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特開2023-142168プログラム、情報処理方法、情報処理装置、及び、情報処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142168
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】プログラム、情報処理方法、情報処理装置、及び、情報処理システム
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/02 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
H02G1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048908
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000141060
【氏名又は名称】株式会社関電工
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】武本 純平
(72)【発明者】
【氏名】於保 健一
(72)【発明者】
【氏名】小林 竜一
(72)【発明者】
【氏名】大田和 健
(72)【発明者】
【氏名】坪内 孝司
【テーマコード(参考)】
5G352
【Fターム(参考)】
5G352AA08
5G352AA12
(57)【要約】
【課題】ロープのたわみを算出するプログラム等を提供すること。
【解決手段】プログラムは、架空線を架線するために利用されるロープを搬送する搬送機の位置情報及び送り出した前記ロープのロープ長を取得し、取得した位置情報及びロープ長に基づき搬送時における前記ロープのたわみを算出する処理をコンピュータに実行させる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架空線を架線するために利用されるロープを搬送する搬送機の位置情報及び送り出した前記ロープのロープ長を取得し、
取得した位置情報及びロープ長に基づき搬送時における前記ロープのたわみを算出する
処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項2】
算出した前記たわみと、目標とする目標たわみ量との差分に基づき、前記ロープの送り出し引き戻しを行う送戻装置に対する制御命令を出力する
請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記目標たわみ量の設定を受け付ける
請求項2に記載のプログラム。
【請求項4】
前記差分が正の場合、前記ロープの送り出す旨の前記制御命令を出力し、
前記差分が負の場合、前記ロープの送り出し及び引き戻しを停止する旨の前記制御命令を出力する
請求項2又は請求項3に記載のプログラム。
【請求項5】
取得した前記位置情報及び前記ロープ長に基づき、カテナリ数を算出し、
算出した該カテナリ数及び前記位置情報に基づき、前記たわみを算出する
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項6】
前記ロープ長はロータリエンコーダの計測結果に基づいて取得する
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項7】
前記搬送機は、架設済み電力線に沿って移動する延線機であり、該延線機の前記位置情報は、前記延線機に取り付けられた衛星測位システム用受信機、又は、前記延線機に取り付けられたロータリエンコーダ及びジャイロセンサによる計測結果に基づいて取得する
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項8】
コンピュータが、
架空線を架線するために利用されるロープを搬送する搬送機の位置情報及び送り出した前記ロープのロープ長を取得し、
取得した位置情報及びロープ長に基づき搬送時における前記ロープのたわみを算出する
処理を実行する情報処理方法。
【請求項9】
架空線を架線するために利用されるロープを搬送する搬送機の位置情報及び送り出した前記ロープのロープ長を取得する取得部と、
取得した位置情報及びロープ長に基づき搬送時における前記ロープのたわみを算出する算出部と
を備える情報処理装置。
【請求項10】
架空線を架線するために利用されるロープを搬送する搬送機と、
