(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141990
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】保全重要度判定システム、保全重要度判定方法、及び、保全重要度判定プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20120101AFI20230928BHJP
【FI】
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048622
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】樫又 恒一
(72)【発明者】
【氏名】河野 尚幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】川村 寛典
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 宏
(72)【発明者】
【氏名】横内 滋
(72)【発明者】
【氏名】河合 宏紀
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC06
(57)【要約】
【課題】機能の低下時又は喪失時に、安全性又は経済性へ与える影響の大きい機器を特定する。
【解決手段】保全重要度判定システム1は、一連の機器で達成される各系統機能の原子力発電プラントへの影響度を示す影響度テーブル22、及び、系統機能が分解された要素機能の必要度を示す要素機能テーブル25を格納した記憶部57と、要素機能の必要度、及び、要素機能が属する系統機能の影響度を用いて、重要な要素機能を特定する要素機能特定部13と、要素機能特定部13が特定した重要な要素機能の達成に必要な機器を特定する機器特定部14とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一連の機器で達成される各系統機能による原子力発電プラントへの影響度を示す影響度テーブル、及び、前記系統機能が分解された要素機能の必要度を示す要素機能テーブルを格納した記憶部と、
前記要素機能の必要度、及び、当該要素機能が属する系統機能の影響度を用いて、重要な前記要素機能を特定する要素機能特定部と、
前記要素機能特定部が特定した重要な前記要素機能の達成に必要な機器を特定する機器特定部と、
を備えることを特徴とする保全重要度判定システム。
【請求項2】
前記機器特定部は更に、各前記系統機能に影響を与える機器を特定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の保全重要度判定システム。
【請求項3】
前記要素機能テーブルは、前記要素機能に対する必要度ランクを用いて作成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の保全重要度判定システム。
【請求項4】
前記影響度テーブルは、前記系統機能の前記原子力発電プラントへの影響度を、前記系統機能の低下又は喪失による影響として、「安全上の影響度」、「発電上の影響度」、「財産保護」、「環境及び人的災害への影響度」の観点のうち何れかを含んで定義されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の保全重要度判定システム。
【請求項5】
要素機能特定部が、一連の機器で達成される系統機能による原子力発電プラントへの影響度、及び、前記系統機能が分解された要素機能の必要度を用いて、重要な要素機能を特定するステップと、
機器特定部が、前記要素機能特定部が特定した重要な前記要素機能の達成に必要な機器を特定するステップと、
を備えることを特徴とする保全重要度判定方法。
【請求項6】
コンピュータに、
一連の機器で達成される系統機能による原子力発電プラントへの影響度、及び、前記系統機能が分解された要素機能の必要度を用いて、重要な要素機能を特定する手順、
特定した重要な前記要素機能の達成に必要な機器を特定する手順、
を実施させるための保全重要度判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保全重要度判定システム、保全重要度判定方法、及び、保全重要度判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力安全分野ではでは重大な事故事象である炉心損傷の発生頻度と発生時の影響を定量評価し、その積である「リスク」として評価する確率論的リスク評価(PRA: Probabilistic Risk Assessment)が知られている。
【0003】
電力供給事業者が電力利用者への廉価で安定的、継続的な電力供給を行うため、炉心損傷に限らず発電所の安全性又は/及び経済性を向上させ、高リスク事象の発生確率や与える影響(リスク)を小さくする必要がある。このため限られたリソースの中でより有効な安全性又は/及び経済性の向上が期待できる手法が求められている。
【0004】
