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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141540
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ビスケット類用食感改良剤
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/10 20060101AFI20230928BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20230928BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20230928BHJP
【FI】
A21D2/10
A23L29/00
A21D13/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047913
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】山内 優輝
(72)【発明者】
【氏名】石塚 順子
【テーマコード(参考)】
4B032
4B035
【Fターム(参考)】
4B032DB21
4B032DG02
4B032DK01
4B032DK03
4B032DK05
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK29
4B032DK43
4B032DP08
4B032DP29
4B032DP40
4B035LC03
4B035LE03
4B035LG04
4B035LG17
4B035LG31
4B035LP22
(57)【要約】
【課題】本発明は、軽くサクサクとした食感及び口溶けに優れたビスケット類を得ることができるビスケット類用食感改良剤を提供することを課題とする。
【解決手段】五環性トリテルペンを含有するビスケット類用食感改良剤をビスケット類の製造に使用することで上記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
五環性トリテルペンを含有するビスケット類用食感改良剤。
【請求項2】
前記五環性トリテルペンが植物抽出物の精製品に含まれており、
前記精製品は、五環性トリテルペンを含む植物抽出物を吸着剤が充填されたカラムに通液し、ついで該吸着剤に吸着された成分を、エタノール及び水の混合溶媒を用いてエタノールと水の体積比50:50から100:0で勾配溶離を行い、五環性トリテルペン含有画分を回収する工程及び
回収した画分を濃縮乾固する工程
を含む方法により得られ、
前記精製品は、五環性トリテルペンを20質量%以上含む、請求項1に記載のビスケット類用食感改良剤。
【請求項3】
五環性トリテルペンがオレアナン型トリテルペン、ウルサン型トリテルペン、ルパン型トリテルペン及びホパン型トリテルペンからなる群から選択されるいずれか1以上である、請求項1又は請求項2に記載のビスケット類用食感改良剤。
【請求項4】
ビスケット類の製造に用いる澱粉質原料の合計100質量部に対してビスケット類用食感改良剤に含まれる五環性トリテルペンの量が0.1質量部以上になるように請求項1~3のいずれか1項に記載のビスケット類用食感改良剤を使用する、ビスケット類の食感改良方法。
【請求項5】
澱粉質原料と、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のビスケット類用食感改良剤とを含有する、ビスケット類用プレミックス。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のビスケット類用食感改良剤、もしくは請求項5記載に記載のビスケット類用プレミックスを含有する、ビスケット類用生地。
【請求項7】
請求項6に記載のビスケット類用生地を加熱する工程を含む、ビスケット類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスケット類用食感改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスケットとは、小麦粉、糖類、食用油脂及び食塩を原料とし、必要により澱粉、乳製品、卵製品、膨張剤、食品添加物等の原材料を混合して得られる生地を焼成して製造される食品であり、弾性が低く、含水率が低く、水分活性が低いという特徴がある。ビスケットのうち、「ビスケット類の表示に関する公正競争規約及び同施行規則」によれば、手作り風の外観を有し、原料全量に対して糖分と脂肪分との合計が40質量%以上のものはクッキーとされる。クッキーよりも食用油脂の使用量が多く、バターやマーガリン等の油脂の風味が強いものはサブレである。また、グルテン形成によってもビスケットは二種に大別され、グルテンを形成させるように練り上げた腰のある生地を焼成したものはハードビスケットであり、できるだけグルテンを形成させないように練り上げた生地を焼成したものはソフトビスケットである。さらに前記原料にイーストや酵素を添加して得られるものはクラッカー、乾パン、プレッツェル等であり、ビスケットを含めこれら一群の食品がビスケット類である。ビスケット類は、保存性に富み、主食代用にもなるため、広く愛好されている焼き菓子の一種である。
