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  • 特開-燃焼室異物回収装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141564
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】燃焼室異物回収装置
(51)【国際特許分類】
   C10B 43/06 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
C10B43/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047947
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 歩
(72)【発明者】
【氏名】國政 秀行
(72)【発明者】
【氏名】半田 圭
(57)【要約】
【課題】コークス炉の燃焼室頂部から燃焼室内に挿入する筒状の吸引ランスを用いて燃焼室底部に堆積する異物を吸引回収する燃焼室異物回収装置において、吸引ランスから回収ボックスまでの異物の移動について、耐熱性を有することのないホースの使用を可能にする。また、集塵機を用いることなく異物を回収する。さらに、吸引ランスの耐熱性改善を図る。
【解決手段】吸引ランス2の上端部に吸引ランス2内を負圧にするためのエアーエジェクタ3を設け、エアーエジェクタ出口8側に可撓性を有するホース4を接続し、ホース4の出口側から異物を回収する。ホース4が高温に加熱されない。また、ホース4の出口側を回収ボックス内に配置し、回収ボックス内に散水するスプレーノズルを設け、ホースの出口から流出する異物に対してスプレーノズルから散水する。さらに、吸引ランス2をステンレス鋼製とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉の燃焼室頂部から燃焼室内に挿入する筒状の吸引ランスを有し、前記吸引ランス内を負圧にして燃焼室底部に堆積する異物を吸引回収する燃焼室異物回収装置であって、
前記吸引ランスの上端部に前記吸引ランス内を負圧にするためのエアーエジェクタを設け、前記エアーエジェクタの出口側に可撓性を有するホースを接続し、前記ホースの出口側から異物を回収することを特徴とする燃焼室異物回収装置。
【請求項2】
異物を回収する回収ボックスを設け、前記ホースの出口側を前記回収ボックス内に配置し、前記回収ボックス内に散水するスプレーノズルを設け、前記ホースの出口から流出する異物に対して前記スプレーノズルから散水することのできる請求項1に記載の燃焼室異物回収装置。
【請求項3】
前記吸引ランスをステンレス鋼製とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃焼室異物回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉の燃焼室異物回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コークス炉は、石炭を装入して乾留を行う炭化室と、炭化室に隣接する燃焼室とを有し、炭化室と燃焼室が炉団長方向に隣接して交互に配置されている。炭化室は、炉長方向(炉団長方向と直角の方向)に細長い形状を有し、燃焼室は、炉長方向に多数の燃焼室が配置されて燃焼室列を形成している。
【0003】
それぞれの燃焼室は、高さ方向に細長い形状を有し、燃焼室の底部には、燃焼用ガス導入口と空気導入口が設けられており、燃焼用ガス導入口から燃焼用ガスが燃焼室内に導入され、空気導入口から空気が燃焼室内に導入され、燃焼室内で燃焼用ガスと空気が混合して燃焼する。
【0004】
炭化室と燃焼室の間は、耐火物煉瓦で形成された隔壁(炭化室の炉壁)で隔てられている。炉壁は、耐火物煉瓦を配列し、耐火物煉瓦相互間の接合部には目地が形成されている。コークス炉は老朽化すると、炉壁の目地部に隙間が生じ、あるいは炉壁に亀裂が生じる。これら隙間や亀裂を通して炭化室内の石炭が燃焼室内に侵入することがある。また、耐火物煉瓦が脱落して燃焼室内に落下することがある。目地部の隙間や炉壁の亀裂が生じた場合、炭化室側から炉壁に不定形耐火物を吹き付けて炉壁の補修を行うが、吹き付けた不定形耐火物が隙間や亀裂を経由して燃焼室内に侵入することがある。これら、燃焼室内に侵入した石炭、耐火煉瓦、不定形耐火物などは、燃焼室内の底部に堆積し、燃焼室底部に形成された燃焼用ガス導入口や空気導入口が閉塞されることとなる。燃焼用ガス導入口や空気導入口が閉塞した燃焼室では、燃焼不良によって燃焼室内温度が低下し、炭化室へ供給される熱量が不足して部分的な乾留不足が発生することとなる。