特許文献1には、プラント設計・運用情報とリスク情報を入力し、プラント設備・機器の重要度を評価し、プラント設備・機器の重要度ランク情報を出力する機器重要度評価支援システム11と、前記プラント設計・運用情報とリスク情報を入力してオンラインメンテナンス実施可否を判定し、オンラインメンテナンス実施可否情報を出力するリスク情報評価システム12とを備える発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発電所で使用される機器に対する機能の低下又は喪失によるリスクを整理し、リスクの大きいものから重点的に保全を行うことが安全性又は経済性の維持及び向上により有効である。しかし、事象の発生頻度の解析には膨大な工数が必要となるため、発電所に設置されるすべての機器に対して事象の発生頻度を解析して機器を特定することは、短期的にみると現実的でない。
【0007】
そこで、本発明は、機能の低下時又は喪失時に、安全性又は経済性へ与える影響の大きい機器を特定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するため、本発明の保全重要度判定システムは、一連の機器で達成される各系統機能による原子力発電プラントへの影響度を示す影響度テーブル、及び、前記系統機能が分解された要素機能の必要度を示す要素機能テーブルを格納した記憶部と、前記要素機能の必要度、及び、当該要素機能が属する系統機能の影響度を用いて、重要な前記要素機能を特定する要素機能特定部と、前記要素機能特定部が特定した重要な前記要素機能の達成に必要な機器を特定する機器特定部と、を備える。
【0009】
本発明の保全重要度判定方法は、要素機能特定部が、一連の機器で達成される系統機能による原子力発電プラントへの影響度、及び、前記系統機能が分解された要素機能の必要度を用いて、重要な要素機能を特定するステップと、機器特定部が、前記要素機能特定部が特定した重要な前記要素機能の達成に必要な機器を特定するステップと、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の保全重要度判定プログラムは、コンピュータに、一連の機器で達成される系統機能による原子力発電プラントへの影響度、及び、前記系統機能が分解された要素機能の必要度を用いて、重要な要素機能を特定する手順、特定した重要な前記要素機能の達成に必要な機器を特定する手順、を実施させる。
その他の手段については、発明を実施するための形態のなかで説明する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、機能の低下時又は喪失時に、安全性又は経済性へ与える影響の大きい機器を特定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る保全重要度判定システムの構成図である。
【
図2】保全重要度判定システムを構成するサーバのハードウェア構成図である。
【
図3】原子力発電プラントの系統を分解した機能とそれを実現する機器を説明する図である。
【
図4】保全重要度判定処理のフローチャートである。
【
図7】系統機能の影響度評価方法を決定する処理のフローチャートである。
【
図9】必要度ランクテーブルを生成する処理のフローチャートである。
【
図12】系統機能に影響を与える機器と要素機能との対応を示す機器テーブルを説明する図である。
【
図13】系統機能に影響を与える機器及び系統監視パラメータと要素機能との対応を示す機器テーブルを説明する図である。
【
図14】系統機能に影響を与える機器を特定するテーブルを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以降、本発明を実施するための形態を、各図を参照して詳細に説明する。本発明は、以下のPDCA(Plan Do Check Action)サイクルが前提となる。なお、本実施形態では、設備、機器、部品を統一して「機器」として記載している。
PDCAサイクルの第1工程は、リソース投入計画の作成である。この工程にて、計画者は、保全重要度による評価結果をもとに、安全性又は/及び経済性の維持及び向上の為のリソース投入計画を作成する。ここで計画者は、保全重要度が高い機器から重点的に保全の実施及び高度化の計画を策定する。そして計画者は、保全重要度が低い機器を、この機器の分解点検など従来の保全工数の低減に適用可能である。
【0014】
PDCAサイクルの第2工程は、リソース投入計画の実施である。これは、安全性と経済性を維持して、向上させるためのものであり、プラントの管理者は、原子力発電所の安全性と経済性を維持及び向上させる施策を実施する。具体的にいうと、原子力発電所の安全性と経済性を維持向上させる施策とは、系統又は機器の点検、試験、検査、及び運転中の巡視などの管理に加え、機器の故障確率解析、機器の機能の低下又は喪失の予兆診断、劣化診断や性能監視による保全の高度化である。
【0015】
PDCAサイクルの第3工程は、リソース投入計画の実施効果の確認である。この第3工程にて、プラントの管理者は、安全性と経済性を維持及び向上させる施策の効果を定量化し、解析の結果として機器の性能の低下又は喪失によるリスクが大きかったか否かを確認する。そして、プラントの管理者は、評価結果をフィードバックする。
