(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141569
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】燃料電池発電システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04303 20160101AFI20230928BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20230928BHJP
H01M 8/04701 20160101ALI20230928BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20230928BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20230928BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20230928BHJP
H01M 8/04313 20160101ALI20230928BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20230928BHJP
【FI】
H01M8/04303
H01M8/12 101
H01M8/04701
H01M8/04858
H01M8/0432
H01M8/04537
H01M8/04313
H01M8/04746
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047958
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】宅和 雄也
(72)【発明者】
【氏名】河合 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】樋口 和宏
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA07
5H127AC05
5H127BA13
5H127BA18
5H127BA34
5H127BA57
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB19
5H127BB37
5H127DA11
5H127DB41
5H127DB47
5H127DB49
5H127DB53
5H127DC22
5H127DC42
5H127DC72
5H127DC73
(57)【要約】
【課題】運転停止時の急激な温度降下によるセルスタックの疲労や劣化の進行を抑制しながら運転停止時間の短縮化を実現する。
【解決手段】改質部4で燃料ガスを改質して得られる改質燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応により電力を発生する固体酸化物形の燃料電池セル6Aを複数積層してなるセルスタック6Bを有し、当該セルスタック6Bの起電力を発電電力として出力する燃料電池部6と、燃料電池部6の温度を目標温度に降下させて運転を停止させる運転停止処理を実行可能な運転制御部9Aと、燃料電池部6の温度降下速度を調整自在な温度降下速度調整手段Bが備えられ、運転制御部9Aは、運転停止処理の実行中において、燃料電池部6の温度降下速度を監視し、その温度降下速度が所定の設定降下速度になるように温度降下速度調整手段Bを制御する停止時温度制御を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質部で燃料ガスを改質して得られる改質燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応により電力を発生する固体酸化物形の燃料電池セルを複数積層してなるセルスタックを有し、当該セルスタックの起電力を発電電力とし出力する燃料電池部と、
前記燃料電池部の温度を目標温度に降下させて運転を停止させる運転停止処理を実行可能な運転制御部と、
前記燃料電池部の温度降下速度を調整自在な温度降下速度調整手段が備えられ、
前記運転制御部は、前記運転停止処理の実行中において、前記燃料電池部の温度降下速度を監視し、その温度降下速度が所定の設定降下速度になるように前記温度降下速度調整手段を制御する停止時温度制御を実行する燃料電池発電システム。
【請求項2】
