(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142164
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】シミュレーション装置、シミュレーション装置の制御方法、およびシミュレーション装置のプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 21/64 20130101AFI20230928BHJP
【FI】
G06F21/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048901
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】507228172
【氏名又は名称】株式会社JSOL
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100109139
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】岡村 昌浩
(57)【要約】
【課題】シミュレーションを用いた評価を行う場合に、データの捏造やデータの改ざんを防止することのできるシミュレーション装置を提供する。
【解決手段】シミュレーションの対象オブジェクトの構造および素材の少なくともいずれか一方を含む対象オブジェクトの定義情報とシミュレーション条件情報との入力を受け付ける入力部と、対象オブジェクトの定義情報に基づいて、第一のハッシュを生成する第一ハッシュ生成部と、対象オブジェクトの定義情報およびシミュレーション条件情報を用いてシミュレーションを実行する実行部と、シミュレーションの結果に基づいて、第一のハッシュを埋め込んだレポートを生成するレポート生成部と、第一のハッシュと、レポートとを関連付けて保管するメタデータ登録部と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミュレーションの対象オブジェクトの構造および素材の少なくともいずれか一方を含む対象オブジェクトの定義情報とシミュレーション条件情報との入力を受け付ける入力部と、
前記対象オブジェクトの定義情報に基づいて、第一のハッシュを生成する第一ハッシュ生成部と、
前記対象オブジェクトの定義情報および前記シミュレーション条件情報を用いて前記シミュレーションを実行する実行部と、
前記シミュレーションの結果に基づいて、前記第一のハッシュを埋め込んだレポートを生成するレポート生成部と、
前記第一のハッシュと、前記レポートとを関連付けて保管するメタデータ登録部と、を備える、
シミュレーション装置。
【請求項2】
前記シミュレーション条件情報に基づいて、あるいは、前記シミュレーション条件情報および前記第一のハッシュに基づいて、第二のハッシュを生成する第二ハッシュ生成部をさらに備え、
前記レポート生成部は、前記第二ハッシュ生成部が前記シミュレーション条件情報および前記第一のハッシュに基づいて前記第二のハッシュを生成する場合には、前記第一のハッシュに代えて前記第二のハッシュを埋め込んだレポートを生成し、前記第二ハッシュ生成部が前記シミュレーション条件情報に基づいて前記第二のハッシュを生成する場合には、前記第一のハッシュに加えて前記第二のハッシュを埋め込んだレポートを生成し
前記メタデータ登録部は、前記第一のハッシュおよび前記第二のハッシュと、前記レポートとを関連付けて保管する、
請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記入力部は、前記対象オブジェクトの定義情報及び前記シミュレーション条件情報が一体となったシミュレーションの対象モデルの入力を受け付け可能であり、
前記対象モデルにおいて、前記対象オブジェクトの定義情報と、前記シミュレーション条件情報とを判別する定義情報判別部と、をさらに備える
請求項1または請求項2に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記対象オブジェクトの定義情報および前記シミュレーション条件情報における不備や異常の有無を含む品質を判定する品質判定部を備え、
前記第一ハッシュ生成部は、前記品質判定部により前記品質に問題がない判定された前記対象オブジェクトの定義情報に基づいて、第一のハッシュを生成する、
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のシミュレーション装置。
【請求項5】
前記レポートに基づいて、第三のハッシュを生成する第三ハッシュ生成部を備え、
前記メタデータ登録部は、前記第三のハッシュについても、前記レポートと関連付けて保管する、
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のシミュレーション装置。
【請求項6】
少なくともユーザのアカウント情報に基づいてキー情報を生成するキー情報生成部を備え、
前記メタデータ登録部は、前記キー情報についても、前記レポートと関連付けて保管する、
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のシミュレーション装置。
【請求項7】
前記レポート生成部は、前記キー情報も含めて前記レポートを作成する、
請求項6に記載のシミュレーション装置。
【請求項8】
前記キー情報に相当する情報を入力し、前記メタデータ登録部により保管されたデータの検索を実行し、前記キー情報と関連付けられている前記レポートを出力するモデル検査部を備える、
請求項6または請求項7に記載のシミュレーション装置。
【請求項9】
前記モデル検査部は、前記レポートに埋め込まれたハッシュを取り出し、保管されているハッシュと突合し、突合結果を出力する
請求項8に記載のシミュレーション装置。
【請求項10】
前記モデル検査部は、前記対象オブジェクトの定義情報及び前記シミュレーション条件情報を入力し、入力された前記対象オブジェクトの定義情報に基づいて前記第一のハッシュ、あるいは、前記第一のハッシュに基づく他のハッシュが生成されている場合には当該他のハッシュを生成し、前記レポートに埋め込まれたハッシュと突合し、突合結果を出力する
請求項8または請求項9に記載のシミュレーション装置。
【請求項11】
前記メタデータ登録部は、樹形図的構造で各データを保管する
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載のシミュレーション装置。
【請求項12】
入力部により、シミュレーションの対象オブジェクトの構造および素材の少なくともいずれか一方を含む対象オブジェクトの定義情報とシミュレーション条件情報との入力を受け付けるステップと、
第一ハッシュ生成部により、前記対象オブジェクトの定義情報に基づいて、第一のハッシュを生成するステップと、
前記対象オブジェクトの定義情報および前記シミュレーション条件情報を用いて前記シミュレーションを実行するステップと、
レポート生成部により、前記シミュレーションの結果に基づいて、前記第一のハッシュを埋め込んだレポートを生成するステップと、
メタデータ登録部により、前記第一のハッシュと、前記レポートとを関連付けて保管するステップと、を備える、
シミュレーション装置の制御方法。
【請求項13】
シミュレーション装置のプログラムであって、前記プログラムは、コンピュータに、
