IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIの特許一覧

特開2023-141800ステアリングロボットの異常検知方法及び装置
<>
  • 特開-ステアリングロボットの異常検知方法及び装置 図1
  • 特開-ステアリングロボットの異常検知方法及び装置 図2
  • 特開-ステアリングロボットの異常検知方法及び装置 図3
  • 特開-ステアリングロボットの異常検知方法及び装置 図4
  • 特開-ステアリングロボットの異常検知方法及び装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141800
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ステアリングロボットの異常検知方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20230928BHJP
   B62D 1/04 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
G01M17/007 B
B62D1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048303
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】香月 良夫
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DA11
(57)【要約】
【課題】二重化された異常検出機能を実現することでより安全なステアリングロボットを実現可能な、ステアリングロボットの異常検知方法を提供する。
【解決手段】ステアリングロボットは、ステアリングホイールと共に回転する治具をアクチュエータによって回転させることで操舵する。アクチュエータの制御信号に基づいて治具の目標回転位置が求められる。目標回転位置とステアリングロボットの内界センサである回転センサによって検出された治具の第一回転位置との第一回転差(ステップS2)、及び、目標回転位置と治具を外部から監視する光学センサによって検出された治具の第二回転位置との第二回転差(ステップS5)が監視される。第一回転差がその第一閾値以上である場合(ステップS4YES)又は第二回転差がその第二閾値以上である場合(ステップS6YES)に、ステアリングロボットに異常が生じていると判断される(ステップS7)。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングロボットの異常検知方法であって、
ステアリングホイールに取り付けられて前記ステアリングホイールと共に回転する前記ステアリングロボットの治具を前記ステアリングロボットのアクチュエータを用いて回転させることで前記ステアリングホイールを回転させ、
前記アクチュエータの制御信号に基づいて前記治具及び前記ステアリングホイールの目標回転位置を求め、
前記ステアリングロボットの内界センサである回転センサによって検出された前記治具及び前記ステアリングホイールの第一回転位置と前記目標回転位置との第一回転差を監視すると共に、前記治具又は前記ステアリングホイールを外部から監視する光学センサによって検出された前記治具又は前記ステアリングホイールの第二回転位置と前記目標回転位置との第二回転差を監視し、
前記第一回転差がその第一閾値以上である場合、又は、前記第二回転差がその第二閾値以上である場合に、異常が生じていると判断する、ステアリングロボットの異常検知方法。
【請求項2】
一回の異常判断時において、前記第二回転差が前記第二閾値以上であるかを判定するよりも先に、前記第一回転差が前記第一閾値以上であるかを判定する、請求項1に記載のステアリングロボットの異常検知方法。
【請求項3】
前記光学センサが、前記治具又は前記ステアリングホイールの映像又は画像を撮影する光学カメラである、請求項1又は2に記載のステアリングロボットの異常検知方法。
【請求項4】
前記光学センサが、前記治具又は前記ステアリングホイールの形状を検出するLiDARスキャナである、請求項1又は2に記載のステアリングロボットの異常検知方法。
【請求項5】
前記治具又は前記ステアリングホイール上の回転に伴って位置が変わる部位に、前記光学センサで検出可能なマーキングが施される、請求項1~4のいずれか一項に記載のステアリングロボットの異常検知方法。
