(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141937
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20230928BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/419 327H
G01N27/419 327G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048530
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】岡本 拓
(57)【要約】
【課題】基準ガス空間側で汚染ガスが生じた場合であっても、測定精度の劣化が抑制されるガスセンサを提供する。
【解決手段】内部に基準ガス空間を備えるガスセンサのケーシングが、一方端部側に検知部を備えるセンサ素子の他方端部側が突出してなる外筒と、外筒の端部に嵌め込まれてなり、基準ガス空間を封止するシール部材とを備え、センサ素子が、外部と少なくとも1つの内側電極とを電気的に接続するための第1の電極リードとこれを被覆する第1のリード絶縁層とを備える第1の電極リード部と、外部と測定電極とを電気的に接続可能な第2の電極リードとこれを被覆する第2のリード絶縁層とを備える第2の電極リード部とを備え、第1の電極リード部における拡散抵抗をA(cm
-1)とし、第2の電極リード部における拡散抵抗をB(cm
-1)とする場合に、A/B<1.00である、ようにした。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中の所定ガス成分を検知可能なガスセンサであって、
酸素イオン伝導性の固体電解質にて構成された長尺板状の基体部を有してなり、一方端部側に検知部を備えるセンサ素子と、
前記センサ素子が内部に収容され固定されるケーシングと、
を備え、
前記ケーシングが、
内部に基準ガスが存在する基準ガス空間を備え、前記基準ガス空間に前記センサ素子の他方端部側が突出してなる外筒と、
前記外筒の端部に嵌め込まれてなり、前記基準ガス空間を封止するシール部材と、
を備え、
前記センサ素子が、
前記一方端部側に備わる前記被測定ガスの導入口と所定の拡散抵抗の下で連通する少なくとも1つの酸素分圧調整用内部空所と、
前記少なくとも1つの酸素分圧調整用内部空所とさらに連通する測定用内部空所と、
前記少なくとも1つの酸素分圧調整用内部空所および前記測定用内部空所以外の箇所に配置された空所外ポンプ電極と、
前記少なくとも1つの酸素分圧調整用内部空所に面して設けられてなり、前記空所外ポンプ電極との間に所定のポンプ電圧が印加されることによって対応する前記少なくとも1つの酸素分圧調整用内部空所と前記センサ素子の外部との間で酸素の汲み入れまたは汲み出しが可能な、少なくとも1つの内側電極と、
前記測定用内部空所に面して設けられてなり、前記空所外ポンプ電極との間に所定のポンプ電圧が印加されることによって前記測定用内部空所と前記センサ素子の外部との間で酸素の汲み入れまたは汲み出しが可能な、測定電極と、
前記少なくとも1つの内側電極から延在してなる、前記センサ素子の外部と前記少なくとも1つの内側電極とを電気的に接続するための少なくとも1つの第1の電極リードと、前記少なくとも1つの第1の電極リードを被覆する少なくとも1つの第1のリード絶縁層と、を備える少なくとも1つの第1の電極リード部と、
前記測定電極から延在してなる、前記センサ素子の外部と前記測定電極とを電気的に接続可能な第2の電極リードと、前記第2の電極リードを被覆する第2のリード絶縁層と、を備える第2の電極リード部と、
を備え、
前記少なくとも1つの第1の電極リード部における拡散抵抗をA(cm-1)とし、前記第2の電極リード部における拡散抵抗をB(cm-1)とする場合に、
A/B<1.00
であることを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサであって、
0.02≦A/B≦0.27
であることを特徴とするガスセンサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガスセンサであって、
B≧700×10-3(cm-1)
であることを特徴とするガスセンサ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガスセンサであって、
前記少なくとも1つの酸素分圧調整用内部空所が、前記導入口から所定の拡散抵抗のもとで順次に連通する第1内部空所と第2内部空所であり、
前記測定用内部空所が、前記第2内部空所と所定の拡散抵抗のもとで連通する第3内部空所であり、
前記少なくとも1つの内側電極が、前記第1内部空所に設けられた主ポンプ電極と、前記第2内部空所に設けられた補助ポンプ電極である、
ことを特徴とするガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス製のセンサ素子を備えるガスセンサに関し、特にリッチガス雰囲気下での使用に際しての測定電極の保護と、出力変動の抑制とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のエンジン等の内燃機関における燃焼ガスや排気ガス等の被測定ガス中の所定のガス成分の濃度を測定する装置として、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質セラミックスを用いてセンサ素子を形成したガスセンサが公知である。
【0003】
係るガスセンサは、通常、セラミックス製の長尺板状のセンサ素子(検出素子)が、金属製の収容部材の内部(中空部)において、セラミックサポータとタルク等のセラミックスの圧粉体とによって固定され、圧粉体によって、被測定ガスを測定電極等が備わる素子内部に導入するためのガス導入口が備わる一方端部側と基準ガス(大気)が導入される他方端部側との間が気密封止されてなる構成の、本体部を有する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
収容部材の他方端部側はいわゆる外筒とも称される円筒状の部材となっており、その先端には、シール(封止)部材としてゴム栓が嵌め込まれている。これら外筒とゴム栓とに囲繞される空間が基準ガス空間とされる。ゴム栓には、センタ素子と外部とを電気的に接続するいくつかのリード線が挿通される貫通穴が備わっている。基準ガスは通常、ガスセンサの作製過程でゴム栓を外筒に嵌め込む時点において外筒内に存在していた大気がそのまま用いられるが、その後にゴム栓の貫通穴とリード線との隙間を通じて外筒内に入り込む大気についても、基準ガスとなり得る。
【0005】
また、センサ素子の他方端部においては、基準ガスが基準ガス空間から素子内部へと導入されるようになっており、かつ、基準電位を与える基準電極が、基準ガスと接触可能に設けられてなる。基準電極が酸素濃度一定の基準ガスと接触することにより、基準電位が一定に保たれることで、基準電極と測定電極等のセンサ素子に備わる他の電極との間に、当該電極周りの雰囲気に応じた電位差が生じるようになっている。
【0006】
センサ素子に備わる種々の電極は、素子内部あるいは素子側面に配設された電極リードによって素子端部に備わる接続端子と電気的に接続されているが、基準電極と、係る接続端子としての電極パッドとの間を接続する基準電極リードを多孔質としたセンサ素子も、すでに公知である(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
加えて、被測定ガスが導入される被測定ガス室の幅W1と、被測定ガス室へのガス導入口に配置される多孔質の拡散抵抗層との幅W2とがW1<W2なる関係をみたすようにしたガスセンサ素子もすでに公知である(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6401644号公報
