(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142114
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】金属シアノ錯体、ガス吸着材、及びガスセンサ
(51)【国際特許分類】
C01C 3/11 20060101AFI20230928BHJP
B01J 20/02 20060101ALI20230928BHJP
G01N 27/12 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C01C3/11
B01J20/02 A
G01N27/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048814
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 友彦
(72)【発明者】
【氏名】眞貝 尚吾
【テーマコード(参考)】
2G046
4G066
【Fターム(参考)】
2G046AA10
2G046AA24
2G046AA25
2G046AA26
2G046BA09
2G046FE03
2G046FE04
2G046FE07
2G046FE09
2G046FE11
2G046FE12
2G046FE20
2G046FE21
2G046FE25
2G046FE40
2G046FE45
2G046FE48
4G066AA41B
4G066AA51B
4G066BA20
4G066BA31
4G066CA29
4G066CA52
4G066CA56
4G066DA03
(57)【要約】
【課題】本発明により、高感度かつ良好な繰返し特性を有する金属シアノ錯体、それを含むガス吸着材及びそのガス吸着材を用いたガスセンサを提供する。
【解決手段】本発明の金属シアノ錯体は、一般式(1)で表されることを特徴とする金属シアノ錯体。
AxMtM”s[M’(CN)6]y・zH2O ・・・(1)
(A=Li、Na、K;0≦x≦0.4、
M=V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ba、Sr、Ca、Mg、Al;0.6≦t≦0.95、
M’=Mn、Fe、Co;0.5≦y≦1.0、
M”=S、F、Cl、Br、I、P;0.01≦s≦0.3、0≦z≦6)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されることを特徴とする金属シアノ錯体。
AxMtM”s[M’(CN)6]y・zH2O ・・・(1)
(A=Li、Na、K;0≦x≦0.4、
M=V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ba、Sr、Ca、Mg、Al;0.6≦t≦0.95、
M’=Mn、Fe、Co;0.5≦y≦1.0、
M”=S、F、Cl、Br、I、P;0.01≦s≦0.3、0≦z≦6)
【請求項2】
請求項1に記載の金属シアノ錯体を含むガス吸着材。
【請求項3】
請求項2に記載のガス吸着材を用いたガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属シアノ錯体、ガス吸着材、及びガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人間の呼気に含まれるガス成分、食品起因から発生するガス成分および住宅や生活用品から発生するホルムアルデヒドに代表される揮発性有機化合物(VOC)などを高い感度で検出・測定が可能なガスセンサが求められている。一般的に、このようなガスの検出・測定方法としては、特許文献1に記載されている半導体センサを用いる方法や、ガス吸着材が対象ガスを吸着した際のガス吸着材の吸光スペクトル変化などを測定する手法(特許文献2)などがある。しかしながら、特許文献1に記載される方法ではガス吸着材を300℃などの温度で使用するため、繰り返し使用すると徐々に特性が低下する傾向が見られ、特許文献2に記載される方法では測定雰囲気中の水分やその他のガス吸着の影響などにより繰返し使用すると徐々に特性が低下する傾向が見られる。そのため、感度が良好でかつ繰返し使用時の特性低下が小さいガス吸着材及びガスセンサが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-56726号公報
