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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141865
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23B 47/18 20060101AFI20230928BHJP
   G05B 19/4093 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B23B47/18 B
G05B19/4093 M
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048405
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】樋口 裕太郎
【テーマコード(参考)】
3C036
3C269
【Fターム(参考)】
3C036DD09
3C269AB03
3C269AB04
3C269AB31
3C269CC02
3C269EF02
3C269EF25
3C269EF39
3C269GG01
3C269KK08
3C269MN08
3C269QB17
3C269QC01
3C269QD02
(57)【要約】
【課題】工具と被加工物との相対速度を周期的に変動して加工する場合において、切りくずの分断効果が得られる周波数を自動的に設定することができる工作機械を提供する。
【解決手段】回転工具T1とワークWとを相対移動させて穴加工する工作機械100であって、取付けられた回転工具T1を回転させる主軸112と、ワークWが取付けられるテーブル106と、主軸112とテーブル106とを主軸112の中心軸線方向に沿って相対移動させるZ軸送り装置118と、主軸112とテーブル106との相対移動速度を揺動周波数で変動させてワークWを穴加工する揺動穴加工の指令を受信した場合に、主軸112の回転周波数と回転工具T1の刃数を乗算した値とは異なる揺動周波数を設定し、揺動周波数でZ軸送り装置118を作動させる制御装置10と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転工具とワークとを相対移動させて穴加工する工作機械であって、
取付けられた前記回転工具を回転させる主軸と、
前記ワークが取付けられるテーブルと、
前記主軸と前記テーブルとを前記主軸の中心軸線方向に沿って相対移動させる送り軸部と、
前記主軸と前記テーブルとの相対移動速度を揺動周波数で変動させて前記ワークを穴加工する揺動穴加工の指令を受信した場合に、前記主軸の回転周波数と前記回転工具の刃数を乗算した値とは異なる揺動周波数を設定し、該揺動周波数で前記送り軸部を作動させる制御装置と、
を備えることを特徴とする、工作機械。
【請求項2】
前記主軸と前記テーブルとの相対移動速度は、前記主軸又は前記テーブルが前記主軸の中心軸線方向に沿って離隔しない範囲で変動する、請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
工具と回転するワークとを送り方向に沿って相対移動させて旋削加工する工作機械であって、
前記工具が取付けられる工具台と、
取付けられた前記ワークを回転させるワーク主軸と、
前記工具台と前記ワーク主軸とを前記送り方向に沿って相対移動させる送り軸部と、
前記工具台と前記ワーク主軸との相対移動速度を揺動周波数で変動させて前記ワークを旋削加工する揺動旋削加工の指令を受信した場合に、前記ワーク主軸の回転周波数とは異なる揺動周波数を設定し、該揺動周波数で前記送り軸部を作動させる制御装置と、
を備えることを特徴とする、工作機械。
【請求項4】
前記工具台と前記ワーク主軸との相対移動速度は、前記工具台又は前記ワーク主軸が前記送り方向に沿って離隔しない範囲で変動する、請求項3に記載の工作機械。
【請求項5】
前記揺動周波数は、前記回転周波数と刃数と0.5との積である基本周波数とされる、請求項1から請求項4の何れか1項に記載の工作機械。
【請求項6】
前記揺動周波数は、前記基本周波数に1よりも小さい第1の係数を乗じた最薄部形成周波数とされる、請求項5に記載の工作機械。
【請求項7】
前記揺動周波数は、前記基本周波数に1よりも大きく、かつ、偶数以外の第2の係数を乗じた短片形成周波数とされる、請求項5に記載の工作機械。
【請求項8】
設定した前記揺動周波数が、前記送り軸部を作動可能な周波数の上限値を超える場合は、該上限値で前記送り軸部を作動させる、請求項1から請求項7の何れか1項に記載の工作機械。
