(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142134
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】梁の評価方法及び梁
(51)【国際特許分類】
E04B 1/24 20060101AFI20230928BHJP
E04C 3/06 20060101ALI20230928BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20230928BHJP
G01N 3/20 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
E04B1/24 B ESW
E04C3/06
E04B1/94 Z
G01N3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048848
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】小野木 武司
(72)【発明者】
【氏名】桑田 涼平
(72)【発明者】
【氏名】木村 慧
(72)【発明者】
【氏名】清水 信孝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭一
(72)【発明者】
【氏名】寺沢 太沖
(72)【発明者】
【氏名】北岡 聡
【テーマコード(参考)】
2E001
2E163
2G061
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA01
2E001GA52
2E001HB02
2E163DA02
2E163FA12
2E163FB02
2E163FB22
2G061AA07
2G061AB05
2G061AC03
2G061BA04
2G061CA02
2G061CB02
2G061DA11
2G061DA12
(57)【要約】
【課題】高温下の局部座屈を考慮して、梁の崩壊温度を評価する梁の評価方法を提供する。
【解決手段】鉄骨造のH形鋼により形成された梁が火災により加熱されて崩壊する時の梁の評価方法S1であって、梁の高温局部座屈耐力に基づいて梁の崩壊温度を評価する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨造のH形鋼により形成された梁が火災により加熱されて崩壊する時の梁の評価方法であって、
前記梁の高温局部座屈耐力に基づいて前記梁の崩壊温度を評価する、梁の評価方法。
【請求項2】
前記梁が加熱される時の前記梁が有する第1フランジ、第2フランジ、及びウェブそれぞれの温度を、実験又は数値計算により求める温度算出工程と、
前記第1フランジ、前記第2フランジ、及び前記ウェブそれぞれの前記温度に基づいて求められる高温ヤング率を用いて、前記高温局部座屈耐力を評価する座屈耐力評価工程と、
前記高温局部座屈耐力に基づいて前記崩壊温度を評価する崩壊評価工程と、
を行う、請求項1に記載の梁の評価方法。
【請求項3】
前記梁が延びる材軸方向の軸を、x軸と規定し、
前記第1フランジ及び前記第2フランジが対向する方向の軸を、y軸と規定し、
前記ウェブの板厚方向の軸を、z軸と規定し、
前記梁に前記z軸回りに作用する曲げモーメントMにより、前記第1フランジが引張力を受けると仮定し、
前記第1フランジにおける前記y軸に沿う方向の中心の位置を、前記y軸の原点と規定し、
前記第1フランジから前記第2フランジに向かう向きを、前記y軸の正の向きと規定し、
前記y軸に沿う方向における前記第1フランジの中心と前記第2フランジの中心との距離をb
wと規定し、
前記ウェブの前記x軸に沿う方向の第1端に向かうに従い、前記z軸の正の向き及び前記z軸の負の向きに交互に波状に変位する前記ウェブの前記x軸に沿う方向における半波長をaと規定したときに、
前記座屈耐力評価工程では、(1)式より前記高温局部座屈耐力M
crを評価し、
前記崩壊評価工程では、(2)式を満たす前記高温局部座屈耐力M
crに対応する前記温度である曲げ崩壊温度に基づいて前記崩壊温度を評価する、請求項2に記載の梁の評価方法。
【数1】
ただし、Zは前記梁の断面係数であり、σ
crは前記梁の局部座屈応力度であり、Nは2以上の自然数であり、a
0,a
n,b
nは未定係数であり、E
f1は前記第1フランジの高温ヤング率であり、E
wは前記ウェブの高温ヤング率であり、E
f2は前記第2フランジの高温ヤング率であり、νは前記梁のポアソン比であり、t
wは前記ウェブの厚さであり、t
fは前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれの厚さであり、b
fは前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれの幅の半分の値である。
前記局部座屈応力度σ
crは、(5)式から(11)式を用いて、(12)式による前記局部座屈応力度σ
crに最小の正の値を与える実数である前記a
n,b
n及び前記半波長aに基づいて求められる。
【数2】
【請求項4】
前記梁には、前記ウェブの板厚方向に沿う軸回りに、前記第1フランジが引張力を受けるように曲げモーメントMが作用すると仮定し、
前記座屈耐力評価工程では、(27)式により求められる高温局部座屈耐力M
crf、及び(28)式により求められる高温局部座屈耐力M
crwのうちの小さい方を、前記高温局部座屈耐力M
crとして評価し、
前記崩壊評価工程では、(29)式を満たす前記高温局部座屈耐力M
crに対応する前記温度である曲げ崩壊温度に基づいて前記崩壊温度を評価する、請求項2に記載の梁の評価方法。
ただし、Zは前記梁の断面係数であり、E
wは前記ウェブの高温ヤング率であり、E
f2は前記第2フランジの高温ヤング率であり、νは前記梁のポアソン比であり、t
wは前記ウェブの厚さであり、t
fは前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれの厚さであり、b
fは前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれの幅の半分の値であり、b
wは、前記第1フランジ及び前記第2フランジが対向する方向における前記第1フランジの中心と前記第2フランジの中心との距離である。
【数3】
【請求項5】
前記座屈耐力評価工程において前記第1フランジ、前記第2フランジの前記高温ヤング率を求めるのに用いられる温度は、それぞれ前記温度算出工程で求めた前記第1フランジ、前記第2フランジの平均温度、最高温度、最低温度のいずれかであり、
前記座屈耐力評価工程において前記ウェブの前記高温ヤング率を求めるのに用いられる温度は、前記温度算出工程で求めた前記ウェブの平均温度である、請求項3又は4に記載の梁の評価方法。
【請求項6】
前記梁が延びる材軸方向の軸を、x軸と規定し、
前記第1フランジ及び前記第2フランジが対向する方向の軸を、y軸と規定し、
前記ウェブの板厚方向の軸を、z軸と規定し、
前記梁に対して前記y軸に沿う方向にせん断力Qが作用すると仮定し、
前記ウェブにおける前記y軸に沿う方向の中心の位置を、前記y軸の原点と規定し、
前記第1フランジから前記第2フランジに向かう向きを、前記y軸の正の向きと規定し、
前記y軸に沿う方向における前記第1フランジの中心と前記第2フランジの中心との距離をb
wと規定し、
前記ウェブの前記x軸に沿う方向の第1端に向かうに従い、前記z軸の正の向き及び前記z軸の負の向きに交互に波状に変位する前記ウェブの前記x軸に沿う方向における半波長をaと規定したときに、
前記座屈耐力評価工程では、(41)式より前記高温局部座屈耐力Q
crを評価し、
前記崩壊評価工程では、(42)式を満たす前記高温局部座屈耐力Q
crに対応する前記温度であるせん断崩壊温度に基づいて前記崩壊温度を評価する、請求項2に記載の梁の評価方法。
【数4】
ただし、τ
crは前記梁のせん断座屈応力度であり、A
wは前記ウェブの前記材軸方向に直交する断面積であり、Nは2以上の自然数であり、a
0,a
n,b
n,λは未定係数であり、E
f1は前記第1フランジの高温ヤング率であり、E
wは前記ウェブの高温ヤング率であり、E
f2は前記第2フランジの高温ヤング率であり、νは前記梁のポアソン比であり、t
wは前記ウェブの厚さであり、t
fは前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれの厚さであり、b
fは前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれの幅の半分の値である。
前記せん断座屈応力度τ
crは、(45)式から(50)式を用いて、(51)式による前記せん断座屈応力度τ
crに最小の正の値を与える実数である前記a
n,b
n,λ及び前記半波長aに基づいて求められる。