【特許文献2】特許第6345774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の金属シアノ錯体を用いることにより、高感度かつ良好な繰返し特性を有する金属シアノ錯体、それを含むガス吸着材及びそのガス吸着材を用いたガスセンサを提供することを目的としている。特に、アンモニア、エタノール、アセトン及びホルムアルデヒドなどのターゲットガスに対して、高感度かつ良好な繰返し特性を有する金属シアノ錯体、それを含むガス吸着材及びそのガス吸着材を用いたガスセンサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
〔1〕 一般式(1)で表されることを特徴とする金属シアノ錯体。
AxMtM”s[M’(CN)6]y・zH2O ・・・(1)
(A=Li、Na、K;0≦x≦0.4、
M=V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ba、Sr、Ca、Mg、Al;0.6≦t≦0.95、
M’=Mn、Fe、Co;0.5≦y≦1.0、
M”=S、F、Cl、Br、I、P;0.01≦s≦0.3、0≦z≦6)
〔2〕 〔1〕に記載の金属シアノ錯体を含むガス吸着材。
〔3〕 〔2〕に記載のガス吸着材を用いたガスセンサ。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、高感度かつ良好な繰返し特性を有する金属シアノ錯体、それを含むガス吸着材及びそのガス吸着材を用いたガスセンサを提供することができる。特に、アンモニア、エタノール、アセトン及びホルムアルデヒドなどのターゲットガスに対して、高感度かつ良好な繰返し特性を有する金属シアノ錯体、それを含むガス吸着材及びそのガス吸着材を用いたガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】Fe[Co(CN)
6]の結晶構造を示す模式図である。
【
図2】実施例1のガスセンサにおいて、アンモニア10ppmに対する抵抗値の経時変化を示すグラフである。
【
図3】実施例2のガスセンサにおいて、エタノール100ppmに対する抵抗値の経時変化を示すグラフである。
【
図4】実施例13のガスセンサにおいて、アセトン100ppmに対する抵抗値の経時変化を示すグラフである。
【
図5】実施例22のガスセンサにおいて、ホルムアルデヒド100ppmに対する抵抗値の経時変化を示すグラフである。
【
図6】比較例1のガスセンサにおいて、アンモニア10ppmに対する抵抗値の経時変化を示すグラフである。
【
図7】実施例1の金属シアノ錯体の粉末X線回折パターン図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。
【0009】
(金属シアノ錯体)
本実施形態の金属シアノ錯体は、一般式(1)で表されることを特徴とする。
【0010】
AxMtM”s[M’(CN)6]y・zH2O ・・・(1)
【0011】
(A=Li、Na、K;0≦x≦0.4、
M=V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ba、Sr、Ca、Mg、Al、;0.6≦t≦0.95、
M’=Mn、Fe、Co;0.5≦y≦1.0、
M”=S、F、Cl、Br、I、P;0.01≦s≦0.3、0≦z≦6)
【0012】
式(1)において、0.03≦s≦0.2であることが好ましい。
【0013】
式(1)において、AがLi、Na、及びKからなる群から選択される1種以上であり、Na及びKからなる群から選択される1種以上であることが好ましく、AがKであることがより好ましい。
