IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 1ラボ・エスエーの特許一覧

特開2023-14146工学的操作された血管組織の作製において気泡を除去するための信頼性が高く再現可能な工業化プロセス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014146
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】工学的操作された血管組織の作製において気泡を除去するための信頼性が高く再現可能な工業化プロセス
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20230119BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20230119BHJP
   A61F 2/06 20130101ALI20230119BHJP
【FI】
C12N5/071
C12M3/00 A
A61F2/06
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022184203
(22)【出願日】2022-11-17
(62)【分割の表示】P 2020530740の分割
【原出願日】2018-08-07
(31)【優先権主張番号】102017000093925
(32)【優先日】2017-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(71)【出願人】
【識別番号】520054471
【氏名又は名称】1ラボ・エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クラウディア・トレソルディ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーナ・ヴァンタッジャート
(57)【要約】
【課題】インビトロでの工学的操作された血管構築物/組織の工業化のための、信頼性が高く、有効で、かつ再現可能な手順を提供すること。
【解決手段】本発明は、ヒトに使用するための医療製品、および動物に使用するための獣医学的製品のインビトロ試験用の、工学的操作された血管組織の作製において気泡を除去するための信頼性が高く再現可能な工業化方法に関する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療製品または獣医学的製品を試験するための、工学的操作された血管組織または構築物の作製のためのプロセスによって得られる、コンフルエントな細胞の単層を有する連続した機能的な内皮で被覆された内腔を有する足場(21)であって、
前記プロセスは、
- 足場(21)の内腔に内皮細胞培養物を播種して、播種された足場(21)を生じさせるための方法であって、前記播種された足場(21)がバイオリアクタ(11)内にあって、播種されたバイオリアクタ(11)-足場(21)システムを生じさせ、
- 前記バイオリアクタ(11)の上流に配置されたTコネクタ(T2)に取り付けられた容器(91)内の新しい培地および内皮細胞を含む細胞懸濁物の形態の前記内皮細胞培養物を回転コネクタ(CR1)によって放出するステップと、それに続いて、
- 前記細胞懸濁物が気泡を発生しないで前記Tコネクタ(T2)内を下り、前記足場(21)の前記内腔内にある気泡を前記バイオリアクタ(11)の下流に配置されたTコネクタ(T3)の開口に向けて押して出すことができる流速になるように、前記内皮細胞培養物を、前記バイオリアクタ(11)のチャンバ内の前記足場(21)の前記内腔に連続流で放出するステップと
を含む播種方法と、
引き続いて、
- 30℃から45℃の間の温度の新しい培地で、前記播種された足場(21)の前記内腔にある前記内皮細胞を灌流する方法であって、前記播種されたバイオリアクタ(11)-足場(21)システムに灌流回路(51~56)または(51~57およびBT)を接続することによって実現され、
- 前記灌流回路にある、前記気泡の除去のための要素(71)または(BT)を前記新しい培地で部分的に満たすステップであって、前記気泡の除去のための前記要素(71)または(BT)が、チャンバ、前記チャンバを閉じるキャップ、入口通路(211)、および出口通路(212)を備え、前記気泡の除去のための前記要素(71またはBT)が容積を有し、前記容積の第1の部分が前記新しい培地で満たされ、前記容積の第2の部分が空気で満たされ、前記容積の前記第2の部分が、前記入口通路(211)および前記出口通路(212)を通って流れる前記新しい培地内にある気泡を捕捉する機能を有する、ステップ
を含む灌流方法と
を適用することを特徴とする足場(21)。
【請求項2】
前記足場(21)の前記内腔に前記内皮細胞培養物を播種する前記方法が、
- 前記足場(21)を足場支持部(13、13a、13b)の取付部に取り付けて、前記足場(21)を有する前記足場支持部(13、13a、13b)をバイオリアクタチャンバ(11)内に固定してバイオリアクタ(11)-足場(21)システムを生じさせるステップと、
それに続いて、
- 前記バイオリアクタチャンバ(11)内の前記足場支持部(13)に留められた前記足場(21)の前記内腔に前記新しい培地を注入するステップと、それに続いて、
- 前記培地を注入された、前記足場(21)を有する前記足場支持部(13、13a、13b)がある前記バイオリアクタチャンバ(11)内に前記新しい培地を加えるステップと、それに続いて、
- 20℃から30℃の間の温度で、1時間から18時間の間の時間、前記培地を注入された、前記足場(21)の前記内腔内、および前記足場(21)を有する前記足場支持部(13)がある前記バイオリアクタチャンバ(11)内に前記培地を入れたままにするステップと、それに続いて、
- 前記足場(21)の前記内腔の内部、および前記バイオリアクタチャンバ(11)の内部から前記培地を取り除くステップと、それに続いて、
- 請求項1に記載の前記容器(91)内の前記内皮細胞培養物を放出するステップと、それに続いて、
- 前記細胞懸濁物を請求項1に記載の前記足場(21)の前記内腔に放出するステップと、それに続いて、
- 内腔に前記細胞懸濁物が入っている、前記播種された足場(21)を有する前記足場支持部(13)がある前記バイオリアクタチャンバ(11)内に前記新しい培地を加えるステップと、それに続いて、
- 前記バイオリアクタチャンバ(11)内に固定された前記足場(21)をインキュベートするステップと
を含むことを特徴とする請求項1に記載の足場(21)。
【請求項3】
前記播種された足場(21)の前記内腔内の前記内皮細胞の前記灌流方法が、
- 管(51)、(52)、(53)、(54)、および任意選択的に管(55)を備える灌流閉回路を用意するステップと、
- コネクタ(C)の近くに配置された閉止要素(171)で前記灌流回路の前記管(54)または(55)を塞ぐステップと、それに続いて、
- 前記灌流回路の前記管(53)または前記管(54)と前記管(54)または前記管(55)との間に配置された前記コネクタ(C)をねじって外すステップと、
- 前記バイオリアクタ(11)の上流の前記Tコネクタ(T2)の側方通路のその開いた側方端に前記灌流回路の前記管(53)または(54)をねじって取り付けるステップと、それに続いて、
- 前記バイオリアクタ(11)の下流の前記Tコネクタ(T3)を開けて、前記Tコネクタ(T3)の側方開口のキャップをねじって外すステップと、それに続いて、
- 前記灌流回路の前記管(54)または(55)を前記バイオリアクタ(11)の下流に配置された前記Tコネクタ(T3)の前記側方開口に接続して、前記閉止要素(171)を取り外すステップと、
- 前記灌流回路の前記管(53)とポンプループ配管の前記管(52)との間に前記気泡の除去のための前記要素(71)を挿入するステップと
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の足場(21)。
【請求項4】
前記気泡の除去のための前記要素(71)または(BT)が泡トラップであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の足場(21)。
【請求項5】
