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特開2023-141904電気泳動分析データ処理装置及び電気泳動分析データ処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141904
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】電気泳動分析データ処理装置及び電気泳動分析データ処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
G01N27/447 325D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048477
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻野 康太
(57)【要約】
【課題】モル濃度比解析等における操作性の向上を図り、作業効率を向上させる。
【解決手段】本発明に係る電気泳動分析データ処理装置の一態様は、電気泳動分析により取得されたデータを処理するデータ処理装置であって、取得されたデータに基いてエレクトロフェログラム及び/又は電気泳動流路上におけるピークの分離イメージを作成するグラフ作成部(31、33)と、エレクトロフェログラム及び/又は分離イメージの上で、分離方向の軸に沿った解析対象範囲の内側と外側とを境界線で区画し、該内側と外側とを異なる態様で以て描出したグラフを、表示部に表示する表示処理部(37)と、表示されているグラフ上で、ユーザーによる境界線の移動操作を受け付け、該受け付けた操作に応じて、軸上の位置と大きさを変更した解析対象範囲を設定する解析条件設定部(34)と、解析対象範囲に含まれる全ての又は一部のピークを用いた所定の演算処理を実施する解析処理部(35、36)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気泳動分析により取得されたデータを処理するデータ処理装置であって、
取得されたデータに基いてエレクトロフェログラム及び/又は電気泳動流路上におけるピークの分離イメージを作成するグラフ作成部と、
前記エレクトロフェログラム及び/又は前記分離イメージの上で、分離方向の軸に沿った解析対象範囲の内側と外側とを境界線で区画し、該内側と外側とを異なる態様で以て描出したグラフを、表示部に表示する表示処理部と、
表示されている前記グラフ上で、ユーザーによる前記境界線の移動操作を受け付け、該受け付けた操作に応じて、前記軸上の位置と大きさを変更した解析対象範囲を設定する解析条件設定部と、
前記解析対象範囲に含まれる全ての又は一部のピークを用いた所定の演算処理を実施する解析処理部と、
を備える電気泳動分析データ処理装置。
【請求項2】
前記表示処理部は、前記解析対象範囲の外側の領域を内側の領域とは異なる所定の色でオーバーレイ表示し、
前記解析条件設定部は、ユーザーによる前記境界線の移動操作がなされている期間中、前記解析対象範囲の外側の領域におけるオーバーレイ表示の透明性を高める、請求項1に記載の電気泳動分析データ処理装置。
【請求項3】
前記解析条件設定部は、前記解析対象範囲のほか、該解析対象範囲の内側に一又は複数の着目領域を指定するものであり、前記解析処理部は、解析対象範囲に含まれるピークの面積値と着目領域に含まれるピークの面積値とに基いて濃度比を算出する、請求項1又は2に記載の電気泳動分析データ処理装置。
【請求項4】
前記表示処理部は、同一画面上にエレクトロフェログラムと分離イメージとを共に表示するものであり、
前記解析条件設定部は、該エレクトロフェログラムと該分離イメージそれぞれに重ねて表示される境界線の位置を相互に連動して移動させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の電気泳動分析データ処理装置。
【請求項5】
前記解析条件設定部は、解析対象範囲の位置を示す情報を数値で入力するためのダイアログを表示し、該ダイアログにおける数値と前記エレクトロフェログラム及び分離イメージそれぞれに重ねて表示される境界線の位置とを互いに連動させて変更する、請求項4に記載の電気泳動分析データ処理装置。
【請求項6】
電気泳動分析により取得されたデータをコンピューターで処理するためのデータ処理プログラムであって、コンピューターに、
取得されたデータに基いてエレクトロフェログラム及び/又は電気泳動流路上におけるピークの分離イメージを作成するグラフ作成ステップと、
前記エレクトロフェログラム及び/又は前記分離イメージの上で、分離方向の軸に沿った解析対象範囲の内側と外側とを境界線で区画し、該内側と外側とを異なる態様で以て描出したグラフを、表示部に表示する表示処理ステップと、
表示されている前記グラフ上で、ユーザーによる境界線の移動操作を受け付け、該受け付けた操作に応じて、前記軸上の位置と大きさを変更した解析対象範囲を設定する解析条件設定ステップと、
前記解析対象範囲に含まれる全ての又は一部のピークを用いた所定の演算処理を実施する解析ステップと、
を実行させる電気泳動分析データ処理プログラム。
【請求項7】
前記表示処理ステップでは、前記解析対象範囲の外側の領域を内側の領域とは異なる所定の色でオーバーレイ表示し、
前記解析条件設定ステップでは、ユーザーによる前記境界線の移動操作がなされている期間中、前記解析対象範囲の外側の領域におけるオーバーレイ表示の透明性が高められる、請求項6に記載の電気泳動分析データ処理プログラム。
【請求項8】
前記解析条件設定ステップでは、前記解析対象範囲のほか、該解析対象範囲の内側に一又は複数の着目領域を指定し、前記解析処理ステップでは、解析対象範囲に含まれるピークの面積値と着目領域に含まれるピークの面積値とに基いて濃度比を算出する、請求項6又は7に記載の電気泳動分析データ処理プログラム。