【特許文献2】特許第5832479号公報
【特許文献3】特開2020-71128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されているようなガスセンサは、その本体部がエンジンからの排気経路に配置されて排ガス雰囲気下で使用され、かつ、センサ素子自体がヒータにて加熱されるなど、高温の環境下で使用される。それゆえ、使用が開始され、本体部が高温に加熱されると、外筒の内面に付着した油分が揮発したり、ゴム栓からガスが発生したりすることで発生する汚染ガスにより、基準ガスが汚染されることがある。そして、係る汚染ガスが基準電極にまで到達した結果として、一定に保たれるべき基準電位が変化してしまい、ガスセンサの測定精度が保たれなくなることが生じ得る。このような状況は、特許文献2に開示されたような、基準電極リードが多孔質である場合に、より生じやすいと考えられる。
【0010】
特許文献1に開示されたガスセンサでは、外側電極と、基準電極と、両者の間に備わる固体電解質とによって構成される電気化学的ポンプセルにおいて、両電極間に所定の電圧を印加することで、素子外部から基準ガス空間に酸素を汲み入れることが可能となっており、係る汲み入れを行うことにより、基準ガスが汚染された場合でも基準電位を一定に保つことができるようになっている。
【0011】
しかしながら、上述した汚染ガスは、基準電極に到達するばかりではなく、測定電極リード等の電極リードを介して測定電極やさらにはよりガス導入口近い内部空所にまで到達する場合がある。すると、本来であればガス導入口から導入された後、酸素濃度が所定の値に調整されたうえで測定電極に到達するはずの被測定ガスがリードを介して侵入した汚染ガスにて汚染されてしまい、結果として、ガスセンサにおける測定精度が劣化してしまうことがあり得る。たとえ侵入量が微小であるとしても、測定対象ガス成分の濃度が小さい場合には、その影響は無視できなくなる。
【0012】
例えば、特許文献3には、被測定ガス室の幅W1が従来よりも小さくなることにより、ガスセンサ素子に備わる電極の幅も小さくなる場合には、リード部を含む電極部のインピーダンスが大きく変化しないようにするべく、各電極に接続される電極リードの幅を相対的に大きくなるように設定して、所定の電極インピーダンスに調整する態様が開示されている。このようにリード部の幅を大きくした場合、リード部の拡散抵抗が小さくなり、リード部を介して汚染ガスが到達する量が増えてしまうおそれが高まる。
【0013】
また、特許文献2に開示されているような多孔質の電極リードを基準電極リード意外にも採用することは、白金の使用量を抑えることができ、コストダウンにつながる一方、電極リードを介した汚染ガスの侵入量が増えてしまうおそれがある。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、基準ガス空間側で汚染ガスが生じた場合であっても、測定精度の劣化が抑制されるガスセンサを提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、被測定ガス中の所定ガス成分を検知可能なガスセンサであって、酸素イオン伝導性の固体電解質にて構成された長尺板状の基体部を有してなり、一方端部側に検知部を備えるセンサ素子と、前記センサ素子が内部に収容され固定されるケーシングと、を備え、前記ケーシングが、内部に基準ガスが存在する基準ガス空間を備え、前記基準ガス空間に前記センサ素子の他方端部側が突出してなる外筒と、前記外筒の端部に嵌め込まれてなり、前記基準ガス空間を封止するシール部材と、を備え、前記センサ素子が、前記一方端部側に備わる前記被測定ガスの導入口と所定の拡散抵抗の下で連通する少なくとも1つの酸素分圧調整用内部空所と、前記少なくとも1つの酸素分圧調整用内部空所とさらに連通する測定用内部空所と、前記少なくとも1つの酸素分圧調整用内部空所および前記測定用内部空所以外の箇所に配置された空所外ポンプ電極と、前記少なくとも1つの酸素分圧調整用内部空所に面して設けられてなり、前記空所外ポンプ電極との間に所定のポンプ電圧が印加されることによって対応する前記少なくとも1つの酸素分圧調整用内部空所と前記センサ素子の外部との間で酸素の汲み入れまたは汲み出しが可能な、少なくとも1つの内側電極と、前記測定用内部空所に面して設けられてなり、前記空所外ポンプ電極との間に所定のポンプ電圧が印加されることによって前記測定用内部空所と前記センサ素子の外部との間で酸素の汲み入れまたは汲み出しが可能な、測定電極と、前記少なくとも1つの内側電極から延在してなる、前記センサ素子の外部と前記少なくとも1つの内側電極とを電気的に接続するための少なくとも1つの第1の電極リードと、前記少なくとも1つの第1の電極リードを被覆する少なくとも1つの第1のリード絶縁層と、を備える少なくとも1つの第1の電極リード部と、前記測定電極から延在してなる、前記センサ素子の外部と前記測定電極とを電気的に接続可能な第2の電極リードと、前記第2の電極リードを被覆する第2のリード絶縁層と、を備える第2の電極リード部と、を備え、前記少なくとも1つの第1の電極リード部における拡散抵抗をA(cm-1)とし、前記第2の電極リード部における拡散抵抗をB(cm-1)とする場合に、A/B<1.00であることを特徴とする。
【0016】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係るガスセンサであって、0.02≦A/B≦0.27であることを特徴とする。
【0017】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に係るガスセンサであって、B≧700×10-3(cm-1)であることを特徴とする。
【0018】
本発明の第4の態様は、第1ないし第3の態様のいずれかに係るガスセンサであって、前記少なくとも1つの酸素分圧調整用内部空所が、前記導入口から所定の拡散抵抗のもとで順次に連通する第1内部空所と第2内部空所であり、前記測定用内部空所が、前記第2内部空所と所定の拡散抵抗のもとで連通する第3内部空所であり、前記少なくとも1つの内側電極が、前記第1内部空所に設けられた主ポンプ電極と、前記第2内部空所に設けられた補助ポンプ電極である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1ないし第4の態様によれば、基準ガス空間において汚染ガスが生じた場合のNOx濃度の一時的な出力変動量を抑制することができる。これにより、基準ガス空間内における汚染ガスの発生に起因する測定精度の劣化が、好適に抑制されたガスセンサが、実現される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ガスセンサ100の長手方向に沿った要部断面図である。
【
図2】センサ素子101の構成の一例を概略的に示す、素子長手方向に沿った垂直断面図である。
【
図3】ガスセンサを、NOx濃度が一定のモデルガス雰囲気下で動作させたときの、動作開始からのNOx電流Ip2の変化を、ゴム栓106の温度変化とともに示すグラフの一例である。
【
図4】主ポンプ電極22、補助ポンプ電極51、および測定電極44のそれぞれから延在する電極リードを含む電極リード部の配置を示す平面図である。
【
図5】外側ポンプ電極23から延在する電極リードを含む電極リード部の配置を示す平面図である。
【
図6】出力変動量の評価の仕方を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<ガスセンサの構成>