前記足場(21)が、合成または天然由来のポリマーの足場から選ばれ、前記ポリマーの足場が、単一ポリマーまたはコポリマー、電界紡糸絹フィブロインあるいはポリグリコール酸/ポリ乳酸(PGA/PLA)またはポリグリコール酸/ポリカプロラクトン二酸(PGA/PCL)のコポリマーから形成されたことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の足場(21)。
【請求項6】
前記内皮細胞が、血管組織の内皮を構成する細胞、HAOEC(ヒト大動脈内皮細胞)、HCAEC(ヒト冠状動脈内皮細胞)、HMEVEC(ヒト皮膚微小血管内皮細胞)、またはHUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)の中から選択されたことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の足場(21)。
【請求項7】
前記培地が、ウシ胎仔血清(2%)、アデニン(0.2μg/ml)、メタバナジン酸アンモニウム(0.0006μg/ml)、アムホテリシンB(0.3μg/ml)、塩化カルシウム2HO(300μg/ml)、塩酸コリン(20μg/ml)、硫酸銅5HO(0.002μg/ml)、チオクト酸DL-6,8(0.003μg/ml)、ホリン酸(カルシウム)(0.6μg/ml)、ヘパリン(4μg/ml)、ヒドロコルチゾン(2μg/ml)、L-アスパラギン酸(15μg/ml)、L-システイン(30μg/ml)、L-チロシン(20μg/ml)、硫酸第一マンガン一水和物(0.0002μg/ml)、モリブデン酸アンモニウム4HO(0.004μg/ml)、ニコチンアミド(8μg/ml)、塩化ニッケル6HO(0.0001μg/ml)、ペニシリン(60μg/ml)、フェノールレッドナトリウム塩(15μg/ml)、塩化カリウム(300μg/ml)、プトレシン二塩酸塩(0.0002μg/ml)、ピリドキシン塩酸塩(3μg/ml)、メタケイ酸ナトリウム9HO(3μg/ml)、硫酸ナトリウム7HO(200μg/ml)、亜セレン酸ナトリウム(0.01μg/ml)、ストレプトマイシン硫酸塩(100μg/ml)、塩酸チアミン(4μg/ml)、および硫酸亜鉛7HO(0.0003μg/ml)を含むEndothelial Growth Mediumであることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の足場(21)。
【請求項8】
心血管および末梢血管領域、好ましくは、弁、心臓弁、ステント、グラフト、カテーテル、包帯、メッシュ、またはフィルタに使用される、動物に使用するための獣医学的製品のインビトロ前臨床試験または臨床試験を実施する際の、請求項1に記載の足場(21)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトに使用するための医療製品、および動物に使用するための獣医学的製品のインビトロ試験用の、工学的操作された血管組織の作製において気泡を除去するための信頼性が高く再現可能な工業化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療製品の開発は長くて難しいプロセスであることが知られている。実際、医療製品または獣医学的製品の開発において、薬であろうと、医療装置であろうと、ヒトまたは動物の被験者に使用することができる前に、接触する組織への影響を判定して、生物学的安全性の側面および医療製品の性能を評価し、その使用に関する潜在的な問題を予想することが重要である。
【0003】
この文脈では、生物学的安全性および医療製品の性能の評価は広範囲で複雑であり、単一の構成材料の組織との相互作用の評価を、医療製品および獣医学的製品の全体設計から離して考えることはできず、全体的に、かつ、その使用の状態をできるだけ忠実に再現するように評価されなければならない。今日では、生物学的安全性および医療製品および獣医学的製品の性能の評価は、インビトロ、エクスビボ、および最終使用条件に関して著しい差のある動物モデルでの試験に基づいている。特に、動物モデルは著しい生理学的な差があり、それは、結果の妥当性をヒトの被験者に置き換えることを難しくする。このような差は、評価の対象が、心臓弁、ステント、グラフト、カテーテル、包帯、またはメッシュなど、ヒトに使用するための医療製品、または動物に使用するための獣医学的製品で、その意図される使用が心血管および末梢血管領域のときには、さらに顕著である。
【0004】
残念なことに、ヒトに使用するための医療製品、および動物に使用するための獣医学的製品の、血管組織および血液との相互作用の評価は、生物学的安全性および性能を判定するためには限界があり、現在使用しているモデルは、解剖学的および構造的、ならびに血液組成に関してかなりの制限および欠点がある。
【0005】
さらに、動物での実験が、動物を生体実験に使用することが倫理的に許されるかどうかに関して激しい論争の的となっている。この論争は早くも1959年の3Rの原則の制定につながり、それは、国際的な研究プログラムの議論および提案において非常に関連している。3Rの原則は、3つの重要な概念である代替、削減、および改善を指す。3Rの原則では、生物医学研究は、可能な限り、動物モデルを代替モデルに代替する、任意の所与の実験計画に使用される動物の数を削減する、動物が受ける実験条件を改善または改良すべきである
と述べられている。
【0006】
血管組織工学の分野において、連続的(すなわち、コンフルエントな細胞の単層を有し)かつ機能的である内皮を生成することができること、すなわち、基本的に内皮細胞(EC:endothelial cell)から構成されることが重要であることが知られている。
【0007】
連続した機能的な内皮の生成は、足場内皮化を促進し、(足場および細胞から構成される)工学的操作された血管構築物(組織工学的操作された構築物)の適正な性能を保証する上で重要な因子であり、これには、前記構築物が埋め込まれたときの血栓症および狭窄症の防止が含まれる。
【0008】
血管内皮のインビトロ産生または工学的操作された血管構築物/組織は、簡単に言えば、次のステップを含む。
(1)足場の内腔に内皮細胞を播種して、前記細胞を接着
(2)細胞が受ける機械的刺激(流体の流れなど)に対する成長/増殖および細胞組織化
(3)機能的な内皮細胞の1つまたは複数の層の産生
【0009】
播種ステップが非常に重要であることを考えて、最近、多くの大学の研究グループが、足場の内腔に内皮細胞を一様に播種して前記播種の効率を向上させるための様々な技法の開発に投資してきた。しかしながら、今のところ、得られた結果は完全に満足できるものではない。
【0010】
現在のところ、内皮細胞を播種するために、静的播種および動的播種の2つの技法が用いられている。
【0011】
より簡単な静的方法は、細胞の懸濁液を直接足場の内腔表面にピペッティングし、次いで、ペトリ皿内で短時間インキュベートすることにある。この方法は、操作者に大きく依存しており、内皮細胞の一様な層を得ることが困難であることによってこの方法はさらに悪化する。
【0012】
対照的に、動的方法は主に、回転、吸引、および静電磁場に基づいており、一様性および接着性とともに細胞播種の効率を向上させる。これらの動的方法のいくつかは、直接灌流バイオリアクタに移行し、それと結合することができ、したがって、足場を取り扱う必要性を低減する。この場合、足場がバイオリアクタチャンバ内に固定されるとすぐに足場に播種することができる。
【0013】
一方、他の研究グループは、ポンプまたはシリンジによる細胞の懸濁物の連続注入を用いる動的播種の方法、または、内皮細胞の懸濁物の注入後、蠕動ポンプを使用して、播種された足場の内腔を培地で連続灌流することを用いる動的播種の方法を使用している。これらの方法は、注入シリンジの容積に加えて、灌流ラインの容積を満たす必要があるため、ピペッティングまたは回転を用いる播種方法よりも多量の細胞懸濁物を必要とし、これは、コスト(細胞と培地)の削減に関して限界があり得ることを示している。
【0014】