【請求項6】
ステアリングロボットの異常検知装置であって、
ステアリングホイールに取り付けられて前記ステアリングホイールと共に回転する治具、前記治具を回転させるアクチュエータ、及び、前記治具及び前記ステアリングホイールの第一回転位置を検出する内界センサとしての回転センサを有する前記ステアリングロボットと、
前記治具又は前記ステアリングホイールを外部から監視する光学センサと、
前記ステアリングロボットの異常を判断するコントローラとを備えており、
前記コントローラが、前記アクチュエータの制御信号に基づいて前記治具及び前記ステアリングホイールの目標回転位置を求め、前記回転センサによって検出された前記第一回転位置と前記目標回転位置との第一回転差を監視すると共に、前記光学センサによって検出された第二回転位置と前記目標回転位置との第二回転差を監視し、前記第一回転差がその第一閾値以上である場合、又は、前記第二回転差がその第二閾値以上である場合に、異常が生じていると判断するように構成されている、ステアリングロボットの異常検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステアリングロボットの異常検知方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記非特許文献1及び下記特許文献1に開示されているようなステアリングロボットが知られている。これらのステアリングロボットは、車両のステアリングホイールに取り付けられる治具と、車体に固定される本体とを備えている。治具はステアリングホイールに固定されてステアリングホイールと共に回転する。アクチュエータによって本体に対して治具を動かすことで、ステアリングホイールを回転させることができる。ステアリングロボットは、治具の回転、即ち、ステアリングホイールの回転を制御するコントローラも備えている。これらのステアリングロボットは、主として、テストコースなどで行われる車両運動性能試験において、所定のステアリングホイール操作の再現性を向上するために用いられているようである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】株式会社東陽テクニカ取り扱い、HI-TEC s.r.l社製“ステアリングロボットシステム”,[online],[令和2年4月13日検索],インターネット〈URL:https://www.toyo.co.jp/mecha/products/detail/srobot.html〉
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2012-532766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したステアリングロボットにより、遠隔操作や自動運転が可能となる。現行法規ではこのようなステアリングロボットに操舵制御の全てを任せての公道走行は不可能である。しかし、工場敷地などの私有地内での運搬など、ステアリングロボットを用いて車両を自動走行させることは実現可能である。しかし、私有地内の自動走行であっても、安全上、ステアリングロボットの異常は検知したい。上述したステアリングロボットは、アクチュエータとしてのモータの故障をモータドライバで検知する自己診断機能を備えてはいる。しかし、自己診断機能にバグや故障があると異常を検知できない可能性がある。このため、ステアリングロボットの異常検知を二重化したいという要望がある。
【0006】
本開示の目的は、二重化された異常検出機能を実現することでより安全なステアリングロボットを実現することのできる、ステアリングロボットの異常検知方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るステアリングロボットの異常検知方法では、ステアリングホイールに取り付けられて前記ステアリングホイールと共に回転する前記ステアリングロボットの治具を前記ステアリングロボットのアクチュエータを用いて回転させることで前記ステアリングホイールを回転させ、前記アクチュエータの制御信号に基づいて前記治具及び前記ステアリングホイールの目標回転位置を求め、前記ステアリングロボットの内界センサである回転センサによって検出された前記治具及び前記ステアリングホイールの第一回転位置と前記目標回転位置との第一回転差を監視すると共に、前記治具又は前記ステアリングホイールを外部から監視する光学センサによって検出された前記治具又は前記ステアリングホイールの第二回転位置と前記目標回転位置との第二回転差を監視し、前記第一回転差がその第一閾値以上である場合、又は、前記第二回転差がその第二閾値以上である場合に、前記ステアリングロボットに異常が生じていると判断する。