前記ロープの送り出し引き戻しを行う送戻装置と、
前記搬送機の位置情報及び送り出した前記ロープのロープ長を取得し、
取得した位置情報及びロープ長に基づき搬送時における前記ロープのたわみを算出し、
算出した前記たわみと、目標とする目標たわみ量との差分に基づき、前記送戻装置へ制御命令を出力する制御装置と
を備える情報処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロープのたるみを算出するプログラム等に関する。
【背景技術】
【0002】
電線の延線工事では延線機が使用されることがある。地上の状況によって、ロープを地上に敷設することができないためである。延線機を使用する延線工事では、まず延線機にパイロットロープを接続し、既設の電線に沿って走らせ、鉄塔間又は電柱間にパイロットロープを張り渡す。次いでこのパイロットロープ(単に、「ロープ」ともいう。)に新電線を接続し、地上のウインチ等で巻き取ることで、鉄塔間又は電柱間に電線を延線する。
【0003】
延線機を取り付けられた既設の電線は、カテナリを形成し、両端部には大きな傾斜角が生じる。特に山岳地では、地形が複雑なため、急勾配となる。そのため、延線機は、電線の大きな傾斜角箇所でも上昇走行可能であることが求められる。そのような状況に対して、特許文献1では、軽量かつ大きな牽引力を持ち、電線の大きな傾斜角箇所でも上昇走行な延線機が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-17015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
延線機によりロープを張り渡す際、延線機には進行方向と逆方向にロープによる牽引負荷が掛かる。この牽引負荷はロープのたるみ量により変化する。たるみ量が小さいと牽引負荷は相対的に大きく、たるみ量が大きいと牽引負荷は相対的に小さくなる。しかしながら、延線機が走行する既設電線の下に更に他の既設電線、例えば通信線が設置されている場合、たるませたロープが他の既設電線に触れると、他の既設電線の損傷や、既設電線が短絡してしまうという事故が発生する。
【0006】
このような事故を防ぐために、現状、人がロープのたるみ量の調整を行っている。工事の安全と作業性向上の観点から、たるみ量調整の自動化が求められている。その前提として、延線機の走行中におけるロープのたるみ量を算出することが必要となる。本発明はこのような状況に鑑みてなされたものである。その目的は、ロープのたわみを算出するプログラム等の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るプログラムは、架空線を架線するために利用されるロープを搬送する搬送機の位置情報及び送り出した前記ロープのロープ長を取得し、取得した位置情報及びロープ長に基づき搬送時における前記ロープのたわみを算出する処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0008】
本願の一態様にあっては、ロープのたわみを算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】延線工事システムの構成例を示す説明図である。
図2】情報処理装置のハードウェア構成例を示す説明図である。
図3】送戻装置のハードウェア構成例を示す説明図である。
図4】延線機の構成を示す説明図である。
図5】情報処理装置の機能部の構成を示す説明図である。
図6】たるみ調整処理の手順例を示すフローチャートである。
図7】延線工事の模様を簡略化して示す説明図である。
図8】延線工事の模様を簡略化して示す説明図である。
図9】ドローンを用いた延線工事の模様を簡略化して示す説明図である。
図10】延線工事の模様を簡略化して示す説明図である。
図11】調整係数DBの例を示す説明図である。
図12】推定モデルの例を示す説明図である。
図13】推定モデルの他例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施の形態1)