【0005】
燃焼室は、前述のように高さ方向に細長い形状を有し、燃焼室の頂部には点検口が設けられている。この点検口を開口し、鉛直方向に伸びた吸引ランスを点検口から燃焼室内に挿入し、筒状の吸引ランスの内部を負圧にすることによって吸引ランスの下端から燃焼室底部に堆積した堆積物を吸引する方法が種々提案されている。
【0006】
特許文献1には、燃焼室内の異物を除去する掃除装置において、昇降自在に設置された掃除用ランス管(吸引ランス)を有し、ランス管上端部には吸引装置を有するものが開示されている。ランス管の上端から二重管構造を経由して冷却水を供給し、下端から上部に冷却水を導く螺旋状冷却管を設け、ランス管を冷却している。同文献の第1図によると、ランス管上端部の吸引装置としてエアー式のアスピレーターを用い、吸引装置の出口から吸引したガスを排出している。掃除装置は、コークス炉炉頂部を移動できる移動台車に設置されている。
【0007】
特許文献2には、コークス炉の端燃焼室(燃焼室列の中で、炉長方向の端部に位置する燃焼室)の堆積物除去装置が開示されている。端燃焼室と外部との間に開口する端フリューバーナー孔を通して外部から端燃焼室内に吸引管を挿入し、吸引管から冷却装置及び吸引管(負圧発生手段)を経由し、最下流側にエジェクタ(負圧発生手段)が設けられている(同文献図1参照)。冷却装置内の下部に水が収容され、吸引管の最下流端は水の中に浸漬し、吸引管(負圧発生手段)の最上流側は水の表面よりも上方に位置している。
【0008】
特許文献3では、上記特許文献2に記載の発明を例示した上で、特許文献2に記載の方法では、堆積物の吸引作業中に炉側の吸引管が高温ガスによって赤熱状態となり、吸引管の焼損が不可避で短時間で使用不能になってしまう、と問題点を指摘している。その上で、特許文献3には、垂直管部(吸引ランス)と、排気開口に至るエジェクタ管部と、三方切換弁を有するコークス炉燃焼室の堆積物除去装置が開示されている。三方切換弁の操作により、圧縮エアがエジェクタ管部内に噴射され、排気開口から排出され、垂直管部内に負圧が発生する。負圧によって吸引力が発生し、燃焼室底部に堆積した堆積物が垂直管部およびエジェクタ管部を介して炉外に吸引除去される。同文献の図1によると、エジェクタ管部の下流側は排気開口として開口している。三方切換弁を切り換えると、圧縮エアが垂直管部内に噴射し、垂直管部がエア冷却される。堆積物除去装置を移動台車に搭載し、吸引ランス本体を昇降、旋回自在な構造とする。
【0009】
特許文献4では、上記特許文献1、3を例示し、これら文献には、高温の異物を、集塵機や回収タンク等の排出先に向けて吸引管からどのように排出するかが明示されておらず、実施にあたり、耐熱性及び可撓性を有する耐熱ホースを用いることが考えられるものの、高温の異物を金属管や耐熱ホースを通すと、金属管や耐熱ホース自体が高温になるため取り扱いについて注意が必要となり、また、コスト高であるとしている。これら問題を解決する手段として、特許文献4には、吸引管を有する燃焼室清掃装置であって、吸引管は、鉛直に延びる吸引用筒部と、側方に延びる排出用筒部と、冷却水を排出用筒部内に供給するための冷却水供給管とを有し、冷却水供給管から供給された冷却水と異物とが排出用筒部から一緒に排出可能に構成されているコークス炉の燃焼室清掃装置が開示されている。同文献の図4によると、排出用筒部の排出口は、可撓性を有するホースを介して集塵機に接続され、集塵機がエアを排出することにより、吸引管内に負圧による吸引力が生じる。吸引管は、SS(Structure Steel;一般構造用圧延鋼)等の金属製である。吸引管は、垂直型クレーンやV-CRM(下記特許文献5参照)等に取り付けたウインチなどの巻き挙げ機によって昇降動作を行う。
【0010】
特許文献5には、コークス炉の炉上にて炉団長方向に走行する走行台車と、走行台車上に走行方向と直交する方向に移動する横行台車が備えられ、この横行台車にコークス炉内の炉壁を補修する作業装置が搭載されているコークス炉の補修装置において、作業装置は、昇降するランスを備えるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実開平1-153352号公報
