IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-コイル部品および電子回路 図1
  • 特開-コイル部品および電子回路 図2
  • 特開-コイル部品および電子回路 図3
  • 特開-コイル部品および電子回路 図4
  • 特開-コイル部品および電子回路 図5
  • 特開-コイル部品および電子回路 図6
  • 特開-コイル部品および電子回路 図7
  • 特開-コイル部品および電子回路 図8
  • 特開-コイル部品および電子回路 図9
  • 特開-コイル部品および電子回路 図10
  • 特開-コイル部品および電子回路 図11
  • 特開-コイル部品および電子回路 図12
  • 特開-コイル部品および電子回路 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142156
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】コイル部品および電子回路
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/32 20060101AFI20230928BHJP
   H01F 27/30 20060101ALI20230928BHJP
   H01F 27/06 20060101ALI20230928BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
H01F27/32 103
H01F27/30 101A
H01F27/06 103
H01F17/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048888
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金井 眞一郎
(72)【発明者】
【氏名】森田 誠
(72)【発明者】
【氏名】可知 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真一
(72)【発明者】
【氏名】原田 秀明
(72)【発明者】
【氏名】占部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】浅井 雄悟
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA01
5E070AB03
5E070BA03
5E070DA12
5E070DB02
(57)【要約】
【課題】基板に実装した後に樹脂でモールドした場合においても、インピーダンス特性の変化が小さいコイル部品。
【解決手段】巻芯部と、前記巻芯部の両端に設けられる一対の鍔部と、を有するコアと、一対の前記鍔部に対応して設けられる一対の端子電極と、前記巻芯部に巻回する巻回部と、前記端子電極に接続するワイヤ端部とを有するワイヤと、少なくとも一部が、前記鍔部における巻軸方向の外側面である鍔部端面に設けられており、前記鍔部端面からの前記巻軸方向に沿う最大厚みが、前記鍔部の前記巻軸方向の厚みの0.1倍以上の範囲である保護樹脂部と、を有するコイル部品。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯部と、前記巻芯部の両端に設けられる一対の鍔部と、を有するコアと、
一対の前記鍔部に対応して設けられる少なくとも一対の端子電極と、
前記巻芯部に巻回する巻回部と、前記端子電極に接続するワイヤ端部とを有するワイヤと、
少なくとも一部が、前記鍔部における巻軸方向の外側面である鍔部端面に設けられており、前記鍔部端面からの前記巻軸方向に沿う最大厚みが、前記鍔部の前記巻軸方向の厚みの0.1倍以上である保護樹脂部と、
を有するコイル部品。
【請求項2】
前記ワイヤ端部の少なくとも一部は、前記保護樹脂部から露出する請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記巻芯部の前記巻軸方向に略平行に設けられ、一対の前記鍔部を接続する接続コアをさらに有し、
前記接続コアにおける実装方向とは反対側の面である接続コア上面の1/2以上は、前記保護樹脂部から露出する請求項1に記載のコイル部品。
【請求項4】
請求項1に記載のコイル部品と、
前記コイル部品の前記端子電極に対応する複数のランドパターンを有し、前記コイル部品を実装する基板と、
