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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142149
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂製造システム
(51)【国際特許分類】
   B29B 15/10 20060101AFI20230928BHJP
   B05C 3/08 20060101ALI20230928BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
B29B15/10
B05C3/08
B29K105:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048878
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000120010
【氏名又は名称】宇部エクシモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏和
(72)【発明者】
【氏名】堀本 貴敏
(72)【発明者】
【氏名】近藤 尚之
【テーマコード(参考)】
4F040
4F072
【Fターム(参考)】
4F040AA20
4F040AB01
4F040BA42
4F040CC10
4F040CC11
4F040DA07
4F040DA20
4F040DB24
4F072AA04
4F072AA07
4F072AB09
4F072AD38
4F072AH32
4F072AH37
4F072AJ24
4F072AJ34
4F072AL02
4F072AL17
(57)【要約】
【課題】生産安定性が高く、品質の良好な繊維強化樹脂の製造を実現可能な技術を提供すること。
【解決手段】繊維に未硬化熱硬化性樹脂を含浸させるための含浸槽と、前記未硬化熱硬化性樹脂を、前記含浸槽の底部から排出させて、再度、前記含浸槽へ供給する第1循環機構と、前記未硬化熱硬化性樹脂を、前記含浸槽の液面付近から排出させて、再度、前記含浸槽へ供給する第2循環機構と、を備える、繊維強化樹脂製造システムを提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維に未硬化熱硬化性樹脂を含浸させるための含浸槽と、
前記未硬化熱硬化性樹脂を、前記含浸槽の底部から排出させて、再度、前記含浸槽へ供給する第1循環機構と、
前記未硬化熱硬化性樹脂を、前記含浸槽の液面付近から排出させて、再度、前記含浸槽へ供給する第2循環機構と、
を備える、繊維強化樹脂製造システム。
【請求項2】
前記第1循環機構及び前記第2循環機構によって前記含浸槽から排出された前記未硬化熱硬化性樹脂を保持するリザーブタンクを備える、請求項1に記載の繊維強化樹脂製造システム。
【請求項3】
前記第1循環機構による循環樹脂量及び/又は前記第2循環機構による循環樹脂量を制御する制御部を備える、請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂製造システム。
【請求項4】
前記制御部は、[前記リザーブタンクから排出される樹脂送液量]>[前記第1循環機構によって前記含浸槽から排出される樹脂送液量]>[前記第2循環機構によって前記含浸槽から排出される樹脂送液量]となるように、循環樹脂量を制御する、請求項3に記載の繊維強化樹脂製造システム。
【請求項5】
