(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014174
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】薬液投与装置と薬液投与装置に用いられる薬液注入コントローラ
(51)【国際特許分類】
A61M 5/168 20060101AFI20230119BHJP
A61M 39/24 20060101ALI20230119BHJP
A61M 5/36 20060101ALN20230119BHJP
【FI】
A61M5/168 500
A61M39/24 100
A61M5/36
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189115
(22)【出願日】2022-11-28
(62)【分割の表示】P 2018171123の分割
【原出願日】2018-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】阪本 慎吾
(57)【要約】
【課題】急速の薬液投与を行うために設けられるサブラインのプライミングの作業を簡単に行うことができる、新規な構造の薬液投与装置を提供すること。
【解決手段】薬液投与装置10において、サブライン26のプライミングを行うプライミング機構として、(i)サブリザーバー42と流量制御部38の少なくとも一方よりも下流側に設けられたプライミング用エア抜き部62と、(ii)プライミング用エア抜き部62よりも下流側に設けられたプライミング用遮断弁140とが、設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインリザーバーから流量制御部を経て患者側の薬液投与ポートに至るメインラインと、該メインラインの該流量制御部よりも上流側から分岐してサブリザーバーを経て該流量制御部よりも下流側で該メインラインに合流するサブラインとを備えた薬液投与装置に用いられて、自己操作により該サブリザーバーからの急速の薬液投与を行うための薬液注入コントローラであって、
前記サブリザーバーを収容するハウジング内において該サブリザーバーから前記メインラインへの合流点に至るまでの前記サブライン上に急速の薬液投与用の開閉弁が設けられており、該開閉弁が付勢手段によって閉状態に保持されるようになっていると共に、
外部からの操作力によって移動せしめられて該サブリザーバーへ押圧力を作用させる操作部材に対して、運動方向を変更する連動機構を介して該開閉弁を連動させて、該操作部材に加えられる外部からの操作力を該開閉弁に及ぼすことで、該開閉弁が該付勢手段による付勢力に抗して閉状態から開状態へ切り換えられるようになっていることを特徴とする薬液注入コントローラ。
【請求項2】
前記連動機構が、前記操作部材側に設けられた主動片と前記開閉弁側に設けられた従動片とが、傾斜面をもって摺動可能に当接されて、該操作部材の外部からの操作力による直線移動に伴い、該傾斜面の傾斜角度に応じた分力が該開閉弁に伝達されて連動される摺動機構によって構成されている請求項1に記載の薬液注入コントローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動的な薬液の持続投与と自己操作による薬液の急速注入とを可能とする薬液投与装置と、薬液投与装置において自己操作による薬液の急速注入を行うための薬液注入コントローラとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ダイヤフラムポンプなどによるメインリザーバーからの持続的な薬液投与を行うためのメインラインと、自己操作によるサブリザーバーからの急速の薬液投与を行うためのサブラインとを備えた薬液投与装置が知られており、例えば鎮痛剤や麻酔剤などの体内投与に利用されている。
【0003】
かかる薬液投与装置では、使用に際して、各ラインを薬液で満たすプライミングの操作が必要となる。
【0004】
ところが、従来では、持続的な薬液投与ライン(メインライン)と急速の薬液投与ライン(サブライン)とに対して、各別に薬液を流通させてプライミングする必要があった。具体的には、例えば特許第5517029号公報(特許文献1)の
図13に示されているように、持続的な薬液投与ラインはメインリザーバーからの薬液でプライミングする一方、急速の薬液投与ラインは、当該ライン上に設けた3方活栓などの接続ポートを通じてシリンジから薬液を供給してプライミングする必要があった。そのために、プライミングの作業が面倒であるだけでなく、外部からシリンジで薬液を供給しなければならず、特に取扱いに慎重を要する薬液では薬液量の管理が負担増になると共に、意図しない薬液接触のリスクも増大しやすい問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、急速の薬液投与を行うために設けられるサブラインのプライミングの作業を簡単に行うことができる、新規な構造の薬液投与装置を提供することにある。
【0007】
さらに、本発明は、薬液投与装置に用いられる新規な構造の薬液注入コントローラを提供することも、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0009】
本発明の第1の態様は、メインリザーバーから流量制御部を経て患者側の薬液投与ポートに至るメインラインと、該メインラインの該流量制御部よりも上流側から分岐してサブリザーバーを経て該流量制御部よりも下流側で該メインラインに合流するサブラインとを備えた薬液投与装置に用いられて、自己操作により該サブリザーバーからの急速の薬液投与を行うための薬液注入コントローラであって、前記サブリザーバーを収容するハウジング内において該サブリザーバーから前記メインラインへの合流点に至るまでの前記サブライン上に急速の薬液投与用の開閉弁が設けられており、該開閉弁が付勢手段によって閉状態に保持されるようになっていると共に、外部からの操作力によって移動せしめられて該サブリザーバーへ押圧力を作用させる操作部材に対して、運動方向を変更する連動機構を介して該開閉弁を連動させて、該操作部材に加えられる外部からの操作力を該開閉弁に及ぼすことで、該開閉弁が該付勢手段による付勢力に抗して閉状態から開状態へ切り換えられるようになっていることを、特徴とする。
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、例えば操作部材を指で押すなどして、操作部材に外部からの操作力を加えることにより、開閉弁が閉状態から開状態へ切り換えられると共に、薬液がサブリザーバーからサブラインへ押し出されるようにできる。したがって、操作部材を押すなどの簡単な自己操作によって、必要に応じて薬液の急速投与を行うことができる。特に、連動機構に増力機構乃至は倍力機構を採用することで、付勢手段によって及ぼされる開閉弁への付勢力を大きくして、開閉弁の閉状態が確実に保持され得るようにしつつ、開閉弁の開操作に必要な操作力を小さくすることができる。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記連動機構が、前記操作部材側に設けられた主動片と前記開閉弁側に設けられた従動片とが、傾斜面をもって摺動可能に当接されて、該操作部材の外部からの操作力による直線移動に伴い、該傾斜面の傾斜角度に応じた分力が該開閉弁に伝達されて連動される摺動機構によって構成されているものである。
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、例えば操作部材を押し込むなどの自己操作によって操作部材を直線移動させることで、サブリザーバーが操作部材で押圧されて、サブリザーバーからサブラインへ薬液が押し出される。さらに、操作部材の移動方向に対して予め設定された傾斜方向に作用する分力が開閉弁に伝達されることから、操作部材の操作力による移動方向と開閉弁の開作動方向を一致させる必要がなく、互いに傾斜乃至は直交する方向に設定することが可能となって、操作部材の移動方向および開閉弁の下位さ同方向の設計自由度を大きく得ることができる。
【0010】
親出願に係る発明の第1の態様は、メインリザーバーから流量制御部を経て患者側の薬液投与ポートに至るメインラインと、該メインラインの該流量制御部よりも上流側から分岐してサブリザーバーを経て該流量制御部よりも下流側で該メインラインに合流するサブラインとを備えた薬液投与装置において、前記サブラインのプライミングを行うプライミング機構として以下(i)及び(ii)を有していることを特徴とする薬液投与装置。
(i)前記サブリザーバーと前記流量制御部の少なくとも一方よりも下流側に設けられたプライミング用エア抜き部。
(ii)前記プライミング用エア抜き部よりも下流側に設けられて前記サブラインのプライミングに際して遮断されてプライミング後に連通されるプライミング用遮断弁。
【0011】
本態様に従う構造とされた薬液投与装置によれば、プライミング用遮断弁を閉じた状態下で、メインリザーバーからラインへ薬液を流通させることで、メインリザーバーからサブリザーバーを経てプライミング用エア抜き部の設置位置に至るまでのサブラインが速やかにプライミングされ得る。
【0012】
