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特開2023-14203キャリア注入量制御電極を有する有機エレクトロルミネセンス素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014203
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】キャリア注入量制御電極を有する有機エレクトロルミネセンス素子
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/16 20230101AFI20230119BHJP
   H10K 50/828 20230101ALI20230119BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20230119BHJP
   H05B 33/22 20060101ALI20230119BHJP
   H10K 59/122 20230101ALI20230119BHJP
   H10K 59/124 20230101ALI20230119BHJP
   H10K 50/17 20230101ALI20230119BHJP
   H10K 50/818 20230101ALI20230119BHJP
   H10K 50/822 20230101ALI20230119BHJP
   H10K 50/805 20230101ALI20230119BHJP
【FI】
H10K50/16
H10K50/828
H05B33/12 B
H05B33/22 Z
H10K59/122
H10K59/124
H10K50/17
H10K50/818
H10K50/822
H10K50/805
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190674
(22)【出願日】2022-11-29
(62)【分割の表示】P 2018162568の分割
【原出願日】2018-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】501232056
【氏名又は名称】三国電子有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】田中 栄
(57)【要約】
【課題】発光層に注入される異なる極性のキャリアの量を、外部回路によって個々に独立して制御することができないという問題がある。さらに、発光領域の位置を制御することができないという問題がある。
【解決手段】有機エレクトロルミネセンス素子は、第1電極と、第1電極と対向する領域を有する第3電極と、第1電極と第3電極との間の第1絶縁層と、第1絶縁層と第3電極との間の第2絶縁層と、第1絶縁層と第3電極との間の電子輸送層と、電子輸送層と第3電極との間の有機エレクトロルミネセンス材料を含む発光層と、第1絶縁層と第2絶縁層との間に配置され、電子輸送層と電気的に接続される第2電極と、を有する。第2絶縁層は開口部を有し、その開口部において、第3電極、発光層、電子輸送層、第1絶縁層、及び第1電極が重なる重畳領域を有し、第2電極は重畳領域の外側に配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア注入量制御電極と、
前記キャリア注入量制御電極に対向する陽極と、
前記キャリア注入量制御電極と前記陽極との間に設けられ、前記キャリア注入量制御電極と重なる電子輸送層と、
前記電子輸送層と前記陽極との間の有機エレクトロルミネセンス材料を含む発光層と、
前記電子輸送層に隣接する陰極と、
前記キャリア注入量制御電極と前記電子輸送層との間の第1絶縁層と、
を含む有機エレクトロルミネセンス素子と、
第1ゲート電極と、
前記第1ゲート電極と重なる第2ゲート電極と、
前記第1ゲート電極と前記第2ゲート電極との間の酸化物半導体層と、
前記第1ゲート電極と前記酸化物半導体層との間の前記第1絶縁層と、
前記酸化物半導体層と前記第2ゲート電極との間の第2絶縁層と、
を含むトランジスタと、
を有し、
前記電子輸送層は、前記第1絶縁層と接する第1電子輸送層と、前記第1電子輸送層と前記発光層との間の第2電子輸送層と、を含み、
前記第1電子輸送層、前記陰極、前記酸化物半導体層が同じ層で形成されている、
ことを特徴とする表示装置。
【請求項2】
前記第1電子輸送層及び前記酸化物半導体層が、同じ酸化物半導体材料で形成されている、請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記第1電子輸送層、前記陰極、前記酸化物半導体層が、同じ酸化物半導体材料で形成されている、請求項1に記載の表示装置。
【請求項4】
前記第1電子輸送層及び前記酸化物半導体層が、連続する酸化物半導体膜で形成されている、請求項1に記載の表示装置。
【請求項5】
前記第1電子輸送層、前記陰極、前記酸化物半導体層が、連続する酸化物半導体膜で形成されている、請求項1に記載の表示装置。
【請求項6】
前記陰極が、前記酸化物半導体膜の中で、前記第1電子輸送層と前記酸化物半導体層との間に設けられている、請求項5に記載の表示装置。
【請求項7】
前記陰極が前記第1電子輸送層を囲む、請求項5に記載の表示装置。
【請求項8】
前記キャリア注入量制御電極と前記第1ゲート電極とが同じ層に設けられている、請求項1に記載の表示装置。
【請求項9】
前記酸化物半導体層が前記第1ゲート電極及び前記第2ゲート電極と重なる領域のキャリア濃度が1×1014~5×1018/cmである、請求項1に記載の表示装置。
【請求項10】
前記陰極のキャリア濃度が1×1019~5×1021/cmである、請求項1に記載の表示装置。
【請求項11】
前記第1電子輸送層のキャリア移動度が10cm/V・sec以上である、請求項1に記載の表示装置。
【請求項12】
前記第1電子輸送層のキャリア濃度が前記第2電子輸送層のキャリア濃度より高い、請求項1に記載の表示装置。
【請求項13】
前記第1電子輸送層のキャリア移動度が前記第2電子輸送層のキャリア移動度より高い、請求項1に記載の表示装置。
【請求項14】
前記第1絶縁層と前記第2絶縁層とが前記酸化物半導体膜を挟み、
前記第2絶縁層は、前記電子輸送層を露出させる開口部を有する、請求項4又は5に記載の表示装置。
【請求項15】
前記キャリア注入量制御電極が透明導電膜で形成され、前記有機エレクトロルミネセンス素子が前記キャリア注入量制御電極の側に光を出射する、請求項1に記載の表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、有機エレクトロルミネセンス材料を用いた有機エレクトロルミネセンス素子(以下、「有機EL素子」ともいう。)の素子構造に関する。本明細書で開示される発明の一実施形態は、発光層へのキャリア注入量を制御する電極を有する有機エレクトロルミネセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、陽極及び陰極と呼ばれる一対の電極を有し、この一対の電極間に発光層が配置された構造を有する。有機EL素子は2端子型の素子を基本構造とするが、さらに、第3の電極が付加された3端子型の有機EL素子が開示されている。
【0003】
例えば、陽極と、発光材料層と呼ばれる有機エレクトロルミネセンス材料で形成される層と、陰極と、陰極及び発光材料層に対して絶縁層を介して補助電極が設けられた有機EL素子が開示されている(特許文献1参照)。また、陽極と陰極との間に、陽極側から正孔注入層、キャリア分散層、正孔輸送層、発光層が積層された構造を有し、陽極に対し絶縁膜を介して補助電極が設けられた発光型トランジスタが開示されている(特許文献2参照)。
【0004】
また、補助電極と、補助電極上に設けられた絶縁膜と、絶縁膜上に所定の大きさで設けられた第1電極と、第1電極上の電荷注入抑制層と、第1電極が設けられていない絶縁膜上に設けられた電荷注入層と、電荷注入抑制層及び電荷注入層上又は電荷注入層上に設けられた発光層と、発光層上に設けられた第2電極とを有するように構成された有機発光トランジスタ素子が開示されている(特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-343578号公報
【特許文献2】国際公開第2007/043697号
【特許文献3】特開2007-149922号公報
【特許文献4】特開2007-157871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で開示された有機EL素子は、発光材料層における電子移動度が低いため、陰極からの電子注入量は陽極と陰極との間の電位差でほぼ決まってしまい、補助電極から印加されるバイアス電圧はキャリア注入にほとんど影響を与えないという問題がある。発光材料層は電子移動度が低く高抵抗であるため、発光材料層への電子の注入はもっぱら陰極近傍に集中してしまい、補助電極に印加されるバイアス電圧は電子の注入量に影響を与えないという問題がある。
【0007】
特許文献2に記載の発光型トランジスタは、補助電極が発光/非発光の状態を制御するため、発光層に注入される異なる極性のキャリア(電子、正孔)の量を、外部回路を使用しても個々に独立して制御することができないという問題がある。さらに、特許文献1に記載の発光型トランジスタは、発光層内で電子と正孔が再結合する領域、すなわち発光領域の位置を制御することができないという問題がある。また、特許文献3、4に記載の有機発光トランジスタ素子では、有機材料で形成される電子輸送層のキャリア(電子)移動度が低いため、表示パネルの大画面化と高精細化を実現できないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネセンス素子は、第1電極と、第1電極と対向する領域を有する第3電極と、第1電極と第3電極との間の第1絶縁層と、第1絶縁層と第3電極との間の第2絶縁層と、第1絶縁層と第3電極との間の電子輸送層と、電子輸送層と第3電極との間の有機エレクトロルミネセンス材料を含む発光層と、第1絶縁層と第2絶縁層との間に配置され電子輸送層と電気的に接続される第2電極と、を有する。第2絶縁層は開口部を有し、その開口部において、第3電極、発光層、電子輸送層、第1絶縁層、及び第1電極が重なる重畳領域を有し、第2電極は、重畳領域の外側に配置されている。
【0009】
本発明の一実施形態において、有機エレクトロルミネセンス素子を構成する電子輸送層は、透光性を有する金属酸化物、例えば、n型酸化物半導体で形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、有機エレクトロルミネセンス素子において、絶縁層を介して電子輸送層と重なる第3の電極を設けることで、発光層へのキャリア注入量を制御することができる。この場合において、有機エレクトロルミネセンス素子の電子輸送層をn型酸化物半導体で形成することで、キャリアの輸送特性を改善し、均一な発光を得ることができる。
【0011】
本発明の一実施形態に係る有機エレクトロルミネセンス素子は、発光層へのキャリア注入量を制御する電極を設けることで、正孔と電子のキャリアバランスを制御することができ、発光効率を向上させ、寿命時間を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の構造を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の構造を示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の動作を説明する図である。
図4】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の動作を説明する図である。
図5】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の動作を説明する図である。
図6】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の動作特性の一例を説明するグラフを示す。
図7】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の作製方法を説明する図である。
図8】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の作製方法を説明する図である。
図9】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の作製方法を説明する図である。
図10】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の構造を示す断面図である。
図11】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の構造を示す断面図である。
図12】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の構造を示す断面図である。
図13】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の構造を示す断面図である。
図14】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の構造を示す断面図である。
図15】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の構造を示す断面図である。
図16】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の構造を示す断面図である。
図17】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の構造を示す断面図である。
図18】本発明の一実施形態に係る有機EL素子を含む表示装置における画素回路の一例を示す図である。
図19】本発明の一実施形態に係る有機EL素子を含む表示装置における画素の等価回路の一例を示す図である。
図20】本発明の一実施形態に係る有機EL素子を用いた表示装置における画素の構成を示す平面図である。
