(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142158
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】熱伝導性ポリマー組成物、熱伝導性ポリマー組成物形成材料、熱伝導性ポリマー、熱伝導性ポリマー組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 15/00 20060101AFI20230928BHJP
C08K 5/05 20060101ALI20230928BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20230928BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230928BHJP
C08G 18/65 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C08L15/00
C08K5/05
C08K5/29
C08K3/013
C08G18/65 082
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048892
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】飯田 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】芦田 桂子
【テーマコード(参考)】
4J002
4J034
【Fターム(参考)】
4J002AC111
4J002AF022
4J002BC122
4J002BK002
4J002CC032
4J002CC042
4J002CC122
4J002CE002
4J002DA017
4J002DA027
4J002DA077
4J002DA087
4J002DA097
4J002DA117
4J002DE067
4J002DE077
4J002DE137
4J002DE147
4J002DF017
4J002DJ007
4J002DJ017
4J002DK007
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4J002EC056
4J002ED036
4J002EL138
4J002ER008
4J002FD017
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4J034CA01
4J034CA02
4J034CA04
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4J034CB01
4J034CB03
4J034CB04
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4J034CC03
4J034CC08
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4J034DB07
4J034DP19
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4J034HC12
4J034HC64
4J034HC65
4J034HC67
4J034HC71
4J034MA02
4J034MA03
4J034MA22
4J034MA24
4J034QB13
4J034RA14
(57)【要約】
【課題】密着性が高く、かつ低粘度で形状追従性が高く、硬化時に溶媒を除去する必要のない高い施工性を有する熱伝導性ポリマー組成物、熱伝導性ポリマー組成物形成材料、熱伝導性ポリマー、熱伝導性ポリマー組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】水酸基を1分子中に2以上有する液状ゴムと、水酸基を1分子中に1以上有し、前記液状ゴムと相溶性のある可塑剤と、前記可塑剤と相溶性がある粘着性付与剤と、
前記液状ゴムの水酸基、および前記可塑剤の水酸基のいずれにも反応可能な官能基を1分子中に2以上有する硬化剤と、を含み、前記可塑剤には、円換算で直径10μm以上のサイズの前記粘着性付与剤の粒子が存在しないように、前記粘着性付与剤が分散されていることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を1分子中に2以上有する液状ゴムと、
水酸基を1分子中に1以上有し、前記液状ゴムと相溶性のある可塑剤と、
前記可塑剤と相溶性がある粘着性付与剤と、
前記液状ゴムの水酸基、および前記可塑剤の水酸基のいずれにも反応可能な官能基を1分子中に2以上有する硬化剤と、を含み、
前記可塑剤には、円換算で直径10μm以上のサイズの前記粘着性付与剤の粒子が存在しないように、前記粘着性付与剤が分散されていることを特徴とする熱伝導性ポリマー組成物。