また、本態様の範囲外であるが、サブラインのプライミング中或いは後に、必要に応じてメインラインも適宜にプライミングすることもできる。なお、メインラインのプライミングは限定されるものでないが、例えば、サブラインを遮断すれば、メインリザーバーから流量制御部を経て薬液投与ポートに至るメインラインもプライミングすることができる。それ故、例えばメインライン上にプライミング用遮断弁がある場合には、当初からプライミング用遮断弁を閉じておけば、メインリザーバーへ薬液を所定圧で注入充填する作業に伴って、サブラインのプライミングが自動的に行われ得るし、その後に、プライミング用遮断弁を開く操作によって、メインラインのプライミングも続けて行うことができる。また、例えばサブライン上にプライミング用遮断弁がある場合には、プライミング用遮断弁を閉じておくことにより、流量制御部によって流動抵抗が大きいメインラインよりも先にサブラインがプライミングされると共に、サブラインのプライミング完了によってサブラインが実質的に遮断されることで、メインラインもプライミングされる。
【0013】
親出願に係る発明の第2の態様は、親出願に係る発明の第1の態様に記載された薬液投与装置において、前記プライミング用エア抜き部は、前記メインラインと前記サブラインとの合流点に近接して又は前記サブリザーバーから該メインラインと該サブラインとの合流点までの間に設けられているものである。
【0014】
本態様に従う構造とされた薬液投与装置によれば、例えば、プライミング用エア抜き部を合流点に近接して配することによって、サブラインのプライミングに際して薬液が充填されないライン長を充分に短くしつつ、サブラインのプライミングに際して薬液がメインラインまで流入する場合にも、薬液のメインラインへの流入量を少なくして、メインラインのプライミングに際して廃棄される薬液量を抑えることが可能になる。なお、本態様において、プライミング用エア抜き部は、メインラインとサブラインとの合流点に近い位置に配されていればよく、メインライン上とサブライン上の何れに配されていてもよい。即ち、プライミング用エア抜き部は、その配設位置によって、サブライン及びその後のメインラインへのプライミングに際して廃棄される薬液量やプライミング完了後に残留するエア量が異なることとなるが、本態様における「近接」とは、それら廃液量及びエア残留量が実質的に無視できる程度(例えば3ml以下、好適には1ml以下)に抑えられる位置を言う。
【0015】
一方、プライミング用エア抜き部をサブリザーバーからメインラインとサブラインの合流点までの間に設けることにより、サブラインのプライミングに際して、サブラインの合流点以降のメインラインへの薬液の充填が回避されることから、サブラインのプライミングの完了後に例えばメインラインへのプライミングを行う場合でも、薬液投与ポートから不必要に流出してしまう薬液量(廃液量)を殆ど無くすことも可能になる。即ち、プライミング用エア抜き部がメインライン上にあると、メインラインとサブラインの合流点からプライミング用エア抜き部の位置まで、サブラインのプライミングで薬液が充填されることとなり、その後のメインラインのプライミングに際して、当該メインラインにまで充填された薬液が薬液ポートから不必要に流出してしまうことになる。
【0016】
また、サブラインのプライミング時のサブラインの遮断と、メインラインのプライミング時のサブラインの遮断とを、共通のプライミング用遮断弁によって行うことも可能であり、この場合には、部品点数を少なくして構造の簡略化を図ることもできる。
【0017】
親出願に係る発明の第3の態様は、親出願に係る発明の第1又は第2の態様に記載された薬液投与装置において、前記サブラインにおいて、前記メインラインとの分岐点から該メインラインへの合流点に至るまでの薬液流路上に該サブラインを閉止可能な開閉弁が設けられているものである。
【0018】
本態様に従う構造とされた薬液投与装置によれば、例えば、サブラインのプライミング完了後に、メインラインのプライミングを行う場合に、サブラインのプライミング完了後に開閉弁を閉じてからメインラインのプライミングを行うことで、サブラインのプライミング液がメインラインとの合流点よりも下流へ流出するのを防ぐことができる。
【0019】
親出願に係る発明の第4の態様は、親出願に係る発明の第3の態様に記載された薬液投与装置において、前記(ii)の前記プライミング用遮断弁が遮断状態から連通状態へ切り換えられるのに伴って、前記開閉弁を開状態から閉状態に切り換える開閉弁連動機構が設けられているものである。
【0020】
本態様に従う構造とされた薬液投与装置によれば、急速の薬液投与用の開閉弁の開状態と閉状態を、プライミング用遮断弁の遮断状態と連通状態に対して連動して切り換えることで、上述のサブラインのプライミングに続いて、メインラインのプライミングも容易に実現可能になる。
【0021】
なお、サブラインのプライミング完了後にプライミング用遮断弁を開いても、急速の薬液投与用の開閉弁が閉じられてサブラインが遮断されることから、プライミング用遮断弁がメインラインとサブラインの何れに設けられている場合にも、サブラインのプライミング完了後にプライミング用遮断弁を開くことが可能になる。
【0022】
親出願に係る発明の第5の態様は、親出願に係る発明の第1~第4の何れかの態様に記載された薬液投与装置において、自己操作により前記サブリザーバーからの急速の薬液投与を行うための薬液注入コントローラを備えていると共に、該薬液注入コントローラが該サブリザーバーを収容するハウジングを備えており、前記(i)の前記プライミング用エア抜き部が該ハウジングに組み込まれているものである。
【0023】
本態様に従う構造とされた薬液投与装置によれば、ハウジングの外に延び出したライン上にプライミング用エア抜き部を設ける場合に比して、使用時にプライミング用エア抜き部が邪魔になり難く、且つ構造のコンパクト化も図られ得る。また、プライミング用エア抜き部がハウジング内に収容されている場合、意図しない外力がプライミング用エア抜き部に作用することによる不具合を防ぐことができて、優れた信頼性を実現することができる。なお、プライミング用エア抜き部は、例えば、ハウジングに対して、収容されたり覆われるようにして組み込まれている。
【0024】
親出願に係る発明の第6の態様は、親出願に係る発明の第1~第5の何れかの態様に記載された薬液投与装置において、前記プライミング機構として、更に以下(iii)を有しているものである。
(iii)前記メインラインにおいて、前記サブラインの分岐点から前記流量制御部を経て前記サブラインの合流点に至るまでの薬液流路上に設けられた流量制御部側遮断弁。
【0025】
本態様に従う構造とされた薬液投与装置によれば、流量制御部側遮断弁を設けたことで、流量制御部を通じての薬液流通を確実に防止して、サブラインへ薬液をより効率的に導くことで、サブラインのプライミングを一層速やかに行うことができる。また、例えば、サブラインのプライミング完了後にメインラインのプライミングを行う際に、流量制御部側遮断弁の開放が必要な構造とすれば、使用者が切換作業をし忘れるのを防ぐこともできる。
【0026】
親出願に係る発明の第7の態様は、親出願に係る発明の第6の態様に記載された薬液投与装置において、前記プライミング機構の前記(ii)における前記プライミング用遮断弁と、前記プライミング機構の前記(iii)における前記流量制御部側遮断弁とを、併せて遮断/連通する遮断弁連動機構を有しているものである。
【0027】
本態様に従う構造とされた薬液投与装置によれば、プライミング用遮断弁と流量制御部側遮断弁とを各別に作動させる必要がなく、操作がより簡単になると共に、使用者がそれら弁の切換作業をより確実に行うことができる。特に、プライミング用遮断弁がメインライン上に位置している場合には、プライミング用遮断弁と流量制御部側遮断弁とを同時に遮断/連通させることにより、サブラインのプライミングとメインラインのプライミングを簡単に切り換えることができる。
【0028】
親出願に係る発明の第8の態様は、メインリザーバーから流量制御部を経て患者側の薬液投与ポートに至るメインラインと、該メインラインの該流量制御部よりも上流側から分岐してサブリザーバーを経て該流量制御部よりも下流側で該メインラインに合流するサブラインとを備えた薬液投与装置に用いられて、自己操作により該サブリザーバーからの急速の薬液投与を行うための薬液注入コントローラであって、前記サブリザーバーを収容するハウジングに、前記サブリザーバーよりも下流側に設けられたプライミング用エア抜き部が組み込まれており、且つ、前記メインラインからの分岐点から該サブリザーバーに至るまでの前記サブライン上において流路方向で離れた位置をつないで並列的に延びるオリフィス通路が該ハウジングに組み込まれていると共に、該オリフィス通路と並列的に延びる該サブライン上に閉止弁が該ハウジングに組み込まれており、該ハウジングに組み込まれて前記プライミング用エア抜き部よりも下流側に設けられたプライミング用遮断弁が遮断状態から連通状態へ切り換えられるのに伴って、該閉止弁が開状態から閉状態に切り換えられる閉止弁連動機構を有していることを、特徴とする。
【0029】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、プライミング用遮断弁を閉じた状態下で、メインリザーバーからラインへ薬液を流通させることで、メインリザーバーからサブリザーバーを経てプライミング用エア抜き部の設置位置に至るまでのサブラインが速やかにプライミングされ得る。
【0030】
また、プライミング用エア抜き部がハウジングに組み込まれていることにより、ハウジングの外に延び出したライン上にプライミング用エア抜き部を設ける場合に比して、使用時にプライミング用エア抜き部が邪魔になり難く、且つ構造のコンパクト化も図られ得る。
【0031】
