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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141373
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】非接触式の眼球物性測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/10 20060101AFI20230928BHJP
   A61B 3/16 20060101ALI20230928BHJP
   A61B 3/10 20060101ALI20230928BHJP
   G16H 10/40 20180101ALI20230928BHJP
   G16Y 10/60 20200101ALI20230928BHJP
   G16Y 20/40 20200101ALI20230928BHJP
   G16Y 40/20 20200101ALI20230928BHJP
   A61B 8/08 20060101ALN20230928BHJP
   G01N 21/45 20060101ALN20230928BHJP
   G01N 21/27 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
A61B8/10
A61B3/16 300
A61B3/10 900
G16H10/40
G16Y10/60
G16Y20/40
G16Y40/20
A61B8/08
G01N21/45 A
G01N21/27 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047664
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】521353643
【氏名又は名称】合同会社クオビス
(74)【代理人】
【識別番号】100167818
【弁理士】
【氏名又は名称】蓑和田 登
(72)【発明者】
【氏名】加藤 千比呂
【テーマコード(参考)】
2G059
4C316
4C601
5L099
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059AA05
2G059BB12
2G059CC16
2G059CC18
2G059EE02
2G059EE09
2G059EE12
2G059EE16
2G059GG01
2G059GG02
2G059GG06
2G059HH01
2G059HH02
2G059JJ02
2G059JJ03
2G059JJ05
2G059JJ11
2G059JJ13
2G059JJ15
2G059JJ17
2G059JJ18
2G059JJ19
2G059JJ20
2G059JJ22
2G059KK04
2G059MM01
4C316AA20
4C316AB01
4C316AB06
4C316FA11
4C316FC14
4C316FC15
4C316FZ02
4C316FZ03
4C601DD13
4C601DD19
4C601DD23
4C601EE11
5L099AA03
(57)【要約】
【課題】超音波による眼球表面波の発生・検出において、励振超音波の検出センサーへの干渉を最小限にする非接触式の眼球物性測定装置を提供する。
【解決手段】非接触式の眼球物性測定装置1は、被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する超音波照射ユニット1501と、超音波照射ユニット1501において発生させた表面波を励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する受信センサー1503と、受信センサー1503より検出した表面波を解析する表面波処理部1507aと、表面波処理部1507aにおける解析結果に基づいて眼球の物性を計算する眼球物性計算部1507bと、を備える。超音波照射ユニット1501が発する照射波は、その基本周波数が20KHz以上、200KHz以下となる空中超音波の連続波、又はこの空中超音波の10波以上のバースト波であり、且つ所定式を満たす。
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触式の眼球物性測定装置であって、
被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振手段と、
前記励振手段において発生させた表面波を、前記励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出手段と、
前記検出手段より検出した表面波を解析する表面波処理手段と、
前記表面波処理手段における解析結果に基づいて、眼球の物性を計算する眼球物性計算手段と、を備え、
前記励振手段が発する照射波は、その基本周波数が20KHz以上、200KHz以下となる空中超音波の連続波、又はこの空中超音波の10波以上のバースト波であり、且つ下記の[数1]を満たす、ことを特徴とする眼球物性測定装置。
[数1]
Tex+Liw/Va ≦ Lex/Va+Ds/Cs+Ldr/Va
ここで、Cs:表面波の位相速度又は群速度、Va:空中超音波の音速、Tex:表面波励振用バースト波の照射時間、Lex:励振用超音波照射ユニット(励振手段)から眼球表面の励振点までの距離、Liw:励振用超音波の干渉ノイズの伝搬経路長、Ldr:表面波の眼球表面における検出点と表面波検出用受信超音波センサー(検出手段)との距離
【請求項2】
非接触式の眼球物性測定装置であって、
被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振手段と、
前記励振手段において発生させた表面波を、前記励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出手段と、
前記検出手段より検出した表面波を解析する表面波処理手段と、
前記表面波処理手段における解析結果に基づいて、眼球の物性を計算する眼球物性計算手段と、を備え、
前記励振手段が発する照射波は、その基本周波数が50KHz以上、50MHz以下となるコヒーレント光又は非コヒーレント光の光源による連続パルス光であり、
さらに、パルス光を、その基本周波数より低くなる200Hz以上、100KHz以下の変調周波数によりにより振幅変調する変調手段を備え、
前記励振手段は、前記連続パルス光を前記変調手段によってその基本周波数より低い周波数で振幅変調した振幅変調連続パルス光を連続的に照射、又はこの振幅変調連続パルス光の10周期以上のバースト波を照射し、
且つ、前記励振手段は、前記連続パルス光のパルス時間及びパルス周期をコントロールし、前記連続パルス光によって組織内に発生せしめた連続光音響波の位相を合わせる、ことを特徴とする眼球物性測定装置。
【請求項3】
前記励振手段から照射される前記連続パルス光のパルス時間は、10nsec~1000nsecの範囲内で設定され、前記連続パルス光のパルス周期は、前記光音響波の周波数0.5MHz~50MHzの範囲を満たし、且つ当該周波数と同じ周期又はその整数分の1とする、ことを特徴とする請求項2記載の眼球物性測定装置。
【請求項4】
さらに、前記眼球物性計算手段で得られた眼球の物性を広域ネットワークを介して外部装置に送信する通信手段を備える、ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の眼球物性測定装置。
【請求項5】
患者の宅内に設置された非接触式の眼球物性測定装置を用いた眼球物性のホームモニタリングシステムであって、
前記非接触式の眼球物性測定装置は、
被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振手段と、
前記励振手段において発生させた表面波を、前記励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出手段と、
前記検出手段より検出した表面波を解析する表面波処理手段と、
前記表面波処理手段における解析結果に基づいて、眼球の物性を計算する眼球物性計算手段と、
前記眼球物性計算手段で得られた眼球の物性を広域ネットワークを介して外部装置に送信する通信手段と、を備え、
前記励振手段が発する照射波は、その基本周波数が20KHz以上、200KHz以下となる空中超音波の連続波、又はこの空中超音波の10波以上のバースト波であり、
前記外部装置は、
前記眼球物性計算手段において計算された患者の眼球物性に関するデータを受け取る送受信部と、
前記眼球物性に関するデータに基づいて患者の症状の進行度を解析する眼球物性解析部と、
前記眼球物性に関するデータを蓄積する眼球物性データ記憶部と、
前記眼球物性解析部の解析結果及び患者に関連する情報が記憶される患者情報記憶部と、を備えることを特徴とする眼球物性のホームモニタリングシステム。
【請求項6】
患者の宅内に設置された非接触式の眼球物性測定装置を用いた眼球物性のホームモニタリングシステムであって、
前記非接触式の眼球物性測定装置は、
被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振手段と、
前記励振手段において発生させた表面波を、前記励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出手段と、
前記検出手段より検出した表面波を解析する表面波処理手段と、
前記表面波処理手段における解析結果に基づいて、眼球の物性を計算する眼球物性計算手段と、
前記眼球物性計算手段で得られた眼球の物性を広域ネットワークを介して外部装置に送信する通信手段と、を備え、
