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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141685
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】成層空調システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 13/02 20060101AFI20230928BHJP
   F24F 9/00 20060101ALI20230928BHJP
   F24F 13/06 20060101ALI20230928BHJP
   F24F 13/32 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
F24F13/02 G
F24F13/02 F
F24F9/00 A
F24F9/00 F
F24F9/00 M
F24F13/02 D
F24F13/06 A
F24F13/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048136
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森木 翼
【テーマコード(参考)】
3L080
【Fターム(参考)】
3L080AA03
3L080AA09
3L080AC05
3L080BB01
(57)【要約】
【課題】対象空間のうちのインテリアゾーンにある限られた領域に対し効率良く成層空調を行い得る成層空調システムを提供する。
【解決手段】対象空間Sのうちインテリアゾーンにある周囲を壁で囲われない一部領域を対象領域Aとし、空調機1から供給される空調空気が内部を流通し、空調空気を下向きに吹き出す吹出口3aを備えた吹出ダクト3を、対象領域Aの平面視における外周部に設け、吹出口3aからは、空調空気が対象領域Aの内側寄りに吹き出すよう構成する。吹出口3aにおける空調空気の吹出角度は、吹出ダクト3の伸びる方向に沿った鉛直面に対して15°以上45°以下とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間のうちインテリアゾーンにある周囲を壁で囲われない一部領域を対象領域とし、
空調機から供給される空調空気が内部を流通し、空調空気を下向きに吹き出す吹出口を備えた吹出ダクトを、前記対象領域の平面視における外周部に設け、
前記吹出口からは、空調空気が前記対象領域の内側寄りに吹き出すよう構成されていること
を特徴とする成層空調システム
【請求項2】
前記吹出口における空調空気の吹出角度は、前記吹出ダクトの伸びる方向に沿った鉛直面に対して15°以上45°以下であること
を特徴とする請求項1に記載の成層空調システム。
【請求項3】
前記対象領域内における前記吹出ダクトの高さ以下であって床面以上の高さに、前記対象領域内の還気を取り込んで前記空調機に戻す還気口を設けたこと
を特徴とする請求項1または2に記載の成層空調システム。
【請求項4】
前記吹出ダクトの設定高さレベルは、床面から2.5m~6mの範囲とし、
前記吹出ダクトの延びる方向に設ける複数の前記吹出口の設置ピッチは300mm~1500mmの範囲であるよう設けたこと
を特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の成層空調システム。
【請求項5】
前記吹出ダクトは、前記対象空間内に設置された歩廊に支持されること
を特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の成層空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場などの大空間において、特にインテリアゾーンにおいて用いられる成層空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工場など天井の高い大空間を擁する施設には、例えば下記特許文献1に記載されているように、ペリメータゾーンにループダクトを設け、該ループダクトから下降流を吹き出して空調を行う温度成層型の空調システムが設けられる場合がある。このような空調システムでは、特に冷房時、ループダクトより下層の作業エリアに対し効率的に空調が行われる一方、それより上層の人がいないエリアは冷房されない。こうして、空調の必要な、人のいるエリアに対しては好適に空調を行いつつ、省エネルギーを図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-1892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、こういった成層空調システムにおいて、空調対象である空間の状況は必ずしも一様ではなく、同じ空間の中でも、人のいる頻度が高く空調の必要性が高い領域と、人があまりおらず空調の必要性が高くない領域とがあるといった状況も想定できる。そのような場合、上記特許文献1に記載の如き空調システムでは、前者の領域と後者の領域が併存する空間を一様に空調することになるが、仮に前者の領域について重点的に空調を行うことができれば、空調に係るエネルギー効率をより高めることができる。