【請求項9】
前記表示処理ステップでは、同一画面上にエレクトロフェログラムと分離イメージとを共に表示し、
前記解析条件設定ステップでは、該エレクトロフェログラムと該分離イメージそれぞれに重ねて表示される境界線の位置を相互に連動して移動させる、請求項6~8のいずれか1項に記載の電気泳動分析データ処理プログラム。
【請求項10】
前記解析条件設定ステップでは、解析対象範囲の位置を示す情報を数値で入力するためのダイアログを表示し、該ダイアログにおける数値と前記エレクトロフェログラム及び分離イメージそれぞれに重ねて表示される境界線の位置とを互いに連動させて変更する、請求項9に記載の電気泳動分析データ処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気泳動装置により取得されたデータを処理するデータ処理装置、及び、そのデータ処理のためのコンピュータープログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
創薬分野、医療分野、農業・畜産分野、生化学分野などの分野では、電気泳動装置により収集されたデータに基いて、試料に含まれる多数種類の分子の中で特定の分子(例えば核酸やタンパク質)の存在割合(濃度比、モル濃度比、質量濃度比など)を求め、これを試料の解析に用いることがある。
【0003】
例えば、非特許文献1には、エレクトロフェログラムからモル濃度が算出される機能を利用して、ヘテロ二本鎖とホモ二本鎖のモル濃度を比較することにより、ゲノム編集における各個体の変異率を簡易に得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-20725号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「Application News No. B65 MultiNA によるヘテロ二本鎖移動度分析(HMA:Heteroduplex Mobility Assay)」、株式会社島津製作所、2017年9月初版発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1にも記載されているように、モル濃度はエレクトロフェログラムにおけるピークの面積から計算される。特許文献1には、エレクトロフェログラムにおいてユーザーにより指定された解析対象範囲内に存在するピークの面積値と、同じくユーザーにより指定された着目範囲内に存在するピークの面積値とに基いて存在率を計算して表示する機能、を有する電気泳動分析データ解析装置が開示されている。
【0007】
こうしたデータ解析装置では、ユーザー即ちオペレーターが解析対象範囲や着目範囲を指定する必要があり、それらを数値で指定することができるほか、エレクトロフェログラム上や、電気泳動流路上におけるピークの分離イメージ(仮想的なゲルイメージ)上で解析対象範囲や着目範囲を指定することも可能である。
【0008】
特許文献1に記載のデータ解析装置では、エレクトロフェログラムや分離イメージ等のグラフ上において、目的とする解析対象範囲等を指定するユーザーインターフェイス(UI)コントロールが提供されている。しかしながら、オペレーター自身がどの範囲を指定したのかを直観的に把握しにくい、或いは、解析対象範囲と着目範囲との関係が分かりにくい、といった課題がある。
【0009】
本発明はこうした課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、電気泳動分析により収集されたデータを解析する際の操作性を一層改善し、解析の作業効率を高めるとともに作業ミスを軽減することができる電気泳動分析データ処理装置及び電気泳動分析データ処理プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明に係る電気泳動分析データ処理装置の一態様は、電気泳動分析により取得されたデータを処理するデータ処理装置であって、
取得されたデータに基いてエレクトロフェログラム及び/又は電気泳動流路上におけるピークの分離イメージを作成するグラフ作成部と、
前記エレクトロフェログラム及び/又は前記分離イメージの上で、分離方向の軸に沿った解析対象範囲の内側と外側とを境界線で区画し、該内側と外側とを異なる態様で以て描出したグラフを、表示部に表示する表示処理部と、
表示されている前記グラフ上で、ユーザーによる前記境界線の移動操作を受け付け、該受け付けた操作に応じて、前記軸上の位置と大きさを変更した解析対象範囲を設定する解析条件設定部と、
前記解析対象範囲に含まれる全ての又は一部のピークを用いた所定の演算処理を実施する解析処理部と、
を備える。
【0011】
また、上記課題を解決するためになされた本発明に係る電気泳動分析データ処理プログラムの一態様は、電気泳動分析により取得されたデータをコンピューターで処理するためのデータ処理プログラムであって、コンピューターに、
取得されたデータに基いてエレクトロフェログラム及び/又は電気泳動流路上におけるピークの分離イメージを作成するグラフ作成ステップと、
前記エレクトロフェログラム及び/又は前記分離イメージの上で、分離方向の軸に沿った解析対象範囲の内側と外側とを境界線で区画し、該内側と外側とを異なる態様で以て描出したグラフを、表示部に表示する表示処理ステップと、
表示されている前記グラフ上で、ユーザーによる境界線の移動操作を受け付け、該受け付けた操作に応じて、前記軸上の位置と大きさを変更した解析対象範囲を設定する解析条件設定ステップと、