【数5】
【請求項7】
前記梁には、前記第1フランジ及び前記第2フランジが対向する方向にせん断力Qが作用すると仮定し、
前記座屈耐力評価工程では、(61)式により前記高温局部座屈耐力Q
crを評価し、
前記崩壊評価工程では、(62)式を満たす前記高温局部座屈耐力Q
crに対応する前記温度であるせん断崩壊温度に基づいて前記崩壊温度を評価する、請求項2に記載の梁の評価方法。
ただし、A
wは前記ウェブにおける前記梁が延びる材軸方向に直交する断面積であり、E
wは前記ウェブのヤング係数であり、νは前記梁のポアソン比であり、t
wは前記ウェブの厚さであり、b
wは、前記第1フランジ及び前記第2フランジが対向する方向における前記第1フランジの中心と前記第2フランジの中心との距離である。
【数6】
【請求項8】
前記座屈耐力評価工程において前記第1フランジ、前記第2フランジの前記高温ヤング率を求めるのに用いられる温度は、それぞれ前記温度算出工程で求めた前記第1フランジ、前記第2フランジの平均温度、最高温度、最低温度のいずれかであり、
前記座屈耐力評価工程において前記ウェブの前記高温ヤング率を求めるのに用いられる温度は、前記温度算出工程で求めた前記ウェブの最高温度である、請求項6又は7に記載の梁の評価方法。
【請求項9】
前記第1フランジの前記温度、前記第2フランジの前記温度、及び前記ウェブの前記温度は、互いに等しい、請求項2から8のいずれか一項に記載の梁の評価方法。
【請求項10】
前記温度算出工程において、前記梁は、所定の加熱曲線に基づいて加熱され、
前記崩壊評価工程では、前記高温局部座屈耐力に基づいて、前記梁が崩壊する時刻である崩壊時刻を評価する、請求項2から9のいずれか一項に記載の梁の評価方法。
【請求項11】
請求項3から5のいずれか一項に記載の梁の評価方法で評価した前記曲げ崩壊温度、及び、請求項6から8のいずれか一項に記載の梁の評価方法で評価した前記せん断崩壊温度のうち低い方に基づいて、前記崩壊温度を評価する、梁の評価方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の梁の評価方法により評価し、設計された、梁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梁の評価方法及び梁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の建築物では、薄肉鋼部材は、法律上、部材に耐火性能が要求されない低層住宅等の非耐火建築物に用いられていた。
一方で、近年の建築物の合理的設計が進む中で、建築物中に使用される鋼材量を低減することを目的に、耐火性能が要求される中高層の耐火建築物に対しても薄肉鋼部材を使用するニーズが高くなった。ここで発生する問題の一つが、火災時の局部座屈である。鋼部材の薄肉軽量化によって熱容量が低下することに加え、鋼部材では、火災加熱を受けるとヤング率(ヤング係数)が低下する。このため、長期の積載荷重によって局部座屈が発生する可能性が高くなる。
特許文献1及び2では、H形鋼の常温における座屈応力度(局部座屈応力度、せん断座屈応力度)を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-006791号公報
【特許文献2】特開2021-006787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2では、梁については、高温下の局部座屈耐力の評価方法は示されていない。そして、現状の耐火設計では、高温下の局部座屈は考慮されず、鋼構造耐火設計指針(一般社団法人日本建築学会編、丸善出版株式会社。以下、文献1と言う)に記載された梁の全塑性曲げ耐力、もしくはウェブのせん断降伏耐力に期待して、梁の耐力を評価している。従って、局部座屈が発生する薄肉H形鋼製の梁に対しては、全塑性曲げ耐力又はせん断降伏耐力よりも局部座屈耐力が小さいと、梁が局部座屈耐力で崩壊する。このため、梁に対して危険側の評価してしまう可能性がある。
【0005】
本発明は、このような問題点を鑑みてなされたものであって、高温下の局部座屈を考慮して、梁の崩壊温度を評価する梁の評価方法、及びこの梁の評価方法により評価し、設計された梁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の梁の評価方法は、鉄骨造のH形鋼により形成された梁が火災により加熱されて崩壊する時の梁の評価方法であって、前記梁の高温局部座屈耐力に基づいて前記梁の崩壊温度を評価することを特徴としている。
この発明では、高温下の局部座屈における局部座屈耐力である、高温局部座屈耐力に基づいて梁の崩壊温度を評価する。従って、高温下の局部座屈を考慮して、梁の崩壊温度を評価することができる。
【0007】
また、前記梁の評価方法において、前記梁が加熱される時の前記梁が有する第1フランジ、第2フランジ、及びウェブそれぞれの温度を、実験又は数値計算により求める温度算出工程と、前記第1フランジ、前記第2フランジ、及び前記ウェブそれぞれの前記温度に基づいて求められる高温ヤング率を用いて、前記高温局部座屈耐力を評価する座屈耐力評価工程と、前記高温局部座屈耐力に基づいて前記崩壊温度を評価する崩壊評価工程と、を行ってもよい。
ここで言う高温ヤング率とは、常温時のヤング率(ヤング係数)に比べて低くなる、常温よりも高い温度におけるヤング率のことを意味する。
この発明では、温度算出工程において、実験又は数値計算により第1フランジ、第2フランジ、及びウェブそれぞれの温度を求める。そして、座屈耐力評価工程において、それらの温度に基づいて求められる高温ヤング率を用いて高温局部座屈耐力を評価し、崩壊評価工程において、高温局部座屈耐力に基づいて崩壊温度を評価することができる。
【0008】
また、前記梁の評価方法において、前記梁が延びる材軸方向の軸を、x軸と規定し、前記第1フランジ及び前記第2フランジが対向する方向の軸を、y軸と規定し、前記ウェブの板厚方向の軸を、z軸と規定し、前記梁に前記z軸回りに作用する曲げモーメントMにより、前記第1フランジが引張力を受けると仮定し、前記第1フランジにおける前記y軸に沿う方向の中心の位置を、前記y軸の原点と規定し、前記第1フランジから前記第2フランジに向かう向きを、前記y軸の正の向きと規定し、前記y軸に沿う方向における前記第1フランジの中心と前記第2フランジの中心との距離をbwと規定し、前記ウェブの前記x軸に沿う方向の第1端に向かうに従い、前記z軸の正の向き及び前記z軸の負の向きに交互に波状に変位する前記ウェブの前記x軸に沿う方向における半波長をaと規定したときに、前記座屈耐力評価工程では、(1)式より前記高温局部座屈耐力Mcrを評価し、前記崩壊評価工程では、(2)式を満たす前記高温局部座屈耐力Mcrに対応する前記温度である曲げ崩壊温度に基づいて前記崩壊温度を評価してもよい。
【0009】
【0010】
ただし、Zは前記梁の断面係数であり、σcrは前記梁の局部座屈応力度であり、Nは2以上の自然数であり、a0,an,bnは未定係数であり、Ef1は前記第1フランジの高温ヤング率であり、Ewは前記ウェブの高温ヤング率であり、Ef2は前記第2フランジの高温ヤング率であり、νは前記梁のポアソン比であり、twは前記ウェブの厚さであり、tfは前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれの厚さであり、bfは前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれの幅の半分の値である。
前記局部座屈応力度σcrは、(5)式から(11)式を用いて、(12)式による前記局部座屈応力度σcrに最小の正の値を与える実数である前記an,bn及び前記半波長aに基づいて求められる。
【0011】
【0012】
この発明では、座屈耐力評価工程において、梁が有する第1フランジ、第2フランジ、及びウェブの連成座屈を考慮して、(1)式より高温局部座屈耐力Mcrを評価することができる。そして、崩壊評価工程において、(2)式を満たす高温局部座屈耐力Mcrに対応する温度である曲げ崩壊温度に基づいて崩壊温度を評価することができる。
【0013】
また、前記梁の評価方法において、前記梁には、前記ウェブの板厚方向に沿う軸回りに、前記第1フランジが引張力を受けるように曲げモーメントMが作用すると仮定し、前記座屈耐力評価工程では、(27)式により求められる高温局部座屈耐力Mcrf、及び(28)式により求められる高温局部座屈耐力Mcrwのうちの小さい方を、前記高温局部座屈耐力Mcrとして評価し、前記崩壊評価工程では、(29)式を満たす前記高温局部座屈耐力Mcrに対応する前記温度である曲げ崩壊温度に基づいて前記崩壊温度を評価してもよい。
