(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141734
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】塩素化合物吸着剤
(51)【国際特許分類】
B01J 20/10 20060101AFI20230928BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20230928BHJP
C01G 9/02 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
B01J20/10 C
B01J20/28 Z
C01G9/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048214
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】児玉 貴志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 信輔
【テーマコード(参考)】
4G047
4G066
【Fターム(参考)】
4G047AA02
4G047AB05
4G047AC03
4G066AA18B
4G066AA22B
4G066BA05
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA35
4G066BA36
4G066CA31
4G066DA05
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】従来の酸化亜鉛を含む塩素吸着剤は、塩素化合物の吸着後に固結しやすい問題があった。塩素化合物の吸着効果に優れ、しかも固結し難い塩素化合物吸着剤を提供する。
【解決手段】酸化亜鉛形成体を有し、該酸化亜鉛形成体によって塩素化合物に対して優れた吸着性能を発揮し、さらに該酸化亜鉛成形体の表面にシリカ層を有し、該吸着剤は相互にシリカ層を介して接触することになり、塩素化合物の吸着によって吸湿状態になっても、該シリカ層がバリアーになるので吸着剤どうしが固結し難い塩素化合物吸着剤。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛およびシリカを含む塩素化合物吸着剤であって、
前記酸化亜鉛の含有量がZnO換算で、75質量%以上~99.9質量%以下の範囲であり、前記酸化亜鉛が成形体であって該酸化亜鉛成形体の表面にシリカ層を有することを特徴とする塩素化合物吸着剤。
【請求項2】
前記シリカ層の膜厚が1μm以上~500μm以下の範囲である請求項1に記載された塩素化合物吸着剤。
【請求項3】
前記シリカの含有量が、SiO2換算で、0.1質量%以上~25質量%以下の範囲である請求項1または請求項2に記載された塩素化合物吸着剤。
【請求項4】
比表面積が1m2/g以上~100m2/g以下の範囲である請求項1~請求項3の何れか記載された塩素化合物吸着剤。
【請求項5】
気相中の塩素化合物を除去するために用いられる請求項1~請求項4の何れかに記載された塩素化合物吸着剤。
【請求項6】
前記塩素化合物が塩化水素である請求項1~請求項5の何れかに記載された塩素化合物吸着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩素化合物の吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製分野において、精製される炭化水素には原料または精製過程の触媒処理に由来する塩素化合物が含まれることがある。例えば、使用済みの触媒を再生する場合、触媒再生に塩素化合物が使用されることがある。このような再生触媒を使用したときに、塩素化合物が炭化水素中に溶出することがある。この塩素化合物として無機塩素化合物または有機塩素化合物の何れも知られている。精製する炭化水素に塩素化合物が含まれていると、精製装置が塩素によって腐食され、また使用触媒が被毒されるなどの問題を引き起こす。また、ケミカルリサイクル分野においても、廃プラスチックに含まれるポリ塩化ビニル等の塩素含有プラスチックに含まれる塩素が問題となっており、ケミカルリサイクルのニーズが高まっている近年では、塩素化合物の除去技術にも注目が集まっている。
