(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141698
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】化粧品用顔料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/25 20060101AFI20230928BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20230928BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230928BHJP
A61Q 3/00 20060101ALI20230928BHJP
A61Q 1/04 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
A61K8/25
A61Q5/00
A61Q19/00
A61Q3/00
A61Q1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048154
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000104814
【氏名又は名称】クニミネ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 道也
(72)【発明者】
【氏名】窪田 宗弘
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB431
4C083AB432
4C083AB441
4C083AB442
4C083BB22
4C083BB23
4C083CC02
4C083CC11
4C083CC13
4C083CC28
4C083CC31
4C083EE05
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】スメクタイトそれ自体が顔料としても機能し、塗布時の滑り性、皮膚への付着性等にも優れた化粧品用顔料、及び当該顔料が配合された化粧品を提供する。
【解決手段】多価金属型スメクタイトを含有する化粧品用顔料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価金属型スメクタイトを含有する化粧品用顔料。
【請求項2】
前記多価金属型スメクタイトが有する多価金属イオンが、2価又は3価の金属イオンである、請求項1に記載の顔料。
【請求項3】
前記2価の金属イオンが、マンガンイオン、鉄イオン、亜鉛イオン、及び銅イオンの少なくとも1種を含む、請求項2に記載の顔料。
【請求項4】
前記3価の金属イオンが、アルミニウムイオン及び鉄イオンの少なくとも1種を含む、請求項2又は3に記載の顔料。
【請求項5】
前記多価金属型スメクタイトのスメクタイト種が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトの少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずか1項に記載の顔料。
【請求項6】
前記多価金属型スメクタイトが、150~1000℃の熱処理に付されたものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の顔料。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の化粧品用顔料を含む、化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品用顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
粘土鉱物の1種であるスメクタイトは、その特有の結晶構造(層状構造)、荷電、陽イオン交換性等に起因して種々の特性を示す。例えば、保湿(水分バリア)性、タンパク質や皮脂に対する吸着性、抗菌性、消臭性、消炎性、増粘性、チキソ性、密着性、滑沢性、滑り性等を有することが知られており、また、皮膚の弾力性を向上させたり、細胞を再生したりする作用も知られている。これらの特性に基づき、スメクタイトは洗顔料、ハンドソープ、ボディソープ、フェイスパック、化粧水等のスキンケア商品の有効成分ないし添加剤として広く用いられている。スメクタイトを配合することにより塗布時の伸びがよくなること、また、スメクタイトが光を正反射して適度なつやを与えることなども、スキンケア商品の付加価値の向上につながっている(特許文献1、非特許文献1)。