前記コイル部品および前記基板における前記コイル部品の実装位置周辺部分を覆う回路保護樹脂部と、を有する電子回路。
【請求項5】
前記保護樹脂部はシリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂またはエポキシ系樹脂で構成され、前記回路保護樹脂部はエポキシ系樹脂で構成される請求項4に記載の電子回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品および電子回路に関する。
【背景技術】
【0002】
基板に実装したコイル部品に対して、基板とコイル部品とを覆うように樹脂モールドを形成する技術が提案されている。このような樹脂による被覆体を形成することにより、コイル部品や基板の防湿特性を向上させたり、基板とコイル部品とを含む部材全体の機械的強度を向上させたりすることが期待される。
【0003】
また、一方で、ワイヤやコアなど、コイル部品において端子電極の実装部分を除く部分を、樹脂からなる外装体で覆う技術も提案されている。しかしながら、樹脂からなる外装体でワイヤおよびコアの全体を覆うコイル部品は、全体の形状が大きくなり小型化の観点で問題があるとともに、外装体を金型で成型するためにコスト高となる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-203931号公報
【特許文献1】特開2011-9338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願の発明者らは、基板に実装した従来のコイル部を樹脂でモールドした場合、コイル部品のインピーダンス特性の劣化が生じて、狙い通りの特性を得られない問題が生じ得ることを見出した。
【0006】
そこで、本発明では、基板に実装した後に樹脂でモールドした場合においても、インピーダンス特性の変化が小さいコイル部品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るコイル部品は、
巻芯部と、前記巻芯部の両端に設けられる一対の鍔部と、を有するコアと、
一対の前記鍔部に対応して設けられる少なくとも一対の端子電極と、
前記巻芯部に巻回する巻回部と、前記端子電極に接続するワイヤ端部とを有するワイヤと、
少なくとも一部が、前記鍔部における巻軸方向の外側面である鍔部端面に設けられており、前記鍔部端面からの前記巻軸方向に沿う最大厚みが、前記鍔部の前記巻軸方向の厚みの0.1倍以上である保護樹脂部と、を有する。
【0008】
本発明の発明者らは、基板実装状態における樹脂モールド前後でのコイル部品のインピーダンス特性の変化を、コイル部品の巻軸方向に作用する回路保護樹脂部から応力を低減することにより、抑制できるとの知見を得た。すなわち、本発明に係るコイル部品は、コアの両端部に所定の厚み以上の保護樹脂部が形成されていることにより、この保護樹脂部が、実装後に全体を被覆する樹脂(回路保護樹脂部)からの巻軸方向の応力の伝搬を、緩和することができる。したがって、このようなコイル部品は、基板に実装した後に樹脂でモールドした場合においても、樹脂モールド前後でのインピーダンス特性の変化を小さくできる。
【0009】
また、たとえば、前記ワイヤ端部の少なくとも一部は、前記保護樹脂部から露出してもよい。
【0010】
ワイヤ端部の少なくとも一部が露出することにより、保護樹脂が被覆する範囲が狭くなるため、小型化の観点で有利である。また、ワイヤ端部が露出しても、巻軸方向に作用する応力の緩和の観点では、影響が小さい。
【0011】
また、たとえば、前記巻芯部の前記巻軸方向に略平行に設けられ、一対の前記鍔部を接続する接続コアをさらに有してもよく、
前記接続コアにおける実装方向とは反対側の面である接続コア上面の1/2以上は、前記保護樹脂部から露出してもよい。
【0012】
接続コア上面が露出していることにより、表面実装時における搬送アームへの吸着面が適切に確保される。また、保護樹脂が被覆する範囲が狭くなるため、小型化の観点で有利であるとともに、接続コア上面の露出は、巻軸方向に作用する応力の緩和の観点では、影響が小さい。
【0013】
本発明に係る電子回路は、上記のコイル部品と、
前記コイル部品の前記端子電極に対応する複数のランドパターンを有し、前記コイル部品を実装する基板と、
前記コイル部品および前記基板における前記コイル部品の実装位置周辺部分を覆う回路保護樹脂部と、を有する。
【0014】