ただし、Zは前記梁の断面係数であり、Ewは前記ウェブの高温ヤング率であり、Ef2は前記第2フランジの高温ヤング率であり、νは前記梁のポアソン比であり、twは前記ウェブの厚さであり、tfは前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれの厚さであり、bfは前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれの幅の半分の値であり、bwは、前記第1フランジ及び前記第2フランジが対向する方向における前記第1フランジの中心と前記第2フランジの中心との距離である。
【0014】
【0015】
この発明では、座屈耐力評価工程において、高温局部座屈耐力Mcrを比較的簡単に評価し、崩壊評価工程において、高温局部座屈耐力Mcrに対応する温度である曲げ崩壊温度に基づいて崩壊温度を評価することができる。
【0016】
また、前記梁の評価方法において、前記座屈耐力評価工程において前記第1フランジ、前記第2フランジの前記高温ヤング率を求めるのに用いられる温度は、それぞれ前記温度算出工程で求めた前記第1フランジ、前記第2フランジの平均温度、最高温度、最低温度のいずれかであり、前記座屈耐力評価工程において前記ウェブの前記高温ヤング率を求めるのに用いられる温度は、前記温度算出工程で求めた前記ウェブの平均温度であってもよい。
この発明では、高温局部座屈耐力Mcrをより適切に評価することができる。
【0017】
また、前記梁の評価方法において、前記梁が延びる材軸方向の軸を、x軸と規定し、前記第1フランジ及び前記第2フランジが対向する方向の軸を、y軸と規定し、前記ウェブの板厚方向の軸を、z軸と規定し、前記梁に対して前記y軸に沿う方向にせん断力Qが作用すると仮定し、前記ウェブにおける前記y軸に沿う方向の中心の位置を、前記y軸の原点と規定し、前記第1フランジから前記第2フランジに向かう向きを、前記y軸の正の向きと規定し、前記y軸に沿う方向における前記第1フランジの中心と前記第2フランジの中心との距離をbwと規定し、前記ウェブの前記x軸に沿う方向の第1端に向かうに従い、前記z軸の正の向き及び前記z軸の負の向きに交互に波状に変位する前記ウェブの前記x軸に沿う方向における半波長をaと規定したときに、前記座屈耐力評価工程では、(41)式より前記高温局部座屈耐力Qcrを評価し、前記崩壊評価工程では、(42)式を満たす前記高温局部座屈耐力Qcrに対応する前記温度であるせん断崩壊温度に基づいて前記崩壊温度を評価してもよい。
【0018】
【0019】
ただし、τcrは前記梁のせん断座屈応力度であり、Awは前記ウェブの前記材軸方向に直交する断面積であり、Nは2以上の自然数であり、a0,an,bn,λは未定係数であり、Ef1は前記第1フランジの高温ヤング率であり、Ewは前記ウェブの高温ヤング率であり、Ef2は前記第2フランジの高温ヤング率であり、νは前記梁のポアソン比であり、twは前記ウェブの厚さであり、tfは前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれの厚さであり、bfは前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれの幅の半分の値である。
前記せん断座屈応力度τcrは、(45)式から(50)式を用いて、(51)式による前記せん断座屈応力度τcrに最小の正の値を与える実数である前記an,bn,λ及び前記半波長aに基づいて求められる。
【0020】
【0021】
この発明では、座屈耐力評価工程において、梁が有する第1フランジ、第2フランジ、及びウェブの連成座屈を考慮して、(41)式より高温局部座屈耐力Qcrを評価することができる。そして、崩壊評価工程において、(42)式を満たす高温局部座屈耐力Qcrに対応する温度であるせん断崩壊温度に基づいて崩壊温度を評価することができる。
【0022】
また、前記梁の評価方法において、前記梁には、前記第1フランジ及び前記第2フランジが対向する方向にせん断力Qが作用すると仮定し、前記座屈耐力評価工程では、(61)式により前記高温局部座屈耐力Qcrを評価し、前記崩壊評価工程では、(62)式を満たす前記高温局部座屈耐力Qcrに対応する前記温度であるせん断崩壊温度に基づいて前記崩壊温度を評価してもよい。
ただし、Awは前記ウェブにおける前記梁が延びる材軸方向に直交する断面積であり、Ewは前記ウェブのヤング係数であり、νは前記梁のポアソン比であり、twは前記ウェブの厚さであり、bwは、前記第1フランジ及び前記第2フランジが対向する方向における前記第1フランジの中心と前記第2フランジの中心との距離である。
【0023】
【0024】
この発明では、座屈耐力評価工程において、高温局部座屈耐力Qcrを比較的簡単に評価し、崩壊評価工程において、高温局部座屈耐力Qcrに対応する温度であるせん断崩壊温度に基づいて崩壊温度を評価することができる。
【0025】
また、前記梁の評価方法において、前記座屈耐力評価工程において前記第1フランジ、前記第2フランジの前記高温ヤング率を求めるのに用いられる温度は、それぞれ前記温度算出工程で求めた前記第1フランジ、前記第2フランジの平均温度、最高温度、最低温度のいずれかであり、前記座屈耐力評価工程において前記ウェブの前記高温ヤング率を求めるのに用いられる温度は、前記温度算出工程で求めた前記ウェブの最高温度であってもよい。
この発明では、高温局部座屈耐力Qcrをより適切に評価することができる。
【0026】
また、前記梁の評価方法において、前記第1フランジの前記温度、前記第2フランジの前記温度、及び前記ウェブの前記温度は、互いに等しくてもよい。
この発明では、高温局部座屈耐力Mcr,Qcrをより簡単に評価することができる。
【0027】
また、前記梁の評価方法において、前記温度算出工程において、前記梁は、所定の加熱曲線に基づいて加熱され、前記崩壊評価工程では、前記高温局部座屈耐力に基づいて、前記梁が崩壊する時刻である崩壊時刻を評価してもよい。
この発明では、高温局部座屈耐力に基づいて、梁が所定の加熱曲線に基づいて加熱されたときの崩壊時刻を評価することができる。
【0028】
また、前記梁の評価方法において、前記に記載の梁の評価方法で評価した前記曲げ崩壊温度、及び、前記に記載の梁の評価方法で評価した前記せん断崩壊温度のうち低い方に基づいて、前記崩壊温度を評価してもよい。
この発明では、梁に曲げモーメントM及びせん断力Qが同時に作用する場合の崩壊温度を、適切に評価することができる。
【0029】
また、本発明の梁は、前記に記載の梁の評価方法により評価し、設計されたことを特徴としている。
この発明では、高温下の局部座屈を考慮して、梁の崩壊温度を評価し、設計された梁とすることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の梁の評価方法及び梁では、高温下の局部座屈を考慮して、梁の崩壊温度を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施形態の梁が用いられる床構造の断面図である。
【
図2】曲げモーメントが作用した梁が座屈している状態を模式的に示す斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態の梁の評価方法を示すフローチャートである。
【
図5】せん断力が作用した梁が座屈している状態を模式的に示す斜視図である。
【
図6】梁に曲げモーメントが作用するときの第2フランジの状態を模式的に示す斜視図である。
【
図7】梁に曲げモーメントが作用するときのウェブの状態を模式的に示す斜視図である。
【
図8】梁にせん断力が作用するときのウェブの状態を模式的に示す斜視図である。
【
図9】同床構造を数値計算により温度を求める際の境界条件及び温度測定位置を説明する断面図である。
【
図10】時刻に対する梁の温度の変化を表す図である。
【
図11】〔2.1〕の方法で高温局部座屈耐力を設定したときの、床構造の温度分布の一例を示す図である。
【
図12】〔2.2〕の方法で高温局部座屈耐力を設定したときの、床構造の温度分布の一例を示す図である。
【
図13】第1フランジの各測定点における温度履歴を示す図である。
【
図14】ウェブの各測定点における温度履歴を示す図である。
【
図15】第2フランジの各測定点における温度履歴を示す図である。
【
図16】ウェブの高さ位置による温度の変化を示す図である。
【
図17】時刻に対する高温ヤング率の変化を示す図である。
【
図18】耐火被覆梁に作用させる荷重を示す図である。
【
図19】曲げモーメントを作用させる場合に耐火被覆梁に接合する補剛材の位置を示す斜視図である。
【
図20】せん断力を作用させる場合に耐火被覆梁に接合する補剛材の位置を示す斜視図である。
【
図21】等曲げモーメントが作用する領域で局部座屈が発生する耐火被覆梁の、時刻に対するたわみの変化を示す図である。
【
図22】せん断力が作用する領域で局部座屈が発生する耐火被覆梁の、時刻に対するたわみの変化を示す図である。
【
図23】曲げモーメントが作用する場合の、時刻に対する高温局部座屈耐力M
