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特開2023-141707固体炭素の析出方法および固体炭素析出システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141707
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】固体炭素の析出方法および固体炭素析出システム
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20230928BHJP
   C01B 3/26 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C01B32/05
C01B3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048166
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】今井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】当銘 葵
(72)【発明者】
【氏名】三浦 啓一
(72)【発明者】
【氏名】福原 長寿
【テーマコード(参考)】
4G140
4G146
【Fターム(参考)】
4G140DA03
4G140DC02
4G146AA01
4G146BA12
4G146BC03
4G146BC42
4G146BC44
4G146CB26
(57)【要約】
【課題】COの固定化において二酸化炭素の転換率および固体炭素の回収率を向上させることを可能とした固体炭素の析出方法および固体炭素析出システムを提供する。
【解決手段】二酸化炭素と水素とを含む原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記原料ガスからメタンおよび水を生成する工程と、前記生成されたメタンと、メタン熱分解反応を活性化させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、前記メタンから固体炭素を析出する工程と、を含み、前記原料ガスは、H/COのモル比が5.5以上7.5以下であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素と水素とを含む原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記原料ガスからメタンおよび水を生成する工程と、
前記生成されたメタンと、メタン熱分解反応を活性化させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、前記メタンから固体炭素を析出する工程と、を含み、
前記原料ガスは、H/COのモル比が5.5以上7.5以下であることを特徴とする固体炭素の析出方法。
【請求項2】
前記原料ガスは、H/COのモル比が5.8以上7.1以下であることを特徴とする請求項1に記載の固体炭素の析出方法。
【請求項3】
二酸化炭素と水素とを含む原料ガスから固体炭素を析出させる固体炭素析出システムであって、
前記原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記原料ガスからメタンおよび水を生成する第1反応器と、
前記生成されたメタンと、メタン熱分解反応を活性化させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、前記メタンから前記固体炭素を析出する第2反応器と、
前記第1反応器に供給する前記原料ガスを制御する制御部とを含み、
前記制御部は、前記第1反応器に供給する前記原料ガスにおけるH/COのモル比を、ユーザにより指定された範囲に制御することを特徴とする固体炭素析出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体炭素の析出方法および固体炭素析出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球温暖化ガスとして環境に悪影響を及ぼす二酸化炭素の削減・固定化は、世界的な急務である。それを受けて、各所において、CO排出削減技術、CO分離・回収技術、CO有用資源化技術、CO固定化技術など、多様な技術が実用化に向けて研究開発されている。
【0003】