シミュレーションの対象オブジェクトの構造および素材の少なくともいずれか一方を含む対象オブジェクトの定義情報とシミュレーション条件情報との入力を受け付けるステップと、
前記対象オブジェクトの定義情報に基づいて、第一のハッシュを生成するステップと、
前記対象オブジェクトの定義情報および前記シミュレーション条件情報を用いて前記シミュレーションを実行するステップと、
前記シミュレーションの結果に基づいて、前記第一のハッシュを埋め込んだレポートを生成するステップと、
前記第一のハッシュと、前記レポートとを関連付けて保管するステップと、を実行させる、
シミュレーション装置のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シミュレーション装置、シミュレーション装置の制御方法、およびシミュレーション装置のプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業において衝突安全性は非常に重要であり、現在、衝突安全性は、実車実験によって確認されている。実車実験は、自動車メーカ以外の中立的な第三者の立会いの下で行うものであり、ランダムに選択された車両を用いて、人間を想定したマネキンにセンサーを取り付け、このセンサーの出力信号に基づいて評価を行うものである。
【0003】
以上のような実車実験は、非常に高額な費用が必要であり、将来的には衝突安全性に対する要求事項が現在よりも増加することが予想されるため、実験のための費用は、より高額になると考えられている。
【0004】
そこで、実車実験を、詳細な有限要素シミュレーションに置き換えるデジタル認証(バーチャルテスト)に対するニーズが高まりつつある。
【0005】
実車実験に換えてバーチャルテストに基づき評価を行う場合には、シミュレーション結果のデータの真正を保証することが必要となる。例えば、特許文献1では、測定データファイルに基づきハッシュ値を計算し、ハッシュ値を秘密鍵に基づき暗号化したものを署名として前記データファイルに反映させることにより、データの真正性を保証する測定装置に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、デジタル認証を行う場合、評価対象物である実車はなく、中立的な第三者の立会いによる確認もできないため、シミュレーション結果のデータが改ざんされていないことに加えて、正当なシミュレーション対象モデルを使ってシミュレーションされた結果であるかが、結果データの真正性を保証する上で問題となる。
一般に詳細な有限要素モデルは機密事項であり、自動車メーカは、当該有限要素モデルを外部に流出させることがない。その結果、自動車メーカが有限要素モデルを指定し、自動車メーカ自体がシミュレーションを行って、その結果を評価することになる。したがって、自動車メーカが、データを捏造したり、良い結果となるようにデータの改ざんをしたりする恐れがある。これは、デジタル技術の進化が生み出す新たなリスクと考えられている。
【0008】
また、このような問題は、有限要素シミュレーションを用いた衝突安全性評価を行う場合だけでなく、材料特性評価、構造評価、耐震評価、電磁特性など、シミュレーションを用いて評価を行う場合に共通して生じ得る問題である。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、シミュレーションを用いた評価を行う場合に、データの捏造やデータの改ざんを防止することのできるシミュレーション装置、シミュレーション装置の制御方法、およびシミュレーション装置のプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、本発明のシミュレーション装置の第1の態様は、
シミュレーションの対象オブジェクトの構造および素材の少なくともいずれか一方を含む対象オブジェクトの定義情報とシミュレーション条件情報との入力を受け付ける入力部と、
前記対象オブジェクトの定義情報に基づいて、第一のハッシュを生成する第一ハッシュ生成部と、
前記対象オブジェクトの定義情報および前記シミュレーション条件情報を用いて前記シミュレーションを実行する実行部と、
前記シミュレーションの結果に基づいて、前記第一のハッシュを埋め込んだレポートを生成するレポート生成部と、
前記第一のハッシュと、前記レポートとを関連付けて保管するメタデータ登録部と、
を備える、
【0011】
本発明によれば、入力部は、シミュレーションの対象オブジェクトの構造および素材の少なくともいずれか一方を含む対象オブジェクトの定義情報とシミュレーション条件情報との入力を受け付ける。第一ハッシュ生成部は、対象オブジェクトの定義情報に基づいて、第一のハッシュを生成する。そして、実行部は、対象オブジェクトの定義情報およびシミュレーション条件情報を用いてシミュレーションを実行する。レポート生成部は、シミュレーションが実行されると、シミュレーションの結果に基づいて、第一のハッシュを埋め込んだレポートを生成する。メタデータ登録部は、第一のハッシュと、レポートとを関連付けて保管する。したがって、対象モデルの段階での真正確認、およびレポートの段階での真正確認を行うことができ、信頼性の高いデジタル認証が可能なシミュレーション装置を提供することができる。
【0012】
本発明のシミュレーション装置の他の態様においては、
前記シミュレーション条件情報に基づいて、あるいは、前記シミュレーション条件情報および前記第一のハッシュに基づいて、第二のハッシュを生成する第二ハッシュ生成部をさらに備え、
前記レポート生成部は、前記第二ハッシュ生成部が前記シミュレーション条件情報および前記第一のハッシュに基づいて前記第二のハッシュを生成する場合には、前記第一のハッシュに代えて前記第二のハッシュを埋め込んだレポートを生成し、前記第二ハッシュ生成部が前記シミュレーション条件情報に基づいて前記第二のハッシュを生成する場合には、前記第一のハッシュに加えて前記第二のハッシュを埋め込んだレポートを生成し
前記メタデータ登録部は、前記第一のハッシュおよび前記第二のハッシュと、前記レポートとを関連付けて保管しても良い。
本態様によれば、第二ハッシュ生成部は、シミュレーション条件情報に基づいて、あるいは、シミュレーション条件情報および第一のハッシュに基づいて、第二のハッシュを生成することができる。また、レポート生成部は、第二ハッシュ生成部がシミュレーション条件情報および第一のハッシュに基づいて第二のハッシュを生成する場合には、第一のハッシュに代えて第二のハッシュを埋め込んだレポートを生成する。また、レポート生成部は、第二ハッシュ生成部がシミュレーション条件情報に基づいて第二のハッシュを生成する場合には、第一のハッシュに加えて第二のハッシュを埋め込んだレポートを生成する。
前記メタデータ登録部は、前記第一のハッシュおよび前記第二のハッシュと、前記レポートとを関連付けて保管しても良い。そして、メタデータ登録部は、第一のハッシュおよび第二のハッシュと、レポートとを関連付けて保管する。その結果、第二のハッシュが、シミュレーション条件情報および第一のハッシュに基づいて作成される場合には、少なくとも第二のハッシュに基づいて、また、第二のハッシュが、シミュレーション条件情報に基づいて作成される場合には、第一のハッシュに基づいて、もしくは、第一のハッシュと第二のハッシュに基づいて、対象モデルの段階での真正確認、およびレポートの段階での真正確認を行うことができる。したがって、信頼性の高いデジタル認証が可能なシミュレーション装置を提供することができる。