図21】本発明の一実施形態に係る有機EL素子を用いた表示装置における画素の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図面等を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様を含み、以下に例示する実施形態に限定して解釈されるものではない。本明細書に添付される図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、それはあくまで一例であって、本発明の内容を必ずしも限定するものではない。また、本発明において、ある図面に記載された特定の要素と、他の図面に記載された特定の要素とが同一又は対応する関係にあるときは、同一の符号(又は符号として記載された数字の後にa、bなどを付した符号)を付して、繰り返しの説明を適宜省略することがある。さらに各要素に対する「第1」、「第2」と付記された文字は、各要素を区別するために用いられる便宜的な標識であり、特段の説明がない限りそれ以上の意味を有さない。
【0014】
本明細書において、ある部材又は領域が他の部材又は領域の「上に(又は下に)」あるとする場合、特段の限定がない限りこれは他の部材又は領域の直上(又は直下)にある場合のみでなく他の部材又は領域の上方(又は下方)にある場合を含む。すなわち、他の部材又は領域の上方(又は下方)においてある部材又は領域との間に別の構成要素が含まれている場合も含む。
【0015】
第1の実施形態:
1.有機EL素子の構造
有機EL素子の構造は光の出射方向に基づいて、基板を通して光を出射するボトムエミッション型と、基板とは反対側に光を出射するトップエミッション型に分類される。また、有機EL素子の構造は製造工程における積層順に基づいて、基板側から陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極の順に積層された順積み構造と、その逆の順に積層された逆積み構造に分類される。本実施形態に係る有機EL素子は、逆積み構造に分類され、ボトムエミッション型及びトップエミッション型の双方に適用することができる。
【0016】
1-1.ボトムエミッション型有機EL素子
図1は、本発明の一実施形態に係る有機EL素子200aの断面構造を示す。図1に示す有機EL素子200aは、ボトムエミッション型であり、逆積み構造を有する。すなわち、有機EL素子200aは、基板100側から、第1電極102、第1絶縁層104、電子輸送層106(第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b)、発光層112、第3電極118が積層された構造を有する。
【0017】
図1は、さらに発光層112と第3電極118との間に正孔輸送層114及び正孔注入層116が配置された構成を示す。有機EL素子200aは、正孔注入層116及び正孔輸送層114の一方が省略されてもよいし、正孔注入及び正孔輸送の双方の機能を兼ね備えた正孔注入輸送層で置換えられてもよい。また、図1には示されないが、電子注入層110と発光層112との間に正孔ブロック層が配置されていてもよいし、発光層112と正孔輸送層114との間に電子ブロック層が配置されていてもよい。
【0018】
図1に示す有機EL素子200aは、第1電極102、第1絶縁層104、電子輸送層106(第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b)、電子注入層110、発光層112、及び第3電極118が縦方向に重なって配置されている。一方、第2電極108は、これらの層が重なる領域(重畳領域)の外側に配置され、かつ第1電子輸送層106aと電気的に接続されるように配置される。第2電極108は、第1電子輸送層106aの少なくとも一部と接するように設けられる。例えば、第2電極108は、第1電子輸送層106aの周囲を囲むように設けられていてもよい。
【0019】
図1において、第3電極118は正孔注入層116に正孔を注入する機能を有し、「陽極」又は「アノード」とも呼ばれる電極である。第2電極108は電子輸送層106に電子を注入する機能を有し、「陰極」又は「カソード」とも呼ばれる電極である。第1電極102は、発光層112へのキャリア(電子)注入量を制御する機能を有し、「キャリア注入量制御電極」とも呼ばれる。
【0020】
有機EL素子200aは、電子輸送層106が、第1電子輸送層106a及び第2電子輸送層106bの、区別される2つの層で示される。電子輸送層106の詳細は後述されるが、第1電子輸送層106aと第2電子輸送層106bとは、第2電極108から注入された電子を発光層112へ輸送する機能において共通する。一方、第2電極108と接する第1電子輸送層106aと、発光層112に近い側に配置される第2電子輸送層106bとでは、電子濃度及び電子移動度が異なっている。例えば、第2電子輸送層106bのキャリア濃度(電子濃度)は、キャリアの失活を防ぐために、第1電子輸送層106aのキャリア濃度(電子濃度)に対して相対的に低いことが好ましい。
【0021】
なお、有機EL素子200aにおいて、第2電子輸送層106bは省略されてもよい。また、第1電子輸送層106a及び第2電子輸送層106bは、第2電極108から注入された電子を発光層112へ輸送するという共通する機能から、一つの層としてみなすこともできる。
【0022】
有機EL素子200aは、第1電子輸送層106aと第2電子輸送層106bとの間に配置される第2絶縁層120を含んでもよい。第2絶縁層120は、第1電子輸送層106aの周縁部を覆い、上面を露出させる開口部124aを有する。第1電子輸送層106aと第2電子輸送層106bとは、第2絶縁層120の開口部124aで相互に接触する。この開口部124aが配置される領域は、第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b、電子注入層110、発光層112、及び第3電極118が積層される。これらの層が積層される領域が有機EL素子200aの発光領域となる。別言すれば、第2絶縁層120の開口部124aによって、有機EL素子200aの発光領域が画定される。
【0023】
第2電極108は第1絶縁層104と第2絶縁層120とに挟まれて配置される。第2電極108は、第1絶縁層104と第2絶縁層120とに挟まれることにより、開口部124aから露出しない位置に配置される。第2電極108は、絶縁層を挟んで第3電極118と重なるように設けられる。第2電極108の端部は、第2絶縁層120の開口部124aに露出しないので、発光領域において第3電極118と第2電極108との間に電界集中が生じないように構成される。有機EL素子200aは、第2電極108が第2絶縁層120の開口部124aに露出しないようにオフセット領域126が設けられている。オフセット領域126は、開口部124aの端部から第2電極108の端部までの領域であり、第1電子輸送層106aが第1絶縁層104と第2絶縁層120とに挟まれた領域に相当する。オフセット領域126の長さは、電界集中を防ぐという目的において、電子輸送層106、電子注入層110、発光層112、正孔輸送層114、正孔注入層116等の合計膜厚が100nm~1000nmであるとすると、合計膜厚の10倍以上の長さとして、1μm~20μm程度、例えば、2μm~5μmであることが好ましい。
【0024】
このように、本実施形態に係る有機EL素子200aは、第2電極108が第1絶縁層104及び第2絶縁層120に挟まれると共に、第2電極108の端部が第2絶縁層120の開口部124aより外側に配置されることで、有機EL素子200aの耐圧を高め、発光領域における発光強度の均一性を高めている。
【0025】
図1は、第2絶縁層120の上に第3絶縁層122が設けられる態様を示す。第2絶縁層120の上に第3絶縁層122を設けることで、第3電極118と第2電極108との間隔を広げることができ、寄生容量を低減することができる。
【0026】
第3絶縁層122は、第2絶縁層120に設けられる開口部124aと同じ幅か、それ以上に広い開口部124bが設けられる。第2絶縁層120の開口部124aの幅に対して、第3絶縁層122の開口部124bの幅を広げることで、階段状の段差を形成することができる。また、開口部124aにおける第2絶縁層120の側面、及び開口部124bにおける第3絶縁層122の側面は、上方に開くように傾斜していることが好ましい。このような開口部124a及び開口部124bの断面形状により、段差の急峻性を緩和することができる。それにより、開口部124a及び開口部124bに重ねて第2電子輸送層106b、発光層112、及び第3電極118等を設ける場合、段差部に沿って各層を形成することが可能となる。別言すれば、第2電子輸送層106b、発光層112、及び第3電極118等にクラックが入り、所謂段切れをすることを防止することができる。
【0027】
第1電極102は、第2絶縁層120の開口部124aと重畳するように配置され、第1絶縁層104を介して第1電子輸送層106aと重畳するように配置される。第3電極118は、第1絶縁層104によって第1電子輸送層106aと絶縁される。第1電極102と第1電子輸送層106aとの間にキャリアの授受はないが、第1電子輸送層106aは、第1電極102に電圧が印加されると、それにより発生する電界の影響を受ける。
【0028】
第1電子輸送層106aは、第1電極102によって形成される電界の作用を受ける。電子輸送層106(第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b)から発光層112に輸送されるキャリア(電子)の量は、第1電極102の電界強度によって制御することが可能である。第1電極102に印加される電圧が大きくなると、電子輸送層106(第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b)に作用する電界も大きくなる。第1電極102に正電圧が印加されることで生成された電界は、第2電極108から第1電子輸送層106aにキャリア(電子)を引き込むように作用するので、発光層112へ輸送されるキャリア(電子)の量を増加させることが可能となる。すなわち、第1電極102に印加する電圧の大きさにより、第1電子輸送層106aから発光層112へ輸送されるキャリア(電子)の量を制御することができる。別言すれば、第1電極102に印加する電圧を制御することで、第2電極108から注入される電子の量と、第3電極118から注入される正孔の量とのバランス(キャリアバランス)を調整することが可能となる。
【0029】
第1電極102は、第1電子輸送層106aのオフセット領域126と重なるように配置されることが好ましい。このような配置により第1電極102は、オフセット領域126に電界を作用させることができる。第1電極102に正電圧を印加すると、オフセット領域126を形成する第1電子輸送層106aにはキャリア(電子)が誘起され、オフセット領域126の高抵抗化を防ぐことが可能となる。オフセット領域126の長さは、1μm~5μm程度であれば第1電極102がアース電位に接続されたとき、第2電極108から第1電子輸送層106aに電子が流れ込むことを防止することができる。
【0030】
図1に示す有機EL素子200aはボトムエミッション型であるため、第1電極102は透光性を有する。例えば、第1電極102は透明導電膜で形成される。一方、第3電極118は、発光層112から放射される光を反射させるための光反射面を有する。第3電極118は、正孔注入層116へ正孔を注入するため仕事関数の高い材料で形成することが好ましい。第3電極118は、例えば、酸化インジウム錫(ITO)のような透明導電膜で形成される。第3電極118の光反射面は、例えば、透明導電膜にアルミニウム等の金属膜を積層することで形成することができる。
【0031】
後述されるように、電子輸送層106(第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b)は、透光性を有する酸化物半導体で形成される。透光性を有する酸化物半導体は無機材料であり、しかも酸化物であるため熱的に安定である。有機EL素子200aは、電子輸送層106を酸化物半導体で形成することにより、逆積み構造であっても特性劣化のない安定した構造を実現することができる。
【0032】
1-2.トップエミッション型有機EL素子
図2は、トップエミッション型の有機EL素子200bを示す。トップエミッション型の有機EL素子200bは、第3電極118と第1電極102の構成が異なる他は、図1に示すボトムエミッション型の有機EL素子200aと構造は同じである。有機EL素子200bがトップエミッション型である場合、第1電極102は、光反射面が形成されるように金属膜で形成され、第3電極118は発光層112から放射される光が透過するように透明導電膜で形成される。第2電極108は発光領域の外側に配置されるため、構造及び構成材料を特段変更する必要がない。
【0033】
第1電極102は金属膜で形成されるため、有機EL素子200bの中で光反射板としての機能を有する。電子輸送層106(第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b)は、透光性を有する酸化物半導体膜から形成されるため、第1電極102で反射される光の減衰を防ぐことができ、光取り出し効率(外部量子効率)を高めることができる。
【0034】
トップエミッション型の有機EL素子200bは、ボトムエミッション型の有機EL素子200aと、第3電極118及び第1電極102の構成が相違するのみである。すなわち、本実施形態に係る有機EL素子は、逆積み型の構造を共通としつつ、僅かな変更でボトムエミッション型及びトップエミッション型の双方を実現することができる。
【0035】
図1に示すボトムエミッション型の有機EL素子200a、及び図2に示すトップエミッション型の有機EL素子200bは、電子輸送層106、電子注入層110、発光層112、第3電極118が少なくとも縦方向に積層され、さらに第1絶縁層104を挟んで電子輸送層106と隣接するように第1電極102が設けられ、第2電極108は電子輸送層106の外側に配置された構造を有する。有機EL素子200は、第3電極118及び第2電極108から独立して、第1電極102の電位が制御されることにより、電子輸送層106から発光層112へ輸送されるキャリア(電子)の量を制御することが可能となる。そして、有機EL素子200は、第1電極102と第3電極118の材料を適宜選択することで、ボトムエミッション型及びトップエミッション型の双方の構造を実現することを可能としている。
