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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141665
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】乾燥装置、印刷装置及び乾燥方法
(51)【国際特許分類】
   F26B 13/10 20060101AFI20230928BHJP
   F26B 21/10 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
F26B13/10 C
F26B21/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048104
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000237260
【氏名又は名称】富士機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】森川 亮
(72)【発明者】
【氏名】岩藤 浩充
(72)【発明者】
【氏名】岩本 好司
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】片岡 啓治
(72)【発明者】
【氏名】丹生谷 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 怜志
(72)【発明者】
【氏名】松永 真一
(72)【発明者】
【氏名】村上 徹
(72)【発明者】
【氏名】久保 寛次
【テーマコード(参考)】
3L113
【Fターム(参考)】
3L113AA02
3L113AA03
3L113AB01
3L113AC01
3L113AC20
3L113AC25
3L113AC36
3L113AC45
3L113AC46
3L113AC54
3L113AC69
3L113AC90
3L113BA26
3L113CA08
3L113CA20
3L113CB01
3L113CB21
3L113DA10
(57)【要約】
【課題】複数の種類の溶媒を含む塗工液が塗工された印刷媒体について、溶媒ごとの乾燥状態を判定することが可能な乾燥装置、印刷装置及び乾燥方法を提供する。
【解決手段】複数の種類の溶媒を含む塗工液が塗工された印刷媒体を乾燥させる乾燥手段と、乾燥手段の乾燥強度を制御する制御部51と、所定の波長帯域における印刷媒体の吸光度を測定する吸光度測定装置26を制御し、測定された吸光度を取得する吸光度センサ制御部511と、印刷媒体の温度を測定する温度測定装置27を制御し、測定された印刷媒体の温度を取得する温度センサ制御部512と、を備える。制御部51は、吸光度センサ制御部511で取得した吸光度と温度センサ制御部512で取得した印刷媒体の温度とに基づいて、溶媒ごとの乾燥状態を判定し、判定された乾燥状態に基づいて乾燥強度を制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の種類の溶媒を含む塗工液が塗工された印刷媒体を乾燥させる乾燥手段と、
前記乾燥手段の乾燥強度を制御する制御部と、
所定の波長帯域における前記印刷媒体の吸光度を測定する吸光度測定装置を制御し、測定された前記吸光度を取得する吸光度センサ制御部と、
前記印刷媒体の温度を測定する温度測定装置を制御し、測定された前記印刷媒体の温度を取得する温度センサ制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記吸光度センサ制御部で取得した前記吸光度と前記温度センサ制御部で取得した前記印刷媒体の温度とに基づいて、前記溶媒ごとの乾燥状態を判定し、
判定された前記乾燥状態に基づいて前記乾燥強度を制御する、
ことを特徴とする乾燥装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記印刷媒体の温度に基づいて残留している前記溶媒の種類を判定し、
前記吸光度に基づいて最後に残留している前記溶媒の残留量を判定することにより、前記溶媒ごとの乾燥状態を判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の乾燥装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記吸光度に基づいて前記複数の種類の溶媒の残留量を判定し、
前記印刷媒体の温度に基づいて残留している前記溶媒の種類を判定することにより、前記溶媒ごとの乾燥状態を判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の乾燥装置。
