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  • 特開-通信用電線 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141855
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】通信用電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20230928BHJP
   H01B 11/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
H01B7/02 G
H01B11/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048391
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安好 悠太
【テーマコード(参考)】
5G319
【Fターム(参考)】
5G319AA03
(57)【要約】
【課題】荷重を印加されても、通信特性に影響が及びにくい通信用電線を提供する。
【解決手段】導体2と、前記導体2の外周を被覆する絶縁被覆3と、を有する信号線4と、前記信号線4の外周を被覆するシース7と、を有し、前記シース7は、発泡構造を有する発泡層72と、前記発泡層72に接して設けられ、前記発泡層72の外周を被覆する、前記発泡層72よりも発泡倍率が低い外層73と、を有し、前記発泡層72の構成材料は、220℃における溶融張力が、5mN以上、15mN以下である、通信用電線1とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する信号線と、
前記信号線の外周を被覆するシースと、を有し、
前記シースは、
発泡構造を有する発泡層と、
前記発泡層に接して設けられ、前記発泡層の外周を被覆する、前記発泡層よりも発泡倍率が低い外層と、を有し、
前記発泡層の構成材料は、220℃における溶融張力が、5mN以上、15mN以下である、通信用電線。
【請求項2】
前記発泡層は、外周面に、発泡セルが開口した凹部を有し、
前記外層は、前記発泡層の前記凹部に侵入している、請求項1に記載の通信用電線。
【請求項3】
導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する信号線と、
前記信号線の外周を被覆するシースと、を有し、
前記シースは、
発泡構造を有する発泡層と、
前記発泡層に接して設けられ、前記発泡層の外周を被覆する、前記発泡層よりも発泡倍率が低い外層と、を有し、
前記発泡層は、220℃における構成材料の溶融張力が、5mN以上であり、外周面に、発泡セルが開口した凹部を有し、
前記外層は、前記発泡層の前記凹部に侵入している、通信用電線。
【請求項4】
前記外層は、前記発泡層よりも低い引張弾性率を有している、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の通信用電線。
【請求項5】
前記シースはさらに、前記発泡層と一体に構成され、前記発泡層の内周を被覆する、前記発泡層よりも発泡倍率の低い内層を有している、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の通信用電線。
【請求項6】
前記内層は、前記発泡層よりも高い引張弾性率を有している、請求項5に記載の通信用電線。
【請求項7】
前記発泡層はポリプロピレンを含み、
前記外層はポリ塩化ビニルを含む、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の通信用電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、通信用電線に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の分野において、高速通信を行うための通信用電線として、信号線の外周に、適宜金属箔や金属編組等を配置したうえで、最外周をシースで被覆した構造が用いられる。この種の通信用電線としては、信号線として1本の絶縁電線を配置した同軸線や、1対の絶縁電線を撚り合わせたり並列に並べたりしたペア線を信号線として含むものが、代表的である。一方で、通信用電線に限らず、電線を自動車等の装置に組み付ける場合には、その電線を、装置のフレーム、あるいは他の電線や周辺の装置等、他の部材に固定する必要がある。この固定には、結束帯等の固定部材の取り付けや、融着、接着等の固定手法が用いられている。例えば、特許文献1等に、外周部に融着層を有する絶縁電線が開示されており、この種の絶縁電線を用いれば、熱融着により、簡便に電線の固定を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-237219号公報
【特許文献2】特開平6-267353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通信用電線についても、自動車等の装置に固定する場合には、固定部材の取り付け、接着、融着等による固定を電線に対して実施する必要がある。しかし、それらの固定構造により、また固定時の操作により、通信用電線に力学的負荷が印加されると、通信用電線の構成部材に変形や変位が生じる場合がある。すると、高速通信において、高い通信特性を維持するのが難しくなる。例えば、同軸線においては、外部から荷重を印加された際に、中心の信号線を構成する絶縁被覆の歪みや、金属箔の凹凸等、構成部材に変形が生じると、通信特性が悪化する可能性がある。また、信号線としてペア線を用いる場合に、外部からの荷重により、信号線を構成する1対の絶縁電線の位置関係にずれが生じると、通信特性の悪化が起こりうる。通信用電線において、高い通信特性を維持するためには、固定等に伴って通信用電線に荷重が印加されることがあっても、構成部材の変形や変位を通じた通信特性への影響が、及びにくいことが望ましい。