【0016】
第3工程の例は、例えば機器の故障確率を解析する工程である。プラントの管理者は、リスク情報に基づき、保全タスクを適正化させ、故障確率を減少させる。プラントの管理者は更に、系統及び機器の性能及び機能の傾向を監視して、系統及び機器の状態を診断する。これにより、機器の状態が良好なものに関しては、その保全周期を延ばすことができる。よって機器の所定の性能、機能を維持しつつ、プラント全体の保全コストを低減させることができる。更に機器の状態が悪化しているものに関しては、その保全周期を短縮することで、プラント全体を好適に保全することができる。
PDCAサイクルの第4工程は、実施情報とプラント運転情報を蓄積させる工程と、本発明による機器の重要度を評価する工程である。この第4工程が終了すると、再び次の第1工程を実行する。
【0017】
本分析手法は、機能の低下時又は喪失時に、安全性又は/及び経済性へ与える影響の大きい機器を、高いリスクを持つ可能性のある機器として特定するものである。
本分析手法では、機器評価情報を、対象機器の管理、リスク解析、既設機器のセンシング又はその性能監視、劣化診断等の実施計画のインプット情報とする。また本分析手法では、評価範囲を広げることで低リスク機器の抽出も可能であり、保全の最適化等のインプット情報として活用可能である。
【0018】
図1は、本実施形態に係る保全重要度判定システム1の構成図である。
保全重要度判定システム1は、
図2のサーバ5を含んで構成され、要素機能特定部13、機器特定部14と、記憶部57を備えている。また、保全重要度判定システム1は、その記憶部57に、影響度ランクテーブル21、影響度テーブル22、必要度ランクテーブル23、必要度定義テーブル24、要素機能テーブル25をそれぞれ格納している。保全重要度判定システム1は、機能の低下時又は喪失時に、安全性又は経済性へ与える影響の大きい機器を抽出する。
【0019】
要素機能特定部13は、要素機能の必要度、及び、この要素機能が属する系統機能の影響度を用いて、重要な要素機能を特定する。
機器特定部14は、要素機能特定部13が特定した重要な要素機能の達成に必要な機器を特定する。機器特定部14は更に、各系統機能に影響を与える機器を特定する。
【0020】
影響度ランクテーブル21は、一連の機器で達成される系統機能の原子力発電プラントの機能への影響度を定義したテーブルであり、後記する
図5で詳細に説明する。
影響度テーブル22は、一連の機器で達成される各系統機能の原子力発電プラントへの影響度を示すものであり、後記する
図7で詳細に説明する。この影響度テーブル22は、系統機能の原子力発電プラントへの影響度を、系統機能の低下又は喪失による影響として、「安全上の影響度」、「発電上の影響度」、「財産保護」、「環境及び人的災害への影響度」の観点のうち何れかを含んで定義されている。
【0021】
必要度ランクテーブル23は、必要度のランクを定義したテーブルであり、後記する
図8で詳細に説明する。
必要度定義テーブル24は、要素機能の必要度を定義したテーブルであり、後記する
図10で詳細に説明する。
【0022】
要素機能テーブル25は、系統機能を分解した要素機能とその必要度を含むテーブルであり、後記する
図11で詳細に説明する。この要素機能テーブル25は、必要度ランクテーブル23を用いて作成される。
【0023】
機器テーブル26は、要素機能とその達成に必要な機器の対応を示すテーブルであり、後記する
図12で詳細に説明する。
【0024】
図2は、保全重要度判定システム1を構成するサーバ5のハードウェア構成図である。
サーバ5は、例えば、データセンタに設置されたコンピュータである。サーバ5は、CPU(Central Processing Unit)51、記憶部57、ROM(Read Only Memory)52、RAM(Random Access Memory)53、操作部54、表示部55及び通信部56を含んで構成される。
【0025】
CPU51は、中央処理装置であり、記憶部57に格納されたプログラム571を実行する。プログラム571は、CPU51によって実行されて、
図4に示す各処理を実行するプログラムである。
CPU61は、プログラム571を実行することにより、
図1に示した各機能部を具現化する。
【0026】
記憶部57は、大容量の記憶装置であり、例えば、ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどで構成される。
【0027】
RAM53は揮発性メモリであり、CPU51で実行可能な各種プログラム、入力データ、出力データ、及びパラメータ等を一時的に記憶するワークエリアとして機能する。ROM52は不揮発性メモリであり、例えばBIOS(Basic I/O System)などが格納されている。
【0028】
操作部54は、カーソルキー、数字入力キー、及び各種機能キーなどを備えたキーボードと、マウスなどのポインティングデバイスを備えて構成される。操作部54は、キーボードで押下操作されたキーの押下信号やマウスによる操作信号を検知する。CPU51は、操作部54からの操作信号に基づいて、各種処理を実行する。
