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特開2023-142062情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
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  • 特開-情報処理装置、情報処理方法及びプログラム 図1
  • 特開-情報処理装置、情報処理方法及びプログラム 図2A
  • 特開-情報処理装置、情報処理方法及びプログラム 図2B
  • 特開-情報処理装置、情報処理方法及びプログラム 図3
  • 特開-情報処理装置、情報処理方法及びプログラム 図4A
  • 特開-情報処理装置、情報処理方法及びプログラム 図4B
  • 特開-情報処理装置、情報処理方法及びプログラム 図5
  • 特開-情報処理装置、情報処理方法及びプログラム 図6
  • 特開-情報処理装置、情報処理方法及びプログラム 図7A
  • 特開-情報処理装置、情報処理方法及びプログラム 図7B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142062
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20230928BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20230928BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20230928BHJP
【FI】
E01D22/00 A
E01D1/00 E
G01M99/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048734
(22)【出願日】2022-03-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】591115475
【氏名又は名称】株式会社三菱総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】519050484
【氏名又は名称】エム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 文平
(72)【発明者】
【氏名】竹末 直樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩
(72)【発明者】
【氏名】加藤 新一
(72)【発明者】
【氏名】中村 真人
(72)【発明者】
【氏名】老田 侑平
【テーマコード(参考)】
2D059
2G024
【Fターム(参考)】
2D059GG39
2G024AD34
2G024FA06
2G024FA11
(57)【要約】
【課題】非破壊検査を行うべき測定箇所を適切に決定するための情報処理装置等を提供する。
【解決手段】情報処理装置は、構造物に関する情報を読み出す読出部10と、読出部10で読み出された構造物に含まれる複数の構造部品のうち、1つ以上の構造部品の所定箇所における強度に関する情報を変化させて、構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測する推測部20と、推測部20による推測結果を出力する出力部70と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非破壊検査を行うべき場所を推測するための情報処理装置であって、
構造物に含まれる複数の構造部品に関する情報を読み出す読出部と、
読出部で読み出された構造物に含まれる複数の構造部品のうち、1つ以上の構造部品の所定箇所における強度に関する情報を変化させて、構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測する推測部と、
推測部による推測結果を出力する出力部と、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
推測部はX線非破壊検査を行うべき場所を特定するための情報を推測する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
推測部による計算対象を絞り込むための最適化部を備え、
推測部による推測結果を用いて最適化部が、次に強度を変化させる構造部品及び当該構造部品の箇所を指定する、請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
推測部は、最適化部によって指定された構造部品及び当該構造部品の箇所の強度を変化させ、
最適化部は、前回及び前々回における推測部による推測結果を用いて、次に強度を変化させる構造部品及び当該構造部品の箇所を指定する、請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
推測部は、入力された構造物に対する目視検査の結果も用いて構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
構造部品は鋼部材であり、
推測部は、鋼部材の1つ以上の所定箇所の断面積を小さくすることで、構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
