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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142135
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】糸巻取機
(51)【国際特許分類】
   B65H 63/06 20060101AFI20230928BHJP
   B65H 63/00 20060101ALI20230928BHJP
   B65H 67/08 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B65H63/06 Z
B65H63/00 E
B65H67/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048849
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】目片 努
(72)【発明者】
【氏名】重山 昌澄
【テーマコード(参考)】
3F112
3F115
【Fターム(参考)】
3F112AA08
3F112BA03
3F112ED09
3F112RA04
3F112SA04
3F115BA03
3F115CA18
3F115CF25
3F115CF35
(57)【要約】
【課題】パッケージ側の糸を高確率で捕捉可能な捕捉装置を備える糸巻取機を提供する。
【解決手段】紡績機は、紡績装置22と、糸貯留装置23と、巻取装置25と、捕捉装置24と、ユニット制御部と、を備える。紡績装置22は、糸5を供給する。糸貯留装置23は、紡績装置22から糸5を引き出す。巻取装置25は、紡績装置22が供給した糸5を巻き取ってパッケージ7を形成する。捕捉装置24は、糸走行方向において糸貯留装置23と巻取装置25の間の位置であって、かつ、糸貯留装置23から巻取装置25までの糸道にある糸5を吸引可能な位置に配置されており、糸5が分断された場合にパッケージ7側の糸5を吸引して捕捉する。ユニット制御部は、糸5が分断された後であって、パッケージ7側の糸5が捕捉装置24に捕捉される前の捕捉待機期間において、糸貯留装置23とパッケージ7の間の糸5のテンションを低減する制御を行う。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を供給するための給糸部と、
前記給糸部から糸を引き出す引出装置と、
前記給糸部が供給した糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取装置と、
糸走行方向において前記引出装置と前記巻取装置の間の位置であって、かつ、前記引出装置から前記巻取装置までの糸道にある糸を吸引可能な位置に配置されており、糸が分断された場合に前記パッケージ側の糸を吸引して捕捉する捕捉装置と、
糸が分断された後であって、前記パッケージ側の糸が前記捕捉装置に捕捉される前の捕捉待機期間において、前記引出装置と前記パッケージの間の糸のテンションを低減する制御を行う制御部と、
を備えることを特徴とする糸巻取機。
【請求項2】
請求項1に記載の糸巻取機であって、
前記引出装置は、
前記給糸部より糸走行方向の下流であって、前記巻取装置より糸走行方向の上流に配置され、糸を外周面に巻き付けて一時的に貯留する糸貯留ローラと、
糸と接触した状態で前記糸貯留ローラと一体的に回転することにより前記糸貯留ローラの外周面に糸を巻き付ける糸掛け部材と、
を備えることを特徴とする糸巻取機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の糸巻取機であって、
前記制御部は、前記捕捉待機期間において、前記パッケージを糸の巻取方向に対して逆回転させることにより、前記引出装置と前記パッケージの間の糸のテンションを低減することを特徴とする糸巻取機。
【請求項4】
請求項3に記載の糸巻取機であって、
前記制御部は、前記捕捉待機期間において、20mm以上の糸が前記パッケージから解舒されるように、前記パッケージを逆回転させることを特徴とする糸巻取機。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の糸巻取機であって、
前記制御部は、前記パッケージの逆回転量を糸の種類に応じて調整することを特徴とする糸巻取機。
【請求項6】
請求項3から5までの何れか一項に記載の糸巻取機であって、
糸の状態を監視する糸監視装置を備え、
前記制御部は、前記糸監視装置が検出した糸欠点が長欠点である場合は、前記糸監視装置が検出した糸欠点が短欠点である場合よりも、前記パッケージの逆回転量を多くすることを特徴とする糸巻取機。
【請求項7】
請求項2に記載の糸巻取機であって、
糸に作用して前記糸掛け部材から糸を外す糸外し部材を更に備え、
前記制御部は、前記捕捉待機期間において、前記糸外し部材により前記糸掛け部材から糸を外した状態で、前記パッケージの巻取速度を前記糸貯留ローラの糸送り速度よりも遅くすることにより、前記引出装置と前記パッケージの間の糸のテンションを低減することを特徴とする糸巻取機。
【請求項8】
請求項2に記載の糸巻取機であって、
前記糸掛け部材による糸への作用を無効化する無効化手段を更に備え、
前記無効化手段は、
前記糸掛け部材に接触することによって前記糸掛け部材の回転を停止するストッパと、
前記糸掛け部材の回転を前記糸貯留ローラの回転とは独立した状態で停止させることが可能であって、前記糸掛け部材を糸から退避した位置で停止させるモータと、の何れか1つであり、
前記制御部は、前記捕捉待機期間において、前記無効化手段により前記糸掛け部材による糸への作用を無効化した状態で、前記パッケージの巻取速度を前記糸貯留ローラの糸送り速度よりも遅くすることにより、前記引出装置と前記パッケージの間の糸のテンションを低減することを特徴とする糸巻取機。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の糸巻取機であって、
前記制御部は、前記パッケージの巻取速度を前記糸貯留ローラの糸送り速度よりも遅くした後に、前記糸貯留ローラの糸送り速度を上昇させることを特徴とする糸巻取機。
【請求項10】
請求項1から9までの何れか一項に記載の糸巻取機であって、
前記給糸部側の糸と前記パッケージ側の糸とを糸継ぎする糸継装置を備え、
前記制御部は、前記捕捉装置による前記パッケージ側の糸の捕捉と前記パッケージの回転の停止が完了した後であって、前記糸継装置による糸継ぎが完了するまでの間は、前記パッケージの停止を維持することを特徴とする糸巻取機。
【請求項11】
請求項1から10までの何れか一項に記載の糸巻取機であって、