【0013】
本発明のシミュレーション装置の他の態様においては、
前記入力部は、前記対象オブジェクトの定義情報及び前記シミュレーション条件情報が一体となったシミュレーションの前記対象モデルの入力を受け付け可能であり、
前記対象モデルにおいて、前記対象オブジェクトの定義情報と、前記シミュレーション条件情報とを判別する定義情報判別部と、をさらに備えてもよい。
本態様によれば、入力部は、対象オブジェクトの定義情報及びシミュレーション条件情報が一体となったシミュレーションの対象モデルの入力を受け付ける。そして、定義情報判別部は、対象モデルにおいて、対象オブジェクトの定義情報と、シミュレーション条件情報とを判別する。したがって、第一ハッシュ生成部は、定義情報判別部により判別された対象オブジェクトの定義情報に基づいて第一のハッシュを生成することができる。その結果、対象モデルの段階での真正確認、およびレポートの段階での真正確認を行うことができ、信頼性の高いデジタル認証が可能なシミュレーション装置を提供することができる。
【0014】
本発明のシミュレーション装置の他の態様においては、
前記対象モデルにおける不備や異常の有無を含む品質を判定する品質判定部を備え、
前記第一ハッシュ生成部は、前記品質判定部により前記品質に問題がないと判定された前記対象モデルにおける前記定義情報に基づいて、第一のハッシュを生成するようにしても良い。
本態様によれば、第一ハッシュ生成部は、品質判定部により品質に問題がないと判定された対象モデルにおける前記定義情報に基づいて、第一のハッシュを生成するので、より一層信頼性の高いデジタル認証が可能なシミュレーション装置を提供することができる。
【0015】
本発明のシミュレーション装置の他の態様においては、
前記レポートに基づいて、第三のハッシュを生成する第三ハッシュ生成部を備え、
前記メタデータ登録部は、前記第三のハッシュについても、前記レポートと関連付けて保管してもよい。
本態様によれば、レポートの検査が行われる際には、検査対象のレポートは、保管されたレポートおよび当該レポートと関連付けられた第三のハッシュと比較することができるので、より一層信頼性の高いデジタル認証が可能なシミュレーション装置を提供することができる。
【0016】
本発明のシミュレーション装置の他の態様においては、
少なくともユーザのアカウント情報に基づいてキー情報を生成するキー情報生成部を備え、
前記メタデータ登録部は、前記キー情報についても、前記レポートと関連付けて保管してもよい。
本態様によれば、キー情報も含めてレポートと関連付けて保管されるので、レポートの検査が行われる際には、検査対象のレポートは、保管されたレポートおよび当該レポートと関連付けられたキー情報と比較することができるので、より一層信頼性の高いデジタル認証が可能なシミュレーションシステムを提供することができる。
【0017】
本発明のシミュレーション装置の他の態様においては、
前記レポート生成部は、前記キー情報も含めて前記レポートを作成してもよい。
本態様によれば、レポートの検査が行われる際には、検査対象のレポートは、キー情報も含めて、保管されたレポートと比較することができるので、より一層信頼性の高いデジタル認証が可能なシミュレーションシステムを提供することができる。
【0018】
本発明のシミュレーション装置の他の態様においては、
前記キー情報に相当する情報を入力し、前記メタデータ登録部により保管されたデータの検索を実行し、前記キー情報と関連付けられている前記レポートを出力するモデル検査部を備えてもよい。
本態様によれば、モデル検査部は、レポートについての検査が行われる際には、キー情報に相当する情報を入力し、メタデータ登録部により保管されたデータの検索を実行して、キー情報と関連付けられているレポートを出力する。したがって、信頼性の高いレポートの検査が可能となり、より一層信頼性の高いデジタル認証が可能なシミュレーションシステムを提供することができる。
【0019】
本発明のシミュレーション装置の他の態様においては、
前記モデル検査部は、前記レポートに埋め込まれたハッシュを取り出し、保管されているハッシュと突合し、突合結果を出力してもよい。
本態様によれば、モデル検査部は、レポートについての検査が行われる際には、検査の対象となるレポートから、当該レポートに埋め込まれたハッシュを取り出し、保管されているハッシュと突合する。したがって、信頼性の高いレポートの検査が可能となり、より一層信頼性の高いデジタル認証が可能なシミュレーションシステムを提供することができる。
【0020】
本発明のシミュレーション装置の他の態様においては、
前記モデル検査部は、前記対象モデルを入力し、入力された前記対象モデルに基づいて前記第一のハッシュあるいは、前記第一のハッシュに基づく他のハッシュが生成されている場合には当該他のハッシュを生成し、前記レポートに埋め込まれたハッシュと突合し、突合結果を出力してもよい。
本態様によれば、モデル検査部は、対象モデルについての検査が行われる際には、検査の対象となる対象モデルに基づいて、第一のハッシュ、あるいは、第一のハッシュに基づく他のハッシュが生成されている場合には当該他のハッシュを生成し、保管されたレポートに埋め込まれたこれらのハッシュと突合し、突合結果を出力する。したがって、信頼性の高い対象モデルの検査が可能となり、より一層信頼性の高いデジタル認証が可能なシミュレーションシステムを提供することができる。
【0021】
本発明のシミュレーション装置の他の態様においては、
前記メタデータ登録部は、樹形図的構造で各データを保管してもよい。
本態様によれば、メタデータ登録部は、樹形図的構造で各データを保管するので、レポートの検査や対象モデルについての検査が行われる場合に、保管されたレポート等のデータを把握しやすくなる。したがって、正確性の高い検査が可能となり、より一層信頼性の高いデジタル認証が可能なシミュレーションシステムを提供することができる。
【0022】
上述の課題を解決するために、本発明のシミュレーション装置の制御方法の第1の態様は、
入力部により、シミュレーションの対象オブジェクトの構造および素材の少なくともいずれか一方を含む対象オブジェクトの定義情報とシミュレーション条件情報との入力を受け付けるステップと、
第一ハッシュ生成部により、前記対象オブジェクトの定義情報に基づいて、第一のハッシュを生成するステップと、
前記対象オブジェクトの定義情報および前記シミュレーション条件情報を用いて前記シミュレーションを実行するステップと、
レポート生成部により、前記シミュレーションの結果に基づいて、前記第一のハッシュを埋め込んだレポートを生成するステップと、
メタデータ登録部により、前記第一のハッシュと、前記レポートとを関連付けて保管するステップと、を備える。
【0023】
本発明によれば、入力部は、シミュレーションの対象オブジェクトの構造および素材の少なくともいずれか一方を含む対象オブジェクトの定義情報とシミュレーション条件情報との入力を受け付ける。第一ハッシュ生成部は、対象オブジェクトの定義情報に基づいて、第一のハッシュを生成する。そして、実行部は、対象オブジェクトの定義情報およびシミュレーション条件情報を用いてシミュレーションを実行する。レポート生成部は、シミュレーションが実行されると、シミュレーションの結果に基づいて、第一のハッシュを埋め込んだレポートを生成する。メタデータ登録部は、第一のハッシュと、レポートとを関連付けて保管する。したがって、対象モデルの段階での真正確認、およびレポートの段階での真正確認を行うことができ、信頼性の高いデジタル認証が可能なシミュレーション結果を提供することができる。
