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特開2023-141887多層フレキシブルプリント基板、渦電流探傷検査コイル、渦電流探傷検査装置および渦電流探傷検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141887
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】多層フレキシブルプリント基板、渦電流探傷検査コイル、渦電流探傷検査装置および渦電流探傷検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/90 20210101AFI20230928BHJP
【FI】
G01N27/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048453
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000165697
【氏名又は名称】原子燃料工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】元辻 弘行
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 修司
(72)【発明者】
【氏名】小林 徳康
(72)【発明者】
【氏名】山本 摂
(72)【発明者】
【氏名】中島 弘達
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB21
2G053BA03
2G053BC14
2G053CA03
2G053DA01
2G053DB01
(57)【要約】
【課題】外径が異なる被検査材毎に対応したECTコイルを準備することなく、全方向の傷を精度高く検出することができ、さらに、低周波と高周波を使用して、被検査材の内面と表面の双方を同時に検査できる探傷検査技術を、十分安価に提供する。
【解決手段】渦電流探傷検査時、被検査材に沿わせて渦電流探傷検査コイルとして使用可能な多層フレキシブルプリント基板であって、平板状のフレキシブルなベースフィルム上に、複数のコイルがプリントされて形成されて配置されているフレキシブルプリント基板が、積層されて構成されており、各々のフレキシブルプリント基板のコイルが、実質的に同一位置で積層されており、積層された複数のコイルが、被検体の全方向への探傷ができるように、組み合わされている多層フレキシブルプリント基板。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
渦電流探傷検査時、被検査材に沿わせて渦電流探傷検査コイルとして使用可能な多層フレキシブルプリント基板であって、
平板状のフレキシブルなベースフィルム上に、複数のコイルがプリントされて形成されて配置されているフレキシブルプリント基板が、積層されて構成されており、
各々の前記フレキシブルプリント基板の前記コイルが、実質的に同一位置で積層されており、
積層された前記複数のコイルが、前記被検体の全方向への探傷ができるように、組み合
わされていることを特徴とする多層フレキシブルプリント基板。
【請求項2】
パンケーキコイルが形成されたフレキシブルプリント基板を、少なくとも1枚有していることを特徴とする請求項1に記載の多層フレキシブルプリント基板。
【請求項3】
矩形状のコイルが形成された2枚のプリント基板の積層によりクロスコイルが形成されている積層部を、少なくとも1箇所に有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多層フレキシブルプリント基板。
【請求項4】
前記積層部が2つ積層された4層積層部を、少なくとも1箇所に有し、
前記4層積層部により形成された2つのクロスコイルが、相互に45度角度をずらして形成されていることを特徴とする請求項3に記載の多層フレキシブルプリント基板。
【請求項5】
渦電流探傷検査時、被検査材に沿わせて、渦電流探傷検査コイルとして使用可能な多層フレキシブルプリント基板であって、
平板状のフレキシブルなベースフィルム上に、複数のパンケーキコイルがプリントされて配置されたフレキシブルプリント基板が、積層されて構成されており、
各々の前記フレキシブルプリント基板の前記パンケーキコイルが、実質的に同一位置で積層されていることを特徴とする多層フレキシブルプリント基板。
【請求項6】
前記フレキシブルプリント基板において、前記複数のコイルが、千鳥状に配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の多層フレキシブルプリント基板。
【請求項7】