【請求項4】
前記複数の種類の溶媒は、乾燥状態を表す吸光度の波長帯域が同じである、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の乾燥装置。
【請求項5】
前記複数の種類の溶媒は、水及びプロピレングリコールである、
ことを特徴とする請求項4に記載の乾燥装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の乾燥装置と、
前記印刷媒体に前記塗工液を塗工する塗工装置と、を備える、
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項7】
複数の種類の溶媒を含む塗工液が塗工された印刷媒体を乾燥させ、
所定の波長帯域における前記印刷媒体の吸光度を測定し、
前記印刷媒体の温度を測定し、
測定した前記吸光度と前記印刷媒体の温度とに基づいて、前記溶媒ごとの乾燥状態を判定し、
判定された前記乾燥状態に基づいて前記印刷媒体の乾燥強度を制御する、
ことを特徴とする乾燥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥装置、印刷装置及び乾燥方法に関し、より詳細には、印刷媒体に塗工された複数の種類の溶媒を含む塗工液を乾燥させる乾燥装置とその乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙、プラスチックフィルム等の長尺の印刷媒体に、インクを吐出して印刷を行うインクジェット印刷装置、接着剤を塗工して貼り合わせるドライラミネート装置等が開発されている。例えば、塗工液であるインクをウエブに塗工するインクジェット印刷においては、印刷性能を保つため、溶媒を含むインクが用いられている。
【0003】
溶媒は、塗工液中の樹脂、顔料等を印刷媒体上に定着させるため、乾燥装置によって乾燥される。具体的には、塗工液が塗工された印刷媒体を、熱風やヒートローラ等を用いて加熱して、塗工液に含まれる溶媒を気化させて印刷媒体を乾燥させる。
【0004】
乾燥が不足していると塗工液に含まれる樹脂、顔料等が定着しないため、にじみ、汚れ、ブロッキング等の不具合が発生する。また、乾燥が過剰である場合、印刷媒体である紙、プラスチックフィルムの収縮等の不具合が発生する。したがって、使用する溶媒に合わせて、乾燥強度を適切に制御することが求められる。
【0005】
例えば、特許文献1では、複数の乾燥器を用い、乾燥器内の温度を調整して乾燥強度を制御することにより、水溶性の塗工液を乾燥させる乾燥装置が提案されている。また、特許文献2では、赤外光の吸収強度を計測し、計測結果に基づいて乾燥強度を制御する乾燥装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-246306号公報
【特許文献2】特開2015-54423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インク、接着剤等の塗工液においては、印刷媒体の種類、塗工方式、印刷精度等の条件に最適化されるように、顔料、樹脂等の成分、溶媒等が細かく調整されている。また、このような複雑な塗工条件に適合させるため、塗工液中の溶媒も種々設計されており、より高性能な塗工液を設計するため、複数の種類の溶媒が混合されて用いられることも多い。
【0008】
複数の種類の溶媒が含まれる塗工液を用いる場合、溶媒ごとに気化温度が異なるため、特許文献1の温度計測を用いた乾燥強度制御方法では、溶媒ごとの乾燥状態を把握することは難しい。また、いずれもがヒドロキシ基を有する水とグリコール系の混合溶媒のように、乾燥状態を表す吸光度の波長帯域が同じである場合、特許文献2の吸光度測定による乾燥強度制御方法では、溶媒ごとの乾燥状態を把握することは難しい。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、複数の種類の溶媒を含む塗工液が塗工された印刷媒体について、溶媒ごとの乾燥状態を判定することが可能な乾燥装置、印刷装置及び乾燥方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る乾燥装置は、
複数の種類の溶媒を含む塗工液が塗工された印刷媒体を乾燥させる乾燥手段と、
前記乾燥手段の乾燥強度を制御する制御部と、
所定の波長帯域における前記印刷媒体の吸光度を測定する吸光度測定装置を制御し、測定された前記吸光度を取得する吸光度センサ制御部と、
前記印刷媒体の温度を測定する温度測定装置を制御し、測定された前記印刷媒体の温度を取得する温度センサ制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記吸光度センサ制御部で取得した前記吸光度と前記温度センサ制御部で取得した前記印刷媒体の温度とに基づいて、前記溶媒ごとの乾燥状態を判定し、