さらに、本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、閉止弁が閉じた状態において、サブラインの流量がオリフィス通路によって制限されることから、メインリザーバーからサブリザーバーへの薬液の供給スピードが調節される。それ故、サブリザーバーへの薬液の充填に十分に長い時間が必要とされて、薬液注入コントローラによる急速の薬液投与が連続して行われるのを防ぐことで、過度な薬液の投与を防止することができる。
【0032】
また、閉止弁連動機構によって、閉止弁の開状態から閉状態への切り換えが、プライミング用遮断弁の遮断状態から連通状態への切り換えと連動していることにより、サブラインのプライミングの完了後に、プライミング用遮断弁の開放と併せて閉止弁が閉じて、サブラインをプライミング完了後の使用状態に簡単に切り換えることができる。
【0033】
親出願に係る発明の第9の態様は、メインリザーバーから流量制御部を経て患者側の薬液投与ポートに至るメインラインと、該メインラインの該流量制御部よりも上流側から分岐してサブリザーバーを経て該流量制御部よりも下流側で該メインラインに合流するサブラインとを備えた薬液投与装置に用いられて、自己操作により該サブリザーバーからの急速の薬液投与を行うための薬液注入コントローラであって、前記サブリザーバーを収容するハウジングに、前記サブリザーバーよりも下流側に設けられたプライミング用エア抜き部が組み込まれており、且つ、該サブリザーバーから前記メインラインへの合流点に至るまでの前記サブライン上に該サブラインを閉止可能な開閉弁が該ハウジングに組み込まれており、該ハウジングに組み込まれて前記プライミング用エア抜き部よりも下流側に設けられたプライミング用遮断弁が遮断状態から連通状態へ切り換えられるのに伴って、該開閉弁が開状態から閉状態に切り換えられる開閉弁連動機構を有していることを、特徴とする。
【0034】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、上記[0028]、[0029]に記載の効果に加えて、開閉弁を閉じることで、サブラインからメインラインへの薬液の流出が防止される。
【0035】
また、サブラインのプライミングの完了後に、プライミング用遮断弁の開放と併せて開閉弁が閉じて、メインリザーバーからメインラインのみにプライミング液が流れるようにすることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、シリンジによって薬液をサブラインへ直接に注入する操作が必要とされることなく、メインリザーバーからサブラインへ流入する薬液によってサブラインのプライミングを簡単に且つ速やかに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の第1の実施形態としての薬液投与装置を示す正面図。
【
図2】
図1に示す薬液投与装置の構成を概略的に示す図。
【
図3】
図1に示す薬液投与装置を構成する薬液注入コントローラの斜視図。
【
図5】
図4に示す薬液注入コントローラの右側面図。
【
図6】
図3に示す薬液注入コントローラにおいて、ハウジングの上半部分を取り除いた状態の斜視図。
【
図12】
図7のXII-XII断面に相当する図であって、スイッチ部材が押し込まれた後の状態を示す図。
【
図13】
図7のXIII-XIII断面に相当する図であって、(a)がスイッチ部材が押し込まれる前の状態を、(b)がスイッチ部材が押し込まれた後の状態を、それぞれ示す。
【
図14】
図7のXIV-XIV断面に相当する図であって、(a)がスイッチ部材が押し込まれる前の状態を、(b)がスイッチ部材が押し込まれた後の状態を、それぞれ示す。
【
図15】
図6に示す薬液注入コントローラの断面図であって、プッシュボタンが押し込まれた状態を示す。
【
図16】
図6に示す薬液注入コントローラの断面図であって、プッシュボタンが押し込まれた状態を示す。
【
図17】本発明の第2の実施形態としての薬液投与装置の構成を概略的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0039】
図1,2には、本発明の第1の実施形態としての薬液投与装置10が示されている。薬液投与装置10は、薬液容器12と薬液投与ポート14が薬液投与ライン16によって接続された構造を有している。
【0040】
薬液容器12は、硬質のハウジング18内にメインリザーバー20が収容された構造を有している。メインリザーバー20は、例えばゴムや樹脂エラストマーなどの弾性体で形成されたバルーンとされており、薬液注入部22に接続される図示しないシリンジなどから薬液を注入することで、薬液を弾性に基づく加圧状態で貯留することができる。そして、メインリザーバー20に貯留された薬液は、メインリザーバー20の弾性に基づいて、メインリザーバー20から外部に押し出されるようになっている。
【0041】
もっとも、薬液容器の具体的な構造は、特に限定されるものではなく、例えば硬質の容器本体と、容器本体内を直線的に移動可能なピストンと、ピストンを移動方向で付勢するコイルスプリングなどの付勢手段とを含んで構成されて、容器本体とピストンとの間に薬液を貯留するメインリザーバーが構成されると共に、ピストンが付勢手段の付勢力によって移動することで、メインリザーバーの容積が徐々に小さくなって、薬液がメインリザーバーから押し出されるようになっていてもよい。
【0042】
また、薬液容器12のメインリザーバー20には、薬液投与ライン16が接続されており、薬液容器12のメインリザーバー20に貯留された薬液が、薬液投与ライン16に送り出されるようになっている。薬液投与ライン16は、複数のチューブで構成されており、薬液容器12と薬液投与ポート14をつなぐメインライン24と、後述する分岐部34においてメインライン24から分岐するサブライン26とを、備えている。
【0043】
メインライン24は、上流側チューブ28と、メイン分岐チューブ30と、下流側チューブ32とを含んで構成されている。上流側チューブ28は、一端が薬液容器12のメインリザーバー20に接続されていると共に、他端が分岐部34に接続されている。また、上流側チューブ28の中間部分には、薬液中の異物を濾過するフィルタ36が設けられている。なお、フィルタ36は、異物除去用のフィルタと空気を薬液流路外に排出する通気フィルタとの両方を備えていてもよい。
【0044】
さらに、上流側チューブ28の他端に設けられた分岐部34には、メイン分岐チューブ30の一端が接続されている。メイン分岐チューブ30の他端は、後述する薬液注入コントローラ44の合流部60によって下流側チューブ32の一端に接続されている。また、メイン分岐チューブ30の中間部分には、流量制御部38が設けられている。流量制御部38は、内部に小径の流路を備えており、メインライン24の単位時間当たりの流量が流量制御部38によって設定されている。なお、流量制御部38は、バルブなどによって流量設定を連続的乃至は段階的に変更可能とされていてもよいし、断面積の異なる複数の流路から適宜に選択することで、メインライン24の流量を選択的に設定可能とすることもできる。
【0045】
更にまた、合流部60(後述)によってメイン分岐チューブ30に一端を接続される下流側チューブ32は、他端が薬液投与ポート14に接続されている。この薬液投与ポート14は、患者の血管などに経皮的に留置された図示しない留置針などに接続可能なコネクタ構造とされている。さらに、本実施形態では、薬液投与ポート14に通気性のフィルタを備えたキャップ39が取り付けられており、薬液投与ポート14において薬液の外部への流出が防止されている。
【0046】
一方、上流側チューブ28の他端に設けられた分岐部34には、サブライン26を構成するサブ分岐チューブ40の一端が接続されている。サブ分岐チューブ40は、他端が薬液注入コントローラ44のサブリザーバー42に間接的に接続されており、サブ分岐チューブ40を含むサブライン26の上流部分を通じてメインリザーバー20からサブリザーバー42へ薬液が供給されるようになっている。なお、分岐部34は、上流側の上流側チューブ28と、下流側のメイン分岐チューブ30およびサブ分岐チューブ40とを接続している。
【0047】
さらに、サブリザーバー42は、後述する合流部60を介して下流側チューブ32に接続されている。要するに、分岐部34においてメインライン24から分岐したサブライン26は、サブリザーバー42を経て合流部60においてメインライン24に合流している。従って、本実施形態では、分岐部34がメインライン24とサブライン26の分岐点とされていると共に、合流部60がメインライン24とサブライン26の合流点とされている。
【0048】
ところで、サブライン26上のサブリザーバー42は、
図3~5に示すような薬液注入コントローラ44に設けられている。この薬液注入コントローラ44は、自己操作によって急速の薬液投与を行うためのものであって、
図6~12に示すように、ハウジング46内にサブリザーバー42とメインライン24およびサブライン26の各一部とが収容状態で組み込まれた構造を有している。以下の薬液注入コントローラ44の説明において、原則として、上下方向とは
図5中の左右方向を、前後方向とは軸方向である
図5中の上下方向を、左右方向とは
図4中の左右方向を、それぞれいう。
【0049】
より具体的には、ハウジング46は、硬質の合成樹脂などで形成されて、全体として略有底筒状とされており、底壁部には、メイン分岐チューブ30と下流側チューブ32とサブ分岐チューブ40が挿通される3つの挿通孔48a,48b,48cが形成されている。本実施形態のハウジング46は、上半部分50と下半部分52とを上下方向で組み合わせて構成されている。なお、