【0036】
2.有機EL素子の構成部材
2-1.第1電極(キャリア注入量制御電極)
第1電極102は、金属材料、導電性を有する金属酸化物材料、金属窒化物材料又は金属酸窒化物材料を用いて形成される。金属材料としては、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)等の金属材料、又はこれらの金属を用いた合金材料で形成される。金属酸化物材料としては、例えば、酸化インジウム錫(In・SnO:ITO)、酸化インジウム亜鉛(In・ZnO:IZO)、酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)を用いることができる。さらに、金属酸化物材料として、ニオブ(Nb)をドープした酸化チタン(TiO:Nb)等を用いることができる。金属窒化物材料としては、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)等を用いることができる。金属酸窒化物材料としては、酸窒化チタン(TiO)、酸窒化タンタル(TaO)、酸窒化ジルコニウム(ZrO)、酸窒化ハフニウム(HfO)等を用いることができる。これらの金属酸化物材料、金属窒化物材料、金属酸窒化物材料に対して、導電性を向上させる微量の金属元素が添加されていてもよい。例えば、タンタル(Ta)がドープされた酸化チタン(TiO:Ta)を用いてもよい。
【0037】
第1電極102を形成する材料は、有機EL素子200がトップエミッション型であるか、ボトムエミッション型であるかによっても適宜選択される。ボトムエミッション型の場合、第1電極102が導電性を有し、かつ透光性を有する金属酸化物材料、金属窒化物材料又は金属酸窒化物材料で形成される。これにより、有機EL素子200aは、発光層112で発光した光を、第1電極102を透過させて出射することができる。一方、トップエミッション型の場合、第1電極102は可視光に対する反射率が高い金属材料で形成される。有機EL素子200bは、第1電極102が金属材料で形成されることで、発光層112で発光した光を反射させ、第3電極118から出射することができる。
【0038】
2-2.第1絶縁層、第2絶縁層、第3絶縁層
第1絶縁層104、第2絶縁層120、及び第3絶縁層122は、無機絶縁材料を用いて形成される。無機絶縁材料としては、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム等を選択することができる。第1絶縁層104、第2絶縁層120、第3絶縁層122は、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタリング法等を用いて形成される。第1絶縁層104は、50nm~700nm、好ましくは100nm~400nmの膜厚で形成される。第1絶縁層104の膜厚を上記範囲とすることで、第1電極102によって生成される電界を電子輸送層106に作用させることができ、バイアス電圧を高くした場合においてもトンネル効果によって第1電極102から電子輸送層106にトンネル電流が流れることを防止することができる。また、第2絶縁層120及び第3絶縁層122の膜厚は特段限定されないが、例えば、100nm~1000nmの厚さで形成される。
【0039】
第1絶縁層104、第2絶縁層120、第3絶縁層122は、このような絶縁材料が用いられることで、絶縁性と透明性を兼ね備えることができる。それにより、ボトムエミッション型の有機EL素子200a及びトップエミッション型の有機EL素子200bの双方に適用することができる。また、第1電極102と電子輸送層106との間、及び第1電極102と第2電極108とを絶縁することができる。
【0040】
また、第3絶縁層122には、ポリイミド、アクリル、エポキシ等の有機絶縁材料が用いられてもよい。第3絶縁層122を有機絶縁材料で形成することで、開口部124bの断面形状を制御することが容易となる。第3絶縁層122の開口部はテーパー状に傾斜していることが好ましいが、感光性の有機絶縁材料を用いることで開口部124bの断面形状をテーパー状に成形することができる。第3絶縁層122に平坦化膜としての機能を持たせる場合には、膜厚を2μm~5μm程度まで厚くすると良い。
【0041】
2-3.電子輸送層
電子輸送層106は、第2電極108から注入されるキャリア(電子)を、有機EL素子200の発光領域の面内に輸送するために、電子移動度が高い材料で形成されることが好ましい。また、電子輸送層106は、ボトムエミッション型の場合、発光層よりも光出射側に配置されるので、良好な可視光透光性を有する材料で形成されることが好ましい。また、第1電子輸送層106aと第2電子輸送層106bとの間でキャリア濃度を異ならせるために、キャリア濃度の制御が容易である材料で形成されることが好ましい。
【0042】
本実施形態において、電子輸送層106(第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b)は金属酸化物材料が用いられる。金属酸化物材料としては、バンドギャップが2.8eV以上、好ましくは3.0eV以上であり、電子移動度が高い酸化物半導体材料を用いることが好ましい。このような酸化物半導体材料は、薄膜を形成した場合でも半導体特性を有し、可視光に対して透明であり、n型の導電性を有する。
【0043】
電子輸送層106に適用される酸化物半導体材料としては、四元系酸化物材料、三元系酸化物材料、二元系酸化物材料、および一元系酸化物材料が例示される。ここで例示される金属酸化物材料は、バンドギャップが2.8eV以上であり、n型の導電性を示し、酸素欠損等によりドナー濃度を制御することができることから、酸化物半導体に分類される。
【0044】
四元系酸化物材料として、In-Ga-SnO-ZnO系酸化物材料、三元系酸化物材料としてIn-Ga-ZnO系酸化物材料、In-SnO-ZnO系酸化物材料、In-Al-ZnO系酸化物材料、Ga-SnO-ZnO系酸化物材料、Ga-Al-ZnO系酸化物材料、SnO-Al-ZnO系酸化物材料、二元系酸化物材料としてIn-ZnO系酸化物材料、SnO-ZnO系酸化物材料、Al-ZnO系酸化物材料、Ga-SnO系酸化物材料、Ga-ZnO系酸化物材料、Ga-MgO系酸化物材料、MgO-ZnO系酸化物材料、SnO-MgO系酸化物材料、In-MgO系酸化物材料、一元系酸化物材料として、In系金属酸化物材料、Ga系金属酸化物材料、SnO系金属酸化物材料、ZnO系金属酸化物材料等を用いることができる。
【0045】
また、上記金属酸化物材料にシリコン(Si)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)が含まれていてもよい。なお、例えば、上記で示すIn-Ga-Zn-O系酸化物材料は、少なくともInとGaとZnを含む金属酸化物材料であり、その組成比に特に制限はない。また、他の表現をすれば、第1電子輸送層106a及び第2電子輸送層106bは、化学式InMO(ZnO)(m>0)で表記される薄膜を用いることができる。ここで、Mは、Ga、Al、Mg、Ti、Ta、W、HfおよびSiから選ばれた一つ又は複数の金属元素を示す。なお、上記の四元系酸化物材料、三元系酸化物材料、二元系酸化物材料、一元系酸化物材料は、含まれる酸化物が化学量論的組成のものに限定されず、化学量論的組成からずれた組成を有する酸化物材料によって構成されてもよい。また、電子輸送層106としての酸化物半導体層は、アモルファス相を有していても良く、結晶性を有していても良く、またはアモルファス相と結晶相が混合していても良い。
【0046】
第1電子輸送層106a及び第2電子輸送層106bは、それぞれ組成が異なる酸化物半導体材料で形成されることが好ましい。例えば、第1電子輸送層106aは、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)等が含有されないスズ(Sn)系の酸化物半導体(InGaSnO、InWSnO、InSiSnO)で形成されることが好ましい。第2電子輸送層106bは、スズ(Sn)を含有しない亜鉛(Zn)系の酸化物半導体(ZnSiO、ZnMgO、ZnGaO等)で形成されることが好ましい。別言すれば、第1電子輸送層106aは、酸化スズ及び酸化インジウムと、酸化ガリウム、酸化タングステン、酸化アルミニウム及び酸化シリコンから選ばれた少なくとも一種とを含む金属酸化物であることが好ましく、第2電子輸送層106bは、酸化亜鉛と、酸化シリコン、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム及び酸化ガリウムから選ばれた少なくとも一種とを含む金属酸化物であることが好ましい。
【0047】
このように組成の異なる酸化物半導体材料を選択することにより、第1電子輸送層106a及び第2電子輸送層106bのバンドギャップを最適化することができる。例えば、第1電子輸送層106aのバンドギャップに対し、第2電子輸送層106bのバンドギャップを大きくすることができる。具体的には、第1電子輸送層106aのバンドギャップを3.0eV以上とし、第2電子輸送層106bのバンドギャップを第1電子輸送層106aのバッドギャップ以上とすることができる。第2電子輸送層106bのバンドギャップは3.4eV以上とすることが好ましい。第2電子輸送層106bのバンドギャップを3.4eV以上とすることで、青色光の吸収を減少させ、信頼性を向上させることができる。
【0048】
また、電子輸送層106(第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b)として、酸化インジウム錫(In・SnO:ITO)、酸化インジウム亜鉛(In・ZnO:IZO)、酸化錫(SnO)酸化チタン(TiO)等が用いられる。金属窒化物材料としては、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム・ガリウム(GaAlN)等が用いられる。金属酸窒化物材料としては、酸窒化チタン(TiO)、酸窒化タンタル(TaO)、酸窒化ジルコニウム(ZrO)、酸窒化ハフニウム(HfO)等が用いられる。これらの金属酸化物材料、金属窒化物材料、金属酸窒化物材料に対して、導電性を向上させる微量の金属元素が添加されていてもよい。例えば、ニオブがドープされた酸化チタン(TiO:Nb)を用いてもよい。これらの金属化合物のバンドギャップを少なくとも2.8eV以上にするには、酸素含有量又は窒素含有量を調整すればよい。
【0049】
酸化物半導体材料で形成される第1電子輸送層106a及び第2電子輸送層106bは、スパッタリング法、真空蒸着法、塗布法等により形成することができる。第1電子輸送層106aは、10nm~200nmの膜厚を有し、第2電子輸送層106bは、50nm~500nmの膜厚で形成されることが好ましい。
【0050】
第1電子輸送層106aのキャリア濃度は、第2電子輸送層106bのキャリア濃度と比べて10倍以上、好ましくは100倍以上高いことが好ましい。例えば、第1電子輸送層106aのキャリア濃度(電子濃度)は1014/cm~1019/cmの範囲にあり、第2電子輸送層106bのキャリア濃度(電子濃度)は1011/cm~1017/cmの範囲にあり、双方のキャリア濃度の差は上述のように1桁以上、好ましくは2桁以上差があることが好ましい。
【0051】
また、第1電子輸送層106aの電子移動度に対し、第2電子輸送層106bの電子移動度は、10分の1以下であることが好ましい。例えば、第1電子輸送層106aの電子移動度は1cm/V・sec~50cm/V・secであることが好ましく、第2電子輸送層106bの電子移動度は0.01cm/V・sec~10cm/V・secであることが好ましい。
【0052】
第1電子輸送層106aは、上述のようなキャリア濃度及び電子移動度を有することで、低抵抗化を図ることができる。第1電子輸送層106aは、このような物性を有することにより、第2電極108から注入された電子の面内分布を均一化することができる。別言すれば、第2電極108によって、第1電子輸送層106aの周辺部から注入されたキャリア(電子)を、中央方向に輸送して、発光領域における電子濃度の均一化を図ることができる。これにより、有機EL素子200の発光強度の面内均一化を図ることができる。また、導電性が比較的高い第1電子輸送層106aを用いることで、第2電極108から注入されたキャリア(電子)を、第1電極102の電界が作用する領域に輸送することができる。
【0053】
第2電子輸送層106bは発光層112と近接して配置される。そのため第2電子輸送層106bのキャリア濃度(電子濃度)が1020/cm以上であると、発光層112における励起状態が失活して発光効率を低下させてしまう。一方、第2電子輸送層106bのキャリア濃度(電子濃度)が1011/cm以下であると、発光層112に供給されるキャリアが減少し十分な輝度を得ることができない。このように、第1電子輸送層106aと第2電子輸送層106bのキャリア濃度及び電子移動度を異ならせることで、有機EL素子200の発光効率を高め、発光強度の面内均一化を図ることができる。
【0054】
2-4.第2電極(陰極)
有機EL素子の陰極材料としては、従来、アルミニウム・リチウム合金(AlLi)、マグネシウム・銀合金(MgAg)等の材料が用いられている。しかし、これらの材料は、大気中の酸素や水分の影響を受けて劣化しやすく、取扱が困難な材料である。また、これらの材料は金属又はアルカリ金属であり、透光性を持たせるためには薄膜化して半透過膜とする必要がある。しかし、陰極を薄膜化するとシート抵抗が高くなってしまうことが問題となる。電極の抵抗は有機EL素子の中で直列抵抗成分として作用するので、陰極の薄膜化は駆動電圧を高め、消費電力を増加させる要因となる。さらに、有機EL素子の発光領域の面内で、発光強度(輝度)の不均一性の原因ともなる。
【0055】
