(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142085
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】目標走行経路の演算装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/10 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
B60W30/10
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048774
(22)【出願日】2022-03-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】吉野 恭司
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA15
3D241CE04
3D241CE05
3D241DB01Z
3D241DC35Z
(57)【要約】
【課題】目標走行経路、低ノイズで精度よく目標走行経路を生成する目標走行経路の演算装置を提供する。
【解決手段】地図データにおける車道2に沿って自車両1の現在地点Pvから目標地点Ptまでの間の所定の区間ΔLで存在する多数の地点データ(P1~Pn)に基づいて、自車両1の目標走行経路を作成する演算装置10において、現在地点Pvの最近傍となる最近傍地点データP1から目標地点Ptに向かって連続した複数の地点データ(P1~Pi)を多数の地点データ(P1~Pn)のなかから選択し、選択した複数の地点データの近似曲線を作成する曲線近似処理を、近似曲線の始点から現在地点Pvまでの距離が許容範囲の限度となるまで、複数の地点データの個数(i)を異ならせながら繰り返し実行し、自車両1の目標走行経路として近似曲線の始点が許容範囲の限度となった時点での近似曲線を決定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地図データにおける車道に沿って自車両の現在地点から目標地点までの間の所定の区間に存在する多数の地点データに基づいて、前記自車両の目標走行経路を作成する目標走行経路の演算装置において、
前記現在地点の最近傍となる最近傍地点データから前記目標地点に向かって連続した複数の地点データを前記多数の地点データのなかから選択し、選択した前記複数の地点データの近似曲線を作成する曲線近似処理を、前記曲線近似処理の実行により得られた前記近似曲線の始点から前記現在地点までの距離が許容範囲の限度となるまで、前記曲線近似処理で選択する前記複数の地点データの個数を異ならせながら繰り返し実行し、前記自車両の目標走行経路として前記近似曲線の始点が前記許容範囲の限度となった時点での前記近似曲線を決定することを特徴とする目標走行経路の演算装置。
【請求項2】
前記多数の地点データの全てが選択されて作成された前記近似曲線の始点から前記現在地点までの距離が前記許容範囲に収まる場合は、前記自車両の目標走行経路としてその近似曲線が決定される請求項1の目標走行経路の演算装置。
【請求項3】
前記曲線近似処理における前記複数の地点データの個数の初期値が前記近似曲線の次元数の近傍の値であり、前記複数の地点データの個数が前記曲線近似処理の実行の繰り返しごとに所定数ずつ増加する請求項1または2に記載の目標走行経路の演算装置。
【請求項4】
前記近似曲線の始点の指標として、前記近似曲線の定数項を用いる請求項1~3のいずれか1項に記載の目標走行経路の演算装置。
【請求項5】
前記許容範囲の基準として、前記現在地点から前記最近傍地点データまでの距離を用いる請求項1~4のいずれか1項に記載の目標走行経路の演算装置。
【請求項6】
前記許容範囲の限度は、前記複数の地点データの個数の増減に伴う前記近似曲線の始点の変位に基づいて判定される請求項1~5のいずれか1項に記載の目標走行経路の演算装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標走行経路の演算装置に関し、より詳細には、自車両の現在地点から目標地点までの間の所定の区間の地点データ(高精度地図の点列)に基づいて、自車両の目標走行経路の演算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自車両の操舵制御への支援や自車両の自動運転では、走行経路に沿った多数の地点データ(目標走行経路の車線中心を表す高精度地図の点列)を、最小二乗法を用いて曲線近似処理することにより得られた近似曲線を目標走行経路とし、近似曲線の係数から計算される各物理量(自車両から目標経路までの距離、目標経路に対する自車両の向き、目標経路の曲率と曲率変化)を使用している。曲線近似処理は、非常に簡便であるが、近似曲線の各係数を時系列でみると不連続でノイズの乗った変化をすることが知られる。特に目標走行経路の曲率は、曲率半径の逆数であることから非常に小さな値の変化でも影響を受けやすい。ノイズの乗った近似曲線の係数から計算された曲率では自車両の操舵制御の支援や自車両の自動運転に悪影響が生じる。それ故、目標走行経路の作成には、近似曲線の係数のノイズをより小さくすることが望まれている。