【0005】
このような需要に対し成層空調以外である程度対応し得る方策としては、例えばスポット空調の使用が考えられる。空間全体を人にとって快適な温度状態に調整するのではなく、人のいる場所へ向けて空調空気を局地的に供給するのである。しかしながら、こうした方法では、人にとって快適な状態を保つことができる領域は広くない。空間に対し局所的に空気を、単なるノズルからある程度の指向性を有する速度をもって吹き出すと、吹出気流は周囲の空気を誘引し、混合しながら動き出した周囲の空気へ拡散するため、スポット空調という形で空調空気を供給ししても、快適な温度範囲を保てるのは吹出口付近の向きと距離とも僅かな領域に限られてしまうのである。空調空気の吹出速度を高めれば、温度に関しては快適な範囲内と言える領域を広げることは可能であるが、その場合、吹出口に近い領域では、強い気流により人にとって不快なドラフト感が生じてしまう可能性がある。そしてドラフト感を生じるにもかかわらず、周囲の空気の誘因による混合拡散に負けない空調風量を人に向けて吹き出すため、膨大なエネルギーが必要である。また、通常のスポット空調機は、冷凍サイクル一式をパッケージングし、吹出し空気を蒸発器にて冷却した冷媒を同じパッケージに組み込まれた別のファンにより凝縮器に当て、機器周囲の空気に排熱を捨てる形式をとっている。このようなスポット空調機の設置数や設置位置によっては、人の動線を妨げ、必要な作業の効率を悪化させてしまうことにも繋がりかねない。したがって、スポット空調を用いる方法は、空調空気の供給対象である人が同じ箇所に留まっているような場所には良くても、人が少しでも移動するような状況を想定すると十分とは言えない。
【0006】
また、工場等ではしばしば発熱の大きい機器が設置され、稼働している。そういった機器類の設置された領域を含む工場内全体を空調しようとすれば、機器類の発熱分の熱負荷を空調で処理することになり、エネルギー消費が大きくなる。たとえ熱負荷が高く空調に係るエネルギー消費が大きい場所であろうと、人がいて作業を行うような場所であれば空調を行う必要があるが、熱負荷が高く且つあまり人が寄り付かないような領域が対象空間内にある場合、仮にそういった領域を除外した形で空調を行うことができれば、やはりエネルギー効率の良い空調の運転が可能である。ところが、インテリアゾーンにある特に人がいて作業を行うような前者の領域を重点的に空調を行おうとすると、外壁に沿った吹き降ろし気流で外壁と床による気流方向の転換が利用できず、壁のない空間で前者の領域を包み込む気流を発生する必要がある。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、対象空間のうちのインテリアゾーンにある限られた領域に対し効率良く成層空調を行い得る成層空調システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、対象空間のうちインテリアゾーンにある周囲を壁で囲われない一部領域を対象領域とし、空調機から供給される空調空気が内部を流通し、空調空気を下向きに吹き出す吹出口を備えた吹出ダクトを、前記対象領域の平面視における外周部に設け、前記吹出口からは、空調空気が前記対象領域の内側寄りに吹き出すよう構成されていることを特徴とする成層空調システムにかかるものである。
【0009】
本発明の成層空調システムにおいて、前記吹出口における空調空気の吹出角度は、前記吹出ダクトの伸びる方向に沿った鉛直面に対して15°以上45°以下とすることができる。
【0010】
本発明の成層空調システムにおいては、前記対象領域内における前記吹出ダクトの高さ以下であって床面以上の高さに、該対象領域内の還気を取り込んで前記空調機に戻す還気口を設けてもよい。
【0011】
本発明の成層空調システムにおいて、前記吹出ダクトの設定高さレベルは、床面から2.5m~6mの範囲とし、前記吹出ダクトの延びる方向に設ける吹出し口の設置ピッチは300mm~1500mmの範囲であるよう設けてもよい。