式(1)において、MがV、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ba、Sr、Ca、Mg、Al、及びCrからなる群から選択される1種以上であり、Mn、Fe、Co、Cu、Ba、Sr、Ca、及びMgからなる群から選択される1種以上であることが好ましく、Mn及びFeからなる群から選択される1種以上であることがより好ましい。
式(1)において、M’がMn、Fe、Co、及びNiからなる群から選択される1種以上であり、Mn、Fe、及びCoからなる群から選択される1種以上であることが好ましく、Co及びFeからなる群から選択される1種以上であることがより好ましく、Feであることが更に好ましい。
式(1)において、M”がS、F、Cl、Br、I、及びPからなる群から選択される1種以上であり、S、F、Cl、Br、及びIからなる群から選択される1種以上であることが好ましく、S及びClからなる群から選択される1種以上であることがより好ましい。
【0014】
上記式(1)で表される金属シアノ錯体の具体例としては、例えば、後述の実施例1で合成されるようなK0.1Mn0.9S0.06[Fe(CN)6]0.67が挙げられ、式(1)において、A=K、x=0.1;M=Mn、t=0.9;M’=Fe、y=0.67;M”=S、s=0.06;z=0を満たす。また、別の例としては後述の実施例6で合成されるようなK0.1Ni0.8S0.1[Co(CN)6]0.67
が挙げられ、式(1)において、A=K、x=0.1;M=Ni、t=0.8;M’=Co、y=0.67;M”=S、s=0.1;z=0を満たす。
【0015】
上記式(1)に係る本実施形態の金属シアノ錯体は、一般式(2)で表される金属シアノ錯体であってもよい。
【0016】
AxMtM”s[Fe(CN)6]y・zH2O ・・・(2)
【0017】
一般式(2)において、A、M、M”、x、t、y、zは、一般式(1)のA、M、M”、x、t、y、zと同じ意味を示す。
【0018】
上記式(1)に係る本実施形態のガス吸着材は、一般式(3)で表される金属シアノ錯体であってもよい。
【0019】
AxFetM”s[Fe(CN)6]y・zH2O ・・・(3)
【0020】
一般式(2)において、A、M”、x、t、y、zは、一般式(1)のA、M”、x、t、y、zと同じ意味を示す。
【0021】
(金属シアノ錯体の構造)
上記一般式(1)で表される本実施形態の金属シアノ錯体の基本的な化学構造(骨格、格子)について、上記一般式(1)において、AとM”を含まず、M=Fe、M’=Coの例を用いて説明する。上記一般式(1)で表される本実施形態の金属シアノ錯体の基本的な化学構造(骨格)は、一般的に、
図1に示すFe[Co(CN)
6]のような面心立方構造であるが、必ずしもこれに制限されない。
図1において、面心立方(頂点と面の中心)にCoが位置し、立方体各辺の中心にFeが位置している。CoとFeはCNによりCo-CN-Feと架橋されている。Co-CN-Feの距離は0.5nmと大きいため、ジャングルジムのように大きな空隙を持っている。
上記一般式(1)で表される本実施形態の金属シアノ錯体は、
図1に示すFe[Co(CN)
6]のような面心立方構造を基本的な化学構造(骨格)としている場合、通常の基本的な化学構造を構成する金属元素M’(=Mn、Fe、Co、Ni)、M(=V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ba、Sr、Ca、Mg、Al)以外に、一般式(1)に示すM”(=S、F、Cl、Br、I、P)も含む。また、一般式(1)に示すA(=Li、Na、K)を含んでも含まなくてもよい。
本実施形態の金属シアノ錯体は、上記
図1のような基本的な化学構造(骨格、格子)を持ちながら、必須構成であるM”(=S、F、Cl、Br、I、P)が、上記骨格(格子)に入り込むと推察される。しかし、M”が金属シアノ錯体の骨格の中に、どの位置に、どのような状態で存在しているかについて、まだ明らかになっておらず、欠損などによるMもしくはM’の欠損部に結合している可能性や上記骨格の大きな空隙の中に入り込む可能性もあると推察されるが、必ずしもこれに制限されない。