【0003】
従来、塩素化合物除去の方法として、アルカリ溶液に吸収させる方法、吸着剤に吸着させる方法等が知られている。吸着剤に吸着させる方法として、例えば、特許文献1には、有機塩化物に対し吸着特性を示す固体材料10~80重量%、酸化亜鉛20~90重量%を含有し、有機塩化物の吸収量が、塩素として10mg/g以上である塩化物吸収剤を用いた塩素化合物の除去方法が開示されている。また、特許文献2には、生石灰、消石灰又はその混合物を主成分とする石灰材であって、それを多孔質で、そのサイズが1mm以上に成形した塩化水素吸収材ペレットを用いた塩素化合物の除去方法が開示されている。更に、特許文献3には、セピオライトを塩素化合物の吸着成分として含み、該セピオライトのMg/Siモル比が1.5超であり、該セピオライト由来のカルシウムを含むことを特徴とする塩素化合物吸着剤を用いた塩素化合物の除去方法が開示されている。このように、塩素化合物の吸着剤は種々検討されているが、従来の酸化亜鉛を含む塩素化合物吸着剤は、塩素化合物を吸着した後に生成する塩化亜鉛が吸湿して固結し、リアクターから取り出せなくなると云う課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-184512号公報
【特許文献2】特開平2006-224041号公報
【特許文献3】特開2021-7937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の酸化亜鉛を含む塩素吸着剤は、塩素化合物の吸着によって生成する塩化亜鉛が吸湿性を有するために固結しやすく、リアクターから取り出し難くなるなどの問題があった。本発明の吸着剤はこのような従来の課題を解決した塩素化合物吸着剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の吸着剤は、酸化亜鉛形成体を有し、該酸化亜鉛形成体によって塩素化合物に対して優れた吸着能力を発揮し、さらに該酸化亜鉛成形体の表面にシリカ層を有し、該吸着剤どうしが該シリカ層を介して接触することによって、塩素化合物吸着後でも該吸着剤どうしが固結し難くした吸着剤である。
【0007】
〔本吸着材の性状〕
以下、本発明の塩素化合物吸着剤(以下、本吸着剤とも云う)について、具体的に説明する。
本発明の塩素化合物吸着剤は、酸化亜鉛およびシリカを含み、該酸化亜鉛の含有量がZnO換算で75質量%以上~99.9質量%以下の範囲であり、さらに該酸化亜鉛が成形体であって、該酸化亜鉛成形体の表面にシリカ層を有することを特徴とする。
【0008】
本吸着剤は、塩素化合物の吸着主成分として酸化亜鉛を含む。該酸化亜鉛の含有量は、本吸着剤の全量に対して、ZnO換算で、75質量%以上~99.9質量%以下の範囲である。該酸化亜鉛の含有量が多いほど塩素化合物の吸着量が大きいので、該酸化亜鉛の含有量は、80%質量%以上~99.9質量%以下の範囲が好ましく、83質量%以上~99.9質量%以下の範囲がより好ましい。酸化亜鉛の含有量は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析によって測定することができる。
【0009】
本吸着剤に含まれる酸化亜鉛は成形体である。本吸着剤に含まれる酸化亜鉛は、該酸化亜鉛の個々の粒子がシリカで被覆されているのではなく、酸化亜鉛粒子を成形して成形体とし、該成形体の表面がシリカ層で被覆されている。酸化亜鉛の個々の粒子がシリカで被覆されていると、塩素化合物の吸着が阻害されて吸着効果が低下しやすくなる。一方、酸化亜鉛を成形体にし、該成形体の表面をシリカ層で被覆すれば、該シリカ層を通じて成形体内部に浸透した塩素化合物が酸化亜鉛粒子に接触して吸着されるので、優れた吸着効果を維持することができる。
【0010】
本吸着剤に含まれる酸化亜鉛成形体は、球状または柱状の形状が好ましい。球状は真球状であってもよく、楕円状であってもよい。また、柱状は、例えば、円柱状、三つ葉状、四つ葉状、マカロニ状等であってもよい。酸化亜鉛成形体のサイズは、該成形体の形状が球状である場合は1mm以上~10mm以下の範囲が好ましく、1mm以上~5mm以下の範囲がより好ましい。また、酸化亜鉛成形体が柱状である場合は、その径が1mm以上~10mm以下の範囲が好ましく、3mm以上~7mm以下の範囲がより好ましい。また、該柱状体の高さは1mm以上~20mm以下の範囲が好ましい。
