(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141641
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ガスセンサ素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20230928BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/419 327H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048059
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100207217
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100210251
【弁理士】
【氏名又は名称】大古場 ゆう子
(72)【発明者】
【氏名】田邉 悠馬
(72)【発明者】
【氏名】梶田 悠生
(57)【要約】
【課題】セラミックス層に形成される貫通孔の内壁面と、これに接する素材との間に隙間が生じにくいガスセンサ素子を提供する。
【解決手段】ガスセンサ素子は、発熱部と、セラミックス層とを備える。セラミックス層は、第1面と、第1面の反対側にある第2面とを有し、発熱部により加温されるように構成される。セラミックス層は、第1面から第2面へと向かう厚み方向にこれを貫通し、第1面側と第2面側とを電気的に接続するためのスルーホールを構成するための貫通孔を有する。貫通孔は、厚み方向に延びる第1内壁面と、第1内壁面に連続するとともに第1内壁面よりもセラミックス層の内側に向かって窪んだ凹部を規定する第2内壁面とにより画定される。セラミックス層の厚みを1としたとき、第1内壁面のうち、貫通孔の中心軸に最も近い位置を基準とする凹部の最奥の位置までの長さは、0.05以上、0.20以下である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱部と、
第1面と、前記第1面の反対側にある第2面とを有し、前記発熱部により加熱されるように構成されるセラミックス層と
を備え、
前記セラミックス層は、前記第1面から前記第2面へと向かう厚み方向にこれを貫通し、前記第1面側と前記第2面側とを電気的に接続するためのスルーホールを構成するための貫通孔を有し、
前記貫通孔は、前記厚み方向に延びる第1内壁面と、前記第1内壁面に連続するとともに前記第1内壁面よりも前記セラミックス層の内側に向かって窪んだ凹部を規定する第2内壁面とにより画定され、
前記セラミックス層の厚みを1としたとき、前記第1内壁面のうち、前記貫通孔の中心軸に最も近い位置を基準とする前記凹部の最奥の位置までの長さは、0.05以上、0.20以下である、
ガスセンサ素子。
【請求項2】
前記セラミックス層の厚みを1としたとき、前記第1内壁面のうち、前記貫通孔の中心軸に最も近い位置を基準とする前記凹部の最奥の位置までの長さは、0.10以上、0.20以下である、
請求項1に記載のガスセンサ素子。
【請求項3】
前記第2内壁面は、前記貫通孔の全周にわたって連続し、前記凹部は、前記第1面側から見て環状となるように前記第2内壁面により規定される、
請求項1または2に記載のガスセンサ素子。
【請求項4】
前記第2内壁面は、前記厚み方向において、前記第1面側に偏った位置及び前記第2面側に偏った位置の少なくとも一方に存在する、
請求項1から3のいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
【請求項5】
前記第2内壁面は、前記厚み方向に沿って複数存在する、
請求項1から4のいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
【請求項6】
導電性を有し、前記貫通孔の内部を充填するように形成された導電部
をさらに備える、
請求項1から5のいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
【請求項7】
前記発熱部は、前記セラミックス層の前記第1面側に配置され、
前記スルーホールは、前記発熱部と前記セラミックス層の前記第2面側の要素とを電気的に接続する、
請求項1から6のいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
【請求項8】
被測定ガス中の窒素酸化物の濃度を測定するように構成される、
請求項1から7のいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気ガス等の被測定ガス中のガス成分を測定するガスセンサが知られている。ガスセンサは、例えば積層された複数のセラミックス層と、その長手方向の一旦側に形成される検出部とを備えるガスセンサ素子を有する。このようなガスセンサ素子では、セラミックス層の間に、発熱部を含むヒータの層が形成される。そして、発熱部の通電端子及び検知電極といった導電部が、1または複数のセラミックス層を挟んで一方側と他方側に設けられることがある。このため、セラミックス層には、これらの導電部を厚み方向にわたって電気的に接続するための貫通孔が形成される。
【0003】
特許文献1は、第1貫通孔が形成された第1セラミック層と、第1セラミック層に積層される、第2貫通孔が形成された第2セラミック層とを備えるガスセンサ素子を開示する。このガスセンサ素子では、第1貫通孔の内周面に第1導体部が形成されるとともに、第2貫通孔の内周面に第2導体部が形成され、第1導体部と第2導体部との間の電気的接触が図られる。また、特許文献2は、表裏面を貫通するスルーホールを備え、表裏面を電気的に導通させる電導パターンを有するセラミックシートを有するガスセンサ素子を開示する。このガスセンサ素子では、スルーホールの内壁面に絶縁用のペーストが印刷され、その上に表裏面が電気的に接続されるように導電層用ペーストが印刷される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-046112号公報
【特許文献2】特許第4421756号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるような構成のガスセンサ素子は、貫通孔の内周面と導体部との間に隙間を有することがある。この隙間に存在する水分等の液体成分が、ヒータの層を移動して発熱部及びその付近に達し、そこで発熱部の熱により蒸発して水蒸気等になると、局所的に圧力が上昇する。これにより、ガスセンサ素子の内部構造において剥離が生じ、ガスセンサ素子の破損に至ることがある。このことは、特許文献2に開示されるような構成のガスセンサ素子にも当てはまる。つまり、貫通孔の内周面と絶縁用ペーストとの間に存在した液体成分が、絶縁用ペースト及びヒータの層を移動して発熱部及びその付近に至り、そこで周囲の温度上昇に伴って蒸発し、圧力が局所的に高まることで、同様の剥離が生じるおそれがある。このように、貫通孔の内周面を形成するセラミックスと、内周面上に印刷され、または貫通孔内に充填される部材とで材料が異なる場合、両者の間に隙間が生じると、剥離の原因となり得る水分がそこに入り込み、ガスセンサ素子の破損に至りかねない。