図6~16では、薬液注入コントローラ44の内部構造を見易くするために、上半部分50の図示が省略されている。
【0050】
また、ハウジング46には、メイン分岐チューブ30と下流側チューブ32とサブ分岐チューブ40とが接続されるチューブ接続部材54が収容状態で取り付けられている。チューブ接続部材54は、ゴムや樹脂エラストマーなどで形成された軟質の部材であって、それらチューブ30,32,40が接続される3つのチューブ接続ポート56a,56b,56cを備えている。
【0051】
さらに、メイン分岐チューブ30が接続されるチューブ接続ポート56aと下流側チューブ32が接続されるチューブ接続ポート56bとが、何れも合流部60に接続されて、相互に連通されている。合流部60は、
図7,10に示すように、ハウジング46に収容されて、チューブ接続部材54に設けられており、上下方向に延びる筒状とされている。また、合流部60の上側の開口部分には、プライミング用エア抜き部を構成するフィルタ62が嵌め付けられている。このフィルタ62は、気体は通過させるが液体は通過させない性質を有している。かかるフィルタ62としては、上記性質を有していれば何等限定されるものではないが、例えばポリエチレン等の高分子材料と親水性、水溶性または水膨潤性ポリマーを含む材料とを焼結してなる焼結多孔体や、疎水性不織布、多孔質体等が好適に採用され得る。特に、フィルタ62として、高吸水性高分子(SAP)を含有するものが採用される場合には、水分がフィルタ62に触れるまでの初期状態では気体を通過させるとともに、水分がフィルタ62に触れると水と反応して(水分を吸収して)膨潤することで気体の通過を阻止する。なお、キャップ39に設けられるフィルタは、合流部60のフィルタ62と略同じ材質とされている。さらに、分岐部34よりも上流側(薬液容器12側)に配されるフィルタ36が通気フィルタを備える場合には、合流部60のフィルタ62と同様の材質のものを採用できる。
【0052】
更にまた、サブ分岐チューブ40が接続されるチューブ接続ポート56cには、
図7,9に示すように、チューブ状の薬液供給チューブ64が直列的に接続された態様で一体形成されている。この薬液供給チューブ64には、オリフィス通路を構成するオリフィスチューブ66が接続されている。オリフィスチューブ66は、ハウジング46内において薬液供給チューブ64の中間部分に対して並列的に設けられており、サブリザーバー42よりも上流側において、薬液供給チューブ64の流路方向で離れた2箇所をつなぐバイパス流路を構成している。さらに、オリフィスチューブ66は、薬液供給チューブ64に比して内径寸法が小さいチューブとされていることから、薬液供給チューブ64がオリフィスチューブ66と並列に延びる部分で遮断されることによって、サブライン26の単位時間当たりの流量がオリフィスチューブ66によって制限されるようになっている。
【0053】
また、薬液供給チューブ64は、
図6,7に示すように、ベース部材68の薬液流入部70に接続されている。ベース部材68は、略円板形状とされており、薬液流入部70と薬液流出部72とが貫通状態で形成されて、薬液流入部70に薬液供給チューブ64が接続されている。更に、ベース部材68には複数の係止突起74が後方(
図7の上方)へ向けて突出しており、それら係止突起74によってベース部材68がガイド部材76に連結されるようになっている。
【0054】
ガイド部材76は、略円筒形状とされていると共に、軸方向一端が外周へ向けて突出するフランジ状の係止部78が設けられており、係止部78に対してベース部材68の係止突起74が引っ掛けられることで、ベース部材68とガイド部材76が軸方向に連結されている。さらに、ガイド部材76の係止部78には、周方向の2箇所にそれぞれ係合フック80が設けられている。係合フック80は、係止部78から後方へ延び出す延出部82と、延出部82の先端から外周へ向けて突出する係合爪部84とを一体で備えている。なお、係合フック80の後端面は、外周へ向けて前方へ傾斜するテーパ形状とされている。
【0055】
このガイド部材76の内周側には、サブリザーバー42が配設されている。サブリザーバー42は、
図8~10に示すように、ゴムや樹脂エラストマーなどで形成されて可撓性を有しており、外力の作用しない静置状態において略カップ状とされていると共に、開口部分には外周へ突出するフランジ状の挟持部86が一体形成されている。
【0056】
このサブリザーバー42は、ガイド部材76の内周に配されると共に、挟持部86がベース部材68とガイド部材76の軸方向(前後方向)間で挟まれて支持されることにより、それらベース部材68およびガイド部材76に組み付けられている。かかる組付け状態において、サブリザーバー42の開口がベース部材68によって塞がれていると共に、サブリザーバー42の内周空間に対して、ベース部材68に取り付けられた薬液供給チューブ64の内腔が連通されている。そして、ベース部材68とガイド部材76がハウジング46によって支持されることで、サブリザーバー42がハウジング46に対して位置決めされていると共に、サブリザーバー42の底部をハウジング46に対して前後方向に移動させるようなサブリザーバー42の変形が許容されている。なお、サブリザーバー42がベース部材68およびガイド部材76に組み付けられた状態において、サブリザーバー42の底部はガイド部材76の軸方向端部よりも外側まで突出している。
【0057】
また、サブリザーバー42の底部には、プランジャ88が重ね合わされている。プランジャ88は、略有底円筒形状のプランジャ本体90と、プランジャ本体90の外周を囲むように設けられる筒状の案内筒部92とが、後端部において一体的につながった構造を有している。さらに、案内筒部92は、周上の2箇所においてそれぞれ部分的に薄肉とされているとともに外周へ拡開しており、当該薄肉部分によってフック受部94が構成されている。なお、フック受部94,94は、ガイド部材76の係合フック80,80に対して周方向で対応する位置に設けられている。
【0058】
また、プランジャ88は、操作部材としてのプッシュボタン96に内挿されている。プッシュボタン96は、略有底円筒形状とされており、開口部分がハウジング46に差し入れられていると共に、底部側がハウジング46の後端開口から軸方向後方へ突出している。さらに、プッシュボタン96の底部の内周部分には、前方へ向けて突出する小径筒状のスプリング支持部98が一体形成されている。
【0059】
さらに、
図11に示すように、プッシュボタン96には、主動片100が一体形成されている。主動片100は、プッシュボタン96の開口端部から前方へ向けて突出して、ガイド部材76の外周まで延び出している。更にまた、主動片100の突出先端部分は、並列的に配された2つの摺接部102,102とされており、それら摺接部102,102の突出先端面が先端側に向けて上下方向に傾斜する傾斜面104で構成されている。なお、本実施形態の傾斜面104は、摺接部102の上部に設けられて、突出先端に向けて下傾する形状とされていることから、摺接部102が先細形状とされている。
【0060】
また、
図8,9にも示すように、プランジャ88とプッシュボタン96の軸方向間には、コイルスプリング106が配設されている。コイルスプリング106は、一方の端部がプランジャ本体90の内周へ差し入れられていると共に、他方の端部がプッシュボタン96のスプリング支持部98に外挿されて、軸直角方向で位置決めされている。
【0061】
一方、
図7,10に示すように、ベース部材68の薬液流出部72には、薬液排出チューブ108が接続されている。この薬液排出チューブ108は、ゴムや樹脂エラストマーなどで形成された柔軟なチューブであって、一端が薬液流出部72に接続されていると共に、他端がチューブ接続部材54の合流部60の下側開口部に接続されている。本実施形態では、分岐部34とサブリザーバー42をつなぐサブ分岐チューブ40および薬液供給チューブ64と、サブリザーバー42と、サブリザーバー42と合流部60をつなぐ薬液排出チューブ108とによって、サブライン26が構成されている。
【0062】
また、薬液排出チューブ108の中間部分の上方には、開閉弁110が配設されている。開閉弁110は、ハウジング46の下半部分52に設けられた筒状の開閉弁支持部112に差し入れられて、ハウジング46に対して上下方向の相対変位を許容された状態で組み付けられている。より具体的には、開閉弁110は、略円板形状の弁本体114に対して、上側へ向けて突出する筒状のスプリングガイド部116が一体形成されていると共に、下側へ向けて突出して開閉弁支持部112に差し入れられる一対の従動片118,118が一体形成された構造を有している。
【0063】
弁本体114には、前後中央部分において下方へ突出する平板状のクランプ突起120が設けられており、クランプ突起120の先端部分が先細形状とされている。更に、弁本体114には、周方向の一部において外周へ突出するスイッチ係合突起122が設けられている。
【0064】
スプリングガイド部116には、付勢手段としてのコイルスプリング124が差し入れられており、スプリングガイド部116に差し入れられたコイルスプリング124が弁本体114とハウジング46の上半部分50との上下方向間で圧縮されている。これにより、開閉弁110には、コイルスプリング124による下向きの付勢力が作用している。
【0065】
従動片118は、
図11に示すように、上下方向に延びる板状とされて、下面が後方に向けて上傾する傾斜面126とされており、一対が左右方向に所定の距離を隔てて配されていると共に、それら一対の従動片118,118の基端部間にクランプ突起120が設けられている。そして、薬液排出チューブ108の一部が一対の従動片118,118の間を前後に延びており、クランプ突起120を備えた弁本体114が薬液排出チューブ108の上側に位置している。