【0022】
(金属シアノ錯体の結晶粒子のサイズ)
本実施形態の金属シアノ錯体の結晶粒径については特に限定はなく、必要な吸着速度が実現でき、望ましい形態への加工が可能であればそれでよい。一般的には吸着速度は材料の比表面積が大きいほど速いことが多く、その観点から言うと、平均粒径が10μm以下であることが好ましく、1μm以下がより好ましく、500nm以下が特に好ましい。粒径の下限に特に制限はないが、金属シアノ錯体を扱いやすさの観点から、10nm以上であることが好ましい。平均粒径は、走査型電子顕微鏡で観察した100個の粒子の直径の平均から算出する。
【0023】
(金属シアノ錯体の製造方法)
本実施形態の金属シアノ錯体の製造方法は、一般式(1)で表される金属シアノ錯体に構成する金属元素MとM”の塩を含む第1水溶液(「M―M”溶液」ということがある。)、金属元素M’のシアノ錯体を含む第2水溶液(「M’溶液」ということがある。)をそれぞれ調製し、第1水溶液と第2水溶液とを混合して反応させ、水分散液中に、沈殿物として一般式(1)で表される金属シアノ錯体を得ることができる。続いて必要に応じて、遠心分離法などを用いて、沈殿物を単離することができる。沈殿物を乾燥・粉砕し、金属シアノ錯体の粉末を得ることができる。後述の実施例において、一般式(1)で表される金属シアノ錯体の具体例を用いて、合成方法を詳細に説明する。
そして、金属シアノ錯体の粉末と水などの溶媒と混合して分散液を調製し、所定のガスセンサ用基板の上に塗布し、乾燥して金属シアノ錯体の薄膜を形成することもできる。あるいは、水分散液中の沈殿物を単離せず、金属シアノ錯体の水分散液を直接使用し、所定のガスセンサ用基板の上に塗布し、乾燥して金属シアノ錯体の薄膜を形成することもできる。
【0024】
分散液用溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールおよび水などや、またはこれらの混合溶媒などを使用することができる。
【0025】
金属元素Mの塩としては、硝酸塩、硫酸塩、硫酸アンモニウム塩、フッ化物塩、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、リン酸塩が挙げられる(それぞれの水和物を含む)。具体例としては、例えば、硫酸マンガン五水和物、塩化ニッケル(II)六水和物、硝酸ニッケル(II)六水和物、硫酸ニッケル(II)六水和物、塩化バナジウム(III)、塩化亜鉛(II)、硝酸亜鉛(II)六水和物などが挙げられる。
【0026】
元素M”含有塩としては、硫酸塩、硫酸アンモニウム塩、フッ化物塩、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、リン酸塩が挙げられる。
【0027】
硫酸塩と硫酸アンモニウム塩の具体例としては、硫酸マンガン五水和物、硫酸ニッケル(II)六水和物、硫酸カリウム、硫酸鉄(II)、硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物等が挙げられる。
フッ化物塩の具体例としては、フッ化カリウム、フッ化鉄等が挙げられる。
塩化物塩の具体例としては、塩化ニッケル(II)六水和物、塩化バナジウム(III)、塩化亜鉛(II)、塩化カリウム、塩化鉄(II)、塩化アルミニウム、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化マンガン、塩化バナジウム(III)等が挙げられる。
臭化物塩の具体例としては、臭化カリウム、臭化鉄(II)、臭化マンガン等が挙げられる。
ヨウ化物塩の具体例としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化鉄(II)、ヨウマンガン等が挙げられる。