【0008】
ここで、一回の異常判断時において、前記第二回転差が前記第二閾値以上であるかを判定するよりも先に、前記第一回転差が前記第一閾値以上であるかを判定してもよい。
【0009】
また、前記光学センサが、前記治具又は前記ステアリングホイールの映像又は画像を撮影する光学カメラであってもよい。
【0010】
あるいは、前記光学センサが、前記治具又は前記ステアリングホイールの形状を検出するLiDARスキャナであってもよい。
【0011】
前記治具又は前記ステアリングホイール上の回転に伴って位置が変わる部位に、前記光学センサで検出可能なマーキングが施されてもよい。
【0012】
本開示に係るステアリングロボットの異常検知装置は、ステアリングホイールに取り付けられて前記ステアリングホイールと共に回転する治具、前記治具を回転させるアクチュエータ、及び、前記治具及び前記ステアリングホイールの第一回転位置を検出する内界センサとしての回転センサを有する前記ステアリングロボットと、前記治具又は前記ステアリングホイールを外部から監視する光学センサと、前記ステアリングロボットの異常を判断するコントローラとを備えており、前記コントローラが、前記アクチュエータの制御信号に基づいて前記治具及び前記ステアリングホイールの目標回転位置を求め、前記回転センサによって検出された前記第一回転位置と前記目標回転位置との第一回転差を監視すると共に、前記光学センサによって検出された第二回転位置と前記目標回転位置との第二回転差を監視し、前記第一回転差がその第一閾値以上である場合、又は、前記第二回転差がその第二閾値以上である場合に、前記ステアリングロボットに異常が生じていると判断するように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る異常検知装置の構成を示す概略平面図である。
図2】ステアリングホイールに取り付けられた上記装置の治具の正面図である。
図3】上記治具の変形例である。
図4】上記装置のブロック図である。
図5】実施形態に係る異常検知方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、ステアリングロボット1の異常検知装置の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
ステアリングロボット1が取り付けられた車両は、例えば工場などの事業所内で利用されるトラックであり、図1はトラックのキャビンの平面図である。図1に示されるように、本実施形態の異常検知装置は、ステアリングロボット1と、コントローラ2と、光学センサとしての光学カメラ3とを備えている。ステアリングロボット1は、公知のステアリングロボットであり、例えば、上述した[非特許文献1]に開示されているロボットである。従って、ステアリングロボット1については概要のみを説明し、駆動機構などのその構成の詳しい説明は省略する。
【0016】
車両は、ステアリングロボット1によって乗員が搭乗することなく遠隔運転や自動運転が可能である。図示されていないが、車両には、ブレーキペダルやアクセルペダルを操作するペダルロボット及びギアセレクタを操作するギアロボットも搭載されている。ステアリングロボット1はこれらのロボットと協調制御される。また、車両は、ステアリングロボット1が装着された状態で運転席4に乗員が搭乗することも可能であり、ステアリングロボット1を起動せずに乗員が運転することも可能である。ステアリングロボット1を起動させた状態で乗員が運転することも可能であり、この際に乗員の運転を記録することもできる。
【0017】
ステアリングロボット1は、ステアリングホイール5に取り付けられて、ステアリングホイール5と共に回転する治具10を備えている。本実施形態の治具10は、ステアリングホイール5のリムの前面に取り付けられるリング形状を有している。上述したように乗員が運転する場合には、この乗員即ち運転者が治具10をステアリングホイールのように操作することができるように、治具10はリング形状を有している。ただし、乗員による運転を考慮しないのであれば、ステアリングホイール5と共に回転する治具10はリング形状でなくてもよい。