導電性の被検査材の探傷検査に用いられる渦電流探傷検査コイルであって、
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の多層フレキシブルプリント基板により、被検査材に沿った形状に形成されていることを特徴とする渦電流探傷検査コイル。
【請求項8】
導電性の被検査材の探傷検査に用いられる渦電流探傷検査装置であって、
請求項7に記載の渦電流探傷検査コイルを備えていることを特徴とする渦電流探傷検査装置。
【請求項9】
導電性の被検査材の表面の探傷検査を、渦電流探傷法により行う渦電流探傷検査方法であって、
請求項7に記載の渦電流探傷検査コイルに励起電流を供給し、
前記渦電流探傷検査コイルからの出力信号に基づいて、前記被検査材に対する探傷検査を行うことを特徴とする渦電流探傷検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層フレキシブルプリント基板、渦電流探傷検査コイル、渦電流探傷検査装置および渦電流探傷検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属材料からなる棒状や管状の製品(棒材、管材)に発生した傷等を非破壊で検査する技術として、渦電流探傷法(ECT:Eddy Current Testing)が知られている(例えば、特許文献1~6)。
【0003】
即ち、渦電流探傷検査コイル(ECTコイル)に励磁電流を供給して金属材料の表面に交流磁場を発生させると、検査対象の部材(被検査材)の表面に渦電流を発生させることができる。この渦電流の状況は材料の電磁気的な性質(透磁率、抵抗率)や表面の状況(傷の有無)によって変化する。このため、渦電流の発生に伴って発生する磁束を表す検出信号をECTコイルの出力信号として得て計測、具体的には、コイルのインピーダンスを計測することによって、渦電流の状況を知ることができ、結果として、被検査材の欠陥を検出することができる。
【0004】
現在使用されているECTコイルの1つに、図7に示すように、棒材や管材に導線が巻回されたボビン型コイル32で構成されたECTコイル31があり、ECTコイル31に被検査材Sを貫通させることにより、探傷検査が行われている。なお、図7において、矢印は、被検査材Sの移動方向を示しており、被検査材Sの一端から他端までをECTコイル31の挿通穴内を通過させることにより、被検査材Sの全体に亘って探傷検査を行うことができる。
【0005】
しかしながら、このようなボビン型のECTコイルは、渦電流の向きによって検出性能に差があり、周方向に向けて発生した傷に対しては、検出感度が小さい。図8は、この渦電流の向きによる検出感度(検出性能)の差を説明する模式図である。図8において、Sは被検査体、Iは被検査体Sに発生している傷であり、矢印は検査領域における渦電流の流れの方向を示す。傷Iは、渦電流が傷Iと交差することによって変化する渦電流の状態を捉えることにより、検出されるため、渦電流と傷Iとの交差角度が大きい程、検出性能が高く、図8に示すように、渦電流と傷Iとが直交する場合に最も高い精度で検出することができる。一方、平行している場合には、渦電流と傷Iとの交差がないため、最も検出性能が低くなる。
【0006】
このため、管状の被検査体をボビン型のECTコイルを用いてECTを行う場合、被検査体の軸方向、即ち、渦電流と直交する方向に発生した傷に対しては、小さな傷であっても精度高く検出できるが、周方向、即ち、渦電流と平行する方向に発生した傷に対しては検出感度が低く、小さな傷を精度高く検出することが難しい。
【0007】
また、ボビン型のECTコイルは、サイズの異なる各種の被検査材の外径に合わせて使用されるため、外径が異なる被検査材に合わせて多くのECTコイルを準備する必要がある。具体的に、ECTコイルの内径に対して被検査材の外径が大きすぎると、ECTコイルの挿通穴に被検査材を挿通することが難しく、挿通させたとしても、被検査材の表面に摩耗等により、新たな擦り傷が発生する恐れがある。一方、ECTコイルの内径に対して被検査材の外径が小さすぎると、ECTコイルの挿通穴に被検査材を挿通することに困難はないものの、被検査材との間に大きな隙間(ギャップ)が生じて、検査精度の低下を招く恐れがある。
【0008】
そこで、図9に示すように、ボビン型コイル33を軸体34に挿通させてECTコイル35を形成させ、このECTコイル35を被検査材Sに上置きして(上置きコイル)、被検査材Sを回転させることにより探傷検査を行うことも行われている。また、被検査材Sではなく、ECTコイル35(上置きコイル)を回転させる場合もある。
【0009】