上記で論じた方法と全く異なる方法としては、足場の内腔に細胞懸濁物をたらす方法がある。この場合、主な不利な点は、初期の細胞の接着が低く、操作者に大きく依存するため、この方法の再現性が低いことである。さらに、足場、主に管状足場の灌流に必要な、灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法(灌流方法)の選択は、実験準備に適合させなければならない。上記の播種の方法および灌流回路の接続の方法(灌流方法)の範囲を考えると、強い限界および不利な点が依然として存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、再現可能で信頼性が高く有効である、播種のための方法、および灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法(灌流方法)を含むプロセスを提供する明らかな必要性があり、特に、先進的な前臨床試験および臨床試験に焦点を絞った、GLP(Good Laboratory Practice:優良試験所基準)に認証された組織工学試験所にとっては、前記プロセスの適用に関しては必要性がある。
【0016】
連続的で(すなわち、コンフルエントな細胞の単層を有し)かつ機能的である内皮を有する、工学的操作された血管組織/構築物の作製のためのプロセスの開発に対する必要性があり、ここで、前記プロセスは、簡単、迅速、有効、操作者に依存せず、明確、再現性が高く、かつ信頼性が高く、(1)足場の内腔に細胞、主に内皮細胞を播種するための方法であって、足場内の気泡を除去しながら、内皮細胞の同質性と一様な接着を保証する方法と、(2)灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法(灌流方法)であって、灌流回路とバイオリアクタ-足場システムよりなる組み立てられたシステムにおいて無菌状態を保証し気泡がないことを保つ、方法とを含む。
【0017】
前臨床試験および臨床試験のために実験動物を使用することを避けて、先進的な前臨床試験および臨床試験に行うために、連続した機能的な内皮を含む、工学的操作された血管構築物/組織をインビトロで開発する必要もある。したがって、前記インビトロでの工学的操作された血管構築物/組織の工業化のための、信頼性が高く、有効で、かつ再現可能な手順が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本出願人は、長期間の懸命な研究開発活動の後、添付の請求項に請求される特性を有する、播種方法、および灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法を含むプロセスを完成させた。
【0019】
本発明の好ましい実施形態は、以下の詳細な説明から明らかとなろう。
【0020】
以降、本説明において図1図27を説明する。
【0021】
本発明の文脈では、「連続した機能的な内皮」は、生理学的な挙動を有し、内皮細胞が互いに隣接し、足場に接着し、フォンヴィレブランド因子(VWF:Von Willebrand factor)、クラスター分類31(CD31:cluster of differentiation 31)、および血管細胞接着分子1(VCAM-1:vascular cell adhesion molecule 1)などの内皮細胞の典型的なマーカーを発現する内皮を意味する。特に、「連続した内皮」は、コンフルエントな細胞の単層を有する内皮を意味する。
【0022】
本発明の文脈では、「足場」は、内皮細胞の本場合には、細胞の接着および成長を促進することができる、生体適合性のある多孔性ポリマー基体を意味する。ポリマーの足場は、合成または天然由来で、電界紡糸絹フィブロインあるいはPGA/PLA(polyglycolic acid/polylactic acid:ポリグリコール酸/ポリ乳酸)またはPGA/PCL(polyglycolic acid/polycaprolactone:ポリグリコール酸/ポリカプロラクトン)など、単一ポリマーあるいはコポリマー(ポリマーの組)から形成されたものであってもよい。
【0023】
本発明の文脈では、「内皮細胞」は、血管組織の内皮を構成する細胞を意味する。内皮細胞の例としては、HAOEC(human aortic endothelial cell:ヒト大動脈内皮細胞)、HCAEC(human coronary artery endothelial cell:ヒト冠状動脈内皮細胞)、HMEVEC(human dermal microvascular endothelial cell:ヒト皮膚微小血管内皮細胞)、およびHUVEC(human umbilical vein endothelial cell:ヒト臍帯静脈内皮細胞)が挙げられる。
【0024】
本発明の文脈では、「工学的操作された血管構築物」は、インビトロ内皮化のプロセス後、機能的な内皮細胞によって主に被覆された内腔を有する足場を意味する。足場の内腔を覆う前記内皮細胞は、連続した内皮、すなわちコンフルエントな細胞の単層を有する内皮を構成する。
【0025】
本発明の文脈では、「培地」は、細胞の各タイプに特化した細胞成長および維持の流体を意味する。特に、この特定の場合(HUVEC-ヒト臍帯静脈内皮細胞、Sigma Aldrichから得られる、code 200-05n)に使用される内皮細胞に対しては、培地は、Endothelial Growth Medium(EGM、Sigma Aldrich、211-500)である。EGMは、ウシ胎仔血清(2%)、アデニン(0.2μg/ml)、メタバナジン酸アンモニウム(0.0006μg/ml)、アムホテリシンB(0.3μg/ml)、塩化カルシウム2HO(300μg/ml)、塩酸コリン(20μg/ml)、硫酸銅5HO(0.002μg/ml)、チオクト酸DL-6,8(0.003μg/ml)、ホリン酸(カルシウム)(0.6μg/ml)、ヘパリン(4μg/ml)、ヒドロコルチゾン(2μg/ml)、L-アスパラギン酸(15μg/ml)、L-システイン(30μg/ml)、L-チロシン(20μg/ml)、硫酸第一マンガン一水和物(0.0002μg/ml)、モリブデン酸アンモニウム4HO(0.004μg/ml)、ニコチンアミド(8μg/ml)、塩化ニッケル6HO(0.0001μg/ml)、ペニシリン(60μg/ml)、フェノールレッドナトリウム塩(15μg/ml)、塩化カリウム(300μg/ml)、プトレシン二塩酸塩(0.0002μg/ml)、ピリドキシン塩酸塩(3μg/ml)、メタケイ酸ナトリウム9HO(3μg/ml)、硫酸ナトリウム7HO(200μg/ml)、亜セレン酸ナトリウム(0.01μg/ml)、ストレプトマイシン硫酸塩(100μg/ml)、塩酸チアミン(4μg/ml)、および硫酸亜鉛7HO(0.0003μg/ml)を含む。新しい培地は、無菌で、製造者によって直接供給された、以前に使用されたことがない培地である。「温かい培地」は、30℃から45℃の間、好ましくは37℃の温度に前もって加熱された培地を意味する。
【0026】
本発明で考えられたプロセスは、血管組織の工学的操作と、その結果の医療製品を試験するための血管グラフト(工学的操作された血管構築物/組織)の作製のための、播種方法、およびバイオリアクタを、足場、好ましくは管状足場のための灌流回路に接続するための方法(灌流方法)を含む。播種方法、およびバイオリアクタ-足場システムのために灌流回路を接続するための方法(灌流方法)を含む前記プロセスは、下記のシステムから気泡を正確に除去することを保証し、したがってプロセスの再現性を最適化することが有利である。さらに、気泡が内皮細胞に接触する危険性を減らすことによって、内皮細胞を傷つけることを防ぎ、足場の内腔に接着している内皮細胞のコンフルエントな単層(連続した機能的な内皮)を得ることができる。この場合、前記の播種方法、および足場のための灌流回路を接続する方法(灌流方法)は、灌流のためのバイオリアクタの電界紡糸絹フィブロインの、好ましくは管状の足場に適用される。本発明によるプロセスは、現在利用できるモデルの限界を乗り越え、動物モデルの使用に対する妥当な代替を適用するので3R基準を満足する。
【0027】
本発明は、工学的操作された血管組織または構築物の作製、好ましくは、コンフルエントな細胞の単層を有する機能的で連続した内皮で被覆された内腔を有する足場(図2、21)の作製のためのプロセスに関し、好ましくは、医療モデルまたは獣医学的モデルを試験するために使用可能なプロセスに関し、前記プロセスは、
- 足場(21)の内腔に内皮細胞培養物を播種して、播種された足場(21)を生じさせるための方法であって、前記播種された足場(21)がバイオリアクタ(11)内にあって、播種されたバイオリアクタ(図3、11)-足場(21)システムを生じさせ、
- バイオリアクタ(11)の上流に配置されたTコネクタ(図10、T2)に取り付けられた容器(図10、91)内の新しい培地および内皮細胞を含む細胞懸濁物の形態の前記内皮細胞培養物を回転コネクタ(図10、CR1)によって放出するステップと、それに続いて、