判定された前記乾燥状態に基づいて前記乾燥強度を制御する。
【0011】
また、前記制御部は、
前記印刷媒体の温度に基づいて残留している前記溶媒の種類を判定し、
前記吸光度に基づいて最後に残留している前記溶媒の残留量を判定することにより、前記溶媒ごとの乾燥状態を判定する、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記制御部は、
前記吸光度に基づいて前記複数の種類の溶媒の残留量を判定し、
前記印刷媒体の温度に基づいて残留している前記溶媒の種類を判定することにより、前記溶媒ごとの乾燥状態を判定する、
こととしてもよい。
【0013】
また、前記複数の種類の溶媒は、乾燥状態を表す吸光度の波長帯域が同じである、
こととしてもよい。
【0014】
また、前記複数の種類の溶媒は、水及びプロピレングリコールである、
こととしてもよい。
【0015】
また、本発明の第2の観点に係る印刷装置は、
第1の観点に係る乾燥装置と、
前記印刷媒体に前記塗工液を塗工する塗工装置と、を備える。
【0016】
また、本発明の第3の観点に係る乾燥方法では、
複数の種類の溶媒を含む塗工液が塗工された印刷媒体を乾燥させ、
所定の波長帯域における前記印刷媒体の吸光度を測定し、
前記印刷媒体の温度を測定し、
測定した前記吸光度と前記印刷媒体の温度とに基づいて、前記溶媒ごとの乾燥状態を判定し、
判定された前記乾燥状態に基づいて前記印刷媒体の乾燥強度を制御する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る乾燥装置では、塗工液が塗工された印刷媒体の吸光度と温度とを測定することによって、溶媒ごとの乾燥状態を把握する。したがって、複数の種類の溶媒を含む塗工液を、適切な乾燥強度で乾燥させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態1に係る印刷装置を示す概略図である。
図2】実施の形態1に係る制御ユニットの機能ブロック図である。
図3】実施の形態1に係る乾燥処理の流れを示すフローチャートである。
図4】実施の形態1に係る溶媒の波長ごとの透過率を示すグラフである。
図5】(A)は水の吸光スペクトル、(B)はプロピレングリコールの透過スペクトルである。
図6】(A)は水とプロピレングリコールとの混合溶媒の乾燥時間に対する温度及び乾燥速度の例を示すグラフであり、(B)は(A)に係る測定系の概略図である。
図7】水とプロピレングリコールとの混合溶媒における吸光度とプロピレングリコールの残留量との関係の例を示すグラフである。
図8】実施の形態2に係る乾燥処理の流れを示すフローチャートである。
図9】実施の形態2に係る印刷媒体の送り速度と温度、吸光度の関係の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施の形態1)
以下、図を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る乾燥装置について説明する。本実施の形態では、水とプロピレングリコールの混合溶媒を含むインクを塗工液として、プラスチックフィルムのウエブWである印刷媒体にインクジェット印刷を行う場合の乾燥装置2を例として説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態に係る乾燥装置2は、塗工装置としてインクジェット印刷を行うインクジェット印刷部23に付設され、印刷装置1を構成する。印刷装置1は、図1の概略図に示すように、巻出装置11、インフィードロール12、プレコート部21、プレコート乾燥部22、インクジェット印刷部23、サクションロール24、乾燥装置2、吸光度測定装置26、温度測定装置27、アウトフィードロール14、巻取装置15、図示しない制御ユニット50を備える。
【0021】
ウエブWは、長尺の印刷媒体である。ウエブWの材質は特に限られないが、本実施の形態に係るウエブWは、食品包装用フィルム等で一般的に用いられる二軸延伸ポリプロピレン(OPP:biaxial Oriented PolyproPylene)、ポリエチレンテレフタレート(PET:PolyEthylene Terephthalate)等のプラスチックフィルムである。プラスチックフィルムであるウエブWは、紙の印刷媒体と比較して、溶媒を吸収しにくい。したがって、例えばプロピレングリコールが、乾燥不足によってウエブW上に僅かに残留した場合でも、にじみ、ラミネート強度不足等の不具合を生じるおそれがある。
【0022】