図1は、本発明の実施の形態において組立の対象となるガスセンサ100の(より詳細にはその本体部の)、長手方向に沿った要部断面図である。本実施の形態において、ガスセンサ100とは、その内部に備わるセンサ素子101によって所定のガス成分(例えば、NOx等)を検出するためのものである。なお、
図1においては、鉛直方向をz軸方向として示しており、ガスセンサ100の長手方向はz軸方向と一致している(以降の図においても同様)。
【0022】
ガスセンサ100は、主として、センサ素子101と、その周囲に環装されてなる環装部品120と、環装部品120の周囲にさらに環装され、該環装部品120を収容してなる筒状体130とが、保護カバー102と、固定ボルト103と、外筒104とによって被覆された構成を有する。換言すれば、ガスセンサ100においては、概略、センサ素子101が筒状体130の内部の軸中心位置において軸方向に貫通し、環装部品120が、筒状体130の内部においてセンサ素子101に環装された構成を有する。主として、筒状体130と、保護カバー102と、外筒104とが、センサ素子101のケーシング(収容部材)を構成している。
【0023】
センサ素子101は、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質セラミックスからなる素子体を主たる構成材料とする長尺の柱状あるいは薄板状の部材である。センサ素子101は、筒状体130の長手方向に沿った中心軸上に配置されてなる。以降、筒状体130の長手方向と一致する中心軸の延在方向を軸線方向とも称する。
図1および以降の図において、軸線方向はz軸方向と一致している。
【0024】
センサ素子101は、第1先端部101aの側にガス導入口や内部空所などを備える検知部を有するとともに、素子体表面および内部に種々の電極や配線パターンを備えた構成を有する。センサ素子101においては、内部空所に導入された被検ガスが内部空所内で還元ないしは分解されて酸素イオンが発生する。ガスセンサ100においては、素子内部を流れる酸素イオンの量が被検ガス中における当該ガス成分の濃度に比例することに基づいて、係るガス成分の濃度が求められる。
【0025】
センサ素子101の表面の、第1先端部101aから長手方向における所定の範囲は、保護膜111で被覆されてなる。保護膜111は、内部空所や電極等が設けられてなるセンサ素子101の第1先端部101a近傍を被水などによる熱的な衝撃から保護するために設けられ、耐熱衝撃保護層とも称される。保護膜111は、例えばAl
2O
3などからなる厚みが10μm~2000μm程度の多孔質膜である。保護膜111は、その目的に照らして、50N程度までの力に耐え得るように形成されるのが好ましい。ただし、
図1および以降の各図における保護膜111の形成範囲はあくまで例示であって、実際の形成範囲は、センサ素子101の具体的構造に応じて適宜に定められる。
【0026】
保護カバー102は、センサ素子101のうち、使用時に被検ガスに直接に接触する部分である第1先端部101aを保護する、略円筒状の外装部材である。保護カバー102は、筒状体130の図面視下側(z軸方向負側)の外周端部(後述する縮径部131の外周)に、溶接固定されてなる。
【0027】
図1に示す場合においては、保護カバー102は、外側カバー102aと内側カバー102bとの2層構造となっている。外側カバー102aと内側カバー102bは、それぞれ、気体が通過可能な複数の貫通孔H1およびH2と、H3およびH4が設けられてなる。なお、
図1に示す貫通孔の種類、配置個数、配置位置、形状などあくまで例示であって、保護カバー102の内部への被測定ガスの流入態様を考慮して適宜に定められてよい。
【0028】
固定ボルト103は、ガスセンサ100を測定位置に固定する際に用いられる環状の部材である。固定ボルト103は、ねじ切りがされたボルト部103aと、ボルト部103aを螺合する際に保持される保持部103bとを備えている。ボルト部103aは、ガスセンサ100の取り付け位置に設けられたナットと螺合する。例えば、自動車の排気管に設けられたナット部にボルト部103aが螺合されることで、ガスセンサ100は、保護カバー102の側が排気管内に露出する態様にて該排気管に固定される。
【0029】
外筒104は、その一方端部(図面視下端部)が筒状体130の図面視上側(z軸方向正側)の外周端部に溶接固定されてなる、円筒状部材である。外筒104の内部にはコネクタ105が配されている。また、外筒104の他方端部(図面視上端部)には、シール(封止)部材として、ゴム栓106が嵌め込まれている。ガスセンサ100においては、筒状体130とゴム栓106との間において、外筒104に囲繞されてなる空間が、基準ガス空間SPとなっている。換言すれば、基準ガス空間SPは、ゴム栓106にて封止されてなる。基準ガス空間SPには、センサ素子101の第2先端部101bが突出してなる。係る基準ガス空間SPには、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0030】
コネクタ105には、センサ素子101の第2先端部101bに備わる図示しない複数の端子電極と接する複数の接点部材151が備わっている。接点部材151は、ゴム栓106に挿通されたリード線107と接続されてなる。リード線107は、ガスセンサ100外部の
図1においては図示しないコントローラ110や各種電源に接続されてなる。
【0031】
なお、
図1には、接点部材151とリード線107とをそれぞれ2つずつのみ示しているが、これは例示である。
【0032】
筒状体130は、主体金具とも称される金属製の筒状部材である。筒状体130の内部には、センサ素子101と環装部品120とが収容されてなる。換言すれば、筒状体130は、センサ素子101の周りに環装された環装部品120の周囲に、さらに環装されてなる。
【0033】
筒状体130は、軸線方向に平行な円筒状の内面130aによって円筒状の内空間をなしている厚肉の主部130Mと、図面視で軸線方向下端部(z軸方向負側)に備わり、主部130Mよりもさらに厚肉の縮径部131と、図面視で軸線方向の上端に位置する主部130Mの端面130cからさらに上方に延在しつつ、軸中心へ向かう向きへと屈曲させられてなる薄肉のかしめ部132と、周方向外側へと突出してなる係止部133とを主として備える。
【0034】
かしめ部132は、屈曲させられてなることで、内部に配置された環装部品120を(直接的には第2セラミックサポータ123を)図面視上方から押圧しつつ固定(拘束)してなる。なお、かしめ部132は、後述するように、センサ素子101および環装部品120の環装後に屈曲させられてなる。
【0035】
環装部品120は、第1セラミックサポータ121と、圧粉体122と、第2セラミックサポータ123とからなる。
【0036】
第1セラミックサポータ121および第2セラミックサポータ123は、セラミックス製の碍子である。より詳細には、第1セラミックサポータ121および第2セラミックサポータ123の軸中心位置には、センサ素子101の断面形状に応じた矩形状の貫通孔(図示省略)が設けられており、当該貫通孔にセンサ素子101が挿通されることによって、第1セラミックサポータ121および第2セラミックサポータ123はセンサ素子101に環装されてなる。なお、第1セラミックサポータ121は、図面視下方において筒状体130のテーパー面130bに係止されてなる。
【0037】
一方、圧粉体122は、タルクなどのセラミックス粉末を成型してなり、かつ、第1セラミックサポータ121および第2セラミックサポータ123と同様、貫通孔にセンサ素子101が挿通されることによってセンサ素子101の周囲に環装された状態で筒状体130の内部に配置された後、さらに圧縮されて一体となったものである。より詳細には、圧粉体122をなすセラミックス粒子は、第1セラミックサポータ121および第2セラミックサポータ123と筒状体130とに囲繞され、かつ、センサ素子101が貫通する空間に、密に充填されてなる。
