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▶ シヤチハタ株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141889
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】放射線遮蔽材
(51)【国際特許分類】
   G21F 1/10 20060101AFI20230928BHJP
   G21F 1/12 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G21F1/10
G21F1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048456
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】230117259
【弁護士】
【氏名又は名称】綿貫 敬典
(72)【発明者】
【氏名】石川 宏敏
(57)【要約】
【課題】伸び特性と放射線遮蔽特性に優れた放射線遮蔽材を提供する。
【解決手段】本発明の放射線遮蔽材は、エチレン-αオレフィンコポリマーに、サマリウム粉末を配合したものである。サマリウム粉末の他にさらにタングステン粉末を配合することもができる。αオレフィンとしては特に1-ブテンが好ましい。伸び:1000%、硬度:50~90、厚さが0.03mmの鉛板と等しい放射線遮蔽特性を得るために必要な放射線遮蔽材の厚さが0.5mmの特性を持つ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-αオレフィンコポリマーに、サマリウム粉末を配合したことを特徴とする放射線遮蔽材。
【請求項2】
さらにタングステン粉末を配合したことを特徴とする請求項1に記載の放射線遮蔽材。
【請求項3】
引張試験による切断時の伸びが1000%以上であり、硬度が50~90の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線遮蔽材。
【請求項4】
厚さが0.03mmの鉛板と等しい放射線遮蔽特性を得るために必要な放射線遮蔽材の厚さが、0.5mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線遮蔽材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸び特性に優れた放射線遮蔽材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射線が用いられる医療分野においては、人体を保護するために、放射線遮蔽材からなる手袋等の需要がある。このような用途に用いられる放射線遮蔽材は装着が容易に行えるように、軟質で伸び特性に優れることが好ましい。
【0003】
軟質の放射線遮蔽材としては、シリコーンゴムやポリエチレンのような軟質の高分子材料中に、鉄、鉛、タングステンなどの放射線吸収物質を配合したものが、従来から用いられている。しかし市販されている放射線遮蔽用手袋の材質は、軟質ではあるが伸び特性が低いため、着脱しにくいという問題があった。
【0004】
また特許文献1には、エポキシ樹脂などの高分子材料に、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、ディスプロシウムなどの熱中性子吸収材を混入した中性子遮蔽材が開示されている。しかしこれは使用済み核燃料の輸送や貯蔵に用いられるキャスク(容器)に用いることを目的としたものであり、伸び特性に関する記載はない。
【0005】
また特許文献2には、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂などに、鉛を含まないタングステン、錫、ビスマスなどを配合し、これを生地の表面に塗工して放射線遮蔽層を形成することが開示されている。この発明は衣服への適用を目的としたもので、柔軟性はあるが、伸び特性は低いものであった。
【0006】
このように、従来の放射線遮蔽材は伸び特性が十分ではなく、放射線遮蔽用手袋のような伸び特性が求められる用途に使用するには満足できないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2-44295号公報
