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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141500
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】支持装置
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20230928BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20230928BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
F16F15/02 L
F16F15/02 E
F16F15/023 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047850
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工機械システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長屋 圭一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 朋成
(72)【発明者】
【氏名】木村 寛之
(72)【発明者】
【氏名】二宮 昌三
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 澪
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139AC42
2E139CA30
3J048AA06
3J048AA07
3J048AC01
3J048AC04
3J048BE03
3J048BE11
3J048CB21
3J048CB22
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】免震装置としての性能調整が容易な支持装置を提供する。
【解決手段】構造物を支持する本体部と、前記本体部に支持される動力機と、前記本体部に支持され、前記動力機によって回転駆動されて走行路を走行する車輪と、前記動力機と前記車輪との間でトルクを伝達する伝達機構と、を備え、前記伝達機構は、前記トルクが閾値以下である場合に前記トルクを伝達し、前記トルクが前記閾値より大きい場合に前記トルクの伝達を制限する、支持装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を支持する本体部と、
前記本体部に支持される動力機と、
前記本体部に支持され、前記動力機によって回転駆動されて走行路を走行する車輪と、
前記動力機と前記車輪との間でトルクを伝達する伝達機構と、を備え、
前記伝達機構は、
前記トルクが閾値以下である場合に前記トルクを伝達し、
前記トルクが前記閾値より大きい場合に前記トルクを低減して伝達させる、支持装置。
【請求項2】
前記伝達機構は、
前記動力機からの回転を伝達する第1駆動軸に固定される第1部材と、
前記車輪に回転を伝達する第2駆動軸に固定された第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間で前記トルクを伝達する伝達部とを有し、
前記伝達部は、前記トルクが前記閾値より大きい場合に、伝達するトルクを前記閾値に制限し、受けた動力の一部を熱に変換する、
請求項1に記載の支持装置。
【請求項3】
前記本体部と前記走行路との連結及び連結解除を行う連結器をさらに備え、
前記連結器は、前記本体部と前記走行路との間における震動を減衰させる減衰装置を有する、
請求項1または2に記載の支持装置。
【請求項4】
前記連結器は、前記本体部に対して移動可能に支持された棒状の棒部材をさらに備え、
前記減衰装置は、
前記棒部材に固定された、内部に流体を保持するシリンダと、
前記シリンダを貫通するロッドであって、前記本体部と前記走行路との連結時において両端部が前記走行路に支持されるロッドと、を備える、
請求項3に記載の支持装置。
【請求項5】
前記動力機からの回転を減速して前記伝達機構に伝達する第1減速機と、
前記伝達機構からの回転を減速して前記車輪に伝達する第2減速機と、をさらに備える請求項1から4のいずれか1項に記載の支持装置。
【請求項6】
