(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141793
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】表面処理鋼板、表面処理鋼板の製造方法、及び表面処理鋼板の加工方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20230928BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B32B15/08 Q
C23C26/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048289
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100174285
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮山 聰
(72)【発明者】
【氏名】松野 雅典
(72)【発明者】
【氏名】上田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 靖人
【テーマコード(参考)】
4F100
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AA03D
4F100AA04D
4F100AB03B
4F100AB10B
4F100AH00A
4F100AK03A
4F100AK03C
4F100AK12A
4F100AK17A
4F100AK17C
4F100AK25C
4F100AK41C
4F100AK51C
4F100AT00B
4F100BA03
4F100BA04
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4F100EH71B
4F100JK12C
4F100JK16
4F100JK16A
4F100JL01
4F100YY00A
4F100YY00C
4F100YY00D
4K044AA02
4K044BA10
4K044BA12
4K044BA17
4K044BB01
4K044BB03
4K044BB09
4K044BC01
4K044BC05
4K044BC06
4K044CA16
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】優れた深絞り加工性を有する表面処理鋼板を提供する。
【解決手段】表面処理鋼板10は、基材鋼板11と、基材鋼板11の一方の面10a側に形成され、表面の動摩擦係数μが0.10以下である第1皮膜12と、基材鋼板11の他方の面10b側に形成され、鉛筆硬度が4B又は4Bよりも柔らかく、かつ、厚さが1.0μm以上である第2皮膜13と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材鋼板と、
前記基材鋼板の一方の面側に形成され、表面の動摩擦係数μが0.10以下である第1皮膜と、
前記基材鋼板の他方の面側に形成され、鉛筆硬度が4B又は4Bよりも柔らかく、かつ、厚さが1.0μm以上である第2皮膜と、を備える、表面処理鋼板。
【請求項2】
請求項1に記載の表面処理鋼板であって、
前記第2皮膜は、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂からなる群から選択される有機樹脂を含む、表面処理鋼板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表面処理鋼板であって、
前記基材鋼板と前記第2皮膜との間に形成された第3皮膜をさらに備える、表面処理鋼板。
【請求項4】
請求項3に記載の表面処理鋼板であって、
前記第3皮膜は、4族金属の酸素酸塩と、リン酸化合物と、を含み、
前記第3皮膜における前記4族金属の酸素酸塩の付着量は、4族原子換算で0.3mg/m2以上であり、かつ、
前記第3皮膜における前記リン酸化合物の付着量は、リン原子換算で、前記4族金属の酸素酸塩に由来する金属原子の付着量の1モル倍以上2モル倍以下である、表面処理鋼板。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の表面処理鋼板であって、
前記第1皮膜は、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びスチレン系樹脂からなる群から選択される有機系潤滑剤を含む、表面処理鋼板。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の表面処理鋼板であって、
前記基材鋼板は、前記一方の面及び前記他方の面の少なくとも一方に0.1質量%以上のAlを含有する亜鉛系めっき層を有するめっき鋼板である、表面処理鋼板。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の表面処理鋼板を製造する方法であって、
前記基材鋼板を用意する工程と、
前記基材鋼板の前記一方の面側に、有機系潤滑剤を含む第1処理液を付与する工程と、
前記基材鋼板の前記他方の面側に、有機樹脂を含む第2処理液を付与する工程と、を備える、表面処理鋼板の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の表面処理鋼板から採取されたブランク材を用意する工程と、
前記ブランク材が有する前記第1皮膜を、ダイに接触させる工程と、
