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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141900
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】生分解性繊維製品
(51)【国際特許分類】
   D06C 7/00 20060101AFI20230928BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20230928BHJP
【FI】
D06C7/00 Z
D03D15/283
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048472
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】508179545
【氏名又は名称】東洋紡STC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 右広
(72)【発明者】
【氏名】塚本 暁
(72)【発明者】
【氏名】藤田 健二
【テーマコード(参考)】
3B154
4L048
【Fターム(参考)】
3B154AA07
3B154AB20
3B154AB27
3B154BA17
3B154BB12
3B154BC26
3B154DA02
4L048AA20
4L048AA34
4L048AA42
4L048AA44
4L048AA50
4L048AB07
4L048AB10
4L048AB11
4L048AC00
4L048AC11
4L048BA01
4L048CA00
4L048CA03
4L048DA24
4L048DA40
4L048EB05
(57)【要約】
【課題】濾過布、フィルター、ストレーナ、スクリーン用の材料として好適な生分解性繊維製品を提供する。
【解決手段】単糸繊度が15dtex以上50dtex以下、構成単糸本数が1本以上5本以下、総繊度が15dtex150dtex以下の長繊維フィラメントを経糸および緯糸の少なくとも一方に配する織物である生機を熱処理して構成される生分解性繊維製品であって、長繊維フィラメントは、ポリ乳酸重合体によって構成されており、熱収縮応力測定における最大熱収縮発現温度TSmaxが80℃以上100℃以下であり、最大熱収縮発現温度での最大熱収縮応力値σmaxが0.05cN/dtex以上0.20cN/dtex以下であることを特徴とする生分解性繊維製品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度が15dtex以上50dtex以下、構成単糸本数が1本以上5本以下、総繊度が15dtex150dtex以下の長繊維フィラメントを経糸および緯糸の少なくとも一方に配する織物である生機を熱処理して構成される生分解性繊維製品であって、
前記長繊維フィラメントは、ポリ乳酸重合体によって構成されており、熱収縮応力測定における最大熱収縮発現温度TSmaxが80℃以上100℃以下であり、最大熱収縮発現温度での最大熱収縮応力値σmaxが0.05cN/dtex以上0.20cN/dtex以下であることを特徴とする生分解性繊維製品。
【請求項2】
前記長繊維フィラメントは、融点Tmにおける結晶融解熱量ΔHmが50J/g以上70J/g以下である請求項1に記載の生分解性繊維製品。
【請求項3】
前記生機は、織組織が平織または綾織であり、目開き寸法が0.100mm以上0.250mm以下であり、開口率が45%以上75%以下である請求項1または2に記載の生分解性繊維製品。
【請求項4】
前記熱処理前および前記熱処理後の前記生機における、下記式(1)によって算出した開口部対角線寸法の変動係数の変化比率CV(b/a)は、2.0以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の生分解性繊維製品。
CV(b/a)=CVb/CVa (1)
(式中、CV(b/a)は熱処理前後の変動係数の変化比率を示し、CVaは熱処理前の生機の対角線寸法の変動係数を示し、CVbは熱処理後の生機の対角線寸法の変動係数を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性に優れた繊維製品に関するものである。本発明の生分解性繊維製品とは、長繊維フィラメントを織物の少なくとも一部に用いて製織し、シート状物としたもの、並びにそれを用いた複合材料を含むものである。更に詳しくは、食品用の濾過布、フィルター、ストレーナ、スクリーン材料として好適な織物シート、複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品用の濾過布、フィルター、ストレーナ、スクリーンなどの濾材としてポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどの汎用樹脂からなる繊維を用いた織物や不織布、精製パルプなどを原料とするセルロース系繊維製の不織布などが幅広く用いられている。これらは使用後にほとんどが廃棄される、いわゆる使い捨ての繊維製品であり、前者の汎用樹脂からなるものは長期間環境に残存するほか、化石原料を用いたものが多く、SDGsの観点から他素材への変換を求められているものである。また、後者のセルロース系繊維については植物由来原料であり土壌中で分解も可能であるが、前者と比較して強伸度特性、特に湿潤時の強度が弱く、成型性やヒートシール性についても汎用樹脂に比べて劣っており、使用用途や条件に応じて材料選定をされているというのが現状である。
【0003】
昨今のサスティナビリティ、エシカル消費に対する一般消費者意識の高まりや、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)への取組みの中で生分解性繊維やバイオマス繊維に対する要望が日々高くなっており、上記の分野についても注目されつつある。取り分け、ポリ乳酸(PLA)を用いたポリ乳酸繊維はトウモロコシやサトウキビなどのバイオ由来原料を用いた繊維であり、尚且つ土壌中の微生物で分解される生分解繊維でもあるので、地球に優しい素材として注目されている原料素材のひとつである。