【0029】
表示部55は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)等のモニタディスプレイを備えて構成される。表示部55は、CPU51から入力される表示信号により各種画面を表示する。また、表示部55、及び操作部54は、タッチパネルディスプレイを採用することもできる。
【0030】
図3は、原子力発電プラントの系統を分解した機能とそれを実現する機器を説明する図である。
原子力発電プラントには、或る機能に係る一連の機器からなる系統3と、系統3の機器で達成される系統機能31~33が含まれる。原子力発電プラントの機能には、健全性、安全性及び発電能力などが含まれる。系統機能31~33は、原子力発電プラントの機能の達成に必要な各系統の持つ機能のことをいう。
【0031】
系統3とは、例えば原子炉冷却系統、計測制御系統などである。系統3が原子炉冷却系統の場合、系統機能31~33とは、例えば主蒸気隔離機能、高圧炉心スプレイ機能、低圧炉心スプレイ機能、原子炉補機冷却機能などである。
【0032】
系統3が計測制御系統の場合、系統機能31~33とは、例えば系統機能、制御棒駆動機能、ほう酸水注入機能、原子炉保護系インターロック機能などである。ここでは系統機能31は、影響度が所定レベルを超えているため、ハッチングで強調表示している。
【0033】
系統機能31に属する要素機能311~313は、系統機能31を各要素に分解した機能であり、例えば耐圧、送水・通気、流路構成、熱交換、浄化、計測、制御である。要素機能311~313は、系統機能31の達成に必要な機能である。ここで要素機能311,312は、必要度が所定レベルを超えているため、ハッチングで強調表示している。
【0034】
機器3111~3131は、各要素機能311~313を支える機器である。機器3111~3131は、要素機能311,312の発揮に関係する機器であるため、ハッチングで強調表示している。
系統機能32に属する要素機能321,322は、系統機能32を各要素に分解した機能である。機器3211は、要素機能321,322の発揮に関係するものである。系統機能33に属する要素機能331,332は、系統機能33を各要素に分解した機能である。
【0035】
図4は、保全重要度判定処理のフローチャートである。
機能の低下時又は喪失時に、安全性又は経済性へ与える影響の大きい機器を評価するため、各系統が持つ系統機能、系統機能の要素機能、要素機能の発揮に関係する機器へと分解する。
【0036】
最初、原子力発電プラントの管理者は、各影響度と必要度の評価手法を定義する(ステップS11)。そして、管理者は、各系統機能の影響度を決定し(ステップS12)、系統機能に関連する要素機能を抽出する(ステップS13)。管理者は、要素機能の必要度を評価する(ステップS14)。
【0037】
保全重要度判定システム1の要素機能特定部13は、原子力発電プラントの機能への系統機能の影響度と、要素機能の必要度により、重要な要素機能を特定する(ステップS15)。そして、保全重要度判定システム1の機器特定部14は、重要な要素機能に大きな影響を与える機器を特定し(ステップS16)、系統機能に大きな影響を与える機器を特定すると(ステップS17)、
図4の保全重要度判定処理を終了する。これにより、保全重要度判定システム1は、要素機能の原子力発電プラントの機能への影響の大きさを重要度として評価する。つまり保全重要度判定システム1は、要素と影響の評価により、優先的に安全性の向上を行うべき機器の抽出を支援する。
【0038】
図5は、影響度ランクテーブル21を説明する図である。
影響度ランクテーブル21は、系統機能の原子力発電プラントの機能への影響度を定義したテーブルである。影響度ランク欄は、影響度のランクであるA~Dを格納する欄である。この影響度ランクテーブル21の各行は、影響度の大きい順に配置されている。
影響度(1)欄から影響度(3)欄は、各系統機能31~33の影響度の定義をそれぞれ格納する欄である。
【0039】
図6は、系統機能の影響度評価方法を決定する処理のフローチャートである。
この原子力発電プラントの管理者は、系統機能が損なわれた場合にプラント機能へ与える影響を項目とし整理する(ステップS21)。そして、管理者は、項目ごとに影響度を定義する(ステップS22)。ここで管理者は、系統機能に対する最大の影響と最小の影響、その他中間程度の影響も影響度の大きさとして区別可能な範囲で定義する。管理者は、各項目の影響度の定義にランクを付けて(ステップS23)、影響度ランクテーブル21にて整理された影響項目から系統機能の影響度評価方法を決定すると(ステップS24)、
図6の処理を終了する。
【0040】
図7は、影響度テーブル22を説明する図である。
図7では、系統機能の影響度評価を影響度ランクとして数値化し、該当する最も大きな値を影響度として評価している。評価の範囲が系統全体から系統機能ごととなる。本実施形態では、各系統機能を影響度テーブル22のような定義とランク付けによる影響度決定表で影響度を決定する。
【0041】