前記未硬化熱硬化性樹脂の粘度を調整する粘度調整部を備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、繊維強化樹脂製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂を繊維で強化した繊維強化樹脂は、軽量でありながら、強度、弾性率等に優れるため、土木・建築分野、梱包・包装分野、自動車、鉄道、航空機等の輸送分野等、幅広い様々な分野で用いられている。繊維強化樹脂は、含浸樹脂を溜めた含浸槽で、ガラス繊維等の繊維の中に樹脂を含浸させた後、余分な樹脂成分を除去して硬化することにより製造される。繊維強化樹脂の製造技術についても、様々な開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1では、樹脂浸入槽内に複数のガイドバーを配置し、強化繊維束を緊張状態にて複数のガイドバー間を連れ回すことで、強化繊維束中の気泡を除去しつつ強化繊維束のフィラメント間に未硬化熱硬化性樹脂を浸入させて未硬化熱硬化性樹脂浸入強化繊維を得、これを、引抜成形用金型内を通過しつつ加熱・硬化して連続的に引き抜くことで、気泡の残存が殆どなく、且つ、強度に優れた引抜成形品を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-178828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、繊維強化樹脂の製造技術については、様々な開発が進められつつあるが、まだまだ課題は残されていた。例えば、含浸槽内では時間の経過と共に含浸樹脂に含まれる比重の重い成分が徐々に沈降し、含浸樹脂の消費に合わせて含浸樹脂を追加で投入しても沈降成分比率は増加する。そのため、繊維に、樹脂未含浸部分ができ、曲げ強力や圧縮強力低下等の物性変化を引き起こすことがある。また、例えば2週間以上の長期間の生産では含浸槽の底で樹脂が固まり、使用後の清掃などを困難としていた。更に、含浸槽内における溶剤成分が1日当たり7%以上の揮発することもあり、溶媒の高濃度化も進み、長期間における安定生産が困難となっていた。
【0006】
そこで、本技術では、生産安定性が高く、品質の良好な繊維強化樹脂の製造を実現可能な技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本技術では、まず、繊維に未硬化熱硬化性樹脂を含浸させるための含浸槽と、
前記未硬化熱硬化性樹脂を、前記含浸槽の底部から排出させて、再度、前記含浸槽へ供給する第1循環機構と、
前記未硬化熱硬化性樹脂を、前記含浸槽の液面付近から排出させて、再度、前記含浸槽へ供給する第2循環機構と、
を備える、繊維強化樹脂製造システムを提供する。
本技術に係る繊維強化樹脂製造システムには、前記第1循環機構による循環樹脂量及び/又は前記第2循環機構による循環樹脂量を制御する制御部を備えることができる。
本技術に係る繊維強化樹脂製造システムには、前記第1循環機構及び前記第2循環機構によって前記含浸槽から排出された前記未硬化熱硬化性樹脂を保持するリザーブタンクを備えることができる。
本技術に係る繊維強化樹脂製造システムの前記制御部は、[前記リザーブタンクから排出される樹脂送液量]>[前記第1循環機構によって前記含浸槽から排出される樹脂送液量]>[前記第2循環機構によって前記含浸槽から排出される樹脂送液量]となるように、循環樹脂量を制御することができる。
本技術に係る繊維強化樹脂製造システムには、前記未硬化熱硬化性樹脂の粘度を調整する粘度調整部を備えることができる。
【発明の効果】
【0008】
本技術によれば、生産安定性が高く、品質の良好な繊維強化樹脂の製造が実現可能となる。
なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本技術に係る繊維強化樹脂製造システム1の第1実施形態を示す模式概念図である。
図2】本技術に係る繊維強化樹脂製造システム1の第2実施形態を示す模式概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本技術を実施するための好適な形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0011】
<1.繊維強化樹脂製造システム1>
図1は、本技術に係る繊維強化樹脂製造システム1の第1実施形態を示す模式概念図である。本技術に係る繊維強化樹脂製造システム1は、含浸槽11と、第1循環機構と、第2循環機構と、を備える。また、本技術に係る繊維強化樹脂製造システム1には、必要に応じて、リザーブタンク14、制御部、粘度調整部16等を備えることができる。以下、各部等の詳細について、説明する。