この上置きコイルを使用した探傷検査の場合、ECTコイルは被検査材に上置きされるだけであるため、ボビン型のECTコイルの場合と異なり、外径が異なる被検査材毎にECTコイルを準備する必要がなく、また、軸方向や周方向だけでなく、あらゆる方向に発生した傷の検出が可能となる。しかし、被検査材や上置きコイルを回転させるための回転設備を設ける必要がある。そして、回転により発生するノイズの低減を図る必要もある。このため、余分なコストの発生が避けられない。また、ボビン型のECTコイルの場合と異なり、被検査材などを回転させる必要があるため、検査速度も遅くなる。
【0010】
そこで、近年、この回転設備を不要とするために、図10に示すように、複数の小型コイル43を配置してマルチアレイコイル型のECTコイル41を、プローブ44の外周に設けた検査治具の適用が、例えば、熱交換器細管検査(例えば、蒸気発生器細管検査)などにおいて始まっている。ECTコイル41をマルチアレイコイル型に構成することにより、被検査材である細管や検査治具を回転させることなく、細管内部の探傷検査を行うことができる。
【0011】
しかし、このようなマルチアレイコイル型のECTコイルの作製を安価に行うことは難しく、回転設備に代わって大きな費用が必要となる。また、ボビン型のECTコイルの場合と同様に、外径が異なる被検査材毎に対応したECTコイルを準備する必要がある。
【0012】
また、傷の発生方向が軸方向、周方向のいずれであっても精度高い検出性能を得るために、方向を変えて互いに交差させた2つのコイル(クロスコイル)を使用したECTコイルも提案されている。図11は、このクロスコイルの配置を説明する模式図であり、図11(a)に示すように、軸方向巻きおよび周方向巻きの2つのコイル81、82が直交するように配置されて、クロスコイルが形成されている。
【0013】
このようなクロスコイルを使用した場合、軸方向巻きのコイル81では、図11(b)に示すように、周方向の傷Iが渦電流と交差して精度高く検出することができる。一方、周方向巻きのコイル82では、図11(c)に示すように、軸方向の傷Iが渦電流と交差して精度高く検出することができる。
【0014】
このように、クロスコイルとすることにより、周方向の傷、軸方向の傷のいずれに対しても高い検出性能を確保することができる。しかし、斜め方向に発生した傷に対する検出性能は十分とは言えない。また、ボビン型のECTコイルの場合と同様に、外径が異なる被検査材毎に対応したECTコイルを準備する必要がある。
【0015】
以上のように、従来のECTコイルは、いずれのタイプであっても、1つのコイルで、被検査体の全方向に亘って傷の検出を精度高く行うことは難しいため、特性を考慮した複数のコイルを別々に配置するしかなかった。
【0016】
具体的な一例として、例えば、図12に示すように、矩形状のコイルを交差させたクロスコイル91と、渦巻形状のパンケーキコイル92、93とが、中央部で周方向に交互に配置された探傷装置9が提案されている。なお、図12(a)は、この探傷装置の側面模式図であり、図12(b)は、この探傷装置の中央部におけるクロスコイルおよびパンケーキコイルの配置状況を示す模式展開図である。しかしながら、このような探傷装置の場合も回転設備を必要とするため、さらなる改良が求められている。
【0017】
また、より効率的な探傷検査のためには、内面に発生した傷と表面に発生した傷の双方について、同時に検査できればよいが、内面と表面とではコイルからの距離に差があるため、内面探傷用に数十kHzという極端な低周波を使用し、表面探傷用には数MHzという極端な高周波を使用する必要がある。
【0018】
しかしながら、コイルの有するインピーダンスには制限があるため、高周波と低周波の同時使用は難しく、距離のある内面と表面とを同時に検出することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平11-51905号公報
【特許文献2】特開平11-183441号公報
【特許文献3】特開2001-56317号公報
【特許文献4】特開2001-66293号公報
【特許文献5】特開2005-221273号公報
【特許文献6】特表2008-89490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上記した従来のECTコイルの様々な問題点に鑑み、外径が異なる被検査材毎に対応したECTコイルを準備することなく、全方向の傷を精度高く検出することができ、さらに、低周波と高周波を使用して、被検査材の内面と表面の双方を同時に検査できる探傷検査技術を、十分安価に提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は、上記課題の解決にあたって、鋭意検討の結果、フレキシブルなベースフィルム上に、複数のコイルがプリントされて配置されたフレキシブルプリント基板(以下、単に「プリント基板」ともいう)が積層された多層フレキシブルプリント基板を用いて、ECTコイルとすることに思い至った。