本実施形態に係る有機EL素子200は、第2電極108が、第1電子輸送層106aと同様に金属酸化物材料から形成される。別言すれば、第2電極108は、酸化物半導体膜によって形成される。例えば、第2電極108は、第1電子輸送層106aを形成する酸化物半導体層の周縁部を低抵抗化することで形成される。第2電極108のキャリア濃度は、1020/cm~1021/cmであることが好ましい。第2電極108は、このようなキャリア濃度を有することで、低抵抗化を図り、直列抵抗損失を抑制することができる。それにより、有機EL素子200の消費電力を低減し、電流効率を高めることができる。
【0056】
第2電極108は、第1電子輸送層106aの一部の領域を低抵抗化することで形成することができる。具体的には、酸化物半導体層の一部の領域(第2電極108に該当する領域)の酸素欠損を増加させることで(ドナー欠陥を増加させることで)低抵抗化を図ることができる。酸化物半導体層の一部の領域に選択的に酸素欠損を増加させるには、部分的な加熱処理が有効である。具体的には、酸化物半導体層の一部の領域にレーザ光を照射することで、酸素欠損が増加した領域を形成することができる。酸化物半導体層はバンドギャップが広いため、レーザ光を照射するための光源は、短波長のレーザ光を発振できるものが好ましい。例えば、レーザ光源として、KrFエキシマレーザ(波長248nm)、XeClエキシマレーザ(波長308nm)、XeFエキシマレーザ(波長351nm)等を用いることができる。また、YAGレーザ等の固体レーザを光源として用いる場合には、発振波長の第3高調波を、酸化物半導体層に照射すればよい。
【0057】
第1電子輸送層106aの一部の領域の酸素欠損(ドナー欠陥)を増やして第2電極108を形成することで、第2電極108と第1電子輸送層106aとが接合された状態(格子の連続性が維持された状態)を形成することができる。このような構造により、第2電極108と第1電子輸送層106aとの界面に、電子の注入を阻害する障壁(エネルギー的な障壁)が形成されることを防止することができる。これにより、有機EL素子200の直列抵抗の増加を防ぎ、駆動電圧が高くなることを防止することができる。また、有機EL素子200の低消費電力化を図ることができる。
【0058】
また、図1では示されないが、第2電極108を、第1電子輸送層106aとは別の層で、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)等の金属材料を用いて形成することもできる。この場合、第2電極108は、第3電極118、発光層112、電子輸送層106等が重畳する領域の外側に配置されるので(すなわち、発光領域の外側に配置されるので)、膜厚を薄くする必要がなく、低抵抗化を図ることが可能となる。
【0059】
2-5.電子注入層
有機EL素子において、電子注入層は、陰極から電子輸送材料へ電子を注入するためのエネルギー障壁を小さくするために用いられる。本実施形態に係る有機EL素子200は、酸化物半導体で形成される電子輸送層106から発光層112へ電子が注入されやすくするために、電子注入層110が設けられることが好ましい。電子注入層110は、電子輸送層106と発光層112との間に設けられる。
【0060】
電子注入層110は、有機エレクトロルミネセンス材料を含んで形成される発光層112に電子を注入するために、仕事関数が小さな材料を用いて形成されることが望ましい。電子注入層110は、カルシウム(Ca)酸化物、アルミニウム(Al)酸化物を含んで構成される。電子注入層110としては、例えば、C12A7(12CaO・7Al)エレクトライドを用いることが好ましい。C12A7エレクトライドは半導体特性を有し、高抵抗から低抵抗まで制御することが可能であり、仕事関数も2.4eV~3.2eVとアルカリ金属と同程度であるので、電子注入層110として好適に用いることができる。
【0061】
C12A7エレクトライドによる電子注入層110は、C12A7電子化物の多結晶体をターゲットとしてスパッタリング法で作製される。C12A7エレクトライドは半導体特性を有するので、電子注入層110の膜厚は1nm~100nmの範囲とすることができる。なお、C12A7エレクトライドは、Ca:Alのモル比が13:13~11:16の範囲にあることが好ましい。C12A7エレクトライドを用いた電子注入層110は、スパッタリング法を用いて形成することができる。C12A7エレクトライドで形成される電子注入層110は、アモルファスであることが好ましいが、結晶性を有していてもよい。
【0062】
C12A7エレクトライドは、大気中で安定であるので、従来から電子注入層として用いられているフッ化リチウム(LiF)、酸化リチウム(LiO)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)等のアルカリ金属化合物と比較して取り扱いが簡便であるという利点を有する。これにより、有機EL素子200の製造工程において、乾燥空気又は不活性気体中で作業をする必要がなくなり、製造条件の制限が緩和されることとなる。
【0063】
また、C12A7エレクトライドは、イオン化ポテンシャルが大きいため、発光層112を挟んで正孔輸送層114と反対側に配置することで、正孔ブロック層として用いることができる。すなわち、電子輸送層106と発光層112との間に、C12A7エレクトライドで形成される電子注入層110を設けることで、発光層112に注入された正孔が第2電極108側に突き抜けることを抑制し、発光効率を高めることができる。また、酸化マグネシウム亜鉛(MgZnO、例えば、Mg0.3Zn0.7O)も仕事関数が3.1eVと小さく大気中の安定性も高いので、同様に電子注入層として使用することができる。
【0064】
2-6.発光層
発光層112は有機エレクトロルミネセンス材料を用いて形成される。有機エレクトロルミネセンス材料としては、例えば、蛍光を発光する蛍光性化合物材料、燐光を発光する燐光性化合物材料、又は熱活性化遅延蛍光材料(Thermally activated delayed fluorescence:TADF)を用いることができる。
【0065】
例えば、青色系の発光材料として、N,N’-ビス[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]-N,N’-ジフェニルスチルベン-4,4’-ジアミン(YGA2S)、4-(9H-カルバゾール-9-イル)-4’-(10-フェニル-9-アントリル)トリフェニルアミン(YGAPA)等を用いることができる。緑色系の発光材料としては、N-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)-N,9-ジフェニル-9H-カルバゾール-3-アミン(2PCAPA)、N-[9,10-ビス(1,1’-ビフェニル-2-イル)-2-アントリル]-N,9-ジフェニル-9H-カルバゾール-3-アミン(2PCABPhA)、N-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)-N,N’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレンジアミン(2DPAPA)、N-[9,10-ビス(1,1’-ビフェニル-2-イル)-2-アントリル]-N,N’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレンジアミン(2DPABPhA)、N-[9,10-ビス(1,1’-ビフェニル-2-イル)]-N-[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]-N-フェニルアントラセン-2-アミン(2YGABPhA)、N,N,9-トリフェニルアントラセン-9-アミン(DPhAPhA)等を用いることができる。赤色系の発光材料としては、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メチルフェニル)テトラセン-5,11-ジアミン(p-mPhTD)、7,13-ジフェニル-N,N,N’,N’-テトラキス(4-メチルフェニル)アセナフト[1,2-a]フルオランテン-3,10-ジアミン(p-mPhAFD)等を用いることができる。また、ビス[2-(2’-ベンゾ[4,5-α]チエニル)ピリジナトーN,C3’]イリジウム(III)アセチルアセトナート(Ir(btp)(acac))のような燐光材料を用いることができる。
【0066】
この他にも、発光層112として、量子ドット(Quantum dot:QD)等の公知の各種材料を使用することができる。発光層112は、蒸着法、転写法、スピンコート法、スプレーコート法、印刷法(インクジェット印刷法、グラビア印刷法)等により作製することができる。発光層112の膜厚は適宜選択されればよいが、例えば、10nm~100nmの範囲で設けられる。
【0067】
なお、図1及び図2では、発光層112が有機EL素子ごとに分離している例を示すが、複数の有機EL素子が同一平面上に配列される場合、発光層112は複数の発光素子に亘って連続するように設けられてもよい。
【0068】
2-7.正孔輸送層
正孔輸送層114は、正孔輸送性を有する材料を用いて形成される。正孔輸送層114は、例えば、アリールアミン系化合物、カルバゾール基を含むアミン化合物、およびフルオレン誘導体を含むアミン化合物などであっても良い。正孔輸送層114は、例えば、4,4’-ビス[N-(ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル(α-NPD)、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン(TPD)、2-TNATA、4,4’,4”-トリス(N-(3-メチルフェニル)N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニル(CBP)、4,4’-ビス[N-(9,9-ジメチルフルオレン-2-イル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(DFLDPBi)、4,4’-ビス[N-(スピロ-9,9’-ビフルオレン-2-イル)-N―フェニルアミノ]ビフェニル(BSPB)、スピロ-NPD、スピロ-TPD、スピロ-TAD、TNB等の有機材料が用いられる。
【0069】
正孔輸送層114は、真空蒸着法、塗布法など一般的な成膜方法によって作製される。正孔輸送層114は、10nm~500nmの膜厚で作製される。
【0070】
2-8.正孔注入層
正孔注入層116は、有機層に対して正孔注入性の高い物質を含む。正孔注入性の高い物質としては、モリブデン酸化物やバナジウム酸化物、ルテニウム酸化物、タングステン酸化物、マンガン酸化物等の金属酸化物を用いることができる。また、フタロシアニン(HPc)、銅(II)フタロシアニン(略称:CuPc)、バナジルフタロシアニン(VOPc)、4,4’,4’’-トリス(N,N-ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(TDATA)、4,4’,4’’-トリス[N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ]トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’-ビス[N-(4-ジフェニルアミノフェニル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(DPAB)、4,4’-ビス(N-{4-[N’-(3-メチルフェニル)-N’-フェニルアミノ]フェニル}-N-フェニルアミノ)ビフェニル(DNTPD)、1,3,5-トリス[N-(4-ジフェニルアミノフェニル)-N-フェニルアミノ]ベンゼン(DPA3B)、3-[N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)-N-フェニルアミノ]-9-フェニルカルバゾール(PCzPCA1)、3,6-ビス[N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)-N-フェニルアミノ]-9-フェニルカルバゾール(PCzPCA2)、3-[N-(1-ナフチル)-N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)アミノ]-9-フェニルカルバゾール(PCzPCN1)、2,3,6,7,10,11-ヘキサシアノ-1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン(HAT-CN)等の有機化合物を用いることができる。
【0071】
このような正孔注入層116は、真空蒸着法、塗布法など一般的な成膜方法によって作製される。正孔注入層116は、1nm~100nmの膜厚で作製される。
【0072】
2-9.第3電極(陽極)
第3電極118としては、仕事関数の大きい(具体的には4.0eV以上)金属、合金、導電性化合物で作製される。第3電極118には、例えば、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム(IWZO)などが用いられる。これらの導電性金属酸化物材料が用いられる第3電極118は、真空蒸着法、スパッタリング法により作製される。
【0073】
図1を参照して説明したように、ボトムエミッション型の有機EL素子200aの場合、第3電極118は出射面の裏面に位置するため、光反射面を有することが好ましい。この場合、第3電極118は透明導電膜の上に金属膜が積層されていることが好ましい。一方、図2を参照して説明したように、トップエミッション型の有機EL素子200bの場合、第3電極118は、上述のような透明導電膜を用いて形成することができる。
【0074】
3.有機EL素子の動作
図3図4、及び図5を参照して、本実施形態に係る有機EL素子の動作を説明する。なお、本節で示す有機EL素子200は、模式的な構造示す。
【0075】
3-1.発光および非発光の動作
図3は、本実施形態に係る有機EL素子200の構成を模式的に示す。図3は、有機EL素子200を構成する部材として、第2電極108、電子輸送層106、電子注入層110、発光層112、正孔輸送層114、正孔注入層116、第3電極118、第1絶縁層104、及び第1電極102が設けられた構造を示す。
【0076】
