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特開2023-142105繊維束の開繊装置及び開繊繊維束の製造方法
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  • 特開-繊維束の開繊装置及び開繊繊維束の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142105
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】繊維束の開繊装置及び開繊繊維束の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02J 1/18 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
D02J1/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048803
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成田 麻美子
(72)【発明者】
【氏名】森下 卓也
(72)【発明者】
【氏名】堀越 界斗
(72)【発明者】
【氏名】濱中 一平
(72)【発明者】
【氏名】原田 耕太郎
【テーマコード(参考)】
4L036
【Fターム(参考)】
4L036AA01
4L036MA04
4L036MA33
4L036PA41
4L036UA25
(57)【要約】
【課題】繊維束の開繊幅を拡大する。
【解決手段】繊維開繊装置は、繊維束の搬送方向に間隔をあけて配置され、前記繊維束を支持する支持部と、搬送される前記繊維束に対して前記支持部と反対側から流体を吹き付ける流体吹付け部と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束の搬送方向に間隔をあけて配置され、前記繊維束を支持する支持部と、
搬送される前記繊維束に対して前記支持部と反対側から流体を吹き付ける流体吹付け部と、
を備える繊維束の開繊装置。
【請求項2】
前記流体吹付け部の口部は、流体吹き付け方向から見て、少なくとも一部が前記搬送方向に対して交差する方向に延びている、請求項1に記載の繊維束の開繊装置。
【請求項3】
前記流体吹付け部の口部は、流体吹き付け方向から見て、全体が前記搬送方向に対して交差する方向に延びている、請求項2に記載の繊維束の開繊装置。
【請求項4】
前記流体吹付け部による流体吹付けエリア内に複数の前記支持部が前記搬送方向に間隔をあけて配置されている、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の繊維束の開繊装置。
【請求項5】
前記流体吹付けエリア内において、前記支持部の占める面積が10%以上90以下%である、請求項4に記載の繊維束の開繊装置。
【請求項6】
前記支持部は、前記搬送方向と交差する方向に延びる棒状部材である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の繊維束の開繊装置。
【請求項7】
前記棒状部材は、流体吹き付け方向から見て、前記搬送方向と直交する方向に延びている、請求項6に記載の繊維束の開繊装置。
【請求項8】
前記流体吹付け部よりも前記搬送方向の上流側に、搬送される前記繊維束を前記流体吹付け部による流体吹付けエリア内に案内する案内部が配置されている、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の繊維束の開繊装置。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の繊維束の開繊装置を用いた開繊繊維束の製造方法であって、
繊維束を搬送し、
搬送される前記繊維束に対して支持部と反対側から流体を吹き付けて開繊させる、開繊繊維束の製造方法。
【請求項10】