【0006】
本発明は、一側面では、このような事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、セラミックス層に形成される貫通孔の内壁面と、これに接する素材との間に隙間が生じにくいガスセンサ素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0008】
本発明の第1観点に係るガスセンサ素子は、発熱部と、セラミックス層とを備える。セラミックス層は、第1面と、前記第1面の反対側にある第2面とを有し、前記発熱部により加熱されるように構成される。前記セラミックス層は、前記第1面から前記第2面へと向かう厚み方向にこれを貫通し、前記第1面側と前記第2面側とを電気的に接続するためのスルーホールを構成するための貫通孔を有する。前記貫通孔は、前記厚み方向に延びる第1内壁面と、第1内壁面に連続するとともに前記第1内壁面よりも前記セラミックス層の内側に向かって窪んだ凹部を規定する第2内壁面とにより画定される。前記セラミックス層の厚みを1としたとき、前記第1内壁面のうち、前記貫通孔の中心軸に最も近い位置を基準とする前記凹部の最奥の位置までの長さは、0.05以上、0.20以下である。
【0009】
第1観点によれば、セラミックス層を厚み方向に貫通するスルーホール用の貫通孔において、セラミックス層の内側に向かって窪んだ凹部が形成される。そして、当該セラミックス層の厚みに対し、貫通孔の中心軸に最も近い位置を基準とする凹部の最大深さは0.05以上、0.20以下とされる。これにより、セラミックス層と異素材とによりスルーホールを形成する際に、貫通孔を画定するセラミックスの第1内壁面及び第2内壁面と異素材との密着性が向上し、これらの間に隙間が生じにくくなる。
【0010】
本発明の第2観点に係るガスセンサ素子は、第1観点に係るガスセンサ素子であって、前記セラミックス層の厚みを1としたとき、前記第1内壁面のうち、前記貫通孔の中心軸に最も近い位置を基準とする前記凹部の最奥の位置までの長さは、0.10以上、0.20以下である。
【0011】
本発明の第3観点に係るガスセンサ素子は、第1観点または第2観点に係るガスセンサ素子であって、前記第2内壁面は、前記貫通孔の全周にわたって連続し、前記凹部は、前記第1面側から見て環状となるように前記第2内壁面により規定される。
【0012】
第3観点によれば、凹部が貫通孔の中心軸周りの全周にわたって連続するように形成される。これにより、セラミックスと異素材との密着性をさらに向上させることができる。
【0013】
本発明の第4観点に係るガスセンサ素子は、第1観点から第3観点のいずれかに係るガスセンサ素子であって、前記第2内壁面は、前記厚み方向において、前記第1面側に偏った位置及び前記第2面側に偏った位置の少なくとも一方に存在する。
【0014】
本発明の第5観点に係るガスセンサ素子は、第1観点から第4観点のいずれかに係るガスセンサ素子であって、前記第2内壁面は、前記厚み方向に沿って複数存在する。
【0015】
本発明の第6観点に係るガスセンサ素子は、第1観点から第5観点のいずれかに係るガスセンサ素子であって、導電性を有し、前記貫通孔の内部を充填するように形成された導電部をさらに備える。
【0016】
本発明の第7観点に係るガスセンサ素子は、第1観点から第6観点のいずれかに係るガスセンサ素子であって、前記発熱部は、前記セラミックス層の前記第1面側に配置され、前記スルーホールは、前記発熱部と前記セラミックス層の前記第2面側の要素とを電気的に接続する。
【0017】
本発明の第8観点に係るガスセンサ素子は、第1観点から第7観点のいずれかに係るガスセンサ素子であって、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度を測定するように構成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、セラミックス層に形成される貫通孔の内壁面と、これに接する異素材との間に隙間が生じにくく、これにより内部の構造に剥離が生じにくいガスセンサ素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】一つの実施形態に係るセンサ素子の構成を概略的に示す断面模式図。
【
図2】発熱部とその周辺の概略的な平面配置の例を示す模式図。
【
図3】発熱部とその周辺の概略的な平面配置の別の例を示す模式図。
【
図4】一つの実施形態に係るリード部の部分断面図。
【
図5】一つの実施形態に係る貫通孔周辺の部分断面図。
【
図6】別の実施形態に係る貫通孔周辺の部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。なお、各図に示す構成要素は、説明の便宜上デフォルメされた態様で示されることがあり、必ずしも各構成要素の実際の大小関係を表すものではない。
【0021】
<1.ガスセンサ素子の構成>
図1は、本実施形態に係るガスセンサ素子100の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。ガスセンサ素子100は、例えば、長手方向に沿って延びる細長な長尺の板状体形状を呈し、また、例えば、直方体状に形成される。
図1に例示するガスセンサ素子100は、長手方向それぞれの端部として前端部及び後端部を有しており、以下の説明においては、前端部を
図1の左側の端部とし、後端部を
図1の右側の端部とする。また、
図1に示すように、紙面の手前から奥へ向かう方向をガスセンサ素子100の左右方向とする。しかしながら、ガスセンサ素子100の形状は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。また、ガスセンサ素子100の使用時の向きは、
図1で規定する向きに限定されない。
【0022】
ガスセンサ素子100は、固体電解質層により構成される第1基板層1、第2基板層2、第3基板層3、第1の固体電解質層4、スペーサ層5、及び第2の固体電解質層6の6つの層が、
図1の断面視で下側から順に積層された構造を有している。すなわち、ガスセンサ素子100は、第1の固体電解質層4、第2の固体電解質層6及びスペーサ層5により構成される積層体を備える。第1基板層1、第2基板層2、第3基板層3、第1の固体電解質層4、スペーサ層5、及び第2の固体電解質層6の6つの層を形成する固体電解質は、緻密質なものであってよい。緻密質は、気孔率が5%以下であることを指す。
【0023】
ガスセンサ素子100は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに、例えば、所定の加工、配線パターンの印刷等の工程を実行した後にそれらを積層し、更に、焼成して一体化させることで製造される。一例として、ガスセンサ素子100は、複数のセラミックス層の積層体である。以下、各層1~6を区別せず、「セラミックス層」と称することがある。本実施形態では、第2の固体電解質層6の上面が、ガスセンサ素子100の上面を構成し、第1基板層1の下面が、ガスセンサ素子100の下面を構成し、各層1~6の各側面が、ガスセンサ素子100の各側面を構成する。