【請求項9】
前記制御装置は、前記ワーク及び加工情報と前記揺動周波数とを関連付けるためのデータベースを有する、請求項1から請求項8の何れか1項に記載の工作機械。
【請求項10】
前記制御装置は、ネットワーク経由で前記送り軸部を作動させる、請求項1から請求項9の何れか1項に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ドリル加工や中ぐり加工のような穴加工や旋削加工に際して発生する連続的な切りくずによって、工具が損傷したり、切りくずによって加工面が損傷したり、加工機から切りくずを排出する切りくず処理装置に切りくずが詰まる等の障害が生じることが従来から問題となっている。
【0003】
この問題を解決するために、穴加工中にドリルを軸方向に後退させて切りくずを加工中の穴から排出し、その後再びドリルを軸方向に前進させ、これを繰り返して、所望の深さまで穴を穿設するステップフィード加工法が従来から知られている。しかしながら、この加工法では、ドリルユニットを後退させるため、往復動作に時間を要し、この結果、加工時間が長くなる。また、ドリルユニットの往復動作に際して、ドリル先端がワークから離隔してしまうため、再びドリルの先端がワークに衝撃を生じるような接触をしたときに、刃先が欠けたり、接触に伴う騒音が生じたりする問題がある。また、往復動作の為に移動距離が増えるため、送り軸装置の寿命に悪影響がある。そこで、特許文献1には、ドリル、中ぐりカッタ又は座ぐりカッタの回転工具とワークとを相対移動させ、ワークに穴を加工する穴加工方法において、回転工具の中心軸線方向への送り速度、すなわち回転工具とワークとの相対移動速度を、回転工具がその中心軸線方向に後退しない範囲で増減を繰り返すように変化させてワークに穴を加工するようにした穴加工方法が開示されている。
【0004】
特許文献1に記載の方法では、送り速度を周期的に増減させて加工する場合には、切りくずの分断効果が得られる最適な揺動周波数があり、この揺動周波数は加工条件によって決まることが示されている。しかしながら、このような送り速度を揺動周波数で増減させる加工では、オペレータが経験に基づいて多岐にわたる加工条件に応じた揺動周波数を計算した上で設定しているため、作業工数が増加する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-052927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を鑑み、工具と被加工物との相対速度を周期的に変動して加工する場合において、切りくずの分断効果が得られる周波数を自動的に設定することができる工作機械の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の態様によれば、回転工具とワークとを相対移動させて穴加工する工作機械であって、取付けられた回転工具を回転させる主軸と、ワークが取付けられるテーブルと、主軸とテーブルとを主軸の中心軸線方向に沿って相対移動させる送り軸部と、主軸とテーブルとの相対移動速度を揺動周波数で変動させてワークを穴加工する揺動穴加工の指令を受信した場合に、主軸の回転周波数と回転工具の刃数を乗算した値とは異なる揺動周波数を設定し、揺動周波数で送り軸部を作動させる制御装置と、を備えることを特徴とする工作機械が提供される。
【0008】
また、本発明の一の態様によれば、工具と回転するワークとを送り方向に沿って相対移動させて旋削加工する工作機械であって、工具が取付けられる工具台と、取付けられたワークを回転させるワーク主軸と、工具台とワーク主軸とを送り方向に沿って相対移動させる送り軸部と、工具台とワーク主軸との相対移動速度を設定した揺動周波数で変動させてワークを旋削加工する揺動旋削加工の指令を受信した場合に、ワーク主軸の回転周波数とは異なる揺動周波数を設定し、揺動周波数で送り軸部を作動させる制御装置と、を備えることを特徴とする工作機械が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一の態様に係る工作機械によると、制御装置は、主軸の回転周波数と回転工具の刃数を乗算した値とは異なる揺動周波数で送り軸部を作動させることによって、主軸とテーブルとの相対移動速度を設定した揺動周波数で変動させてワークを加工することができる。このような揺動穴加工では、回転工具の軌跡が変動し、加工によって生じる切りくずの厚さが変動する。このため、薄くなった部分が脆弱となり、これを起点に切りくずが分断される。また、揺動周波数は制御装置によって設定されるため、オペレータが多岐にわたる加工条件に応じて計算した上で設定する必要がなく、作業工数の増加を抑制することができる。