【0024】
上述の課題を解決するために、本発明のシミュレーション装置のプログラムの第1の態様は、
シミュレーション装置のプログラムであって、前記プログラムは、コンピュータに、
シミュレーションの対象オブジェクトの構造および素材の少なくともいずれか一方を含む対象オブジェクトの定義情報とシミュレーション条件情報との入力を受け付けるステップと、
前記対象オブジェクトの定義情報に基づいて、第一のハッシュを生成するステップと、
前記対象オブジェクトの定義情報および前記シミュレーション条件情報を用いて前記シミュレーションを実行するステップと、
前記シミュレーションの結果に基づいて、前記第一のハッシュを埋め込んだレポートを生成するステップと、
前記第一のハッシュと、前記レポートとを関連付けて保管するステップと、を実行させる。
【0025】
本発明によれば、コンピュータは、対象オブジェクトの構造および素材の少なくともいずれか一方を含む対象オブジェクトの定義情報とシミュレーション条件情報との入力を受け付ける。また、コンピュータは、対象オブジェクトの定義情報に基づいて、第一のハッシュを生成する。そして、コンピュータは、対象オブジェクトの定義情報およびシミュレーション条件情報を用いてシミュレーションを実行する。コンピュータは、シミュレーションが実行されると、シミュレーションの結果に基づいて、第一のハッシュを埋め込んだレポートを生成する。そして、コンピュータは、第一のハッシュと、レポートとを関連付けて保管する。したがって、対象モデルの段階での真正確認、およびレポートの段階での真正確認を行うことができ、信頼性の高いデジタル認証が可能なシミュレーション結果を提供することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、対象モデルの段階での真正確認、およびレポートの段階での真正確認を行うことができ、信頼性の高いデジタル認証が可能なシミュレーションシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係る第1実施形態のシミュレーションシステムの概略構成を示す図である。
【
図2】第1実施形態のシミュレーションシステムの機能ブロックを示す図である。
【
図3】第1実施形態のシミュレーションシステムにおけるデータの流れを示すブロック図である。
【
図4】第1実施形態のシミュレーションシステムにおける対象モデルチェック用プログラムの動作の流れを示すフローチャートである。
【
図5】第1実施形態のシミュレーションシステムにおける第一のハッシュおよび第二のハッシュの生成過程を示す図である。
【
図6】第1実施形態のシミュレーションシステムにおける対象モデルの具体例を示す図である。
【
図7】第1実施形態のシミュレーションシステムにおける有限要素シミュレーションプログラムの動作の流れを示すフローチャートである。
【
図8】第1実施形態のシミュレーションシステムにおける第一のハッシュおよび第二のハッシュの保管方法を説明するための図である。
【
図9】本発明に係る第2実施形態のシミュレーションシステムにおける第一のハッシュおよび第二のハッシュ並びに結果のハッシュの生成過程を示す図である。
【
図10】第2実施形態のシミュレーションシステムにおける第一のハッシュおよび第二のハッシュ並びに結果のハッシュの保管方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係るシミュレーションシステムについて、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態においては、車両の衝突安全性の評価に有限要素シミュレーションを用いた態様を例にして説明を行う。
図1は、本実施形態に係るシミュレーションシステム100の概略構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態のシミュレーションシステム100は、シミュレーション装置110と、およびシミュレーション装置110にインターネット等のネットワーク200を介して接続されるサーバ120とを備えている。シミュレーション装置110は、
図1に示すように、中央演算装置1、表示装置2、記憶装置3、入力装置4、出力装置5、および通信装置6を備えている。
【0029】
中央演算装置1は、パーソナルコンピュータ等のプログラムを実行可能な装置であり、CPUおよびメモリ等を含む。表示装置2は、液晶ディスプレイ等の文字および画像を表示可能な装置である。記憶装置3は、HDD(Hard Disk Drive)等のプログラムおよびデータを記憶可能な装置であり、外部のサーバ等を用いてもよい。本発明のプログラムは、記憶装置3に格納されているものとする。入力装置4は、キーボード等のユーザによるデータまたは指示入力が可能な装置である。出力装置5は、プリンタ等の文字および画像を出力可能な装置である。本実施形態のシミュレーションシステム100においては、出力装置5は省略してもよい。通信装置6は、ネットワーク200を介して、サーバ120や、他の装置との通信を可能するインタフェースである。
【0030】
サーバ120は、後述するメタデータや、シミュレーションの結果としてのレポートの保管先として用いられている。但し、本発明は、メタデータやレポートの保管先は、必ずしもサーバである必要はなく、HDD(Hard Disk Drive)等のローカルなストレージでもよいし、また、クラウドサーバーでもよいし、もしくは、ブロックチェーンなどのネットワークでもよい。
【0031】
図2は、シミュレーション装置110の中央演算装置1が本発明のプログラムを実行することにより機能する機能ブロックを示す図である。
図2に示すように、中央演算装置1は制御部10として機能する。また、制御部10は、本発明のプログラムに応じて、入力部11、定義情報判別部12、第一ハッシュ生成部13、第二ハッシュ生成部14、実行部15、埋め込み部16、レポート生成部17、サーバ登録部19、品質判定部20、メタデータ登録部21、およびキー情報生成部22として機能する。
【0032】
本実施形態では、シミュレーション装置110において、本発明のプログラムが実行可能となっている。本発明のプログラムは、大きく分けて、対象モデルチェック機能と、衝突安全性評価用の有限要素シミュレーション機能と、モデル検査機能との3種類の機能を備えている。
【0033】
入力部11は、シミュレーション装置110において対象モデルチェック機能を実行した場合には、有限要素シミュレーションの対象となる対象モデルを入力する。対象モデルの入力は、例えば、ユーザが対象モデルのファイルを指定する等により行われる。対象モデルは、後述するように、対象オブジェクトの構造および素材の少なくともいずれか一方を含む対象オブジェクトの定義情報と、シミュレーション条件情報とを含む。また、入力部11は、シミュレーション装置110において有限要素シミュレーション機能を実行した場合には、ユーザアカウントを入力する。ユーザアカウントの入力は、ユーザがキーボード等によりユーザアカウントの文字列を押下すること等により行われる。IDカードや生体認証によるアクセスを受け付け、該当するアカウント情報が入力されるように構成されていてもよい。