前記解析対象範囲に含まれる全ての又は一部のピークを用いた所定の演算処理を実施する解析ステップと、
を実行させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る電気泳動分析データ処理装置及び電気泳動分析データ処理プログラムの上記態様では、エレクトロフェログラム上又は分離イメージ上での簡単で、且つ直観的に分かり易い操作によって、目的成分のモル濃度等を計算するための解析対象範囲を指定することができる。特に、解析対象範囲の内側と外側とがエレクトロフェログラムや分離イメージ上の領域の色等の表示の態様の違いによって一目で識別可能であるので、オペレーターは、例えば着目しているピークが解析対象範囲に確実に含まれるか否か、或いは逆に、目的成分以外の成分に由来するピークが解析対象範囲から確実に除外されているか否か等を、効率良く且つ的確に把握することができる。
【0013】
このようにして本発明に係る電気泳動分析データ処理装置及び電気泳動分析データ処理プログラムの上記態様によれば、電気泳動分析によって収集されたデータを用いてモル濃度比解析等の各種の解析を行う際の操作性を改善し、解析の作業効率を高めるとともにユーザーの作業ミスを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態による電気泳動分析システムの概略構成図。
図2】本実施形態の電気泳動分析システムにおけるモル濃度比解析画面の一例を示す概略図。
図3】モル濃度比解析画面内のエレクトロフェログラムの表示(解析対象範囲等が未指定である状態)の一例を示す図。
図4】モル濃度比解析画面内のエレクトロフェログラムの表示(解析対象範囲等が指定されたあとの状態)の一例を示す図。
図5】モル濃度比解析画面内の分離イメージの表示(解析対象範囲等が未指定である状態)の一例を示す図。
図6】モル濃度比解析画面内の分離イメージの表示(解析対象範囲等が指定されたあとの状態)の一例を示す図。
図7】モル濃度比解析における解析条件設定ダイアログの一例を示す図。
図8】エレクトロフェログラム上で解析対象範囲を変更する際の表示状態の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る電気泳動分析データ処理装置及び電気泳動分析データ処理プログラムを利用した電気泳動分析システムの一実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本実施形態の電気泳動分析システムの概略構成図である。
本システムは、図1に示すように、測定部1、制御部2、データ処理部3、操作部4、及び表示部5、を備える。
【0017】
測定部1は、与えられた複数のサンプルについてそれぞれ電気泳動分析を実施してデータを取得するものであり、サンプル供給部10、電気泳動分離部11、検出部12、アナログデジタル変換器(ADC)13、などを含む。測定部1としては例えば、株式会社島津製作所製のDNA/RNA分析用マイクロチップ電気泳動装置「MultiNA(マルチナ)」を用いることができる。
【0018】
データ処理部3は、測定部1で取得されたデータを処理する機能を有し、機能ブロックとして、データ格納部30、エレクトロフェログラム作成部31、ピーク検出部32、分離イメージ作成部33、解析条件設定処理部34、解析対象ピーク特定部35、解析処理部36、表示処理部37などを含む。
【0019】
一般に、制御部2及びデータ処理部3は、CPU、メモリーなどを含んで構成されるパーソナルコンピューター(PC)をハードウェアとし、該PCに予めインストールされた専用の処理・制御ソフトウェア(コンピュータープログラム)を該PC上で実行することによって、その機能の少なくとも一部を実現するものとし得る。その場合、操作部4はPCに付設されたキーボードやマウス等のポインティングデバイスであり、表示部5はPCに付設されたディスプレイモニターである。
【0020】
上記コンピュータープログラムは、例えば、CD-ROM、DVD-ROM、メモリーカード、USBメモリー(ドングル)などの、コンピューター読み取り可能である非一時的な記録媒体に格納されてユーザーに提供されるものとすることができる。また、上記プログラムは、インターネットなどの通信回線を介したデータ転送の形式で、ユーザーに提供されるようにすることもできる。さらにまた、上記プログラムは、ユーザーがシステムを購入する時点で、予めシステムの一部であるコンピューター(厳密にはコンピューターの一部である記憶装置)にプリインストールしておくこともできる。
【0021】
本実施形態の電気泳動分析システムを用いて、例えばDNA解析を行う際には、解析対象であるDNA断片を含む多数のサンプルが収容されたウェルプレートと所定の試薬(緩衝液含む)とがサンプル供給部10に装填される。オペレーターが操作部4で分析スケジュールを設定したうえで測定の開始を指示すると、制御部2は、予め決められたプログラムに従って分析を実行するように測定部1を動作させる。
【0022】
具体的には、電気泳動分離部11ではまず、緩衝液が電気泳動チップの流路に充填される。そのあと、サンプル供給部10に装填されているウェルプレート上の所定のウェルに収容されているサンプルが、電気泳動チップ内の流路の所定位置に注入される。そして、該チップの複数のリザーバーに所定の泳動電圧を印加することで、分離流路に沿ってサンプルを泳動させ、該サンプル中の成分(DNA断片)をその流路に沿った方向に分離させる。検出部12は蛍光検出器であり、泳動によって分離された成分を順次検出する。検出部12から出力される検出信号はAD変換部13でデジタル化され、データ処理部3に送られてデータ格納部30に保存される。
【0023】