【0004】
ポリ乳酸繊維の原料となるポリ乳酸樹脂重合体は、結晶性樹脂と非晶性樹脂のうち、結晶性樹脂に分類されるが、結晶化を促進させるには長時間の熱処理(アニーリング)が必要となるため、生産速度が重要となる商用生産においては十分に結晶化度を上げる事が出来ず、通常は非晶状態である。そのため、ポリ乳酸樹脂重合体は、一般には耐熱性に乏しく、脆い材料と認識されている。ポリ乳酸樹脂重合体は、結晶化度が低い故に繊維にした場合の熱収縮率、熱収縮応力も高いため、その制御も必要となる。
【0005】
またポリ乳酸を構成する乳酸モノマーには光学異性体、すなわちL体(L-isomer)のL-乳酸とD体(D-isomer)のD-乳酸が存在する。ポリ乳酸樹脂重合体は殆どがL-乳酸から構成されるが、L-乳酸とD-乳酸をランダム共重合させた場合、D-乳酸の比率が大きくなると一般的には、結晶化し難くなり、融点Tm、ガラス転移温度Tg、耐熱性、物理的強度の何れもが下がる。またL-乳酸単独成分からなるポリL-乳酸(PLLA)とD-乳酸単独成分からなるポリD-乳酸(PDLA)のブレンドポリマーの場合はポリD-乳酸(PDLA)が恰も結晶核剤や物理的架橋点の如き役割を果たすことが判っている。本発明には市販のPLA樹脂をベースポリマーとして使用することが出来る。例えば、トタル・コービオン社製のLuminy(登録商標)L-130やネイチャーワークス社製のIngeoTM6100Dなどが例示出来る。
【0006】
但し、L-乳酸のみからなるポリL-乳酸(PLLA)とD-乳酸のみからなるポリD-乳酸(PDLA)を等量、均一にブレンドし、それぞれの螺旋構造がかみあうことによって形成される、ステレオコンプレックスポリ乳酸(scPLA)を形成させると、融点Tmはそれぞれの単体対比で50℃程度上昇する他、結晶化度、耐熱性、耐加水分解性、力学的強度の何れもが向上することが確認されており、該ステレオコンプレックスポリ乳酸を用いた繊維、フィルム、成型品が特許文献1にて提案されている。
【0007】
また特許文献2ではポリ乳酸など生分解性プラスチックからなる繊維の耐加水分解性、耐熱性、強度の向上のため、カルボジイミド化合物によるポリ乳酸重合体のカルボキシ末端封鎖、および架橋を促進する方法が提案されている。
【0008】
また特許文献3にはメルトブロー法による生分解性脂肪族ポリエステル不織布が提案されている。
【0009】
更に特許文献4には分子量が1000以下の有機結晶核剤を熱可塑性の植物由来樹脂に練り込んで結晶化を促進させ、耐熱性と強度、成型性を確保する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007-099934号公報
【特許文献2】特開2005-226183号公報
【特許文献3】国際公開第2012/157359号
【特許文献4】国際公開第2006/137397号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1のステレオコンプレックスポリ乳酸は非常に高コストであり、一般消費材、特に使い捨て用途への展開は難しい他、選択する重合触媒によってはアンチモンのような食品対応には向かない重金属が例示されており好ましい実施態様とは言い難い。
【0012】
特許文献2の方法によればポリ乳酸の耐加水分解性が向上するが、逆に生分解性が落ちてしまう事から、自然界に長期間残存してしまい、本来の目的からは少々逸脱してしまう。また架橋が進むことにより得られる繊維製品は硬くて脆いものとなり、繊維製品を用いてなる成型品の成型性にも支障が生じる。
【0013】
特許文献3の方法によれば繊維径が小さい不織布となるため、精密濾過まで対応可能だが、家庭で一般に消費する濾過材としては濾過径が小さ過ぎ、濾過に要する時間が長くなる他、直ぐに閉塞してしまい、十分な濾過が出来なくなる可能性がある。更に食材からの抽出の場合は、必要な旨味成分までをも捕捉してしまう可能性もある。
【0014】
特許文献4に記載されているように、結晶核剤を用いる方法は広く公知であるが、低分子量の結晶核剤を用いると、成型品の加熱によって繊維表面よりブリードアウトする恐れがあり、食品対応においては好ましいとは言い難い。
【0015】
本発明は上記のような従来技術に鑑み、食品用の濾過布、フィルター、ストレーナ、スクリーン用の材料として好適な生分解性樹脂を用いた長繊維フィラメントを少なくとも一部に使用してなる生分解性繊維製品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る織物は、以下の点に要旨を有する。
[1]単糸繊度が15dtex以上50dtex以下、構成単糸本数が1本以上5本以下、総繊度が15dtex150dtex以下の長繊維フィラメントを経糸および緯糸の少なくとも一方に配する織物である生機を熱処理して構成される生分解性繊維製品であって、
前記長繊維フィラメントは、ポリ乳酸重合体によって構成されており、熱収縮応力測定における最大熱収縮発現温度TSmaxが80℃以上100℃以下であり、最大熱収縮発現温度での最大熱収縮応力値σmaxが0.05cN/dtex以上0.20cN/dtex以下であることを特徴とする生分解性繊維製品。
[2]前記長繊維フィラメントは、融点Tmにおける結晶融解熱量ΔHmが50J/g以上70J/g以下である請求項1に記載の生分解性繊維製品。
[3]前記生機は、織組織が平織または綾織であり、目開き寸法が0.100mm以上0.250mm以下であり、開口率が45%以上75%以下である請求項1または2に記載の生分解性繊維製品。
[4]前記熱処理前および前記熱処理後の前記生機における、下記式(1)によって算出した開口部対角線寸法の変動係数の変化比率CV(b/a)は、2.0以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の生分解性繊維製品。
CV(b/a)=CVb/CVa (1)
(式中、CV(b/a)は熱処理前後の変動係数の変化比率を示し、CVaは熱処理前の生機の対角線寸法の変動係数を示し、CVbは熱処理後の生機の対角線寸法の変動係数を示す。)