【特許文献2】特開平10-185436号公報
【特許文献3】特開2002-155283号公報
【特許文献4】特開2014-55228号公報
【特許文献5】国際公開WO2006/092867号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1、3、4に記載の燃焼室異物回収装置に共通して、鉛直方向に伸びた吸引ランスを燃焼室頂部の点検口から燃焼室内に挿入し、筒状の吸引ランスの内部を負圧にすることによって吸引ランスの下端から燃焼室底部に堆積した堆積物を吸引する方法を用いている。
【0013】
吸引ランスの頂部から可撓性を有するホースを接続し、吸引ランスで吸引したガスと異物とをホースを経由して移動しようとするとき、特許文献4によると、高温の異物を回収するに当たり、耐熱性及び可撓性を有する耐熱ホースを用いることが考えられるものの、高温の異物を金属管や耐熱ホースを通すと、金属管や耐熱ホース自体が高温になるため取り扱いについて注意が必要となり、また、コスト高であるとしている。そしてこの問題を解決するため、特許文献4では、冷却水供給管から供給された冷却水と異物とが排出用筒部から一緒に排出可能に構成することにより、ホース内に供給されるガスと異物を冷却している。しかし、吸引ランスの頂部付近の流路に冷却水を供給することから、この冷却水が逆流して吸引ランス内に入り込むと、燃焼室内への水の浸入で炉体が損傷し、さらには水蒸気爆発の可能性も生じる。一方、特許文献1、3においては、吸引ランスの頂部にエアーエジェクタを設け、エアーエジェクタの出口側が開放され、吸い上げた異物とガスが周辺環境中に排出される構成となっている。
【0014】
本発明の目的は第1に、吸引ランスの頂部から可撓性を有するホースを接続し、吸引ランスで吸引したガスと異物とをホースを経由して移送するに際し、耐熱性を有する耐熱ホースを用いる必要がなく、また流路中に冷却水を供給する必要のない、燃焼室異物回収装置を提供することにある。
【0015】
吸引ランスで吸引した燃焼室内のガスと異物について、特許文献4では最下流側にプレダスター(分別器)を設けてガスと冷却水とが分離され、エアおよび異物の一部が集塵機に至り、集塵機において異物とエアとが分離される。集塵機が必要であり、大がかりな装置構成となる。特許文献2では、冷却装置内の下部に水が収容され、吸引管の最下流端は水の中に浸漬していることから、この部分で圧損が生じ、効率の低下が懸念される。特許文献1、3においては、吸引ランスの頂部のエアーエジェクタの出口側が開放され、吸い上げた異物とガスが周辺環境中に排出される構成となっている。
【0016】
本発明の目的は第2に、燃焼室内から吸引し回収した、粉塵を含むガスと異物を、集塵機を設けることなく、また水の中に浸漬して圧損を生じさせることなく、周辺環境中に排出させることのない、燃焼室異物回収装置を提供することにある。
【0017】
高温の燃焼室内に挿入する吸引ランスについて、特許文献4では通常の炭素鋼を用いているが、特許文献3にも記載のように、これでは1回の使用で吸引ランスが焼損または曲損してしまい、毎回新しい吸引ランスと付け替える必要があることが判明した。特許文献1ではランス管の上端から二重管構造を経由して冷却水を供給し、下端から上部に冷却水を導く螺旋状冷却管を設け、ランス管を冷却する構造を採用しているが、構造が複雑で製造の費用が高額となり、また異物が通過する部分の内径が小さくなって効率が低下し、冷却水の漏れによって炉体が損傷し、さらには水蒸気爆発の可能性も生じる。特許文献3では、圧縮エアをエジェクタ管部に噴射して異物を吸引しているとき、一定のタイミングで三方切換弁の切り換えにより圧縮エアを垂直管部内に排出し、垂直管部をエア冷却している。エア冷却中には異物の吸引除去ができないので、作業効率が低下することとなる。
【0018】
本発明の目的は第3に、吸引ランスを水冷構造にすることなく、また異物の吸引除去と吸引ランスのエア冷却を交互に行うことなく、吸引ランスの寿命延長を図ることのできる、燃焼室異物回収装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]コークス炉の燃焼室頂部から燃焼室内に挿入する筒状の吸引ランスを有し、前記吸引ランス内を負圧にして燃焼室底部に堆積する異物を吸引回収する燃焼室異物回収装置であって、