以下実施の形態を、図面を参照して説明する。図1は延線工事システムの構成例を示す説明図である。図1は延線工事の模様を簡略化して示している。延線工事システムは、情報処理装置1、送戻装置2、延線機3、ドラム4及びロープ5を含む。情報処理装置1(制御装置)はノートPC(Personal Computer)、タブレットコンピュータ、パネルコンピュータ等で構成する。送戻装置2は延線機3までのロープ5の長さを調整するために、ロープ5を送り出し、又は、ロープ5を引き戻す動作を行う装置である。ドラム4は巻線ドラムである。ドラム4は円筒状の胴部と円板状の2つの鍔板から構成される周知のものである。鍔板の直径は胴部の直径よりも大きい。鍔板はその中心が胴部軸線を通るように、当該軸線方向の胴部両端に固定される。ドラム4にはロープ5が巻き回されている。ロープ5は架空線を架線又は延線する際に、電線に先駆けて、張るものである。架空線は、コンクリート柱・鉄塔などによって空中に張り渡した電線をいう。電線は、電力用電線、通信用電線、光ファイバケーブルを含む。ロープ5はナイロンロープのように細いものからワイヤロープ(鋼索)ように太いものまで含む。ドラム4は送戻装置2の動作に合わせて、ロープ5の繰り出し又は巻き取り動作を自動に行うことが望ましい。
【0011】
図1では、延線機3は2つの電柱8の間にすでに張られている既設電線6(架設済み電力線)に取り付けられている。また、2つの電柱8の間には既設電線6より低い位置に通信線7が張られている。図1のVLは仮想線であり、現実世界には存在はしていない。仮想線VLはロープ5のたるみ目標を示す線である。ロープ5のたるみ部分の最下点の目標位置を示す。仮想線VLは高さ方向の幅は、目標位置には所定の許容範囲が有ることを示している。2つの電柱8の設置高さは一般には必ずしも同じではないが、本実施の形態では説明を簡単にするため、同じ高さであるとする。延線機3は搬送機の一例である。
【0012】
情報処理装置1と送戻装置2とは別体のハードウェアとの前提で説明するが、それに限られない。情報処理装置1をボードコンピュータ等で構成し、送戻装置2に組み込み、外観的には1つ装置としてもよい。また、情報処理装置1と送戻装置2とを実質的に一体として構成してもよい。この場合、2つの装置で共通する構成は1つのハードウェアとする。
【0013】
図2は情報処理装置のハードウェア構成例を示す説明図である。情報処理装置1は制御部11、主記憶部12、補助記憶部13、及び通信部14を含む。各構成はバスBにより接続されている。
【0014】
制御部11は、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等の演算処理装置を有する。制御部11は、補助記憶部13に記憶された制御プログラム1P(プログラム、プログラム製品)を読み出して実行することにより、情報処理装置1に係る種々の情報処理、制御処理等を行い、各種の機能部を実現する。制御プログラム1Pは、半導体メモリ1aから制御部11が読み込んで、補助記憶部13に記憶してもよい。また、制御プログラム1Pを補助記憶部13に記憶するのではなく、半導体メモリ1aのみに記憶してもよい。制御部11は半導体メモリ1aより制御プログラム1Pを読み出し実行する。
【0015】
主記憶部12は、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリ等である。主記憶部12は主として制御部11が演算処理を実行するために必要なデータを一時的に記憶する。
【0016】
補助記憶部13はハードディスク又はSSD(Solid State Drive)等であり、制御部11が処理を実行するために必要な制御プログラム1Pや各種DB(Database)を記憶する。補助記憶部13は、目標値DB131を記憶する。目標値DB131はロープ5のたるみの目標値を記憶する。
【0017】
通信部14は無線又は有線により、送戻装置2及び延線機3と通信を行う。情報処理装置1と送戻装置2とはバス通信を行ってもよい。なお、情報処理装置1の機能をクラウドサービスで提供してもよい。
【0018】
図3は送戻装置のハードウェア構成例を示す説明図である。送戻装置2は制御部21、主記憶部22、補助記憶部23、通信部24及び機構部25部を含む。各構成はバスBで接続されている。
【0019】
制御部21は、一又は複数のCPU、MPU、GPU等の演算処理装置を有する。制御部21は、補助記憶部23に記憶された制御プログラム2P(プログラム、プログラム製品)を読み出して実行することにより、種々の機能を提供する。
【0020】
主記憶部22は、SRAM、DRAM、フラッシュメモリ等である。主記憶部22は主として制御部21が演算処理を実行するために必要なデータを一時的に記憶する。
【0021】
補助記憶部23はハードディスク又はSSD等であり、制御部21が処理を実行するために必要な各種データを記憶する。