【0003】
スメクタイトは、アニオン性の結晶層を中和するように結晶層間に陽イオンが存在し、天然スメクタイトにおいて、この陽イオンは通常はナトリウムイオンである。また、非特許文献2には、各種多価金属イオンを層間陽イオンとして有する多価金属型スメクタイトについて記載されている。
【0004】
口紅、チーク、アイライン、アイシャドウ、ファンデーション、ヘアカラー等の色材を配合したメイクアップ商品(化粧品)には、色材として顔料が広く使用されている。このような顔料として金属元素を含む顔料が知られており、例えば特許文献2には、金属基体がゾルゲル法で製造された基体被覆層を有し、前記層は汗及び唾液に抗するバリア効果をもたらし、肌と金属基体の直接の接触を防ぐことを特徴とする金属顔料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-155830号公報
【特許文献2】特表2006-503832号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「粘土ハンドブック」,第三版,日本粘土学会編,2009年5月,P566
【非特許文献2】「粘土ハンドブック」,第三版,日本粘土学会編,2009年5月,P347
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
化粧品に顔料を配合する場合、顔料の分散安定性を高めるための処方や工程などが必要となる。本発明者らは、スキンケア商品への使用実績のあるスメクタイトそれ自体に、色材としての機能も併せ持たせることができれば、化粧品の製造効率の向上、原料コストの削減、付加価値の向上に繋がるとの着想に至った。
【0008】
本発明は、スメクタイトそれ自体が顔料としても機能し、塗布時の滑り性、皮膚への付着性等にも優れた化粧品用顔料を提供すること、及び当該顔料が配合された化粧品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた。その結果、多価金属イオンを主体とする層間陽イオンを有するスメクタイトを、必要により熱処理して得られる多価金属型スメクタイトが、多価金属イオン種やスメクタイト種の組み合わせによって多様な鮮やかな色彩を呈することができ、これを化粧品の顔料として用いることにより、色材として機能しながら、化粧品に優れた滑り性(伸びやすさ)を付与でき、皮膚等への付着性も高められることを見出した。本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成させるに至ったものである。
【0010】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
〔1〕
多価金属型スメクタイトを含有する化粧品用顔料。
〔2〕
前記多価金属型スメクタイトが有する多価金属イオンが、2価又は3価の金属イオンである、前記〔1〕に記載の顔料。
〔3〕
前記2価の金属イオンが、マンガンイオン、鉄イオン、亜鉛イオン、及び銅イオンの少なくとも1種を含む、前記〔2〕に記載の顔料。
〔4〕
前記3価の金属イオンが、アルミニウムイオン及び鉄イオンの少なくとも1種を含む、前記〔2〕又は〔3〕に記載の顔料。
〔5〕
前記多価金属型スメクタイトのスメクタイト種が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトの少なくとも1種を含む、前記〔1〕~〔4〕のいずかに記載の顔料。
〔6〕
前記多価金属型スメクタイトが、150~1000℃の熱処理に付されたものである、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の顔料。
〔7〕