【0012】
(1)含浸槽11
含浸槽11は、繊維に含浸させる未硬化熱硬化性樹脂を充填する槽である。この含浸槽11の中で、繊維への未硬化熱硬化性樹脂の含浸が行われる。
【0013】
含浸槽11の形態は、本技術の効果を損なわない限り、自由に設計することができる。例えば、円筒体、断面が多角(三角、四角或いはそれ以上)の多角筒体、円錐体、断面が多角(三角、四角或いはそれ以上)の多角錐体、或いはこれらを1種又は2種以上組み合わせた形態など、繊維への未硬化熱硬化性樹脂の含浸が行うことができれば、適宜自由に設計することができる。
【0014】
含浸槽11の材質も特に限定されず、用いる未硬化熱硬化性樹脂に含まれる成分の種類等に応じて、自由な材質で含浸槽11を形成することができる。本技術では、耐防錆性や耐薬品性等の耐久性の観点からは、例えば、SUS304等のステンレスで含浸槽11を形成することが好ましい。
【0015】
含浸槽11の底部には、後述する第1循環機構の流路L1に未硬化熱硬化性樹脂を排出するための第1排出部111を有する。第1排出部111を備えることにより、含浸槽11に、未硬化熱硬化性樹脂に含まれる比重の重い成分が沈殿することを防止することができる。
【0016】
第1排出部111の孔の形態は特に限定されず、後述する第1循環機構の流路L1の形態に応じて、自由に設計することができる。例えば、円形、楕円形等の形態を採用することができる。また、第1排出部111の孔の大きさも特に限定されず、後述する第1循環機構の流路L1の形態に応じて、自由に設計することができる。本技術では、第1排出部111の孔の径は、例えば10~80mm、好ましくは20~60mmである。
【0017】
第1排出部111には、フィルタを備えることが好ましい。フィルタを備えることで、繊維の屑、異物等が含浸槽11から第1循環機構へ流れ出るのを防止することができ、第1循環機構の第1ポンプP1を、繊維や異物から保護することができる。フィルタとしては、例えば、網等が挙げられ、網の材質としては、例えばステンレスが挙げられる。
【0018】
含浸槽11の液面付近の側壁には、後述する第2循環機構の第2流路L2に未硬化熱硬化性樹脂を排出するための第2排出部112を有する。第2排出部112を備えることで、未硬化熱硬化性樹脂の液面が第2排出部112より上に上昇した場合に、第2排出部112から未硬化熱硬化性樹脂を排出することができる。その結果、含浸槽11からの未硬化熱硬化性樹脂のオーバーフローを防止できると共に、未硬化熱硬化性樹脂を送液するためのポンプの送液量の変動やバラつきにより、含浸槽11内の未硬化熱硬化性樹脂量の変動を抑制することができ、ひいては、繊維への未硬化熱硬化性樹脂の含浸量の変動も抑制することができる。
【0019】
第2排出部112の孔の形態も特に限定されず、後述する第2循環機構の第2流路L2の形態に応じて、自由に設計することができる。例えば、円形、楕円形等の形態を採用することができる。また、第2排出部112の孔の大きさも特に限定されず、後述する第2循環機構の第2流路L2の形態に応じて、自由に設計することができる。本技術では、第2排出部112の孔の径は、例えば10~80mm、好ましくは20~60mmである。
【0020】
第2排出部112には、フィルタを備えることが好ましい。フィルタを備えることで、繊維の屑、異物等が含浸槽11から第2循環機構へ流れ出るのを防止することができ、第2循環機構の第2ポンプP2を、繊維や異物から保護することができる。フィルタとしては、例えば、網等が挙げられ、網の材質としては、例えば、ステンレスが挙げられる。
【0021】
含浸槽11は、第1排出部111に向かって傾斜を備えることが好ましい。傾斜を備えることで、含浸槽11に、未硬化熱硬化性樹脂に含まれる比重の重い成分が沈殿することを防止し、また、未硬化樹脂の循環を促すことができる。
【0022】