【0066】
また、開閉弁110の弁本体114は、
図6に示すように、スイッチ係合突起122がスイッチ部材128に上下方向で係合されることによって、コイルスプリング124の付勢力に抗して、薬液排出チューブ108の上方に保持されている。スイッチ部材128は、
図8にも示すように、板状の本体部130を備えており、本体部130には、左右方向に貫通して上下方向に延びるガイドスリット132が形成されている。さらに、本体部130の上方には、矩形箱状のスイッチ操作部134が設けられている。
【0067】
さらに、スイッチ部材128における本体部130の後方には、
図8,13に示すように、開閉弁110のスイッチ係合突起122と上下方向で係合する係合受部136が設けられていると共に、
図9,13に示すように、薬液供給チューブ64を閉じる閉止弁としての閉止片138が、前後方向に対して略直交して広がる板状で設けられている。
【0068】
更にまた、
図6に示すように、スイッチ部材128における本体部130の前方には、プライミング遮断弁と流量制御部側遮断弁とを兼ねる遮断弁部140が設けられている。遮断弁部140は、
図11,14に示すように、前後方向に対して略直交して広がる板状とされており、前後に貫通するチューブ挿通領域142が形成されている。このチューブ挿通領域142は、上部がメイン分岐チューブ30と下流側チューブ32とを押し潰すことなく挿通可能とされた幅広の領域となっている一方、下部は左右両側から狭窄片144,144が突出することで、上部に比して左右方向に幅狭とされている。なお、狭窄片144,144の下端部は、左右内側への突出寸法が下方に向けて次第に小さくなっており、下方に向けて拡開している。
【0069】
そして、スイッチ部材128は、ハウジング46に組み付けられており、
図3,4に示すように、スイッチ部材128のスイッチ操作部134が、ハウジング46に貫通形成されたスイッチ挿通孔146に挿通されて、ハウジング46の外部に露出している。また、
図8に示すように、スイッチ部材128のガイドスリット132に対して、チューブ接続部材54とハウジング46が上下方向に摺動可能な態様で差し入れられていることにより、スイッチ部材128は、ハウジング46に対して、前後方向で位置決めされつつ、上下方向の相対変位を許容されている。
【0070】
また、
図13(a)に示すように、スイッチ部材128のハウジング46に対する組付け状態において、スイッチ部材128の閉止片138は、薬液供給チューブ64の上方に位置しており、薬液供給チューブ64が閉止片138に押し潰されることなく連通状態とされている。なお、スイッチ部材128がハウジング46に組み付けられた状態において、閉止片138は、薬液供給チューブ64の流路方向において、オリフィスチューブ66が接続された2箇所の間に位置しており、オリフィスチューブ66によってバイパスされた部分で薬液供給チューブ64を遮断することが可能とされている。
【0071】
さらに、
図14(a)に示すように、遮断弁部140がメイン分岐チューブ30と下流側チューブ32の各中間部分に配されており、それらメイン分岐チューブ30と下流側チューブ32は、スイッチ部材128の狭窄片144,144の間に位置して、狭窄片144,144と、狭窄片144,144の間に差し入れられるハウジング46のチューブ支持突起148との間で押し潰されている。これにより、メインライン24の合流部60よりも上流側を構成するメイン分岐チューブ30が、狭窄片144,144を備えた遮断弁部140で構成される流量制御部側遮断弁によって遮断されていると共に、メインライン24の合流部60よりも下流側を構成する下流側チューブ32が、狭窄片144,144を備えた遮断弁部140で構成されるプライミング遮断弁によって遮断されている。
【0072】
更にまた、開閉弁110は、
図13(a)に示すように、スイッチ係合突起122がスイッチ部材128の係合受部136に上下方向で係合されることにより、開閉弁110の弁本体114がコイルスプリング124の付勢力に抗して薬液排出チューブ108の上方に保持されており、サブライン26を構成する薬液排出チューブ108が、開閉弁110のクランプ突起120に押し潰されることなく連通状態とされている。
【0073】
要するに、薬液注入コントローラ44の使用前の初期状態において、サブライン26の全体が連通状態とされている一方、メインライン24は、合流部60よりも上流側となる流量制御部38と合流部60との間において遮断弁部140で構成される流量制御部側遮断弁によって遮断されていると共に、フィルタ62よりも下流側となる合流部60と薬液投与ポート14の間において遮断弁部140で構成されるプライミング用遮断弁によって遮断されている。
【0074】
さらに、プライミング用遮断弁と流量制御部側遮断弁を構成する遮断弁部140は、合流部60に近接位置している。本実施形態では、遮断弁部140によって構成されるプライミング用遮断弁と流量制御部側遮断弁が合流部60から略同じ距離で設けられている。好適には、合流部60からプライミング用エア抜き部62までの薬液流路(薬液投与ライン16の内腔)の容積が3ml以下、好適には1ml以下となるように、合流部60とプライミング用エア抜き部62の距離が設定される。
【0075】
かくの如き構造の薬液注入コントローラ44を備える薬液投与装置10は、使用前にメインライン24とサブライン26のプライミングが行われる。プライミングは、使用前に空気で満たされたメインライン24とサブライン26に薬液を送り込むことで、メインライン24とサブライン26から空気を排出して、それらメインライン24とサブライン26に薬液を充填する作業であって、本実施形態の薬液投与装置10では、かかるプライミングを容易に行うことが可能とされている。
【0076】
すなわち、初期状態において薬液容器12の図示しないバルーンに薬液を供給すると、バルーンの弾性によって送り出される薬液は、メインライン24が遮断弁部140によって遮断されていることから、分岐部34においてサブライン26へ流れ込む。サブライン26に流入した薬液は、空気を薬液投与ポート14側へ押し出しながら、サブリザーバー42を経由して、合流部60に流れ込む。合流部60には、通気性のフィルタ62が装着されていることから、合流部60に薬液が流れ込む前に、サブライン26内の空気がフィルタ62を通じて外部に排出されて、合流部60までのサブライン26内が薬液で満たされる。以上により、サブライン26のプライミングが完了する。なお、合流部60より下流にはプライミング遮断弁により空気が抜ける穴などの通路がないことから、薬液は合流部60で停止する。
【0077】
上記の説明からも分かるように、初期状態の薬液投与装置10は、サブライン26用のプライミング形態とされている。本実施形態では、サブライン26用のプライミング形態を実現するプライミング機構が、サブライン26のプライミング時にサブライン26内の空気を外部に排出するプライミング用エア抜き部と、フィルタ62と薬液投与ポート14の間を遮断するプライミング用遮断弁と、分岐部34と合流部60の間でメインライン24を遮断する流量制御部側遮断弁とを、含んで構成されている。そして、プライミング用エア抜き部がフィルタ62によって構成されていると共に、プライミング用遮断弁および流量制御部側遮断弁が遮断弁部140によって構成されており、プライミング機構がハウジング46に収容されている。
【0078】
本実施形態では、ハウジング46に組み込まれたフィルタ62が、サブライン26を通じた薬液投与ライン16上で、サブリザーバー42よりも下流側に配されていることにより、プライミング用エア抜き部が構成されている。そして、プライミング用遮断弁が閉じた状態では、フィルタ62よりも上流側の空気がフィルタ62を通じて外部へ排出されることで、フィルタ62よりも上流側が薬液で満たされる一方、フィルタ62よりも下流側へ薬液が流入することはない。したがって、プライミング用エア抜き部がサブライン26のメインライン24への合流点に近接位置して配されることによって、サブライン26に残留する空気の量が少なくされる。特に本実施形態では、プライミング用エア抜き部が合流部60に設けられていることで、プライミング完了後のサブライン26における空気の残留を最小限に抑えることができる。
【0079】
なお、フィルタ62を介してハウジング46内へ排出された空気は、ハウジング46の上半部分50と下半部分52の境目などを通じてハウジング46から外部へ排出されると共に、フィルタ62の上方に形成された通気孔149を通じてもハウジング46から外部へ排出される。また、本実施形態では、薬液がフィルタ62に接することで、フィルタ62の高吸水性高分子が膨潤して、フィルタ62の通気性が失われるようになっており、プライミングの完了後には、空気のフィルタ62を通じたサブライン26内への進入が防止される。
【0080】
このように、本実施形態に係る薬液投与装置10によれば、サブライン26のプライミングに際して、サブライン26にシリンジなどで薬液を供給する必要がなく、メインリザーバー20から薬液投与ライン16に供給される薬液によって、サブライン26のプライミングを行うことができる。従って、サブライン26のプライミング作業が簡単であると共に、シリンジの着脱時などに薬液がこぼれるおそれも低減される。
【0081】