前記励振手段が発する照射波は、その基本周波数が50KHz以上、50MHz以下となるコヒーレント光又は非コヒーレント光の光源による連続パルス光であり、
さらに、パルス光を、その基本周波数より低くなる200Hz以上、100KHz以下の変調周波数によりにより振幅変調する変調手段を備え、
前記励振手段は、前記連続パルス光を前記変調手段によってその基本周波数より低い周波数で振幅変調した振幅変調連続パルス光を連続的に照射、又はこの振幅変調連続パルス光の10周期以上のバースト波を照射し、
前記外部装置は、
前記眼球物性計算手段において計算された患者の眼球物性に関するデータを受け取る送受信部と、
前記眼球物性に関するデータに基づいて患者の症状の進行度を解析する眼球物性解析部と、
前記眼球物性に関するデータを蓄積する眼球物性データ記憶部と、
前記眼球物性解析部の解析結果及び患者に関連する情報が記憶される患者情報記憶部と、を備えることを特徴とする眼球物性のホームモニタリングシステム。
【請求項7】
非接触式の眼球物性測定方法であって、
被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振ステップと、
前記励振ステップにおいて発生させた表面波を、前記励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出ステップと、
前記検出ステップにおいて検出した表面波を解析する表面波処理ステップと、
前記表面波処理ステップにおける解析結果に基づいて、眼球の物性を計算する眼球物性計算ステップと、を含み、
前記励振ステップにおいて発する照射波は、その基本周波数が20KHz以上、200KHz以下となる空中超音波の連続波、又はこの空中超音波の10波以上のバースト波であり、且つ下記の[数1]を満たす、ことを特徴とする眼球物性測定方法。
[数1]
Tex+Liw/Va ≦ Lex/Va+Ds/Cs+Ldr/Va
ここで、Cs:表面波の位相速度又は群速度、Va:空中超音波の音速、Tex:表面波励振用バースト波の照射時間、Lex:励振用超音波照射ユニットから眼球表面の励振点までの距離、Liw:励振用超音波の干渉ノイズの伝搬経路長、Ldr:表面波の眼球表面における検出点と表面波検出用受信超音波センサーとの距離
【請求項8】
非接触式の眼球物性測定方法であって、
被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振ステップと、
前記励振ステップにおいて発生させた表面波を、前記励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出ステップと、
前記検出ステップにおいて検出した表面波を解析する表面波処理ステップと、
前記表面波処理ステップにおける解析結果に基づいて、眼球の物性を計算する眼球物性計算ステップと、を含み、
前記励振ステップにおいて発する照射波は、その基本周波数が50KHz以上、50MHz以下となるコヒーレント光又は非コヒーレント光の光源による連続パルス光であり、
さらに、パルス光を、その基本周波数より低くなる200Hz以上、100KHz以下の変調周波数によりにより振幅変調する変調ステップを含み、
前記励振ステップにおいては、前記連続パルス光を前記変調ステップによってその基本周波数より低い周波数で振幅変調した振幅変調連続パルス光を連続的に照射、又はこの振幅変調連続パルス光の10周期以上のバースト波を照射し、
且つ、前記励振ステップにおいては、前記連続パルス光のパルス時間及びパルス周期をコントロールし、前記連続パルス光によって組織内に発生せしめた連続光音響波の位相を合わせる、ことを特徴とする眼球物性測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触で眼球の物性を計測する眼球物性測定装置に関し、特に、当該物性として眼球の眼圧、眼球表層組織の材料力学特性などを測定できる眼球物性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、眼圧の非接触式測定装置として、眼球に空気流を吹付け、角膜を非接触で変形させるとともに、空気流の吹付(エアパフ、Air Puff)噴出圧をプロットして、角膜が扁平になった時点の空気噴出圧から、標準眼圧測定として用いられる接触式圧平眼圧計を用いて測定した比較測定値との相関を計算することで眼圧値を得る非接触式眼圧計が良く知られている。
【0003】
例えば、被検眼の角膜の力学特性計測及び眼圧測定としてエアパフにより角膜を内向きに押圧して変形させることにより角膜は一時的な扁平形状を形成し、この扁平点を検出第1の圧平点と呼ばれる。さらに陥凹して角膜が最大変形に到達したのち、元の形状に戻る過程において再度扁平面を通過し、これを第2圧平点と呼ばれる。
【0004】
特許文献1では、この角膜形状変化過程において空気噴出圧を経時的にプロットし、圧平点における空気噴出圧を測定して第1圧平点と第2圧平点における空気噴出圧から眼圧を求めることにより、角膜の剛性による測定値への影響を減じた眼圧測定が提案されている。
【0005】
更に、特許文献2では、シャインプルーフ配列による照明と撮像カメラより角膜の扁平過程を角膜断層像として撮影し、角膜の圧平半径や自由振動を計測することにより、角膜の剛性による測定値への影響を減じた眼圧測定及び、角膜の力学的材料特性を分析するシステムが提案されている。
【0006】
また、非接触式眼圧計の手法として、超音波を角膜に照射し、その音圧により角膜を変形あるいは振動させて眼圧を測定する超音波式(音響放射圧式)の非接触式眼圧計としていくつかの手法が提案されている。例えば、特許文献3は超音波照射により発生した音響放射圧により角膜を変形させ、その変形量を検出して眼圧を測定するシステムが提案されている。特許文献4ではパラメトリック・スピーカーによる強力な超音波を眼球に照射して眼球に振動を与え、照射した超音波の振動数を変調させることで眼球の固有振動を検出し、眼圧を測定するシステムが提案されている。特許文献5には眼球に照射した超音波の眼球表面からの反射波を検出し、照射波に対する反射波の位相シフト量により眼圧を求めるシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許公報第7,909,765号
【特許文献2】特許第5314090号公報
【特許文献3】特開2020-5679号公報
【特許文献4】特許第6289040号公報
【特許文献5】特許第5505684号公報
【特許文献6】特開昭61-8592号公報
【特許文献7】特開平3-60629号公報
【特許文献8】特表平8-507463号公報
【特許文献9】特開2000-60801号公報
【特許文献10】特公平6-59272号公報
【特許文献11】特開2011-50445号公報
【特許文献12】特開2012-5835号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Direct Experimental Observation of the Crossover from Capillary to Elastic Surface Wave on Soft Gels、 October 1998 Physical Review Letters、 Volume81 Number15、 Francisco Monroy and Dominique Langevin
【非特許文献2】Surface-wave modes on soft gels、 The Journal of the Acoustical Society of America、 December 1998、 Y.Onodera and P.K Choi
【非特許文献3】表面波で柔らかい物質を調べる 日本音響学会誌56巻6号(2000)pp.445-450、 崔 博坤
【非特許文献4】Optical coherence elastgraphy assesment of corneal viscoelasticity with a modified Rayleigh-Lamb wave model、 Jounal of the Mechanical Behavior of Biomedical Materials、 66(2017)87-94、 Zhaolong Hanら
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2のようなエアパフにより角膜を変形させて測定するシステムにおいては、エアパフ出射時の音や空気の吹付による被検者への不快感が避けられない。また、エアパフによって涙液などの眼表面にある付着物が飛散し、周囲への感染源となる危険性を持っている。
【0010】
さらに、上述した超音波加振式の場合は、角膜の変形や振動を検出しているため、眼球振動を励振するために必要な超音波出力は大きい。そのため加振用の超音波発振装置として、特許文献3の実施例ではランジュバン型の強力な振動子を用いて超音波の音圧を高めている。特許文献4では非常に多数の超音波振動子アレイを用いたパラメトリック・スピーカーを使って強力な超音波パワーを得る必要があり、特許文献5では音響レンズにより超音波を効率的に照射する必要がある。強力な超音波パワーを得るために加振用の超音波発振装置は大型となり、被検眼の前方かつ近傍に比較的大きな配置スペースが必要となり、特許文献3、4、5のいずれの例においても計測時の被検眼に対するアライメント検出機構や眼球画像を撮影するための撮影装置との両立など装置の実現化に対して多くの制約を与えている。
【0011】
またこれらの超音波加振式の非接触眼圧計は、眼球への加振用超音波照射の焦点位置と、眼球振動あるいは角膜変形量の検出位置が眼球上で略一致している。これはいずれも眼球の変形あるいは振動により生じた変位や振幅の大きさ、あるいは加振超音波の反射波が、眼球振動により位相変位した変位量を測定しているため、加振用超音波照射位置と振動や変位の検出位置が同じ位置の場合に検出感度が最大となり検出精度が最適化されるためである。