前記捕捉装置は、前記引出装置と前記パッケージの間で糸が繋がっている状態で糸の中途部を吸引して捕捉することを特徴とする糸巻取機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、糸を吸引して捕捉する捕捉装置を備える糸巻取機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2は、糸巻取機の一種である紡績機を開示する。紡績機は、紡績装置が生成した糸を巻取装置により巻き取ってパッケージを形成する。また、紡績機は、糸貯留装置と、サクションパイプと、サクションマウスと、スプライサと、を備える。糸貯留装置は、紡績装置と巻取装置との間において糸を貯留する。サクションパイプは、糸が切断された場合に紡績装置の近傍まで移動して、紡績装置側の糸を吸引捕捉してスプライサに案内する。サクションマウスは、糸が切断された場合にパッケージの近傍まで移動して、パッケージ側の糸を吸引捕捉してスプライサに案内する。スプライサは、紡績装置側の糸とパッケージ側の糸とを糸継ぎする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-88638号公報
【特許文献2】特開2011-37572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2の紡績機では、パッケージの表面に巻き付いている糸をサクションマウスにより吸引する。そのため、例えばパッケージの表面に糸が貼り付いている場合は、パッケージ側の糸の捕捉に失敗する可能性があった。この課題は紡績機に限られず、自動ワインダ等の他の糸巻取機においても同様の課題が存在する。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、パッケージ側の糸を高確率で捕捉可能な捕捉装置を備える糸巻取機を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の観点によれば、以下の構成の糸巻取機が提供される。即ち、糸巻取機は、給糸部と、引出装置と、巻取装置と、捕捉装置と、制御部と、を備える。前記給糸部は、糸を供給する。前記引出装置は、前記給糸部から糸を引き出す。前記巻取装置は、前記給糸部が供給した糸を巻き取ってパッケージを形成する。前記捕捉装置は、糸走行方向において前記引出装置と前記巻取装置の間の位置であって、かつ、前記引出装置から前記巻取装置までの糸道にある糸を吸引可能な位置に配置されており、糸が分断された場合に前記パッケージ側の糸を吸引して捕捉する。前記制御部は、糸が分断された後であって、前記パッケージ側の糸が前記捕捉装置に捕捉される前の捕捉待機期間において、前記引出装置と前記パッケージの間の糸のテンションを低減する制御を行う。
【0008】
これにより、引出装置とパッケージの間の糸を捕捉装置が捕捉するため、パッケージに貼り付いた糸を捕捉する場合と比較して、パッケージ側の糸を捕捉し易い。更に、引出装置とパッケージの間の糸のテンションが低減されるため、捕捉装置の吸引流が糸に作用し易くなる。その結果、高確率でパッケージ側の糸を捕捉できる。
【0009】
前記の糸巻取機においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記引出装置は、糸貯留ローラと、糸掛け部材と、を備える。前記糸貯留ローラは、前記給糸部より糸走行方向の下流であって、前記巻取装置より糸走行方向の上流に配置され、糸を外周面に巻き付けて一時的に貯留する。前記糸掛け部材は、糸と接触した状態で前記糸貯留ローラと一体的に回転することにより前記糸貯留ローラの外周面に糸を巻き付ける。
【0010】
これにより、糸貯留ローラに糸が貯留されているため、糸が分断された後にパッケージ側の糸の糸端が捕捉装置を通過するまでの時間を確保できる。そのため、糸のテンションを低減する制御を容易に行うことができる。
【0011】
前記の糸巻取機においては、前記制御部は、前記捕捉待機期間において、前記パッケージを糸の巻取方向に対して逆回転させることにより、前記引出装置と前記パッケージの間の糸のテンションを低減することが好ましい。
【0012】
これにより、簡単な処理により糸のテンションを低減できる。また、パッケージの逆回転量を変化させるだけで、テンションを低減させる程度及び/又は糸を弛ませる程度を調整できる。
【0013】
前記の糸巻取機においては、前記制御部は、前記捕捉待機期間において、20mm以上の糸が前記パッケージから解舒されるように、前記パッケージを逆回転させることが好ましい。
【0014】
これにより、糸を大きく弛ませることができるので、捕捉装置の吸引流を糸に作用させ易くなる。
【0015】
前記の糸巻取機においては、前記制御部は、前記パッケージの逆回転量を糸の種類に応じて調整することが好ましい。
【0016】
これにより、捕捉装置により吸引されにくい種類の糸であっても、逆回転量を多くすることにより、捕捉装置は高確率でパッケージ側の糸を捕捉できる。
【0017】
前記の糸巻取機においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、糸巻取機は、糸の状態を監視する糸監視装置を備える。前記制御部は、前記糸監視装置が検出した糸欠点が長欠点である場合は、前記糸監視装置が検出した糸欠点が短欠点である場合よりも、前記パッケージの逆回転量を多くする。
【0018】
これにより、糸欠点が長い場合であっても、逆回転量を多くすることにより、糸から糸欠点を除去することができる。
【0019】
前記の糸巻取機においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記糸巻取機は、糸に作用して前記糸掛け部材から糸を外す糸外し部材を更に備える。前記制御部は、前記捕捉待機期間において、前記糸外し部材により前記糸掛け部材から糸を外した状態で、前記パッケージの巻取速度を前記糸貯留ローラの糸送り速度よりも遅くすることにより、前記引出装置と前記パッケージの間の糸のテンションを低減する。
【0020】
これにより、引出装置を用いて糸のテンションを低減させることができる。
【0021】
前記の糸巻取機においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記糸巻取機は、前記糸掛け部材による糸への作用を無効化する無効化手段を更に備える。前記無効化手段は、前記糸掛け部材に接触することによって前記糸掛け部材の回転を停止するストッパと、前記糸掛け部材の回転を前記糸貯留ローラの回転とは独立した状態で停止させることが可能であって、前記糸掛け部材を糸から退避した位置で停止させるモータと、の何れか1つである。前記制御部は、前記捕捉待機期間において、前記無効化手段により前記糸掛け部材による糸への作用を無効化した状態で、前記パッケージの巻取速度を前記糸貯留ローラの糸送り速度よりも遅くすることにより、前記引出装置と前記パッケージの間の糸のテンションを低減する。