【0005】
以上に鑑み、荷重を印加されても、通信特性に影響が及びにくい通信用電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第一の通信用電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する信号線と、前記信号線の外周を被覆するシースと、を有し、前記シースは、発泡構造を有する発泡層と、前記発泡層に接して設けられ、前記発泡層の外周を被覆する、前記発泡層よりも発泡倍率が低い外層と、を有し、前記発泡層の構成材料は、220℃における溶融張力が、5mN以上、15mN以下である。
【0007】
本開示の第二の通信用電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する信号線と、前記信号線の外周を被覆するシースと、を有し、前記シースは、発泡構造を有する発泡層と、前記発泡層に接して設けられ、前記発泡層の外周を被覆する、前記発泡層よりも発泡倍率が低い外層と、を有し、前記発泡層は、220℃における構成材料の溶融張力が、5mN以上であり、外周面に、発泡セルが開口した凹部を有し、前記外層は、前記発泡層の前記凹部に侵入している。
【発明の効果】
【0008】
本開示の通信用電線は、荷重を印加されても、通信特性に影響が及びにくいものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の一実施形態にかかる通信用電線の構成を模式的に示す断面図である。枠内には、シースの発泡層と外層の界面の近傍を拡大して表示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施態様を説明する。
【0011】
本開示の第一の実施形態にかかる通信用電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する信号線と、前記信号線の外周を被覆するシースと、を有し、前記シースは、発泡構造を有する発泡層と、前記発泡層に接して設けられ、前記発泡層の外周を被覆する、前記発泡層よりも発泡倍率が低い外層と、を有し、前記発泡層の構成材料は、220℃における溶融張力が、5mN以上、15mN以下である。
【0012】
また、本開示の第二の実施形態にかかる通信用電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する信号線と、前記信号線の外周を被覆するシースと、を有し、前記シースは、発泡構造を有する発泡層と、前記発泡層に接して設けられ、前記発泡層の外周を被覆する、前記発泡層よりも発泡倍率が低い外層と、を有し、前記発泡層は、220℃における構成材料の溶融張力が、5mN以上であり、外周面に、発泡セルが開口した凹部を有し、前記外層は、前記発泡層の前記凹部に侵入している。
【0013】
上記の第一の実施形態および第二の実施形態にかかる通信用電線においては、信号線の外周に設けられたシースが、発泡層を備えている。通信用電線の固定等に伴って、通信用電線に外部から荷重が印加されることがあっても、発泡層が変形し、荷重を吸収することで、信号線等、シースの内側に配置されている通信用電線の構成部材には、荷重が及びにくく、変形や変位が生じにくい。特に、発泡層の構成材料が220℃で5mN以上の溶融張力を有することで、発泡層の形成時に、発泡セルが安定に保持され、発泡セルの効果によって荷重の吸収に高い性能を示す発泡層が形成される。通信用電線に印加された荷重が、シースの発泡層で吸収され、内側の部材に及びにくいことで、荷重の印加を経ても、通信用電線の通信特性に影響が生じにくい。
【0014】
さらに、上記通信用電線においては、シースの発泡層の外周に外層が設けられている。外層は、発泡層よりも発泡倍率が低いことにより、発泡層を含む内側の構成部材を、外部の部材や水等の液体との接触から保護する役割を果たす。ここで、第一の実施形態にかかる通信用電線においては、発泡層の構成材料の溶融張力が、220℃で15mN以下に抑えられていることで、発泡層の外周に、開口した発泡セル等に起因して、凹凸構造が形成されやすい。すると、その凹凸構造の凹部に外層の構成材料が侵入した状態で外層が形成されることになり、発泡層と外層の間に高い密着性が得られる。第二の実施形態にかかる通信用電線においても、発泡層が、発泡セルが開口した凹部を外周面に有し、外層がその凹部に侵入しており、これにより、発泡層と外層の間に高い密着性が得られる。発泡層と外層の間の密着性は、発泡層と外層の構成材料に相溶性がなくても発現するため、発泡層と外層のそれぞれに、要求される機能に応じた材料を適用しながら、両層の間の密着性を確保することができる。
【0015】
ここで、前記第一の実施形態において、前記発泡層は、外周面に、発泡セルが開口した凹部を有し、前記外層は、前記発泡層の前記凹部に侵入しているとよい。すると、発泡層と外層の間に、特に高い密着性が得られる。
【0016】
