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特開2023-141684魚介類処理用水、魚介類の加工処理方法、魚介類製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141684
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】魚介類処理用水、魚介類の加工処理方法、魚介類製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A22C 25/00 20060101AFI20230928BHJP
   A23L 17/30 20160101ALI20230928BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20230928BHJP
【FI】
A22C25/00 B
A23L17/30 Z
A23L17/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048135
(22)【出願日】2022-03-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】522116982
【氏名又は名称】株式会社IWAMOTO
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】岩元 靖人
【テーマコード(参考)】
4B011
4B042
【Fターム(参考)】
4B011KA01
4B011KH04
4B042AC01
4B042AC06
4B042AD07
4B042AG27
4B042AG29
4B042AH01
4B042AH09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】魚介類の品質劣化を抑制し、日持ちを向上可能であり、さらに短期間で魚介類製品を製造可能とする魚介類処理用水を提供する。
【解決手段】本発明の魚介類処理用水は炭酸を含有し、pH4~pH7の酸性電解水である。また、前記魚介類処理用水は次亜塩素酸ナトリウムを実質的に含まないものであることが好ましい。また、前記魚介類処理用水は塩分濃度が0.1質量%~20質量%であることが好ましい。また、前記魚介類処理用水は魚介類の加工処理に使用されるものであることが好ましい。また、前記魚介類処理用水は魚介類のにおい低減に使用されることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸を含有し、pH4~pH7の酸性電解水である魚介類処理用水。
【請求項2】
次亜塩素酸ナトリウムを実質的に含まないものである請求項1に記載の魚介類処理用水。
【請求項3】
塩分濃度が0.1質量%~20質量%である請求項1又は2に記載の魚介類処理用水。
【請求項4】
魚介類の加工処理に使用される請求項1~3のいずれか1項に記載の魚介類処理用水。
【請求項5】
魚介類のにおい低減に使用される請求項1~3のいずれか1項に記載の魚介類処理用水。
【請求項6】
魚介類の血抜きに使用される請求項1~3のいずれか1項に記載の魚介類処理用水。
【請求項7】
からすみの血抜きに使用される請求項1~3のいずれか1項に記載の魚介類処理用水。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の魚介類処理用水で魚介類を処理する工程を含む魚介類の加工処理方法。
【請求項9】
請求項8に記載の魚介類の加工処理方法を含む魚介類製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類処理用水、魚介類の加工処理方法、魚介類製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚介類は一般的にその身にトリメチルアミンオキシド(TMAO)を豊富に含有しており、漁獲した段階から、トリメチルアミン(TMA)へ変換される。TMAが発生することで悪臭が発生し、品質が低下することが知られている。
【0003】
特に、魚介類の血液中に含まれている鉄イオンによる非酵素的な反応や、魚身に存在する微生物により代謝されることにより、TMAが産生することが知られている。
【0004】