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、食品用の濾過布、フィルター、ストレーナ、スクリーン材などに好適な生分解繊維からなる繊維製品を安全、且つ安価に提供することが可能である。例えば鰹節や鯖節、昆布など魚介乾燥物からの出汁抽出、紅茶や烏龍茶、日本茶などの茶葉からの成分抽出、珈琲や豆類、乾燥植物根からの焙煎抽出、各種漢方薬や薬用植物からの薬効成分抽出などに広く利用することが出来、使用後は土壌に埋めることによって微生物による分解が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意研究を行った結果、本発明に到達するに至った。即ち本発明は原料となるポリ乳酸重合体からなる長繊維フィラメントの特性値をある特定範囲にコントロールすることによって、消費性能と製品安全性、および生産コスト、生産安定性を両立させる事が出来ることを見出し、本発明を完成した。以下に、その詳細を説明する。
【0019】
先ず、本発明の生分解性繊維製品は、単糸繊度が15dtex以上50dtex以下、構成単糸本数が1本以上5本以下、総繊度が15dtex以上150dtex以下の長繊維フィラメントを経糸および緯糸の少なくとも一方に配する織物である生機を熱処理して構成される生分解性繊維製品であって、該長繊維フィラメントは、ポリ乳酸重合体によって構成されており、熱収縮応力測定における最大熱収縮発現温度TSmaxが80℃以上100℃以下であり、最大熱収縮発現温度での最大熱収縮応力値σmaxが0.05cN/dtex以上0.20cN/dtex以下であることを特徴とする。
【0020】
長繊維フィラメントの原料のポリ乳酸重合体はL-乳酸および/またはD-乳酸を主成分とするものであり、公知の溶融紡糸法やエアギャップ紡糸法によって繊維化することが出来る。取り分け単繊維繊度が大きい場合はエアギャップ紡糸が冷却効率や繊維同士の膠着など操業不良、品質不良を防止するうえで有効である。逆に単糸繊度が小さい場合、エアギャップ紡糸では水などの冷却媒体の抵抗を受け安定操業が困難となるため、溶融紡糸法が好適であるといえる。また紡糸延伸については紡糸と延伸が直結する所謂スピンドロー法以外に紡糸と延伸が2つの工程に分かれる2ステップ式など公知の技術を用いて実施することが出来る。特に2ステップ方式が繊維物性の微調整がし易く、好ましく用いられる。
【0021】
また延伸工程については通常の乾式延伸の他、長繊維フィラメントのガラス転移温度以上の温度に制御した水(温湯)やエチレングリコール、グリセリンなどの熱媒体中で延伸処理する浴中延伸(ドローバス延伸)、およびスチームが導入される蒸気室内で延伸される加圧スチーム延伸も好適に用いることが出来る。延伸処理後は熱収縮応力が高くなっているため、ホットローラー加熱やスチーム加熱によって弛緩熱処理を施し、高くなった熱収縮応力を制御してやることが更に好ましい。更に、紡糸工程の効率化を鑑み、マルチフィラメントの状態で紡糸延伸処理を行った後の任意の工程で分繊機を用いて単糸(1本)、または数本ずつに分割して所定の長繊維フィラメントを得ることも可能である。また必要に応じ、紡糸および延伸の任意の工程で繊維用油剤を付与することも可能である。該油剤付与については静電気防止や摩擦低減などの効果が期待できる。
【0022】
本発明で用いる長繊維フィラメントの単糸繊度としては15dtex以上50dtex以下、より好ましくは17dtex以上40dtex以下、更に好ましくは20dtex以上35dtex以下である。該単糸繊度が50dtexを超過するものでは繊維製品が非常に硬く、曲げにくいものとなり、成形性にも支障をきたすものとなり、好ましくない。また逆に単糸繊度が15dtex未満のものでは繊維製品が柔らかくなり過ぎる他、成型品の力学的強度が小さいものとなり、好ましくない。
【0023】
織物を構成する単糸としては、構成単糸本数が1本以上5本以下であり、好ましくは構成単糸本数1本以上3本以下である。また、単糸の総繊度が15dtex以上150dtex以下、好ましくは総繊度が17dtex以上100dtex以下、更に好ましくは総繊度が20dtex以上50dtex以下である。構成単糸本数が5本以上では目開き寸法、開口率ともに小さくなってしまい、効率的な濾過が出来ない。総繊度も同じく150dtex以上になると目開き寸法、開口率ともに小さくなり、効率的な濾過が出来ない。逆に総繊度が15dtex未満となると目開き寸法、開口率を大きくとる事が出来るが、メヨレし易い他、力学的強度が低くなる。そのため、生分解性繊維製品の使用時において、抽出時の吐出応力によっては、損傷や破裂、破れなどの問題が発生する懸念がある。
【0024】
本発明に使用するポリ乳酸重合体はL-乳酸および/またはD-乳酸を主成分とするものである。L-乳酸およびD-乳酸のそれぞれの構成重量比は限定するものではないが、L-乳酸構成比として95%以上、より好ましくは98%以上含有する、L-乳酸構成比の大きいポリ乳酸重合体が好適に用いられる。
【0025】
また長繊維フィラメントの熱収縮応力測定における最大熱収縮発現温度TSmaxは80℃以上100℃以下であり、最大熱収縮発現温度での応力値(最大熱収縮応力値)σmaxは0.05cN/dtex以上0.20cN/dtex以下である。
【0026】
熱収縮測定における最大熱収縮発現温度TSmaxとして好ましい範囲は80℃以上100℃以下である。TSmaxが80℃未満の低温では湿熱による精練工程において高い熱収縮応力が発現してしまい好ましくない。またTSmaxが100℃を超過する温度であるとポリ乳酸重合体を原料とした長繊維フィラメントでは実現不可能な範囲となる。TSmaxとしては80℃以上100℃以下、より好ましくは85℃以上100℃以下の範囲である。
【0027】
またその際の最大熱収縮応力値σmaxは0.05cN/dtex以上0.20cN/dtexである。σmaxが0.20cN/dtexを超過してしまうと精練、乾熱セット工程における収縮応力が高く成り過ぎ、生地の寸法安定性や操業性が不安定となる。またσmaxが0.05N/dtexよりも低くなってしまうと加工完了後の生分解性繊維製品の織物が生機と殆ど変わらぬ性量、寸法になってしまい、メヨレやスリップなどが発生し易くなり、性能と品位の両面で好ましいものにはならない。
【0028】
