(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141487
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置の製造方法、及び炭化珪素半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20230928BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20230928BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20230928BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
H01L29/78 658A
H01L29/78 652H
H01L29/78 658E
H01L29/78 652P
H01L29/06 301G
H01L29/06 301V
H01L29/78 652T
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047832
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓馬
(57)【要約】
【課題】耐圧の向上を可能とする炭化珪素半導体装置の製造方法、及び炭化珪素半導体装置を提供する。
【解決手段】一実施形態によると、炭化珪素半導体装置の製造方法は、炭化珪素を含む基板上に半導体層を形成し、前記半導体層に第1導電型の不純物を注入し、第1濃度を有する第1導電型の第1半導体領域を形成し、前記第1半導体領域の複数箇所に第2導電型の不純物を注入し、前記第1導電型の第1半導体ピラー部分と共に、前記第1半導体ピラー部分に隣接する、第2濃度を有する第2導電型の第2半導体ピラー部分を形成し、前記半導体層の形成と、前記第1半導体領域の形成と、前記第1半導体ピラー部分及び前記第2半導体ピラー部分の形成を繰り返す。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素を含む基板上に半導体層を形成し、
前記半導体層に第1導電型の不純物を注入し、第1濃度を有する第1導電型の第1半導体領域を形成し、
前記第1半導体領域の複数箇所に第2導電型の不純物を注入し、前記第1導電型の第1半導体ピラー部分と共に、前記第1半導体ピラー部分に隣接する、第2濃度を有する第2導電型の第2半導体ピラー部分を形成し、
前記半導体層の形成と、前記第1半導体領域の形成と、前記第1半導体ピラー部分及び前記第2半導体ピラー部分の形成と、を繰り返す、
炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第2濃度は、前記第1濃度より高い濃度である、
請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第2濃度は、前記第1濃度の2倍である、
請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記半導体層に接続される第1主電極を形成し、
前記第1半導体ピラー部分及び前記第2半導体ピラー部分の上に第2導電型の第2半導体領域を形成し、
前記第2半導体領域に接して第2主電極を形成し、
前記第1半導体領域、及び前記第1半導体ピラー部分の上に絶縁膜を介して制御電極を形成する、
ことを含む、
請求項1~3のいずれか1つに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1半導体ピラー部分の幅と、前記第2半導体ピラー部分の幅と、は、前記第1半導体ピラー部分及び前記第2半導体ピラー部分が隣接する方向において、同じ幅である、
請求項1~4のいずれか1つに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記第1半導体ピラー部分の第1シートキャリア濃度と、前記第2半導体ピラー部分の第2シートキャリア濃度と、は、同一である、
請求項1~4のいずれか1つに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記第1半導体ピラー部分の第1キャリア濃度と、前記第2半導体ピラー部分の第2キャリア濃度と、は、同一である、