【0018】
ステアリングロボットは、治具10を保持するブラケット11も備えている。ブラケット11には、治具10を回転させるためのアクチュエータとしてのモータ12(図4参照)が内蔵されている。本実施形態では、ブラケット11は、フロントウィンドシールド内面に吸盤によって固定されている。モータ12で治具10を回転させるには、その反力を受け止める必要があり、車体に固定されたブラケット11でこの反力が受け止められる。なお、ブラケット11は、車体に固定されればよく、吸盤による固定に限定されない。例えば、ブラケット11は、フロア上面とルーフ又はウィンドシールドの内面との間に設けられたポールとこのポールから治具10に向けて延設されたアームとで構成されてもよい。
【0019】
本実施形態では、異常検知装置のコントローラ2は、運転席4と助手席の間のフロア上に設置されている。本実施形態のコントローラ2は、ステアリングロボット1の操舵制御のコントローラとしても機能している。コントローラ2は、CPU、ROM、RAM、SSD又はHHDなどのストレージ、I/Oデバイスなどからなる電子デバイスである。上述したステアリングロボット1はこのコントローラ2に接続されている。コントローラ2はステアリングロボット1のコントローラとしても機能するので、ステアリングロボット1に搭載された各種センサの検出結果はコントローラ2によって把握される。また、ステアリングロボット1に搭載された各種アクチュエータもコントローラ2によって制御される。
【0020】
コントローラ2には、治具10又はステアリングホイール5の映像又は画像を撮影する光学カメラ3も接続されている。本実施形態では、光学カメラ3は、運転席4の斜め後方の後部パネルに嵌め込まれたガラスに吸盤によって固定されている。運転席4に乗員が搭乗する場合を考慮して、本実施形態では光学カメラ3は運転席4の斜め後方に配置されている。この位置に光学カメラ3を配置することで、乗員が搭乗していたとしても安定して治具10又はステアリングホイール5を撮影できる。
【0021】
光学カメラ3は、治具10又はステアリングホイール5を外部から監視する光学センサである。本実施形態では光学センサとして光学カメラ3が用いられるが、他の種類の光学センサが用いられてもよい。例えば、光学センサとして、治具10又はステアリングホイール5の形状を検出するLiDAR(Light Detection And Ranging)スキャナが用いられてもよい。なお、LiDARスキャナは、レーザ光を用いる測距センサを用いてスキャンを行って物体の形状を検出する。LiDARスキャナに用いられる測距センサには、ToF(Time of Flight)方式やFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式などがあるが、その方式は限定されない。LiDARスキャナには、物体形状と共に物体表面の輝度も測定することができるものもある。
【0022】
本実施形態では、光学カメラ3やLiDARスキャナなどの光学センサによって、治具10又はステアリングホイール5を外部から監視するが、具体的には、それらの回転位置を監視している。ここで、光学カメラ3では、治具10又はステアリングホイール5を十分に撮影できない場合がある。例えば、ステアリングホイール5が治具10に隠れてしまう場合は、ステアリングホイール5全体を十分に撮影できない。しかし、治具10及びステアリングホイール5は一緒に回転するので、何れか一方を監視できれば、治具10及びステアリングホイール5の回転位置を把握できる。本実施形態では、ステアリングホイール5上に治具10が取り付けられているため、光学カメラ3によって治具10の回転位置を検出する。
【0023】
以下、光学カメラ3による治具10の監視を例にして説明する。なお、光学カメラ3は静止画カメラでもよいが、本実施形態では光学カメラ3は映像を取得する。また、本実施形態の光学カメラ3はカラー映像を取得する。ただし、光学カメラ3は赤外線映像を取得するものでもよい。
【0024】
まず、光学カメラ3が設置されると初期校正が行われる。これは、光学カメラ3によって取得された映像をコントローラ2が処理して映像中の治具10の回転位置を検出するために必要な初期工程である。光学カメラ3の設置状態によって、映像フレーム中の治具10の位置が変わったり、映像の明るさが変わったりするので、校正が必要となる。さらに、映像中の治具10の外観、即ち、形状等から回転位置を検出するために、車両が直進状態のときの映像などに基づいて、回転位置の校正も行われる。本実施形態では、図2に示されるように、治具10の回転位置を検出しやすくするために、治具10上の回転に伴って位置が変わる部位に、光学カメラ3で検出可能なマーキング13が施されている。