【0003】
そこで、近似曲線の係数のノイズを抑えて滑らかな曲率を得るために、自車の車速とヨーレート、先行車の位置から目標走行経路上の点(地点データ)に重みをつけて最小二乗法を用いて曲線近似処理する方法(特許文献1参照)や、自車両が指定時間経過後に到達する地点での目標経路上の点(地点データ)に重みをつけて最小二乗法を用いて曲線近似処理する方法(特許文献2参照)など、種々の方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-135016号公報
【特許文献2】特許第6618653号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に記載の発明のように、自車両が将来、通過すると予測される位置に近い地点データに重みをつけて最小二乗法を用いた曲線近似処理では、予測に使用する車速やヨーレートが短時間で大きく変化する走行状態に適用できない。また、直線路、クロソイド区間路、丁字路、曲率一定の曲線路などの様々な形状の道路に対して同じ重み付けでは対応することができない。また、重み付けを道路形状ごとに変更することも現実的な解決策とは言えない。つまり、特許文献1、2に記載の発明では、様々な走行状態や様々な道路形状に適用した精度の高い目標走行経路を作成することができていない。それ故、精度よく目標走行経路を生成するには改善の余地がある。
【0006】
本開示の目的は、ノイズを抑えて、精度よく目標走行経路を生成する目標走行経路の演算装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成する本発明の一態様の目標走行経路の演算装置は、地図データにおける車道に沿って自車両の現在地点から目標地点までの間の所定の区間に存在する多数の地点データに基づいて、前記自車両の目標走行経路を作成する目標走行経路の演算装置において、前記現在地点の最近傍となる最近傍地点データから前記目標地点に向かって連続した複数の地点データを前記多数の地点データのなかから選択し、選択した前記複数の地点データの近似曲線を作成する曲線近似処理を、前記曲線近似処理の実行により得られた前記近似曲線の始点から前記現在地点までの距離が許容範囲の限度となるまで、前記曲線近似処理で選択する前記複数の地点データの個数を異ならせながら繰り返し実行し、前記自車両の目標走行経路として前記近似曲線の始点が前記許容範囲の限度となった時点での前記近似曲線を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、現在地点から近似曲線の始点までの距離が許容範囲の限度になるまで、曲線近似処理に用いる地点データの個数を異ならせることで、道路形状に応じた最適な地点データの個数を探索することが可能となる。これにより、本発明の一態様は、直線路、クロソイド区間路、丁字路、曲率一定の曲線路などの様々な形状の走行経路で、ノイズを抑えた精度の高い目標走行経路を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】地点データを含む地図データを模式的に例示する説明図である。
【
図2】目標走行経路の演算装置の実施形態を例示する説明図である。
【
図3】目標走行経路の演算方法の一例を例示するフロー図である。
【
図4】自車両が曲線路の手前を走行中に実行された目標走行経路の演算方法により得られた近似曲線を直交座標系で例示する説明図である。
【