このようなビスケット類には、軽くサクサクとしており、口溶けが良く、口中でさらりと解け消える食感が望まれている。このような食感を付与するために油脂含量を高めることが一般的であるが、近年の健康志向から敬遠される傾向にあり、製造においては生地がベタつきまとまり難くなるために作業性が悪くなるという欠点がある。サクサク感を向上させるために、澱粉類等の副資材を使用することもあるが、ビスケットにおける小麦粉の風味が薄れてしまうという問題がある。
ビスケットの食感を改良するために種々検討されている。
特許文献1では、次亜塩素酸処理澱粉、置換度が0.01~0.04のアセチル化澱粉及び膨潤度が4~15の架橋澱粉から選択される少なくとも1種の澱粉変性品を小麦粉に対して特定量使用するビスケット等の焼き菓子の製造方法が開示されている。特許文献2では、特定比率のHLBが15~19であるショ糖脂肪酸エステルと糖類化合物との水溶液を噴霧乾燥した焼き菓子用食感改良剤が開示されている。何れもサクサクとした食感と口溶けに優れるビスケットを得ることができるが、特殊な資材を必要とするものであり、更なる改良が求められている。
また、ビスケット類は、特に高温でオーブン焼成する場合には、製造後の保管において経時的にクラックが生じ、特徴的な外観が醸し出される。これは、高温で短時間焼成することにより、ビスケットの表面付近と中心部付近との水分値の差が大きくなり、焼成後の経時的な水分拡散により中心部付近から全体に水分が行き渡る過程でクラックが生じるためである。中でも、「ビスケット」は、糖分と脂肪分との含有量が40質量%以下であるために「クッキー」よりも保水性が低いので、焼成したビスケット表面付近の水分値が低くなり、表面付近と中心部付近とで水分勾配が大きくなり、クッキーなど他のビスケット類に分類される焼き菓子よりもクラックが起こりやすいという特性がある。
一方、五環性トリテルペンの1種であるマスリン酸は、抗肥満作用(非特許文献1)及び脂質代謝改善作用(非特許文献2)といった様々な生理機能を有していることが知られている。このような生理機能を有するマスリン酸を食品に使用する試みがなされている。特許文献3では、炭水化物と、コロソリン酸、マスリン酸及びトルメンティック酸からなる群より選択される少なくとも1種のトリテルペンと、を含有する食品原料及びかかる食品原料を含有する食品が開示されており、グリセミック指数を低減することができることが記載されている。特許文献4では、五環性トリテルペン類およびそれらの生理的に許容される塩、またはそれらの誘導体からなる群から選ばれる化合物を有効成分として含有する皮膚の美白用飲食物又は経口美白剤が開示されており、メラニンの生成が抑制されたことが記載されている。いずれの発明についても生体におけるマスリン酸の生理学的機能の発揮を期待したものであり、これまで五環性トリテルペンが食品の食感や物性に影響を与える知見はなく、ビスケット類の食感を改善することは知られていなかった。
特許文献5では、オリーブ植物から得られる抽出物(以下「オリーブ抽出物」)を含有することを特徴とする飲食物が開示されており、抗酸化効果、美肌効果、抗腫瘍効果を有する飲食品を得ることができることが記載されており、実施例22では当該オリーブ抽出物を用いてクッキーを製造したこと、実施例26では当該クッキーが酸化防止効果を有していることから保存安定性が高いことが示されている。しかしながら、オリーブ抽出物を含有するクッキーの食感については何ら評価されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-99011号公報
【特許文献2】特開2011-125310号公報
【特許文献3】特開2006-121949号公報
【特許文献4】再表2002-043736号公報
【特許文献5】特開2002-186453号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Liou CJ et al., FASEB J. 2019.Nov;33(11):11791-11803
【非特許文献2】Perez-Jimenez A et al., Phytomedicine. 2016. Nov 15;23(12):1301-1311
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、軽くサクサクとした食感及び口溶けに優れたビスケット類を得ることができるビスケット類用食感改良剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、五環性トリテルペンを含有するビスケット類用食感改良剤を使用することにより、軽くサクサクとした食感及び口溶けに優れたビスケット類を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]五環性トリテルペンを含有するビスケット類用食感改良剤。
[2]前記五環性トリテルペンが植物抽出物の精製品に含まれており、
前記精製品は、五環性トリテルペンを含む植物抽出物を吸着剤が充填されたカラムに通液し、ついで該吸着剤に吸着された成分を、エタノール及び水の混合溶媒を用いてエタノールと水の体積比50:50から100:0で勾配溶離を行い、五環性トリテルペン含有画分を回収する工程及び
回収した画分を濃縮乾固する工程
を含む方法により得られ、
前記精製品は、五環性トリテルペンを20質量%以上含む、[1]に記載のビスケット類用食感改良剤。
[3]五環性トリテルペンがオレアナン型トリテルペン、ウルサン型トリテルペン、ルパン型トリテルペン及びホパン型トリテルペンからなる群から選択されるいずれか1以上である、[1]に記載のビスケット類用食感改良剤。