【0025】
本実施形態では、マーキング13は黄色の帯状であり、直進状態のステアリングホイール5における、時計で言う12時の位置にマーキング13が設けられている。本実施形態では、一つのマーキング13のみが設けられたが、複数のマーキング13が設けられてもよい。複数のマーキング13を設ける場合は各マーキングの色を変えることが好ましい。光学カメラ3の映像に基づいて治具10の回転位置を検出するが、マーキング13が一つだけであると、画角によってはマーキング13が鮮明に映らなかったり、外光の影響でマーキング13が鮮明に映らなかったりすることが考えられる。このような場合を考慮して、複数のマーキング13を設けることで、何れかのマーキング13を鮮明に映せることになり、検出精度が向上する。
【0026】
図3に変形例のステアリングホイール5及び治具10を示す。この変形例では、光学センサとしての光学カメラ3で治具10ではなくステアリングホイール5の回転位置が検出される。このため、治具10ではなくステアリングホイール5に三つのマーキング13が設けられている。この変形例のように、治具10ではなくステアリングホイール5を光学カメラ3によって外部から監視してもよい。あるいは、一体で回転するステアリングホイール5及び治具10の両方を光学カメラ3によって外部から監視してもよい。
【0027】
上述したように、治具10の回転位置が光学カメラ3を用いて検出されるが、その回転位置は、ステアリングロボット1の内界センサによっても検出される。ここで用いられる内界センサは、ステアリングロボット1の一部である治具10の回転位置を検出する回転センサであり、より具体的には、モータ12のエンコーダ14である。本実施形態では、エンコーダ14はモータ12に内蔵されており、モータ12の回転位置をエンコーダ14によって検出できる。なお、エンコーダ14ではなくポテンショメータなどの他の形式の回転センサが用いられてもよい。なお、以下、区別のために、エンコーダ14を用いて検出した回転位置を第一回転位置と呼び、光学カメラ3を用いて検出した回転位置を第二回転位置と呼ぶ。
【0028】
エンコーダ14によって検出される第一回転位置は、異常検知装置による異常検知制御に用いられるが、ステアリングロボット1の通常の操舵制御にも用いられている。また、上述したように、コントローラ2は、異常検知制御以前に、ステアリングロボット1の操舵制御も行っている。操舵制御では、コントローラ2は、ステアリングホイール5を所望の回転状態で回転させるべく、制御信号をモータ12に送出して治具10を回転させる。以下、この制御信号に基づいて求められる治具10の回転位置を目標回転位置と呼ぶ。コントローラ2は、操舵制御において、求めた目標回転位置を用いてフィードバック制御を行っている。
【0029】
本実施形態の異常検知装置は、上述した目標回転位置と第一回転位置との回転差を用いた異常検知と、目標回転位置と第二回転位置との回転差を用いた異常検知とを行っており、異常検知機能が二重化されている。区別のため、目標回転位置と第一回転位置との回転差を第一回転差と呼び、目標回転位置と第二回転位置との回転差を第二回転差と呼ぶ。図4に、異常検知装置のブロック図を示す。図4中の上の列が、ステアリングロボット1の回転センサとしてのエンコーダ14を用いて第一回転差に基づいて異常検知を行う機能を示している。一方、図4中の下の列が、ステアリングロボット1を外部から監視する光学センサとしての光学カメラ3を用いて第二回転差に基づいて異常検知を行う機能を示している。
【0030】
回転位置は、より具体的には治具10及びステアリングホイール5の回転角度として検出される。通常、ステアリングホイール5は、時計回りのフルロック位置から反時計回りのフルロック位置まで、3~4回転する。従って、ステアリングホイール5が図2の状態であっても直進状態(0°)であるとは限らず、時計回りに一回転した状態(+360°)である場合もあれば、反時計回りに一回転した状態(-360°)である場合もある。エンコーダ14はアブソリュート式であり、これらの回転角度を区別して検出できる。なお、エンコーダ14がインクリメンタル式であっても、エンコーダ14の出力信号を処理することで、これらの回転角度を区別して検出することが可能である。