前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の化粧品用顔料を含む、化粧品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の化粧品用顔料は、顔料として化粧品に配合することにより、得られる化粧品において、スメクタイトそれ自体が顔料として機能し、この化粧品は塗布時の滑り性、皮膚への付着性等にも優れる。また、本発明の化粧品は、スメクタイトそれ自体が顔料として機能し、肌等への優れた滑り性や付着性等を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について具体的に説明するが、本発明は、本発明で規定すること以外はこれらの形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明の化粧品用顔料(以下、単に「本発明の顔料」とも称す。)は、多価金属型スメクタイトを色材成分として含有する。
前記多価金属型スメクタイトにおけるスメクタイトの種類は特に限定されず、目的に応じて適宜に設定することができる。当該スメクタイトは、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、モンモリロナイト、サポナイト、スチブンサイト、及びヘクトライトから選ばれる1種又は2種以上であることがより好ましく、モンモリロナイト及び/又はヘクトライトであることがさらに好ましい。また、当該スメクタイトは、天然のスメクタイトであってもよく、合成スメクタイトであってもよい。
【0014】
本発明ないし本明細書において、「多価金属型スメクタイト」とは、スメクタイトの結晶層間に存在する陽イオン(層間陽イオン)の少なくとも一部が多価金属イオンであるスメクタイトを意味する。本明細書において前記多価金属イオンとは、2価以上の価数を持つ金属イオンを意味する。また本明細書において、「XX型スメクタイト」(例えば「銅型スメクタイト」)とは、スメクタイトの層間陽イオンのうち最も存在量の多い(モル量の多い)陽イオンがXXイオン(上記の例では銅イオン)であるスメクタイトを意味する。
本発明に用いる多価金属型スメクタイトの調製方法に特に制限はない。例えば、天然型のスメクタイトとしてナトリウム型スメクタイトを用い、イオン交換により層間陽イオンを目的の多価金属イオンと置き換えることで、目的の多価金属型スメクタイトを得ることができる。より具体的には、ナトリウム型スメクタイトの水性分散液に、目的の多価金属イオンの塩水溶液(例えば、ハロゲン化物、硫化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、過塩素酸塩、塩素酸塩等)を添加し、陽イオン交換をさせることにより、スメクタイトの層間陽イオンが多価金属イオンに置換されたスメクタイト(多価金属型スメクタイト)を得ることができる。さらに、分散液中に添加する塩の量を調節することにより、得られる多価金属型スメクタイトの浸出陽イオンに占める、目的の多価金属イオンの割合を適宜に調節することができる。なお、本発明に用いる多価金属型スメクタイトは、陽イオン交換樹脂を用いたカラム法やバッチ法によっても得ることができる。
【0015】
前記多価金属型スメクタイトの層間陽イオンを構成する多価金属イオンは、多価金属型スメクタイトが色彩を呈することができる多価金属イオンであれば特に制限されない。より鮮やかな呈色を付与する観点から、周期律表第3~12族に属する金属のイオンであってもよく、遷移金属の陽イオンであってもよく、卑金属の陽イオンであってもよい。上記多価金属イオンは2価又は3価の金属イオンであることが好ましい。
前記2価の金属イオンは、安全性が高く、安価で入手が可能で、かつ鮮やかな呈色を示す観点から、マンガンイオン(Mn2+)、鉄イオン(Fe2+)、亜鉛イオン(Zn2+)、銅イオン(Cu2+)、コバルトイオン(Co2+)、ニッケルイオン(Ni2+)、スズイオン(Sn2+)から選ばれる1種又は2種以上の陽イオンであることが好ましく、マンガンイオン、鉄イオン、亜鉛イオン、及び銅イオンから選ばれる1種又は2種以上の陽イオンであることがより好ましい。また前記3価の金属イオンは、上記と同様の観点からアルミニウムイオン(Al3+)、鉄イオン(Fe3+)、モリブデンイオン(Mo3+)、タングステンイオン(W3+)、クロムイオン(Cr3+)、マンガンイオン(Mn3+)、ビスマスイオン(Bi3+)、インジウム(In3+)から選ばれる1種又は2種以上の陽イオンであることが好ましく、アルミニウムイオン及び/又は鉄イオンであることがより好ましい。