前記繊維束が有機繊維束である、請求項9に記載の開繊繊維束の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維束の開繊装置及び開繊繊維束の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、ガラス繊維等の強化繊維束からなる繊維強化樹脂において、強化繊維による繊維強化効果を高度に発揮するために、マトリックス樹脂と強化繊維束の接触面積を増大することが求められている。強化繊維束を構成する個々のフィラメントは互いに接触しているが、フィラメント間の間隔を開織により広げた開繊状態とし、マトリックス樹脂を各フィラメント間に含浸しやすくすることが接触面積の増大のために必要である。
【0003】
特許文献1には、吸引風洞を用いて繊維束に気流を作用させ、風下方向に繊維束を撓ませて繊維束の幅を広げる技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、繊維束の搬送方向に沿って支持部材を設置し、吸引風洞を用いて繊維束に気流を作用させることで風下方向に繊維束を撓ませないようにしながら繊維束の幅を広げる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3064019号公報
【特許文献2】特許第3907660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術及び特許文献2の技術により、繊維束の開繊幅を広げることが可能となったが、繊維束の開繊幅の更なる拡大が望まれている。
【0007】
本開示は、繊維束の開繊幅を拡大させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様の繊維束の開繊装置は、繊維束の搬送方向に間隔をあけて配置され、前記繊維束を支持する支持部と、搬送される前記繊維束に対して前記支持部と反対側から流体を吹き付ける流体吹付け部と、を備える。
【0009】
上記開繊装置では、繊維束に対して支持部と反対側から流体を吹き付けることから、吹き付けられた流体は繊維束の繊維間を通過して繊維束を開繊する。そして、繊維間を通過した流体は、隣り合う支持部間の隙間を通過して下流へ抜ける。
ここで上記開繊装置では、繊維束に対して支持部と反対側から流体を吹き付けるため、例えば、繊維束に対して支持部と反対側から流体を吸引する構成と比べて、繊維束の支持部で支持されている部分にも流体を作用させることができる。すなわち、繊維束において支持部で支持されている部分の繊維間にも流体を通過させられるので、繊維束の開繊幅を拡大させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、繊維束の開繊幅を拡大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施形態に係る繊維束の開繊装置の概略構成図である。
図2図1に示す開繊装置の平面図である。
図3図2の3X-3X線断面図である。
図4図1に示す開繊装置の流体吹付け部の口部の一例の平面図である。
図5図1に示す開繊装置の流体吹付け部の口部の他の例の平面図である。
図6図1に示す開繊装置の流体吹付け部の口部の他の例の平面図である。
図7図1に示す開繊装置の流体吹付け部の口部の他の例の平面図である。
図8図1に示す開繊装置の流体吹付け部の口部の他の例の平面図である。
図9図3の矢印9Xで指し示す部分の流体の流れを示す断面図である。
図10】変形例の流体吹付け部の口部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の一実施形態に係る繊維束の開繊装置及び開繊繊維束の製造方法について説明する。
【0013】
本実施形態の繊維束の開繊装置20は、図1に示すように、複数の繊維を束ねた繊維束FBを開繊する装置である。
【0014】
開繊装置20は、開繊部26と、送出部28とを備えている。
【0015】
開繊部26は、繊維束FBを開繊する部分である。開繊部26の詳細な構成については後述する。
【0016】
送出部28は、繊維束FBを搬送する機構である。送出部28は、例えば、1つのローラ、一対のローラ又はこれら2つ以上を組み合わせて構成される。繊維束FBを搬送するためには、一対のローラを1組又は対になっていないローラを2つ以上設置することが好ましい。
【0017】
繊維束FBは、管等を芯としたロール状から開繊部26へ向けて繰り出されてもよいし、折りたたまれた状態から開繊部26へ向けて繰り出されてもよい。また、前工程で得られた繊維束FBをそのまま使用して開繊部26へ繰り出してもよい。
