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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141979
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20230928BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20230928BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
H01L23/36 C
H01L23/12 J
B32B15/01 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048600
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】森田 友真
(72)【発明者】
【氏名】北原 丈嗣
【テーマコード(参考)】
4F100
5F136
【Fターム(参考)】
4F100AB10B
4F100AB17A
4F100AB31A
4F100AB31B
4F100BA02
4F100DB01A
4F100EJ30A
4F100GB43
4F100JL11
5F136BA30
5F136BB04
5F136FA02
5F136FA03
5F136FA14
5F136FA16
5F136FA18
5F136GA12
(57)【要約】
【課題】銅板をアルミニウム板と固相拡散接合によって接合して接合体を製造する方法を提供する。
【解決手段】
銅又は銅合金から成る銅板42Aと、アルミニウム又はアルミニウム合金から成るアルミニウム板とを接合させてなる接合体の製造方法であって、銅板をプレスで打ち抜き成形する銅板成形工程と、銅板とアルミニウム板とを固相拡散接合によって接合する接合工程と、を備え、銅板成形工程はアルミニウム板に接合される面の周縁領域を内側領域側が厚く縁側が薄くなるテーパー面を有する銅板を形成しており、テーパー面は銅板の面方向の幅寸法が1.80mm以下であり且つ銅板の面方向の周縁における深さ寸法が20.0μm以下であり、接合工程はテーパー面をアルミニウム板に向けて接合する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金から成る銅板と、アルミニウム又はアルミニウム合金から成るアルミニウム板とを接合させてなる接合体の製造方法であって、
前記銅板をプレスで打ち抜き成形する銅板成形工程と、前記銅板と前記アルミニウム板とを固相拡散接合によって接合する接合工程と、を備え、
前記銅板成形工程は、前記アルミニウム板に接合される面の周縁領域を内側領域側が厚く縁側が薄くなるテーパー面を有する銅板を形成しており、
前記テーパー面は、前記銅板の面方向の幅寸法が1.80mm以下であり且つ前記銅板の面方向の周縁における深さ寸法が20.0μm以下であり、
前記接合工程は、前記テーパー面を前記アルミニウム板に向けて接合することを特徴とする、接合体の製造方法。
【請求項2】
前記銅板成形工程は、プレスによって銅又は銅合金で成る素板から打ち抜き板を成形した後に前記打ち抜き板の周縁部をシェービング加工して前記幅寸法及び前記深さ寸法の前記テーパー面を形成することを特徴とする、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の異なる板部材からなる接合体を製造する方法に関し、特に、銅板とアルミニウム板を固相拡散接合によって接合する場合に好適な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の自動車、鉄道車両、エレベータ、産業機器などには種々の半導体素子を搭載した絶縁基板が用いられている。特に電気自動車やハイブリッド自動車を制御するために用いられている大電力制御用のパワー半導体素子は、発熱量が多いことから素子を実装する絶縁基板には高い放熱性が求められる。この絶縁基板は、例えばAlN(窒化アルミニウム)やSi(窒化珪素)などからなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性、放熱性が優れた金属板を接合して形成した回路層を備え、他方の面に放熱性が優れた放熱層を備えている。