図5】自車両が直線路を走行中に実行された目標走行経路の演算方法により得られた近似曲線を直交座標系で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、目標走行経路の演算装置を、図に示す実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1は、演算装置10が使用する多数の地点データ、すなわち目標走行経路の車線中心を表す高精度地図の点列(P1、P2、・・・、Pn)が含まれる地図データを模式的に表している。演算装置10が搭載された自車両1は、車道2の自車両走行部分3を図中で塗り潰しの矢印が示す方向に向かって走行している。演算装置10が搭載された自車両1は、公知の種々の車両を用いることができる。車道2は、車両の通行のために、縁石線や道路標示(車道外側線)など区画線4により区画された道路の部分を示す。車道2は、往復二車線(片側一車線)の場合に、区画線4どうしの間であり、中央の中央線5により、主に図中の左方から右方に進行する車両が走行可能な部分(自車両走行部分3)と主に図中の右方から左方に進行する車両が走行可能な部分とに区分けされている。なお、車道2には、中央線5により車両が走行可能な車両通行帯とその車両の対向車が走行可能な車両通行帯とに区分けされている往復四車線の道路や、区画線4および中央線5が無い道路もある。本開示において、車道2での自車両走行部分3は、往復二車線の場合に区画線4および中央線5の間の部分であり、往復四車線の場合に自車両1が走行可能な車両通行帯を示し、区画線4および中央線5が無い道路の場合にその道路の全域を示す。
【0012】
地点データ(P1、P2、・・・、Pn、・・・、Pt)は、各々が示す地点の位置座標(例えば、緯度および経度)を示していて、車道2に沿って等間隔に存在している。地点データは地図データに存在する車道2の全てに存在することが望ましいが、車道2のなかの少なくとも主要道路(例えば、高速道路、バイパス道路、一般国道、都道府県道、指定市道など)に存在していればよい。地点データが示す地点は、各々が車道2の自車両走行部分3の中心線L上に配置されている。車道2が往復二車線の場合に、地点データが示す地点は、外側の区画線4と中央線5との中間地点になっている。車道2に沿って隣り合う地点データどうしの間の間隔Δlの長さは、特に限定されるものではないが、その間隔Δlの長さが短いほど演算装置10が作成する目標走行経路の精度が高くなる。そこで、間隔Δlの長さは、1m以下が望ましい。
【0013】
多数の地点データ(P1、P2、・・・、Pn)は、自車両1の現在地点Pvから目標地点Ptまでの間の所定の区間ΔLで等間隔に存在している。所定の区間ΔLは、最近傍地点データP1から最終地点データPnまでの区間を示す。最近傍地点データP1は、自車両1の進行方向において自車両1の現在地点Pvの最近傍となる地点データである。所定の区間ΔLの区間長は、特に限定されるものではないが、その区間長が長いほど含まれる地点データの数が多くなり、演算装置10が作成する目標走行経路の精度の向上には有利になる。所定の区間ΔLは、長いほど地点データの数が多くなるが、地点データの数が多くなるほど演算装置10が目標走行経路の作成に要する演算処理負荷が重くなる。また、所定の区間ΔLの区間長が短いほど、演算装置10が作成する目標走行経路が直線路である場合に、目標走行経路の曲率のノイズが多くなる。そこで、所定の区間ΔLは、地点データどうしの間の間隔にもよるが、100m以上であることが望ましい。所定の区間ΔLの上限は、演算装置10の演算処理負荷による。本実施形態において、所定の区間ΔLの区間長は100mとし、間隔Δlの長さは0.5mとした。
【0014】
以上が地図データの模式的な説明であるが、実際の地図データには、車道2の区画線4や中央線5を示すデータなどが含まれていなくてもよい。実際の地図データには、少なくとも図示しないものも含む地点データ(P1、P2、・・・、Pn、・・・、Pt)が含まれていればよい。
【0015】
図2に例示する演算装置10の実施形態は、公知の種々のコンピュータを用いることができる。演算装置10は、中央演算処理部(CPU)11、主記憶部(RAM)12、補助記憶部(ROM)13、および、入出力部を有している。補助記憶部13には、多数の地点データ(P1、P2、・・・、Pn)が集積されたデータセット20が記憶されている。演算装置10は、入出力部を介して、自己位置推定装置14、ナビゲーションシステム15、および、車両用制御装置16接続されている。本実施形態では、別体としたが、演算装置10は、自車両1の制御を行う車両用制御装置16であってもよく、ナビゲーションシステム15の演算装置であってもよい。
【0016】
演算装置10は、起動すると補助記憶部13に記憶された所定のプログラムが起動する。起動したプログラムの指示により、演算装置10は、データセット20の多数の地点データに基づいて、各データ処理を実行する。そして、各データ処理を実行して得られた目標走行経路データ30を車両用制御装置16へ出力する。
【0017】