[4]ビスケット類の製造に用いる澱粉質原料の合計100質量部に対してビスケット類用食感改良剤に含まれる五環性トリテルペンの量が0.1質量部以上になるように[1]~[3]のいずれか1項に記載のビスケット類用食感改良剤を使用する、ビスケット類の食感改良方法。
[5]澱粉質原料と、[1]~[3]のいずれか1項に記載のビスケット類用食感改良剤とを含有する、ビスケット類用プレミックス。
[6][1]~[3]のいずれか1項に記載のビスケット類用食感改良剤、もしくは[5]記載のビスケット類用プレミックスを含有する、ビスケット類用生地。
[7][5]のビスケット類用生地を加熱する工程を含む、ビスケット類の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、五環性トリテルペンを含有するビスケット類用食感改良剤を使用することにより、軽くサクサクとした食感及び口溶けに優れたビスケット類を提供することができる。
さらには本発明により、食感の改良だけでなく抗肥満作用及び脂質代謝改善作用といった様々な健康機能が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ビスケット類用食感改良剤2(オリーブ果実由来オレアナン型トリテルペン粉末)のHPLC分析チャートである。
図2】実施例4及び参考例1のビスケットの外観写真である(矢印は良好なクラックを示す)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において「ビスケット類」は、小麦粉、糖類、食用油脂及び食塩を原料とし、必要により澱粉、乳製品、卵製品、膨張剤、食品添加物等の原材料を混合して得られる生地を焼成して製造される食品をいい、そのようなビスケット類の種類としてはビスケット、クッキー、クラッカー、パイ、乾パン、プレッツェルなどが挙げられる。
【0011】
<五環性トリテルペン>
本発明のビスケット類用食感改良剤は五環性トリテルペンを含有する。
トリテルペンは炭素数30を基本骨格とする化合物であり、その代表例として五環性トリテルペンが挙げられる。五環性トリテルペンは、イソプレン単位6個から成る五環性の化合物で、炭素数は30個を基本とするが、生合成過程で転位、酸化、脱離あるいはアルキル化され炭素数が前後するものも含まれる。五環性トリテルペンは、一般に、その骨格により分類されている。例えば、オレアナン型トリテルペン、ウルサン型トリテルペン、ルパン型トリテルペン、ホパン型トリテルペン、セラタン型トリテルペン、フリーデラン型トリテルペン、タラキセラン型トリテルペン、タラキサスタン型トリテルペン、マルチフロラン型トリテルペン、ジャーマニカン型トリテルペン等が挙げられる。
【0012】
オレアナン型トリテルペンは、下記式1であらわされる構造を基本骨格として有する五環性トリテルペンであり、マスリン酸(式2)、オレアノール酸(式3)、グリチルレチン酸(式4)等がその一群に分類される。
【化1】
(式1)オレアナン型(Oleanane)トリテルペン

【化2】
(式2)マスリン酸(Maslinic acid)

【化3】
(式3)オレアノール酸(Oleanolic acid)

【化4】
(式4)グリチルレチン酸(Glycyrrhetinic acid)
【0013】
ウルサン型トリテルペンは、下記式5であらわされる構造を基本骨格として有する五環性トリテルペンであり、コロソリン酸(式6)、ウルソール酸(式7)等がその一群に分類される。
【化5】
(式5)ウルサン型(Ursane)トリテルペン

【化6】
(式6)コロソリン酸(Corosolic acid)

【化7】
(式7)ウルソール酸(Ursolic acid)
【0014】
ルパン型トリテルペンは、下記式8であらわされる構造を基本骨格として有する五環性トリテルペンであり、ベツリン酸(式9)、アルフィトール酸(式10)等がその一群に分類される。
【化8】
(式8)ルパン型(Lupane)トリテルペン

【化9】
(式9)ベツリン酸(Betulinic acid)

【化10】
(式10)アルフィトール酸(Alphitolic acid)
【0015】
ホパン型トリテルペンは、下記式11であらわされる構造を基本骨格として有する五環性トリテルペンであり、ロイコチル酸(式12)等がその一群に分類される。
【化11】
(式11)ホパン型(Hopane)トリテルペン

【化12】
(式12)ロイコチル酸(Leucotylic acid)
【0016】
本発明のビスケット類用食感改良剤において、五環性トリテルペンは好ましくはオレアナン型トリテルペン、ウルサン型トリテルペン、ルパン型トリテルペン及びホパン型トリテルペンからなる群から選択されるいずれか1以上であり、より好ましくはオレアナン型トリテルペン及びウルサン型トリテルペンからなる群から選択されるいずれか1以上であり、さらに好ましくはマスリン酸、オレアノール酸及びウルソール酸からなる群から選択される1以上である。なお、その分子内にカルボキシル基を有する場合、一般に五環性トリテルペン酸と称されるが、本明細書において五環性トリテルペン酸は五環性トリテルペンに含まれる。
【0017】