【0038】
ガスセンサ100においては、概略、第1セラミックサポータ121のテーパー面130bによる係止と、第2セラミックサポータ123の図面視上側からのかしめ部132による押圧とによって、筒状体130の内部におけるセンサ素子101と環装部品120との固定が、実現されてなる。加えて、圧粉体122の圧縮充填により、センサ素子101の第1先端部101a側と、第2先端部101b側との間の気密封止が、実現されてなる。
【0039】
<センサ素子の概略構成>
図2は、センサ素子101の構成の一例を概略的に示す、素子長手方向に沿った垂直断面図である。
図2においては、センサ素子101の第1先端部101a側に備わる保護膜111の図示を省略する一方、ガスセンサ100の各部の動作を制御するとともに、センサ素子101を流れるNOx電流に基づいてNOx濃度を特定するコントローラ110を併せて示している。
【0040】
センサ素子101は、それぞれが酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニア(ZrO
2)からなる(例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)などからなる)、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの固体電解質層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する、平板状の(長尺板状の)セラミックス製の素子体である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。なお、以降においては、
図2におけるこれら6つの層のそれぞれの上側の面を単に上面、下側の面を単に下面と称することがある。また、センサ素子101のうち固体電解質からなる部分全体を基体部と総称する。
【0041】
係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターン(例えば、電極、電極リード、リード絶縁層など)の印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0042】
センサ素子101の第1先端部101a側であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10を兼ねる第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40と、第4拡散律速部60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0043】
緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40、第3内部空所61とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間(領域)である。なお、ガス導入口10についても同様に、第1拡散律速部11とは別に、第1先端部101aにおいてスペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられてなる態様であってもよい。係る場合、第1拡散律速部11がガス導入口10よりも内部に隣接形成されることになる。
【0044】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30と、第4拡散律速部60とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から最奥の内部空所である第3内部空所61に至る部位をガス流通部とも称する。
【0045】
また、センサ素子101の第2先端部101b側には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空所43が設けられている。基準ガス導入空所43は、外筒104内の基準ガス空間SPに対し開口しており、基準ガス空間SPから基準ガスたる大気が導入される。
【0046】
大気導入層48は、多孔質アルミナからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空所43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0047】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空所43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内や第2内部空所40内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
【0048】
ガス流通部において、ガス導入口10(第1拡散律速部11)は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。
【0049】
第1拡散律速部11は、取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0050】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0051】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0052】
被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0053】
第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0054】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極(主ポンプ電極とも称する)22と、第2固体電解質層6の上面(センサ素子101の一方主面)の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側(空所外)ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0055】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)に形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成されてなる。これら天井電極部22aと底部電極部22bとは、第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に設けられた導通部にて接続されてなる(図示省略)。
【0056】
天井電極部22aおよび底部電極部22bは、平面視矩形状に設けられてなる。ただし、天井電極部22aのみ、あるいは、底部電極部22bのみが設けられる態様であってもよい。
【0057】
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極として形成される。特に、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。例えば、5%~40%の気孔率を有し、Auを0.6wt~1.4wt%程度含むAu-Pt合金とZrO2とのサーメット電極として、5μm~20μmの厚みに形成される。Au-Pt合金とZrO2との重量比率は、Pt:ZrO2=7.0:3.0~5.0:5.0程度であればよい。
【0058】
一方、外側ポンプ電極23は、例えばPtあるいはその合金とZrO2とのサーメット電極として、平面視矩形状に形成される。