最大熱収縮応力発現温度TSmaxおよび最大熱収縮応力値σmaxは使用するポリ乳酸重合体の固有粘度や紡糸条件、延伸条件など複数の要素によってコントロールされるが、特に延伸においてはホットローラーなどで十分に予熱した上で多段延伸、熱固定することによってTSmax、σmaxを調整、コントロールすることが可能である。該延伸時の予熱にはゴデットローラー(加熱ローラー)とネルソン式ローラーを組合せて使用し、糸条を複数回巻き付けることによって滞留時間をより長くさせると共に延伸点を固定させることが可能となり、均一で安定な熱延伸が可能となる。延伸は一段処理とするよりも二段延伸、三段延伸など多段延伸とすることが望ましい。一段目のプレドラフト対比、二段目、三段目の延伸比を大きく採ることが好ましい。また延伸処理後に弛緩熱処理することで更にTSmax、σmaxを微調整することが可能である。糸条の延伸によって収縮応力が高くなるが、延伸後に弛緩熱処理を施すことによって、糸条に残留する収縮応力成分を除去および緩和することが可能である。弛緩熱処理は糸条を過供給しつつ熱処理を施すものである。延伸および弛緩熱処理などの熱処理はホットローラーや乾熱非接触式ヒーター、スチーム加熱、熱媒浴加熱など乾式、湿式問わず公知の技術を用いて実施することが出来る。
【0029】
延伸条件ならびに弛緩熱処理時の弛緩条件など諸条件については特に限定されず、スピンドロー式および2ステップ方式の何れを採用するかで条件も異なってくるが、延伸温度はポリ乳酸重合体のガラス転移温度以上融点以下、具体的には80℃以上150℃以下、更に好ましくは100℃以上140℃以下の範囲が好適である。延伸は多段延伸を採用することが望ましい。延伸比は紡糸方式や紡糸条件によっても異なるが、総延伸比として3~10倍の範囲で操業性や得られる糸条の物理的特性に応じて適宜選定することが出来る。また弛緩熱処理の際の弛緩率についても特に限定されず、過度に過供給とすると糸条の走行性に支障を来すため、過供給比として+1~+10%の範囲で適宜選定すればよい。弛緩熱処理温度についても特に限定されるものではないが、100℃以上150℃以下の温度で処理を行うことが可能である。
【0030】
本発明の生分解性繊維製品は、長繊維フィラメントを経糸および緯糸の少なくとも一方に配する織物である生機(きばた)を熱処理して構成されるものである。生機の熱処理としては、製造において生機に付着している油剤などを除去するための沸水処理や精練などの湿熱処理、乾燥や熱セットなどの乾熱処理などが挙げられる。なお、湿熱処理は浴中処理と称されることがある。
【0031】
生機に施す湿熱処理の温度は、30℃以上であることが好ましく、35℃以上であることがより好ましく、40℃以上であることがさらに好ましく、45℃以上であることがよりさらに好ましく、50℃以上であることが特に好ましい。また、生機に施す湿熱処理の温度は、100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましく、85℃以下であることがさらに好ましく、80℃以下であることがよりさらに好ましく、75℃以下であることが特に好ましく、70℃以下であることが最も好ましい。生機に施す湿熱処理の温度の上限値および下限値のそれぞれを上記の範囲に設定することにより、生機の精練など、生分解性繊維製品を製造するために生機に施す湿熱処理を効率的に行うことができ、生分解性繊維製品の生産効率を高めることができる。
【0032】
生機に施す乾熱処理の温度は、70℃以上であることが好ましく、75℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがさらに好ましく、85℃以上であることがよりさらに好ましく、90℃以上であることが特に好ましい。また、生機に施す乾熱処理の温度は、生機が有する長繊維フィラメントを構成する樹脂の融点以下の温度であることが好ましく、180℃以下であることが好ましく、170℃以下であることがより好ましく、160℃以下であることがさらに好ましく、155℃以下であることがよりさらに好ましく、150℃以下であることが特に好ましい。生機に施す乾熱処理の温度の上限値および下限値のそれぞれを上記の範囲に設定することにより、精練後の生機のシリンダー予備乾燥や乾熱セットなどの生機に施す乾熱処理の効率を高めることができ、生産性のよい生分解性繊維製品とすることが可能となる。なお、生機に施す乾熱処理は、湿熱処理の後に行うことが好ましい。
【0033】
つまり、生機に施す湿熱処理や乾熱処理などの熱処理の温度は、30℃以上であることが好ましく、35℃以上であることがより好ましく、40℃以上であることがさらに好ましく、45℃以上であることがよりさらに好ましく、50℃以上であることが特に好ましい。また、生機に施す湿熱処理や乾熱処理などの熱処理の温度は、180℃以下であることが好ましく、175℃以下であることがより好ましく、170℃以下であることがさらに好ましく、165℃以下であることがよりさらに好ましく、160℃以下であることが特に好ましい。生機を処理する温度の上限値および下限値のそれぞれを上記の範囲に設定することにより、生機の精練や乾燥など生分解性繊維製品の製造のための処理を効率的に行うことができ、生分解性繊維製品の生産効率を高めることができる。
【0034】
生機の熱処理について、具体例を挙げて以下に説明する。なお、下記の具体例は、本発明にかかる生機の熱処理を限定するものではなく、他の方法や条件によって熱処理を行ってもよい。まず、生機を拡布状態として浴温50~70℃に調整された湿熱処理にて精練を行う。精練は、所謂バイブロ水洗機と称される激しい水の脈動による超波動作用を利用した水洗機を用いることによって、精練除去性が優れたものとなるため、好ましい。バイブロ水洗機は、例えば2槽など、複数の槽を連結して用いることができる。精練の後、浴温90℃の槽に生機を通し、シリンダー予備乾燥を経て、上記の熱処理の温度範囲に設定したテンターにて乾熱処理を行う。なお、テンター処理は、ピンテンターやクリップテンターなどを使用することができる。
【0035】
得られた生機は常法により精練洗浄、乾燥、ヒートセットなどの工程を経て本発明の繊維製品とする。上記各工程についても公知の装置を用いることが出来るが、目開きが大きくメヨレやシワが入りやすいため、一貫してビーム・トゥー・ビームによる拡布状態での処理が適している。この際、過度な張力が掛からぬよう、また布目を矯正しながら処理することが製品の品位や収率を確保するうえで重要である。