巻出装置11は、ロール状態でセットされたウエブWをプレコート部21へ送出する装置である。
【0023】
インフィードロール12は、巻出装置11から巻き出されたウエブWをプレコート部21へ搬送する。インフィードロール12は駆動装置を備え、設定された送り速度でウエブWを搬送する。
【0024】
プレコート部21は、巻出装置11から巻き出されたウエブWの塗工面にプレコート液を塗工して当該塗工面にプレコート層を形成する。
【0025】
プレコート乾燥部22は、ウエブWの搬送方向に関してプレコート部21の下流側に配置されている。プレコート乾燥部22は、プレコート部21においてウエブWの塗工面に塗工されたプレコ-ト液を乾燥させる。
【0026】
インクジェット印刷部23は、ウエブWの搬送方向に関してプレコート乾燥部22の下流側に配置される。インクジェット印刷部23は、色ごとに印刷を行う複数の印刷ヘッド231を備える。インクジェット印刷部23は、ウエブWの塗工面(詳細には、塗工面に形成されたプレコート層)に、印刷ヘッド231から吐出されるインクを付着させて絵柄を形成する。
【0027】
本実施の形態に係るインクジェット印刷部23は、4つの印刷ヘッド231を備え、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、黒(K)の4色の絵柄をウエブWに印刷する。
【0028】
インクジェット印刷されたウエブWは、サクションロール24によって下流工程である乾燥装置2へ搬送される。サクションロール24は、ウエブWを吸引して搬送するので、印刷面に接触することなく安定してウエブWを搬送することができる。
【0029】
乾燥装置2は、乾燥手段としての乾燥炉を備え、乾燥炉の内部を通過するウエブWに熱風を吹き付けることにより、ウエブW表面のインクを乾燥させる。乾燥されたウエブWは、乾燥装置2から送出される。
【0030】
吸光度測定装置26は、制御ユニット50と接続され、乾燥装置2の下流側に配置される。吸光度測定装置26は、乾燥装置2から送出されたウエブWに光源からの光を照射して吸光度を測定する。吸光度測定装置26で所定の波長帯域の吸光度を測定することにより、塗工液中の溶媒の残留量を測定することができる。
【0031】
温度測定装置27は、制御ユニット50と接続され、乾燥装置2の下流側、吸光度測定装置26の近傍に配置される。本実施の形態に係る温度測定装置27は、吸光度測定装置26の下流側に配置される。温度測定装置27は、サーモグラフィ等の非接触式の測定装置でも、熱電対を用いた接触式の測定装置でもよい。本実施の形態では、ウエブW、塗工液の種類等の条件による制限の少ない接触式の温度測定装置27を用いる。
【0032】
アウトフィードロール14は、温度測定装置27の下流側に配置される。アウトフィードロール14は、インクジェット印刷されたウエブWを巻取装置15へ搬送する。
【0033】
巻取装置15は、アウトフィードロール14によって送り出されたウエブWを巻き取る装置である。
【0034】
制御ユニット50は、図2に示すように、制御部51、記憶部52、表示部53、入力部54を備える。本実施の形態では、乾燥装置2に含まれ、乾燥装置2の制御を行う制御部51が、印刷装置1全体の制御を行う制御ユニット50の一部として構成されている。
【0035】
制御部51は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等から構成されており、乾燥装置2を制御する。また、制御部51は、吸光度測定装置26、温度測定装置27によって測定される吸光度及びウエブWの温度に基づいて、塗工液の乾燥状態を判定し、乾燥強度を制御する。
【0036】
制御部51は、制御部51のROM、記憶部52等に記憶されている各種動作プログラム及びデータをRAMに読み込んでCPUを動作させることにより、図2に示される制御部51の各機能を実現させる。これにより、制御部51は、吸光度センサ制御部511、温度センサ制御部512、演算部513、乾燥装置制御部514として動作する。
【0037】
吸光度センサ制御部511は、吸光度測定装置26を制御して、ウエブWに塗工された塗工液の吸光度を測定し、測定された吸光度のデータを取得する。
【0038】
温度センサ制御部512は、温度測定装置27を制御して、塗工液が塗工されたウエブWの温度を測定し、測定された温度のデータを取得する。
【0039】
演算部513は、吸光度センサ制御部511で取得された吸光度と、温度センサ制御部512で取得されたウエブWの温度とに基づいて、塗工液の乾燥状態、より詳細には塗工液中の溶媒の乾燥状態を判定する。
【0040】
乾燥装置制御部514は、演算部513の判定結果に基づいて、乾燥装置2を制御して、乾燥炉の乾燥強度を調整する。