前記多価金属型スメクタイトの層間陽イオンを構成する多価金属イオンの種類とスメクタイトの種類との組み合わせに応じて、また、必要により多価金属型スメクタイトを特定の温度で熱処理(焼成)することにより、後述の実施例に示すように白、黒、青、緑、赤、オレンジ、赤褐色、ベージュ、水色等の、化粧品として有用な所望の呈色を多価金属型スメクタイトに付与することができる。なお、本発明の顔料の色味は特に制限されず、多価金属型スメクタイトを顔料として含有し、化粧品の顔料として使用可能な呈色を示すものは、いずれも本発明の顔料に包含されるものである。
【0016】
例えば、カリウム型スメクタイトやナトリウム型スメクタイトといった、主要な層間陽イオンが1価の金属イオンであるスメクタイトは、色味を示さず(無彩色)かつ明度が中程度であるか、色味を示しても(有彩色)彩度が低く、化粧品の顔料には不向きであるのに対し、多価金属型スメクタイトやその熱処理物は無彩色であっても明度の強弱(白黒)がはっきりとしており、また有彩色の場合は多様な鮮やかな色味を示す。この理由は定かではないが、多価金属錯体が配位子の状態によって可視光の波長範囲に吸光が生じるのと同様に、スメクタイトの層間でも多価金属イオン種により種々の微細な構造変化を生じ、多様な色彩(多様な明度や彩度を有する色)を呈するものと推定される。
【0017】
本発明で用いる多価金属型スメクタイトにおいて、その浸出陽イオン(Leached Cations:Lc)量(すなわち浸出陽イオンの総量、単位:meq(ミリ当量)/100g、以下同様)に占める多価金属イオンの量(すなわち浸出多価金属イオン量、単位:meq/100g、以下同様)は50%以上であり、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。前記多価金属型スメクタイトの浸出陽イオン量に占める浸出多価金属イオン量は、100%でもよいが、通常は99%以下である。
前記浸出陽イオンに占める多価金属イオン以外の浸出陽イオンとしては、ナトリウムイオン(Na+)、及びカリウムイオン(K+)等が挙げられる。前記多価金属型スメクタイトの浸出陽イオン量に占める多価金属イオン以外の浸出陽イオンの総量の割合は、50%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、30%以下がより好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。また、前記多価金属イオン以外の浸出陽イオンが実質的に検出できないレベルまで抑えられていることも好ましい。
【0018】
本発明で用いる多価金属型スメクタイトの陽イオン交換容量(Cation Exchange Capacity:CEC)は特に制限がなく、目的の呈色等を考慮して適宜に設定することができる。前記多価金属型スメクタイトのCECは、例えば熱処理等により調整が可能である。具体的には、熱処理温度を高め熱処理の時間を長時間化することにより、層間の多価金属イオンを粘土層の空隙に移動させることで、CECを減少させることができる。なお、本発明において、多価金属型スメクタイトのCECは、水性分散物中における多価金属型スメクタイトのCECを意味する。
本発明の顔料をペースト状、又はクリーム状等の化粧品に配合する場合や、本発明の顔料に吸湿特性を付与したい場合には、前記多価金属型スメクタイトのCECを50meq/100g以上とすることが好ましく、60~150meq/100gとすることがより好ましく、70~120meq/100gとすることがより好ましく、80~110meq/100gとすることがさらに好ましい。前記多価金属型スメクタイトのCECを上記の範囲内とすることにより、スメクタイトの層間の多価金属イオンを起点としてスメクタイトの膨潤が促進され、本発明の顔料を配合する化粧品における分散性、膨潤性、増粘性を向上させることができる。なお、通常は多価金属型スメクタイトのCECは150meq/100g以下である。
一方、本発明の顔料に耐水性や撥水性を付与したい場合には、前記多価金属型スメクタイトのCECを50meq/100g以下とすることが好ましく、1~40meq/100gとすることがより好ましく、5~20meq/100gとすることがより好ましい。
また前記金属型スメクタイトのCECは、1~150meq/100gであってもよく、5~120meq/100gとすることもでき、5~110meq/100gとすることもできる。
【0019】