前記吸引ランスの上端部に前記吸引ランス内を負圧にするためのエアーエジェクタを設け、前記エアーエジェクタの出口側に可撓性を有するホースを接続し、前記ホースの出口側から異物を回収することを特徴とする燃焼室異物回収装置。
[2]異物を回収する回収ボックスを設け、前記ホースの出口側を前記回収ボックス内に配置し、前記回収ボックス内に散水するスプレーノズルを設け、前記ホースの出口から流出する異物に対して前記スプレーノズルから散水することのできる[1]に記載の燃焼室異物回収装置。
[3]前記吸引ランスをステンレス鋼製とすることを特徴とする[1]又は[2]に記載の燃焼室異物回収装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明の燃焼室異物回収装置は、吸引ランスの上端部にエアーエジェクタを設け、エアーエジェクタの出口側にホースを接続する結果、ホースが高温に加熱されず、通常材質のホースを用いることができる。また、回収ボックス内において、ホースの出口から流出する異物に対してスプレーノズルから散水することにより、集塵機を設けることなく、また圧損を被ることなく、異物の回収を行うことができる。さらに、吸引ランスをステンレス鋼製とすることにより、吸引ランスを水冷構造や空冷構造にすることなく、焼損や曲損を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】燃焼室異物回収装置の一例を示す概略図である。
図2】燃焼室異物回収装置の一例を示す概略図である。
図3】燃焼室異物回収装置の回収ボックスの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、コークス炉の燃焼室頂部から燃焼室内に挿入する筒状の吸引ランスを有し、吸引ランス内を負圧にして燃焼室底部に堆積する異物を吸引回収する燃焼室異物回収装置を対象とする。以下、図1図3に基づいて説明を行う。図1図2において、紙面の左右方向が炉長方向32、紙面に垂直な方向が炉団長方向31、紙面の上下方向が高さ方向33に該当する。
【0023】
図1は、燃焼室11を炉団長方向31に垂直な面で切断した断面図である。炉長方向32に燃焼室11が配列されている。燃焼室頂部12と炉頂部15との間には点検口14が設けられている。燃焼室底部13には、燃焼用ガス導入口と空気導入口が設けられており、図1においては燃焼用ガス導入口16の切断面が見えている。
【0024】
コークス炉の炉頂部15から燃焼室底部13までの距離は6~8m程度となるため、燃焼室底部13に堆積する異物34を吸引除去する吸引ランス2の吸引ランス長さは、6~8mを超える長さを有している。吸引ランス2を燃焼室11に挿入する前の段階では、吸引ランス2の下端部がコークス炉の炉頂部15付近の高さとなるので、吸引ランス2の上端部は炉頂部15から吸引ランス長さを超える高さに上昇している(図2参照)。吸引ランス2を燃焼室11の点検口14から燃焼室11内に挿入して下降し、異物を吸引する位置まで下降した段階で、吸引ランス2の上端部は炉頂部15の高さ付近まで下降している(図1参照)。一方、排出したガスと異物の混合物から異物を回収するための回収ボックス5は、吸引ランス2の上昇下降に伴って上昇下降を行う方式とはせず、高さ方向は一定位置とすることが好ましい(図2参照)。このように上昇下降を行う吸引ランス2と回収ボックス5の位置関係において、吸引した異物を回収するためには、吸引ランス上端部のガス排出部と回収ボックス5との間を、可撓性を有するホース4によって接続することが好ましい(図2参照)。
【0025】