前記セルスタックの劣化状態又は経年使用状態に関する状態情報を取得する状態情報取得部が備えられ、
前記運転制御部は、前記状態情報取得部にて取得される状態情報に応じて前記設定降下速度を補正する請求項1記載の燃料電池発電システム。
【請求項3】
前記状態情報取得部は、前記燃料電池部の劣化状態に関する状態情報として、運転時の前記セルスタックの温度又は発電電圧を取得し、
前記運転制御部は、前記状態情報取得部にて取得される運転時の前記セルスタックの温度又は発電電圧に応じて前記設定降下速度を補正する請求項2記載の燃料電池発電システム。
【請求項4】
前記状態情報取得部は、前記燃料電池部の経年使用状態に関する状態情報として、前記セルスタックの累積起動停止回数又は累積運転時間を取得し、
前記運転制御部は、前記状態情報取得部にて取得される前記セルスタックの累積起動停止回数又は累積運転時間に応じて前記設定降下速度を補正する請求項2記載の燃料電池発電システム。
【請求項5】
前記運転制御部は、前記停止時温度制御において、前記燃料電池部の複数箇所の温度降下速度を監視し、最も温度降下速度の速い箇所の温度降下速度が前記設定降下速度になるように前記温度降下速度調整手段を制御する請求項1~4のいずれか1項に記載の燃料電池発電システム。
【請求項6】
前記設定降下速度は、温度変化により前記セルスタックに生じる熱応力が大きい温度域の温度降下速度が温度変化により前記セルスタックに生じる熱応力が小さい温度域の温度降下速度よりも遅くなるように温度域によって異なる温度降下速度が設定されたものある請求項1~5のいずれか1項に記載の燃料電池発電システム。
【請求項7】
前記燃料電池部に前記酸化剤ガスを含む空気を供給する空気供給路と、
前記空気供給路を通じて前記燃料電池部に供給する空気の流量を調整自在な空気供給量調整手段が備えられ、
前記温度降下速度調整手段が、前記空気供給量調整手段にて構成され、前記空気供給路を通じて前記燃料電池部に供給する空気の流量を調整することで、その空気の冷却作用により前記燃料電池部の温度降下速度を調整自在に構成されている請求項1~6のいずれか1項に記載の燃料電池発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質部で燃料ガスを改質して得られる改質燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応により電力を発生する固体酸化物形の燃料電池セルを複数積層してなるセルスタックを有し、当該燃料電池セルの起電力を発電電力として電力系統に出力する燃料電池部が備えられている燃料電池発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の燃料電池発電システムでは、発電を行う運転時には燃料電池部が高温で動作しており、運転停止時には燃料電池部への改質燃料ガスの供給量を減少させつつ燃料電池部を冷却する運転停止処理を行って燃料電池部を高温から常温等の目標温度まで降下させている。
特許文献1には、運転停止処理において、冷却に伴う燃料電池セルのアノード・カソード間の熱応力差等に起因する損傷を回避するべく、アノードに対する改質燃料ガスの供給を停止してアノードに水蒸気を流すとともに、燃料電池部のカソードに対し空気を流しながらアノードとカソードとの間の温度差を監視し、その温度差が一定値範囲内におさまるようにアノードに対する水蒸気の供給量とカソードに対する空気の供給量を制御する燃料電池発電システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、運転停止処理においてアノードとカソードとの間の温度差が一定値範囲内におさまるようにしても、セルスタックが高温から目標温度に短時間で急激に降下すると、セルスタックに大きな熱応力が生じ、その大きな熱応力の繰り替えしや蓄積によってセルスタックの疲労や劣化が進むことが懸念される。
そこで、セルスタックに疲労や劣化が生じないように、時間をかけてゆっくり冷却することも考えられるが、その場合には、セルスタックの温度が目標温度に降下するまでの運転停止時間が延びることになり、その結果、再起動までに時間遅れが生じて発電できない時間が発生したり、運転停止処理における燃料ガスの消費量が増加したりすることが懸念される。