請求項1~5のいずれか1つに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記第1半導体ピラー部分、及び前記第2半導体ピラー部分の形成を繰り返す場合、1つ前に形成された前記第1半導体ピラー部分、及び前記第2半導体ピラー部分に少なくともイオンが到達するように、それぞれイオン注入が実行される、
請求項1~7のいずれか1つに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項9】
第1導電型の半導体層と、
前記半導体層上に形成され、第1濃度の不純物を有する第1導電型の第1半導体ピラー領域と、
前記半導体層上に前記第1半導体ピラー領域に隣接して形成され、前記第1濃度の不純物及び第2濃度の不純物を有する第2導電型の第2半導体ピラー領域と、
前記半導体層に接続された第1主電極と、
前記第1半導体ピラー領域及び前記第2半導体ピラー領域の上に形成された第2導電型の第2半導体領域と、
前記第2半導体領域に接して形成された第2主電極と、
前記第1半導体領域、及び前記第1半導体ピラー領域の上側方向に絶縁膜を介して形成された制御電極と、
を備えた炭化珪素半導体装置。
【請求項10】
前記第1半導体ピラー領域、及び前記第2半導体ピラー領域が隣接する領域において、素子中央領域と、終端領域と、の間で、前記第1半導体ピラー領域、及び前記第2半導体ピラー領域の深さが、前記終端領域に向かって、段階的に浅くなる、
請求項9に記載の炭化珪素半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、炭化珪素半導体装置の製造方法、及び炭化珪素半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素を用いた半導体装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、耐圧の向上を可能とする炭化珪素半導体装置の製造方法、及び炭化珪素半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、炭化珪素半導体装置の製造方法は、炭化珪素を含む基板上に半導体層を形成し、前記半導体層に第1導電型の不純物を注入し、第1濃度を有する第1導電型の第1半導体領域を形成し、前記第1半導体領域の複数箇所に第2導電型の不純物を注入し、前記第1導電型の第1半導体ピラー部分と共に、前記第1半導体ピラー部分に隣接する、第2濃度を有する第2導電型の第2半導体ピラー部分を形成し、前記半導体層の形成と、前記第1半導体領域の形成と、前記第1半導体ピラー部分及び前記第2半導体ピラー部分の形成を繰り返す。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1実施形態に係る炭化珪素半導体装置の一例を示す模式断面図。
【
図2】第1実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法の一例を示すフローチャート。
【
図3】第1実施形態に係る半炭化珪素半導体装置の製造方法の工程における導体層の一例を示す模式上面図。
【
図4】第1実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法の工程における半導体層の一例を示す模式断面図。
【
図5】第1実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法の工程における半導体層の一例を示す模式上面図。
【
図6】第1実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法の工程における半導体層の一例を示す模式断面図。
【
図7】第1実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法の工程における半導体層の一例を示す模式断面図。
【
図8】第1実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法の工程における半導体層の一例を示す模式断面図。
【
図9】第1実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法の工程における半導体層の一例を示す模式断面図。
【
図10】第1実施形態に係る炭化珪素半導体装置の半導体素子の一例を示す模式断面図。
【
図11】第1実施形態に係る炭化珪素半導体装置のn形不純物の測定結果の一例を示す図。
【