有機EL素子200は、発光ダイオードの一種であり、第3電極(陽極)118と第2電極(陰極)108との間に順方向電流を流すことで発光する。図3は、第3電極118と接地(アース)との間に第3電源128cが接続され、第2電極108と接地(アース)との間に第2電源128bが接続され、第1電極102と第1電源128aとの間に第2スイッチ130bが直列に接続され、第1電極102と接地(アース)との間に第1スイッチ130aが接続された態様を示す。図3は、スイッチ130において、第1スイッチ130a及び第2スイッチ130bがオフであり、第1電極102にバイアスが印加されない状態を示す。
【0077】
すなわち、図3は、第1電極102と接地(アース)との間の導通状態を制御する第1スイッチ130aがオフ、第1電極102と第1電源128aとの間の接続を制御する第2スイッチ130bがオフの状態を示す。この状態では、有機EL素子200は順方向にバイアスされるので、バイアス電圧が発光開始電圧以上であれば、第3電極118から正孔が注入され、第2電極108から電子が注入される状態にある。有機EL素子200は、第3電源128cにより第3電極118と、第2電極108との間に正電圧が印加される。発光強度は、有機EL素子200に流れる順方向電流の大きさで制御することができる。
【0078】
しかし、第1絶縁層104の上で電子輸送層106と第3電極118とが発光層112を挟んで対向配置され、第2電極108が第1電子輸送層106aの周縁部で接続された構造では、発光領域(電子輸送層106、電子注入層110、発光層112、第3電極118が重畳する領域)で均一に発光することができない。この場合、第3電極118と第2電極108との間に生じる電界分布は発光領域で均一とならず、第3電極118と第2電極108の端部に電界は集中する。第1スイッチ130aと第2スイッチ130bとの両方がオフの状態では、第2電極108から注入されるキャリア(電子)は、第1電子輸送層106aの面内で均一には分布せず、発光領域の面内で均一な発光を得ることはできない。
【0079】
図3は、第1スイッチ130a及び第2スイッチ130bがオフであるため、第1電極102には第2電源128bから電圧が印加されない。第2電極108から第1電子輸送層106aに注入されたキャリア(電子)は、第1電極102の影響を受けないので、第1電子輸送層106aの中央領域に広がらない。すなわち、第1電子輸送層106aの周縁部に注入されたキャリア(電子)は、第1電極102に電圧が印加されないことによりドリフトされないので、第1電子輸送層106aの中央領域に広がらない。したがって、図3に示すバイアス状態では、有機EL素子200は発光領域の中央部が暗く、周縁部が明るく発光する。
【0080】
図4は、スイッチ130において、第1スイッチ130aがオンとなり、第1電極102の電位が接地電位となった状態を示す。この状態では、第1電子輸送層106aにはキャリア(電子)が存在せず、第1電子輸送層106aは絶縁状態となる。その結果、有機EL素子200には電流が流れず、発光しない状態(非発光状態)となる。
【0081】
図5に示すように、有機EL素子200の第3電極118と第2電極108との間に順方向バイアスを印加し、さらに第2スイッチ130bをオンにすると、第1電極102によって形成される電界が第1電子輸送層106aに作用する。第1電極102に正電圧が印加されているため、第2電極108から第1電子輸送層106aに注入されたキャリア(電子)は、第1電子輸送層106aの中央領域へドリフトされる。それによって、キャリア(電子)は、第1電子輸送層106aの周縁部から、第1電子輸送層106aの中央領域へ輸送される。正電圧が印加された第1電極102により生成される電界は、第2電極108から注入されたキャリア(電子)を第1電子輸送層106aの面内に広がるように作用する。
【0082】
有機EL素子200は順方向にバイアスされていることから、第1電子輸送層106aの中央領域に輸送されたキャリア(電子)は、第1電子輸送層106aから発光層112の方向に移動する。第3電極118から注入されたキャリア(正孔)と、第2電極108から注入されたキャリア(電子)とは、発光層112で再結合することにより励起子が生成され、励起状態の励起子が基底状態に遷移するときにフォトンが放出され発光として観察される。
【0083】
図5に示すバイアス状態において、第1電子輸送層106aに注入されるキャリア(電子)の量は、第2電極108の電圧によって制御することができる。第2電極108の電圧を大きくすることで、第1電子輸送層106aへのキャリア(電子)注入量を増加させることができる。第1電子輸送層106aから発光層112に注入されるキャリア(電子)の量は、第1電極102の電圧によって制御することができる。第1電極102の電圧を大きくすることで、第2電極108から注入されたキャリア(電子)を、第1電子輸送層106aの中央領域に多く引き込み、発光層112へのキャリア注入量を増加させることができる。
【0084】
発光層112が、全面略均一に発光するには、第2電子輸送層106bに流れる電子が空間電荷制限電流を形成することが好ましい。そのため第2電子輸送層106bは、アモルファス状態、ナノサイズの微結晶状態、又はこれらの混合状態であることが好ましい。第1電子輸送層106aは、ナノサイズの微結晶を含み、密度の高い膜であることが好ましい。
【0085】
このように、本実施形態に係る有機EL素子200は、第3電極118及び第2電極108に加え、第1電極102を有することで、発光層112に注入されるキャリアの濃度を制御することができる。なお、図5は、第2電極108側に第1電極102が配置される例を示すが、第1電極102の配置を置換して第3電極118の側に設けることもできる。また、第1電極102に加え、第3電極118の側にキャリア(正孔)の注入量を制御する第4電極を、さらに設けてもよい。
【0086】
3-2.キャリアバランスの制御
有機EL素子が発光するには、陽極から正孔が注入され、陰極から電子が注入される必要がある。そして、有機EL素子の電流効率(発光効率)を高めるには、陽極から発光層に輸送される正孔の量と陰極から発光層に輸送される電子の量とが一致するようにバランスをとる必要がある(以下、「キャリアバランス」ともいう)。有機EL素子は、キャリアバランスをとることで電流効率を高めることができる。
【0087】
しかし、従来の有機EL素子は、発光層の正孔移動度に対して電子移動度が低いため、キャリアバランスが崩れ、発光効率が低下するという課題を有している。また、有機EL素子は、キャリアバランスが崩れて発光層で正孔の数が過剰になると、発光層と電子輸送層との界面に正孔が蓄積され、電流効率(発光効率)の劣化を促進させる要因になるという課題を有している。そこで、正孔輸送層及び電子輸送層の材質や膜厚を調整して、発光層に注入される正孔と電子のバランスを図る試みがなされている。しかし、有機EL素子の素子構造自体を調整しても、発光特性の経時変化や温度変化に追従できないという問題がある。
【0088】
これに対し、本発明の一実施形態に係る有機EL素子200は、第1電極102によってキャリアバランスを制御している。すなわち、電子輸送層106側に設けられた第1電極102によって、発光層112へのキャリア(電子)の輸送量を制御することでキャリアバランスの制御を可能としている。すなわち、第3電極118から発光層112に輸送される正孔の量に対して、第2電極108から発光層112に輸送される電子の量が不足しないように、第1電極102によって電子の輸送量を増加させることで、発光層112における正孔と電子の数が同じとなるように制御することができる。別言すれば、本実施形態に係る有機EL素子200は、第3電極118から発光層112に流れる正孔電流に対し、第2電極108から発光層112に流れる電子電流の大きさが同じになるように、第1電極102によって当該電子電流を増加させることで、発光層112におけるキャリアバランスを一定に保つことを可能としている。
【0089】
図6は、有機EL素子200の第3電極118と第2電極108との間に印加する電圧(Vac)を一定とし、第1電極102に印加する電圧(Vg)を変化させたときに第3電極118と第2電極108との間に流れる電流(Ie)の関係を模式的に示すグラフである。図6に示すように、第1電極102に印加する電圧(Vg)が0Vである場合、電子電流(Ie)は小さく、有機EL素子200の全面での発光は観測されない状態となる。この状態から第1電極102の電圧を大きくしてゆくと、第2電極108から電子輸送層106に注入されたキャリア(電子)は、電子電流(Ie)となり第1電子輸送層106aから発光層112に向けて流れる。このとき電子電流(Ie)は、ダイオードの順方向電流のように指数関数的に増加する(図6に示す「I領域」)。
【0090】
第1電極102に印加する電圧(Vg)をさらに大きくすると、電圧(Vg)の変化量に対する電子電流(Ie)の増加量が飽和する傾向となり、Ie対Vg特性の曲線の勾配は緩やかになる(図6に示す「II領域」)。領域Bで第1電極102に印加する電圧(Vg)の大きさを、第1電圧(Vg1)と第2電圧(Vg2)の間で変化させると、電子電流(Ie)は第1電流(Ie1)と第2電流(Ie2)の間で変化する。第1電極102の電圧(Vg)が、第1電圧(Vg1)から第2電圧(Vg2)の範囲で変化する領域は、電子電流(Ie)が急激に変化しない領域であり、有機EL素子200の発光強度は飽和しつつある領域となる。
【0091】
電子電流(Ie)の変化は、発光層112に注入される正孔と電子の量の増減を意味する。第1電極102の電圧(Vg)を、第1電圧(Vg1)と第2電圧(Vg2)の間で変化させると発光層112に注入される電子の量が変化する。すなわち、第1電極102の電圧(Vg)を変化させることで、発光層112内における電子と正孔のキャリアバランスを制御することができる。発光層112に注入される電子の量を変化させると、電子と正孔が再結合する領域の中心位置(発光層112の厚さ方向における発光領域の位置)をシフトさせることができる。例えば、第1電極102が第1電圧(Vg1)であるとき、電子電流が正孔電流に比べて相対的に小さくなり、発光層112における発光領域の位置は、陰極側(図6に示す「A」側)となる。一方、第1電極102が第2電圧(Vg2)であるとき、電子電流が正孔電流に比べて相対的に大きくなり、発光層112における発光領域の位置は陽極側(図6に示す「B」側)にシフトする。
【0092】
このように有機EL素子200は、第1電極102の電圧により、発光層112における発光領域の厚さ方向の位置を制御することが可能となる。例えば、第1電極102の電圧を第1電圧(Vg1)と第2電圧(Vg2)の間で変化させると、発光層112における発光領域の位置を陰極側Aと陽極側Bとの間で揺動させることができる。第1電極102の電圧を制御することにより、発光層112の全体を発光領域として利用することができる。そうすると、発光層112の全域を発光領域としてまんべんなく使用することができるので、輝度劣化の寿命時間(例えば、初期輝度が70%まで低下する時間)を延ばすことができる。第1電極102の電圧は、図6に示すVg1とVg2との間で変動するようにし、輝度の強さは第2電極108と第3電極118との電位差(電圧)で制御することができる。
【0093】
このように、本実施形態に係る有機EL素子は、酸化物半導体層により電子輸送層が形成され、当該電子輸送層に対し絶縁層を挟んでキャリア注入量を制御する第1電極が配置され、当該第1電極を陽極である第3電極118と対向配置することで、発光層への電子注入量を制御することができる。本実施形態に係る有機EL素子は、キャリア注入量を制御する第1電極の作用により、発光層における電子と正孔のキャリアバランスを制御することができる。それにより、有機EL素子の電流効率を高め、寿命時間を延ばすことができる。
【0094】
従来の有機EL素子の構造では、発光層の厚さ方向全体が均一に劣化することはなく、発光層が不均一に劣化するため輝度劣化を抑制することが困難で、有機EL素子の寿命時間を延ばすことができなかった。しかしながら、本発明の一実施形態に係る有機EL素子200は、第1電極102の電圧を制御することにより、発光層112の全体を発光領域とすることができ、それにより発光層112の厚さ方向全体を均一に劣化させることができるので、輝度劣化に対する寿命時間を延ばすことが可能となる。これにより、発光層112の厚さを、従来の厚み(例えば、30nm)から1.5倍~3.0倍である45nm~90nmに増加させても発光層112の厚さ方向全領域を発光させることができるので、有機EL素子200の寿命をさらに長くするこができる。
【0095】
4.有機EL素子の作製方法
本発明の一実施形態に係る有機EL素子の作製方法の一例を、図7図9、及び図8を参照して説明する。以下においては、図1に示すボトムエミッション型の有機EL素子200aの作製方法について説明する。
【0096】
図7(A)は、基板100の上に第1電極102、第1絶縁層104、及び電子輸送層106を形成する段階を示す。基板100としては、例えば、透明絶縁基板が用いられる。透明絶縁基板としては、アルミノケイ酸ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス等で例示される無アルカリガラス基板、石英基板が用いられる。また、透明絶縁基板として、ポリイミド、アクリル、エポキシ等の樹脂基板を用いることができる。
【0097】
第1電極102は、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等の透明導電膜で形成される。透明導電膜はスパッタリング法を用いて30nm~200nmの厚さで形成される。第1電極102は、基板100の第1面に形成された透明導電膜に対し、フォトリソグラフィ工程によってレジストマスクを形成し、エッチングを行うことで形成される。第1電極102は、断面視において端面がテーパー状に成形されていることが好ましい。
【0098】
第1絶縁層104は、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸窒化シリコン膜等の無機絶縁膜で形成される。無機絶縁膜としては、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法又はスパッタリング法を用いて形成される。第1絶縁層104の膜厚は、100nm~500nm程度の厚さに形成される。第1絶縁層104は、第1電極102を埋設するように形成される。このとき、第1電極102の端面がテーパー状に形成されていることで、段差部を含めて第1電極102を確実に覆うことができる。
