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  • 特開-耐摩耗性能を予測する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141840
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】耐摩耗性能を予測する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/085 20180101AFI20230928BHJP
【FI】
G01N23/085
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048370
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】金子 房恵
(72)【発明者】
【氏名】岸本 浩通
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001HA13
2G001LA05
2G001NA08
(57)【要約】
【課題】高分子複合材料の耐摩耗性能を予測する方法を提供する。
【解決手段】硫黄化合物を含有する高分子複合材料に、高輝度X線を照射しX線のエネルギーを変えながら微小領域のX線吸収量を測定することで前記硫黄化合物の分散状態及び化学状態を調べ、前記分散状態及び前記化学状態から前記高分子複合材料中の架橋劣化の不均一状態を数値化することにより、耐摩耗性能を予測する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄化合物を含有する高分子複合材料に、高輝度X線を照射しX線のエネルギーを変えながら微小領域のX線吸収量を測定することで前記硫黄化合物の分散状態及び化学状態を調べ、前記分散状態及び前記化学状態から前記高分子複合材料中の架橋劣化の不均一状態を数値化することにより、耐摩耗性能を予測する方法。
【請求項2】
架橋劣化の不均一状態の数値化が、下記(式1)により算出される不均一度により行われる請求項1記載の耐摩耗性能を予測する方法。
(式1)
[架橋劣化の不均一化度]=SO/SO
(式中、SOは、高分子複合材料中の硫黄凝集構造部分における硫黄酸化物量を表す。SOは、高分子複合材料中のマトリックス部分における硫黄酸化物量を表す。)
【請求項3】
SO/SOの値が1.0に近いほど、高分子複合材料の耐摩耗性能が良好であると予測する請求項2記載の耐摩耗性能を予測する方法。
【請求項4】
SO/SO≦100.0である請求項2又は3記載の耐摩耗性能を予測する方法。
【請求項5】
エネルギー範囲130~280eVの硫黄L殼吸収端における硫黄のX線吸収量、エネルギー範囲2300~3200eVの硫黄K殼吸収端における硫黄のX線吸収量の少なくとも1つを測定する請求項1~4のいずれかに記載の耐摩耗性能を予測する方法。
【請求項6】
高輝度X線は、輝度が1010(photons/s/mrad/mm/0.1%bw)以上である請求項1~5のいずれかに記載の耐摩耗性能を予測する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、耐摩耗性能を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム材料は、硫黄を用いてポリマー同士を橋掛けした架橋構造を形成させることで、強度・機械疲労・繰り返し変形によるエネルギーロスや周波数応答性など、特異な物理特性を発現するため、タイヤや制震材料などに応用され、欠かすことのできない材料となっている。ゴムの強度や機械疲労特性を向上させるポイントの1つとして架橋構造の制御が挙げられる。例えば、熱などによって架橋部分が劣化すると、ポリマーを橋掛けしている硫黄が切断されて物性が低下したり、再架橋してゴムが硬くなり物性が低下するという傾向がある。
【0003】
種々の解析方法として、例えば、特許文献1~4は、高分子複合材料中の架橋の劣化解析方法、高分子複合材料中の架橋構造の可視化方法、各加硫系材料の分散・化学状態の可視化方法、高分子複合材料中の架橋材料等の硬さを測定する方法を開示しているが、更に精密な劣化解析方法の提供が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-115102号公報