【0011】
これらの形状のサイズは、10個の成形体について、ノギスなどを用いて各サイズを測定し、その平均値とすればよい。例えば、球状の場合は各成形体の長径と短径を測定し、(長径+短径)/2を前記サイズの範囲内にすればよい。柱状の場合は径と高さをそれぞれ前記サイズの範囲内にすればよい。
【0012】
前記酸化亜鉛の結晶子径は、5nm~50nmの範囲が好ましく、5nm~30nmの範囲がより好ましく、5nm~20nmの範囲が特に好ましい。本吸着剤に含まれる酸化亜鉛の結晶子径が小さくなるほど、該酸化亜鉛の表面積が大きくなるので、塩素化合物をより多く吸着することができる。酸化亜鉛の結晶子径は、X線回折測定によって測定することができる。
【0013】
本吸着剤は、前記酸化亜鉛成形体の表面にシリカ層を有する。該成形体表面にシリカ層を有することによって、吸着剤どうしが該シリカ層を介して接触することになり、該シリカ層がスペーサーのような働きを有している。従って、塩素化合物の吸着によって酸化亜鉛成形体の表面に塩化亜鉛が生成して吸湿状態になっても、該酸化亜鉛成形体どうしが直接には接触せず、固結を防ぐことができる。
【0014】
本吸着剤に含まれるシリカの含有量は、本吸着剤の全量に対して、SiO2換算で、0.1質量%以上~25質量%以下の範囲が好ましく、0.5質量%以上~15質量%以下の範囲がより好ましく、1質量%以上~5質量%以下の範囲が特に好ましい。シリカの含有量が上記範囲内であれば、塩素化合物の吸着量が多い。シリカの含有量は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析によって測定することができる。
【0015】
酸化亜鉛成形体の表面に存在する前記シリカ層の膜厚は、1μm以上~500μm以下の範囲が好ましく、1μm以上~300μm以下の範囲がより好ましく、1μm以上~200μm以下の範囲が特に好ましい。シリカ層の膜厚が前記範囲内であれば、塩素化合物の吸着量を多く維持しつつ、リアクター内での固結を防ぐことができる。シリカ層の膜厚は成形体の断面を光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察して測定することができる。
【0016】
前記シリカ層を形成するシリカの平均粒子径は、1nm以上~1000nm以下の範囲が好ましく、1nm以上~100nm以下の範囲がより好ましく、1nm以上~50nm以下の範囲が特に好ましい。シリカの平均粒子径が前述の範囲内であれば、シリカの含有量が少なくても、リアクター内で固結が起こり難くなる。
【0017】
本吸着剤の比表面積は、1m2/g以上~100m2/g以下の範囲が好ましく、10m2/g以上~80m2/g以下の範囲がより好ましく、20m2/g以上~60m2/g以下の範囲が特に好ましい。比表面積は、窒素吸着法を用いてBET1点から求めることができる。本吸着剤は、その比表面積が小さくても、良好に塩素化合物を吸着することができる。これは、酸化亜鉛への塩素化合物の吸着は化学吸着であり、物理吸着系の吸着剤と比べて吸着力が強いので、比表面積が小さくても吸着効果が高いものと考えられる。
【0018】
本吸着剤は、酸化亜鉛およびシリカ以外の成分を含んでいてもよい。例えば、酸化亜鉛の成形体の強度を高めるためのバインダー成分を含んでいてもよい。酸化亜鉛およびシリカ以外の成分の含有量は、本吸着剤の全量に対して、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。バインダー成分としては、無機成分が好ましく、例えば、シリカ、アルミナ、ケイ酸カルシウム、アルミン酸カルシウム、タルク、セピオライト等を含んでいてもよい。
【0019】
本吸着剤のCO2含有量は、本吸着剤の全量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。CO2含有量が少ないと、塩素化合物の吸着量が多くなりやすい。酸化亜鉛は、空気中のCO2と水とを吸着して塩基性炭酸亜鉛に変質することがあり、このCO2は塩基性炭酸亜鉛に由来するものと考えられる。CO2吸着量は、炭素硫黄分析(CS分析)によって測定することができる。
【0020】
