm3/h)に、吸着装置に流入するガスの量を10%(1000Nm3/h)に、ふり分けた以外は、実施例1と同じ方法で模擬ガスからの水銀除去を行った。ガスふり分け割合の変更の開始から完了までの間(0.9×t時間)に、バイパスラインから流出するガス量は4050×t(Nm3)で、吸着装置から流出するガス量は4950×t(Nm3)であった。バイパスライン通過ガス量と吸着装置通過ガス量の比は4050:4950=0.45:0.55であった。Hg濃度が急激に増加しても、ガスがそのまま通過するバイパスライン通過ガス量が比較例よりも少ない。ガスふり分け割合の変更中に吸着装置およびバイパスラインから流出したガスの混合物は、平均成分組成:SO2=50ppmv、Hg0=18μg/Nm3、HgP=0.5ppm、平均温度:160℃であった。
【0059】
実施例4
模擬ごみ焼却炉排ガス3(極低Hg濃度ガス〔成分組成:SO2=50ppmv、Hg0=30μg/Nm3、HgP=10μg/Nm3、温度:160℃)〕を、バグフィルタに10000Nm3/hで流入させ、バグフィルタから流出するガス(成分組成:SO2=50ppmv、Hg0=30μg/Nm3、HgP=0.5μg/Nm3、温度:160℃)を、バイパスラインと吸着装置とにふり分けて流入させ、水銀濃度測定器の測定値(法的な排出規制値未満)に基いて、制御装置が、流量調節器と比例制御弁を制御して、バイパスラインに流入するガスの量を90%(9000Nm3/h)に、吸着装置に流入するガスの量を10%(1000Nm3/h)に、ふり分けた。この状態を2時間継続した。
【0060】
バグフィルタに流入する模擬ごみ焼却炉排ガス3を模擬ごみ焼却炉排ガス1(低Hg濃度ガス〔成分組成:SO2=50ppmv、Hg0=50μg/Nm3、HgP=5μg/Nm3、温度160℃)〕に切り換えた。水銀濃度測定器の測定値(法的な排出規制値以上)に基いて、制御装置が、流量調節器と比例制御弁を制御して、バイパスラインに流入するガスの量を90%(9000Nm3/h)から30%(3000Nm3/h)に、吸着装置に流入するガスの量を10%(1000Nm3/h)から70%(7000Nm3/h)に、ふり分け割合を0.6×t時間かけてほぼ定速で変更した。ガスふり分け割合の変更中に吸着装置およびバイパスラインから流出したガスの混合物は、平均成分組成:SO2=50ppmv、Hg0=42μg/Nm3、HgP=0.5μg/Nm3、平均温度:160℃であった。
【符号の説明】
【0061】
1:平板状の水銀吸着材
1’:波板状の水銀吸着材
2:シート材
3:金属製板状基材
4:ステープラ用つづり針
8:ガス流れ
10:ユニットケース
14:線条部
14':連続線条部(波板部)
13:平坦部
30:バグフィルタ
31:水銀吸着装置
32:バイパスライン
33:制御装置
34:ダスト
35:排ガス
36:水銀濃度測定器
111:平坦部と線条部とからなる板状水銀吸着材
119:水銀吸着構造体
101:平坦部と連続線条部(波板部)とからなる板状水銀吸着材
109:水銀吸着構造体