前記ブランク材が有する前記第2皮膜を、前記ダイ側に押圧する工程と、を備える、表面処理鋼板の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理鋼板、表面処理鋼板の製造方法、及び表面処理鋼板の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブランク材から有底円筒形状の加工品を製造する方法として、深絞り加工等の絞り加工が知られている。深絞り加工とは、ブランク材の外周部を、開口部を有する絞り用ダイと皺押さえ部材(ブランクホルダ)とで挟持し、絞り用パンチによってブランク材を絞り用ダイの開口部の内部に押し込み、ブランク材を加工するプレス加工方法である。
【0003】
特開2020-139214号公報には、深絞り加工による加工性が高い表面処理鋼板が開示されている。この表面処理鋼板は、一方の面の動摩擦係数μ1が0.1以下であり、他方の面の動摩擦係数μ2が0.2以上であり、かつ、一方の面と他方の面との間の静摩擦係数μ3が0.14よりも大きい。
【0004】
特許第3872998号公報には、絞りしごき缶用塗装金属板が開示されている。この絞りしごき缶用塗装金属板は、両面塗装金属板であって、加工後に缶内面側となる皮膜の乾燥塗布量が90~400mg/100cm2、ガラス転移温度が50~120℃であり、かつ60℃の試験条件において、鉛筆硬度H以上、伸び率200~600%及び動摩擦係数0.03~0.25の範囲内にあるものであり、加工後に缶外面側となる皮膜の乾燥塗布量が15~150mg/100cm2、ガラス転移温度が50~120℃であり、かつ60℃の試験条件において、鉛筆硬度H以上にあるものである。
【0005】
特許第4132686号公報には、耐プレスかじり性と耐コイル変形性に優れた表面処理金属板が開示されている。この表面処理金属板は、第1層目として水性樹脂及びケイ酸塩化合物の一方又は両方、さらに、分子量6000~15000のポリオレフィンワックスディスパージョンで構成された潤滑剤を含有する皮膜を乾燥質量として0.05~0.3g/m2有し、第2層目として水性樹脂及びケイ酸塩化合物の一方又は両方、さらに、固形分換算で5~35質量%のコロイダルシリカで構成される水性有機無機複合皮膜を乾燥質量として0.5~5.0g/m2有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-139214号公報
【特許文献2】特許第3872998号公報
【特許文献3】特許第4132686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鋼板表面の滑り性を向上させる(動摩擦係数μを小さくする)ことで、深絞り加工性を高めることができる。一方、表面処理鋼板には、より優れた深絞り加工性が求められている。
【0008】
本発明の課題は、優れた深絞り加工性を有する表面処理鋼板及びその製造方法、並びにその加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態による表面処理鋼板は、基材鋼板と、前記基材鋼板の一方の面側に形成され、表面の動摩擦係数μが0.10以下である第1皮膜と、前記基材鋼板の他方の面側に形成され、鉛筆硬度が4B又は4Bよりも柔らかく、かつ、厚さが1.0μm以上である第2皮膜と、を備える。
【0010】
本発明の一実施形態による表面処理鋼板の製造方法は、上記の表面処理鋼板を製造する方法であって、前記基材鋼板を用意する工程と、前記基材鋼板の前記一方の面側に、有機系潤滑剤を含む第1処理液を付与する工程と、前記基材鋼板の前記他方の面側に、有機樹脂を含む第2処理液を付与する工程と、を備える。
【0011】
本発明の一実施形態による表面処理鋼板の加工方法は、上記の表面処理鋼板から採取されたブランク材を用意する工程と、前記ブランク材が有する前記第1皮膜を、ダイに接触させる工程と、前記ブランク材が有する前記第2皮膜を、前記ダイ側に押圧する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた深絞り加工性を有する表面処理鋼板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による表面処理鋼板の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、表面処理鋼板の製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図3A】
図3Aは、表面処理鋼板を用いて深絞り加工を行う様子を示す模式図であって、深絞り加工前の状態を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、表面処理鋼板を用いて深絞り加工を行う様子を示す模式図であって、深絞り加工後の状態を示す図である。
【
図4】
図4は、静摩擦係数を測定する方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、一方の面の動摩擦係数μを小さくし、さらに反対側の面の皮膜を柔らかくすることで、従来よりもさらに深絞り加工性を向上できることを見出した。
【0015】
鋼板は通常、コイル状に巻き取られて保管される。鋼板の表面の皮膜を柔らかくすると、タック性が生じたり、皮膜同士が接触したときにくっつきやすくなったり(ブロッキング)する。そのため従来、コイル状に巻き取られて保管される鋼板の表面に形成する皮膜として、鉛筆硬度が4Bであるような柔らかい皮膜は採用されていなかった。しかし、本発明者らの検討の結果、一方の面の皮膜が柔らかい場合であっても、反対側の面の動摩擦係数μが小さければ、ブロッキングが生じにくいことが分かった。