【0059】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に可変電源24によって所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向に主ポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。なお、主ポンプセル21において内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に印加されるポンプ電圧Vp0を、主ポンプ電圧Vp0とも称する。
【0060】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセルである主センサセル80が構成されている。
【0061】
主センサセル80における内側ポンプ電極22と基準電極42との電位差である起電力V0を測定することで、第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。
【0062】
さらに、コントローラ110が、起電力V0が一定となるように主ポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することで、主ポンプ電流Ip0が制御されている。これにより、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保たれるようになっている。
【0063】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0064】
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧をさらに調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、補助ポンプセル50が作動することによって調整される。第2内部空所40においては、被測定ガスの酸素濃度がさらに高精度に調整される。
【0065】
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。
【0066】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101と外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0067】
補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様の形態にて、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成されてなり、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成されてなる。これら天井電極部51aと底部電極部51bは、平面視矩形状をなしているとともに、第2内部空所40の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に設けられた導通部にて接続されてなる(図示省略)。
【0068】
なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0069】
補助ポンプセル50においては、コントローラ110による制御のもと、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧(補助ポンプ電圧)Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0070】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセルである補助センサセル81が構成されている。補助センサセル81においては、第2内部空所40内の酸素分圧に応じて補助ポンプ電極51と基準電極42との間に生じる電位差である起電力V1が、検出される。
【0071】
補助ポンプセル50は、この補助センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、ポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にフィードバック制御されるようになっている。
【0072】
また、これとともに、その補助ポンプ電流Ip1が、主センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、補助ポンプ電流Ip1は、制御信号として主センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0073】
第4拡散律速部60は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所61に導く部位である。
【0074】
第3内部空所61は、第4拡散律速部60を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間(測定用内部空所)として設けられている。NOx濃度の測定は、第3内部空所61において、測定ポンプセル41が動作することによりなされる。第3内部空所61には、第2内部空所40において酸素濃度が高精度に調整された被測定ガスが導入されるため、ガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0075】
測定ポンプセル41は、第3内部空所61内に導入された被測定ガスのNOx濃度を測定するためのものである。測定ポンプセル41は、第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
【0076】
測定電極44は、貴金属と固体電解質との多孔質サーメット電極である。例えばPtあるいはPtとRhなどの他の貴金属との合金と、センサ素子101の構成材料たるZrO2とのサーメット電極として形成される。測定電極44は、第3内部空所61内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0077】
測定ポンプセル41においては、コントローラ110による制御のもと、第3内部空所61内の雰囲気中におけるNOxの分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0078】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって、電気化学的なセンサセルである測定センサセル82が構成されている。測定センサセル82にて検出される、第3内部空所61内の酸素分圧に応じて測定電極44と基準電極42との間に生じる電位差である起電力V2に基づいて、可変電源46がフィードバック制御される。
【0079】
第3内部空所61内に導かれた被測定ガス中のNOxは測定電極44により還元され(2NO→N2+O2)、酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定センサセル82にて検出された起電力V2が一定となるように可変電源46の電圧(測定ポンプ電圧)Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中のNOxの濃度に比例するものであるから、測定ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中のNOx濃度が算出されることとなる。以降、係るポンプ電流Ip2のことを、NOx電流Ip2とも称する。
【0080】
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
【0081】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0082】