【0010】
また、本発明の一の態様に係る工作機械によると、制御装置は、ワーク主軸の回転周波数とは異なる揺動周波数で送り軸部を作動させることによって、工具台とワーク主軸との相対移動速度を設定した揺動周波数で変動させてワークを旋削加工することができる。このような揺動旋削加工では、工具の軌跡が変動し、揺動旋削加工によって生じる切りくずの厚さが変動する。このため、薄くなった部分が脆弱となり、これを起点に切りくずが分断される。また、揺動周波数は制御装置によって設定されるため、オペレータが多岐にわたる加工条件に応じて計算した上で設定する必要がなく、作業工数の増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1実施形態に係る穴加工用の工作機械の側面図を示す。
図2図2は、本実施形態に係る制御装置に備えるデータベースの一例を示す。
図3図3は、本実施形態に係る基本周波数で作動させている刃先の軌跡を示す。
図4図4は、揺動周波数が、主軸の回転周波数と回転工具の刃数との積と一致する場合の刃先の軌跡を示す。
図5図5は、本実施形態に係る最薄部形成周波数で作動させている刃先の軌跡を示す。
図6図6は、本実施形態に係る短片形成周波数で作動させている刃先の軌跡を示す。
図7図7は、本実施形態に係る工作機械を使用した穴加工のデータ入力から開始に至るまでのフローチャートを示す。
図8図8は、本実施形態の変形例に係る制御装置がネットワーク経由で工作機械と接続される場合のブロック図を示す。
図9図9は、第2実施形態に係る旋削加工用の工作機械の側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係る工作機械を説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。理解を容易にするために、図の縮尺を変更して説明する場合がある。
【0013】
(第1実施形態)
図1には、第1実施形態に係る工作機械の一例を示す。工作機械100は、立形マシニングセンタを構成しており、工場の床面に固定された基台としてのベッド102を備える。また、ベッド102の左右方向、すなわち、Y軸方向の左側(図1における左側)の上面において前後方向、すなわち、X軸方向(図1の紙面に垂直な方向)又はY軸方向に移動可能に配置され、被加工物としてのワークWが固定されるテーブル106と、ベッド102のY軸方向右側(図1における右側)においてベッド102の上面に立設し、固定されたコラム104と、を備える。さらに、コラム104の前面側、すなわちY軸方向左側には、X軸方向に沿って移動可能に構成されたX軸スライダ108と、X軸スライダ108の前面側においてZ軸方向、ここでは鉛直方向に沿って移動可能に取り付けられ、主軸112を回転可能に支持する主軸頭110とを備える。
【0014】
コラム104には、X軸スライダ108をコラム104の前面においてX軸方向に延設された一対のX軸案内レール(図示省略)に沿って往復駆動させるための送り軸部としてのX軸送り装置114が配置されている。X軸送り装置114は、X軸方向に延設され、X軸スライダ108に取り付けられたナットと係合するボールねじと、ボールねじの一端に連結されたX軸サーボモータと、を備える(いずれも図示省略)。これによって、X軸スライダ108は、コラム104の前面においてX軸方向に沿って往復動可能に構成されている。
【0015】
ベッド102には、テーブル106をベッド102の上面においてY軸方向に延設された一対のY軸案内レール(図示省略)に沿って往復駆動させるための送り軸部としてのY軸送り装置116が配置されている。Y軸送り装置116は、Y軸方向に延設され、テーブル106に取り付けられたナットと係合するボールねじと、ボールねじの一端に連結されたY軸サーボモータと、を備える(いずれも図示省略)。これによって、テーブル106は、ベッド102の上面においてY軸方向に沿って往復動可能に構成されている。
【0016】
主軸頭110は、Z軸方向に沿って延伸する中心軸線O周りに回転可能に主軸112を支持する。主軸112のテーブル106と対面する先端部には、回転工具T1が装着されている。ここでは、回転工具T1として刃数が2つのドリルが装着されている。また、主軸頭110は、その筐体の外側には、主軸112を回転駆動するためのサーボモータ(図示省略)が取り付けられている。なお、以下の説明では、サーボモータは、主軸頭110の外側に取り付けられているとして説明するが、これに限らず、例えば、主軸頭の筐体の内部に配置されたステーターコイルとローターコイルとによって構成されたビルトインモータとされてもよい。また、ここでは、回転工具T1はドリルであるとして説明するが、これに限らず、回転工具として中ぐりカッタ、座ぐりカッタ、リーマ、ボーリング等の他の工具が使用されてもよい。