【特許文献2】特開2020-027084号公報
【特許文献3】特開2017-201252号公報
【特許文献4】特開2018-178016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、前記課題を解決し、高分子複合材料の耐摩耗性能を予測する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、硫黄化合物を含有する高分子複合材料に、高輝度X線を照射しX線のエネルギーを変えながら微小領域のX線吸収量を測定することで前記硫黄化合物の分散状態及び化学状態を調べ、前記分散状態及び前記化学状態から前記高分子複合材料中の架橋劣化の不均一状態を数値化することにより、耐摩耗性能を予測する方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、硫黄化合物を含有する高分子複合材料に、高輝度X線を照射しX線のエネルギーを変えながら微小領域のX線吸収量を測定することで前記硫黄化合物の分散状態及び化学状態を調べ、前記分散状態及び前記化学状態から前記高分子複合材料中の架橋劣化の不均一状態を数値化することにより、耐摩耗性能を予測する方法であるので、高分子複合材料の耐摩耗性能を精密に予測できる。従って、該方法を用いることで、耐摩耗性能に優れた高分子複合材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】高分子複合材料(劣化後サンプル)の硫黄L殼吸収端付近のマッピング画像の一例。
図2図1の破線箇所の拡大図の一例。
図3】硫黄L殼吸収端付近の各材料のX線吸収スペクトルの一例。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、硫黄化合物を含有する高分子複合材料に、高輝度X線を照射しX線のエネルギーを変えながら微小領域のX線吸収量を測定することで前記硫黄化合物の分散状態及び化学状態を調べ、前記分散状態及び前記化学状態から前記高分子複合材料中の架橋劣化の不均一状態を数値化することにより、耐摩耗性能を予測する方法である。
【0010】
本開示の方法は、先ず、硫黄化合物を含有する高分子複合材料に対し、走査型透過X線顕微鏡(STXM)などを用いて微小領域のX線吸収量を測定することで、硫黄化合物の分散(硫黄凝集構造など)の可視化及び化学状態の解析を行い、架橋劣化の証拠となる硫黄酸化物(SOx)などの量を算出する。そして、高分子複合材料中の架橋劣化の証拠(SOxなど)の不均一化状態を数値化した値と、耐摩耗性能との間に関係性が存在することを見出したもので、その数値をもとに耐摩耗性能を予測できる。
【0011】
従って、硫黄化合物を含有する高分子複合材料(試験片)を本開示の方法に供することにより、実際にタイヤ等の製品を製造して耐久試験に供せずとも、該製品の耐摩耗性能を予測できる。
【0012】
本開示の方法に供される硫黄化合物を含有する高分子複合材料は、「硫黄化合物」(硫黄を含有する化合物)を含む材料であり、本開示は、該高分子複合材料に含まれる「硫黄化合物」の分散状態、化学状態を調べる方法である。なお、本開示では、高分子複合材料として、通常、架橋劣化後(架橋部分が劣化した後)の高分子複合材料が使用される。
【0013】
前記硫黄化合物(硫黄を含有する化合物)としては、架橋劣化により生成する硫黄含有化合物、加硫剤、加硫に関する硫黄含有化合物などが挙げられるが、なかでも、架橋劣化の状態を好適に調べられる観点から、架橋劣化により生成する硫黄含有化合物が望ましい。
【0014】
前記架橋劣化により生成する硫黄含有化合物としては、(1)架橋劣化によりS-S結合が切断し、酸素と結合することにより生成する化合物(硫黄酸化物(SOx)など)、(2)架橋劣化によりS-S結合が切断し、ポリマーと再結合することにより生成する種々の化合物、などが考えられる。なお、前記(1)の場合は、後述のとおり、例えば、硫黄L殼吸収端、硫黄K殼吸収端のX線吸収スペクトル(XAFS)などを用いて解析できる。前記(2)の場合は、例えば、硫黄K殼吸収端のX線吸収スペクトル(XAFS)を用い、S-Cへのピーク帰属、ピーク高さ又は面積により解析できる。
【0015】
前記加硫剤としては、タイヤ工業で一般的なものを使用でき、硫黄加硫剤(粉末硫黄等の硫黄からなる加硫剤);1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンなどの硫黄を含む加硫剤等が挙げられる。