五環性トリテルペンは、各種の植物により生合成され、その植物の果実、花弁、子葉、茎、根などに遍在又は局在している。例えば、オレアナン型トリテルペンの一群に分類されるマスリン酸は、オリーブ果実及び葉、ナツメ、アーモンド、バナバ葉、セージ、リンゴ、クランベリー、カリン等に含まれる。オレアナン型トリテルペンの一群に分類されるオレアノール酸は、オリーブ果実及び葉、ブドウ、ビート、ナツメ、アーモンド、バナバ葉、セージ、サンザシ、ラズベリー、カリン、ローズマリー葉、グァバ、シソ葉、ブルーベリー、プルーン、ビワ、ザクロ、レモンバーム、バジル、ローズヒップ、カキ、センブリ等に含まれる。ウルサン型トリテルペンの一群に分類されるウルソール酸は、リンゴ、バジル、ビルベリー、クランベリー、エルダーフラワー、ペパーミント、ローズマリー、ラベンダー、オレガノ、タイム、サンザシ、プルーン等に含まれる。
【0018】
五環性トリテルペンは、水酸基、カルボキシル基、アルデヒド基、ケトン基等の官能基を有しており、植物体内ではこれら官能基が各種の化合物により修飾あるいは分子内架橋されて存在している。例えば、甘草に含まれ、甘味料として利用されるグリチルリチンは、オレアナン型トリテルペンに分類されるグリチルレチン酸の3β水酸基を介して2つのグルクロン酸がエーテル結合した配糖体である。一般的にこのような官能基を修飾している化合物は抽出、分画、精製の過程で脱離し、抽出、分画、精製の過程を経て得られる五環性トリテルペンは概ね遊離型となる。
【0019】
五環性トリテルペンは、それを含有する植物から公知の方法で抽出し、後述する方法で分画、精製して得ることができる精製品として使用することができる他、化学合成によって得ることもできる。また、市販品も好適に利用することができる。薬理学的に許容される塩及び/又は誘導体の形態で使用することもできる。五環性トリテルペンは、単独の成分又は2以上の種類の成分の混合物(組合せ)であっても良い。
【0020】
五環性トリテルペンは、それを含有する植物抽出物の精製品の形態でも良い。
精製品は、五環性トリテルペンを含む植物抽出物を吸着剤が充填されたカラムに通液し、ついで該吸着剤に吸着された成分を、エタノール及び水の混合溶媒を用いてエタノールと水の体積比50:50から100:0で勾配溶離を行い、五環性トリテルペン含有画分を回収する工程及び回収した画分を濃縮乾固する工程を含む方法により得られ、前記精製品は、好ましくは五環性トリテルペンを20質量%以上含む。
【0021】
五環性トリテルペンを含む植物抽出物としては、オレアナン型トリテルペンであれば、その含有率が相応に高く、古くからの食経験があり、搾油後の二次利用が可能なことから、オリーブ果実抽出物やアーモンド種実抽出物を用いることが好適である。ウルサン型トリテルペンであれば、搾汁や食品加工後の二次利用が可能なことから、リンゴ果皮抽出物を用いることが好適である。
【0022】
オリーブ果実抽出物は、主要トリテルペンとしてマスリン酸とオレアノール酸とを含有する。例えば、乾燥又は水分を含む半乾燥ないしは未乾燥のオリーブ果実や、搾油工程で発生するオリーブオイル搾り粕等を出発原料として、マスリン酸を抽出、精製することができる。さらに、オリーブ乾燥物をn-ヘキサン等の脂溶性有機溶媒で油分を除去した脱脂物を出発原料とすることもできる。使用するオリーブの品種には特に限定はなく、国内産、外国産等の産地、栽培用、搾油用を問わず使用できる。具体的には、これらの原料からマスリン酸が抽出可能な低級アルコール(例えば、エタノール、メタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール等)又はその含水低級アルコールでオレアナン型トリテルペンを抽出する。このようにしてオリーブ果実から抽出されるトリテルペンには、概ねマスリン酸とオレアノール酸とが4:1の割合で含まれているが、オリーブ果実の生育状況や生育地域、あるいは搾油条件等により、当該比が1:1~7:1になる場合もある。
【0023】
アーモンド種実抽出物は主要トリテルペンとしてマスリン酸とオレアノール酸とを含有する。例えば、アーモンド自体や、アーモンド油の搾油粕、スナック菓子等の加工食品の製造で排出される副産物、あるいはアーモンドの脱穀時に排出される殻や外皮などの副産物を出発原料として、低級アルコール又は含水低級アルコールで五環性トリテルペンを抽出することができる。なお、一般的にアーモンドの殻は燃料材料、外皮は堆肥などに使用されている。
【0024】
リンゴ果皮抽出物は主要トリテルペンとしてウルソール酸を含有する。例えば、リンゴ果汁の搾汁粕や食品工場等で剥皮されたリンゴ果皮などの副産物を出発原料として低級アルコール又は含水低級アルコールで五環性トリテルペンを抽出することができる。
【0025】
オリーブ果実やアーモンド、リンゴ果皮以外の他の植物を出発原料とする抽出物を使用する場合には、原料として使用する植物に適した方法で五環性トリテルペンを含む抽出物を得ることができる。また、得られる五環性トリテルペンの成分の種類及びその構成比は原料として使用する植物に依存する。
【0026】
五環性トリテルペンを含む植物抽出物は、必要に応じて、ケン化処理、中和を行い、吸着剤が充填されたカラムに通液する。吸着剤としてはオクタデシルシリカ(ODS)、シリカゲル、合成吸着剤等を使用することができる。合成吸着剤としては、オルガノ株式会社製の合成吸着樹脂アンバーライトXAD4を使用することができる。
【0027】
ついで該吸着剤に吸着された成分を、エタノール及び水の混合溶媒を用いてエタノールと水の体積比50:50から100:0で勾配溶離を行い、五環性トリテルペン含有画分を回収する。好ましくはエタノールと水の体積比60:40から90:10の範囲の画分を回収する。さらに好ましくはエタノールと水の体積比60:40から90:10の範囲で、例えばHPLCチャートでモニタリングしながら五環性トリテルペンのピークが確認できる画分のみを回収することで五環性トリテルペンの高含有画分を回収することができる。