【0036】
本発明の生分解性繊維製品は、上記の物性の長繊維フィラメントを、織物の経糸および緯糸の少なくとも一方に配するものである。中でも、織物の経糸および緯糸の一方に当該長繊維フィラメントを配し、経糸および緯糸の他方にはポリ乳酸重合体によって構成される長繊維フィラメントを配することが好ましく、織物の経糸および緯糸の両方に当該長繊維フィラメントを配することが好ましい。ポリ乳酸重合体によって構成される長繊維フィラメントを織物の経糸および緯糸の両方に配することにより、繊維製品の生分解性を向上させることができる。
【0037】
長繊維フィラメントは、融点Tmにおける結晶融解熱量ΔHmが50J/g以上70J/g以下であることが好ましい。長繊維フィラメントの融点Tmにおける結晶融解熱量ΔHmは結晶化度と相関があり、高い方が熱的および力学的にも安定であるといえる。結晶融解熱量ΔHmの取り得る数値としては50J/g以上70J/g以下とすることが望ましく、好ましくは52J/g以上68J/g以下、より好ましくは55J/g以上65J/g以下である。ステレオコンプレックスポリ乳酸(scPLA)や結晶核剤を用いて結晶化度を上げると、結晶融解熱量ΔHmを70J/gを遥かに超過させることも可能だが、前者のステレオコンプレックスポリ乳酸は価格面で高価であり、後者の結晶核剤混練は繊維表面からの結晶核剤ブリードアウトの懸念があるため好ましくない。これらの方法を用いずとも70J/g以上とすることは可能だが、ポリ乳酸の性質上、熱処理時間を長くする必要がありコストが上がってしまい好ましくない。また50J/g未満の範囲では熱的、力学的にも安定とは言えず好ましくない。
【0038】
本発明の生分解性繊維製を構成する生機は、織組織が平織または綾織であり、目開き寸法が0.100mm以上0.250mm以下、開口率が45%以上75%以下であることが好ましい。
【0039】
本発明はポリ乳酸長繊維フィラメントを織物の経糸および/または緯糸に配してなるものであるが、織組織は平織、若しくは綾織が好ましい。平織には石目織、斜子織など経糸および/または緯糸を複数本引き揃えて織った平織も含まれる。また綾織は2/1綾、3/1綾、2/2綾、3/2綾、3/3綾などの他、一定周期で綾目方向を変えた杉綾織(ヘリンボーン)も含まれるが、それらに限定されるものではなく、用途に応じて適宜組合せてもよいし、用途に応じて同じ織組織のもの、或いは別の織組織のものを複数枚重ね合せて用いる事も可能である。複数枚重ね合わせて使用する場合は、夫々の交差角度を例えば45°にするなど角度を付けてやれば濾過効率を上げることが出来る。綾織は平織と比較して、使用する繊維の線径が大きい場合に有効であり、使用する繊維や求める性能に応じて適宜調整が可能である。
【0040】
また経糸と緯糸からなる目開き寸法が0.100mm以上0.250mm以下であり、開口率が45%以上75%以下であることが好ましい。目開き寸法は、0.100mm以上0.250mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.125mm以上0.215mm以下であり、さらに好ましくは0.150mm以上0.200mm以下である。開口率は、45%以上75%以下であることが好ましく、より好ましくは50%以上70%以下であり、さらに好ましくは55%以上65%以下である。目開き寸法が0.100mm未満の超極細孔では濾過効率は上がるが直ぐに閉塞してしまい、濾過に要する時間が長くなる。また目開き寸法が0.250mmを著しく超過する範囲となれば、目開きが大きく粗すぎてしまい、十分な濾過分離が出来ない。具体的には、本発明の生分解性繊維製品をティーバッグなどの食品用の濾過布として用いる場合、目開き寸法が大きくなると織物の組織点が少なく、生地の縦方向に対して斜め45度の方向に経糸や緯糸が動きやすくなるため、食品の抽出のために本発明を熱湯や温湯に浸した際に、生地に三次元的に凹凸が生じることや目開きの空間面積がまちまちとなって均一ではなくなり、食品の抽出が行いにくくなることや食品が生地を通過してしまうことなど、食品用の濾過布として好ましくない状態となるおそれがある。開口率も然りであり45%未満では濾過効率が下がり、直ぐに閉塞や目詰まりを起こしてしまう。逆に開口率が75%を著しく超過する範囲では粗すぎてしまい、十分な濾過分離が出来ない。目開き寸法および開口量については、濾過分離する材料の形状や大きさなどにより上記の範囲で適宜選定すればよい。
【0041】
目開き寸法については織物の生機密度および仕上密度の設定により調節することができる。生機密度については使用する筬番手および筬羽への経糸挿入本数、緯糸打込本数などで設定が可能である。筬番手は単位長さ当たりの筬羽の数で規定されるものであり、筬番手が大きくなるほど筬羽の数が多くなる事を意味する。目開きを均一にするには筬羽への経糸挿入本数を少なくすることが好ましく、1本入れや2本入れが好ましく用いられる。緯糸打込本数については開口部がほぼ正方形、若しくはそれに近い形状になるように設定することが好ましい。
【0042】
製織はエアージェットルーム、ウォータージェットルーム、レピアルーム、プロジェクタイルルーム、ニードル織機、シャットル織機など公知の織機を用いて実施することが出来る。製織準備工程である整経工程についても、部分整経機を用いた部分整経、ワーパーによる荒巻整経を経た後、ビーマーを用いてウィーバースビームに巻き取る一斉整経、および整経工程を経ずに製織用ヤーンクリールに並べた糸条から経糸を織機にダイレクト供給して製織する方法も用いることが出来る。
【0043】