【0016】
本発明は、以上の知見に基づいて完成された。以下、本発明の一実施形態による表面処理鋼板について説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0017】
[表面処理鋼板]
図1は、本発明の一実施形態による表面処理鋼板10の構成を模式的に示す断面図である。表面処理鋼板10は、基材鋼板11と、第1皮膜12と、第2皮膜13と、第3皮膜14とを備えている。第1皮膜12は、基材鋼板11の一方の面11a側に形成されている。第2皮膜13は、基材鋼板11の他方の面11b側に形成されている。第3皮膜14は、基材鋼板11と第2皮膜13との間に形成されている。
【0018】
[基材鋼板]
基材鋼板11の種類は特に限定されない。基材鋼板11は例えば、低炭素鋼や中炭素鋼、高炭素鋼、合金鋼等からなる鋼板である。基材鋼板11は、良好なプレス成形性が必要とされる場合は、低炭素Ti添加鋼、低炭素Nb添加鋼等からなる深絞り用鋼板であることが好ましい。基材鋼板11はまた、P、Si、Mn等を添加した高強度鋼板であってもよい。基材鋼板11は、冷延鋼板であってもよいし、熱延鋼板であってもよい。
【0019】
基材鋼板11は、面11a及び面11bの少なくとも一方にめっき層(不図示)を有するめっき鋼板であってもよい。めっき層は例えば、亜鉛めっき、Zn-Al合金めっき、及びZn-Al-Mg合金めっき等の亜鉛系めっき層や、アルミニウムめっき等のアルミニウム系めっき層である。これらのうち、表面処理鋼板10及びその加工品の耐食性を高める観点からは、めっき層は、0.1質量%以上のAlを含有する亜鉛系めっき層(Zn-Al合金めっき層又はZn-Al-Mg合金めっき層)であることが好ましく、Zn-Al-Mg合金めっき層であることがより好ましい。また、基材鋼板11は、耐食性を高める観点からは、面11a及び面11bの両方にめっき層を有していることが好ましい。
【0020】
[第1皮膜]
第1皮膜12は、基材鋼板11の面11a側に形成されている。
図1では、第1皮膜12が面11aの上に直接形成されている場合を図示しているが、第1皮膜12は、面11aと接していなくてもよい。すなわち、表面処理鋼板10は、基材鋼板11と第1皮膜12との間にさらに別の皮膜を備えていてもよい。
【0021】
第1皮膜12は、表面の動摩擦係数μが0.10以下である。後述するように、第1皮膜12の表面の動摩擦係数μを0.10以下にすることによって、優れた深絞り加工性が得られる。第1皮膜12の表面の動摩擦係数μの上限は、好ましくは0.08であり、さらに好ましくは0.06である。第1皮膜12の表面の動摩擦係数μの下限は、特に限定されないが、例えば0.04である。動摩擦係数μは、JIS K 7125(1999年)に準じて測定して得られた値とすることができる。
【0022】
第1皮膜12は、上述した動摩擦係数μの条件を満たすものであれば特に限定されない。第1皮膜12は、有機系の皮膜であってもよいし、無機系の皮膜であってもよい。
【0023】
第1皮膜12は例えば、有機系潤滑剤を含有することによって、表面の動摩擦係数μが0.10以下に調整されたものであってもよい。有機系潤滑剤は例えば、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びスチレン系樹脂であり、中でもポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリエチレン樹脂が特に好ましい。
【0024】
第1皮膜12は、有機樹脂を含む皮膜であってもよい。有機樹脂は、鋼板の表面処理に通常使用される有機樹脂であればよく、例えば、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂等から適宜選択することができる。これらの有機樹脂を含む第1皮膜12は、表面処理鋼板10の耐食性及び加工性を高めることができる。これらのうち、耐食性及び加工性をより高める観点からは、有機樹脂はウレタン系樹脂又はポリオレフィン系樹脂であることが好ましく、ウレタン系樹脂であることがより好ましい。
【0025】
上記ウレタン系樹脂は、通常、イソシアネート化合物に由来する構成単位及びポリオール化合物に由来する構成単位を有する。
【0026】
イソシアネート化合物に由来する構成単位の例には、脂肪族ジイソシアネートに由来する構成単位及び脂環族ジイソシアネートに由来する構成単位が含まれる。脂肪族ジイソシアネートの例には、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート及びナフタレンジイソシアネートが含まれる。脂環族ジイソシアネートの例には、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート及びテトラメチルキシリレンジイソシアネートが含まれる。
【0027】
ポリオール化合物に由来する構成単位の例には、ポリオレフィンポリオールに由来する構成単位が含まれる。ポリオレフィンポリオールの例には、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリレートポリオール及びポリブタジエンポリオールが含まれる。
【0028】
有機樹脂の付着量は、特に限定されないものの、100mg/m2以上3,000mg/m2以下であることが好ましく、200mg/m2以上1,000mg/m2以下であることがより好ましい。