【0099】
第1電子輸送層106aは、酸化物半導体材料を用いて形成される。第1電子輸送層106aは、金属酸化物を焼結したターゲットを、スパッタリングすることで形成される。第1絶縁層104の上にスパッタリングで形成された酸化物半導体膜107は、第1電極102と重なり、かつ周辺部分が第1電極102の外側に配置されるように成形される。スパッタリングで成膜された酸化物半導体膜107は、20nm~200nmの厚さ、例えば、30nm~50nmの厚さで形成される。
【0100】
第1電子輸送層106aは金属酸化物材料で形成されるが、前述のように、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)等が含有されないスズ(Sn)系の酸化物半導体(InGaSnO、InWSnO、InSiSnO)で形成することが好ましい。なお、スズ(Sn)系の酸化物半導体において、スズ(Sn)が10atm%以上含有されていれば、亜鉛(Zn)が含有されていても、亜鉛(Zn)の組成変化は小さくなるので、亜鉛(Zn)の含有を完全に否定するものではない。
【0101】
図7(B)は、第2電極108を形成する段階を示す。第2電極108は、第1電子輸送層106aを形成する酸化物半導体膜の一部を用いて形成される。具体的には、第1電子輸送層106aを形成する酸化物半導体膜において、第2電極108に相当する領域を低抵抗化することで第2電極108が形成される。酸化物半導体膜は、酸素欠損を形成することで低抵抗化を図ることができる。酸化物半導体膜の酸素欠損は、レーザ照射処理、プラズマ処理等により形成することができる。レーザ照射処理は、酸化物半導体膜にレーザ光を照射して酸素欠損を生成する処理である。酸化物半導体膜は、レーザ光の照射により加熱され酸素欠損等の欠陥が生成される。酸化物半導体の酸素欠損はドナー欠陥になるので、電気伝導度を高めることができる。
【0102】
図8(A)は、第1電子輸送層106aが形成された膜面側からレーザ処理又はプラズマ処理を行う態様を示す。この場合、第1電子輸送層106aに相当する領域には酸素欠損が生成されないように、マスク層109で覆われている。マスク層109は、フォトレジスト等の有機樹脂材料、または酸化シリコン等の無機絶縁材料を用いて形成される。この処理によって、マスク層109から露出する領域に酸素欠損が生成される。レーザ照射を行う場合には、レーザ光源として、KrFエキシマレーザ(波長248nm)、XeClエキシマレーザ(波長308nm)、XeFエキシマレーザ(波長351nm)等が用いられる。また、プラズマ処理を行う場合には、水素のグロー放電プラズマを生成することのできるプラズマ処理装置が用いられる。酸化物半導体膜に水素プラズマを照射することで、還元反応が進み酸素欠損を生成することができる。また、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)等の希ガスを用いたプラズマ処理、窒素イオンを注入するイオンインプランテーション処理又はプラズマドーピング処理でも酸化物半導体膜に酸素欠損を生成することができる。
【0103】
図8(B)は、基板100側からレーザ光を照射して、酸化物半導体膜に低抵抗領域を形成する態様を示す。KrFエキシマレーザ(波長248nm)、XeClエキシマレーザ(波長308nm)、XeFエキシマレーザ(波長351nm)等の紫外線レーザ光源から出射されるレーザ光は、第1電極102が形成された領域は透過せず、それ以外の領域で酸化物半導体膜に照射される。基板100側から紫外線レーザを照射する場合には、第1電極102をレーザ光に対するマスク(遮光膜)として用いることができる。これにより、第2電極108は、第1電極102に対して自己整合的に形成される。すなわち、基板100の裏面からレーザ光を照射すると、第2電極108の端部と第1電極102の端部とが、略一致するように形成することができる。
【0104】
図8(A)及び図8(B)に示すように、第1電子輸送層106aを形成する酸化物半導体膜107の一部を低抵抗化することで、新たな薄膜を形成することなく第2電極108を形成することができる。また、レーザ処理及びプラズマ処理は室温で行うことが可能であるため、工程を簡略化することができる。
【0105】
図7(C)は、第1電子輸送層106a及び第2電極108の上に、第2絶縁層120及び第3絶縁層122を形成する段階を示す。第2絶縁層120及び第3絶縁層122は、第1絶縁層104と同様に無機絶縁材料を用いて形成される。また、第3絶縁層122は、ポリイミド、アクリル、エポキシ等の有機絶縁材料で形成することもできる。第2絶縁層120及び第3絶縁層122は、100nm~5000nmの厚さで形成される。例えば、平坦化処理を行う場合には、第3絶縁層122は2000nm~5000nmの厚さで形成することが好ましい。
【0106】
図9(A)は、第3絶縁層122に開口部124bを形成し、第2絶縁層120に開口部124aを形成する段階を示す。開口部124b及び開口部124aは、第3絶縁層122及び第2絶縁層120を連続してエッチング加工することで形成することができる。また、開口部124bの開口幅と開口部124aの開口幅とが異なるように、第3絶縁層122と第2絶縁層120とを、それぞれ個別にエッチングしてもよい。第3絶縁層122を感光性の有機樹脂材料で形成する場合には、フォトマスクを用いて露光し、現像することにより、開口部124bを形成することができる。いずれの場合においても、有機EL素子200aを形成するために、開口部124b及び開口部124aは、内壁面がテーパー形状となるように加工することが好ましい。
【0107】
図9(B)は、第2電子輸送層106b、及び電子注入層110を形成する段階を示す。第2電子輸送層106bは、金属酸化物材料を用いて形成されるが、前述のように、スズ(Sn)を含有しない亜鉛(Zn)系の酸化物半導体(ZnSiO、ZnGeO、ZnMgO、MgGaO、ZnGaO等)で形成されることが好ましい。すなわち、第2電子輸送層106bは、酸化亜鉛と、酸化シリコン、酸化ゲルマニウム、酸化マグネシウム及び酸化ガリウムから選ばれた少なくとも一種とを含むことが好ましい。第2電子輸送層106bは、金属酸化物を焼結したスパッタリングターゲットを用いるスパッタリング法、原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法、ミストCVD(Mist Chemical Vapor Deposition)法で成膜することができる。
【0108】
電子注入層110は、例えば、C12A7エレクトライドを用いて形成される。電子注入層110は、C12A7エレクトライドのスパッタリングターゲットを用い、スパッタリング法で形成することができる。スパッタガスとしては、He(ヘリウム)、Ne(ネオン)、N2(窒素)、Ar(アルゴン)、NO(一酸化窒素)、Kr(クリプトン)、およびXe(キセノン)からなる群から選定された少なくとも一つのガスが用いられる。
【0109】
また、電子注入層110として、酸化マグネシウム亜鉛(MgZnO)を用いることもできる。例えば、Mg0.3Zn0.7Oは仕事関数が3.1eVと小さく、大気中で安定であり、電子注入層110として用いることができる。
【0110】
第2電子輸送層106b及び電子注入層110は、共にスパッタリング法が適用されるので、真空中で連続的に成膜することができる。第2電子輸送層106b及び電子注入層110は、開口部124a及び開口部124bを覆うように形成される。第2電子輸送層106bは、開口部124aの底面で第1電子輸送層106aと接し、さらに第2絶縁層120及び第3絶縁層122と接するように形成される。
【0111】
その後、発光層112、正孔輸送層114、正孔注入層116、第3電極118を形成することで、図1に示す有機EL素子200aが作製される。発光層112は、真空蒸着法、印刷法を用いて形成される。発光層112は、図1及び図2に示すように、有機EL素子ごとに分離独立して形成されても良いし、同一平面に形成される複数の有機EL素子に亘って連続して形成されてもよい。正孔輸送層及び正孔注入層は、真空蒸着法又は塗布法を用いて形成される。有機EL素子200aはボトムエミッション型であるため、第3電極118は、酸化インジウム錫(ITO)等の透明導電膜に、アルミニウム(Al)等の金属膜が積層されるように、スパッタリング法で成膜される。
【0112】
このように、本実施形態によれば、薄膜を積層することで有機EL素子200を形成することができる。本実施形態に係る有機EL素子200は、陰極側から膜を積層する逆積み構造であるが、電子輸送層106及び電子注入層110を金属酸化物で形成することで、製造工程の中でダメージを受けにくい構造を有する。また、第2電極108を、アルカリ金属を用いずに、電子輸送層106を同じ層の中に形成することで、製造工程の負担を減らし、素子として化学的に安定な構造とすることができる。
【0113】
第2実施形態:
本実施形態は、第1実施形態で示す有機EL素子に対し、陰極の構成が異なる有機EL素子について説明する。以下の説明においては、第1実施形態と相違する部分について説明し、共通する部分については説明を省略する。
【0114】
図10は、本実施形態に係る有機EL素子202aの断面構造を示す。有機EL素子202aは、第1電子輸送層106aが第1電極102より幅広に設けられる。第1電子輸送層106aの少なくとも一部の外端部は、第1電極102の外側に配置される。これにより、第1電子輸送層106aは、第1絶縁層104を介して第1電極102と重なる領域を含み、さらにその領域の外側に、第1電極102と重ならない領域を含む。第2電極108bは、第1電子輸送層106aの第1絶縁層104側とは反対側の面上に配置される。第2電極108bは、第1電子輸送層106aが第1電極102と重ならない領域、すなわち、第1電子輸送層106aの端部と第1電極102の端部との間の領域に配置される。
【0115】
第1電子輸送層106aは、第1実施形態と同様に金属酸化物材料、金属窒化物材料、金属酸窒化物材料を用いて形成される。第1電子輸送層106aは、好ましくは酸化物半導体材料で形成される。第2電極108bは、このような第1電子輸送層106aとオーミック接触する導電性材料を用いて形成される。導電性材料としては、例えば、金属材料、金属酸化物材料、金属酸窒化物材料が用いられる。
【0116】
第2電極108bを形成する金属材料として、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、コバルト(Co)等の酸素親和性の高い金属材料が用いられる。例えば、第2電極108bをチタン(Ti)で形成し、酸化物半導体で形成された第1電子輸送層106aと接して設けることができる。この場合、酸素親和性が高いチタン(Ti)は、酸化物半導体から酸素を引き抜き、酸化物半導体中に酸素欠損を生成させる作用を有する。酸化物半導体は酸素が引き抜かれるとドナー準位が形成され、低抵抗化する。結果として、第2電極108bと第1電子輸送層106aとはオーミック接触を形成することができる。
【0117】
第2電極108bを形成する金属酸化物材料としては、酸化インジウム錫(In・SnO:ITO)、酸化インジウム亜鉛(In・ZnO:IZO)、酸化錫(SnO)酸化チタン(TiO)等を用いることができる。金属窒化物材料としては、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)等が用いられる。金属酸窒化物材料としては、酸窒化チタン(TiO)、酸窒化タンタル(TaO)、酸窒化ジルコニウム(ZrO)、酸窒化ハフニウム(HfO)等が用いられる。これらの金属酸化物材料、金属窒化物材料、金属酸窒化物材料に対して、導電性を向上させる微量の金属元素が添加されていてもよい。例えば、ニオブがドープされた酸化チタン(TiO:Nb)を用いてもよい。このような、金属酸化物材料、金属窒化物材料、金属酸窒化物材料を用いることで、金蔵残化物材料で形成される第1電子輸送層106aとオーミック接触を形成することができる。また、モリブデンシリサイド(MoSi)、タングステンシリサイド(WSix)、ジルコニウムシリサイド(ZrSi)等の高融点金属のシリサイド化合物も第2電極108bとして用いることができる。
【0118】
有機EL素子202aは、第1電子輸送層106aの表面に接して第2電極108bを設けることで、接触面積を大きくすることができる。これにより、有機EL素子202aは直列抵抗成分が低減され駆動電圧を低くすることができる。また、有機EL素子202aは、第2電極108bに流れ込む電流密度を低くすることができる。
【0119】
第2電極108bは、第1電子輸送層106aの外周を囲むように設けることが好ましい。このような第2電極108bの配置により、第1電子輸送層106aの中央領域から第2電極108bまでの長さを全周に亘って均等にすることができる。しかしながら、本発明の一実施形態に係る有機EL素子200は、このような配置に限定されず、第2電極108bは、第1電子輸送層106aの周縁部において、一部の領域に設けられていればよい。例えば、図11に示すように、第2電極108bは、第1電子輸送層106aの周縁部における一部の領域に設けられていてもよい。第1電子輸送層106aの抵抗値が小さければ(キャリア濃度(電子濃度)が高ければ)、図11に示すように、第1電子輸送層106aの一部分と接するように第2電極108bを設けることができる。
【0120】
図12は、本実施形態に係る有機EL素子202bの断面構造を示す。有機EL素子202bは、第2電極108bが第1絶縁層104と接して設けられ、第1電子輸送層106aが第2電極108bを覆うように設けられている点が、図10に示す有機EL素子202aと相違する。第2電極108bは、第1絶縁層104に接して設けられることで、エッチング加工時の選択比を高くすることができ、陰極のパターニングを容易に行うことができる。
【0121】