二酸化炭素を有効利用する方法として、例えば、250~500℃に加熱された触媒の存在下において二酸化炭素と水素の混合ガスを流通させると、サバティエ反応(メタネーション)によりメタンが合成できることが知られている(特許文献1を参照)。また、メタンを高温熱分解することにより、固体炭素を析出させる技術についても知られている(特許文献2~5を参照)。
【0004】
特許文献2では、触媒を使用せずにメタネーション反応を生じさせる第1反応器と、1200℃以上の温度条件によりメタンを分解する第2反応器とが直列に接続されている連続炭素除去システムが開示されている。
【0005】
特許文献3では、二酸化炭素と水素を触媒の存在下で反応させて、メタンと水を含む混合ガスを生成する第1反応工程と、第1反応工程で得られたメタンガスを原料として、カーボン、グラファイト、カーボンナノチューブおよびダイヤモンドからなる群から選択される少なくとも1つの炭素製品を製造する第2反応工程を含む二酸化炭素の固定化方法が開示されている。
【0006】
特許文献4では、二酸化炭素と水素とを含む原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、原料ガスからメタンおよび水素を生成するメタネーション反応器と、メタネーション反応器で生成されたメタンを加熱することで、メタンを固体炭素および水素に分解するメタン熱分解反応器と、を含む二酸化炭素固定システムが開示されている。
【0007】
特許文献5では、二酸化炭素とメタンの割合が7:3の混合ガスを、触媒30wt%Ni/SiOが充填されたプレ反応槽に流し、加熱炉によって550℃の反応温度で一定時間反応させることで、二酸化炭素、メタン、水素、一酸化炭素の混合ガスに変換し、その後、鉄を主成分とする触媒50wt%Fe/SiOが充填された本反応槽に流し、加熱炉によって400℃の低温にて二酸化炭素を水素と接触還元反応をさせて炭素を析出させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-172595号公報
【特許文献2】特開平8-133200号公報
【特許文献3】特開2005-60137号公報
【特許文献4】特開2015-196619号公報
【特許文献5】特開2003-48708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記特許文献2~4では、メタネーション反応を生じさせる反応器に供給する原料ガスの組成比について記載されていない。また、特許文献5では、原料ガスの組成比について開示されているが、二酸化炭素とメタンの割合が7:3という一点のみである。そのため、原料ガスの組成比については、十分に検討なされておらず、未だ改善の余地が残っている。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、COの固定化において二酸化炭素の転換率および固体炭素の回収率を向上させることを可能とした固体炭素の析出方法および固体炭素析出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の固体炭素の析出方法は、二酸化炭素と水素とを含む原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記原料ガスからメタンおよび水を生成する工程と、前記生成されたメタンと、メタン熱分解反応を活性化させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、前記メタンから固体炭素を析出する工程と、を含み、前記原料ガスは、H/COのモル比が5.5以上7.5以下であることを特徴とする。
【0012】
(2)また、本発明の固体炭素の析出方法において、前記原料ガスは、H/COのモル比が5.8以上7.1以下であることを特徴とする。
【0013】
(3)また、本発明の固体炭素析出システムは、二酸化炭素と水素とを含む原料ガスから固体炭素を析出させる固体炭素析出システムであって、前記原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、前記原料ガスからメタンおよび水を生成する第1反応器と、前記生成されたメタンと、メタン熱分解反応を活性化させる触媒とを接触させた状態で加熱することにより、前記メタンから前記固体炭素を析出する第2反応器と、各前記反応器に供給するガスを制御する制御部とを含み、前記制御部は、前記第1反応器に供給する前記原料ガスにおけるH/COのモル比を、ユーザにより指定された範囲に制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、COの固定化において二酸化炭素の転換率および固体炭素の回収率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る固体炭素析出装置の構成を示す概略図である。