傾斜の角度(θ)は特に限定されず、用いる未硬化熱硬化性樹脂に含まれる成分の種類や、繊維強化樹脂製造システム1の構造等に応じて、自由に設計することができる。本技術では、例えば、傾斜の角度(θ)の下限値は、例えば、10°以上、好ましくは15°以上である。底部に設ける傾斜の角度(θ)を10°以上にすることで、未硬化熱硬化性樹脂に含まれる比重の重い成分が沈殿することをより確実に防止し、また、未硬化熱硬化性樹脂の循環も起きやすくなるため、循環されずに溜まってしまう沈殿物の量を減少させることができる。
【0023】
また、傾斜の角度(θ)の上限値は、例えば、60°以下、好ましくは50°以下である。とすることで、底部に設ける傾斜の角度(θ)を60°以下にすることで、繊維を含浸槽11のより深い部分まで移動させ、含浸槽11内での繊維の移動距離を長くすることができる。より詳しくは、繊維は、抵抗が大きくて引取機で引けなかったり、毛羽が出やすかったりすることで、鋭角に曲げることが難しいため、含浸槽11の底部が鋭角に曲がっていると、繊維を含浸槽11の浅い部分でしか移動できず、含浸槽11内での繊維の移動距離が短くなってしまう。そのため、含浸槽11内での繊維の移動距離を長くするためには、含浸槽11内の未硬化熱硬化性樹脂の容量を多くする必要があった。しかし、傾斜の角度(θ)を60°以下とすることで、含浸槽11内の未硬化熱硬化性樹脂の容量を多くしなくても、含浸槽11内での繊維の移動距離を長くすることができ、その結果、十分な量の未硬化熱硬化性樹脂を繊維に含浸させることができる。
【0024】
含浸槽11には、未硬化熱硬化性樹脂の液面を検知するセンサーを備えることができる。例えば、未硬化熱硬化性樹脂の液面が第2排出部112より下に下降した場合に、アラートが発せられるようにすれば、含浸槽11内の未硬化熱硬化性樹脂の量を一定に保つことができる。
【0025】
(2)第1循環機構
第1循環機構は、未硬化熱硬化性樹脂を、含浸槽11の第1排出部111から排出させて、再度、含浸槽11へ供給する機構である。第1循環機構を備えることにより、含浸槽11に、未硬化熱硬化性樹脂に含まれる比重の重い成分が沈殿することを防止することができる。第1循環機構は、第1流路L1と、第1ポンプP1と、を有する。
【0026】
第1流路L1としては、未硬化熱硬化性樹脂が通流できればよく、例えば、ホース等を用いることができる。また、第1流路L1の内径も特に限定されず、含浸槽11の第1排出部111等の形態に応じて、自由に設計することができる。本技術では、第1流路L1の内径は、例えば10~80mm、好ましくは20~60mmである。
【0027】
第1ポンプP1としては、未硬化熱硬化性樹脂の送液を行うことができれば、一般的なポンプを自由に採用することができる。例えば、ダイヤフラムポンプ等を用いることができる。
【0028】
第1循環機構は、含浸槽11の第1排出部111からの送液量が、例えば2~10L/min、好ましくは3~7L/minとなるように作動することが好ましい。含浸槽11の第1排出部111からの送液量をこの範囲で制御することにより、含浸槽11に、未硬化熱硬化性樹脂に含まれる比重の重い成分が沈殿することをより確実に防止することができる。
【0029】
(3)第2循環機構
第2循環機構は、未硬化熱硬化性樹脂を、含浸槽11の第2排出部112から排出させて、再度、含浸槽11へ供給する機構である。第2循環機構を備えることにより、未硬化熱硬化性樹脂の液面が第2排出部112より上に上昇した場合に、第2排出部112から未硬化熱硬化性樹脂を排出することができる。その結果、含浸槽11からの未硬化熱硬化性樹脂のオーバーフローを防止できると共に、未硬化熱硬化性樹脂を送液するためのポンプの送液量の変動やバラつきにより、含浸槽11内の未硬化熱硬化性樹脂量の変動を抑制することができ、ひいては、繊維への未硬化熱硬化性樹脂の含浸量の変動も抑制することができる。第2循環機構は、第2流路L2と、第2ポンプP2と、を有する。
【0030】