【0018】
また、開繊部26で開繊された繊維束FBは、管等を芯として巻き取り回収されてもよいし、折りたたまれた状態で回収されてもよい。また、開繊された繊維束FBを連続して後工程に用いてもよい。この後工程は、開繊部26と送出部28との間に設置してもよく、送出部28の後に設置してもよいが、繊維束FBの開繊状態を維持して後工程に搬送できるため、送出部28の後に設置することが好ましい。
【0019】
なお、図1の矢印TDは、繊維束FBの搬送方向を示している。
【0020】
本実施形態では、図1に示すように、開繊部26を一つ設置しているが、これに限定されず、開繊部26を2つ以上連続して配置してもよいし、開繊部26の中に後述する支持部40と吹付けノズル50の組み合わせを2組以上連続して配置してもよい。開繊部26を2つ以上連続して配置したり、支持部40と吹付けノズル50の組み合わせを2組以上連続して配置したりすることで開繊倍率を上げることができる。
【0021】
次に、本実施形態の開繊部26について説明する。
【0022】
図1及び図2に示すように、開繊部26は、支持部40と、流体吹付け部の一例としての吹付けノズル50と、を備えている。
【0023】
(支持部)
支持部40は、搬送方向に搬送される繊維束FBを支持する部分である。支持部40は、繊維束FBの搬送方向に間隔をあけて配置されている。なお、本実施形態では、支持部40を一定間隔で配置しているが、本開示はこれに限定されない。
【0024】
また、本実施形態の支持部40は、流体吹き付け方向(流体Fを繊維束FBに吹き付ける方向)から見て、搬送方向と交差する方向に延びる棒状部材である。ここで、搬送方向と交差する方向とは、搬送方向以外の全ての方向を指す。すなわち、搬送方向と交差する方向には、搬送方向に対して直交する方向及び搬送方向に対して傾斜する方向が含まれる。一例として、本実施形態の支持部40は、搬送方向と直交する方向に延びている。
【0025】
また、本実施形態の支持部40は、断面形状が円形の棒状部材である。このため、流体が吹き付けられた繊維束FBを支持部40で支持する際に、繊維束FBに応力集中が生じにくく、繊維束FBの損傷を防止できる。なお、本開示は上記構成に限定されず、支持部40の繊維束FBと接する部分が応力集中を生じさせない形状であればどのような形状でもよい。例えば、断面視で支持部40の繊維束FBと接する部分が円弧状に湾曲していても、繊維束FBの損傷を防止する効果が期待できる。
【0026】
なお、支持部40の幅(本実施形態では、直径)は、一例として、1mm以上5mm以下が好ましく、1mm以上4mm以下がより好ましく、1mm以上2mm以下が特に好ましい。
【0027】
また、隣り合う支持部40間の間隔は、1mm以上7mm以下が好ましく、1.5mm以上6mm以下がより好ましく、2mm以上5mm以下がさらに好ましく、2mm以上4mm以下が特に好ましい。ここで、隣り合う支持部40間の間隔が7mmを超えると繊維束FBが隙間に入り込んで撓んでしまう可能性がある。一方、隣り合う支持部40間の間隔が1mmより狭くなると、エアが繊維束の流体吹付け方向の下流に抜けにくくなり、気流の乱れによる繊維の暴れなどが生じ、開繊効率が低減する可能性が高まる。
【0028】
なお、本実施形態の支持部40は、長手方向の両端が一対のフレーム42によってそれぞれ支持されている。支持部40は、一対のフレーム42に回転可能に支持されてもよいし、回転不能に支持されてもよい。支持部40が一対のフレーム42に回転可能に支持されている場合、繊維束FBと支持部40との間の接触抵抗が低くなる。
【0029】
本実施形態では、全ての支持部40の幅(直径)が同じ幅に設定されているが、この構成に限定されない。全ての支持部40の幅(直径)が異なる幅でもよいし、隣り合う支持部40の幅が互いに異なる構成でもよい。なお、隣り合う支持部40の幅が互いに異なる構成には、例えば、二種類の幅の支持部40が交互に配置されている場合や三種類以上の幅の支持部40が順繰りに配置されている場合も含む。
【0030】
(流体吹付け部)