【0024】
[被測定ガス流通部]
ガスセンサ素子100の前端部側であって、第2の固体電解質層6の下面及び第1の固体電解質層4の上面の間には、ガス導入口10、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13、第1内部空所20、第3拡散律速部30、第2内部空所40、第4拡散律速部16、及び第3内部空所17が、この順に連通する態様にて隣接形成されるように構成されている。
【0025】
ガス導入口10、緩衝空間12、第1内部空所20、第2内部空所40、及び第3内部空所17は、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた空間であって、上部を第2の固体電解質層6の下面で、下部を第1の固体電解質層4の上面で区画されるガスセンサ素子100内部の空間(内部空間)である。
【0026】
第1拡散律速部11は、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長辺方向を有する)スリットとして設けられる。また、第2拡散律速部13、第3拡散律速部30、及び第4拡散律速部16のそれぞれは、図面に垂直な方向に延びる長さが、第1内部空所20、第2内部空所40、及び第3内部空所17のそれぞれよりも短い孔として設けられる。
【0027】
図1に例示するように、第2拡散律速部13、第3拡散律速部30及び第4拡散律速部16は、いずれも、第1拡散律速部11と同様に、2本の横長(図面に垂直な方向に開口が長辺方向を有する)のスリットとして設けられてもよいが、これに限定されない。例えば、第4拡散律速部16は、第2の固体電解質層6の下面との隙間として形成された1本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられてもよい。すなわち、第4拡散律速部16は、第1の固体電解質層4の上面に接していてもよい。第2拡散律速部13、第3拡散律速部30、及び第4拡散律速部16のそれぞれについては、後述する。ガス導入口10から第3内部空所17に至る部位(内部空間)を被測定ガス流通部7と称する。
【0028】
[基準ガス導入空間]
被測定ガス流通部7よりも前端側から遠い位置には、第3基板層3の上面及びスペーサ層5の下面の間であって、第1の固体電解質層4の側面で側部を区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられる。基準ガス導入空間43には、例えば、大気等の基準ガスが導入される。ただし、ガスセンサ素子100の構成は、このような例に限定されなくてよい。他の一例として、第1の固体電解質層4は、ガスセンサ素子100の後端まで延びるように構成されてよく、基準ガス導入空間43は省略されてよい。この場合、大気導入層48が、ガスセンサ素子100の後端まで延びるように構成されてよい。
【0029】
[大気導入層]
大気導入層48は、多孔質アルミナから成り、基準ガス導入空間43を介して基準ガスが導入されるように構成されている。加えて、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0030】
[基準電極]
基準電極42は、第3基板層3の上面及び第1の固体電解質層4の間に挟まれるように形成され、その周囲には、上記基準ガス導入空間43に接続する大気導入層48が設けられている。基準電極42は、第1内部空所20内、第2内部空所40内、及び第3内部空所17の酸素濃度(酸素分圧)の測定に使用される。詳細は後述する。
【0031】
[ガス導入口]
ガス導入口10は、被測定ガス流通部7において、外部空間に対して開口してなる部位である。ガス導入口10を通じて外部空間からガスセンサ素子100内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。本実施形態では、
図1に例示されるとおり、ガス導入口10は、ガスセンサ素子100の前面に配置される。つまり、被測定ガス流通部7は、ガスセンサ素子100前端部において開口を有するように構成される。ただし、被測定ガス流通部7が、ガスセンサ素子100の前面において開口を有するように構成されること、つまり、ガス導入口10をガスセンサ素子100の前面に配置することは、必須ではない。ガスセンサ素子100は、外部空間から被測定ガス流通部7の内部に被測定ガスを取り込むことができればよく、ガス導入口10を、例えば、ガスセンサ素子100の右側面に配置したり、左側面に配置したりしてもよい。
【0032】
ガス導入口10を、ガスセンサ素子100の前面に配置する場合、ガスセンサ素子100の各側面(右側面および左側面)では、被測定ガス流通部7は、緻密なセラミックス層により閉塞されていてもよい。セラミックス層は、例えば、ジルコニア(ZrO2)等の材料により構成されてよい。ガスセンサ素子100の各側面で、被測定ガス流通部7を、緻密なセラミックス層により閉塞する場合、ガスセンサ素子100は、当該ガス導入口10を通じて外部空間からガスセンサ素子100内に被測定ガスを取り込むように構成される。
【0033】
ただし、ガスセンサ素子100について、ガスセンサ素子100の各側面で、被測定ガス流通部7を、緻密なセラミックス層により閉塞することは必須ではない。また、ガスセンサ素子100にとって、ガス導入口10を備えることは必須ではない。すなわち、ガスセンサ素子100は、外部空間から被測定ガス流通部7の内部に被測定ガスを取り込むことができればよく、外部空間からガス導入口10を通じて被測定ガスを取り込むことは必須ではない。例えば、ガスセンサ素子100は、スペーサ層5の側面59の少なくとも1つを緻密なセラミックス層により閉塞せずに開放しておくことによって、ガス導入口10を設けずに、外部空間から被測定ガス流通部7の内部に被測定ガスを取り込んでもよい。
【0034】
[第1拡散律速部]
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0035】
[緩衝空間]
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0036】
[第2拡散律速部]
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0037】
被測定ガスが、ガスセンサ素子100外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からガスセンサ素子100内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これにより、第1内部空間へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0038】
[第1内部空所]
第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0039】
[主ポンプセル]
