(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142172
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】運行計画割当装置、及び運行計画割当方法
(51)【国際特許分類】
B61L 27/12 20220101AFI20230928BHJP
B61L 23/14 20060101ALI20230928BHJP
B61L 23/00 20060101ALI20230928BHJP
B61L 27/18 20220101ALI20230928BHJP
G06Q 50/30 20120101ALI20230928BHJP
【FI】
B61L27/12
B61L23/14 Z
B61L23/00 A
B61L27/18
G06Q50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048912
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 篤史
【テーマコード(参考)】
5H161
5L049
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161BB02
5H161BB06
5H161BB17
5H161BB20
5H161CC02
5H161CC05
5H161DD20
5H161DD22
5H161EE04
5H161EE07
5H161FF07
5H161GG02
5H161JJ01
5H161JJ22
5H161JJ31
5H161MM05
5H161MM12
5H161NN10
5H161NN12
5H161QQ03
5L049CC42
(57)【要約】
【課題】有人運転の区間と無人運転の区間とをリスクに応じて割り当てることは行われておらず、安全性や運用性を向上させることができない。
【解決手段】軌道上を走行する列車に監視要員を乗務させて前方の監視を行う有人運転の区間と、前記監視要員による監視を行わない無人運転の区間とを、前記列車の運行計画に割り当てる運行計画割当装置であって、前記運行計画における前記列車の通過後に所定の値に設定され、前記列車が通過した後は経過時間に関連して上昇するリスク値を算出し、前記リスク値が所定の閾値以下となるように、前記有人運転の区間と前記無人運転の区間とを前記運行計画に割り当てる運行計画割当装置。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道上を走行する列車に監視要員を乗務させて前方の監視を行う有人運転の区間と、前記監視要員による監視を行わない無人運転の区間とを、前記列車の運行計画に割り当てる運行計画割当装置であって、
前記運行計画における前記列車の通過後に所定の値に設定され、前記列車が通過した後は経過時間に関連して上昇するリスク値を算出し、前記リスク値が所定の閾値以下となるように、前記有人運転の区間と前記無人運転の区間とを前記運行計画に割り当てる運行計画割当装置。
【請求項2】
請求項1に記載の運行計画割当装置において、
前記リスク値は経年劣化に基づくリスク値と監視時期に基づくリスク値の少なくとも一つを含む運行計画割当装置。
【請求項3】
請求項2に記載の運行計画割当装置において、
前記経年劣化に基づくリスク値には、枕木異常、レール歪み、沿線植生の走行領域への侵入、沿線構造物の走行領域への侵入のうち少なくとも一つを含む運行計画割当装置。
【請求項4】
請求項2に記載の運行計画割当装置において、
前記監視時期に基づくリスク値には、信号の玉切れ、土砂崩れ、火災・ぼや、軌道内への車や人の侵入、飛来物、作業工具の置き忘れ、穴あきのうち少なくとも一つを含むことを特徴とする運行計画割当装置。
【請求項5】
請求項1に記載の運行計画割当装置において、
前記運行計画の始発列車に係る区間には、前記有人運転の区間を割り当てる運行計画割当装置。
【請求項6】
請求項1に記載の運行計画割当装置において、
前記リスク値が前記閾値を超えるリスク超過予測時刻を算出し、前記運行計画において前記リスク超過予測時刻の直前に前記列車が走行する予定の区間には、前記有人運転の区間を割り当てる運行計画割当装置。
【請求項7】
請求項6に記載の運行計画割当装置において、
前記有人運転の区間には、前記列車がそれぞれ走行可能な複数の路線が含まれ、
前記複数の路線のうちいずれかの路線を前記列車が走行したときに前記監視要員が他の路線を監視可能な場合は、前記複数の路線の前記リスク超過予測時刻を同一の値に設定し、