吹付けノズル50は、搬送される繊維束FBに流体Fを吹き付ける部分である。具体的には、吹付けノズル50は、搬送される繊維束FBに対して支持部40と反対側から流体Fを吹き付ける。すなわち、吹付けノズル50は、繊維束FBを挟んで支持部40と反対側に配置されている。なお、本実施形態では、一例として、繊維束FBの下方に支持部40が配置され、繊維束FBの上方に吹付けノズル50が配置されている。つまり、支持部40の上方に吹付けノズル50が配置されている。
【0031】
吹付けノズル50の流体Fを吹き出す吹出口52(口部の一例)は、搬送される繊維束FBの表面(上面)を向いている。一例として、本実施形態では、吹出口52は、下方を向いている。
【0032】
吹出口52の形状は、搬送される繊維束FBに流体Fを吹き付けることができれば特に限定されない。例えば、吹出口52は、図4に示すように、一つの連続した開口52Aによって構成されてもよいし、図5図7に示すように、複数の小開口52Bによって構成されてもよい。図5に示す吹出口52は、縦長のスリット状の小開口52Bが複数並べられて構成されている。図6に示す吹出口52は、横長のスリット状の小開口52Bが複数並べられて構成されている。図7に示す吹出口52は、円形の小開口52Bが複数並べられて(図7では2列に並べられて)構成されている。図8に示す吹出口52は、円形の小開口52Bが千鳥状に並べられて構成されている。なお、吹出口52が複数の小開口52Bで構成される場合、吹出口52は全ての小開口52Bを囲う領域(図中、二点鎖線で囲う領域)を指す。なお、図4図7において二点鎖線で示す符号SAは、吹出口52から吹き出す流体Fが繊維束FBに対して流体Fを作用させられる領域を示している。
【0033】
吹出口52は、流体吹付け方向から見て、少なくとも一部が搬送方向に対して交差する方向に延びている。言い換えると、吹出口52の開口幅の中心を通る中心線CLの少なくとも一部が搬送方向に対して交差する方向に延びている。
なお、本実施形態では、一例として、流体吹付け方向から見て、吹出口52の全体が搬送方向に対して交差する方向に延びている。
【0034】
また、本実施形態では、吹出口52において、流体吹付け方向から見て、搬送方向に対して交差する方向に延びる部分の搬送方向に対する傾き(以下、ノズル角度θ)を、5°以上90°以下に設定することが好ましい。
【0035】
また、吹付けノズル50の流体吹付けエリアSA内には、複数の支持部40が搬送方向に間隔をあけて配置されている。
【0036】
また、本実施形態では、流体吹付けエリアSA内において、支持部40の占める面積は、10%以上90%以下が好ましく、15%以上70%以下がより好ましく、18%以上60%以下がさらに好ましく、20%以上50%以下が特に好ましい。
さらに、吹出口52に対応する領域内においても、支持部40の占める面積が、10%以上90%以下が好ましく、15%以上70%以下がより好ましく、18%以上60%以下がさらに好ましく、20%以上50%以下が特に好ましい。
【0037】
また、開繊部26は、案内部60を備えていることが好ましい。案内部60は、搬送される繊維束FBを吹付けノズル50の吹付けエリアSA内に案内する部分である。具体的には、案内部60は、搬送方向から見て、繊維束FBが吹付けエリアSA内に入るように繊維束FBを案内する。この案内部60は、吹付けノズル50よりも搬送方向の上流側に配置されている。本実施形態の案内部60は、一例として、一対のガイドロールによって構成されている。繊維束FBは、一対のガイドロールの間を通って吹付けエリアSA内に入る。なお、案内部60の構成は、上記構成に限定されない。搬送される繊維束FBを吹付けエリアSA内に案内できれば、ガイド板等でも構わないし、溝を有するローラの該溝を通す方法でもよい。また、一例として、一対のガイドロール間の間隔が開繊前の繊維束FBの幅の1.1倍以上2倍以下となるようにガイドロールを配置することが好ましい。一対のガイドロール間の間隔を開繊前の繊維束FBの幅の1.1倍以上2倍以下とすることで、繊維束FBを確実に吹付けエリアSA内へ案内することができる。
【0038】
本実施形態で用いる流体Fは、気体でも液体でも構わない。本実施形態では、流体Fとしてエアを用いている。すなわち、吹付けノズル50からは、繊維束FBに向けてエアが吹き付けられる。
【0039】