【0022】
これにより、引出装置を用いて糸のテンションを低減させることができる。
【0023】
前記の糸巻取機においては、前記制御部は、前記パッケージの巻取速度を前記糸貯留ローラの糸送り速度よりも遅くした後に、前記糸貯留ローラの糸送り速度を上昇させることが好ましい。
【0024】
これにより、巻取装置を用いて糸のテンションを低減させつつ、糸貯留ローラの残糸を短時間で除去することができる。
【0025】
前記の糸巻取機においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、糸巻取機は、前記給糸部側の糸と前記パッケージ側の糸とを糸継ぎする糸継装置を備える。前記制御部は、前記捕捉装置による前記パッケージ側の糸の捕捉と前記パッケージの回転の停止が完了した後であって、前記糸継装置による糸継ぎが完了するまでの間は、前記パッケージの停止を維持する。
【0026】
これにより、糸継ぎの直前にパッケージを逆回転させる場合と比較して、糸継ぎに掛かる時間を短くすることができる。
【0027】
前記の糸巻取機においては、前記捕捉装置は、前記引出装置と前記パッケージの間において糸が繋がっている状態で糸の中途部を吸引して捕捉することが好ましい。
【0028】
これにより、捕捉装置は、糸端がフリーになる前に糸を捕捉できるので、高確率でパッケージ側の糸を捕捉できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態に係る紡績機の全体的な構成を示す正面図。
図2】紡績ユニット及び糸継台車の側面図。
図3】糸の分断に対応する処理を示すフローチャート。
図4】糸を切断した直後の状態を示す紡績ユニット及び糸継台車の側面図。
図5】捕捉装置が糸を捕捉した状態を示す紡績ユニット及び糸継台車の側面図。
図6】パッケージ側の糸と給糸部側の糸が糸継装置に案内された状態を示す紡績ユニット及び糸継台車の側面図。
図7】パッケージ側の糸と給糸部側の糸が糸継ぎされる状態を示す紡績ユニット及び糸継台車の側面図。
図8】変形例における糸の分断に対応する処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の一実施形態に係る紡績機(糸巻取機)1について、図面を参照して説明する。以下の説明において、「上流側」及び「下流側」とは、それぞれ、糸5、スライバ4a又は繊維束4bの走行方向における上流側及び下流側を意味する。
【0031】
図1に示すように、紡績機1は、ブロアボックス111と、制御ボックス112と、複数の紡績ユニット2と、糸継台車80と、を備える。複数の紡績ユニット2は、所定の方向(並列方向)に並べて配置されている。それぞれの紡績ユニット2は、紡績を行って糸5を生成してパッケージ7を形成する。
【0032】
ブロアボックス111内には、負圧源として機能するブロア113等が配置されている。制御ボックス112には、中央制御装置115と、表示部116と、操作部117と、が配置されている。
【0033】
中央制御装置115は、紡績機1の各部を集中的に管理及び制御する。中央制御装置115は、各紡績ユニット2が備えるユニット制御部15(図2、制御部)に、図略の信号線を介して接続されている。本実施形態では、それぞれの紡績ユニット2がユニット制御部15を備えているが、所定数(例えば、2つ又は4つ)の紡績ユニット2が1つのユニット制御部15を共用してもよい。中央制御装置115及びユニット制御部15は、それぞれ、図示しないCPU、ROM、RAM等を有する公知のコンピュータとして構成されている。
【0034】
表示部116は、紡績ユニット2に対する設定内容、及び/又は、各紡績ユニット2の状態に関する情報等を表示することができる。操作部117は、オペレータが紡績機1の設定を行うために、及び/又は、表示部116に表示する情報の選択を行うために操作される。表示部116と操作部117は、タッチパネルディスプレイにより構成されていてもよい。
【0035】
図2に示すように、各紡績ユニット2は、ドラフト装置21と、紡績装置22と、糸貯留装置(引出装置)23と、捕捉装置24と、巻取装置25と、を備える。これらの装置は、糸走行方向において上流側から下流側へ向かって順に配置されている。
【0036】
糸継台車80は、各紡績ユニット2に対して移動可能に設けられている。糸継台車80は、複数の紡績ユニット2に対して1つ備えられている。図1では1台の糸継台車80が図示されているが、紡績機1は、複数台の糸継台車80を備えていてもよい。糸継台車80は、後述するように、糸継装置82と、サクションパイプ83と、サクションマウス84と、を備える。
【0037】
ドラフト装置21は、紡績ユニット2の上部に設けられている。ドラフト装置21は、複数のドラフトローラ対を備える。それぞれのドラフトローラ対は、2つのドラフトローラによって構成される。
【0038】
具体的には、ドラフト装置21は、4つのドラフトローラ対を備える。4つのドラフトローラ対は、上流側から下流側へ向かって順に配置された、バックローラ対41、サードローラ対42、ミドルローラ対43、及びフロントローラ対44である。ミドルローラ対43の各ドラフトローラには、エプロンベルト45が設けられている。
【0039】
4つのドラフトローラ対のそれぞれは、互いに対向する駆動ローラ及び従動ローラを有している。4つのドラフトローラ対に関して、それぞれの駆動ローラに、図略のモータ等の駆動部が設けられている。それぞれの駆動ローラは、駆動部によって当該駆動ローラの軸線を中心に回転駆動される。本実施形態では、紡績ユニット2毎に駆動ローラの駆動部が設けられる。そのため、ある紡績ユニット2のドラフトローラ対は、他の紡績ユニット2のドラフトローラ対に対して独立して動作可能である。なお、複数の紡績ユニット2のドラフトローラ対を共通の駆動部により駆動してもよい。
【0040】
ドラフト装置21は、図略のスライバ供給部から供給されるスライバ4aを、各ドラフトローラ対の駆動ローラと従動ローラとの間で挟み込んで搬送することによって、所定の繊維量又は太さとなるまで引き伸ばして(ドラフトして)、繊維束4bを生成する。ドラフト装置21により生成された繊維束4bは、紡績装置22に供給される。
【0041】
紡績装置22は、本実施形態では空気紡績装置である。紡績装置22は、ドラフト装置21により生成された繊維束4bに旋回空気流を作用させることにより、撚りを加えて糸5を生成する。紡績装置22は、ドラフト装置21の下流側に配置されている。
【0042】