図2】本発明に係る固体炭素析出システムの構成を示す概略図である。
図3】スパイラル状の触媒を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[原理]
二酸化炭素およびメタンのそれぞれから固体炭素を析出させる反応として、以下の反応式が考えられる。
CO→C+O ΔH=395kJ/mol…(式1)
CH→C+2H ΔH=75kJ/mol…(式2)
【0017】
式1に示されるように、二酸化炭素の直接分解反応のギブス自由エネルギーは395kJ/molであり、大きなエネルギーを要する。これに対して、式2に示されるように、メタンを高温で熱分解することによって固体炭素を析出させることが可能である。このとき、二酸化炭素をメタンに変換し、メタンを熱分解することで固体炭素を析出させることが可能である。
【0018】
以上のことを踏まえて、本発明では以下の反応式によって二酸化炭素および水素を含む原料ガスから固体炭素を析出させる。
第一反応:CO+4H→CH+2HO ΔH=-165kJ/mol…(式3)
第二反応:CH→C+2H ΔH=75kJ/mol…(式4)
【0019】
上記の通り、本発明では、式3に示されるように、初めに二酸化炭素および水素からメタンに変換するメタネーション反応を生じさせる。そして、式4の通り、メタン熱分解反応によって一酸化炭素から固体炭素を析出させる。メタネーション反応とメタン熱分解反応を組み合わせることによって、二酸化炭素から直接固体炭素を析出させる場合と比べて、エネルギーを低く抑えることができる。
【0020】
次に、二酸化炭素と水素からなる原料ガスを、第一反応から第二反応まで連続的に反応させた場合における原料ガスの変化について説明する。
【0021】
第一反応では、通常、1molの二酸化炭素および4molの水素から、触媒を介してメタンおよび水蒸気が生成される。このとき、H/COのモル比が理論値である4であったとしても、二酸化炭素と水素の全量が反応して1molのメタンを生成するわけではない。すなわち、二酸化炭素と水素を含む原料ガスは、第一反応で合成されたメタンと、未反応の二酸化炭素と、水素と、水蒸気とからなる混合ガスとなる。なお、第一反応を終えた原料ガスに水蒸気が含まれるが、第二反応において水蒸気が二酸化炭素からメタンへの転換率を低下させるおそれがあるため、第二反応に移る前に原料ガスから水蒸気が除去されることが好ましい。
【0022】
第二反応では、1molのメタンから、触媒を介して1molの固体炭素および2molの水素が生成される。固体炭素は触媒の表面に析出するため、析出した固体炭素を回収するために触媒ごと回収する。なお、第二反応では様々な反応系が競合している。そのため、第二反応を終えた原料ガスは、水素、メタン、二酸化炭素、一酸化炭素および水蒸気を含む混合ガスとなる。
【0023】
[固体炭素析出装置の構成]
以下に本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明に係る固体炭素析出装置である。固体炭素析出装置1は、二酸化炭素を含むプロセス排ガスから固体炭素を析出させる装置である。プロセス排ガスとは、セメントクリンカ焼成過程、生石灰製造過程、火力発電所、廃棄物焼却処理施設、陶磁器などの焼成設備や製鉄所、化学プラントから排出される二酸化炭素を含む排ガスのことを指す。
【0024】
図1に示すように、固体炭素析出装置1は互いに異なる反応が生じる2つの反応器を有し、2つの反応器は直列に連結されている。原料ガスが供給される反応器を第一反応器10としたとき、第一反応器10、第二反応器20の順で反応が進み、第二反応器20で固体炭素を析出させる。
【0025】
固体炭素析出装置1は、2つの反応器のほかに、水素供給設備3、水素流量計4、ガス混合器5~6、ガス分離器7、各反応器の出口に設けられる水蒸気除去設備41~42、流量計50を備える。また、固体炭素析出装置1は、触媒劣化の原因となる硫黄酸化物を除去する設備61や二酸化炭素濃縮設備62、第二反応器20から排出された混合ガスを循環利用可能な設備70等を備えていることが好ましい。また、プロセス排ガス中に窒素や酸素が含まれていると原料ガスの絶対量が大きくなってしまうため、第一反応器の前段にプロセス排ガスから窒素や酸素を除去する設備をさらに備えてもよい。