このようなTMAによる魚介類の品質劣化を防止するため、特許文献1のように次亜塩素酸ナトリウム水溶液につけることで殺菌処理し、TMAの産生を防止する方法や、特許文献2のように漁獲後すぐに海水を注入することにより脱血処理をする方法等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-29508号公報
【特許文献2】特開2017-192382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のような次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いる方法では血液の凝固自体を解消できるものではないために、残留する血液中の鉄イオンにより、TMAOがTMAへ変換されることを抑制できない課題があった。また、次亜塩素酸ナトリウムによって殺菌することにより、微生物によるTMA生産を抑制することはできるが、次亜塩素酸ナトリウム自体が高濃度に存在する場合、TMAの産生を誘発してしまうという問題もあった。
【0007】
また、魚介類は漁獲後すぐに血液の凝固が始まってしまい、血液凝固は抹消の血液から進行するため、特許文献2のような海水の注入による脱血処理は抹消まで十分に脱血するには限界があった。
【0008】
したがって、上記のような様々な原因により引き起こされる魚介類の品質劣化をより効果的に予防することが求められていた。
【0009】
また、一部の魚介類製品では残存した血液によって悪臭が発生するため、長期にわたる塩漬け工程などの脱臭工程が必要となっており、生産コストが高くなってしまう問題があった。
【0010】
本発明はこれらのような課題を解決するものであって、本発明の第1の目的は魚介類の品質劣化を予防し、日持ちを向上させることが可能な魚介類処理用水を提供することであり、本発明の第2の目的は魚介類の製造工程を省略し、短期間で製造可能とする魚介類処理用水を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意努力した結果、炭酸を含有し、pH4~pH7の酸性電解水であれば、魚介類の品質劣化を抑制し、日持ちを向上可能であり、さらに短期間で魚介類製品を製造可能であることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0012】
すなわち、本発明は炭酸を含有し、pH4~pH7の酸性電解水である魚介類処理用水を提供する。
【0013】
本発明の魚介類処理用水は炭酸を含有するpH4~pH7の酸性電解水であることにより、1度血液が凝固してしまっても、凝固を解消して魚介類中の血液を除去することが可能となり、さらに魚介類の殺菌が可能となるため、魚介類の品質劣化を抑制し、日持ちを向上することができ、さらに短期間で魚介類製品を製造することができる。
【0014】
また、上記魚介類処理用水は次亜塩素酸ナトリウムを実質的に含まないものであることが好ましい。上記構成を有することで悪臭の発生をより一層抑制することができる。
【0015】
また、上記魚介類処理用水は塩分濃度が0.1質量%~20質量%であることが好ましい。上記構成を有することで魚身中の水分量を調整することが可能となり、品質劣化をより一層抑制することができる。
【0016】
また、上記魚介類処理用水は魚介類の加工処理に使用されるものであることが好ましい。
【0017】
また、上記魚介類処理用水は魚介類のにおい低減に使用されるものであることが好ましい。
【0018】
また、上記魚介類処理用水は魚介類の血抜きに使用されるものであることが好ましい。上記魚介類処理用水を使用して血抜きを行うことで悪臭の発生を抑制することができる。また、製造工程を省略可能となるため短期間で魚介類製品を製造することができる。
【0019】
また、上記魚介類処理用水はからすみの血抜きに使用されるものであることが好ましい。上記魚介類処理用水を使用することでからすみ中の血液を容易に洗浄することが可能になるため、からすみの脱臭のための処理期間を短縮し、短期間でからすみを製造することができる。
【0020】
また、本発明は上記魚介類処理用水で魚介類を処理する工程を含む魚介類の加工処理方法を提供する。
【0021】
また、本発明は上記加工処理方法を含む魚介類の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の魚介類処理用水は魚介類の品質劣化を予防し、日持ちを向上させることができる。さらに、魚介類の製造工程を省略し、短期間で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は本発明の魚介類処理用水で処理後7日目のアジの写真である。