異物回収を行う燃焼室11の内部は900~1000℃程度の高温環境であり、吸引ランス2で吸引するガスと異物の混合物も同程度の温度を有している。従来、このような高温状態のガスと異物の混合物をホースで流通するためには、特許文献4に記載のように、耐熱ホースを用いる必要があり、耐熱ホース自体が高温になるため取り扱いについて注意が必要となり、また、コスト高であると考えられていた。特許文献4では、この問題を解決してホースを接続するため、冷却水供給管から供給された冷却水と異物とが排出用筒部から一緒に排出可能に構成することにより、ホース内に供給されるガスと異物を冷却している。しかし前述のとおり、吸引ランスの頂部付近の流路に冷却水を供給することから、この冷却水が逆流して吸引ランス内に入り込むと、燃焼室内への水の浸入で炉体が損傷し、さらには水蒸気爆発の可能性も生じる。一方、特許文献1、3においては、吸引ランスの頂部にエアーエジェクタを設け、エアーエジェクタによって吸引ランス内のガスを吸引して負圧状態とし、吸引ランスから吸引したガスと異物の混合物をエアーエジェクタの出口から排出している。エアーエジェクタの出口側が開放され、吸い上げた異物とガスが周辺環境中に排出される構成となっている。
【0026】
図1図2に示すように、エアーエジェクタ3を吸引ランス2の上端部に配置した構成では、圧縮エアが供給エアとして供給エア配管7からエアーエジェクタ内部に噴射され、エアーエジェクタ内部を急速に通過してエアーエジェクタ出口8から排出されるので、エアーエジェクタ3に接続した吸引ランス2内に負圧が発生する。この負圧によって吸引ランス2の下端部から高温のガスと異物34が吸引・上昇してエアーエジェクタ出口8から排出される。エアーエジェクタ出口8側では、吸引ランス2から上昇した高温のガスと異物に加え、供給エア配管7からエアーエジェクタ内部に噴射された供給エアが混合して排出される。噴射された供給エアは常温であるため、エアーエジェクタ出口8のガス温度は低下しているはずである。
【0027】
本発明者らは、吸引ランス2の上端部に吸引ランス内を負圧にするためのエアーエジェクタ3を設けることによって、エアーエジェクタ出口8のガス温度は十分に低下し、エアーエジェクタ出口8に耐熱性を有しない通常のホース4を接続できるのではないかと着想した。
【0028】
そこで、吸引ランス2の上端部に吸引ランス内を負圧にするためのエアーエジェクタ3を設け、エアーエジェクタ出口8に、ステンレス製フレキシブルホース4を接続し、圧縮エアを供給エアとして供給エア配管7からエアーエジェクタ内部に噴射して燃焼室内の異物吸引除去を試みた。吸引中にホース4の表面温度を測定した結果、温度は50~100℃程度までしか上昇せず、耐熱性を有しない通常の可撓性を有するホース4を使用できることがわかった。また、ホース4が高温にならないので、吸引作業中も安全にホース4近傍で作業を行うことが可能になった。ホース4の出口側を回収ボックス5に接続することにより、異物を回収することができる。
【0029】
以上説明したとおり、コークス炉の燃焼室頂部12から燃焼室11内に挿入する筒状の吸引ランス2を有し、吸引ランス2内を負圧にして燃焼室底部13に堆積する異物34を吸引回収する燃焼室異物回収装置1において、吸引ランス2の上端部に吸引ランス2内を負圧にするためのエアーエジェクタ3を設け、エアーエジェクタ出口8側に可撓性を有するホース4を接続し、ホース4の出口側から異物を回収することにより、本発明の第1の目的を達成できることが判明した。
【0030】
エアーエジェクタは、背圧0.5MPa以上、空気量300m/h以上が好ましい。供給エアとしては、コークス炉に通常に供給されている工場エアを用いることもでき、あるいは可搬式の空気圧縮機を用いることもできる。
【0031】
ホースには伸縮性と100℃以上の耐熱性を有する金属製ホースを用いることができる。
【0032】
エアーエジェクタ出口8と回収ボックス5の間をホース4で接続した上で吸引を行い、吸引した異物34を好ましくは回収ボックス5内に回収する。回収ボックス5として、図3に示すように、単純な箱形式のものを準備した。上記のように、エアーエジェクタ出口8と回収ボックス5との間には可撓性を有するホース4が設けられているので、吸引ランス2が上昇・下降を行うにもかかわらず、回収ボックス5をコークス炉の炉頂部15付近の低い高さに配置することができる。ここで、図3に示すように、ホース4の出口側を回収ボックス5内に配置し、回収ボックス5内に散水するスプレーノズル6を設け、ホース4の出口から流出する異物に対してスプレーノズル6から散水することを試みた。その結果、ホース4の出口から排出される異物34は冷却されて回収ボックス5内に堆積し、ホース4の出口から排出されるガス中の粉塵は散水された水中に混合して回収することができた。回収ボックス5から外部に流出するガス中には粉塵も異物も含まれず、良好な環境を維持することができた。その結果、特許文献4のように集塵機を設ける必要がなく、特許文献1、3のように吸い上げた異物とガスが周辺環境中に排出されることもない。また、特許文献2と異なり、ホースの最下流端が水の中に浸漬していないので、圧損を生じさせることもない。