自己位置推定装置14は、自車両1の現在地点Pvの位置座標や自車両1の姿勢角を取得する装置である。自己位置推定装置14は、公知の種々の自己位置推定装置を用いることができる。自己位置推定装置14としては、車載カメラで撮像した画像データに基づいて区画線4や中央線5を抽出し、自車両走行部分3における自車両1の位置と姿勢角を算出する車線維持装置が例示される。また、自己位置推定装置14としては、全球測位衛星システムの受信機により自車両1の現在地点Pvの位置座標や姿勢角を取得する装置も例示される。さらに、自己位置推定装置14としては、自車両1の速度が低く、かつ、周囲に障害物が多い環境(例えば、市街地)であれば、レーダーやLiDARによる点群のスキャンマッチングにより自車両1の現在地点Pvの位置座標や姿勢角を取得する装置も例示される。自己位置推定装置14は、一つの装置に限定されずに、例示した複数の装置の組み合わせで構成されてもよい。
【0018】
ナビゲーションシステム15は、公知の種々のナビゲーションシステムを用いることができる。ナビゲーションシステム15は、自車両1の運転者により目的地点Ptが設定されると、自己位置推定装置14が取得した現在地点Pvから設定された目的地点Ptまでのナビゲーションを行う。ナビゲーションシステム15は、自身に記憶されている地図データ、あるいは、通信により所定のサーバーから取得した地図データを演算装置10に出力する。地図データは、演算装置10の補助記憶部13に予め記憶されていてもよい。
【0019】
車両用制御装置16は、公知の種々の制御装置を用いることができる。車両用制御装置16は、演算装置10から出力された目標走行経路データ30に基づいて、自車両1の自動走行の制御処理を実行する。
【0020】
図3に目標走行経路の演算方法の一例を示す。この演算方法は、自車両1が所定の距離を進むごと、あるいは、所定の周期ごと、に繰り返し行われて、都度、目標走行経路を作成する。所定の距離や所定の周期は、任意に設定することが可能である。所定の距離は、所定の区間ΔLなどの長い距離よりも、地点データどうしの間の間隔Δlなどの短い距離(例えば、0.5m)であることが望ましい。また、同様に、所定の周期は、自車両1が低速度(例えば、20km/h未満)で間隔Δlを進むのに要する時間などの短い時間(例えば、100ms)であることが望ましい。
【0021】
この演算方法では、まず、データセット20を設定する(S110)。ついで、曲線近似工程(S120)を、得られた近似曲線(Y=aX3+bX2+cX+d)の始点から現在地点Pvまでの距離が許容範囲の限度になるまで(S130)、繰り返し行う(loop1)。曲線近似工程では、繰り返しごとにデータセット20から選択される地点データの個数が異なる。最終的に、近似曲線の始点が許容範囲の限度になった時点の近似曲線を目標走行経路として決定して終了する(S140)。以下に、(S110~S140)の各ステップについて詳述する。
【0022】
データセット20を設定するステップ(S110)では、演算装置10により、ナビゲーションシステム15の地図データからデータセット20を設定するデータ処理が実行される。より具体的に、演算装置10は、自己位置推定装置14が取得した自車両1の現在位置Pvと所定の区間ΔLとに基づいて、ナビゲーションシステム15の地図データでの最近傍地点データP1を特定し、特定した最近傍地点データP1から所定の区間ΔLの間に含まれる多数の地点データ(P1、P2、・・・、Pn)を特定し、データセット20を設定する。
【0023】
曲線近似工程(S120)では、まず、i個の地点データ(P1、P2、・・・、Pi)を選択する(S121)。ついで、最小二乗法を用いて選択したi個の地点データの近似曲線(Y=aX3+bX2+cX+d)を作成する(S122)。
【0024】
i個の地点データを選択するステップ(S121)では、演算装置10により、データセット20の多数の地点データのなかからループ処理(loop1)の回数に応じたi個の地点データを選択するデータ処理が実行される。曲線近似工程(S120)で使用される地点データは、最近傍地点データP1から最終地点データPnに向かって連続していることとする(最近傍地点データP1を必ず含む)。
【0025】