【0028】
回収した画分を濃縮乾固する方法は特に限定されず、常法に従って行うことができる。例えば溶媒を減圧留去し、得られた液油体状の五環性トリテルペン含有溶液100質量部に20%含水エタノール100質量部を加えて十分に混合して溶解し、4℃で一晩静置して析出させ、析出物を濾過により回収及び洗浄し、減圧乾燥することにより得ることができる。
【0029】
なお、マスリン酸やオレアノール酸等のオレアナン型トリテルペンの精製画分を濃縮乾固したものは、白色から茶褐色の粉末状であり、不純物の含有量に依存して茶褐色が強くなる。これらは何れも含水アルコール等に溶解する。
【0030】
前記精製品は、五環性トリテルペンを20質量%以上含み、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、よりさらに好ましくは65質量%以上、なお好ましくは85質量%以上、最も好ましくは90質量%以上含む。
【0031】
また、五環性トリテルペンの生理学的に許容される塩としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、ピロ硫酸、メタリン酸等の無機酸との塩;クエン酸、安息香酸、酢酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、スルホン酸等の有機酸との塩;ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0032】
<ビスケット類用食感改良剤>
本発明のビスケット類用食感改良剤は、五環性トリテルペンを含有する。五環性トリテルペンは、上述の植物抽出物の精製品に含まれていて良い。本発明のビスケット類用食感改良剤を適用することにより、口溶けが良くかつクラックが深く、食感及び外観の優れたクッキー、ビスケット、クラッカー等の焼き菓子を得ることができる。
本発明のビスケット類用食感改良剤は、五環性トリテルペンないしは上述の植物抽出物の精製品から成っていてもよく、他の成分を含んでいてもよい。他の成分を含んでいる場合、本発明のビスケット類用食感改良剤は、ビスケット類用プレミックス、ビスケット類用生地、ビスケット類等を製造する際の作業性を良くする上で、包接化合物、担体、油脂、乳化剤、賦形剤等との混合物であることが好ましい。例えば、サイクロデキストリンや高度分岐環状デキストリン等の包接化合物に包接させた包接組成物;穀粉や澱粉等の可食性担体に担持させた担持体組成物;食用油脂に溶解又は分散させた油脂溶体組成物;油脂と水分と乳化剤とのW/O型又はO/W型乳化組成物;精製水、アルコール、グリセリン、デキストリン、乳糖、マンニトール、澱粉、水飴、蜂蜜等の賦形剤との賦形組成物として用いることができる。
本発明のビスケット類用食感改良剤における五環性トリテルペンの含有量は特に制限されるものではなく、ビスケット類を製造した際に本発明の効果が得られるように適宜調節することができる。例えば、ビスケット類用食感改良剤の全量に対して1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上であり、よりさらに好ましくは15質量%以上であり、なお好ましくは20質量%以上である。
また、ビスケット類の製造に用いるビスケット類用食感改良剤の使用量は、ビスケット類を製造した際に本発明の効果が得られるように適宜調節することができ、例えば、ビスケット類用食感改良剤に含まれる五環性トリテルペンの量が、ビスケット類の製造に用いる澱粉質原料の合計100質量部に対して、0.1質量部以上であればよく、好ましくは0.5質量部以上であり、より好ましくは1質量部以上であり、さらに好ましくは5質量部以上であり、よりさらに好ましくは10質量部以上になるように調節すればよい。使用量の上限は特に限定されないが、費用低減の観点から20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましい。
ここで本発明において、ビスケット類の製造に用いる澱粉質原料は特に限定されるものではなく、通常ビスケット類の製造に用いられるものであればよい。そのような澱粉質原料としては、普通小麦、デュラム小麦、米、ライ麦、大麦、とうもろこし、そば、大豆、ひえ、あわ、アマランサス等の穀物由来の穀粉;馬鈴薯、里芋、キャッサバあるいは甘藷、山芋等の穀物に準ずる主食となる農作物である塊茎粉あるいは塊根粉;穀物、塊茎、塊根、樹幹等及びそれらのワキシー種又はハイアミロース種から分離精製された澱粉(小麦澱粉、米澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉等、及びそれらのワキシー澱粉並びにハイアミロース澱粉)、及び、前記澱粉をエーテル化、エステル化、アセチル化、架橋、酸化処理、熱処理、酵素処理等並びにそれらを組合せて処理を行った変性澱粉等が挙げられる。前記澱粉質原料は、好ましくは小麦粉からなるが、所望する食味や食感あるいは製造における作業性を考慮して小麦粉以外の穀粉類及び/又は澱粉類を使用することができる。そのような場合、澱粉質原料における小麦粉の含有率は50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0033】
<ビスケット類の食感改良方法>
