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特開2023-142081校正機能を有する対象物の検出方法及び検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142081
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】校正機能を有する対象物の検出方法及び検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/00 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
G01B11/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048768
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】590001164
【氏名又は名称】アイシンシロキ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594124993
【氏名又は名称】東京貿易テクノシステム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599085633
【氏名又は名称】株式会社タマディック
(71)【出願人】
【識別番号】517139967
【氏名又は名称】平野 慎也
(71)【出願人】
【識別番号】521335708
【氏名又は名称】タクトシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100166408
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 邦陽
(72)【発明者】
【氏名】奥村 祐
(72)【発明者】
【氏名】松下 直史
(72)【発明者】
【氏名】中村 純也
(72)【発明者】
【氏名】内山 友和
(72)【発明者】
【氏名】藤野 真司
(72)【発明者】
【氏名】隠家 元弘
(72)【発明者】
【氏名】八木 恒平
(72)【発明者】
【氏名】平野 慎也
(72)【発明者】
【氏名】藤山 仁
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065BB28
2F065CC12
2F065DD02
2F065FF11
2F065GG04
2F065HH04
2F065MM16
2F065MM26
2F065PP05
2F065PP22
2F065PP25
(57)【要約】
【課題】外部環境の変化(気温など)にかかわらずに対象物の検出精度を維持することができる校正機能を有する対象物の検出方法及び検出装置を提供する。
【解決手段】定量値を算出するステップと、第1の位置情報生成装置で第1の対象物を測定するステップと、第2の位置情報生成装置で第2の対象物を測定するステップと、前記第1の位置情報生成装置による前記第1の対象物の測定値と、前記第2の位置情報生成装置による前記第2の対象物の測定値と、前記定量値とに基づいて、前記第1の位置情報生成装置を基準とした前記第2の対象物の位置を算出するステップと、前記第2の位置情報生成装置で第3の対象物を測定する前に、前記定量値を校正するステップと、を有することを特徴とする対象物の検出方法。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
定量値を算出するステップと、
第1の位置情報生成装置で第1の対象物を測定するステップと、
第2の位置情報生成装置で第2の対象物を測定するステップと、
前記第1の位置情報生成装置による前記第1の対象物の測定値と、前記第2の位置情報生成装置による前記第2の対象物の測定値と、前記定量値とに基づいて、前記第1の位置情報生成装置を基準とした前記第2の対象物の位置を算出するステップと、
前記第2の位置情報生成装置で第3の対象物を測定する前に、前記定量値を校正するステップと、
を有することを特徴とする校正機能を有する対象物の検出方法。
【請求項2】
前記定量値は、前記第2の位置情報生成装置とマーカの少なくとも一方を基準とした前記第2の位置情報生成装置の原点の位置と姿勢であり、
前記定量値の算出及び/又は校正のための処理ステップは、
前記第1の位置情報生成装置で前記第2の位置情報生成装置と前記マーカの少なくとも一方を測定する第1ステップと、
前記第1の位置情報生成装置で第4の対象物を測定する第2ステップと、
前記第2の位置情報生成装置で前記第4の対象物を測定する第3ステップと、
前記第1ステップと前記第2ステップと前記第3ステップの測定結果に基づいて、前記定量値を算出及び/又は校正する第4のステップと、
を有することを特徴とする請求項1に記載の校正機能を有する対象物の検出方法。
【請求項3】
前記第4の対象物の位置と姿勢を担保するための第5の対象物を測定するステップを有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の校正機能を有する対象物の検出方法。
【請求項4】
前記定量値は、前記第2の位置情報生成装置の温度によって異なる予め決定された値であり、前記第2の位置情報生成装置の温度測定に基づいて、前記定量値を算出及び/又は校正する、
ことを特徴とする請求項1に記載の校正機能を有する対象物の検出方法。
【請求項5】
前記第1の位置情報生成装置は、レーザトラッカであり、
前記第2の位置情報生成装置は、3Dスキャナである、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の校正機能を有する対象物の検出方法。
【請求項6】
定量値を算出する装置と、
第1の対象物を測定する第1の位置情報生成装置と、
第2の対象物を測定する第2の位置情報生成装置と、
を有し、
前記第1の位置情報生成装置による前記第1の対象物の測定値と、前記第2の位置情報生成装置による前記第2の対象物の測定値と、前記定量値とに基づいて、前記第1の位置情報生成装置を基準とした前記第2の対象物の位置を算出し、
前記第2の位置情報生成装置で第3の対象物を測定する前に、前記定量値を校正する、
ことを特徴とする校正機能を有する対象物の検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、校正機能を有する対象物の検出方法及び検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アームロボットによってワークを把持したまま、他のワークと溶接する技術が知られている。この場合、専用の位置決め機構(位置決め用の型や治具を含む)を使用して、アームロボットひいては当該アームロボットに把持されたワークの位置決め(位置や姿勢の検出)を行う。しかし、位置決め機構を別で設けなければならないので、設備費が高額で、設備の設置スペースが広く必要である。しかも、位置決め機構は車種分必要であるため、車種が多い場合、段替え回数が多く、トータルの段替え時間が長くなってしまう。また、新規車種の立ち上げ毎に、同様の問題が発生してしまう。
【0003】