しかも、薬液注入コントローラ44が初期状態においてサブライン26のプライミングが実施可能な状態とされることから、薬液投与装置10において、弁の開閉を行ったり、薬液投与ライン16を所定の位置でクランプするなどの作業を要することなく、メインリザーバー20に薬液を充填するだけで、サブライン26のプライミングを簡単に行うことができる。
【0082】
さらに、本実施形態では、サブライン26のプライミングに際して、オリフィスチューブ66よりも流量が大きい薬液供給チューブ64が連通状態とされていることから、サブライン26のプライミングをより速やかに行うことができる。なお、オリフィスチューブ66内に空気が残留したとしても、極めて微量であることから問題になり難いが、オリフィスチューブ66内の空気も排出する必要がある場合には、薬液供給チューブ64を常時遮断状態として、オリフィスチューブ66に薬液を導くこともできる。
【0083】
次に、サブライン26のプライミング完了後に、薬液注入コントローラ44のスイッチ操作部134をハウジング46の内周側へ押し込む。なお、押し込まれた後のスイッチ操作部134は、ハウジング46からの突出高さが十分に小さくされており、例えば、押し込まれた後のスイッチ操作部134を指でつまんでハウジング46から引き出すことができなくなっている。
【0084】
そして、スイッチ操作部134を押し込むことにより、スイッチ部材128がハウジング46に対して下方へ相対変位して、
図13(b)と
図14(b)に示すメインライン24用のプライミング形態に移行する。
【0085】
すなわち、
図13(b)に示すように、スイッチ部材128の閉止片138が下方に変位することで、薬液供給チューブ64が閉止片138とハウジング46の供給チューブ支持部150との間で押し潰されて閉状態とされる。これにより、サブライン26において、メインリザーバー20からサブリザーバー42への薬液の供給は、オリフィスチューブ66の内腔で構成されたオリフィス通路を通じて行われるようになる。
【0086】
さらに、
図14(b)に示すように、メイン分岐チューブ30と下流側チューブ32は、何れもスイッチ部材128の狭窄片144,144よりも上方へ相対移動することから、開口面積の大きいチューブ挿通領域142の上部に挿通された状態となる。これにより、メイン分岐チューブ30が遮断弁部140で構成された流量制御部側遮断弁による遮断を解除されて連通状態とされると共に、下流側チューブ32が遮断弁部140で構成されたプライミング遮断弁による遮断を解除されて連通状態とされる。これらによって、メインライン24の遮断が解除されて、メインライン24の全体が連通状態とされる。
【0087】
更にまた、開閉弁110は、
図13(b)に示すように、スイッチ部材128が下方に移動することで、スイッチ係合突起122のスイッチ部材128に対する係合が解除されて、コイルスプリング124の付勢力によってハウジング46に対して下向きに相対変位する。そして、開閉弁110の弁本体114が、コイルスプリング124の付勢力によって、薬液排出チューブ108に押し付けられた閉状態に保持されることで、薬液排出チューブ108が弁本体114とハウジング46の排出チューブ支持部152との間で押し潰されて、薬液排出チューブ108が遮断される。これにより、薬液排出チューブ108を含んで構成されるサブライン26が、開閉弁110によって遮断された状態に保持されて、プライミング完了状態のサブライン26に対するメインリザーバー20からの薬液の供給が停止される。特に本実施形態では、開閉弁110の弁本体114にクランプ突起120が設けられていることから、薬液排出チューブ108を局所的に大きく押し潰し易くなっている。
【0088】
このように、サブライン26を遮断状態としながら、メインライン24を連通状態とすることで、メインリザーバー20から薬液投与ライン16へ送り出される薬液をメインライン24へ効率的に導いて、メインライン24のプライミングを速やかに完了することができる。本実施形態では、遮断弁部140で構成されるプライミング用遮断弁と流量制御部側遮断弁によってメインライン24が連通状態に切り換えられると共に、開閉弁110によってサブライン26が遮断状態に切り換えられることによって、サブライン26用のプライミング形態からメインライン24用のプライミング形態へ切り換えられるようになっている。従って、開閉弁110は、後述する急速の薬液投与用の開閉弁として機能するだけでなく、遮断弁部140との連動によって、サブライン26用のプライミング形態からメインライン24用のプライミング形態に切り換える(メインリザーバー20からメインライン24のみにプライミング液が流入する状態に切り換える)プライミング切換弁としても機能する。このように、プライミング遮断弁の開放時において、メインライン24から薬液投与ポート14までのプライミングが可能である一方、メインライン24からサブライン26へのプライミング液の流入が防止されていることで、サブライン内にあるプライミング液が排出されることはない。
【0089】
本実施形態では、スイッチ部材128を押し込むだけで、遮断弁部140で構成されるプライミング用遮断弁と流量制御部側遮断弁が連動して連通状態から遮断状態への切り換えられると共に、プライミング用遮断弁の連通状態から遮断状態への切り換えと併せて、閉止片138で構成される閉止弁が開状態から閉状態に切り換えられ、更にプライミング用遮断弁の連通状態から遮断状態への切り換えと併せて、開閉弁110が開状態から閉状態に切り換えられるようになっている。このように、遮断弁部140で構成されるプライミング用遮断弁の遮断/連通と、遮断弁部140で構成される流量制御部側遮断弁の遮断/連通と、閉止片138で構成される閉止弁の開状態/閉状態と、開閉弁110の開状態/閉状態とが、スイッチ部材128を押す簡単な操作によって、一度に切り換えられて、サブライン26用のプライミング形態からメインライン24用のプライミング形態への切り換えを極めて簡単に実現することができる。
【0090】
要するに、本実施形態では、プライミング用遮断弁と流量制御部側遮断弁の遮断/連通を連動して切り換える遮断弁連動機構と、プライミング用遮断弁の遮断/連通と閉止片138で構成される閉止弁の開状態/閉状態とを連動して切り換える閉止弁連動機構と、プライミング用遮断弁の遮断/連通と開閉弁110の開状態/閉状態とを連動して切り換える開閉弁連動機構とが、1つのスイッチ部材128によって構成されている。
【0091】
また、フィルタ62で構成されるプライミング用エア抜き部が、サブライン26上に設けられていることから、サブライン26のプライミングに際して、薬液がメインライン24(下流側チューブ32)までは進入しない。それ故、メインライン24のプライミング時にメインライン24の薬液が排出されて無駄になるのを防ぐことができて、薬液の節約や薬液の量の管理の簡単化などが図られる。
【0092】
次に、サブライン26とメインライン24のプライミングが完了した後、薬液投与ポート14のキャップ39を取り外して、薬液投与ポート14を患者の血管に対して経皮的に留置された図示しない留置針などに接続することで、患者に対して薬液を所定量ずつ持続的に投与することができる。
【0093】
また、患者や医師などが必要に応じて薬液注入コントローラ44のプッシュボタン96を押し込むことにより、一時的により多くの薬液を患者に投与することができる。
【0094】
すなわち、プッシュボタン96が押し込まれると、
図15,16に示すように、プッシュボタン96とプランジャ88が接近せしめられて、コイルスプリングがそれらプッシュボタン96とプランジャ88の間で収縮せしめられる。
【0095】
さらに、プッシュボタン96がハウジング46で支持されたガイド部材76に対して軸方向で接近することにより、ガイド部材76の係合フック80がプッシュボタン96のフック受部94に軸方向で係合されて、プッシュボタン96が押し込まれた状態に保持される。なお、係合フック80とフック受部94の係合状態において、係合フック80の係合爪部84がプッシュボタン96の周壁に開口するフック係合孔154に差し入れられている。
【0096】
更にまた、
図15に示すように、プッシュボタン96の主動片100が前方(
図15の下方)へ移動して、主動片100の前端部が開閉弁110の従動片118の下端部に当接する。そして、主動片100の傾斜面104と従動片118の傾斜面126が摺接することで、プッシュボタン96に及ぼされた操作力(プッシュボタン96を押し込む力)が、傾斜面126の傾斜角度に応じた分力として開閉弁110に伝達される。かかる摺動機構によって、開閉弁110に上向きの力が作用して、
図16に示すように、開閉弁110がコイルスプリング124の付勢力に抗して上方へ移動することで閉状態から開状態に切り換えられる。その結果、開閉弁110によって遮断されていたサブライン26が連通状態に切り換えられる。このように、本実施形態では、主動片100と従動片118が傾斜面104,126において摺接する摺動機構によって、プッシュボタン96の押込みによる直線移動と開閉弁110の開作動とを連動させる連動機構が構成されている。なお、従動片118に及ぼされる前方への作用分力と上方への作用分力の割合は、傾斜面104,126の傾斜角度を調節することで適宜に設定できる。なお、
図15は
図11の断面に相当する図であり、
図16は
図10の断面に相当する図である。
【0097】