安全上の影響度欄のうち影響度4は、安全重要度分類におけるクラス1の機器もしくはSA機器(安全対策機器)を含むものである。影響度3は、安全重要度分類におけるクラス2の以下の機器で構成されるものである。影響度2は、安全重要度分類におけるクラス3の以下の機器で構成されるものである。影響度1は、安全重要度分類におけるノンクラスの機器で構成されるものである。
【0042】
発電上の影響度欄のうち影響度4は、発電停止に至る可能性があるものである。影響度3は、発電出力の変動を引き起こす可能性があるものである。影響度2は、発電機出力に影響しないが、一部の機能的運転制限が必要となる可能性があるものである。影響度1は、発電上の影響なしのものである。
【0043】
財産保護の影響度欄のうち影響度3は、復旧において、複数の機器の交換・修復が伴うなど大規模な工事が必要となる可能性がある機器である。影響度2は、復旧において、機器単位での交換・修復等が必要となる可能性がある機器である。影響度1は、復旧において、部品単位での交換、補修が必要となる可能性がある機器である。
【0044】
環境・人的災害への影響度欄のうち影響度4は、環境汚染、又は従業員の生命にかかわる安全に影響する可能性がある機器である。影響度3は、環境汚染、又は従業員の安全に影響する可能性がある機器である。影響度2は、上記以外で軽微な環境汚染等の影響を及ぼす可能性がある機器である。
【0045】
上記の影響度の点の付け方や定義の境界など決め方は、ランク階層の最大値を取っている。しかし、これに限られず、各セルのランクの和を影響度としてもよい。
【0046】
図8は、必要度ランクテーブル23を説明する図である。この必要度ランクテーブル23は、系統機能を発揮する為の要素機能の必要度のランクが定義されたテーブルである。必要度ランク欄には、必要度のランクが格納されており、ここではAからDまでの必要度のランクが格納されている。必要度ランクがAのとき、最大の必要度である。必要度ランクがDのとき、最小の必要度である。定義欄には、これら必要度ランクに対応する定義が格納されている。
【0047】
図9は、必要度ランクテーブル23を生成する処理のフローチャートである。
この原子力発電プラントの管理者は、各項目に各項目に対して必要度を定義する(ステップS31)。そして管理者は、必要度の定義にランクを付けると(ステップS32)、
図9の処理を終了する。
【0048】
図10は、必要度定義テーブル24を説明する図である。この必要度定義テーブル24は、系統機能を発揮する為の要素機能の必要度を定義した例である。
要求機能を達成するために必須な要素機能は、必要度が5である。
【0049】
要求機能を達成するために必要な要素機能だが、その要素機能の低下又は喪失が要求機能に大きく影響しないものは、必要度が2である。要求機能を達成するために必須な要素機能ではないが、ベターメントでは確保されていた方が良いものは、必要度が2である。
【0050】
要求機能を達成するために必要な要素機能だが、要素機能の低下又は喪失が起こりにくいものは、必要度が1である。要求機能の達成に必要ではない要素機能は、必要度が0である。
【0051】
図11は、要素機能テーブル25を説明する図である。
ANSI/ANS-58.14 Appendix D "Typical Componet Functions" では、コンポーネント又は部品の安全関連の分類の決定時に評価する必要がある典型的な機能として25種類が示されている。この25種の機能を、系統機能を分解するための要素機能とする。しかし、これに限られず、この25種の機能を参考として、系統機能を要素機能へと分解してもよい。このとき、機器重要度判定システム1は、系統機能の影響度によって、要素機能の粒度を適切に設定する。
【0052】
前述した影響度ランクテーブル21(
図5参照)を作成する際、何を目的としているかという観点で要素機能を適切に選択する。機器の重要度を評価する際、どの様に系統機能へ与えるかという観点により、要素機能の粒度が決定される。
本実施形態の要素機能テーブル25では、ANSI/ANS-58.14 Appendix D "Typical Componet Functions"を参考にして、各系統が共通的に有する要素機能に分類している。
【0053】
ここでは、要素機能を、耐圧と、送水・通気と、流路構成と、熱交換と、浄化と、計測と、制御の7種類に分類している。耐圧とは、内包する流体を保持して流出しないようにする機能である。送水・通気とは、流体に圧力を加えて送り出す機能である。流路構成は、流体を必要な流量で通すか、又は遮断する機能である。熱交換とは、流体の冷却又は加熱を行う機能である。浄化とは、流体中の不純物を除去する機能である。計測とは、プロセス量を計測して信号を送信したり、又は直接指示する機能である。制御とは、プロセス量の制御を行う機能である。
【0054】
図12は、系統機能に影響を与える機器と要素機能との対応を示す機器テーブル26を説明する図である。
この機器テーブル26は、各行に系統機能に影響を与える機器が示され、各列に要素機能が示されている。そして、各行列には、要素機能の達成に必要な機器が示されている。行列に「○」が示されているとき、その機器が要素機能の達成に必要であることを示している。行列に「×」が示されているとき、その機器が要素機能の達成に不要であることを示している。