【特許文献2】特開2013-205103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、伸び特性と放射線遮蔽特性に優れた放射線遮蔽材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するためになされた本発明の放射線遮蔽材は、エチレン-αオレフィンコポリマーに、サマリウム粉末を配合したことを特徴とするものである。サマリウム粉末に加えて、タングステン粉末を配合することもできる。
【0010】
なお、引張試験による切断時の伸びが1000%以上であり、硬度が50~90の範囲であることが好ましい。また、厚さが0.03mmの鉛板と等しい放射線遮蔽特性を得るために必要な放射線遮蔽材の厚さが、0.5mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
以下に示すように、本発明によれば、伸び特性と放射線遮蔽特性とに優れた放射線遮蔽材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
先ず、放射線遮蔽材の伸び特性と放射線遮蔽特性の評価方法を説明する。伸び特性は試験片を引張試験機で引き伸ばし、切断時の標線間距離を試験片の標線間距離で割った値を伸びとして示す。詳細はJIS・K6251に規定される通りである。手袋に用いるための適正伸びは700%以上である。また関連する評価項目に硬度があり、これはJIS・K6253に規定される通りである。手袋に用いる材料の適正硬度は50~90の範囲である。
【0013】
放射線遮蔽特性は、厚さが0.03mmの鉛板と等しい放射線遮蔽特性を得るために必要な放射線遮蔽材の厚さで評価した。その値を鉛当量と記す。手袋に用いるための適正鉛当量は0.5mm以下である。
【0014】
本発明の放射線遮蔽材は、エチレン-αオレフィンコポリマーに、サマリウム粉末を配合したものである。サマリウム(Sm)は希土類に属する元素であり、空気中で酸化して安定な酸化サマリウムとなる。本発明では酸化サマリウムの粉末を用いる。その粒径は任意であるが、樹脂に配合して手袋として用いるためには、粒径を10~100μm程度とすることが適当である。
【0015】
エチレン-αオレフィンコポリマーは線状低密度ポリエチレンとして知られているもので、エチレンとαオレフィンとの共重合体である。αオレフィンは二重結合を末端(α位)に持つアルケンであり、プロピレン、1-ブテン、4-メチルー1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ヘプテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、9-メチルー1-デセン、11-メチルー1-ドデセン、及び12-エチルー1-テトラデセン等が挙げられる。なかでもプロピレン、1-ブテン、4-メチルー1-ペンテン、1-ヘキセン及び1-オクテンが好ましく、特に1-ブテンが好ましい。これらのαオレフィンは、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
エチレン-αオレフィンコポリマーは柔軟性を持つアルキル基を分枝構造として有するため、単純な直鎖状のポリマーよりも柔軟性に富む。またαオレフィンの比率が低い場合にも柔軟性に富み、自動車用の合成潤滑剤の基油としても使用されている物質である。
【0017】
以下に示す実施例では、αオレフィンが1-ブテンであるエチレン-1-ブテンのコポリマー(市販品)にサマリウム粉末を配合した。エチレン-1-ブテンコポリマーは、硬度が40の軟質体であり、伸びも2500と非常に大きいが、放射線遮蔽物質を含有させない状態では0.03mmの鉛板と等しい放射線遮蔽特性を得るために必要な厚さ(鉛当量)は18.6mmであって、そのままでは手袋として使用することはできない。しかしサマリウム粉末を配合することによって、高い伸びを維持したままで鉛当量を0.3mmまで低下させることが可能となった。なお、サマリウム粉末を配合することによって、硬度はサマリウム粉末を配合する前の40から60にまで増加するが、手袋に用いるための適正硬度である50~90の範囲にある。よって、放射線遮蔽特性、硬度、伸びの何れにも優れた放射線遮蔽材となる。
【0018】
全体質量に対するサマリウム粉末の配合率は、50~70質量%とすることが好ましい。配合率がこの範囲を下回ると放射線遮蔽特性が低下し、鉛当量の値が増加するので好ましくない。また、配合率がこの範囲を上回ると、放射線遮蔽材としての強度が低下し、伸びも次第に低下するため好ましくない。
【0019】