特許文献1には、空間内において少なくとも1つのオブジェクトを産業用ロボットによって最終姿勢に位置決めするための方法が記載されている。この方法では、オブジェクトを位置決めするために、第1の産業用ロボットと、第1の光学的撮像装置と、少なくとも1つの第2の光学的撮像装置とを使用する。第1の産業用ロボットは、所定のポジショニングに位置調整することができる。第1の光学的撮像装置は、三次元の空間座標系で校正され、既知の第1の位置に既知の方向に位置決めされている。第2の光学的撮像装置は、空間座標系で校正され、既知の第2の位置に既知の方向で位置決めされている。
【0004】
第1の光学的撮像装置は、第1のカメラと、第1の駆動ユニットと、第1の角度測定ユニットとを有している。第1のカメラは、所定の第1の視界内で画像を撮像するために光学的校正されている。第1の駆動ユニットは、第1の視界を位置調整するために第1のカメラを方向決めするための構成要素である。第1の角度測定ユニットは、第1のカメラの角度方向を検出して、空間座標系において第1の視界を求めるための空間座標系で校正されている。
【0005】
第2の光学的撮像装置は、第2のカメラと、第2の駆動ユニットと、第2の角度測定ユニットとを有している。第2のカメラは、所定の第2の視界内で画像を撮像するために光学的校正されている。第2の駆動ユニットは、第2の視界を位置調整するために第2のカメラを方向決めするための構成要素である。第2の角度測定ユニットは、第2のカメラの角度方向を検出して、空間座標系において第2の視界を求めるための空間座標系で校正されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5290324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1は、外部環境の変化(気温など)に対して、校正する機能がなく、最初に設定した精度を維持することが困難であったため、改良の余地があった。
【0008】
本発明は、以上の問題意識に基づいてなされたものであり、外部環境の変化(気温など)にかかわらずに対象物の検出精度を維持することができる校正機能を有する対象物の検出方法及び検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態の校正機能を有する対象物の検出方法は、定量値を算出するステップと、第1の位置情報生成装置で第1の対象物を測定するステップと、第2の位置情報生成装置で第2の対象物を測定するステップと、前記第1の位置情報生成装置による前記第1の対象物の測定値と、前記第2の位置情報生成装置による前記第2の対象物の測定値と、前記定量値とに基づいて、前記第1の位置情報生成装置を基準とした前記第2の対象物の位置を算出するステップと、前記第2の位置情報生成装置で第3の対象物を測定する前に、前記定量値を校正するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外部環境の変化(気温など)にかかわらずに対象物の検出精度を維持することができる校正機能を有する対象物の検出方法及び検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】点群データの各点情報の表現の一例を示す図である。
図2】4×4マトリックスでの原点の表現の一例を示す図である。
図3】4×4マトリックスを使用した原点計算の一例を示す図である。
図4】本実施形態の校正機能を有する対象物の検出方法及び検出装置を適用した車両部品の溶接装置の構成の第1の例を示す図である。
図5】本実施形態の校正機能を有する対象物の検出方法及び検出装置を適用した車両部品の溶接装置の構成の第2の例を示す図である。
図6】本実施形態の校正機能を有する対象物の検出方法及び検出装置を適用した車両部品の溶接装置の構成の第3の例を示す図である。
図7】形状マーカの第1の例を示す図である。
図8】形状マーカの第2の例を示す図である。
図9】第2の位置情報生成装置と位置補正用マーカの間の位置校正処理の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本明細書における用語の定義を行う。
【0013】
本明細書における「位置情報生成装置(3Dスキャナ)」とは、ワーク(例えば、アッパサッシュ、立柱サッシュ、ドアフレーム、ブラケット等)及びその把持装置(例えば、ロボットアーム等)、並びにその他のターゲット(例えば、ロボットアーム又はその近傍に設けられたマーカや固定物等)の形状情報を点群データとして取得するための装置である。点群データの各点情報は、「対象物の位置と姿勢」と読み替えることができる。点群データの各点情報(対象物の位置と姿勢)は、3Dスキャナ原点を原点とした座標X、Y、Zとその法線方向I、J、Kの数値で表すことができる。本明細書では、「3Dスキャナ」を「第2の位置情報生成装置」と呼ぶことがある。
【0014】
本明細書における「位置情報生成装置(レーザトラッカ)」とは、例えば、ターゲットの三次元情報(位置情報や角度)を自らの座標系基準に算出することが可能な装置である。「位置情報生成装置(レーザトラッカ)」は、例えば、レーザ光を照射して、ターゲットから反射したレーザ光が発光源に戻ることで、ターゲットの三次元位置情報を取得する。ターゲットの三次元情報(位置情報や角度)は、「対象物の位置と姿勢」と読み替えることができる。「位置情報生成装置(レーザトラッカ)」は、測定範囲が広いため、「位置情報生成装置(レーザトラッカ)」とターゲット、もしくは後述するマーカ付きタッチプローブのようなものがあれば、高精度に各設備間の寸法や精度、原点位置等を算出することができる。本明細書では、「位置情報生成装置(レーザトラッカ)」を「第1の位置情報生成装置」と呼ぶことがある。
【0015】
本明細書における「マーカ」とは、例えば、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)や第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)にて、位置座標と角度を取得するためのターゲットの一種である。「マーカ」の位置座標と角度は第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)又は第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)を原点として、算出される。これは座標X、Y、Zと角度Rx、Ry、Rzで表すことができ、角度Rx、Ry、Rzは、それぞれ、後述するように、基準X軸、基準Y軸、基準Z軸からの姿勢変更分の単位ベクトル(I、J、K)と、基準点からの移動量(X、Y、Z)とを用いた4×4の行列データ(マトリックスデータ)で表すことができる。「マーカ」は、例えば、ロボットアーム先端の把持部等に取り付けられ、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)又は第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)を原点としたロボットアームの動作精度(把持部の三次元空間上の絶対位置)を数値として取得するために用いられる。また、他にも後述するような対象ワークを接触で計測するようなマーカ付きタッチプローブや、対象ワークを非接触で計測する3Dスキャナに取り付けたタイプなど、広く用いられる。どの計測情報においても第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)又は第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)の原点にて配置するために用いられる。