【0029】
第1皮膜12は、バルブメタルの酸化物、バルブメタルの水酸化物、及びバルブメタルのフッ化物からなる群から選択される1種類又は2種類以上の化合物(以下、単に「バルブメタル化合物」ともいう)等を含んでもよい。バルブメタル化合物は、環境負荷を小さくしつつ、優れたバリア作用を表面処理層に付与することができる。バルブメタルとは、その酸化物が高い絶縁抵抗を示す金属をいう。バルブメタルとしては、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo及びWからなる群から選ばれる1種類又は2種類以上の金属が挙げられる。バルブメタル化合物としては公知のものを用いてよい。
【0030】
また、バルブメタルの可溶性フッ化物を第1皮膜12に含ませることで、第1皮膜12に自己修復作用を付与することができる。バルブメタルのフッ化物は、雰囲気中の水分に溶け出した後、皮膜欠陥部から露出しているめっき鋼板の表面に難溶性の酸化物又は水酸化物となって再析出し、皮膜欠陥部を埋めることができる。
【0031】
第1皮膜12の厚さは、これに限定されないが、例えば0.1μm以上3.0μm以下である。第1皮膜12が薄すぎると、表面の動摩擦係数μの調整が困難になる場合がある。一方、第1皮膜12の厚さが厚すぎると、第1皮膜12の一部が加工時に摩擦で剥離して抵抗となり、加工性が低下する場合がある。第1皮膜12の厚さの下限は、好ましくは0.2μmであり、より好ましくは0.3μmである。第1皮膜12の厚さの上限は、好ましくは2.0μmであり、より好ましくは1.5μmである。
【0032】
[第2皮膜]
第2皮膜13は、基材鋼板11の面11b側に形成されている。
図1では、第2皮膜13が第3皮膜14の上に形成されている場合を図示しているが、第2皮膜13は、面11bの上に直接形成されていてもよい。すなわち、表面処理鋼板10は、第3皮膜14を備えていなくてもよい。
【0033】
第2皮膜13は、鉛筆硬度が4B又は4Bよりも柔らかい。後述するように、第2皮膜13の鉛筆硬度を4B又は4Bよりも柔らかくし、かつ、第2皮膜13の厚さを1.0μm以上にすることによって、優れた深絞り加工性が得られる。鉛筆硬度は、JIS K 5600(1999年)に準じて測定して得られた値とすることができる。
【0034】
第2皮膜13は、上述した鉛筆硬度の条件を満たすものであれば特に限定されない。第2皮膜13は、有機系の皮膜であってもよいし、無機系の皮膜であってもよいが、上述した鉛筆硬度の条件を満たす観点から、有機樹脂を含む皮膜であることが好ましい。
【0035】
有機樹脂は、上述した第1皮膜12に適用可能な有機樹脂として例示したものと同様に、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等から適宜選択することができる。この中でも、上述した鉛筆硬度の条件を満たす観点から、ウレタン系樹脂が特に好ましい。有機樹脂がウレタン系樹脂の場合の鉛筆硬度は、原料硬度(ポリオール、イソシアネート)、分岐骨格濃度、及びウレタン結合濃度等によって調整可能である。
【0036】
第2皮膜13の厚さは、1.0μm以上である。第2皮膜13の厚さが1.0μm未満であると、優れた深絞り加工性が得られない。第2皮膜13の厚さの下限は、好ましくは1.2μmであり、さらに好ましくは1.3μmである。第2皮膜13の厚さの上限は、特に限定されないが、例えば5.0μmである。第2皮膜13が厚すぎると、加工時に摩擦等で剥離した皮膜が抵抗となり、抵抗が大きくなり過ぎる場合がある。第2皮膜13の厚さの上限は、好ましくは3.0μmであり、さらに好ましくは2.5μmである。
【0037】
[第3皮膜]
第3皮膜14は、基材鋼板11と第2皮膜13との間に形成されている。第3皮膜14は、表面処理鋼板10の耐食性を向上させるための皮膜である。表面処理鋼板10が第3皮膜14を備えることによって、表面処理鋼板10の耐食性をより向上させることができる。一方、優れた深絞り加工性を得るという観点からは、第3皮膜14は必須ではなく、表面処理鋼板10は、第3皮膜14を備えていなくてもよい。
【0038】
第3皮膜14は、4族金属の酸素酸塩とリン酸化合物とを含んでいる。第3皮膜14は、緻密な化成処理皮膜を形成することにより表面処理鋼板10の耐食性を高める。
【0039】
4族金属の例には、Ti、Zr及びHfが含まれる。4族金属の酸素酸塩は、4族金属原子及び酸素原子を含む無機酸の塩である。塩の例には、水素酸塩、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、及びアルカリ土類金属塩等が含まれる。これらのうち、表面処理鋼板10の耐食性をより高める観点からは、4族金属の酸素酸塩は、4族金属原子及び酸素原子を含む無機酸のアンモニウム塩であることが好ましく、特にフッ化チタンアンモニウム及び炭酸ジルコニウムアンモニウムが好ましい。
【0040】
リン酸化合物は、4族金属の酸素酸塩を含む第3皮膜14の密着性を高めることができる。リン酸化合物の例には、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸マンガン、リン酸マグネシウム、及びリン酸アンモニウム等が含まれる。
【0041】