【0022】
通信部24は無線又は有線により、情報処理装置1と通信を行う。
【0023】
機構部25はロープ送戻機構、モータ、モータ制御回路等を含む。ロープ送戻機構はドラム4からロープ5を引き出し、延線機3へ向けて送り出す。または、送戻機構は延線機3へ向けて送り出したロープ5を引き戻す。図3Bにロープ送戻機構251の構成例を示す。ロープ送戻機構251はロープを送るための2つのローラ2511を含み、当該ローラにはロータリエンコーダ2512が取り付けられている。
【0024】
図4は延線機の構成を示す説明図である。延線機3は2つの駆動輪31、2つの受動輪32、ロータリエンコーダ33、バネ34及びジャイロセンサ35を含む。また、延線機3は図示しない通信部を有する。
【0025】
2つの駆動輪31は図示しないモータにより回転駆動される。延線機3は既設電線6に懸垂される。この際、2つの駆動輪31は既設電線6を挟持するように位置決めされる。2つの駆動輪31をモータにより互いに逆方向に回転し、既設電線6から得る反力により、延線機3は移動する。
【0026】
2つの受動輪32は回転自在に構成されている。2つの受動輪32は延線機3の走行方向前後に設置されている。2つの受動輪32の回転軸は走行方向の交差方向としてある。2つの受動輪32の外周縁には凹溝が形成されている。凹溝の形状は既設電線6の直径に適合するように形成してある。延線機3が既設電線6に設置する際、凹溝内に既設電線6が収納される。延線機3が移動する際、2つの受動輪32が既設電線6上を転がることにより、延線機3が既設電線6に沿って移動するように案内する。
【0027】
ロータリエンコーダ33は回転方向及び回転角度を出力するセンサである。ロータリエンコーダ33は、延線機3が移動する際、既設電線6上を転がるように設置されている。バネ34はロータリエンコーダ33が既設電線6に適切な力により押し付けられるように、ロータリエンコーダ33へ力を与える。適切な力とは、延線機3の移動時に、ロータリエンコーダ33が既設電線6上をすべるのではなく、転がるような力である。ジャイロセンサ35は角速度を検出するセンサである。ロータリエンコーダ33及びジャイロセンサ35の計測結果により、延線機3の相対的な位置を求めることが可能である。
【0028】
次に、情報処理装置1が備える機能部について説明する。図5は情報処理装置の機能部の構成を示す説明図である。情報処理装置1の制御部11が制御プログラム1Pを実行することにより、機能部として、位置座標取得部11a、ロープ長取得部11b、ロープたるみ算出部11c、差分算出部11d、命令生成部11eが実現する。
【0029】
位置座標取得部11aは延線機3より、ロータリエンコーダ33及びジャイロセンサ35の計測結果を受信する。位置座標取得部11aは計測結果に基づき、延線機3の位置(x,y)を算出する。延線機3の走行開始位置を原点とし、水平方向をX軸、鉛直上向き方向をY軸とおく。図1に記載した構成は、静的には鉛直なXY平面内にあるとする。位置座標取得部11aは、ロータリエンコーダ33の計測結果から得られる延線機3の移動距離と、ジャイロセンサ35の計測結果から得られる延線機3の傾きから、位置(x,y)を算出する。なお、位置(x,y)の算出を延線機3に行なわせ、位置座標取得部11aは算出結果を受け取ってもよい。
【0030】
ロープ長取得部11bは送戻装置2から取得したロータリエンコーダ2512の計測結果から、送戻装置2から延線機3までに渡っているロープの長さ(Lr)を算出する。なお、ロープ長(Lr)算出を送戻装置2に行なわせ、ロープ長取得部11bは算出結果を受け取ってもよい。
【0031】
ロープたるみ算出部11cは、位置座標取得部11aが得た延線機3の位置(x,y)、ロープ長取得部11bが得たロープ長(Lr)に基づいて、ロープ5のたるみ(yv)を算出する。
【0032】
ロープ5のたるみ(yv)の算出方法は、以下のとおりである。ロープ5はその剛性を考慮せず理想的に弛むと仮定すると、ロープはXY平面内においてカテナリ(懸垂線)形状で垂れ下がると考えることができる。このときロープ5は、以下の式(1)、式(2)、式(3)を満たす。
【0033】
【数1】
【0034】
ここで求める未知数は、ロープ5の最下点の座標(xv,yv)とカテナリ数Cである。これらの関係式の形では直接にロープ5のたるみを導出できない。そこで関係式の変形によりロープ5のたるみの大きさを導出する。
【0035】