本発明のビスケット類の食感改良方法は、ビスケット類の製造に用いる澱粉質原料の合計100質量部に対してビスケット類用食感改良剤に含まれる五環性トリテルペンの量が0.1質量部以上になるように前記ビスケット類用食感改良剤を使用する。
本発明のビスケット類の食感改良方法において、ビスケット類の製造に用いる澱粉質原料の合計100質量部に対するビスケット類用食感改良剤に含まれる五環性トリテルペンの量は好ましくは0.5質量部以上であり、より好ましくは1質量部以上であり、さらに好ましくは5質量部以上であり、よりさらに好ましくは10質量部以上である。ビスケット類の製造に用いる澱粉質原料の合計100質量部に対するビスケット類用食感改良剤に含まれる五環性トリテルペンの量の上限は特に限定されないが、費用低減の観点から20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましい。
ビスケット類の製造に用いる澱粉質原料は特に限定されるものではなく、通常ビスケット類の製造に用いられるものであればよい。そのような澱粉質原料としては、普通小麦、デュラム小麦、米、ライ麦、大麦、とうもろこし、そば、大豆、ひえ、あわ、アマランサス等の穀物由来の穀粉;馬鈴薯、里芋、キャッサバあるいは甘藷、山芋等の穀物に準ずる主食となる農作物である塊茎粉あるいは塊根粉;穀物、塊茎、塊根、樹幹等及びそれらのワキシー種又はハイアミロース種から分離精製された澱粉(小麦澱粉、米澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉等、及びそれらのワキシー澱粉並びにハイアミロース澱粉)、及び、前記澱粉をエーテル化、エステル化、アセチル化、架橋、酸化処理、熱処理、酵素処理等並びにそれらを組合せて処理を行った変性澱粉等が挙げられる。前記澱粉質原料は、好ましくは小麦粉からなるが、所望する食味や食感あるいは製造における作業性を考慮して小麦粉以外の穀粉類及び/又は澱粉類を使用することができる。そのような場合、澱粉質原料における小麦粉の含有率は50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0034】
<ビスケット類用プレミックス粉>
本発明のビスケット類用プレミックス粉は、澱粉質原料と、前記ビスケット類用食感改良剤とを含む。ここで一般にプレミックス粉は、その使用用途に応じて、小麦粉に、小麦粉以外の穀粉、各種変性澱粉を含む澱粉類などの澱粉質原料、化学膨張剤、調味料、香料、色素等の粉末原料、任意に油脂類などを混合したものをいう。本発明のビスケット類用プレミックス粉は、上記本発明のビスケット類用食感改良剤に加えて、小麦粉、米粉、大麦粉、もち米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、デュラム小麦粉、ホワイトソルガム粉などの穀粉;馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、とうもろこし澱粉、小麦澱粉、米澱粉、サゴ澱粉などの澱粉類及びこれらのα化や、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋、酸化処理及びこれらの組み合わせ等を行った化学変性澱粉類、乾熱処理、湿熱処理した物理変性澱粉類;砂糖、ブドウ糖、麦芽糖、乳糖、オリゴ糖などの糖類;卵黄、卵白、全卵を粉末化した卵粉類;牛乳等の畜乳を粉末化した粉乳;脱脂粉乳等の加工畜乳粉:豆乳粉等の豆乳等の農作物の煮汁を粉末化した粉末煮汁;ベーキングパウダー等の発泡剤;大豆蛋白等の蛋白質素材;グアガム等の増粘多糖類;食塩等の無機塩類;ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等の油脂類;乳化剤等の通常焼きビスケット類の製造に用いる主原料及び副原料を含むことができる。
本発明のビスケット類用プレミックスにおける五環性トリテルペンの含有量は、特に制限されるものではなく、ビスケット類を製造した際に本発明の効果が得られるように適宜調節することができ、例えば、ビスケット類用プレミックスに含まれる澱粉質原料100質量部に対して0.1質量部以上であり、好ましくは0.5質量部以上であり、より好ましくは1質量部以上であり、さらに好ましくは5質量部以上であり、よりさらに好ましくは10質量部以上である。特に上限はないが、費用対効果の関係から、好ましくは1質量部以下であり、より好ましくは0.5質量部以下であり、さらに好ましくは0.1質量部以下である。ビスケット類用プレミックスに五環性トリテルペンが含まれていれば、軽くサクサクとした食感及び口溶けに優れたビスケット類を得ることができる。
【0035】
<ビスケット類用生地>
本発明のビスケット類用生地は、上記ビスケット類用食感改良剤又は上記ビスケット類用プレミックス粉を含む。ここで、一般に生地とは、その使用用途に応じて、小麦粉に、小麦粉以外の穀粉、化学膨張剤、調味料、香料、色素等の粉末原料;ショートニング等の油脂原料;水、液卵等の液体原料などを混合したものをいう。