また、本実施形態で開繊される繊維束FBを構成する繊維の種類としては、特に制限はなく、有機繊維、炭素繊維、無機繊維、金属繊維等のいずれでもよい。
【0040】
有機繊維としては、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリアクリルアミド系繊維等のアクリル系繊維のほかピッチ系繊維、フェノール樹脂系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリオレフィン系繊維,ジエン系ポリマー繊維、再生セルロース系繊維、リグニン系繊維、ポリアミド繊維、芳香族ポリアミド繊維等のほか、前記ポリアクリロニトリル系繊維、ポリアクリルアミド系繊維等のアクリル系繊維の耐炎化繊維やピッチ系繊維の不融化繊維を挙げることができる。
ここで、ポリアクリロニトリル系繊維はアクリロニトリルのホモポリマーのほか、少なくとも1種以上のその他のビニル系モノマーとの共重合体を挙げることができるポリアクリルアミド系繊維はアクリルアミドのホモポリマーのほか、少なくとも1種以上のその他のビニル系モノマーとの共重合体を挙げることができる。
【0041】
炭素繊維としては、通常の炭素繊維のほか、予備炭化繊維、黒鉛化繊維を挙げることができる。
本発明において、耐炎化繊維は例えば前記アクリル系繊維を150℃以上500℃以下の所定の温度で且つ酸化性雰囲気下で熱処理をして得られるものであり、不融化繊維は例えば前記ピッチ系繊維を150℃以上400℃以下の温度で且つ酸化性雰囲気下で熱処理をして得られるものであり、予備炭化繊維は例えば、300℃以上1000℃以下の温度で不活性雰囲気下、熱処理をして得られるものであり、黒鉛化繊維は例えば2000℃以上3000℃以下で且つ不活性雰囲気下で熱処理を実施して得られるものである。
【0042】
無機繊維としては、特に制限はないが、例えばガラス繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ索繊維、アルミナ繊維、チタニア繊維、ジルコニア繊維、ムライト繊維、炭化ケイ素繊維
チタン酸カリウム繊維等を挙げることができ、金属繊維としては、特に制限はないが、例えばアルミニウム繊維、ステンレス繊維、鉄繊維、銅繊維、ニッケル繊維、タングステン繊維、モリブデン繊維、ベリリウム繊維等を挙げることができる。
【0043】
次に、開繊装置20を用いた開繊繊維束の製造方法について説明する。
【0044】
図1に示すように、上流から繰り出された繊維束FBは、開繊部26に搬送されて開繊される。具体的には、開繊部26を搬送される繊維束FBは、案内部60によって吹付けノズル50の吹付けエリアSA内に案内される。吹付けエリアSA内では、繊維束FBに対して支持部40と反対側から流体Fが吹き付けられる。吹出口52から吹き付けられる流体Fが繊維束FBを構成する繊維間を通過することにより繊維間の間隔が広がる。すなわち、開繊により繊維束FBの幅が広がる。
【0045】
開繊部26で開繊された繊維束FBは、送出部28を介して下流へ送り出される。このようにして開繊繊維束の製造が進行する。
【0046】
なお、本実施形態で製造される開繊繊維束の用途としては、そのままあるいは樹脂等との複合材料として、力学物性、軽量性、耐熱性、長期安定性等が要求される用途に好適に用いることができ、例えば、自動車用部材、電車用部材、航空宇宙用部材、産業機械用部 材、壁築用部材、土木用部材、家電用素材、スポーツ・レジャー用素材、圧力容器、保護具用素材等として特に有用である。
【0047】
次の本実施形態の作用並びに効果について説明する。
本実施形態の開繊装置20では、繊維束FBに対して支持部40と反対側から流体Fを吹き付けることから、吹き付けられた流体Fは繊維束FBの繊維間を通過して繊維束FBを開繊する。そして、繊維間を通過した流体Fは、隣り合う支持部40間の隙間を通過して下流へ抜ける。
ここで開繊装置20では、繊維束FBに対して支持部40と反対側から流体Fを吹き付けるため、例えば、繊維束に対して支持部と反対側から流体を吸引する構成と比べて、繊維束FBの支持部40で支持されている部分にも流体Fを作用させることができる(図9参照)。すなわち、繊維束FBにおいて支持部40で支持されている部分の繊維と繊維との間にも流体を通過させられるので、繊維束FBの開繊幅を拡大させることができる。