【0031】
一方、治具10を外部から監視する光学センサとしての光学カメラ3では、ある時点の映像、即ち静止画像データではこれらの回転角度を区別できない。しかし、本実施形態では、光学カメラ3は映像、即ち連続データを検出し、コントローラ2はこの連続データを処理しているので、これらの回転角度を区別できる。また、光学カメラ3が映像でなく静止画像を取得するものであっても、異常判断は所定の時間間隔で行われるので、所定の時間間隔ごとの複数の静止画像データを連続データとして扱えば、これらの回転角度を区別できる。
【0032】
あるいは、連続データとして処理しない場合でも、第一回転位置と第二回転位置とが一回転分もずれることは稀であり、そこまでずれる前に異常であると判断される。そこで、光学カメラ3に基づく第二回転位置の検出に際して、エンコーダ14に基づく第一回転位置の検出結果を利用してもよい。例えば、光学カメラ3で取得した静止画像データから第二回転位置を検出する際に、時計方向回転か反時計方向の回転か、直進状態から何回転目かについては、第一回転位置の検出結果を利用することも可能である。
【0033】
図4に示されるように、エンコーダ14からの出力は、コントローラ2のステアリング角度算出部20によって、治具10及びステアリングホイール5の第一回転位置が算出される。算出された第一回転位置に基づいて、ステアリング角度差算出部21によって、目標回転位置と第一回転位置との第一回転差が算出される。算出された第一回転差に基づいて、異常判定部22によって、異常が発生しているか否かが判定される。
【0034】
具体的には、第一回転差が所定の閾値以上であるか否かが判断される。第一回転差のついてのこの所定閾値を区別のために第一閾値と呼ぶ。第一回転差が第一閾値以上であるということは、目標位置とエンコーダ14によって検出された第一回転位置との乖離が大きいということである。この場合、ステアリングロボット1が正常に機能していない、あるいは、路面側の影響を受けるなどして操舵制御結果が所望の結果とならなかったと判断できる。即ち、何らかの異常が発生したと判定される。
【0035】
一方の光学カメラ3に基づく異常判断についても同様である。光学カメラ3の映像がコントローラ2のステアリング角度算出部23によって画像処理され、治具10及びステアリングホイール5の第二回転位置が算出される。この画像処理では、上述したマーキング13が設けられると検出精度向上させることができる。算出された第二回転位置に基づいて、ステアリング角度差算出部24によって、目標回転位置と第二回転位置との第二回転差が算出される。算出された第二回転差に基づいて、異常判定部25によって、異常が発生しているか否かが判定される。
【0036】
具体的には、第二回転差が所定の第二閾値以上であるか否かが判断される。第二回転差が第一閾値以上である場合、異常が発生したと判定される。なお、第一閾値と第二閾値とは同じ値であってもよいし、異なってもよい。エンコーダ14の検出結果に基づくコントローラ2での処理と光学カメラ3の検出結果に基づくコントローラ2での処理とでは処理方法が異なるので、第一閾値と第二閾値とを異ならせた方が異常判定の精度が向上する場合もあり得る。
【0037】
異常判定部22又は25によって異常であると判定された場合は、異常である旨の信号が異常処理部26に送られ、異常処理部26から異常処理のための制御信号が制御対象であるモータ12に送られる。異常処理の内容については後述する。
【0038】
図5に上述した異常検知装置による異常検出方法のフローチャートを示す。図5のフローチャートに示される一回の異常判定は、所定時間間隔ごとに、例えば、10~20Hzで繰り返し行われる。本実施形態では、まず、ステップS1において、エンコーダ14の検出結果に基づいて、第一回転位置としてのステアリング角度が算出される。次に、ステップS2において、目標回転位置と第一回転位置との第一回転差に相当するステアリング角度差が算出される。そして、ステップS3において、算出された第一回転差の相当する角度差が第一閾値以上であるか否かが判定される。ステップS3が肯定される場合は、ステップS7において異常処理が行われる。ステップS7の後は、ステップS1に処理が戻される。
【0039】