主ポンプセル21は、内側ポンプ電極22、外側ポンプ電極23、及びこれらの電極に挟まれた第2の固体電解質層6によって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。内側ポンプ電極22は、第1内部空所20に隣接する(面する)第2の固体電解質層6の下面62のほぼ全面に設けられる天井電極部22aを有する。外側ポンプ電極23は、第2の固体電解質層6の上面63の天井電極部22aに対応する領域に外部空間に隣接する態様にて設けられる。
【0040】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2の固体電解質層6及び第1の固体電解質層4)、及び側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2の固体電解質層6の下面62には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1の固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成される。そして、それら天井電極部22a及び底部電極部22bに接続するように、側部電極部(図示省略)が、第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されている。つまり、内側ポンプ電極22は、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態の構造で配設されている。
【0041】
内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23は、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPt及びZrO2により構成されるサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0042】
ガスセンサ素子100は、主ポンプセル21において、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の間に正方向又は負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、または外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れ可能に構成される。
【0043】
[主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル]
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22、第2の固体電解質層6、スペーサ層5、第1の固体電解質層4、第3基板層3、及び基準電極42により、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。
【0044】
ガスセンサ素子100は、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)を特定可能に構成される。更に、起電力V0が一定となるようにVp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これにより、第1内部空所20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0045】
[第3拡散律速部]
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0046】
[第2内部空所]
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を更に調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、補助ポンプセル50が作動することによって調整される。
【0047】
[補助ポンプセル]
補助ポンプセル50は、補助ポンプ電極51、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、ガスセンサ素子100の外側の適当な電極であれば足りる)、及び第2の固体電解質層6により構成される補助的な電気化学的ポンプセルである。補助ポンプ電極51は、第2内部空所40に面する第2の固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する。
【0048】
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態の構造で、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2の固体電解質層6の下面62に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1の固体電解質層4の上面には、底部電極部51bが形成される。そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成される。これにより、補助ポンプ電極51は、トンネル形態の構造を有している。
【0049】
なお、補助ポンプ電極51も、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中の窒素酸化物成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0050】
ガスセンサ素子100は、補助ポンプセル50において、補助ポンプ電極51及び外側ポンプ電極23の間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、または外部空間から第2内部空所40内に汲み入れ可能に構成される。
【0051】
[補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル]
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51、基準電極42、第2の固体電解質層6、スペーサ層5、第1の固体電解質層4、及び第3基板層3により、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。
【0052】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0053】
また、これと共に、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0054】
[第4拡散律速部]
第4拡散律速部16は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所17に導く部位である。
【0055】
[第3内部空所]