【0022】
即ち、このようなプリント基板は、厚さを150μm程度にまで薄くすることが可能であるため、積層して多層化しても、十分薄い状態を維持することができる。そして、多層フレキシブルプリント基板は、例えば、容易に任意の径の円筒形状に巻回して、被検査材に沿わせることによりECTコイルとすることができるため、外径が異なる被検査材毎に対応したECTコイルを準備する必要がない。また、その薄さを活かして、狭い場所にある被検査材であっても、被検査材に沿わせてECTコイルを形成させることにより、容易に探傷検査することができる。
【0023】
そして、各プリント基板に配置されたコイルが実質的に重なり合うように積層された多層フレキシブルプリント基板をECTコイルとして使用することにより、積層されたコイルを、見掛け上、1つのコイルと見なして、効率的な探傷検査を容易に行うことができる。即ち、図12に示すような従来のETCコイルでは、1つの傷をパンケーキコイル、クロスコイルで順次検出した後、統合処理する必要があり、効率が良い探傷検査とは言えなかった。しかし、本発明においては、実質的に同一位置に積層された複数のコイルで同時に検出した後、1つの信号として同時に処理することができるため、効率良く探傷検査を行うことができる。なお、ここで「実質的に重なり合う」とは、厳密に同一位置に積層されている場合だけでなく、多少のずれを持ちながら積層されている場合も含まれることを意味している。
【0024】
そして、異なるコイルが配置されたプリント基板が積層された多層フレキシブルプリント基板をECTコイルとして使用することにより、全方向の傷を精度高く検出することができる。
【0025】
また、多層化しても十分薄い状態が維持された多層フレキシブルプリント基板をECTコイルとして使用した場合、低周波用コイルと高周波用コイルの同時使用ができるため、距離のある内面と表面とを同時に探傷することができ、より効率的な探傷検査が可能となる。
【0026】
さらに、これらのプリント基板は、ベースフィルム上に、多数のコイルを一度のプリント工程で、均一に形成することができるため、従来のワイヤを巻回して1個ずつコイルを作製して配置する方法に比べて、安価に作製することができる。
【0027】
本発明は、上記の知見に基づくものであり、請求項1に記載の発明は、
渦電流探傷検査時、被検査材に沿わせて渦電流探傷検査コイルとして使用可能な多層フレキシブルプリント基板であって、
平板状のフレキシブルなベースフィルム上に、複数のコイルがプリントされて形成されて配置されているフレキシブルプリント基板が、積層されて構成されており、
各々の前記フレキシブルプリント基板の前記コイルが、実質的に同一位置で積層されており、
積層された前記複数のコイルが、前記被検体の全方向への探傷ができるように、組み合
わされていることを特徴とする多層フレキシブルプリント基板である。
【0028】
この時、多層フレキシブルプリント基板を構成する各フレキシブルプリント基板に配置されるコイルは、特に限定されず、探傷検査の内容に合わせて、適宜、選択することができるが、多層フレキシブルプリント基板は、パンケーキコイルが形成されたプリント基板を、少なくとも1枚有していることが好ましい。これにより、渦電流探傷検査コイル(ECTコイル)として使用したとき、クロスコイルでは十分に検出することができない斜め方向の傷を、精度を上げて検出することができる。
【0029】
即ち、請求項2に記載の発明は、
パンケーキコイルが形成されたフレキシブルプリント基板を、少なくとも1枚有していることを特徴とする請求項1に記載の多層フレキシブルプリント基板である。
【0030】
また、多層フレキシブルプリント基板は、矩形状のコイルが形成された2枚のプリント基板の積層によりクロスコイルが形成されている積層部を、少なくとも1箇所に有していることが好ましい。これにより、渦電流探傷検査コイル(ECTコイル)として使用したとき、パンケーキコイルでは十分に検出することができない縦方向および横方向の傷を、精度を上げて検出することができる。
【0031】
また、矩形状のコイルが斜め方向に形成された2枚のプリント基板の積層によって斜め方向のクロスコイルが形成されている積層部を、さらに設けた場合には、検出方向の漏れをさらに低減することができるため、より精度を上げて探傷検査を行うことができる。
【0032】
即ち、請求項3に記載の発明は、
矩形状のコイルが形成された2枚のプリント基板の積層によりクロスコイルが形成されている積層部を、少なくとも1箇所に有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多層フレキシブルプリント基板である。