駆動系統において前記伝達機構よりも前記動力機側に位置し、前記動力機から伝達される回転を止める制動装置をさらに備える、請求項1から5のいずれか1項に記載の支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動式の開閉屋根を支持する走行台車に、免震装置の機能を持たせることが従来として知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-131382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の台車では、実際に地震などの震動が発生した場合、塑性変形後のロックピンを交換する手間が発生することに加え、ロックピンのヒステリシスを正確に計算して、所望する減衰性能に調整することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一態様として、構造物を支持する本体部と、前記本体部に支持される動力機と、前記本体部に支持され、前記動力機によって回転駆動されて走行路を走行する車輪と、前記動力機と前記車輪との間でトルクを伝達する伝達機構と、を備え、前記伝達機構は、前記トルクが閾値以下である場合に前記トルクを伝達し、前記トルクが前記閾値より大きい場合に前記トルクの伝達を制限する、支持装置を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、免震装置としての性能調整が容易な支持装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態による支持装置、構造物、及び走行路の概観図である。
図2】実施形態による支持装置の断面図である。
図3】実施形態による支持装置の側面図である。
図4】実施形態における駆動系統の主要部分の側面図である。
図5】(a)実施形態における駆動系統の構成を、機能ブロックなどを用いて説明する図と、(b)トルクリミッタの構成の説明図である。
図6】(a)オイルダンパが隔離位置にある状態と(b)オイルダンパが連結位置にある状態における、実施形態の本体部側面図と、(c)オイルダンパの断面図である。
図7】実施形態の連結器の機能構成を示す図である。
図8】変形例による駆動系統の構成を、機能ブロックなどを用いて説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態に係る支持装置1を図1から図7を用いて説明する。図1に示すように、支持装置1は、構造物3を支持する機能を備え、構造物3の中心線CLについて対称に配置される。支持装置1は、構造物3の支持及び移動を行う装置であるとともに、構造物3の震動を抑制する免震装置としても機能する。
【0009】
支持装置1は、水平に延びる走行路9に沿って複数台配列されるとともに、いずれも走行路9に沿って走行可能である。支持装置1のそれぞれは、その上面が構造物3から受ける力の方向に対して略垂直となるように設置され、構造物3を支持する。
【0010】
上述の通り支持装置1は複数台設置されるが、そのうちの1台について以下に説明を行う。以下の説明においては、図2図3などに示すように、走行路9と平行なY軸を定義する。また、Y軸に直交するとともに、支持装置1の上面と平行な軸をX軸とする。X軸及びY軸に直交する軸をZ軸とする。
【0011】
構造物3は、Z軸方向に延びる脚部31を備える。脚部31の下端部は、支持装置1に対し、回転可能となるようにピン接合される。構造物3は、本実施形態においては鉄骨造の屋根とする。支持装置1がY軸方向に走行することにより、構造物3はY軸方向に移動または開閉し、開閉屋根として機能する。
【0012】
なお、構造物3には、設計条件に応じてプレストレストコンクリート造や鉄筋コンクリート造など様々な構造が採用され得る。また、屋根以外にも、橋梁や建物など様々な形状及び用途が、構造物3には採用され得る。
【0013】
走行路9は、図2図3に示すように、ガーダー91と、ガーダー91上の敷設された軌道92、93、94A、94Bと、を備える。また、走行路9には、複数個所において連結溝9Aが形成される。
【0014】
ガーダー91は、Y軸方向に延びる大梁であり、軌道92、93、94A、94Bを介して、構造物3及び支持装置1を支持する。
【0015】
軌道92、93は、いずれもY軸方向に延びるレールであり、互いにX軸方向に対向するように敷設される。軌道92、93は、支持装置1のY軸方向への走行を可能にするとともに、X軸方向への移動を拘束する。
【0016】
軌道94A、94Bは、Y軸方向に延びる1対のレールであり、X軸方向に並ぶように、ガーダー91上に敷設される。軌道94A、94Bの上面はZ軸方向に直交し、支持装置1及び構造物3を支持する。
【0017】
連結溝9Aは、Y軸方向に延びるとともにX軸方向に深さを持つ溝である(図6(a)、(b))。連結溝9AのY軸方向両端部には、Z軸方向に視て楔形に形成された鋼製の案内部95が設置される。連結溝9A内の2つの案内部95は、Y軸方向に対向するように配置されており、支持装置1と走行路9の連結を円滑に実施させる機能を有する。