まず、式(1)と式(2)よりxvを消去すると、以下の式(4)を導き出すことができる。
【0036】
【数2】
【0037】
式(4)より、以下、式(5)を定義する。式(5)をCで微分すると、式(6)が得られる。
【0038】
【数3】
【0039】
式(7)に示すニュートン法の漸化式を用いて、(x,y)およびLrが与えられたときのカテナリ数Cを求めることができる。
【0040】
【数4】
【0041】
式(1)を積和の公式を使って変形すると、以下、式(8)が得られる。
【0042】
【数5】
【0043】
求めたCと(x,y)からxvを求めることができる。求めたCとxvから、式(3)によりyv、つまりロープ5のたるみの大きさを求めることができる。
【0044】
ロープ5のたるみの大きさ(yv)は式(1)から(3)からのみでも算出可能であるが、計算量が多いため、計算処理能力が高いコンピュータでなければ、計算時間が長くなると予想される。そのため、延線機3の移動に追随して、送戻装置2を制御し、ロープ5のたるみを目標値に保つことが困難となる。一方、式(1)から(8)を使用することにより、計算処理能力が高いコンピュータでなくとも、ロープ5のたるみの大きさ(yv)を許容時間内で算出可能となり、延線機3の移動に追随して、送戻装置2を制御し、ロープ5のたるみを目標値に保つことが可能となる。
【0045】
差分算出部11dは目標値DB131からたるみの目標値(yvt)を取得する。差分算出部11dはロープたるみ算出部11cが得たロープ5のたるみ(yv)と目標値との差分(yvi =yvt-yv)を算出する。
【0046】
命令生成部11eは差分算出部11dが算出した差分に応じた、送戻装置2への制御命令を生成する。命令生成部11eは差分(yvi)が正であれば、ロープ5を送り出す命令を生成する。命令生成部11eは差分(yvi)が0以下であれば、ロープ5の送り出しを停止する命令を生成する。命令生成部11eは生成した命令を送戻装置2へ送信する。
【0047】
続いて、情報処理装置1が行う情報処理について説明する。図6はたるみ調整処理の手順例を示すフローチャートである。情報処理装置1の制御部11は目標値DB131からたるみの目標値を取得する(ステップS1)。制御部11は延線機3から位置を、送戻装置2からロープ長を取得する(ステップS2)。制御部11は延線機の走行に関わらず、ロープ5のたるみを算出する(ステップS3)。制御部11は算出したたるみと目標値との差分を算出する(ステップS4)。制御部11は差分の値に対応した命令を生成し、送戻装置2へ送信する(ステップS5)。制御部11は処理をステップS2へ戻して処理を継続する。ステップS2からS5は無限ループとなっているが、延線機3が所定の位置に到達したら、ループを抜けて処理を終了してもよい。また、図示しないスイッチを操作することにより、割り込み処理を発生させ、処理を終了してもよい。
【0048】
本実施の形態は次の効果を奏する。情報処理装置1及び送戻装置2の協働により、ロープ5のたるみが目標値範囲となるように、自動制御することが可能となる。それにより、ロープ5のたるみ調整を行っていた作業員の手が空き、その作業員は別の作業を行うことができるようになる。その結果、工事全体の作業性の向上、特に作業時間の短縮が期待される。
【0049】
(延線機3の位置取得)
延線機3の位置は、ロータリエンコーダ33、及び、ジャイロセンサ35の計測結果により取得するとしたが、それに限られない。GNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)を利用してもよい。延線機3にGNSS用の受信機(衛星測位システム用受信機)を設置する。受信機は衛星から送信された電波を受信する。延線機3は受信機から自らの位置を取得する。位置精度を向上させるためにDGPS(Differential Global Positioning System)を用いてもよい。DGPSは、従来の衛星データ以外に、基準基地局からのデータを用いて現在位置を補正する技術である。通常のGPSでは誤差が数100mであるところ、DGPSでは誤差5m程度までにすることが可能である。
【0050】
また、RTK(Real Time Kinematic)測位を行ってもよい。RTK測位は、固定局と移動局の2つの受信機で4つ以上の衛星から信号を受信する技術である。2つの受信機の間で情報をやりとりしてズレを補正することで、単独測位よりも精度の高い位置情報を得ることが可能となる。RTK測位では数センチメートルの精度で位置を得ることが可能である。