表面処理鋼板10の耐食性を十分に高める観点からは、4族金属の酸素酸塩の付着量は、4族原子換算で0.3mg/m2以上であることが好ましく、0.4mg/m2以上200mg/m2以下であることがより好ましく、0.9mg/m2以上100mg/m2以下であることがさらに好ましい。なお、第3皮膜14が有機樹脂を含むときは、4族金属の酸素酸塩の付着量は、4族原子換算で0.3mg/m2以上20mg/m2以下であることがさらに好ましく、第3皮膜14が有機樹脂を含まないときは、4族金属の酸素酸塩の付着量は、4族原子換算で5mg/m2以上200mg/m2以下であることがさらに好ましい。
【0042】
また、4族金属の酸素酸塩の密着性を高めて、4族金属の酸素酸塩による耐食性の向上効果を十分に奏させる観点からは、リン酸化合物の付着量は、リン原子換算で、4族金属の酸素酸塩に由来する金属原子の付着量の1モル倍以上2モル倍以下であることが好ましく、1.5モル倍以上1.7モル倍以下であることがより好ましい。
【0043】
第3皮膜14は、有機樹脂を含む皮膜であってもよい。有機樹脂は、上述した第1皮膜12に適用可能な有機樹脂として例示したものと同様に、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等から適宜選択することができる。有機樹脂の付着量は、特に限定されないものの、50mg/m2以上2000mg/m2以下であることが好ましく、100mg/m2以上1000mg/m2以下であることがより好ましい。なお、第3皮膜14は、有機樹脂を含まない無機系の皮膜であってもよい。
【0044】
第3皮膜14の厚さは、これに限定されないが、例えば0.05μm以上2.0μm以下である。第3皮膜14の厚さの下限は、好ましくは0.1μmである。第3皮膜14の厚さの上限は、好ましくは1.0μmである。
【0045】
[表面処理鋼板の製造方法]
次に、表面処理鋼板10の製造方法の一例を説明する。
図2は、表面処理鋼板10の製造方法の一例を示すフロー図である。この製造方法は、基材鋼板11を準備する工程(ステップS1)と、基材鋼板11の面11a側に、有機系潤滑剤を含む第1処理液を付与する工程(ステップS2)と、基材鋼板11の面11b側に、第3処理液を付与する工程(ステップS3)と、基材鋼板11の面11b側に、第2処理液を付与する工程(ステップS4)とを備えている。
【0046】
基材鋼板11を用意する(ステップS1)。基材鋼板11は上述のとおり、任意の鋼板を使用することができる。
【0047】
基材鋼板11の一方の面11a側に有機潤滑剤を含む第1処理液を付与する(ステップS2)。面11a側に付与する第1処理液は、乾燥後、第1皮膜12となる処理液である。第1処理液は、第1皮膜12の説明において説明した有機系潤滑剤、及び必要に応じて添加されるその他の添加剤を、水等の溶媒に溶解又は分散させたものである。
【0048】
第1皮膜12の厚さは、第1処理液中の固形分の濃度、及び第1処理液を基材鋼板11に塗布する際のバーコーターの番手等によって調整することができる。第1処理液が有機樹脂を含む場合の有機樹脂の濃度は、これに限定されないが、50.0g/L以上600.0g/L以下とすることができる。有機樹脂の濃度の下限は、好ましくは100.0g/Lである。有機樹脂の濃度の上限は、好ましくは500.0g/Lである。
【0049】
有機系潤滑剤の添加量は、第1処理液中の固形分の1.5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。有機系潤滑剤の添加量が多い程、第1皮膜12の表面の動摩擦係数μが小さくなる傾向がある。有機系潤滑剤の添加量の下限は、好ましくは固形分の2.0質量%である。有機系潤滑剤の添加量の上限は、好ましくは固形分の20質量%であり、さらに好ましくは固形分の18質量%である。
【0050】
第1処理液を面11a側に付与後、第1処理液を乾燥させて溶媒等を除去することで、面11a側に第1皮膜12が形成される。
【0051】
基材鋼板11の他方の面11b側に第3処理液を付与する(ステップS3)。第3処理液は、乾燥後、第3皮膜14となる処理液である。第3処理液は、第2皮膜13の説明において説明した4族金属の酸素酸塩、リン酸化合物、及び必要に応じて添加されるその他の添加剤を、水等の溶媒に溶解又は分散させたものである。
【0052】
4族金属の酸素酸塩の濃度は、これに限定されないが、例えば、4族原子換算で、0.5g/L以上30g/L以下とすることができる。4族金属の酸素酸塩の濃度の下限は、好ましくは、4族原子換算で1.0g/Lである。4族金属の酸素酸塩の濃度の上限は、好ましくは、4族原子換算で24.0g/Lであり、より好ましくは20.0g/Lであり、さらに好ましくは15.0g/Lである。
【0053】
リン酸化合物の量は、リン原子換算で、4族金属の酸素酸塩に由来する金属原子の含有量の1モル倍以上2モル倍以下であることが好ましく、1.5モル倍以上1.7モル倍以下であることがより好ましい。
【0054】
第3処理液が有機樹脂を含む場合の有機樹脂の濃度は、これに限定されないが、50.0g/L以上1000.0g/L以下とすることができる。有機樹脂の濃度の下限は、好ましくは100.0g/Lである。有機樹脂の濃度の上限は、好ましくは500.0g/Lである。
【0055】
第3処理液を面11b側に付与後、第3処理液を乾燥させて溶媒等を除去することで、面11b側に第3皮膜14が形成される。
【0056】
基材鋼板11の他方の面11b側に第2処理液を付与する(ステップS4)。第2処理液は、乾燥後、第2皮膜13となる処理液である。第2処理液は、第2皮膜13の説明において説明した有機樹脂、及び必要に応じて添加されるその他の添加剤を、水等の溶媒に溶解又は分散させたものである。
【0057】