【0017】
コラム104には、主軸頭110をコラム104の前面側においてZ軸方向に延設された一対のZ軸案内レール(図示省略)に沿って往復駆動させるための送り軸部としてのZ軸送り装置118が配置されている。Z軸送り装置118は、Z軸方向に延設され、主軸頭110に取り付けられたナットと係合するボールねじと、ボールねじの一端に連結されたZ軸サーボモータと、を備える(いずれも図示省略)。これによって、主軸頭110は、コラム104の前面側においてZ軸方向に沿って往復動可能に構成されている。
【0018】
X軸送り装置114、Y軸送り装置116及びZ軸送り装置118は、工作機械100を制御するための制御装置10と接続されている。制御装置10は、X軸送り装置114、Y軸送り装置116及びZ軸送り装置118へ供給される電力(電流値)を制御することによって、主軸頭110及びテーブル106の往復動を制御し、この結果、主軸112とテーブル106との相対移動速度を制御する。
【0019】
制御装置10は、例えば、図示しないCAM(Computer Aided Manufacturing)システム等に収容された加工プログラム(NCプログラム)を読取り解釈して動作指令を出力する。NCプログラムは、CAMシステムに入力される加工モデルの情報及び加工条件に基づいて自動的に生成される。
【0020】
制御装置10は、揺動させながら穴加工する揺動穴加工について、加工条件、工具等の加工に関する種々のデータを格納するためのストレージを有しており、ストレージには、これらをデータソースとするデータベースDBが構築されている。制御装置10は、例えば、タッチパネルのような入力部10aから入力される揺動穴加工に関する条件に基づいて、図2に示されるようなデータベースDBを参照して以下に説明する揺動周波数fvを算出し、往復動指令を出力する。往復動作の条件には、ワークWの材料、加工すべき穴の直径、深さ、工具の送り速度、回転工具T1(主軸112)の回転速度、刃数、ドリルや座ぐり工具といった工具の種類等が含まれる。制御装置10は、過去の往復動作の条件を累積的にデータベースDBに格納できるように構成されている。
【0021】
制御装置10は、工具データ管理部10cを有する。これによって、NCプログラムに回転工具T1の刃数の指令が無い場合は、制御装置10は、工具データ管理部10cの刃数を参照して設定する。また、工具データ管理部10cに刃数のデータが無い場合には、例えば、ドリルは一般的に2枚の刃で構成されることから、刃数を2枚と設定する。このように設定した刃数は、揺動周波数fvを算出するための入力に使用される。なお、工具データ管理部は、データベースとリンクするように構成されてもよい。
【0022】
制御装置10は、さらに、出力されたX軸、Y軸、Z軸の各位置指令に基づき工作機械100のX軸送り装置114、Y軸送り装置116及びZ軸送り装置118を駆動するための電流値を出力し、これらの装置に配置されたサーボモータ等の駆動装置へ送出する。揺動穴加工する場合は、X軸送り装置114、Y軸送り装置116及びZ軸送り装置118へ出力される電流値は、これらを揺動させるために、所定の揺動振幅AMと揺動周波数とによって定まる周期的に変動する電流値として出力される。
【0023】
揺動周波数で作動される回転工具T1の刃先の主軸112の中心軸線方向、ここでは、Z軸方向の変位Zkは、工具回転角(工具位相)θの関数として以下のように表される。また、変位Zkは、回転工具T1とワークWが近づく方向を正とする。
Zk(θ)=AM・sin{fv・φ/fd}+Fz・n・φ/2π (1)
φ=θ-2πk/n (2)
ここで、kは回転工具T1の回転回数、Fzは1刃当りの送り、fdは回転工具T1の回転周波数、nは回転工具T1の刃数、fvは揺動周波数、AMは揺動振幅、πは円周率を表す。上記のように、Zk(θ)は、揺動振幅AM及び揺動周波数fvの振動をZ軸方向に加えたときの回転工具T1の刃先の外周とワークWとの相対的なZ軸方向変位を表し、式(1)の第1項の変位と第2項の変位とは、変動部分と軸送りによる定常部分とをそれぞれ表す。
【0024】
ここで、切りくずの厚みに差を生じさせるための基本となる揺動周波数fv(以下、基本周波数fbと称する)は、以下のように表される。