本吸着剤の圧壊強度は、1ペレットあたり、10N以上であることが好ましく、50N以上であることがより好ましく、100N以上であることが特に好ましい。圧壊強度が高い吸着剤は、リアクターに充填する際に崩壊しにくくなるので好ましい。特に、本吸着剤を液相で用いる場合、流通させる液体の抵抗で吸着剤の一部が崩壊することがあるので、その圧壊強度は高いほうがより好ましい。
【0021】
本吸着剤の耐摩耗性は、後述の試験により得られる摩耗率として、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。摩耗率が低いと、表面に存在するシリカ層がはがれにくく、本発明の効果をより発揮することができる。
【0022】
本吸着剤は塩素化合物を吸着するための吸着剤である。本吸着剤は、気相でも、液相でも使用することができる。なお、本吸着剤は、気相中で使用することが好ましい。また、本吸着剤は、無機塩素化合物の吸着に使用に優れており、特に塩化水素の吸着剤として効果が高い。塩化水素が酸化亜鉛に吸着すると水が副生して固結の原因になるが、本吸着剤は固結し難いので、塩化水素の吸着に適している。
【0023】
〔本吸着剤の製造方法〕
本吸着剤は、例えば、酸化亜鉛の成形体を準備する工程、前記成形体の表面にシリカを含む分散液を用いてシリカ層を形成する工程を備えた製造方法(以下、本製造方法)によって製造することができる。本製造方法について、以下にその詳細を説明する。
【0024】
酸化亜鉛成形体の準備工程
本製造方法の酸化亜鉛成形体を準備する工程は、市販の酸化亜鉛の成形体を用いてもよく、酸化亜鉛の粉末を成形して成形体を調製してもよい。
【0025】
酸化亜鉛の粉末を成形する方法は、酸化亜鉛の粉末を錠剤成形機で成形する打錠成形方法、酸化亜鉛の粉末と溶媒とを混合して粘土状の組成物を調製し、これを押出成形機を用いて押し出す押出成形方法、転動造粒法などを用いることができる。柱状の成形体に成形する場合は、打錠成形法、押出成形法を用いることが好ましい。また、球状に成形する場合は、転動造粒法を用いることが好ましい。酸化亜鉛は前述の粒径サイズの範囲内の粒子を用いるのが好ましい。
【0026】
酸化亜鉛を成形する際には、酸化亜鉛粉末にバインダー成分を加え、特定の形状に成形してもよい。バインダー成分としては、有機バインダー、無機バインダーを用いることができる。有機バインダーとしては、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース系バインダーを用いることができる。無機バインダーとしては、シリカゾル等のシリカ系バインダー、アルミナゾル等のアルミナ系バインダー、ケイ酸カルシウム、アルミン酸カルシウム等のセメント系バインダー、タルク、セピオライト等のケイ酸塩鉱物等を用いることができる。
【0027】
酸化亜鉛の成形体は、必要に応じて、乾燥、焼成を行い、酸化亜鉛成形体に含まれる溶媒や有機バインダー成分を除去することができる。溶媒を除去する場合は、沸点~(沸点+100℃)の温度範囲で乾燥することが好ましい。例えば、溶媒として水を含む場合は、100℃~200の温度範囲で乾燥することが好ましい。有機バインダーを除去する場合は、大気雰囲気下にて400℃以上の温度で焼成することが好ましい。また、酸化亜鉛の成形体が塩基性炭酸亜鉛を含む場合も、400℃以上の温度で焼成することで、炭酸塩を十分に除去することができる。
【0028】
シリカ層形成工程
本製造方法は、酸化亜鉛成形体の表面にシリカ層を形成する工程を有する。この工程では、例えば、シリカを含む分散液(以下、シリカ分散液)を用いて酸化亜鉛成形体の表面をシリカでコート(被覆)する。シリカ分散液として、市販のシリカゾルを用いてもよく、ヒュームドシリカ等のシリカ粉末を溶媒に分散させた分散液を用いてもよい。これらのシリカ分散液に含まれるシリカ粒子の平均粒子径は前記範囲内のものが好ましい。
【0029】
酸化亜鉛の成形体の表面にシリカ層を形成する方法として、平衡吸着法、ポアフィリング法、蒸発乾固法等の含浸法を用いることができる。平衡吸着法は、シリカ分散液に酸化亜鉛の成形体を浸漬して該成形体表面を該分散液で覆うようにすればよい。ポアフィリング法および蒸発乾固法は、スポイトやスプレーを用いて、シリカ分散液を酸化亜鉛成形体の表面に滴下ないし噴霧して、該表面に担持させればよい。このとき、酸化亜鉛成形体をシリカ分散液中で転動させれば、該成形体表面にシリカを均一にムラ無く担持させることができる。
【0030】