前記第一の実施形態および第二の実施形態において、前記外層は、前記発泡層よりも低い引張弾性率を有しているとよい。すると、通信用電線に対して外部から荷重が印加された際に、最初に外層が変形し、次に発泡層が変形することになる。そのため、小さい荷重であれば、外層によって吸収することができる。また、外層が高い引張弾性率を有する場合とは異なり、荷重を受けた際に、外層が発泡層の変形を妨げにくい。よって、シースでの荷重の吸収により、通信特性への荷重の影響を低減する効果に特に優れた通信用電線となる。
【0017】
また、前記シースはさらに、前記発泡層と一体に構成され、前記発泡層の内周を被覆する、前記発泡層よりも発泡倍率の低い内層を有しているとよい。すると、通信用電線に外部から荷重が印加された際に、内層より内側に配置される信号線等の部材に荷重が及びにくくなり、通信特性を高く維持する効果に優れる。この種の内層は、押出成形によって発泡層を形成する際に、信号線等、内側の部材による抜熱によって、発泡層の構成材料から形成されやすい。
【0018】
この場合に、前記内層は、前記発泡層よりも高い引張弾性率を有しているとよい。すると、内側に配置される信号線等の部材への荷重の印加を低減する内層の機能が、特に高く得られる。
【0019】
また、前記発泡層はポリプロピレンを含み、前記外層はポリ塩化ビニルを含むとよい。すると、発泡構造による荷重の吸収効果に優れた発泡層と、保護性能に優れた外層を有するシースを形成することができる。ポリプロピレンとポリ塩化ビニルは、実質的に相溶性を示さないが、開口した発泡セル等によって発泡層の表面に形成された凹凸構造の凹部に外層の構成材料が侵入することにより、発泡層と外層の間に高い密着性が確保される。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を用いて、本開示の一実施形態にかかる通信用電線について、詳細に説明する。以下、各種特性については、特記しないかぎり、室温、大気中にて測定される値とする。有機ポリマーには、オリゴマー等、比較的低重合度の重合体も含むものとする。
【0021】
<通信用電線の構造>
図1に、本開示の一実施形態にかかる通信用電線1について、軸線方向に直交する断面の構造を、模式的に示す。通信用電線1は、同軸電線として構成されている。具体的には、通信用電線1は、導体2と、導体2の外周を被覆する絶縁被覆3とを有するコア線(信号線)4を備えている。そして、コア線4の外周には、シールド層として、金属箔5と、金属素線を編んだ編組体として構成された編組層6とが設けられている。金属箔5が、コア線4の外周を被覆して設けられ、さらに金属箔5の外周を被覆して、編組層6が設けられている。シールド層5,6の外周には、シース7が設けられている。
【0022】
コア線4の外周に、シールド層5,6とシース7を備えた同軸電線として構成された、上記のような通信用電線1は、1GHz以上の高周波域の信号を伝送するのに、好適に用いることができる。しかし、本開示にかかる通信用電線1は、信号線の外側を被覆して、シース7が設けられるものであれば、上記のような構造を有するものに限られず、通信周波数や用途に応じた構成を採用すればよい。シース7は、信号線の外周を直接被覆するものであっても、上記シールド層5,6のように、他の層を介在させて、コア線4の外周を被覆するものであってもよい。
【0023】
例えば、上記の形態では、信号線として、単独の絶縁電線よりなるコア線4を用いているが、信号線として、複数の絶縁電線を用いてもよい。具体的には、1対の絶縁電線を、相互に撚り合わせるか、並走させるかして、差動信号を伝送するように、信号線を構成することができる。また、ノイズの影響がそれほど大きくない場合には、シールド層として、金属箔5と編組層6のいずれか一方のみを配置するようにしてもよく、さらにはシールド層を省略してもよい。また、シールド層として、横巻き線等、金属箔5や編組層6以外の形態のものを用いてもよい。また、上記の形態では、説明した各層を、それぞれ内側の構成層の外周に直接接触させて形成しているが、通信用電線1は、上記で説明した各層以外の構成層を、適宜含むものであってもよい。以下、上記で例示した同軸型の通信用電線1の各構成部材について説明する。
【0024】
(コア線)
コア線4は、通信用電線1において、電気信号の伝送を担う信号線であり、導体2と、導体2の外周を被覆する絶縁被覆3とを有している。導体2および絶縁被覆3を構成する材料は、特に限定されるものではない。
【0025】
導体2を構成する材料としては、種々の金属材料を用いることができるが、高い導電性を有する等の点から、銅合金を用いることが好ましい。導体2は、単線として構成されてもよいが、屈曲時の柔軟性を高める等の観点から、複数の素線(例えば7本)が撚り合わせられた撚線として構成されることが好ましい。この場合に、素線を撚り合わせた後に、圧縮成形を行い、圧縮撚線としてもよい。導体2が撚線として構成される場合に、全て同じ素線よりなっても、2種以上の素線を含んでいてもよい。導体2の径は、特に限定されるものではない。導体断面積として、0.05mm以上、また1.0mm以下の範囲を例示することができる。
【0026】
絶縁被覆3は、コア線4において、導体2を絶縁するものであり、有機ポリマーを含んでいる。有機ポリマーの種類は、特に限定されるものではないが、ポリオレフィンやオレフィン系共重合体等のオレフィン系ポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン系ポリマー、各種エンジニアリングプラスチック、エラストマー、ゴム等を挙げることができる。有機ポリマーは、1種のみを用いても、混合、積層等により、2種以上を合わせて用いてもよい。有機ポリマーは、架橋されていてもよく、また、発泡されていてもよい。