【0048】
本実施形態の開繊装置20では、吹付けノズル50の吹出口52は、流体吹付け方向から見て、少なくとも一部が搬送方向に対して交差する方向に延びている。このため、例えば、吹出口52が搬送方向に直線状に延びている構成と比べて、繊維束FBの一部分だけに開繊が集中することが抑制され、繊維束FBの開繊幅が拡大する。
特に本実施形態では、吹付けノズル50の吹出口52が搬送方向に対して傾斜する方向に延びている(換言すると、吹出口52が搬送方向に対して傾いている)ため、図2に示されるように、繊維束FBにおいて、流体Fによって先に開繊される部分と、後に開繊される部分とが生じる。このように繊維束FBが幅方向に時間差で開繊されることで、例えば、繊維束FBを幅方向で同時に開繊するものと比べて、繊維束FBの開繊幅が拡大する。
【0049】
本実施形態の開繊装置20では、吹付けノズル50の吹出口52全体を搬送方向に対して交差する方向に延ばしていることから、ノズル形状を簡単にできる。
【0050】
本実施形態の開繊装置20では、吹付けノズル50の流体吹付けエリアSA内に複数の支持部40を搬送方向に間隔をあけて配置していることから、例えば、吹付けエリアSA内に一つの支持部40のみが配置される構成と比べて、流体Fの吹き付けによって繊維束FBが過剰に撓むのを抑制できる。これにより、繊維束FBを構成する繊維の損傷を抑制できる。
【0051】
本実施形態の開繊装置20では、流体吹付けエリアSA内において、支持部40の占める面積が20%以上50以下%であることから、支持部40による繊維束FBを支持しつつ、隣り合う支持部40間を流体Fが通過することができる。これにより、繊維束FBを構成する繊維の損傷を防止しつつ、繊維束FBの開繊幅を拡大することができる。
【0052】
本実施形態の開繊装置20では、流体吹付け方向から見て、支持部40を搬送方向と交差する方向に延びる棒状部材としていることから、隣り合う支持部40間の隙間を確保しやすい。
【0053】
本実施形態の開繊装置20では、流体吹付け方向から見て、支持部40を搬送方向と直交する方向に延ばしていることから、例えば、支持部40が搬送方向に延びている構成と比べて、繊維束FBを幅方向に均等に開繊することができる。
【0054】
本実施形態の開繊装置20では、案内部60によって繊維束FBが吹付けエリアSA内に案内されるので、繊維束FBの開繊を確実に実施できる。
【0055】
前述の実施形態では、流体吹付け方向から見て、吹付けノズル50の吹出口52全体が搬送方向に対して交差する方向に一直線状に延びているが、本開示はこの構成に限定されない。例えば、吹付けノズル50の一部だけが搬送方向に対して交差する方向に延びていてもよいし、図10に示す吹付けノズル54のようにV字状の吹出口56を備えてもよいし、W字状の吹出口を備えてもよいし、階段状となる吹出口を備えてもよい。なお、V字状、W字状、階段状の吹出口を複数の小開口で構成してもよい。
【0056】
前述の実施形態では、支持部40を棒状部材としているが、本開示はこの構成に限定されない。例えば、平板状の部材に、搬送方向に間隔をあけて複数の貫通孔をあけて、搬送方向に隣り合う貫通孔の間を、繊維束FBを支持する支持部としてもよい。また、格子状の部材を用い、格子部分を形成する線状部材を、繊維束FBを支持する支持部としてもよい。この場合には、線状部材の径を、繊維束FBを構成する繊維に負荷が掛からない程度に太径とすることが好ましい。
【0057】
(試験例)
本開示の技術の効果を立証するため、以下の試験を実施した。
試験には、本開示の一態様に係る開繊装置を7例(実施例1~実施例7)準備し、従来の開繊装置を4例(比較例1~比較例4)準備した。
【0058】
-試験条件-
繊維束の搬送速度は、30mm/分に設定した。
繊維束は、アクリル系繊維(繊維束数3000本、繊維束の幅4.5mm)を用いた。
【0059】
-実施例-
実施例1~実施例7は、図1図3に示す形態の開繊装置であり、いずれも流体としてエアを用いた。
ノズル(流体吹付け部の一例)の大きさは9mm×42mmである。
ノズルを繊維束の30mm上に設置し、20mm×44mmの範囲(吹付けエリアの一例)にエアを吹き付けた。
なお、実施例1~実施例7は、それぞれ吹付けノズルのノズル角度θが異なり、それ以外の構成は同じである(表1参照)。