crの変化を示す図である。
【
図24】せん断力が作用する場合の、時刻に対する高温局部座屈耐力Q
crの変化の一例を示す図である。
【
図25】曲げモーメントが作用する場合の、時刻に対する高温局部座屈耐力M
crの変化の一例を示す図である。
【
図26】曲げモーメントが作用する場合の、時刻に対する高温局部座屈耐力M
crの変化の他の例を示す図である。
【
図27】せん断力が作用する場合の、時刻に対する高温局部座屈耐力Q
crの変化の一例を示す図である。
【
図28】せん断力が作用する場合の、時刻に対する高温局部座屈耐力Q
crの変化の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る梁、及び梁の評価方法の一実施形態を、
図1から
図28を参照しながら説明する。
まず、本実施形態の梁が用いられる床構造について説明する。
【0033】
〔1.床構造の構成〕
図1及び
図2に示すように、床構造1は、耐火被覆梁(耐火被覆付き梁)10と、床スラブ20と、を備える。なお、
図2では、耐火被覆梁10のうちの後述する梁11のみを示すとともに、梁11が曲げモーメントを受けて座屈した状態を示している。
耐火被覆梁10は、梁11と、耐火被覆12と、を有する。梁11は、鉄骨造のH形鋼により形成されている。梁11は、第1フランジ16と、第2フランジ17と、ウェブ18と、有する。
第1フランジ16、第2フランジ17、及びウェブ18は、弾性要素である鋼板で形成されている。弾性要素は、材料非線形を考慮しない要素である。
【0034】
例えば、梁11は、梁11が延びる材軸方向が水平面に沿うように配置されている。第1フランジ16は、平板状に形成され、第1フランジ16の厚さ方向が上下方向に沿うように配置されている。第2フランジ17は、平板状に形成され、第1フランジ16よりも上方に配置されている。第2フランジ17は、第2フランジ17の厚さ方向が上下方向に沿うように配置されている。
ウェブ18は、ウェブ18の厚さ方向に見たときに矩形を呈する平板状に形成されている。ウェブ18は、ウェブ18の厚さ方向が水平面に沿うように配置されている。ウェブ18は、第1フランジ16の上面における幅方向の中心と、第2フランジ17の下面における幅方向の中心とを連結している。
なお、梁11が配置される向きはこれに限定されず、梁11は、材軸方向が水平面に交差するように配置されてもよい。
【0035】
耐火被覆12は、ロックウール、グラスウール等の断熱材で形成されている。耐火被覆12は、梁11における第2フランジ17の上面以外の面を覆っている。
耐火被覆12の厚さは、「吹付けロックウール被覆耐火構造 施工品質管理指針(ロックウール工業会 吹付け部会)」に準拠して設定される。耐火被覆梁10に1時間耐火が要求される場合には、耐火被覆12の厚さを25mmとする。同様に、耐火被覆梁10に2時間耐火が要求される場合には、耐火被覆12の厚さを45mmとする。耐火被覆梁10に3時間耐火が要求される場合には、耐火被覆12の厚さを60mmとする。
耐火被覆梁10の材軸方向の端部は、図示しない柱等に固定されている。
【0036】
床スラブ20は、コンクリートスラブや、デッキスラブ等である。床スラブ20は、平板状に形成され、床スラブ20の厚さ方向が上下方向に沿うように配置されている。床スラブ20は、梁11の第2フランジ17により、床スラブ20の下方から支持されている。第2フランジ17の上面には、図示しないシヤコネクタが固定されていることが好ましい。シヤコネクタは、床スラブ20に埋設されている。
床構造1は、床スラブ20上に図示しない設備を設置する等して用いられる。
【0037】
ここで
図3に示すように、梁11の材軸方向に直交する断面における寸法を規定する。なお、以下に説明する長さ等の単位には、長さに対しては「m」といった、SI単位が好ましく用いられる。
第1フランジ16及び第2フランジ17それぞれの厚さを、t
fと規定する。ウェブ18の厚さを、t
wと規定する。第1フランジ16及び第2フランジ17それぞれの幅の半分の値を、b
fと規定する。y軸方向における第1フランジ16の中心と第2フランジ17の中心との距離を、b
wと規定する。
梁11の断面係数を、Zと規定する。梁11のポアソン比を、νと規定する。
【0038】
〔2.梁の評価方法〕
本実施形態の梁の評価方法は、後述する梁11の高温局部座屈耐力に基づいて、梁11の崩壊温度及び崩壊時刻を評価する。ここで言う崩壊とは、下記の文献2及び文献3に規定されるように、文献2の限界たわみ式に基づき、梁11の最大たわみ量が、(L2/(400d))の値を超えることを意味する。
ただし、Lは、梁11のスパン長(長さ)である。dは、梁11のせいである。
文献2:"ISO 834-1: Fire-resistance tests - Elements of building construction -", International Organization for Standardization, p23
文献3:「防耐火性能試験・評価業務方法書」,一般財団法人 日本建築総合試験所, p7
崩壊温度とは、梁11が火災により加熱されて崩壊する時の梁11の温度を意味する。崩壊時刻とは、梁11が崩壊する時刻を意味する。
【0039】
図4に示すように、梁の評価方法S1では、温度算出工程S10と、座屈耐力評価工程S11と、崩壊評価工程S12と、を行う。
温度算出工程S10では、梁11が加熱される時の、梁11の第1フランジ16、第2フランジ17、ウェブ18それぞれの温度を、実験又は数値計算により求める。
例えば、数値計算としては、熱伝導解析、FEM(Finite Element Method)、手計算、直線近似等が用いられる。
【0040】
座屈耐力評価工程S11では、第1フランジ16、第2フランジ17、及びウェブ18それぞれの温度に基づいて求められる高温ヤング率を用いて、高温局部座屈耐力を評価する。
高温ヤング率は、前記文献1、及び下記の文献4等に規定されている。
文献4:"Eurocode 3: Design of steel structures - Part 1-2: General rules - Structural fire design" en. 1993-1-2, 2005, p.22, Table 3.1
【0041】
崩壊評価工程S12では、座屈耐力評価工程S11で評価された高温局部座屈耐力に基づいて、梁11の崩壊温度及び崩壊時刻を評価する。
【0042】
以下では、座屈耐力評価工程S11及び崩壊評価工程S12を行う、〔2.1〕~〔2.4〕の4通りの方法について説明する。
〔2.1〕及び〔2.2〕では、特許文献1及び2に開示された座屈応力度(局部座屈応力度、せん断座屈応力度)に、高温ヤング率の概念を加えた評価方法を説明する。特許文献1及び2では、梁11における第1フランジ16、第2フランジ17、及びウェブ18の連成座屈を考慮している。
一般的に、梁には曲げモーメント及びせん断力が作用するが、圧縮力は作用しない。このため、梁に作用する外力として、曲げモーメント及びせん断力を検討する。具体的には、〔2.1〕及び〔2.3〕では外力として曲げモーメントを検討し、〔2.2〕及び〔2.4〕では外力としてせん断力を検討している。
【0043】
〔2.1.梁に曲げモーメントが作用するときの、梁の高温ヤング率及び連成座屈を考慮した方法〕
〔2.1〕の方法は、梁11に曲げモーメントのみが作用するときの、曲げモーメントが作用する梁の評価方法(梁の第1評価方法)である。
まず、梁11を評価する際に用いられる軸を規定する。
図1及び
図2に示すように、梁11が延びる材軸方向の軸を、x軸と規定する。第1フランジ16及び第2フランジ17が対向する方向の軸を、y軸と規定する。ウェブ18の板厚方向の軸を、z軸と規定する。
x軸、y軸、及びz軸は、互いに直交する。z軸に沿う方向(以下、z軸方向と言う)に見て、ウェブ18は、x軸に沿う方向(以下、x軸方向と言う)に延びる辺、及びy軸に沿う方向(以下、y軸方向と言う)に延びる辺をそれぞれ有する。ウェブ18の面外変位は、ウェブ18のz軸方向に向けた変位である。
【0044】
フランジ16,17は、ウェブ18をy軸方向に挟むように配置されている。フランジ16,17の面外変位は、y軸方向に向けた変位である。
梁11は、x軸方向に十分長いとする。ここで言う梁11がx軸方向に十分長いとは、梁11のx軸方向の各端に配置されy軸方向に延びる表面(以下、x軸方向の端面と言う)11aの境界条件が、座屈変形に与える影響を無視できる程度の長さを梁11が有していることを意味する。
【0045】
図2に示すように、梁11のx軸方向の端面11aにそれぞれz軸回りの曲げモーメントMが作用すると、梁11が座屈する場合がある。梁11のx軸方向の各端面11aに作用する曲げモーメントMは、互い等しい大きさの外力である。この例では、梁11に作用する曲げモーメントMにより、第1フランジ16が引張力を受け、第2フランジ17が圧縮力を受け、梁11が下方に向かって凸となって曲がる。