第3内部空所17は、第4拡散律速部16を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度は、測定用ポンプセル41の動作により測定される。本実施形態では、第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が予め調整された後、第2内部空所40において、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が更に行われる。これにより、第2内部空所40から第3内部空所17に導入される被測定ガスの酸素濃度を高精度に一定に保つことができる。そのため、本実施形態に係るガスセンサ素子100は、精度の高いNOx濃度の測定が可能となる。
【0056】
[測定用ポンプセル]
測定用ポンプセル41は、第3内部空所17内において、被測定ガス中の窒素酸化物濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、測定電極44、外側ポンプ電極23、第2の固体電解質層6、スペーサ層5、及び第1の固体電解質層4により構成される電気化学的ポンプセルである。
図1の一例では、測定電極44は、第3内部空所17に隣接する(面する)第1の固体電解質層4の上面に設けられる。
【0057】
[測定電極]
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第3内部空所17内の雰囲気中に存在するNO
xを還元するNO
x還元触媒としても機能する。
図1の一例では、測定電極44は、第3内部空所17内で露出している。他の一例では、測定電極44は、拡散律速部により被覆されていてよい。該拡散律速部は、アルミナ(Al
2O
3)を主成分とする多孔体の膜により構成されてよい。該拡散律速部は、測定電極44に流入するNO
xの量を制限する役割を担うと共に、測定電極44の保護膜としても作用する。
【0058】
ガスセンサ素子100は、測定用ポンプセル41において、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出可能に構成される。
【0059】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2の固体電解質層6、スペーサ層5、第1の固体電解質層4、第3基板層3、測定電極44、及び基準電極42により、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出される電圧(起電力)V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0060】
第3内部空所17内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は、還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出される制御電圧V2が一定となるように可変電源の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0061】
また、測定電極44、第1の固体電解質層4、第3基板層3、及び基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすることで、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができる。これにより、被測定ガス中の窒素酸化物成分の濃度を求めることも可能である。
【0062】
[センサセル]
また、第2の固体電解質層6、スペーサ層5、第1の固体電解質層4、第3基板層3、外側ポンプ電極23、及び基準電極42から電気化学的なセンサセル83が構成されている。ガスセンサ素子100は、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能に構成されている。
【0063】
以上の構成を有するガスセンサ素子100において、主ポンプセル21及び補助ポンプセル50を作動させることにより、酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスを測定用ポンプセル41に与えることができる。したがって、ガスセンサ素子100は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることで流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中の窒素酸化物濃度を特定可能に構成されている。
【0064】
[ヒータ]
更に、ガスセンサ素子100は、ガスセンサ素子100を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ70を備えている。ヒータ70は、後述するヒータ電極71を除いて、ガスセンサ素子100の厚み方向(
図1の上下方向)において、ガスセンサ素子100の上面よりもガスセンサ素子100の下面に近い位置に、配置されている。ただし、ヒータ70の配置は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0065】
ヒータ70は、ヒータ電極71と、発熱部72(72a,72b)と、リード部73と、ヒータ絶縁層74とを、主として備えている。また、
図1の一例では、ヒータ70は、さらに、圧力放散孔75を備えている。リード部73は、後述するように、第1基板層1の下面側と第2基板層2の上面側とを電気的に接続すべく、第1基板層1及び第2基板層2をその厚み方向に貫通する、一対のスルーホールの態様で形成される(
図2、3参照)。
【0066】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面(ガスセンサ素子100の下面)に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータ電極71を外部電源と接続することにより、リード部73を介して外部から発熱部72へ給電することができるようになっている。
【0067】
発熱部72は、第2基板層2及び第3基板層3に上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体であり、つまり、第2基板層2と第3基板層3との間に設けられた抵抗発熱体である。発熱部72は、ガスセンサ素子100の外部に備わるヒータ電源(図示省略)から、通電経路であるヒータ電極71及びリード部73を通じて給電されることにより発熱し、ガスセンサ素子100を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0068】
発熱部72は、Ptにて、あるいはPtを主成分として、形成されてなる。発熱部72は、ガスセンサ素子100の被測定ガス流通部7が備わる側の所定範囲に、素子厚み方向において被測定ガス流通部7と対向するように埋設されている。発熱部72は、例えば、10μm~20μm程度の厚みを有するように設けられる。
【0069】
図2は、発熱部72とその周辺の概略的な平面配置の例を示す模式図である。
図2に示すように、発熱部72は、ガスセンサ素子100の前側において蛇行する蛇行部72aと、蛇行部72aの両端からガスセンサ素子100の後端へ向かって直線的に延びる1対の直線部72bとを有する。なお、蛇行部72aの形状は