構造物は橋梁であり、
推測部は、橋梁に用いられる鋼部材の1つ以上の所定箇所の断面積を小さくすることで、橋梁のいずれの箇所で大きな撓み又は歪みが発生するかを推測する、請求項6に記載の情報処理装置。
【請求項8】
構造物を複数のエリアに分割する分割部を備え、
推測部は分割部で分割されたエリア毎に発生する構造上の影響を推測する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
読出部によって、構造物に含まれる複数の構造部品に関する情報を読み出す工程と、
推測部によって、読出部で読み出された構造物に含まれる複数の構造部品のうち、1つ以上の構造部品の所定箇所における強度に関する情報を変化させて、構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測する工程と、
出力部によって、推測部による推測結果を出力する工程と、
を備え、
非破壊検査を行うべき場所を推測するための情報を提供する情報処理方法。
【請求項10】
情報処理装置にインストールされるプログラムであって、
前記プログラムがインストールされた情報処理装置に、
構造物に含まれる複数の構造部品に関する情報を読み出す読出機能と、
読出機能で読み出された構造物に含まれる複数の構造部品のうち、1つ以上の構造部品の所定箇所における強度に関する情報を変化させて、構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測する推測機能と、
推測部による推測結果を出力する出力機能と、
を実行させることで、非破壊検査を行うべき場所を推測するための情報を提供できる情報処理装置を生成するためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非破壊検査を行うべき場所を推測するための情報処理装置、情報処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁等の構造物は定期的に目視検査(定期目視検査)がなされ、当該目視検査では表面のひび割れの検査が行われたりする。目視検査で問題がありそうな場合には、問題がありそうな箇所に対して詳細点検が行われることになるが、その一つの手段として、X線非破壊検査等の非破壊検査が行われる。
【0003】
特許文献1では、構造物中に埋設されたPC鋼材の劣化状況を非破壊検査により判別するためのPC鋼材劣化状況判別システムが提案されているが、新たに劣化状況を判別するPC鋼材が埋設された構造物に対して非破壊検査を行うことにより得られた検査データを入力することが前提となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6321878号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非破壊検査は一般的に局所的にしか行うことができないことから、橋梁等の大型の構造物を測定対象とする場合には、全体にわたって広範囲に実施することは現実的に不可能であり、必要な検査箇所の抽出が必須となる。そして、一般的には橋梁等の大型の構造物に対する非破壊検査は高額であることから、非破壊検査を行う回数を抑えたいというニーズがある。また非破壊検査として放射線を用いる場合には、作業者の被ばくリスクや環境影響を最小限にするために、検査箇所を可能な限り限定することが望ましい。
【0006】
本発明では、非破壊検査を行うべき測定箇所を適切に決定するための情報処理装置、情報処理方法及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による情報処理装置は、
非破壊検査を行うべき場所を推測するための情報処理装置であって、
構造物に含まれる複数の構造部品に関する情報を読み出す読出部と、
読出部で読み出された構造物に含まれる複数の構造部品のうち、1つ以上の構造部品の所定箇所における強度に関する情報を変化させて、構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測する推測部と、
推測部による推測結果を出力する出力部と、
を備えてもよい。
【0008】
本発明による情報処理装置において、
推測部はX線非破壊検査を行うべき場所を特定するための情報を推測してもよい。
【0009】
本発明による情報処理装置は、
推測部による計算対象を絞り込むための最適化部を備え、
推測部による推測結果を用いて最適化部が、次に強度を変化させる構造部品及び当該構造部品の箇所を指定してもよい。
【0010】
本発明による情報処理装置において、
推測部は、最適化部によって指定された構造部品及び当該構造部品の箇所の強度を変化させ、
最適化部は、前回及び前々回における推測部による推測結果を用いて、次に強度を変化させる構造部品及び当該構造部品の箇所を指定してもよい。
【0011】
本発明による情報処理装置において、
推測部は、入力された構造物に対する目視検査の結果も用いて構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測してもよい。
【0012】
本発明による情報処理装置において、
構造部品は鋼部材であり、