【0018】
支持装置1は、図2から図7に示すように、本体部10と、駆動系統20と、連結器40と、4つの車輪11とを備える。駆動系統20の主要部分及び連結器40は、本体部10に支持される。
【0019】
本体部10は、X軸及びY軸方向に延びるように複数の鋼材を配置し、互いに剛接することで形成された部材である。本体部10の上部は、脚部31の下端部にピン接合される。
【0020】
車輪11は、本体部10のうち、X軸に直交する二つの側面部において2個ずつ設置され、本体部10によって、それぞれZ軸方向に延びる回転軸を中心に回転可能に支持される。本体部10に装着された4つの車輪11は、軌道92及び軌道93上をY軸方向に走行する。
【0021】
駆動系統20は、支持装置1に動力を供給し、支持装置1を走行させる機構である。駆動系統20は、モータ21、ブレーキ22、車輪23、減速機24、25、トルクリミッタ26、及び、これらの部材を繋ぐドライブシャフト27を備える(図4図5)。
【0022】
ドライブシャフト27は、モータ21で生じた動力を、複数の装置を介して車輪23に伝達する機能を備える。ドライブシャフト27は、モータ21と減速機24とを接続するシャフト27A、減速機24とトルクリミッタ26とを接続するシャフト27B、トルクリミッタ26と減速機25とを接続するシャフト27C、及び、減速機25と車輪23とを接続するシャフト27Dを有する。シャフト27A-27Dは、接続する装置間でトルク及び回転を伝達する。
【0023】
また、駆動系統20は、ブレーキ22及びモータ21を制御する制御部28をさらに備える。制御部28は、本実施形態においては構造部3に保持され、ブレーキ22及びモータ21と通信可能に接続される。なお、制御部28は、本体部10に保持てもよい。
【0024】
モータ21は、支持装置1の動力を発生される装置であり、シャフト27Aに連結された出力軸211を備える。モータ21は出力軸211を回転させることにより、ドライブシャフト27を介して車輪23に動力を与え、回転させる。
【0025】
ブレーキ22は、モータ21の上部に設置される。ブレーキ22は、出力軸211を把持することにより、出力軸211の回転を止める制動装置である。
【0026】
車輪23は、本体部10の下部において4個配置され、それぞれX軸まわりに回転可能となるように、本体部10に支持される。車輪23はシャフト27Dに接続されており、動力を受けて回転駆動される。
【0027】
減速機24、25は、複数のギヤを内部に有し、モータ21側の装置、部材から伝達されてくる回転の回転速度を減速させて車輪23側の部材や装置へ伝達する装置である。駆動系統20において、減速機24はモータ21とトルクリミッタ26との間で配置され、シャフト27Aから伝達される回転の回転速度を減速させてシャフト27Bへ伝達する。また、減速機25はトルクリミッタ26と車輪23との間に配置され、シャフト27Cから伝達される回転の回転速度を減速させてシャフト27Dへ伝達する。減速機24、25の減速比はモータ21の出力や支持装置1の速度や支持荷重などの条件に応じて適宜設定される。本実施形態においては、減速機24の減速比は約17とし、減速機25の減速比は約63とする。
【0028】
トルクリミッタ26は、シャフト27Bからシャフト27Cへのトルク伝達を制御する装置である。トルクリミッタ26は、シャフト27Bに連結された円柱形または円筒形の部材261と、シャフト27Cに連結された円柱形または円筒形の部材262と、部材261、262を保持する伝達部263とを備える(図5(b))。伝達部263は、部材261、262間にトルクを伝達する機能を有するが、部材261から受けるトルクがあらかじめ設定された閾値より大きい場合には、部材262へ伝達するトルクを閾値にほぼ等しい大きさに制限させる。
【0029】
詳細に述べると、伝達部263は、部材261、262の少なくとも何れかに対して、円周方向では摩擦を介してトルクを伝達する。部材261、262と伝達部263との間に生じる摩擦力は、伝達部263が伝達するトルクの閾値の設定に用いられる。
【0030】
閾値は、支持装置1の走行に支障が無いよう、支持装置1走行時の車輪23の駆動に必要なトルクよりも充分高い値に設定される。
【0031】
部材261、262の一方から受けるトルクがこの閾値より大きい場合、伝達部263は、部材261、262の少なくとも何れかに対して滑って空転し、部材261、262の他方に伝達されるトルクを閾値に制限する。一方、部材261から受けるトルクが閾値以下の場合、伝達部263は、トルクを部材261、262の間でそのまま伝達する。
【0032】