【0005】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、運転停止時の急激な温度降下によるセルスタックの疲労や劣化の進行を抑制しながら運転停止時間の短縮化を実現することのできる燃料電池発電システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1特徴構成は、改質部で燃料ガスを改質して得られる改質燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応により電力を発生する固体酸化物形の燃料電池セルを複数積層してなるセルスタックを有し、当該セルスタックの起電力を発電電力とし出力する燃料電池部と、
前記燃料電池部の温度を目標温度に降下させて運転を停止させる運転停止処理を実行可能な運転制御部と、
前記燃料電池部の温度降下速度を調整自在な温度降下速度調整手段が備えられ、
前記運転制御部は、前記運転停止処理の実行中において、前記燃料電池部の温度降下速度を監視し、その温度降下速度が所定の設定降下速度になるように前記温度降下速度調整手段を制御する停止時温度制御を実行する点にある。
【0007】
本構成によれば、燃料電池部の運転停止処理の実行中に停止時温度制御が実行されて、実際の燃料電池部の温度降下速度を監視しながら、その温度降下速度をセルスタックの疲労や劣化及び運転停止時間を考慮した所定の設定降下速度に調整することができるので、運転停止時の急激な温度降下によるセルスタックの疲労や劣化の進行を抑制しながら運転停止時間の短縮化を実現することができる。
しかも、この停止時温度制御は、温度降下速度調整手段に予め設定された動作を行わせるのではなく、実際の燃料電池部の運転停止時の温度降下速度に応じた動作を行わせるので、燃料電池発電システム毎の運転温度や周囲環境温度等のバラつき等に関係なく、燃料電池部の運転停止時の温度降下速度を所定の設定降下速度に調整して上述の効果を得ることができる。
【0008】
本発明の第2特徴構成は、前記セルスタックの劣化状態又は経年使用状態に関する状態情報を取得する状態情報取得部が備えられ、
前記運転制御部は、前記状態情報取得部にて取得される状態情報に応じて前記設定降下速度を補正する点にある。
【0009】
セルスタックの劣化状態又は経年使用状態などの状態によっては温度変化によるセルスタックの疲労や劣化が進行し易くなっていることが考えられる。本構成によれば、状態情報取得部にてセルスタックの劣化状態又は経年使用状態などの状態情報を取得し、その状態情報に応じて運転制御部が設定降下速度を補正するので、例えば温度変化によるセルスタックの疲労や劣化が進行し易い状態であれば、設定降下速度を低速側に補正して運転停止時の温度降下速度をセルスタックの疲労や劣化が進行し難い緩やかなものにすることができる。よって、セルスタックの劣化状態又は経年使用状態などの状態に応じて運転停止時の温度降下によるセルスタックの疲労や劣化の進行を適切に抑制することができる。
【0010】
本発明の第3特徴構成は、前記状態情報取得部は、前記燃料電池部の劣化状態に関する状態情報として、運転時の前記セルスタックの温度又は発電電圧を取得し、
前記運転制御部は、前記状態情報取得部にて取得される運転時の前記セルスタックの温度又は発電電圧に応じて前記設定降下速度を補正する点にある。
【0011】
セルスタックの劣化が進行すると、運転時のセルスタックの温度が初期温度よりも高くなったり、運転時の前記セルスタックの発電電圧が初期電圧よりも低くなったりするなどの現象が生じることになる。本構成によれば、状態情報取得部にて運転時のセルスタックの温度又は発電電圧をセルスタックの劣化状態に関する状態情報として取得し、それに応じて運転制御部が設定降下速度を補正するので、セルスタックの劣化状態に関する情報を簡易に取得してセルスタックの劣化状態に応じて運転停止時の温度降下によるセルスタックの疲労や劣化の進行を適切に抑制することができる。
【0012】
本発明の第4特徴構成は、前記状態情報取得部は、前記燃料電池部の経年使用状態に関する状態情報として、前記セルスタックの累積起動停止回数又は累積運転時間を取得し、
前記運転制御部は、前記状態情報取得部にて取得される前記セルスタックの累積起動停止回数又は累積運転時間に応じて前記設定降下速度を補正する点にある。
【0013】
セルスタックの累積起動停止回数又は累積運転時間が多くなると、経年使用によりセルスタックの劣化が進行していることが予想される。本構成によれば、状態情報取得部にてセルスタックの累積起動停止回数又は累積運転時間をセルスタックの経年使用状態に関する状態情報として取得し、それに応じて運転制御部が設定降下速度を補正するので、セルスタックの経年使用状態に関する情報を簡易に取得してセルスタックの経年使用状態に応じて運転停止時の温度降下によるセルスタックの疲労や劣化の進行を適切に抑制することができる。