【0016】
本明細書における「マーカ付きタッチプローブ」とは、例えば、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)又は第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)で「マーカ付きタッチプローブ」のターゲット部をロックオンした状態で、プローブ先端を対象ワークにタッチして測定することで、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)又は第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)を原点とした対象ワークの三次元空間上の位置を算出することができるものである。
【0017】
本明細書における「マーカ付き3Dスキャナ」とは、例えば、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)で「マーカ付き3Dスキャナ」のターゲット部をロックオンした状態で、対象ワークを3Dスキャンすることにより、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)の原点からのマーカ原点座標/角度と、マーカ原点からの第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)の原点座標/角度(後述)から、第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)で取得した点群情報を、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)の原点として算出することが可能である。マーカ原点位置と第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)の原点位置の関係は据付時点で、基準となるブロックを第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)とマーカ付きタッチプローブを用いて位置情報を算出したものと、第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)で撮像した基準ブロックの位置情報を合わせること(キャリブレーション)により、第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)の原点/角度情報を算出している。通常、第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)は、撮像範囲を広くすると、精度が低下する特徴があるため、広範囲の撮像には向いておらず、後述するような設備全体の運用には第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)単体では限界がある。このため、撮像範囲や測定範囲を広げるために第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)を用いた対応とすることが考えられる。しかし、後述するように、本実施形態の対象物の検出方法及び検出装置では、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)と第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)を適切に組み合わせることで、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)を初期設定(キャリブレーション)のみに使用して、その後は第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)と形状マーカとによる最終位置補正を実行することができる。このため、例えば、複数の製造ラインのそれぞれに専用の第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)を備え付ける必要がなくなり、複数の製造ラインで第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)を使い回すことができる。
【0018】
本明細書における「点群データ」とは、例えば、3Dスキャナ(カメラ)等の機器を使用してワーク(例えば、アッパサッシュ、立柱サッシュ、ドアフレーム、ブラケット等)を3Dスキャンする(ワークを撮像する)ことによって取得されるワークの三次元情報を意味する。また点群データの各点情報は、例えば、図1のように、座標X、Y、Zとその法線方向I、J、Kの数値(図1)で表すことができる。図1の例では、点群1、点群2、点群3、点群4、点群5、点群**を描いている。
【0019】
本明細書における「基準データ」とは、例えば、ワーク(例えば、アッパサッシュ、立柱サッシュ、ドアフレーム、ブラケット等)の設計上の基準となるデータ(例えば、マスターワークデータ、設計値データ、生データ、CADデータ)を意味する。
【0020】
本明細書における「形状合わせ点群データ」とは、上述の「点群データ」を「基準データ」に合わせた点群データを意味する。
【0021】
本明細書における「移動マトリックス」及び「逆マトリックス」は、例えば、4×4の行列データ(マトリックスデータ)により表される。例えば、図2に示すように、「移動マトリックス」及び「逆マトリックス」は、原点や、基準原点からある目標原点までの位置の情報として表される。左から一列目は、基準X軸からの姿勢変更分の単位ベクトル(I、J、K)を示しており、左から二列目は、基準Y軸からの姿勢変更分の単位ベクトル(I、J、K)を示しており、左から三列目は、基準Z軸からの姿勢変更分の単位ベクトル(I、J、K)を示しており、左から四列目は、基準点からの移動量(X、Y、Z)を示している。
【0022】
マトリックスを使用すれば、各座標の移動量においても図3のようにマトリックスを用いて計算を行うことが可能である。このマトリックス計算を行うことにより、各座標系の位置・角度の量を算出することができる。上述した点群データを基準データに合わせる際の移動についても4×4の行列データにて表すことができる。また、この4×4の行列データを逆行列変換により、基準データを点群データに合わせる移動の4×4の行列データを出力することも可能である。図3では、原点基準、原点基準から見た原点A、原点Bから見た原点A、原点基準から見た原点B、原点Bの逆行列を、それぞれ、4×4の行列データで示している。
【0023】
図4図5は、本実施形態の校正機能を有する対象物の検出方法及び検出装置を適用した車両部品の溶接装置1の構成の第1、第2の例を示す図である。
【0024】