図12】第1実施形態に係る炭化珪素半導体装置のp形不純物の測定結果の一例を示す図。
【
図13】第2実施形態に係る炭化珪素半導体装置の端部の構造の一例を示す模式断面図。
【
図14】第2実施形態に係る炭化珪素半導体装置の端部の構造の他の一例を示す模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚さと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の製造方法により製造される炭化珪素(SiC)を材料とする炭化珪素半導体装置200の断面の一例を示す模式断面図である。なお、本実施形態においては、第1導電型はn形、第2導電型はp形として説明する。さらに、各図中に示すX軸、Y軸およびZ軸を用いて各部分の配置および構成を説明する。X軸、Y軸、Z軸は、相互に直交し、それぞれX方向、Y方向、Z方向を表す。また、Z方向を上方、その反対方向を下方として説明する場合がある。
【0009】
図1に示すように、炭化珪素半導体装置200は、n形の炭化珪素からなる半導体層(第1半導体領域)2aの主面上にn形炭化珪素からなる第1半導体ピラー領域3と、p形炭化珪素からなる第2半導体ピラー領域4と、が、半導体層2aの主面に対してほぼ平行な方向(X方向)に周期的に配列されて設けられる。第1半導体ピラー領域3、及び第2半導体ピラー領域4の平面パターンは、後述する
図5に示すように、本実施形態では、幅Wのストライプ状である。なお、「幅」とは、第1半導体ピラー領域3と第2半導体ピラー領域4とが周期的に配列する方向における長さを示している。また、「ストライプ状」とは、第1半導体ピラー領域3と第2半導体ピラー領域4とが周期的に配列する方向(図示のX方向)と直交する方向(
図1のZ方向)において、第1半導体ピラー領域3と第2半導体ピラー領域4とがそれぞれ延在している構造を示している。以上のように、本実施形態の炭化珪素半導体装置200は、いわゆるスーパージャンクション構造を有している。第1半導体ピラー領域3、及び第2半導体ピラー領域4の幅は、それぞれ幅Wである。幅Wは、例えば、2μmである。
【0010】
第2半導体ピラー領域4の上には例えば、p形炭化珪素からなるベース領域5が、第2半導体ピラー領域4に接して形成されている。ベース領域5の表面には、例えば、n形の炭化珪素からなるソース領域(第2半導体領域)6が形成されている。ベース領域5及びソース領域6の平面パターンは、それぞれ、例えばストライプ状である。
【0011】
第1半導体ピラー領域3から、ベース領域5を経てソース領域6に至る部分の上には、絶縁膜7が設けられている。絶縁膜7は、例えば、酸化膜である。絶縁膜7の上には、制御電極8が設けられている。また、端部のベース領域5の上側には、絶縁膜10が形成されている。ここで、端部のベース領域5とは、アクティブ領域における最終端のベース領域である。また、アクティブ領域は、半導体層2aの主面に設けられ、炭化珪素半導体装置200の主動作を実行するための領域である。すなわち、アクティブ領域は、炭化珪素半導体装置200のオン動作に電流が流れる領域である。例えば、アクティブ領域は、後述する
図3においては、アクティブ領域101として示される。アクティブ領域101のX方向において、最も終端にそれぞれ位置するベース領域5が端部のベース領域である。
【0012】
ソース領域6の一部、ベース領域5におけるソース領域6間の部分の上、及び絶縁膜10側面から上側の一部には、ソース電極(第2主電極)9が形成されている。ソース電極9は、ベース領域5及びソース領域6と電気的に接続されている。また、半導体層2aの主面の反対側の面には、ドレイン電極(第1主電極)11が形成されている。ドレイン電極11は、半導体層2aと電気的に接続されている。
【0013】
制御電極8に所定の電圧が印加されると、その直下のベース領域5の表面付近にチャネルが形成され、ソース領域6と第1半導体ピラー領域3とが導通する。その結果、ソース領域6、第1半導体ピラー領域3、半導体層2aを介して、ソース電極9とドレイン電極11との間に主電流経路が形成され、それら主電極間はオン状態とされる。このように、炭化珪素半導体装置200は、通電可能に構成される。また、制御電極8に印加される電圧が停止されると、その直下のベース領域5の表面付近に形成されていたチャネルがなくなり、ソース領域6と第1半導体ピラー領域3とが導通しなくなる。その結果、ソース電極9と、ドレイン電極11間に主電流経路が形成されず、それら主電極間はオフ状態とされる。このように炭化珪素半導体装置200においては、オン状態、オフ状態が切り替えられる。