【0014】
本発明の第5特徴構成は、前記運転制御部は、前記運転停止処理の実行中に前記燃料電池部の複数箇所の温度降下速度を監視し、最も温度降下速度の速い箇所の温度降下速度が前記設定降下速度になるように前記温度降下速度調整手段を制御する点にある。
【0015】
本構成によれば、運転停止時の温度降下速度制御において、燃料電池部の複数個所のうちで最も温度降下速度の速い箇所の温度降下速度を制御対象とするので、より安全側の制御として運転停止時の温度降下によるセルスタックの疲労や劣化の進行をより確実に抑制することができる。
【0016】
本発明の第6特徴構成は、前記設定降下速度は、温度変化により前記セルスタックに生じる熱応力が大きい温度域の温度降下速度が温度変化により前記セルスタックに生じる熱応力が小さい温度域の温度降下速度よりも低くなるように温度域によって異なる温度降下速度が設定されたものである点にある。
【0017】
本構成によれば、運転停止時において、温度変化によりセルスタックに生じる熱応力が大きい温度域の温度降下速度を温度変化によりセルスタックに生じる熱応力が小さい温度域の温度降下速度よりも低くすることで、運転停止時の温度降下によるセルスタックの疲労や劣化の進行の抑制と運転停止時間の短縮化とを効率良く実現することができる。
【0018】
本発明の第7特徴構成は、前記燃料電池部に前記酸化剤ガスを含む空気を供給する空気供給路と、
前記空気供給路を通じて前記燃料電池部に供給する空気の流量を調整自在な空気供給量調整手段が備えられ、
前記温度降下速度調整手段が、前記空気供給量調整手段にて構成され、前記空気供給路を通じて前記燃料電池部に供給する空気の流量を調整することで、その空気の冷却作用により前記燃料電池部の温度降下速度を調整自在に構成されている点にある。
【0019】
本構成によれば、燃料電池部に前記酸化剤ガスを含む空気を供給するための空気供給路と空気供給量調整手段を活用する形態で、温度降下速度調整手段を効率良く構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】設定降下速度の制御マップのイメージ図(グラフ図)
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の燃料電池発電システムの実施形態について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、この燃料電池発電システムには、都市ガス等の炭化水素系の燃料ガスを脱硫する脱硫部1と、改質水タンク2から供給される改質水を加熱して水蒸気を生成する気化部3と、気化部3にて生成された水蒸気を用いて脱硫部1にて脱硫された燃料ガスを水蒸気改質する改質部4と、改質部4で得られる改質燃料ガス及びブロア5(空気供給量調整手段一例)から供給される空気中の酸化剤ガス(酸素ガス)を用いて発電する燃料電池部6が備えられている。
【0022】
また、この燃料電池発電システムには、燃料電池部6から発電反応したのちに排出される排改質燃料ガスと排空気とを混合させて排改質燃料ガス中の可燃成分を燃焼させる燃焼部7と、燃料電池部6の発電出力を商用電源17から受電する受電電力と同じ電圧及び同じ周波数に変換する電力変換部8と、各部の作動状態を制御する制御装置9とが備えられている。
【0023】
そして、この燃料電池発電システムは、気化部3、改質部4、燃料電池部6、及び、燃焼部7が収納容器10内に収納され、気化部3が燃焼部7での燃焼により発生する燃焼熱を用いて水蒸気の生成処理を行うとともに、改質部4が燃焼部7での燃焼により発生する燃焼熱を用いて燃料ガスの改質処理を行うように構成されている。
【0024】
燃料ガスは、昇圧ポンプ11(燃料ガス供給量調整手段の一例)の作動により燃料ガス供給路L1を通して脱硫部1に供給される。改質水タンク2の改質水は、改質水ポンプ12(改質水供給量調整手段の一例)の作動により改質水供給路L2を通して気化部3に供給される。そして、燃料ガス供給路L1において脱硫部1よりも下流側部位が改質水供給路L2の途中部位に合流されており、収納容器10外にて合流された改質水と燃料ガスとが収納容器10内に備えられた気化部3に供給される。また、気化部3にて生成された水蒸気を含む燃料ガスは、水蒸気含有燃料ガス供給路L3を通して改質部4に供給されて、その改質部4にて燃料ガスが水蒸気改質されて水素ガスを主成分とする改質燃料ガスが生成される。改質部4にて生成された改質燃料ガスは、改質燃料ガス供給路L4を通して燃料電池部6へ供給される。