連結器40は、走行路9と支持装置1とを連結し、支持装置1の移動を規制する機能を有する装置である。連結器40は棒状の部材41と、部材41の端部に固定されたオイルダンパ42と、部材41をX軸方向に駆動する駆動部43とを備える(図6図7)。
【0033】
部材41は、X軸方向に延びる鋼材であり、本体部10に対してX軸方向に移動する。
【0034】
オイルダンパ42は、部材41の端部に固定されるシリンダ421と、シリンダ421をY軸方向に貫通する棒状のロッド422と、ロッド422に固定された弁423とを有する。
【0035】
シリンダ421は、Y軸方向に延びる円筒形状の部材であり、その内部にはオイルなどの粘性を有する流体が充填される。
【0036】
ロッド422は、Y軸方向に延びる棒状の部材であり、シリンダ421を貫通するように配置される。ロッド422の両端部は、連結溝9Aへ侵入しやすいように、球体の一部分をなすような略球冠状に形成される。ロッド422の全長は、対向する2つの案内部95の間隔にほぼ等しい。連結溝9Aにおいて2つの案内部95の間に隙間なく挿入されることによって、ロッド422は走行路9に連結される。
【0037】
弁423は、ロッド422の径方向に延びる円盤状の部材であり、その外周部はシリンダ421の内周面に隙間なく接触する。弁423には、Y軸方向に貫通する孔であるオリフィス423Aが形成される。
【0038】
オイルダンパ42は、加えられた震動を熱エネルギーに変換し、減衰させる機能を有する。すなわち、オイルダンパ42は、構造物3及び支持装置1の減衰装置として機能する。詳細に述べると、ロッド422がシリンダ421に対して相対移動するとき、オイルがオリフィス423Aを通過する。これに伴い、オイルは弁423に対して粘性抵抗を発生させる。ロッド422及び弁423がこの粘性抵抗に抗って移動するため、ロッド422に加わられたエネルギーの一部は熱エネルギーへと変換される。このようにして、ロッド422に加えられた震動は減衰する。
【0039】
減衰係数など、オイルダンパ42の性能は設計条件に応じて適宜設定されるが、構造物3及び支持装置1全体の質量に対して減衰率が10.0(1/sec)以下程度となるように設定されることが望ましい。
【0040】
駆動部43(図7)は、モータなどの動力機によって構成され、減速機を介して部材41をX軸方向に駆動する機能を有する。部材41を駆動する具体的構成としては、ラック及びピニオンによるものや、ジャッキを用いたものなど様々な機構が採用され得る。
【0041】
駆動部43は、オイルダンパ42を、連結溝9A内に挿入された位置である連結位置(図6(a))と、連結溝9Aから隔離された位置である隔離位置(図6(b))との間で移動させることができる。
【0042】
<走行装置としての動作>
支持装置1の動作について説明する。支持装置1は、上述の様に走行路9上をY軸方向に走行し、屋根である構造物3の移動、開閉を行うことができる。構造物3の開閉時においては、モータ21が駆動して車輪23を回転させ、支持装置1を走行させる。
【0043】
構造物3の開閉が終了すると、ブレーキ22によって、出力軸211が回転不能となるように拘束される。ドライブシャフト27を介して出力軸211に接続される車輪23の回転も拘束され、支持装置1の走行路9に対する移動が拘束される。
【0044】
同時に、支持装置1は、走行路9に連結器40を介して連結する。連結の際、駆動部43がオイルダンパ42を連結位置まで移動させる。ロッド422の両端部は曲面を有するため、また、ロッド422がシリンダ421を貫通しているため、ロッド422は案内部95に接触しながらスムーズに案内され、Y軸方向に変位しつつ連結溝9Aに侵入する。このようにして、連結部40を介して、本体部10と走行路9との連結が完了する。
【0045】
支持装置1及び構造物3は、上記のようにブレーキ22と連結器40とによって、走行路9に対してY軸方向への移動が拘束される。
【0046】
構造物3を再び移動させる際には、まず駆動部43がオイルダンパ42を隔離位置に移動させて、走行路9と本体部10との連結を解除する。次に制御部28がモータ21を駆動させることによって支持装置1が走行し、構造物3が移動する。
【0047】
<免震装置としての機能>
地震などの大きな震動が走行路9に発生した場合、以下に述べるように、支持装置1は免震装置として機能する。
【0048】
震動発生時には、支持装置1を走行路9に対して移動させる力が発生し、これに伴って車輪23を回転させるトルクが生じる。車輪23から伝達されるトルクがトルクリミッタ26の閾値を超えると、シャフト27Cは、閾値とほぼ等しい大きさのトルクの抵抗を部材262から受けつつ、回転する。シャフト27Cの回転に伴って、シャフト27D及び車輪23の回転も可能になり、支持装置1は走行路9に対して、Y軸方向に移動する。なお、支持装置1の変位は、シリンダ421に対するロッド422のストローク最大値までに制限される。