本発明のビスケット類用生地は、前記ビスケット類用食感改良剤を用いる場合には、通常ビスケット食品用生地の製造に使用される原料であればいずれも使用することができ、そのような原料としては小麦粉、米粉、大麦粉、もち米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、ホワイトソルガム粉などの穀粉類;馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、とうもろこし澱粉、小麦澱粉、米澱粉、サゴ澱粉などの澱粉類及びこれらのα化や、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋、酸化処理及びこれらの組み合わせ等を行った化学変性澱粉、乾熱処理、湿熱処理した物理変性澱粉類;砂糖、ブドウ糖、麦芽糖、乳糖、オリゴ糖などの糖類;卵黄、卵白、全卵及びそれらを粉末化したものやその他の卵に由来する成分である卵成分;牛乳等の畜乳及び脱脂乳等の加工乳;ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等の油脂類;ベーキングパウダー等の発泡剤;大豆蛋白等の蛋白質素材;グアガム等の増粘多糖類;食塩等の無機塩類;乳化剤;豆乳等の農作物の煮汁;果菜、果物等の搾り汁;水;生クリームなどを使用して得ることができる。前記ビスケット類用ミックス粉を用いる場合であれば、水;豆乳等の農作物の煮汁;果菜、果物等の搾り汁;牛乳等の畜乳などの液体原料を使用して本発明のビスケット類用生地を得ることができる。
本発明のビスケット類用生地における五環性トリテルペンの含有量は、特に制限されるものではなく、ビスケット類を製造した際に本発明の効果が得られるように適宜調節することができ、例えば、ビスケット類用生地に含まれる澱粉質原料100質量部に対して0.1質量部以上であり、好ましくは0.5質量部以上であり、より好ましくは1質量部以上であり、さらに好ましくは5質量部以上であり、よりさらに好ましくは10質量部以上である。特に上限はないが、費用対効果の関係から、好ましくは1質量部以下であり、より好ましくは0.5質量部以下であり、さらに好ましくは0.1質量部以下である。
【0036】
<ビスケット類の製造方法>
本発明のビスケット類の製造方法は、前記本発明のビスケット類用生地を加熱する工程を含む以外は常法に従って製造することが出来る。例えば本発明のビスケット類用食感改良剤と目的とするビスケット類の種類に応じた他の原料を適宜混合して生地を得、あるいは、本発明のビスケット類用ミックス粉に、水、畜乳、卵液等の液体原料を混合して生地を得た後、得られた生地を、定法により成型または焼き型などにいれ、あるいは抜型を用いて打ち抜いて天板に載置し、その後焼成してビスケット類を製造することができる。
本発明の製造方法においては、得られたビスケット用生地を、保存することなく引き続いて必要に応じて成形または焼き型などにいれて焼成してもよく、あるいは冷凍生地又は冷蔵生地として保存した後に、必要に応じて成形または焼き型などにいれ、焼成してもよい。
【実施例0037】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
<製造例1 ビスケット類用食感改良剤1、2及び組成物Aの製造>
(1)オリーブ果実をコールドプレス法によりオリーブオイルを搾油し、オリーブ果実搾油粕を得た。
(2)オリーブ果実搾油粕100質量部に250質量部の90%含水エタノール(v/v)を加え、70℃で攪拌しながら2時間加熱し、固液分離により得られた液体部分をエバポレーターで減圧留去して濃縮液を得た。
(3)濃縮液を水に分散させ、合成吸着樹脂アンバーライトXAD4(オルガノ株式会社)を担体としたカラムクロマトグラフィーに供し、50%含水エタノールから100%エタノールに至る10%刻みのステップワイズ溶出し、HPLCチャートでモニタリングしながらフラクションコレクターで分取した。60~90%含水エタノール分画画分をトリテルペン低含有画分とし、トリテルペンのピークが認められた分画画分を採取してトリテルペン高含有画分とした。
(4)濃縮液(HPLC未分画)、トリテルペン低含有画分及びトリテルペン高含有画分をそれぞれ減圧留去し、3種類の液油体状のオリーブ果実由来オレアナン型トリテルペン含有液を調製した。
(5)これらの3種類のオレアナン型トリテルペン含有液100質量部に、それぞれ20%含水エタノール100質量部を加えて十分に混合して溶解し、4℃で一晩静置して析出させ、析出物を濾過により回収及び洗浄し、減圧乾燥した後ピンミルを用いて粉末化することにより、組成物A(濃縮液由来)、ビスケット類用食感改良剤1(トリテルペン低含有画分由来)及びビスケット類用食感改良剤2(トリテルペン高含有画分由来)を得た。
(6)1gのビスケット類用食感改良剤1及びビスケット類用食感改良剤2をメタノールに溶解してHPLC分析に供した。図1はビスケット類用食感改良剤2のHPLCチャートであり、Aのピークはマスリン酸、Bのピークはオレアノール酸であった(ビスケット類用食感改良剤1のHPLCチャートは省略)。なお、ピークの同定は標準品とのリテンションタイムの比較及びLC/MS解析により行い、定量値は標準品のピーク面積を基準に算出した。その結果、組成物Aにはマスリン酸が6.3質量%、オレアノール酸が3.7質量%(オレアナン型トリテルペンとして10質量%)含まれており、ビスケット類用食感改良剤1にはマスリン酸が18.8質量%、オレアノール酸が11.2質量%(オレアナン型トリテルペンとして30質量%)含まれており、ビスケット類用食感改良剤2(オリーブ果実由来オレアナン型トリテルペン粉末)にはマスリン酸が50質量%、オレアノール酸が30質量%(オレアナン型トリテルペンとして80質量%)含まれていることが判った。
【0039】
<製造例2 ビスケット類用食感改良剤3及び4の製造>
(1)上記ステップワイズ溶出に替えて50%含水エタノールから100%エタノールに至るグラディエント溶出を行った以外は製造例1に従って液油体状のオリーブ果実由来オレアナン型トリテルペン含有液を調製し、粉末化してビスケット類用食感改良剤3及び4を得た。