【0060】
-比較例-
比較例1は、従来からあるエアの吸引で繊維束を開繊する開繊装置である。
比較例2は、搬送される繊維束を支持する棒状部材に振動を与えて繊維束を開繊する開繊装置である。
比較例3は、搬送される繊維束に静電気を付与して繊維束を開繊する開繊装置である。
比較例4は、ローラに繊維を押し付けて開繊する開繊装置である。
【0061】
-試験-
実施例1~実施例7の開繊装置及び比較例1~比較例4の開繊装置をそれぞれ稼働させて繊維束を開繊させた。表1には、各供試開繊装置の繊維束の開繊倍率を記した。また、表1には、開繊後に繊維束を検査して、繊維の切れを確認し、その結果を記した。さらに表1には、開繊倍率と繊維の切れを総合的に判断した総合評価を記した。なお、総合評価における「A」は「B」よりも良好な結果であり、「B」は「C」よりも良好な結果である。
【0062】
なお、実施例1~実施例7の開繊装置は、棒状部材の直径を1mm、棒状部材の間隔を2mmとした場合(支持部の占める面積33%)と、棒状部材の直径を1mm、棒状部材の間隔を3mmとした場合(支持部の占める面積25%)と、棒状部材の直径を2mm、棒状部材の間隔を3mmとした場合(支持部の占める面積40%)の両方で試験を実施して、いずれも同等の結果を得た。そのため、表1には、棒状部材の直径を1mm、棒状部材の間隔を2mmとした場合の結果を記した。
【0063】
【表1】
【0064】
繊維束にエアを吹き付けて繊維束を開繊する実施例1~実施例7は、開繊方法が異なる比較例1~比較例4と比べて、繊維束の開繊倍率が拡大されていることが表1から分かる。すなわち、本開示の一態様に係る開繊装置の実施例1~7は、比較例1~比較例4の開繊装置と比べて、繊維束の開繊幅を拡大できる。
【0065】
また、実施例1~実施例6のように、エア吹付のノズル角度θを15°以上90°以下に設定した場合、表1から分かるように、開繊倍率が3倍以上となった。さらに、実施例2~実施例5のように、エア吹付のノズル角度θを30°以上75°以下に設定した場合、開繊倍率は3.6倍以上となった。ここで、ノズル角度θがある場合に開繊倍率が拡大した理由として、エアが繊維間を通過するだけでなく、ノズルから吹き付けられるエアが繊維間の幅を広げる力を支持部上の繊維にも付与することができるため、開繊倍率を拡大できたと考えられる。また、エアが吹き付けられる支持部が棒状部材であり、エアが通過できるため、エアが繊維直下に抜けやすくなることや、支持部によるエアの跳ね返りを抑えることでエアの乱れによる繊維のランダムな動きを低減でき、その結果、開繊効率が向上したと考えられる。
【0066】
なお、実施例7のように、エア吹付のノズル角度θを0°とした場合、開繊倍率は2.9倍にとどまった。ノズル角度が0°の場合には、繊維束の特定の箇所の繊維間の間隔が広がった場合、その箇所のみ集中的に開繊が進行する(すなわち、繊維間の間隔が広がる)傾向があり、実施例1~実施例6の他のノズル角度の場合と比べて、開繊倍率が低くなった。
【0067】
比較例1は、従来からあるエア吸引で開繊させる装置であるが、実施例1~実施例7と比べて、開織倍率は2.5倍にとどまった。
【0068】
比較例2は、搬送される繊維束を支持する棒状部材に振動を与えたが、繊維束全体に振動を与えることが困難であり、十分な開繊はできなかった。
【0069】
比較例3は、搬送される繊維束に静電気を付与したが、繊維束全体を帯電させることは困難であり、十分な開織はできなかった。
【0070】
比較例4は、ローラに繊維束を押し付けて開繊する装置であるが、十分な開繊ができないだけでなく、繊維束を構成する繊維にダメージがあり、利用できなかった。
【0071】
以上、本願の開示する技術の一実施形態について説明したが、本願の開示する技術は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0072】
20 開繊装置
40 支持部
50 吹付けノズル(流体吹き付け部)
52 吹出口(口部)
54 吹付けノズル(流体吹き付け部)
56 吹出口(口部)
60 案内部
F 流体
FB 繊維束
SA 吹付けエリア(流体吹付けエリア)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10