- 前記細胞懸濁物が気泡を発生しないでTコネクタ(T2)内を下り、足場(21)の内腔内にある気泡をバイオリアクタ(11)の下流に配置されたTコネクタ(図10、T3)の開口に向けて押して出すことができる流速になるように、前記内皮細胞培養物を、バイオリアクタチャンバ(11)内の足場(21)の内腔に連続流で放出するステップとを含む播種方法と、
引き続いて、
- 30℃から45℃の間、好ましくは37℃の温度の新しい培地で、前記播種された足場(21)の内腔にある内皮細胞を灌流する方法であって、前記播種されたバイオリアクタ(11)-足場(21)システムに灌流回路(図6、51、52、53、54、55、ならびに51~56または51~57およびBT)を接続することによって実現され、
- 灌流回路にある、気泡の除去のための要素(71またはBT)を前記新しい培地で部分的に満たすステップであって、泡の除去のための前記要素(71またはBT)が、チャンバ、前記チャンバを閉じるキャップ、入口通路(211)、および出口通路(212)を備え、気泡の除去のための前記要素(71またはBT)が容積を有し、前記容積の第1の部分が前記新しい培地で満たされ、前記容積の第2の部分が空気で満たされ、前記容積の前記第2の部分が、前記入口通路(211)および前記出口通路(212)を通って流れる前記新しい培地内にある気泡を捕捉する機能を有する、ステップ
を含む灌流方法とを適用する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】足場支持部を示す図である。
図2】足場支持部の取付部に取り付けられた足場を示す図である。
図3】バイオリアクタを示す図である。
図4】バイオリアクタのチャンバを示す図である。
図5】灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法を示す図である。
図6】灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法を示す図である。
図7】灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法を示す図である。
図8】灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法を示す図である。
図9】Tコネクタを示す図である。
図10】プラスチックピペットを示す図である。
図11】Tコネクタの開口がキャップで閉じられている状態の、バイオリアクタの上流に配置されたTコネクタを示す図である。
図12】約90°回転させられた、細胞懸濁物が入ったシリンジを示す図である。
図13】足場支持部を示す図である。
図14】コネクタの端部がキャップで閉じられているTコネクタを示す図である。
図15a】3つの別々の実験におけるレサズリンアッセイから得られた値を示すグラフである。
図15b】3つの別々の実験におけるレサズリンアッセイから得られた値を示すグラフである。
図15c】内皮細胞が約7pgのゲノムDNAを含むという事実を考慮して計算されたゲノムDNAの定量化を示すグラフである。
図15d】内皮細胞が約7pgのゲノムDNAを含むという事実を考慮して計算されたゲノムDNAの定量化を示すグラフである。
図16】イオリアクタの上流に配置されたTコネクタの上端および側方端からキャップが取り外された図である。
図17】クランプで塞がれた灌流閉回路の管を示す図である。
図18】灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法を示す図である。
図19a】灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法を示す図である。
図19b】灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法を示す図である。
図20】灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法を示す図である。
図21】気泡除去要素を示す図である。
図22】第2の好ましい実施形態による、灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法を示す図である。
図23】第2の好ましい実施形態による、灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法を示す図である。
図24】第2の好ましい実施形態による、灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法を示す図である。
図25】第2の好ましい実施形態による、灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法を示す図である。
図26】第2の好ましい実施形態による、灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法を示す図である。
図27】第2の好ましい実施形態による、灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
好ましい実施形態を示すことを目的として、本発明の主題であるプロセスによって代表される、提案される技術的解決策は、理解しやすくするために、下記に詳細を別々に説明する2つの方法、(1)足場、好ましくは管状足場の内腔に細胞培養物を播種するための方法、(2)灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法(灌流方法)、に分割される。
【0030】
(1)好ましい実施形態による、足場の内腔に細胞培養物を播種するための方法
バイオリアクタ-足場システムのために一様に内皮細胞を播種するための方法は、無菌条件下で順次実施される複数のステップを含む。
【0031】
1.1 足場支持部(図1、13、13a、13b)の取付部に取り付けられた足場(図2、21)、好ましくは管状足場、例えば電界紡糸絹フィブロインの管状足場は、バイオリアクタのチャンバ内に固定されてバイオリアクタ-足場システムとなる。バイオリアクタの両方の先端(上流および下流)には、回転コネクタ(図4、CR1、CR2)およびTコネクタ(図4、T2、T3)が取り付けられている。
【0032】
本発明の文脈では、「バイオリアクタ-足場システム」は、バイオリアクタ(図3、11)と、足場支持部(図1、13、13a、13b)の取付部によって固定および取り付けされ、次いでバイオリアクタ内に配置された足場(図3、21)、好ましくは管状足場、例えば電界紡糸絹フィブロインの管状足場との組立体を意味する。足場、好ましくは管状足場は、無菌のテフロン(登録商標)テープで足場、この場合は電界紡糸絹フィブロインから作られた足場を保護した後、自己引締めひもを用いて足場支持部の取付部(足場の灌流を可能にするように中空である)によって保持される。
【0033】
足場支持部13は、バイオリアクタのチャンバの上流の入口(図4、CR1、41)が足場の一端(図4、13a)と一致し、バイオリアクタチャンバの下流開口(図4、CR2、42)が足場の他端(図4、13b)と一致するように、バイオリアクタ11に挿入される。これは、足場21が、中空の足場支持部によって生成された灌流通路に対して完全に同軸であることを保証する。バイオリアクタの長手方向軸は、バイオリアクタ内に取り付けられた足場がそれに沿って向く主軸と規定される。
【0034】
1.2 足場は、Tコネクタ(図9、T2)によってバイオリアクタの2つの端部の一方とルアーロック取付で係合されたシリンジを用いてバイオリアクタ内に固定された足場の内腔に注入された新しい培地で前処理される。次いで、バイオリアクタの上流および下流に配置されたコネクタの開放端は、足場の内腔が空にならないようにキャップで閉じられる。さらに、バイオリアクタ内に固定された足場が完全に覆われるまで、新しい培地がバイオリアクタのチャンバ内に挿入される。このようにして、バイオリアクタのチャンバ内に固定された足場は、内部(内腔)も外部も新しい培地で、好ましくは25℃で1時間、前処理される。
【0035】
1.3 足場の前処理に続いて、内腔に注入された培地で前処理されたバイオリアクタ内では、好ましくは無菌ピペットを使って空にされ、その前にチャンバ内に挿入された培地は好ましくは無菌ピペットを使って除去される。バイオリアクタの上流および下流のコネクタ(回転コネクタおよびTコネクタ)内に残っている培地は、足場が壊れないようにピペットを使って吸い出して除去される。