【請求項2】
前記粘着性付与剤は、炭化水素樹脂、テルペン樹脂、ロジン樹脂、スチレン樹脂、アルキルフェノール樹脂、キシレン樹脂、クマロンインデン樹脂のうち、1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性ポリマー組成物。
【請求項3】
前記粘着性付与剤は、前記可塑剤100質量部に対して、10質量部以上、70質量部以下の範囲で分散されていることを特徴とする請求項1または2に記載の熱伝導性ポリマー組成物。
【請求項4】
前記液状ゴムは、それぞれ末端基が水酸基である、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリオレフィンのうち、少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の熱伝導性ポリマー組成物。
【請求項5】
前記可塑剤は、エチレングリコール、n-ブチルカルビトール、グリセリン、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ブチルグリコール、プロピルグリコール、エチルグリコール、メチルテトラグリコールのうち、少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の熱伝導性ポリマー組成物。
【請求項6】
前記硬化剤が、イソシアネート化合物であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の熱伝導性ポリマー組成物。
【請求項7】
前記熱伝導性ポリマー組成物が、更に熱伝導性を有するフィラーを含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の熱伝導性ポリマー組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の熱伝導性ポリマー組成物を形成するための熱伝導性ポリマー組成物形成材料であって、
前記液状ゴムおよび前記粘着性付与剤が分散された前記可塑剤を含むA液と、前記硬化剤を含むB液と、を有することを特徴とする熱伝導性ポリマー組成物形成材料。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の熱伝導性ポリマー組成物を硬化させて得られる熱伝導性ポリマーであって、
末端基が、-[(C2H4-O)m-CnH2n+1](但し、m,nは任意の自然数)を含むことを特徴とする熱伝導性ポリマー。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項に記載の熱伝導性ポリマー組成物の製造方法であって、
円換算で直径10μm以上のサイズの前記粘着性付与剤が存在しないように、前記可塑剤に前記粘着性付与剤を分散させる分散工程と、
前記液状ゴムを、前記粘着性付与剤が分散された前記可塑剤に溶解させる溶解工程と、
を少なくとも有することを特徴とする熱伝導性ポリマー組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性ポリマー組成物、熱伝導性ポリマー組成物形成材料、熱伝導性ポリマー、熱伝導性ポリマー組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発熱体と放熱部材との間に設けられ、熱を伝搬させる伝熱材料は、例えば、グリースタイプ、ギャップフィラータイプ、シートタイプなど、様々な形態のものが知られている。これらの伝熱材料を用いることで、例えば、発熱体で生じた熱を、金属筐体やヒートシンクなどの放熱部材から効率よく放熱することができる。こうした伝熱材料は、発熱体と放熱部材との間に設置することで、発熱体と放熱部材との間の熱抵抗を小さくすることができる。
【0003】
近年、各種電子機器の高性能化・集積化が進むにつれて、構成部品(発熱体)の動作に伴い発生する熱を外部に効率よく放熱できるように、放熱性を高めた構造が求められている。このため、発熱体と放熱部材との間の熱抵抗を、より一層小さくすることが可能な伝熱材料が求められている。
【0004】
発熱体と放熱部材との間の熱抵抗を小さくするために、発熱体と放熱部材との間に、熱伝導性の高い材料を用いた伝熱材料を設けた構成が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
一方、発熱体と放熱部材との間に設けられる伝熱材料の密着性を高めて、これら界面に生じる熱抵抗(界面熱抵抗)を小さくすることも考えられる。