なお、
図2においては図示の簡略のため、各種ポンプセルやセンサセルを構成する電極とセンサ素子101の外部の各部とを電気的に接続するための配線については、あくまで模式的に示している。しかしながら、実際のセンサ素子101においては、それぞれのポンプセルやセンサセルの電極と端子電極との間をつなぐ電極リードが内部あるいは側面に備わっている。係る電極リードを含む電極リード部の詳細については後述する。
【0083】
センサ素子101は、さらに、基体部を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。
【0084】
ヒータ部70は、ヒータ電極71と、ヒータエレメント72と、ヒータリード72aと、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75と、
図2においては図示を省略するヒータ抵抗検出リードとを、主として備えている。また、ヒータ部70は、ヒータ電極71を除いて、センサ素子101の基体部に埋設されてなる。
【0085】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面(センサ素子101の他方主面)に接する態様にて形成されてなる電極である。
【0086】
ヒータエレメント72は、第2基板層2と第3基板層3との間に設けられた抵抗発熱体である。ヒータエレメント72は、
図2においては図示を省略する、センサ素子101の外部に備わる図示しないヒータ電源から、通電経路であるヒータ電極71、スルーホール73、およびヒータリード72aを通じて給電されることより、発熱する。ヒータエレメント72は、Ptにて、あるいはPtを主成分として、形成されてなる。ヒータエレメント72は、センサ素子101のガス流通部が備わる側の所定範囲に、素子厚み方向においてガス流通部と対向するように埋設されている。ヒータエレメント72は、10μm~30μm程度の厚みを有するように設けられる。
【0087】
センサ素子101においては、ヒータ電極71を通じてヒータエレメント72に電流を流すことにより、ヒータエレメント72を発熱させることで、センサ素子101の各部を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。具体的には、センサ素子101は、ガス流通部付近の固体電解質および電極の温度が700℃~900℃程度になるように加熱される。係る加熱によって、センサ素子101において基体部を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。なお、ガスセンサ100が使用される際の(センサ素子101が駆動される際の)ヒータエレメント72による加熱温度を、センサ素子駆動温度と称する。
【0088】
ヒータエレメント72による発熱の程度(ヒータ温度)は、ヒータエレメント72の抵抗値の大きさ(ヒータ抵抗)によって把握される。
【0089】
なお、
図2においては図示を省略しているが、センサ素子101の一方主面側に、外側ポンプ電極23を保護する目的で、外側ポンプ電極23を被覆する電極保護層が備わっていてもよい。
【0090】
以上のような構成を有するガスセンサ100においてNOxの濃度が測定される際には、主ポンプセル21さらには補助ポンプセル50を作動させることによって、第1内部空所20さらには第2内部空所40において酸素濃度が一定とされるフィードバック制御が実行され、酸素濃度一定とされた被測定ガスが、第3内部空所61へと導入され、測定電極44に到達する。例えば、被測定ガスがリーン雰囲気である場合、酸素分圧がNOxの測定に実質的に影響がない程度(例えば0.0001ppm~1ppm)にまで十分に低めた被測定ガスが、第3内部空所61へと導入される。
【0091】
そして、測定電極44においては、到達した被測定ガス中のNOxが還元されることによって、酸素が発生する。係る酸素は、測定ポンプセル41より汲み出されるが、係る汲み出しの際に流れるNOx電流Ip2は、被測定ガス中のNOxの濃度と一定の関数関係(以下、感度特性と称する)を有する。
【0092】
係る感度特性は、ガスセンサ100を実使用するに先立ってあらかじめ、NOx濃度が既知の複数種類のモデルガスを用いて特定され、そのデータがコントローラ110に記憶される。そして、ガスセンサ100の実使用時には、被測定ガスにおけるNOx濃度に応じて流れるNOx電流Ip2の値を表す信号がコントローラ110に時々刻々と与えられる。コントローラ110においては、その値と特定した感度特性とに基づいて、NOx濃度が次々と演算され、NOxセンサ検出値として出力される。これにより、ガスセンサ100においては、被測定ガス中のNOx濃度をほぼリアルタイムで把握することができるようになっている。
【0093】
<基準ガス空間における汚染ガスの発生>
本実施の形態に係るガスセンサ100のように、外筒104とゴム栓106とによって基準ガス空間SPを囲繞する構成を有し、かつ、高温環境下で使用されるガスセンサの場合、外筒104の内面104aに付着した油分が揮発したり、ゴム栓106からガスが発生したりすることに起因して、基準ガス空間SPに汚染ガスが発生し、その結果としてNOx電流Ip2が変化してしまうことが起こり得る。係る汚染ガスの発生は特に、高温のガス条件や本体部の周りにて熱が籠るような厳しい環境下で生じやすい。
【0094】
図3は、そのようなガスセンサを、NOx濃度が一定のモデルガス雰囲気下で動作させたときの、動作開始からのNOx電流Ip2の変化を、ゴム栓106の温度変化とともに示すグラフの一例である。
図3においては、一定となるはずのNOx電流Ip2が、ゴム栓106の温度の上昇後に一時的に減少している。そしてその後、ゴム栓106の温度が安定して以降は、当初のピーク値と同程度にまで増大し、略一定となっている。
【0095】
図3におけるNOx電流の一時的な減少は、ガスセンサが加熱される過程で生じる上述のような汚染ガスが、後述する測定電極リード部を通じて測定電極44の備わる第3内部空所61に侵入することによるものと考えられる。そして、一定時間が経過した後にNOx電流Ip2の値が増大するのは、外筒104やゴム栓106が十分に加熱された結果、汚染ガスが全て放出されたことによるものと考えられる。
【0096】
このようなNOx電流Ip2の変動は当然ながら、一時的にせよガスセンサにおけるNOx濃度の測定精度を低下させる要因となる。また、汚染ガスの発生が
図3に示したような使用開始後にのみ生じるとも限らない。
【0097】
<電極リード部の構成>
本実施の形態に係るガスセンサ100においては、センサ素子101における電極リード部が所定の条件をみたすようにすることで、基準ガス空間SPにおける汚染ガスの発生に起因した
図3に示すようなNOx電流Ip2の変動が、NOx濃度の測定精度に与える影響を、抑制してなる。
【0098】
図4は、その一例としての、主ポンプ電極22(より詳細には底部電極部22b)、補助ポンプ電極51(より詳細には底部電極部51b)、および測定電極44のそれぞれから延在する電極リードを含む電極リード部の配置を示す平面図である。また、
図5は、外側ポンプ電極23から延在する電極リードを含む電極リード部の配置を示す平面図である。
【0099】
底部電極部22b、底部電極部51b、および測定電極44はいずれも、第1固体電解質層4の上に設けられてなる。そして、底部電極部22bからは主ポンプ電極リード22Lが、底部電極部51bからは補助ポンプ電極リード51Lが、測定電極44からは測定電極リード44Lが、それぞれ第2先端部101b側に延在している。一方、外側ポンプ電極23は第2固体電解質層6の上に設けられてなる。そして、外側ポンプ電極23からは外側ポンプ電極リード23Lが第2先端部101b側に延在している。
【0100】