第2流路L2としては、未硬化熱硬化性樹脂が通流できればよく、例えば、ホース等を用いることができる。また、第2流路L2の内径も特に限定されず、含浸槽11の第2排出部112等の形態に応じて、自由に設計することができる。本技術では、第2流路L2の内径は、例えば10~80mm、好ましくは20~60mmである。
【0031】
なお、第1流路L1、第2流路L2、及び後述する第3流路L3は、同じ種類の流路を用いてもよいし、それぞれ異なる種類の流路を用いることもできる。また、第1流路L1、第2流路L2、及び後述する第3流路L3の材質も特に限定されず、例えばフッ素樹脂で形成することができる。
【0032】
第2ポンプP2としては、未硬化熱硬化性樹脂の送液を行うことができれば、一般的なポンプを自由に採用することができる。例えば、ダイヤフラムポンプ等を用いることができる。第1ポンプP1、第2ポンプP2、及び後述する第3ポンプP3は、同じ種類のポンプを用いてもよいし、それぞれ異なる種類のポンプを用いることもできる。
【0033】
第2循環機構は、含浸槽11の第2排出部112からの送液量が、例えば0.1~5L/min、好ましくは0.5~3L/minとなるように作動することが好ましい。含浸槽11の第2排出部112からの送液量をこの範囲で制御することにより、未硬化熱硬化性樹脂を送液するためのポンプの送液量の変動やバラつきによる、含浸槽11内の未硬化熱硬化性樹脂量の変動を抑制することができる。その結果、繊維への未硬化熱硬化性樹脂の含浸量の変動も抑制することができる。
【0034】
(4)リザーブタンク14
本技術に係る繊維強化樹脂製造システム1には、第1循環機構及び第2循環機構によって含浸槽11から排出された未硬化熱硬化性樹脂を保持するリザーブタンク14を備えることができる。リザーブタンク14には、含浸槽11内に供給する未硬化熱硬化性樹脂を貯蔵することもできる。
【0035】
なお、本技術に係る繊維強化樹脂製造システム1おいて、リザーブタンク14は必須ではなく、例えば、図示しないが、外部の貯蔵タンクに貯蔵された未硬化熱硬化性樹脂を、直接含浸槽11へ供給することもできる。
【0036】
第1循環機構及び第2循環機構によって含浸槽11から排出された未硬化熱硬化性樹脂は、リザーブタンク14を経由せずに、含浸槽11へ戻すことも可能である。例えば、図2に示す第2実施形態に係る繊維強化樹脂製造システム1のように、リザーブタンク14に貯蔵された未硬化熱硬化性樹脂を含浸槽11へ供給するための第3流路L3に、第1循環機構の第1流路L1と第2循環機構の第2流路L2とを合流させて、含浸槽11へ戻す構成とすることもきる。
【0037】
また、図示しないが、例えば、第1循環機構の第1流路L1と第2循環機構の第2流路L2は、リザーブタンク14からの第3流路L3に合流させずに、それぞれを直接、含浸槽11へ接続した構成にすることで、第1循環機構及び第2循環機構によって含浸槽11から排出された未硬化熱硬化性樹脂を、直接、含浸槽11へ戻すことも可能である。
【0038】
リザーブタンク14の形態は、本技術の効果を損なわない限り、自由に設計することができる。例えば、円筒体、断面が多角(三角、四角或いはそれ以上)の多角筒体、円錐体、断面が多角(三角、四角或いはそれ以上)の多角錐体、或いはこれらを1種又は2種以上組み合わせた形態など、未硬化熱硬化性樹脂の貯蔵を行うことができれば、適宜自由に設計することができる。
【0039】
リザーブタンク14の材質も特に限定されず、用いる未硬化熱硬化性樹脂に含まれる成分の種類等に応じて、自由な材質でリザーブタンク14を形成することができる。本技術では、耐防錆性や耐薬品性等の耐久性の観点からは、例えば、SUS304等のステンレスでリザーブタンク14を形成することが好ましい。
【0040】
リザーブタンク14から第3流路L3への排出部141は、リザーブタンク14の底部に設けることが好ましい。排出部141をリザーブタンク14の底部に設けることで、未硬化熱硬化性樹脂に含まれる比重の重い成分が沈殿することを防止することができる。
【0041】
また、リザーブタンク14は、排出部141に向かって傾斜を備えることが好ましい。傾斜を備えることで、リザーブタンク14に、未硬化熱硬化性樹脂に含まれる比重の重い成分が沈殿することを防止し、また、未硬化樹脂の循環を促すことができる。