(2)得られたビスケット類用食感改良剤3をHPLC分析に供したところ(HPLCチャートは省略)、オレアナン型トリテルペンの含有率は90質量%、マスリン酸の含有率は90質量%、オレアノール酸の含有率は0質量%であった。
(3)得られたビスケット類用食感改良剤4をHPLC分析に供したところ(HPLCチャートは省略)、オレアナン型トリテルペンの含有率は80質量%、マスリン酸の含有率は0質量%、オレアノール酸の含有率は80質量%であった。
【0040】
<製造例3 ビスケット類用食感改良剤5の製造>
(1)製造例1工程5に用いた液油体状のオリーブ果実由来オレアナン型トリテルペン含有液100質量部と400質量部の高度分岐環状デキストリン(クラスターデキストリン、グリコ栄養食品株式会社)とをミキサーに投入して均質になるまで混合し、500質量部の粉末状のビスケット類用食感改良剤5を得た。
(2)得られたビスケット類用食感改良剤5をHPLC分析に供したところ(チャートは省略)、オレアナン型トリテルペンの含有率は16質量%、マスリン酸の含有率は10質量%、オレアノール酸の含有率は6質量%であった。
【0041】
<製造例4 型抜きビスケットの製造>
(1)上白糖25質量部、脱脂粉乳3質量部、塩0.8質量部、重曹0.4質量部、重炭酸アンモニウム0.5質量部、水22質量部、ショートニング15質量部をミキサーに投入し、低速1分、中速3分、高速3分間すりあわせてクリーム状のペーストを得た。
(2)ついで標準的な薄力小麦粉(株式会社ニップン製:商品名 ダイヤ)100質量部を加え、低速1分間ミキシングし、ビスケット生地を得た。
(3)麺棒で7mm厚に延し、直径6cmの抜き型で抜いた後、200℃に予熱したオーブンに投入し、14分間200℃で焼成して型抜きビスケットを得た。
【0042】
<評価例1 官能評価>
得られたビスケットについて、下記表に示す評価基準により、外観(上面のクラック)および食感を10名の熟練パネラーで評価し、平均点と標準偏差(SD)を求めた。なお、ビスケット類用食感改良剤を使用せずに製造した型抜きビスケットである参考例1の評価点を3点とした。
【0043】
評価基準
【0044】
<試験例1 トリテルペン使用量の検討>
表1記載のビスケット類用食感改良剤を製造例4の工程(2)で加えた以外は製造例4に従って型抜きビスケットを製造し、評価例1に従って評価した。得られた結果を下記の表2に示す。また、図2に実施例3と参考例1のビスケットの外観写真を示す。なお、参考例2では特許文献5(特開2002-186453)の実施例16の方法に従って調製したオリーブ抽出物を1質量部加えた。このオリーブ抽出物をHPLC分析したところ、マスリン酸とオレアノール酸が各々6.1質量%、1.7質量%含まれることが判った。
実施例1では、クラックのサクサクとした食感がわずかに良好になったが、参考例1の標準的なビスケットと同等であった。実施例2~4では、オレアナン型トリテルペンの使用量の増加に依存してクラックの発生が促進されてビスケットらしい外観になり、サクサクとした食感と口溶けが良好になった。実施例5も外観及び食感共に良好なビスケットであったが、実施例4よりもやや良好な程度であった。実施例6及び実施例7では、クラック、食感及び口溶けとも良好であったが、実施例4よりもやや劣るものであった。このことから、マスリン酸又はオレアノール酸を単独で使用するよりも、双方を使用した方がより良好にビスケットを改良できることが判った。参考例2の「オリーブ抽出物」を使用したビスケットでは、クラックの発生は実施例1と同等であったが、サクサク感がやや劣り、口溶けもよくなかった。
参考例2の「オリーブ抽出物」と参考例3の組成物Aを使用したビスケットでは、クラックの発生がわずかに良好になり、食感及び口溶けがやや劣るものであった。参考例4及び5のクラック、食感及び口溶けは参考例1と差がなかった。このことから、参考例2及び3におけるクラックのわずかな改善と食感及び口溶けの劣化は、「オリーブ抽出物」及び組成物Aに含まれている夾雑物(極性又は非極性の画分、例えば50%含水エタノール画分や100%エタノール画分)の影響であることが推測される。
表1



OTTはオレアナン型トリテルペンの略であり、マスリン酸とオレアノール酸の合計を示す。
【0045】
試験例2 トリテルペンの高度分岐環状デキストリン包接体の検討
ビスケット類用食感改良剤5を製造例4の工程(2)で加えた以外は製造例4に従って型抜きビスケットを製造し、評価例1に従って評価した。なお、参考例6では、ビスケット類用食感改良剤5を添加せず実施例8に含まれる量の高度分岐環状デキストリンを加えた。得られた結果を下記の表3に示す。
高度分岐環状デキストリンを用いた参考例6においても、クラックの発生、食感及び口溶け共に改善されていた。ビスケット類用食感改良剤5を用いた実施例8では、参考例6よりもさらにクラックの発生、食感及び口溶けが良好に改善されていた。実施例8の評価が、実施例8とほぼ同量のマスリン酸とオレアノール酸を含む実施例3と参考例6との略相加になっていないのは、オレアナン型トリテルペンが高度分岐環状デキストリンに包接されているためであると考えられた。包接性の化合物に替えてデキストリンや乳糖等の賦形剤や穀粉や澱粉等の担体などを用いることによりオレアナン型トリテルペンの本来有するビスケット類の改良効果がより発揮されると考えられた。
【0046】
表2

デキストリンは高度分岐環状デキストリンの略である。
図1
図2