【0012】
このため加振用の超音波照射の焦点位置と検出装置の検出位置を略一致させるために、加振用超音波の照射軸と検出の検出軸が同軸となるように配置することが望ましい。あるいは同軸とできない場合は、眼球表面に対して斜めに加振用超音波を入射させるため加振効率が悪くなる。そのため加振用超音波をさらに強い出力とすることで測定感度の低下を補うことが必要となる。
【0013】
また、前記超音波照射の焦点位置と前記検出位置が略一致していることにより被検眼に対する装置のアライメントずれや、被検眼の固視ずれは、前記加振用超音波照射位置と検出位置の不一致につながり測定値がばらつきやすい。前記加振用超音波が眼球上の適切な位置に照射されないことにより、眼球振動の振幅や眼球変形の変位が小さく不安定になり、さらに検出用の信号も低下し不安定となるため測定値がばらつくなど、測定が不安定となり信頼性の高い測定値が得られなくなる。
【0014】
さらに特許文献3及び特許文献4では変位の大きさや共振点の振幅の大きさより眼圧を検出しているので、振動や変位の検出装置も適切な位置にアライメントされなければ検出感度が下がり検出信号が安定して得られないことから正確な振幅や変位量が得られない。これは振幅や変位量を測定している場合には致命的な要因となり、測定結果の信頼性を低下させる。
【0015】
本発明は前記課題に鑑みてなされたもので、従来のような眼球や角膜そのものの振動や変位、あるいは振動による位相の変化に基づくものではなく、非接触で眼球表面上の所定位置において発生せしめる表面波を用いて、眼圧及び眼球表層組織の材料力学特性の物性(眼組織のヤング率やずり弾性率、粘性率など)を測定する際に、励振超音波の検出センサーへの干渉を最小限にできる非接触式の眼球物性測定装置を提供することを目的とする。また、患者などに大きな負担を与えることなく、緑内障などの患者が自宅に居ながら当該眼圧物性測定装置で測定された眼圧値などを検知できる眼球物性のホームモニタリングシステムを提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために本発明は、非接触式の眼球物性測定装置であって、被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振手段と、前記励振手段において発生させた表面波を、前記励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出手段と、前記検出手段より検出した表面波を解析する表面波処理手段と、前記表面波処理手段における解析結果に基づいて、眼球の物性を計算する眼球物性計算手段と、を備え、前記励振手段が発する照射波は、その基本周波数が20KHz以上、200KHz以下となる空中超音波の連続波、又はこの空中超音波の10波以上のバースト波であり、且つ下記の[数1]を満たす、ことを特徴とする。
[数1]
Tex+Liw/Va ≦ Lex/Va+Ds/Cs+Ldr/Va
ここで、Cs:表面波の位相速度又は群速度、Va:空中超音波の音速、Tex:表面波励振用バースト波の照射時間、Lex:励振用超音波照射ユニット(励振手段)から眼球表面の励振点までの距離、Liw:励振用超音波の干渉ノイズの伝搬経路長、Ldr:表面波の眼球表面における検出点と表面波検出用受信超音波センサー(検出手段)との距離
【0017】
上記目的を達成するために本発明は、非接触式の眼球物性測定装置であって、被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振手段と、前記励振手段において発生させた表面波を、前記励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出手段と、前記検出手段より検出した表面波を解析する表面波処理手段と、前記表面波処理手段における解析結果に基づいて、眼球の物性を計算する眼球物性計算手段と、を備え、前記励振手段が発する照射波は、その基本周波数が50KHz以上、50MHz以下となるコヒーレント光又は非コヒーレント光の光源による連続パルス光であり、さらに、パルス光を、その基本周波数より低くなる200Hz以上、100KHz以下の変調周波数によりにより振幅変調する変調手段を備え、前記励振手段は、前記連続パルス光を前記変調手段によってその基本周波数より低い周波数で振幅変調した振幅変調連続パルス光を連続的に照射、又はこの振幅変調連続パルス光の10周期以上のバースト波を照射し、且つ、前記励振手段は、前記連続パルス光のパルス時間及びパルス周期をコントロールし、前記連続パルス光によって組織内に発生せしめた連続光音響波の位相を合わせることを特徴とする。
【0018】
この眼球物性測定装置において、前記励振手段から照射される前記連続パルス光のパルス時間は、10nsec~1000nsecの範囲内で設定され、前記連続パルス光のパルス周期は、前記光音響波の周波数0.5MHz~50MHzの範囲を満たし、且つ当該周波数と同じ周期又はその整数分の1とすることが好ましい。
【0019】
この眼球物性測定装置において、さらに、前記眼球物性計算手段で得られた眼球の物性を広域ネットワークを介して外部装置に送信する通信手段を備えることが好ましい。
【0020】
上記目的を達成するために本発明は、患者の宅内に設置された非接触式の眼球物性測定装置を用いた眼球物性のホームモニタリングシステムであって、前記非接触式の眼球物性測定装置は、被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振手段と、前記励振手段において発生させた表面波を、前記励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出手段と、前記検出手段より検出した表面波を解析する表面波処理手段と、前記表面波処理手段における解析結果に基づいて、眼球の物性を計算する眼球物性計算手段と、前記眼球物性計算手段で得られた眼球の物性を広域ネットワークを介して外部装置に送信する通信手段と、を備え、前記励振手段が発する照射波は、その基本周波数が20KHz以上、200KHz以下となる空中超音波の連続波、又はこの空中超音波の10波以上のバースト波であり、前記外部装置は、前記眼球物性計算手段において計算された患者の眼球物性に関するデータを受け取る送受信部と、前記眼球物性に関するデータに基づいて患者の症状の進行度を解析する眼球物性解析部と、前記眼球物性に関するデータを蓄積する眼球物性データ記憶部と、前記眼球物性解析部の解析結果及び患者に関連する情報が記憶される患者情報記憶部と、を備えることを特徴とする。
【0021】
上記目的を達成するために本発明は、患者の宅内に設置された非接触式の眼球物性測定装置を用いた眼球物性のホームモニタリングシステムであって、前記非接触式の眼球物性測定装置は、被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振手段と、前記励振手段において発生させた表面波を、前記励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出手段と、前記検出手段より検出した表面波を解析する表面波処理手段と、前記表面波処理手段における解析結果に基づいて、眼球の物性を計算する眼球物性計算手段と、前記眼球物性計算手段で得られた眼球の物性を広域ネットワークを介して外部装置に送信する通信手段と、を備え、前記励振手段が発する照射波は、その基本周波数が50KHz以上、50MHz以下となるコヒーレント光又は非コヒーレント光の光源による連続パルス光であり、さらに、パルス光を、その基本周波数より低くなる200Hz以上、100KHz以下の変調周波数によりにより振幅変調する変調手段を備え、前記励振手段は、前記連続パルス光を前記変調手段によってその基本周波数より低い周波数で振幅変調した振幅変調連続パルス光を連続的に照射、又はこの振幅変調連続パルス光の10周期以上のバースト波を照射し、前記外部装置は、前記眼球物性計算手段において計算された患者の眼球物性に関するデータを受け取る送受信部と、前記眼球物性に関するデータに基づいて患者の症状の進行度を解析する眼球物性解析部と、前記眼球物性に関するデータを蓄積する眼球物性データ記憶部と、前記眼球物性解析部の解析結果及び患者に関連する情報が記憶される患者情報記憶部と、を備えることを特徴とする。
【0022】
上記目的を達成するために本発明は、非接触式の眼球物性測定方法であって、被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振ステップと、前記励振ステップにおいて発生させた表面波を、前記励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出ステップと、前記検出ステップにおいて検出した表面波を解析する表面波処理ステップと、前記表面波処理ステップにおける解析結果に基づいて、眼球の物性を計算する眼球物性計算ステップと、を含み、前記励振ステップにおいて発する照射波は、その基本周波数が20KHz以上、200KHz以下となる空中超音波の連続波、又はこの空中超音波の10波以上のバースト波であり、且つ下記の[数1]を満たす、ことを特徴とする。
[数1]
Tex+Liw/Va ≦ Lex/Va+Ds/Cs+Ldr/Va
ここで、Cs:表面波の位相速度又は群速度、Va:空中超音波の音速、Tex:表面波励振用バースト波の照射時間、Lex:励振用超音波照射ユニットから眼球表面の励振点までの距離、Liw:励振用超音波の干渉ノイズの伝搬経路長、Ldr:表面波の眼球表面における検出点と表面波検出用受信超音波センサーとの距離
【0023】