また得られた織物の開口部の寸法均一性に関し、該開口部の対角線寸法の変動係数で評価することができる。取り分け、結晶化し難いポリ乳酸重合体からなる繊維を用いた濾過材としての用途を考えると熱湯や温湯による抽出時の生地収縮や開口部面積の減少、不均一化は好ましい状態とは言えない。発明者らが鋭意検討を重ねた結果、熱処理前および熱処理後の生機に対し、開口部対角線の寸法を計測し、その変動係数の変化比率CV(b/a)を2.0以下に留めることが好ましいことを見出した。変動係数の変化比率CV(b/a)は、2.0以下であることが好ましく、より好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.5以下である。該変動係数の変化比率CV(b/a)が2.0を著しく超過する場合は即ち、熱処理後の開口部の対角線寸法、同面積のバラツキが大きくなり、濾過材として用いた場合は安定な抽出濾過が出来なくなる可能性がある。また開口部の大きさもまちまちとなってしまい、抽出の際の抽出媒体の流れや拡散、液-液交換が阻害され、安定な抽出が出来なくなる。該変動係数の変化比率CV(b/a)を2.0以下に留める事によって、安定な抽出が可能となり、好ましい。
【0044】
該変動係数の変化比率CV(b/a)は小さく制御できるに越したことがないが、濾過布など比較的密度の粗い織物の場合は組織点が少なく、開口部も大きいために生地が変形しやすく、特にバイアス方向への変形(伸び)が生じやすい。生地の熱処理においても収縮が一様ではないため、開口部の対角線寸法や同面積のバラツキが生じやすい。これを抑制すべく精練後にシリンダーやヒートセッターによる乾熱セットの他、スチームセットを加えることも可能である。
【0045】
得られた製品はロール状に巻かれ、規定された幅に応じてスリットカットし客先に供給されるが、当該カットには超音波ウェルダーや高周波ウェルダー、局所加熱による溶融カットなど公知の溶断手段を用いることが出来る。取り分け超音波ウェルダーや高周波ウェルダーによれば、溶融した樹脂が球状に変形した溶融玉(メルト)の形成を抑制しつつ、切断した端面のホツレ防止が可能となり、より好ましい。
【実施例0046】
本発明に関し、実施例を挙げて本発明をより更に詳細に説明する。尚、本発明は本文および実施例中に示す特性値に何ら限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。また各特性値の評価方法は下記の通りである。
【0047】
[評価方法]
<繊度>
2021年度版JIS L-1013 8.3.1に記載のA法に基づき正量繊度を求めた。
【0048】
<熱収縮応力測定>
カネボウエンジニアリング社製熱収縮応力測定装置KE-2LS型を用い、初期応力0.01cN/dtex、昇温速度1.1℃/秒で生機の熱収縮応力を測定した。得られた応力プロファイルから最大熱収縮発現温度TSmax、およびその時の応力値である最大熱収縮応力値σmaxを求めた。
【0049】
<示差走査熱量測定>
TAインスツルメンツ社製示差走査熱量計DSC25型を用い、生機の試料量を約1mgとして、窒素雰囲気下で評価した。測定温度条件としては、23℃から200℃まで10℃/分で昇温測定(1st Run)を行い、200℃で10分間キープした上、30℃/分の条件で0℃まで冷却し2分間キープ。再度0℃から200℃まで10℃/分で再昇温測定(2nd Run)を行った。融点Tmは150~200℃付近に存在する吸熱ピーク温度(℃)、結晶融解熱量ΔHm(J/g)はDSCプロファイルにおけるベースラインと融点(Tm)ピークに囲まれた面積で示される。
【0050】
<目開き寸法>
生機の目開き寸法A(mm)は下記の式(1)を用いて算出する。またその際に使用する生機の線径d(mm)の算出は下記の式(2)に基づく。尚、目開き寸法の算出に使用する生機の織物密度は経糸方向、緯糸方向では異なるため、経緯の平均値をもって目開き寸法の算出に用いた。また、線径を算出する数式2は丸断面糸に限り適用されるものであり、ポリ乳酸の比重SGについては1.25g/cmの値を用いた。
A(mm)=25.4/(経糸または緯糸密度(本/インチ))-d・・・(1)
d(mm)=[11.91×{(繊度(dtex)÷1.11)/SG}1/2]/1000・・・(2)
【0051】
<開口率>
生機の開口率ε(%)は下記の式(3)を用いて算出する。開口率についても経方向および緯方向の平均値をもって開口率の算出を行った。
ε(%)={A/(A+d)}×100・・・(3)
【0052】
<生地の熱収縮率>
生機の織物生地試料を概ね50cm四方に切り取り、経緯の糸目に沿って200mmの箇所に印をつけた後、98±2℃の熱水で30分間の熱処理(沸水処理)を行う。熱処理後、熱水から取り出し、紙製の濾紙状に拡げて、平面での風乾処理を行った。風乾後に経および緯方向につけた印の長さLmmを測長し、下記の式(4)を用いて経および緯方向の沸水収縮率SHWを評価した。沸水収縮率SHWは、測定5回の平均値をとって、測定値とした。
SHW(%)={(200-L)/200}×100・・・(4)
【0053】
<表面観察、開口部の対角線寸法およびその変動係数の評価>
キーエンス社製デジタルマイクロスコープVHX-5000型を用い、拡大倍率200倍にて生機の表面観察、および開口部の測定を行った。生機の開口部の対角線寸法(mm)の計測は小数第2位まで有効とし、熱処理前および熱処理後の生地に対し、それぞれ任意の箇所を20箇所ずつ計測した。それぞれの変動係数を求め、熱処理前の該対角線寸法の変動係数CVa、熱処理後の該対角線寸法の変動係数CVbを算出し、下記の式(5)を用いて熱処理前後の変動係数の変化比率CV(b/a)を評価した。生地の熱処理の方法は上記の<生地の熱収縮率>記載の方法に基づく。
CV(b/a)=CVb/CVa・・・(5)
式中、CV(b/a)は熱処理前後の変動係数の変化比率を示し、CVaは熱処理前の生機の対角線寸法の変動係数を示し、CVbは熱処理後の生機の対角線寸法の変動係数を示す。
【0054】
また、熱収縮後の生機の生地に生じる三次元的な凹凸の変形やシワ、目開きの寸法の不同についても、倍率200倍に拡大して目視によって観察し、下記の3区分で官能評価を行った。
〇・・・品位良好
△・・・品位やや懸念あるも合格
×・・・品位悪く不合格
【0055】
実施例1
ポリ乳酸樹脂としてトタル・コービオン社製ポリ乳酸樹脂Luminy(登録商標)L-130タイプ[L体(L-isomer)混率>99%]を用い、雰囲気温度110℃に設定した真空乾燥機を使用し、原料樹脂ペレットを24時間真空乾燥した後、公知の溶融紡糸法により溶融押出機設定温度210℃、紡糸ヘッド温度230℃、紡糸速度1000m/分の条件でポリ乳酸長繊維マルチフィラメント未延伸糸を得た。該未延伸糸をオフラインにて延伸機に導入し2段熱延伸、定率弛緩熱処理を施した後、分繊機を用いて1本ずつのモノフィラメントに分繊し、ポリ乳酸長繊維モノフィラメントを得た。因みに延伸予熱ローラーの表面温度は70℃、延伸温度を140℃、延伸後の弛緩熱処理域のローラー温度を130℃、総延伸比は10.0倍、弛緩域の過供給比を3.5%と設定し、33dtexのポリ乳酸長繊維モノフィラメントを得た。