【0041】
記憶部52は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリであり、吸光度測定装置26及び温度測定装置27の測定データ、これらの測定データから塗工液の乾燥状態を判定する判定プログラム等を記憶する。
【0042】
表示部53は、コンピュータ装置である制御ユニット50に備えられた表示用デバイスであり、例えば液晶パネルである。表示部53は、吸光度測定装置26及び温度測定装置27の測定データ、演算部513の判定結果である塗工液の乾燥状態等を表示する。
【0043】
入力部54は、印刷装置1における印刷の開始、終了指示、各種印刷条件の設定、乾燥装置2の動作条件の設定等を入力するための入力デバイスである。入力部54は、制御ユニット50に備えられたキーボード、タッチパネル、マウス等である。
【0044】
続いて、乾燥装置2を用いた温度測定方法について、図3のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0045】
印刷装置1の動作が開始されると、ウエブWは、巻出装置11から巻き出され、インフィードロール12によってプレコート部21、プレコート乾燥部22へ搬送される(ステップS11)。さらに、プレコート及びプレコート液の乾燥が行われたウエブWは、インクジェット印刷部23へ送られる。そして、予め記憶部52に記憶されている絵柄がウエブWにインクジェット印刷される(ステップS12)。より具体的には、各色の絵柄に対応するように、4つの印刷ヘッド231からインクが吐出され、ウエブWに絵柄が印刷される。
【0046】
本実施の形態に係る塗工液であるインクは、複数の種類の溶媒を含む。具体的には、インクは、水及びプロピレングリコールの混合溶媒を含む。水とプロピレングリコールとは、互いに気化温度が異なり、インクが印刷されたウエブWを加熱して乾燥させた場合の気化のタイミング、量等が異なる。混合溶媒の気化による乾燥状態の詳細については、後述する。
【0047】
インクジェット印刷部23でCMYKの4色の絵柄が印刷されたウエブWは、サクションロール24によって乾燥装置2へ搬送される(ステップS13)。乾燥装置2で表面上のインクが乾燥したウエブWは、乾燥装置2から送出される。
【0048】
吸光度センサ制御部511は、吸光度測定装置26を制御して、乾燥装置2から送出されたウエブWの吸光度を測定し、測定された吸光度のデータを取得する(ステップS14)。具体的には、吸光度測定装置26は、塗工液の乾燥状態を表す吸光度の波長帯域に基づいて予め設定された所定の波長の吸光度を測定する。図4は、水及びプロピレングリコールの混合溶媒を含む塗工液の吸光度スペクトルの例を示す図である。図4に示すように、波長3.0μm付近の帯域において、良好な乾燥状態と良好でない乾燥状態との間の吸光度の差が大きくなっている。したがって、波長3.0μmの吸光度を測定することにより、塗工液の乾燥状態を把握することができる。
【0049】
しかしながら、図5(A)に示す水の吸光度のスペクトル特性、及び図5(B)に示すプロピレングリコールの透過率のスペクトル特性からわかるように、波長3.0μmの帯域では、水、プロピレングリコールのいずれも吸光度が大きくなっている。これは、3.0μm波長の吸光度が、水とプロピレングリコールのいずれにも含まれるヒドロキシ基の存在を示すためである。したがって、波長3.0μmの帯域の吸光度を測定するのみでは、水及びプロピレングリコールのいずれがどの程度残留しているかを把握することは難しい。そこで、本実施の形態に係る乾燥装置2は、ウエブWの温度データもあわせて用いることとしている。
【0050】
温度センサ制御部512は、温度測定装置27を制御して、吸光度が測定されたウエブWの温度を測定し、測定された温度データを取得する(ステップS15)。
【0051】
図6(A)は、図6(B)の概要図に示す簡易な構成の乾燥装置において、時間経過と印刷媒体の温度との関係を測定した場合の例を示すグラフである。本例では、水とプロピレングリコールとを含む2溶媒系の混合溶媒について、水とプロピレングリコールとの混合比率を変化させた場合の乾燥時間による印刷媒体の温度の変化を示している。
【0052】
図6(A)に示すように、溶媒中に占める水の割合が小さいほど、温度の立ち上がりが急峻になっており、乾燥の初期段階では水が優先的に気化し、水の気化が進むと印刷媒体の温度が上昇し、プロピレングリコールの気化が進むことがわかる。したがって、印刷媒体の温度を測定することにより、残留している溶媒の割合を推定することができる。しかしながら、図6(A)のグラフの水のみの場合及びプロピレングリコールのみの場合のように、温度が一定値となっている場合において、溶媒の残留量を推定することは難しい。