【0042】
傾斜の角度は特に限定されず、用いる未硬化熱硬化性樹脂に含まれる成分の種類や、繊維強化樹脂製造システム1の構造等に応じて、自由に設計することができる。リザーブタンク14に設ける傾斜の好ましい角度は、前述した含浸槽11の傾斜の角度(θ)と同一であるため、ここでは説明を割愛する。
【0043】
リザーブタンク14の排出部141からの送液量は、本技術の効果を損なわない限り、自由に設定することができる。例えば3~15L/min、好ましくは4~10L/minとなるように設定することが好ましい。リザーブタンク14の排出部141からの送液量をこの範囲で制御することにより、含浸槽11内の未硬化熱硬化性樹脂量の変動を抑制することができる。その結果、繊維への未硬化熱硬化性樹脂の含浸量の変動も抑制することができる。
【0044】
(5)制御部
本技術に係る繊維強化樹脂製造システム1には、第1循環機構による循環樹脂量及び/又は第2循環機構による循環樹脂量を制御する制御部を備えることができる。制御部は、リザーブタンク14に貯蔵された未硬化熱硬化性樹脂を含浸槽11へ供給するための第3流路L3に備えられた第3ポンプP3の制御を行うこともできる。
【0045】
なお、本技術に係る繊維強化樹脂製造システム1おいて、制御部は必須ではなく、例えば、各ポンプの動作をユーザーが制御することもできる。
【0046】
また、制御部は、所定のプログラムに従って、前記ポンプ群(第1ポンプP1、第2ポンプP2、第3ポンプP3)の動作を自動的に制御することができる。例えば、各流路(第1流路L1、第2流路L2、及び第3流路L3)、含浸槽11の第1排出部111、第2排出部112、及びリザーブタンク14の排出部141等に、流量計を備え、当該流量計で測定された測定値を基に、前記ポンプ群を、それぞれ制御することもできる。
【0047】
制御部における具体的な制御方法は、繊維強化樹脂製造システム1の実際の構成等によって、自由に設定することができる。例えば、図1に示す第1実施形態に係る繊維強化樹脂製造システム1の場合は、[リザーブタンク14から排出される樹脂送液量]>[第1循環機構によって含浸槽11から排出される樹脂送液量]>[第2循環機構によって含浸槽11から排出される樹脂送液量]となるように、循環樹脂量を制御することが好ましい。即ち、排出部141の送液量>第1排出部111の送液量>第2排出部112の送液量となるように、前記ポンプ群を、それぞれ制御することが好ましい。このように制御することで、後述する実施例に示す通り、含浸槽11内の未硬化熱硬化性樹脂量の変動を抑制することができる。その結果、繊維への未硬化熱硬化性樹脂の含浸量の変動も抑制することができる。
【0048】
また、図2に示す第2実施形態に係る繊維強化樹脂製造システム1の場合は、[第1循環機構によって含浸槽から排出される樹脂送液量]>[第2循環機構によって含浸槽から排出される樹脂送液量]、[リザーブタンクから排出される樹脂送液量]=未硬化熱硬化性樹脂の消費量となるように、循環樹脂量を制御することが好ましい。即ち、第1排出部111の送液量>第2排出部112の送液量、排出部141の送液量=未硬化熱硬化性樹脂の消費量となるように、前記ポンプ群を、それぞれ制御することが好ましい。このように制御することで、後述する実施例に示す通り、含浸槽11内の未硬化熱硬化性樹脂量の変動を抑制することができる。その結果、繊維への未硬化熱硬化性樹脂の含浸量の変動も抑制することができる。
【0049】
(6)粘度調整部16
本技術に係る繊維強化樹脂製造システム1には、未硬化熱硬化性樹脂の粘度を調整する粘度調整部16を備えることができる。粘度調整部16を備えることで、含浸槽11内における溶剤成分の揮発による溶媒の高濃度化を防止することができ、生産安定性を向上させることができる。
【0050】