リン酸塩の具体例としては、リン酸カリウム、リン酸鉄(III)(FePO4)、リン酸鉄(III)四水和物、リン酸水素マンガン一水和物(MnHPO4・H2O)、ピロリン酸ニッケル(II)六水和物等が挙げられる。
【0028】
金属元素Mと元素M”とを含む塩(「M-M”塩」ということがある。)が好ましく、例えば、金属元素Mの硫酸塩、金属元素Mの硫酸アンモニウム塩、金属元素Mのフッ化物塩、金属元素Mの塩化物塩、金属元素Mの臭化物塩、金属元素Mのヨウ化物塩、金属元素Mのリン酸塩が好ましい。
【0029】
金属元素Mの硫酸塩と硫酸アンモニウム塩の具体例としては、硫酸マンガン五水和物、硫酸ニッケル(II)六水和物、硫酸鉄(II)等が挙げられる。
金属元素Mのフッ化物塩の具体例としては、フッ化鉄等が挙げられる。
金属元素Mの塩化物塩の具体例としては、塩化ニッケル(II)六水和物、塩化バナジウム(III)、塩化亜鉛(II)、塩化鉄(II)、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、塩化マンガン、塩化バナジウム(III)等が挙げられる。
金属元素Mの臭化物塩の具体例としては、臭化鉄(II)、臭化マンガン等が挙げられる。
金属元素Mのヨウ化物塩の具体例としては、ヨウ化鉄(II)、ヨウマンガン等が挙げられる。
金属元素Mのリン酸塩の具体例としては、リン酸鉄(III)(FePO4)、リン酸鉄(III)四水和物、リン酸水素マンガン一水和物(MnHPO4・H2O)、ピロリン酸ニッケル(II)六水和物等が挙げられる。
【0030】
金属元素M’の原料としては、シアノ錯体等が挙げられる。具体例としては、例えば、フェリシアン化カリウム、ヘキサシアノコバルト(III)酸カリウム、ヘキサシアノマンガン(III)酸カリウムなどが挙げられる。
【0031】
金属元素Mの塩と、元素M”含有塩と、金属元素M’のシアノ錯体との混合順は、特に限定されない。沈殿の粒径のサイズの観点から、先に、金属元素Mの塩と、元素M”含有塩との混合溶液(以下、「M-M”溶液」という。)を調製し、金属元素M’のシアノ錯体の溶液(以下、「M’溶液」という。)を調整してから、M’溶液に、M-M”溶液を添加することが好ましい。M’溶液に、M-M”溶液を滴下することがより好ましい。
金属元素Mの塩と、金属元素M”の塩との混合溶液の調製方法は、特に限定されなく、金属元素Mの塩と、金属元素M”の塩とを先に混合してから、所定の溶媒を添加してもよく、先に、それぞれの溶液を調製したから、混合してもよい。
また、金属元素Mと元素M”とを含む塩(M-M”塩)を用いる場合、先に、M-M”塩の溶液を調製し、金属元素M’のシアノ錯体の溶液(以下、「M’溶液」という。)を調整してから、M’溶液に、M-M”溶液を添加することが好ましい。M’溶液に、M-M”溶液を滴下することがより好ましい。
【0032】
(ガス吸着材)
本実施形態のガス吸着材は、本実施形態の金属シアノ錯体を含む。本実施形態のガス吸着材は、必要に応じて、例えば、金属シアノ錯体の粒子を結合するために、公知のバインダーを用いることができる。本実施形態の金属シアノ錯体をそのまま、本実施形態のガス吸着材として用いても良い。すなわち、本実施形態のガス吸着材は、本実施形態の金属シアノ錯体であっても良い。
【0033】
(ガスセンサ)
本実施形態のガスセンサには、検知方法によるが、所定の基板上のガス吸着材として上記一般式(1)で表れるガス吸着材の薄膜が配置されている。
より具体的な本実施形態のガスセンサは、QCM素子センサ、電気抵抗式センサなどが代表的に挙げられる。QCM素子センサは、ターゲットガスの吸着量を、共振駆動する圧電材料の共振周波数の変化として捉えることで検知することができる。電気抵抗式センサは、基板上に設けた電極間にガス吸着材を担持し、電極間に電圧を印加して、ターゲットガスの吸着量を電極間の電気抵抗の変化として捉えることで検知することができる。本実施系体のガスセンサの検知方法については、限定されない。本実施形態のガスセンサが電気抵抗式センサである、電気抵抗式ガスセンサを例として、詳細に説明する。本実施形態のガスセンサは、本実施形態のガス吸着材を用いる場合、検知方法について、特に電気抵抗式に限らない。