図2図2は本発明の魚介類処理用水で処理後3日目のサバの断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態として、魚介類の日持ち向上若しくは製造期間短縮のために使用可能な魚介類処理用水を挙げることができる。
【0025】
[魚介類処理用水]
本発明の魚介類処理用水は炭酸を含有し、pH4~pH7の酸性電解水である。上記魚介類処理用水は炭酸を含有することにより1度血液が凝固してしまっても、凝固を解消して魚介類中の血液を除去することが可能となり、さらに魚介類の殺菌が可能となるため、魚介類の品質劣化を抑制し、日持ちを向上することができ、さらに短期間で魚介類製品を製造することができる。
【0026】
上記魚介類処理用水はpH5.5~pH6.8であることが好ましく、より好ましくはpH5.5~pH6.5である。また、海産微生物に対する増殖抑制効果を発揮させるため、上記魚介類処理用水が塩分を0.1質量%以上含む場合はpH4~pH5であることが好ましい。
【0027】
本発明における酸性電解水とは原料水を電気分解して得られるものをいう。原料水としては、特に限定されないが、コストの観点から水道水であることが好ましい。また、電気分解の方法としては公知乃至慣用の方法を用いることができ、例えば市販の酸性電解水生成装置(商品名「TK-HB50-S」、商品名「TK-AS47」、商品名「TK-AS30」、全てパナソニック社製)を使用することができる。
【0028】
上記魚介類処理用水は電気分解の際に生成する次亜塩素酸などの過酸化物を含有してもよい。
【0029】
上記魚介類処理用水中の上記過酸化物の濃度は0.1ppm~15ppmであることが好ましく、より好ましくは0.5ppm~12ppmであり、特に好ましくは1ppm~10ppmである。上記過酸化物濃度が0.1ppm以上であることにより、殺菌力を発揮できる傾向にある。また、15ppm以下であることにより、上記過酸化物自体のにおい、若しくは上記過酸化物と魚介類とが反応することにより発生するにおいを抑制することができる。また、上記魚介類処理用水中の上記過酸化物の濃度は0.1ppm以下であってもよい。
【0030】
また、上記魚介類処理用水に含まれる炭酸は電気分解前の原料水にあらかじめ炭酸源を添加していてもよいし、電気分解後の酸性電解水に直接炭酸を添加してもよい。また、原料水に炭酸が含まれる場合、外部からの炭酸源の添加無しで使用してもよい。簡便に製造する観点から、上記原料水にあらかじめ上記炭酸源を添加することが好ましい。上記原料水に添加する上記炭酸源としては特に限定されず、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、又は炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0031】
上記魚介類処理用水中の炭酸濃度としては例えば、6ppm~180ppmであることが好ましく、より好ましくは10ppm~150ppmである。炭酸濃度が上記範囲内であることにより、血液凝固解消効果を容易に発揮することができる。
【0032】
また、上記魚介類処理用水は次亜塩素酸ナトリウムを実質的に含まないことが好ましい。例えば、水道水を原料水として使用する場合、上記電気分解を実施する前にすでに添加されている塩素以外にさらに塩化ナトリウム等の塩素含有物質を添加しないことが好ましい。次亜塩素酸ナトリウムを実質的に含有しないことにより、次亜塩素酸ナトリウム由来の塩素臭や次亜塩素酸ナトリウムによるTMAの生成といった悪臭を抑制することができる。
【0033】
上記次亜塩素酸ナトリウムの濃度としては10ppm以下であることが好ましく、より好ましくは8ppm以下であり、特に好ましくは5ppm以下である。上記魚介類処理用水における上記次亜塩素酸ナトリウムの含有量が10ppm以下であることにより、次亜塩素酸ナトリウム自体の塩素臭を低減することができる。また下限としては特に限定されないが0ppm以上である。
【0034】
上記魚介類処理用水は、使用する魚介類の身質の維持の観点から、塩分濃度が0.1質量%~20質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%~15質量%であり、特に好ましくは1質量%~10質量%である。塩分濃度が0.1質量%以上であることにより、魚身からの体液の流出を抑制することができる。また上限としては特に限定されないが、塩の溶解させやすさから20質量%以下であることが好ましい。