【0026】
ガス混合器5~6は、複数のガスを混合させることで各反応器に供給する混合ガスを調整する。ガス混合器5~6は、それぞれ混合ガスの流量を測定する流量計を備えていることが好ましい。第一ガス混合器5は、第一反応器10に供給する原料ガスを調整し、第二ガス混合器6は第二反応器20に供給する混合ガスを調整する。第二ガス混合器6は、固体炭素析出装置1に必須ではないが、第一反応器10から排出される混合ガスが、次の反応に適した組成比であるとは限らない。そのため、第一反応器から排出される混合ガスの一部除去や他のガスを追加するために、第二ガス混合器6によって調整されることが好ましい。
【0027】
第一ガス混合器5は、水素供給設備3から供給される水素と、二酸化炭素を含むプロセス排ガスとを混合し、第一反応器10に供給する原料ガスを生成する。このとき、原料ガスは、H/COのモル比が5.5以上7.5以下となるように混合され、より好ましくは5.8以上7.1以下である。H/COのモル比が5.5以上であるから、二酸化炭素の転換率および固体炭素の回収率を向上可能であり、7.5以下であるから、固体炭素の回収率を向上可能である。また、プロセス排ガスは、硫黄酸化物除去設備61によって硫黄酸化物を除去し、二酸化炭素濃縮設備62によって二酸化炭素を濃縮してから第一ガス混合器5に供給されることが好ましい。また、第二反応器20から排出される混合ガスを循環利用する設備70を備えている場合には、第二反応器20から排出される混合ガスを原料ガスに混合させてもよい。
【0028】
第一反応器10は、第一ガス混合器5から供給される原料ガスと、メタネーション反応を活性化させる触媒とを接触させ、式3の通り、原料ガスからメタンおよび水を生成する。原料ガスは、空間速度が2000~8000/hとなるように、第一反応器10に供給されることが好ましい。第一反応器10は、メタネーション反応を活性化させる触媒が充填されたガス流通反応管と、ガス流通反応管を300~550℃に加熱できる加熱炉とを備える。第一反応器10は、固体生成物によりガス流路が閉塞されることがないため、例えば、固定式のガス流通管である常圧流通式反応器が用いられる。
【0029】
メタネーション反応を活性化させる触媒は、二酸化炭素および水素からメタンを生成可能なものでよく、例えば、Ni、Ru、Pt、Rhである。また、担体としては、CeO、ZrO、YおよびAlなどの各種酸化物やアルミノシリケートを用いることができる。触媒の形状については、所定の空間速度を達成できれば、どのような形状であってもよいが、触媒の容積が少なくて済むことから螺旋状が好ましい。触媒を螺旋状にする場合、アルミニウムなどの金属製の板部材を螺旋状に成形し、ペースト状の触媒を塗布することで作製される。
【0030】
第二反応器20は、第一反応器10から供給されるメタンを含む混合ガスと、メタン熱分解反応を活性化させる触媒とを接触させ、式4の通り、メタンから固体炭素を析出させる。第二反応器20に供給される混合ガスは、空間速度が最大680/hとなるように供給されることが好ましい。第二反応器20は、メタン熱分解反応を活性化させる触媒が充填されたガス流通反応管と、ガス流通反応管を900~1000℃に加熱できる加熱炉とを備える。メタン熱分解反応を促進させる観点からは1000℃以上に加熱可能な加熱炉が好ましいが、設備コストの観点から900~1000℃が好ましい。第二反応器20は、固体炭素が析出した触媒を連続的に排出可能であるとともに、新しい触媒を反応器内に連続的に供給が可能なものがよく、例えば、流動層、移動層、ロータリーキルンが好ましい。
【0031】
メタン熱分解反応を活性化させる触媒は、一酸化炭素から固体炭素を析出可能なものでよく、Ni、Feであるが、環境に配慮すると鉄系触媒が好ましい。担体としては、CeO、ZrO、YおよびAlなどの各種酸化物やアルミノシリケートを用いることができる。触媒の形状については、所定の空間速度を達成できれば、どのような形状であってもよいが、触媒の容積が少なくて済むことから螺旋状が好ましい。触媒を螺旋状にする場合、ステンレスなどの金属製の板部材を螺旋状に成形し、ペースト状の触媒を塗布することで作製される。
【0032】
また、図1では、各反応器の出口に対して水蒸気除去設備41~42が設けられている。水蒸気除去設備41~42は、対象となる反応器の出口から排出されるガスを冷却することで水蒸気を濃縮し、工場排水として排出する。