【0014】
スーパージャンクション構造を有する炭化珪素半導体装置200は、ターンオフ時のドレイン・ソース電圧(Vds)の上昇に伴い空乏層が隣接する第1半導体ピラー領域3、及び第2半導体ピラー領域4の間に広がる。Vdsの上昇に伴って空乏層は広がり続け、第1半導体ピラー領域3、及び第2半導体ピラー領域4が完全に空乏化する。これにより、第1半導体ピラー領域3、及び第2半導体ピラー領域4のピラー深さの空乏層が発生する。この空乏層により、炭化珪素半導体装置200は、耐圧を維持することができる。
【0015】
なお、
図11及び
図12を用いて後述するが、
図1に示すA-Aは、第1半導体ピラー領域3、及び第2半導体ピラー領域4のピラー深さの一例を示している。
【0016】
また、本実施形態の
図1、及び以下で説明する
図3~
図10、
図13,
図14において、第1半導体ピラー領域3、第2半導体ピラー領域4等の炭化珪素半導体装置200を構成する要素の数を一例として示しているが、炭化珪素半導体装置200を構成する要素の数は、適宜変更可能である。
【0017】
図2は、本実施形態の炭化珪素半導体装置200の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3~
図10は、炭化珪素半導体装置200の製造時の各工程における半導体層の模式図である。
図3,
図5は、半導体層の一例を示す模式上面図であり、
図4,
図6~
図10は、半導体層の一例を示す模式断面図である。
図4,
図6は、それぞれ
図3のB-B断面、
図5のC-C断面を示している。
【0018】
次に、炭化珪素半導体装置の200の製造方法について説明する。
まず、炭化珪素を含む基板1を準備し(ST101)、この基板1を所定条件下でエピタキシャル成長させる(ST102)。エピタキシャル成長層の導電型は、本実施形態においては、例えば、n形である。さらに、エピタキシャル成長層に含まれる不純物は、n形であり、本実施形態においては、例えば、窒素(N)である。また、n形不純物濃度は、1×1016/cm3である。
【0019】
次に、アクティブ領域101の全域にn形不純物を第1イオン注入濃度でイオン注入し、
図3,
図4に示すように、第1濃度を有するn形の半導体領域を形成する(ST103)。n形不純物は、例えば、窒素(N)、または、リン(P)である。第1濃度は、本実施形態においては、例えば、1×10
17/cm
3とする。例えば、既述のようにエピタキシャル成長層のn形不純物濃度が1×10
16/cm
3(0.1×10
17/cm
3)の場合においては、第1イオン注入濃度が0.9×10
17×cm
3に設定され、合算されることにより第1濃度(n形)は1.0×10
17/cm
3となる。また、アクティブ領域101の第1キャリア濃度(電子)は、1.0×10
17/cm
3である。キャリア濃度の説明は、後述する。
【0020】
次に、p形不純物を第2イオン注入濃度でイオン注入し、
図5,
図6に示すように、第2濃度を有するp形の第2半導体ピラー部分41を形成する(ST104)。p形不純物は、例えば、ホウ素(B)、または、アルミニウム(Al)である。第2濃度は、本実施形態においては、例えば、2×10
17/cm
3とする。つまり、第2濃度は、第1濃度より高く、本実施形態においては、第1濃度の2倍の濃度である。例えば、既述のようにエピタキシャル成長層のn形不純物濃度が1×10
16/cm
3の場合、かつ、第1濃度(n形)が1.0×10
17/cm
3の場合、第2イオン注入濃度が2.0×10
17/cm
3に設定され、第2濃度(p形)は、2.0×10
17/cm
3となる。また、第2半導体ピラー領域4の第2キャリア濃度(正孔)は、1.0×10
17/cm
3である。
【0021】
p形不純物は、半導体層100Bのアクティブ領域101に対して複数箇所にイオン注入される。ここで、複数箇所は、本実施形態においては、X方向において間隔W2毎に、それぞれY方向の直線上に位置される。これにより、アクティブ領域101に、ストライプ状の第2半導体ピラー部分41が形成される。これに伴い、アクティブ領域101の第2半導体ピラー部分41が形成されていない領域にストライプ状の第1半導体ピラー部分31が形成される。また、本実施形態において、イオンが注入されるマスクM(参照:
図6)のストライプ状の領域の幅は、