発熱体と放熱部材との間の密着性が不十分であると、発熱体と放熱部材との間の界面熱抵抗が増加し、放熱性が低下することがあった。そこで、放熱部材に密着性を高める表面処理を施し、発熱体と放熱部材との間の密着性を向上させることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、放熱部材の表面に密着性を高めるための表面処理を行う場合、処理に要する工程の増加や、これに伴う製造コストの増加といった課題がある。また、粘着性付与剤を伝熱材料に添加して、発熱体や放熱部材との間の密着性を向上させることも考えられるが、粘着性付与剤を単に伝熱材料に添加しただけでは、粘着性付与剤の偏在などによって密着性の向上効果が安定して発揮されなかったり、密着性の向上効果が全く発現しないといったこともある。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、密着性が高く、かつ低粘度で形状追従性が高く、硬化時に溶媒を除去する必要のない高い施工性を有する熱伝導性ポリマー組成物、熱伝導性ポリマー組成物形成材料、およびこれにより得られる熱伝導性ポリマー、熱伝導性ポリマー組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、上記目的を達成するために、次のように構成している。
即ち、本発明に係る熱伝導性ポリマー組成物は、水酸基を1分子中に2以上有する液状ゴムと、水酸基を1分子中に1以上有し、前記液状ゴムと相溶性のある可塑剤と、前記可塑剤と相溶性がある粘着性付与剤と、前記液状ゴムの水酸基、および前記可塑剤の水酸基のいずれにも反応可能な官能基を1分子中に2以上有する硬化剤と、を含み、前記可塑剤には、円換算で直径10μm以上のサイズの前記粘着性付与剤の粒子が存在しないように、前記粘着性付与剤が分散されていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、液状ゴムの末端基である水酸基と、可塑剤の末端基である水酸基とのそれぞれが、硬化剤中の官能基と重合反応により化学結合して硬化されることにより、硬化後の熱伝導性ポリマーに可塑剤成分が構成材料として取り込まれる。これにより、可塑剤成分によって硬度が低く保たれる。そして、可塑剤に粘着性付与剤が分散されていることによって、熱伝導性ポリマー組成物の高温環境下での密着性が向上し、発熱体と放熱部材との間の熱伝導性を高めることができる。なお、ここでいう可塑剤に粘着性付与剤が分散された状態とは、熱伝導性ポリマー組成物を拡大観察した時に、円換算で直径10μm以上のサイズの前記粘着性付与剤の粒子が存在しない状態と定義される。
なお、「相溶性がある」物質とは、当該複数の物質のみを混合した場合に、二相に分離せず混ざり合う物質を示す。また、前記可塑剤として、前記液状ゴムと相溶性のある溶媒(溶剤)を用いてもよい。
【0011】
また、本発明では、前記粘着性付与剤は、炭化水素樹脂、テルペン樹脂、ロジン樹脂、スチレン樹脂、アルキルフェノール樹脂、キシレン樹脂、クマロンインデン樹脂のうち、1種以上を含んでいてもよい。
【0012】
また、本発明では、前記粘着性付与剤は、前記可塑剤100質量部に対して、10質量部以上、70質量部以下の範囲で分散されていてもよい。
【0013】
また、本発明では、前記液状ゴムは、それぞれ末端基が水酸基である、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリオレフィンのうち、少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0014】
また、本発明では、前記可塑剤は、エチレングリコール、n-ブチルカルビトール、グリセリン、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ブチルグリコール、プロピルグリコール、エチルグリコール、メチルテトラグリコールのうち、少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0015】
また、本発明では、前記硬化剤が、イソシアネート化合物であってもよい。
【0016】
また、本発明では、前記熱伝導性ポリマー組成物が、更に熱伝導性を有するフィラーを含んでいてもよい。
【0017】
本発明の熱伝導性ポリマー組成物形成材料は、前記各項に記載の熱伝導性ポリマー組成物を形成するための熱伝導性ポリマー組成物形成材料であって、前記液状ゴムおよび前記粘着性付与剤が分散された前記可塑剤を含むA液と、前記硬化剤を含むB液と、を有することを特徴とする。
【0018】