【0016】
前記加硫に関する硫黄含有化合物としては、加硫促進剤、加硫促進剤に準ずる添加剤などが挙げられる。ここで、加硫促進剤は、一般にゴム組成物の混練工程で添加(配合)、混練される加硫促進作用を持つ化合物である。
【0017】
加硫促進剤としては、グアニジン類、スルフェンアミド類、チアゾール類、チウラム類、ジチオカルバミン酸塩類、チオウレア類、キサントゲン酸塩類等、タイヤ工業で公知の各種加硫促進剤が挙げられる。
【0018】
加硫促進剤に準ずる添加剤としては、4,4’-ジチオジモルホリン、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。
【0019】
高分子複合材料は、1種以上のジエン系ポリマーを含む材料、1種以上のゴム材料と1種以上の樹脂とが複合された複合材料などが挙げられる。
【0020】
上記ジエン系ポリマーとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)などの二重結合を有するポリマーが挙げられる。
【0021】
上記樹脂としては特に限定されず、例えば、ゴム工業分野で汎用されているものが挙げられ、例えば、C5系脂肪族石油樹脂、シクロペンタジエン系石油樹脂などの石油樹脂が挙げられる。
【0022】
本開示でX線吸収量を測定する方法としては、高輝度X線を用いて試料の微小領域におけるX線吸収スペクトルを測定する手法であるマイクロXAFS(X-ray Absorption Fine Structure)等を採用できる。通常のXAFSは、空間分解能を有しないため、試料全体の吸収量を検出するのに対し、マイクロXAFSは、試料の微小領域におけるX線吸収スペクトルを測定する測定方法であり、通常、100nm以下程度の空間分解能を有している。そのため、マイクロXAFSを採用することにより、試料中に含まれている、架橋劣化により生成する硫黄含有化合物、加硫剤、加硫に関する硫黄含有化合物などの各成分について、吸収量の違いを検出できる。
【0023】
空間分解能に優れるという点から、マイクロXAFSは軟X線領域で測定する方法(マイクロNEXAFS)が好ましく、走査型透過X線顕微鏡(STXM:Scanning Transmission X-ray Microscopy)法やX線光電子顕微鏡(XPEEM:X-ray Photo emission electron microscopy)法、等が挙げられる。
【0024】
本開示では、ポリマー中の硫黄、加硫促進剤等がX線損傷しやすいため、X線損傷が起きにくい方法での測定が望ましく、この点から、X線損傷が生じにくいSTXM法の方が好適である。また、測定の際、試料を冷却することでX線損傷を防ぐことが更に好ましい。
【0025】
STXM法は、フレネルゾーンプレートで集光した高輝度X線を試料の微小領域に照射し、試料を抜けた光(透過光)と入射光を測定することで微小領域のX線吸収量を測定できる。なお、フレネルゾーンプレートの代わりに、X線反射ミラーを用いたKirkpatrick-Baez(K-B)集光系で高輝度X線を集光してもよい。
【0026】
X線エネルギーで走査するため光源には連続X線発生装置が必要であり、詳細な化学状態を解析するには高いS/N比及びS/B比のX線吸収スペクトルを測定する必要がある。そのため、シンクロトロンから放射されるX線は、少なくとも1010(photons/s/mrad/mm/0.1%bw)以上の輝度を有し、且つ連続X線源であるため、測定には最適である。尚、bwはシンクロトロンから放射されるX線のband widthを示す。
【0027】
高輝度X線の輝度(photons/s/mrad/mm/0.1%bw)は、好ましくは1010以上、より好ましくは1011以上、更に好ましくは1012以上である。上限は特に限定されないが、放射線ダメージがない程度以下のX線強度を用いることが好ましい。
【0028】
また、高輝度X線の光子数(photons/s)は、好ましくは10以上、より好ましくは10以上である。上限は特に限定されないが、放射線ダメージがない程度以下のX線強度を用いることが好ましい。
【0029】
高輝度X線を用いて走査するエネルギー範囲は、好ましくは4000eV以下、より好ましくは1500eV以下、更に好ましくは1000eV以下である。4000eVを超えると、目的とする高分子複合材料を分析できないおそれがある。下限は特に限定されない。