サマリウム粉末とともにタングステン粉末を配合すれば、放射線遮蔽特性を更に向上させることができる。これにより鉛当量を0.25mm以下にまで低下させることができ、より薄肉化することができる。しかしさらにタングステン粉末を添加することによって伸びの値は次第に低下するため、全体質量に対するタングステン粉末の配合率は、10~20質量%とすることが望ましい。以下に本発明の実施例を示す。
【実施例0020】
(実施例1)αオレフィンが1-ブテンである市販のエチレン-αオレフィンコポリマー30質量部に、70質量部の酸化サマリウム粉末を配合したものを膜状に成形し、実施例1の放射線遮蔽材を得た。この材料でJIS・K6251に規定されるダンベル状の試験片を作成し、引張試験機により切断時の伸びと引張強度を測定した。またJIS・K6253に準拠して硬度を測定した。さらに0.03mmの鉛板と等しい放射線遮蔽特性を得るために必要な厚さ(鉛当量)を測定した。その結果は、伸び:2500%、引張強度:3.5MPa、硬度:60、鉛当量:0.3mmであった。これらの値は、この材料が放射線遮蔽用手袋のような用途に要求される特性を満足することを示している。
【0021】
(実施例2)αオレフィンが1-ブテンである市販のエチレン-αオレフィンコポリマー30質量部に、60質量部の酸化サマリウム粉末と、10質量部のタングステン粉末を配合したものを膜状に成形し、実施例2の放射線遮蔽材を得た。実施例1と同様の測定を行った結果、伸び:2000%、引張強度:3.5MPa、硬度:70、鉛当量:0.25mmであった。実施例1に比べて伸びはやや低下し、硬度はやや増加したが、鉛当量は低下し放射線遮蔽特性が向上したことが確認された。これらの値は、この材料が放射線遮蔽用手袋のような用途に要求される特性を満足することを示している。
【0022】
(実施例3)αオレフィンが1-ブテンである市販のエチレン-αオレフィンコポリマー30質量部に、50質量部の酸化サマリウム粉末と、20質量部のタングステン粉末を配合したものを膜状に成形し、実施例3の放射線遮蔽材を得た。実施例1と同様の測定を行った結果、伸び:1500%、引張強度:3.5MPa、硬度:80、鉛当量:0.2mmであった。実施例2に比べて伸びはやや低下し、硬度はやや増加したが、鉛当量はさらに低下し、放射線遮蔽特性が大きく向上したことが確認された。これらの値は、この材料が放射線遮蔽用手袋のような用途に要求される特性を満足することを示している。
【0023】
(比較例1)シリコーンゴム30質量部に、70質量部の酸化サマリウム粉末を配合したものを比較例1の放射線遮蔽材とした。実施例1と同様の測定を行った結果、伸び:74%、引張強度:2.6MPa、硬度:85、鉛当量:0.35mmであった。放射線遮蔽特性は実施例1-3とあまり差がないが、硬度と伸びの値が悪く、比較例1の材料は放射線遮蔽用手袋のような用途に要求される特性を備えていない。
【0024】
(比較例2)シリコーンゴム30質量部に、60質量部の酸化サマリウム粉末と、10質量部のタングステン粉末を配合したものを比較例2の放射線遮蔽材とした。この測定値は、伸び:134%、引張強度:2.6MPa、硬度:90、鉛当量:0.25mmであった。放射線遮蔽特性は実施例1-3とあまり差がないが、比較例2と同様、硬度と伸びの値が悪く、比較例1の材料は放射線遮蔽用手袋のような用途に要求される特性を備えていない。
【0025】
(比較例3)αオレフィンが1-ブテンである市販のエチレン-αオレフィンコポリマー単体を比較例3とした。この測定値は、伸び:2500%、引張強度:3.0MPa、硬度:40、鉛当量:18.6mmであった。放射線遮蔽物質を含まないため放射線遮蔽特性が悪く、放射線遮蔽用手袋のような用途に使用できないものである。
【0026】
(従来例1)シリコーンゴム単体を従来例1として測定したところ、伸び:575%、引張強度:8.2MPa、硬度:50、鉛当量:8.3mmであった。放射線遮蔽物質を含まないため放射線遮蔽特性が悪いうえ、伸び率も悪く、放射線遮蔽用手袋のような用途に使用できないものである。
【0027】
(従来例2)市販されている鉛入りの放射線遮蔽用手袋を従来例2として測定したところ、伸び:920%、引張強度:20MPa、硬度:45、鉛当量:0.33mmであった。伸びがやや劣るが放射線遮蔽特性は実施例1とほぼ同等であった。しかし鉛は人体に悪影響を及ぼすおそれがあるという難点がある。
【0028】
以上に説明した実施例、比較例、従来例の測定値を表1にまとめた。本発明の放射線遮蔽材の優位性を確認することができる。
【0029】
【表1】