主ポンプ電極リード22L、補助ポンプ電極リード51L、測定電極リード44L、および外側ポンプ電極リード23Lはそれぞれ、その周囲を、主ポンプ電極リード絶縁層22I、補助ポンプ電極リード絶縁層51I、測定電極リード絶縁層44I、および外側ポンプ電極リード絶縁層23Iにて囲繞されている。これにより、各電極リードとセンサ素子101を構成する固体電解質との絶縁が図られている。
【0101】
外側ポンプ電極リード23Lは、第2先端部101bに備わる端子電極23Tに接続されている。なお、
図5においては外側ポンプ電極リード絶縁層23Iが外側ポンプ電極リード23Lに沿って直線的に(線状に)備わっているが、外側ポンプ電極リード絶縁層23Iは、外側ポンプ電極23と端子電極23Tとの間において平面的に(層状に)設けられてもよい。
【0102】
一方、主ポンプ電極リード22L、補助ポンプ電極リード51L、および測定電極リード44Lはそれぞれ、その大部分が第1固体電解質層4とスペーサ層5との間に埋設されてなる層間配線となっているが、第2先端部101bの近傍で素子側方に向けて屈曲している。さらには、図示は省略するが、これら主ポンプ電極リード22L、補助ポンプ電極リード51L、および測定電極リード44Lはそれぞれ、主ポンプ電極リード絶縁層22I、補助ポンプ電極リード絶縁層51I、および測定電極リード絶縁層44Iにて囲繞されつつ素子側端部近傍でスルーホールにて厚み方向の上下いずれかの方向に接続されたうえで、他の層間配線にて、第2先端部101bに備わる端子電極23Tと同様の図示しない複数の端子電極のいずれかに接続されている。なお、本実施の形態において、それぞれの電極リードがリード絶縁層にて囲繞されるとは、電極リードがリード絶縁層にて被覆される態様や、電極リードがリード絶縁層にて挟み込まれる態様を含む。
【0103】
主ポンプ電極リード22L、補助ポンプ電極リード51L、測定電極リード44L、および外側ポンプ電極リード23Lは、白金からなるのが好適である。また、主ポンプ電極リード絶縁層22I、補助ポンプ電極リード絶縁層51I、測定電極リード絶縁層44I、および外側ポンプ電極リード絶縁層23Iは、アルミナからなるのが好適である。
【0104】
以降においては、主ポンプ電極リード22Lと主ポンプ電極リード絶縁層22Iとを含みかつ周囲を固体電解質(主に第1固体電解質層4およびスペーサ層5)にて囲繞された領域を主ポンプ電極リード部22Pと総称する。同様に、補助ポンプ電極リード51Lと補助ポンプ電極リード絶縁層51Iとを含みかつ周囲を固体電解質(主に第1固体電解質層4およびスペーサ層5)にて囲繞された領域を補助ポンプ電極リード部51Pと総称する。さらには、測定電極リード44Lと測定電極リード絶縁層44Iとを含みかつ周囲を固体電解質(主に第1固体電解質層4およびスペーサ層5)にて囲繞された領域を測定電極リード部44Pと総称する。
【0105】
換言すれば、主ポンプ電極リード部22Pには主ポンプ電極リード22Lと主ポンプ電極リード絶縁層22Iとが挿通されてなる。補助ポンプ電極リード部51Pには補助ポンプ電極リード51Lと補助ポンプ電極リード絶縁層51Iとが挿通されてなる。測定電極リード部44Pには測定電極リード44Lと測定電極リード絶縁層44Iとが挿通されてなる。
【0106】
そして、本実施の形態に係るガスセンサ100においては、これら3つの電極リード部のうち、センサ素子101に備わるガス流通部においてガス導入口10から最も遠くに位置する測定電極44に接続されてなる測定電極リード部44Pの拡散抵抗が、当該ガス流通部において測定電極44よりもガス導入口10に近い内側ポンプ電極22と補助ポンプ電極51とのそれぞれに接続された主ポンプ電極リード部22Pと補助ポンプ電極リード部51Pの拡散抵抗よりも、大きくなっている。
【0107】
すなわち、本実施の形態に係るガスセンサ100は、主ポンプ電極リード部22Pと補助ポンプ電極リード部51Pのそれぞれの拡散抵抗をAとし、測定電極リード部44Pの拡散抵抗をBとするとき、両者の比A/BについてA/B<1.00という関係をみたすように、構成されてなる。
【0108】
ここで、それぞれの電極リード部の拡散抵抗(リード拡散抵抗)とは、それぞれの電極リードおよび電極リード絶縁層の内部構造のみならず、それらを含む、それぞれの電極リード部の周囲に存在する固体電解質に囲繞された空間全体が、当該空間を移動するガスに与える拡散抵抗である。つまりは、電極リードや電極リード絶縁層の内部に存在する微細な空隙のみならず、電極リードと電極リード絶縁層の間や、電極リード絶縁層と周囲の固体電解質との間に存在する隙間も、係る拡散抵抗に寄与している。
【0109】
電極リード部における拡散抵抗の大きさは、例えば、電極リードや絶縁層の気孔率や、電極リード部の全長(配線長さ)や、電極リード部の断面積などを調整することにより、調整される。
【0110】
A/B<1.00がみたされるということは、これをみたさないほかは同様の構成を有するガスセンサに比して、測定電極リード部44Pを通じた汚染ガスの流出が、主ポンプ電極リード部22Pおよび補助ポンプ電極リード部51Pを通じた流出よりも起こりにくいことを意味する。
【0111】
しかも、ガス導入口10から導入された被測定ガスが第1内部空所20および第2内部空所40において順次に酸素を汲み出されたうえで第3内部空所61に到達する、本実施の形態に係るガスセンサ100においては通常、測定ポンプセル41を流れるNOx電流Ip2よりも主ポンプセル21を流れる主ポンプ電流Ip0や補助ポンプセル50を流れる補助ポンプ電流Ip1の方が大きい。それゆえ、仮に汚染ガスの侵入量が同じであったとしても、主ポンプ電極リード22部Pあるいは補助ポンプ電極リード51部Pを通じた第1内部空所20あるいは第2内部空所40への汚染ガスの侵入に起因して生じる主ポンプ電流Ip0あるいは補助ポンプ電流Ip1の出力変動の割合は、測定電極リード部44Pを通じた第3内部空所61への汚染ガスの侵入に起因してNOx電流Ip2に生じる出力変動の割合に比べれば小さい。
【0112】
A/B<1.00がみたされることで主ポンプ電極リード22部Pあるいは補助ポンプ電極リード51部Pへの汚染ガスの侵入が優先的となった場合にはなおさら、汚染ガスの侵入に起因してNOx電流Ip2に出力変動が生じることが、抑制される。
【0113】
以上の理由から、本実施の形態に係るガスセンサ100においては、A/B<1.00がみたされることにより、使用開始時などに基準ガス空間SPにおいて汚染ガスが生じたとしても、係る汚染ガスが測定電極44の存在する第3内部空所61へと流入して測定電極44を汚染することが、好適に抑制されるようになっている。そして、ガスセンサ100におけるNOx濃度の本来の値からの一時的な出力変動量は、測定精度に照らして許容される範囲に留まる。例えば100ppmというNOx濃度に対する出力変動量が、20ppm以内の範囲に留まる。
【0114】
なお、出力変動量は、概略、NOx濃度が一定のモデルガス雰囲気下でガスセンサ100の動作を開始させたときに得られる、
図3に示したようなNOx電流Ip2の変化量(最終的な一定値と一時的に減少したときの値との差分値)を、上述した感度特性を利用してNOx濃度値の変化量に換算することにより、求めることが出来る。
【0115】
一方で、A/B<0.001である場合、主ポンプ電極リード部22Pあるいは補助ポンプ電極リード部51Pを通じた基準ガス導入空間SPと第1内部空所20あるいは第2内部空所40との間における汚染ガス以外のガス(例えば被測定ガスや基準ガス空間SP内の酸素)の出入りが無視できなくなり、測定精度の劣化が生じることから、A/B≧0.001であることが好ましい。
【0116】
また、B≧700×10
-3cm
-1であるのが好ましい。Bの値が700×10
-3cm