推測部は、鋼部材の1つ以上の所定箇所の断面積を小さくすることで、構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測してもよい。
【0013】
本発明による情報処理装置において、
構造物は橋梁であり、
推測部は、橋梁に用いられる鋼部材の1つ以上の所定箇所の断面積を小さくすることで、橋梁のいずれの箇所で大きな撓み又は歪みが発生するかを推測してもよい。
【0014】
本発明による情報処理装置において、
構造物を複数のエリアに分割する分割部を備え、
推測部は分割部で分割されたエリア毎に発生する構造上の影響を推測してもよい。
【0015】
本発明による情報処理方法は、
読出部によって、構造物に含まれる複数の構造部品に関する情報を読み出す工程と、
推測部によって、読出部で読み出された構造物に含まれる複数の構造部品のうち、1つ以上の構造部品の所定箇所における強度に関する情報を変化させて、構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測する工程と、
出力部によって、推測部による推測結果を出力する工程と、
を備え、
非破壊検査を行うべき場所を推測するための情報を提供してもよい。
【0016】
本発明によるプログラムは、
情報処理装置にインストールされるプログラムであって、
前記プログラムがインストールされた情報処理装置に、
構造物に含まれる複数の構造部品に関する情報を読み出す読出機能と、
読出機能で読み出された構造物に含まれる複数の構造部品のうち、1つ以上の構造部品の所定箇所における強度に関する情報を変化させて、構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測する推測機能と、
推測部による推測結果を出力する出力機能と、
を実行させることで、非破壊検査を行うべき場所を推測するための情報を提供できる情報処理装置を生成するものであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非破壊検査を行うべき測定箇所を適切に決定するための情報処理装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態による情報処理装置の概略ブロック図。
図2A】構造物の一例である橋梁を示した図。
図2B図2Aに示す構造物に関し、構造上の影響を示した図。
図3】橋梁で用いられる鋼部材の所定箇所を特定し、所定箇所の鋼部材の断面積を減少させる態様を説明するための図。
図4A】ベイズ最適化を用いて推測計算を行った際の鉛直方向の変位の値を示したグラフ。
図4B】26回の全てに関して推測計算を行った際の鉛直方向の変位の値を示したグラフ。
図5】推測モデルを用いて構造物への影響の大きいPC鋼線を推測する態様を説明するための図。
図6図5に示す構造物において、1~30のPC鋼線のうち7~19のPC鋼線による影響が大きいと推測されたことを説明するための図。
図7A】ベイズ最適化を用いて推測計算を行った際の鉛直方向の変位の値がどのように変化するかを示すためのグラフ。
図7B図7Aで示すグラフにおける、更新回数と最適値(鉛直変位の絶対値の最大値)との関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態
本実施の形態の情報処理システム及び情報処理装置の各々は、一つの装置から構成されてもよいし複数の装置から構成されてもよい。本実施の形態では、本実施の形態の情報処理装置を用いた情報処理方法、情報処理装置を生成するためにインストールされるプログラムや、当該プログラムを記憶したUSB、DVD等からなる記憶媒体も提供される。また、本願の「又は」は「及び」を含む概念であり、「A又はB」という用語は、「A」、「B」、並びに「A及びB」の両方を含む概念である。
【0020】
前述したとおり、橋梁等の構造物は定期的に目視検査(定期目視検査)がなされ、目視検査で問題がありそうな場合には、問題がありそうな箇所に対して詳細点検が行われる。詳細点検の一つの手段として、X線非破壊検査等の非破壊検査が行われる。X線非破壊検査は足場を組む上、放射線の取り扱いが必要な作業となり、特に高額な検査であることから、多くの回数を行うことは難しく、X線非破壊検査を行う測定箇所を決定する必要がある。
【0021】
本実施の形態の情報処理装置は、定期目視検査の後であって詳細点検の前に行われる事前構造計算で利用されるものであって、非破壊検査(特にX線非破壊検査)を行うべき測定箇所を決定するためのサーバ等の情報処理装置である。図1に示すように、情報処理装置は、記憶部60と、記憶部60から構造物に関する情報を読み出す読出部10と、読出部10で読み出された構造物に含まれる複数の構造部品のうち、1つ以上の構造部品の所定箇所における強度に関する情報を変化させて、構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測する推測部20と、推測部20による推測結果を出力する出力部70と、を有してもよい。読出部10は、記憶部60から構造物に関する情報を読み出すだけではなく、端末200の入力部220から入力される構造物に関する情報をそのまま読み出してもよい(本願の「読み出し」には、当該概念も含まれる。)。端末200は表示部210を有しており、出力部70から出力された結果は表示部210で表示されることになる。端末200はパソコンやスマートフォン、タブレット等からなってもよい。スマートフォンやタブレットでは、端末200がタッチパネルから構成され、タッチパネルが入力部220と表示部210を兼ねることになる。