【0003】
例えば、特許文献1には回路層及び放熱層を構成する銅板をDBC法(Direct Bonded Copper)によってセラミックス基板に直接接合した絶縁基板が提案されている。このDBC法において銅と銅酸化物との共晶反応を利用することにより、銅とセラミックス基板との界面に液相を生じさせて、銅板とセラミックス基板とを接合している。しかし近年、パワーモジュールの小型化・薄肉化が進められているとともに、素子自体の発熱量も増加してきている。そのため従来よりも高い放熱性が絶縁基板に求められている。
【0004】
放熱性を向上させるため回路層を厚くすることにより高い放熱性を確保することが出来るが、セラミックス基板と回路層を構成する銅板との熱膨張係数の違いによって銅板とセラミックス基板や半導体素子を実装している半田部とにかかる応力が大きくなる。そのためセラミックス基板の抗折強度を超過する引っ張り応力が発生することで、セラミックス基板の割れが発生することに加え、半田部にクラックが生じることで熱抵抗が増加する。これによりチップが故障する恐れがある。
【0005】
前述の問題を防ぐための構造として、特許文献2では比較的変形抵抗が小さいアルミニウム板(純度99.99質量%以上)をセラミックス基板の上面と下面とに接合することで、アルミニウム板が冷熱サイクルでセラミックス基板に生じる熱応力を吸収する。これによりセラミックス基板に割れが生じることを抑制できる。更に、半田部に加わる熱応力もアルミニウム板が吸収することで半田部でのクラックも抑制できる。
【0006】
特許文献3に開示のパワーモジュール基板では、回路層はアルミニウム板と銅板との接合体により構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平01-251781号公報
【特許文献2】特許第3171234号公報
【特許文献3】特開2017-228693公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3のようなアルミニウム板と銅板との接合体を形成する場合、その銅板はプレス加工によって成形を行うが、パンチ側とダイ側の面の周縁領域が特徴的な形状となることが一般に知られている。パンチ側の面では周縁領域がダレ面に成り、ダイ側の面では周縁領域がテーパー面になると共にバリが形成される。
【0009】
銅板とアルミニウム板とを固相拡散接合によって接合させるには、接合面同士が接触している必要がある。そのため、未接触部を減少させるために接合時には荷重を加えるが、上述したようにプレス加工にて成形した銅板にはテーパー面が形成されていて、テーパー面側をアルミニウム板の面と合わせた状態で荷重を加えても、テーパー面がアルミニウム板の面と接触せず、固相拡散接合が不十分となり銅板の周縁部に未接合の領域が生じる。特に、大電流への通用、或いは放熱性の向上のために銅板の厚さを厚くすると、このような未接合の領域が増加する問題が生じやすい。
【0010】
このような未接合の領域が残ると、放熱性が低下するだけでなく、銅板とアルミニウム板の間にクラックが生じたり、冷熱サイクルを負荷した際に、銅板とアルミニウム板が剥離する。
【0011】
そこで、本発明は、銅板とアルミニウム板との固相拡散接合で未接合の領域が低減される、接合体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の接合体の製造方法は、銅又は銅合金から成る銅板と、アルミニウム又はアルミニウム合金から成るアルミニウム板とを接合させてなる接合体の製造方法であって、前記銅板をプレスで打ち抜き成形する銅板成形工程と、前記銅板と前記アルミニウム板とを固相拡散接合によって接合する接合工程と、を備え、前記銅板成形工程は、前記アルミニウム板に接合される面の周縁領域を、内側領域側が厚く縁側が薄くなるテーパー面を有する銅板を形成しており、前記テーパー面は、前記銅板の面方向の幅寸法が1.80mm以下であり且つ前記銅板の面方向の周縁における深さ寸法が20.0μm以下であり、前記接合工程は前記テーパー面を前記アルミニウム板に向けて接合する。
【0013】