溶接装置1は、装置中央部に位置する固定治具(例えばタクトシステムの治具)10を有している。固定治具10は、例えば、アッパサッシュ(フロントメーンフレーム)の端部と立柱サッシュ(フロント立柱フレーム)の端部とを位置合わせ状態で溶接したドアフレーム11を固定状態で支持する。固定治具10とドアフレーム11の相対位置関係はワーク着脱毎に変化しても良いため、通常の治具に求められる繰返し位置決め機能は不要である(後述する逆マトリックスにより、ドアフレーム11のワーク位置を求めるため)。このため、固定治具10はドアフレーム11のどの位置を固定してもよい。なお、作図の便宜上の理由により、図4は固定治具10がドアフレーム11を支持した状態を描いており、図5は固定治具10がドアフレーム11を支持していない状態を描いている(ドアフレーム11を省略して描いている)。
【0025】
溶接装置1は、固定治具10を挟んだ図中の左側と右側にそれぞれ位置するロボットアーム20とロボットアーム30とを有している。ロボットアーム20は、例えば、複数の軸(例えば6軸)を有するアームロボットから構成されており、ロボットアーム20の先端部の把持部21に把持したロックブラケット(図4に吹き出しで描いている)をドアフレーム11の所定の部位に位置合わせするために運動(移動)する。また、ロボットアーム20の先端部の把持部21の近傍には、位置補正用マーカ22が設けられている。位置補正用マーカ22は、例えば、後述する第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70によって追跡可能なリフレクタを有している。ロボットアーム30は、例えば、複数の軸(例えば6軸)を有するアームロボットから構成されており、ロボットアーム30の先端部の把持部31に把持したヒンジブラケット(図4に吹き出しで描いている)をドアフレーム11の所定の部位に位置合わせするために運動(移動)する。また、ロボットアーム30の先端部の把持部31の近傍には、位置補正用マーカ32が設けられている。位置補正用マーカ32は、例えば、後述する第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70によって追跡可能なリフレクタを有している。
【0026】
ロボットアーム20とロックブラケット(図4に吹き出しで描いている)の相対位置関係、及び、ロボットアーム30とヒンジブラケット(図4に吹き出しで描いている)の相対位置関係は、ワーク着脱毎に変化してもよいため、通常の治具に求められる繰返し位置決め機能は不要である(後述する逆マトリックスにより、ロックブラケットとヒンジブラケットのワーク把持位置を求めるため)。よって、ロボットアーム20はロックブラケットのどの位置を把持してもよく、ロボットアーム30はヒンジブラケットのどの位置を把持してもよい。固定治具10とドアフレーム11の相対位置精度と、ロボットアーム20とロックブラケットの相対位置精度と、ロボットアーム30とヒンジブラケットの相対位置精度とが担保されており、かつ、ロボット空間座標の絶対位置決め精度が担保されているような装置(例えば、マシニングセンタのような工作機械)であれば、高精度な位置決めが可能となる。
【0027】
溶接装置1は、固定治具10とロボットアーム20との間の奥行方向にずれた位置に溶接ロボット40を有しており、固定治具10とロボットアーム30との間の奥行方向にずれた位置に溶接ロボット50を有している。溶接ロボット40は、例えば、複数の軸(例えば6軸)を有するアームロボットから構成されており、先端部に設けた溶接ノズル41によって、固定治具10が支持するドアフレーム11と、ロボットアーム20の把持部21が把持するロックブラケットとを所定の位置合わせ状態で溶接する。溶接ロボット50は、例えば、複数の軸(例えば6軸)を有するアームロボットから構成されており、先端部に設けた溶接ノズル51によって、固定治具10が支持するドアフレーム11と、ロボットアーム30の把持部31が把持するヒンジブラケットとを所定の位置合わせ状態で溶接する。
【0028】
溶接装置1は、固定治具10の後方かつ溶接ロボット40と溶接ロボット50の間に挟まれるようにして、3Dスキャナ支持アーム60を有している。3Dスキャナ支持アーム60は、例えば、複数の軸(例えば6軸)を有するアームロボットから構成されており、アーム先端部に、第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61と、位置補正用マーカ62とが設けられている。位置補正用マーカ62は、例えば、後述する第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70によって追跡可能なリフレクタを有している。
【0029】
溶接装置1は、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70と組み合わせて使用されてもよい。第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70は、溶接装置1の各構成要素(例えば、固定治具10が支持するドアフレーム11、ロボットアーム20が把持するロックブラケット、ロボットアーム30が把持するヒンジブラケット、ロボットアーム20の位置補正用マーカ22、ロボットアーム30の位置補正用マーカ32、3Dスキャナ61、3Dスキャナ61の位置補正用マーカ62)をターゲットとして、その三次元情報(位置情報や角度)を自らの座標系基準に算出する。
【0030】
図4図5に示すように、溶接ロボット40の側方(3Dスキャナ支持アーム60との間)には、位置校正用基準台が設けられており、この位置校正用基準台の上方に形状マーカ(固定物、金属塊)80が設けられている。形状マーカ80の具体的な構成及び機能については、後に詳細に説明する。形状マーカ80は、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70及び第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61と協働して、対象物の検出(位置・姿勢の検出)の校正機能を発揮する。さらに、位置校正用基準台には、形状マーカ80のやや下方に位置させて、位置補正用マーカ(第5の対象物)42が設けられている。
【0031】
本実施形態では、マーカ付き3Dスキャナ61を使用して、固定治具10が支持するドアフレーム11、ロボットアーム20が把持するロックブラケット、ロボットアーム30が把持するヒンジブラケットをスキャン(撮像)することにより、これらの点群データ(三次元情報)を取得する。つまり、マーカ付き3Dスキャナ61は「点群データ取得部」として機能する。そして、マーカ付き3Dスキャナ61を第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70で仮想ロックオンした状態で点群取得することにより、マーカ付き3Dスキャナ61で取得した点群データは、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70を原点として算出される(第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70の仮想ロックオンに伴う架空原点として算出される)。この点群データは、例えば、各点の座標X、Y、Zとその法線方向I、J、Kで表され、点群データの原点は4×4の行列データ(マトリックスデータ)で表される(詳細については後述する)。
【0032】