図2の例に限定されず、例えば
図3に示すような形状であってもよい。1対の直線部72bは、略同一の形状を有するように、つまりは、両者の抵抗値が同じであるように、設けられる。直線部72bの後端は、それぞれリード部73を構成する一対のスルーホールに接続される。
【0070】
また、発熱部72は、ガスセンサ素子100全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。すなわち、ガスセンサ素子100においては、ヒータ電極71を通じて発熱部72に電流を流すことにより、発熱部72を発熱させることで、ガスセンサ素子100の各部を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。具体的には、ガスセンサ素子100は、被測定ガス流通部7付近の固体電解質および電極の温度が、例えば、700℃~900℃程度(または、750℃~950℃)になるように加熱される。
【0071】
ヒータ絶縁層74は、発熱部72を覆う態様にて形成されてなる絶縁層であり、例えば、発熱部72の上下面に、アルミナ(Al2O3)等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2及び発熱部72の間の電気的絶縁性、並びに第3基板層3及び発熱部72の間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。ヒータ絶縁層74は、70μm~110μm程度の厚みにて、ガスセンサ素子100の先端面および側面から200μm~700μm程度離隔させた位置に設けられる。ただし、ヒータ絶縁層74の厚みは一定である必要はなく、発熱部72が存在する箇所としない箇所とで異なっていてもよい。
【0072】
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。ただし、圧力放散孔75を設けることは必須ではなく、圧力放散孔75を設けなくてもよい。
【0073】
[スルーホール]
図4は、リード部73とその周辺の構成を示す部分断面図である。リード部73は、これに限定されないが、本実施形態では第1基板層1の下面203側と第2基板層2の上面200側とを電気的に接続する、すなわち、第1基板層1の下面203側と上面202側、及び第2基板層2の下面201側と上面200側とをそれぞれ電気的に接続する、スルーホールの態様で形成される。本実施形態のスルーホールは、第1基板層1を貫通する貫通孔H1と、第2基板層2を貫通する貫通孔H2と、貫通孔H1及びH2の内部を充填するように形成された導電部P1により構成される。貫通孔H1は、第1基板層1の上面202から下面203へと向かう厚み方向に第1基板層1を貫通する。貫通孔H2は、第2基板層2の上面200から下面201へと向かう厚み方向に第2基板層2を貫通し、第1基板層1と第2基板層2とが積層された状態において、貫通孔H1と連通するように配置される。
【0074】
導電部P1は、貫通孔H1の内部を充填するように形成されるとともに、第1基板層1の下面203において、貫通孔H1を規定する周縁部にも連続的に形成されてもよい。同様に、導電部P1は、貫通孔H2の内部を充填するように形成されるとともに、第2基板層2の上面200において、貫通孔H2を規定する周縁部にも連続的に形成されてもよい。これにより、ヒータ電極71と発熱部72の1対の直線部72bとの電気的接続がより確実なものとなる。
【0075】
導電部P1は、これに限定されないが、Ptを主成分とする導電用ペーストが、第1基板層1及び第2基板層2に対応するセラミックスグリーンシートとともに焼成されてなる。すなわち、導電部P1は、第1基板層1及び第2基板層2と一体的に形成されている。発明者らの検討によれば、導電部P1となる導電用ペーストと、セラミックスグリーンシートを加熱して一体化させる際の収縮率が異なることにより、貫通孔H1、H2を画定する内壁面と導電部P1との間には、しばしば隙間が生じる。この隙間に、ガスセンサ素子100の外部から水分等の液体成分が浸入することがある。上述したように、ヒータ絶縁層74はアルミナ等の多孔質体であるため、浸入した液体成分は、ヒータ絶縁層74の内部や界面を移動して、発熱部72及びその付近に達することがある。発熱部72及びその付近に達した液体成分は、発熱部72の発熱に伴って周囲の温度が上昇すると、そこで蒸発して水蒸気等となる。これにより、圧力が局所的に上昇し、ヒータ70を含む、ガスセンサ素子100の内部構造における剥離が生じ、ガスセンサ素子100の破損に至る。
【0076】
発明者らは、鋭意検討の結果、導電部P1と、貫通孔H1、H2を画定するセラミックス層の内壁面との間の密着性を高め、液体成分の浸入を阻むことで、液体成分の浸入に起因するガスセンサ素子100の破損が抑制されることを見出した。すなわち、発明者らは、貫通孔H1、H2を画定する内壁面に、少なくとも1つの凹部を、所定の深さ範囲で形成することにより、セラミックスグリーンシートと導電用ペーストとの間のアンカー効果を向上させることができることを見出した。この構成は、第1基板層1及び第2基板層2の双方に適用されてもよいが、少なくとも一方に適用されてもよい。以下、第2基板層2及び貫通孔H2を例として説明する。第2基板層2の上面200及び下面201は、それぞれ本発明の第1面及び第2面の一例である。なお、以下の説明は第1基板層1及び貫通孔H1についても同様に適用することができ、この場合、第1基板層1の上面202及び下面203が、それぞれ本発明の第1面及び第2面の一例である。
【0077】
図5は、第2基板層2の貫通孔H2付近における断面図である。上述したように、貫通孔H2は、上面200から下面201へと向かう第2基板層2の厚み方向にこれを貫通する。第2基板層2の上面視における貫通孔H2の形状は特に限定されず、概ね円形、長円形、矩形等であってよい。この形状の幾何中心を通り、第2基板層2の厚み方向に延びる軸を、貫通孔H2の中心軸A1とする。
【0078】
図5に示す例では、貫通孔H2は、上側第1内壁面210と、これに連続する第2内壁面212と、下側第1内壁面211とにより画定される。上側第1内壁面210及び下側第1内壁面211は、概ね第2基板層2の厚み方向に沿って延びる面であり、上側第1内壁面210は上面200に、下側第1内壁面211は下面201に、それぞれ連続する。第2内壁面212は、上端において上側第1内壁面210に、下端において下側第1内壁面211にそれぞれ連続する面であり、上側第1内壁面210及び下側第1内壁面211よりも第2基板層2の内側に向かって窪んだ凹部220を規定する。本実施形態では、第2内壁面212は、第2基板層2の厚み方向における一定の位置において、貫通孔H2の全周にわたって一定の形状で連続する。これにより、本実施形態の凹部220は、貫通孔H2の全周にわたって概ね一定の深さを有するとともに、上面視において環状となるよう、第2内壁面212に規定される。しかしながら、第2内壁面212の構成はこれに限定されず、貫通孔H2の周方向に沿って形状が変化していてもよいし、貫通孔H2の全周にわたって連続しておらず、不連続であってもよい。