-1を顕著に下回ると、A/B<1.00をみたしていても測定電極リード部44Pを通じた第3内部空所61への汚染ガスの流入が生じやすくなる。なお、B≧700×10
-3cm
-1である構成は、
図1および
図2に示すような構成のガスセンサにおいて一般的に採用される構成である。
【0117】
好ましくは、ガスセンサ100は、0.02≦A/B≦0.27という範囲をみたすように構成される。係る場合、上述した出力変動量がさらに好適に抑制される。例えば500ppmというNOx濃度に対する出力変動量が、10ppm以内の範囲に留まる。
【0118】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、ガスセンサにおける主ポンプ電極リード部および補助ポンプ電極リード部の拡散抵抗をAとし、測定電極リード部の拡散抵抗をBとするとき、A/B<1.00という関係をみたすようにガスセンサを構成することで、基準ガス空間において汚染ガスが生じた場合のNOx濃度の一時的な出力変動量を抑制することができる。好ましくは、0.02≦A/B≦0.27をみたすようにガスセンサを構成することで、係る出力変動量をさらに好適に抑制することができる。
【0119】
これにより、基準ガス空間内における汚染ガスの発生に起因する測定精度の劣化が、好適に抑制されたガスセンサが、実現される。
【実施例0120】
実施例として、主ポンプ電極リード部22Pの拡散抵抗Aの大きさと測定電極リード部44Pの拡散抵抗Bの大きさとの組み合わせを、A/B<1.00をみたす範囲で種々に違えた10通りのガスセンサ100(以下、実施例1~実施例10)を用意し、使用開始時のNOx濃度の出力変動量を評価した。なお、補助ポンプ電極リード部51Pの拡散抵抗も主ポンプ電極リード部22Pの拡散抵抗Aと略同じとした。また、A/B<1.00をみたさない他は実施例と同様に作成した2通りのガスセンサ(以下、比較例1および比較例2)についても、同様の評価を行った。
【0121】
図6は、出力変動量の評価の仕方を説明するための図である。具体的には、温度が1050℃で、空気比λ=1.05で、NOx濃度が100ppmであるモデルガス雰囲気下で、各ガスセンサを始動させ、ゴム栓106の温度が最終的に300℃で一定に保たれるようにヒータ部70による加熱を制御しながら、NOx電流Ip2を連続的に測定することで、
図6に示すような、NOx電流Ip2の時間に対する関数に相当するプロファイルIp2(t)を得た。
【0122】
いずれのガスセンサにおいても、得られた程度の差こそあれ、
図3に示した例と同様のプロファイルIp2(t)が得られた。すなわち、ガスセンサの動作開始後まもなくNOx電流Ip2は略一定となるものの、その後いったん減少して、汚染ガスの発生に伴い略一定となり、そして、その後しばらくしてNOx電流Ip2は増加に転じ、最終的には動作開始当初と略同じ値にて略一定となった。
【0123】
ただし、
図6においては理解の容易のため、プロファイルIp2(t)を実線の折れ線として図示しているが、実際には、プロファイルIp2(t)は破線にて模式的に示すような多少の変動を有していた。
【0124】
このようなプロファイルIp2(t)を対象とした出力変動量の評価に際してはまず、減少後の略一定の状態から増加に転じる直前の所定時間Δt1(例えば10分)におけるNOx電流Ip2の値の平均値av1を特定した。平均値を取るのは、略一定とみられる値が実際には変動しているからである。
【0125】
次に、増大に転じた後、略一定の状態になって以降のNOx電流Ip2の値の、平均値av1に対する差分値Δ1(t)と、増大に転じた後の略一定の状態におけるNOx電流Ip2の最大値と最小値との差分値Δ2(t)を得た。これら差分値Δ1(t)および差分値Δ2(t)もともに、増大後のNOx電流Ip2の値の変動に応じて変動する動的な値であるため、時間の関数として表される。
【0126】
そして、差分値Δ1(t)と差分値Δ2(t)との間に、
差分値Δ1(t)>2×差分値Δ2(t) ・・・・(1)
なる式(1)が成り立つ状態が、所定の観察時間Δtz(例えば60分)経過した時点で、汚染ガスに伴う変動が解消されてNOx電流Ip2の値が本来の値にて略一定になったと判断した。そのうえで、係る判断時点直前の所定時間Δt2(例えば10分)におけるNOx電流Ip2の値の平均値av2を特定し、両者の差分値を、
ポンプ電流変動値=平均値av2-平均値av1 ・・・(2)
として算出した。
【0127】
最終的に、式(2)にて求まるポンプ電流変動値をNOx濃度値に変換することにより、出力変動量を求めた。
【0128】
表1は、実施例1~実施例10と比較例1~比較例2に係るガスセンサの、主ポンプ電極リード部(表1においては「主ポンプ電極リード部」)22Pの拡散抵抗Aと、測定電極リード部44Pの拡散抵抗Bと、両者の比A/Bと、出力変動量と、係る出力変動量の評価結果(良否の判定結果)とを、一覧にして示す図である。
【0129】
【0130】
出力変動量の良否判定においては、得られた出力変動量が10ppm以内であったガスセンサにつき、使用開始時の汚染ガスの発生に起因した出力変動が好適に抑制されていると判定した(A判定)。該当するガスセンサにつき、表1の「判定」欄に「A」と記している。
【0131】
また、得られた出力変動量が10ppm超20ppm以下であったガスセンサについては、測定精度に照らせば許容される程度には、使用開始時の汚染ガスの発生に起因した出力変動が抑制されていると判定した(B判定)。該当するガスセンサにつき、表1の「判定」欄に「B」と記している。
【0132】
一方、得られた出力変動量が20ppm超であったガスセンサについては、使用開始時の汚染ガスの発生に起因した出力変動が抑制されていないと判定した(F判定)。該当するガスセンサにつき、表1の「判定」欄に「F」と記している。
【0133】
表1に示すように、実施例3~実施例5、実施例7、および実施例9のガスセンサについては、A判定となった。また、実施例1、実施例2、実施例6、実施例8、および実施例10のガスセンサについては、B判定となった。一方、比較例1および比較例2のガスセンサについては、F判定となった。
【0134】
以上の結果は、主ポンプ電極リード部22Pの拡散抵抗Aと、測定電極リード部44Pの拡散抵抗Bの比A/Bが、A/B<1.00なる範囲を満たすガスセンサにおいては、使用開始時などに基準ガス空間SPにおいて汚染ガスが生じたとしても、NOx濃度の本来の値からの一時的な出力変動量は、測定精度に照らして許容される範囲に留まることを示している。
【0135】
さらには、0.02≦A/B≦0.27という範囲をみたす場合には、出力変動量がより好適に抑制されることも、示している。
かしめ部132は、屈曲させられてなることで、内部に配置された環装部品120を(直接的には第2セラミックサポータ123を)図面視上方から押圧しつつ固定(拘束)してなる。なお、かしめ部132は、後述するように、センサ素子101に対する環装部品120の環装後に屈曲させられてなる。
しかも、ガス導入口10から導入された被測定ガスが第1内部空所20および第2内部空所40において順次に酸素を汲み出されたうえで第3内部空所61に到達する、本実施の形態に係るガスセンサ100においては通常、測定ポンプセル41を流れるNOx電流Ip2よりも主ポンプセル21を流れる主ポンプ電流Ip0や補助ポンプセル50を流れる補助ポンプ電流Ip1の方が大きい。それゆえ、仮に汚染ガスの侵入量が同じであったとしても、主ポンプ電極リード部22Pあるいは補助ポンプ電極リード部51Pを通じた第1内部空所20あるいは第2内部空所40への汚染ガスの侵入に起因して生じる主ポンプ電流Ip0あるいは補助ポンプ電流Ip1の出力変動の割合は、測定電極リード部44Pを通じた第3内部空所61への汚染ガスの侵入に起因してNOx電流Ip2に生じる出力変動の割合に比べれば小さい。