【0022】
推測部20は、構造部品の所定箇所を脆弱化させることで、その結果として構造物のいずれの箇所に影響が出るかを推測してもよい。記憶部60には、構造物で利用されている部品、素材、形状等の構造物に関するデータが記憶されており、当該構造物に関するデータの一部又は全部を用いて推測部20が構造計算を行ってもよい。定期的に行われる目視検査の結果が入力部220から入力され、目視検査の結果も用いて推測部20が構造物のいずれの箇所に大きな撓みや歪みが発生するかを推測してもよい。
【0023】
構造計算の対象となる構造部品はPC鋼棒やPC鋼線等のPC鋼材であってもよく、当該鋼部材は橋梁に用いられるPC鋼材であってもよい。橋梁等の構造物には多数のPC鋼棒やPC鋼線等の鋼部材が用いられているが、推測部20は、鋼部材の1つ以上の所定箇所の断面積を小さくすることで、構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測してもよい。鋼部材の1か所の断面積を小さくすることで構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測する場合には、簡易に推測できる点で有益である。鋼部材の2か所以上の断面積を小さくすることで構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測する場合には、高い精度で構造上の影響が発生する箇所を推測できる点で有益である。
【0024】
一例として構造物は橋梁である(図2A及び図2B参照)。この場合には、橋梁で用いられる鋼部材の1つ以上の所定箇所の断面積を小さくすることで、橋梁のいずれの箇所で大きな撓みや歪みが発生するかを推測してもよい。なお、図2A及び図2Bにおいて丸で囲っている箇所は、鉛直方向下向きに最も変位が大きくなった箇所であり、大きな撓みや歪みが発生する箇所であると推測される箇所である。したがって、本実施の形態の情報処理装置が導入された場合には、このように鉛直方向下向きに最も変位が大きくなった箇所に対して足場が組まれ、X線非破壊検査等の非破壊検査が行われればよい。
【0025】
橋梁等の構造物を複数のエリアに分割する分割部30が設けられ、推測部20は分割されたエリア毎に発生する構造上の影響を推測してもよい。推測部20で推測される撓みや歪みの大きさが一定の範囲(例えば閾値の範囲)になる領域で分割部30は全体の領域を分割してもよく、大きさの変化が小さければ大きな範囲で分割され、大きさの変化が大きければ小さな範囲で分割されてもよい。また橋梁等の構造物を所定の長さ毎に分割部30が分割してもよい。分割されたエリアは色別に出力され、各エリアでの撓みや歪み等の構造上の影響量が出力されてもよい(図2B参照)。このような態様を採用する場合には、エリア毎に発生する構造上の影響を把握することができ、どの箇所を優先的に非破壊検査すべきであるかを容易に把握することができる。
【0026】
推測部20による推測結果に基づいて、非破壊検査の検査対象箇所の重要度を決する決定部40が設けられてもよい。決定部40では、推測部20による推測結果に基づいて、非破壊検査すべき箇所の優先順位を決定してもよい。このように優先順位が決定されることで、当該決定を参考にしつつ、実際に非破壊検査すべきであるかを決定することができる。決定部40では、優先順位が第一優先順位、第二優先順位等の高い順に強調表示するようにしてもよい。
【0027】
推測部20では、構造物に含まれるPC鋼棒やPC鋼線等の鋼部材のうちの一つのある特定箇所の断面積を減少させる(例えば50%減少させる)ことで、橋梁等の構造物にどのような影響が出るかを計算してもよい。例えば所定本数(例えば30本)のPC鋼棒が橋梁等の構造物の一領域に用いられており、各PC鋼棒に対して所定個数のエリア(例えば26箇所)が特定されている場合には(図3参照)、所定本数×エリアの個数=計算対象エリアの個数(30×26=780)だけ、PC鋼棒の断面積を減少させて、橋梁等の構造物にどのような影響が出るかを推測部20が推測する。
【0028】
推測部20が計算対象エリアの各々に関してPC鋼棒の断面積を減少させた情報を用いることで、橋梁等の構造物のいずれかの場所に撓みや歪み等が発生し、構造上の影響を受けることになるが、推測部20は影響が発生する箇所を推測する。決定部40が用いられる場合には、決定部40が計算対象エリアの各々に関してPC鋼棒の断面積を減少させた際に影響が大きいと考えられ箇所に対する重要度を高いものと判断し、逆に構造物に対する影響が小さいと考えられ箇所の重要度を低いものと判断する。
【0029】
推測部20は計算対象エリアを一つずつ選択して構造計算を行ってもよいが、複数の計算対象エリアを選択した上で構造計算してもよく、例えば全計算対象エリアのうち10か所を選定し、各計算対象エリアにおいてPC鋼棒やPC鋼線等の鋼部材の断面積を減少させる(例えば50%減少させる)ことで、橋梁等の構造物にどのような影響が出るかを計算してもよい。
【0030】