この場合、ウェブ18のx軸方向の第1端(x軸方向の端面11aの一方)に向かうに従い、ウェブ18がz軸の正の向き及びz軸の負の向きに交互に変位して、ウェブ18が全体として複数の波長分の波状(以下、x軸方向に波状と言う)に変位する。
x軸に沿って変位したウェブ18の1波長分において、x軸方向の第1端とは反対の第2端をx軸の原点とし、この第2端からx軸方向の第1端に向かう向きをx軸の正の向きとする。
【0046】
第1フランジ16のy軸方向の中心の位置を、y軸の原点と規定する。第1フランジ16から第2フランジ17に向かう向きを、y軸の正の向きと規定する。
z軸の原点を、ウェブ18のz軸方向の中心(厚さ方向の中心)とする。z軸の正の向きを、x軸の正の向き及びy軸の正の向きに対して、右手系の直交座標系を構成する向きとする。
【0047】
x軸方向に波状に変位したウェブ18における、y軸の座標がある値であったとき、x軸のある座標におけるz軸方向に向けたウェブ18の面外変位がsin(πx/a)の式で表されると仮定する。このとき、ウェブ18のx軸方向に波状に変位したウェブ18のx軸方向の波長は、2aになる。ウェブ18のx軸方向の半波長(波長の半分の長さ)は、aになる。
【0048】
特許文献1に示すように、ウェブ18の面外変位Wwは、(71)式により推定される。第1フランジ16の面外変位Wf1、第2フランジ17の面外変位Wf2は、(72)式、(73)式によりそれぞれ推定される。
【0049】
【0050】
ただし、Nは2以上の自然数であり、a0,an,bnは未定係数である。
ここで、エネルギー法に基づいて、座屈変形によりウェブ18内で生じる歪エネルギーUwは、(75)式のように表される。フランジ16,17の歪エネルギーUfは、(76)式のように表される。
【0051】
【0052】
ただし、ウェブ18の板剛性Dwは(79)式のように表される。第1フランジ16、第2フランジ17の板剛性Df1,Df2は、(80)式、(81)式のように表される。
ここで、Ef1は、第1フランジ16の高温ヤング率である。Ef2は、第2フランジ17の高温ヤング率である。Ewは、ウェブ18の高温ヤング率である。
【0053】
【0054】
曲げモーメントMが作用するウェブ18の応力関数σwは、梁11の局部座屈応力度(座屈応力度)をσcrとして(84)式のように表される。ただし、応力関数σwは圧縮を正とする。
応力関数σf1,σf2は、曲げモーメントMが作用するフランジ16,17それぞれの応力関数である。応力関数σf1,σf2は、(85)式、(86)式を持たす。ただし、応力関数σf1,σf2は圧縮を正とする。
関数δwは、座屈が発生した時のウェブ18のy軸のある座標におけるx軸方向の変位であり、第2フランジ17の中心に生じるx軸方向変位をδとして(87)式のように表される。
【0055】
【0056】
関数δf1,δf2は、座屈が発生した時のフランジ16,17のx軸方向の変位を表現した関数である。関数δf1は-δに等しく、関数δf2はδに等しい。
このとき、(76)式は、(76A)式のように表される。
【0057】
【0058】
また、ウェブ18の外力ポテンシャルエネルギーVwは(90)式のように表され、フランジ16,17の外力ポテンシャルエネルギーVfは(91)式のように表される。
【0059】
【0060】
梁11の全ポテンシャルエネルギーΠは、ひずみエネルギー及び外力ポテンシャルエネルギーの和として、(92)式のように表される。
【0061】
【0062】
座屈耐力評価工程S11では、梁11の局部座屈応力度σcrを、ウェブ18の面外変位Ww、フランジ16,17の面外変位Wf1、Wf2、及びエネルギー法に基づいて求める。すなわち、座屈耐力評価工程S11では、(95)式から(98)式を用いて、(99)式による局部座屈応力度σcrに最小の正の値を与える実数であるan,bn及び半波長aに基づいて、局部座屈応力度σcrを求める。
【0063】
【0064】
ここで、(99)式の右辺の第1項では、特許文献1の実施形態における(55)式の右辺の第1項のH形鋼のヤング係数Eが、ウェブ18の高温ヤング率Ewに置き換わっている。この理由は、(99)式の右辺の第1項がウェブ18に基づく局部座屈応力度であるためである。一方で、(99)式の右辺の第2項では、特許文献1の実施形態における(55)式の右辺の第2項のH形鋼のヤング係数Eが、Σ(EfiDi)に置き換わっている。この理由は、(99)式の右辺の第2項が第iフランジに基づく局部座屈応力度であるためである。
【0065】
次に、局部座屈応力度σcrの具体的な求め方について説明する。
半波長aを定数として扱った状態で、前記全ポテンシャルエネルギーΠを未定係数an,bnで偏微分した関数が0に等しいことを表す方程式を連立させて、実数であるan,bnを求める。連立方程式の解となるan,bnの組が複数ある場合には、an,bnの複数の組のうち、(99)式による局部座屈応力度σcrに最小の正の値を与えるan,bnの組に基づいて(an,bnの組を(99)式に代入して)局部座屈応力度σcrを求める。次に、半波長aを変数として扱い、前記an,bnの組が求められた全ポテンシャルエネルギーΠを半波長aで偏微分した関数が0に等しいことを表す方程式から、半波長aを求める。以上のように求められた前記an,bnの組及び半波長aに基づいて求められた局部座屈応力度σcrが、求める局部座屈応力度σcrとなる。
連立方程式の解となる未定係数an,bnの組が1つのみの場合には、an,bnの組が(99)式による局部座屈応力度σcrに最小の正の値を与える場合に、an,bnの組に基づいて局部座屈応力度σcrを求める。次に、半波長aを変数として扱い、前述のように局部座屈応力度σcrを求める。
【0066】
このように、局部座屈応力度σcrは、(71)~(73),(95)~(98)式を用いて、(99)式による局部座屈応力度σcrに最小の正の値を与える実数であるan,bn及び半波長aに基づいて求められる。
そして、座屈耐力評価工程S11では、(102)式より高温局部座屈耐力Mcrを評価する。崩壊評価工程S12では、(103)式を満たす高温局部座屈耐力Mcrに対応する温度である曲げ崩壊温度に基づいて、崩壊温度を評価する。例えば、梁11に曲げモーメントMのみが作用するときには、曲げ崩壊温度が崩壊温度に等しいとして評価する。
高温局部座屈耐力Mcrに対応する温度の求め方については、〔2.5〕で後述する。
【0067】
【0068】
〔2.2.梁にせん断力が作用するときの、梁の高温ヤング率及び連成座屈を考慮した方法〕
〔2.2〕の方法は、梁11にせん断力のみが作用するときの、せん断力が作用する梁の評価方法(梁の第1評価方法)である。
〔2.2〕の方法が〔2.1〕の方法と異なる点は、以下の(1)~(2)である。
(1)
図5に示すように、梁11に対してy軸方向(第1フランジ16及び第2フランジ17が対向する方向)にせん断力Qが作用すると仮定する。
(2)直交座標系において、ウェブ18におけるy軸方向の中心の位置を、y軸の原点と規定する。
ここで、ウェブ18の材軸方向に直交する断面積を、A
wと規定する。
【0069】
特許文献2に示すように、ウェブ18の面外変位Wwは、(111)式により推定される。第1フランジ16の面外変位Wf1、第2フランジ17の面外変位Wf2は、(112)式、(113)式によりそれぞれ推定される。
【0070】
【0071】
ただし、Nは2以上の自然数であり、a0,an,bn,λは未定係数である。
ここで、エネルギー法に基づいて、座屈変形によりウェブ18内で生じる歪エネルギーUwは、(115)式のように表される。フランジ16,17の歪エネルギーUfは、(116)式のように表される。
なお、δは、座屈が発生した時のウェブ18のx軸方向の変位である。
【0072】
【0073】
ただし、ウェブ18の板剛性Dw、第2フランジ17の板剛性Df1,Df2は、前記(79)式、(80)式、(81)式のように表される。
また、ウェブ18の外力ポテンシャルエネルギーVwは(119)式のように表される。ただし、τcrは梁11のせん断座屈応力度(座屈応力度)である。
【0074】
【0075】
梁11の全ポテンシャルエネルギーΠは、ひずみエネルギー及び外力ポテンシャルエネルギーの和として、(120)式のように表される。
【0076】
【0077】
座屈耐力評価工程S11では、梁11のせん断座屈応力度τcrを、ウェブ18の面外変位Ww、フランジ16,17の面外変位Wf1、Wf2、及びエネルギー法に基づいて求める。すなわち、座屈耐力評価工程S11では、(123)式から(125)式を用いて、(126)式によるせん断座屈応力度τcrに最小の正の値を与える実数であるan,bn,λ及び半波長aに基づいて、せん断座屈応力度τcrを求める。
【0078】