一又は複数のサンプルについて上記測定を行うことで収集されたデータがデータ格納部30に保存されているときに、データ処理部3において実施されるモル濃度比解析の手順の一例を説明する。
【0024】
オペレーターが操作部4で所定の操作を行うと、表示処理部37は、表示部5の画面上に、図2に一例として示すモル濃度比解析画面6を表示する。モル濃度比解析画面6は概ね、サンプル表示領域6A、分離イメージ表示領域6B、エレクトロフェログラム表示領域6C、及び解析結果表示領域6D、の四つの領域に分割されている。但し、図2は、モル濃度比解析が実施されたあとの状態、又は、過去に実行されたモル濃度比解析結果が表示された状態であり、モル濃度比解析が実施されていない状態では、分離イメージ表示領域6B及びエレクトロフェログラム表示領域6Cには何も表示されず、解析結果表示領域6Dには解析結果が空欄であるテーブルが表示される。
【0025】
サンプル表示領域6Aには、ウェルプレートを模擬的に示すウェルイメージ60が表示され、オペレーターは、その画像上でモル濃度比解析を行う対象のサンプルを、操作部4でのクリック操作により指定する。図2の例では、黒丸印で示す、A1、B1、C1、D1というウェル番号の4個のウェルに収容されているサンプルが、モル濃度比解析の対象として指定されている。
【0026】
オペレーターがウェルイメージ60上で一又は複数のサンプルを指定したうえで解析開始を指示すると、エレクトロフェログラム作成部31は、データ格納部30に保存されている、指示されたサンプルに対応するデータファイルを読み出し、そのデータに基いてエレクトロフェログラムを作成する。
【0027】
エレクトロフェログラムが作成されると、ピーク検出部32は、各エレクトロフェログラムに対して所定のアルゴリズムに従ってピークを検出し、ピークトップの位置、ピーク開始位置、ピーク終了位置、ピークトップ強度、ピーク面積などのピーク情報を収集する。ここで収集されたピーク情報が、後述するモル濃度比やピーク面積合計値等の計算に用いられる。
【0028】
また、分離イメージ作成部33は、作成されたエレクトロフェログラム及び検出されたピークの情報に基いて、泳動流路上におけるピークの分離イメージ(いわゆるゲルイメージ)を作成する。
【0029】
エレクトロフェログラムの横軸及び分離イメージの軸は、電気泳動による分離方向の軸であって、ここでは、「泳動時間」、「移動時間インデックス」、又は「サイズ」のいずれかであり、オペレーターはその一つを選択することができる。ここで、「泳動時間」は、測定部1で測定が実施されたときの時間値である。「移動時間インデックス」は、サンプルに添加されているサイズが既知である複数の基準物質の泳動時間に基いて泳動時間を規格化(%表示)したものである。また、「サイズ」は、既知である複数の基準物質のサイズに基いて横軸を実質的に換算したものである。
【0030】
表示処理部37は、作成されたエレクトロフェログラム及び分離イメージを、モル濃度比解析画面6のエレクトロフェログラム表示領域6C及び分離イメージ表示領域6Bにそれぞれ表示する。図2は、ウェルイメージ60上で選択された4個のサンプルにそれぞれ対応する四つの分離イメージ70と、その中でオペレーターに選択された一つのサンプルに対応するエレクトロフェログラム80が表示された状態を示している。選択されたサンプルは、ウェルイメージ60においては1個のウェルに対応する矩形状の領域の枠が太線で且つ他とは異なる表示色で示され、分離イメージ70においては選択されたサンプルに対応する分離イメージの枠が太線で且つ他とは異なる表示色で示される。但し、図2に示されているエレクトロフェログラム80及び分離イメージ70は、モル濃度比計算のための解析対象範囲等が指定されたあとの状態であり、解析対象範囲等が未指定である状態には、図3に示すエレクトロフェログラム80aと図5に示す分離イメージ70aが表示される。
【0031】
図3に示すエレクトロフェログラム80aの例は、1個のサンプルに対して得られた泳動波形81が描出されている例であり、横軸はサイズである。図3において、サイズが「LM」である位置(サイズ)に観測されるピーク(ピーク番号1)は移動時間インデックスが0%である物質に対応するピークであり、サイズが「UM」である位置に観測されるピーク(ピーク番号7)は移動時間インデックスが100%である物質に対応するピークである。また、LM~UMの範囲内に示されている横軸に沿った数値は、サイズが既知である複数の基準物質のサイズである。
【0032】
図5に示す分離イメージ70aの例は、上述したように4個のサンプルに対して得られた縦方向に細長い分離イメージが横方向に並べて描出されている例であり、軸はサイズである。図5において、軸に沿った目盛りは、エレクトロフェログラム80aにおける目盛りと一致している。よく知られているように、エレクトロフェログラムにおいて信号強度がより大きい部分が、分離イメージではより濃い色(黒に近い色)で示される。
【0033】
オペレーターがモル濃度比解析画面6上で所定の操作を行うと、解析条件設定処理部34は、図7に一例として示す解析条件設定ダイアログ100をポップアップ表示させる。この解析条件設定ダイアログ100は、オペレーターによるドラッグ&ドロップ操作に従って、モル濃度比解析画面6上の任意の位置に移動され得る。
【0034】
解析条件設定ダイアログ100には、解析範囲指定データグリッド101、除外範囲指定データグリッド102、着目断片指定データグリッド103という三つのデータグリッドが配置されている。
解析範囲指定データグリッド101は、エレクトロフェログラムの横軸(この場合にはサイズ)の上限値及び下限値を指定することで、一つの解析範囲を指定するものである。「全範囲」にチェックマークを入れることで、解析範囲として全範囲が指定される。