図1における第1半導体ピラー領域3、及び第2半導体ピラー領域4の幅Wより少し狭い幅W1(<W)であり、その間隔は幅Wより少し広い幅W2(>W)とする。このため、半導体層100Bのアクティブ領域101において、幅W2の第1半導体ピラー部分31と、幅W1の第2半導体ピラー部分41と、が、ストライプ状、かつ、周期的構造を有するように形成される。第2半導体ピラー部分41の幅W1は、例えば、後述する活性化処理によって、p形不純物が拡散されることにより、第2半導体ピラー領域4は、幅W1から幅Wとなり、これに伴い、第1半導体ピラー領域3も幅Wになる。
【0022】
また、本実施形態においては、
図1に示す炭化珪素半導体装置200の第1半導体ピラー領域3、及び第2半導体ピラー領域4の幅が同じ幅Wである場合で説明するが、各領域3,4の幅が例えば、2倍のように異なってもよい。この場合、各領域3,4のキャリア補償効果後のキャリア濃度を同一にする必要がある。ここで、キャリア補償効果とは、半導体中に不純物をイオン注入することにより、ドナーとアクセプターを共存させ、半導体中の電子の濃度、または正孔濃度を変化させることをいう。このようにキャリア補償後の濃度を、キャリア濃度と称することとする。
【0023】
例えば、第1半導体ピラー領域3の幅が1μm、キャリア濃度(第1キャリア濃度)が1×1017/cm3とし、第2半導体ピラー領域4の幅が2μmに設定された場合、完全空乏化する(言い換えれば、チャージバランスが保たれる)第2半導体ピラー領域4のキャリア濃度は、第1半導体ピラー領域3の半分のキャリア濃度(第2キャリア濃度)5×1016/cm3である。
したがって、第2半導体ピラー領域4は、第1濃度である1×1017/cm3を有するn型エピタキシャル層に対して、第2濃度である1.5×1017/cm3を有するp形不純物がイオン注入されて形成される。この第2半導体ピラー領域4は、前述したキャリア補償によって、5×1017/cm3のキャリア濃度を有する。
このように第1半導体ピラー領域3、第2半導体ピラー領域4の幅が異なる場合には、完全空乏化をするように、つまり、第1半導体ピラー領域3と、第2半導体ピラー領域4と、それぞれのシートキャリア濃度が同一になるように、第2半導体ピラー領域4にp形不純物をイオン注入すればよい。ここで、シートキャリア濃度とは、キャリア濃度と、各ピラー領域の幅と、を乗算した濃度をいう。つまり、シートキャリア濃度=(第1半導体ピラー領域3の幅1μm)×(第1キャリア濃度1×1017/cm3)=(第2半導体ピラー領域4の幅2μm×第2キャリア濃度5×1016/cm3)である。
【0024】
図5,
図6に示すように、半導体層100Cのアクティブ領域101においてp形不純物がマスクMを介してイオン注入された領域により、第2半導体ピラー部分41が幅W1のストライプ状に形成される。また、アクティブ領域101において、p形不純物がイオン注入されていない領域により、第1半導体ピラー部分31が幅W2のストライプ状に形成される。このように、第1半導体ピラー部分31と、第2半導体ピラー部分41と、が、同時に形成される。
【0025】
次に、
図7に示すように、炭化珪素を材料とするエピタキシャル層である半導体層2Aが、半導体層2に積層される(ST102)。
【0026】
次に、
図8の半導体層100B1が示すように、半導体層2Aのアクティブ領域101の全域にn形不純物が第1イオン注入濃度でイオン注入される(ST103)。
【0027】
次に、p形不純物が第2イオン注入濃度でイオン注入される(ST104)。
図9の半導体層100C1が示すように、ストライプ状の第1半導体ピラー部分31と、ストライプ状の第2半導体ピラー部分41と、が、周期的構造を有するように同時に形成される。半導体層を積層してイオン注入を実行する場合に、同じマスクMを使用することにより、積層方向で同一の領域に、第1半導体ピラー部分31と、第2半導体ピラー部分41と、が形成される。このような処理が繰り返されるごとに、第1半導体ピラー部分31、及び第2半導体ピラー部分41が積層されていく。このように、第1半導体ピラー部分31、及び第2半導体ピラー部分41が積層される場合、第1イオン注入時、及び第2イオン注入時において、1つ前に形成された第1半導体ピラー部分31、及び第2半導体ピラー部分41に少なくともn形不純物、p形不純物が到達するように、イオン注入が実行される。
【0028】
規定の回数の積層とイオン注入が行われることにより(ST105:YES)、