前記銅板成形工程によって、前記銅板の前記テーパー面が前記幅寸法及び前記深さ寸法で形成される。これにより、前記銅板は面全体を前記アルミニウム板に合わせることができ或いは未接合となる領域を一層小さくすることができる。前記幅寸法が1.8mmよりも大きい場合、製造に際し周縁部における未接合の領域が発生する頻度が高くなる。前記深さ寸法が20.0μmを超える場合も未接合の領域が生じる。
【0014】
本発明では、好ましくは、前記銅板成形工程がプレスによって銅又は銅合金で成る素板から打ち抜き板を成形した後に前記打ち抜き板の周縁部をシェービング加工して前記幅寸法及び前記深さ寸法の前記テーパー面を形成してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、銅板の周縁部での未接合の領域が低減された接合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係るパワーモジュール用基板を示す図である。
図2】(a)と(b)は図1のパワーモジュール用基板の製造方法を説明するための図である。
図3】(a)は図1のパワーモジュール用基板の製造に用いる銅板を示す平面図であり、(b)は(a)のS1-S1線に沿った銅板の概略断面の拡大図である。
図4】(a)~(c)は図3の銅板を成形する工程を説明するための図である。
図5】測定された銅板の周縁領域の輪郭線を示すグラフ図である。
図6】(a)は試料1の接合体を示すSEM(Scanning Electron Microscope)画像であり、(b)は試料7の接合体を示すSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
この実施形態はパワーモジュール用基板を接合体とした例である。このパワーモジュール用基板1は、図1に示すように、絶縁層であるセラミックス基板10と、このセラミックス基板10の一方の面に接合された回路層20と、セラミックス基板10の他方の面に接合された放熱層30とを備える。
セラミックス基板10は、例えばAlN(窒化アルミニウム)、Si(窒化珪素)等の窒化物系セラミックス、もしくはAl(アルミナ)等の酸化物系セラミックスを用いることができる。また、セラミックス基板10の厚さは、0.2mm以上1.5mm以下とされる。
【0018】
回路層20及び放熱層30は、それぞれアルミニウム又はアルミニウム合金からなる第一金属層41と、銅又は銅合金からなる第二金属層42との二層構造とされており、セラミックス基板10の両面に第一金属層41が形成され、その第一金属層41のセラミックス基板10とは反対側の面上に第二金属層42が形成されている。
【0019】
第一金属層41は、純度99質量%以上の純アルミニウム(例えば、JIS規格では1000番台の純アルミニウム、特に1N90(純度99.9質量%以上:いわゆる3Nアルミニウム)又は、1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)や、A6063系等のアルミニウム合金等)を用いることができる。第二金属層42とセラミックス基板10との熱伸縮差を緩衝するためには、第一金属層41として純アルミニウム、特に4Nアルミニウムを用いるのが好ましい。
第二金属層42は、例えば純度99.96質量%以上の銅(無酸素銅)や純度99.90質量%以上の銅(タフピッチ銅)が好適である。
【0020】
これら第一金属層41及び第二金属層42の厚さは、例えば、第一金属層41が0.1mm以上3.0mm以下、第二金属層42が2.0mm以上5.0mm以下とされる。回路層20と放熱層30とで同じ厚さの第一金属層41と第二金属層42とを用いてもよいし、異なる厚さの組み合わせとしてもよい。図示例では、回路層20と放熱層30とで区別することなく、第一金属層41、第二金属層42として、同一符号を付している。
【0021】
このように構成されるパワーモジュール用基板1の製造方法について説明する。