【0035】
除外範囲指定データグリッド102は、エレクトロフェログラムの横軸の上限値及び下限値を指定することで、上記解析範囲の中で解析対象として除外したい除外範囲を指定するものである。ここでは複数の除外範囲を指定可能である。解析範囲内であって除外範囲を除いた部分を解析対象範囲という。
【0036】
着目断片指定データグリッド103は、解析対象範囲の中で着目範囲を指定するものであり、一つの数値とそれに対する上方向及び下方向の幅で範囲を指定可能である。この着目範囲も複数指定可能である。
【0037】
オペレーターは、三つのデータグリッド101、102、103にそれぞれ所望の数値を入力することで、解析対象範囲(解析範囲から除外範囲を除いた範囲)とその解析対象範囲に含まれる着目範囲とを指定することができる。但し、数値で適切な値を指定するのは面倒である。そこで、このシステムでは、次のようにして解析対象範囲と着目範囲とを設定することができる。
【0038】
オペレーターは、三つのデータグリッド101、102、103にそれぞれ適宜の数値を入力する。解析条件設定処理部34は、各データグリッド101、102、103に数値が入力されると、その入力された数値に対応する範囲を示す情報を、そのときに表示されているエレクトロフェログラム及び分離イメージに反映させる。
【0039】
具体的に、図7に示す例では、除外範囲は一つ、着目範囲は二つである。そのため、図4に示すように、解析条件設定処理部34は表示処理部37を介して、エレクトロフェログラム80b上に、解析範囲指定データグリッド101で指定された上限値及び下限値に対応する2本の解析範囲指示ライン82、除外範囲指定データグリッド102で指定された一組の上限値及び下限値に対応する2本の除外範囲指示ライン83、及び、着目断片指定データグリッド103で指定された二組の数値に対応する4本(但し、図4では、そのうちの2本は実質的に重なっている)の着目範囲指示ライン84を重ねて表示する。
【0040】
図4において、各解析範囲指示ライン82とエレクトロフェログラム80bの左端及び右端との間の範囲bは、解析範囲の外側で解析対象範囲の外側でもある(以下「解析範囲外領域bという)。2本の解析範囲指示ライン82の間の範囲aは解析範囲であり、その中で2本の除外範囲指示ライン83の間の範囲cは除外範囲である。従って、解析範囲aの中で除外範囲cを除いた解析対象範囲dが、実質的に解析に供される範囲である。また、解析対象範囲dの中で、二組の着目範囲指示ライン84の間の二つの範囲e、fがそれぞれ着目範囲である。
【0041】
解析条件設定処理部34は表示処理部37を介して、解析範囲外領域b及び除外範囲c、つまりは解析対象範囲dの外側の領域を、同じ所定の背景色(例えば濃い青色)でオーバーレイ表示する。また、二つの着目範囲e、fを互いに異なり、解析対象範囲dとも異なる所定の背景色(例えば赤色及び緑色)でそれぞれオーバーレイ表示する。オーバーレイ表示は、泳動波形81が透過して視認可能な表示である。解析対象範囲dで着目範囲e、f以外の部分は、オーバーレイ表示はなされないので、元のエレクトロフェログラム80bの背景色そのままであり、典型的には白色又はそれに近い色である。
【0042】
これによって、エレクトロフェログラム80bでは、解析対象範囲dとそれ以外の範囲(解析範囲外領域b及び除外範囲c)とが、視覚的に明確に識別可能である。また、解析対象範囲dの中における着目範囲e、fの位置も明確に把握可能である。
【0043】
図6に示すように、解析条件設定処理部34は表示処理部37を介して、分離イメージ70b上にも、解析範囲指定データグリッド101で指定された上限値及び下限値に対応する2本の解析範囲指示ライン72、及び、除外範囲指定データグリッド102で指定された一組の上限値及び下限値に対応する2本の除外範囲指示ライン73、を重ねて表示させる。なお、ここでは、エレクトロフェログラムと異なり、分離イメージ70b上には、着目範囲指示ラインは表示されない。これは、分離イメージはエレクトロフェログラムに比べてサイズ軸方向の長さが短く、通常、範囲が狭い着目範囲が明確に表示されにくいためである。勿論、分離イメージ70b上にも着目範囲指示ラインを重ねて表示するようにしてもよい。
【0044】
また、解析条件設定処理部34は表示処理部37を介して、解析範囲外領域b及び除外範囲c、つまりは解析対象範囲dの外側の領域を、エレクトロフェログラムにおける同領域の背景色と同じ色(ここでは濃い青色)でオーバーレイ表示する。これにより、分離イメージ70bにおいても、ユーザーは、解析対象範囲dとそれ以外の範囲(解析範囲外領域b及び除外範囲c)とを、視覚的に明確に識別することができる。
【0045】
上述のようにして解析対象範囲及び着目範囲が決まると、解析対象ピーク特定部35は、解析対象範囲に存在する解析対象ピーク、及び各着目範囲に存在する着目ピークを特定する。例えば、上述したように収集されたピーク情報を利用して、解析対象範囲に対応するサイズの範囲にピークトップが存在するピークを解析対象ピークとする。もちろん、ピーク開始位置から終了位置までの一つのピーク全体が解析対象範囲に入っている場合に、該ピークを解析対象ピークと特定してもよい。
【0046】
解析対象ピーク及び着目ピークが特定されると、解析処理部36は、ピーク情報に含まれるそれらピークの面積値に基いて、ピークに対応するDNA断片毎のモル濃度や、各着目ピークに対応するモル濃度と全ての解析対象ピークに対応するモル濃度の合計値との比率(モル濃度/全モル濃度)、さらには、全ての着目ピークに対応するモル濃度と全ての解析対象ピークに対応するモル濃度の合計値との比率(全着目断片モル濃度/全モル濃度)などを算出する。それ以外に、全ての解析対象ピークの平均サイズ、サイズ分布、サイズ比など、ピーク情報に基いて適宜の数値を算出することができる。表示処理部37は、解析処理部36により算出された各種の数値を、解析結果表示領域6D中に表示される解析結果テーブル90中に表示する。