【0033】
第一反応器10におけるメタネーション反応では水蒸気が生成されるが、水蒸気を含んだまま第二反応器20に混合ガスが移動してしまうと、二酸化炭素からメタンへの転換率が低下するおそれがある。そのため、第一反応器10の出口に第一水蒸気除去設備41を設け、積極的に水蒸気を除去することが好ましい。また、第二反応器20では固体炭素析出反応が支配的であるが、水蒸気を生成する反応が一部生じてしまうことが考えられる。そのため、第二反応器20の出口に第二水蒸気除去設備42を設けることが好ましい。
【0034】
また、固体炭素析出装置1は、上述した通り、第二反応器20から排出される混合ガスを循環利用可能な設備70を有していることが好ましい。第二反応器20から排出される混合ガスを循環利用可能な設備70としては、第二反応器20から排出される混合ガスを、各反応器に供給する設備が考えられる。第二反応器20から排出される混合ガスには二酸化炭素が含まれるため、混合ガスを外へ排出せずに原料ガスの原料として利用することにより、二酸化炭素の排出を防止できる。なお、第二反応器20から排出される混合ガスを循環利用可能な設備70は、第二反応器20だけでなく、第一反応器10から排出された混合ガスの一部を循環利用可能であってもよい。このとき、排出された混合ガスを各反応器に直接供給するのではなく、ガス混合器5~6を用いて、混合ガスの組成比を調整してから各反応器に供給することが好ましい。
【0035】
混合ガスの組成比を調整するためには、ガス混合器5~6に供給されるガスの組成比を測定するセンサ、各混合ガスの流量を調整可能な弁およびガス混合器5~6が設置されていることが好ましい。センサは少なくとも水素、メタン、二酸化炭素および一酸化炭素の成分比率を把握可能なものであればよく、各混合ガスの流量を調整可能な弁はプロセス排ガスが排出される排出口や水素供給設備3だけでなく、第一反応器10から排出される混合ガスや第二反応器20から排出される混合ガスを各ガス混合器へ循環利用する際に設けられていることが好ましい。
【0036】
また、固体炭素析出装置1において、第一反応器10内における反応が発熱反応であることに対し、第二反応器20内における反応は吸熱反応である。そのため、第一反応器10から排出される混合ガスの顕熱を熱交換器により回収し、第二反応器20のエネルギー源として使用することが好ましい。
【0037】
[固体炭素析出システム]
次に固体炭素析出システムについて説明する。図2は、固体炭素析出システムの構成を示す概略図である。固体炭素析出システム500は、固体炭素析出装置1において各反応器に供給される混合ガスの組成比を、ユーザにより指定された範囲に制御する。
【0038】
固体炭素析出システム500は、固体炭素析出装置1とガス組成比制御装置100とを有する。ガス組成比制御装置は、記憶部110、操作部120および制御部130を有する。記憶部110は、固体炭素析出装置1において測定された値を記録する。固体炭素析出装置1において測定された値は、例えば、各反応器から排出される混合ガスおよびプロセス排ガスの組成比など、ガス混合器5~6に供給されるガスの組成比が含まれる。
【0039】
操作部120は、ユーザが任意に入力可能なデバイスであり、例えば、キーボードやマウス、タッチパネルである。ユーザは操作部120を介して各反応器に供給される混合ガスの組成比について任意の範囲を入力できる。制御部130は、記憶部110に記録されているデータに基づいて、ユーザにより指定された範囲となるように混合ガスの組成比を制御する。具体的には、各設備からのガス流量を認識するとともにガス混合器5~6に供給されるガスの弁を制御することで、ガス混合器5~6において混合ガスの組成比が、ユーザにより指定された範囲となるように制御する。
【0040】
なお、本実施形態では、すべての反応器における混合ガスの組成比が制御可能な例について記述したが、少なくとも第一反応器10に供給される原料ガスにおけるH/COのモル比をユーザが指定した範囲に制御可能であればよく、第二反応器20に供給される混合ガスの組成比を制御できなくてもよい。
【0041】
[固体炭素の析出方法]
次に、固体炭素の析出方法について説明する。
まず、第一反応器10に供給する原料ガスを調整する。原料ガスは、水素供給設備3から供給される水素と、二酸化炭素を含むプロセス排ガスとを混合し、H/COのモル比が5.5以上7.5以下となるように調整される。
【0042】