粘度調整部16は、未硬化熱硬化性樹脂の粘度の調整ができれば、その構成は特に限定されないが、例えば、粘度測定部161と、溶剤供給部162と、で構成することができる。より具体的には、例えば、リザーブタンク14に貯蔵された未硬化熱硬化性樹脂を含浸槽11へ供給するための第3流路L3に粘度測定部161を備えて、連続的または非連続的に第3流路L3を通流する未硬化熱硬化性樹脂の粘度を測定し、測定された粘度の値が予め設定された閾値を超えたら、リザーブタンク14に備えられた溶剤供給部162から溶剤が供給されるように構成することができる。
【0051】
また、図示しないが、含浸槽11内における未硬化熱硬化性樹脂の粘度を測定し、測定された粘度の値が予め設定された閾値を超えたら、溶剤が含浸槽11に供給されるように構成してもよい。なお、未硬化熱硬化性樹脂の粘度の測定は、第3流路L3や含浸槽11で行うことに限らず、第1循環機構の第1流路L1、第2循環機構の第2流路L2や、リザーブタンク14で行うこともできる。また、溶剤の供給も、リザーブタンク14や含浸槽11で行うことの限らず、第1循環機構の第1流路L1、第2循環機構の第2流路L2や、第3流路L3で行うこともできる。
【0052】
未硬化熱硬化性樹脂の粘度は、未硬化熱硬化性樹脂の種類や繊維の種類に応じて、自由に設定することができる。本技術では、未硬化熱硬化性樹脂の粘度は、例えば100~2000mPa・s、好ましくは400~800mPa・sである。未硬化熱硬化性樹脂の粘度をこの範囲に制御することにより、生産安定性を向上することができる。
【0053】
(7)繊維
本技術に係る繊維強化樹脂製造システム1を用いて繊維強化樹脂を製造する際に、用いることができる繊維は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されない。例えば、アラミド繊維、ガラス繊維、アスベスト繊維、炭素繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維、チラノ繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維等の無機繊維;高強度ポリエチレン繊維、ポリアセタール繊維、脂肪族又は芳香族ポリアミド繊維、ポリアクリレート繊維、フッ素繊維、ボロン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、アラミド繊維、PBO(ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維等の有機繊維等が挙げられ、これらの繊維は、単独又は二種以上組み合わせて用いることができる。
【0054】
また、繊維の本数も、本技術の効果を損なわない限り特に限定されない。本技術では、用いる繊維の本数としては、例えば5~600本、好ましくは10~400本である。
【0055】
(8)熱硬化性樹脂
本技術に係る繊維強化樹脂製造システム1を用いて繊維強化樹脂を製造する際に、用いることができる熱硬化性樹脂は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されない。例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられ、これらの熱硬化性樹脂は、単独又は二種以上組み合わせて用いることができる。また、必要に応じて硬化剤、増粘剤等の添加剤を添加することもできる。
【実施例0056】
以下、実施例に基づいて本技術を更に詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施例は、本技術の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0057】
<実験例1>
実験例1では、繊維強化樹脂の製造方法の違いによる含浸槽における沈殿物の有無、含浸槽における未硬化熱硬化性樹脂量の変動、繊維への未硬化熱硬化性樹脂の含浸性について、検証を行った。なお、本実験例1では、繊維としてガラス繊維を、熱硬化性樹脂として昭和電工株式会社製リゴラックPL-110を用いた。
【0058】
1.繊維への未硬化熱硬化性樹脂の含浸
[実施例1]