【0047】
但し、上述したように、オペレーターが解析条件設定ダイアログ100において入力した数値は必ずしもピークの位置等を考慮したものではないため、当初、エレクトロフェログラム80b及び分離イメージ70bにおいて表示される解析対象範囲や着目範囲は、適切なつまりはオペレーターが実際に解析を意図している範囲をカバーしていない。そこで、オペレーターは、表示されているエレクトロフェログラム80b上又は分離イメージ70b上でのグラフィカルな操作によって、解析対象範囲dや着目範囲e、fの位置や大きさを適当に調整する。
【0048】
即ち、オペレーターは操作部4により、例えば図8中に矢印Sで示すように、エレクトロフェログラム80b上で解析範囲指示ライン82をクリック操作等によって選択したうえでドラッグすることで、その解析範囲指示ライン82を任意の位置まで移動させる。除外範囲指示ライン83、着目範囲指示ライン84についても同様の操作により移動可能である。このとき、解析条件設定処理部34は表示処理部37を介して、各ラインのドラッグ操作が実行されている間は、そのラインが境界となっている領域の表示色を薄くする。即ち、オーバーレイ表示している色付きの領域の透明性を高める。例えば、図8に示すように、解析範囲指示ライン82が移動されるときには、解析範囲外領域bの色を薄くする(ここでは、濃い青を薄い青に変更する)。
【0049】
図4に示すように、解析対象範囲外を示す部分の色付き領域の色は比較的濃い色であり、そのため、その下側の泳動波形81の視認性は低い。これは、そもそも、解析対象範囲dの外側の部分の泳動波形は解析対象外であるからである。これに対し、オペレーターが解析範囲指示ライン82や除外範囲指示ライン83をドラッグ操作する際には、図8に示すように、解析対象範囲dの外側の領域の色は薄くなる。それによって、下側の泳動波形81が見易くなり、オペレーターは意図する位置まで解析範囲指示ライン82や除外範囲指示ライン83を移動させ易くなる。このようにして、解析対象範囲dや着目範囲e、fを簡便にグラフィカルに調整することができる。
【0050】
解析条件設定処理部34は上述した操作を受けて、各ライン82、83、84の移動先の位置に応じて各ラインに対応するサイズを更新する。また、各ライン82、83、84の位置の変更に伴って、オーバーレイ表示している色付きの領域を変更し、各ラインの移動が終了すると、一時的に薄くしていた色を元の色に戻す。
【0051】
また、エレクトロフェログラム80bにおいて各着目範囲の左側の着目範囲指示ライン84の下には、各着目範囲を特定する英文字番号(図4図8中では「A」、「B」)を示す着目範囲指示タグ85が付されており、オペレーターがその着目範囲指示タグ85をクリックすると、解析条件設定処理部34はその着目範囲指示タグ85に関連付けられた着目範囲をアクティブにする。その状態で、着目範囲指示タグ85を左右に移動させるようにドラッグ操作をすると、該操作を受けて解析条件設定処理部34は、アクティブである着目範囲をその幅を維持した状態で全体に左右に移動させる。これにより、着目範囲の幅を一定に保ったままで、その着目範囲の位置を変更することができる。
【0052】
上述したように、エレクトロフェログラム80b上では、解析範囲指示ライン82等の各ラインをドラッグ操作により移動させる、着目範囲指示タグ85をドラッグ操作により移動させる、のいずれかにより、解析対象範囲d及び着目範囲e、fの位置と幅を自在に調整することができる。エレクトロフェログラム80b上に表示される各ライン及びそのラインで決まる色付きの領域と、分離イメージ70b上に表示される各ライン及びそのラインで決まる色付きの領域とは相互に連動しており、解析条件設定処理部34は、エレクトロフェログラム80b上で上述したような操作がなされると、即座に分離イメージ70b上でもそれを反映させる。逆に、分離イメージ70b上で例えば解析範囲指示ライン72がドラッグ操作により移動されたときにも、その操作をエレクトロフェログラム80bに即座に反映させる。
【0053】
また、解析条件設定処理部34は、分離イメージ70b上で例えば解析範囲指示ライン72がドラッグ操作により移動される際にも、解析対象範囲の外側を示す色付き領域の色を薄くする。これにより、解析範囲指示ライン72や除外範囲指示ライン73を移動させる際に、オペレーターは分離イメージ70b上でのピークの位置を容易に視認することができる。
【0054】
上述したような、エレクトロフェログラム80b又は分離イメージ70b上でのグラフィカルな操作による解析範囲等の変更の結果は、解析条件設定ダイアログ100中の数値にも即座に反映される。即ち、エレクトロフェログラム80b、分離イメージ70b、及び解析条件設定ダイアログ100は相互に連動しており、いずれからでも解析範囲、除外範囲、及び着目範囲の指定又は変更を行うことができ、その時点での最新の状態を確認することができる。
【0055】
オペレーターの操作によって解析対象範囲dや着目範囲e、fが変更されると、それに対応して、解析対象ピーク特定部35は必要に応じて解析対象ピーク及び着目ピークを特定し直し、解析処理部36は変更後のピーク情報に基いて再計算を実施する。そして、表示処理部37はその再計算結果に応じて表示を更新する。
従って、オペレーターが例えばエレクトロフェログラム80b上で例えば解析範囲指示ライン82を移動させる操作を行うと、その操作にほぼ追従して、解析結果テーブル400中のモル濃度比等の数値が最新のものに更新される。これにより、オペレーターは、エレクトロフェログラム80b又は分離イメージ70b上で解析対象範囲等をグラフィカルに変更しつつ、変更途中の解析対象範囲及び着目範囲に対応する解析結果を直ぐに確認することができる。