【0035】
また、上記魚介類処理用水は魚介類の加工処理に使用することが好ましく、上記魚介類処理用水は魚介類の血抜き、におい低減、ぬめり低減、身質劣化防止又は殺菌のために使用することがより好ましい。
【0036】
また、上記魚介類処理用水は魚介類製品の製造に使用することが好ましく、魚卵製品の製造に使用することがより好ましく、からすみの製造に使用することが特に好ましい。
【0037】
[魚介類の加工処理方法]
本発明の別の一実施形態として上記魚介類処理用水を使用した魚介類の加工処理方法が挙げられる。
【0038】
上記加工処理方法により、魚介類の日持ちを向上することができる。上記日持ち向上する加工処理とは具体的には、魚介類の血抜き処理、におい低減処理、ぬめり低減処理、身質劣化予防処理、及び殺菌処理等が挙げられる。なお、本発明における魚介類の品質の劣化とは、例えば、弾力の低減、風味の劣化、味の劣化、及び色味、色つやの減退等が起こることを意味する。日持ち向上とは保存中に上記品質の劣化が起こらず、外観、性状、風味、味等が維持されることを意味する。
【0039】
上記加工処理方法はTMAを産生しやすい海産の魚介類に対して行うことが好ましく、上記海産の魚介類としては例えば、サバ、アジ、タイ、及びブリ等の魚類やエビ、カニなどの甲殻類、タコ、イカなど頭足類、カキなどの貝類、及びボラの卵巣、筋子等の魚卵等を挙げることができる。
【0040】
上記魚介類処理用水の貯留された水槽等に上記魚介類(丸ごと又は切り身等)を浸漬し、そのまま所定時間浸漬させてもよく、上記魚介類処理用水の流水で魚介類を洗ってもよい。上記魚介類処理用水の処理時間としては1秒~3分間であることが好ましく、さらに好ましくは5秒~2分間である。上記処理時間が1秒以上であることで上記魚介類処理用水が上記魚介類中の血液に十分に接触し、血液凝固を解消することができる。血液凝固が解消することで容易に魚体内から血液を除去することができるため、におい低減効果を発揮しやすい。上記処理時間が3分以下であることにより、魚身中の体液を流出し、品質が低下することを抑制しやすい。
【0041】
また、上記加工処理は菌の増殖を抑制し、TMAの産生を抑制する観点から0~10℃の上記魚介類処理用水を使用することが好ましい。また、上記水温を維持させるために、上記魚介類処理用水の氷を使用してもよい。
【0042】
また、上記魚介類が海産物である場合には、上記魚介類処理用水の塩分濃度を0.1質量%以下、かつpHを6.5以下にしておくことが好ましい。上記魚介類の表面に付着した腸炎ビブリオ菌等の海産の微生物の増殖を停止しつつ洗い流すことができ、品質劣化を抑制することができる。
【0043】
また、上記加工処理の前に、漁獲した上記魚介類を、上記魚介類処理用水を凍らせた氷中で保存しておくことが好ましい。上記魚介類処理用水の氷を使用することで浸透圧差によって長時間の接触させた際に引き起こされる身質の劣化を抑制しつつ、TMAの発生を抑制することができる。
【0044】
上記魚介類処理用水による洗浄処理を施した魚身を、次いで塩を加えた上記魚介類処理用水に再浸漬させることが好ましい。上記塩を加えた魚介類処理用水に再浸漬させることで、その後の魚身からの体液の流出を抑制し、魚身の弾力を維持することができる。上記塩分濃度としては0.1質量%~20質量%であることが好ましい。また、上記加塩水の浸漬時間は特に限定されないが、例えば1分~30分であることが好ましい。
【0045】
上記魚介類処理用水による上記加工処理を実施した魚身は、表面の水気をふき取ったうえで、真空パック又はプラスチックラップ等で密閉して保存することが好ましい。上記密閉処理を施すことにより、上記日持ち向上効果を発揮させ、より長期間品質を維持したまま保存することができる。
【0046】
また、上記魚介類処理用水を特に魚の表面に使用することにより、上述の効果に加え、色つやを向上させることもできる。具体的なメカニズムは不明であるが、表皮のたんぱく質を変性させることにより色つやを向上させるためと推測される。また、色つやが減退する前に上記処理を行うことにより、色つやを長期間維持することが可能となり、色つやが減退した魚であっても上記処理を行うことで色つやを回復することもできる。
【0047】