【0079】
発明者らの検討によれば、第2基板層2の厚みL1を1としたときの、凹部220の最奥の位置までの深さL2が0.05以上、0.20以下である場合に、上記のアンカー効果が効果的に発揮され、深さL2が0.10以上、0.20以下である場合に、上記のアンカー効果がより効果的に発揮される。ここで、凹部220の最奥の位置までの深さL2とは、中心軸A1を含み、第2基板層2の長手方向に平行な第2基板層2の断面において、上側第1内壁面210及び下側第1内壁面211のうち、最も中心軸A1に近い位置を基準として特定される凹部220の最大の深さである。厚みL1に対する深さL2の特定は、電子顕微鏡(日立ハイテク社製、SU-1510)により撮像される第2基板層2の断面写真に基づいて行われるものとする。すなわち、上記断面写真において、上側第1内壁面210及び下側第1内壁面211のうち、中心軸A1に最も近い位置として特定される画素の位置と、第2内壁面212のうち、中心軸A1から最も遠い位置として特定される画素の位置との距離を深さL2とすることができる。一方、厚みL1は、上記断面写真において、上面200として特定される画素の位置から下面201として特定される画素の位置までの厚み方向に沿う距離を、無作為に抽出した10か所について平均した値とすることができる。
【0080】
凹部220の最大深さを上記範囲とすることにより、導電部P1を形成するための導電用ペーストが凹部220に入り込み易くなる。そして、上側第1内壁面210、第2内壁面212及び下側第1内壁面211とで形成される相対的な凹凸により導電用ペーストとこれらの壁面との間にアンカー効果が生じ、セラミックス層と導電用ペーストとの収縮差を吸収することができる。
【0081】
第2内壁面212は、後述する理由により、第2基板層2の厚み方向において、上面200側及び下面201側のいずれかに偏った位置に1つ存在することが好ましいが、これに限定されない。すなわち、第2内壁面212は、上面200及び下面201に連続する位置を除く、第2基板層2の厚み方向におけるどの位置に存在してもよい。また、第2内壁面212は、厚み方向に2つ以上存在してもよい。また、第2基板層2の断面視における第2内壁面212の形状(つまり、凹部220の形状)も特に限定されず、適宜選択することができる。
【0082】
<2.スルーホールの形成方法>
以下では、本実施形態に係るスルーホール(リード部73)の形成方法を含む、ガスセンサ素子100の製造方法の一例について説明するが、リード部73の形成方法及びガスセンサ素子100の製造方法は、これに限定されない。
【0083】
まず、ガスセンサ素子100のセラミックス層となるべきセラミックスグリーンシートを、ガスセンサ素子100のセラミックス層の数だけ準備する。つまり、本実施形態では、6枚のセラミックスグリーンシートを準備する。セラミックスグリーンシートは、上述したように固体電解質をセラミックス成分として含む。これらのセラミックスグリーンシートの厚みは、全て同じであってもよく、形成する層によって異なっていてもよい。
【0084】
続いて、6枚のセラミックスグリーンシートのそれぞれに、印刷時や積層時の位置決めに用いられる貫通孔を形成する。貫通孔は、例えばパンチング装置等を用いて、セラミックスグリーンシートを厚み方向に打ち抜くことにより形成することができる。リード部73用となる第1基板層1の貫通孔H1及び第2基板層2の貫通孔H2も、この段階で形成されてよい。例えば、上述した凹部220を第2基板層2に形成する場合は、上側第1内壁面210、下側第1内壁面211、及び第2内壁面212が1回の打ち抜きで形成されるようなパンチング装置を用いて、貫通孔H2と凹部220とを1回の打ち抜きにより形成してもよい。また、パンチング装置により概ね厚み方向に平行に延びる内壁面により画定される貫通孔を形成した後に、当該内壁面の適当な箇所を斫ることにより、凹部220を形成してもよい。
【0085】
次に、第3基板層3、第1の固体電解質層4、スペーサ層5、及び第2の固体電解質層6となるべきセラミックスグリーンシートに対し、それぞれ必要なパターンの印刷及び乾燥処理を行う。印刷は、例えばスクリーン印刷等、公知の方法で行うことができる。また、乾燥処理も、公知の方法で行うことができる。
【0086】
上記印刷・乾燥処理と前後して、または並行して、第1基板層1となるべきセラミックスグリーンシートの貫通孔H1、及び第2基板層2となるべきセラミックスグリーンシートの貫通孔H2内に、それぞれ導電部P1となるべき導電用ペーストを充填する。このとき、充填側の近くに凹部220があると、導電用ペーストがより確実に凹部220に入り込むため、導電用ペーストとセラミックス層との密着性がより向上する。これが、第2内壁面212が、上面200側及び下面201側のいずれかに偏った位置に1つ存在することが好ましい理由である。このことは、第2基板層2となるべきセラミックスグリーンシートに第2内壁面212が形成される場合だけでなく、第1基板層1となるべきセラミックスグリーンシートに第2内壁面が形成される場合にも同様に当てはまる。
【0087】
上記印刷・乾燥処理と前後して、または並行して、第2基板層2となるべきセラミックスグリーンシートの上面に、発熱部72及びヒータ絶縁層74を形成する。これらは、発熱部72(72a、72b)を形成するためのヒータ用ペースト、及び絶縁体ペーストをそれぞれ印刷し、乾燥することにより形成することができる。より具体的には、面上に絶縁用ペーストを所定のパターン及び厚みで印刷し、乾燥させる。続いて、この絶縁用ペーストの上に、ヒータ用ペーストを所定のパターン及び厚みで印刷し、乾燥させる。さらに、ヒータ用ペーストの上に絶縁用ペーストを所定のパターン及び厚みで印刷し、乾燥させる。ヒータ用ペーストとしては、例えばPtペースト及びPtを主成分とするペーストを用いることができ、絶縁用ペーストとしては、例えばAl2O3を主成分とするペーストを用いることができる。
【0088】
6枚のセラミックスグリーンシートに対するパターンの印刷及び乾燥後、これらを互いに位置決めし、所定の順序で積層して、所定の温度及び圧力条件下で圧着処理を行い、6層のセラミックス層が積層した積層体とする。この積層体は、複数の未焼成状態のガスセンサ素子100を含んでいるため、これらを切り分け、所定の焼成温度で焼成することにより、個々のガスセンサ素子100が得られる。得られたガスセンサ素子100では、貫通孔H1及び貫通孔H2の内部空間を充填するように導電部P1が形成されることにより、リード部73となっている。
【0089】
<3.特徴>
上記実施形態によれば、簡易な方法により、スルーホールを形成するための貫通孔を画定する内壁面、及びこれに充填される導電用ペーストとの密着性を向上させることができる。これにより、セラミックス層と、導電部との間に隙間が生じることを回避することができ、ここに浸入した液体成分が蒸発することに起因する、ガスセンサ素子100の内部要素の剥離を抑制することができる。従って、破損しにくいガスセンサ素子100が提供される。
【0090】