先ず、図2(a)に示すようにセラミックス基板10の両面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板41Aをろう材43を介して積層し、その積層体を加圧加熱することにより、セラミックス基板10とアルミニウム板41Aとを接合して、セラミックス基板10の両面に第一金属層41を形成する(第一接合工程)。アルミニウム板41Aは回路のパターン形状に対応して形成されており、本実施形態では平面視で輪郭が矩形に構成されたアルミニウム板41Aを例に説明する。なお、接合荷重は0.2MPa~0.9MPa(2kgf/cm~10kgf/cm)の範囲とし、接合温度は640℃~650℃の範囲とするとよい。第一接合工程によって、第一金属層41をセラミックス基板10の両面に設けた第一の接合体11を製造する。
【0022】
次いで、図2(b)に示すようにその第一金属層41の上に、銅又は銅合金からなる銅板42Aを積層し、その積層体を加圧加熱することにより、アルミニウムと銅とを固相拡散接合して、第一金属層41のセラミックス基板10とは反対側の面上に第二金属層42を形成する(第二接合工程)。
【0023】
この第二接合工程で以下の銅板42Aを用いている。銅板42Aはアルミニウム板41Aと平面形状が同じに形成されている。本実施形態では平面視で輪郭が矩形に構成された銅板42Aを例に説明する。
【0024】
この銅板42Aの周縁部420は、図3(a)の平面図と図3(b)の拡大断面図とに示すように、上面421では周縁領域421Aが略平らに形成された内側領域421Bから外側へ漸次厚さが薄くなるように、反対の下面422側へ傾斜した面を構成している。
【0025】
また周縁部420の下面422でも、矩形の縁に沿った領域(周縁領域422A)が略平らに形成された内側領域422Bから外側へ漸次厚さが薄くなるように、反対の上面421側へ傾斜した面を構成している。なお、上面421の内側領域421Bと、下面422の内側領域422Bとは平行な面に形成されている。
【0026】
さらに、銅板42Aの周縁部420では、図3(b)に示すように、内側領域421B,422Bに隣接した壁面部423を有し、壁面部423の面方向が内側領域421Bの面方向と直交すると共に内側領域422Bの面方向とも交差する。壁面部423が、銅板42Aの縁として、平面視で輪郭を構成する。
【0027】
以下の説明で、上面421の周縁領域421Aを『ダレ面』と呼び、下面422の周縁領域422Aを『テーパー面』と呼ぶ。テーパー面422Aはダレ面421Aよりも面方向に沿った幅が広くなっている。
【0028】
ダレ面421Aは、図3(b)に示すように、面方向の幅寸法w1が0.80mm以下であり、深さ寸法h1が200.0μm以下である。
【0029】
テーパー面422Aは、図3(b)に示すように、面方向の幅寸法w2が1.80mm以下であり、深さ寸法h2が20.0μm以下である。
【0030】
周縁部420のダレ面421Aやテーパー面422Aは表面粗さ計やレーザー顕微鏡等で寸法(w1,w2,h1、h2)を測定することができる。
【0031】
(銅板42Aの成形)
本実施形態のパワーモジュール用基板1の製造に用いる銅板42Aは、プレスによる打ち抜き成形によって成形する(銅板成形工程)。以下、銅板成形工程を説明する。
(第一の成形方法)
先ず、図4(a)に示すように、ダイ51とパンチ53とによって銅又は銅合金で成る素板を所定形状の打ち抜き板61に成形する。なお、図中の符号52は素板を押さえる板押さえ部である。このダイ51とパンチ53とで打ち抜いて形成される打ち抜き板61の周縁部には、図4(b)に示すように、一方の面にダレ面61A,その反対面にバリ61B及びテーパー面61Cが形成される。テーパー面61Cは、パンチ53を下降して素板を打ち抜いた後に再び下降前の元の位置まで上方に動かす過程で形成される。素板の厚さが2.0mm~5.0mmに対して、ダイ51とパンチ53との間のクリアランスd1は0.07mm~1.5mmである。
【0032】
次に、図4(c)に示すように、ダイ71とパンチ73とによって打ち抜き板61の周縁部にシェービング加工を施して、銅板42Aを製造する。なお、図中の符号72は板押さえ部である。このシェービング加工によって図4(b)の破線Lから外側部分63が分離される。外側部分63の取り代w3はバリ61Bを除去すると共にテーパー面61Cが前述の幅寸法w2及び深さ寸法h2のテーパー面422Aとなるように設定され、打ち抜き板61の面方向の幅寸法として取り代w3は例えば0.4mmである。パンチ73とダイ71との間のクリアランスd2は0.4mm~2.5mmである。なお、シェービング加工を行う際のクリアランスd2はクリアランスd1よりも小さく(d1>d2)設定されている。