【0033】
そして、請求項4に記載の発明は、
前記積層部が2つ積層された4層積層部を、少なくとも1箇所に有し、
前記4層積層部により形成された2つのクロスコイルが、相互に45度角度をずらして形成されていることを特徴とする請求項3に記載の多層フレキシブルプリント基板である。
【0034】
なお、被検査材における溶接部やボルトの亀裂を検査する場合、従来は、ECTコイルとして1つのパンケーキコイルを使用していたが、コイルの構造が簡単であるため、磁場を励磁する方法としては、自己誘導型を取らざるを得なかった。その結果、高い励磁電圧を得ることができず、十分な検出性能を確保することが難しかった。
【0035】
これに対して、複数のパンケーキコイルが配置されたプリント基板が積層された多層フレキシブルプリント基板を用いてECTコイルとした場合には、磁場を励磁する方法として相互誘導型の利用が可能となるため、高い励磁電圧の提供が可能となり、十分な検出性能を確保することができる。また、多層フレキシブルプリント基板を用いたECTコイルは、前記したように、内面探傷用の低周波と、表面探傷用の高周波の同時使用ができるため、距離のある内面と表面とを同時に探傷して、より効率的な探傷検査が可能となる。
【0036】
即ち、請求項5に記載の発明は、
渦電流探傷検査時、被検査材に沿わせて、渦電流探傷検査コイルとして使用可能な多層フレキシブルプリント基板であって、
平板状のフレキシブルなベースフィルム上に、複数のパンケーキコイルがプリントされて配置されたフレキシブルプリント基板が、積層されて構成されており、
各々の前記フレキシブルプリント基板の前記パンケーキコイルが、実質的に同一位置で積層されていることを特徴とする多層フレキシブルプリント基板である。
【0037】
そして、各フレキシブルプリント基板において、各コイルは、探傷検査時、検査漏れとなる箇所が発生しないように配置されていることが好ましく、例えば、千鳥状に配置されていることが好ましい。
【0038】
即ち、請求項6に記載の発明は、
前記フレキシブルプリント基板において、前記複数のコイルが、千鳥状に配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の多層フレキシブルプリント基板である。
【0039】
そして、上記した全方向の傷を精度高く検出できるなどの優れた特性を有する多層フレキシブルプリント基板を、被検査材に沿わせることにより、1つの多層フレキシブルプリント基板でありながらも、各被検査材毎に対応したECTコイルを提供することができる。具体的には、被検査材に巻回して円筒形状に形成したり、被検査材の外径に対応した径の円筒形状に予め形成したりして、ECTコイルとすることができる。また、狭い場所にある被検査材に沿わせてECTコイルを形成させることもできる。
【0040】
即ち、請求項7に記載の発明は、
導電性の被検査材の探傷検査に用いられる渦電流探傷検査コイルであって、
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の多層フレキシブルプリント基板により、被検査材に沿った形状に形成されていることを特徴とする渦電流探傷検査コイルである。
【0041】
そして、上記した渦電流探傷検査コイル(ECTコイル)を備えた探傷検査装置は、安価でありながらも、精度高い探傷検査が可能である。
【0042】
即ち、請求項8に記載の発明は、
導電性の被検査材の探傷検査に用いられる渦電流探傷検査装置であって、
請求項7に記載の渦電流探傷検査コイルを備えていることを特徴とする渦電流探傷検査装置である。
【0043】
そして、上記した渦電流探傷検査コイル(ECTコイル)に励起電流を供給し、渦電流探傷検査コイルからの出力信号を計測することにより、容易に、高い精度で、被検査材に対する探傷検査を行うことができる。
【0044】
即ち、請求項9に記載の発明は、
導電性の被検査材の表面の探傷検査を、渦電流探傷法により行う渦電流探傷検査方法であって、
請求項7に記載の渦電流探傷検査コイルに励起電流を供給し、
前記渦電流探傷検査コイルからの出力信号に基づいて、前記被検査材に対する探傷検査を行うことを特徴とする渦電流探傷検査方法である。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、外径が異なる被検査材毎に対応したECTコイルを準備することなく、全方向の傷を精度高く検出することができ、さらに、低周波と高周波を使用して、被検査材の内面と表面の双方を同時に検査できる探傷検査技術を、十分安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明の一実施の形態におけるフレキシブルプリント基板に形成されているパンケーキコイルのパターンの一例を示す模式図である。