【0079】
ここで、(126)式の右辺の第1項では、特許文献2の実施形態における(54)式の右辺の第1項のH形鋼のヤング係数Eが、ウェブ18の高温ヤング率Ewに置き換わっている。この理由は、(126)式の右辺の第1項がウェブ18に基づく局部座屈応力度であるためである。一方で、(126)式の右辺の第2項では、特許文献2の実施形態における(54)式の右辺の第2項のH形鋼のヤング係数Eが、Σ(EfiCi)に置き換わっている。この理由は、(126)式の右辺の第2項が第iフランジに基づく局部座屈応力度であるためである。
【0080】
次に、局部座屈応力度σcrの具体的な求め方について説明する。
半波長a及び未定係数λを定数として扱った状態で、前記全ポテンシャルエネルギーΠを未定係数an,bnで偏微分した関数が0に等しいことを表す方程式を連立させて、実数であるan,bnを求める。連立方程式の解となるan,bnの組が複数ある場合には、an,bnの複数の組のうち、(126)式によるせん断座屈応力度τcrに最小の正の値を与えるan,bnの組に基づいて(an,bnの組を(126)式に代入して)せん断座屈応力度τcrを求める。次に、半波長a及び未定係数λを変数として扱い、前記an,bnの組が求められた全ポテンシャルエネルギーΠを半波長a、未定係数λで偏微分した関数が0に等しいことを表す方程式から、半波長a及び未定係数λを求める。以上のように求められた前記an,bnの組及び半波長a及び未定係数λに基づいて求められたせん断座屈応力度τcrが、求めるせん断座屈応力度τcrとなる。
連立方程式の解となる未定係数an,bnの組が1つのみの場合には、an,bnの組が(126)式によるせん断座屈応力度τcrに最小の正の値を与える場合に、an,bnの組に基づいてせん断座屈応力度τcrを求める。次に、半波長a及び未定係数λを変数として扱い、前述のようにせん断座屈応力度τcrを求める。
【0081】
このように、せん断座屈応力度τcrは、(111)~(113),(123)~(125)式を用いて、(126)式によるせん断座屈応力度τcrに最小の正の値を与える実数であるan,bn,λ及び半波長aに基づいて求められる。
そして、座屈耐力評価工程S11では、(129)式より高温局部座屈耐力Qcrを評価する。崩壊評価工程S12では、(130)式を満たす高温局部座屈耐力Qcrに対応する温度であるせん断崩壊温度に基づいて、崩壊温度を評価する。例えば、梁11にせん断力Qのみが作用するときには、せん断崩壊温度が崩壊温度に等しいとして評価する。
高温局部座屈耐力Qcrに対応する温度の求め方については、〔2.5〕で後述する。
【0082】
【0083】
〔2.3.梁に曲げモーメントが作用するときの、比較的簡単に求める方法〕
〔2.3〕の方法は、梁11に曲げモーメントのみが作用するときの、曲げモーメントが作用する梁の評価方法(梁の第1評価方法)である。
梁11には、z軸(ウェブ18の板厚方向に沿う軸)回りに、第1フランジ16が引張力を受けるように曲げモーメントMが作用すると仮定する。この曲げモーメントMにより、第2フランジ17は圧縮力を受ける。引張力を受ける第1フランジ16は座屈しないため、下記の文献5を参考にして、梁11の第2フランジ17及びウェブ18の弾性座屈応力度を検討した。
文献5:一般社団法人日本建築学会編、「鋼構造座屈設計指針」、丸善出版株式会社
曲げモーメントMにより、
図6に示すように、第2フランジ17に一様な圧縮力M1が作用する。第2フランジ17では、圧縮力M1が作用する側の辺17a,17b、及び他の1片である辺17cの3辺が単純支持されると考えた。第2フランジ17では、残りの辺17dが自由端であると考えた。
この場合、第2フランジ17の高温局部座屈耐力M
crfは、(135)式により求められる。
【0084】
【0085】
曲げモーメントMにより、
図7に示すように、ウェブ18に曲げモーメントM2が作用する。ウェブ18では、辺18a~18dが単純支持されると考えた。この場合、ウェブ18の高温局部座屈耐力M
crwは、(136)式により求められる。
【0086】
【0087】
座屈耐力評価工程S11では、高温局部座屈耐力Mcrf、及び高温局部座屈耐力Mcrwのうちの小さい方(大きくない方)を、高温局部座屈耐力Mcrとして評価する。そして、崩壊評価工程S12では、(137)式を満たす高温局部座屈耐力Mcrに対応する温度である曲げ崩壊温度に基づいて崩壊温度を評価する。例えば、梁11に曲げモーメントMのみが作用するときには、曲げ崩壊温度が崩壊温度に等しいとして評価する。
なお、高温局部座屈耐力Mcrは、(138)式により求められる。
高温局部座屈耐力Mcrに対応する温度の求め方については、〔2.5〕で後述する。
【0088】
【0089】
〔2.4.梁にせん断力が作用するときの、比較的簡単に求める方法〕
〔2.4〕の方法は、梁11にせん断力のみが作用するときの、せん断力が作用する梁の評価方法(梁の第1評価方法)である。
〔2.4〕の方法も、文献5を参考にして導かれた。
梁11には、y軸方向にせん断力Qが作用すると仮定する。このとき、フランジ16,17は、せん断力Qにより生じる応力を負担しないと考えた。
せん断力Qにより、
図8に示すように、ウェブ18にせん断力Q1が作用する。ウェブ18では、辺18a~18dが単純支持されると考えた。
この場合、座屈耐力評価工程S11では、(141)式により高温局部座屈耐力Q
crを評価する。そして、崩壊評価工程S12では、(142)式を満たす高温局部座屈耐力Q
crに対応する温度であるせん断崩壊温度に基づいて、崩壊温度を評価する。例えば、梁11にせん断力Qのみが作用するときには、せん断崩壊温度が崩壊温度に等しいとして評価する。
高温局部座屈耐力Q
crに対応する温度の求め方については、〔2.5〕で後述する。
【0090】
【0091】
〔2.5.崩壊温度及び崩壊時刻の評価〕
崩壊評価工程S12では、〔2.1〕から〔2.4〕のいずれかの方法で評価された高温局部座屈耐力Mcr,Qcrに基づいて、梁11の崩壊時刻を評価する。
〔2.1〕及び〔2.2〕の方法では、崩壊温度及び崩壊時刻を数式で導出するのには、収斂計算が必要になる。例えば、〔2.1〕の方法では、火災により加熱されて時刻(時間)の経過とともに高くなるフランジ16,17及びウェブ18の各温度に対して、(103)式を満たす局部座屈応力度σcrの値が得られる各温度を、収斂計算することにより求める。得られたフランジ16,17及びウェブ18の各温度が、崩壊温度として評価される。得られたフランジ16,17及びウェブ18の各温度のうち最小の温度を、崩壊温度としてもよい。
〔2.2〕の方法についても、〔2.1〕の方法と同様である。
【0092】
一方で、例えば、〔2.3〕の方法では、火災により加熱されて時刻の経過とともに高くなる第2フランジ17及びウェブ18の各温度に対して、高温局部座屈耐力Mcrf,Mcrwのうちの小さい方である高温局部座屈耐力Mcrが、作用する曲げモーメントMに等しくなるときの第2フランジ17又はウェブ18の温度を求める。得られた第2フランジ17又はウェブ18の温度が、崩壊温度として評価される。
〔2.4〕についても、〔2.3〕の方法と同様である。
【0093】
崩壊時刻は、例えば、フランジ16,17及びウェブ18のいずれかが、崩壊温度に達した時刻として評価される。
なお、温度算出工程S10で算出される第1フランジ16の温度、第2フランジ17の温度、及びウェブ18の温度は、互いに等しく(温度均一)てもよい。
【0094】
以上説明したように、梁の評価方法S1は、温度算出工程S10と、座屈耐力評価工程S11及び崩壊評価工程S12として〔2.1〕から〔2.4〕の方法のいずれかと、を行うことで行われる。
【0095】
なお、梁11に曲げモーメントM及びせん断力Qが同時に作用する場合には、以下の梁の評価方法(梁の第2評価方法)を用いてもよい。
すなわち、梁11に曲げモーメントMのみが作用する場合の〔2.1〕又は〔2.3〕の方法による梁の評価方法S1で評価した曲げ崩壊温度、及び、梁11にせん断力Qのみが作用する場合の〔2.2〕又は〔2.4〕の方法による梁の評価方法S1で評価したせん断崩壊温度のうち低い方に基づいて、崩壊温度を評価してもよい。例えば、曲げ崩壊温度及びせん断崩壊温度のうち低い方が崩壊温度に等しいとして評価してもよい。
例えば、曲げ崩壊温度を評価する方法として〔2.1〕の方法を選び、せん断崩壊温度を〔2.2〕の方法を選んだ場合には、〔2.1〕の方法で評価した曲げ崩壊温度及び〔2.2〕の方法で評価したせん断崩壊温度のうち低い方が崩壊温度に等しい、として評価してもよい。
【0096】
なお、本実施形態の梁11は、梁の評価方法S1により評価し、設計された梁である。
【0097】
以上のように、前記〔2.1〕から〔2.4〕の方法の特徴は、下記のようになる。
〔2.1〕曲げモーメントMが作用する場合に、連成座屈を考慮する方法。