紡績装置22は、生成した糸5を下流側に供給する。紡績装置22は、糸5を供給しているため給糸部に相当する。紡績装置22により生成された糸5は、紡績装置22から巻取装置25に向かって走行し、巻取装置25によって巻き取られる。紡績装置22と巻取装置25との間には、糸5が走行する糸道が形成される。
【0043】
糸貯留装置23は、紡績装置22により生成された糸5を紡績装置22から引き出して一時的に貯留する。糸貯留装置23は、紡績装置22よりも下流側であって、巻取装置25よりも上流側に配置されている。
【0044】
糸貯留装置23は、糸貯留ローラ51と、電動モータ52と、糸掛け部材53と、糸外し部材55と、貯留量センサ56と、を備える。
【0045】
糸貯留ローラ51は、電動モータ52により回転駆動される。糸貯留ローラ51は、その外周面に糸5を巻き付けて一時的に貯留する。糸貯留ローラ51は、外周面に糸5を巻き付けた状態で所定の回転速度で回転することによって、紡績装置22から糸5を所定の速度で引き出すことができる。
【0046】
糸掛け部材53は、糸5を引っ掛けることが可能である。糸掛け部材53は糸貯留ローラ51に対して相対回転可能に支持されている。糸掛け部材53には、例えば磁気的手段等からなるトルク発生手段により、糸貯留ローラ51に対し相対回転するのに抗するトルク(抵抗トルク)が掛かる。これにより、糸5に掛かる張力がこの抵抗トルクに打ち勝つほどに強ければ、糸掛け部材53は糸貯留ローラ51と独立に回転して、糸5を前記糸貯留ローラ51から解舒する。糸5に掛かる張力が抵抗トルクよりも弱ければ、糸掛け部材53は糸貯留ローラ51と一体的に回転し、糸5を前記糸貯留ローラ51に巻き付ける。なお、糸掛け部材53を回転駆動する駆動部を設けてもよい。
【0047】
糸外し部材55は、糸貯留ローラ51の近傍に配置されている。糸外し部材55は、糸掛け部材53から糸5を外す糸外し動作を行うことができる。糸外し部材55は図1に示すようにL字状の部材として構成され、その端部が回転可能に支持されている。
【0048】
糸外し部材55は、図2に示す位置(退避位置)と図6に示す位置(糸外し位置)との間で移動可能に設けられている。糸外し部材55は、退避位置から糸外し位置に移動する過程において、糸貯留ローラ51よりも下流側の空間を通過する。このとき、糸掛け部材53に引っ掛かっている糸5があれば、当該糸5に糸外し部材55が作用して、この糸5が糸掛け部材53から外れる。糸掛け部材53から糸5が外れることにより、糸貯留ローラ51に巻かれた糸5は、糸貯留ローラ51から解舒される。
【0049】
糸外し部材55は各紡績ユニット2に設けられており、それぞれの糸外し部材55に対して単独の駆動部(モータ又はエアシリンダ等)が設けられている。糸外し部材55の駆動部は、ユニット制御部(制御部)15によって制御される。従って、糸外し部材55は、他の紡績ユニット2の糸外し部材55に対して独立して動作することができる。
【0050】
貯留量センサ56は、糸貯留ローラ51の糸貯留量を検知する。貯留量センサ56は、糸貯留ローラ51の外周面の適宜の位置に向かうように配置されている。貯留量センサ56は、この位置(検出位置)における糸5の有無を検出する。貯留量センサ56は、検出位置における糸5の有無を示す検出信号をユニット制御部15へ送信する。
【0051】
糸貯留装置23は、糸貯留ローラ51の外周面に糸5を一時的に貯留することができるので、糸5の一種のバッファとして機能する。これにより、紡績装置22における紡績速度と、巻取速度(パッケージ7に巻き取られる糸5の走行速度)と、が何らかの理由により一致しないことによる不具合(例えば、糸5の弛み等)を解消することができる。
【0052】
紡績装置22と糸貯留装置23との間には、糸監視装置47が設けられている。糸監視装置47は、糸貯留装置23よりも上流側(紡績装置22側)で糸5の状態を検知する。紡績装置22により生成された糸5は、糸貯留装置23により貯留される前に糸監視装置47を通過する。
【0053】
糸監視装置47は、走行する糸5の品質を光センサによって監視し、糸5に含まれる糸欠点を検出する。糸欠点としては、例えば、糸5の太さの異常、及び/又は、糸5に含まれる異物等がある。糸監視装置47は、糸5の糸欠点を検出した場合、ユニット制御部15へ糸欠点検出信号を送信する。糸監視装置47は、光センサの代わりに、例えば静電容量式のセンサを用いて糸5の品質を監視してもよい。糸監視装置47は、糸5のテンションの異常を糸欠点として検出するように構成されていてもよい。
【0054】
ユニット制御部15は、糸監視装置47の検出結果に基づいて、糸5を切断するか否かを判定する。糸5の切断は、ユニット制御部15が、紡績装置22による紡績を停止するように制御することにより実現される。糸5の切断は、ドラフト装置21によるドラフト(例えば、バックローラ対41の回転)を停止することによって実現されてもよい。ドラフト装置21から紡績装置22への繊維束4bの供給が停止される場合でも、紡績装置22による紡績は実質的に中断されることになる。紡績ユニット2にカッタを備え、ユニット制御部15がカッタにより糸5の切断を行ってもよい。カッタによって糸5が切断される場合でも、ユニット制御部15は、紡績装置22による紡績が実質的に中断するように制御する。
【0055】
捕捉装置24は、紡績装置22と巻取装置25の間において糸5が分断された場合に、パッケージ7側の糸5を吸引する。捕捉装置24は、糸貯留装置23の下流であって、巻取装置25の上流に配置されている。更に、捕捉装置24は、糸貯留装置23から巻取装置25までの糸道にある糸5を吸引可能な位置に配置されている。これに対し、サクションマウス84は、待機状態では、糸貯留装置23から巻取装置25までの糸道から離れた位置に配置されている。本実施形態では、捕捉装置24は糸道に対する距離が変化しないように固定されているが、多少移動可能であってもよい。例えば、捕捉装置24は、糸道に対して少しだけ接近及び退避する方向に移動可能であってもよい。言い換えると、捕捉装置24の移動可能長さは、サクションマウス84の移動可能長さよりは短い。後述の糸継台車80が当該紡績ユニット2に対して作業を行うとき、捕捉装置24は、糸継台車80が備える糸継装置82よりも上流側に位置する。捕捉装置24は、紡績装置22の下流かつ捕捉装置24の上流で糸5の分断が発生した場合に、パッケージ7側の糸5を、糸継装置82よりも上流側で捕捉することができる。
【0056】
糸5の分断が発生した場合、ユニット制御部15は、捕捉装置24の使用/不使用を決定し、当該決定に基づいて捕捉装置24を適宜制御する。捕捉装置24及びサクションマウス84は、パッケージ7側の糸5の捕捉のために択一的に選択されて用いられる。従って、捕捉装置24の使用はサクションマウス84の不使用を意味し、捕捉装置24の不使用はサクションマウス84の使用を意味する。
【0057】