【0027】
絶縁被覆3の誘電率および誘電正接を低く抑え、通信特性を高める観点からは、絶縁被覆3を構成する有機ポリマーとして、上記で列挙したうち、低分子極性のものを用いることが好ましい。例えば、ポリプロピレン(PP)をはじめとするポリオレフィン等、無極性の有機ポリマーを含んで、絶縁被覆3を構成することが好ましい。ポリオレフィンとしては、ホモPP等のホモポリオレフィンを用いても、ブロックPP等のブロックポリオレフィンを用いてもよい。絶縁被覆3の誘電率および誘電正接を特に低く抑える観点からは、それらポリオレフィンを発泡させることが好ましい。図1でも、絶縁被覆3が発泡した形態を表示している。
【0028】
絶縁被覆3は、有機ポリマーに加え、適宜、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、金属水酸化物等の難燃剤、銅害防止剤、ヒンダードフェノール系や硫黄系等の酸化防止剤、酸化亜鉛等の金属酸化物を例示することができる。ただし、通信特性への影響を低減する観点からは、それらの添加剤は添加されない方が好ましい。絶縁被覆3の厚さは、特に限定されるものではないが、0.1mm以上、また1.0mm以下の範囲を例示することができる。
【0029】
(シールド層)
シールド層は、コア線4とシース7との間に設けられており、金属箔5と編組層6とが積層された2層構造を有している。
【0030】
金属箔5は、金属材料の薄膜として構成されている。金属箔5を構成する金属の種類は、特に限定されるものではなく、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等を例示することができる。金属箔5は、単一の金属種より構成されても、2種以上の金属種の層が積層されてもよい。また、金属箔5は、独立した金属薄膜よりなる形態のほか、高分子フィルム等の基材に、蒸着、めっき、接着等によって金属層が結合されたものであってもよい。ノイズ遮蔽性を高める観点から、金属箔5は、コア線4に対して、縦添え状に配置することが好ましい。
【0031】
編組層6は、複数の金属素線が相互に編み込まれて、中空筒状に成形された編組体として構成されている。編組層6を構成する金属素線としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料、あるいはそれら金属材料の表面に、スズ等によってめっきを施したものを例示することができる。
【0032】
シールド層5,6は、同軸電線構造において、外部導体を構成するものであり、コア線4に対して侵入するノイズ、またコア線4から放出されるノイズを遮蔽する役割を果たす。シールド層として、金属箔5と編組層6を併用することで、ノイズ遮蔽効果を高めることができる。金属箔5と編組層6の積層順は特に限定されるものではないが、信号の損失を少なくする等の理由で、金属箔5を内側、編組層6を外側に配置することが好ましい。
【0033】
(シース)
シース7は、シールド層5,6を介してコア線4の外周を被覆する層であり、通信用電線1の最外周部を構成している。シース7は、全体が有機ポリマーを含む被覆体として構成されているが、複数の層を有しており、内側から、内層71、発泡層72、外層73を有している。発泡層(中層)72は、発泡構造を有する層として構成されており、組織内に発泡セル(気泡)Bを有する。
【0034】
内層71および外層73は、発泡層72に接して、それぞれ発泡層72の内周および外周を被覆している。内層71および外層73は、発泡層72よりも発泡倍率の低い非発泡層として構成されている。本明細書において、非発泡とは、発泡構造を実質的に有さない状態のみならず、発泡層72よりも低い発泡倍率で発泡した状態も含む概念を指すものとする。ただし、内層71および外層73は、発泡構造を実質的に有さない層として構成されていることが好ましい。内層71は、シース7に必須に設けられるものではないが、設けられることが好ましい。外層73は、発泡層72とは異なる材料より構成され、界面において発泡層72に密着している。内層71は、発泡層72と共通の材料より構成され、発泡層72と一体に連続している。シース7の各層の構成材料の詳細については、後に説明する。
【0035】
シース7が、発泡構造を有する発泡層72を含むことで、通信用電線1が、外部から荷重を受けることがあっても、シース7の内側に配置されたコア線4やシールド層5,6には、荷重の影響が及びにくくなっている。通信用電線1に押し潰す方向の荷重が外部から印加されると、発泡層72が変形することで、印加された荷重を吸収するからである。荷重による通信用電線1全体としての変形量が発泡層72の厚み以下であれば、その荷重をほぼ全て発泡層72で吸収することもできる。発泡層72による荷重の吸収により、シース7に囲まれた内側の各部材には、荷重が印加されにくくなり、シールド層5,6やコア線4が、荷重による変形や変位を起こしにくい。よって、通信用電線1に荷重が印加さることがあっても、通信用電線1が高い通信特性を維持することができる。通信用電線1への荷重の印加は、例えば、固定部材の取り付けや、融着、接着等によって通信用電線1を外部の物品に固定する際に起こるが、その際に印加される荷重による通信特性への影響が抑制されることで、比較的大きな荷重を発生する強固な固定手段を採用することもできる。