本発明で用いる多価金属型スメクタイトは、熱処理に付すことにより、色彩を変化させることもできる。また、熱処理温度によっても色彩を調整することができ、さらに吸湿特性を変化させることにより呈色安定性を向上させることもできる。
前記熱処理における熱処理温度は特に限定されず、多価金属型スメクタイトの多価金属イオンの種類や、目的とする色彩となるように適宜設定することができる。例えば、150℃以上とすることができ、150~1000℃であってもよく、180~800℃であってもよく、200~700℃であってもよく、250~500℃であってもよい。熱処理条件を上記の温度範囲とすることにより、層間水の脱水及び、層間の多価金属イオンの少なくとも一部が、粘土層の八面体シート、もしくは四面体シートの空きサイト(空席)に固定化されるなどして、多価金属イオンの周囲の状態が変化し、これによって色彩が変化すると考えられる。
上記熱処理は開放系の電気炉で実施することが好ましい。この場合、加熱時の相対湿度は5%以下となり、圧力は常圧となる。上記熱処理の時間は、所望の色彩(呈色状態)にできれば特に制限はない。上記熱処理の時間は、生産の効率性の観点から、0.5~48時間とすることが好ましく、1~24時間とすることがより好ましい。
【0020】
本発明の顔料は、多価金属型スメクタイト以外に、本発明の効果を損なわない範囲で他の顔料を含有してもよい。本発明の顔料は、多価金属型スメクタイト以外の顔料を含有しないことも好ましい。
本発明の顔料が多価金属型スメクタイト以外の顔料を含有する場合、本発明の顔料中、多価金属型スメクタイトの含有量は20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上であることも好ましい。
【0021】
本発明の顔料は、その流通時や保存時において、粉末状であってもよく、水性媒体に分散させた液状ないしスラリー状であってもよい。
【0022】
本発明の顔料は、多価金属型スメクタイトの多様で鮮やかな色彩により、化粧品に配合することで化粧品に目的の色彩を付与することができる。また、下記実施例に示すように、本発明の顔料に含まれる多価金属型スメクタイトもナトリウム型スメクタイト等と同様に層状構造を有し、滑り特性や付着特性に優れる。そのため、本発明の顔料、及び本発明の顔料が配合された化粧品は塗布時の伸びが良好で、肌等への付着性にも優れている。さらに、本発明の顔料に含まれる多価金属型スメクタイトは、界面活性剤、美容成分、粘度調整剤、防腐剤、乳化剤としての機能も併せ持つことができ、化粧品の付加価値向上にも寄与する。
【0023】
本発明ないし本明細書において、「化粧品」は、顔料を含有し得る化粧品である。例えば、メイクアップ(仕上用)化粧品、頭髪用化粧品、皮膚用化粧品、香水・オーデコロン、浴用化粧料、爪化粧料、リップケア化粧料、ボディパウダー等の各化粧品ないし化粧料が包含される。
仕上用化粧品としては、例えば口紅、リップグロス等の口唇化粧料、アイシャドウ、アイライナー、チーク、マスカラ液等のポイントメイクアップ化粧料、ファンデーション、コンシーラー、パウダー等のベースメイクアップ化粧料等が挙げられる。頭髪用化粧品としては、例えば整髪料、毛髪着色料、洗髪料、リンス等が挙げられる。皮膚用化粧品としては、例えば化粧水、化粧液、クリーム、乳液、日焼け用化粧料、日焼け止め用化粧料、洗浄料、パック等が挙げられる。爪化粧料としては、例えばマニキュア、ペディキュア、除光液等が挙げられる。
本発明の顔料が配合される化粧品としては、本発明の顔料の有する鮮やかな色彩や、滑り性、付着性等の観点から、仕上用化粧品、頭髪用化粧品、皮膚用化粧品、爪化粧料、又はリップケア化粧料が好ましい。
【0024】
さらに、主要な層間陽イオンがナトリウムイオン等の1価の金属イオンであるスメクタイトは水に対する膨潤性が非常に高く、例えばこのようなスメクタイトをファンデーションやアイシャドウ等の仕上用化粧品に配合した場合、多湿条件下や汗等によりスメクタイトが過度に膨潤し、ファンデーションやアイシャドウ等がべたつく等の問題がある。また、クリーム等の皮膚用化粧品であっても、塗布後にべたつかず、さらさら感のあるものが求められている。
これに対し、多価金属型スメクタイトは、ナトリウム型スメクタイトと比較して膨潤性が化粧品の用途に適した程度に抑えられており、ファンデーションやアイシャドウ等の仕上用化粧品やクリーム等の皮膚用化粧品に配合した場合であっても、不必要にべたつくことなく、適度な保湿感とさらさら感を維持することができる。