【0036】
1.4 取付部に支持された足場が入っているバイオリアクタの端部の上流および下流に配置されたTコネクタ(図9、T2およびT3)は、上部開口を上向き(バイオリアクタ-足場システムが横たわる平面に対して90°)になるように回される。次いで、バイオリアクタの下流および上流に配置されたTコネクタ(T3、T2)の側方開口はキャップで閉じられる。次いで、容器、好ましくはシリンジ(図9、91)が、バイオリアクタの上流に配置された、上向きに回されたTコネクタ(図9、T2)の開口にルアーロック取付具で取り付けられ、プランジャを外したとき、その容量は、例えば5mlである。その代わりに、バイオリアクタの下流に配置されたTコネクタ(図9、T3)の開口は開いたままである(図9)。
【0037】
1.5 ピペット、好ましくは、例えば25mlの容量の無菌のプラスチックピペット(図10、101)を使って、新しい培地と内皮細胞(例えば、HUVEC)とから成る細胞懸濁物が、調合された容器から引き出される。その後、引き出された細胞懸濁物は、要素(図10、CR1)によってバイオリアクタの上流のTコネクタ(図10、T2)に取り付けられた容器またはシリンジ(図10、91)内に放出される。細胞懸濁物が気泡を発生しないでTコネクタ(図10、T2)内を下り、足場内のいかなる気泡もバイオリアクタ11の下流に配置されたTコネクタT3(図10、T3)の開口に向けて押してシステム(図10)から出すことができる流速になるように、細胞懸濁物は、例えば25mlのピペット(図10、101)を使って連続流で放出されなければならない。
【0038】
1.6 シリンジによって充填される細胞懸濁物が、気泡なしにバイオリアクタの下流に配置されたTコネクタT3の開放端に達すると、バイオリアクタの上流に配置されたTコネクタT2の開口はキャップで閉じられる(図11)。
【0039】
1.7 次いで、残った細胞懸濁物が入ったシリンジ(91)が、それが横たわる平面に対して約90°回転させられ(図12)、この位置で、足場内に圧力が生じないように黒い遮蔽先端だけを挿入するようにして、シリンジのプランジャ(102)がシリンジの開放端に再挿入される(図12)。次いで、シリンジ(91)は、気泡を形成することなくバイオリアクタの上流に配置されたTコネクタT2からねじって外すことができ(図13)、コネクタの端部はキャップで閉じられる(図14)。
【0040】
1.8 温かい新しい培地(上記で定義)が、バイオリアクタのチャンバ内の播種された足場が培地に中間まで浸されるまで、バイオリアクタのチャンバ内に加えられる。
【0041】
1.9 次いで、足場は、24時間の間、例えば、1.5から2rpmの間の回転速度でその長手方向軸の周りに連続的に回転される。この回転によって、足場の内腔への細胞の一様な接着が可能になり、足場自体がバイオリアクタのチャンバ内の培地で絶えず濡れた状態に保たれ、栄養物がチャンバ内(足場の外側)の培地から足場の内腔に播種された細胞懸濁物に流れることが可能になる。
【0042】
1.10 好ましくは、5%CO、37℃で24時間、バイオリアクタのチャンバ内に固定された足場を(回転させながら)インキュベートする。
【0043】
本出願人によって開発されたこの播種方法はシステムの無菌状態を保つことが有利である。さらに、本発明の主題であるこの播種法は、迅速で再現可能であり、足場の全長に沿って(近位部分から中間部分、遠位部分まで)一様で均一に接着している内皮細胞を有する内腔(内部)の表面を有する足場を準備することができることが有利である。本発明による播種法は、バイオリアクタ-足場システム内にすでに存在していた気泡を除去するとともに、新たな気泡の形成も防ぎながら、したがって、細胞を傷つけることを防ぎながら細胞を播種することができる。実際、本方法の各ステップは標準化され、再現可能であり、手順の時間とコストを最適化する。
【0044】
播種方法の実験的立証
本発明による播種方法の効率を示すために、以下の分析が実施された。
【0045】
足場に接着している細胞の活力が、反応物質としてレサズリン(商品名Alamar Blue、IUPAC名7-ヒドロキシ-10-オキシドフェノキサジン-10-イウム-3-オン、CAS550-82-3)を用いて評価された。この評価は、生きている細胞の還元的環境の存在でピンク色になる蛍光化合物であるレゾフルーリン(resofluorine)に還元される指示薬(レサズリン)の酸化還元反応によって細胞の活力を定量化することを可能にする代謝反応にある。接着して24時間後、播種された足場は取付部から取り外される。次いで、足場は、細胞懸濁物の注入の位置に対して近位、中間、遠位の、それぞれ2cmの長さの3つの領域に分割(切断)される。次いで、各部分は、それぞれ約1cmの4つの部分に分割される。レサズリンアッセイに対して、内皮細胞が接着している足場の各領域(近位、中間、および遠位)をそれぞれ代表する3つの試料が選ばれる。各試料は、24ウェルプレートのウェル内に配置され、新しい培地を含むレサズリンナトリウム塩(Sigma Aldrich、R7017)の0.02mg/ml溶液の1mlで、好ましくは、5%CO、37℃で3時間、インキュベートされる。新しい培地を含むレサズリンナトリウム塩の0.02mg/ml溶液と(内皮細胞が接着している)足場試料との間の反応は、分光蛍光光度計を用いて590nmでA.U.(arbitrary unit of fluorescence、蛍光の任意単位)を測定することによって分析される。
【0046】
さらなる分析としては、レサズリンアッセイですでに使用された試料と同じ足場試料に接着している細胞内に存在するゲノムDNAの量評価がある。ゲノムDNAは、接着している足場の細胞から溶解によって抽出され、核酸の蛍光性着色(PicoGreen)が、標準の基準曲線によって溶液中のゲノムDNAの濃度を測定することを可能にするQuant-iT(商標)PicoGreen(商標)dsDNAアッセイ(P7589、Invitrogen、Molecular Probes)を使って定量化される。
【0047】
図15Aおよび図15Bは、3つの別々の実験(DYN1、DYN2、DYN3と名付ける)において、内皮細胞を播種され、24時間インキュベートされた足場の各領域(近位、中間、遠位)を代表する試料に対してレサズリンアッセイから得られた値のグラフである。図15Aおよび図15Bのグラフは、内皮細胞の良好な接着および活力を示している。
【0048】
これらのデータは、内皮細胞が約7pgのゲノムDNAを含むという事実を考慮して計算されたゲノムDNAの定量化(図15Cおよび図15D)によって確認された。
【0049】
内皮細胞を播種された足場の様々な近位区画と中間区画と遠位区画との間には、細胞の活力に大きな差は見出されなかった。特に、細胞の活力および数は、足場の近位部分、中間部分、および遠位部分における長さ(足場の主軸)に沿って同等である。この立証は、内皮細胞を播種され、24時間インキュベートされた足場の各領域(近位、中間、遠位)を代表する試料をDAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、ジヒドロクロリド、D1306、ThermoFisher scientific)およびローダミンファロイジン(R415、ThermoFisher scientific)で共染色することによって裏付けられた。2つの試薬、DAPIおよびローダミンファロイジンは、それぞれ細胞核、アクチンフィラメント(F-アクチン)の検出に特化されており、ともに、生きている細胞の形態学的成分で、蛍光顕微鏡または共焦点顕微鏡を用いて、染色後に見ることができる。24時間の成長後のこれらの結果は、内皮細胞が活力があり、足場の内腔にわたって一様に分布していることを示している。特に、これらの結果は90%の細胞コンフルエンスを示している。
【0050】
さらに、内皮細胞を播種され、24時間インキュベートされた足場の各領域(近位、中間、遠位)を代表する試料に関して、例えば、フォンヴィレブランド因子(VWF)、クラスター分類31(CD31)、および血管細胞接着分子1(VCAM-1)などの内皮細胞の典型的なマーカーで遺伝子発現分析が行われた。遺伝子発現は、細胞(この場合は内皮細胞)から全RNAを抽出し、リアルタイムPCR法を用いて、特定のTaqman遺伝子発現アッセイ(ThermoFisher Scientific)でcDNAへの逆転写後に定量化することによって評価された。上記のマーカーの遺伝子発現の機能レベルは、足場の内腔に接着している細胞の良好な機能性および活力を示す。