図10に示すように、半導体素子100が形成され、炭化珪素半導体装置200が完成される(ST106)。この工程には、例えば、半導体素子100に、ドレイン電極11、ベース領域5、ソース領域6、絶縁膜7、制御電極8、ソース電極9、絶縁膜10を形成する工程が含まれる。さらに、当該工程においては、活性化処理が実行される。活性化処理においては、n形不純物、及びp形不純物の拡散、及びアニール処理が実行される。これにより、ドレイン電極1、第1半導体ピラー領域3、第2半導体ピラー領域4、ベース領域5、ソース領域6、ソース電極9、及び制御電極8が電気的に活性化される。Z方向に積層された複数の第1半導体ピラー部分31、及び複数の第2半導体ピラー部分41は、電気的に活性化され、第1半導体ピラー領域3、及び第2半導体ピラー領域4となる。アニール処理は、炭化珪素の場合、例えば、1600℃~1900℃の高温で処理が実行される。また、炭化珪素は、アニール処理を行っても、拡散によりピラー形状の変化は殆ど生じず、例えば、わずかに第2半導体ピラー部分41の幅が幅W1から幅Wになる程度の変化である。
【0029】
このような工程を実行することにより、
図1に示す炭化珪素半導体装置200が製造される。
【0030】
次に、
図1に示す炭化珪素半導体装置200のアクティブ領域101の不純物の濃度測定結果について
図11,
図12を参照して説明する。
【0031】
図11は、n形不純物の測定結果の一例を示す図である。
図11において、縦軸は、測定されるn形不純物の濃度であり、横軸は、アクティブ領域101における距離である。アクティブ領域101は、例えば、
図1のA-Aで示す、ピラー深さ、かつ、
図5のC-C断面に相当する、ストライプ状に形成された第1半導体ピラー領域3と、第2半導体ピラー領域4と、に対して垂直方向(X方向)の断面の領域を示している。なお、図示のnは、第1半導体ピラー領域3の領域を示し、pは、第2半導体ピラー領域4の領域を示している。
【0032】
図11に示すように、n形不純物が検出される濃度は、アクティブ領域101の領域にかかわらず、一定である。本実施形態においては、既述の
図5,
図6で説明したように、アクティブ領域101の全域にn形不純物が第1イオン注入濃度でイオン注入されている。このため、活性化処理後に完成される炭化珪素半導体装置200においても、第1半導体ピラー領域3、及び第2半導体ピラー領域4のいずれの領域でもn形不純物がほぼ同じ濃度で測定される。
【0033】
図12は、p形不純物の測定結果の一例を示す図である。
図12において、縦軸は、測定されるp形不純物の濃度であり、横軸は、
図11の場合と同様のアクティブ領域101における距離である。なお、図示のnは、第1半導体ピラー領域3の領域を示し、pは、第2半導体ピラー領域4の領域を示しているのは、
図11の場合と同様である。
【0034】
図12に示すように、測定されるp形不純物の第2濃度は、第1半導体ピラー領域3、及び第2半導体ピラー領域4のいずれの領域であるかによって、異なる。つまり、第2半導体ピラー領域4において、p形不純物がほぼ同じ濃度で測定されるが、第1半導体ピラー領域3においては、p形不純物が測定されない。
【0035】
このように、本実施形態の炭化珪素半導体装置200においては、n形不純物はアクティブ領域101の全域で測定されるが、p形不純物はアクティブ領域101の第2半導体ピラー領域4でだけ測定される。
【0036】
以上のように、炭化珪素半導体装置200の製造方法は、アクティブ領域101の全域にn形不純物を第1イオン注入濃度でイオン注入した後、p形不純物をストライプ状に第2イオン注入濃度でイオン注入する工程を経て製造される。このため、ストライプ状にイオン注入してn形の領域を形成した後、ストライプ状にイオン注入してp形の領域を形成する場合と比較して、各ストライプのマスク合わせをする必要がない。このため、炭化珪素半導体装置200の製造を容易にすることができる。
【0037】
さらに、炭化珪素半導体装置200の製造方法は、第1半導体ピラー領域3において、n形不純物が第1濃度となるようにイオン注入されており、第2半導体ピラー領域4において、p形不純物が、n形不純物の第1濃度の2倍の第2濃度となるようにイオン注入されている。したがって、第1半導体ピラー領域3と、第2半導体ピラー領域4と、で、チャージバランスを保持することが可能になる。
【0038】
また、炭化珪素半導体装置200は、チャージバランスを保持することが可能であるため、空乏層の形成時に、チャージバランスが不均衡になり、空乏層の広がりが不均一になることによる耐圧の低下を防止することができる。