有機EL素子202bは、第2電極108bの上面が第1電子輸送層106aと接触して設けられることで、接触面積を大きくすることができる。これにより、有機EL素子202bは直列抵抗成分が低減され駆動電圧を低くすることができる。また、有機EL素子202bは、第2電極108bに流れ込む電流密度を低くすることができる。さらに、有機EL素子202bは、第2電極108bが先に形成されていることにより、第1電子輸送層106aの表面欠陥が少ない領域で第2電極108bと接触することができる。なお、図12に示す第2電極108bの配置においても、図11を参照して説明したように、第1電子輸送層106aの周縁部の一部分で接触するように設けられていてもよい。
【0122】
本実施形態に係る有機EL素子202a、202bは、第2電極108b及び第1電子輸送層106aの構成が相違する他は、第1実施形態と同様であり、同様の作用効果を奏することができる。
【0123】
第3実施形態:
本実施形態は、第1実施形態及び第2実施形態で示す有機EL素子に対し、陰極及び電子輸送層の構成が異なる有機EL素子について示す。以下の説明においては、第1実施形態と相違する部分について説明し、共通する部分については説明を省略する。
【0124】
図13は、本実施形態に係る有機EL素子204の断面構造を示す。有機EL素子204は、電子輸送層106(第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b)が、第1絶縁層104の上に積層して設けられている点で相違する。第1電子輸送層106aと第2電子輸送層106bとは、積層して設けられる。第2電子輸送層106bは、第2絶縁層120の下層側に設けられ、第2絶縁層120の開口部124によって露出される。第2電子輸送層106bは、開口部124において電子注入層110と接している。
【0125】
第1電子輸送層106aと第2電子輸送層106bとは、異なる組成で形成されていることが好ましい。第1実施形態と同様に、第1電子輸送層106aは、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)等が含有されないスズ(Sn)系の酸化物半導体(InGaSnOx、InWSnOx、InSiSnOx)で形成されることが好ましい。第2電子輸送層106bは、スズ(Sn)を含有しない亜鉛(Zn)系の酸化物半導体(ZnSiOx、ZnMgOx、ZnGaOx等)で形成されることが好ましい。
【0126】
図13に示すように、第1電子輸送層106aと第2電子輸送層106bとを積層して設けることで、製造工程を簡略化することができる。第1電子輸送層106a及び第2電子輸送層106bは、スパッタリング法で成膜するときに双方の層を連続的に成膜することができる。また、第1電子輸送層106a及び第2電子輸送層106bは、フォトリソグラフィ工程で同時にパターニングすることが可能となる。
【0127】
第2電極108は、第1電子輸送層106a及び第2電子輸送層106bを低抵抗化することで形成される。また、図示されないが、第2電極108は、図12に示すように、金属材料、金属酸化物材料、金属酸窒化物材料を用いて形成されていてもよい。
【0128】
本実施形態の有機EL素子204によれば、第1電子輸送層106a及び第2電子輸送層106bを積層することにより、素子の構造及び製造工程を簡略化することができる。有機EL素子204は、第1電子輸送層106a及び第2電子輸送層106bの構成が相違する他は、第1実施形態と同様であり、同様の作用効果を奏することができる。
【0129】
第4実施形態
本実施形態は、第1実施形態で示す有機EL素子に対し、第2電子輸送層106b及び電子注入層110の構成が異なる有機EL素子について示す。以下の説明においては、第1実施形態と相違する部分について説明し、共通する部分については説明を省略する。
【0130】
図14は、本実施形態に係る有機EL素子206の断面構造を示す。有機EL素子206は、第2電子輸送層106b及び電子注入層110が、第2絶縁層120の開口部124a及び第3絶縁層122の開口部124bの配置に合わせてパターニングされている点で、第1実施形態に示す有機EL素子200と相違する。
【0131】
第2電子輸送層106b及び電子注入層110は、開口部124a、124bを覆うように設けられる。第2電子輸送層106b及び電子注入層110の端部は、第3絶縁層122の上に位置し、発光層112の端部より内側に配置される。このような構造は、発光層112を形成する前に、第2電子輸送層106bと電子注入層110の2層を、フォトリソグラフィ工程とエッチング工程により加工することで得ることができる。
【0132】
第1実施形態で述べたように、第2電子輸送層106bのキャリア濃度(電子濃度)は1011/cm~1017/cmの範囲にあり、半導体性を有する。有機EL素子206の端部において、半導体性を有する第2電子輸送層106bが、単位素子の端部に露出しない構造とすることで、隣接する単位素子に流れるリーク電流を低減することができる。また、平面視において、第2電子輸送層106b及び電子注入層110を発光層112よりも小さくなるように成形し、発光層112によって覆われる構造とすることで、正孔輸送層114が第2電子輸送層106b及び電子注入層110と接することを防ぐことができる。
【0133】
本実施形態によれば、第2電子輸送層106b及び電子注入層110を酸化物半導体で形成することで、フォトリソグラフィ工程によるパターニングが可能となり、有機EL素子206にリーク電流が流れることを防止することができる。有機EL素子206は、第2電子輸送層106b及び電子注入層110の構成が異なる他は、第1実施形態と同様であり、同様の作用効果を奏することができる。なお、本実施形態に示す第2電子輸送層106b及び電子注入層110の構成は、第2実施形態に示す有機EL素子202に適用することもできる。
【0134】
第5実施形態:
本実施形態は、第1実施形態で示す有機EL素子に対し、第3絶縁層122の構成が異なる有機EL素子について示す。以下の説明においては、第1実施形態と相違する部分について説明し、共通する部分については説明を省略する。
【0135】
図15は、本実施形態に係る有機EL素子208の断面構造を示す。有機EL素子208は、第3絶縁層122に形成される開口部124bの端部が、第2絶縁層120の開口部124aの端部より内側に配置されている点で、第1実施形態における有機EL素子200と相違する。本実施形態において、第3絶縁層122は、ポリイミド、アクリル、エポキシ等の感光性を有する有機樹脂材料で形成されることが好ましい。
【0136】
第3絶縁層122は、有機樹脂材料で形成されることで、開口部124bの側壁を傾斜面にすると共に曲面にすることができる。別言すれば、第3絶縁層122を有機樹脂材料で形成することで、開口部124bの開口端を断面視において、曲面形状に成形することができる。開口部124bの開口端が曲面形状を有することにより、第2電子輸送層106b、電子注入層110、発光層112、正孔輸送層114、及び正孔注入層116を、第1電子輸送層106aの上面から第3絶縁層122の表面に沿って形成することができる。すなわち、開口部124bの段差によって、有機EL素子208にクラック等の不良が発生することを防止することができる。
【0137】
第2絶縁層120の開口部124aの開口端は、第3絶縁層122に埋設される。これにより、第2絶縁層120aの開口部124aの端部はテーパー状に成形する必要はない。第2絶縁層120の開口部124aの端部が垂直であっても、第2電子輸送層106b、電子注入層110、発光層112等の各層の段差被覆性に影響を及ぼすことがない。
【0138】
このように、本実施形態によれば、第3絶縁層122の開口部124bの端面を曲面形状とし、第2絶縁層120の開口部124aの端部を覆うようにすることで、第2電子輸送層106b、電子注入層110、発光層112等の段切れを防止することができる。また、第2絶縁層120の開口部124aをテーパー状にエッチングしなくても済むので、生産性を高めることができる。
【0139】
図16に示すように、第3実施形態と同様にして第1電子輸送層106aと第2電子輸送層106bとを積層し、さらに電子注入層110を積層して設け、パターニングした後に、感光性を有する樹脂材料で第3絶縁層122を設けてもよい。第1電子輸送層106aと第2電子輸送層106b、及び電子注入層110を無機材料で形成することで、これらの層の上に、感光性を有する樹脂材料で第3絶縁層122を形成し、開口部124bを設けることができる。それにより、素子の構造及び製造工程を簡略化することができる。
【0140】
有機EL素子208は、第2絶縁層120及び第3絶縁層122の構成が異なる他は、第1実施形態と同様であり、同様の作用効果を奏することができる。本実施形態の構成は、他の実施形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【0141】
第6実施形態:
本実施形態は、所謂順積み構造を有し、キャリア注入量を制御する第1電極を備えた有機EL素子について示す。なお、本実施形態に係る有機EL素子は積層順が第1実施形態における有機EL素子と異なるものの、各層を形成する材料は同じである。
【0142】
有機EL素子210は、基板100側から、第3電極118、正孔注入層116、正孔輸送層114、発光層112、電子注入層110、電子輸送層106、第1絶縁層104、第1電極102が積層された構造を有する。第3電極118は、周縁部が第2絶縁層120で覆われており、開口部124において正孔注入層116と接している。
【0143】
有機EL素子210は、第2絶縁層120の開口部124において、第3電極118、正孔注入層116、正孔輸送層114、発光層112、電子注入層110、電子輸送層106が重なる領域が発光領域となる。第1電極102は、第1絶縁層104を介して電子輸送層106と重なることで、キャリア(電子)の発光層112への注入量を制御可能となるように配置される。第2電極108は、電子輸送層106上に設けられ、開口部124と重ならない領域に配置される。
【0144】
図17は、第3電極118が透明導電膜で形成され、第1電極102が金属膜で形成された、ボトムエミッション型の構成を示す。一方、図示されないが、有機EL素子210は、第3電極118に光反射面を形成し、第1電極102を透明導電膜で形成することで、トップエミッション型とすることも可能である。
【0145】
トップエミッション型であっても、有機EL素子210は、積層構造において、第2電極108と第1電極102との間に第1絶縁層104が介在し、第2電極108と第3電極118との間には第2絶縁層120が少なくとも介在することとなる。また、第2電極108の端部は、第2絶縁層120の開口部124の端部より外側に配置され、オフセット領域126を有している。
【0146】
本実施形態で示すように、電子輸送層上に絶縁層を介してキャリア注入量制御電極を設けることにより、順積み構造の有機EL素子においても、発光層へのキャリア注入量をバイアス電圧によって制御可能とすることができる。それにより、第1実施形態で示される有機EL素子200と同様の作用効果を奏する有機EL素子206を得ることができる。
【0147】
第7実施形態:
本実施形態は、本発明の一実施形態に係る有機EL素子で画素が構成された表示装置(有機EL表示装置)の一例について説明する。
【0148】
図18は、本発明の一実施形態に係る表示装置の画素300の等価回路を示す。画素300は、有機EL素子200に加え、選択トランジスタ136、駆動トランジスタ138、容量素子140を含む。選択トランジスタ136はゲートが走査信号線132と電気的に接続され、ソースがデータ信号線134と電気的に接続され、ドレインが駆動トランジスタ138のゲートと電気的に接続される。駆動トランジスタ138は、ソースがコモン電位線144と電気的に接続され、ドレインが有機EL素子200の第2電極108と電気的に接続される。容量素子140は、駆動トランジスタ138のゲートとコモン電位線144との間に電気的に接続される。有機EL素子200は、第1電極102がキャリア注入量制御信号線146と電気的に接続され、第3電極118が電源線142と電気的に接続される。
【0149】
なお、図18では有機EL素子200の接続構造を具体的に示すため、有機EL素子200を記号で示すのではなく、電極の配置が実際の素子構造と対応するように模式的に示している。また、図18においては、第1実施形態における有機EL素子200を示すが、本実施形態はこれに限定されず、第2実施形態乃至第6実施形態に示す有機EL素子を適用することができる。
【0150】
図18に示す画素300の等価回路において、走査信号線132には走査信号が与えられ、データ信号線134にはデータ信号(ビデオ信号)が与えられる。電源線142には、電源電位(Vdd)が与えられ、コモン電位線144には接地電位(アース電位)又は電源電位(Vdd)より低電位の電位(Vss)が印加される。キャリア注入量制御信号線146には、図6を参照して説明したように、発光層112へのキャリア注入量を制御する電圧(Vg)が印加される。キャリア注入量を制御する電圧(Vg)は一定の正電圧であっても良いし、図6に示すように所定の電圧Vg1とVg2の間で変動する電圧であってもよい。
【0151】
図18に示す画素300において、駆動トランジスタ138のゲートには、選択トランジスタ136がオンになったとき、データ信号線134からデータ信号に基づく電圧が印加される。容量素子140は、駆動トランジスタ138のソース-ゲート間の電圧を保持する。駆動トランジスタ138のゲートがオンになると、有機EL素子200には、電源線142から電流が流れ込み発光する。このとき第1電極102にキャリア注入量を制御する電圧(Vg)を印加すると、有機EL素子200の発光強度を制御することのみならず、発光層112における電子と正孔が再結合する領域(別言すれば発光領域)の位置を制御することができる。すなわち、発光層112におけるキャリアバランスの制御することができる。
【0152】
本実施形態によれば、キャリア注入量制御電極(第1電極102)が設けられた有機EL素子で画素300を形成すると共に、キャリア注入量制御信号線を設け、当該キャリア注入量制御電極(第1電極102)と接続することで、有機EL素子の発光状態を制御することができる。すなわち、有機EL素子の発光を駆動トランジスタのみによって制御するのではなく、キャリア注入量制御電極によって制御することで、有機EL素子の劣化を抑制することができ、有機EL表示装置の信頼性を高めることができる。
【0153】