【0025】
本発明の化粧品は、色材として、本発明の顔料を含有する。本発明の化粧品への本発明の顔料の配合量に特に制限はなく、目的、用途に応じて適宜に設定することができる。本発明の化粧品に目的の色彩を発現させる観点、及び所望の滑り性や付着性等を発現させる観点から、本発明の化粧品中の多価金属型スメクタイトの含有量が、好ましくは1~30質量%、より好ましくは2~25質量%、より好ましくは2~20質量%、より好ましくは2~15質量%、さらに好ましくは3~12質量%、となるように、本発明の顔料を配合することができる。
【0026】
(その他の成分)
本発明の化粧品は、本発明の効果を妨げない範囲で、本発明の顔料に含まれる多価金属型スメクタイト以外の種々の成分を適宜に含有することができる。このような他の成分としては、例えば水、水性成分、油性成分、界面活性剤、美容成分、粘度調整剤、香料、防腐剤等が挙げられる。
また、化粧品の色彩のバリエーションを増やすために、本発明の顔料以外の色材を併用してもよい。
【実施例0027】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
<原料スメクタイトの浸出陽イオン量及び陽イオン交換容量の測定>
多価金属型スメクタイトの原料として用いるスメクタイト(以下、「原料スメクタイト」とも称す。)について、浸出陽イオン量、及び陽イオン交換容量を測定した。
各原料スメクタイトの詳細は、以下の通りである。
・クニピア-F(製品名、天然モンモリロナイト、クニミネ工業社製)(以下、表中では「KPF」と表記する。)
・モイストナイト-S(製品名、天然モンモリロナイト、クニミネ工業社製)(以下、表中では「MS」と表記する。)
・モイストナイト-U(製品名、天然モンモリロナイト、クニミネ工業社製)(以下、表中では「MU」と表記する。)
・スメクトン-SWF(製品名、合成ヘクトライト、クニミネ工業社製)(以下、表中では「SWF」と表記する。)
なお、上記各スメクタイトの主要な層間陽イオンはナトリウムイオンであった。
【0029】
<浸出陽イオンの測定方法>
上記の各スメクタイトを浸出陽イオン分析に付し、交換性陽イオン組成を調べた。より詳細には、層間に存在する陽イオンの浸出を、1M酢酸アンモニウムを用いて4時間かけて行い、その浸出液を、4100MP-AES分光分析装置(AgilentTechnologies社製)により分析し、浸出陽イオン量を調べた。なお、測定対象はナトリウムイオンのみとした。結果を下記表1に示す。
【0030】
<陽イオン交換容量の測定方法>
上記の各スメクタイトの陽イオン交換容量を、陽イオン交換容量測定試験に付して測定した。測定は日本ベントナイト工業会標準試験方法JBAS-106-77に記載の方法により行なった。より詳細には、層間に存在する陽イオンを1M酢酸アンモニウムで完全にアンモニウムイオンへ交換した後、再び該アンモニウムイオンをKCl(塩化カリウム)溶液由来のカリウムイオンで追い出し、その量をアンモニウム電極により定量する方法により測定し、CECを定量した。結果を下記表1に示す。
【0031】
【0032】
表1の結果より、各原料スメクタイトは、陽イオン交換容量とナトリウムイオンの浸出量の値が同程度であることから、層間陽イオンの大部分がナトリウムイオンであること(ナトリウム型であること)がわかる。
【0033】
<多価金属型スメクタイトの調製、並びに浸出陽イオン量及び陽イオン交換容量の測定>
[調製例1~10]
上記の原料スメクタイトを用いて陽イオン交換処理を行い、次いで乾燥させることにより、調製例1~10の多価金属型スメクタイトの粉末状サンプルを得た。イオン交換に用いた各多価金属イオンの種類を下記表2に示す。
得られた各多価金属型スメクタイト(調製例1~10)について、上記と同様にして、浸出陽イオン量及び陽イオン交換容量を測定した。なお、調製例4の多価金属型スメクタイトについては、浸出陽イオン分析において、層間に存在する陽イオンの浸出のために、1M酢酸アンモニウムに代えて1M硫酸を用いた。
得られた結果を下記表2に示す。
【0034】
【0035】
いずれの多価金属型スメクタイトにおいても、多価金属イオンの浸出陽イオン量が、原料スメクタイトがもともと含有しているナトリウムイオンの浸出量よりも6倍以上多いことが示された。このことから、調製例1~10の多価金属型スメクタイトは、その層間陽イオンがそれぞれ目的の金属イオンに十分に交換できていることが示された。