【0030】
なかでも、高輝度X線を用いて、130~280eVのエネルギー範囲を走査して硫黄L殼吸収端における硫黄のX線吸収量を測定すること、2300~3200eVのエネルギー範囲を走査して硫黄K殼吸収端における硫黄のX線吸収量を測定すること、が好ましい。
【0031】
なお、硫黄L殼吸収端のエネルギー範囲は、140~200eVがより好ましく、150~180eVが更に好ましい。硫黄K殼吸収端のエネルギー範囲は、2300~3000eVがより好ましく、2400~2600eVが更に好ましい。
【0032】
そして、本開示では、硫黄化合物を含有する高分子複合材料(架橋劣化後のサンプル)に含まれる「硫黄化合物」(好ましくは架橋劣化により生成する硫黄含有化合物)について、分散状態及び化学状態を調べ、その結果から、該材料中の架橋劣化の不均一状態を数値化する。
【0033】
例えば、以下のような手法で、硫黄化合物の分散状態及び化学状態を調べることで、架橋劣化の不均一状態を数値化できる。
先ず、硫黄凝集構造部分(劣化により生成すると考えられる硫黄酸化物などの成分が凝集している部分)と、マトリックス部分(硫黄凝集構造が形成されていない部分)とを含む高分子複合材料(架橋劣化後のサンプル)について、エネルギーを変えながら、両部分を含む同一の微小領域のX線吸収量を測定し、X線吸収スペクトル(硫黄凝集構造部分及びマトリックス部分のそれぞれのスペクトル情報を含んだスペクトル)を得る。
ピークの帰属に関しては、硫黄酸化物の場合は、ZnSO、ジメチルスルホンのような試薬単体のスペクトルを測定し、標準スペクトルとする。その他にも、硫黄架橋、加硫促進剤の分散状態ZnOの情報も必要な場合は、標準試料として、予め、硫黄、加硫促進剤、ZnO等のスペクトルも適宜測定する。
測定した画像について、標準試料のスペクトルを用い、解析方法として特異値分解等を用いることで、その化合物が存在する場所を特定できる。
そして、硫黄酸化物などの成分に帰属されるピークについて、ピーク強度、ピーク面積などを比較することで、架橋劣化後の架橋状態の不均一化度が調べられる。例えば、マトリックス部分に比べて、硫黄凝集構造部分の方がピーク強度やピーク面積が大きいほど、硫黄酸化物などの成分が多量に存在することを意味しているため、架橋劣化がより進行し、架橋状態の不均一化度が高いと評価できる。
【0034】
以下、本開示の方法について、更に具体的に説明する。
図1は、試料(硫黄化合物を含有する高分子複合材料)の硫黄L殼吸収端付近のマッピング画像であり、図2は、図1の破線部位の拡大図である。黒色部位は硫黄凝集部分(硫黄が凝集している部分)、灰色部位はマトリックス部分(硫黄が凝集していない部分)を示す。なお、マッピング画像では黒色部位の方がX線吸収量が大きく、これは黒色部位に硫黄が存在することを示している。よって、灰色部位に比べ、黒色部位の方に硫黄が多量に存在している。
【0035】
図2の視野を162~174eVのエネルギー範囲でSTXM測定を行い、得られた硫黄凝集部分及びマトリックス部分のX線吸収スペクトルを図3に示す。図3には、ジメチルスルホン((CHSO)のX線吸収スペクトル(標準スペクトル)も併せて示されている。架橋劣化により生成する硫黄酸化物(SOx)は、ジメチルスルホンのように、173eV付近にピークを持つ。そして、図3の硫黄凝集部分の173eV付近のピーク強度又はピーク面積と、マトリックス部分の173eV付近のピーク強度又はピーク面積とを算出して数値化する。算出された両方の数値を対比した際、マトリックス部分に比べ、硫黄凝集部分の方がピーク強度又はピーク面積が大きいほど、硫黄凝集部分で架橋劣化が進行し、架橋劣化後の架橋状態が不均一化された状態であると評価できる。
【0036】
高分子複合材料(架橋劣化後のサンプル)の架橋の不均一状態は、下記(式1)により算出される不均一度により好適に評価できる。
(式1)
[架橋劣化の不均一化度]=SO/SO
(式中、SOは、高分子複合材料中の硫黄凝集構造部分における硫黄酸化物量を表す。SOは、高分子複合材料中のマトリックス部分における硫黄酸化物量を表す。)