次に、プランジャ88は、圧縮されたコイルスプリング106の付勢力によって、サブリザーバー42に押し付けられる。これにより、サブリザーバー42内に貯留された薬液が薬液排出チューブ108に送り出される。サブリザーバー42から送り出された薬液は、合流部60においてメインライン24内を流れる薬液と合流して、薬液投与ポート14から患者の体内に投与される。これにより、メインライン24を通じた持続的な薬液の投与に加えて、サブライン26からも薬液が投与されることから、より多くの薬液が患者の体内へ一時的に投与される。このように、開閉弁110の開作動によって、サブリザーバー42に貯留された薬液の急速投与が可能な状態とされることから、本実施形態の開閉弁110は、プライミング切換弁を構成すると同時に、急速の薬液投与用の開閉弁とされている。
【0098】
サブライン26を通じた薬液の一時的な急速投与が完了すると、サブリザーバー42内の薬液が一時的になくなることから、薬液の急速投与を連続して実行することはできず、所定の時間が経過して、サブリザーバー42に薬液が再度貯留されることで、急速投与を再実行可能となるようにされている。本実施形態では、サブライン26におけるメインリザーバー20とサブリザーバー42をつなぐ流路の一部がオリフィスチューブ66で構成されることで、メインリザーバー20からサブリザーバー42への薬液の流入速度が制限されていることによって、サブリザーバー42に薬液が貯留されるまでに要する時間が調節されている。従って、オリフィスチューブ66の内径を変更するなどして、急速投与の再使用までに必要な時間を調節することができる。
【0099】
さらに、メインリザーバー20からサブリザーバー42に薬液が流入してサブリザーバー42が膨らむことにより、プランジャ88とプッシュボタン96がサブリザーバー42によって後方へ押されて、初期位置まで移動せしめられる。これにより、プッシュボタン96を再度押し込むことで、サブライン26を通じた薬液の急速投与を再実行することができる。なお、プランジャ88がコイルスプリング106の付勢力によって前方へ移動すると、プランジャ88の外周部分に設けられた図示しない係合解除部が、係合フック80の後端のテーパ面に軸方向で押し当てられる。これにより、係合フック80の後部に内周向きの力が及ぼされて、延出部82が撓み変形することにより、係合フック80の係合爪部84とプッシュボタン96のフック受部94との係合が解除されて、プッシュボタン96の後方への移動が許容される。
【0100】
更にまた、本実施形態では、プッシュボタン96の周壁に軸方向に延びるスリット156が設けられており、ガイド部材76に設けられた突起状の目印158が当該スリット156に差し入れられていることで、プッシュボタン96のガイド部材76に対する軸方向での相対位置が外部から把握できるようになっている。要するに、目印158がスリット156の前端まで移動した状態がサブリザーバー42に薬液が十分に充填された状態である。
【0101】
図17には、本発明の第2の実施形態としての薬液投与装置160が示されている。薬液投与装置160は、メインリザーバー20と薬液投与ポート14をつなぐメインライン24と、分岐部34においてメインライン24から分岐し、サブリザーバー42を経由して合流部60でメインライン24に合流するサブライン26とを、備えている。以下の説明において、第1の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことで説明を省略する。
【0102】
本実施形態の薬液投与装置160では、プライミング用遮断弁162がサブリザーバー42と合流部60の間に配置されており、プライミング用遮断弁162がサブライン26上に設けられている。さらに、プライミング用エア抜き部を構成するフィルタ62は、プライミング用遮断弁162よりも上流側に配されることから、合流部60よりも上流側でサブライン26上に配されている。
【0103】
前記実施形態にも示したように、プライミング用エア抜き部62は、合流部60に対して近接位置して設けられることが望ましく、これにより、サブライン26のプライミング完了後にプライミング用エア抜き部62と合流部60の間に残留する空気の量を十分に少なくすることができる。プライミング用エア抜き部62と合流部60の距離は、許容される空気の残留量に応じて設定されるが、好適には、例えば、プライミング用エア抜き部62から合流部60に至る薬液流路の容積が、3ml以下、好適には1ml以下とされる。
【0104】
また、本実施形態のプライミング用遮断弁162は、薬液の急速投与時に開く開閉弁を兼ねており、第1の実施形態の薬液投与装置10に比して弁の数が少なくされている。さらに、プライミング用遮断弁162は、開閉弁110との連動によって、サブライン26用のプライミング形態とメインライン24用のプライミング形態とを切り換えるプライミング切換弁としての機能も有することから、弁の数が更に少なくされている。本実施形態では、サブライン26およびメインライン24のプライミング時にプライミング用遮断弁162が閉状態とされると共に、通常の持続注入時にもプライミング用遮断弁162が閉状態とされて、サブライン26からメインライン24への薬液の流入が防止される一方、プッシュボタン96を自己操作することによる急速投与に際して、プライミング用遮断弁162が開状態に切り換えられることで、サブリザーバー42から薬液が投与される。
【0105】
このような本実施形態の薬液投与装置160は、プライミング用遮断弁162と流量制御部側遮断弁140を閉じ、閉止弁138を開いた状態で、サブライン26のプライミングを行う。これにより、薬液をサブライン26へ効率的に導いて、サブライン26のプライミングを速やかに完了することができる。
【0106】
次に、プライミング用遮断弁162を閉じたままで、流量制御部側遮断弁140を開くと共に、閉止弁138を閉じて、メインライン24のプライミングを行う。本実施形態では、プライミング用遮断弁162と流量制御部側遮断弁140および閉止弁138との弁連動機構は構成されていないが、例えば、流量制御部側遮断弁140の遮断/連通と閉止弁138の開状態/閉状態の切り換えを連動させる弁連動機構を設けることは可能である。
【0107】
メインライン24のプライミング完了後には、薬液投与ポート14を図示しない留置針に接続することで、薬液がメインリザーバー20から患者の体内へ少量ずつ持続的に注入される。また、自己操作によってプライミング用遮断弁162を適宜に開くことで、サブリザーバー42から送り出された薬液が患者の体内へ急速投与される。
【0108】
本実施形態に示すように、プライミング用遮断弁162は、メインリザーバー20からサブリザーバー42を経て薬液投与ポート14へ至るサブライン26を通じた薬液流路上で、フィルタ62で構成されるプライミング用エア抜き部よりも下流側に設けられていれば、サブライン26上に配されていてもよいし、メインライン24上に配されていてもよい。この場合にも、プライミング用遮断弁162を閉じることで、空気の逃げ道をプライミング用エア抜き部のみとすることができて、サブライン26のプライミング時に、薬液がメインライン24へ入るのを防ぐことができる。
【0109】
さらに、本実施形態によれば、プライミング用遮断弁162が薬液の急速投与用の開閉弁を兼ねることから、弁を少なくすることができて、構造の簡略化などが図られ得る。
【0110】
なお、本実施形態では、プライミング用エア抜き部を構成するフィルタ62が、メインライン24とサブライン26の合流部60よりも上流側のサブライン26上に配された例を示したが、プライミング用エア抜き部は、サブライン26を通じた薬液流路上でサブリザーバー42よりも下流側に配されていてもよく、合流部60よりも下流側に配することもできる。
【0111】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、サブライン26のプライミングに際して、メインライン24を流量制御部38と合流部60の間で遮断する流量制御部側遮断弁が設けられた例を示したが、流量制御部側遮断弁は必須ではなく省略することもできる。すなわち、第1の実施形態に示す薬液投与装置10では、流量制御部側遮断弁がなくても、メインライン24には流量制御部38があるため、サブライン26のプラミングが短時間で完了する。また、第2の実施形態に示す薬液投与装置160では、流量制御部側遮断弁をなくすと、サブライン26のプライミング時にメインライン24が完全には遮断されなくなるが、流量制御部38においてメインライン24の流量が制限されることから、薬液がサブライン26へ優先的に導かれてサブライン26のプライミングが行われ得る。
【0112】
また、第1及び第2実施形態とは異なり、プライミング用遮断弁を薬液投与ポート14に設けるキャップで実現してもよい。液体と気体の両方の通過を制限するキャップに、弁や液体の通過を制限するフィルタを設けることで、薬液投与ポート14において当該キャップの一部を取り外すことで、気体の通過を許容しながら液体の通過を制限するようにもできる。例えば、当該キャップがプライミング用遮断弁であって、プライミング用エア抜き部62がサブリザーバー42から合流部60までの間又は流量制御部38から合流部60までの間にある場合、合流部60より上流側のプライミングが可能であり、その後、キャップの全体または一部を取り外すなどして薬液投与ポート14に通気機能を持たせることで、薬液投与ポート14までのプライミングを行うことができる。また、当該キャップがプライミング用遮断弁であって、プライミング用エア抜き部62が合流部60より下流にある場合、プライミング用エア抜き部62より上流側のプライミングが可能であり、その後、薬液投与ポート14に通気機能を持たせることで、薬液投与ポート14までプライミングを行うことができる。このように、プライミング用遮断弁は、空気の逃げ道を一時的にプライミング用エア抜き部62のみとするための構成であり、従って、第1及び第2実施形態に限定されず、プライミング用エア抜き部より下流側であればよい。