第2皮膜13の厚さは、第1皮膜12の場合と同様に、第2処理液中の固形分の濃度、及び第2処理液を基材鋼板11に塗布する際のバーコーターの番手等によって調整することができる。第2処理液の有機樹脂の濃度は、これに限定されないが、50.0g/L以上600.0g/L以下とすることができる。有機樹脂の濃度の下限は、好ましくは100.0g/Lである。有機樹脂の濃度の上限は、好ましくは500.0g/Lである。
【0058】
第2処理液を面11b側に付与後、第2処理液を乾燥させて溶媒等を除去することで、面11b側に第2皮膜13が形成される。
【0059】
以上の工程によって、表面処理鋼板10が製造される。なお、上述のとおり、表面処理鋼板10は、第3皮膜14を備えていなくてもよい。第3皮膜14を備えていない表面処理鋼板10を製造する場合、第3処理液を付与する工程(ステップS3)を省略すればよい。すなわち、第3処理液を付与する工程(ステップS3)は、任意の工程である。
【0060】
図2では、面11a側を処理してから面11b側を処理するように図示しているが、面11b側を先に処理してもよい。すなわち、第3処理液を付与する工程(ステップS3)又は第2処理液を付与する工程(ステップS4)を、第1処理液を付与する工程(ステップS2)よりも先に行ってもよい。また、面11a側と面11b側とを同時に処理してもよい。
【0061】
[表面処理鋼板の加工方法]
次に、表面処理鋼板10の加工方向の一例を説明する。本発明の一実施形態による表面処理鋼板の加工方法は、上述した表面処理鋼板10をプレス成形する、表面処理鋼板の加工方法である。具体的には、この加工方法は、表面処理鋼板10から採取されたブランク材を用意する工程と、ブランク材が有する第1皮膜を、ダイに接触させる工程と、ブランク材が有する第2皮膜を、ダイ側に押圧する工程と、を備える。
【0062】
ダイの形状や、他方の面の押圧力は、絞り加工、張出し加工、フランジ加工、曲げ加工等の各種加工により製造しようとする加工品の形状等に応じて定めることができる。これらのうち、本実施形態では、深絞り加工が、パンチと接触する肩部で鋼板の破断が従来よりも生じにくいため好ましい。
【0063】
図3A及び
図3Bは、表面処理鋼板10を用いて深絞り加工を行う様子を示す模式図である。
図3Aは深絞り加工前、
図3Bは深絞り加工後の状態を示す。
【0064】
ブランク材210は、基材鋼板11に相当する基材211と、第1皮膜12に相当する第1皮膜212と、第2皮膜13に相当する第2皮膜213と、第3皮膜14に相当する第3皮膜214とを有する。深絞り用金型220において、ブランク材210は、第1皮膜212が絞り用ダイ222と接触するように配置され、第2皮膜213が皺押さえ部材224によって絞り用ダイ222側に押圧されることにより、絞り用ダイ222に対して固定される。
【0065】
絞り用ダイ222は、中央に開口部222aを有し、皺押さえ部材224は、中央に絞り用ダイ222の開口部222aと略同一形状の開口部224aを有する。絞り用ダイ222と皺押さえ部材224とは、これらの開口部222a及び開口部224aの位置が一致するように配置される。
【0066】
この状態で、皺押さえ部材224の開口部224aから絞り用パンチ226を挿入し、ブランク材210の第2皮膜213に接触させる。さらに、絞り用パンチ226をブランク材210の第1皮膜212側に押圧していくと、ブランク材210は絞り用ダイ222の開口部222aの内部へと押し込まれて流入していき、開口部222aの形状に加工される。
【0067】
このとき、ブランク材210は、第1皮膜212の表面の動摩擦係数μが小さいため、絞り用ダイ222と接触している領域212bが絞り用ダイ222に対して滑りやすく、領域212bが周囲部から開口部222aの内部へと流入していきやすい。また、ブランク材210は、第2皮膜213が柔らかく変形しやすいため、第2皮膜213が抵抗となり、絞り用パンチ226と接触している領域213bが開口部222aの外側方向へと流出しにくい。そのため、ブランク材210からは、絞り加工時に開口部222aの内部に十分に鋼板が流入し、かつ流入した鋼板が留まりやすい(逆流出しにくい)。これによって、十分な厚みを有する加工品を得ることができ、加工品の厚みが薄くなり強度が低くなることによる破断等の加工不良が生じにくい。なお、第2皮膜213の厚さが1.0μm未満であると、十分な抵抗が得られず、上述した効果が十分に得られない。
【0068】
このような観点から、本実施形態では、表面処理鋼板10の第1皮膜12の表面の動摩擦係数μを0.10以下とし、表面処理鋼板10の第2皮膜の鉛筆硬度を4B又は4Bよりも柔らかくし、かつ第2皮膜13の厚さを1.0μm以上にする。第1皮膜12の表面の動摩擦係数の上限は、好ましくは0.08であり、さらに好ましくは0.06である。第2皮膜13の鉛筆硬度は、より好ましくは、4Bよりも柔らかい。第2皮膜13の厚さの下限は、好ましくは1.2μmであり、さらに好ましくは1.3μmである。
【0069】
また、表面処理鋼板10は、コイル状に巻き取られた状態で保管されることが多い。表面処理鋼板10がコイル状に巻き取られたとき、第1皮膜12と第2皮膜13とが接触する。本実施形態の構成によれば、第2皮膜13が柔らかく変形しやすいため、第1皮膜12と第2皮膜13との間の滑りが抑制される。これによって、コイルの巻きずれやコイル潰れのリスクを低減することができる。表面処理鋼板は、好ましくは、第1皮膜12と第2皮膜13との間の静摩擦係数が0.14以上である。
【0070】