捕捉装置24は、吸引管61と、糸捕捉検知センサ63と、を備える。吸引管61の先端(長手方向一端)に吸引口62が形成されている。吸引口62は、紡績ユニット2に形成される糸道に向かって開口している。捕捉装置24の吸引口62は、捕捉のための糸道に向かって開口するように設けられていてもよい。吸引管61は、配管等を介して、ブロア113等の負圧源に接続されている。これにより、吸引口62(吸引管61内)に吸引流(吸引力)を発生させることができる。捕捉装置24に図略のシャッターを設け、必要な場合にシャッターを開くことによって、吸引口62に吸引流を発生させるようにしてもよい。糸捕捉検知センサ63は、本実施形態では捕捉装置24の吸引口62のすぐ下流側に配置されている。糸捕捉検知センサ63は、捕捉装置24によるパッケージ7側の糸5の捕捉の成否を検出する。
【0058】
糸貯留装置23より下流側であって巻取装置25より上流側には、糸ガイド48と、ワキシング装置49と、が設けられている。
【0059】
糸ガイド48は、糸貯留ローラ51よりも下流側に配置されている。糸ガイド48は、糸5が糸道に沿うように、糸5に接触してガイドする。
【0060】
ワキシング装置49は、糸5に付与するワックスを保持する。ワキシング装置49は、糸貯留装置23と巻取装置25との間において走行中の糸5にワックス付けを行う。糸5にワックスを付与せずにパッケージ7を巻き取る場合は、ワキシング装置49の全体を紡績ユニット2から取り外してもよく、あるいは、ワキシング装置49からワックスのみを取り外してもよい。
【0061】
巻取装置25は、糸貯留装置23を通過した糸5を巻き取ってパッケージ7を形成する。巻取装置25は、糸貯留装置23よりも下流側に配置されている。
【0062】
巻取装置25は、クレードル装置71と、パッケージ回転装置72と、トラバース装置73と、を備える。
【0063】
クレードル装置71は、1対のクレードルアーム74を備える。クレードル装置71は、糸5を巻き取るためのボビン7a(ひいてはパッケージ7)を、1対のクレードルアーム74の間で回転可能に支持することができる。クレードルアーム74は、支軸75を中心として回転することができる。
【0064】
パッケージ回転装置72は、巻取ドラム76と、ドラム駆動モータ77と、を備える。巻取ドラム76は、ボビン7a又はパッケージ7の外周面に接触することができる。ドラム駆動モータ77の出力軸は、適宜の手段により巻取ドラム76に連結されている。ドラム駆動モータ77によって巻取ドラム76を駆動することにより、パッケージ7を巻取方向に回転させることができる。ドラム駆動モータ77は正逆回転可能に構成されている。従って、パッケージ7を巻取方向とは逆方向に回転させること(逆回転させること)が可能である。
【0065】
トラバース装置73は、トラバースガイド78と、トラバース駆動モータ79と、を備える。トラバースガイド78は、パッケージ7に巻き取られる糸5を引っ掛けることができる。トラバースガイド78は、パッケージ7の巻幅方向に往復動することができる。トラバース駆動モータ79の出力軸は、適宜の手段によりトラバースガイド78に連結されている。トラバースガイド78が糸5を保持した状態で、トラバース駆動モータ79によってトラバースガイド78を往復駆動することにより、パッケージ7に巻き取られる糸5をトラバースすることができる。
【0066】
巻取装置25は、トラバース装置73のトラバースガイド78を往復動させながら、パッケージ回転装置72の巻取ドラム76を回転させる。これにより、巻取装置25は、糸5をトラバースしつつ、糸5をパッケージ7に巻き取る。
【0067】
本実施形態において、各紡績ユニット2の単一の巻取ドラム76に対して、単一のドラム駆動モータ77が設けられている。また、各紡績ユニット2の単一のトラバースガイド78に対して、単一のトラバース駆動モータ79が設けられている。従って、巻取ドラム76及びトラバースガイド78は、他の紡績ユニット2の巻取ドラム76及びトラバースガイド78に対して独立して動作することができる。
【0068】
図1に示すように、紡績機1には、レール101が設けられている。レール101は、複数の紡績ユニット2が並ぶ方向に沿って延びるように配置されている。糸継台車80は、レール101の上を走行可能に構成されている。これにより、糸継台車80は、複数の紡績ユニット2に対して移動することができる。
【0069】
糸継台車80は、糸5の分断が発生した紡績ユニット2に対応する作業位置まで走行して、当該紡績ユニット2において糸継処理を行う。糸継台車80は、この糸継処理を、紡績ユニット2に備えられた捕捉装置24等と連携しながら、又は、当該糸継台車80が備える装置を用いて行う。
【0070】
糸継台車80は、走行車輪81と、糸継装置82と、サクションパイプ83と、サクションマウス84と、台車制御部85と、を備える。
【0071】
走行車輪81は、図略の駆動手段(例えばモータ)によって回転駆動可能に構成されている。走行車輪81が駆動されることによって、糸継台車80が複数の紡績ユニット2のそれぞれに対して走行することができる。
【0072】
サクションパイプ83は、パイプ状の部分を有する部材である。サクションパイプ83の先端には開口が形成されている。サクションパイプ83は適宜の負圧源(例えばブロア113)に接続されている。従って、サクションパイプ83の先端の開口に吸引流を発生させることができる。サクションパイプ83は回転可能に支持されている。サクションパイプ83が回転することにより、その先端の開口を、紡績装置22に対して接近させて、給糸部側の糸5(紡績装置22側の糸5)を捕捉することができる。
【0073】
サクションマウス84は、パイプ状の部分を有する部材である。サクションマウス84の先端には開口が形成されている。サクションマウス84はブロア113等の負圧源に接続されている。従って、サクションマウス84の先端の開口に吸引流を発生させることができる。サクションマウス84は回転可能に支持されている。サクションマウス84が回転することにより、その先端の開口を、巻取装置25に対して接近させて、パッケージ7側の糸5を捕捉することができる。
【0074】
糸継装置82は、糸継部82aと、カッタ82b,82cと、を備える。糸継装置82は、図略の糸寄せレバーを動作させることにより、給糸部側の糸5と、パッケージ7側の糸5と、を取り込むことができる。カッタ82bは、パッケージ7側の糸5を、糸継部82aと、捕捉装置24又はサクションマウス84と、の間で切断する。カッタ82cは、給糸部側の糸5を、糸継部82aと、サクションパイプ83と、の間で切断する。糸継部82aは、給糸部側の糸5と、パッケージ7側の糸5と、の糸継ぎを行う。本実施形態において、糸継装置82は、旋回空気流により糸端同士を撚り合わせるスプライサ装置である。糸継装置82は、前記のスプライサ装置に限定せず、例えば機械式のノッタ等とすることもできる。