【0036】
外層73は、非発泡層として構成されていることにより、発泡層72、およびさらにその内側の各部材を、外部の物体や水等の液体との接触から保護するものとなる。好ましくは、外層73は、発泡層72よりも低い引張弾性率を有しているとよい。すると、通信用電線1に荷重が印加された際、最初に外層73が変形し、次いで発泡層72が変形することになる。よって、小さな荷重であれば、外層73によって吸収することができる。また、外層73が引張弾性率の高い材料より構成されている場合とは異なり、外層73が柔軟に変形することで、発泡層72の変形による荷重の吸収を外層73が妨げにくくなる。なお、発泡層72の引張弾性率は、発泡構造も含めた、発泡層72全体としての引張弾性率を指す(以下でも同様)。
【0037】
シース7が内層71を有する場合には、内層71は、シース7の内側に存在する各部材に対する保護性を高めるものとなる。特に、内層71は、発泡層72よりも高い引張弾性率を有することが好ましい。つまり、引張弾性率が、高い方から、内層71、発泡層72、外層73の順になっていることが好ましい。内層71が高い引張弾性率を有することで、通信用電線1に外部から荷重が印加され、発泡層72の変形によってその荷重が吸収された場合に、内層71に囲まれたシールド層5,6およびコア線4に及ぼされる荷重の影響を、効果的に低減することができる。
【0038】
シース7を構成する各層71~73の厚さは、特に限定されるものではないが、各層の機能を十分に果たし、かつ他の層の機能を妨げないようにする等の観点から、外層73および内層71は、発泡層72よりも薄く形成されていることが好ましい。特に、以下の厚さを好適に例示することができる。
発泡層72:100μm以上~300μm以下
内層71:10μm以上~50μm以下
外層73:100μm以上~300μm以下
【0039】
また、各層の引張弾性率としては、室温における値で、以下の範囲を好適に例示することができる。
発泡層72:500MPa以上~1500MPa以下
内層71:900MPa以上~2500MPa以下
外層73:30MPa以上~1300MPa以下
【0040】
シース7は、押出成形によって製造することができる。この際、まず、適宜シールド層5,6で被覆したコア線4の外周に、発泡層72の構成材料を押出成形する。発泡層72の構成材料には、加熱時に発泡する発泡剤を添加しておき、押出成形時に加えられる熱により、発泡させる。あるいは、押出成形後に別途加熱を行って発泡させる。発泡した押出成形体が凝固することで、発泡層72が形成される。この際、シース7の内側に存在する部材によって発泡層72の内周部が優先的に冷却されると、発泡セルBを含まない、あるいは少ししか含まない内層71が形成されうる。このようにして、発泡層72(および内層71)を形成したうえで、その発泡層72の外周に外層73の構成材料を押出成形することで、シース7を形成することができる。
【0041】
<シースの構成の詳細>
(1)発泡層
上記のように、発泡層72は、発泡構造を有する層として構成される。発泡層72の構成材料は、220℃における溶融張力が、5mN以上となっている。
【0042】
樹脂材料の溶融張力は、溶融した樹脂材料に発生する張力を示す。溶融張力は、キャピラリーレオメータを使用した溶融ストランド引き延ばし測定によって評価することができる。つまり、キャピラリーから押出吐出した溶融ストランドを一定速度で押し出しながら、溶融ストランドに荷重を印加して引き取り、溶融ストランドが破断した際の荷重を、溶融張力として記録する。本明細書においては、溶融張力として、220℃にて評価した値を用いる。また、発泡層72の構成材料の溶融張力は、発泡剤を添加しない状態で評価するものとする。溶融張力の測定は、例えば、穴径1.0mm、長さ20mmのキャピラリーを使用し、材料をシリンダーに充填してから5分の予熱の後に、キャピラリーの押出速度を10mm/minとして行えばよい。
【0043】
本実施形態において、発泡層72の構成材料が5mN以上の溶融張力を有していることで、発泡層72の構成材料の中に生じた発泡セルBが安定に保持される。よって、発泡剤を含んだ材料の押出成形によって、十分な発泡率を有し、発泡セルBが均一性高く分布した発泡層72を形成することができる。これにより、高い緩衝作用を示す発泡層72が得られ、通信用電線1に印加された荷重を吸収するのに優れたものとなる。それらの効果をさらに高める観点から、発泡層72の溶融張力は、8mN以上であると、より好ましい。
【0044】
さらに、本実施形態にかかる発泡層72は、220℃における構成材料の溶融張力が、30mN以下であることが好ましい。構成材料の溶融張力が小さいほど、発泡層72の表面に、凹凸構造が形成されやすくなる。凹凸構造の例としては、図1の枠内に示したように、開口セルによる凹部7aが生じたものが挙げられる。開口セルは、発泡層72に含まれる発泡セルBが過膨張によって発泡層72の外に漏れ出し、外周面に開口したものである。開口セルが形成された領域が、周囲の領域から発泡層72の外周面が落ち窪んだ凹部7aとなる。
【0045】