【0053】
本実施の形態に係る演算部513は、ステップS14で測定された吸光度及びステップS15で測定されたウエブWの温度に基づいて溶媒ごとの乾燥状態を判定する(ステップS16)。具体的には、演算部513は、測定されたウエブWの温度に基づいて、塗工液が以下の状態1~状態3のいずれの状態であるか判定する。状態1は、気化温度の低い溶媒が残留しており、いずれの溶媒も残留している状態(乾燥不足の状態)である。状態2は、気化温度の低い溶媒の気化が進んでウエブWの温度が上昇し、主に気化温度の高い溶媒が残留している状態(乾燥不足の状態)である。状態3は、気化温度の低い溶媒の気化が進み、気化温度の高い溶媒が残留している状態(乾燥不足の状態)、又はいずれの溶媒の気化も進んだ状態(良好な乾燥状態)である。
【0054】
また、演算部513は、測定された吸光度に基づいて、状態3における溶媒の残留量を推定する。図7に示すように、吸光度と溶媒の残留量とには相関関係がある。本例では、波長3.0μmにおける吸光度が0.29以下の場合に、プロピレングリコールの残留量が0.35g/m以下となり、この範囲を良好な乾燥状態と判定することができる。したがって、演算部513は、上記状態3の場合について、吸光度が0.29より大きい場合を状態3-1(乾燥不足の状態)、吸光度が0.29以下の場合を状態3-2(良好な乾燥状態)と判定する。
【0055】
ステップS16で判定された状態が状態1又は状態2である場合(ステップS17のYES)、複数の種類の溶媒のいずれもが残留していると考えられる。したがって、乾燥装置制御部514は、乾燥強度を大幅に上昇させる(ステップS18)。例えば、乾燥装置制御部514は、乾燥装置2を制御して、乾燥炉内の熱風の設定温度を上昇させる、熱風の風量を増大させる、ウエブWの送り速度を小さくする等の動作を行う。乾燥強度の調整は、状態1と状態2とでレベル分けを行い、状態1の場合に、より大きく乾燥強度を上昇させることとしてもよい。
【0056】
また、判定された状態が状態3-1である場合(ステップS19のYES)、気化温度の低い溶媒の気化が完了し、気化温度の高い溶媒が残留している状態であると考えられる。したがって、乾燥装置制御部514は、乾燥強度を上昇させる(ステップS20)。この場合の乾燥強度の上昇度合いは、ステップS18に係る乾燥強度の上昇よりも小さい範囲でよい。
【0057】
また、判定された状態が状態3-2である場合(ステップS19のNO)、複数の種類の溶剤のいずれもが十分に気化されており、良好な乾燥状態であると考えられる。したがって、乾燥装置制御部514は乾燥強度の変更を行わない。
【0058】
制御部51は、印刷が終了するまで吸光度及び温度の測定を継続する(ステップS22のNO)。この際、乾燥強度変更のための運転条件変更があった場合、変更後の運転状態が安定するまでの時間を考慮して、予め設定された所定時間後に、吸光度及び温度の測定を再開することとすればよい(ステップS21)。
【0059】
乾燥装置2で乾燥されたウエブWは、乾燥装置2から送出され、アウトフィードロール14によって、巻取装置15へと送られる。巻取装置15は、アウトフィードロール14から送られたウエブWを巻き取る。
【0060】
印刷装置1による印刷が終了すると(ステップS22のYES)、乾燥装置2は動作を停止し、乾燥処理を終了する。
【0061】
以上、詳細に説明したように、本実施の形態に係る乾燥装置2は、複数の種類の溶媒を含む塗工液が塗工された印刷媒体について、印刷媒体の温度及び所定の波長帯域の吸光度を測定することにより、溶媒ごとの乾燥状態を判定する。具体的には、制御部51は、ウエブWの温度に基づいて残留している溶媒の種類を判定し、吸光度に基づいて最後に残留している溶媒の残留量を判定することにより、溶媒ごとの乾燥状態を判定する。したがって、精度よく乾燥装置を制御することが可能である。特に、吸光度のスペクトル特性として、乾燥状態を表す波長帯域が同じである複数の溶媒を含む場合であっても、ウエブWの測定温度に基づいて、溶媒ごとの乾燥状態を判定することができるので、精度よく乾燥装置を制御することが可能である。
【0062】
具体的には、本実施の形態に係る塗工液は、水とプロピレングリコールとを溶媒として含むこととしたが、例えば水とグリコールとを溶媒として含むこととしてもよい。この場合、グリコールはプロピレングリコールと同様に水酸基を有するので、塗工液の乾燥状態を表す吸光度の波長帯域は同じであるが、上述のプロピレングリコールの場合と同様の方法により、溶媒ごとの乾燥状態を判定することができる。
【0063】
また、本実施の形態では、2種類の溶媒を含む塗工液の乾燥状態を判定することとしたが、これに限られず、3種類以上の溶媒を含むこととしてもよい。