図2】本実施の形態におけるフレキシブルプリント基板に形成されるクロスコイルの片方のパターンの一例を示す模式図である。
図3】クロスコイルの形成を説明する模式図である。
図4】本発明の一実施の形態において、異なるコイルパターンが形成されたフレキシブルプリント基板を示す模式図である。
図5】本実施の形態に係るECTコイルの例を示す模式図である。
図6】本実施の形態に係るECTコイルの他の例を示す模式図である。
図7】従来のボビン型コイルで構成されたECTコイルを説明する模式図である。
図8】渦電流の向きによる探傷能力の差を説明する模式図である。
図9】従来の上置きECTコイルを説明する模式図である。
図10】従来のマルチアレイコイル型のECTコイルを説明する模式図である。
図11】従来のクロスコイルの配置を説明する模式図である。
図12】従来のECTコイルにおけるクロスコイルおよびパンケーキコイルの配置を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、実施の形態に基づき、本発明を具体的に説明する。
【0048】
[1]基本的な構成
初めに、本実施の形態における基本的な構成について説明する。
【0049】
本実施の形態に係る多層フレキシブルプリント基板は、平板状のフレキシブルなベースフィルム上に、コイルが、複数プリントされて配置されたフレキシブルプリント基板が、積層されて構成されている。そして、各々のフレキシブルプリント基板のコイルが同一位置で積層されて、多層フレキシブルプリント基板に形成されている。さらに、被検体の全方向への探傷ができるように、コイルの各形状が組み合わされて、各々のフレキシブルプリント基板が積層されている。
【0050】
ベースフィルム上にプリントにより形成されたコイルは、ワイヤ(導線)を巻回して作製される従来のコイルに比べて、安価でありながらも、均一な形状に安定して形成することができる。
【0051】
そして、平板状のフレキシブルなベースフィルム上にプリントされたコイルは、ベースフィルムと同様に、フレキシビリティーに富んでおり、厚さも150μm程度にまで薄くすることが可能であるため、積層して多層フレキシブルプリント基板とした場合にも、十分薄い状態を維持して、フレキシビリティーに富んでいるため、例えば、外径が異なる複数種類の被検査材に沿わせて巻回することにより、それぞれの外径に対応する径の円筒形状に容易に形成して、ECTコイル(渦電流探傷検査コイル)とすることができ、外径が異なる被検査材毎に対応したECTコイルを準備する必要がない。また、その薄さを活かして、狭い場所にある被検査材であっても、被検査材に沿わせてECTコイルを形成させることにより、容易に探傷検査することができる。
【0052】
そして、配置された複数のコイルを組み合わせることにより、被検体の全方向への探傷ができるように、予め各々のフレキシブルプリント基板が組み合わされて積層されて多層フレキシブルプリント基板とされているため、このような多層フレキシブルプリント基板を被検査材に沿わせてECTコイルを形成して探傷検査を行うことにより、検出漏れが発生する恐れがある方向を十分に低減させて、被検査材の全方向に亘って、高い精度で検査して、傷を検出することができる。
【0053】
また、積層しても十分薄い厚さに制御できるため、内面探傷用の低周波用コイルと表面探傷用の高周波用コイルを一回の探傷走査で同時に使用し、距離のある内面と表面に対し、より効率的な探傷検査を行うことができる。
【0054】
[2]具体的な構成
次に、本発明の具体的な構成について説明する。なお、以下では、コイルとして、パンケーキコイルとクロスコイルを例に挙げて説明するが、渦電流による探傷検査が可能なコイルであれば、特に限定されない。
【0055】
1.多層フレキシブルプリント基板
図1は、本実施の形態に係る多層フレキシブルプリント基板を構成するフレキシブルプリント基板に形成されているパンケーキコイルのパターンの一例を示す模式図である。図1において、1はフレキシブルプリント基板、11はパターン回路、12はベースフィルムであり、11aおよび11bはパターン回路11の端部である。なお、パターン回路11およびベースフィルム12の上面は、図示しない保護フィルム(カバーレイ)によって覆われている。
【0056】
図1に示すように、本実施の形態において、フレキシブルプリント基板1は、平板状のフレキシブルなベースフィルム12上に、パターン回路11がプリントされてパンケーキコイルが形成されている。
【0057】