発泡層72の外周面に開口セル等の凹部7aが生じると、その凹部7aに外層73が侵入する。つまり、凹部7aの中に外層73の構成材料が嵌入した状態で凝固し、外層73が形成される。このように発泡層72の凹部7aに外層73が侵入することで、アンカー効果が発現し、発泡層72と外層73の間に高い密着性が得られる。このアンカー効果による密着性は、発泡層72と外層73の間の材料の相溶性によらずに発揮されるものであり、発泡層72と外層73の構成材料の組み合わせを問わない。よって、発泡層72における発泡性や、外層73における保護性能等、各層72,73に求められる機能に応じて、自在に各層72,73の構成材料を選択しながら、層間に密着性を確保することができる。発泡層72と外層73の間に高い密着性が得られることにより、例えば、通信用電線1の端末部等においてシース7を除去する際に、発泡層72(および一体化した内層71)と外層73とを、一度の操作で除去することが可能となり、通信用電線1の加工の工程が簡素化される。
【0046】
発泡層72の構成材料の溶融張力が30mN以下であれば、発泡層72の外周面に凹凸構造が形成されやすくなり、外層73との密着性向上の効果が十分に得られる。さらにその効果を高める観点から、発泡層72の構成材料の溶融張力は、15mN以下、さらには10mN以下であると、好ましい。ただし、発泡層72を構成する具体的な材料種によっては、必ずしも発泡層72の構成材料の溶融張力がそれらの上限以下に抑えられていなくても、発泡層72の外周面に開口セルによる凹部7aが形成される場合がある。その場合にも、開口セルによる凹部7aに外層73が侵入することで、アンカー効果が得られるため、そのような発泡層72を好適に用いることができる。
【0047】
発泡層72の具体的な構成材料は、特に限定されるものではなく、有機ポリマーとして、ポリオレフィンやオレフィン系共重合体等のオレフィン系ポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン系ポリマー、各種エンジニアリングプラスチック、エラストマー、ゴム等を用いることができる。これらの中で、5mN以上30mN以下の溶融張力を有するとともに、荷重の吸収に適した発泡層72を形成しやすい等の観点から、ポリオレフィン、特にポリプロピレン(PP)を好適に用いることができる。有機ポリマーは、1種類のみを用いても、複数種を混合してもよいが、溶融張力の制御等の観点から、複数種を混合することが好ましい。例えば、30mN以上、さらには40mN以上のような高い溶融張力を示す高溶融張力ポリマーと、10mN以下、さらには5mN以下のような低い溶融張力を示す低溶融張力ポリマーとを混合するとよい。高溶融張力ポリマーとして、高溶融張力PPを用い、低溶融張力ポリマーとして直鎖構造の占める割合の大きいPPを用いる形態を好適に例示することができる。高溶融張力ポリマーおよび低溶融張力ポリマーは、それぞれの有する特性が発泡層72全体の特性に効果的に反映されるように、いずれも、発泡層72を構成する有機ポリマー全体のうち、30質量%以上を占めることが好ましい。また、発泡層72を構成する各ポリマー成分は、900MPa以上2500MPa以下の引張弾性率を有することが好ましい。
【0048】
発泡層72の構成材料は、有機ポリマーに加えて、発泡剤を含有する。発泡層72の発泡倍率を発泡剤の含有量によって制御することができ、例えば、発泡剤の含有量を、有機ポリマー100質量部に対して、1.0質量部以上、5.0質量部以下とする形態を例示することができる。また、発泡層72の構成材料は、発泡剤以外の添加剤を適宜含有してもよい。添加剤としては、銅害防止剤、ヒンダードフェノール系や硫黄系等の酸化防止剤を例示することができる。
【0049】
(2)外層
外層73は、発泡層72とは異なる材料より構成される非発泡層であり、発泡層72の外周面を被覆して形成される。外層73の構成材料は、特に限定されるものではなく、種々の有機ポリマーに、適宜添加剤を添加した材料より構成することができる。
【0050】
上記のように、外層73は、発泡層72よりも低い引張弾性率を有する材料より構成されることが好ましい。発泡構造を有する発泡層72よりも低い引張弾性率を非発泡の状態で示す有機ポリマーとして、ポリ塩化ビニル(PVC)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)等を、外層73の構成材料として用いることができる。中でも、PVCを用いることが好ましい。PVCは、PP等のポリオレフィンとの間に実質的に相溶性を示さないが、外層73がPVCを含み、発泡層72がPPを含む場合でも、上記のように、発泡層72の外周の凹凸構造を介したアンカー効果により、外層73と発泡層72の間に高い密着性が得られる。
【0051】
外層73は、複数の層より構成してもよい。その場合に、少なくとも発泡層72と接する層を、上記材料より構成することが好ましい。例えば、PVC等より構成される外層73の外に、融着層等、別の層を設ける形態も考えられる。
【0052】
上記のように、押出成形によって発泡層72を形成したうえで、発泡層72の外周に別の材料を押出成形することで、外層73を形成することができる。この際、発泡層72の発泡と凝固が完了してから、外層73の構成材料の押出成形を行うことが好ましい。すると、発泡セルBの過膨張による開口セルの形成が十分に進行した状態で、外層73を形成することになるため、高いアンカー効果が得られる。なお、同様の理由で、発泡層72を押出成形した後、水冷等の急冷ではなく温水等での徐冷を行うことが好ましい。
【0053】
(3)内層
内層71はシース7において必須に形成されるものではないが、形成される場合には、発泡層72と共通の材料より構成されるものであることが好ましい。つまり、内層71は、発泡層72と一体に連続し、発泡層72の構成成分の少なくとも一部が、発泡層72の内周側で非発泡の状態で凝固した層として構成されることが好ましい。この場合に、内層71は、非発泡である分、発泡層72よりも高い引張弾性率を有する層として形成されやすい。