上記目的を達成するために本発明は、非接触式の眼球物性測定方法であって、被検眼である眼球表面に表面波を発生するために、照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振ステップと、前記励振ステップにおいて発生させた表面波を、前記励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出ステップと、前記検出ステップにおいて検出した表面波を解析する表面波処理ステップと、前記表面波処理ステップにおける解析結果に基づいて、眼球の物性を計算する眼球物性計算ステップと、を含み、前記励振ステップにおいて発する照射波は、その基本周波数が50KHz以上、50MHz以下となるコヒーレント光又は非コヒーレント光の光源による連続パルス光であり、さらに、パルス光を、その基本周波数より低くなる200Hz以上、100KHz以下の変調周波数によりにより振幅変調する変調ステップを含み、前記励振ステップにおいては、前記連続パルス光を前記変調ステップによってその基本周波数より低い周波数で振幅変調した振幅変調連続パルス光を連続的に照射、又はこの振幅変調連続パルス光の10周期以上のバースト波を照射し、且つ、前記励振ステップにおいては、前記連続パルス光のパルス時間及びパルス周期をコントロールし、前記連続パルス光によって組織内に発生せしめた連続光音響波の位相を合わせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る非接触式の眼球物性測定装置は、被検眼である眼球表面に表面波を発生するために照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する超音波照射ユニットと、超音波照射ユニットにおいて発生させた表面波を励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する受信センサーと、受信センサーより検出した表面波を解析する表面波処理部と、表面波処理部における解析結果に基づいて眼球の物性を計算する眼球物性計算部と、を備える。超音波照射ユニットが発する照射波は、その基本周波数が20KHz以上、200KHz以下となる空中超音波の連続波、又はこの空中超音波の10波以上のバースト波であり、且つ所定式を満たす。この構成により、本発明では、超音波による表面波を発生・検出において、励振超音波の検出センサーへの干渉を最小限にすることができる。さらに本発明による装置は軽量且つ小型にすることが可能であり、患者が遠隔診療所や家庭において測定することもでき、患者と医療機関が離れていてもインターネットへの接続により容易にデータのやり取りを行うことが可能であり、遠隔医療や在宅医療による診断において大きな効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施の形態に係る眼球物性測定装置に備わり、被検眼角膜に対する表面波の励振部と検出部の基本的な構成を示す図である。
図2】同上眼球物性測定装置の機能ブロック図である。
図3】同上眼球物性測定装置に備わる変調部を用いて表面波の励振用超音波を振幅変調した波形の一例を示す図である。
図4】同上眼球物性測定装置に備わる表面波の励振用超音波トランスデューサーを複数個からなるトランスデューサーとし、パラメトリック・スピーカー方式による低周波音圧の発生を説明する図である。
図5】同上眼球物性測定装置に備わる励振部において、パルス光の光音響効果による被検眼表面上の表面波発生させる場合の説明図である。
図6】同上変調部を用いたパルス光による表面波発生のための、変調パルス光の発生パターンの一例を示す図である。
図7】同上変調部においてレーザーパルス光の外部変調法を用いる場合の一例を示す図である。
図8】同上変調部においてレーザーダイオードの直接変調法を用いる場合の一例を示す図である。
図9】同上眼球物性測定装置に備わる検出部において超音波反射法による表面波検出の一例を示す図である。
図10】同上検出部において光学的三角法による表面波検出の一例を示す図である。
図11】同上検出部において光学的複数波長同軸光線の共焦点方式による表面波検出の一例を示す図である。
図12】同上検出部において光ヘテロダイン方式フーリエドメイン光干渉計の位相検出による表面波検出の一例を示す図である。
図13】同上検出部において光ヘテロダイン方式レーザードップラー計測による表面波検出の一例を示す図である。
図14】同上励振部において発生する励振用超音波の音場及び指向性の一例を示す図である。
図15】同上眼球物性測定装置に備わる表面波の励振用超音波ユニットと表面波検出センサーユニットにおいて励振用超音波の検出用受信センサーに与える干渉ノイズの経路と位置関係との一例を示す図である。
図16】同上眼球物性測定装置に備わる励振用パルス光おいて、連続パルス光を強度変調せしめ発生した光音響波の周波数より低い周波数の表面波を眼球表面に励振させる様子の一例を示す図である。
図17】同上眼球物性測定装置に備わる励振用パルス光源におけるパルス光のパルス時間と発生する光音響波の波長の関係の一例を示す図である。
図18】同上眼球物性測定装置に備わる励振用パルス光源におけるパルス光のパルス時間と発生する光音響波の波長の関係の一例を示す図である。
図19】同上眼球物性測定装置に備わる励振用パルス光源における連続パルス光のパルス周期を発生せしめる光音響波の周波数に合わせて照射した場合の一例を示す図である
図20】同上眼球物性測定装置に備わるパルス光源の光パルスのパルス時間及びパルス周期をコントロールし表面波の振幅を最大化する場合の一例を示す図である。
図21】同上眼球物性測定装置をインターネットに接続し測定データを蓄積するとともに、蓄積されたデータを解析して医師の診断における情報を提供する眼球物性のホームモニタリングシステムを示す図である。
図22】同上眼球物性のホームモニタリングシステムの各処理部の機能ブロックの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(実施の形態)
ここでは下記の順序に従って本発明の実施形態について説明する。
(1)計測方法の基本的な構成
(2)眼表面に発生させる表面波
(3)表面波を発生するための励振手段の構成
(4)表面波を検出するための検出手段の構成
(5)超音波による表面波を発生・検出において、励振超音波の検出センサーへの干渉を最小限にするための励振・検出手段の構成
(6)光学的エネルギーにより効率的に表面波を発生するための励振手段の構成
(7)測定された眼圧値や眼球組織の材料力学特性の出力手段及び解析手段(眼球物性のホームモニタリングシステム)
【0027】
(1)計測方法の基本的な構成
本発明は被検眼の眼球表面波を利用して、その位相速度を求めることにより被検眼眼圧や被検眼組織の材料特性を求めるため、励振点と検出点の位置がそれぞれ一か所である場合に、検出点は励振点と異なる位置を測定しなければ表面波の伝搬は測定できない。ただし励振点あるいは検出点を複数とする場合はその限りではない。
【0028】
図1は、本実施の形態に係る非接触式の眼球物性計測装置において、励振点104と検出点105がそれぞれ一か所の最も単純な構成の場合を示し、眼球表面101に対して励振点104と検出点105のそれぞれの法線に励振照射軸107と検出軸108がそれぞれ略同軸となるように励振部102と検出部103を配置する。励振照射軸107と検出軸108の延長線上の交点は角膜曲率中心と略一致する。このように配置された励振部102により眼球表面に照射された超音波あるいはパルス光(コヒーレント光あるいは非コヒーレント光の光源による連続パルス光を用いることが好ましい)は眼球表面に対して垂直方向に振幅を有する表面波106を励振する。表面波106は眼表面を、水面に石を投げた時に水面に発生する細波のように、励振点を中心に眼球表面を励振手段により決まる周波数と位相速度で眼表面を伝搬していくので、その波を所定の位置で検出することにより表面波の周波数と位相速度を求めることができる。
【0029】
ここで、表面波に関して説明する。軟組織を伝搬する波は組織中を伝搬する実体波と、組織の表面に沿って伝搬する表面波及びガイド波がある。ここでは表面波あるいはガイド波を組織表面に現れる波の伝搬として総称して表面波とする。
【0030】
実体波には縦波の弾性波と横波のずり弾性波があり、生体組織中においても縦波弾性波としての超音波による画像診断装置や、横波のずり弾性波の計測よる組織の硬さ診断として超音波エラストグラフィーなどに応用されている。
【0031】
表面波にはずり弾性による復元力が作用する表面弾性波としてレイリー波と、表面張力の復元力による表面張力波、そしてずり弾性と表面張力が混在した働きで伝搬する漏洩表面張力波がある。これらの表面波に関してはゲル状物質の硬さ測定などの計測例が知られている。
【0032】
さらに板状媒体を伝搬する波としてはラム波が知られており、ラム波は半無限媒体を伝搬するレイリー波とは異なり、板の両境界面の外側が空気や真空状態のような力学的にフリーであることによる境界条件を満たすように板状媒体中を伝搬する。
【0033】
しかしながら角膜、結膜、強膜などの眼球組織は層状の構造をなしており、例えば角膜は外側表面が空気に接しており、内側の境界面は前房水に接した薄い層構造となっている。それぞれの境界面の境界条件は異なり、境界面の一つが液状物質と接している場合を考慮する必要がある。そのような場合には境界で接している別の物質との境界条件を考慮したガイド波としてレイリー-ラムのモデルが知られている。
【0034】
レイリー波やレイリー-ラム波からはその位相速度Crと、密度ρより媒体のずり弾性率Gや粘性率ηを求めることができる。また、表面張力波からはその位相速度Ccと密度をρ、角周波数ωより媒体の表面張力γを求めることができる。さらに、漏洩表面張力波からはその位相速度Clとずり弾性率G、密度ρ、角周波数ωより表面張力γを求めることができる。