なお、点群データの取得に際して固定治具10が支持するドアフレーム11、ロボットアーム20が把持するロックブラケット、ロボットアーム30が把持するヒンジブラケットの全体を3Dスキャンするのではなく、固定治具10が支持するドアフレーム11、ロボットアーム20が把持するロックブラケット、ロボットアーム30が把持するヒンジブラケットの一部、例えば製品評価のための基準となる部位のみを3Dスキャンしてもよい。この3Dスキャンは、2Dスキャナを移動させながら点群取得する方式でも良いし、3Dスキャナを位置決めしてスキャンする方式や、固定した3Dスキャンを複数個所に設置してスキャンする方式でも良い。後述するように、点群データを基準データに合わせる際には基準データ上の任意の位置を必要な数だけ基準に設定し、位置合せをすることを可能とする。また、この各基準には優先度を設定して、より重要度の高い部分の位置合わせを優先することができる。これにより、基準データと点群データの位置合わせ方式のコントロールが可能となっている。本実施形態では、各基準部の誤差量が大きかった場合、ロボットアーム20が把持するロックブラケット、ロボットアーム30が把持するヒンジブラケットのドアフレーム11との溶接部同士が干渉する可能性があるため、溶接部の優先度をその他基準部に対して、高く設定することにより、溶接部の形状合わせを優先して位置決めすることが可能となっている。
【0033】
また、本実施形態では、予め、固定治具10が支持するドアフレーム11、ロボットアーム20が把持するロックブラケット、ロボットアーム30が把持するヒンジブラケットの設計上の基準となる基準データ(例えばCADデータ)が用意(準備)されている。この基準データは、原点(例えば車両原点、この場合は車両原点=位置情報生成装置原点)を含むとともに、固定治具10が支持するドアフレーム11、ロボットアーム20が把持するロックブラケット、ロボットアーム30が把持するヒンジブラケットの位置合わせ状態のデータとすることができる。そして、本実施形態では、後述する制御部を使用して、原点(車両原点)を含む基準データに点群データを位置合わせした形状合わせ点群データを算出する。また、基準データに点群データを移動した際の移動量、基準データおよび形状合わせ点群データの原点は4×4の行列データ(マトリックスデータ)で表される(詳細については後述する)。
【0034】
形状合わせ点群データの原点座標は、位置情報生成装置原点で取得された点群データの原点を移動させたことと同じこととなる。この基準データに点群データを合わせる際の4×4の行列データ(マトリックス)を逆行列変換することにより、基準データを点群データに合わせることと同じことになるため、点群データに原点を付与した形になる(基準データ原点で表されていた形状合わせ点群データの状態を点群データ基準で表した形である)。この方式により、原点の存在しない点群データにCAD原点情報を付与することを実現している。
【0035】
固定治具10が支持するドアフレーム11、ロボットアーム20が把持するロックブラケット、ロボットアーム30が把持するヒンジブラケットの点群データをCADデータ(基準データ)に合わせるという移動の結果は、原点を移動したというマトリックスで表記が可能(すなわち等価)である。マトリックスを逆マトリックスに変換することで、CADデータ(基準データ)を点群データに合わせる移動量が求まる。点群データをCADデータ(基準データ)に合わせることが正マトリックスに相当し、CADデータ(基準データ)を点群データに合わせることが逆マトリックスに相当する(正マトリックスから見ると原点に戻ることに相当する)。すなわち、原点から見ると、CADデータ(基準データ)と点群データが合わさっていた状態を、CAD座標を点群データに合わせるように移動させたことになる。例えば、固定治具10が支持するドアフレーム11、ロボットアーム20が把持するロックブラケット、ロボットアーム30が把持するヒンジブラケットの一部の実際のワーク配置をCAD座標系通りでの位置で再現できる場合は、その一部の位置は既知となるため、固定治具10が支持するドアフレーム11、ロボットアーム20が把持するロックブラケット、ロボットアーム30が把持するヒンジブラケットの他部のマトリックス計算だけでも原点間の計算が可能となる(この場合、逆行列変換は不要である)。
【0036】
第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70は、位置補正用マーカ22、32を常に位置監視する(追跡し続ける)ことにより、ロボットアーム20が把持するロックブラケット、ロボットアーム30が把持するヒンジブラケットの位置合わせ(微小駆動)を補助する。ロボットアーム20、30は、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70と位置補正用マーカ22、32によって事前にキャリブレーションされており、空間座標における絶対精度を向上している。
【0037】
ロボットアーム20、30に取り付けられた位置補正用マーカ22、32を計測する際に、ロボットアーム20が把持するロックブラケット、ロボットアーム30が把持するヒンジブラケットの車両原点をマーカに置き換えることで、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70から常に三次元座標を監視できるようにする。また、マーカ目標位置と現在位置の差分を動作させ、最終位置を補正することで、強制的にロボットの空間座標精度を向上させる。
【0038】
図6は、本実施形態の校正機能を有する対象物の検出方法及び検出装置を適用した車両部品の溶接装置1の構成の第3の例を示す図である。図6は、上述した点群データ、基準データおよび形状合わせ点群データに基づくロボットアーム20、30(把持部21、31)の運動(移動)制御を実行するための機能構成要素を例示して描いている。各機能構成要素は、CPU(Central Processing Unit)から構成される制御部90の一部を構成している。
【0039】
制御部90は、点群データ取得部91と、基準データ取得部92と、移動マトリックス演算部93と、逆マトリックス演算部94と、目標移動マトリックス演算部95と、ロボットアーム制御部96とを有している。
【0040】
点群データ取得部91は、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70と第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61による、固定治具10が支持するドアフレーム11、ロボットアーム20が把持するロックブラケット、ロボットアーム30が把持するヒンジブラケットの点群データ(三次元情報)を取得する(が入力される)。この点群データは、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70を原点(架空原点)とした点群データであってもよい。
【0041】
基準データ取得部92は、固定治具10が支持するドアフレーム11、ロボットアーム20が把持するロックブラケット、ロボットアーム30が把持するヒンジブラケットの設計上の基準となる基準データ(例えばCADデータ)を取得する(を記憶する)。この基準データは、原点(例えば車両原点、この場合は車両原点=位置情報生成装置原点)を含むとともに、固定治具10が支持するドアフレーム11、ロボットアーム20が把持するロックブラケット、ロボットアーム30が把持するヒンジブラケットの位置合わせ状態のデータとすることができる。
【0042】