【0054】
そのように発泡層72と一体に連続した内層71は、発泡層72を押出成形によって形成する際に、発泡層72とともに形成されやすい。押出成形時に、発泡剤の熱分解によって発泡セルBが形成されるが、シース7の内周側では、押し出された材料が、内側の部材、つまりシールド層5,6やコア線4による抜熱を受けて優先的に冷却されうる。発泡セルBが十分に生成する前に冷却による凝固が進行すれば、発泡層72の内側に、非発泡の内層71が形成される。この際、発泡層72を構成する成分の一部が内周側に相分離して凝固し、発泡層72と成分比の異なる内層71が形成される場合もある。内側からの抜熱による内層71の形成は、シース7のすぐ内側に金属材料が配置されている場合に起こりやすく、例えば、コア線4の外周に金属箔5および編組層6が配置された同軸構造の通信用電線1は、シース7に内層71を有するものとなりやすい。
【実施例0055】
以下に実施例を示す。ここでは、発泡層の構成材料を変化させて、荷重印加の影響および外層との密着性への影響を検証した。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。本実施例において、特性の評価は、特記しないかぎり、室温、大気中において行っている。溶融張力として表示した値は、220℃における値である。
【0056】
[試料の作製]
銅合金の撚線として構成された導体の外周に、押出成形によって絶縁被覆を形成して、コア線とした。絶縁被覆の構成材料としては、表1に示した各成分を混合したものを用いた。導体断面積は0.23mm、絶縁被覆の厚さは0.51mmとした。絶縁被覆の構成材料は発泡剤を含有しており、押出成形時に発泡剤が熱分解して発泡し、絶縁被覆が発泡構造を有する層として形成された。
【0057】
コア線の外周に、金属箔と編組層をこの順に配置した。金属箔としてはPET基材を有する銅箔(厚み:銅薄膜9μm、PETフィルム16μm)を縦添え状に配置し、編組層としては、スズめっき軟銅線(TA線)よりなる一重編組を設けた。
【0058】
さらに、編組層の外周に、シースを形成した。まず、表1に示した各成分を、記載した含有量比で含む中層用の組成物を調製し、編組層の外周に押出成形することで、中層を形成した。試料1については、組成物が発泡剤を含まず、中層が非発泡層として形成されたが、試料2~4では組成物が発泡剤を含んでおり、押出成形時に発泡剤が熱分解して発泡し、中層が発泡層として形成された。また、試料2~4では、中層の内側に、非発泡の内層が形成された。次に、中層の凝固後に、下に示す構成成分を混合した外層用組成物を押出成形し、外層を形成した。中層を形成した状態で、電線の外径はφ2.6mmであり、外層を形成して完成した通信用電線の外径はφ3.0mmであった。
【0059】
コア線の絶縁被覆およびシースの中層の構成成分としては、下の各材料を用いた。各層を形成するための押出成形用の組成物の調製に際しては、発泡剤以外の成分を溶融混練によって混合したうえで、ドライブレンドにて発泡剤を加えた。
・PP1:ホモPP-日本ポリプロ社製 「ノバテック EA9FTD」
・PP2:メタロセン系高溶融張力ポリプロピレン-日本ポリプロ社製 「WAYMAX MFX6」
・PP3:ホモPP-日本ポリプロ社製 「ノバテック MA3U」
・銅害防止剤:ADEKA社製 「CDA-10」
・酸化防止剤1:BASF社製 「Irganox 1010FF」
・酸化防止剤2:BASF社製 「Irgafos 168」
・酸化防止剤3:ADEKA社製 「アデカスタブ AO-412S」
・酸化防止剤4:ADEKA社製 「アデカスタブ LA-57」
・発泡剤:三協化成社製 「セルマイク MB3274」
【0060】
外層の構成成分は以下のとおりである。
・PVC:信越化学工業社製 「TK-1300」-100質量部
・衝撃改質剤:三菱ケミカル社製 「メタブレン C-223A」-0.5質量部
・安定化剤:ADEKA社製 「アデカスタブ RUP-110」-0.5質量部
・酸化防止剤:BASF社製 「Irganox 1010」-2質量部
・増量剤:丸尾カルシウム社製 重質炭酸カルシウム 「SUPER 1700」-15質量部
・可塑剤:花王社製 「トリメックス N-08」-40質量部
【0061】
[評価方法]
(1)溶融張力
コア線の絶縁被覆および試料1~4の通信用電線の中層の構成材料、またそれらの材料を構成する成分として用いられる各有機ポリマーについて、溶融張力の測定を行った。測定はキャピラリーレオメータを使用した溶融ストランド引き延ばし測定によって、220℃にて行った。キャピラリーから押出吐出した溶融ストランドを一定速度で押し出しながら、溶融ストランドに荷重を印加して引き取り、溶融ストランドが破断した際の荷重を、溶融張力として記録した。発泡剤を添加される材料については、溶融張力の測定は、発泡剤を添加しない状態に対して行った。測定には穴径1.0mm、長さ20mmのキャピラリーを使用し、材料をシリンダーに充填して、5分の予熱の後に測定を行った。キャピラリーの押出速度はすべての材料において、10mm/minで統一した。
【0062】
(2)引張弾性率
試料1~4の通信用電線の中層および内層、外層について、引張弾性率を測定した。測定は、内層と外層については、各層を構成する樹脂組成物をそれぞれシート状に成形した測定試料に対して、発泡層については、別途発泡層のみをチューブ押出して成形した測定試料に対して行った。測定方法としては、JIS K 7161に準拠した引張試験を、引張速度50mm/min、標線間距離250mmとして、引張試験機によって行った。