計算対象エリアの個数は多数の箇所(図3で示す態様では780箇所)が存在し、各々に対して計算すること、またこれらを組み合わせて計算するのには時間がかかることから、ベイズ最適化等の最適化処理を行う最適化部50によって、効率的な探索をしてもよい。推測部20は、PC鋼棒やPC鋼線等の鋼部材の損傷個所をパラメータとした多数の有限要素解析(FEM)を実行してもよい。最適化部50は、橋梁等の評価対象の壊れやすさを表す指標(応力や変位)を最大化するパラメータをベイズ最適化によって効率的に探索してもよい。
【0031】
ベイズ最適化とは効率的なパラメータスタディを実施するための手法である。一例としては、モデル中のPC鋼材等の鋼部材の断面積を減少させ、有限要素解析(FEM)による解析を実施する。このような解析結果によって、鋼部材の鉛直方向への変位量が求まる。当該解析結果をもとに、次に実施する有限要素解析の条件をベイズ最適化によって決める。これらを繰り返すことで、指標(本検討では鉛直方向変位)を最大化する有限要素解析の条件を求めてもよい。
【0032】
ベイズ最適化は、目的変数と説明変数との関係を表す未知の目的関数に関し、大域的最適解を効率よく探索する手法である。より具体的には、推測部20によって計算対象エリアの1つに関して鋼部材の断面積を小さくして橋梁のどの箇所に影響が出やすいかを計算すると、その結果を受けた最適化部50がベイズ最適化を用いて次に横断面積を小さくすべき鋼部材及び鋼部材の箇所(計算対象エリア)を指定する。次に推測部20が指定を受けた計算対象エリアの鋼部材の断面積を小さくして橋梁のどの箇所に影響が出やすいかを計算する。次に最適化部50が今までの結果(本態様で言えば前々回の計算結果と前回の計算結果)に基づいて最適化部50がベイズ最適化を用いて次に横断面積を小さくすべき計算対象エリアを指定する。このような処理を繰り返すことで、計算対象エリアでの鋼部材の断面積を小さくした際にどのような影響が出るかを推測部20によって計算することができる。またベイズ最適化等の最適化処理を行うことで、多数存在する計算対象エリア(例えば780個の計算対象エリア)のどの箇所が何%で影響を及ぼすのかを効率よく推測することもでき(バランスを見ることができ)、構造物のどの箇所で撓みや歪み等の影響が出やすいかを効率よく推測できる。
【0033】
発明者らがモデルを用いて仮検討したところによれば、ベイズ最適化を用いて9回の更新を行うことで、ベイズ最適化を行わずに26回の計算を行うのと同程度の精度で構造物への影響を算出することができた(図4A及び図4B)。図4A及び図4Bでは、モデルとした橋梁における鉛直方向の変位を示したグラフを示しており、マイナスの値が大きくなるほど、構造上の影響が大きくなることを示している。
【0034】
最適化のための回数を予め定めておき、当該回数だけ最適化部50がベイズ最適化を用いつつ繰り返し計算を行うことで、所定の計算回数で構造物への影響を算出できるようにしてもよい。所定の回数は適宜設定できるが、一例としては200~400程度であってもよい。ベイズ最適化を用いた場合には、分散させて計算を行うことから、最後に近づくにつれて影響が大きい箇所が絞られるわけではないことには留意が必要である。図7Aではベイズ最適化で270回程度の更新を行った結果であるが、鉛直変位の絶対値が連続的に大きくなっておらず、更新回数が多くなると値が必ずしも収束しないことを確認できる。他方、図7Bで示すように、250回程度の更新によって、最大の鉛直変位となる箇所の候補を特定できることを確認することもできる。
【0035】
計算の効率性を高めるために、構造物(例えば橋梁)の構造に関する形状、構造物本体の材質(コンクリート等)、鋼部材の本数、鋼部材の位置、鋼部材の太さ等の構造データと、当該構造物に関する過去の非破壊検査による結果とを用いて、生成部80が推測モデルを生成し、記憶部60で記憶してもよい。この際、サロゲートモデルを用いてもよい。構造物(例えば橋梁)の構造に関する構造データと当該構造物に関する過去の非破壊検査による結果を多数用い、学習データとテストデータに分けて、機械学習を行わせてもよい。テストデータを用いて機械学習して生成された推測モデルの精度を確認する。この際には、クロスバリデーション法を用いて、学習データとテストデータとを入れ替えていってもよい。推測モデルは機械学習を用いることで予め準備されてもよい。推測部20は、推測モデルを用いた上で、構造物への影響が大きく出そうな構造部品を特定し、特定された構造部品の所定の箇所の強度を脆弱化することで構造物に影響が出る箇所を推測してもよい。この際、最適化部50による最適化が行われてもよい。このような推測モデルを用いることで、推測に必要な計算量を大幅に削減できる。また最適化部50による最適化も併せて行うことで、より効率よく推測に必要な計算量を削減できる。一例として、図5で示すような形状からなる断面の構造物があり、当該構造物に図6で示すように1~30のPC鋼線がある場合、推測部20が、当該構造物の構造に関する形状、構造物本体の材質(コンクリート等)、鋼部材の本数、鋼部材の位置、鋼部材の太さ等の構造データを推測モデルに適用することで、7~19のPC鋼線による影響が大きいと推測する。そのような推測結果を加味した上で、最適化部50によるベイズ最適化を用いることで、1~30のPC鋼線のうちのいずれかの箇所(例えば7~19のいずれかの箇所)で構造上の影響を及ぼしやすいかを推測しつつ、効率よく構造上の影響が生じる箇所を推測する。
【0036】
本態様によれば、非破壊検査としてのX線非破壊検査を実施する前に、検査箇所の候補を効率的に探索するための手法を提供できる。検査箇所の候補としては、橋梁にクリティカルな影響を与える鋼部材の損傷位置を挙げることができる。