【0056】
なお、上記説明では、解析条件設定ダイアログ100において数値を入力することで、エレクトロフェログラムや分離イメージ上に解析範囲指示ライン等が表示されるようにしていたが、エレクトロフェログラムや分離イメージ上での所定の操作により、解析範囲指示ライン等が表示されるようにすることができる。例えば、着目範囲は解析条件設定ダイアログ100において指定する以外に、エレクトロフェログラム80b上でも適宜に追加することが可能である。即ち、泳動波形81において検出されているピークの付近でダブルクリック等の所定の操作を行うと、そのピークが含まれるように新たな1組の着目範囲指示ライン84及びそのライン84で挟まれる着目範囲が追加されるようにすることができる。これにより、解析条件設定ダイアログ100を開く操作を行うことなく、解析対象範囲や着目範囲を設定することができる。
【0057】
図2及び図4の例では、エレクトロフェログラム表示領域6Cに一つのサンプルに対応する泳動波形のみが表示されているが、複数のサンプルにそれぞれ対応する泳動波形をエレクトロフェログラム表示領域6Cに表示することもできる。その場合、縦軸が共通である一つのエレクトロフェログラム中に複数の泳動波形を重ね描きしてもよいし、横軸を揃えた複数のエレクトロフェログラムを縦にスタック状に並べて配置してもよい。
【0058】
また、上記実施形態の電気泳動分析システムでは、解析対象ピークと着目ピークとのモル濃度比を求めるために着目範囲を指定していたが、着目範囲を指定せず、除外範囲のみ、又は解析範囲と除外範囲と、を指定する構成であってもよい。例えば、ノイズピークが多く観測される場合で、全ピークの面積値やそれから求まる濃度値を算出したい場合には、ノイズピークを除外範囲として指定することでノイズピークを計算の対象から除外することができる。
【0059】
また、上記実施形態の電気泳動分析システムでは、分離イメージとエレクトロフェログラムとを共に表示し、いずれのグラフにおいても解析範囲等をグラフィカルに指定できるようにしていたが、分離イメージとエレクトロフェログラムとのいずれか一方のみを表示する構成とすることもできる。
【0060】
さらにまた、上記実施形態はあくまでも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加等を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【0061】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0062】
(第1項)本発明に係る電気泳動分析データ処理装置の一態様は、電気泳動分析により取得されたデータを処理するデータ処理装置であって、
取得されたデータに基いてエレクトロフェログラム及び/又は電気泳動流路上におけるピークの分離イメージを作成するグラフ作成部と、
前記エレクトロフェログラム及び/又は前記分離イメージの上で、分離方向の軸に沿った解析対象範囲の内側と外側とを境界線で区画し、該内側と外側とを異なる態様で以て描出したグラフを、表示部に表示する表示処理部と、
表示されている前記グラフ上で、ユーザーによる前記境界線の移動操作を受け付け、該受け付けた操作に応じて、前記軸上の位置と大きさを変更した解析対象範囲を設定する解析条件設定部と、
前記解析対象範囲に含まれる全ての又は一部のピークを用いた所定の演算処理を実施する解析処理部と、
を備える。
【0063】
(第6項)本発明に係る電気泳動分析用データ処理プログラムの一態様は、電気泳動分析により取得されたデータをコンピューターで処理するためのデータ処理プログラムであって、コンピューターに、
取得されたデータに基いてエレクトロフェログラム及び/又は電気泳動流路上におけるピークの分離イメージを作成するグラフ作成ステップと、
前記エレクトロフェログラム及び/又は前記分離イメージの上で、分離方向の軸に沿った解析対象範囲の内側と外側とを境界線で区画し、該内側と外側とを異なる態様で以て描出したグラフを、表示部に表示する表示処理ステップと、
表示されている前記グラフ上で、ユーザーによる境界線の移動操作を受け付け、該受け付けた操作に応じて、前記軸上の位置と大きさを変更した解析対象範囲を設定する解析条件設定ステップと、
前記解析対象範囲に含まれる全ての又は一部のピークを用いた所定の演算処理を実施する解析ステップと、
を実行させる。
【0064】
第1項に記載の装置及び第6項に記載のプログラムでは、エレクトロフェログラム上又は分離イメージ上での簡単で、且つ直観的に分かり易い操作によって、目的成分、例えばDNA断片のモル濃度等を計算するための解析対象範囲を指定することができる。特に、解析対象範囲の内側と外側とがエレクトロフェログラムや分離イメージ上の領域の色等の表示の態様の違いによって一目で識別可能であるので、オペレーターは、例えば着目しているピークが解析対象範囲に確実に含まれるか否か、或いは逆に、目的成分以外の成分に由来するピークが解析対象範囲から確実に除外されているか否か等を、効率良く且つ的確に把握することができる。
【0065】
このようにして第1項に記載の装置及び第6項に記載のプログラムによれば、電気泳動分析によって収集されたデータを用いてモル濃度比解析等の各種の解析を行う際の操作性を改善し、解析の作業効率を高めるとともにユーザーの作業ミスを軽減することができる。
【0066】