【0012】
本発明の成層空調システムにおいて、前記吹出ダクトは、前記対象空間内に設置された歩廊に支持してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の成層空調システムによれば、対象空間のうちのインテリアゾーンにある限られた領域に対し効率良く成層空調を行うという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施による成層空調システムの形態の一例を示す斜視図である。
図2図1の成層空調システムの立断面図である。
図3図1の成層空調システムの平面図である。
図4図1の成層空調システムにおける吹出口の形態の一例を示す立断面図である。
図5】本発明の実施による成層空調システムにおける吹出ダクトの配置の別の例を示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0016】
図1図4は本発明の実施による成層空調システムの形態の一例を示している。本実施例の成層空調システムは、空調空気を送り出す空調機1と、該空調機1から供給される空調空気が内部に流通する給気ダクト2を備えている。
【0017】
給気ダクト2の一部は、図1図3に示す如く環状をなしており、ここに空調空気の吹出口3aが設けられる(以下、給気ダクト2のうち、この吹出口3aを備えた部分を「吹出ダクト3」と称する)。この環状の給気ダクト2に囲まれている領域が、対象空間Sのうち、本実施例の成層空調システムにおいて空調対象とする領域である(以下、この領域を「対象領域A」と称する)。
【0018】
吹出ダクト3は、対象空間Sにおける適当な高さ(例えば床面から2.5m~6m程度)に、概ね床面と平行に設置されている。空調機1は吹出ダクト3とほぼ同じ高さもしくはそれよりも高く設置されており、該空調機1の空調空気出口と、吹出ダクト3のうち一箇所との間は、給気ダクト2の一部である供給ダクト4で接続されており、空調機1から送り出される空調空気は、供給ダクト4を通って吹出ダクト3に供給されるようになっている。
【0019】
吹出ダクト3の下面には吹出口3aが設けられており、吹出ダクト3の内部を流通する空調空気は、吹出口3aから下向きに吹き出されるようになっている。吹出口3aは、ノズル状となっているが、吹出ダクト3の内部に対しその空気導入部分が突出するように差し込まれている。この吹出口3aは円筒状をなしており、吹出口3aの中心軸は吹出ダクト3内へ吹出ダクト3の底面に直交するよう、空気導入部分はダクト中心軸と平行な上端開口端として突き出している。この差込み長さは、0cmより長く吹出ダクト3の内部高さの1/2(ダクト中心軸までの距離と等しい)以下の範囲であればよい。これは、吹出ダクト3内の風速分布が空気が進行する方向と直交する断面において吹出ダクト3を構成する上下面並びに左右側面に近い箇所では内面の摩擦抵抗により低速となり、ダクト中心軸までは風速が増加するため、吹出口3aの上端開口端での動圧を静圧再取得するのにはその場所でのダクト内気流風速、つまり動圧を転換した静圧を稼ぐことができるのである。この仕組みにより、吹出ダクト3の長さ方向に所定のピッチで設けられる多数の吹出口3aが、供給ダクト4の接続口からの距離によらず、その場の動圧を同様な静圧に転換しさらに再び動圧に向きを変えて生じることで、どこの吹出口3aでも同様な風量風速で吹き出すことができる。吹出口3aのダクト下面以降の吹出し部は、図4に示す如く、鉛直ではなく斜め下方に向かうように設けられ、空調空気を対象領域Aの内側寄りに吹き出すようになっている。このような吹出口3aにおける空調空気の吹出角度の設定については後に詳述する。
【0020】
吹出ダクト3に囲まれる対象領域A内の一部箇所には還気口5が設置されており、該還気口5は、還気ダクト6を介して空調機1の入口側に接続されている。対象領域A内の空気の一部は、還気口5から還気として取り込まれ、還気ダクト6を通じて空調機1に戻され、再び空調空気として吹出ダクト3に送り出される。
【0021】
吹出ダクト3の設置される位置および設置状況について説明する。本実施例では、対象空間Sとして例えば工場の作業室等を想定しているが、工場等においては、床面より高い位置にメンテナンス等を目的として歩廊が設置される。本実施例においては、この歩廊7に吹出ダクト3を吊り下げるようにして支持している(図3参照。尚、図1図2においては説明の都合上、歩廊7の図示を省略している)。歩廊7は通常、工場等において人の頭上、床面を歩行する人に干渉しない高さ(例えば、歩廊の下面が工場の床上3m程度に位置するような高さ)に設けられる。