【0034】
定義情報判別部12は、シミュレーション装置110において対象モデルチェック機能を実行した場合に、入力された対象モデルのうち、上述した対象オブジェクトの定義情報と、シミュレーション条件情報とを判別する。但し、本発明においては、定義情報判別部12は必須ではなく、例えば、対象モデルにおいて、対象オブジェクトの定義情報と、シミュレーション条件情報とが予め分けて定義されていてもよい。
【0035】
第一ハッシュ生成部13は、シミュレーション装置110において対象モデルチェック機能を実行した場合に、上述のようにして判別された対象オブジェクトの定義情報に基づいて、第一のハッシュを生成する。第一のハッシュの生成についての詳細については後述する。
【0036】
シミュレーション装置110において対象モデルチェック機能を実行し、対象モデルのチェックが終了すると、チェックが終了した対象モデルは、認証済み対象モデルとして、上述のように生成された第一のハッシュと共に、内部的に有限要素シミュレーション機能に受け渡される。
【0037】
第二ハッシュ生成部14は、シミュレーション装置110において有限要素シミュレーション機能を実行した場合に、第一のハッシュと、認証済み対象モデルのうちのシミュレーション条件情報とから、第二のハッシュを生成する。第二のハッシュの生成についての詳細については後述する。
【0038】
実行部15は、シミュレーション装置110において有限要素シミュレーション機能を実行した場合に、認証済み対象モデルを用いて、衝突安全性評価用の有限要素シミュレーションを実行する。
【0039】
埋め込み部16は、シミュレーション装置110において有限要素シミュレーションプログラムを起動させた場合に、実行部15によるシミュレーション結果に、第一のハッシュおよび第二のハッシュを埋め込む。
【0040】
レポート生成部17は、シミュレーション装置110において有限要素シミュレーション機能を実行した場合に、第一のハッシュおよび第二のハッシュが埋め込まれたシミュレーション結果に基づいて、レポートを作成する。
【0041】
サーバ登録部19は、シミュレーション装置110において有限要素シミュレーション機能を実行した場合に、レポートをサーバ120に保管する。
【0042】
品質判定部20は、入力した対象モデルに不備や不自然な点がないかどうかをチェックする。不備や不自然な点には、例えば、数値計算モデルにおいて、鉄がプラスチックほど軽い、あるいは、クッションがあり得ないほど硬いといった、実際にはあり得ない特性が定義されていること等が含まれる。
【0043】
メタデータ登録部21は、後述するキー、第一のハッシュ、および第二のハッシュをメタデータとしてサーバ120に保管する。
【0044】
キー情報生成部22は、ユーザが入力するユーザアカウントと、検査日時等のデータから、キーを生成する。
【0045】
次に、本実施形態における動作の概略を、
図3ないし
図8を参照しつつ説明する。
図3に示すように、本実施形態においては、本発明のプログラムには、シミュレーション装置110において実行される対象モデルチェック機能、および衝突安全性評価用の有限要素シミュレーション機能が含まれている。
【0046】
<対象モデルチェック機能>
まず、本実施形態における対象モデルチェック機能の動作を、
図3ないし
図5を参照しつつ説明する。シミュレーション装置110において対象モデルチェック機能を実行すると、シミュレーション装置110の入力部11により、対象モデルの入力が可能な状態となっている。
【0047】
対象モデルとは、有限要素モデリング(Finite Element Modeling:FEM)で作成されたモデルであり、有限要素シミュレーションでは、この対象モデルの解析を行う。
図5に対象モデル220の概略構成例を示す。
図5に示すように、対象モデル220は、対象オブジェクトの定義情報201と、シミュレーション条件情報202とを含む。
【0048】
対象オブジェクトの定義情報201は、対象オブジェクトの構造および素材の少なくともいずれか一方を定義する情報であり、製品仕様と同義であって、製品として実体化されるものを表す。この対象オブジェクトの定義情報201の内容は、シミュレーションの結果を大きく左右するものであり、信頼性の高いデジタル認証を行うためには、対象オブジェクトの定義情報201のデータの捏造やデータの改ざんを防ぐ必要がある。つまり、対象オブジェクトの定義情報201は、変わってはいけない情報である。
【0049】
シミュレーション条件情報202は、対象オブジェクトの状態・周辺状況・環境等、シミュレーションのための条件設定をする情報である。したがって、シミュレーション条件情報202は、対象オブジェクトの定義情報201とは異なり、シミュレーションごとに様々に変わる情報である。
【0050】
以上のような対象モデル220は、例えば、シミュレーション装置110の記憶装置3に予め保存されており、ユーザが、保存された対象モデル220を指定すると、シミュレーション装置110の入力部11は、対象モデル220の入力を行う(
図4:ステップS1)。
【0051】
シミュレーション装置110の品質判定部20は、入力した対象モデル220に形式上の不備や範囲外の値や組み合わせ等の不自然な点がないかどうかをチェックする(
図4:ステップS2)。データチェックの結果、対象モデル220にエラーが検出された場合には(
図4:ステップS3;YES)、例えば、シミュレーション装置110の表示装置2にエラーが発生した旨を表示して、対象モデルチェック用プログラムを終了する。
【0052】
しかし、データチェックの結果、対象モデル220にエラーが検出されなかった場合には(
図4:ステップS3;NO)、シミュレーション装置110の定義情報判別部12は、対象モデル220のうち、対象オブジェクトの定義情報201の判別を行う(
図4:ステップS4)。
【0053】
対象モデル220においては、対象オブジェクトの定義情報201と、シミュレーション条件情報202とを、明確に切り分けることが可能となっている。
図6に、対象モデル220の具体例を示す。
図6に示すように、対象オブジェクトの定義情報201は、*MAT_PIECEWISE_LINEAR_PLASTICITYや*NODEのようなキーワードが記載されている。キーワードが*MAT_であればマテリアル、*NODEであれば節点に関する記述がここから始まるという合図となっている。なお、キーワードが*MAT_の場合、*MAT_以降には、PIECEWISE_LINEAR_PLASTICITY、ELASTIC、あるいは_OGDEN_RUBBER等が存在し、これらはマテリアルの「タイプ」と呼ばれている。キーワードが*MAT_であれば、使用される材料について、鉄やプラスチックといった物質特性を定義している。キーワードが*NODEの場合には、節点の情報を定義している。数値計算手法である有限要素解析は、節点を空間上に配置し、それらを結んで要素(三角形や四角形)を作る。それをさらに繋げて実際に存在する物体を空間上に形成する。
【0054】