以上、本発明の一実施形態による表面処理鋼板10、その製造方法の一例、及びその加工方法の一例を説明した。本実施形態によれば、優れた深絞り加工性を有する表面処理鋼板が得られる。上記では、表面処理鋼板10が第3皮膜14を備えている場合を説明したが、上述のとおり、優れた深絞り加工性を得るという観点からは、第3皮膜14は必須ではなく、表面処理鋼板10は、第3皮膜14を備えていなくてもよい。
【実施例0071】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0072】
[表面処理鋼板の作製]
板厚0.6mmの普通鋼の両面に溶融Zn-6質量%Al-3質量%Mgめっき層(めっき付着量60g/m2)を形成して、めっき鋼板1とした。
【0073】
板厚0.6mmの普通鋼の両面に溶融Zn-11質量%Al-3質量%Mgめっき層(めっき付着量60g/m2)を形成して、めっき鋼板2とした。
【0074】
板厚0.6mmの普通鋼の両面に溶融Zn-0.1質量%Alめっき層(めっき付着量60g/m2)を形成して、めっき鋼板3とした。
【0075】
板厚0.6mmの普通鋼の両面に溶融Zn-55質量%Alめっき層(めっき付着量60g/m2)を形成して、めっき鋼板4とした。
【0076】
[第1処理液の調製]
255.0g/Lのウレタン樹脂(有機樹脂)と45.0g/Lのポリエチレン系潤滑剤(有機系潤滑剤)とを含有する処理液No.1の処理液を調製した。処理液No.1の処理液の固形分濃度は30.0質量%であり、有機系潤滑剤の添加量は固形分の15.0質量%である。
【0077】
270.0g/Lのウレタン樹脂(有機樹脂)と30.0g/Lのポリエチレン系潤滑剤(有機系潤滑剤)とを含有する処理液No.2の処理液を調製した。処理液No.2の処理液の固形分濃度は30.0質量%であり、有機系潤滑剤の添加量は固形分の10.0質量%である。
【0078】
以下同様に、有機樹脂の種類及び添加量、並びに有機系潤滑剤の種類及び添加量を変えて処理液No.3~13の処理液を調製した。処理液No.13の処理液には、有機系潤滑剤を添加しなかった。表1に、処理液No.1~13の処理液の、有機樹脂の種類及び添加量、並びに有機系潤滑剤の種類及び添加量を示す。
【0079】
【0080】
[第3処理液の調製]
金属原子換算で10.0g/Lのフッ化チタンアンモニウム(Tiの酸素酸塩)と、リン原子換算で12.0g/Lのリン酸アンモニウム(リン酸化合物)とを含有する処理液No.14の処理液を調製した。処理液No.14の処理液中の、4族金属酸素酸塩に由来する金属原子(Ti)のモル濃度に対する、リン酸化合物が有するリン原子のモル濃度の比(リン原子のモル濃度/4族金属のモル濃度)は、1.9である。
【0081】
金属原子換算で1.1g/Lの炭酸ジルコニウムアンモニウム(Zrの酸素酸塩)と、リン原子換算で0.6g/Lのリン酸アンモニウム(リン酸化合物)と、483.0g/Lのウレタン樹脂とを含有する処理液No.15の処理液を調製した。処理液No.15の処理液中の、4族金属酸素酸塩に由来する金属原子(Zr)のモル濃度に対する、リン酸化合物が有するリン原子のモル濃度の比(リン原子のモル濃度/4族金属のモル濃度)は、1.5である。
【0082】
以下同様に、4族金属の種類及び添加量、リン酸化合物の添加量、及び有機樹脂の添加量を変えて処理液No.16~19の処理液を調製した。処理液No.16の処理液には、有機樹脂を添加しなかった。処理液No.17の処理液には、4族金属を添加しなかった。処理液No.18の処理液には、リン酸化合物を添加しなかった。処理液No.19の処理液には、4族金属及びリン酸化合物を添加しなかった。表2に、処理液No.14~19の処理液の、4族金属の種類及び添加量、リン酸化合物の添加量、並びに有機樹脂の種類及び添加量を示す。
【0083】
【0084】
[第2処理液の調製]
300.0g/Lのウレタン樹脂(有機樹脂)を含有する処理液を調製した。原料硬度、分岐骨格濃度、及びウレタン結合濃度の異なるウレタン樹脂を使用して、5種類の処理液(ウレタンA~E)を調製した。表3に、ウレタンA~Eの処理液の原料硬度、分岐骨格濃度、ウレタン結合濃度、添加量、及び鉛筆硬度を示す。
【0085】
【0086】
[表面処理]
めっき鋼板に第1皮膜、第2皮膜、及び第3皮膜を形成して、No.1~34の表面処理鋼板を製造した。具体的には、めっき鋼板1~3の一方の面に処理液No.1~13のいずれかの処理液を塗布し、到達板温が150℃になるまでオーブンで乾燥させて第1皮膜を形成した。その後、めっき鋼板の他方の面に処理液No.14~19のいずれかの処理液を塗布し、到達板温が150℃になるまでオーブンで乾燥させて第3皮膜を形成した。第3皮膜形成後、板温が常温になってから、第3皮膜の上にウレタンA~Eのいずれかの処理液を塗布し、到達板温が150℃になるまでオーブンで乾燥させて第2皮膜を形成した。第2皮膜の厚さは、バーコーターの番手で調整した。
【0087】
第1皮膜、第2皮膜、及び第3皮膜の厚さは、各表面処理鋼板からサンプルを採取してエポキシ樹脂に埋め込み、断面を研磨して走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して測定した。
【0088】
表4及び表5に、No.1~34の表面処理鋼板の製造に用いためっき鋼板の種類、各皮膜の形成に用いた処理液の種類、及び各皮膜の厚さ(膜厚)を示す。No.1の表面処理鋼板は、第3皮膜を形成しなかった。No.28の表面処理鋼板は、第2皮膜を形成しなかった。
【0089】
【0090】
【0091】
[第1皮膜の動摩擦係数μ]