【0056】
該ポリ乳酸長繊維モノフィラメントを経緯の双方に用いて織物生機を製織した。得られた生機をビーティング、超音波洗浄機構付きの拡布ローラータイプ連続水洗機を用いて処理浴温度60℃で精練およびリラックス処理を実施後、布目矯正装置に導入し、表面温度90℃の熱シリンダーで予備乾燥を実施の上、雰囲気温度100℃に調整したヒートセッターで仕上げセットを施した。各特性値を表1に示す。得られた生地は熱処理後の生地寸法、目開きや開口率の変化も少なく、食品用の濾過布、フィルター、ストレーナ、スクリーン向けに適した生地となった。
【0057】
実施例2
ポリ乳酸樹脂として実施例1と同様、トタル・コービオン社製ポリ乳酸樹脂Luminy(登録商標)L-130タイプ[L体(L-isomer)混率>99%]を用い、雰囲気温度110℃に設定した真空乾燥機を使用し、原料樹脂ペレットを24時間真空乾燥した後、公知の溶融紡糸法により溶融押出機設定温度210℃、紡糸ヘッド温度230℃、紡糸速度800m/分の条件でポリ乳酸長繊維マルチフィラメント未延伸糸を得た。該未延伸糸をオフラインにて延伸機に導入し2段熱延伸、定率弛緩熱処理を施した後、分繊機を用いて1本ずつのモノフィラメントに分繊し、ポリ乳酸長繊維モノフィラメントを得た。因みに延伸予熱ローラーの表面温度は70℃、延伸温度を140℃、延伸後の弛緩熱処理域のローラー温度を140℃、総延伸比は10.0倍、弛緩域の過供給比を4.0%と設定し、22dtexのポリ乳酸長繊維モノフィラメントを得た。
【0058】
該ポリ乳酸長繊維モノフィラメントを経緯双方に用いて織物生機を製織した。得られた生機をビーティング、超音波洗浄機構付きの拡布ローラータイプ連続水洗機を用いて処理浴温度60℃で精練、リラックス処理を実施後、布目矯正装置に導入し、表面温度90℃の熱シリンダーで予備乾燥を実施の上、雰囲気温度100℃に調整したヒートセッターで仕上げセットを施した。各特性値を表1に示す。得られた生地は熱処理後の生地寸法、目開きや開口率の変化も少なく、食品用の濾過布、フィルター、ストレーナ、スクリーン向けに適した生地となった。
【0059】
実施例3
実施例2で得た22dtexのポリ乳酸長繊維モノフィラメントを経糸に、実施例1で得た33dtexのポリ乳酸長繊維モノフィラメントを緯糸に用いて2/2綾織に製織した以外は実施例1、2同様の方法で生地を得た。各特性値を表1に示す。得られた生地は熱処理後の生地寸法、目開きや開口率の変化も少なく、食品用の濾過布、フィルター、ストレーナ、スクリーン向けに適した生地となった。
【0060】
実施例4
ポリ乳酸樹脂として実施例1同様トタル・コービオン社ポリ乳酸樹脂Luminy(登録商標)L-130タイプ[L体(L-isomer)混率>99%]を用い、雰囲気温度110℃に設定した真空乾燥機を使用し、原料樹脂ペレットを24時間真空乾燥した後、公知の溶融紡糸法により溶融押出機設定温度210℃、紡糸ヘッド温度230℃、紡糸速度800m/分の条件でポリ乳酸長繊維マルチフィラメント未延伸糸を得た。該未延伸糸をオフラインにて延伸機に導入し2段熱延伸、定率弛緩熱処理を施した後、分繊機を用いて1本ずつのモノフィラメントに分繊し、ポリ乳酸長繊維モノフィラメントを得た。因みに延伸予熱ローラーの表面温度は70℃、延伸温度を140℃、延伸後の弛緩熱処理域のローラー温度を140℃、総延伸比は5.0倍、弛緩域の過供給比を2.0%と設定し、44dtexのポリ乳酸長繊維モノフィラメントを得た。当該ポリ乳酸長繊維モノフィラメントを経緯双方に用いて平織に製織した以外は実施例1~3同様の方法で生地を得た。各特性値を表1に示す。得られた生地は熱処理後の生地寸法、目開きや開口率の変化も少なく、食品用の濾過布、フィルター、ストレーナ、スクリーン向けに適した生地となった。
【0061】
比較例1
ポリ乳酸樹脂としてトタル・コービオン社製ポリ乳酸樹脂Luminy(登録商標)L-130タイプ[L体(L-isomer)混率>99%]を用い、雰囲気温度110℃に設定した真空乾燥機を使用し、原料樹脂ペレットを24時間真空乾燥した後、公知の溶融紡糸法により溶融押出機設定温度210℃、紡糸ヘッド温度230℃、紡糸速度600m/分の条件でポリ乳酸長繊維マルチフィラメント未延伸糸を得た。該未延伸糸をオフラインにて延伸機に導入し2段熱延伸を施した後、分繊機を用いて1本ずつのモノフィラメントに分繊し、ポリ乳酸長繊維モノフィラメントを得た。因みに延伸予熱ローラーの表面温度は70℃、延伸温度を140℃、総延伸比は5.0倍とし、弛緩熱処理を施さず、33dtexのポリ乳酸長繊維モノフィラメントを得た。
【0062】
その他は実施例1同様の方法で生地を得た。各特性値を表1に示す。得られた生地は熱処理後の寸法変化が著しく、三次元的に凹凸状の収縮が見られた。また目開きや開口率の変化も大きく不均一となり、濾過布、フィルター、ストレーナ、スクリーン向けには好ましいものにはならなかった。
【0063】
比較例2
実施例1で得られた33dtexのポリ乳酸長繊維モノフィラメントを長繊維撚糸用シリンダーにリワインドし、雰囲気温度100℃で20分間の湿熱アニーリング処理を実施した。シリンダーリワインドの際、シリンダー内側に片面段ボールを装着し、巻締めを防止した上で処理を行ったが、糸条の内外層差が大きく、残留収縮が大きくなる内層側の糸を排除した上で、実施例1同様の方法で生地を得た。熱処理前後の寸法安定性や目開き、開口率も殆ど差異がなく、安定なものであったが、風合いが粗硬であり、尚且つトータルの糸ロスも大きくなり、コストを含めた総合的な評価としてはあまり好ましいものではなかった。
【0064】
比較例3