本実施形態においては、判別用の設定ファイルが、予め記憶装置3に保存されており、その設定ファイルには、例えば、*MAT_で始まるマテリアルの情報と、*NODEの番号が20万番台である情報が、対象オブジェクトの定義情報201であることが記載されている。キーワードが*NODEの場合には、*NODEの番号と、X座標、Y座標、Z座標が1行にまとめられている。
【0055】
定義情報判別部12は、判別用の設定ファイルを参照することにより、対象モデル220のうち、対象オブジェクトの定義情報201の部分を判別する。
【0056】
次に、シミュレーション装置110の第一ハッシュ生成部13は、上述のようにして判別された対象オブジェクトの定義情報201に基づいて、第一のハッシュを生成する(
図4:ステップS5)。図式化すると、
図5に示すように、対象モデル220のうち、対象オブジェクトの定義情報201から、第一のハッシュ203が生成される。
【0057】
第一のハッシュは、任意のタイプのハッシュ化関数を用いて、生成することができる。第一ハッシュ生成部13は、ハッシュ化関数を使用して、任意長のデータを異なる長さにマッピングする。なお、ハッシュの生成には、様々なハッシュ化アルゴリズムが存在しており、本実施形態においても、それらを使用して対象オブジェクトの定義情報201のデータを異なる形態に翻訳できる。
【0058】
そして、品質判定部20は、上述のようにしてデータチェックが終了した対象モデルを認証済み対象モデル204とし、第一のハッシュ203と共に出力する(
図4:ステップS6)。例えば、品質判定部20は、認証済み対象モデル204と、第一のハッシュ203とを記憶装置3に保存する。
【0059】
図3に示すように、認証済み対象モデル204と第一のハッシュ203は、対象モデルチェック機能から有限要素シミュレーション機能に受け渡され、有限要素シミュレーション機能において利用される。
【0060】
<有限要素シミュレーション機能>
まず、本実施形態における、車両の衝突安全性評価用の有限要素シミュレーション機能の動作を、
図3、
図5、
図7、および
図8を参照しつつ説明する。シミュレーション装置110において有限要素シミュレーション機能を実行すると、シミュレーション装置110の入力部11により、ユーザアカウントの入力が可能な状態となっている。
【0061】
ユーザが、キーボード等を用いてユーザアカウントを打ち込むと、シミュレーション装置110の入力部11は、ユーザアカウントを入力する(
図7:ステップS10)。また、この時、入力部11は、シミュレーション装置110におけるカレンダーおよび時計情報についても取得する。
【0062】
図3に示すように、ユーザアカウント205が入力されると、シミュレーション装置110のキー情報生成部22は、カレンダーおよび時計情報に基づく検査・品質確認日時情報と、ユーザアカウント205とに基づいて、キー206を生成する(
図7:ステップS11)。
【0063】
シミュレーション装置110のメタデータ登録部21は、
図3に示すように、生成したキー206を、後述する第二のハッシュ207および上述した第一のハッシュ203と共に、メタデータ209として、サーバ120に登録する。また、キー206は、後述するように、レポート生成時に参照されてシミュレーション結果と共にサーバ120に保管される。
【0064】
一方、シミュレーション装置110の第二ハッシュ生成部14は、記憶装置3に保存されている認証済み対象モデル204と第一のハッシュ203とを読み込み、前処理を行う(
図7:ステップS12)。対象モデルには、条件が異なることで変わっても問題ない箇所と、条件が異なっても変わってはいけない箇所が含まれている。そこで、第二のハッシュの生成の際に、前記変わっても問題ない箇所を参照しないように、前記変わっても問題ない箇所を、第二のハッシュの生成対象から除外する処理が必要となる。本実施形態では、この処理を前処理と呼んでいる。
【0065】
次に、第二ハッシュ生成部14は、認証済み対象モデル204に基づいて、第二のハッシュ207を生成する(
図7:ステップS13)。図式化すると、
図5に示すように、第一のハッシュ203と、対象モデル220のうち、シミュレーション条件情報202とから、第二のハッシュ207が生成される。なお、
図5に示す例では、第一のハッシュ203とシミュレーション条件情報202とから第二のハッシュ207を生成する態様について示したが、本発明はこのような態様に限定される訳ではない。例えば、第一のハッシュ203と、対象モデル220の全体とから第二のハッシュ207を生成してもよい。さらに、第一のハッシュ203と、対象モデル220の全体のハッシュとから、第二のハッシュ207を生成してもよい。あるいは、シミュレーション条件情報202のみから第二のハッシュ207を生成してもよい。
【0066】
第二のハッシュは、第一のハッシュと同様に、任意のタイプのハッシュ化関数を用いて、生成することができる。第二ハッシュ生成部14は、ハッシュ化関数を使用して、任意長のデータを異なる長さにマッピングする。なお、ハッシュの生成には、様々なハッシュ化アルゴリズムが存在しており、本実施形態においても、それらを使用して、第一のハッシュ203とシミュレーション条件情報202のデータを異なる形態に翻訳できる。
【0067】
メタデータ登録部21は、
図3に示すように、このようにして生成された第二のハッシュ207を、第一のハッシュ203、およびキー206と共にメタデータ209として、サーバ120に保管する。
【0068】
この際、メタデータ登録部21は、第一のハッシュ203と第二のハッシュ207とを相互に関連づけて安全に保管する。相互に関連付けて安全に保管する手段としては、ブロックチェーンを利用することが考えられる。例えば、シミュレーション条件が異なると、シミュレーション条件情報202の内容も異なることになるが、
図8に示すように、共通の対象オブジェクトの定義情報201に基づいて生成された第一のハッシュ203と、当該第一のハッシュ203とシミュレーション条件情報202とから生成された第二のハッシュ207については、例えばブロックチェーンを用いて相互に関連づけて安全に保管する。
【0069】
なお、メタデータ登録部21は、例えば
図10に示すように、樹形図的構造で各データを保管する。
【0070】
図8に示す例では、第一のハッシュ203Aに対して、第二のハッシュ207Aa、第二のハッシュ207Ab、および第二のハッシュ207Acが相互に関連づけられている。また、第一のハッシュ203Bに対して、第二のハッシュ207Ba、および第二のハッシュ207Bbが相互に関連づけられている。
【0071】
次に、シミュレーション装置110の実行部15は、認証済み対象モデル204を用いて、衝突安全性評価用の有限要素シミュレーションを実行する(
図7:ステップS14)。なお、このシミュレーションの実行には、数時間から数十時間を要する。
【0072】
シミュレーションが終了すると、シミュレーション装置110の埋め込み部16は、シミュレーションの結果208に、第一のハッシュ203と、第二のハッシュ207を埋め込む(
図7:ステップS15)。データの流れは、
図3に示すようになる。
【0073】
そして、シミュレーション装置110のレポート生成部17は、第一のハッシュ203と第二のハッシュ207が埋め込まれたシミュレーションの結果208に基づいて、レポートを生成する(