このような電子回路は、回路保護樹脂部がコイル部品および基板を水分や衝撃等から保護するとともに、回路保護樹脂部からの応力がコアに対して巻軸方向に作用することを防止し、コイル部品のインピーダンスが劣化する問題を防止できる。
【0015】
また、たとえば、前記保護樹脂部はシリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂またはエポキシ系樹脂で構成されてもよく、前記回路保護樹脂部はエポキシ系樹脂で構成されてもよい。
【0016】
前記回路保護樹脂部によって基板およびコイル部品を強固に保護することができる。また、鍔部端面に設けられる保護樹脂部が回路保護樹脂部よりも柔軟である(たとえば、ヤング率が小さい)ことにより、回路保護樹脂部からの応力の伝搬を防止し、内部のコイル部品のインピーダンスの劣化を好適に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、第1実施形態に係るコイル部品の正面図である。
図2図2は、図1に示すコイル部品の底面図である。
図3図3は、図1に示すコイル部品の左側面図である。
図4図4は、図1に示すコイル部品の上面図である。
図5図5は、図1に示すコイル部品の断面図である。
図6図6は、第2実施形態に係るコイル部品の正面図である。
図7図7は、図6に示すコイル部品の底面図である。
図8図8は、図6に示すコイル部品の上面図である。
図9図9は、図6に示すコイル部品の断面図である。
図10図10は、第3実施形態に係るコイル部品の側面図である。
図11図11は、図1に示すコイル部品を実装した電子回路を示す断面図である。
図12図12は、実施例に係るコイル部品における回路保護樹脂部形成前後のインピーダンスを比較したグラフである。
図13図13は、比較例に係るコイル部品における回路保護樹脂部形成前後のインピーダンスを比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0019】
第1実施形態
図1は第1実施形態に係るコイル部品10を示す正面図である。図1に示すように、コイル部品10は、コア20と、端子電極30と、ワイヤ40と、保護樹脂部50と、接続コア60とを有する。
【0020】
コア20は、金属やフェライトなどの磁性体からなる一体構造のドラム状コアである。コア20は、巻芯部22と、巻芯部22の両端に設けられる一対の鍔部24とを有する。なお、コイル部品10の説明では、巻芯部22に巻回されるワイヤ40の巻軸方向をX軸方向、端子実装部32が配置される実装面に垂直な方向をZ軸方向、X軸方向およびZ軸方向に垂直な方向をY軸方向とする。
【0021】
図5は、図1に示すコイル部品10の断面図である。図5に示すように、コイル部品10におけるコア20は、保護樹脂部50に覆われている部分と、保護樹脂部50から露出している部分とを有する。保護樹脂部50については、後ほど詳述する。
【0022】
図2は、コイル部品10の底面図であり、図3はコイル部品10の左側面図であり、図4はコイル部品10の上面図である。図1図5から理解できるように、コイル部品10は略直方体形状である。また、コア20における巻芯部22および鍔部24も、いずれも略直方体形状である。ただし、図3等に示すように、鍔部24の下面側(Z軸負方向側)には、段差が形成されている。
【0023】
図1に示すように、コイル部品10は、略矩形平板状の接続コア60を有する。接続コア60は、その長手方向が巻軸方向であるX軸方向に平行になるように、コア20の上側(Z軸正方向側)に設けられ、コア20の一対の鍔部24を接続する。すなわち、巻軸方向に沿う接続コア60の一方の端部(X軸負方向側の端部)は、一方の鍔部24(X軸負方向側の鍔部24)の鍔部上面27に接続し、接続コア60の他方の端部(X軸正方向側の鍔部24)は、他方の鍔部24(Y軸負方向側の鍔部24)の鍔部上面27に接続する。
【0024】
接続コア60は、コア20と同様に、金属やフェライトなどの磁性体からなる。接続コア60とコア20とは、同じ材質であってもよく、異なる材質であってもよい。たとえば、コア20がフェライトで構成され、接続コア60が金属で構成されていてもよく、また、コア20が金属で構成され、接続コア60がフェライトで構成されていてもよい。ただし、接続コア60およびコア20は、磁性体で構成されるもののみには限定されず、一方または双方が、非磁性の材料で構成されていてもよい。
【0025】