【0035】
以上より組織表面のレイリー-ラム波の位相速度を計測して、ずり弾性率Gや粘性率ηを求めることが可能であり、表面張力波あるいは漏洩表面張力波の位相速度を計測して表面張力γを求め、ラプラスの法則により表面曲率半径と表面張力から内圧すなわち眼球であれば眼圧を求めることが可能となる。
【0036】
ここで、眼球表面を伝搬する表面波は眼球や角膜そのものの振動ではなく、その組織の表面近傍にだけ限局して伝わる波であり、この表面波を発生させるためのパワーは角膜や眼球そのものを振動させるパワーに比べると、より小さなパワーで表面波の発生が可能である。さらに検出しているのは表面波の伝搬速度や位相あるいは周波数スペクトルであるので、表面波の振幅変化による影響が少なく、臨床上の様々な外的影響に対して安定した測定が可能である。
【0037】
次に、本実施の形態に係る非接触式の眼球物性測定装置1の機能構成に関して図2を参照しながら説明する。図2は眼球物性測定装置1の一例であり、眼球表面を励振する励振ユニット201により眼球表面を励振して表面波を発生させ、検出ユニット202により表面波を検出する。励振ユニット201は駆動回路203により駆動され、駆動回路203は制御ユニット211の送信制御部210により制御される。励振ユニット201は超音波やパルス光を、その発振周波数より低くなる変調周波数により振幅変調するための変調部201aを備える。検出ユニット202は検出用の送信部と受信部が一体となっており、検出用送信回路204より駆動された送信部は眼表面に検出用の送信信号を送り、眼表面より反射して戻ってくる信号を受信部が受信して検出用受信回路205に検出信号を送る。検出用受信回路205では例えば増幅された受信波がA/Dコンバータ207でデジタル信号に変換され制御ユニット211側に送られる。制御ユニット211内の表面波処理部208で受信波を処理して受信波の中で表面波による成分を特定して表面波の位相や遅延時間を計測する。眼球物性計算部209では表面波の位相や遅延時間より位相速度を算出して眼圧あるいは眼組織の材料特性を計算する。
【0038】
表面波を励振させる励振ユニット201としては、超音波による励振方法とパルス光による励振方法がある。超音波による方法は眼表面の所定の位置に照射された超音波の音圧により眼表面を振動させ表面波を発生させる。光学的エネルギーによる方法は短いパルス光を眼表面に照射し、照射したパルス光の焦点位置にある組織が光エネルギーを吸収することにより温度上昇して瞬間的に熱膨張することにより組織内に超音波を発生させる。発生した超音波は組織表面に伝搬して表面波を励振させる。
【0039】
なお、後述するように、表面波を検出する手段としては超音波反射法による検出法、光学的三角法による微小変位検出法、複数波長同軸共焦点法、光ヘテロダイン法がある。超音波反射法は発生させた表面波の周波数より数倍以上高い周波数の超音波を用いて表面波の検出点に送受信し、戻ってきた反射波を復調検波することで眼表面の表面波を検出する。光学的三角法は光ビームを検出点に照射し、検出点より反射した光を複数の受光素子あるいは一次元や2次元の撮像素子により検出して、表面振動による反射角度の周期的変化から生じる受光素子の出力変化や撮像素子の輝点位置変化より表面波を検出する。複数波長光ビームの差分検出法は波長の異なる複数の光ビームを同軸で眼表面に照射し、それぞれの波長の光ビームはその焦点位置が少しずつずれるように光学設計され、焦点位置領域に角膜表面が入るようにアライメントすると、眼表面の振動によりそれぞれの波長の反射光強度が振れることにより、それぞれの波長の反射光強度を差分増幅して表面波を検出する。光ヘテロダイン法による方法はフーリエドメイン光干渉計によって検出した眼表面の微小変動による位相変化を計測する方法や、レーザードップラー振動計による眼表面の微小振動検出により表面波を検出する方法がある。
【0040】
表面波の位相速度検出には、検出した表面波信号を励振ユニット駆動回路203の駆動信号との位相差を測定し、その位相差と励振点から検出点までの距離より位相速度を計算することができる。複数の検出点を持つ場合は各検出点の表面波の位相を検出して、その位相差と検出点間の距離より位相速度が計算できる。
【0041】
レイリー波あるいはレイリー-ラム波の位相速度が求められれば後述の式より組織のずり弾性率、ヤング率、粘性率が計算できる。
【0042】
角膜表面の表面張力波あるいは漏洩表面張力波の位相速度が求められれば後述する式より角膜表面の張力が求められ、眼表面の平均曲率と表面張力からラプラスの法則により内圧つまり眼圧を計算することができる。
【0043】
(2)眼表面に発生させる表面波
生体組織などの表面に発生する表面波は弾性波として、ずり弾性や粘性が伝搬過程における復元力として作用するレイリー波やレイリー-ラム波と、表面張力が復元力として作用する表面張力波、さらにずり弾性や粘性と表面張力が混在した復元力として作用する漏洩表面張力波などがある。例えば角膜表面に発生させたレイリー-ラム波の場合は非対称モードの0次が観測できる。0次の位相速度は比較的遅く1~5m/sec程度で周波数分散があるので、周波数により位相速度が異なる。周波数が200Hzから5KHz程度までが検出可能で、この周波数レンジから外れると減衰が大きくなり検出は難しくなる。この測定可能周波数は眼組織のヤング率や組織層の厚みにより変わってくるため、複数の周波数で測定することが必要である。
【0044】
表面張力波や漏洩表面張力波の場合に、表面張力が復元力として支配的となるためには波長が短く生体表面に波が限局する比較的に高い周波数となり、レイリー波やレイリー-ラム波と比較して高い周波数で検出できる。表面張力波の周波数は、角膜の場合に角膜の厚みに比べて波長が短く、レイリー-ラム波の影響が少ない20KHz以上の周波数(例えば20~50KHz)で検出が可能となる。
【0045】
(3)表面波を発生するための励振手段の構成
表面波の励振手段としては超音波による励振手段と光学的エネルギーによる励振手段が考えられる。
空中超音波の場合は周波数が20KHzから1MHz程度まで可能であるが、励振用として有効なパワーを得るためには20KHzから100KHz程度までが適切である。100KHz以上の空中超音波用トランスデューサーでは放射音圧が低いだけでなく、空中の伝搬による減衰も大きくなる。超音波が空中を伝搬する場合の減衰係数は超音波の周波数をfとすると1×10ー11×f(mー1)であり周波数の2乗に比例し、100KHzで減衰係数は0.1(mー1)となり、指数関数的に減衰は大きくなる。
【0046】
一般的に超音波センサーとして使われる空中超音波トランスデューサーは一つのトランスデューサーでは音圧が十分でない場合がある。そのような場合は複数の超音波トランスデューサーを駆動して十分な超音波出力を得ることもできる。さらに複数の超音波トランスデューサーそれぞれの駆動信号を位相コントロールすることにより、超音波の位相をコントロールし、眼表面上の焦点位置を任意の位置にコントロールするフェイズドアレイトランスデューサーを構成して焦点位置をコントロールとすることもできる。複数の超音波トランスデューサーを使う場合でも超音波の音圧は角膜振動による振動検出に比べて高くないので、超音波トランスデューサーアレイを構成する際のトランスデューサーの個数は多くなく限定的である。
【0047】
またレイリー波やレイリー-ラム波を眼表面に励振させるには、超音波より低い可聴域の周波数で眼表面を局所的に励振しなければならない。このために高い周波数の超音波を低い周波数で振幅変調させることにより焦点位置近傍に振幅変調周波数と同じ低い周波数の音圧波を発生させることが可能となる。図3は、変調部201aを用いて超音波トランスデューサーの発振周波数に低い周波数の変調信号を重畳して振幅変調させ振幅変調超音波を発生させる内容を示している。さらに複数の超音波トランスデューサーを使ってファイズドアレイコントロールと周波数の振幅変調を行うことにより、鋭い指向性を持たせながら焦点位置近傍にのみ低周波の音波を発生させ、選択的に眼表面の所定の位置を振幅変調周波数で励振できる。これはパラメトリック・スピーカーとしてよく知られている原理である。図4はパラメトリック・スピーカー構成による超音波ビームの焦点近傍における低周波音圧の発生を示している。例えば励振ユニット201にある複数の超音波トランスデューサーにより成るトランスデューサーアレイ401から変調された変調超音波Mwを送信し、焦点位置Fにて超音波が集束して低周波数である変調周波数成分の音波Mcが局所的に発生することを示している。また、それぞれトランスデューサーアレイ401内の個々のトランスデューサーの駆動信号位相を変化させて焦点位置を前後にコントロールする焦点位置コントロールも可能である。
【0048】
励振手段が光エネルギーの場合は短いパルス光による励振が可能である。図5はパルス光による表面波の励振を示している。光源501よりパルス光を連続パルスとして眼表面に照射し、照射されたパルス光エネルギーが焦点位置にあるヒートポイントHp近傍の分子に吸収され、瞬間的に組織が熱的膨張と収縮をすることにより眼表面直下の眼内組織中に超音波を発生させる。その超音波は表面に達して表面波を励振させる。光により生体内に超音波を発生させる方法は光音響効果として知られており、この原理を用いた光音響イメージングによる画像診断装置が知られている。
【0049】