次に、原料ガスを第一反応器10に供給し、第一反応器10のガス流通反応管に原料ガスを流通させる。ガス流通反応管のなかには加熱炉によって300~500℃に加熱された触媒が充填されており、メタネーション反応を活性化させる触媒と原料ガスが接触し、原料ガスからメタンが生成される。
【0043】
次に、第一反応器10から排出された混合ガスを第二反応器20に供給し、第二反応器20のガス流通反応管に混合ガスを流通させる。ガス流通反応管のなかには加熱炉によって800~1100℃に加熱された触媒が充填されており、メタン熱分解反応を活性化させる触媒と混合ガスが接触し、メタンが固体炭素となり、触媒の表面に固体炭素が析出する。そして、固体炭素が析出した触媒を回収することによって、固体炭素を回収できる。触媒表面に析出した固体炭素は、例えば、0.437g/hrの速度で第二反応器20の自由空間を埋めていく。例えば、H/COのモル比が5.94の原料ガスを第一反応器10に供給すると、第一反応を終えて水蒸気が除去された混合ガスは、水素の濃度が68体積%、メタンの濃度が29体積%、二酸化炭素の濃度が3体積%となり、第二反応を終えて水蒸気が除去された混合ガスは、例えば、水素の濃度が71.6体積%、メタンの濃度が10.7体積%、二酸化炭素の濃度が4.5体積%となる。その結果、第一反応器で供給した二酸化炭素の88%がメタン化され、第二反応器で12.6質量%の固体炭素が回収される。
【0044】
以上のことから、本発明における固体炭素の析出方法では、原料ガスを第一反応器に供給するところから第二反応器において固体炭素が析出されるまで、連続的に反応させることができる。これにより、個々の反応が独立している場合と比べて、処理が効率化される。また、原料ガスにおけるH/COのモル比が5.5以上7.5以下であるから、二酸化炭素として投入した炭素のうち5%以上が固体炭素として回収できる。
【0045】
[実施例]
(実施例1)
第一反応器を構成する加熱炉には温度制御が可能な1ゾーン電気炉(アサヒ理化製作所製セラミックス電気管状炉、有効長さ300mm)を用い、常圧流通式反応管には内径8mmφ、長さ600mmの石英管を用いた。常圧流通式反応管の内部における加熱炉の温度制御用熱電対の位置に、メタネーション反応を活性化させる触媒として、図3に示すスパイラル状の構造体の表面に10wt%Ni/CeOを塗布した触媒を2本設置した。
【0046】
メタネーション反応を活性化させる触媒は、CeO(関東化学社製試薬)を担体とし、蒸発乾固法により、Ni(Ni(NO・6HO:和光純薬98%)を10wt%担持させた。担持させた後に、硝酸成分を分離するために大気雰囲気中500℃2時間で焼成した。焼成物を冷却した後に蒸留水を加え、乳鉢を用いてすりつぶすことにより、Ni/CeOペーストを作製した。
【0047】
Ni/CeOペーストとは別に、図3のようにスパイラル状にひねったアルミ板(JIS A1100 H14、幅7mm×長さ50mm、厚さ1.5mm)に対して、0.8molのNaOH水溶液および3.0molの塩酸溶液により表面処理を施した。そして、スパイラル状にひねったアルミ板に目的のメタネーションが達せられるのに十分な量のNi/CeO触媒が担持されるまで、冷風で乾燥と浸漬を繰り返すことで作製した。
【0048】
第二反応器は、常圧流通式反応管として、内径21mmφ、長さ600mmの石英管を用いたこと、メタネーション反応を活性化させる触媒の代わりに、メタン熱分解反応を活性化させる触媒を常圧流通式反応管内部に6本静置したことを除いて、第一反応器と同様に準備した。メタン熱分解反応を活性化させる触媒はマグネタイト(Fe試薬:和光純薬98%)であり、マグネタイトに蒸留水を添加してペースト状にした。図3のようにスパイラル状にひねったステンレス板(SUS304、幅7mm×長さ50mm、厚さ0.5mm)にペースト状にしたマグネタイトを塗布したことを除いて、メタネーション反応を活性化させる触媒と同様の方法で作製した。
【0049】
各反応器を準備したあとに、それぞれの触媒を還元処理するため、水素を200ml/minでフローしながら500℃を1時間保持した。次に、第一反応器の制御温度を450℃、第二反応器の制御温度を900℃とし、全ての反応器が所定の温度に到達してから水素供給設備3として水素の標準ガスボンベを、プロセス排ガスの代わりに二酸化炭素の標準ガスボンベを用いて、マスフローコントローラーおよび第一ガス混合器5を介して、第一反応器に原料ガスを供給した。
【0050】