【0025】
燃料電池部6は、改質燃料ガスと酸化剤ガスのとの電気化学反応により電力を発生する固体酸化物形の燃料電池セル6Aを複数積層してなるセルスタック6Bを有し、当該セルスタック6Bの起電力を発電電力として出力するように構成されている。複数の燃料電池セル6Aは、電気的に直列接続された状態でセルスタック6Bに備えられている。
【0026】
燃料電池セル6Aは、改質燃料ガスが通流する燃料通流部6aと空気が通流する空気通流部6bが備えられているとともに、図示は省略するが、燃料極と空気極との間に固体電解質層が備えられており、燃料通流部6aを改質燃料ガスが通流することで燃料極に改質燃料ガスが供給され、空気通流部6bを空気が通流することで空気極に空気が供給される。そして、セルスタック6Bは、複数の燃料電池セル6Aが燃料通流部6aの改質燃料ガス排出口及び空気通流部6bの空気排出口が上向きになる姿勢で配列されて、収納容器10内に配設されている。
【0027】
図1に示すように、燃料電池部6には、改質部4から改質燃料ガス供給路L4を通して供給される改質燃料ガスを受け入れるガスマニホールド6Cが備えられており、複数の燃料電池セル6Aは、ガスマニホールド6Cの上方側に配列され、ガスマニホールド6Cと複数の燃料電池セル6Aにおける燃料通流部6aの下端のガス導入口とが連通接続されている。そして、ガスマニホールド6Cに供給された改質燃料ガスが複数の燃料電池セル6A夫々の燃料通流部6aに対して下端のガス導入口から供給されて、各燃料通流部6aを下方側から上方側に通流して発電反応に供され、その発電反応に供されたのちの排改質燃料ガスが上端の改質燃料ガス排出口から排出される。
【0028】
収納容器10には、空気導入口13が設けられるともに、その空気導入口13に、空気供給路L5が接続されており、ブロア5(空気供給量調整手段の一例)の作動により空気が空気供給路L5を通して収納容器10内に供給される。
複数の燃料電池セル6A夫々における空気通流部6bの下端部近傍には、収納容器10内と空気通流部6b内とを連通する空気供給孔(図示省略)が設けられている。そして、複数の燃料電池セル6A夫々の空気通流部6bには収納容器10内の空気がこの空気供給孔を通して供給されて、各空気通流部6bを下方側から上方側に通流して発電反応に供され、発電反応に供されたのちの排空気が上端の空気排出口から排出される。
【0029】
収納容器10内において、複数の燃料電池セル6Aを複数積層してなるセルスタック6Bと、セルスタック6Bの上方に配置された改質部4との間の空間が、各燃料電池セル6Aの上端から排出される排改質燃料ガスと排空気とを燃焼させる燃焼部7として構成されている。そして、燃焼部7での排改質燃料ガス中の可燃成分の燃焼により発生する燃焼熱が、気化部3での水蒸気の生成に用いられ、改質部4での改質処理に用いられる。
【0030】
収納容器10には、燃焼部7にて発生した燃焼ガスを外部に排出させる排出部14が下面部等に形成されている。そして、収納容器10内には、排出部14から外部に排出される燃焼排ガス中の一酸化炭素ガスを除去する燃焼触媒部15(例えば、白金系触媒)が備えられている。
【0031】
電力変換部8は、セルスタック6Bに電気的に接続されたインバータなどであり、セルスタック6Bの発電出力を、所望の電圧、周波数、位相の電力に変換して出力できる。そして、電力変換部8に接続される電力供給ラインL6を介して電力負荷機器(図示省略)に電力が供給される。電力供給ラインL6は、商用電源17に連系されており、商用電源17及びセルスタック6Bの少なくともいずれか一方から電力負荷機器に電力が供給される。
【0032】
制御装置9には、燃料電池発電システムの運転を司る運転制御部9Aが備えられている。運転制御部9Aは、昇圧ポンプ11、ブロア5、改質水ポンプ12、電力変換部8等の各部の動作を制御し、気化部3への燃料ガス及び改質水の供給量、収納容器10内への空気の供給量、及び燃焼部7での燃焼量等を調整し、燃料電池部6の温度を発電温度(
図2中のT0)に上昇させて高温状態にして起動させる起動処理、起動処理後に高温状態の燃料電池部6に発電させる運転処理、及び高温状態の燃料電池部6の温度を常温に近い目標温度(
図2中のT1参照)に降下させて運転を停止させる運転停止処理等の各種の処理を実行する。