fb=fd・n/2 (3)
式(2)と式(3)とを式(1)に代入して導かれるように、基本周波数fbで揺動される回転工具T1の揺動振幅AMは、工具回転角θに対して位相差πで変動する。
【0025】
図3には、刃数が2つの回転工具T1を基本周波数fbでZ軸方向に沿って揺動させる揺動穴加工における第1の刃A及び第2の刃Bの刃先の軌跡を示す。図中の縦軸はZ軸方向の変位Zkを表し、横軸は工具位相θを示す。図中の凡例の「-1」、「-2」及び「-3」は、回転工具T1の1回転目から3回転目までをそれぞれ表す。よって、例えば、「A-1」は、第1の刃Aの1回転目の軌跡を意味する。また、同じ工具位相θにおける第1の刃Aと第2の刃BのZ軸方向の変位Zkの差が、穴加工によってワークWから切り取られる切りくずの厚さTHを意味する。πだけ位相があるため、図3に示されるように第1の刃Aと第2の刃BのZ軸方向の変位Zkの差が変動する、すなわち、切りくずの厚さTHの厚い部分と薄い部分TH-MINとが生じるようになる。このように、回転工具T1が1回転するごとに、切りくずが最も薄くなる部分TH-MINが1か所発生するため、切りくずが分断されやすくなる。
【0026】
図4には、基本周波数fbでの揺動穴加工との対比として、回転工具T1の回転周波数fdと回転工具T1の刃数n(ここでは、n=2)とを乗算して求まる周波数で揺動した場合の刃先の軌跡を示す。第1の刃Aと第2の刃Bとの間に位相差が生じないため、切りくずの厚さTHは常に一定となり、切りくずが分断されにくい。このため、揺動周波数fvは、回転工具T1の回転周波数fdと回転工具の刃数nとを乗算して求まる周波数とは異なる周波数に設定する必要があることがわかる。
【0027】
また、制御装置10は、切りくずの最も薄くなる部分TH-MINをより薄くしたい場合には、基本周波数fbに代えて最薄部形成周波数fmを算出し、揺動周波数fvとして設定することができる。最薄部形成周波数fmは、基本周波数fbに1よりも小さい第1の係数を乗じて算出される。第1の係数は、NCプログラムに予め設定されていてもよく、データベースDBを参照して設定されてもよい。図5には、刃数が2つの回転工具T1を最薄部形成周波数fmでZ軸方向に沿って揺動させたときの第1の刃A及び第2の刃Bの刃先の軌跡の一例を示す。ここでは、最薄部形成周波数fmは、第1の係数を約0.5として、基本周波数fbの半分程度に設定されている。図中の縦軸、横軸及び凡例は、図3と同一である。基本周波数fbで揺動した場合と比較して、切りくずの厚さTHの最も薄い部分TH-MINを薄くすることができる。一方、基本周波数fbで揺動した場合と比較して、切りくずの長さは長くなる。
【0028】
さらに、制御装置10は、切りくずの長さを短くして細かく分断したい場合には、基本周波数fbに代えて短片形成周波数fsを算出し、揺動周波数fvとして設定することができる。短片形成周波数fsは、基本周波数fbに1よりも大きく、かつ、偶数以外の第2の係数を乗じて算出される。第2の係数は、NCプログラムに予め設定されていてもよく、データベースDBを参照して設定されてもよい。図6には、刃数が2つの回転工具T1を短片形成周波数fsでZ軸方向に沿って揺動させたときの第1の刃A及び第2の刃Bの刃先の軌跡の一例を示す。ここでは、短片形成周波数fsは、第2の係数を約3.0として、基本周波数fbの3倍程度に設定されている。図中の縦軸、横軸及び凡例は、図3及び図5と同一である。基本周波数fbで揺動した場合と比較して、切りくずの長さを短くすることができる。一方、基本周波数fbで揺動した場合と比較して、切りくずの最も薄い部分TH-MINは厚くなる。
【0029】
制御装置10は、算出された揺動周波数fvが、X軸送り装置114、Y軸送り装置116及びZ軸送り装置118を揺動することができる周波数の上限(上限揺動周波数)を超える場合には、この上限揺動周波数を揺動周波数fvとして設定するように構成されている。相対移動するワークW及びこれらの装置114、116、118の重量によっては、高周波数、すなわち短周期で加減速を繰り返すことが困難になる場合があるため、制御装置10は、上限揺動周波数を設定可能に構成されている。上限揺動周波数で揺動した場合には、切りくずの長さは、算出された揺動周波数fvで加工する場合よりも長くなるものの、一定の周期で切りくずが薄くなる部分が発生するので、切りくずを分断することができる。
【0030】