【0022】
一方、対象領域Aとして想定される領域は、基本的には人のいる領域であることが多い。この場合、吹出口3aを備える吹出ダクト3は、人の頭上程度の高さに設けることが好適である。人にとって快適な状態に空調する領域を、人のいる高さに限定することで、より効率的な空調を行うためである。また、吹出ダクト3の人との干渉を避ける意味でも、吹出ダクト3は人の頭上の高さに位置することが好ましい。こうした理由から、吹出ダクト3を設置する高さとしては、対象空間Sの床上2.5m以上6m以下程度とすることが好ましい。そして、床面から2.8m以上6m以下程度の適当な高さに歩廊が設けられている場合、この歩廊に支持する形で吹出ダクトを設置すれば、吹出ダクトを適当な高さに設置するにあたり、工事の手間や資材が最小限で済む。
【0023】
無論、吹出ダクトを設置するにあたり、歩廊の他に適当な構造物があればそれを利用してもよいし、適当な構造物がない場合には、吹出ダクトを支持するための構造物を別途設置してもよい。また、吹出ダクトは、歩廊(あるいはその他の構造物)に吊る形に限らず、例えば載せる形で設置してもよい。
【0024】
また、吹出ダクト3は、必ずしも一様な高さに設置する必要はない。周辺の構造物や機器等の状況に応じ、例えば図5に示すように、一本の吹出ダクト3を高さを変えつつ設置してもよい。工場の作業室等である対象空間S内では、多数の機器類や構造物が入り組んで設置されている状況が想定でき、そういった場合には、吹出ダクト3がそれらと干渉しないよう、吹出ダクト3の設置高さを適宜変更することができる。
【0025】
また、吹出ダクト3は、上述の通り平面視で対象領域Aを囲むように、該対象領域Aの外周部に設けられる。「対象領域」とは、工場の生産室等の空間であり、空調の対象である「対象空間」のうち一部の領域であって、本発明の成層空調システムにおいて重点的な空調の対象とする領域を指す。具体的には、例えば人がいて作業を行う領域や、温度管理の必要な機器や物品類(例えば、高温により運転が悪影響を受ける機器や、品質が損なわれる物品など)が配置されている領域などである。このような領域では工程の都合上間仕切りは立てられず、周囲とつながった空間である。一般に、空調の対象とする空間内では、そうした空調の必要性が高い領域と、さほど高くない領域とか併存している場合があるが、本願発明の成層空調システムでは、特に前者の領域(あるいは、これを含むより広い領域)を対象領域に設定し、ここを吹出しダクト3で囲んで空調を行うのである。
【0026】
尚、ここで、「給気ダクト(ないし吹出ダクト)が対象領域を囲む」と言う場合、給気ダクトないし吹出ダクトが対象領域の全周を囲んでいることを必ずしも意味しない。例えば平面視でU字状をなす給気ダクトが、対象領域の全周のうち7割程度の周に沿って設けられている場合でも、一般的な見方において「給気ダクトは対象領域を囲んでいる」と表現し得る。
【0027】
また、このように対象領域を設定する際、対象空間内に例えば発熱の大きい機器類が設置されており、且つこの機器の周辺に関して空調の必要性が高くないといった場合には、対象領域には前記機器を含まないようにするとよい。本実施例の場合、図1図3に示す如く、対象空間S内に発熱の大きい機器8が設置されており、この機器8を避けるように対象領域Aを設定している。すなわち、吹出ダクト3によって囲まれる領域が、機器8の設置された領域を含まないよう、吹出ダクト3を配置している。仮に発熱の大きい機器8が対象領域A内に配置されていた場合、対象領域Aの空調にあたっては、この機器8の発熱が熱負荷として算入されることになり、空調に係るエネルギー消費が大きくなってしまう。無論、仮に機器8の周辺領域に人がいたり、機器8自体に温度管理が必要であったりするような場合には、機器8の発熱が大きかろうと対象領域Aに機器8の設置された領域を含み、ここをも空調の対象とすればよいが、そういった事情がない場合には、発熱の大きい機器8を避けて対象領域Aを設定すれば、機器8の発熱分を空調で処理する必要がなくなり、必要なエネルギーを大幅に低減することができる。
【0028】
吹出口3aの設置について説明する。吹出口3aは、吹出ダクト3の下面に設けられ、吹出ダクト3内を流通する空調空気を下方へ吹き出すようになっているが、ここで、空調空気の吹出方向は鉛直ではなく、斜め下方である。具体的には、吹出口3aは吹出ダクト3の伸びる方向に沿った鉛直面に対し、対象領域Aの内側寄りの向きに空調空気を吹き出すようになっている。
【0029】