本発明の熱伝導性ポリマーは、前記各項に記載の熱伝導性ポリマー組成物を硬化させて得られる熱伝導性ポリマーであって、末端基が、-[(C2H4-O)m-CnH2n+1](但し、m,nは任意の自然数)を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明の熱伝導性ポリマー組成物の製造方法は、前記各項に記載の熱伝導性ポリマー組成物を製造するための熱伝導性ポリマー組成物の製造方法であって、円換算で直径10μm以上のサイズの前記粘着性付与剤が存在しないように、前記可塑剤に前記粘着性付与剤を分散させる分散工程と、前記液状ゴムを、前記粘着性付与剤が分散された前記可塑剤に溶解させる溶解工程と、を少なくとも有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、密着性が高く、かつ低粘度で形状追従性が高く、硬化時に溶媒を除去する必要のない高い施工性を有する熱伝導性ポリマー組成物、熱伝導性ポリマー組成物形成材料、およびこれにより得られる熱伝導性ポリマー、熱伝導性ポリマー組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】検証例における引張試験の詳細を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の熱伝導性ポリマー組成物、熱伝導性ポリマー組成物形成材料、およびこれにより得られる熱伝導性ポリマー、熱伝導性ポリマー組成物の製造方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0023】
(熱伝導性ポリマー組成物)
本実施形態の熱伝導性ポリマー組成物は、液状ゴムと、この液状ゴムと相溶性のある可塑剤と、この可塑剤に予め分散された粘着性付与剤と、硬化剤と、を含んでいる。なお、本実施形態の熱伝導性ポリマー組成物は、硬化(重合反応)前の状態のものである。また、本実施形態でいう可塑剤は、液状ゴムと相溶性のある溶媒(溶剤)であってもよい。
【0024】
液状ゴムは、例えば、常温において流動性を有する液体状のゴムであればよく、その組成式において、末端基に水酸基(-OH)を1分子中に2以上有するものであればよい。
こうした液状ゴムにおける末端基となる水酸基の一部は、後述する熱伝導性ポリマー組成物の硬化時に、硬化剤の官能基と反応して、化学結合する。
【0025】
末端基に水酸基を1分子中に2以上有する液状ゴムの具体例としては、水酸基が末端基となるポリブタジエン、水酸基が末端基となるポリイソプレン、水酸基が末端基となるポリオレフィンなどが挙げられる。このうち、フィラーの充填性が良好な点で、水酸基が末端基となるポリブタジエンが好ましい。
【0026】
液状ゴムの分子量は、特に限定されないが、例えば1000以上、3000以下の範囲ものを用いることができる。また、液状ゴムの水酸基価は0.5以上、2.0の範囲が好ましい。また、液状ゴムの粘度は、特に限定されないが、例えば、1.0Pa・s以上、1000Pa・s以下の範囲であればよい。
【0027】
可塑剤は、熱伝導性ポリマー組成物の可塑性を向上させるものであり、かつ、液状ゴムと相溶性があり、組成式において、末端基に水酸基(-OH)を1分子中に1以上有するものであればよい。
こうした可塑剤における末端基となる水酸基は、後述する熱伝導性ポリマー組成物の硬化時に、硬化剤の官能基と反応して、化学結合する。
【0028】
末端基に水酸基を1分子中に1以上有する可塑剤の具体例としては、エチレングリコール、n-ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、グリセリン、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ブチルグリコール、プロピルグリコール、エチルグリコール、メチルテトラグリコールなどが挙げられる。
【0029】
従来の熱伝導性ポリマー組成物に含まれる可塑剤は、この可塑剤を揮発、除去することで硬化させるため、硬化後の熱伝導性ポリマーには殆ど可塑剤の成分は含まれない。一方、本実施形態の熱伝導性ポリマー組成物に含まれる可塑剤は、硬化時に硬化剤によって液状ゴムとの間で化学結合が生じ、熱伝導性ポリマーの構成物の一部となる。言い換えると、熱伝導性ポリマーは可塑剤-硬化剤-液状ゴムの結合を有する。
【0030】
なお、硬化剤は可塑剤同士や液状ポリマー同士とも結合するため、可塑剤-硬化剤-可塑剤や、液状ゴム-硬化剤-液状ゴムの結合も有している。更に、硬化剤が多官能型であれば、可塑剤と液状ポリマーとの間で硬化剤を介した多数の結合を有することになるため更に望ましい。
【0031】
可塑剤は、上述した理由から揮発性が高い低沸点可塑剤を用いる必要が無く、低沸点可塑剤から高沸点可塑剤まで、用途に合わせて幅広い沸点範囲の可塑剤を用いることができる。特に、熱伝導性ポリマー組成物の施工作業の容易性から、中沸点溶媒あるいは高沸点溶媒が好ましい。具体的には、可塑剤の沸点として100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、180℃以上がさらに好ましい。
【0032】
可塑剤の液状ゴムに対する適切な含有割合は、例えば、液状ゴム100質量部に対して、50質量部以上、600質量部以下の範囲であればよい。可塑剤の液状ゴムに対する含有割合をこうした範囲にすることによって、熱伝導性ポリマー組成物の施工時に流動性を確保して作業性を向上させ、かつ、液状ゴム成分の硬化が阻害されることを防止することができる。