また、凍った魚介類に対して上記塩を加えた魚介類処理用水を浸漬する又は上記塩を加えた魚介類処理用水の流水で解凍処理を行ってもよい。上記塩を加えた魚介類処理用水で魚介類を解凍することにより、解凍した際の魚介類のにおいの発生を予防しつつ、身の劣化防止効果を発揮することができる。
【0048】
また、上記加工処理方法を用いて日持ちを向上させた魚介類製品を製造することができる。
【0049】
[その他の用途]
また、本発明はその他の実施形態として、炭酸を含有することにより、微量金属をキレートして洗い流すことや、皮脂を効果的に洗い流すことが可能となるため、化粧品としてのクレンジング用途に用いることができる。また、上記クレンジング用途としては、上記炭酸の効果に加え、酸性電解水を使用することで、肌表面に常在する菌の量を低減することができ、肌の状態を維持向上することもできる。
【0050】
また、本発明のその他の実施形態として、牛肉、羊肉、豚肉、及び鶏肉等の食肉に対して上記酸性電解水を使用することにより、上記食肉中の血液を効率的に洗浄し、悪臭を抑制することが可能である。また、上記食肉のたんぱく質を変性させ、肉質を向上させることができる。また、上記食肉を殺菌することが可能となるため、日持ち向上させることもできる。
【0051】
さらに、本発明のその他の実施形態として炭酸を含有する酸性電解水であることにより、金属原子をキレートしつつ、野菜表面の菌を低減可能であるため、野菜洗浄用途に使用することもできる。
【0052】
[魚介類製品の製造方法]
また、本発明の別の一実施形態としては上記魚介類処理用水を使用した魚介類製品の製造方法を挙げることができる。
【0053】
上記魚介類製品としては、におい低減のために塩漬け工程を設けている魚介類製品であることが好ましく、より好ましくは魚卵製品が挙げられ、特に好ましくはからすみが挙げられる。
【0054】
からすみは通常、原料として使用されるボラの卵巣に残存した微量の血液を原因として生臭さが発生する。通常は、血液は凝固しており、十分に血液を除去することが難しいため、このような生臭さを抑制し、且つボラの身のたんぱく質を変性させ食感を適度なものとするために7日間~20日間の塩漬け処理と10日間程度の塩抜き工程が必要とされている(例えば、特許第5704733号参照)。上記魚介類処理用水を使用することにより、血液凝固を解消し、簡単に血液を除去できるようになるため、上記塩漬け工程及び上記塩抜き工程を短縮したとしても、通常の工程と同等の風味、味を有したからすみを製造することができる。このため、上記魚介類処理用水を使用することで、製造期間を短縮することができる。
【0055】
以下に具体的なからすみの製造方法を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0056】
ボラの卵巣を洗浄後、血管の一部に穴を開ける。塩分濃度が3質量%~20質量%、pH5.5~pH6.8、水温が0℃~10℃となるよう調整した上記魚介類処理用水を満たした水槽中に上記ボラの卵巣を5分~15分間浸漬し、次いで血管をスプーン等でなぞって血を抜くことができる。この時、上記魚介類処理用水を使用することで、1度凝固してしまった血液であっても、容易に凝固を解消して洗浄することができる。
【0057】
次いで、上記水温が0℃~10℃、pH5.5~pH6.8、3質量%~20質量%の塩分濃度になるよう調整した上記魚介類処理用水が浸された別の水槽に移し、冷蔵庫内で1日~3日塩漬けにすることが好ましい。この工程により、塩分をからすみ全体に十分に行き渡らせることができる。
【0058】
上記工程にて塩分濃度を調節したからすみは、さらに香りを付与するために日本酒で1日~3日漬け込むことが好ましい。その後、上記日本酒に付け込んだからすみを9日間~40日間公知乃至慣用の方法で乾燥にすることによりからすみを製造することができる。
【0059】
以上のからすみの製造方法では従来の製造方法と比較して、塩漬け、塩抜き工程を省略したとしても悪臭の発生を抑制することができるため、簡便かつ短期間で従来品と同等の品質のからすみを製造することが可能となる。
【実施例0060】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0061】
[魚の加工処理]
実施例1