制御装置10は、工作機械100ごとに基本周波数fb、最薄部形成周波数fmに係る第1の係数、短片形成周波数fsに係る第2の係数、基本周波数fbに対応する基本モード、第1の係数に対応する最薄部形成モード、第2の係数に対応する短片形成モードを記憶したモード記憶部10bを有する。オペレータは、加工に応じてモードを選択することができ、制御装置10は、選択されたモードに対応する揺動周波数fvを選択又は算出し、これに基づいて揺動穴加工を制御することができる。オペレータが個別に基本周波数fb、第1の係数及び第2の係数を設定することなく、モードに応じて揺動周波数fvで揺動穴加工をすることができ、作業工数を低減することができる。加工に応じて選択するモードは、前述の3つのモードを選択できるようにしてもよいし、各モードの中間も含めたさらに多くのモードから選択できるインタフェースを準備してもよい。モードの選択はNCプログラムで都度行ってもよいし、機械パラメータで予め定められていてもよい。
【0031】
制御装置10は、短片形成周波数fsに係る第2の係数が偶数に設定された場合には、自動で奇数倍に変更するように構成されている。これによって、オペレータが誤って第2の係数を設定した場合であっても適切に切りくずを分断する効果を得ることができる。
【0032】
本実施形態に係る工作機械100の作用効果について、図7に示すフローチャートに沿って以下に説明する。
【0033】
揺動穴加工は、制御装置10に格納されたプログラムが実行されることによって、工作機械100が作動され、加工が行われる。最初に、ステップS10では、制御装置10において、加工プログラム中の揺動穴加工のプログラムが呼び出され、引数や装置の状態から回転周波数fdや刃数nの情報が取得される。具体的には、例えば、加工プログラム中には、G81X_Y_Z_R_F_S_E_H_と記述されている。ここで、G81がNC(数値制御装置)の加工プログラムで用いられるGコード、Xが穴中心のX座標、Yが穴中心のY座標、ZがZ座標におけるR点から穴底までの距離、RがZ座標における早送り位置決めから切削送りにシフトする位置、Sが主軸112の回転速度、Eが回転工具T1の刃数n、Hが切りくずの薄さや長さを変化させたい時に、周波数を増減させるための係数を示す。Sで示される主軸112の回転速度は1分当たりの主軸の回転数を示すので、これを60で除算することで回転周波数fdを取得できる。揺動穴加工を指令するプログラムにおいて、Sに回転周波数fdを直接示してもよい。Sが省略されている場合は、最後に指令したSコード又は回転周波数fdが参照される。また、Eが省略されている場合は、工具データを参照し、そこにも値がない場合はn=2とされる。さらに、Hが省略されている場合は1とされる。
【0034】
次に、ステップS20では、取得した回転周波数fd、刃数n、第1の係数又は第2の係数の情報から、基本周波数fb、最薄部形成周波数fm又は短片形成周波数fsの何れかの揺動周波数fvを算出する。
【0035】
次に、ステップS30では、算出された揺動周波数fvが、X軸送り装置114、Y軸送り装置116及びZ軸送り装置118を揺動することができる周波数の上限揺動周波数を超えるか否かを判定する。揺動周波数fvが上限揺動周波数を超えない場合には、ステップS40へ移行し、算出された揺動周波数fvで揺動穴加工が開始される。一方、揺動周波数fvが上限揺動周波数を超える場合には、ステップS50において上限揺動周波数を揺動周波数fvに設定し、揺動穴加工が開始される。本実施形態では、主軸がZ方向に動作することで穴加工を行うので、Z軸送り装置118の特性に基づいて設定される上限揺動周波数を用いて判定できるが、X軸方向又はY軸方向に穴加工を行う場合には、X軸送り装置114やY軸送り装置116の特性に基づいて設定される上限揺動周波数を用いて判定できる。
【0036】
本実施形態に係る工作機械100によると、制御装置10は、主軸112の回転周波数fdと回転工具T1の刃数nを乗算した値とは異なる揺動周波数fv(基本周波数fb)でZ軸送り装置118を作動させることによって、主軸112とワークWとの相対移動速度を基本周波数fbで変動させて揺動穴加工することができる。このような揺動穴加工では、回転工具T1の軌跡が変動し、加工によって生じる切りくずの厚さTHが変動する。このため、薄くなった部分TH-MINが脆弱となり、これを起点に切りくずが分断される。また、基本周波数fbは、制御装置10によって設定されるため、オペレータが多岐にわたる加工条件に応じて算定した上で設定する必要がなく、作業工数の増加を抑制することができる。
【0037】