一方、ステップS3が否定される場合は、ステップS4において、光学カメラ3の検出結果に基づいて、第二回転位置としてのステアリング角度が算出される。次に、ステップS5において、目標回転位置と第二回転位置との第二回転差に相当するステアリング角度差が算出される。そして、ステップS6において、算出された第二回転差の相当する角度差が第二閾値以上であるか否かが判定される。ステップS6が肯定される場合は、ステップS7において異常処理が行われる。ステップS7の後は、ステップS1に処理が戻される。図5のフローチャートは、ステアリングロボット1のシステムが終了される際に同時に終了される。
【0040】
異常が検出された場合のステップS7の異常処理であるが、例えば、ステアリングロボット1による操舵制御を停止させるべく、モータ12に停止指令などの作動指令を送出することが考えられる(図4参照)。なお、車両の遠隔運転や自動運転も同時に停止される場合は、上述した他のロボットとも強調して車両の走行が停止される。キャビン内に警告を表示したり、警告音を発したりしてもよい。上述したように、車両に乗員が搭乗していることもあるので、これらの警告は乗員に対しての警告となる。
【0041】
即ち、本実施形態では、ステアリングロボット1の回転センサとしてのエンコーダ14による異常検知と、ステアリングロボット1を外部から監視する光学センサとしての光学カメラ3による異常検知とで、二重化された異常検知が行なわれる。この結果、より安全なステアリングロボット1を実現できる。
【0042】
特に、本実施形態のステアリングロボット1は、上述した[非特許文献1]に開示されているステアリングロボットを利用している。このため、ステアリングロボット1の内部で異常検知を二重化しようとした場合は、ステアリングロボット1自体の改修が必要となり、二重化された異常検知システムの構築に手間がかかる。しかし、本実施形態のように、ステアリングロボット1に加えて光学カメラ3などの光学センサを加えて異常検知システムを二重化すれば、ステアリングロボット1自体の改修は不要であり、比較的容易に二重化された異常検知システムを構築することができる。また、本実施形態のステアリングロボット1は有人運転も可能であるが、ステアリングロボット1自体を改修すると大型化してしまい、有人運転を行いにくくなることが予想される。しかし、本実施形態では、ステアリングロボット1自体の改修は不要であり、有人運転も可能である。
【0043】
本実施形態の異常検知方法によれば、ステアリングホイール5に取り付けられてステアリングホイール5と共に回転する治具10をアクチュエータとしてのモータ12を用いて回転させることでステアリングホイール5が回転される。モータ12の制御信号に基づいて治具10及びステアリングホイール5の目標回転位置が求められる。内界センサである回転センサとしてのエンコーダ14によって検出された第一回転位置と目標回転位置との第一回転差が監視される。また、治具10又はステアリングホイール5を外部から監視する光学センサとしての光学カメラ3によって検出された第二回転位置と目標回転位置との第二回転差も監視される。そして、第一回転差が第一閾値以上である場合、又は、第二回転差が第二閾値以上である場合に、異常が生じていると判定される。
【0044】
従って、内界センサとしての回転センサによる異常検知と、光学センサによる異常検知とで二重化された異常検知が行なわれるので、より安全なステアリングロボット1を実現できる。そして、一方の異常検知はステアリングロボット1自体の内界センサに基づくものであり、他方の異常検知はステアリングロボット1を外部から監視する光学センサによるものである。このため、ステアリングロボット1の内部及び外部の両方から異常検知を行うことで、より確実な異常検知を行うことができる。
【0045】
ここで、本実施形態によれば、図5のフローチャートに示されるように、一回の異常判断時において、光学カメラ3を用いて第二回転差が第二閾値以上であるかを判定するよりも先に、エンコーダ14を用いて第一回転差が第一閾値以上であるかが判定される。即ち、光学センサとしての光学カメラ3による異常検知よりも、回転センサとしてのエンコーダ14による異常検出を優先する。このため、より早期に異常を検知することができる。また、ステアリングロボット1を外部から監視する光学センサは外光などの影響を受ける可能性があるため、信頼性の高い回転センサによる異常検知を優先することでよってより確実な異常検知を行うことができる。
【0046】