このとき、原料ガスにおけるH/COのモル比を5.94として、3時間固体炭素の回収を行なった。具体的には、マスフローコントローラーによって、水素の流量を214ml/minとし、二酸化炭素の流量を36ml/minとし、原料ガス全体の流量を250ml/minとして第一反応器に供給した。
【0051】
各反応器の出口には、水蒸気除去設備を設けるとともにサンプリング孔を設置した。各反応器の指示温度が設定温度に到達してから30分経過した後に、サンプリング孔からシリンジを用いてサンプリングし、ガスクロマトグラフGC-2014(島津製作所製)を用いて、水素、窒素、酸素、メタン、一酸化炭素および二酸化炭素を定量分析した。そして、以下の式5から二酸化炭素の転換率を算出した。
二酸化炭素の転換率(%)=(第一反応器から排出されたメタンの量)/(第一反応器へ供給した二酸化炭素の量)×100…(式5)
なお、それぞれの量は、ガス流量に濃度を乗じることで算出した。
【0052】
また、第一反応器の出口には、湿式ガスメーターを設置してガス流量を計測した。なお、第二反応器から排出された混合ガスは循環利用せずに、屋外の除害設備に排出した。そして、第二反応器が十分に冷却されたあとに常圧流通式反応管内から触媒を取り出し、析出した固体炭素の重量を測定し、以下の式6から固体炭素の回収率を算出した。
固体炭素回収率(%)=(析出した固体炭素のモル量)/(固体炭素析出装置に供給した炭素のモル量)×100…(式6)
【0053】
(実施例2)
水素の流量を165ml/minとし、二酸化炭素の流量を30ml/minとし、原料ガスにおけるH/COのモル比を5.50としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0054】
(実施例3)
水素の流量を177ml/minとし、二酸化炭素の流量を25ml/minとし、原料ガスにおけるH/COのモル比を7.08としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0055】
(比較例1)
水素の流量を200ml/minとし、二酸化炭素の流量を50ml/minとし、原料ガスにおけるH/COのモル比を4.00としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0056】
(比較例2)
水素の流量を208ml/minとし、二酸化炭素の流量を42ml/minとし、原料ガスにおけるH/COのモル比を4.95としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0057】
(実験結果)
実施例1~3および比較例1~2における実験結果について、以下の表1に示す。表1では、原料ガスにおけるH/COのモル比、第一反応器の出口に設けられたサンプリング孔からサンプリングされた混合ガスにおける水素、メタン、二酸化炭素のガス濃度、二酸化炭素の転換率および第二反応器での固体炭素回収率について示されている。
【表1】
【0058】
実施例1~3では、固体炭素回収率が5%以上と高かった。これに対して、原料ガスにおけるH/COのモル比が5.0以下である比較例1および2では、固体炭素回収率が2.0%および3.0%であり、5%以下であった。そのため、原料ガスにおけるH/COのモル比は5.5以上とすることで、固体炭素回収率を向上可能である。また、実施例1と比べて実施例3は固体炭素の回収率が多少低下している。このことから、原料ガスにおけるH/COのモル比は7.5以下とすることで、固体炭素回収率を向上可能である。
【0059】
また、二酸化炭素の転換率についても、実施例1~3では80%以上であり、比較例1では二酸化炭素の転換率が74%であり、表1の結果から、原料ガスにおけるH/COのモル比の増加にともなって二酸化炭素の転換率が高くなることが分かった。そのため、二酸化炭素の転換率の観点からも、原料ガスにおけるH/COのモル比は5.5以上とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0060】
1 固体炭素析出装置
3 水素供給設備
4 水素流量計
5 第一ガス混合器
6 第二ガス混合器
7 ガス分離器
10 第一反応器
20 第二反応器
41 第一水蒸気除去設備
42 第二水蒸気除去設備
50 流量計
61 硫黄酸化物を除去する設備
62 二酸化炭素濃縮設備
70 混合ガスを循環利用する設備
100 ガス組成比制御装置
110 記憶部
120 操作部
130 制御部
500 固体炭素析出システム
図1
図2
図3