JIS K 7125(1999年)に準じて、No.1~34の表面処理鋼板の第1皮膜の動摩擦係数μを測定した。測定機として、新東科学株式会社製、HEIDEN TYPE:14を使用した。固定試験片としてNo.1~34の表面処理鋼板を80mm×200mmの大きさに切り出して使用した。移動試験片として10mmφのSUS製鋼球を使用した。分銅により移動試験片に1Nの荷重をかけた状態で、摺動速度150mm/minで100mmの距離を移動試験片に移動させ、動摩擦係数μを測定した。
【0092】
[第2皮膜の鉛筆硬度]
JIS K 5600(1999年)に準じて、No.1~34の表面処理鋼板の第2皮膜の鉛筆硬度を測定した。測定機として、コーティック社製、TQC ISO 鉛筆ひっかき硬度試験機VF2391を使用し、鉛筆は日本塗料検査協会認定三菱uni(登録商標)6B~6Hを使用した。試験片としてNo.1~34の表面処理鋼板を80mm×200mmの大きさに切り出して使用した。なお、第2皮膜を形成しなかったNo.28の表面処理鋼板については、第3皮膜の鉛筆硬度を測定した。
【0093】
[加工性]
打ち抜き用パンチを用いて、No.1~34の表面処理鋼板から、径89mmφの円盤状のブランク材を打ち抜いた。
【0094】
上記ブランク材を用いて、パンチ径40mmφ、パンチ肩半径5mmR、ダイ内径42mmφ、ダイ肩半径3.0mmRの加工装置を用いて、絞り比(ブランクの径/パンチ径)2.2、しわ押さえ力4.9kNの条件で、円筒絞り加工を行った。所定の深さまで加工(絞り抜け)できた場合、加工性を良(○)と評価し、途中で割れが発生した場合、加工性を不良(×)と評価した。
【0095】
[耐食性]
No.1~34の表面処理鋼板を塩水噴霧試験機に投入し、72時間後の表面(第1皮膜側)及び裏面(第2皮膜側)への白錆発生面積率を求めた。両面ともに白錆発生面積率が10%以下であった場合、耐食性を良(○)と評価し、いずれかの面の白錆発生面積率が10%を超えた場合、耐食性を不良(×)と評価した。
【0096】
[コイル巻取性]
コイル巻取性の評価は、第1皮膜と第2皮膜との間の静摩擦係数を測定することによって行った。具体的には、
図4に示す方法で、第1皮膜と第2皮膜との間の静摩擦係数を測定した。No.1~34の表面処理鋼板から、幅30mm×長さ300mmの引き抜き用供試サンプル110と、各々が幅30mm×長さ40mmの押さえ用供試サンプル120a及び押さえ用供試サンプル120bと、を切り出した。押さえ用供試サンプル120a及び押さえ用供試サンプル120bは、それぞれ、両面テープ130a及び両面テープ130bによって取付金型140a及び取付金型140bに接着させた。
【0097】
引き抜き用供試サンプル110の表面(第1皮膜)に押さえ用供試サンプル120aの裏面(第2皮膜)が、引き抜き用供試サンプル110の裏面(第2皮膜)に押さえ用供試サンプル120bの表面(第1皮膜)が、それぞれ接触するように、同一水平面上に対向して配置した押さえ用供試サンプル120a及び押さえ用供試サンプル120bの間に引き抜き用供試サンプル110を配置した。さらに、引き抜き用供試サンプル110の両側から押さえ用供試サンプル120a及び押さえ用供試サンプル120bを押し当て、取付金型140a及び取付金型140bを介して、押さえ用供試サンプル120a及び押さえ用供試サンプル120bを引き抜き用供試サンプル110側に600kgfの荷重で押圧した。
【0098】
この状態で、引き抜き用供試サンプル110を垂直方向に100mm/minの速度で引き抜き、引き抜き直後に印加されていた、引き抜き用供試サンプル110を引き抜くための力を測定した。そして、引き抜き用供試サンプル110を引き抜くための力を、押さえ用供試サンプル120a及び押さえ用供試サンプル120bを引き抜き用供試サンプル110側に押圧した荷重(600kgf)で除算して、静摩擦係数を求めた。得られた静摩擦係数が0.14より大きい場合、コイル巻取性を良(○)と評価し、静摩擦係数が0.14以下である場合、コイル巻取性を不良(×)と評価した。
【0099】
表6に、No.1~34の表面処理鋼板の評価結果を示す。
【0100】
【0101】
No.1~27の表面処理鋼板は、第1皮膜の表面の動摩擦係数μが0.10以下であり、第2皮膜の鉛筆硬度が4B又は4Bよりも柔らかく、かつ、第2皮膜の厚さが1.0μm以上であった。これらの表面処理鋼板は、加工性及びコイル巻取性が良好であった。また、所定の第3皮膜を備えるNo.2~20、及びNo24~27は、耐食性も良好であった。
【0102】
No.28の表面処理鋼板は、加工性が劣っていた。これは、この表面処理鋼板が第2皮膜を備えていなかったためと考えられる。
【0103】
No.29及び30の表面処理鋼板は、加工性及びコイル巻取性が劣っていた。これは、これらの表面処理鋼板の第1皮膜の動摩擦係数μが大きすぎたためと考えられる。動摩擦係数μが大きかったのは、有機系潤滑剤が添加されていないか、添加量が不十分であったためと考えられる。
【0104】
No.31、32、及び34の表面処理鋼板は、加工性が劣っていた。これは、これらの表面処理鋼板の第2皮膜の鉛筆硬度が4Bよりも硬かったためと考えられる。
【0105】
No.33の表面処理鋼板は、加工性が劣っていた。これは、この表面処理鋼板の第2皮膜が薄すぎたためと考えられる。
【0106】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示にすぎない。よって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。