【0075】
台車制御部85は、図示しないCPU、ROM、RAM等を有する公知のコンピュータとして構成されている。台車制御部85は、糸継台車80が備える各部の動作を制御することによって、糸継台車80が行う糸継処理を制御する。
【0076】
次に、図3から図7を参照して、捕捉装置24を使用して糸5の分断に対応する処理の流れを説明する。
【0077】
以下の説明では、糸欠点を検出して糸5を切断する状況を説明するが、紡績装置22又はドラフト装置21等で糸5に強いテンションが掛かる等して糸5が切れた場合でも同様の処理が行われる。また、以下では、ユニット制御部15は、適宜のタイミングで捕捉装置24の使用を決定したものとする。
【0078】
上述したように、ユニット制御部15は、糸監視装置47の検出結果に基づいて、糸5に糸欠点があるか否かを判定する(S101)。ユニット制御部15は、糸5に糸欠点があると判定した場合、紡績装置22による紡績を停止させて糸5を切断する(S102)。図4には、糸5が切断された直後の状態が示されている。
【0079】
ここで、捕捉装置24による糸5の捕捉の困難性について説明する。捕捉装置24は、糸貯留装置23と巻取装置25の間にある糸5を吸引して捕捉する。しかし、糸5には巻取りのテンションが掛かっているため、糸5が張った状態であり、糸5に吸引流が作用しにくい。そのため、糸5の捕捉に失敗することがある。これを解消するため、ユニット制御部15は、糸5のテンションを低減させる制御を行う。糸5のテンションを低減させる制御は、糸5が分断された後であって、パッケージ7側の糸5が捕捉装置24に捕捉される前の期間である捕捉待機期間に行われる。
【0080】
ユニット制御部15は、糸5を切断した後に、テンション低減タイミングか否かを判定する(S103)。糸5を切断した直後では、糸貯留装置23に多くの糸5が貯留されている。糸貯留装置23に貯留されている糸5(特に下流側にある糸5)には糸欠点は含まれていない。そのため、ユニット制御部15は、糸貯留装置23に貯留されている糸5が一定程度パッケージ7に巻き取られるまで、テンションを低減する制御の実行を待機する。ユニット制御部15は、例えば、糸5が無いことを貯留量センサ56が検出してから所定時間が経過した時にテンション低減タイミングになったと判定する。ただし、ユニット制御部15は、糸5を切断してから所定時間が経過した時、又は、糸5が無いことを貯留量センサ56が検出したときにテンション低減タイミングになったと判定してもよい。
【0081】
ユニット制御部15は、テンション低減タイミングになったと判定した場合、捕捉装置24に吸引流を発生させ(S104)、糸貯留ローラ51の回転と巻取装置25によるパッケージ7の巻取方向への回転とを停止させた後、巻取装置25によるパッケージ7の逆回転を開始させる(S105)。ステップS104とS105の処理は、同時に開始されてもよいし、何れの処理が先に開始されてもよい。糸貯留ローラ51の回転が停止している状態で、パッケージ7を逆回転させることにより、糸貯留装置23とパッケージ7の間の糸5のテンションが低減し、糸5に弛みが生じる。その結果、糸5が捕捉装置24の吸引流の影響を受け易くなり、捕捉装置24に捕捉され易くなる。なお、糸貯留ローラ51の回転の停止は必須ではなく、糸貯留ローラ51を回転させたままの状態で、パッケージ7を逆回転させてもよい。この場合の糸貯留ローラ51の回転速度は、それまでと同じ速度でもよいし、減速を続けてもよいし、減速後に低い速度を維持してもよい。図5には、糸5が捕捉装置24によって捕捉された状態が示されている。図5に示すように、本実施形態では、糸貯留装置23とパッケージ7の間で糸5が繋がっている状態で糸5の中途部が捕捉装置24に吸引されて捕捉される。
【0082】
その後、糸貯留ローラ51の回転を再開し、糸貯留ローラ51からの糸5の解舒を継続することにより、パッケージ7側の糸5の糸端が捕捉装置24に捕捉される。また、捕捉装置24が糸5を捕捉することにより、パッケージ7側の糸5が糸継装置82の近傍に位置する。パッケージ7側の糸5を糸継装置82の近傍に位置させるために、糸継装置82が糸道に対して前後方向に移動可能に設けられていてもよい。
【0083】
次に、ユニット制御部15は、逆回転量が閾値を超過したか否かを判定する(S106)。逆回転量を大きくすることにより、捕捉装置24が捕捉して保持する糸5が長くなる。その結果、捕捉装置24による糸5の保持が安定する、言い換えれば捕捉装置24から糸5が外れにくくなる。例えば、パッケージ7から解舒される糸5が20mm以上となる逆回転量の閾値が設定されていることが好ましく、30mm以上100mm以下となる逆回転量の閾値が設定されていることが更に好ましい。
【0084】
また、ユニット制御部15は、糸5の種類に応じて逆回転量の閾値を調整する。糸5が捕捉装置24に吸引されにくい種類である場合、逆回転量の閾値を大きくすることが好ましい。例えば、番手が小さい糸5(太い糸5)には、吸引流が作用しにくい。従って、ユニット制御部15は、例えば中央制御装置115から受信した糸5の番手に基づいて、逆回転量の閾値を調整する。また、糸5の番手に代えて又は加えて、糸5の素材に基づいて、逆回転量の閾値を調整してもよい。
【0085】
また、ユニット制御部15は、糸欠点の長さに応じて逆回転量の閾値を調整してもよい。例えば、糸欠点が長欠点である場合は、糸欠点をすべて除去するために、逆回転量の閾値を大きくすることが好ましい。そのため、ユニット制御部15は、糸欠点が長欠点である場合の逆回転量の閾値を、糸欠点が短欠点(例えば、スラブ又はネップ)である場合の逆回転量の閾値より大きくする。ユニット制御部15は、検出した糸欠点の長さが所定値以上の場合は長欠点と判定し、検出した糸欠点の長さが所定値未満の場合は短欠点と判定する。なお、本実施形態では、糸欠点の長さを2段階に区分するが、3段階以上に区分してもよい。
【0086】
ユニット制御部15は、パッケージ7を逆回転させた量が、逆回転量の閾値に到達したと判定した場合、パッケージ7の逆回転を停止させる(S107)。上述した逆回転量の閾値を決定する手法は、何れか1つのみを採用してもよいし、2つ以上の手法を組み合わせてもよい。なお、逆回転量の閾値を予め決定する処理は必須ではなく、省略してもよい。この場合、糸捕捉検知センサ63が糸5を検出するまでパッケージ7を逆回転させてもよい。
【0087】