あらかじめ、炭酸濃度が30ppmとなるように炭酸を添加した水道水から、酸性電解水生成装置(商品名「TK-HB50-S」、パナソニック社製)を用いてpH6の酸性電解水を作製した。内臓を予め下処理して排除したサバを、水温10℃に調整した上記酸性電解水の流水で3分間洗浄後、pH6、水温10℃、3質量%の塩分濃度に調整した上記酸性電解水を満たした水槽に10分間浸漬した。その後水気を切り、真空パックにくるんで3日間冷蔵庫で保存し評価用のサンプルを作製した。
【0062】
実施例2
アジを使用し、保存後7日目で評価を行った以外は実施例1と同様の方法で処理し、評価用のサンプルを作製した。
【0063】
比較例1
上記酸性電解水を水道水とした以外は実施例1と同様の方法で処理し、評価用のサンプルを作製した。
【0064】
比較例2
上記酸性電解水を水道水とした以外は実施例2と同様の方法で処理し、評価用のサンプルを作製した。
【0065】
[評価]
実施例及び比較例で処理したサンプルに対して、以下の評価を実施しその結果を表1に表す。なお、表1中の「-」は評価を行わなかったことを示す。
【0066】
(弾力)
上記サンプルの魚体の腹の一番太い部分で切り落とし、尾部側の身を横向きで量りの上に乗せ、親指と人先指で3kgの重さで指圧した際の身の状態を以下のように評価した。
○:身の飛び出し無し
×:身の飛び出し有り
【0067】
(色味、色つや)
上記サンプルの身の状態を目視で以下のように評価した。
○:身の色味、表面の色つやの減退無し
×:身の色味、表面の色つやの減退有り
【0068】
(風味、味)
上記サンプルの試食評価を行い、以下のように評価した。
○:風味劣化、味劣化無し
×:風味劣化、味劣化有り
【0069】
【表1】
【0070】
図1は本発明の魚介類処理用水で処理後7日目のアジの写真である。表1に示す通り、アジを使用した実施例1と、比較例1とを比較すると上記魚介類処理用水で処理を行うことにより、実施例1のアジでは、魚体の色味、色つや、風味、味が維持されることが確認された。一方で、水道水で処理した比較例1のアジでは、風味、味が劣化しており、色つやも減退しており、全体的にくすんでいた。また、図2は本発明の魚介類処理用水で処理後3日目のサバの断面写真である。表1に示す通り、3日間保存したサバにおいては、上記魚介類処理用水で処理した実施例2のサバの身は、外観性状、弾力を維持しており、実際に食してみると風味、味も劣化していないのに対し、比較例2の水道水で処理したサバの身では、外観の色がくすみ白っぽくなっており、弾力が低減していることが確認された。また、魚臭さが増し、味は水っぽくなっており、風味、味も劣化していることが確認された。
【0071】
[からすみの製造]
実施例3
ボラの卵巣を実施例1で使用したものと同様の酸性電解水で洗浄後、pH6、水温10℃、5質量%の塩分濃度に調整した上記酸性電解水の水槽に10分間浸した。その後、血管中に残留している血液の血抜き処理を行った。
【0072】
上記脱血処理をしたボラの卵巣を別のpH6、水温10℃、5質量%の塩分濃度の上記酸性電解水で満たした水槽に移し、1日冷蔵庫内で保管後、さらに日本酒で1日漬け込んだ。その後、36日間天日干しを実施してからすみを作製した。
【0073】
[評価]
上記からすみに関して、市販のからすみとの外観、性状の目視評価、及び風味、味の試食評価を行った。
【0074】
実施例3で作成したからすみは、36日間乾燥させることにより、からすみが十分に乾燥されることを確認した。また、市販のからすみと比較して外観性状に差異はなく、風味、味は同等であり魚臭さは感じられなかった。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2022-08-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸を含有し、pH4~pH7の酸性電解水であり、
次亜塩素酸ナトリウムを実質的に含まないものであり、
塩分濃度が0.1質量%~20質量%である魚介類処理用水。
【請求項2】
魚介類の加工処理に使用される請求項1に記載の魚介類処理用水。
【請求項3】
魚介類のにおい低減に使用される請求項1に記載の魚介類処理用水。
【請求項4】
魚介類の血抜きに使用される請求項1に記載の魚介類処理用水。
【請求項5】
からすみの血抜きに使用される請求項1に記載の魚介類処理用水。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の魚介類処理用水で魚介類を処理する工程を含む魚介類の加工処理方法。
【請求項7】
請求項に記載の魚介類の加工処理方法を含む魚介類製品の製造方法。