〔2.2〕せん断力Qが作用する場合に、連成座屈を考慮する方法。
〔2.3〕曲げモーメントMが作用する場合に、連成座屈を考慮しない方法。
〔2.4〕せん断力Qが作用する場合に、連成座屈を考慮しない方法。
〔2.1〕から〔2.4〕の方法のそれぞれに対して、温度均一か否かの場合がある。
【0098】
〔3.梁の評価方法の検討〕
〔3.1.温度算出工程で求められる温度の検討〕
H形鋼製の梁11の断面寸法がH-700×175×6×9であり、耐火被覆12が厚さ45mmのロックウールで形成されていると仮定する。床スラブ20は、コンクリートスラブであると仮定した。
温度算出工程S10において、梁11に曲げモーメントM、せん断力Q等の外力を作用させずに、数値計算により、梁11の第1フランジ16、第2フランジ17、ウェブ18それぞれの温度を求めた。
境界条件を、以下の(1),(2)、及び
図9に示すように仮定した。
(1)床スラブ20の上面である第1境界条件面B1は、20℃の雰囲気温度に晒されていると仮定した。
(2)耐火被覆12の外面及び床スラブ20の下面である第2境界条件面B2(梁11)は、ISO 834-11:2014に規定された標準加熱曲線(所定の加熱曲線)に基づいて加熱されると仮定した。
【0099】
数値計算(熱伝導解析)により温度を求めた結果を、
図10に示す。
図10において、横軸は時刻(min:分)を表し、縦軸は温度(℃)を表す。第1フランジ16の温度は、第1フランジ16の最高温度を意味する。第2フランジ17及びウェブ18の温度は、第1フランジ16の温度と同様に求められる。
同一の時刻において、温度が高い順に、ウェブ18、第1フランジ16、2フランジ17となる。
【0100】
次に、第1フランジ16、第2フランジ17、及びウェブ18の各部位における温度の変化について検討した。
図9に示すように、第1フランジ16の下面をz軸方向に4等分する。z軸方向の正の側から負の側に向かって、測定点f
11,f
12,f
13,f
14,f
15を規定する。第2フランジ17の上面をz軸方向に4等分する。z軸方向の正の側から負の側に向かって、測定点f
21,f
22,f
23,f
24,f
25を規定する。
フランジ16,17間の距離を、hと規定する。互いの距離が(h/5)で等しくなるように、y軸方向の正の側から負の側に向かって、測定点w
1,w
2,w
3,w
4,w
5を規定する。
【0101】
図11及び
図12に、床構造1のx軸方向に直交する断面における温度分布を示す。
図11は、高温局部座屈耐力M
crを〔2.1〕の方法で設定したときの、崩壊時刻における温度分布である。
図12は、高温局部座屈耐力Q
crを〔2.2〕の方法で設定したときの、崩壊時刻における温度分布である。
図11及び
図12のいずれにおいても、第1フランジ16の温度は第2フランジ17の温度よりも高いことが分かる。
【0102】
図13から
図16に、梁11の各測定点における温度の違いを示す。
図13に、第1フランジ16の各測定点f
11~f
15におけるISO 834-11:2014に規定された標準加熱曲線に基づいて加熱した場合の温度履歴を示す。
図14に、ウェブ18の各測定点w
1~w
5におけるISO 834-11:2014に規定された標準加熱曲線に基づいて加熱した場合の温度履歴を示す。
図15に、第2フランジ17の各測定点f
21~f
25におけるISO 834-11:2014に規定された標準加熱曲線に基づいて加熱した場合の温度履歴を示す。
図16に、崩壊時刻でのウェブ18の高さ位置による温度変化を示す。
図13及び
図15により、フランジ16,17では、z軸方向の位置による顕著な温度差は見られないことが分かった。一方で、
図14及び
図16により、ウェブ18では、測定点w
3と測定点w
4との間の温度が最も高くなることが分かった。
【0103】
図10に示す時刻に対する温度の関係に基づいて求めた高温ヤング率を、
図17に示す。
図17には、時刻に対する、第1フランジ16の高温ヤング率、第2フランジ17の高温ヤング率、及びウェブ18の高温ヤング率を、それぞれ示す。高温ヤング率は、文献4に規定された方法で求めた。
同一時刻において、第2フランジ17の高温ヤング率に比べて、第1フランジ16の高温ヤング率及びウェブ18の高温ヤング率が、それぞれ小さくなることが分かった。
【0104】
〔3.2.崩壊評価工程で評価される崩壊時刻の検討〕
図18に示すように、耐火被覆梁10(梁11)の解析モデルに対して、両端を単純支持し、2点の鉛直方向の集中荷重Pを作用させた。なお、
図18から
図20では、耐火被覆12を示していない。
集中荷重P(N)は、文献3に基づいて以下のように算定した。なお、常温時の降伏応力は295N/mm
2、常温時のヤング率は205000N/mm
2とした。降伏応力及びヤング率の温度上昇に伴う低下率は、文献4に基づいた。
梁11の支持スパンL:7200mm
梁11のせいd:700mm
設計基準強度F:295N/mm
2
長期許容曲げ応力度f
b(N/mm
2)
梁11の断面係数Z(mm
3)
梁11に作用する曲げモーメントM(N/m)
このとき、(145)式から(148)式により、集中荷重Pが125kNと得られる。
【0105】
【0106】
なお、梁11に作用する曲げモーメント分布は、線L1で示すようになる。
梁11の曲げモーメントMが作用する領域で局部座屈を発生させる場合には、
図19に示すように、梁11のx軸方向における両端部(支持点から集中荷重Pを作用させる部分までの範囲)に、スチフナであるウェブ18の補剛材14を接合した。補剛材14の厚さは9mm、補剛材のx軸方向のピッチは200mmである。
【0107】
第2フランジ17における点線L3で示された部分は、z軸方向の移動が固定され、他の移動及び回転は自由である。第1フランジ16における破線L4で示された部分は、y軸方向及びz軸方向の移動が固定され、x軸及びy軸回りの回転が固定され、他の移動及び回転は自由である。第2フランジ17における実線L5で示された部分は、x軸方向及びz軸方向の移動が固定され、他の移動及び回転は自由である。
【0108】
梁11のせん断力Qが作用する領域で局部座屈を発生させる場合には、
図20に示すように、梁11のx軸方向における中央部(2点の集中荷重Pの間の範囲)に、補剛材14を接合した。
【0109】
数値計算(熱応力解析)により、梁11に曲げモーメントM及びせん断力Qが作用する場合の時刻に対する梁11のたわみ(最大たわみ)を求めた結果を、
図21、
図22に示す。文献2及び文献3に規定される最大たわみ量(L
2/(400d))を、直線L11で示す。たわみは、時刻の経過とともに増加する。たわみが直線L11に達すると、梁11が崩壊したと判定する。
図22に示す梁11の曲げモーメントMが作用する領域で局部座屈を発生させる場合、崩壊時刻t
1(112分)で梁11が崩壊する。
図23に示す梁11のせん断力Qが作用する領域で局部座屈を発生させる場合、崩壊時刻t
2(112.5分)で梁11が崩壊する。
【0110】
図23では、曲げモーメントMが作用する〔2.1〕、〔2.3〕の方法の場合で、温度均一か否かの場合で、高温局部座屈耐力M
crを求めた。なお、
図23、及び後述する
図24中では、連成座屈を考慮した場合を「連成」と示し、温度均一であることを、「均一」と示している。
図24では、せん断力Qが作用する〔2.2〕、〔2.4〕の場合で、温度均一か否かの場合で、高温局部座屈耐力Q
crを求めた。
図23において、〔2.3〕の方法で温度均一の場合は、〔2.3〕の方法の場合に重なっている。
図24において、〔2.4〕の方法で温度均一の場合は、〔2.4〕の方法の場合に重なっている。
【0111】
図23及び
図24中には、従来の断面内の最高温度を用いて全塑性曲げ耐力M
cr,せん断降伏耐力Q
crを求めた結果を、M
cr(AIJ),Q
cr(AIJ)として示している。
図23及び
図24中には、曲げモーメントM、せん断力Qの値も示している。
図23及び
図24中には、数値計算で求めた崩壊時刻t
01,t
02を示す。
例えば、
図23では、時刻が大きくなるのに従い高温局部座屈耐力M
crが低下し、高温局部座屈耐力M
crが曲げモーメントMに一致したときに、梁11が崩壊する。
温度算出工程S10において求めた第1フランジ16の各部分の温度のうち、最高の温度(最高温度)が第1フランジ16の温度であるとして、高温ヤング率を求めた。第2フランジ17及びウェブ18についても、第1フランジ16と同様である。
【0112】
図23及び
図24のいずれにおいても、全塑性曲げ耐力M
cr(AIJ)及びせん断降伏耐力Q
cr(AIJ)では、崩壊時刻を危険側に評価していることが分かる。
〔2.1〕~〔2.4〕の方法では、崩壊時刻を安全側に評価していることが分かる。例えは、〔2.1〕の方法でも、連成座屈を考慮した場合の方が、連成座屈を考慮しない場合よりも崩壊時刻をより正確に評価していることが分かる。〔2.2〕~〔2.4〕の方法も、〔2.1〕の方法と同様である。