ポリ乳酸樹脂としてトタル・コービオン社製ポリ乳酸樹脂Luminy(登録商標)LX-530タイプ[L体(L-isomer)混率>98%]を用い、雰囲気温度110℃に設定した真空乾燥機を使用し、原料樹脂ペレットを24時間真空乾燥した後、公知の溶融紡糸法により溶融押出機設定温度200℃、紡糸ヘッド温度210℃、紡糸速度800m/分の条件でポリ乳酸長繊維マルチフィラメント未延伸糸を得た。該未延伸糸をオフラインにて延伸機に導入し2段熱延伸、定率弛緩熱処理を施した後、分繊機を用いて1本ずつのモノフィラメントに分繊し、ポリ乳酸長繊維モノフィラメントを得た。因みに延伸予熱ローラーの表面温度は70℃、延伸温度を110℃、延伸後の弛緩熱処理域のローラー温度を120℃、総延伸比は8.0倍、弛緩域の過供給比を3.5%と設定し、33dtexのポリ乳酸長繊維モノフィラメントを得た。それ以外は実施例1同様の方法で生地を得た。各特性値を表1に示す。得られた生地は熱処理後の寸法変化が著しく、三次元的に凹凸状の収縮が見られ、風合いも粗硬なものとなった。目開きや開口率の変化も大きく不均一となり、濾過布、フィルター、ストレーナ、スクリーン向けには好ましいものにはならなかった。
【0065】
比較例4
ポリ乳酸樹脂としてトタル・コービオン社製ポリ乳酸樹脂Luminy(登録商標)LX-930タイプ[L体(L-isomer)混率>90%]を用い、雰囲気温度90℃に設定した真空乾燥機を使用し、原料樹脂ペレットを24時間真空乾燥した後、公知の溶融紡糸法により溶融押出機設定温度160℃、紡糸ヘッド温度150℃、紡糸速度500m/分の条件でポリ乳酸長繊維マルチフィラメント未延伸糸を得た。該未延伸糸をオフラインにて延伸機に導入し2段熱延伸、定率弛緩熱処理を施した後、分繊機を用いて1本ずつのモノフィラメントに分繊し、ポリ乳酸長繊維モノフィラメントを得た。因みに延伸予熱ローラーの表面温度は70℃、延伸温度を100℃、延伸後の弛緩熱処理域のローラー温度を100℃、総延伸比は8.0倍、弛緩域の過供給比を3.5%と設定し、33dtexのポリ乳酸長繊維モノフィラメントを得た。それ以外は実施例1同様の方法で生地を得た。各特性値を表1に示す。得られた生地は熱処理後の寸法変化が著しく、三次元的に凹凸状の収縮が見られ、風合いも粗硬なものとなった。目開きや開口率の変化も大きく不均一となり、濾過布、フィルター、ストレーナ、スクリーン向けには好ましいものにはならなかった。
【0066】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の生分解性繊維製品は植物由来樹脂であるポリ乳酸重合体からなる長繊維フィラメントから構成されるサスティナブルな製品であり、しかも土壌中の微生物の働きで分解が可能であり、土壌廃棄時の環境負荷を低減することが可能となる。また焼却廃棄としてもポリ乳酸重合体が植物由来原料であり、カーボンニュートラル素材と位置付けられるため、二酸化炭素などの温室効果ガス(GHG:greenhouse gas)排出量低減にも貢献できる。
【手続補正書】
【提出日】2023-04-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度が15dtex以上50dtex以下、構成単糸本数が1本以上5本以下、総繊度が15dtex以上150dtex以下の長繊維フィラメントを経糸および緯糸の少なくとも一方に配する織物である生機を熱処理して構成される生分解性繊維製品であって、
前記長繊維フィラメントは、ポリ乳酸重合体によって構成されており、熱収縮応力測定における最大熱収縮発現温度TSmaxが80℃以上100℃以下であり、最大熱収縮発現温度での最大熱収縮応力値σmaxが0.05cN/dtex以上0.20cN/dtex以下であることを特徴とする生分解性繊維製品。
【請求項2】
前記長繊維フィラメントは、融点Tmにおける結晶融解熱量ΔHmが50J/g以上70J/g以下である請求項1に記載の生分解性繊維製品。
【請求項3】
前記生機は、織組織が平織または綾織であり、目開き寸法が0.100mm以上0.250mm以下であり、開口率が45%以上75%以下である請求項1または2に記載の生分解性繊維製品。
【請求項4】
前記熱処理前および前記熱処理後の前記生機における、下記式(1)によって算出した開口部対角線寸法の変動係数の変化比率CV(b/a)は、2.0以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の生分解性繊維製品。
CV(b/a)=CVb/CVa (1)
(式中、CV(b/a)は熱処理前後の変動係数の変化比率を示し、CVaは熱処理前の生機の対角線寸法の変動係数を示し、CVbは熱処理後の生機の対角線寸法の変動係数を示す。)
【手続補正書】
【提出日】2023-09-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度が15dtex以上50dtex以下、構成単糸本数が1本以上5本以下、総繊度が15dtex以上150dtex以下の長繊維フィラメントを経糸および緯糸の少なくとも一方に配する織物である生機を熱処理して構成される生分解性繊維製品であって、
前記長繊維フィラメントは、ポリ乳酸重合体によって構成されており、熱収縮応力測定における最大熱収縮発現温度TSmaxが80℃以上100℃以下であり、最大熱収縮発現温度での最大熱収縮応力値σmaxが0.05cN/dtex以上0.20cN/dtex以下であることを特徴とする食品用の濾過布、フィルター、ストレーナ、またはスクリーン用生分解性繊維製品。
【請求項2】
前記長繊維フィラメントは、融点Tmにおける結晶融解熱量ΔHmが50J/g以上70J/g以下である請求項1に記載の生分解性繊維製品。
【請求項3】
前記生機は、織組織が平織または綾織であり、目開き寸法が0.100mm以上0.250mm以下であり、開口率が45%以上75%以下である請求項1または2に記載の生分解性繊維製品。
【請求項4】
前記熱処理前および前記熱処理後の前記生機における、下記式(1)によって算出した開口部対角線寸法の変動係数の変化比率CV(b/a)は、2.0以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の生分解性繊維製品。
CV(b/a)=CVb/CVa (1)
(式中、CV(b/a)は熱処理前後の変動係数の変化比率を示し、CVaは熱処理前の生機の対角線寸法の変動係数を示し、CVbは熱処理後の生機の対角線寸法の変動係数を示す。)