図1に示すように、コイル部品10は、一対の鍔部24に対応して設けられる少なくとも一対の端子電極30を有する。底面図である図2に示すように、コイル部品10は、一方の鍔部24(X軸負方向側の鍔部24)に2つの端子電極30が設けられており、他方の鍔部24(X軸正方向側の鍔部24)に2つの端子電極30が設けられており、合計4つ(2対)の接続端子を有する。ただし、端子電極30は、各鍔部24に1つずつ設けられていてもよく、3つ以上設けられていてもよい。
【0026】
図1図3に示すように、端子電極30は、鍔部24における巻軸方向の外側面である鍔部端面25と、鍔部24における実装方向(Z軸負方向)を向く鍔部下面28および鍔部段差面29に設けられている。すなわち、端子電極30は、端子実装部32と、端子継線部34とを有する。端子電極30は、たとえば、金属の板材等を加工して形成することができる。ただし、端子電極30は、金属ペーストを塗布したり、金属メッキを形成したりするなど、他の方法により形成することもできる。
【0027】
端子実装部32は、鍔部24において最も下方側に位置する鍔部下面28に設けられている。図2に示すように、端子実装部32は、保護樹脂部50から下方に露出しており、基板470等に実装する際(図11参照)、はんだ等を介して基板470のランドパターン472に対して電気的および物理的に接続される。
【0028】
図3に示すように、端子継線部34は、鍔部段差面29に設けられている。鍔部段差面29は、実装方向を向く面であるが、鍔部下面28に対して上方へ凹んで段差面を形成している。図2に示すように、鍔部段差面29には、端子電極30の端子継線部34およびワイヤ端部44における接続部44bが配置される。
【0029】
図1および図4に示すように、端子電極30における端子継線部34の一部は、鍔部端面25から外側(コイル部品10の中心から離間する方向)へ突出しているが、この部分は、保護樹脂部50によって覆われている。すなわち、図2等に示すように、コイル部品10では、端子電極30は、端子実装部32を除き、保護樹脂部50に覆われている。
【0030】
図1に示すように、コイル部品10は、導電線であるワイヤ40を有する。ワイヤ40は、巻芯部22に巻回する巻回部42と、端子電極30に接続するワイヤ端部44とを有する。ワイヤ40は、例えば被覆導線などで構成される。
【0031】
図2に示すように、コイル部品10は、2本の互いに絶縁されたワイヤ40を有しており、2本のワイヤ40のそれぞれのワイヤ端部44が、別個の端子電極30に接続している。このような、コイル部品10は、たとえば、コモンモードフィルタ等として、好適に用いることができる。ただし、コイル部品10に含まれるワイヤ40の本数は特に限定されず、また、コイル部品10は、コモンモードフィルタ以外の電子部品として用いられるものであってもよい。
【0032】
また、図5に示すように、巻芯部22に形成される各ワイヤ40の巻回部42は、一層巻きであるが、巻回部42は2層以上の多層巻であってもかまわない。図2に示すように、ワイヤ端部44は、端子電極30に接続する接続部44bと、接続部44bと巻回部42とを繋ぐ引出部44aとを有する。
【0033】
図2に示すように、ワイヤ40の巻回部42およびワイヤ端部44は、保護樹脂部50に被覆されている。ただし、図6図9に示す第2実施形態に係るコイル部品210のように、巻回部42およびワイヤ端部44の少なくとも一部は、保護樹脂部50に被覆されなくてもよい。
【0034】
図1に示すように、コイル部品10の保護樹脂部50の少なくとも一部は、鍔部24における巻軸方向の外側面である鍔部端面25に設けられている。すなわち、保護樹脂部50は、コイル部品10における巻軸方向(X軸方向)の両端面に配置されている一対の端面保護部分52を有する。
【0035】
図5に示すように、保護樹脂部50の端面保護部分52は、接続コア60における巻軸方向の端面である接続コア端面65と、鍔部24の鍔部端面25とに跨って配置されている。保護樹脂部50の端面保護部分52は、鍔部端面25からの巻軸方向に沿う最大厚みT1が、鍔部24の巻軸方向の厚みT2の0.1倍以上であることが、後述する回路保護樹脂部480の応力をコア20に伝えないようにする観点で好ましい。また、鍔部端面25からの巻軸方向に沿う最大厚みT1が、鍔部24の巻軸方向の厚みT2の0.4倍以上であることも、同様の理由から好ましい。
【0036】