ベースフィルム12としては、通常のプリント基板に使用されるベースフィルムを使用することができ、例えば、厚さ25μm程度のポリイミド樹脂製フィルムやポリエステル樹脂製フィルムなどを挙げることができる。そして、パターン回路11の形成は、通常のプリント回路の形成と同様にして行うことができる。
【0058】
図2は、本実施の形態におけるフレキシブルプリント基板に形成されるクロスコイルの一方のパターンの一例を示す模式図である。図2において、2はフレキシブルプリント基板、21はパターン回路、22はベースフィルムであり、21aおよび21bはパターン回路21の端部である。なお、パターン回路21およびベースフィルム22の上面は、前記したパンケーキコイルの場合と同様に、図示しない保護フィルム(カバーレイ)によって覆われている。
【0059】
図2に示すように、本実施の形態において、フレキシブルプリント基板2は、平板状のフレキシブルなベースフィルム22上に、矩形状のパターン回路21がプリントされてクロスコイルの一方が形成されている。
【0060】
そして、このようなフレキシブルプリント基板を、矩形の形成方向を変えて2枚作製して、それぞれのコイルの中心を重ね合わせて積層することにより、図3に示すようなクロスコイルを形成させることができる。なお、図3において、21、21’はパターン回路、21a、21b、21’a、21’bは、パターン回路21、21’の端部である。
【0061】
なお、縦方向および横方向にパターン回路を形成させてクロスコイルとすることに替えて、クロスコイルの位置を回転、例えば、45度回転させたパターン回路を形成させて積層することによりクロスコイルとしてもよい。
【0062】
2.渦電流探傷検査コイル(ECTコイル)
図4は、5種類のコイルの配置パターンがそれぞれ形成された各フレキシブルプリント基板を示す模式図である。具体的には、パンケーキコイル101が形成されたフレキシブルプリント基板100、横方向に矩形状のコイル212Aが形成されたフレキシブルプリント基板210、縦方向に矩形状のコイル222Bが形成されたフレキシブルプリント基板220、右上方に向けて斜め方向に矩形状のコイル313Aが形成されたフレキシブルプリント基板310、左上方に向けて斜め方向に矩形状のコイル323Bが形成されたフレキシブルプリント基板320の5種類である。
【0063】
そして、フレキシブルプリント基板210および220を、それぞれのコイルの中心が重なるように積層することにより、縦横方向にクロスしたクロスコイルが形成される。同様に、フレキシブルプリント基板310および320を、それぞれのコイルの中心が重なるように積層することにより、斜め方向にクロスしたクロスコイルが形成される。
【0064】
図5および図6は、上記した各フレキシブルプリント基板を積層することにより得られる本実施の形態に係る多層フレキシブルプリント基板において、1つのコイルのように形成されて多層されたコイルの例を示す模式図である。具体的には、図5においては、パンケーキコイル101が形成されたフレキシブルプリント基板、横方向に矩形状のコイル212Aが形成されたフレキシブルプリント基板、および、縦方向に矩形状のコイル222Bが形成されたフレキシブルプリント基板の3枚が、それぞれのコイルの中心が重なるように積層されて、3層構造の多層フレキシブルプリント基板50が形成されている。
【0065】
そして、図6においては、さらに、右上方に向けて斜め方向に矩形状のコイル313Aが形成されたフレキシブルプリント基板、および、左上方に向けて斜め方向に矩形状のコイル323Bが形成されたフレキシブルプリント基板の2枚も、それぞれのコイルの中心が重なるように積層されて、5層構造の多層フレキシブルプリント基板60が形成されている。
【0066】
本実施の形態に係るECTコイル(渦電流探傷検査コイル)は、このように、各コイルの中心が重なるように、各フレキシブルプリント基板を積層して形成された多層フレキシブルプリント基板を、被検査材に沿わせることにより形成することができる。そして形成されたECTコイルは、パンケーキコイルとクロスコイルなど、全方向の探傷検査ができるように、複数のコイルが積層されて、あたかも、1つのコイルが形成されているように多層フレキシブルプリント基板として多層化されているため、全方向に対して精度の高い探傷検査を行うことができる。また、多層フレキシブルプリント基板の厚み、即ち、ECTコイルの厚みも薄い(例えば、フレキシブルプリント基板1枚当たりの厚さを150μmとしたとき、3層で450μm、5層で750μmの厚さ)ため、低周波用コイルと高周波用コイルを一回の探傷走査で同時に使用し、全方位を効率的に、距離のある内面と表面とを同時に、被検査体の全体に亘って、高い精度で探傷検査することができる。また、狭い場所にある被検査材に対しても、被検査材に沿わせることにより、容易に、高い精度で探傷検査することができる。