【0036】
[調製例11~16]
前記調製例2、4、6、8及び9の多価金属型スメクタイト各100gを電気炉(マッフル炉、FO410、ヤマト科学社製)に入れ昇温速度10℃/分で昇温し、それぞれ下記表3に記載の温度に到達させたのち、同温度で24時間保持して熱処理を行った。その後50℃以下まで放冷して熱処理サンプルを回収し、調製例11~16の多価金属型スメクタイトの粉末状サンプルを得た。
得られた熱処理後の多価金属型スメクタイトの浸出陽イオン量、及び陽イオン交換容量を、前述の測定方法に従って測定した。
得られた結果を下記表3に示す。
【0037】
【0038】
表3より、イオン交換後の調製例2、4、6、8及び9の多価金属型スメクタイトを熱処理に付すことにより、熱処理前と比較して浸出陽イオン量及び陽イオン交換容量が低下することが示された。これは、熱処理により一部の多価金属イオンの浸出陽イオンが粘土層内に固定化されたためであると考えられた。また、熱処理に付しても、浸出陽イオン量において、目的の多価金属イオン量がナトリウムイオン量に比べて多い状態が維持されていた。
【0039】
<多価金属型スメクタイトの物性試験>
[実施例1~13]
実施例1~13の多価金属型スメクタイトとして、調製例1、3、5~8、10~16の多価金属型スメクタイトを用い、下記の評価試験を行った。
[比較例1~3]
各比較例として、汎用の着色顔料のうち、無機系顔料として酸化鉄(III)(以下、表中では「ベンガラ」と表記する。)、及びカーボンブラック(以下、表中では「CB」と表記する。)、また有機系顔料として銅フタロシアニン(以下、表中では「Cu-P」と表記する。)(いずれも関東化学社製)を用い、下記の評価試験を行った。
[参考例1~4]
各実施例で用いた原料スメクタイト(粉末状サンプル)についても、実施例1~13、及び比較例1~3と同様に、下記の評価試験を行った。
【0040】
<試験1:色味評価>
前記実施例1~13、比較例1~3、及び参考例1~4の各粉末状サンプルについて、目視により色味の評価を行った。
【0041】
<試験2:滑り性評価>
前記実施例1~13、比較例1~3、及び参考例1~4の各粉末状サンプルを手の甲につけて指で伸ばし、その滑り性を評価した。粒状感がありザラザラして伸びにくい場合を「×」評価とし、粒状感を感じずに滑りやすく、より広い範囲まで伸びる場合は「○」評価とした。
【0042】
<試験3:付着性評価>
上記試験2で手の甲に付着させた各粉末状サンプルの付着性を評価した。試験2での各粉末状サンプルの塗布面を地面側に向けて上から手をたたいても粉末が付着したまま維持される(粉末がほとんど落下しない)場合を「○」評価、粉末が容易に落下する場合を「×」評価とした。
【0043】
<試験4:スメクタイトの構造評価>
前記実施例1~13、比較例1~3、及び参考例1~4の各粉末状サンプルについて、電子顕微鏡による構造観察を行った。電子顕微鏡(型番:JSM-6390LA、日本電子株式会社製)で倍率を50000倍に設定して各粉末状サンプルを観察し、粉末状サンプルに層状構造が確認できた場合には「層状」、層状構造が確認できない場合には「非層状」と判定した。
【0044】
試験1~4の結果を、下記表4及び5に示す。
【0045】
【0046】
【0047】
比較例1~3の色材の粉末状サンプルは、赤、黒、青といった呈色を示す一方で、その微細構造は非層状であり、滑り特性や付着特性に劣っていた。また、スメクタイトの主要な層間陽イオンが多価金属イオンではない参考例1~4のナトリウム型スメクタイトの粉末状サンプルは、その微細構造が層状であり、滑り特性や付着特性に優れる一方で、色味のバリエーションが少なく、参考例1のみが有彩色であるが彩度が低く、参考例2~4は無彩色であり明度が中程度であり、化粧品への顔料として不適であった。
これに対し、多価金属型スメクタイト、及びその焼成物からなる実施例1~13の粉末状サンプルは、その層間陽イオンの多価金属イオンの種類や焼成条件により多様でかつ鮮やかな色彩を呈し、またその微細構造は層状であって滑り特性や付着特性に優れることが明らかとなった。さらに、実施例2、3、5、8、11及び12の粉末状サンプルは、多価金属型スメクタイトを焼成して得られた粉末状サンプルであり、加熱処理に付しても優れた滑り特性や付着特性を維持したまま、加熱処理条件に応じた呈色の変化を示すことが示された。