ここで、SO、SOは、硫黄凝集構造部分における硫黄酸化物量、マトリックス部分における硫黄酸化物量の測定が可能な任意の方法で得られる値を採用できる。なかでも、図3で示されているような硫黄凝集部分及びマトリックス部分のX線吸収スペクトルから算出される硫黄凝集部分のピーク強度又はピーク面積をSO、マトリックス部分のピーク強度又はピーク面積をSOとして用いることが望ましい。この場合、SO/SOは、硫黄凝集部分のX線吸収スペクトルにおいて硫黄酸化物などに帰属されるピーク強度又はピーク面積/マトリックス部分のX線吸収スペクトルにおいて硫黄酸化物などに帰属されるピーク強度又はピーク面積、を意味することになる。
【0037】
SO/SOの値は、1.0に近いほど、硫黄凝集部分の架橋状態と、マトリックス部分の架橋状態とに差がなく、劣化後でも均一な架橋状態となっていることを示す。従って、この場合、その高分子複合材料の耐摩耗性能が優れていると予測できる。
【0038】
SO/SOは、架橋劣化の不均一度が小さいという観点から、所定以下の値であることが望ましく、例えば、以下の式を満たすことが好適である。
SO/SO≦100.0
SO/SOの上限は、好ましくは50.0以下、より好ましくは10.0以下、更に好ましくは3.0、特に好ましくは2.0以下であり、1.0に近いほど、劣化後でも均一な架橋状態となっていると評価できる。
SO/SOの下限は、原理的には、1.0以上になると考えられるが、0.1以上、0.3以上、0.7以上でもよい。
【0039】
SO、SOを算出するに当たり、マッピング画像の数μmサイズの視野における平均値を求めることが望ましい。その際、このようなサイズの視野を複数測定し、その結果を元に算出する方が、精度が高くなる。
なお、SO、SOは、スペクトルの規格化の方法により数値が変化するため、SO/SOの数値で評価することが望ましいと考えられる。
【0040】
図1~3では、硫黄L殻吸収端を測定した例を記載しているが、硫黄K殻吸収端でも可能である。
【0041】
以上のような本開示の方法により、硫黄化合物を含有する高分子複合材料(架橋劣化後のサンプル)に含まれる該硫黄化合物の分散状態及び化学状態を調べ、更に、得られた硫黄化合物の分散状態及び化学状態に基づいて架橋劣化の不均一状態を数値化した値は、該材料を用いたタイヤ等の製品の耐摩耗性能と相関性があり、これにより、該材料の耐摩耗性能を予測できる。
【実施例0042】
実施例に基づいて、本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらのみに限定されるものではない。
【0043】
<試料作成方法>
以下の配合内容に従い、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を充填率が58%になるように(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーに充填し、80rpmで140℃に到達するまで混練した(工程1)。
工程1で得られた混練物に、硫黄及び加硫促進剤を以下の配合にて添加し、160℃で20分間加硫することで、ゴム試料(新品試料)を得た(工程2)。
更に、ゴム試料(新品試料)を80℃のオーブンで1週間劣化させ、劣化後のゴム材料(劣化試料)を得た(工程3)。
【0044】
(配合)
天然ゴム50質量部、ブタジエンゴム50質量部、カーボンブラック60質量部、オイル5質量部、老化防止剤2質量部、ワックス2.5質量部、酸化亜鉛3質量部、ステアリン酸2質量部、粉末硫黄1.2質量部、及び加硫促進剤1質量部
【0045】
なお、使用材料は、以下のとおりである。
天然ゴム:TSR20
ブタジエンゴム:宇部興産(株)製BR150B
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN351
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX-140
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-1,3-ジメチルブチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
酸化亜鉛:東邦亜鉛(株)製の銀嶺R
ステアリン酸:日本油脂(株)製の椿
粉末硫黄(5%オイル含有):鶴見化学工業(株)製の5%オイル処理粉末硫黄(オイル分5質量%含む可溶性硫黄)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド
【0046】
<タイヤ性能試験>