i個の地点データを選択するステップ(S121)では、地点データの個数を初期値から漸次異ならせる。漸次異ならせる方法としては、個数の初期値を曲線近似工程により近似曲線を作成可能な最小値(曲線を表現するのに必要な最少点数、すなわちi=3)に設定し、繰り返しごとに個数を所定数ずつ(一個ずつを含む)増加させる方法が例示される。また、個数の初期値を最大値(所定の区間ΔL内に含まれるすべての地点データの数、i=n)に設定し、繰り返しごとに個数を所定数ずつ(一個ずつを含む)減少させる方法も例示される。加えて、個数の初期値を最小値および最大値の中央値に設定し、繰り返しごとに個数の増減を交互に所定数ずつ増減させる方法も例示される。地点データの工数を初期値から漸次異ならせる方法は、例示したいずれかの方法に限定されるものではなく、車道2の状態に応じていずれかの方法を選択してもよい。例えば、直線路が長期間に亘って続く状態であれば、個数の初期値を最大値に設定して繰り返しごとに個数を漸次減少させる方法にすると、演算負荷の低減や目標走行経路の作成に要する時間の短縮には有利になる。また、曲線路が連続して続く状態であれば、個数の初期値を最小値に設定して繰り返しごとに個数を漸次増加させる方法にすると、演算負荷の低減や目標走行経路の作成に要する時間の短縮には有利になる。
【0026】
近似曲線を作成するステップ(S122)では、演算装置10により、最小二乗法を用いて、選択したi個の地点データの近似曲線を作成するデータ処理が実行される。最小二乗法を用いた近似曲線の作成の手法は、公知の種々の手法を用いることができる。本実施形態では、最小二乗法を用いて三次の近似曲線(Y=aX3+bX2+cX+d)を作成した。
【0027】
始点判定のステップ(S130)では、演算装置10により、曲線近似処理(S120)の実行により得られた近似曲線の始点から現在地点Pvまでの距離が許容範囲の限度を超えたか否かを判定するデータ処理が実行される。このステップ(S130)で、近似曲線の始点から現在地点Pvまでの距離が許容範囲の限度を超えている場合は(S130:NO)、ステップ(S140)へ進む。このステップ(S130)で、近似曲線の始点から現在地点Pvまでの距離が許容範囲の限度を超えていない場合は(S130:YES)、ループ処理でステップ(S121)へ戻る。
【0028】
図4および
図5は、作成した近似曲線(Y=aX
3+bX
2+cX+d)を、原点を現在地点Pvとし、自車両1の幅員方向をY方向とし、自車両1の進行方向をX方向とした直交座標系の平面での関数として示したものである。この直交座標系では、X方向において、自車両1の進行方向を正とし、その反対の方向を負とする。また、Y方向において、自車両1を運転する立場から見て左方向を正とし、自車両1を運転する立場から見て右方向を負とする。この直交座標系のX軸およびY軸の向きは、自車両1に固定されるため、が自動走行中に自車両1に対して常に一定である。
【0029】
近似曲線(Y=aX3+bX2+cX+d)の始点は、X=0の点、すなわち座標(X,Y)=(0,d)の点を意味する。つまり、近似曲線の始点の指標として、近似曲線の定数項を用いることが可能である。以下、近似曲線の始点から現在地点Pvまでの距離をdと表記する。
【0030】
許容範囲は、作成される目標走行経路のノイズの大きさを反映する。距離dが許容範囲に収まっている場合に目標走行経路のノイズが小さく、その近似曲線から得られる曲率は精度が高い。距離dが許容範囲から外れた場合に目標走行経路のノイズが大きく、その近似曲線から得られる曲率は精度が低い。
【0031】
許容範囲の基準としては、最近傍地点データP1から現在地点Pvまでの距離ΔDを用いることが望ましい。距離ΔDは、一定値ではなく、自車両1が所定の距離を進むごと、あるいは、所定の周期ごと、変動する不定値である。最近傍地点データP1から現在地点Pvまでの距離ΔDが短いほど、最近傍地点データP1を含む複数の地点データから得られる近似曲線の始点も現在地点Pvに近づく傾向にある。それ故、許容範囲の基準が一定値であると、正確な判定が成立しない。そこで、許容範囲の基準として、不定値である距離ΔDを用いることで、より精度の高い判定を行うことができる。
【0032】
近似曲線の始点が現在地点Pvに近いほど、その近似曲線が目標走行経路とよく重なっていることを意味し、近似曲線の始点が現在地点Pvから遠いほど、その近似曲線は目標走行経路と重なっておらず、近似できていないことを意味する。どれくらい近似できているかという誤差が、時系列でみたときにノイズとして表れる。つまり、近似曲線の始点が現在地点Pvにどれほど近いかによって小さな誤差で近似できているか判定することができる。一方で、最小二乗法を用いた曲線近似処理では、使用するデータ数が多いほど得られる近似曲線の係数の精度が高くなり、そのデータ数が少ないほど得られる近似曲線の係数の精度が低くなる。以上の性質から、近似曲線の始点の判定には、許容範囲の限度を用いることで、ノイズの少ない範囲での曲線近似処理で用いる地点データの個数を最大限まで増やすことができる。これにより曲線近似で用いる地点データの個数を、直線路ではなるべく多くしてノイズを少なくし、曲線路ではなるべく精度よく曲率が計算できる数に制限することで、近似曲線の低ノイズ性と精度よい推定の両方を満たす近似曲線を探索することが可能となる。