次に、ユニット制御部15は、台車制御部85に指示して、サクションパイプ83により給糸部側の糸5の捕捉及び糸継装置82への案内を行わせる(S108)。具体的には、サクションパイプ83は回転することにより、その先端の開口を紡績装置22の近傍に近づける。その後、紡績装置22が紡績を再開することにより、サクションパイプ83は、紡績装置22が生成した糸5を吸引して捕捉する。その後、サクションパイプ83が糸5を捕捉しながら糸案内位置に移動することにより、給糸部側の糸5が糸継装置82の近傍に案内される。この一連の動作において、給糸部側の糸5は、糸貯留ローラ51に再び貯留されるようになる。図6には、パッケージ7側の糸5及び給糸部側の糸5が糸継装置82に案内された状態が示されている。
【0088】
次に、ユニット制御部15は、台車制御部85に指示して、糸継装置82によりパッケージ7側の糸5と、給糸部側の糸5と、の糸継ぎを行わせる(S109)。糸継ぎの詳細な処理は上述したとおりである。図7には、糸継ぎ中の状態が示されている。糸継ぎの完了後、ユニット制御部15は、パッケージ7への糸5の巻取りを再開させる(S110)。
【0089】
本実施形態では、パッケージ7を逆回転することにより、糸5のテンションを低減させて、捕捉装置24による糸5の捕捉を容易にする。そのため、捕捉待機期間が経過した後において、パッケージ7を逆回転させる必要はない。具体的には、ユニット制御部15は、パッケージ7の逆回転が停止した後であって、糸継装置82による糸継ぎが完了するまでの間は、パッケージ7の回転の停止を維持する(回転を禁止する)。なお、捕捉待機期間の経過後においてパッケージ7を逆回転させてもよい。
【0090】
これに対し、特許文献1には、サクションパイプ及びサクションマウスがスプライサに糸を案内した後に、パッケージを逆回転させることにより、パッケージ側の糸の張りを弱くすることが記載されている。つまり、本実施形態と特許文献1では、パッケージを逆回転させるタイミング及び目的が異なる。そもそも、特許文献1には、本実施形態の捕捉装置24に相当する装置が開示されていない。
【0091】
次に、図8を参照して、上記実施形態の変形例を説明する。また、上記実施形態で説明した事項は、矛盾がない限り本変形例にも適用可能である。
【0092】
上記実施形態では、パッケージ7を逆回転することにより、糸5のテンションを低減させる。これに対し、本変形例では、パッケージ7の巻取速度を糸貯留装置23の糸送り速度より遅くすることにより、糸5のテンションを低減させる。以下、詳細に説明する。
【0093】
図8のフローチャートのステップS201からS204は、図3のフローチャートのS101からS104と同じである。図8のフローチャートのステップS209からS211は、図3のフローチャートのS107からS110と同じである。従って、本変形例の独自の処理である、ステップS205からS208について説明する。
【0094】
ユニット制御部15は、捕捉装置24の吸引口62に吸引流を発生させるタイミングと同時又はその近傍において、糸外し部材55を動作させる(S205)。具体的には、糸外し部材55を退避位置から糸外し位置へ移動させる。これにより、糸掛け部材53から糸5が外れるため、巻取速度と糸送り速度の速度差に基づいて糸5に弛みを発生させることが可能となる。糸5が糸外し部材55を通過して捕捉装置24により吸引されたタイミングよりも後に、糸外し部材55は糸外し位置から退避位置へと移動する。
【0095】
次に、ユニット制御部15は、巻取速度が糸送り速度より遅くなるように調整する(S206)。これにより、糸貯留ローラ51とパッケージ7の間の糸5に弛みが発生する。本実施形態では、ユニット制御部15は、巻取速度をゼロにしてパッケージ7の回転を停止させるとともに、糸送り速度を紡績装置22による紡績中の糸送り速度よりも低下させる。糸送り速度を低下させる目的は、糸5の弛みを徐々に発生させるためである。ただし、本実施形態の速度調整は一例であり、これに限られない。例えば、ユニット制御部15は、糸送り速度を変化させなくてもよい。また、ユニット制御部15は、巻取速度をゼロにせずに低速で維持してもよい。
【0096】
ユニット制御部15は、巻取速度を糸送り速度より遅くした後に、所定時間が経過したか否かを判定する(S207)。所定時間は、例えば捕捉装置24が糸5を捕捉するまでに掛かる時間等に基づいて予め決定されている。ユニット制御部15は、所定時間が経過したと判定した場合、糸送り速度を上昇させる(S208)。これにより、糸貯留装置23に残った糸を短時間で解舒することができる。糸貯留装置23に残っていた糸5が解舒された後は、糸貯留ローラ51の回転は停止させてよい。
【0097】
以上に説明したように上記実施形態及び変形例の紡績機1は、紡績装置22と、糸貯留装置23と、巻取装置25と、捕捉装置24と、ユニット制御部15と、を備える。紡績装置22は、糸5を供給する。糸貯留装置23は、紡績装置22から糸5を引き出す。巻取装置25は、紡績装置22が供給した糸5を巻き取ってパッケージ7を形成する。捕捉装置24は、糸走行方向において糸貯留装置23と巻取装置25の間の位置であって、かつ、糸貯留装置23から巻取装置25までの糸道にある糸5を吸引可能な位置に配置されており、糸5が分断された場合にパッケージ7側の糸5を吸引して捕捉する。ユニット制御部15は、糸5が分断された後であって、パッケージ7側の糸5が捕捉装置24に捕捉される前の捕捉待機期間において、糸貯留装置23とパッケージ7の間の糸5のテンションを低減する制御を行う。
【0098】
これにより、糸貯留装置23とパッケージ7の間の糸5を捕捉装置24が捕捉するため、パッケージ7に貼り付いた糸5を捕捉する場合と比較して、パッケージ7側の糸5を捕捉し易い。更に、糸貯留装置23とパッケージ7の間の糸5のテンションが低減されるため、捕捉装置24の吸引流が糸5に作用し易くなる。その結果、高確率でパッケージ7側の糸5を捕捉できる。
【0099】
上記実施形態及び変形例の紡績機1において、糸貯留装置23は、糸貯留ローラ51と、糸掛け部材53と、を備える。糸貯留ローラ51は、紡績装置22より糸走行方向の下流であって、巻取装置25より糸走行方向の上流に配置され、糸5を外周面に巻き付けて一時的に貯留する。糸掛け部材53は、糸5と接触した糸5で糸貯留ローラ51と一体的に回転することにより糸貯留ローラ51の外周面に糸5を巻き付ける。
【0100】
これにより、糸貯留ローラ51に糸5が貯留されているため、糸5が分断された後にパッケージ7側の糸5の糸端が捕捉装置24を通過するまでの時間を確保できる。そのため、糸5のテンションを低減する制御を容易に行うことができる。
【0101】
上記実施形態及び変形例の紡績機1において、ユニット制御部15は、捕捉待機期間において、パッケージ7を糸5の巻取方向に対して逆回転させることにより、糸貯留装置23とパッケージ7の間の糸5のテンションを低減する。
【0102】
これにより、簡単な処理により糸5のテンションを低減できる。また、パッケージ7の逆回転量を変化させるだけで、テンションを低減させる程度及び/又は糸5を弛ませる程度を調整できる。