シリカ分散液によって表面が被覆された酸化亜鉛成形体は、必要に応じて、乾燥および焼成を行い、該分散液に含まれる溶媒を除去する。具体的には、乾燥ないし焼成の温度は、溶媒の沸点以上~(沸点+100℃)以下の温度範囲が好ましい。具体的には、例えば、溶媒として水を含む場合は、100℃以上~200℃以下の温度範囲で乾燥すればよい。また、酸化亜鉛成形体が塩基性炭酸亜鉛を含む場合は、400℃以上の温度で焼成することによって該炭酸塩を除去することができる。
【0031】
このような製造方法によって、酸化亜鉛成形体の表面にシリカ層が形成された吸着剤が製造される。酸化亜鉛成形体の形状はサイズ、およびシリカ層の層厚は前述の形状やサイズの範囲になるように調製すればよい。
【発明の効果】
【0032】
本吸着剤は、塩素化合物に対する高い吸着性を有する酸化亜鉛を吸着成分として含むので、塩素化合物に対して優れた吸着効果を発揮する。また、該酸化亜鉛成形体の表面にシリカ層を有するので、該吸着剤は相互にシリカ層を介して接触することになり、塩素化合物の吸着によって吸湿状態になっても、該シリカ層がバリアーになるので吸着剤どうしが固結し難い。
さらに、本吸着剤は、酸化亜鉛の個々の粒子がシリカ層よって覆われているのではなく、酸化亜鉛を成形体にし、該成形体の表面にシリカ層が形成されているので、該シリカ層を通じて成形体内部に浸透した塩素化合物が酸化亜鉛粒子に接触して吸着され、優れた吸着効果が発揮される。
【0033】
一方、特許文献1~3に記載された吸着剤は何れも「酸化亜鉛が成形体であり、該成形体の表面にシリカ層を有する」ものではない。このため、吸着剤どうしが吸湿後に互いに固結しやすい問題があり、また吸湿性能も限界がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】実施例2の塩素化合物吸着剤の断面顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に本発明の実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例に限定されない。
実施例で用いた各種測定方法を詳述する。
【0036】
[吸水率]
試料約20gを準備して精秤し、吸水前重量とした。精秤した試料全量をイオン交換水に浸水し、1時間含水した。含水後の試料を湿らせたキムワイプ等で表面上の余剰水を拭き取った後に精秤した。この時の重量を吸水後重量とした。吸水前重量と吸水後重量から下式により吸水率を計算した。
吸水率(wt%)=〔(吸水後重量g)-(吸水前重量g)〕/(吸水前重量g)×100
【0037】
[酸化亜鉛、シリカ含有量]
乳鉢で粉砕した試料、過酸化ナトリウムおよび水酸化ナトリウムをるつぼ内で混合し、これを加熱溶融した。その後、るつぼ内の溶融物を塩酸で溶解し、適切な濃度に希釈後、ICP発光分光分析装置にて亜鉛およびケイ素の濃度を測定した。使用した触媒の重量、測定された亜鉛およびケイ素の濃度から触媒の塩素およびケイ素の含有量を算出した。さらに、亜鉛と酸化亜鉛、およびケイ素とシリカの元素、分子量の比から、酸化亜鉛、およびシリカの含有量を算出した。
【0038】
[シリカ層膜厚]
試料1粒を長さ垂直の方向から切断し、断面を露出させた。露出した断面表面を光学顕微鏡により拡大観察し、シリカ層の厚みを3か所から自動測定した。その3か所の厚みの平均値をシリカ層膜厚とした。
【0039】
[ZnO結晶子径]
乳鉢で粉砕した試料を準備し、リガク社製のX線回折装置(リガクMultiFlex)を用いてX線回折測定を行った。まず、測定する試料を試料板に詰め、管電圧40kV、管電流20mA、走査範囲10~70°、発散スリット1.000°、散乱スリット1.0mm、受光スリット0.3mm、スキャンスピード4°/minの条件でX線回折(線源Cu-Kα線)測定を行った。ZnOの結晶子径は、X線回折測定により2θ=36.2°付近にピークトップを有する回折ピークを検出し、解析ソフト(JADE Version 5.0)を用いてScherrerの式により算出した。
【0040】
[細孔容積]
試料対象物について、下記条件で細孔容積を測定した。
測定方法:窒素吸着脱離法
測定装置:BELSORP-miniII(マイクロトラック・ヘ゛ル社製品)
前処理条件:110℃、1時間(窒素流通下)
【0041】
[比表面積]