【0033】
許容範囲の限度は、近似曲線の作成に用いる地点データの個数の増減に伴う近似曲線の始点の変位を用いて判定することができる。例えば、i個の地点データを用いた近似曲線の始点が許容範囲に収まっていて、(i+1)個の地点データを用いた近似曲線の始点が許容範囲を超えた場合に、i個の地点データを用いた近似曲線の始点が許容範囲の限度と見做せる。このように、近似曲線の作成に用いる地点データの個数の増減に伴う始点の変位を用いることで、許容範囲の限度となる近似曲線の始点を探索することが可能となる。
【0034】
始点判定のステップをより詳細に説明すると、演算装置10により、近似曲線の始点の位置座標、および、現在地点Pvの位置座標の差分の絶対値(距離d)と、現在地点Pvの位置座標、および、最近傍地点データP1の位置座標の差分の絶対値(距離D)との差分(d-ΔD)と予め設定した閾値Daとを比較するデータ処理が実行される。閾値Daは、ノイズへの影響度が少ない範囲で地点データの個数を最大限まで増やすことが可能な値であればよい。
【0035】
図3の近似曲線を決定するステップ(S140)では、演算装置10により、自車両1の目標走行経路として用いる近似曲線を決定するデータ処理が実行される。具体的に、始点判定のステップ(S130)により、始点が許容範囲の限度を超えたと判定した場合に(S130:NO)、(i-1)個の地点データを使用して作成された近似曲線が決定される。また、多数の地点データ(P1、P2、・・・、Pn)の全てを使用して作成された近似曲線の始点が許容範囲に収まると判定した場合に、その近似曲線が決定される。
【0036】
図4には、自車両1が左折する直前での目標走行経路の一例を示す。この一例には、複数の地点データの個数を九個(P1~P9)、十個(P1~P10)、十一個(P1~P11)とした三つの近似曲線が示されている。一点鎖線で示す九個の地点データから計算された近似曲線は、差分(d-ΔD)の絶対値が閾値Da未満になっている。実線で示す十個の地点データの近似曲線は、差分(d-ΔD)の絶対値が閾値Da未満になっていて、八個の地点データの近似曲線の差分の絶対値よりも大きくなっている。点線で示す十一個の地点データの近似曲線は、差分(d-ΔD)の絶対値が閾値Daよりも大きくなっている。よって、十個の地点データの近似曲線の始点が許容範囲の限度と見做すことができ、実線で示す十個の地点データの近似曲線が目標走行経路として決定される。
【0037】
図5には、自車両1が直線路を走行中での目標走行経路の一例を示す。実線で示す多数の地点データ(最近傍地点データP1から最終地点データPnまで)の全ての近似曲線は、差分(d-ΔD)の絶対値が閾値Da未満になっている。よって、目標走行経路として実線で示す多数の地点データの全ての近似曲線が目標走行経路として決定される。
【0038】
目標走行経路として近似曲線が決定されると、演算装置10により、決定された近似曲線に基づいて、目標走行経路データ30を算出するデータ処理が実行され、車両用制御装置16に算出した目標走行経路データ30が出力される。車両用制御装置16は、演算装置10から出力された目標走行経路データ30に基づいて自車両1の自動走行を制御する。目標走行経路データ30は、決定された近似曲線(Y=aX3+bX2+cX+d)の各係数(a,b,c,d)である。これら係数から、自車両の操舵制御への支援や自車両の自動運転に必要な各種物理量(自車両から目標経路までの距離、目標経路に対する自車両の向き、目標経路の曲率と曲率変化)が計算される。
【0039】
出発地点から目標地点Ptまでの自車両1の自動走行を説明する。まず、運転者により、ナビゲーションシステム15に目標地点Ptが入力される。ついで、運転者により自車両1の自動走行の開始が合図されると、演算装置10により、目標走行経路の演算処理が実行される。ついで、目標走行経路の演算処理により出力された目標走行経路データ30に基づいて、車両用制御装置16により、自車両1の自動走行が開始される。ついで、所定の周期ごとに、あるいは、自車両1が所定の距離を進むごとに、演算装置10により、次の走行経路の演算処理が実行される。このように、目標走行経路の演算処理と、その目標走行経路の演算処理により得られた目標走行経路に基づいた自動走行とが繰り返されて、自車両1が目標地点Ptに到達する。
【0040】