例えば上記特許文献1に記載されているような従来の温度成層型の空調システムでは、ペリメータゾーンにループダクトが壁に沿って設けられ、該ループダクトの吹出口から空調空気が鉛直下方に吹き出されるようになっている。このような配置では、吹出口から下方に吹き出され床面に当たった空調空気は、平面視におけるループダクトの外側を壁で遮られているため必然的に内側へ向かい、これによってループダクトに囲まれた領域内で温度成層が形成され、好適な成層空調が行われる。
【0030】
これに対し、本実施例の成層空調システムでは、壁によって区画された一個の対象空間Sのうち、一部領域を対象領域Aに設定し、この対象領域Aを平面視で囲むように吹出ダクト3を備えている。すなわち、吹出ダクト3は必ずしもペリメータゾーンに設けられるわけではなく、必ずしも壁に沿って設置されない。このような位置に設置された吹出ダクト3から、仮に鉛直下方に空調空気を吹き出すと、床面に到達した空調空気の流れのうち、対象領域Aの内側へ向かうのはおよそ半分であり、残り半分は対象領域Aの外側へ散逸してしまう。対象領域A内を重点的に空調するにあたり、これではエネルギーに無駄が生じてしまう。
【0031】
そこで本実施例では、吹出口3aにおける空調空気の吹出角度を鉛直方向ではなく、対象領域Aの内側寄りに設定しているのである。このとき、吹出口3aから拡散する空調空気の流れのうち、対象領域Aとは反対側の端が鉛直を向くように設定するとさらに良い。このようにすると、吹出口3aから吹き出された空調空気の流れの多くが、対象領域Aの内側向きのベクトルを有することになるので、床面に到達した空調空気は、コアンダ効果と相俟ち、床面に沿って対象領域Aの内側へ動いていく。対象領域Aに対し冷房を行う場合、対象領域A内では、床面に沿ってこのような空調空気のゆっくりとした流れが形成されると共に、対象領域Aの外周にあたる吹出ダクト3の設置位置下方では、2.5m/sから8m/s程度の高速で吹出口3aから吹き出す空調空気が周囲の空気を誘引同伴して風量が大きくなる同一方向の気流を生じ、当該気流によるエアカーテンが形成される。このエアカーテンは、吹出口3aにおける吹出角度の設定により、対象領域Aに対し内側へ向けて形成されるので、対象領域Aの外へ漏れる空調空気は最小限に抑えられる。さらに、複数の吹出口3aの吹出ダクト3の延長に沿った設置ピッチが、300mm~1500mmの間で並べることができれば、エアカーテンを形成する誘引空気も切れ目なく同一方向の気流となるのでより好ましい。こうして対象領域A内では、冷気である空調空気が床面から少なくとも吹出ダクト3の高さ程度まで層をなし、対象空間Sのうち、対象領域Aのみが重点的且つ好適に、効率よく成層空調が行われる。
【0032】
吹出口3aからの空調空気の吹出速度は、2.5m/s以上8m/s以下程度とすると、対象領域Aの外周部におけるエアカーテンの形成と、対象領域A内における温度成層の形成に好適である。また、吹出口3aにおける空調空気の吹出角度は、具体的には、吹出ダクト3の伸びる方向に沿った鉛直面に対して15°以上45°以下程度とするとよい。空調空気の吹出角度が鉛直方向に近すぎると、その分、空調空気の主流のうち少なからぬ割合が平面視で対象領域Aの外側に向くことになり、空調空気が対象領域A外に散逸して空調の効率が低下してしまう。一方、鉛直方向に対する空調空気の吹出角度を大きくし過ぎれば、吹出口3aから床面までの到達距離が長くなり、吹出口3aから吹き出された空調空気の流れが床面に到達するまでに失速・拡散してしまい、エアカーテンの形成やコアンダ効果による空調空気の成層が上手くいかなくなる可能性がある。
【0033】
吹出口3aにおいて吹出角度を設定する機構としては、図4に示す如く、吹出口3aを構成する管の先端に角度を持たせてもよいし、その他にも、例えば吹出口にルーバを設けるといった機構も考えられる。空調空気に適当な吹出角度を付与でき、初速を損なわず方向を一方向にする仕組みであれば、吹出口に関してはどのような機構を採用してもよい。
【0034】
還気口5は、平面視で対象領域Aの中央部に設置され、その位置で対象領域A内の空調空気の一部を還気として取り込む。吹出ダクト3の吹出口3aから対象領域Aの内側向きに吹き出された空調空気は対象領域A内の中央部に集まるので、そこにはコアンダ効果にて床を這ってきた気流同士がぶつかって上向き流れが発生し熱上昇流と相まって、その位置に還気口5を設ければ、空調空気を効率よく回収することができる。尚、図1図3には還気口5を一箇所にのみ図示しているが、対象領域A内の状況によっては、還気口5を対象領域A内の複数の位置に設けるようにしてもよい。またその際、還気口5を一本の還気ダクト6に複数備えてもよいし、還気ダクト6を複数設置したり、適宜分岐させた形で設置することも可能である。
【0035】