なお、可塑剤の液状ゴムに対する適切な割合は、液状ゴム100質量部に対して、100質量部以上、200質量部以下の範囲が望ましい。
【0033】
粘着性付与剤は、可塑剤に分散され、熱伝導性ポリマー組成物の粘着性を向上させる材料である。粘着性付与剤は、可塑剤に対して相溶性がある材料から選択され、予め可塑剤に対して分散されている。
【0034】
なお、ここでいう可塑剤に粘着性付与剤が分散された状態とは、本実施形態の熱伝導性ポリマー組成物をシート状に成形して、マイクロスコープを用いて倍率2000倍でシート表面を10視野観察して、いずれの視野においてもサイズが円換算で直径10μm以上の粘着性付与剤の粒子(異物)が観察されない状態から特定することができる。
なお、粘着性付与剤はより分散した状態が好ましいため、いずれの視野においてもサイズが円換算で直径5μm以上の粘着性付与剤の粒子が観察されないことが望ましく、直径1μmの粘着性付与剤の粒子が観察されないことが更に望ましい。
【0035】
可塑剤に対する粘着性付与剤の質量割合は、可塑剤100質量部に対して、10質量部以上、70質量部以下の範囲、好ましくは20質量部以上、60質量部以下の範囲であればよい。粘着性付与剤が10質量部以上であれば、熱伝導性ポリマー組成物の密着性を向上することができる。また、粘着性付与剤が70質量部以下であれば、熱伝導性ポリマー組成物の施工時の流動性を確保することができる。
【0036】
粘着性付与剤は、例えば、炭化水素樹脂、テルペン樹脂、ロジン樹脂、スチレン樹脂、アルキルフェノール樹脂、キシレン樹脂、クマロンインデン樹脂が挙げられる。粘着性の観点から、テルペン樹脂、ロジン樹脂、スチレン樹脂を用いることが好ましい。更に、テルペン樹脂、ロジン樹脂が特に好ましい。なお、これらの粘着性付与剤は、1種だけを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0037】
粘着性付与剤の軟化点は、高温密着性を確保するという観点から、例えば、0℃以上、200℃以下、好ましくは、40℃以上、180℃以下の範囲の軟化点をもつ粘着性付与剤を用いることができる。
【0038】
以上のような粘着性付与剤の具体例としては、例えば、クイントン100シリーズ(日本ゼオン株式会社製)、アルコンMシリーズ、アルコンPシリーズ(荒川化学工業株式会社製)、アイマーブシリーズ(出光興産株式会社製)等の炭化水素樹脂が挙げられる。また、クリアロンシリーズ、YSポリスターシリーズ、YSレジンシリーズ(いずれもヤスハラケミカル株式会社製)、タマノル901(荒川化学工業株式会社製)等のテルペン樹脂が挙げられる。また、パインクリスタルKE-100、パインクリスタルKE-311、パインクリスタルKE-359、パインクリスタルKE-604、パインクリスタルD-6250、ペンセルD125、ペンセルD160、エステルガムHシリーズ、エステルガムHPシリーズ(いずれも荒川化学工業株式会社製)等のロジン樹脂が挙げられる。また、YSレジンSX100(ヤスハラケミカル株式会社製)等のスチレン樹脂が挙げられる。また、タマノル521(荒川化学工業株式会社製)等のアルキルフェノール樹脂が挙げられる。また、ニカノールL(フドー株式会社製)等のキシレン樹脂や、クマロンV-120S(日塗化学株式会社製)等のクマロンインデン樹脂が挙げられる。
【0039】
硬化剤は、液状ゴムの末端基となる水酸基、および可塑剤の末端基となる水酸基のいずれにも反応可能な官能基を1分子中に2以上有するものであればよい。本実施形態の硬化剤は、液状ゴムの水酸基と可塑剤の水酸基とのそれぞれと化学結合するものであればよい。
【0040】
水酸基と反応する官能基を1分子中に2以上有する硬化剤の具体例としては、イソシアネート化合物、酸無水物、カルボン酸、アミンなどが挙げられる。
こうした硬化剤による熱伝導性ポリマー組成物の硬化方法は、特に限定されないが、例えば、常温放置での重合反応の進行による硬化方法や、加温により反応速度を高めて硬化を促進させる方法などが挙げられる。
【0041】
硬化剤の液状ゴムに対する適切な含有割合は、例えば、液状ゴム100質量部に対して、50質量部以上、400質量部以下の範囲にすればよい。硬化剤の液状ゴムに対する含有割合をこうした範囲にすることによって、液状ゴムの水酸基と可塑剤の水酸基とのそれぞれと充分に重合反応させて、適切な硬度の熱伝導性ポリマーを形成することができ、かつ、硬度が過剰になって脆性が高まることを防止できる。
なお、硬化剤の液状ゴムに対する含有割合は、液状ゴム100質量部に対して、50質量部以上、360質量部以下が望ましく、90質量部以上、200質量部以下が更に望ましい。
【0042】