【0055】
図13は、系統機能に影響を与える機器及び系統監視パラメータと要素機能との対応が登録された機器テーブル27を説明する図である。
原子力発電プラントの安定性を確認・確保する手段としては、機器単体での事象変化だけではなく、どのようなパラメータ変化が起こり得るかを把握し監視することも有効である。一例として要素機能毎の変化によりに変動しうる系統の監視パラメータを抽出した。
【0056】
この機器テーブル27には、各行に系統機能に影響を与える機器と系統監視パラメータが示され、各列に要素機能が示されている。そして、各行列には、要素機能の達成に必要な機器、及び要素機能の監視に必要な系統監視パラメータが示されている。行列に「○」が示されているとき、その機器又は系統監視パラメータが要素機能の達成又は監視に必要であることを示している。行列に「×」が示されているとき、その機器又は系統監視パラメータが要素機能の達成又は監視に不要であることを示している。
【0057】
図14は、系統機能に影響を与える機器を特定して、その重要度を算出するテーブル28を説明する図である。
テーブル28の各行は、要素機能を示している。テーブル28の各列には、或る系統機能である系統機能31と、系統監視パラメータと、系統機能に影響を与える機器とが並んでいる。この系統機能31の影響度は、4点である。要素機能である耐圧の必要度は5点である。そして、系統機能31を分解した要素機能である耐圧の評価は、系統機能31の影響度に耐圧の必要度を乗算した20点である。
【0058】
系統機能31に影響を与え、かつ耐圧の要素機能を達成する機器は、ポンプ、圧縮機・送排風機、熱交換器、ろ過脱塩器フィルタ、配管である。よって、これらの機器には、少なくとも20点の評価点が付与される。この評価点とは、これら機器の重要度を示すものである。
【0059】
要素機能である送水・通気の必要度は5点である。そして、系統機能31を分解した要素機能である送水・通気の評価は、系統機能31の影響度に送水・通気の必要度を乗算した20点である。系統機能31に影響を与え、かつ送水・通気の要素機能を達成する機器は、ポンプ、圧縮機・送排風機である。よって、これらの機器には、少なくとも20点の評価点が付与される。
【0060】
要素機能である制御の必要度は2点である。そして、系統機能31を分解した要素機能である制御の評価は、系統機能31の影響度に制御の必要度を乗算した8点である。系統機能31に影響を与え、かつ制御の要素機能を達成する機器は、例示された中には存在しない。
【0061】
このように系統機能の影響度と、要素機能の必要度から、要素機能の重要度の評価点が算出される。ここでは、要素機能ごとに、その要素機能を達成するために必要な機器としが整理されている。そのため、機器によって達成される要素機能に重複がある場合、その機器の重要度は、対応する要素機能の重要度の最大値又は合計値で算出される。このようにして、重要な要素機能の達成に必要な機器及び要素機能の監視パラメータが整理されて、系統機能への影響が特定される。
【0062】
原子力発電プラントの管理者は、各要素機能の重要度と各機器の重要度の評価結果をリソース投入計画等へのインプット情報とすることができる。
【0063】
(変形例)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば上記した実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0064】
上記の各構成、機能、処理部、処理手段などは、それらの一部又は全部を、例えば集積回路などのハードウェアで実現してもよい。上記の各構成、機能などは、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈して実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイルなどの情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)などの記録装置、又は、フラッシュメモリカード、DVD(Digital Versatile Disk)などの記録媒体に置くことができる。
【0065】
各実施形態に於いて、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 機器重要度判定システム
13 要素機能特定部
14 機器特定部
21 影響度ランクテーブル
22 影響度テーブル
23 必要度ランクテーブル
24 必要度定義テーブル
25 要素機能テーブル
26,27 機器テーブル
28 テーブル
3 系統
31~33 系統機能
311~313 要素機能
321,322 要素機能
331,332 要素機能
3111 機器
3121 機器
3131 機器
3211 機器
5 サーバ
51 CPU
52 ROM
53 RAM
54 操作部
55 表示部
56 通信部
57 記憶部
571 プログラム