図7:ステップS16)。シミュレーション結果はあくまで数値データが羅列されているだけなので、このようなシミュレーション結果を、グラフやスクリーンショットにする等、人が判断できるように、指定されたフォーマットで作成された出力物を作成する必要がある。本実施形態では、このような出力物をレポートと表現している。本実施形態では、レポートにも、第一のハッシュ203と第二のハッシュ207が埋め込まれている。
【0074】
レポートが生成されると、シミュレーション装置110のサーバ登録部19は、上述のように生成されたレポート210と、キー206と、第一のハッシュ203と、第二のハッシュ207とを、それぞれ関連付けてサーバ120に保管する処理を行う(
図7:ステップS17)。
【0075】
このような登録処理が行われると、サーバ120にインストールされているチェックプログラムは、メタデータとして登録されているキー206、第一のハッシュ203および第二のハッシュ207と、レポート210と共に登録処理が行われたキー206、第一のハッシュ203および第二のハッシュ207とが一致するかどうかを判定する。このチェックプログラムは、シミュレーション実行前に作成されたハッシュが、正しく計算結果に含まれているかどうかをチェックするプログラムである。このチェックプログラムは、サーバ120上で実行するようにしてもよいし、サーバ120への保管前に、シミュレーション装置110で実行するようにしてもよい。
【0076】
本実施形態では、これらのキー206、第一のハッシュ203および第二のハッシュ207が一致しないと、サーバ120への保管は行われないように設定されている。
【0077】
<評価処理>
次に、以上のようにしてサーバ120に登録されたレポートの評価処理について説明する。
図3に示すように、評価者は、サーバ120とインターネット等を介して通信可能な情報処理装置300を使用して評価を行う。
【0078】
まず、評価者は、ユーザアカウントと検査日時のデータ301を情報処理装置300に入力する。この際に入力するユーザアカウントは、シミュレーションを実行する際に入力したユーザアカウント205と同じユーザアカウントである。評価者は、例えば、シミュレーションを実行する製造メーカ等とは別の第三者機関であり、シミュレーションに用いるデータにアクセスする権限を有している。したがって、この第三者機関は、シミュレーションを実行する際には、シミュレーション装置110にユーザアカウント205を入力し、評価の際には、ユーザアカウント205と同一のユーザアカウントを情報処理装置300に入力する。
【0079】
情報処理装置300は、ユーザアカウントと検査日時のデータ301に基づいて、キー302を生成し、このキー302に基づいて、サーバ120におけるレポートの検索を実行する。サーバ120は、キー302と一致するキー206と関連付けられているレポート210が存在すると判定した場合には、当該レポート210を、キー206および第二のハッシュ207と共に、情報処理装置300に出力する。
【0080】
このようにして、評価者は、キー302で検索したレポート210をダウンロードすることができ、正統性が担保されたレポート210のファイルを入手することができる。
【0081】
<真正確認手続きの処理>
次に、真正確認手続きの処理について説明する。評価者が、シミュレーションの結果に怪しい点があると判断した場合には、モデル検査を要求する。モデル検査は、オフライン(実地検査)で行うようにしてもよいし、オンラインで行うようにしてもよい。また、モデル検査は、情報処理装置300において行うようにしてもよいし、シミュレーション装置110において行うようにしてもよい。いずれの場合も、情報処理装置300に備えられた中央演算装置またはシミュレーション装置110に備えられた中央演算装置1を、モデル検査部として機能させる。
【0082】
モデル検査部は、モデル検査を実行する際には、キー206に相当する情報を入力し、メタデータ登録部21によりサーバ120に保管されたデータの検索を実行する。そして、入力されたキー206と関連付けられているレポート210を出力する。
【0083】
また、モデル検査部は、検査対象となっているレポート210に埋め込まれたハッシュを取り出し、当該ハッシュと、サーバ120に保管されているハッシュとを突合し、突合結果を出力するようにしてもよい。
【0084】
さらに、モデル検査部は、検査の対象となっている対象モデルを入力し、入力された対象モデルに基づいて第一のハッシュおよび第二のハッシュを生成し、当該ハッシュと、サーバ120に保管されているレポート210または検査対象のレポート210に埋め込まれたハッシュとを突合し、突合結果を出力するようにしてもよい。
【0085】
このようにして、第一のハッシュおよび第二のハッシュを確認することにより、真正な対象モデル220に基づいてレポートが生成されたかどうかを確認することができる。
【0086】
以上のように、本実施形態によれば、製造メーカ等にとっては機密事項であり、外部には流出させない有限要素シミュレーションの対象モデルを用いてデジタル認証を行う場合でも、データの捏造やデータの改ざんを防ぐことができ、信頼性の高いデジタル認証が可能なシミュレーション装置を提供することが可能になる。
【0087】
特に、本発明は、認証された対象モデルをハッシュ化する仕組みを備えているため、信頼性の高いデジタル認証が可能なシミュレーション装置を提供することができる。
【0088】
また、変わってはいけない対象オブジェクトの定義情報を第一のハッシュとしてハッシュ化した上で、変わっても良いシミュレーション条件情報と前記第一のハッシュとに基づく第二のハッシュの生成を行うので、乗員の種類や、車体速度条件が異なる複数のシミュレーションにおいても、信頼性の高いデジタル認証が可能なシミュレーション装置を提供することができる。
【0089】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図9および
図10を参照しつつ説明する。
【0090】
第1実施形態においては、対象オブジェクトの定義情報201から第一のハッシュ203を生成し、その第一のハッシュ203と、シミュレーション条件情報202または対象モデル220の全体もしくは対象モデル220の全体のハッシュとから、第二のハッシュ207を生成する態様について説明した。
【0091】
しかし、本発明はこのような態様に限定される訳ではなく、さらにシミュレーションの結果であるレポート210を用いて、結果のハッシュ211を生成するようにしてもよい。
【0092】
図9に示すように、第一のハッシュ203の生成と、第二のハッシュ207の生成までは、第1実施形態と同様である。しかし、本実施形態では、第三ハッシュ生成部を備え、第三ハッシュ生成部は、第二のハッシュ207と、シミュレーションの結果であるレポート210の全体とから結果のハッシュ211を生成する。
【0093】
また、第三ハッシュ生成部は、第二のハッシュ207と、レポート210の全体のハッシュとから、結果のハッシュ211を生成する。
【0094】
さらに、シミュレーションの結果であるレポート210に、第一のハッシュ203および/または第二のハッシュ207を埋め込み、このレポート210の全体またはレポート210の全体のハッシュと、第二のハッシュ207とから、結果のハッシュ211を生成するようにしてもよい。
【0095】
また、シミュレーションの結果であるレポート210に、シミュレーションプログラムのバージョンなどに対応するハッシュを埋め込み、このレポート210の全体またはレポート210の全体のハッシュと、第二のハッシュ207とから、結果のハッシュ211を生成するようにしてもよい。