(第2項)第1項に記載の電気泳動分析データ処理装置において、前記表示処理部は、前記解析対象範囲の外側の領域を内側の領域とは異なる所定の色でオーバーレイ表示し、前記解析条件設定部は、ユーザーによる前記境界線の移動操作がなされている期間中、前記解析対象範囲の外側の領域におけるオーバーレイ表示の透明性を高めるものとすることができる。
【0067】
(第7項)また第6項に記載の電気泳動分析データ処理プログラムにおいて、前記表示処理ステップでは、前記解析対象範囲の外側の領域を内側の領域とは異なる所定の色でオーバーレイ表示し、前記解析条件設定ステップでは、ユーザーによる前記境界線の移動操作がなされている期間中、前記解析対象範囲の外側の領域におけるオーバーレイ表示の透明性が高められるものとすることができる。
【0068】
第2項に記載の装置及び第7項に記載のプログラムでは、解析対象範囲の外側の領域におけるオーバーレイ表示の色を薄くすることで、透明性を高めることができる。これにより、ユーザーから解析対象範囲の外側の領域にある泳動波形や分離イメージ上のピークが見易くなり、ユーザーが解析対象範囲をより一層適切に設定することが可能である。
【0069】
(第3項)第1項又は第2項に記載の電気泳動分析データ処理装置において、前記解析条件設定部は、前記解析対象範囲のほか、該解析対象範囲の内側に一又は複数の着目領域を指定するものであり、前記解析処理部は、解析対象範囲に含まれるピークの面積値と着目領域に含まれるピークの面積値とに基いて濃度比を算出するものとすることができる。
【0070】
(第8項)第6項又は第7項に記載の電気泳動分析データ処理プログラムにおいて、前記解析条件設定ステップでは、前記解析対象範囲のほか、該解析対象範囲の内側に一又は複数の着目領域を指定し、前記解析処理ステップでは、解析対象範囲に含まれるピークの面積値と着目領域に含まれるピークの面積値とに基いて濃度比を算出するものとすることができる。
【0071】
ここでいう濃度比は、モル濃度比や質量濃度比を含む。第3項に記載の装置及び第8項に記載のプログラムによれば、ユーザーが適切に設定した着目ピークや解析対象ピークに基いて所望の濃度比を高い精度で取得することができる。
【0072】
(第4項)第1項~第3項のいずれか1項に記載の電気泳動分析データ処理装置において、前記表示処理部は、同一画面上にエレクトロフェログラムと分離イメージとを共に表示するものであり、前記解析条件設定部は、該エレクトロフェログラムと該分離イメージそれぞれに重ねて表示される境界線の位置を相互に連動して移動させるものとすることができる。
【0073】
(第9項)第6項~第8項のいずれか1項に記載の電気泳動分析データ処理プログラムにおいて、前記表示処理ステップでは、同一画面上にエレクトロフェログラムと分離イメージとを共に表示し、前記解析条件設定ステップでは、該エレクトロフェログラムと該分離イメージそれぞれに重ねて表示される境界線の位置を相互に連動して移動させるものとすることができる。
【0074】
第4項に記載の装置及び第9項に記載のプログラムによれば、ユーザーは、エレクトロフェログラムと分離イメージとの両方を用いて解析対象領域や着目領域の設定が適切であるか否かを確認することができる。また、エレクトロフェログラムと分離イメージとのいずれか目的成分等がより明確に観測できる方を利用して、解析対象領域や着目領域をグラフィカルに設定することができる。
【0075】
(第5項)第4項に記載の電気泳動分析データ処理装置において、前記解析条件設定部は、解析対象範囲の位置を示す情報を数値で入力するためのダイアログを表示し、該ダイアログにおける数値と前記エレクトロフェログラム及び分離イメージそれぞれに重ねて表示される境界線の位置とを互いに連動させて変更するものとすることができる。
【0076】
(第10項)第9項に記載の電気泳動分析データ処理プログラムにおいて、前記解析条件設定ステップでは、解析対象範囲の位置を示す情報を数値で入力するためのダイアログを表示し、該ダイアログにおける数値と前記エレクトロフェログラム及び分離イメージそれぞれに重ねて表示される境界線の位置とを互いに連動させて変更するものとすることができる。
【0077】
第5項に記載の装置及び第10項に記載のプログラムによれば、エレクトロフェログラムや分離イメージ上で解析対象範囲や着目範囲をグラフィカルに指定したり変更したりしたときに、その指定や変更後の範囲の状態を直ぐに数値で確認することができる。これにより、入力ミスや操作ミス等の作業ミスを軽減することができ、的確に範囲を設定して目的とする解析結果を得ることができる。
【符号の説明】
【0078】
1…測定部
10…サンプル供給部
11…電気泳動分離部
12…検出部
13…AD変換部
2…制御部
3…データ処理部
30…データ格納部
31…エレクトロフェログラム作成部
32…ピーク検出部
33…分離イメージ作成部
34…解析条件設定処理部
35…解析対象ピーク特定部
36…解析処理部
37…表示処理部
4…操作部
5…表示部
6…モル濃度比解析画面
6A…サンプル表示領域
6B…分離イメージ表示領域
6C…エレクトロフェログラム表示領域
6D…解析結果表示領域
60…ウェルイメージ
70、70a、70b…分離イメージ
72…解析範囲指示ライン
73…除外範囲指示ライン
80、80a、80b…エレクトロフェログラム
81…泳動波形
82…解析範囲指示ライン
83…除外範囲指示ライン
84…着目範囲指示ライン
85…着目範囲指示タグ
90…解析結果テーブル
a…解析範囲
b…解析範囲外領域
c…除外範囲
d…解析対象範囲
e、f…着目範囲
100…解析条件設定ダイアログ
101…解析範囲指定データグリッド
102…除外範囲指定データグリッド
103…着目断片指定データグリッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8