【0103】
上記実施形態の紡績機1において、ユニット制御部15は、捕捉待機期間において、20mm以上の糸5がパッケージ7から解舒されるように、パッケージ7を逆回転させる。
【0104】
これにより、糸5を大きく弛ませることができるので、捕捉装置24の吸引流を糸5に作用させ易くなる。
【0105】
上記実施形態の紡績機1において、ユニット制御部15は、パッケージ7の逆回転量を糸5の種類に応じて調整する。
【0106】
これにより、捕捉装置24により吸引されにくい種類の糸5であっても、逆回転量を多くすることにより、捕捉装置24は高確率でパッケージ7側の糸5を捕捉できる。
【0107】
上記実施形態の紡績機1は、糸5の状態を監視する糸監視装置47を備える。ユニット制御部15は、糸監視装置47が検出した糸欠点が長欠点である場合は、糸監視装置47が検出した糸欠点が短欠点である場合よりも、パッケージ7の逆回転量を多くする。
【0108】
これにより、糸欠点が長い場合であっても、逆回転量を多くすることにより、糸5から糸欠点を除去することができる。
【0109】
上記実施形態の紡績機1は、糸5に作用して糸掛け部材53から糸5を外す糸外し部材55を更に備える。ユニット制御部15は、捕捉待機期間において、糸外し部材55により糸掛け部材53から糸5を外した状態で、パッケージ7の巻取速度を糸貯留ローラ51の糸送り速度よりも遅くすることにより、糸貯留装置23とパッケージ7の間の糸5のテンションを低減する。
【0110】
これにより、糸貯留装置23を用いて糸5のテンションを低減させることができる。
【0111】
上記変形例の紡績機1は、糸外し部材55の代わりに、糸掛け部材53による糸5への作用を無効化する無効化手段を備えていてもよい。無効化手段は、糸掛け部材53に接触することによって糸掛け部材53の回転を停止するストッパであってもよい。ストッパは、伸縮可能な部材であり、糸掛け部材53の回転を停止するときに伸びて糸掛け部材53に接触して、糸掛け部材53の回転を停止させる。無効化手段は、糸掛け部材53の回転を糸貯留ローラ51の回転とは独立した状態で停止させることが可能であって、糸掛け部材53を糸5から退避した位置で停止させるモータであってもよい。ユニット制御部15は、捕捉待機期間において、糸外し部材55により糸掛け部材53から糸5を外した状態で、パッケージ7の巻取速度を糸貯留ローラ51の糸送り速度よりも遅くすることにより、糸貯留装置23とパッケージ7の間の糸5のテンションを低減する。
【0112】
これにより、糸貯留装置23を用いて糸5のテンションを低減させることができる。
【0113】
上記変形例の紡績機1において、ユニット制御部15は、パッケージ7の巻取速度を糸貯留ローラ51の糸送り速度よりも遅くした後に、糸貯留ローラ51の糸送り速度を上昇させる。
【0114】
これにより、巻取装置25を用いて糸5のテンションを低減させつつ、糸貯留ローラ51の残糸を短時間で除去することができる。
【0115】
上記実施形態及び変形例の紡績機1は、給糸部側の糸5とパッケージ7側の糸5とを糸継ぎする糸継装置82を備える。ユニット制御部15は、捕捉装置24によるパッケージ7側の糸5の捕捉とパッケージ7の回転の停止が完了した後であって、糸継装置82による糸継ぎが完了するまでの間は、パッケージ7の停止を維持する。
【0116】
これにより、糸継ぎの直前にパッケージ7を逆回転させる場合と比較して、糸継ぎに掛かる時間を短くすることができる。
【0117】
上記実施形態及び変形例の実施形態の紡績機1において、捕捉装置24は、糸貯留装置23とパッケージ7の間において糸5が繋がっている状態で糸5の中途部を吸引して捕捉する。
【0118】
これにより捕捉装置24は、糸端がフリーになる前に糸5を捕捉できるので、高確率でパッケージ7側の糸5を捕捉できる。
【0119】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0120】
紡績ユニット2において、糸貯留ローラ51と捕捉装置24の吸引口62の間に糸ガイドが設けられていてもよい。吸引口62は、当該糸ガイドと糸ガイド48との間で開口するように設けられている。この場合、テンションを低減させる制御を行うことにより、当該糸ガイドと糸ガイド48との間で糸5の弛みが発生する。
【0121】
紡績機1は捕捉装置24及びサクションマウス84を備えるが、サクションマウス84を省略することもできる。紡績機1は、糸継台車80を備えずに、各紡績ユニット2が糸継処理に必要な装置を備えていてもよい。
【0122】
上記実施形態で示したフローチャートは一例であり、一部の処理を省略したり、一部の処理の内容を変更したり、新たな処理を追加したりしてもよい。例えば、捕捉装置24に吸引流を発生させる処理は、テンション低減タイミングの前であってもよい。この場合、糸貯留装置23と巻取装置25の間の糸5のテンションが低減して弛みが生じた直後に捕捉装置24が糸5を吸引して捕捉することになる。
【0123】
上記実施形態においてユニット制御部15が行うと説明した処理の一部を中央制御装置115又は台車制御部85が行ってもよい。
【0124】
紡績機1は、捕捉装置24による糸5の吸引を補助する補助装置を更に備えてもよい。例えば、補助装置は、捕捉装置24の吸引口62に対向する位置に配置される。補助装置は、気体の噴射により捕捉装置24の吸引口62に向けて糸5を押し込むか、又は、糸5に接触して糸5を押圧することにより捕捉装置24の吸引口62に向けて糸を押し込む。
【0125】
上記実施形態では、糸貯留装置23により紡績装置22から糸5を引き出しているが、糸貯留装置23の代わりに紡績装置22の下流側に引出装置としてのデリベリローラ対(引出装置)を設け、デリベリローラ対により紡績装置22から糸5を引き出すようにしてもよい。この場合、デリベリローラ対よりも下流側に糸貯留装置23及び/又は機械式のコンペンセーターが設けられていてもよい。
【0126】
紡績機1では、機台高さ方向において、上側で供給された糸5が下側で巻き取られるように各装置が配置されていた。しかし、下側で供給された糸5が上側で巻き取られるように各装置が配置されていてもよい。
【0127】
本発明は、紡績機に限られず、例えば自動ワインダ等の他の糸巻取機にも適用できる。本発明を自動ワインダに適用する場合、給糸部は、給糸ボビンがセットされて給糸ボビンから糸を引き出す部分である。
【符号の説明】
【0128】
1 紡績機
15 ユニット制御部(制御部)
22 紡績装置(給糸部)
23 糸貯留装置
24 捕捉装置
25 巻取装置
51 糸貯留ローラ
53 糸掛け部材
55 糸外し部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8