なお、端面保護部分52は、湾曲した表面を有しており、鍔部端面25の巻軸方向外側で、最大の厚みとなる。ただし、端面保護部分52の形状としてはこれのみには限定されず、上下方向に略一定の厚みを有していてもよい。また、鍔部24の厚みT2が断面によって変化する場合は、鍔部24の巻軸方向の厚みT2としては、最大厚みを用いるものとする。
【0037】
また、保護樹脂部50の端面保護部分52は、鍔部端面25からの巻軸方向に沿う最大厚みT1が、鍔部24の巻軸方向の厚みT2の1.5倍以下であることが、コイル部品10の小型化の観点から好ましい。また、鍔部端面25からの巻軸方向に沿う最大厚みT1が、鍔部24の巻軸方向の厚みT2の1.0倍以下であることも、同様の理由から好ましい。
【0038】
図1に示すように、鍔部24および接続コア60における巻軸方向および実装方向に直交する方向の両端面である鍔部側端面26および接続コア側端面66は、保護樹脂部50から露出することが、コイル部品10の小型化の観点から好ましい。また、図4に示すように、接続コア60における実装方向とは反対側の面(Z軸正方向側の面)である接続コア上面67は、保護樹脂部50から露出している。
【0039】
図4に示すように、コイル部品10では、接続コア上面67の全体(100%)が保護樹脂部50から露出しているが、接続コア上面67の1/2以上が保護樹脂部50から露出することが好ましい。接続コア上面67の1/2以上が保護樹脂部50から露出することにより、コイル部品10の表面実装時における搬送アームへの吸着面が、適切に確保される。
【0040】
図1および図2に示すように、保護樹脂部50は、鍔部端面25以外にも、ワイヤ40、巻芯部22および端子電極30を被覆している。これらの部分を保護樹脂部50が被覆することは、回路保護樹脂部480(図11参照)からの応力の伝搬を防止する観点から好ましい。ただし、回路保護樹脂部480の形成前後におけるインピーダンス特性の変化を小さくする観点では、端面保護部分52以外の部分の寄与は小さい。そのため、回路保護樹脂部480(図11参照)からの応力の伝搬が許容範囲であれば、ワイヤ40、巻芯部22および端子電極30の少なくとも一部を保護樹脂部50から露出させ、コイル部品10を小型化してもよい(第2実施形態参照)。
【0041】
保護樹脂部50の材質としては、シリコーン系樹脂や、エポキシ系樹脂などが挙げられるが、比較的柔軟なシリコーン系樹脂で保護樹脂部50を形成することが、回路保護樹脂部480(図11参照)からの応力の伝搬を防止する観点から好ましい。保護樹脂部50は、たとえば、鍔部端面25に硬化前の樹脂を塗布したり、コア20を硬化前の樹脂にディップしたりすることにより、形成することができる。
【0042】
図1図5に示すコイル部品10は、コア20の両端部である鍔部端面25に所定の厚み以上の保護樹脂部50(端面保護部分52)が形成されている。このような保護樹脂部50は、実装後に全体を被覆する樹脂(回路保護樹脂部480、図11参照)からの巻軸方向の応力の伝搬を緩和することができる。したがって、コイル部品10は、基板470に実装した後に樹脂でモールドした場合においても、樹脂モールド前後でのインピーダンス特性の変化を小さくできる。
【0043】
第2実施形態
図6は、第2実施形態に係るコイル部品210の正面図であり、図7はコイル部品210の底面図、図8はコイル部品210の上面図、図9はコイル部品210の断面図である。図6から図9に示すように、第2実施形態に係るコイル部品210は、保護樹脂部250の形状が、第1実施形態に係るコイル部品10とは異なるが、その他の点では、図1図5に示すコイル部品10と同様である。第2実施形態に係るコイル部品210の説明は、第1実施形態に係るコイル部品10との相違点を中心に行い、共通点については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0044】
図6から図9に示すように、コイル部品210は、図1等に示すコイル部品10に対して、保護樹脂部250の形状および形成位置が異なる。すなわち、保護樹脂部250は、接続コア60の接続コア端面65と、鍔部24の鍔部端面25とに跨って配置されている端面保護部分に相当する部分のみで構成される。したがって、コイル部品210では、端子電極30やワイヤ端部44など、鍔部端面25および接続コア端面65を除く部分の大部分が、保護樹脂部250に被覆されていない。
【0045】