【0051】
最後に、本発明による内皮細胞を播種された足場の試料に関して、H&E染色「ヘマトキシリンエオジン(Haematoxylin and Eeosin)染色」が細胞の分布およびそれらの形態を評価するために行われ、免疫蛍光染色アッセイが特定の内皮機能性マーカーに対して行われた。
【0052】
結論として、本発明による播種方法は、内腔の全長にわたって均一、一様、および再現可能な活力のある内皮細胞の播種を保証するので有効であることが示された。
【0053】
(2)第1の実施形態による、灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法(灌流方法)(図5図8図18図21
本接続方法は、播種((1)項において上記した実施形態による、足場の内腔に細胞培養物を播種するための方法)後、内皮細胞の接着の24時間後の以下の一連のステップに基づく。
【0054】
2.1 作動させると、流体を、この場合は温かい新しい培地を吸引および送出することができる蠕動力を発生する蠕動ポンプ(図5、55)の圧力がかかるように灌流閉回路の管またはポンプループ配管(図5、52)を配置する。灌流閉回路は、貯槽(図5、56)に接続された灌流回路の管(図5、51)によって、温かい新しい培地が吸引および送出されて満たされる。この温かい新しい培地は前もって貯槽に注がれ、次いで貯槽は閉じられている。新しい培地が、灌流閉回路の管54(図5、54)を経て貯槽に戻るまで、灌流回路の管すべてを温かい新しい培地で満たす。灌流回路と同じ無菌状態で、バイオリアクタ-足場システムを配置する。
【0055】
2.2 バイオリアクタの上流に配置されたTコネクタT2の上端および側方端を開ける。
【0056】
2.3 バイオリアクタの上流に配置されたTコネクタT2の上端および側方端からキャップを取り外すとき、泡が形成されていれば、温かい新しい培地の同等な量を手で加える(パスツールピペットを用いることが好ましい)ことによって泡の形成を補償する(図16)。
【0057】
2.4 灌流閉回路の管54を、好ましくは、灌流回路自体の管54と管53との間のコネクタの近くに配置されたクランプ(図17、171)で塞ぐ(図17)。灌流閉回路の管53が空にならないようにポンプのヘッドの閉止を保つことに気を付ける。
【0058】
2.5 灌流閉回路の管53を鉛直位置に保って、灌流回路の管53と管54との間のコネクタをねじって外し、好ましくは、灌流回路の管54をキャップで蓋をする。
【0059】
2.6 バイオリアクタの上流のTコネクタT2の側方通路につながるその開いた側方端に灌流閉回路の管53をねじって取り付ける。バイオリアクタの上流のコネクタは、常に鉛直位置を保たなければならない(図18)。
【0060】
2.7 バイオリアクタの下流のTコネクタT3を、側方開口のキャップをねじって外すことによって開ける。
【0061】
2.8 灌流回路の管54のコネクタからキャップを外し(図19A)、それをバイオリアクタの下流のTコネクタの側方開口にねじ込む(図19B)。
【0062】
2.9 灌流回路の管54を塞いでいるクランプ171を取り外す(図20)。
【0063】
2.10 本発明において泡トラップという技術用語で規定された気泡除去要素(図21、71)を満たす。泡トラップは、キャップで閉じられたチャンバによって代表され、入口と出口の機能を有する2つの通路を有する要素よりなる。泡トラップのチャンバには、ある量の流体(この場合は温かい新しい培地)およびある量の空気が入っており、泡トラップのチャンバの2つの通路を通って流れる灌流の流体中のいかなる泡も捕捉する。
【0064】
特定の量の空気を残すように温かい新しい培地で泡トラップを満たし、チャンバおよびその2つの通路をそれらのキャップで閉じる。
【0065】
2.11 以下のように、その前にバイオリアクタ-足場システムに接続された灌流回路に泡トラップを接続する(図7)。
a.管53を(灌流回路の管53と管52との間に配置された)TコネクタT1の側方端に接続するコネクタの近くに配置されたクランプで灌流回路の管53を閉じて、それ(図7、52)をねじって外す。
b.灌流回路の管53をキャップで閉じることが好ましい。この操作は、灌流回路の管53が空になるのを防ぐ。
c.(灌流回路の管53と管52との間に配置された)TコネクタT1の側方端の蓋をして、その上端を開ける。
d.泡トラップのチャンバの入口通路を開けて、それをTコネクタT1の鉛直方向の上端の通路に接続する。
e.泡トラップの出口通路を開けて、それを灌流回路の管53に接続する。管をねじらないように注意のこと。
f.泡トラップを鉛直位置に保持する。
g.灌流回路の管53が泡トラップのチャンバに接続されるとすぐに、管53からクランプ171を取り外す。ポンプを作動させて、バイオリアクタの上流のTコネクタT2の上端のキャップを開けて、プロセス中に管53に形成されたかもしれないすべての気泡を除去して、気泡が足場に達することを防ぐ。灌流回路とバイオリアクタ-足場システムよりなる組み立てられたシステムにポンプによって加えられた蠕動が足場の灌流を可能にする。
h.これを確認した後、バイオリアクタの上流のTコネクタT2をそのキャップで閉じる。
【0066】
(3)第2の好ましい実施形態による、灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法(灌流方法)(図22図27
本接続方法は、播種((1)項において上記した実施形態による、足場の内腔に細胞培養物を播種するための方法)後、内皮細胞の接着の24時間後の以下の一連のステップに基づく。
【0067】
3.1 無菌状態を維持しながら、灌流回路の管(図22、51、52、53、54、55)と、本発明において泡トラップという技術用語で規定された気泡除去要素(図22、BT)と、貯槽(図22、56)とを接続する。気泡除去要素または泡トラップ(BT:bubble trap)は、キャップで閉じられたチャンバ、好ましくはガラス製のチャンバによって代表され、入口の機能を有する、止め栓およびチューブクランプを有する通路(図27、211)、および出口の機能を有する、チューブクランプのみ有する通路(図27、221)の2つの非対称の通路を有する要素よりなる。泡トラップのチャンバには、ある量の流体(この場合は温かい新しい培地)およびある量の空気が入っており、泡トラップのチャンバの2つの通路を通って流れる灌流の流体中のいかなる泡も捕捉する。
【0068】
3.2 作動させると、流体を、この場合は温かい新しい培地を吸引および送出することができる蠕動力を発生する蠕動ポンプ(図22、57)の圧力がかかるように灌流閉回路のポンプループ配管(図22、52)を配置する。灌流閉回路は、貯槽(図22、56)に接続された灌流回路の管(図22、51)によって、温かい新しい培地が吸引および送出されて満たされる。この温かい新しい培地は前もって貯槽(図22、56)に注がれ、次いで貯槽は閉じられている。温かい新しい培地(上記で規定)が、灌流閉回路の管55(図22、55)を経て貯槽に戻るまで、灌流回路のすべての管、泡トラップ(図22、BT)、および貯槽(図22、56)を、温かい新しい培地などの灌流流体で満たす。BTおよび貯槽は、特定の量の空気を残すように満たされなければならない。特に、前記泡トラップのチャンバが、前記新しい培地で満たされる容積の第1の部分と、空気で満たされる容積の第2の部分を有し、前記容積の前記第2の部分が、泡トラップ(BT)の前記入口通路(211)および前記出口通路(212)を通って流れる灌流流体(温かい新しい培地)中に存在する気泡を捕捉する機能を有するように、泡トラップ(図22、BT)は満たされなければならない(図22)。
【0069】
3.3 管54を、好ましくはBTの近くの位置にあるクランプ(図23、172)で塞ぎ(図23)、(灌流回路の管に垂直な位置で)BTの止め栓を閉じる。
【0070】
3.4 灌流回路と同じ無菌状態で、バイオリアクタ-足場システムを配置する。
【0071】
3.5 管55を、好ましくは管54との接続部C(図23、C)の近くの位置にあるクランプ(図23、171、図17、171)で塞ぐ(図23)。バイオリアクタの上流に配置されたTコネクタT2(図4、T2)の上端および側方端を開ける。
【0072】