【0033】
(第二の成形方法)
前述の第一の成形方法では、打ち抜き板61を形成した後に、さらに周縁部の加工処理を行うが、第二の成形方法では銅又は銅合金から成る素板の一回の打ち抜きで、周縁部420に前述の幅寸法w2及び深さ寸法h2のテーパー面422Aと前述の幅寸法w1及び深さ寸法h1のダレ面421Aとを設けた銅板42Aを、製造する。図示することを省略するが、第二の成形方法では、パンチ73とダイ71との間のクリアランスは好ましくは0.01mmである。
【0034】
このように、ダレ面421Aとテーパー面422Aとを設けた銅板42Aを、第一金属層41に接合させる部材として、パワーモジュール用基板1(第二の接合体:本発明の接合体に相当)の製造に利用する。
【0035】
第二接合工程では、前述のように成形した二枚の銅板42Aを、図2(b)に示すように、第一の接合体11の第一金属層41それぞれに一枚ずつ、厚さ方向に重ねる。各銅板42Aはテーパー面が第一金属層41に対向するように重ねられる。そして、この積層体を加圧した状態で、真空加熱炉で加熱処理を行う。
【0036】
その際の荷重は2.4MPa以下とすることが望ましい。2.4MPaよりも大きい荷重であると、第一金属層41が大きく変形するため好ましくない。銅板42Aと第一金属層41の固相拡散接合のための温度は528℃~543℃の温度範囲内で行う。これは第一金属層41を構成するアルミニウムと銅板42Aを構成する銅との共晶温度が548℃であるためアルミニウムと銅の共晶温度を超えない範囲で固相拡散接合を行うことが好ましいからである。
【0037】
このように、第一金属層41に銅板42Aを固相拡散接合させて第二金属層42を形成することで、第二の接合体としてパワーモジュール用基板1を構成することができる。
【0038】
本実施形態の製造方法では、接合前の銅板42Aのテーパー面422Aを幅寸法w2及び深さ寸法h2としておいたことにより、銅板42Aの下面422で未接合の領域を作らずに或いは未接合の領域を一層小さくして第一金属層41に接合させることができる。また、第一金属層41と非接触側にある上面421でも内側領域421Bを広く(ダレ面421Aを小さく)することで、素子等の実装に利用する平坦度が高い面を構成することができる。なお、幅寸法w2が1.80mmよりも大きいと製造に際し周縁部における未接合の領域が発生する頻度が高くなる。深さ寸法h2が20.0μmを超えた場合も未接合の領域が生じる。
【0039】
なお、第二の接合体(本発明の接合体)は、前述の実施形態のパワーモジュール用基板1に限らず、セラミックス基板以外の絶縁板にアルミニウム板と銅板とを順次接合して成る絶縁回路基板として構成されたものでもよく、この絶縁回路基板の製造で銅板とアルミニウム板との固相拡散接合にも通用する。また、前述の実施形態では、セラミックス基板の両面に第一金属層41とこれに接合した第二金属層42とを設けたが、第一金属層41と第二金属層42はセラミックス基板の片面にだけ設けられてもよい。寸法や比率なども図示例に限られるものではなく、第二金属層42は第一金属層41よりも小さく形成されてもよい。
【実施例0040】
本発明の効果を確認すべく行った確認実験を行った。
(1)先ず、セラミックス基板の両面にアルミニウム板をろう材を介して積層し、積層方向に加圧した状態で加熱し、セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、それぞれ第一金属層を形成して、第一の接合体を製造した。
なお、一方の第一金属層にマスク印刷を行って塩化鉄によるエッチングを行った後、マスク除去を経て回路パターン間の距離が1.00mmの回路パターンを形成した。
(1―1)第一の接合体の材料
セラミックス基板 : Si(厚さ0.32mm)
アルミニウム板 : 4Nアルミニウム(厚さ0.4mm)
ろう材 : Al-7.5mass%Si合金からなるろう材箔(厚さ0.017mm)
(1-2)第一の接合体の製造条件
接合荷重 : 0.2MPa
加熱温度 : 650℃
保持時間 : 30分
接合雰囲気:真空