移動マトリックス演算部93は、固定治具10が支持するドアフレーム11、ロボットアーム20が把持するロックブラケット、ロボットアーム30が把持するヒンジブラケットの位置合わせ状態の基準データに、点群データを位置合わせするための移動マトリックスを演算する。この移動マトリックス演算により、移動マトリックスに基づいて基準データに点群データを位置合わせした形状合わせ点群データが得られる。
【0043】
逆マトリックス演算部94は、移動マトリックス演算部93で求めた基準データに点群データを合わせる際の4×4の行列データ(マトリックス)を逆行列変換する。本変換により、前述の点群データに原点を付与した形になる(基準データ原点で表されていた形状合わせ点群データの状態を点群データ基準で表した形)。この方式により、原点の存在しない点群データにCAD原点情報を付与することを実現している。
【0044】
目標移動マトリックス演算部95は、固定治具10が支持するドアフレーム11、ロボットアーム20が把持するロックブラケット、ロボットアーム30が把持するヒンジブラケットのそれぞれについて、逆マトリックスを使用し、原点(車両原点)を付与した状態から、ロックブラケットとヒンジブラケットの原点からもう一方の原点までの移動量を算出することができる。
【0045】
ロボットアーム制御部96は、移動マトリックスと逆マトリックスの少なくとも一方に基づいて、ロックブラケットをロボットアーム20で移動させ、ヒンジブラケットをロボットアーム30で移動させることにより、ロックブラケットとヒンジブラケットをドアフレーム11に位置決めする。より具体的に、ロボットアーム制御部96は、移動マトリックスと逆マトリックスの少なくとも一方に基づいて、位置決め対象であるロックブラケットとヒンジブラケットを初期位置や現在位置から目標位置に到達するまで、例えば、ロボットアーム20、30の各軸(6軸)を微小動作させる。この時の微小動作量の指令値は、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70から見た位置補正用マーカ22、32の現状位置と目標位置の差分である。この微少動作量の数値を係数調整、動作回数で設定することにより、ロボットの精度に依存しない位置決めを可能とする。すなわち、本実施形態では、(1)移動マトリックスと逆マトリックスの少なくとも一方に基づくワーク(把持部)の移動(例えば逆マトリックスによるロックブラケットとヒンジブラケットに付加した原点をもとにどちらか一方の原点を基準にもう一方の原点へ移動)と、(2)位置補正用マーカ22、32に基づくロックブラケットとヒンジブラケットの移動(位置補正用マーカ22、32による補正位置決め、(1)の動作誤差を補正するもの)との二段階で、ワーク同士(ロックブラケットとヒンジブラケット)の位置決めを実行する。ロボットアーム制御部96によるロックブラケットとヒンジブラケットの位置決め状態で、溶接ロボット40、50によって両者の溶接部が溶接される。
【0046】
制御部90の機能は、次のように表現することもできる。すなわち、制御部90は、三次元データ(例えば点群データ)を取得するとともに、ハンドとワークの相対位置データ(例えば基準データ)を取得する。制御部90は、取得した三次元データ(例えば点群データ)と相対位置データ(例えば基準データ)とをベストフィットさせるための空間位置決め処理を実行する。制御部90は、ハンドによるワークの移動分座標値を出力する。制御部90は、ロボット逆運動学に基づく6軸計算により、ハンドとワークの運動(移動)制御を実行する。
【0047】
本実施形態の位置決め処理は、例えば、次の処理ステップによって実行される。まず、ロックブラケットとヒンジブラケットの点群データをCADデータ(基準データ)に位置合わせして、その移動分量を4×4の行列データ(マトリックスデータ)である移動マトリックスで出力する。これにより、ロックブラケットとヒンジブラケットに関して、移動マトリックスに基づいて基準データに点群データを位置合わせした形状合わせ点群データが得られる。また、ドアフレーム11の点群データをCADデータ(基準データ)に位置合わせして、その移動分量を4×4の行列データ(マトリックスデータ)である移動マトリックスで出力する。これにより、ドアフレームの11に関して、移動マトリックスに基づいて基準データに点群データを位置合わせした形状合わせ点群データが得られる。また、計算した移動マトリックスから逆行列演算(逆マトリックス演算)を実行することにより、点群データに原点を付与する。つまり、一方の原点を基準に他方の原点を合わせる。あるいは、形状合わせ点群データを移動させることにより、基準データの原点(車両原点)を一緒に移動させ、ロックブラケットとヒンジブラケットとドアフレーム11の移動させた原点どうしを合わせてもよい。また、計算した逆マトリックスを使用して、ロックブラケットとヒンジブラケットとドアフレーム11の点群データに座標値(例えばCAD座標)を付与する。そして、原点(車両原点)を基準とした座標系で、点群データの移動量を算出し、算出した移動量に基づいて、ロックブラケットとヒンジブラケットを把持するロボットアーム20、30を移動させることにより、ロックブラケットとヒンジブラケットをドアフレーム11に位置決めする。本実施形態では、ドアフレーム11が固定でロックブラケットとヒンジブラケットが可動であるため、当該移動量は、ロックブラケットとヒンジブラケットのドアフレーム11に対する移動量(ロックブラケットとヒンジブラケットのCAD座標からドアフレーム11のCAD座標への移動量)に相当する。最後に、算出したロックブラケットとヒンジブラケットのドアフレーム11に対する移動量に基づいて、ロックブラケットとヒンジブラケットをドアフレーム11に対して移動させることにより、ロックブラケットとヒンジブラケットがドアフレーム11に対して位置決めされる。
【0048】
本実施形態の点群データを基準データに位置合わせするプロセスは、例えば、点群情報を強制数値(定量値)移動させる強制数値移動ステップと、点群全体とCAD全体形状で位置合わせを行う全体形状合わせのベストフィットステップと、基準部位、例えば製品評価の基準となる部位に合わせて詳細位置合わせを行う基準位置合わせステップとを含んでいる。
【0049】
ところで、例えば、溶接装置1の初期設定時(キャリブレーション時)には、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70により第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61の位置補正用マーカ62の位置や姿勢を毎回計測している。また、上述した通り、3Dスキャナ61は3Dスキャナ支持アーム60の先端側に支持されており、第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61が得た点群データを第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70の原点データに置き換えている。
【0050】