【0051】
(変形例1)
上述の実施の形態1においては、2つの電柱8の設置高さは同じとしたが、以下に、設置高さが異なる場合について説明する。図7は延線工事の模様を簡略化して示す説明図である。2つの電柱8の設置高さが異なる場合においては、ロープ5が超えてはならない境界を示す仮想線VLは傾きを持つ直線となる。そのため、ロープ5の最下点が仮想線VLに触れなければ、ロープ5の全体が仮想線VLに触れないとは限らない。そこで、以下のような処理を行う。仮想線VLを示す関数式(1)を立てる。式(1)は予め立てておく。延線機3が走行を開始したら、情報処理装置1の制御部11は、延線機3の位置から、ロープ5のたるみを示す曲線の関数式(2)を求める。制御部11は、式(1)と式(2)とからなる連立方程式の実数解の数を求める。実数解が2つの場合、ロープ5はたるみ過ぎであるから、制御部11は送戻装置2にロープ5を引き戻すように指令する。実数解が1つの場合、又は、解が2つの虚数である場合、制御部11は送戻装置2にロープを送り出すように指令する。
【0052】
式(2)を立てて、連立方程式の実数解の数を求めるための計算量が多く、実用に耐えられない場合は、予めシミュレーション等を行い、延線機3の位置と、その位置でのロープ5の最適な長さとを求めておく。求めた結果を情報処理装置1の補助記憶部13に記憶しておく。制御部11は延線機3の位置とロープ長と取得する。制御部11は取得した延線機3の位置から、最適なロープ長を補助記憶部13から読み出す。取得したロープ長が最適なロープ長より長い場合、制御部11は送戻装置2にロープ5を引き戻すように指令する。取得したロープ長が最適なロープ長と等しい場合、又は、短い場合、制御部11はドラム4に送戻装置2にロープを送り出すように指令する。
【0053】
(変形例2)
図8は延線工事の模様を簡略化して示す説明図である。図8に示す例では、第1の電力線61と第2の電力線62との間に、ロープ5を張ろうというものである。この場合においては、ロープ5の最下点が通るべき軌跡の曲線を示す関数式を求めておく。延線機3が走行を開始したら、情報処理装置1の制御部11は、延線機3の位置から、ロープ5のたるみの最下点を求める。制御部11は最下点のx座標を関数式に入れ、y座標を算出する。最下点のy座標が算出したy座標より大きい場合、制御部11は送戻装置2にロープ5を送り出すように指令する。最下点のy座標が算出したy座標と等しい場合、又は、算出したy座標より小さい場合、制御部11は送戻装置2にロープ5を引き戻すように指令する。
【0054】
(変形例3)
図9はドローンを用いた延線工事の模様を簡略化して示す説明図である。図9に示す例では延線機3に代わりドローンDにてロープの配線を行う。この場合、ドローンDの位置はGNSSを用いて行う。ドローンDの位置から、ロープ5の最下点を求めて、送戻装置2を制御する点は、実施の形態1と同様であるから、説明を省略する。ドローンDは搬送機の一例である。
【0055】
(実施の形態2)
本実施の形態は、風況によるロープ荷重の増加を考慮して、ロープ5のたるみを調整する形態に関する。図10は、延線工事の模様を簡略化して示す説明図である。図1に示した構成と同じ構成には同じ符号を付し、説明を省略する。本実施の形態では、風圧計9と当該風圧計を設置した高所作業車10が加わっている。風圧計9は高所作業車10のかごに固定される。かごを延線機3と同じ高さまで上昇させ、風圧計9により風圧を計測する。これにより、ロープ5に掛かる風圧を推定可能である。
【0056】
ロープ5に風が当たると、ロープ5の風下側にカルマン渦と呼ばれる空気の渦巻が発生する。このような状態では、ロープ5の風の当たる側の風圧は大きく、風下の渦が発生している側の圧力は小さくなるめ、風圧荷重が生じる。図11は調整係数DBの例を示す説明図である。調整係数DB132は風速に応じて、ロープ5のたるみの目標値を調整する係数を記憶する。調整係数DB132は風速列及び係数列を含む。風速列は風速の範囲を記憶する。単位はメートル/秒である。係数列は目標値の調整係数を記憶する。単位は無次元である。図11では、例えば、風速が5メートル/秒を未満の風が観測された場合、たるみの目標値を0.8倍することが定義されている。図6に示したたるみ調整処理のステップS4において、算出したたるみと目標値に調整係数を掛けた値との差分を求める。
【0057】
本実施の形態において、風が吹いている状況下で、ロープ5のたるみを最適な量に調整可能となる。