【0063】
(3)荷重印加による特性インピーダンス変化
各試料の通信用電線について、初期状態の特性インピーダンスの測定を行った。測定はネットワークアナライザを用いてLCRメータを用いたオープン/ショート法によって行った。測定周波数は、300kHz~8.5GHzとした。
【0064】
次に、通信用電線に荷重を印加した。荷重の印加は、23℃にて、10Nの荷重を、通信用電線の長さ1mmにわたる領域に、側方から印加することで行った。荷重の印加は、4時間にわたって行った。その後、荷重を除去してから、上記の初期状態と同様に、特性インピーダンスの測定を行った。荷重印加により、特性インピーダンスが2Ω以上変化した場合を、荷重による影響が大きい(B)と判定し、特性インピーダンスの変化が2Ω未満の場合を、荷重による影響が小さい(A)と判定した。
【0065】
(4)中層と外層の密着性
各試料の通信用電線に対して、シースの中層と外層の間の密着力を計測した。この際、全長150mmに切り出した通信用電線において、シースの外層のみを片端から50mm除去した状態で測定試料を準備した。そして、外層を除去して中層が露出した箇所を、金属板に設けたφ2.7mmの円形の穴に挿通し、金属板を固定した状態で、露出している中層を引っ張った。その際、中層が外層から抜け落ちるまでに要した力を計測し、長さ100mmあたりの外層の密着力とした。なお、穴の直径であるφ2.7mmは、中層の外径(φ2.6mm)よりもわずかに大きいものであり、引張りによる剥離は、中層と外層の間の位置で起こる。
【0066】
[評価結果]
表1に、試料1~4の通信用電線について、コア線の絶縁被覆およびシースの中層の成分組成と、各評価の結果を示す。成分組成については、各成分の含有量を、質量部を単位として表示している。表には合わせて、各ポリマー成分の溶融張力および引張弾性率も左欄に示している。
【0067】
【表1】
【0068】
表1によると、シースの中層(内層との区別はないが、便宜的に中層と称する)の構成材料が発泡剤を含んでおらず、中層が非発泡層として構成された試料1においては、荷重印加による特性インピーダンスの変化量が2Ωを超えており、通信特性への荷重印加の影響が大きくなっている。シースが発泡層を有さないことで、シースで荷重を十分に吸収することができず、シースより内側の構成部材に変形が生じ、通信特性に大きな影響が生じたものと解釈される。中層が発泡構造を有さないことにより、中層と外層の間にアンカー効果も出現しないため、中層と外層の間の密着力も、30N未満の小さな値しか得られていない。
【0069】
また、試料2では、シースの中層が、構成材料に発泡剤を含み、発泡層として形成されているが、その発泡層の構成材料の溶融張力が5mN未満と小さくなっている。この試料2でも、試料1と同様に、荷重印加による特性インピーダンスの変化量が2Ωを超えており、通信特性への荷重印加の影響が大きくなっている。これは、発泡層の構成材料の溶融張力が小さいために、発泡構造を安定に保持することができず、荷重の吸収に有効に寄与する発泡構造を形成できなかったものと解釈される。また、発泡構造が十分に形成されていないことと対応して、発泡層と外層の間で強いアンカー効果が利用できず、中層と外層の間の密着力も30N未満となっている。
【0070】
一方、試料3では、シースの中層が、構成材料に発泡剤を含み、構成材料の溶融張力が5mN以上30mN以下の範囲に収まっている。この試料3では、荷重印加による特性インピーダンスの変化量が2Ω未満となっており、通信特性への荷重印加の影響が小さく抑えられている。また、発泡層として構成された中層と外層の間の密着力が、100Nを超えており、試料1,2と比較して顕著に大きくなっている。この試料3では、発泡層の構成材料が十分に大きな溶融張力を有することと対応して、発泡構造が安定に保持され、荷重の吸収に高い効果を示す発泡層が形成されたことにより、外部から印加した荷重の影響が内部の構成部材に及びにくく、荷重印加を経ても、通信特性が高度に維持されたものと解釈される。また、発泡層の構成材料の溶融張力が大きくなりすぎないように抑えられていることで、発泡層の表面に、発泡セルの過膨張に起因する凹凸構造が形成され、外層との間にアンカー効果が発現したために、発泡層と外層の間の密着力が大きくなったものと解釈される。
【0071】
最後に、試料4では、発泡剤を含んだシース中層の構成材料の溶融張力が、30mNを超えている。溶融張力が十分に高いことに対応して、荷重印加による特性インピーダンスの変化量が2Ω未満となっており、通信特性への荷重印加の影響が小さく抑えられている。しかし、中層の構成材料の溶融張力が大きすぎることにより、発泡層の表面に凹凸構造が生成しにくく、外層との間にアンカー効果が得られなかったと考えられる。そのため、発泡層と外層の間の密着力が、試料1,2と同水準の30N未満となっている。なお、引張弾性率については、中層が発泡層となっている試料2~4のいずれについても、高い方から、内層、中層(発泡層)、外層の順になっている。
【0072】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 通信用電線
2 導体
3 絶縁被覆
4 コア線(信号線)
5 金属箔
6 編組層
7 シース
71 内層
72 発泡層
73 外層
7a 発泡層の外周面の凹部
B 発泡セル
図1