【0034】
[電気抵抗式ガスセンサ]
本実施形態のガスセンサの一例である電気抵抗式ガスセンサは、ガス吸着材と、ガス吸着材が形成された電極と、を含む。前記ガス吸着材は、本実施形態の金属シアノ錯体を含む。前記電極は少なくとも1対の正、負電極を有し、前記電極をガス吸着材と電気的に接続している。電極構造は特に限定されないが、くし型構造など用いることができる。公知の電流・電圧測定装置と上記電極と接続し、ガス吸着材の電気抵抗を測定することができる。そして、アンモニアなどのターゲットガスがガス吸着材と接触すると、ガス吸着材がそのガスを吸着し、電気抵抗が変化する。その変化量を用いて、前記ガスの有無などを判断することができる。あるいは、あらかじめ用意したガス濃度と電気抵抗に関する検量線などを用いて、前記ガスの量(濃度)も測定することができる。
【実施例0035】
以下本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
[金属シアノ錯体の合成]
一般式(1)で表される金属シアノ錯体K0.1Mn0.9S0.06[Fe0.9(CN)6]0.67(A=K、x=0.1;M=Mn、t=0.9;M’=Fe、y=0.67;M”=S、s=0.06;z=0)を以下の方法で合成した。
MおよびM”の原料(M-M”塩として)として硫酸マンガン(II)五水和物3.7gおよび硫酸カリウム0.15gを純水100mlと混合し、その混合液を攪拌し、水溶液(M-M”溶液として)を調製した。次に、M’の原料としてフェリシアン化カリウム3.3gと純水100mlと混合し、その混合液を攪拌し、水溶液(M’溶液として)を調製した。得られたM’溶液に、得られたM-M”溶液を滴下し、25℃で24時間攪拌した。得られた懸濁液を遠心分離処理により上澄み液と沈殿物に分離し、これを超純水で3回洗浄した。洗浄後の沈殿物を100℃に設定した恒温槽内で24時間乾燥後、粉砕し、粉末状の金属シアノ錯体を得た。平均粒径は700nmであった。
【0037】
<金属シアノ錯体組成の評価>
本実施例の金属シアノ錯体の組成は、ICP発光分光分析(SHIMAZU製ICPS―8100CL)、酸素窒素分析(インパルス加熱溶融抽出法:LECО社製TC600)、および蛍光X線分析(リガク社製ZSX―100E)を用いて確認した。本実施例のガス吸着材に含まれるH2Oの量は、昇温させた際に発生するガスの質量数をダブルショットパイロライザーを備えたガスクロマトグラフ質量分析計(SHIMAZU製GCMSQP2010Plus)などを用いて確認し、さらに熱重量分析(セイコーインスツルメンツ社製TG/DTA6300)を用いて重量減少量を確認して求めた。評価結果を表1に示す。他の実施例と比較例も同様に求めた。
【0038】
また、
図7は株式会社リガク社製「UltimaIV」を用いて以下の条件にて測定した実施例1の金属シアノ錯体の粉末X線回折パターン図である。
【0039】
測定条件:
Filter: Ni
ターゲット:Cu Kα 1.54060Å
X線出力設定:40kV-40mA
スリット:発散1/2°、散乱1/2°、受光0.15mm
走査速度:4°/min
サンプリング幅:0.02°
【0040】
【0041】
【0042】
[ガス吸着材の薄膜の作製]
本実施例の金属シアノ錯体をガス吸着材として用いて、ガス吸着材の薄膜を以下のように作製した。
本実施例の金属シアノ錯体100mgを秤量し、純水1mlの入ったスクリュー管の中に入れ、超音波機で10分間分散後、マイクロピペットを用いて分散液1μlを抵抗測定用MicruX Technologies社製、Au/Tiくし型電極基板上に塗布した。70℃のホットプレートで15分乾燥させることにより、5μmの間隔で形成された、電極幅5μm、膜厚150nmのAu電極の間に、ガス吸着材の薄膜を得た。
【0043】
<ガス検知感度評価>
「抵抗測定による評価」