たとえば、図7に示すように、コイル部品210では、ワイヤ端部44の少なくとも一部が、保護樹脂部250から露出する。このようなコイル部品210では、ワイヤ端部44に隣接する端子実装部32を、容易に保護樹脂部250から露出させることができ、製造が容易である。なお、ワイヤ端部44が保護樹脂部250から露出しても、回路保護樹脂部480から伝搬するコア20の巻軸方向に作用する応力を緩和する観点では、影響が小さい。
【0046】
図9に示すように、コイル部品210では、巻芯部22および巻回部42についても保護樹脂部250によって被覆されておらず、保護樹脂部250から露出している。しかし、保護樹脂部250は、図5に示すコイル部品10の保護樹脂部50と同様に、コア20の両端部である鍔部端面25に、鍔部24との比較において所定の厚みT1を有する保護樹脂部250が形成されている。
【0047】
第2実施形態に係るコイル部品210も、第1実施形態に係るコイル部品10との共通点については、コイル部品10と同様の効果を奏する。
【0048】
第3実施形態
図10は、第3実施形態に係るコイル部品310の正面図である。第3実施形態に係るコイル部品310は、端子電極330の形状および端子電極330とワイヤ端部344との接続位置等が、第2実施形態に係るコイル部品210とは異なる。しかし、コイル部品310は、保護樹脂部350が接続コア360の接続コア端面365と鍔部324の鍔部端面325とに跨って配置されている部分のみで構成される点などについては、コイル部品210と同様である。コイル部品310の説明では、コイル部品210との相違点を中心に行い、共通点については説明を省略する。
【0049】
コイル部品310は、図6に示すコイル部品210と同様に、ドラム型のコア320と、平板状の接続コア360とを有し、接続コア360は、コア320における2つの鍔部324における鍔部上面327を接続している。また、コイル部品210は、コア320の一対の鍔部324に対応して設けられる少なくとも一対の端子電極330を有する。
【0050】
端子電極330は、鍔部上面327側に形成される鍔部段差面329に配置される端子継線部334と、鍔部下面328に配置される端子実装部332とを有する。ワイヤ340は、コア320の巻芯部322に巻回する巻回部342と、端子継線部334に接続するワイヤ端部344とを有する。ワイヤ340のワイヤ端部344は、図6に示すコイル部品210とは異なり、巻回部342から上方(Z軸正方向側)に引き出され、端子継線部334に接続される。
【0051】
コイル部品310は、図6に示すコイル部品210と同様に、鍔部324の鍔部端面325に配置される保護樹脂部350を有する。保護樹脂部350の材質および最大厚み等については、図9に示すコイル部品210および図5に示すコイル部品10と同様である。
【0052】
第3実施形態に係るコイル部品310も、コア320の両端部である鍔部端面325に、鍔部24の巻軸方向(X軸方向)の厚みの0.1倍以上の厚みの保護樹脂部350が形成されている。第3実施形態に係るコイル部品310も、第2実施形態に係るコイル部品210と同様に、実装後に全体を被覆する樹脂(回路保護樹脂部480、図11参照)からの巻軸方向の応力の伝搬を緩和し、樹脂モールド前後でのインピーダンス特性の変化を小さくできる。
【0053】
第4実施形態
図11は、第4実施形態に係る電子回路490の概略断面図である。電子回路490は、図1図5に示すコイル部品10と、コイル部品10を実装する基板470と、コイル部品19および基板470におけるコイル部品10の実装位置周辺部473を覆う回路保護樹脂部480を有する。なお、コイル部品10の構造については、第1実施形態で説明したため、ここでは説明を省略する。
【0054】
図11に示すように、基板470は、コイル部品10の端子電極30に対応する複数のランドパターン472を有する。コイル部品10は、たとえばはんだ等を介して、基板470に実装される。コイル部品10の端子電極30は、はんだ等を介してランドパターン472に固定される。
【0055】
回路保護樹脂部480は、コイル部品10を基板470に実装した後、未硬化の樹脂を、コイル部品10を覆うように実装位置周辺部473に流し込み、これを硬化させることにより形成される。回路保護樹脂部480は、例えばエポキシ樹脂等で構成される。なお、回路保護樹脂部480は、基板470およびコイル部品10を多湿環境や結露等から保護するための防湿コーティングであってもよく、外環境からの保護および機械的強度の向上を目的として行われるポッティング樹脂であってもよく、回路保護樹脂部480を形成する目的は特に限定されない。