光音響効果として使われるパルス光は非常に短くナノ秒オーダーの短パルス光を用いる。パルス光による光音響効果として生体内に発生する超音波の周波数は1MHzから10MHz程度である。そのため単純な連続パルスで発生した超音波ではKHzオーダーの低い周波数の表面波を励振することはできない。この問題を解決するためには、パルス光は100KHz以上の連続パルスを用い、その連続パルス光を発生させる表面波の周波数と同じ低い振動数により強度変調させることにより低い周波数の音圧変化を重畳させ表面波を励振する。図6には基本パルス周波数の連続パルス光を変調周波数信号により変調して変調パルス光とすることが示されている。すなわち、変調手段によって光パルスのパワー強度を振幅変調した振幅変調連続パルス光を連続的に照射、又はこの振幅変調連続パルス光の10周期以上のバースト波を照射することが必要となる。
【0050】
光強度変調法として、図7には励振ユニット201に備わるCWレーザー201bをコントローラ201cからの電気調整信号を受けた変調器201aが直接ON/OFFさせる外部直接変調法が示されている。図8には励振ユニット201において半導体光源LD(半導体レーザー、SLD、発光ダイオードなど)201dの駆動電流を電流制御部201eにより変調させる直接変調法が示されている。
【0051】
パルス光の光源としては発光ダイオード、半導体レーザー、ファイバーレーザー、スーパールミネッセンスダイオードなどがある。光源の波長は眼表面組織の光吸収率が高い波長が好ましい。しかし角膜は透明の組織であり380nmから1400nmまでの領域の光吸収率が低く、それ以外の波長で吸収率は高くなるので紫外線や近赤外線が候補となるが、生体安全性を考慮すると紫外線領域は生体への侵襲が大きく光のパワーが上げられないため、波長は1400nm付近の近赤外線領域から3000nm付近の赤外線領域までが望ましい。角膜以外の不透明な組織であれば400nm以上可視光領域から近赤外領域まで光の吸収率は高く、特に血中のヘモグロビンは600nm以下の波長で光の吸収率が急激に上昇するため眼表面の毛細血管をヒートポイントとして400nmから600nmのパルス光を使うと効率の良く励振できる。結膜など角膜以外の表面組織を励振点とする場合は結膜の毛細血管をヒートポイントHpとしてパルス光を照射し、結膜表面に表面波を励振して角膜まで伝搬した表面波を角膜上で検出することで効率の良い計測が可能となる。
【0052】
表面波発生のための励振方法について主に連続波による励振について示したが、バースト波による励振でも可能である。しかしバースト波の場合に励振手段の出力が安定し、さらに表面波の振幅が安定するには、ある一定波数の連続した波を出力する必要がある。例えば超音波による励振の場合は超音波トランスデューサーの音圧がピークになるまでに一定の時間が必要であり、パルス光による励振の場合も表面波の立ち上がりに時間が必要となるためである。このためバースト波あるいはバーストパルスによる表面波励振の場合は少なくとも検出できる表面波が10波以上(10周期以上)となる程度の送信時間に合わせて超音波や変調超音波あるいは変調パルス光を送信する。バースト波の送信時間は超音波トランスデューサーやパルス光光源などの特性に左右されるので、その特性に合わせて決められる。
【0053】
(4)表面波を検出するための検出手段の構成
表面波検出用の検出手段としては超音波反射法、光学三角法、光学複数波長同軸共焦点方式、光ヘテロダイン方式などがある。
【0054】
検出手段を超音波反射法とする場合は連続超音波あるいは100波以上のバースト超音波により検出する。送信超音波トランスデューサーより送信された超音波は眼表面に達したのちに反射・散乱して戻ってくる。超音波は眼表面で反射する際に表面波振動により変調されて表面波振動の成分を重畳させて受信超音波トランスデューサーに戻ってくる。この反射波を復調・検波することにより、眼表面の表面波振動で変調された振動周波数成分を復調することができる。この復調波の周波数と位相を計測することで表面波の位相と周波数が算出できる。
【0055】
図9は超音波による表面波検出実施例の一つである。この実施例では送信用超音波振動子901と受信用超音波振動子902がそれぞれ別に備えられている。超音波振動子を送信用と受信用で別にすることで連続超音波を検出に使うことが可能であり、常に表面波を検出できるメリットがある。制御CPU903により電圧可変発振器905の発振周波数をコントロールするデジタル値がD/Aコンバータ904に出力されそのデジタル値に対応したコントロール電圧がD/Aコンバータ904より電圧可変発振器905に出力される。電圧可変発振器はその電圧に対応した周波数で発振する。発振された信号は送信増幅アンプ906で増幅され送信超音波トランスデューサー901を駆動し検出用の超音波を眼表面に送信する。眼表面より反射して戻ってきた超音波は眼表面の表面波振動により表面波の周波数で変調されている。受信超音波トランスデューサー902は戻ってきた超音波を受信し受信増幅アンプ907で増幅された受信信号は乗算器908に入力される。電圧可変発振器905より出力された送信信号は参照信号として受信信号の復調にも使うため、送信周波数帯域だけを通過させる参照信号帯域通過フィルタ909でフィルタリングされた参照信号を発生させ乗算器908で受信信号と乗算して受信信号を復調することにより受信信号に含まれる表面波成分が復調される。復調信号帯域通過フィルタ910により表面波以外の周波数成分を除去し、A/Dコンバータ911によりデジタル値に変換して制御・演算CPU903に入力され計算処理が行われる。この際、制御・演算CPU903は図2に示す制御ユニット211内に配置され、ここで表面張力などの表面波の物性値や、それら物性値に基づいて眼球の眼圧などが演算される。
【0056】
検出用の超音波送信をバースト波にすれば超音波トランスデューサーを送信と受信で兼用が可能で一つのトランスデューサーで表面波振動を検出できる。また戻ってきた受信信号を復調・検波せずにそのままA/Dコンバータによりデジタル変換して演算CPUに入力し、フーリエ変換によって表面波成分の周波数スペクトルと位相変化を計算することも可能である。
【0057】
ここで、検出用の超音波の周波数は励振手段で励振される表面波の周波数の少なくとも10倍程度とすることが望ましい。これは復調・検波やフーリエ変換処理をするうえで、超音波の基本周波数と表面波の周波数成分を完全に分離し正確に表面波を検出するために必要である。そのため検出用バースト波を100波以上とするのは、表面波の位相検出精度を上げるために少なくとも10波以上の表面波成分を検出して解析するため、検出用超音波は表面波周波数の約10倍程度として100波となるためである。
【0058】
次に、表面波検出用の検出手段を光学的三角法により検出する場合に関して図10を参照しながら説明する。この場合には検出点に検出用の光ビームを照射して検出点より反射・散乱して戻ってくる光を複数の受光素子あるいは光学位置センサー、光学ラインセンサーなどにより検出する。検出点表面が表面波振動により振動すると検出点より戻ってくる光の角度や強度分布も変化し受光側結像面の結像位置も変化するので、複数の受光素子場合はそれぞれの受光素子の出力変化を差分増幅して振動を検出可能であり、光学位置センサーや光学ラインセンサーの場合は結像位置の変化そのものを検出できるため、その位置変化を表面波振動として検出できる。図10は光学的三角法による検出手段の例である。表面波検出光源1001より照射された光は対物レンズ1002を介して眼表面に達し検出点で反射した光は結像レンズ1003を介して受光素子A1004、受光素子B1005に入射する。検出点が表面波で振動すると検出点で反射する光の光軸角度が振動に合わせて変化するため受光素子A1004と受光素子B1005それぞれに入射する光量が相対的に変化する。受光素子A1004及び受光素子B1005より出力される電気信号を差動増幅器1006により差動増幅することにより検出点の表面波振動を検出する。
【0059】
次に、検出手段を光学的複数波長同軸光線の共焦点方式により検出する場合に関して図11を参照しながら説明する。この場合は、測定光線を複数波長や白色光の光源により光線を照射して波長に応じて焦点位置が少しずつずれるような色収差焦点を持つ光学系にする。眼表面の検出点に表面波による微小振動が発生すると焦点位置が少しずつ異なる各波長の反射光量も振動に合わせて変化し、焦点位置が近い波長の反射光は強く、焦点位置が離れた波長の反射光は弱くなる。さらに共焦点光学系により各波長の焦点位置近傍でより鋭敏な反射ピークが得られるので反射して戻ってきた光線を複数の波長に分光して受光素子により検出すると各波長の受光素子に入射する光量は微小振動でも大きく変化する。各波長の受光素子からの電気信号を差分増幅することにより表面波による検出点の振動を検出することができる。図11は複数波長同軸共焦点方式の実施例を示している。光源1101より照射された光線はファイバーコリメータ1102、ファイバーカプラ1103、ファイバーコリメータ1104を介して色収差焦点レンズ1105により各波長の焦点を少しずつずらして眼表面の検出点に照射される。この例では波長A、波長B、波長Cの焦点が検出点に対して少しずつずれていることにより各波長の検出ピークがずれて眼表面の検出点位置がずれると各波長の反射光量が変化することが示されている。検出点で反射した光線は色収差レンズ1105、ファイバーコリメータ1104、ファイバーコリメータ1106を介して分光検出ユニット1107に入射される。分光検出ユニットに入射された光線はホットミラー1107a、ホットミラー1107bにより波長A、波長B、波長Cに分光され、それぞれの波長に対応して共焦点となる結像レンズA、結像レンズB、結像レンズCを介して光検出器1107c、光検出器1107d、光検出器1107eに入射される。それぞれの光検出器より出力される電気信号を差分増幅することにより表面波の振動を検出する。
【0060】