【0033】
起動処理では、気化部3への燃料ガス及び改質水の供給量、収納容器10内への空気の供給量、燃焼部7での燃焼量等を設定量まで徐々に増加させることで、燃料電池部6の温度を所望の発電温度に上昇させて高温状態にして起動させる。
運転処理では、例えば、電力供給ラインL6に設けられた電力負荷計測部16にて計測される電力負荷に応じて、気化部3への燃料ガス及び改質水の供給量、収納容器10内への空気の供給量、燃焼部7での燃焼量等を逐次調整することで、高温状態の燃料電池部6に電力負荷に応じた発電電力を出力させる。
運転停止処理では、気化部3への燃料ガス及び改質水の供給量、収納容器10内への空気の供給量、燃焼部7での燃焼量等を徐々に減少させ、高温状態の燃料電池部6の温度を目標温度に降下させて運転を停止させる。
【0034】
ここで、運転停止処理において、燃料電池部6のセルスタック6Bが高温から目標温度に短時間で急激に降下すると、セルスタック6Bに大きな熱応力が生じ、その大きな熱応力の繰り替えしや蓄積によってセルスタック6Bの疲労や劣化が進むことが懸念される。一方、セルスタック6Bに疲労や劣化が生じないように、時間をかけてゆっくり冷却すると、運転停止時間が延びることが懸念される。
【0035】
そこで、運転停止時の急激な温度降下によるセルスタック6Bの疲労や劣化の進行を抑制しながら運転停止時間の短縮化を実現するべく、運転制御部9Aは、運転停止処理の実行中において、燃料電池部6の実際の温度降下速度を監視し、その温度降下速度が所定の設定降下速度(
図2参照)になるように温度降下速度調整手段Bを制御する停止時温度制御を実行するように構成されている。
【0036】
本実施形態では、セルスタック6Bの異なる箇所の温度を測定する複数の温度センサ18(温度測定手段の一例)が備えられており、運転制御部9Aは、停止時温度制御において、セルスタック6Bの複数箇所の温度降下速度を監視し、そのうちで最も温度降下速度の速い箇所の温度降下速度を制御対象の温度降下速度として、その温度降下速度が設定降下速度になるように温度降下速度調整手段Bを制御している。
【0037】
温度降下速度調整手段Bは、本実施形態ではブロア5にて構成され、空気供給路L5を通じて燃料電池部6に供給する空気の流量を調整することで、その空気の冷却作用により燃料電池部6の温度降下速度を調整自在に構成されている。運転制御部9Aは、空気供給路L5を通じて燃料電池部6に供給される空気の流量が運転停止処理に要する空気の流量に温度降下速度の調整に要する空気の流量を加算した流量となるようにブロア5の動作を制御している。ちなみに、空気供給路L5を通じて燃料電池部6に供給する空気の温度は、燃料電池発電システムの周囲環境温度であるので、高温の発電温度から低温の目標温度までの温度降下速度を調整する際、周囲環境温度と温度差の大きい高温域では少ない流量で済み、温度降下が進んで周囲環境温度に近づくほど流量は多くなる。
【0038】
そして、運転制御部9Aは、運転停止処理において、セルスタック6Bの制御対象の温度降下速度を逐次取得して監視し、その時点の温度降下速度が設定降下速度よりも速い場合には、ブロア5の動作を制御して燃料電池部6に供給される空気の流量を減少側に調整し、その時点の温度降下速度が設定降下速度よりも遅い場合には、ブロア5の動作を制御して燃料電池部6に供給される空気の流量を増加側に調整することで、フィードバック方式にてセルスタック6Bの温度降下速度を設定降下速度に調整する。
【0039】
図2の(a)~(d)の夫々は、設定降下速度の制御マップのイメージ図(グラフ図)である。横軸が経過時間で縦軸が温度であり、温度降下速度が勾配で表されている。また、グラフ中の実線は、予め設定されている設定降下速度を示し、グラフ中の一点鎖線は、詳細は後述するが補正後の設定降下速度を示している。
【0040】
この
図2に示すように、設定降下速度は、温度域によって異なる温度降下速度が設定されたものであり、例えば、
図2の(a)~(d)に複数のパターンを示すように、温度変化によりセルスタック6Bに生じる熱応力が大きい温度域の温度降下速度が温度変化によりセルスタック6Bに生じる熱応力が小さい温度域の温度降下速度よりも遅くなるように設定されたものとしている。
【0041】
図2(a)、
図2(b)は、温度変化によりセルスタック6Bに生じる熱応力が大きい温度域が発電温度T0側となる高温域にある仕様の場合に採用される設定降下速度を例示したもので、発電温度T0側の高温域の温度降下速度が、目標温度T2側の低温域の温度降下速度よりも遅くなるように設定されている。