【0056】
図11に示す電子回路490では、鍔部端面25が所定の厚みを有する保護樹脂部50で覆われていることにより、回路保護樹脂部480の軸方向の応力がコイル部品10のコア20に伝わることが防止される。したがって、電子回路490は、回路保護樹脂部480の形成前後で、実装されるコイル部品10のインピーダンス特性が変化する問題が防止され、狙い通りの電気的特性を奏することができる。
【0057】
以下、実施例および比較例を示して、コイル部品10および電子回路490について詳細な説明を行う。ただし、本発明は、これらの実施例によって、なんら限定されるものではない。
【0058】
実施例
図12は、図11に示す回路保護樹脂部480を形成する前後におけるコイル部品10(実施例)のインピーダンスを、0.1~1000MHzの範囲で測定した結果を表すグラフである。図12において、点線は回路保護樹脂部480を形成する前におけるコイル部品10の特性を示しており、実線は回路保護樹脂部480を形成・硬化させた後におけるコイル部品10の特性を示している。なお、コイル部品10のインピーダンスの計測は、いずれも基板470に実装した状態で行った。
【0059】
図12に示すように、保護樹脂部50を有するコイル部品10では、回路保護樹脂部480を形成する前後におけるインピーダンス特性の変化は、ほとんど見られなかった。
【0060】
比較例
比較例では、実施例と同様のインピーダンスの計測を、保護樹脂部50を有しないことを除き同一のコイル部品を用いて行った。図13において、点線は回路保護樹脂部480を形成する前における比較例に係るコイル部品の特性を示しており、実線は回路保護樹脂部480を形成・硬化させた後における比較例に係るコイル部品の特性を示している。
【0061】
図13に示すように、保護樹脂部50を有しないコイル部品では、回路保護樹脂部480を形成した後において、インピーダンス特性の劣化が見られた。特に、1MHz~200MHzの周波数体において、インピーダンスの低下が顕著であった。保護樹脂部50を有しないコイル部品では、回路保護樹脂部480を形成する前後におけるインピーダンス特性の変化が大きく、狙い通りの特性を有する電子回路を得ることが難しいことが理解できる。
【0062】
実施例(図12)と比較例(図13)の比較から、所定の厚みの保護樹脂部50を有するコイル部品10は、回路保護樹脂部480の形成前後でインピーダンス特性が変化する問題を防止できることが確認できた。なお、実施例と比較例との間で、回路保護樹脂部480を形成する前のインピーダンス特性を比較すると(図12の点線と、図13の点線)、インピーダンス特性の差はほとんど見られない。図1に示す保護樹脂部50の形成では、図11に示す回路保護樹脂部480の形成とは異なり、コイル部品10のインピーダンス特性に影響を与えるような応力は生じないと考えられる。
【0063】
以上、実施形態および実施例について説明したが、本発明は、上記の実施形態や実施例のみに限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0064】
例えば、上記実施形態においては、コイル部品がコモンモードフィルタである場合を例に説明したが、本発明の対象がこれに限定されるものではなく、他の種類のコイル部品に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0065】
10、210、310…コイル部品
20、320…コア
22、322…巻芯部
24、324…鍔部
25、325…鍔部端面
T2…厚み
26…鍔部側端面
27、327…鍔部上面
28、328…鍔部下面
29、329…鍔部段差面
30、330…端子電極
32、332…端子実装部
34、334…端子継線部
40、340…ワイヤ
42、342…巻回部
44、344…ワイヤ端部
44a…引出部
44b…接続部
50、250、350…保護樹脂部
52…端面保護部分
T1…最大厚み
60、360…接続コア
65、365…接続コア端面
66…接続コア側端面
67…接続コア上面
470…基板
472…ランドパターン
473…実装位置周辺部
480…回路保護樹脂部
490…電子回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13