【0096】
以上のようにして生成した結果のハッシュ211は、第一のハッシュ203および第二のハッシュ207と、例えばブロックチェーンを用いて相互に関連づけて安全に格納する。
【0097】
図10に示す例では、第一のハッシュ203Aに対して、第二のハッシュ207Aa、第二のハッシュ207Ab、および第二のハッシュ207Acが相互に関連づけられており、さらに、第二のハッシュ207Aaには結果のハッシュ211AaRが相互に関連付けられ、第二のハッシュ207Abには結果のハッシュ211AbR1,211AbR2,211AbR3が相互に関連付けられている。ここで、結果のハッシュが三種類生成されているのは、ロバスト性を考慮したものであり、条件が少し異なっても性能が大きく下がっていないかどうかを評価するために、三種類のシミュレーション結果を生成し、それぞれのシミュレーション結果のハッシュを作成したものである。例えば、第二のハッシュが同じでも、例えば、車両の速度を少し変えた場合の三種類のシミュレーション結果についてのハッシュであることを示している。
【0098】
また、
図10に示すように、シミュレーションの結果であるレポート210自体を、結果のハッシュ211と関連付けて保存するようにしてもよい。
【0099】
以上のように本実施形態によれば、第一のハッシュおよび/または第二のハッシュの比較だけでなく、結果のハッシュを比較することができるので、より一層信頼性の高いデジタル認証が可能なしステムを提供することができる。
【0100】
(変形例)
以上の実施形態は例示であり、この発明の範囲から離れることなく様々な変形が可能である。上述した実施形態においては、一例として、車両の衝突安全性の評価に有限要素シミュレーションを用いた態様について説明したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、材料特性評価、構造評価、耐震評価、電磁特性評価など、シミュレーションで評価するものならば、どのような評価にも適用可能である。
【0101】
上述した実施形態では、対象モデル220のうち、対象オブジェクトの定義情報201から、第一のハッシュ203を生成し、また、第一のハッシュ203と、対象モデル220のうち、シミュレーション条件情報202とから、第二のハッシュ207を生成した。また、これらの第一のハッシュ203と第二のハッシュ207は、メタデータ登録部21により、相互に関連づけられて保管し、レポートには、第一のハッシュ203と第二のハッシュ207が埋め込んだ。このような態様においては、モデル検査部は、検査の対象となっている対象モデルを入力し、入力された対象モデルに基づいて第一のハッシュおよび第二のハッシュを生成し、当該ハッシュと、サーバ120に保管されているレポート210または検査対象のレポート210に埋め込まれたハッシュとを突合し、突合結果を出力する。
【0102】
しかしながら、本願発明は、このような態様に限定されるものではない。例えば、レポートには第二のハッシュ207のみを埋め込み、モデル検査部は、検査の対象となっている対象モデルを入力し、入力された対象モデルに基づいて第二のハッシュを生成し、当該第二のハッシュと、サーバ120に保管されているレポート210または検査対象のレポート210に埋め込まれた第二のハッシュとを突合し、突合結果を出力するようにしてもよい。このようにしても、第二のハッシュ207には、第一のハッシュ203の情報が含まれているので、第二のハッシュを確認することにより、真正な対象モデル220に基づいてレポートが生成されたかどうかを確認することができる。
【0103】
また、第二のハッシュ207は、第一のハッシュ203の情報を含まず、シミュレーション条件情報202から生成してもよい。この場合には、レポートには第一のハッシュと第二のハッシュ207を埋め込む。そして、モデル検査部は、検査の対象となっている対象モデルを入力し、入力された対象モデルに基づいて第一のハッシュと第二のハッシュを生成し、当該第一のハッシュおよび第二のハッシュと、サーバ120に保管されているレポート210または検査対象のレポート210に埋め込まれた第一のハッシュおよび第二のハッシュとを突合し、突合結果を出力するようにしてもよい。このようにしても、真正な対象モデル220に基づいてレポートが生成されたかどうかを確認することができる。
【0104】
さらに、レポートには第一のハッシュのみを埋め込み、モデル検査部は、検査の対象となっている対象モデルを入力し、入力された対象モデルに基づいて第一のハッシュを生成し、当該第一のハッシュと、サーバ120に保管されているレポート210または検査対象のレポート210に埋め込まれた第一のハッシュとを突合し、突合結果を出力するようにしてもよい。このようにしても、真正な対象モデル220に基づいてレポートが生成されたかどうかを確認することができる。
【0105】
このように、レポートの出自を明らかにするためには、レポートに埋め込むのは第一のハッシュだけでもよい。これは、第一のハッシュから、
図10に示すような樹形をたどれば、レポートの特定や改ざんの有無鑑定は可能だからである。
【0106】
以上のように、本発明によれば、例えば悪意をもって特性を修正して性能が高いことが分かっている第一のモデルを使った第一の計算結果と、通常特性の第二のモデルとをセットで提出して、第二のモデルを使用して第一の計算結果が得られたので、高い評価をしてほしい旨の申請があった場合でも不正を防ぐことができる。つまり、本発明によれば、第一の計算結果に基づいて、対象モデルのハッシュの確認が可能なので、前記第二のモデルが、前記第一の計算結果を得る際に用いた対象モデルではないことを確実に判別することが可能となる。
【0107】
また、本発明は、対象モデルの改ざん等だけでなく、評価結果の改竄や捏造の防止をすることができる。例えば、こうした評価結果の改竄や捏造の方法としては、不正なモデルを使用する場合、不適切なプログラムで評価を実行する場合、評価結果自体を改変する場合などが想定される。しかしながら、本発明によれば、これらの不正をできなくし、一連のプロセスの整合性を保証することができる。
【0108】
以上の態様に係るシミュレーション装置のプログラムは、コンピュータが読取可能な記録媒体に格納された形態で提供されてコンピュータにインストールされ得る。記録媒体は、例えば非一過性(non-transitory)の記録媒体であり、CD-ROM等の光学式記録媒体が好例であるが、半導体記録媒体や磁気記録媒体等の公知の任意の形式の記録媒体を包含し得る。なお、通信網を介した配信の形態で前述のプログラムを提供してコンピュータにインストールすることも可能である。
【0109】
以上、本発明の実施形態に係るシミュレーション装置、シミュレーション装置の制御方法、およびシミュレーション装置のプログラムについて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0110】
10 制御部
11 入力部
12 定義情報判別部
13 第一ハッシュ生成部
14 第二ハッシュ生成部
15 実行部
16 埋め込み部
17 レポート生成部
19 サーバ登録部
21 メタデータ登録部
22 キー情報生成部
100 シミュレーションシステム
110 シミュレーション装置
120 サーバ