また、本実施形態に係る工作機械100によると、主軸112とワークWとの相対移動速度は、主軸112又はテーブル106がZ軸方向に沿って離隔しない範囲で変動させることができる。このため、回転工具T1はZ軸方向に後退することはなく、回転工具T1の先端は常にワークWに接触し続け、ワークWから離隔しない。このため、回転工具T1がワークWに対して衝触、離隔することによって生じ得る回転工具T1の刃先の欠けや騒音の発生を抑制又は防止することができる。さらに、Z軸方向に沿って停止又は後退するといった動作をしないため、ドリルサイクルの問題として生じ得る加工時間が長くなるという現象が発生することを抑制又は防止することができる。また、往復動作の為に移動距離が増えることが無いので、送り軸装置の寿命への悪影響が無い。
【0038】
さらに、本実施形態に係る工作機械100によると、制御装置10は、切りくずの最も薄くなる部分TH-MINをより薄くしたい場合には、基本周波数fbに1よりも小さい第1の係数を乗じて最薄部形成周波数fmを算出し、設定することができる。これによって、基本周波数fbで揺動した場合と比較して、切りくずの厚さTHの最も薄い部分TH-MINを薄くすることができる。
【0039】
また、本実施形態に係る工作機械100によると、制御装置10は、切りくずの長さを短くして細かく分断したい場合には、基本周波数fbに1よりも大きく、かつ、偶数以外の第2の係数を乗じて短片形成周波数fsを算出し、設定することができる。これによって、基本周波数fbで揺動した場合と比較して、切りくずの長さを短くすることができる。
【0040】
さらに、本実施形態に係る工作機械100によると、制御装置10は、算出された揺動周波数fvが、Z軸送り装置118を揺動することができる上限揺動周波数を超える場合には、この上限揺動周波数を揺動周波数fvとして設定することができる。これによって、切りくずの長さは算出された揺動周波数fvで加工する場合よりも長くなるものの、一定の周期で切りくずが薄くなる部分が発生するので、切りくずを分断することができる。
【0041】
また、本実施形態に係る工作機械100によると、制御装置10は、モード記憶部10bとデータベースDBとを有する。オペレータは、加工に応じてモードを選択することができ、制御装置10は、選択されたモードに対応する係数から揺動周波数fvを算出し、これに基づいて揺動穴加工を制御することができる。これによって、オペレータが個別に基本周波数fb、第1の係数及び第2の係数を設定することなく、モードに応じて揺動周波数fvで揺動穴加工をすることができ、作業工数を低減することができる。
【0042】
以上により、本実施形態に係る工作機械100は、回転工具T1とワークWとの相対速度を周期的に変動して加工する場合において、切りくずの分断効果が得られる揺動周波数fvを自動的に設定することができる。
【0043】
(変形例)
以下、図8を用いて変形例に係る工作機械100について説明する。第1実施形態と同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0044】
本変形例に係る工作機械100によれば、制御装置10は、ネットワークNW経由で工作機械100と接続されている。このため、制御装置10は、ネットワークNW経由で工作機械100のX軸送り装置114、Y軸送り装置116及びZ軸送り装置118を揺動させることができる。これによって、複数の工作機械100を一元的に制御することができる。
【0045】
なお、本実施形態では、回転工具T1を基本周波数fbでZ軸方向に沿って揺動させるとして説明したが、これに限らず、回転工具をX軸方向、及び/又は、Y軸方向に揺動させて揺動加工してもよい。
【0046】
(第2実施形態)
以下、図9を用いて第2実施形態に係る工作機械200について説明する。第1実施形態と同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0047】
第2実施形態に係る工作機械200は、工具T2と回転するワークWとを送り方向に沿って相対移動させて旋削加工する工作機械200とされており、工具T2が取付けられる工具台212と、取付けられたワークWを回転させるワーク主軸206と、を備える。また、工作機械200は、工具台212とワーク主軸206とを送り方向であるX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に沿って相対移動させる送り軸部としてのX軸送り装置114、Y軸送り装置116及びZ軸送り装置118(以下、装置114,116,118と称する)と、を備える。さらに、工作機械200は、工具台212とワーク主軸206との相対移動速度を設定した揺動周波数fvで変動させてワークWを旋削加工する揺動旋削加工の指令を受信した場合に、ワーク主軸206の回転周波数fdとは異なる揺動周波数fvを設定し、揺動周波数fvで装置114、116、118を作動させる制御装置20と、を備える。