【0113】
また、前記実施形態では、プライミング用遮断弁の遮断/連通と、流量制御部側遮断弁の遮断/連通と、開閉弁の開状態/閉状態と、閉止弁の開状態/閉状態とが、1つのスイッチ部材128を操作することで、連動して切り換えられるようになっていたが、それぞれ別個に操作可能としてもよい。また、弁連動機構を設ける場合には、必ずしも上記4つの弁を連動させるものに限定されず、2つ乃至は3つの弁を連動させるものとすることもできる。
【0114】
また、フィルタ62の配設位置は、前記実施形態のようにメインライン24とサブライン26の合流点(合流部60)には限定されないが、好適には、フィルタ62は合流部60に近接して配置される。例えば、フィルタ62がサブライン26上に配される場合には、フィルタ36の位置は、サブライン26のプライミング完了状態において、サブライン26内に残留する空気が所定量以下となるように設定されることが望ましく、サブライン26におけるサブリザーバー42から合流部60に至るまでのライン長に対して、合流部60に近い50%の領域(好適には20%の領域)にフィルタ62が配される。同様に、フィルタ62がメインライン24上に配される場合には、フィルタ62の位置は、メインライン24のプライミング開始前の状態において、メインライン24の合流部60よりも下流側に入り込む薬液が所定量以下となるように設定されることが望ましく、好適には、メインライン24における合流部60からサブリザーバー42に至るまでの間において合流部60に近い側の領域にフィルタ36が配される。これらにより、サブライン26のプライミング後にメインライン24のプライミングを行う際に、排出される薬液の量を少なくしつつ、サブライン26に残留する空気の量も少なくすることができると共に、薬液の投与を開始する際に、サブライン26から患者の体内に入る残留空気の量を問題にならない程度まで少なくすることができる。
【0115】
さらに、フィルタ62の位置は、サブリザーバー42よりも下流または流量制御部38よりも下流であれば特に限定されず、メインライン24における合流部60よりも下流側にフィルタ62が設けられてもよいが、好適には、サブライン26におけるサブリザーバー42から合流部60までの間にフィルタ62が設けられる。これにより、サブライン26のプライミング時に、合流部60よりも下流側のメインライン24に薬液が浸入するのを防いで、メインライン24のプライミング時に排出される薬液の量を少なくすることができる。
【0116】
また、前記実施形態では、メインリザーバー20からメインライン24のみにプライミング液を流入させるためのプライミング切換弁として、急速の薬液投与用の開閉弁110を含んで構成されているが、プライミング切換弁は、例えば、他の弁から独立して設けられていてもよい。
【0117】
また、前記実施形態では、プッシュボタン96に及ぼされた操作力を開閉弁110に伝達する連動機構として、主動片100,100と従動片118,118の摺動機構(滑り梃子)を例示したが、連動機構は前記実施形態に示した機構に限定されるものではない。具体的には、例えば、ラック・ピニオンやリンク機構、カム機構などの公知の機構によって、連動機構を構成することもできる。特に、増力機構乃至は倍力機構を採用すれば、開閉弁110に作用するコイルスプリング124の付勢力を大きくして、開閉弁110の閉状態が確実に保持され得るようにしつつ、開閉弁110を開状態へ移行させるために必要な操作力を小さくすることも可能になる。
【0118】
さらに、主動片100,100と従動片118,118との摺動によって構成される前記実施形態の連動機構は、主動片100が傾斜面104を備えると共に、従動片118の傾斜面126を備えており、それら傾斜面104,126が摺接する構造によって構成されているが、例えば、主動片と従動片の何れか一方だけに傾斜面を設けて、傾斜面を持たない主動片と従動片の何れか他方が傾斜面に摺接する構造によって、目的とする連動機構を構成することもできる。
また、本発明は、もともと以下(viii)~(x),(xiii)に記載の各発明を何れも含むものであり、その構成および作用効果に関して、付記しておく。
本発明は、
(viii) メインリザーバーから流量制御部を経て患者側の薬液投与ポートに至るメインラインと、該メインラインの該流量制御部よりも上流側から分岐してサブリザーバーを経て該流量制御部よりも下流側で該メインラインに合流するサブラインとを備えた薬液投与装置に用いられて、自己操作により該サブリザーバーからの急速の薬液投与を行うための薬液注入コントローラであって、前記サブリザーバーを収容するハウジングに、前記サブリザーバーよりも下流側に設けられたプライミング用エア抜き部が組み込まれていることを特徴とする薬液注入コントローラ、
(ix) 前記メインラインからの分岐点から前記サブリザーバーに至るまでの前記サブライン上において流路方向で離れた位置をつないで並列的に延びるオリフィス通路が前記ハウジングに組み込まれていると共に、該オリフィス通路と並列的に延びる該サブライン上に閉止弁が該ハウジングに組み込まれており、該ハウジングに組み込まれて前記プライミング用エア抜き部よりも下流側に設けられたプライミング用遮断弁が遮断状態から連通状態へ切り換えられるのに伴って、該閉止弁が開状態から閉状態に切り換えられる閉止弁連動機構を有している(viii)に記載の薬液注入コントローラ、
(x) 前記サブリザーバーから前記メインラインへの合流点に至るまでの前記サブライン上に該サブラインを閉止可能な開閉弁が前記ハウジングに組み込まれており、該ハウジングに組み込まれて前記プライミング用エア抜き部よりも下流側に設けられたプライミング用遮断弁が遮断状態から連通状態へ切り換えられるのに伴って、該開閉弁が開状態から閉状態に切り換えられる開閉弁連動機構を有している(viii)又は(ix)に記載の薬液注入コントローラ、
(xiii) メインリザーバーから流量制御部を経て患者側の薬液投与ポートに至るメインラインと、該メインラインの該流量制御部よりも上流側から分岐してサブリザーバーを経て該流量制御部よりも下流側で該メインラインに合流するサブラインとを備えた薬液投与装置に用いられて、自己操作により該サブリザーバーからの急速の薬液投与を行うための薬液注入コントローラであって、前記メインラインと前記サブラインのプライミングを行うプライミング機構が、前記サブリザーバーを収容するハウジング内の該メインラインにおいて、該サブラインの分岐点から前記流量制御部を経て該サブラインの合流点に至るまでの薬液流路上に設けられた流量制御部側遮断弁を含んで構成されていることを特徴とする薬液注入コントローラ、
に関する発明を含む。
上記(viii)に記載の発明では、プライミング用遮断弁を閉じた状態下で、メインリザーバーからラインへ薬液を流通させることで、メインリザーバーからサブリザーバーを経てプライミング用エア抜き部の設置位置に至るまでのサブラインが速やかにプライミングされ得る。また、プライミング用エア抜き部がハウジングに組み込まれていることにより、ハウジングの外に延び出したライン上にプライミング用エア抜き部を設ける場合に比して、使用時にプライミング用エア抜き部が邪魔になり難く、且つ構造のコンパクト化も図られ得る。
上記(ix)に記載の発明では、閉止弁が閉じた状態において、サブラインの流量がオリフィス通路によって制限されることから、メインリザーバーからサブリザーバーへの薬液の供給スピードが調節される。それ故、サブリザーバーへの薬液の充填に十分に長い時間が必要とされて、薬液注入コントローラによる急速の薬液投与が連続して行われるのを防ぐことで、過度な薬液の投与を防止することができる。また、閉止弁連動機構によって、閉止弁の開状態から閉状態への切り換えが、プライミング用遮断弁の遮断状態から連通状態への切り換えと連動していることにより、サブラインのプライミングの完了後に、プライミング用遮断弁の開放と併せて閉止弁が閉じて、サブラインをプライミング完了後の使用状態に簡単に切り換えることができる。
上記(x)に記載の発明では、開閉弁を閉じることで、サブラインからメインラインへの薬液の流出が防止される。また、サブラインのプライミングの完了後に、プライミング用遮断弁の開放と併せて開閉弁が閉じて、メインリザーバーからメインラインのみにプライミング液が流れるようにすることができる。
上記(xiii)に記載の発明では、流量制御部を通じての薬液流通が流量制御部側遮断弁によって確実に防止されて、薬液がサブラインへより効率的に導かれることで、サブラインのプライミングが確実に且つ速やかに実行される。特に、流動抵抗の小さい薬液や流量制御部の制御流量が多い場合などにも、メインラインが流量制御部側遮断弁によって遮断されることで、薬液がサブラインへ流れやすく、サブラインのプライミングを迅速かつ確実に行うことができる。
【符号の説明】
【0119】
10,160:薬液投与装置、14:薬液投与ポート、20:メインリザーバー、24:メインライン、26:サブライン、34:分岐部、38:流量制御部、42:サブリザーバー、44:薬液注入コントローラ、46:ハウジング、60:合流部(合流点)、62:フィルタ(プライミング用エア抜き部)、66:オリフィスチューブ(オリフィス通路)、96:プッシュボタン(操作部材)、100:主動片、104,126:傾斜面、110:開閉弁(プライミング切換弁)、118:従動片、124:コイルスプリング(付勢手段)、128:スイッチ部材(遮断弁連動機構,閉止弁連動機構,開閉弁連動機構)、138:閉止片(閉止弁)、140:遮断弁部(プライミング用遮断弁,流量制御部側遮断弁)、162:プライミング用遮断弁