次に、検出手段を光ヘテロダイン方式によるフーリエドメイン光干渉計の位相検出とする場合に関して図12を参照しながら説明する。この場合は、スーパールミネッセンスダイオードや波長掃引レーザー光源などの低コヒーレンス光源より出射された光線が光干渉計内で測定対象に照射する光線と参照光とする光線に分けられる。測定対象に照射する光線は干渉計より眼表面に照射され、眼表面で反射して再度光干渉計に入射する。光干渉計に入射した光線は干渉計内の参照光と干渉して干渉スペクトル分布を持つスペクトル分布波形やうなり(ビート)周波数持つビート信号として検出する。これらのスペクトル分布波形やビート信号をフーリエ変換することにより、眼表面より反射して戻ってきた光線の干渉ピークと位相を計算する。表面波による微小変動は位相の変化として検出され表面波を検出することができる。
【0061】
図12はフーリエドメイン干渉計のスペクトルドメイン方式による実施例を示している。スーパールミネッセンスダイオード(SLD)光源より出射される光線は低コヒーレントで波長帯域の広い光線である。この光線は光ファイバーを介してファイバーカプラ1202に入射され二つの光路に分岐される。一つはファイバーコリメータ1203、アクロマティックレンズ1204を介して参照ミラー1205に投射され反射して再度アクロマティックレンズ1204、ファイバーコリメータ1203を介してファイバーカプラ1202に戻ってくる。もう一つの分岐光はファイバーカプラ―よりファイバーコリメータ1206、絞り1207を介して光線を振ってスキャンするためのガルバノミラー1108により光線を振り又は所定の角度に設定し、対物レンズ1209を介して眼表面に投射される。眼表面より反射して戻ってきた光線は再度対物レンズ1209、ガルバノミラー1208、絞り1207、ファイバーコリメータ1206を介してファイバーカプラ1202に戻ってくる。ファイバーカプラでは前記参照光と眼表面より戻ってきた反射光が重畳され干渉光となる、干渉光はファイバーコネクタ1210、リレーレンズ1211、回折格子1212、アクロマティックレンズ1213を介してCCD1214に投影される。CCD1214は回折格子1212により分光されたスペクトル分布データを出力する。このスペクトルデータを演算回路によりフーリエ変換して干渉ピークと位相を算出して表面波による微小振動を検出する。なお、この実施例では検出用干渉計としてスペクトラムドメイン光干渉計を検出例として示しているが、スエプトソース(光源波長掃引)型の光干渉計でも構わない。
【0062】
次に、検出手段を光ヘテロダインによるレーザードップラー干渉計により検出する場合に関して図13を参照しながら説明する。この場合は、レーザー光源より出射された光線を二つに分岐して一方の光線を眼表面に照射し、もう一方の光線は音響光学変調器により一定のキャリア周波数fmで変調させる。眼表面で反射した光線は眼表面の表面波振動により周波数fdのドップラーシフトした光線が再度干渉計に戻り、音響光学変調器により変調された光と干渉してfm±fdのビート周波数を発生する。このビート周波数のうちfmは一定の周波数であるので表面波振動によりドップラーシフト周波数fdのみが変化する。この周波数変化をFM復調すれば表面波振動を検出できる。
【0063】
図13はレーザードプップラー干渉計の実施例を示している。光周波数foのレーザー光源1301より出射された光線は偏光ビームスプリッター1302によりS偏光とP偏光の二つの光線に分岐される。S偏光の光線は偏光ビームスプリッター1302で反射し、ミラー1304を介して音響光学変調器(AOM)1305に入射する。音響光学変調器により周波数がfo+fmに変調されミラー1307を介して偏光ビームスプリッター1303及び偏光ビームスプリッター1308で反射して1/4波長板1309を介して参照ミラー1310で反射して戻ってくる。再度1/4波長板1309を通過してP偏光となり偏光ビームスプリッター1308に入射する。一方偏光ビームスプリッター1302を透過したP偏光の光線はさらに偏光ビームスプリッター1303、1308を透過しミラー1311で反射して1/4波長板1312を介して眼表面に照射される。照射された光線は眼表面で反射し表面波振動によりドップラーシフト周波数fdによりfo+fdの周波数で戻ってくる。1/4波長板1312によりS偏光となり偏光ビームスプリッター1308で反射する。光検出器1313には参照ミラー1310からの光線と眼表面からの光線が干渉して入射する。光検出器1313からは周波数fm+fdの信号が出力され振動によって変化するドップラーシフト周波数fdの変調成分をFM復調することにより位相変調と周波数変調成分が得られて表面波による表面振動を検出することができる。
【0064】
(5)超音波による表面波を発生・検出において、励振超音波の検出センサーへの干渉を最小限にするための励振・検出手段の構成
図15は超音波による表面波の励振手段と発生した表面波を前記超音波反射法によって検出する場合において、表面波励振用超音波による表面波検出用超音波センサーへの干渉ノイズを最小限とするための実施例を示している。
【0065】
一般的に超音波励振手段により出射される超音波は図14に示すようなビームの中心に音圧ピークを持った音場を形成する。そのため超音波は励振点に強いピーク音圧を照射するだけでなく、その周辺にも相対的に弱い音波が照射される。この周辺に広がった超音波は測定眼の表面で反射して検出用の超音波センサーに干渉するため、表面波の検出波形にノイズとして重畳される。本構成はこの励振用超音波による検出センサーへの音響ノイズの干渉を最小限とするための構成を示すものである。
【0066】
図15に示すように、表面波励振用の超音波は前記バースト波として超音波照射ユニット(励振手段)1501より照射され、被検眼表面の励振点を中心に表面波を発生させる。励振点より表面波は位相速度(又は群速度)Csで眼表面を伝搬し、検出点に到達する。到達した表面波は検出用超音波センサーユニットにより検出される。図15の場合は検出用超音波センサーユニットが送信センサー1502と受信センサー1503(検出手段)に分かれている例を図示しているが、送信センサーと受信センサーが同一のものであっても構わない。
【0067】
制御ユニット1507は駆動信号を駆動回路1504に出力し駆動回路は駆動信号に従い超音波照射ユニット1501を駆動し励振用超音波を眼表面の励振点に照射する。検出用超音波センサーユニットの送信センサー1502は表面波検出用の超音波を被検眼表面の検出点に送信し、検出点にて反射した超音波を受信センサー1503にて受信する。制御ユニット1507は送信回路1506に送信信号を出力するとともに、受信センサー1503より受信し受信回路で増幅した超音波信号を図9に示されるような前記超音波による検出法により復調して表面波成分を抽出し解析する。制御ユニット1507は、受信センサー1503より検出した表面波を解析する表面波処理部1507a及び表面波処理部1507aにおける解析結果に基づいて眼球の物性を計算する眼球物性計算部1507bを備える。
【0068】
図15のような構成において超音波照射ユニットより励振点までの距離をLex、励振点より検出点までの眼表面の距離をDs、受信センサーより検出点までの距離をLdr、送信センサーより検出点までの距離をLdtとする。LdrとLdtは同一でも異なっていてもよいが、受信センサーと送信センサーが同一の場合はもちろん同一距離となる。
【0069】
また超音波照射ユニット1501から照射される超音波の検出センサーへの干渉波成分は眼表面にて反射し受信センサー1503に到達し、その経路長をLiwとする。眼表面における反射角は眼表面の法線に対して入射角と出射角が同一となるように反射する。検出用の受信センサー1503が表面波成分を検出するタイミングが、励振用超音波による干渉成分が受信センサー1503に到達し干渉ノイズとして受信センサー1503に到達している時間を外すように(すなわち、励振用超音波の干渉成分が受信センサー1503に到達し終わった後の表面波のみを検出する)、超音波照射ユニット1501、受信センサー1503、励振点と検出点の距離を配置することにより励振超音波による音響ノイズの干渉を最小限にすることができる。
【0070】
この際、表面波の位相速度又は群速度をCs、空中超音波の音速をVa、励振用超音波のバースト波の照射時間をTex、励振用超音波照射ユニット(励振手段)から眼球表面の励振点までの距離をLex、励振用超音波の干渉ノイズの伝搬経路長をLiw、表面波の眼球表面における検出点と表面波検出用受信超音波センサー(検出手段)との距離をLdrすると、下記[数1]を満たす場合に音響ノイズの影響を最小限にできる。
[数1]
Tex+Liw/Va ≦ Lex/Va+Ds/Cs+Ldr/Va
【0071】
(6)光学的エネルギーにより効率的に表面波を発生するための励振手段の構成
図16に示すようにパルス光による表面波の励振においては、パルス光によって生成された光音響波を連続パルス光で連続的に発生させ、さらに連続パルス光を強度変調することによって眼表面に光音響波より低い周波数の表面波を励起することは、すでに述べたとおりである。さらに前記光音響波の音圧を効率よく眼表面の表面波励起として作用させるためには、光音響波の位相に合わせた連続パルス光のパルス時間と周期のコントロールが必要である。
【0072】
光音響波は生体組織などにパルス光を照射したときに光のエネルギーを吸収した物質が断熱膨張することで熱弾性波が発生する現象であり、パルス時間が組織の熱散逸時間より十分に短い時間である場合に発生し、その音響圧力Pは下記[数2]にてあらわされる。グリュナイゼン係数は照射光エネルギーが音響波エネルギーに変換される効率であり、F0は光エネルギー密度、μaは組織の吸収係数である。
[数2]
P=Γ×μa×F0×exp(-μa×z)
ここで、P:音響圧力、Γ:グリュナイゼン係数、μa:組織の吸収係数、F0:光エネルギー密度、z:組織内深度
そして、パルス光のパルス時間が光音響波の発生条件を満たす式は以下の[数3]である。
[数3]
τp < τstr
ここで、τp:光パルス時間、τstr:組織の熱散逸時間