【0049】
支持装置1が移動することにより、構造物3の走行路9に対する拘束が解除される。走行方向であるY軸方向において、構造物3(及び支持装置1)の固有周期が延びて長周期化されるため、支持装置1及び構造物3の応答加速度は低減される。
【0050】
支持装置1が移動するとき、部材262は、トルクリミッタ26内部の摩擦力に抗して回転する。そのため、支持装置1に入力される震動の一部は、トルクリミッタ26内部の摩擦によって熱に変換され、減衰する。このようにトルクリミッタ26は、支持装置1及び構造物3の震動を減衰させる。
【0051】
同時に、オイルダンパ42による減衰も発生する。支持装置1の移動に伴い、ロッド422はシリンダ421に対して、オイルの粘性抵抗に抗して移動する。そのため、オイルダンパ42は、支持装置1及び構造物3の震動を減衰させる。
【0052】
このように支持装置1は、地震などの震動発生時において構造物3に生じる加速度を低減し、また、震動を減衰させる免震装置として機能する。
【0053】
<効果>
実施形態において、支持装置1は、構造物3を支持する本体部10と、本体部10に支持されるモータ21(本件の動力機に相当する)と、本体部10に支持され、モータ21によって回転駆動されて走行路9を走行する車輪23と、モータ21と車輪23との間でトルクを伝達するトルクリミッタ26(伝達機構に相当)とを備える。トルクリミッタ26は、トルクが閾値以下である場合にトルクを伝達し、トルクが閾値より大きい場合にトルクの伝達を制限する。
【0054】
上記構成において支持装置1は、地震などの震動発生時においてトルクリミッタ26の閾値を超えるトルクが発生すると、支持装置1が走行路9に対して移動可能となる。上述の通り、構造物3の固有周期が延び、構造物3に発生する加速度が低減される。このように、支持装置1は、モータ21の動力により構造物3の移動を可能とするだけでなく、免震装置としても機能する。
【0055】
加えて、震動発生時の車輪23の回転に対して、トルクリミッタ26が内部の摩擦等を利用して抵抗し、受けた回転に係る動力の一部を熱に変換するため、支持装置1の震動が減衰する。
【0056】
なお、トルクリミッタ26の代わりに、ブレーキによる摩擦やモータに内蔵されたロータの慣性モーメントなどを利用して震動を減衰させることも考えられる。しかし、この方法ではブレーキパッドの摩耗など、装置状態によって挙動が変化するため、安定した減衰性能を得ることができない。一方、トルクリミッタ26は、トルクの閾値の調整が容易であり、また、安定した性能を示す。そのため、支持装置1の拘束解除に必要な力、及び減衰の調整が容易である。支持装置1には安定した性能が付与され、免震装置としての性能調整が容易である。
【0057】
実施形態において、トルクリミッタ26は、モータ21からの回転を伝達するシャフト27B(第1駆動軸)に固定される部材261と、車輪23に回転を伝達するシャフト27C(第2駆動軸)に固定された部材262と、部材261と部材262との間でトルクを伝達する伝達部263とを有する。伝達部263は、トルクが閾値より大きい場合に、部材262に対して伝達するトルクを閾値に制限する。
【0058】
上記構成では、トルクリミッタ26を機械的に構成できる。トルクリミッタ26を小型、かつ簡易な構成によって実現できる。
【0059】
実施形態において、支持装置1は、本体部10と走行路9との連結及び連結解除を行う連結器40をさらに備え、連結器40は、本体部10と走行路9との間の震動を減衰させるオイルダンパ42(減衰装置に相当)を有する。
【0060】
上記構成により、支持装置1は、大きな地震、震動が無いとき(通常時)に連結器40によって構造物3の不慮の移動を防止することができる。一方、地震などの震動発生時においては、オイルダンパ42によって構造物3へ伝達される震動を減衰させることができる。
【0061】
実施形態において、連結器40は、本体部10に対して移動可能に支持された棒状の部材41(棒部材に相当)をさらに備える。オイルダンパ42は、部材41に固定された、内部に流体を保持するシリンダ421と、シリンダ421を貫通し、本体部10と走行路9との連結時において両端部が走行路9に支持されるロッド422と、を備える。
【0062】
上記構成では、ロッド422がシリンダ421を貫通しており、連結時には走行路9に支持されるため、走行路9と支持装置1との間に生じた震動を損失無く受け取り、シリンダ421との間で減衰させることができる。また、ロッド422が連結溝9Aに挿入される際、ロッド422は案内部95に接触しながらY軸方向へ移動することができる。ロッド422の位置調整を容易に行えるため、連結溝9Aとの連結、及びその解除が円滑に実行される。