第8実施形態:
本実施形態は、本発明の一実施形態に係る有機EL素子で画素が構成された表示装置(有機EL表示装置)の一例について説明する。
【0154】
図19は、本実施形態に係る表示装置に設けられる画素302の等価回路の一例を示す。画素302は、第7実施形態と同様に、有機EL素子200に加え、選択トランジスタ136、駆動トランジスタ138、容量素子140を含む。選択トランジスタ136はゲートが走査信号線132と電気的に接続され、ソースがデータ信号線134と電気的に接続され、ドレインが駆動トランジスタ138のゲートと電気的に接続される。駆動トランジスタ138は、ソースがコモン電位線144と電気的に接続され、ドレインが有機EL素子200の第2電極108と電気的に接続される。容量素子140は、駆動トランジスタ138のゲートとコモン電位線144との間に電気的に接続される。有機EL素子200は、第1電極102がキャリア注入量制御信号線146と電気的に接続され、第3電極118が電源線142と電気的に接続される。なお、図19は、選択トランジスタ136及び駆動トランジスタ138がデュアルゲート型である場合を示す。
【0155】
図20は、本実施形態に係る表示装置の画素302の平面図を示す。また、図21(A)は、図20に示すA1-A2線に沿った断面構造を示し、図21(B)は、図20に示すB1-B2線に沿った断面構造を示す。以下の説明においては、これらの図面を参照する。
【0156】
画素302は、選択トランジスタ136、駆動トランジスタ138、容量素子140、及び有機EL素子200が配置される。図20に示す画素302に平面図においては、有機EL素子200の構成要素として、第1電極102、第1電子輸送層106a、及び開口部124の配置が示されている。
【0157】
駆動トランジスタ138は、第1酸化物半導体層152a、第1ゲート電極154a、第2ゲート電極156aを含んで構成される。第1ゲート電極154aと第2ゲート電極156aとは、第1酸化物半導体層152aを挟んで重なる領域を有するように配置される。第1酸化物半導体層152aと基板100との間には、第1絶縁層104が配置される。第1ゲート電極154aは、第1絶縁層104と基板100との間に配置される。また、第1酸化物半導体層152aと第2ゲート電極156aとの間には第2絶縁層120が配置される。別言すれば、第1酸化物半導体層152aは、第1絶縁層104と第2絶縁層120とに挟まれて配置され、第1ゲート電極154aと第2ゲート電極156aとの間には、第1絶縁層104、第1酸化物半導体層152a、及び第2絶縁層120が介在する。
【0158】
本実施形態において、駆動トランジスタ138は、第1酸化物半導体層152aが、第1ゲート電極154aと第2ゲート電極156aとで挟まれたデュアルゲート構造を有する。駆動トランジスタ138は、第1酸化物半導体層152aが、第1ゲート電極154a及び第2ゲート電極156aの一方又は双方と重なる領域にチャネル領域が形成される。また、第1酸化物半導体層152aは、第1ゲート電極154a及び第2ゲート電極156aと重ならない外側の領域に、チャネル領域が形成される領域と比べて比抵抗の小さい低抵抗領域が設けられていてもよい。図21(A)は、この比抵抗の低い領域を、ソース領域158a、ドレイン領域160aとして示す。
【0159】
第1酸化物半導体層152aにおいて、チャネル領域となる領域のキャリア濃度は1×1014~5×1018/cmであることが好ましく、ソース領域158a及びドレイン領域160aのキャリア濃度は1×1019~5×1021/cm程度となることが好ましい。ソース領域158a及びドレイン領域160aのキャリア濃度は、例えば、第1酸化物半導体層152aに酸素が欠損したドナー準位の密度を高めることで、増加させることができる。第1酸化物半導体層152aの酸素欠損は、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)等の希ガスを用いたプラズマ処理、水素プラズマ処理、レーザ光の照射によって生成することができる。
【0160】
駆動トランジスタ138は、第1酸化物半導体層152aと第1絶縁層104との間に、第1透明導電層148aと第2透明導電層148bとが配置される。第1透明導電層148aと第2透明導電層148bとは、互いに離間して配置される。また、第1透明導電層148aと第1酸化物半導体層152aとの間には導電層150aが配置され、第2透明導電層148bと第1酸化物半導体層152aとの間には導電層150bが配置される。導電層150aは第1透明導電層148aの端部に至らない内側に配置され、導電層150bは第2透明導電層148bの端部に至らない内側に配置される。第1透明導電層148a及び導電層150aはドレイン領域160aと接するように配置され、第2透明導電層148b及び導電層150bはソース領域158aと接するように配置される。
【0161】
第1透明導電層148aと第2透明導電層148bとが離間する領域に、第1ゲート電極154aと第2ゲート電極156aとが重なるように配置される。第1透明導電層148a及び第2透明導電層148bは、一部の領域が第1ゲート電極154a及び第2ゲート電極156aの一方又は双方と重なるように配置されていてもよい。第1透明導電層148a及び第2透明導電層148bの少なくとも一方が、第1酸化物半導体層152aのチャネル領域に隣接するように第1ゲート電極154a及び第2ゲート電極156aの一方又は双方と重畳して配置されることで、駆動トランジスタ138のドレイン電流を増加させることができる。
【0162】
駆動トランジスタ138のソース領域158aは、第1絶縁層104に設けられたコンタクトホールを介してコモン電位線144と電気的に接続される。一方、第1酸化物半導体層152aのドレイン領域160a側は、有機EL素子200が配置される領域まで広がって設けられる。すなわち、第1酸化物半導体層152aは、第1絶縁層104を挟んで第1電極102と重畳するように配置される。そして、第1酸化物半導体層152aが第1電極102と重なる領域は、キャリア濃度が1×1014~1×1019/cmの範囲に調整されて、第1電子輸送層106aとして機能する。また、第1酸化物半導体層152aは、第1電子輸送層106aとして機能する領域に隣接して第2電極108として機能する領域を含む。第1酸化物半導体層152aが第2電極108として機能する領域は、ドレイン領域160aから連続する領域である。本実施形態で示すように、第1酸化物半導体層152aのキャリア濃度を領域毎に制御することで、駆動トランジスタ138と有機EL素子200とが酸化物半導体層によって接続された構造を形成することができる。これにより、画素302の構造を簡略化することができる。
【0163】
図21(B)に示すように、選択トランジスタ136は、駆動トランジスタ138と同様な構造を有する。すなわち、選択トランジスタ136は、第2酸化物半導体層152b、第1ゲート電極154b、及び第2ゲート電極156bを含む。また、第2酸化物半導体層152bに接して第3透明導電層148c及び導電層150c、並びに第4透明導電層148d及び導電層150dを含む。第2酸化物半導体層152bは、低比抵抗領域として、ソース領域158b、ドレイン領域160bが形成されてもよい。導電層150cは、データ信号線134を形成する。
【0164】
選択トランジスタ136のドレイン領域160bは、第1絶縁層104に設けられたコンタクトホールを介して、駆動トランジスタ138の第1ゲート電極154aと電気的に接続される。例えば、ドレイン領域160bと第1ゲート電極154aとの間には、第4透明導電層148d及び導電層150dが設けられていてもよい。選択トランジスタ136のドレイン領域160bは、また、第2絶縁層120に設けられたコンタクトホールを介して、駆動トランジスタ138の第2ゲート電極156aと電気的に接続される。このように、第2酸化物半導体層152bに設けられるドレイン領域160bは、第4透明導電層148d及び導電層150dと積層されることで、駆動トランジスタ138のゲート電極と電気的な接続を形成することが容易となる。
【0165】
容量素子140は、第4透明導電層148dが、第1絶縁層104を介して容量電極162と重畳する領域に形成される。容量電極162は、コモン電位線144を兼ねて形成される。
【0166】
なお、本実施形態において、酸化物半導体層152は、第1実施形態で述べる酸化物半導体材料と同じ材料を用いることができる。また、第1絶縁層104及び第2絶縁層120は、無機絶縁材料が用いられる。無機絶縁材料としては、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム等が用いられる。
【0167】
また、透明導電層148は、金属酸化物材料として、酸化チタン(TiO)等を適用することができ、金属窒化物材料としては、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)等を適用することができ、金属酸窒化物材料としては、酸窒化チタン(TiO)、酸窒化タンタル(TaO)、酸窒化ジルコニウム(ZrO)、酸窒化ハフニウム(HfO)等を適用することができる。また、これらの金属酸化物材料、金属窒化物材料、金属酸窒化物材料に、導電性を向上させる微量の金属元素が添加されていてもよい。例えば、ニオブがドープされた酸化チタン(TiO:Nb)を用いてもよい。
【0168】
導電層150としては、アルミニウム(Al)、銅(Cu)等の導電率の高い金属材料が用いられる。例えば、導電層150c(データ信号線134)は、アルミニウム合金、銅合金、または銀合金を用いて作製される。また、コモン電位線144、及びコモン電位線144と同層で形成される第1ゲート電極154もアルミニウム合金、銅合金、または銀合金を用いて作製されることが好ましい。第2ゲート電極156、走査信号線132は、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)等の金属材料を用いて作製される。アルミニウム合金としては、アルミニウム・ネオジム合金(Al-Nd)、アルミニウム・チタン合金(Al-Ti)、アルミニウム・シリコン合金(Al-Si)、アルミニウム・ネオジム・ニッケル合金(Al-Nd-Ni)、アルミニウム・カーボン・ニッケル合金(Al-C-Ni)、銅・ニッケル合金(Cu-Ni)等を適用することができる。このような金属材料を用いれば、耐熱性を有すると共に、配線抵抗を低減することができる。
【0169】
有機EL素子200は、第1実施形態で示す構成と同様な構成を有する。有機EL素子200は、駆動トランジスタ138と電気的に接続される。有機EL素子200は、第2電極108に相当する領域が、駆動トランジスタ138の第1酸化物半導体層152aから連続して形成される。このような構造により、配線の引き回しが簡略化され、画素302の開口率(一つの画素が占める面積に対する、有機EL素子が実際に発光する領域の割合)を高めることができる。なお、有機EL素子200は、第2実施形態乃至第6実施形態で示す有機EL素子に置き換えることができる。
【0170】
なお、画素の開口率を高めるためには、第1電子輸送層106aの電子移動度を高める必要がある。例えば、解像度が8K×4K(7680×4320ピクセル)、85インチの表示パネルにおける画素ピッチは約244μmとなる。ここで、長方形状の画素を想定した場合、長手方向の長さは約732μmとなる。有機EL素子に電圧が印加されてから発光するまでの時間が約4~5μsecであるとし、長方形状の画素の長手方向の一端に第2電極108に相当する領域を設けた場合、第1電子輸送層106aのキャリア(電子)移動度は10cm/V・sec以上、好ましくは20cm/V・sec以上でないと、画素の長手方向の他端までキャリア(電子)を到達させることが困難となる。
【0171】
もちろん、長方形状の画素の四方を囲むように第2電極108に相当する領域を設ければ、キャリアは四方から中央に向かってドリフトされるので、キャリア(電子)移動度は2.5cm/V・sec程度あれば済むこととなる。しかしこの場合には、一つの画素当たりの有効発光領域が減少し、開口率が低下することが問題となる。
【0172】
このような状況において、本実施形態で例示されるような酸化物半導体材料であれば、要求されるキャリア(電子)移動度を実現することが可能となる。一方、特許文献3、4に記載されるような有機材料で形成される電子輸送層は、キャリア(電子)移動度が0.12.5cm/V・sec以下であるため、表示パネルの大画面化と高精細化を実現できないという問題を有する。
【0173】
このように、本実施形態に係る表示装置は、有機EL素子を形成する電子輸送層として酸化物半導体層を用いることで、酸化物半導体層を用いて作製される駆動トランジスタ及び選択トランジスタ等の素子と同じ製造工程を通して作製することができる。また、本実施形態に係る表示装置は、有機EL素子にキャリア注入量制御電極を設けると共に、このキャリア注入量制御電極に対し絶縁層を介してキャリア(電子)移動度の高い電子輸送層を配置することで、画素面内の発光強度を均一化させ、高精細化に対応することができる。
【符号の説明】
【0174】
100・・・基板、102・・・第1電極(キャリア注入量制御電極)、104・・・第1絶縁層、106・・・電子輸送層、107・・・酸化物半導体膜、108・・・第2電極(陰極)、109・・・マスク層、110・・・電子注入層、112・・・発光層、114・・・正孔輸送層、116・・・正孔注入層、118・・・第3電極(陽極)、120・・・第2絶縁層、122・・・第3絶縁層、124・・・開口部、126・・・オフセット領域、128・・・電源、130・・・スイッチ、132・・・走査信号線、134・・・データ信号線、136・・・選択トランジスタ、138・・・駆動トランジスタ、140・・・容量素子、142・・・電源線、144・・・コモン電位線、146・・・キャリア注入量制御信号線、148・・・透明導電層、150・・・導電層、152・・・酸化物半導体層、154・・・第1ゲート電極、156・・・第2ゲート電極、158・・・ソース領域、160・・・ドレイン領域、162・・・容量電極、200~210・・・有機EL素子、300、302・・・画素
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