【0039】
さらに、炭化珪素半導体装置200は、ストライプ状の方向(Y方向)と垂直方向(X方向)において、第1半導体ピラー領域3と、第2半導体ピラー領域4と、のオーバーラップ量を原理上最小化することができる。これにより、オーバーラップする部分のキャリア補償による高抵抗化、すなわち、電流流路の狭窄による素子抵抗の上昇を防止することができる。
【0040】
加えて、炭化珪素半導体装置200は、炭化珪素を材料に用いているため、活性化処理時に、第1半導体ピラー領域3、及び第2半導体ピラー領域4のピラー形状は、殆ど変化しない。したがって、炭化珪素半導体装置200は、活性化処理時に、第1半導体ピラー領域3、及び第2半導体ピラー領域4の形状が変化することによって生じるチャージバランスの変化による耐圧の低下を防止することができる。
【0041】
(第2実施形態)
第2実施系形態は、前記第1半導体ピラー領域、及び前記第2半導体ピラー領域の深さが炭化珪素半導体装置の端部で、段階的に浅くなるように構成した点が第1実施形態と異なっている。したがって、当該構成が相違する点について詳細に説明する。なお、上記第1実施形態と同一構成には同一の符号を付すこととする。
【0042】
図13は、本実施形態の炭化珪素半導体装置300の端部の構造の一例を示す模式断面図である。
図13に示すように、炭化珪素半導体装置300の端部は、中央領域51、境界領域52、および終端領域53を有している。中央領域51は、第1半導体ピラー領域3、及び第2半導体ピラー領域4が同一の深さで形成されている領域である。境界領域52は、中央領域51と、終端領域53と、の間の領域である。境界領域52においては、第1半導体ピラー領域3、及び第2半導体ピラー領域4の深さが、中央領域51から終端領域53に向かうにしたがって、段階的に浅くなるように構成されている。また、終端領域53においては、高抵抗層13が設けられ、その表面上には、絶縁膜10が設けられている。また、終端領域53の最も外側には、フィールドストップ層12が設けられている。
【0043】
境界領域52においては、最も終端領域53側に形成される第1半導体ピラー領域3a、及び第2半導体ピラー領域4aの領域が、それぞれ、他の第1半導体ピラー領域3、及び第2半導体ピラー領域4の領域の半分になっている。つまり、各層の最も終端領域53側のピラーの不純物量が半分になっている。なお、このように段階的に浅くなる構成は、各層において、マスクを取り換えて積層処理を実行すればよい。
【0044】
このように、境界領域52において、段階的にピラーの深さが浅くなる構造において、各層の最も終端領域53側のピラーだけ不純物量を半分にすれば、チャージバランスがよくなり、炭化珪素半導体装置300は、高耐圧が得られ易くなる。
【0045】
図14は、本実施形態の炭化珪素半導体装置400の端部の構造の一例を示す模式断面図である。
図14に示すように、炭化珪素半導体装置400の境界領域52において、第1半導体ピラー領域3が最も終端領域53側にある各層において、当該第1半導体ピラー領域3aのn形不純物量が他の第1半導体ピラー領域3の半分に形成されている。一方、第2半導体ピラー領域4のp形不純物量は全ての第2半導体ピラー領域4で同じである。境界領域52において、このように、段階的に浅くなる構造を構成してもよい。また、第1半導体ピラー領域3のn形不純物を半分にする構成を説明したが、第2半導体ピラー領域4が最も終端領域53側にある各層において、当該第2半導体ピラー領域4のp形不純物量を他の第2半導体ピラー領域4の半分にし、第1半導体ピラー領域3のn形不純物量は、全ての第1半導体ピラー領域で同となるように構成してもよい。
【0046】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明及びその等価物の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
1…基板、2…半導体層、2a…半導体層、3…第1半導体ピラー領域、31…第1半導体ピラー部分、4…第2半導体ピラー領域、41…第2半導体ピラー部分、5…ベース領域、6…ソース領域、7…絶縁膜、8…制御電極、9…ソース電極、10…絶縁膜、11…ドレイン電極、12…フィールドストップ層、13…高抵抗層、51…中央領域、52…境界領域、53…終端領域、100…半導体素子、200,300,400…炭化珪素半導体装置、W…幅、M…マスク