【0113】
ここで、高温ヤング率を求める際に用いられる温度の影響を検討した結果について説明する。
図25では、曲げモーメントMが作用する〔2.1〕の方法において、梁11の温度として、最高温度、平均温度、及び最低温度を、用いた場合の、時刻に対する高温局部座屈耐力M
crの変化を調べた。例えば、梁11の最高温度とは、梁11の各部位の温度の最高値を意味する。梁11の平均温度、梁11の最低温度も、同様の考え方で定義される。
この場合、圧縮力を受けるウェブ18の第2フランジ17側が座屈耐力に大きな影響を与えるため、最高温度を用いると高温局部座屈耐力M
crを過小評価していることが分かる。
【0114】
図26に、曲げモーメントMが作用する〔2.1〕の方法において、ウェブ18の温度を平均温度とし、フランジ16,17の温度として平均温度、最高温度、最低温度を用いた場合の高温局部座屈耐力M
crの変化を示す。
この結果等から、フランジ16,17の温度は、幅方向(z軸方向)に対して温度差が小さく、平均温度、最高温度、最低温度のいずれを用いても、局部座屈耐力に与える影響は小さいことが分かる。一方で、
図14の結果等から、ウェブ18は高さ方向(y軸方向)の温度差が顕著であり、圧縮を受ける第2フランジ17側(局部座屈が発生する側)の温度が低いため、最高温度ではなく、平均温度を用いるのが好ましいことが分かる。
【0115】
このため、座屈耐力評価工程S11において第1フランジ16、第2フランジ17の高温ヤング率を求めるのに用いられる温度は、それぞれ温度算出工程S10で求めた第1フランジ16、第2フランジ17の平均温度、最高温度、最低温度のいずれかであることが好ましい。座屈耐力評価工程S11においてウェブ18の高温ヤング率を求めるのに用いられる温度は、温度算出工程S10で求めたウェブ18の平均温度であることが好ましい。
〔2.3〕の方法も、〔2.1〕の方法と同様の傾向がある。
【0116】
図27では、せん断力Qが作用する〔2.2〕の方法において、梁11の温度として、最高温度、平均温度、及び最低温度を、用いた場合の、時刻に対する高温局部座屈耐力Q
crの変化を調べた。この場合、ウェブ18の中央部でせん断応力度が最大になることが分かっているため、ウェブ18の中央部における温度である最高温度を用いることが好ましい。
【0117】
図28に、せん断力Qが作用する〔2.2〕の方法において、ウェブ18の温度を最高温度とし、フランジ16,17の温度として平均温度、最高温度、最低温度を用いた場合の高温局部座屈耐力Q
crの変化を示す。
この結果等から、フランジ16,17の温度は、幅方向に対して温度差が小さく、平均温度、最高温度、最低温度のいずれを用いても、局部座屈耐力に与える影響は小さいことが分かる。一方で、
図14の結果等から、ウェブ18は高さ方向の温度差が顕著であり、一般にウェブ18の高さ方向の中央のせん断応力度が最も大きくなるため、ウェブ18の高さ方向の中央の温度、つまり最高温度を用いるのが好ましいことが分かる。
【0118】
従って、座屈耐力評価工程S11において第1フランジ16、第2フランジ17の高温ヤング率を求めるのに用いられる温度は、それぞれ温度算出工程S10で求めた第1フランジ16、第2フランジ17の平均温度、最高温度、最低温度のいずれかであることが好ましい。座屈耐力評価工程S11においてウェブ18の高温ヤング率を求めるのに用いられる温度は、温度算出工程S10で求めたウェブ18の最高温度であることが好ましい。
〔2.4〕の方法も、〔2.2〕の方法と同様の傾向がある。
【0119】
〔4.本実施形態の効果〕
以上説明したように、本実施形態の梁の評価方法S1では、高温下の局部座屈における局部座屈耐力である、高温局部座屈耐力Mcr,Qcrに基づいて梁の崩壊温度を評価する。従って、高温下の局部座屈を考慮して、梁11の崩壊温度を評価することができる。
梁の評価方法S1では、温度算出工程S10、座屈耐力評価工程S11、及び崩壊評価工程S12を行う。温度算出工程S10において、実験又は数値計算により第1フランジ16、第2フランジ17、及びウェブ18それぞれの温度を求める。そして、座屈耐力評価工程S11において、それらの温度に基づいて求められる高温ヤング率を用いて高温局部座屈耐力Mcr,Qcrを評価し、崩壊評価工程S12において、高温局部座屈耐力Mcr,Qcrに基づいて崩壊温度を評価することができる。
【0120】
〔2.1〕の方法で崩壊温度を評価する場合がある。この場合には、座屈耐力評価工程S11において、梁11が有する第1フランジ16、第2フランジ17、及びウェブ18の連成座屈を考慮して、(102)式より高温局部座屈耐力Mcrを評価することができる。そして、崩壊評価工程S12において、(103)式を満たす高温局部座屈耐力Mcrに対応する温度である曲げ崩壊温度に基づいて、崩壊温度を評価することができる。
〔2.2〕の方法で崩壊温度を評価する場合がある。この場合には、座屈耐力評価工程S11において、梁11が有する第1フランジ16、第2フランジ17、及びウェブ18の連成座屈を考慮して、(129)式より高温局部座屈耐力Qcrを評価することができる。そして、崩壊評価工程S12において、(130)式を満たす高温局部座屈耐力Qcrに対応する温度であるせん断崩壊温度に基づいて、崩壊温度を評価することができる。
【0121】
〔2.3〕の方法で崩壊温度を評価する場合がある。この場合には、座屈耐力評価工程S11において、高温局部座屈耐力Mcrを比較的簡単に評価し、崩壊評価工程S12において、高温局部座屈耐力Mcrに対応する温度である曲げ崩壊温度に基づいて、崩壊温度を評価することができる。
〔2.4〕の方法で崩壊温度を評価する場合がある。この場合には、座屈耐力評価工程S11において、高温局部座屈耐力Qcrを比較的簡単に評価し、崩壊評価工程S12において、高温局部座屈耐力Qcrに対応する温度であるせん断崩壊温度に基づいて崩壊温度を評価することができる。
【0122】
曲げモーメントMが作用する〔2.1〕及び〔2.3〕の方法では、第1フランジ16、第2フランジ17の高温ヤング率を求めるのに用いられる温度は、それぞれ温度算出工程S10で求めた第1フランジ16、第2フランジ17の平均温度、最高温度、最低温度のいずれかであり、ウェブ18の高温ヤング率を求めるのに用いられる温度は、温度算出工程S10で求めたウェブ18の平均温度である場合がある。この場合には、高温局部座屈耐力Mcrをより適切に評価することができる。
せん断力Qが作用する〔2.2〕及び〔2.4〕の方法では、第1フランジ16、第2フランジ17の高温ヤング率を求めるのに用いられる温度は、それぞれ温度算出工程S10で求めた第1フランジ16、第2フランジ17の平均温度、最高温度、最低温度のいずれかであり、ウェブ18の高温ヤング率を求めるのに用いられる温度は、温度算出工程S10で求めたウェブ18の最高温度である場合がある。この場合には、高温局部座屈耐力Qcrをより適切に評価することができる。
【0123】
温度算出工程S10で算出される第1フランジ16の温度、第2フランジ17の温度、及びウェブ18の温度は、互いに等しい場合がある。この場合には、高温局部座屈耐力Mcr,Qcrをより簡単に評価することができる。
温度算出工程S10において、梁11は標準加熱曲線に基づいて加熱され、崩壊評価工程S12では、高温局部座屈耐力Mcr,Qcrに基づいて崩壊時刻を評価する。従って、高温局部座屈耐力Mcr,Qcrに基づいて、梁11が標準加熱曲線に基づいて加熱されたときの崩壊時刻を評価することができる。
【0124】
〔2.1〕又は〔2.3〕の方法による梁の評価方法S1で評価した曲げ崩壊温度、及び、〔2.2〕又は〔2.4〕の方法による梁の評価方法S1で評価したせん断崩壊温度のうち低い方に基づいて、崩壊温度を評価する場合がある。この場合には、梁11に曲げモーメントM及びせん断力Qが同時に作用する場合の崩壊温度を、適切に評価することができる。
また、本実施形態の梁11では、高温下の局部座屈を考慮して、梁11の崩壊温度を評価し、設計された梁とすることができる。
【0125】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
所定の加熱曲線が、ISO 834-11:2014に規定された標準加熱曲線であるとした。しかし、所定の加熱曲線はこれに限定されず、例えば10℃/minの割合で温度が高くなる加熱曲線等でもよい。
例えば、前記実施形態では、梁の評価方法S1では、崩壊時刻を評価しなくてもよい。梁の評価方法S1では、温度算出工程S10、座屈耐力評価工程S11、及び崩壊評価工程S12を行わなくてもよい。
【符号の説明】
【0126】
11 梁
16 第1フランジ
17 第2フランジ
18 ウェブ
M 曲げモーメント
Q せん断力
S1 梁の評価方法
S10 温度算出工程
S11 座屈耐力評価工程
S12 崩壊評価工程