【0063】
実施形態において、支持装置1は、モータ21からの回転を減速してトルクリミッタ26に伝達する減速機24(第1減速機に相当)と、トルクリミッタ26からの回転を減速して車輪23に伝達する減速機25(第2減速機に相当)と、をさらに備える。
【0064】
減速機24、25の間にトルクリミッタ26を配置することで、トルクリミッタ26に加わるトルクと回転速度とを、トルクリミッタ26が許容できる大きさに設定できる。換言すれば、減速機24、25を用いることによって、トルクリミッタ26を過大なトルクまたは回転速度に合わせて設計する必要が無くなり、小型または簡易な装置をトルクリミッタ26として用いることが可能である。
【0065】
実施形態において、駆動系統20においてトルクリミッタ26よりもモータ21側に位置し、ドライブシャフト27の回転を止めるブレーキ22(制動装置に相当)を、支持装置1は、さらに備える。
【0066】
上記構成では、ブレーキ22は、出力軸211の回転を制動するため、大きなトルクに対抗する必要がない。そのため、ブレーキ22を簡易な構成とすることができる。また、トルクリミッタ26よりもモータ21側で制動が行われるため、震動発生時には車輪23の回転が可能となる。支持装置1は、通常時において構造物3を走行路9へ固定し、震動発生時には構造物3の固定を解除して免震装置として機能することができる。
【0067】
<変形例>
トルクリミッタ26以外の部材や装置によって、トルク伝達の制御が実行されてもよい。変形例による支持装置100として以下に示す。
【0068】
支持装置100を図8に示す。支持装置100の駆動系統120は、トルクリミッタ26に代わり、伝達装置としてクラッチ126を備える。また、シャフト27Cに生じるトルクを計測し、トルクの計測値を制御部28に送信する計測器129を備える。制御部28は、モータ21、ブレーキ22に加えてクラッチ126とも電気的に接続し、クラッチ126に対する制御も実行する。
【0069】
上記以外の装置や部品等については、実施形態と同じであり、実施形態と同じ参照番号を付して説明を省略する。
【0070】
クラッチ126は、シャフト27B、27C間においてトルクの伝達及び遮断を行う装置である。
【0071】
通常時、クラッチ126は、シャフト27B、27Cの間でトルクをそのまま伝達するように機能する。詳細に述べると、計測器129が計測するトルクが閾値以下である場合、制御部28は、そのままトルクを伝達するようにクラッチ126を制御する。
【0072】
地震などの震動が発生し、計測器129が閾値を超えるトルクを計測すると、制御部28は、トルクの伝達を遮断するようにクラッチ126を制御する。クラッチ126がトルクの伝達を遮断することにより、シャフト27Cからシャフト27Bへ伝達されるトルクはゼロとなる。車輪23が回転可能になるため、支持装置100は走行路9に対してY軸方向に移動可能となり、上述の通り、免震装置としての機能を発揮する。支持装置100の変位に伴い、オイルダンパ42による減衰性能も、上記と同様に発揮される。
【0073】
<その他変形例>
上記実施形態では、動力機として、エンジンなどモータ21以外の装置を用いることが可能である。
【0074】
支持装置1は、全てが動力を備える構成とする必要は無い。例えば、支持装置1のうち、数台だけモータ21を備える構成としてもよい。また、車輪23のすべてに動力が供給される必要は無い。複数の車輪23を一台のモータ21が駆動する構成とすることも、当然可能である。
【0075】
ブレーキ22は、必ずしも出力軸211の拘束を行う必要は無い。例えば、ブレーキ22をシャフト27Aまたはシャフト27Bの回転を拘束するように機能させることも可能である。震動発生時における車輪23の回転を許容すること、及び減速機や動力機の破損を防止することを考えると、駆動系統20、120において、ブレーキ22は伝達機構よりも動力機側に配置されることが望ましい。また、オイルダンパ42の代わりに粘弾性体や摩擦ダンパなど、様々な減衰装置を適用できる。
【0076】
支持装置1、走行路9、及び構造物3の構成は、上記の実施形態、変形例に限定されない。例えば支持装置1の上面を水平に設置すること(X軸を水平にすること)も可能であるし、走行路9に勾配をつけたり、平面視で円弧状にしたりすることも可能である。支持装置1を支持する軌道の数や配置位置についでも、設計条件に応じて様々なバリエーションが考えられる。また、構造物3(脚部31)と支持装置1との接合に関しても、接合方法や拘束の方向などに様々なバリエーションが考えられる。
【符号の説明】
【0077】
1 支持装置
3 構造物
9 走行路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8