【0064】
また、本実施の形態では、乾燥状態を表す吸光度の波長帯域が、複数の溶媒で同一である場合を例として説明したが、これに限られない。測定する吸光度の波長帯域は、気化温度の高い溶媒の吸光度スペクトル特性に基づいた波長帯域とすればよい。これにより、乾燥が進んだ状態で、最後に残留している溶媒の残留量を推定できるので、溶媒ごとの乾燥状態を精度よく判定することが可能となる。
【0065】
また、本実施の形態では、インクジェット印刷部23で印刷されたインクに含まれる複数の種類の溶媒を乾燥させることとしたが、プレコート部21で塗工されるプレコート液に含まれる複数の種類の溶媒を乾燥させることとしてもよい。この場合、プレコート乾燥部22の下流側に吸光度測定装置26及び温度測定装置27を配置して、プレコート液の乾燥状態を判定し、プレコート乾燥部22の乾燥強度を制御することとすればよい。
【0066】
また、本実施の形態では、乾燥状態によって乾燥強度を上昇させる場合について説明したが、これに限られない。例えば、演算部513で判定された乾燥状態が上記状態3である場合において、吸光度に基づいて推定される溶媒の残留量が少なすぎると考えられる場合、乾燥装置制御部514は乾燥装置2の乾燥強度を低下させることとしてもよい。
【0067】
(実施の形態2)
上記実施の形態1では、乾燥装置2の乾燥強度、すなわち印刷媒体上の塗工液に与える熱量に応じて溶媒の気化が進み、印刷媒体の温度が変化する場合について説明したが、乾燥強度が溶媒の気化状態に関わらず印刷媒体の温度に影響を与える場合もある。本実施の形態では、印刷媒体の送り速度を変化させることにより乾燥強度を調整し、当該乾燥強度の調整によって印刷媒体の温度が変化する場合について説明する。
【0068】
本実施の形態では、測定された吸光度及び印刷媒体の温度による乾燥状態の判定方法が、実施の形態1と異なる。その他、乾燥装置2、印刷装置1等の構成は、実施の形態1と同様であるので、同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0069】
以下、本実施の形態に係る乾燥方法について、図8のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0070】
印刷装置1の動作が開始されると、ウエブWは、巻出装置11から巻き出され、インフィードロール12によってプレコート部21、プレコート乾燥部22へ送られて、ウエブWにプレコート層が形成される(ステップS31)。プレコートされたウエブWはインクジェット印刷部23へ送られる。そして、予め記憶部52に記憶されている絵柄がウエブWにインクジェット印刷される(ステップS32)。
【0071】
本実施の形態に係る塗工液であるインクは、実施の形態1と同様に、互いに気化温度が異なる水及びプロピレングリコールの混合溶媒を含む。
【0072】
インクジェット印刷部23でCMYKの4色の絵柄が印刷されたウエブWは、サクションロール24によって乾燥装置2へ搬送され、乾燥が行われる(ステップS33)。乾燥装置2で表面上のインクの乾燥が行われたウエブWは、乾燥装置2から送出される。
【0073】
吸光度センサ制御部511は、吸光度測定装置26を制御して、乾燥装置2から送出されたウエブWの吸光度を測定し、測定された吸光度を取得する(ステップS34)。測定される吸光度の波長は、実施の形態1と同様に3.0μmである。
【0074】
また、温度センサ制御部512は、温度測定装置27を制御して、吸光度が測定されたウエブWの温度を測定し、測定された温度データを取得する(ステップS35)。
【0075】
図9は、本実施の形態に係る乾燥強度制御、すなわちウエブWの送り速度Vを変化させた場合のウエブWの温度及び吸光度の例を示すグラフである。図9に示すように、溶媒の残留状態は、送り速度Vの増大にともなって3つの領域(領域1~領域3)に分けられる。
【0076】
領域1は、吸光度が所定の閾値(本例では0.3)以下であり、溶媒の気化が進んで塗工液が十分に乾燥した状態である。領域2は、吸光度が閾値を超えており、溶媒の残留量が多く、乾燥が不十分な状態である。領域1及び領域2では、送り速度Vの増大にともなってウエブWの温度が上昇している。これは、乾燥装置2の出口から温度測定装置27までの間で生じる放熱の量が少なくなったためと考えられる。すなわち、本実施の形態では、乾燥装置2の出口から温度測定装置27までの間で、放熱が生じるものの、プロピレングリコールの湿球温度が高いため、ウエブW上に残留しているプロピレングリコールの量の増加によって、ウエブWの温度が低下しにくくなるためと考えられる。
【0077】