試料対象物について、下記条件で比表面積を測定した。
測定方法:窒素吸着法(BET1点法:相対圧0.33)
測定装置 :BELSORP-miniII(マイクロトラック・ヘ゛ル社製品)
前処理条件:110℃、1時間(窒素流通下)
【0042】
[CO2含有量]
乳鉢で粉砕した試料を準備し、炭素・硫黄分析装置(CS分析装置)を用い、試料中に含有されるC量を燃焼-赤外線吸収法により測定した。得られたC含有量の結果から、CとCO2の分子量の比に基づいてCO2含有量を算出した。
【0043】
[圧壊強度]
吸着剤全体からランダムに10粒サンプリングした。次に、この1粒について、アムスラー圧壊強度計を用いて、吸着剤の長さ方向の破壊強度を測定した。これを10粒分繰り返し、その平均値を圧壊強度とした。
【0044】
[耐摩耗性試験]
耐摩耗性は、ASTM(American Society for Testing and Materials)-5757-00を参照したJET-Cup法で実施した。具体的には、測定対象物を110℃1時間乾燥した後、測定対象物45gに水5gを添加して調湿した。ついで、Abrasion装置に測定対象物を仕込み、Air JET法で測定対象物を流動させた。流動開始後5~20時間の間、摩耗により発生した微粒子をフィルターで捕集した。フィルターで捕集された微粒子の重量を仕込んだ測定対象物の重量で除して、摩耗率を求めた。
【0045】
[塩化水素吸着試験]
試料15mlと2mmφガラスビード15mlを混合し、27mmφの反応管に充填した。この反応管に窒素ガスを150ml/minの流量で流通した。その後、充填層の温度が250℃となるように昇温した。250℃安定後に、窒素ガスを150ml/min、HClを150ml/minの流量に設定変更し、90分間塩素吸着をさせた。その後、HClの流量を0ml/minとし、常温に冷却した。冷却後、反応管から試料を抜き出す際に、反応管および吸着剤どうしの固着の有無により、固結の有無を判定した。試料の抜出分離後、試料からCl分を抽出し、電量滴定法により試料中のCl濃度を求めた。
【0046】
〔実施例1〕シリカ層1質量%
市販の酸化亜鉛成形体(日揮触媒化成社製:N748)を準備し、その吸水率を測定したところ、32質量%であり、該成形体が単位質量当たりで32mLの溶媒を吸着することを確認した。次に、該成形体300gを準備し、最終的に得られる塩素化合物吸着剤のシリカ層がSiO2換算で1質量%となるように、市販のシリカゾル(日揮触媒化成社製:カタロイドSN、平均粒子径11nm、SiO2濃度20質量%)15gをイオン交換水で96mLまでメスアップして、シリカ分散液を調製した。次に、該成形体をコーティングドラムで転動させながら、1時間をかけてシリカ分散液を全量噴霧した。噴霧完了後、送風乾燥機を用いて120℃で乾燥して、塩素化合物吸着剤を得た。得られた塩素化合物吸着剤について、上述の試験を行った。結果を表1に示す。
【0047】
〔実施例2〕
シリカ層3質量%
最終的に得られる塩素化合物吸着剤のコート量がSiO
2換算で3質量%となるように、市販のシリカゾルをイオン交換水で希釈してシリカ分散液を調製したこと以外は、実施例1と同様の方法で塩素化合物吸着剤を調製した。得られた塩素化合物吸着剤について、上述の試験を行った。結果を表1に示す。また、塩素化合物吸着剤の断面写真を
図1および
図2に示す。
【0048】
〔実施例3〕シリカ平均粒子径17nm
市販のシリカゾル(日揮触媒化成社製品:カタロイドS-20L、平均粒子径17nm、SiO2濃度20質量%)を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法で塩素化合物吸着剤を調製した。得られた塩素化合物吸着剤について、上述の試験を行った。結果を表1に示す。
【0049】
〔実施例4〕シリカ平均粒子径5nm
市販のシリカゾル(日揮触媒化成社製品:カタロイドSI-550、平均粒子径5nm、SiO2濃度20質量%)を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法で塩素化合物吸着剤を調製した。得られた塩素化合物吸着剤について、上述の試験を行った。結果を表1に示す。
【0050】
〔比較例1〕シリカ層なし
市販の酸化亜鉛成形体(日揮触媒化成社製品:N748)について、上述の試験を行った。結果を表1に示す。
【0051】