【0048】
第2実施形態に係る工作機械200によると、制御装置20は、ワーク主軸206の回転周波数fdとは異なる揺動周波数fvで装置114,116,118を作動させることによって、工具台212とワーク主軸との相対移動速度を設定した揺動周波数fvで変動させてワークWを旋削加工することができる。このような揺動旋削加工では、工具T2の軌跡が変動し、揺動旋削加工によって生じる切りくずの厚さTHが変動する。このため、薄くなった部分TH-MINが脆弱となり、これを起点に切りくずが分断される。また、揺動周波数fvは制御装置20によって設定されるため、オペレータが多岐にわたる加工条件に応じて計算した上で設定する必要がなく、作業工数の増加を抑制することができる。
【0049】
以上、工作機械100、200の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者であれば、上記の実施形態の様々な変形が可能であることを理解できると考えられる。
【符号の説明】
【0050】
10 制御装置
20 制御装置
100 工作機械
106 テーブル
112 主軸
114 X軸送り装置(送り軸部)
116 Y軸送り装置(送り軸部)
118 Z軸送り装置(送り軸部)
200 工作機械
206 ワーク主軸
212 工具台
DB データベース
fv 揺動周波数
fb 基本周波数
fm 最薄部形成周波数
fs 短片形成周波数
T1 回転工具
T2 工具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2023-07-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転工具とワークとを相対移動させて穴加工する工作機械であって、
取付けられた前記回転工具を回転させる主軸と、
前記ワークが取付けられるテーブルと、
前記主軸と前記テーブルとを前記主軸の中心軸線方向に沿って相対移動させる送り軸部と、
前記主軸と前記テーブルとの相対移動速度を揺動周波数で変動させて前記ワークを穴加工する揺動穴加工の指令を受信した場合に、前記主軸の回転周波数と前記回転工具の刃数を乗算した値とは異なる揺動周波数を設定し、該揺動周波数で前記送り軸部を作動させる制御装置と、
を備え
前記揺動周波数は、前記回転周波数と刃数と0.5との積である基本周波数に第1の係数を乗じた最薄部形成周波数、又は、該基本周波数に第2の係数を乗じた短片形成周波数であり、
第1の係数は、0.5であり、第2の係数は、1よりも大きい奇数である、
ことを特徴とする、工作機械。
【請求項2】
前記主軸と前記テーブルとの相対移動速度は、前記主軸又は前記テーブルが前記主軸の中心軸線方向に沿って離隔しない範囲で変動する、請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
工具と回転するワークとを送り方向に沿って相対移動させて旋削加工する工作機械であって、
前記工具が取付けられる工具台と、
取付けられた前記ワークを回転させるワーク主軸と、
前記工具台と前記ワーク主軸とを前記送り方向に沿って相対移動させる送り軸部と、
前記工具台と前記ワーク主軸との相対移動速度を揺動周波数で変動させて前記ワークを旋削加工する揺動旋削加工の指令を受信した場合に、前記ワーク主軸の回転周波数とは異なる揺動周波数を設定し、該揺動周波数で前記送り軸部を作動させる制御装置と、
を備え
前記揺動周波数は、前記回転周波数と刃数と0.5との積である基本周波数に第1の係数を乗じた最薄部形成周波数、又は、該基本周波数に第2の係数を乗じた短片形成周波数であり、
第1の係数は、0.5であり、第2の係数は、1よりも大きい奇数である、
ことを特徴とする、工作機械。
【請求項4】
前記工具台と前記ワーク主軸との相対移動速度は、前記工具台又は前記ワーク主軸が前記送り方向に沿って離隔しない範囲で変動する、請求項3に記載の工作機械。
【請求項5】
設定した前記揺動周波数が、前記送り軸部を作動可能な周波数の上限値を超える場合は、該上限値で前記送り軸部を作動させる、請求項1から請求項4の何れか1項に記載の工作機械。
【請求項6】
前記制御装置は、前記ワーク及び加工情報と前記揺動周波数とを関連付けるためのデータベースを有する、請求項1から請求項5の何れか1項に記載の工作機械。
【請求項7】
前記制御装置は、ネットワーク経由で前記送り軸部を作動させる、請求項1から請求項6の何れか1項に記載の工作機械。