【0033】
以上説明したとおり、異物34を回収する回収ボックス5を設け、ホース4の出口側を回収ボックス5内に配置し、回収ボックス5内に散水するスプレーノズル6を設け、ホース4の出口から流出する異物に対してスプレーノズル6から散水することにより、本発明の第2の目的を達成できることが判明した。
【0034】
回収ボックスは、燃焼室容積(堆積物量)と散水量及びハンドリング性を考慮し、1~2m程度が好ましい。回収ボックスはエジェクターエアの圧損低下を防止するため開放系とする。
【0035】
回収ボックスへの散水は、ノズル背圧0.05~0.15MPa程度、0.2~0.5L/min程度が好ましい。
【0036】
前述のように、異物回収を行う燃焼室11の内部は900~1000℃程度の高温環境であり、筒状の吸引ランス2内を通過して吸引するガスと異物の混合物も同程度の温度を有している。吸引ランス2として特許文献4に記載のように通常の炭素鋼を用いたのでは、特許文献3に記載のように1回の使用で吸引ランスが焼損または曲損してしまい、毎回新しい吸引ランスと付け替える必要がある。特許文献1では冷却水によって吸引ランスを冷却しており、特許文献3では吸引中に吸引を中断して圧縮エアを吸引ランス内に供給して冷却を行っている。
【0037】
本発明者らは、吸引ランス2の材質を炭素鋼ではなくステンレス鋼を用いることにより、吸引ランス2の耐熱性が向上し、冷却水や冷却エアを供給することなく、耐久性のある吸引ランス2とすることができるのではないかと着想した。そして、筒状の吸引ランス2としてステンレス鋼製の鋼管を用いたところ、炭素鋼製の吸引ランスで見られた焼損や曲損は発生しないことが判明した。即ち、これにより、本発明の第3の目的を達成できることが判明した。
【0038】
吸引ランス2に用いるステンレス鋼として、好ましくはSUS304を用いることができる。その他、SUS316・SUS309S・SUS310S等を用いることができる。
【0039】
コークス炉は、1炉団において、炉長方向32に燃焼室11が50~100室程度並んだ燃焼室列を形成し、炉団長方向31に燃焼室列が28~34程度の数で配列されている。本発明の吸引ランス2を有する燃焼室異物回収装置1において、異物回収の対象となる燃焼室11の位置まで、吸引ランス2を迅速かつ容易に移動し設置することが好ましい。ここにおいて、図2に示すように、コークス炉の炉頂部15に、炉団長方向31に走行する走行台車21を配置し、走行台車21上には、炉長方向32に移動可能な横行台車22を配置すると好ましい。横行台車22上にはウインチなどの昇降機構23を設け、吸引ランス2の昇降を行う。
【0040】
ここにおいて、走行台車21の走行軌条としては既設装炭車用軌条を用いることができる。走行台車21の走行については、走行台車21上に自走式の移動装置を設けることもでき、あるいは炉頂部に配置されている装炭車を、走行台車21の走行手段として用いることもできる。走行台車21は、炉長方向32には、横行台車22がすべての燃焼室11の位置に移動できるだけの長さを有している。
【0041】
異物34を回収する回収ボックス5は、走行台車21において高さ方向33では炉頂部15の高さに近い位置に配置するとともに、炉長方向32には横行台車22の移動に対応して移動可能とすると好ましい。回収ボックス5を横行台車22に固定してもよい。これにより、平面視において、吸引ランス2と回収ボックス5との位置関係は常に近い位置とすることができ、かつ回収ボックス5の高さ位置が炉頂部15の高さに近いので、回収ボックス5内に回収した異物34の除去作業も容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0042】
1 燃焼室異物回収装置
2 吸引ランス
3 エアーエジェクタ
4 ホース
5 回収ボックス
6 スプレーノズル
7 供給エア配管
8 エアーエジェクタ出口
11 燃焼室
12 燃焼室頂部
13 燃焼室底部
14 点検口
15 炉頂部
16 燃焼用ガス導入口
21 走行台車
22 横行台車
23 昇降機構
31 炉団長方向
32 炉長方向
33 高さ方向
34 異物
図1
図2
図3