耐摩耗性能:試験タイヤを実車走行させ、30000km走行前後のパターン溝深さの変化を求めた。各新品試料の変化を100とし、各劣化試料の変化を指数表示した。数字が100に比べて小さいほど、耐摩耗性能が悪いことを示す。
【0047】
<架橋劣化の不均一化度の算出>
(サンプリング方法)
特開2014-238287号公報に記載の方法を用いて、試料中のフリーサルファを除去した後、それぞれ下記の様に準備した。
・比較例1:NEXAFS法はナイフで薄くカットしたものをホルダーにマウントして測定
・比較例2:TEM-EDX法は厚み100nmになるようミクロトームでカットしTEM用のCu製のグリッドにマウントした。
・実施例:STXM法は厚み250nmになるようミクロトームでカットしTEM用のCu製のグリッドにマウントした。
【0048】
〔比較例1〕
以下の条件下で、作製した試料をNEXAFS測定に供した。
(測定場所)
九州シンクロトロン光研究センター BL12
(測定エネルギー)
S L-edge:162~174eV
【0049】
〔比較例2〕
作製した試料をTEM-EDX測定(市販の装置を使用)に供した。
【0050】
〔実施例〕
以下の条件下で、作製した試料をSTXM測定に供した。
(測定場所)
自然科学研究機構 分子科学研究所 極端紫外光研究施設 BL4U
(測定条件)
輝度:1×1016(photons/s/mrad/mm/0.1%bw)
分光器:グレーティング
(測定エネルギー)
S L-edge:162~174eV
【0051】
〔評価〕
実施例(STXM)、比較例1(NEXAFS)、比較例2(TEM-EDX)のそれぞれについて、試料中の硫黄凝集部分の平均硫黄酸化物量、マトリックス部分の平均硫黄酸化物量の算出の可否を評価した。なお、実施例は、図1~3の方法に沿い、aXis2000(フリーソフト)を用いて解析し、前記算出の可否を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
比較例1のNEXAFS法はバルク測定であるため、マトリックス部分及び硫黄凝集部分を分けて測定できず、解析不可能であった。比較例2のTEM-EDX法は、硫黄凝集部分とマトリックス部分に分けることが可能であるが、化学状態の解析が不可能であるため、解析不可能であった。
一方、実施例のSTXM法は、微小領域のX線吸収量を測定することで、硫黄凝集部分及びマトリックス部分を可視化し、更にその部分の平均硫黄酸化物量を算出することにより、架橋劣化の不均一度を算出することが可能であった。耐摩耗性能が良い新品試料の方が、劣化試料に比較して、架橋劣化の不均一化度の数値が1.0に近く、耐摩耗性能が良好であると予測されるところ、実車による耐摩耗性能と相関性を有することも明らかとなった。
【0054】
本開示(1)は、硫黄化合物を含有する高分子複合材料に、高輝度X線を照射しX線のエネルギーを変えながら微小領域のX線吸収量を測定することで前記硫黄化合物の分散状態及び化学状態を調べ、前記分散状態及び前記化学状態から前記高分子複合材料中の架橋劣化の不均一状態を数値化することにより、耐摩耗性能を予測する方法である。
【0055】
本開示(2)は、架橋劣化の不均一状態の数値化が、下記(式1)により算出される不均一度により行われる本開示(1)記載の耐摩耗性能を予測する方法である。
(式1)
[架橋劣化の不均一化度]=SO/SO
(式中、SOは、高分子複合材料中の硫黄凝集構造部分における硫黄酸化物量を表す。SOは、高分子複合材料中のマトリックス部分における硫黄酸化物量を表す。)
【0056】
本開示(3)は、SO/SOの値が1.0に近いほど、高分子複合材料の耐摩耗性能が良好であると予測する本開示(2)記載の耐摩耗性能を予測する方法である。
【0057】
本開示(4)は、SO/SO≦100.0である本開示(2)又は(3)記載の耐摩耗性能を予測する方法である。
【0058】
本開示(5)は、エネルギー範囲130~280eVの硫黄L殼吸収端における硫黄のX線吸収量、エネルギー範囲2300~3200eVの硫黄K殼吸収端における硫黄のX線吸収量の少なくとも1つを測定する本開示(1)~(4)のいずれかに記載の耐摩耗性能を予測する方法である。
【0059】
本開示(6)は、高輝度X線の輝度が1010(photons/s/mrad/mm/0.1%bw)以上である本開示(1)~(5)のいずれかに記載の耐摩耗性能を予測する方法である。

図1
図2
図3