フィラーを混合させる場合には、例えば、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、炭素などを用いることができる。金属としては、金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、チタン、ニッケル、鉄、及びこれら金属を2種以上用いた合金が挙げられる。
【0043】
金属酸化物のフィラーとしては、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化チタンなどが挙げられる。また、金属水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウムが挙げられる。また、金属窒化物のフィラーとしては、例えば、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素などが挙げられる。更に、炭素のフィラーとしては、例えば、黒鉛(グラファイト)、カーボンファイバー、フラーレン、グラフェン、カーボンナノチューブなどが挙げられる。これらの中でも、特に酸化アルミニウムは、安価で容易に入手が可能である点で、フィラーの構成材料に用いることが好ましい。
【0044】
フィラーは、上述したような材料例のうち、1種または2種以上を含むことが好ましく、金属酸化物、金属水酸化物、及び金属窒化物のうちの1種または2種以上を含むことがより好ましく、酸化アルミニウムを含むことが特に好ましい。
【0045】
フィラーの形状は、粒子状であればよく、熱伝導性エラストマー組成物に優れた形状追従性および硬化後の高い熱伝導性を付与する観点から、球状粒子、円板状粒子、あるいは、角が少ない丸みを帯びた粒子(丸み粒子)を用いることが好ましい。
【0046】
フィラーの粒度分布は、充填性の確保と加工性の確保を両立させる観点から、複数のピークを有していてもよい。従って、フィラーは、平均粒子径(d50)が異なる複数種のフィラー粒子を含んでいてもよい。フィラーが、平均粒子径(d50)が異なる2種のフィラー粒子を含む場合、例えば、小粒径側のピークが0.3μm以上10μm以下の範囲にあり、大粒径側のピークが20μm以上100μm以下にあることが好ましい。
【0047】
本実施形態の熱伝導性ポリマー組成物は、上述した液状ゴム、可塑剤、粘着性付与剤、硬化剤、必要に応じてフィラーを含み、更に、潤滑剤,酸化防止剤,難燃剤などを添加しても良い。例えば、難燃剤を更に追加することによって、リチウムイオン2次電池の電池セルと外装ケース(放熱体)との間の難燃性の伝熱部材として用いることもできる。
【0048】
以上のような構成の本実施形態の熱伝導性ポリマー組成物によれば、液状ゴムの末端基である水酸基と、可塑剤の末端基である水酸基とのそれぞれが、硬化剤中の官能基と重合反応により化学結合して硬化させることにより、硬化後の熱伝導性ポリマーに可塑剤成分が構成材料として取り込まれる。これにより、可塑剤成分によって硬度が低く保たれる。そして、可塑剤に粘着性付与剤を分散させたものを用いることによって、高温環境下での密着性を向上させ、かつ、熱伝導性の高い熱伝導性ポリマー組成物を実現することができる。
【0049】
(熱伝導性ポリマー組成物形成材料)
本実施形態の熱伝導性ポリマー組成物形成材料は、上述した熱伝導性ポリマー組成物を形成するための、2液混合型の熱伝導性ポリマー材料であり、上述した液状ゴムおよび粘着性付与剤を分散させた可塑剤を含むA液と、硬化剤を含むB液と、を有している。また、これらA液、またはB液の少なくとも一方、または両方には、更にフィラーが含まれていてもよい。
なお、A液およびB液は、そのフィラー充填量が2000質量部までであれば、いずれも比重は3g/cm3程度である。
【0050】
こうした本実施形態の熱伝導性ポリマー組成物形成材料は、使用時において、A液とB液とを混合することにより、A液の液状ゴムの水酸基および可塑剤の水酸基がそれぞれ、B液に含まれる硬化剤に接して、化学結合することで硬化する。施工方法としては、例えば、2液混合用のディスペンサーを用いて、これらA液とB液とを等体積ずつ吐出後に混合して熱伝導性ポリマー組成物を形成し、熱伝導性ポリマーを設ける部材の表面等に直接塗布するなどの方法を用いることができる。
【0051】
このように、本実施形態の熱伝導性ポリマー組成物形成材料によれば、液状ゴムおよび粘着性付与剤を分散させた可塑剤を含むA液と、硬化剤を含むB液とを、互いに分離しておくことによって、任意のタイミングでこれらを硬化させて熱伝導性ポリマーを形成することができ、かつ、保存性に優れた熱伝導性ポリマー組成物形成材料を実現できる。
【0052】
(熱伝導性ポリマー)
本実施形態の熱伝導性ポリマーは、上述した熱伝導性ポリマー組成物を硬化させることによって得られる。こうした熱伝導性ポリマーは、例えば、末端基が、-[(C2H4-O)m-CnH2n+1]となっている。
【0053】