【0073】
光音響効果により発生する光音響波は、短パルス光による急峻な圧力変化であり、そのスペクトル帯域は広い。光音響波は組織の熱伝導率や応力散逸時間、体積弾性率、密度などの影響で圧力の時間的変化を生み、発生する光音響波の周波数も変化するが、応力散逸時間内であれば光パルスのパルス時間による変化を有する。図17図18は光パルスのパルス時間と発生する光音響波の波長変化を示したものである。
【0074】
パルス光は連続的に照射されるが、その照射周期をパルス光により発生した光音響波の周波数と同じ周期あるいはその整数分の1の周期とすることにより、各パルス光が重畳して連続的な音響波となるだけでなく重畳成分により振幅の増大(増幅)も得られる。図19はパルス光のパルス照射周期を光音響波の中心周波数に合わせて照射することにより、各光音響波(1901,1902,1903,...)の位相が合うことで、音圧波形が重畳した波形1904となり音圧が上昇することを示している。
【0075】
生体内に発生する光音響波の周波数は一般的に0.5MHz~50MHz程度であり、パルス光のパルス時間を10nsec~1000nsecの範囲内で設定して、光音響波の中心周波数あるいはピークスペクトル周波数をコントロールする。さらにパルス光のパルス周期も、発生せしめた各音響波の位相を合わせるために、光音響波の周波数(すなわち0.5MHz~50MHzの範囲)と同じ周期又はその整数分の1とすることで各光音響波の位相がそろい重畳して音圧を最大化する。パルス光のパルス時間とパルス周期をコントロールすることにより、表面波の振幅が最大となるパルス時間とパルス周期を検出することも可能となる。
【0076】
更に最適な光パルスのパルス時間とパルス周期を得るために、被検眼に対する眼球物性測定前に光パルス時間を短時間パルスから長時間パルス、例えば10nsecから1000nsecの範囲で複数のパルス時間を設定し、各パルス時間に対してさらにパルス光のパルス周期を掃引することにより、表面波検出ユニットにより検出される被検眼表面の表面波振幅が最も高くなるパルス時間及びパルス周期を検出し、得られた最適値にて光パルスを駆動することで、最も効率よい表面波の励振が可能となる。
【0077】
図20は光パルスのパルス時間及びパルス周期をコントロールして、表面波の振幅を最大化するパルス時間及びパルス周期にて眼球物性を測定するための実施例である。この実施例は表面波の検出を前記超音波反射法による検出例として示しているが、前記光学三角法、前記光学複数波長同軸共焦点方式、前記光ヘテロダイン方式による検出であっても構わない。
【0078】
光パルス光源(励振手段)2001は光源駆動回路2002により駆動され、光源駆動回路2002より出力される駆動パルスの時間は制御ユニット2008よりパルス信号発生回路2005に設定される。制御ユニット2008は設定したパルス時間に合わせてあらかじめ決められた範囲でパルス周期を順次掃引する。検出用超音波センサーユニット(検出手段)より検出した表面波の振幅をパルス周期の掃引に合わせて順次測定し、最大振幅となるパルス周期を決定する。パルス時間をあらかじめ設定された複数の値に順次変更して上記パルス周期の掃引を繰り返す。この結果、得られた表面波振幅の最大値を比較し、眼球に照射されるパルス光の最適なパルス時間とパルス周期を決定することが可能となる。
【0079】
(7)測定された眼圧値や眼球組織の材料力学特性の出力手段及び解析手段(眼球物性のホームモニタリングシステム)
測定された測定された眼圧値や眼球組織の材料力学特性などの眼球物性は眼疾患として長期に観察・診断・治療を要する緑内障や円錐角膜などの診察に重要なパラメータとして使われる。そのため測定値がスムーズに蓄積され、診断時に簡単に確認できることが重要である。また近年では遠隔医療や在宅医療の必要性が増大しており、診療所や家庭内において測定する必要性が増大している
【0080】
図21は眼球物性のホームモニタリングシステムSの全体構成を示している。眼球物性測定装置2102にて測定された被検眼2101の眼圧値や眼球表面の力学的材料特性は複数の接続手段のうちの一つによりインターネット2110に接続される。接続手段としては有線ローカルエリアネットワーク(LAN)に接続されたルーター2103を介する手段、無線LANやブルートゥース(登録商標)などの近距離無線により無線ルーター2104を介する手段やスマートフォンなどの携帯端末2105などの移動体通信を介する手段などによりインターネット(WAN)に接続される。眼球物性測定装置より送信された測定データはインターネット上のクラウドサービス2106や固定サーバー2111に蓄積される。一方、ドクターなどの医療関係者2109はパーソナルコンピューターやタブレットコンピューター、スマートフォンなどの端末装置2108により随時確認やデータ解析が可能となる。
【0081】
更にクラウドサービス2106や固定サーバー2111には蓄積されたデータを解析するアプリケーションが組み込まれ、統計的な処理によるデータの分析や人口知能AI(Artificial Intelligence)やディープラーニングによるデータ解析と今後の予測を提供することが可能となる。これらの解析データは医療官関係者2109が診断に必要なデータとして確認可能であり、さらに眼球物性測定装置2102やスマートフォン2105に送信して被検者が確認することも可能である。
【0082】
図22は、眼球物性のホームモニタリングSの各処理部(眼球物性測定装置2102、携帯端末2105、固定サーバ2111、端末装置2108)の機構構成図を示す。本ホームモニタリングシステムSに用いる眼球物性測定装置2102は、患者の自宅に備えられて、患者の眼圧などの眼球物性を測定する機能に特化した小型且つ低価格な装置を実現する。
【0083】
眼球物性測定装置2102は、被検眼である眼球表面に表面波を発生するために照射波を用いて眼球上の少なくとも一以上の励振点を励振する励振部102と、励振部102において発生させた表面波を励振点とは異なる眼球上の少なくとも一以上の検出点で検出する検出部103と、検出部103より検出した表面波を解析する表面波処理部208と、表面波処理部208における解析結果に基づいて眼球の物性を計算する眼球物性計算部209と、眼球物性計算部209で得られた眼球の物性を広域ネットワークを介して外部装置(ここでは固定サーバ2111)に送信する通信部301と、を備える。この通信部301は、例えば無線/無線を介してインターネットとの通信接続を可能とする通信モジュールである。
【0084】
携帯端末2105は、CPUなどのプロセッサやメモリを用いて携帯端末2105の構成部を制御して各種機能を実現する制御部2105a、RAMなどのメモリである記憶部2105b、インターネット等の通信網への通信接続を実現する通信処理部2105c、液晶パネル又は有機ELディプレイ等の画面表示部2105d、及びタッチパネルなどの操作入力部2105eなどを備える。
【0085】
固定サーバ(外部装置)2111は、測定装置2102が測定した眼圧など眼球物性に関する情報を受け取る送受信部2111a、携帯端末2105や端末装置2108からリクエスト要求を受信した場合にレスポンス情報を返信する制御部2111b、測定装置2102から受け取ったデータをAIに基づいて緑内障などの進行を判定する眼球物性解析部2111c、患者(利用契約者)の眼球物性に関するデータを蓄積するデータベースである眼球物性データ記憶部2111d、及び患者(利用契約者)の解析結果、利用契約者ID、パスワードなどが格納される患者情報記憶部2111eなどを備える。
【0086】
端末装置2108は、医師から入力を受け付けるキーボードなどの入力部2108a、専用アプリケーションをWebブラウザなどで実行するアプリケーション実行部2108b、入力部2108aを介して患者の被検眼の眼球物性やAIの解析結果の取得を行うリクエスト生成部2108c、送受信部2108d、及び記憶部2108eなどを備える。
【0087】
このような眼球物性のホームモニタリングシステムSでは、患者などに大きな負担を与えることなく、緑内障などの患者が自宅に居ながら眼圧物性測定装置2102で測定された眼圧値などをモニタリングできる。この結果、患者は自宅に居ながら早期に緑内障などの症状の検知を可能とし、端末装置2108を有する医者は、検知されたデータに基づいて患者に眼科への受診を促すことができ、タイムリーに症状の進行を阻止できる。
【0088】
なお、本発明は、上記実施の形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。また、本発明の目的を達成するために、本発明は、眼球物性測定装置に含まれる特徴的な構成手段をステップとする眼球物性測定方法としたり、それらの特徴的なステップを含むプログラムとして実現することもできる。そして、そのプログラムは、ROM等に格納しておくだけでなく、USBメモリ等の記録媒体や通信ネットワークを介して流通させることもできる。
【符号の説明】
【0089】
1,2102 眼球物性測定装置
S 眼球物性のホームモニタリングシステム
101 眼球表面
102 励振部(励振手段)
103 検出部(検出手段)
104 励振点
105 検出点
106 表面波
107 照射軸
108 検出軸
201 励振ユニット
201a 変調部(変調手段)
202 検出ユニット
208,1507a,2008a 表面波処理部(表面波処理手段)
209,1507b,2008b 眼球物性計算部(眼球物性計算手段)
210 送信制御部
211 制御ユニット
301 通信部(通信手段)
1501 超音波照射ユニット(励振手段)
1502 送信センサー(検出手段)
1503 受信センサー(検出手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22