ガス検知感度は、低濃度のターゲットガス(アンモニア、エタノール、アセトン、ホルムアルデヒド等)の吸着による、抵抗値の変化を測定することで評価した。
抵抗値の変化は、三和電気計器製デジタルマルチメーターPC500を用い、温度25℃、湿度50%にて、ガス吸着材薄膜を形成したくし型電極基板が設置された容器中のターゲットガスの濃度をそれぞれアンモニア(10ppm)、エタノール(100ppm)、アセトン(100ppm)およびホルムアルデヒド(100ppm)に調整し、抵抗値変化の測定を行った。
アンモニアガスの吸着により抵抗値の変化率が20%以上の場合、ガス検知感度を「◎」とした。抵抗値の変化率が20%未満、5%以上の場合、ガス検知感度を「〇」とした。抵抗値の変化率が5%未満の場合、ガス検知感度を「×」とした。
本実施例では、得られたガス吸着材の薄膜に対する評価では、10ppmのアンモニアガスでの抵抗値の変化率が20%以上のため、アンモニアガス検知感度は「◎」であった。結果を表1に示す。
抵抗変化率(%)=(ガス吸着後抵抗値―ガス吸着前抵抗値)/ガス吸着前抵抗値 × 100
ターゲットガスがエタノール、アセトンおよびホルムアルデヒドに対しても同様に、抵抗値の変化率が20%以上の場合、ガス検知感度を「◎」とし;抵抗値の変化率が20%未満、5%以上の場合、ガス検知感度を「〇」とし;抵抗値の変化率が5%未満の場合、ガス検知感度を「×」とした。
【0044】
<繰り返し特性評価>
ターゲットガスとして、アンモニア(10ppm)、エタノール(100ppm)、アセトン(100ppm)及びホルムアルデヒド(100ppm)を用いた。
くし型電極基板上に金属シアノ錯体薄膜を前述の方法により形成したサンプルについて、特定の濃度のターゲットガスに対する抵抗変化率を求めた。
測定雰囲気の温度:25℃、湿度:50%。
1回目の抵抗変化率に対して、5回目の抵抗変化率がどの程度劣化しているかを求める。
【0045】
劣化率(%)=100-(5回目の抵抗変化率/1回目の抵抗変化率)×100
【0046】
ターゲットガスがアンモニア(10ppm)の時の測定結果を表3と
図2に示す。
【0047】
5回の繰り返し測定による劣化率を用いて、以下の判断基準で繰り返し特性を評価した。その結果を表1に示す。
◎:10%未満
〇:10%以上20%未満
×:20%以上
【0048】
【0049】
(実施例2~8、22~37)
表1と表2に示すMおよびM”の原料及びその添加量、M’の原料及びその添加量を用いて、実施例1と同様な方法で金属シアノ錯体を得た。各実施例で得た金属シアノ錯体について、実施例1と同様な方法でその組成を評価した。その結果を表1と表2示す。各実施例で得た金属シアノ錯体粉末の平均粒径は700から900nmであった。
また、実施例1と同様な方法で、ガス吸着材として各実施例で得た金属シアノ錯体を用いたガスセンサを作製した。実施例1と同様な方法で、各実施例で得たガスセンサのガスの検知感度を評価した。その結果を表1と表2に示す。
また、各実施例で得たガスセンサについて、実施例1と同様な方法で繰り返し特性を評価した。ターゲットガスがアンモニア(10ppm)であった。評価結果を表1と表2に示す。
【0050】
実施例2で得られた金属シアノ錯体を用いて作製したガスセンサを用いて、ターゲットガスがエタノール(100ppm)であった場合の繰返し特性評価結果を表4と
図3に示す。
【0051】
【0052】
(実施例9~12)
表5に示すMおよびM”の原料及びその添加量、M’の原料及びその添加量を用いて、乾燥温度を80℃にした以外は実施例1と同様な方法で金属シアノ錯体を得た。各実施例で得た金属シアノ錯体について、実施例1と同様な方法でその組成を評価した。その結果を表5示す。各実施例で得た金属シアノ錯体粉末の平均粒径は700から900nmであった。
【0053】
【0054】
(実施例13~21)
表6に示すMおよびM”の原料及びその添加量、M’の原料及びその添加量を用いて、乾燥温度を90℃にした以外は実施例1と同様な方法で金属シアノ錯体を得た。各実施例で得た金属シアノ錯体について、実施例1と同様な方法でその組成を評価した。その結果を表6示す。各実施例で得た金属シアノ錯体粉末の平均粒径は700から900nmであった。