3.6 バイオリアクタの上流に配置されたTコネクタT2(図4)の上端および側方端からキャップを取り外すとき、泡が形成されていれば、温かい新しい培地の同等な量を手で加える(パスツールピペットを用いることが好ましい)ことによって泡の形成を補償する(図16)。
【0073】
3.7 閉じられた灌流回路の管54(図23)を鉛直位置に保持し、灌流回路の管54(図23)と管55(図23)との間のコネクタをねじって外し、好ましくは、灌流回路の管55をキャップで蓋をする(図24)。
【0074】
3.8 バイオリアクタの上流のTコネクタT2(図27)の側方通路につながるその開いた側方
端に灌流回路の管54をねじって取り付ける(図27)。バイオリアクタの上流のコネクタは、常に鉛直位置に保たなければならない(図18または図27)。
【0075】
3.9 バイオリアクタの下流のTコネクタT3(図4)を、側方開口のキャップをねじって外すことによって開ける。
【0076】
3.10 歯車R(図4)を静止した状態に保持して回転コネクタT3をTコネクタCR2(図4)と一緒にねじって外し、管55のコネクタ(図25)を足場支持部14a(図1)の側方開口にねじって取り付ける(図25)。
【0077】
3.11 灌流回路の管55を塞いでいるクランプ171を取り外す(図26)。
【0078】
3.12 灌流回路に接続された、播種されたバイオリアクタ-足場システムを約5%CO、約37℃の状態で配置し、ポンプループ配管52(図27)を自由な位置に配置し、灌流回路の管と並行に配置された泡トラップBT(図27)の止め栓を開け、クランプ172(図27)を取り外し、ポンプ(図27、57)を作動させる。灌流回路とバイオリアクタ-足場システムよりなる組み立てられたシステムにポンプによって加えられた蠕動が足場の灌流を可能にする。
【0079】
本書で説明する接続方法(灌流方法)は、上記の第1の実施形態および第2の実施形態が両方とも、足場、好ましくは管状足場の灌流回路を播種されたバイオリアクタ-足場システムに接続することを可能にすることが有利である。この手順は、気泡の形成を防ぎ、万が一形成された場合には、バイオリアクタ-足場システムの、内皮細胞が播種された足場に泡が達するのを防ぐ。さらに、すでに灌流回路内にあるいかなる気泡も、回路自体にある泡トラップ(図21、71、図27、BT)の存在のおかげで足場に達しない。このように、本出願者によって開発された方法は、足場の内腔内に気泡が全くないことを保証する。このシステムは、バイオリアクタの構成によって課せられた必要条件を満足する。本書で説明する詳細のすべては、本方法が操作者に依存しない、したがって機能的な内皮の構築の工業的なインビトロ産生での結果の再現性を保証する必要がある。さらに、この方法論によって、すべての作業が単純であるので無菌状態で行うことができる。さらに、この迅速で追跡可能な手順は、気泡が細胞に接触する危険性を減らし、したがって、足場、好ましくは管状足場の内腔に接着している内皮細胞を傷つけることを防ぐ。前記灌流方法によって、連続的(すなわち、コンフルエントな細胞の単層を有する)かつ機能的である内皮で被覆された内腔を有する足場を有する、工学的操作された血管組織/構築物を得ることが可能になる。
【0080】
接続方法の実験的立証
灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法の評価に対する実験的分析は、足場、好ましくは管状足場における細胞培養物のための播種方法の評価に適用されたものと同じである。
【0081】
本発明の文脈では、「灌流回路」(図5および図22)は、管(図5、51~54または図22、51~55)、貯槽(図5または図22、56)、蠕動ポンプ(図5、55または図22、57)、および気泡を除去するための要素(図21、71または図22、BT)の一式を意味する。気泡の除去のための前記要素は、播種されたバイオリアクタ-足場システムに灌流回路を接続する前に灌流回路にあってもよく(灌流方法の第2の実施形態)、または、その代わりに、播種されたバイオリアクタ-足場システムに灌流回路を接続した後に灌流回路に挿入されてもよい(灌流方法の第1の方法)。前記管は、生体適合性のものであり、バイオリアクタ11内に固定された足場、好ましくは管状足場を、蠕動ポンプ(図5、55、図22、57)(この場合、Easy-Load II 77200-62ヘッド(Masterflex(登録商標)、Cole-Parmer)を付けたMasterflex、L/Sデジタル送液ポンプ駆動装置07551-20、Cole-Parmer)によって灌流することができるように互いに接続される(図21および図27)。上記の、および図27に示した灌流方法の第2の実施形態を参照すると、灌流回路は、主として、内径3/16インチの5つの管よりなり、それらは貯槽から出る第1の吸入管51、ポンプループ配管の第2の管52、回路を泡トラップBTに接続する第3の管53、BTをバイオリアクタ-足場システムの上流のTコネクタT2に接続する第4の管54、バイオリアクタ-足場システムの下流のTコネクタT3に接続された、貯槽56に戻る第5の管55である。
【0082】
上記の、および図8に示した灌流方法の第1の実施形態を参照すると、管51はポンプループ配管52に、ポンプループ配管52はBTに、BTは管53に、管53はバイオリアクタ-足場システムの上流のTコネクタT2に、管54はバイオリアクタ-足場システムの下流のTコネクタT3および貯槽56に接続される。
【0083】
貯槽(図5または図22、56)は、温かい新しい培地(例えば、Endothelial Growth Medium EGM、Sigma Aldrich)が入る要素であり、管51(図5または図22)はそこから吸入し、管54(図5)または管55(図22)はそこに戻して、回路全体および播種されたバイオリアクタ-足場システムを閉回路に保つ。貯槽(図5または図22、56)は、貯槽のキャップに0.22μmのフィルタがあるため大気圧であり、このフィルタはその空気の無菌性を保証する。
【0084】
以下の好ましい実施形態RPnもまた、下記で説明するように、本発明の主題である。
【0085】
RP1.医療製品を試験するための、血管組織、好ましくは足場(図2、21)の作製のためのプロセスであって、
- 足場(図2、21)の内腔に内皮細胞培養物を播種して、播種された足場を生じさせるための方法であって、前記播種された足場がバイオリアクタ(図4、11)内にあって、播種されたバイオリアクタ-足場システムを生じさせる、方法と、その後に、
- 前記播種された足場の内腔にある内皮細胞を灌流するための方法であって、灌流回路(図6、51、52、53、54、55、および56)を前記播種されたバイオリアクタ-足場システムに接続することにある、灌流方法と
を含むプロセス。
【0086】
RP2.請求項RP1に記載のプロセスであって、足場の内腔に内皮細胞培養物を播種する前記方法が、
- 足場(21)、好ましくは電界紡糸絹フィブロインの管状足場を足場支持部(図1、13、13a、13b)の取付部に取り付けて、足場(21)を有する前記足場支持部(13)をバイオリアクタのチャンバ(11)内に固定してバイオリアクタ(図4、11)-足場(図4、21)システムを生じさせるステップと、
- バイオリアクタチャンバ(11)内の前記足場支持部(13)に取り付けられた前記足場(21)の内腔に新しい培地を注入するステップと、
- すでに前記培地を注入された、足場(21)を有する前記足場支持部(13)があるバイオリアクタチャンバ(11)内に前記新しい培地を加えるステップと、
- 20℃から30℃の間、好ましくは25℃の温度で、好ましくは1時間から18時間の間の時間、すでに前記培地を注入された、足場(21)の内腔内、および足場(21)を有する前記足場支持部(13)があるバイオリアクタチャンバ(11)内に前記培地を入れたままにするステップと、
- 足場(21)の内腔の内部、およびバイオリアクタチャンバの内部から培地を取り除くステップと、
- バイオリアクタ(11)の上流に配置されたコネクタ要素(T2)に取り付けられたシリンジタイプの容器(図10、91)内の前記新しい培地、およびHUVECタイプの内皮細胞よりなる細胞懸濁物を要素(CR1)によって放出するステップであって、前記細胞懸濁物が気泡を発生しないでコネクタ(T2)内を下り、足場(21)の内腔内にあるいかなる気泡もバイオリアクタ
(11)の下流に配置されたコネクタ(T3)の開口に向けて押してシステムから出すことができる流速になるように、前記細胞懸濁物が、バイオリアクタ(11)のチャンバ内にある足場(21)の内腔に連続流で放出される、ステップと、