また、上記実施形態では、光学センサが、治具10又はステアリングホイール5の映像又は画像を撮影する光学カメラ3であるので、より低コストに実現できる。そして、当該検知方法のための装置を小型化するのも容易となる。また、近年、画像処理技術は飛躍的に向上しており、監視対象である治具10又はステアリングホイール5に要求される制約が少なく、例えば、形状や反射率などに関する制約が少ない。
【0047】
なお、光学センサは、治具10又はステアリングホイール5の形状を検出するLiDARスキャナであってもよい。この場合は、外光の影響を受けにくく、異常検知精度を向上させることができる。近年、光学カメラ3の感度性能も向上しているが、光学カメラ3を用いる場合は夜間には照明が必要となる場合もあるが、LiDARスキャナであればこのような装備は不要である。
【0048】
また、上記実施形態によれば、治具10又はステアリングホイール5上の回転に伴って位置が変わる部位に、光学カメラ3やLiDARスキャナなどの光学センサで検出可能なマーキング13が施される。このため、光学センサによる第二回転位置の検出精度が向上する。その結果、異常検知精度を向上させることができる。
【0049】
なお、上記実施径形態では、カラー映像を取得する光学カメラ3によりマーキング13の色で精度向上を図った。しかし、光学カメラ3はモノクロの画像又は映像を取得するものでもよく、その場合は、取得した画像又は映像中でのマーキングの輝度が向上するような表面を持つものを用いるなどすればよい。また、上述したが、LiDARスキャナには輝度を検出できるものもあり、この場合も、取得した形状データ中でのマーキングの輝度が向上するような表面を持つものを用いるなどすればよい。さらに、マーキング13は、その色又は輝度ではなく、そのシンボルマークの形状などで検出されてもよい。
【0050】
本実施形態の異常検知装置によれば、コントローラ2は、アクチュエータとしてのモータ12の制御信号に基づいて治具10及びステアリングホイール5の目標回転位置を求めるように構成されている。また、コントローラ2は、回転センサとしてのエンコーダ14によって検出された第一回転位置と目標回転位置との第一回転差を監視するように構成されている。さらに、コントローラ2は、光学センサとしての光学カメラ3によって検出された第二回転位置と目標回転位置との第二回転差も監視するように構成されている。そして、コントローラ2は、第一回転差がその第一閾値以上である場合、又は、第二回転差がその第二閾値以上である場合に、異常が生じていると判断するように構成されている。
【0051】
従って、内界センサとしての回転センサによる異常検知と、光学センサによる異常検知とで二重化された異常検知が行なわれるので、より安全なステアリングロボット1を実現できる。そして、一方の異常検知はステアリングロボット1自体の内界センサに基づくものであり、他方の異常検知はステアリングロボット1を外部から監視する光学センサによるものである。このため、ステアリングロボット1の内部及び外部の両方から異常検知を行うことで、より確実な異常検知を行うことができる。
【0052】
なお、上記実施形態では、治具10がステアリングホイール5の正面側に取り付けられたが、ステアリングホイール5の裏面側に取り付けられてもよい。また、カメラ3は運転席4の斜め後方に設置されたが、ステアリングホイール5の上方などの他の位置に設置されてもよい。特に、トラックなどでは、ステアリングホイール5のリム面が水平に近い場合も多く、この要な場合は上方からの方がステアリングホイール5や治具10の回転位置を監視しやすい。さらに、異常検知装置が搭載される車両は上記実施形態のようなトラックに限定されない。
【0053】
また、本開示によれば、車両の遠隔運転や自動運転の安全性を向上させることができるので、例えば、国際連合が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「強靭なインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、技術革新の拡大を図る。」に貢献することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 ステアリングロボット
2 コントローラ
3 光学カメラ(光学センサ)
5 ステアリングホイール
10 治具
12 モータ(アクチュエータ)
13 マーキング
14 エンコーダ(回転センサ)
図1
図2
図3
図4
図5