図2(a)で表される制御マップでは、高温側の発電温度T0から発電温度T0と目標温度T2との間の中間温度T1までの温度域の温度降下速度が第1設定値に設定され、中間温度T1から目標温度T2までの低温側の温度域の温度降下速度が第1設定値よりも大きい第2設定値に設定されている。
また、
図2(b)で表される制御マップでは、高温側から低温側にかけて温度降下速度が徐々に速くなるように設定されている。
【0042】
図2(c)、
図2(d)は、温度変化によりセルスタック6Bに生じる熱応力が大きい温度域が目標温度T2側となる低温域にある仕様の場合に採用される設定降下速度を例示したもので、目標温度T2側の低温域の温度降下速度が発電温度T0側の高温域の温度降下速度よりも遅くなるように設定されている。
図2(c)で表される制御マップでは、高温側の発電温度T0から発電温度T0と目標温度T2との間の中間温度T1までの温度域の温度降下速度が第3設定値に設定され、中間温度T1から目標温度T2までの低温側の温度域の温度降下速度が第3設定値よりも小さい第4設定値に設定されている。
また、
図2(d)で表される制御マップでは、高温側から低温側にかけて温度降下速度が徐々に遅くなるように設定されている。
【0043】
セルスタック6Bの劣化状態によっては温度変化によるセルスタック6Bの疲労や劣化が進行し易くなっていることが考えられる。
そこで、この燃料電池発電システムでは、温度変化によるセルスタック6Bの疲労や劣化が進行し易くなっている場合でも運転停止時の温度降下によるセルスタック6Bの疲労や劣化の進行を適切に抑制できるように、セルスタック6Bの劣化状態に関する状態情報を取得する状態情報取得部9Bが備えられ、運転制御部9Aは、状態情報取得部9Bにて取得されるセルスタック6Bの劣化状態に関する状態情報に応じて、その状態情報が補正条件を満たす場合に設定降下速度を補正する補正処理を実行するように構成されている。
【0044】
セルスタック6Bの劣化が進行すると、運転時のセルスタック6Bの温度が初期温度よりも高くなったり、運転時のセルスタック6Bの発電電圧が初期電圧よりも低くなったりするなどの現象が生じる。
そのため、本実施形態では、セルスタック6Bの劣化状態に関する状態情報を、運転時のセルスタック6Bの温度及び発電電圧(温度又は発電電圧の一例)としており、状態情報取得部9Bは、温度センサ18にて測定される温度及び電力変換部8等で計測される発電電圧を逐次取得している。
また、設定降下速度を補正するための補正条件は、セルスタック6Bの温度が初期温度よりも高いとの第1条件と、セルスタック6Bの発電電圧が初期電圧よりも低いとの第2条件の少なくとも一方が満たされることとしている。なお、これに代えて、第1条件と第2条件の両方が満たされることを補正条件とすることができる。
【0045】
そして、運転制御部9Aは、上述の補正処理において、状態情報取得部9Bにて取得される運転時のセルスタック6Bの温度及び発電電圧が上記の補正条件を満たすか否かを判定し、補正条件を満たす場合に予め設定されている設定降下速度(
図2のグラフ中の実線部分)を低速側に補正(
図2のグラフ中の一点鎖線部分)する。
【0046】
図2に示すものでは、温度変化によりセルスタック6Bに生じる熱応力が大きい温度域の温度降下速度(遅い側の温度降下速度)と、温度変化によりセルスタック6Bに生じる熱応力が小さい温度域の温度降下速度(速い側の温度降下速度)の両方を低速側に補正する場合を例示しているが、例えば、温度変化によりセルスタック6Bに生じる熱応力が小さい温度域の温度降下速度(速い側の温度降下速度)のみを低速側に補正するなど、いずれか一方を低速側に補正するようにしてもよい。
【0047】
このように、運転時のセルスタック6Bの温度及び発電電圧が補正条件を満たす場合に設定降下速度を低速側に補正して運転停止時の温度降下速度をセルスタック6Bの疲労や劣化が進行し難い緩やかなものにすることで、温度変化によるセルスタック6Bの疲労や劣化が進行し易くなっている場合でも運転停止時の温度降下によるセルスタック6Bの疲労や劣化の進行を適切に抑制できる。
なお、セルスタック6Bの劣化状態に関する状態情報は、運転時のセルスタック6Bの温度と発電電圧のうちのいずれか一方としてもよい。
【0048】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0049】