領域3は、領域2と比較して、吸光度が閾値を大きく超えており、溶媒の残留量が多く、乾燥が不十分な状態である。領域3は、溶媒のプロピレングリコールに加えて水も残留している状態である。ここで、領域3では、領域2と比較して温度が低下している。これは、水の湿球温度がプロピレングリコールより低いためと考えられる。したがって、乾燥が不十分である領域2及び領域3において、ウエブWの測定温度に基づいて、溶媒の水が残留しているか否かを判定することができる。
【0078】
本実施の形態に係る演算部513は、ステップS34で測定された吸光度及びステップS35で測定されたウエブWの温度に基づいて溶媒ごとの乾燥状態を判定する(ステップS36)。具体的には、演算部513は、上記のように、吸光度及びウエブWの温度に基づいて、乾燥状態を表す領域が領域1~領域3のいずれであるか判定する。
【0079】
判定された状態が領域3である場合(ステップS37のYES)、複数の種類の溶媒が残留していると考えられる。したがって、乾燥装置制御部514は、乾燥強度を大幅に上昇させる(ステップS38)。例えば、乾燥装置制御部514は、ウエブWの送り速度Vを小さくする。
【0080】
また、判定された状態が領域2である場合(ステップS39のYES)、気化温度の低い溶媒の気化が完了し、気化温度の高い溶媒が残留している状態であると考えられる。したがって、乾燥装置制御部514は、乾燥強度を上昇させる(ステップS40)。この場合の乾燥強度の上昇度合いは、ステップS37に係る乾燥強度の上昇よりも小さい範囲でよい。
【0081】
また、判定された状態が領域1である場合(ステップS39のNO)、複数の種類の溶剤のいずれもが十分に気化されており、良好な乾燥状態であると考えられる。したがって、乾燥装置制御部514は乾燥強度の変更を行わない。
【0082】
制御部51は、印刷が完了するまで吸光度及び温度の測定を継続する(ステップS42のNO)。この際、乾燥強度変更のための運転条件変更があった場合、変更後の運転状態が安定するまでの時間を考慮して、予め設定された所定時間後に、吸光度及び温度の測定を再開することとすればよい(ステップS41)。
【0083】
乾燥装置2で乾燥されたウエブWは、乾燥装置2から送出され、アウトフィードロール14によって、巻取装置15へと送られる。巻取装置15は、アウトフィードロール14から送られたウエブWを巻き取る。
【0084】
印刷装置1による印刷が終了すると(ステップS42のYES)、乾燥装置2は動作を停止し、乾燥処理を終了する。
【0085】
以上、説明したように、本実施の形態に係る乾燥装置2は、複数の種類の溶媒を含む塗工液が塗工された印刷媒体について、印刷媒体の温度及び所定の波長帯域の吸光度を測定することにより、溶媒ごとの乾燥状態を判定する。より詳細には、吸光度を測定することにより溶媒全体の残留量を判定し、印刷媒体の温度を測定することにより各溶媒の残留状態を判定する。したがって、ウエブWの送り速度Vの変化によって測定温度が変化する場合であっても、精度よく乾燥装置を制御することが可能である。
【0086】
上述の各実施の形態では、吸光度測定装置26によって吸光度を測定する位置は規定されないこととしたが、これに限られない。例えば、塗工液の塗工量の多い位置、すなわち総インキ量(TAC値:Total Area Coverage)の大きい位置で吸光度を測定することとしてもよい。これにより、TAC値のばらつきの大きい印刷パターンで塗工液を塗工する場合であっても、乾燥不足の発生を抑制し、適切に溶媒の乾燥を行うことができる。測定位置の設定方法は特に限定されない。例えば、制御部51は、印刷データからTAC値の大きい位置を算出し、算出された位置を吸光度の測定位置として予め設定することとすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明に係る乾燥装置、印刷装置及び乾燥方法は、複数の種類の溶媒を含む塗工液の乾燥に好適である。特に、乾燥状態を表す吸光度の波長帯域が同じである複数の溶媒を含む塗工液の乾燥に好適である。
【符号の説明】
【0088】
1 印刷装置、2 乾燥装置、11 巻出装置、12 インフィードロール、14 アウトフィードロール、15 巻取装置、21 プレコート部、22 プレコート乾燥部、23 インクジェット印刷部、231 印刷ヘッド、24 サクションロール、26 吸光度測定装置、27 温度測定装置、50 制御ユニット、51 制御部、511 吸光度センサ制御部、512 温度センサ制御部、513 演算部、514 乾燥装置制御部、52 記憶部、53 表示部、54 入力部、V 送り速度、W ウエブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9