熱伝導性ポリマー組成物を硬化させた熱伝導性ポリマーは、例えば、液状ゴムがウレタン結合によって重合することにより、凝集破壊が抑制されることで、部材に対する密着性が向上している。こうした熱伝導性ポリマーの定常法によって測定した熱伝導率は,例えば1W/(m・K)以上、5W/(m・K)以下の範囲である。
【0054】
(熱伝導性ポリマー組成物の製造方法)
本発明の一実施形態の熱伝導性ポリマー組成物を製造する際には、まず、粘着性付与剤を可塑剤に溶解、分散させる(分散工程)。この分散工程では、製造する熱伝導性ポリマー組成物が、円換算で直径10μm以上のサイズの粘着性付与剤の粒子が存在しなくなるまで、可塑剤に粘着性付与剤を入れて攪拌させる。これにより、粘着性付与剤が分散された可塑剤を得ることができる。なお、ここでいう分散とは、得られた熱伝導性ポリマー組成物を、マイクロスコープを用いて倍率2000倍でシート表面を10視野観察して、いずれの視野においてもサイズが円換算で10μm以上の粘着性付与剤の粒子(異物)が観察されない状態とされる。
【0055】
次に、粘着性付与剤を分散させた可塑剤に液状ゴムを加え、更に必要に応じてフィラーを加えて、これらを脱気式の混練機によって混練してA液を作製する(溶解工程)。また、硬化剤に対して、必要に応じて難燃剤やフィラーを加えたものを脱気式の混練機によって混練してB液を作製する。
【0056】
そして、A液とB液とを同時に等体積ずつ吐出して混合することによって、本実施形態の熱伝導性ポリマー組成物を製造することができる。
【0057】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0058】
以下、試料として作成した本発明例1~9、および比較例1~3の熱伝導性ポリマー組成物形成材料のA液とB液とを等体積ずつ混合させて、熱伝導性ポリマー組成物を形成し、これを硬化させて熱伝導性ポリマーを得た。A液、B液の比重は配合による差は殆ど無く、3g/cm3程度とほぼ一定であった。そして、それぞれの熱伝導性ポリマーについて、円換算で10μm以上の粘着性付与剤の粒子の有無、および引張試験での最大応力を検証した。また、それぞれの実施例、比較例のA液における目視での異物(粘着性付与剤の粒子)を確認した。
【0059】
引張試験は、
図1に示すように、2枚のアルミニウム棒を用意して、一方のアルミニウム棒に各試料の熱伝導性ポリマー組成物を縦25mm×横19mm×厚み1mmの矩形になるように形成し、これに他方のアルミニウム棒を重ねて接合した。そして、引張試験機(AGS-X:島津製作所株式会社製)を用いて、接着強度と伸びを測定し、これに基づいて、それぞれの試料の最大応力を算出した。なお、高温環境下での密着性を評価するため、試験環境を50℃としている。
【0060】
A液、B液の組成、および得られた熱伝導性ポリマーの熱伝導率を、表1(本発明例1~9、比較例1~3)にまとめて示す。なお、比較例1は粘着性付与剤を加えておらず、比較例2は液状ゴムを加えていない。比較例3は、液状ゴムに可塑剤を混合した後に粘着性付与剤を加えており、粘着性付与剤を可塑剤に分散させていない。
なお、それぞれ構成物の詳細は以下の通りである。
[液状ゴム]
・水酸基末端性ポリブタジエン:Poly bd(登録商標)シリーズ(出光興産株式会社製)
[可塑剤]
・n-ブチルカルビトール:(東京化成工業株式会社製)
[フィラー]
・3分散粒子径アルミナ:DABシリーズ(デンカ株式会社製)
[硬化剤(架橋剤)]
・多官能型イソシアネート:ミリオネートMRシリーズ(東ソー株式会社製)
[粘着性付与剤]
・テルペン樹脂:YSポリスターシリーズ(ヤスハラケミカル株式会社製)
[難燃剤]
・リン系難燃剤(TCP大八化学工業株式会社製)
【0061】
【0062】
粘着性付与剤を分散させた可塑剤をA液に用いた実施例1~9は、50℃における引張試験での最大応力が最低でも0.011MPa(実施例4)以上であり、実施例1、2では0.020MPaに達した。また、円換算で10μm以上の粘着性付与剤の粒子が見られず、A液においても目視での異物が見られなかった。
【0063】
一方、比較例1では、可塑剤に対して粘着性付与剤を加えなかったために、引張試験での最大応力が、実施例1~9よりも大幅に低い0.006MPaに留まった。また、比較例2では、A液に液状ゴムを加えなかったために、引張試験での最大応力が実施例1~9よりも大幅に低い0.005MPaに留まった。更に、比較例3では、液状ゴムと可塑剤を混合した後に、粘着性付与剤を加えたものの、粘着性付与剤を可塑剤に対して分散する処理を行わなかったために、引張試験での最大応力が、実施例1~9よりも大幅に低い0.009MPaに留まった。また、この比較例3では、円換算で10μm以上の粘着性付与剤の粒子が見られ、A液においても目視での異物が存在した。
【0064】
以上の結果から、可塑剤に対して粘着性付与剤を加え、かつこの粘着性付与剤を可塑剤中で分散させたA液を用いることによって、優れた最大応力を有する熱伝導性ポリマーが形成可能な熱伝導性ポリマー組成物が得られることが確認できた。