【0055】
【0056】
実施例13で得られた金属シアノ錯体を用いて作製したガスセンサを用いて、ターゲットガスがアセトン(100ppm)であった場合の繰返し特性評価結果を表7と
図4に示す。
【0057】
実施例22で得られた金属シアノ錯体を用いて作製したガスセンサを用いて、ターゲットガスがホルムアルデヒド(100ppm)であった場合の繰返し特性評価結果を表8と
図5に示す。
【0058】
【0059】
【0060】
(比較例1)
一般式(1)で表される金属シアノ錯体K0.03Mn0.93[Fe0.9(CN)6]0.67(A=K、x=0.03;M=Mn、t=0.93;M’=Fe、y=0.67;M”=S、s=0.06;z=0)を以下の方法で合成した。
MおよびM”の原料(M-M”塩として)として硫酸マンガン(II)五水和物3.72gを純水100mlと混合し、その混合液を攪拌し、水溶液(M-M”溶液として)を調製した。次に、M’の原料としてフェリシアン化カリウム3.3gと純水100mlと混合し、その混合液を攪拌し、水溶液(M’溶液として)を調製した。得られたM’溶液に、得られたM-M”溶液を滴下し、25℃で5時間攪拌した。
得られた懸濁液を遠心分離処理により上澄み液と沈殿物に分離し、これを超純水で6回洗浄した。洗浄後の沈殿物を100℃に設定した恒温槽内で24時間乾燥後、粉砕し、粉末状の金属シアノ錯体を得た。平均粒径は900nmであった。
本比較例で得た金属シアノ錯体について、実施例1と同様な方法でその組成を評価した。その結果を表9示す。
また、実施例1と同様な方法で、ガス吸着材として本比較例で得た金属シアノ錯体を用いたガスセンサを作製した。実施例1と同様な方法で、得られたガスセンサのガスの検知感度を評価した。その結果を表9に示す。
【0061】
【0062】
また、上記得られたガスセンサについて、実施例1と同様な方法でアンモニア(10ppm)をターゲットガスとして繰り返し特性を評価した。その測定結果を表10と
図6に示す。その評価結果を表9に示す。ガス検知感度は良好であったが、繰返し特性は劣化率37.5%となり「×」の評価であった。
【0063】
【0064】
(比較例2~9)
表9に示すMおよびM”の原料及びその添加量、M’の原料及びその添加量を用いて、比較例1と同様な方法で金属シアノ錯体を得た。各比較例で得た金属シアノ錯体について、実施例1と同様な方法でその組成を評価した。その結果を表9示す。各比較例で得た金属シアノ錯体粉末の平均粒径は750から950nmであった。
また、実施例1と同様な方法で、ガス吸着材として各比較例で得た金属シアノ錯体を用いたガスセンサを作製した。実施例1と同様な方法で、各比較例で得たガスセンサのガスの検知感度を評価した。その結果を表9に示す。
また、各比較例で得たガスセンサについて、実施例1と同様な方法で、アンモニア(10ppm)をターゲットガスとして繰り返し特性を評価した。評価結果を表9に示す。比較例2~7のガスセンサではガス検知感度は「〇」の評価であったが、繰返し特性は「×」の評価であった。比較例8および9のガスセンサでは繰返し特性は「◎」の評価であったが、ガス検知感度は「×」の評価であった。
【0065】
(考察)
得られた粉末の粉末X線回折(
図7)も測定したが、目的の金属シアノ錯体以外のピークは見られなかった。M”で表されるS、F、Cl、Br、I、Pなどの元素は、格子内もしくは格子欠陥部などに存在していると推察される。
本実施形態の金属シアノ錯体を含む吸着材を用いたガスセンサの優れた効果について、そのメカニズムは明確ではないが、金属シアノ錯体に、S、F、Cl、Br、I、Pを含むことにより、雰囲気中の湿度の影響(表面もしくは内部へのH
2Oの吸着)が抑制されるため、繰返し特性が優れるものと推察される。M”が0.01より小さいと繰返し特性は従来同等であり、0.3より大きいとガス検知感度が低下する傾向となる。