しかしながら、稼働時には第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61やその周辺金属が昇温(例えば20℃)して熱膨張を起こすことで、3Dスキャナ61の位置精度がバラつく結果、3Dスキャナ61の初期原点と、3Dスキャナ61の昇温後原点とがずれてしまい、対象物(例えばロックブラケットとヒンジブラケットとドアフレーム11)の位置合わせの精度が悪化するおそれがある。これにより、ずっと同じところに置いてあるワークを3Dスキャンし続けていると(取得した点群情報をレーザトラッカ原点に変換)、取得した点群データの位置や姿勢が時間経過(昇温経過)によりばらつく問題が発生する。
【0051】
そこで、本実施形態では、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70から形状マーカ80までの距離が算出できれば、第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61から位置補正用マーカ62までの寸法が算出可能であることに着目して、実際のワーク測定に入る前に、3Dスキャナ61と位置補正用マーカ62の間の寸法を再測定して、両者の位置校正機能を追加している。温度等の環境状況に応じて変化してしまう3Dスキャナ61の原点位置を定期的に校正して、例えば1サイクル毎に1回校正することで、温度等の環境状況に対応して常に高精度な位置や姿勢の検出を維持し続けることが可能になる。
【0052】
図7A図7Dは、形状マーカ(固定物、金属塊)80の第1の例を示す図である。図7A図7Dは、形状マーカ80が三角錐の形状を含んでいる。形状マーカ80は、符号83a面視(例えば符号83aの面に垂直な方向から見た時に)直角三角形形状をなす基部82と、平面視直角三角形形状の中心部に延びる3つの側面部83と、3つの側面部83の集合部分を切り取った符号83a面視(例えば符号83aの面に垂直な方向から見た時に)直角三角形形状の頂面部84とを有している。基部82及び頂面部84は、平面視したときに相似形の直角三角形形状を有している。後述する座標抽出時にどの座標軸がどこを向いているか特定するために一部平面部83aを設けても良い。または一部の面を色分けして座標軸を特定するなど、向きを特定する手段は何であっても良い。つまり三角錐の形状を含むとは、図7A図7Dのような頂面部84を有している形状も含むものである。
【0053】
図8は、形状マーカ(固定物、金属塊)80の第2の例を示す図である。図8は、形状マーカ80が3つの球85の形状を含んでいる。3つの球85のうちの1つによって対象物の位置を把握することができ、3つによって対象物の姿勢を把握することができる。3つの球85によって規定された点を結ぶことにより、互いに直交するX軸とY軸とZ軸を基準とする空間座標(3次元座標)における対象物の位置と姿勢を把握することができる。後述する座標抽出時にどの座標軸がどこを向いているか特定するために3つの球の配置は各々寸法が異なるように配置しても良い。または一部の面を色分けして座標軸を特定するなど、向きを特定する手段は何であっても良い。
【0054】
図7A図7D及び図8に示した形状マーカ80の形状はあくまで一例であり、種々の設計変更が可能である。形状マーカ80は、互いに直交するX軸とY軸とZ軸を基準とする空間座標(3次元座標)における対象物の位置と姿勢を把握することができるものであればよい。例えば図7A図7Dの三角錐の形状を含むマーカについては、83aの点群の平均平面と83bの点群の平均平面から、両平面の交わる交線をX軸として算出し、83bの点群の平均平面と83cの点群の平均平面から、両平面の交わる交線をY軸として算出し、残りのZ軸はX軸とY軸の関係から算出することで形状マーカ80の姿勢が特定できる。この際に形状マーカ80が回転してしまうと、計算上では、X軸、Y軸、Z軸の向きがわからなくなる可能性があるため、前述したようなマーカの向きを特定するような形状差があると、その部分をZ軸方向にするなど、定義することで、形状マーカ80が回転しても正確にその姿勢を求めることができる。位置については83a、83b、83cの点群の平均平面の交点から算出することで算出できる。この際に、頂面部84にこの交点を投影して、その位置情報を使用しても良い。3Dスキャンの特徴として、面直で取得した点群情報の方が、傾斜している面をスキャンした時よりもより正確な点群情報を得られることから、この処理を挟むことによって位置誤差を軽減することが可能である。図8の球についても球の配置を均等配置するのでなく、85a、85b、85cの3つの球間寸法に差をつけることでX軸、Y軸又はZ軸の方向を特定し、形状マーカ80の向きを特定することが可能である。なお、85a、85b、85cの3つの球間寸法には自由度があり、種々の設計変更が可能である。
【0055】
なお、形状マーカ80は、ワーク(例えばロックブラケット、ヒンジブラケット)を把持するロボットアーム20、30の先端側に設けられてもよい。この場合、ロボットアーム20、30の位置補正用マーカ22、32に代えて/加えて、形状マーカ80を設けてもよい。
【0056】
図9は、第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61と位置補正用マーカ62の間の位置校正処理の一例を示す図である。図9の位置校正処理は、第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61と位置補正用マーカ62の少なくとも一方を基準とした第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61の原点の位置と姿勢である定量値を算出・校正するためのものである。本明細書において、第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61の位置と姿勢は、第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61の原点を基準とした値(パラメータ)を意味するものとする。初期設定時の定量値(デフォルト値)を算出する(C)。第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70を用いて、第1の対象物としての位置補正用マーカ62の位置と姿勢を測定する(D)。第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61を用いて、第2の対象物としての、位置校正用基準台に設けられた形状マーカ80の位置と姿勢を測定する(B)。第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70による第1の対象物としての位置補正用マーカ62の測定値(D)と、第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61による第2の対象物としての位置校正用基準台に設けられた形状マーカ80の測定値(B)と、初期設定時の定量値(デフォルト値)(C)とに基づいて、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70を基準とした第2の対象物としての位置校正用基準台に設けられた形状マーカ80の位置を算出する(A)。そして、第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61を用いて第3の対象物(例えば、ロボットアーム20、30が把持するロックブラケット、ヒンジブラケットを位置合わせするドアフレーム11)を測定する前に、位置補正用マーカ62を基準とした第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61の原点の位置と姿勢である定量値を校正する。