(1)前述の実施形態では、セルスタック6Bの劣化状態に関する状態情報を取得するが備えられ、運転制御部9Aは、状態情報取得部9Bにて取得されるセルスタック6Bの劣化状態に関する状態情報に応じて設定降下速度を補正する補正処理を実行する場合を例に示した。これに代えて、セルスタック6Bの経年使用状態に関する状態情報を取得する状態情報取得部9Bが備えられ、運転制御部9Aは、状態情報取得部9Bにて取得されるセルスタック6Bの経年使用状態に関する状態情報に応じて設定降下速度を補正する補正処理を実行するようにしてもよい。
【0050】
セルスタック6Bの累積起動停止回数又はセルスタック6Bの累積起動停止回数又は累積運転時間が多くなると、経年使用によりセルスタック6Bの劣化が進行していることが予想される。
そのため、この実施形態では、セルスタック6Bの劣化状態に関する状態情報を、セルスタック6Bの累積起動停止回数及び累積運転時間としており、状態情報取得部9Bは、燃料電池部6の運転状態を監視し、セルスタック6Bの累積起動停止回数をカウントするとともに、セルスタック6Bの累積運転時間を計測している。
また、設定降下速度を補正するための補正条件は、セルスタック6Bの累積起動停止回数が設定回数よりも多いとの第3条件と、セルスタック6Bの累積運転時間が設定運転時間よりも多いとの第4条件の少なくとも一方が満たされることとしている。なお、これに代えて、第3条件と第4条件の両方が満たされることを補正条件とすることができる。
【0051】
そして、運転制御部9Aは、上述の補正処理において、状態情報取得部9Bにて取得されるセルスタック6Bの累積起動停止回数及び累積運転時間が上記の補正条件を満たすか否かを判定し、補正条件を満たす場合に予め設定されている設定降下速度(
図2のグラフ中の実線部分)を低速側に補正(
図2のグラフ中の一点鎖線部分)する。
【0052】
このように、セルスタック6Bの累積起動停止回数及び累積運転時間が補正条件を満たす場合に設定降下速度を低速側に補正して運転停止時の温度降下速度をセルスタック6Bの疲労や劣化が進行し難い緩やかなものにすることで、温度変化によるセルスタック6Bの疲労や劣化が進行し易くなっている場合でも運転停止時の温度降下によるセルスタック6Bの疲労や劣化の進行を適切に抑制できる。
なお、上記実施形態では、セルスタック6Bの経年使用状態に関する状態情報は、セルスタック6Bの累積起動停止回数と累積運転時間のうちのいずれか一方としてもよい。
【0053】
(2)前述の実施形態では、温度降下速度調整手段Bが、燃料電池部6の運転用の空気の流量を調整するブロア5(空気供給量調整手段の一例)にて構成され、その空気の冷却作用により燃料電池部6の温度降下速度を調整自在に構成されている場合を例に示した。
これに代えて、温度降下速度調整手段Bが、燃料電池部6の運転用の改質水の流量を調整する改質水ポンプ12(改質水供給量調整手段の一例)にて構成され、その改質水の気化部3での蒸発による冷却作用により燃料電池部6の温度降下速度を調整自在に構成されていてもよい。また、温度降下速度調整手段Bが、燃料電池部6の運転用の燃料ガスの流量を調整する昇圧ポンプ11(燃料ガス供給量調整手段の一例)にて構成され、その燃料ガスの調整による燃焼部7での燃焼量の調整により燃料電池部6の温度降下速度を調整自在に構成されていてもよい。
更に、温度降下速度調整手段Bは、燃料電池部6の運転用のものとは別に、冷却用の空気や水等を収納容器10内に供給するものであってもよい。
【0054】
(3)前述の実施形態では、運転制御部9Aは、停止時温度制御において、セルスタック6Bの温度を温度センサ18にて直接的に測定して燃料電池部6の温度降下速度を監視する場合を例に示したが、収納容器10内の温度や燃焼部7での燃焼温度、改質部4の温度等を測定する他の温度センサの測定結果を用いてセルスタック6Bの温度を間接的に推定して燃料電池部6の温度降下速度を監視するようにしてもよい。
【0055】
(4)前述の実施形態では、設定降下速度が、温度域によって異なる温度降下速度が設定されたものである場合を例に示したが、温度域に関わらず一定の温度降下速度が設定されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0056】
4 改質部
5 ブロア(空気供給量調整手段)
6 燃料電池部
6A 燃料電池セル
6B セルスタック
9A 運転制御部
9B 状態情報取得部
B 温度降下速度調整手段
L5 空気供給路
T2 目標温度