以上のように、本実施形態によれば、近似曲線の始点から現在地点Pvまでの距離dが許容範囲の限度になるまで、曲線近似処理に用いる地点データの個数を異ならせることで、道路形状に応じた最適な地点データの個数を探索することが可能となる。つまり、直線路ではより多い個数の地点データが選択されるまで曲線近似処理が繰り返されることで、目標走行経路が最近傍地点データからより遠方の地点データまでの近似曲線となり、ノイズ成分を小さく抑えることができる。一方、曲線路では曲線近似処理の繰り返し回数がより少なくなることで、目標走行経路が現在地点Pvから最も近いカーブまでの近似曲線となり、そのカーブの曲率を精度よく把握できる。このように、本実施形態は、曲線近似処理で用いるデータ数を道路状況に適合させることで、ノイズを抑えた、精度の高い目標走行経路を生成することができる。
【0041】
また、本実施形態によれば、曲線近似処理で、自車両1の走行状態や道路の形状に応じた重み付けをする必要がなく、車速やヨーレートが短時間で大きく変化する走行状態にも適用することができる。また、直線路、クロソイド区間路、丁字路、曲率一定の曲線路などの様々な形状の道路に対しても適用することができる。このように、本実施形態は、曲線近似処理でのデータ数を道路状況に応じて動的に変動させることで、より簡便に精度の高い目標走行経路を作成することができる。
【0042】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示の目標走行経路の演算装置は特定の実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 自車両
2 車道
10 演算装置
20 データセット
30 目標走行経路データ
Pv 現在地点
Pt 目標地点
P1~Pn 地点データ
ΔL 所定の区間
【手続補正書】
【提出日】2023-07-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地図データにおける車道に沿って自車両の現在地点から目標地点までの間の所定の区間に存在する多数の地点データに基づいて、前記自車両の目標走行経路を作成する目標走行経路の演算装置において、
前記現在地点の最近傍となる最近傍地点データから前記目標地点に向かって連続した複数の地点データを前記多数の地点データのなかから選択し、選択した前記複数の地点データの近似曲線を作成する曲線近似処理を、前記曲線近似処理の実行により得られた前記近似曲線の始点から前記現在地点までの距離が許容範囲の限度となるまで、前記曲線近似処理で選択する前記複数の地点データの個数を異ならせながら繰り返し実行し、前記自車両の目標走行経路として前記近似曲線の始点が前記許容範囲の限度となった時点での前記近似曲線を決定し、
前記許容範囲の基準として、前記現在地点から前記最近傍地点データまでの距離を用いることを特徴とする目標走行経路の演算装置。
【請求項2】
前記多数の地点データの全てが選択されて作成された前記近似曲線の始点から前記現在地点までの距離が前記許容範囲に収まる場合は、前記自車両の目標走行経路としてその近似曲線が決定される請求項1の目標走行経路の演算装置。
【請求項3】
前記曲線近似処理における前記複数の地点データの個数の初期値が前記近似曲線の次元数の近傍の値であり、前記複数の地点データの個数が前記曲線近似処理の実行の繰り返しごとに所定数ずつ増加する請求項1または2に記載の目標走行経路の演算装置。
【請求項4】
前記近似曲線の始点の指標として、前記近似曲線の定数項を用いる請求項1~3のいずれか1項に記載の目標走行経路の演算装置。
【請求項5】
前記許容範囲の限度は、前記複数の地点データの個数の増減に伴う前記近似曲線の始点の変位に基づいて判定される請求項1~4のいずれか1項に記載の目標走行経路の演算装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
上記の目的を達成する本発明の一態様の目標走行経路の演算装置は、地図データにおける車道に沿って自車両の現在地点から目標地点までの間の所定の区間に存在する多数の地点データに基づいて、前記自車両の目標走行経路を作成する目標走行経路の演算装置において、前記現在地点の最近傍となる最近傍地点データから前記目標地点に向かって連続した複数の地点データを前記多数の地点データのなかから選択し、選択した前記複数の地点データの近似曲線を作成する曲線近似処理を、前記曲線近似処理の実行により得られた前記近似曲線の始点から前記現在地点までの距離が許容範囲の限度となるまで、前記曲線近似処理で選択する前記複数の地点データの個数を異ならせながら繰り返し実行し、前記自車両の目標走行経路として前記近似曲線の始点が前記許容範囲の限度となった時点での前記近似曲線を決定し、前記許容範囲の基準として、前記現在地点から前記最近傍地点データまでの距離を用いることを特徴とする。