還気口5の設置高さは、吹出ダクト3と同じ高さかそれよりも低い位置、且つ床面以上の高さに設定すると、対象領域A内で層をなす空調空気を取り込むことになるので、空調にかかるエネルギーをさらに節減することができる。尤も、対象空間S内における機器の配置や構造物の位置等によっては、還気口5をそのような高さに設けることができない場合も想定でき、その場合には、還気口5を吹出ダクト3よりも高い位置に設置してもよい。ただし、還気口5が吹出ダクト3より高い位置にあると、好適な温度で層をなす空調空気よりも上方にある温度の高い空気を還気として取り込み、結果低温空気が溜まってその上の成層をなす高温空気の層が薄くなり、温度成層の効果が小さくなることになるため、冷房時におけるエネルギー効率は多少落ちる。
【0036】
空調機1の設置位置については、ここでは対象領域A内における吹出ダクト3と同じ高さに設置した場合を例示しているが、対象空間Sにおける吹出ダクト3や、その他の機器類、構造物等の配置状況に応じ、適宜の位置に設置すればよい。
【0037】
尚、本実施例の如き成層空調システムを実施するにあたっては、例えば空調機1に外気を取り込む外気ダクトや、該外気ダクトから取り込まれる外気を予め調和する外調機、その他の各種設備や機器類も設置されるが、本願発明の趣旨に直接関係しない構成については図示を省略している。
【0038】
以上の如き本実施例の成層空調システムでは、空調の必要性について高い領域と低い領域が併存している対象空間Sのうち、重点的に空調すべき領域を選択し、その周囲に間仕切り壁のない領域を対象領域Aに設定して、該対象領域Aを吹出ダクト3で囲み、エアカーテンと温度成層により空調を行うようにしている。この際、対象領域Aの外周に必ずしも壁が存在しないことに鑑み、吹出ダクト3からの空調空気の吹出角度を工夫することで空調空気の散逸を抑え、領域を限定した効率のよい空調を実現している。同じ対象空間Sであっても、発熱の大きい機器8の設置領域を避けることができるため、例えば上記特許文献1に記載されているような空調システムと比較しても、エネルギー効率をいっそう高めることができる。また、効果範囲が狭く限定されるスポット空調ではなく、一定の領域内を空調する方式であるため、該領域内を人が移動するような場合でも、人にとって快適な空調状態は保たれる。スポット空調の設置による動線の妨げのような支障も生じない。
【0039】
以上のように、上記本実施例の成層空調システムは、対象空間Sのうちインテリアゾーンにある周囲を壁で囲われない一部領域を対象領域Aとし、空調機1から供給される空調空気が内部を流通し、空調空気を下向きに吹き出す吹出口3aを備えた吹出ダクト3を、対象領域Aの平面視における外周部に設け、吹出口3aからは、空調空気が対象領域Aの内側寄りに吹き出すよう構成されている。このようにすれば、対象空間Sのうち、重点的に空調すべき領域である対象領域Aに対し、効率よく成層空調を行うことができる。
【0040】
また、本実施例の成層空調システムにおいて、吹出口3aにおける空調空気の吹出角度は、吹出ダクト3の伸びる方向に沿った鉛直面に対して15°以上45°以下としている。このようにすれば、空調空気の対象領域A外への散逸を好適に抑えることができる。
【0041】
また、本実施例の成層空調システムにおいては、対象領域A内における吹出ダクト3の高さ以下であって床面以上の高さに、対象領域A内の還気を取り込んで空調機1に戻す還気口5を設けている。このようにすれば、対象領域A内で層をなす空調空気を取り込むことにより、空調にかかるエネルギーをさらに節減することができる。
【0042】
また、本実施例の成層空調システムにおいて、吹出ダクト3の設定高さレベルは、床面から2.5m~6mの範囲とし、吹出ダクト3の延びる方向に設ける複数の吹出口3aの設置ピッチは300mm~1500mmの範囲であるよう設けている。このようにすれば、対象領域A内で層をなす空調空気を好適に取り込むことにより、空調にかかるエネルギーを一層節減することができる。
【0043】
また、本実施例の成層空調システムにおいて、吹出ダクト3は、対象空間S内に設置された歩廊7に支持している。このようにすれば、最小限の工事の手間や資材により、吹出ダクト3を適当な高さに設置することができる。
【0044】
したがって、上記本実施例によれば、対象空間のうちの限られた領域に対し効率良く空調を行い得る。
【0045】
尚、本発明の成層空調システムは、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0046】
1 空調機
3 吹出ダクト
3a 吹出口
5 還気口
7 歩廊
A 対象領域
S 対象空間
図1
図2
図3
図4
図5