【0041】
(2)次に表1記載のテーパー面を有する銅板を、第一の接合体の一方の面の回路パターン状の第一金属層と他方の面の第一金属層とにそれぞれ前述した固相拡散接合によって接合して第二金属層を形成し、第二の接合体を作製した。
(2-1)接合に用いる銅板
銅板として、それぞれ無酸素銅から成る厚さ2.0mmの素板を成形し、周縁部の寸法にばらつきがある中から選んで試料として使用した。なお、試料1,2は実施形態で説明した第一の成形方法で作製したものであり、試料3~8は、試料1,2と異なり、シェービング加工を行わずに、それぞれ素板の一回の打ち抜きで成形したものである。試料3,4は実施形態で説明した第二の成形方法で作製したものである。なお、試料3,4ではクリアランスd3が0.01mmであり、試料5~8ではクリアランスd3が0.07mmである。成形された銅板において後述する測定方法により求められるテーパー面の幅寸法や深さ寸法を有する試料を用いた。
【0042】
(2-2)テーパー面の測定
各銅板に設けられるテーパー面の寸法を表面粗さ計(株式会社ミツトヨ製 SURFTEST SJ-410)で測定した。接触針の走査方向を銅板の内側領域から銅板の縁(壁面部)とし、内側領域内から周縁までの測定を行った。具体的には、銅板の縁から4mm入った位置が測定の始点であり、測定の終点は測定値がオーバーレンジに至るところである。換言すれば表面粗さ計の接触針が銅板の周縁から離れて針の高さの下点の限界値に至るまで測定した。図5は銅板の周縁領域において接触針の軌跡により描画される輪郭線を示すグラフ図であり、輪郭線からテーパー面の幅寸法や深さ寸法を算出した。
【0043】
なお、テーパー面の定義として、輪郭線にて表面基準線から下回る箇所をテーパー面の始点とし壁面部とつながる角を終点とし、バリの始点をテーパー面の終点とした。試料3~8であれば、バリの始点に代えて、壁面部とつながる角(図示省略)を終点とした。複数回の計測で得た値の平均値を幅寸法とし、表面基準線から輪郭線までの最大値をテーパー面の深さ寸法とした。
【0044】
(2-3)第二の接合体の製造条件
接合荷重 : 2.4MPa
加熱温度 : 533℃
保持時間 : 120分
接合雰囲気:真空
【0045】
(3)テーパー面の接合率評価
(3-1)評価方法
接合後の第一金属層と第二金属層との界面を、超音波探傷装置を用いて評価した。
評価方法として、以下の式(1)から接合率を算出した(初期接合)。
接合率(%)=[{(接合面積)-(剥離面積)}/(接合面積)]×100 (1)
ここで、接合面積は、第一金属層と第二金属層との界面で、銅板の縁(壁面部)から1mm内側までの領域を評価対象とした。超音波探傷の像(二値化した画像)から剥離している箇所が白色で示されることから、この白色箇所の総面積を剥離面積とした。なお、試料1~6の接合体については、300℃でのベーク後の接合率も算出した。
これらの結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
(3-2)評価
表1に示すように、試料1~試料6接合体では、何れも初期接合とベーク後で第二金属層の接合率が100%で良好であり、テーパー面における未接合部が存在せず、剥離が進展し難いことが確認できた。
図6(a)は試料1のSEM画像であり、第一金属層をAl、第二金属層をCuと表記している。第二金属層42が第一金属層41との間に隙間やクラックも無く接合されていることが分かる。
これに対して、試料7,8の接合体では、何れも第二金属層の接合率が91%~98%であり、テーパー面の未接合及び剥離を確認できた。
図6(b)は試料7のSEM画像であり、第二金属層42が第一金属層41との間にテーパー面でクラックが生じていると共に未接合の領域が残っていることがわかる。
【符号の説明】
【0048】
1 パワーモジュール用基板(接合体)
10 セラミックス基板
20 回路層
30 放熱層
41 第一金属層
41A アルミニウム板
42 第二金属層
42A 銅板
421 上面
421A 周縁領域(ダレ面)
421B,422B 内側領域
422 下面
422A 周縁領域(テーパー面)
423 壁面部
51,71 ダイ
53,73 パンチ
61 打ち抜き板
図1
図2
図3
図4
図5
図6