【0067】
3.渦電流探傷検査装置
上記したように、本実施の形態に係るECTコイル(渦電流探傷検査コイル)は、上記した複数のフレキシブルプリント基板が積層された多層フレキシブルプリント基板を被検査材の外径に沿わせることにより形成されており、そこには、パンケーキコイルとクロスコイルなど、複数のコイルが同一の位置に設けられて、見かけ上、1つのコイルのように形成されている。
【0068】
このように形成された多層フレキシブルプリント基板を用いて探傷検査を行った場合、1つの傷をパンケーキコイル、クロスコイルなど、複数のコイルで同時に検出して、処理することができるため、効率良く全方向に対する探傷検査を行うことができる。
【0069】
そして、このようなECTコイルが備えられた渦電流探傷検査装置を用いて探傷検査を行った場合、低周波と高周波を同時に利用し、全方位を効率的に、距離のある内面と表面とを同時に、高い精度で探傷検査することができる。
【0070】
具体的には、図5図6に示すように形成された各コイルは、パターン回路としてプリントされてフレキシブルなベースフィルム上に固定されており、積層しても厚さが薄いため、容易に、被検査材の外周面や内周面に沿わせることができる。そして、前記したように、高周波と低周波を同時に利用して、全方位を探傷(スキャン)することができる。
【0071】
また、フレキシブルなECTコイルであるため、探傷検査時、被検査材の表面を傷付けることがない。また、多層フレキシブルプリント基板は、被検査材に沿わせて様々なサイズの被検査材の探傷検査に適用することができるため、ECTコイルに掛かるコストを低減させることができる。
【0072】
4.渦電流探傷検査方法
次に、本実施の形態に係る渦電流探傷検査方法について説明する。
【0073】
本実施の形態においては、上記した渦電流探傷検査装置を用いて探傷検査を行う。具体的には、上記のように異なるコイルが形成された複数のフレキシブルプリント基板を積層して構成されたECTコイル(渦電流探傷検査コイル)を、被検査材の外周面や内周面に沿わせた後、ECTコイルに励起電流を供給する。
【0074】
これにより、被検査材の表面に渦電流が発生するため、ECTコイルの出力信号を得ることにより、被検査材の探傷検査を行うことができる。このとき、複数のフレキシブルプリント基板の積層によってECTコイルの検出漏れが発生する恐れがある方向が低減されているため、被検査体の全体に亘って、高い精度で探傷検査することができる。
【0075】
そして、積層されたECTコイルの厚さは十分な薄さを保っているため、低周波と高周波を同時に利用して、全方位を効率的に、距離のある内面と表面とを同時に、探傷検査することができる。
【0076】
また、従来の渦電流探傷検査では、判定が難しい信号が検出された場合、詳細検査として、マルチアレイコイルなどを使用して追加試験を行っており、効率的とは言えなかったが、本実施の形態においては、詳細検査用に作製されたフレキシブルプリント基板を併せて積層して多層フレキシブルプリント基板とすることにより、追加試験を不要にすることができるため、効率的な探傷検査が可能となる。
【0077】
また、被検査材における溶接部やボルトの亀裂を検査する場合、従来は、ECTコイルとして1つのパンケーキコイルを使用しており、前記したように、コイルの構造により高い励磁電圧を得ることができず、十分な検出性能を確保することが難しかったが、本実施の形態においては、複数のパンケーキコイルが配置されたプリント基板が積層された多層フレキシブルプリント基板を用いることにより、高い励磁電圧の設定が可能となり、十分な検出性能を確保することができる。また、内面探傷用の低周波と表面探傷用の高周波の同時使用ができるため、距離のある内面と表面とを同時に探傷して、より効率的な探傷検査が可能となる。
【0078】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0079】
1、2、100、210、220、310、320 フレキシブルプリント基板
9 探傷装置
11、21、21’ パターン回路
11a、11b、21a、21b、21’a、21’b パターン回路の端部
12、22 ベースフィルム
31、35、41、50、60 ECTコイル
32、33 ボビン型コイル
34 軸体
43 小型コイル
50、60 多層フレキシブルプリント基板
81、82 コイル
91 クロスコイル
92、93、101 パンケーキコイル
212A、222B、313A、323B 矩形状のコイル
I 傷
S 被検査材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12