【0037】
上記では特定箇所の断面積を減少させると述べたが、推測部20は、非破壊検査によって問題があることが判明した構造部品を除外した計算(0として計算)を行ってもよく、この場合には、例えば鋼部材が1本存在しないものとして、計算を行ってもよい。
【0038】
読出部10、推測部20、分割部30、決定部40、最適化部50、記憶部60、出力部70、生成部80等は一つのユニット(制御ユニット)によって実現されてもよいし、異なるユニットによって実現されてもよい。複数の「部」による機能が統合されてもよく、例えば推測部20及び分割部30の機能が一つのユニットによって実現されてもよい。また、読出部10、推測部20、分割部30、決定部40、最適化部50、記憶部60、出力部70、生成部80等は回路構成によって実現されてもよい。
【0039】
上述した実施の形態の記載及び図面の開示は、特許請求の範囲に記載された発明を説明するための一例に過ぎず、上述した実施の形態の記載又は図面の開示によって特許請求の範囲に記載された発明が限定されることはない。また出願当初の請求項を適宜拡張することもできる。
【符号の説明】
【0040】
10 読出部
20 推測部
30 分割部
40 決定部
50 最適化部
60 記憶部
70 出力部
80 生成部
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
【手続補正書】
【提出日】2023-02-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
詳細点検の前に行われる事前構造計算で利用され、非破壊検査を行うべき場所を推測するための情報処理装置であって、
構造物に含まれる複数の構造部品に関する情報を読み出す読出部と、
読出部で読み出された構造物に含まれる複数の構造部品のうち、1つ以上の構造部品を特定し、当該特定した構造部品の所定箇所を脆弱化させて、構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測する推測部と、
推測部による推測結果を出力する出力部と、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
推測部はX線非破壊検査を行うべき場所を特定するための情報を推測する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
推測部による計算対象を絞り込むための最適化部を備え、
推測部による推測結果を用いて最適化部が、次に強度を変化させる構造部品及び当該構造部品の箇所を指定する、請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
推測部は、最適化部によって指定された構造部品及び当該構造部品の箇所の強度を変化させ、
最適化部は、前回及び前々回における推測部による推測結果を用いて、次に強度を変化させる構造部品及び当該構造部品の箇所を指定する、請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
推測部は、入力された構造物に対する目視検査の結果も用いて構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
構造部品は鋼部材であり、
推測部は、鋼部材の1つ以上の所定箇所の断面積を小さくすることで、構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
構造物は橋梁であり、
推測部は、橋梁に用いられる鋼部材の1つ以上の所定箇所の断面積を小さくすることで、橋梁のいずれの箇所で大きな撓み又は歪みが発生するかを推測する、請求項6に記載の情報処理装置。
【請求項8】
構造物を複数のエリアに分割する分割部を備え、
推測部は分割部で分割されたエリア毎に発生する構造上の影響を推測する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
詳細点検の前に行われる事前構造計算で利用され、非破壊検査を行うべき場所を推測するための情報を提供する情報処理方法であって、
読出部によって、構造物に含まれる複数の構造部品に関する情報を読み出す工程と、
推測部によって、読出部で読み出された構造物に含まれる複数の構造部品のうち、1つ以上の構造部品を特定し、当該特定した構造部品の所定箇所を脆弱化させて、構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測する工程と、
出力部によって、推測部による推測結果を出力する工程と、
を備える情報処理方法。
【請求項10】
詳細点検の前に行われる事前構造計算で利用され、非破壊検査を行うべき場所を推測するための情報を提供できる情報処理装置を生成するためのプログラムであって、
前記プログラムがインストールされた情報処理装置に、
構造物に含まれる複数の構造部品に関する情報を読み出す読出機能と、
読出機能で読み出された構造物に含まれる複数の構造部品のうち、1つ以上の構造部品を特定し、当該特定した構造部品の所定箇所を脆弱化させて、構造物に発生する構造上の影響が発生する箇所を推測する推測機能と、
推測部による推測結果を出力する出力機能と、
を実行させるプログラム。