- 前記細胞懸濁物が入っている、足場(21)を有する前記足場支持部(13)があるバイオリアクタチャンバ(11)内に前記新しい培地を加えるステップと、
- 好ましくは、5%COの存在下、37℃で24時間の間、バイオリアクタチャンバ(11)内に固定された足場(21)をインキュベートするステップと
を含むプロセス。
【0087】
RP3.RP1またはRP2に記載のプロセスであって、前記播種された足場の内腔内の内皮細胞の前記灌流方法が、
- 管(図5、51、52、53、54、55、および56)を備える灌流閉回路(図5)を用意するステップと、
- コネクタ(C)に近い位置にあるクランプタイプの閉止要素(図17、171)で灌流回路の管(54)を塞ぐステップと、
- 灌流回路の管53と管54(図5図17)との間に配置されたコネクタ(C)をねじって外すステップと、
- バイオリアクタの上流のコネクタ(T2)の側方通路のその開いた側方端に灌流回路の管(53)をねじって取り付けるステップ(図18)と、
- バイオリアクタの下流のコネクタ(T3)を開けて、側方開口のキャップをねじって外すステップ(図19a)と、
- 無菌状態を維持しながら、灌流回路の管(54)をバイオリアクタの下流のコネクタ(T3)の側方開口に接続して(図19b)、クランプタイプの閉止要素(図20、171)を取り外すステップと
を含むプロセス。
【0088】
RP4.RP3に記載のプロセスであって、入口(211)と出口(212)の機能を有する2つの通路を有する、キャップ(72)で閉じられた泡トラップタイプのチャンバ(図21)によって代表される要素(71)が灌流回路(図8図21)の管(53)内に挿入され、前記チャンバが容積を有し、その第1の部分が温かい新しい培地で満たされ、その第2の部分が空気で満たされ、前記通路(211および212)を通って流れる灌流流体内にあるいかなる気泡も後者の第2の部分に捕捉される、プロセス。
【0089】
RP5.請求項RP1から4のいずれか一項に記載のプロセスであって、足場、好ましくは管状足場が、例えば、電界紡糸絹フィブロインあるいはPGA/PLA(ポリグリコール酸/ポリ乳酸)またはPGA/PCL(ポリグリコール酸/ポリカプロラクトン)のコポリマーなど、単一ポリマーまたはコポリマーから形成された天然または合成由来のポリマーの足場から選ばれた、プロセス。
【0090】
RP6.RP1から5のいずれか一項に記載のプロセスであって、内皮細胞が、例えば、HAOEC(ヒト大動脈内皮細胞)、HCAEC(ヒト冠状動脈内皮細胞)、HMEVEC(ヒト皮膚微小血管内皮細胞)、またはHUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)などの血管組織の内皮を構成する細胞の中から選択された、プロセス。
【0091】
RP7.RP1から6のいずれか一項に記載のプロセスであって、培地がEndothelial Growth Medium(EGM、Sigma Aldrich、211-500)である、好ましくは37℃に加熱されたものである、プロセス。
【0092】
RP8.RP1から7のいずれか一項に記載のプロセスによって得られた、連続した機能的な内皮で被覆された内腔を有する足場。
【0093】
RP9.例えば、心臓弁、ステント、グラフト、およびカテーテルなどの、心血管および末梢血管領域に使用するための医療製品のインビトロ前臨床試験および臨床試験を実施するための、RP8に記載の足場の使用。
【0094】
実施および最適化する第1のステップは、細胞、好ましくは内皮細胞を播種するステップであり、その後、灌流回路をバイオリアクタおよび足場を備えるシステムに接続する第2の重要なステップが続き、その結果、連続した機能的な内皮のインビトロ産生のための工業化プロセスの信頼性、効率、および再現性が保証される。
【0095】
工学的操作された血管組織/構築物の作製、好ましくは、コンフルエントな細胞の単層を有する機能的で連続した内皮で被覆された内腔を有する足場の作製のためのこの発明による工業化プロセスの成功は、主に、播種、および灌流回路とバイオリアクタ-足場システムとの接続の成功、その結果、システム全体から気泡を信頼性が高く再現可能に除去することにある。播種方法は、細胞供給源および細胞の密度、足場の化学的性質および空隙率、ならびに細胞懸濁物の注入時の足場の空洞から気泡を完全に除去することに依存する。一方、灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法は、組み立てられたシステムの無菌性が保たれること、および気泡が播種された足場と接触することができないことを保証することに基づく。気泡は、細胞を傷つけ、それらの活力を損ない、したがって足場の内皮化を妨げる可能性があるので、気泡の形成を避けなければならないことに留意されたい。
【0096】
本発明の説明は、灌流回路をバイオリアクタ-足場システムに接続するための方法の選択が、その前に最適化された、内皮細胞を播種するための方法に依存することを示している。というのは、接続の前記方法が実験準備および灌流の要件に適合されなければならないからである。また、本発明の説明は、接続方法の選択が、インキュベータ内でのこのシステムに対して選ばれた位置の選択にも依存することを示している。
【0097】
足場、好ましくは管状足場に播種するためのプロセスは、本発明の説明において示したように、コンフルエントな内皮を有する、機能的な工学的操作された血管構築物のインビトロ産生において重要な要素の一つである。このプロセスは、内腔での一様で均一な内皮細胞の分布、および前記細胞の表面への接着に関与している。本発明の説明は、任意のバイオリアクタ-足場システムに適合された最も適切な播種方法の選択が、プロセスの再現性を決めることを示し、結果の再現性におけるその利点を示している。
【0098】
前臨床試験でさえ、また、それだけでなく、機能的な血管構築物の大規模作製のためには再現可能な方法が必要である。
【0099】
したがって、本発明のよる播種方法は、明確で追跡可能であり、内皮細胞の接着においては非常に一様な分布、および結果の良好な再現性を保証し、前臨床試験だけでなく工業的な試験に対するモデルとして血管構築物のインビトロ作製に焦点を絞った研究を行っている試験所にとって必要である。
【0100】
接着の24時間後、足場、主として管状足場の内腔に接着している細胞は、均一な血管内皮を形成することができるように形態および活力を維持しなければならない。したがって、(形成しているときに)細胞の接着を変え、したがって成長している血管層を失う可能性がある接続プロセス中のいかなる細胞変化も防ぐことが重要である。
【0101】
バイオリアクタを灌流回路に接続するための知られている方法は、内皮細胞を傷つけ、それらを部分的にでも内腔表面から引き離し、その結果、機能的な内皮層の形成は遅くなる、または妨げられる。さらに、バイオリアクタを灌流回路に接続するための知られている方法は、灌流時に接続管を(全体または部分的に)圧縮する、または曲げることによって形成されることがある気泡を全くなくすことを保証しない。気泡が播種された足場に達する前に気泡を除去することができる要素、例えば泡トラップを導入することによって、前記気泡と播種された足場との接触を完全に避けることが重要である。この不都合なことは、本発明によるプロセスによってうまく克服され、内皮細胞の一様な機能的な層、特にコンフルエントな細胞層で被覆された足場の内面が得られる。
【符号の説明】
【0102】
11 バイオリアクタ
13 足場支持部
13a 足場支持部
13b 足場支持部
14a 足場支持部
21 足場
41 バイオリアクタチャンバの上流の入口
42 バイオリアクタチャンバの下流開口
51 管
52 管
53 管
54 管
55 蠕動ポンプ
56 貯槽
57 蠕動ポンプ
71 気泡除去要素
72 キャップ
91 容器
101 ピペット
102 プランジャ
171 閉止要素、クランプ
172 クランプ
211 入口通路
212 出口通路
BT 気泡除去要素
C コネクタ
CR1 回転コネクタ
CR2 回転コネクタ
T1 Tコネクタ
T2 Tコネクタ
T3 Tコネクタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15a
図15b
図15c
図15d
図16
図17
図18
図19a
図19b
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
【外国語明細書】