含浸槽の底部に、第1排出部を設け、底抜き用のホースを取り付け、ポンプで未硬化熱硬化性樹脂をリザーブタンクへ送れるようにした。同様に、リザーブタンクの底部に排出部を設け、底抜き用のホースを取り付け、ポンプで未硬化熱硬化性樹脂を含浸槽へ送れるようにして、第1循環機構を構築した。次に、含浸槽の側壁上部に、第2排出部を設け、オーバーフロー用のホースポンプで未硬化熱硬化性樹脂をリザーブタンクへ送れるようにして、第2循環機構を構築した。
【0059】
次に、[リザーブタンクから排出される樹脂送液量]>[第1循環機構によって含浸槽から排出される樹脂送液量]>[第2循環機構によって含浸槽から排出される樹脂送液量]となるように、各ポンプを制御した。また、第2循環機構のポンプは、第1循環機構のポンプが故障した際も未硬化熱硬化性樹脂が溢れないように、リザーブタンクからの排出量と同量以上の送液ができるように調整した。未硬化熱硬化性樹脂を循環させた状態で、ガラス繊維を投入し、5日間含浸処理を行った。
【0060】
[実施例2]
実施例1のリザーブタンクから含浸槽へ未硬化熱硬化性樹脂を送液する途中に、粘度測定器を追加し、粘度上昇に合わせて溶剤をリザーブタンクに自動で供給する粘度調整部を設置した。実施例1と同様に、含浸樹脂を循環させた状態で、ガラス繊維を投入し、5日間含浸処理を行った。
【0061】
[比較例1]
含浸槽に一定量の未硬化熱硬化性樹脂を入れ、ガラス繊維を投入し樹脂を含浸させた。未硬化熱硬化性樹脂の消費量と同じ量の未硬化熱硬化性樹脂をリザーブタンクから含浸槽へ新たに追加することを繰り返し、5日間含浸処理を行った。
【0062】
[比較例2]
含浸槽の底部に、第1排出部を設け、底抜き用のホースを取り付け、ポンプで未硬化熱硬化性樹脂をリザーブタンクへ送れるようにした。同様に、リザーブタンクの底部に排出部を設け、底抜き用のホースを取り付け、ポンプで未硬化熱硬化性樹脂を含浸槽へ送れるようにして、第1循環機構を構築した。未硬化熱硬化性樹脂を循環させた状態で、ガラス繊維を投入し、未硬化熱硬化性樹脂の消費量と同じ量の未硬化熱硬化性樹脂を含浸槽へ新たに追加することを繰り返し、5日間含浸処理を行った。
【0063】
2.評価
含浸槽における沈殿物の量、含浸槽における未硬化熱硬化性樹脂の変動、繊維への未硬化熱硬化性樹脂の含浸性について、下記の評価基準に基づいて評価を行った。
【0064】
[含浸槽における沈殿物]
〇:沈殿物なし
×:沈殿物あり
【0065】
[含浸槽における未硬化熱硬化性樹脂量の変動]
〇:変動なし
×:変動あり
【0066】
[繊維への未硬化熱硬化性樹脂の含浸性]
◎:非常に良好
○:良好
△:浸透性の若干のムラあり
×:浸透性の変化あり
【0067】
3.結果
結果を下記の表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
4.考察
表1に示す通り、実施例1及び2の含浸槽の底部には、沈殿物は見られなかった。また、実施例1及び2の含浸槽内の未硬化熱硬化性樹脂量は一定で安定しており、含浸性も良好であった。
【0070】
一方、循環機構を有さない比較例1の含浸槽の底部には、沈殿物が溜まっていた。比較例1では、未硬化熱硬化性樹脂の消費量と同じ量の未硬化熱硬化性樹脂をリザーブタンクから含浸槽へ新たに供給し続けたため、含浸槽内の未硬化熱硬化性樹脂量の変動はなかったが、溶剤の揮発により粘度が変化し、ガラス繊維への含浸性に変化が見られた。
【0071】
第1循環機構のみ有する比較例2の含浸槽の底部には、沈殿物は見られなかったが、第1循環機構のポンプの送液量の変化により、含浸槽内の未硬化熱硬化性樹脂量が増減した。その結果、ガラス繊維への含浸性にもムラが見られた。
【符号の説明】
【0072】
1:繊維強化樹脂製造システム
11:含浸槽
111:第1排出部
112:第2排出部
L1:第1流路
L2:第2流路
L3:第3流路
P1:第1ポンプ
P2:第2ポンプ
P3:第3ポンプ
14:リザーブタンク
141:排出部
16:粘度調整部
161:粘度測定部
162:溶剤供給部
図1
図2