<4.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、前述までの実施形態の説明は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。上記実施形態には、種々の改良及び変形が行われてよい。上記実施形態の各構成要素に関して、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が行われてもよい。また、上記実施形態の各構成要素の形状及び寸法は、実施の形態に応じて適宜変更されてよい。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0091】
(1)上記実施形態のガスセンサ素子100は、第1基板層1を備えていたが、第1基板層1を省略し、第2基板層2を
図1における最下のセラミックス層として構成してもよい。
【0092】
(2)貫通孔H1及び貫通孔H2に充填されるのは、上記実施形態の導電用ペーストのみに限られない。例えば、
図6に示すように、貫通孔H1及び貫通孔H2の内壁面を絶縁用ペーストP2により覆い、さらに貫通孔H1及び貫通孔H2の内部に導電部P1となる導電用ペーストを充填することにより、リード部73を形成してもよい。
【0093】
このような場合であっても、第1基板層1及び第2基板層2の少なくとも一方に、凹部を含む貫通孔を形成することにより、セラミックス層と、異素材である絶縁用ペーストP2との間に隙間を生じにくくすることができるので、液体成分の蒸発に起因する剥離を回避する効果を奏することができる。なお、導電用ペーストと、絶縁用ペーストP2とは密着性が高いため、セラミックス層と、これに接する異素材で形成される部位との間に、隙間を生じさせないことがより重要である。
【0094】
(3)貫通孔H2(H1)を画定する内壁面の断面形状は、上記実施形態のような形状に限定されず、適宜変更されてよい。例えば、貫通孔H2(H1)の内壁面の断面形状は、
図7A~
図7Eのように凹部220、220a、220bを規定する形状とすることができ、いずれの場合も深さL2を上記実施形態と同様にして特定することができる。
図7Aは、上記実施形態と実質的に同じ断面形状を有する凹部220が、セラミックス層の上面側ではなく、下面側に偏って形成された場合の例である。
図7Bは、セラミックス層の上面側に凹部220aが、下面側に凹部220bが形成された場合の例である。この場合、上側第2内壁面212により凹部220aを規定し、下側第2内壁面214により凹部220bを規定することができる。また、上側第2内壁面212及び下側第2内壁面214に両端で連続する第1内壁面を、中間第1内壁面213とすることができる。
【0095】
図7C~Eは、それぞれ別の断面形状を有する凹部220の例である。第2内壁面212は、
図7Cに示すように、断面視において、それ自体が凹凸状となっていてもよい。また、凹部220の断面形状は角部を有する形状ばかりではなく、
図7Dに示すように、滑らかに湾曲する形状であってもよい。さらに、凹部220の断面形状は、
図7Eに示すように、複数の角部を有する形状であってもよい。
図7C~Eに例示するいずれの場合であっても、これらの凹部220はセラミックス層の上面側ではなく、厚み方向における中間位置に形成されてもよく、下面側に形成されてもよく、複数形成されてもよい。また、凹部220が複数形成される場合は、形状が互いに異なっていてもよい。
【0096】
上記実施形態のガスセンサ素子100は、前端部及びその周辺を被覆する多孔質保護層をさらに備えていてもよい。多孔質保護層は、例えばアルミナ等のセラミックス多孔質体である。多孔質保護層を備えることにより、被測定ガス中の水分がガスセンサ素子100の内部に入り込み、ガスセンサ素子100に好ましくない影響を及ぼすことを抑制できる。
【実施例0097】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0098】
<実験1>
図1のように、6枚のセラミックス層が積層され、ヒータが形成されたガスセンサ素子を5つ用意した。これらのガスセンサ素子は、第1基板層と第2基板層とを貫通し、発熱部の電気抵抗体とヒータ電極とを接続する一対のリード部の構成がそれぞれ異なっており、この点を除いては共通の構成を備えていた。具体的には、リード部を構成するための第2基板層の貫通孔の内壁面の断面形状を、それぞれ
図5、
図6、
図7A、
図7B及び
図8に示すような断面形状とし、それぞれを実施例1~4及び比較例1に係るガスセンサ素子とした。実施例2に係るガスセンサ素子は、第2基板層の貫通孔の内壁面の断面形状が実施例1に係るガスセンサ素子と共通であるが、第1基板層及び第2基板層の貫通孔の内壁面が絶縁用ペーストで覆われている点で、実施例1に係るガスセンサ素子と異なっていた。比較例1に係るガスセンサ素子では、第2基板層の貫通孔が、凹部を規定しない、第2基板層の厚み方向にわたって概ね平行に延びる、概ね平坦な内壁面により画定されていた。実施例1~4に係るガスセンサ素子では、第2基板層の厚みを1としたときの、上記実施形態に係る方法により特定された凹部の深さは、いずれも0.15であった。
【0099】
実施例1~4及び比較例1に係るガスセンサ素子のうち、一対のリード部を含む後端側を水に浸漬し、4時間放置した。その後、これらを水から取り出して、表面に付着した水分を拭き取った。そして、ヒータ電極を介して発熱部に12Vの電圧を30秒間印加し、発熱部及びこれを取り囲むヒータ絶縁層を含む、第2基板層と第3基板層との間に剥離が生じたか否かを確認し、結果を以下のA~Cの3段階に分けて評価した。
A:上記条件による電圧の印加を複数回繰り返したが、剥離は確認されなかった。
B:2回目の電圧印加で剥離が確認された。
C:1回目の電圧印加で剥離が確認された。
【0100】
実験1の結果を以下の表1に示す。表1に示すように、実施例1-4では、比較例1と比較して、いずれも剥離に対する耐性が大幅に向上した。また、実施例2の結果から、貫通孔の内壁面に接する素材が導電用ペースト以外の素材である場合でも、剥離に対する耐性が向上することが確認された。以上の実験1により、本発明の有効性が確認された。
【表1】
【0101】
<実験2>
実施例1に係るガスセンサ素子において、第2基板層の厚みに対する凹部の深さをそれぞれ0.05、0.10、0.20及び0.25に変更したガスセンサ素子を用意し、それぞれを実施例5-7及び参考例1に係るガスセンサ素子とした。これらのガスセンサ素子を実験1と同様の条件で水に浸漬した後、表面の水分を拭き取り、実験1と同様の条件で電圧を印加し、実験1と同様に剥離が生じたか否かを確認した。この結果を、上記A~Cの3段階で評価した。
【0102】
実験2の結果を以下の表2に示す。表2に示すように、実施例1、6及び7では、剥離に対する耐性が大幅に向上した。実施例5では、凹部の深さが比較的浅いためか、剥離耐性が実施例1、6及び7より劣ったが、比較例1及び参考例1よりは向上した。参考例1では、剥離が生じてしまった。これは、凹部に導電用ペーストが十分に入り込まなかったためと考えられる。以上の実験2により、本発明の有効性が確認された。
【表2】