【0058】
(実施の形態3)
本実施の形態はロープ5のたるみを学習モデルにより推定する形態に関する。図12は推定モデルの例を示す説明図である。推定モデル151は、延線機3の位置情報及びロープ長と、ロープ5のたるみとの関係を、ディープラーニングを行うことで、位置情報及びロープ長を入力とし、ロープ5のたるみを出力とする推定モデル151を生成する。推定モデル151は例えばCNN(Convolution Neural Network)であり、位置情報及びロープ長の入力を受け付ける入力層と、ロープ5のたるみを出力する出力層と、入力と出力との関係性を定義する中間層とを有する。
【0059】
入力層は位置情報及びロープ長の入力を受け付ける複数のニューロンを有する。入力層は受け付けた位置情報及びロープ長を中間層に受け渡す。中間層は複数のニューロンを有し、位置情報及びロープ長とたるみとの関係性にしたがい、ロープ5のたるみに相当する値を出力層に受け渡す。出力層は中間層から得た値を元に、ロープ5のたるみの推定値を出力する。
【0060】
推定モデル151はCNNに限定されず、CNN以外のニューラルネットワーク、ベイジアンネットワーク、決定木など、他の学習アルゴリズムで構築された学習済みモデルであってよい。
【0061】
情報処理装置1は、位置情報及びロープ長と、ロープ5のたるみとが対応付けられた訓練データを用いて学習を行う。情報処理装置1は、訓練データを構成する位置情報及びロープ長を入力層に入力し、出力層からロープ5のたるみを取得する。情報処理装置1は出力層から取得したたるみと、訓練データを構成するたるみの正解値とを比較し、出力層からの出力値が正解値に近づくように、中間層での演算処理に用いるパラメータを最適化する。当該パラメータは、例えばニューロン間の重み(結合係数)、各ニューロンで用いられる活性化関数の係数などである。パラメータの最適化の方法は特に限定されないが、例えば情報処理装置1は誤差逆伝播法を用いて各種パラメータの最適化を行う。
【0062】
情報処理装置1は、訓練データを構成するすべてのレコードを用いて、上記の処理を繰り返し行い、推定モデル151を生成する。
【0063】
運用時においては、図6に示すたるみ調整処理のステップS3において、たるみを算出する処理に替えて、推定モデル151により、たるみを推定する。
【0064】
本実施の形態においては、推定モデル151を用いることにより、たるみを算出する演算処理が不要となる。
【0065】
(推定モデルの他例)
図13は推定モデルの他例を示す説明図である。推定モデル152は延線機3の位置情報、ロープ長、風向・風速及び電柱の高低差を入力とし、ロープ5のたるみを出力とするニューラルネットワークである。推定モデル152を生成する際の訓練データは、位置情報、ロープ長、風向・風速及び電柱の高低差と、ロープ5のたるみの正解値とを対応付けたデータである。また、運用時においては、位置情報、ロープ長、風向・風速及び電柱の高低差を推定モデル152へ入力し、推定モデル152の出力として、ロープ5のたるみを取得する。
【0066】
上述の実施の形態又は変形例において、ドラム4に送戻装置2の機能を持たせ、送戻装置2の位置に滑車を設置してもよい。ドラム4兼送戻装置2は地上に設置するので、送戻装置2を電柱に設置するよりも、工数の削減が期待される。
【0067】
各実施の形態で記載されている技術的特徴(構成要件)はお互いに組み合わせ可能であり、組み合わせすることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
1 情報処理装置
11 制御部
11a 位置座標取得部
11b ロープ長取得部
11c 算出部
11d 差分算出部
11e 命令生成部
12 主記憶部
13 補助記憶部
131 目標値DB
132 調整係数DB
14 通信部
151 推定モデル
152 推定モデル
B バス
1P 制御プログラム
1a 半導体メモリ
2 送戻装置
21 制御部
22 主記憶部
23 補助記憶部
24 通信部
25 機構部
251 ロープ送戻機構
2511 ローラ
2512 ロータリエンコーダ
2P 制御プログラム
3 延線機
31 駆動輪
32 受動輪
33 ロータリエンコーダ
34 バネ
35 ジャイロセンサ
D ドローン
4 ドラム
5 ロープ
6 既設電線
7 通信線
8 電柱
9 風圧計
10 高所作業車
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13