具体的に、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70を基準とした第2の対象物としての位置校正用基準台に設けられた形状マーカ80の位置(A)から、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70による第1の対象物としての位置補正用マーカ62の測定値(D)と、第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61による第2の対象物としての位置校正用基準台に設けられた形状マーカ80の測定値(B)とを計算することにより、位置補正用マーカ62を基準とした第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61の原点の位置と姿勢である定量値(C)を校正する。その際、第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61で撮像したデータが第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61の原点で点群出現し、点群から抽出した座標を合わせることで、第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70の原点からの第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61の位置と姿勢を求めることができる。
【0057】
上記の定量値の算出及び/又は校正のための処理ステップは、次の第1ステップ~第4ステップを含むことができる。
(1)第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70で第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61と位置補正用マーカ62の少なくとも一方を測定する第1ステップ(D)。
(2)第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)70で第4の対象物としての形状マーカ80を測定する第2ステップ(A)。
(3)第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61で第4の対象物としての形状マーカ80を測定する第3ステップ(B)。
(4)第1ステップ(D)と第2ステップ(A)と第3ステップ(B)の測定結果に基づいて、位置補正用マーカ62を基準とした第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61の原点の位置と姿勢である定量値を算出及び/又は校正する第4のステップ(C)。
【0058】
なお、上記の説明では、形状マーカ80が第2の対象物と第4の対象物を兼用する場合を例示しているが、位置校正用基準台に位置する形状マーカ80と別個の形状マーカを設けて、これらを第2、第4の対象物としてもよい。また、第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61の位置ずれ校正用の形状マーカとして、第4の対象物の位置と姿勢を担保するための第5の対象物(マーカ)、すなわち位置補正用マーカ42を設けて、当該第5の対象物を測定するステップを追加してもよい。第1の対象物としての位置補正用マーカ62が温度による位置ずれの可能性があるため、精度を担保するため、最初に予め位置を測定した第5の対象物(マーカ)を介在させて校正時の測定を行い、位置補正用マーカ62を基準とした第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61の原点の位置と姿勢である定量値を算出及び/又は校正してもよい。
【0059】
代替的には、位置補正用マーカ62を基準とした第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61の位置と姿勢である定量値を、第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61の温度によって異なる予め決定された値としてテーブルとして保持してもよい。そして、このテーブルを参照して、第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61の温度測定に基づいて、位置補正用マーカ62を基準とした第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)61の位置と姿勢である定量値を算出及び/又は校正してもよい。例えば、所定の温度範囲毎に定量値(校正値)を保持したテーブルを参照して、測定温度に応じた定量値(校正値)を算出してもよいし、温度を入力パラメータとした計算式に測定温度を代入することで定量値(校正値)を算出してもよい。
【0060】
以上説明した定量値の校正処理を、例えば、温度等の環境変化が懸念される所定タイミングで実行する(例えば、1サイクル毎の3Dスキャン測定前に校正処理を実行する)。これにより、3Dスキャナとマーカ間の位置・姿勢を校正して、環境影響(温度)によるバラつきを吸収することができる。
【0061】
以上のように、本実施形態の対象物の検出方法は、定量値を算出するステップと、第1の位置情報生成装置で第1の対象物を測定するステップと、第2の位置情報生成装置で第2の対象物を測定するステップと、前記第1の位置情報生成装置による前記第1の対象物の測定値と、前記第2の位置情報生成装置による前記第2の対象物の測定値と、前記定量値とに基づいて、前記第1の位置情報生成装置を基準とした前記第2の対象物の位置を算出するステップと、前記第2の位置情報生成装置で第3の対象物を測定する前に、前記定量値を校正するステップと、を有している。これにより、外部環境の変化(気温など)にかかわらずに対象物の検出精度を維持することができる。3Dスキャナとマーカ間の位置・姿勢を校正して、環境影響(温度)によるバラつきを吸収することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 溶接装置
10 固定治具
11 ドアフレーム(第3の対象物)
20 ロボットアーム
21 把持部
22 位置補正用マーカ
30 ロボットアーム
31 把持部
32 位置補正用マーカ
40 溶接ロボット
41 溶接ノズル
42 位置補正用マーカ(第5の対象物)
50 溶接ロボット
51 溶接ノズル
60 3Dスキャナ支持アーム
61 第2の位置情報生成装置(3Dスキャナ)
62 位置補正用マーカ(第1の対象物)
70 第1の位置情報生成装置(レーザトラッカ)
80 形状マーカ(第2の対象物、第4の対象物、固定物、金属塊)
82 基部
83 側面部
84 頂面部
85 3つの球
90 制御部
91 点群データ取得部
92 基準データ取得部
93 移動マトリックス演算部
94 逆マトリックス演算部
95 目標移動マトリックス演算部
96 ロボットアーム制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9