前記複数の路線のうちいずれかの路線を前記列車が走行したときに前記監視要員が他の路線を監視できない場合は、前記複数の路線の前記リスク超過予測時刻を別々の値に設定する運行計画割当装置。
【請求項8】
請求項1に記載の運行計画割当装置において、
前記運行計画のうち前記有人運転の区間が割り当てられた数に基づいて、前記有人運転に係るコスト値を算出する運行計画割当装置。
【請求項9】
請求項1に記載の運行計画割当装置において、
前記運行計画のうち前記有人運転の区間が割り当てられた運行時間に基づいて、前記有人運転に係るコスト値を算出する運行計画割当装置。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の運行計画割当装置において、
一日の最初の運用から最後の運用まで、前記リスク値が前記閾値を下回っている割当計画を抽出し、この割当計画のなかで前記コスト値が低い割当計画を最終的な運行計画とする運行計画割当装置。
【請求項11】
軌道上を走行する列車に監視要員を乗務させて前方の監視を行う有人運転の区間と、前記監視要員による監視を行わない無人運転の区間とを、前記列車の運行計画に割り当てる運行計画割当方法であって、
前記運行計画における前記列車の通過後に所定の値に設定され、前記列車が通過した後は経過時間に関連して上昇するリスク値を、コンピュータにより算出し、
前記コンピュータにより、前記リスク値が閾値以下となるように前記有人運転の区間と前記無人運転の区間とを前記運行計画に割り当てる運行計画割当方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運行計画割当装置、及び運行計画割当方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軌道上を走行する列車の軌道輸送システムでは、運転士や添乗員等の高齢化に伴う人材不足への懸念や運用コストの低減の必要性などの理由により、列車の運転を無人で行う研究が行われている。無人運転では、例えば、軌道上に障害物があった場合、操舵による回避が出来ないことから、軌道上の障害物を検知することは、軌道輸送システムの安全性や運用性を向上させるために重要である。無人運転を行うには、経路上の障害物を自動で検知する仕組みが必要となり、ミリ波レーダー、レーザーレーダー、カメラなど外界センサを用いる方法が検討されている。検知可能な異常事象を広げ、冗長性を持たせるために異なる種類の外界センサを使用し、各外界センサの結果を統合して物体を検知するのが一般的である。しかしながら全ての異常事象を外界センサで検知することは技術的に難しく、潜在的なリスクを推定し、無人運転と有人運転とをリスクに応じて対応することが現実的には重要となる。
【0003】
特許文献1には、センサによる監視動作が最後に行われてからの経過時間とセンサによる監視動作による障害物の有無の検知結果とに基づいて、複数段階に規定されたリスクレートのうちから所定地点において障害物が存在することの危険度合いを評価してリスクレートを決定し、リスクレートに応じて、目標速度を決定する車両制御システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、有人運転の区間と無人運転の区間とをリスクに応じて割り当てることは開示がなく、安全性や運用性を向上させることができない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による運行計画割当装置は、軌道上を走行する列車に監視要員を乗務させて前方の監視を行う有人運転の区間と、前記監視要員による監視を行わない無人運転の区間とを、前記列車の運行計画に割り当てる運行計画割当装置であって、前記運行計画における前記列車の通過後に所定の値に設定され、前記列車が通過した後は経過時間に関連して上昇するリスク値を算出し、前記リスク値が所定の閾値以下となるように、前記有人運転の区間と前記無人運転の区間とを前記運行計画に割り当てる。
本発明による運行計画割当方法は、軌道上を走行する列車に監視要員を乗務させて前方の監視を行う有人運転の区間と、前記監視要員による監視を行わない無人運転の区間とを、前記列車の運行計画に割り当てる運行計画割当方法であって、前記運行計画における前記列車の通過後に所定の値に設定され、前記列車が通過した後は経過時間に関連して上昇するリスク値を、コンピュータにより算出し、前記コンピュータにより、前記リスク値が閾値以下となるように前記有人運転の区間と前記無人運転の区間とを前記運行計画に割り当てる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、有人運転の区間と無人運転の区間とをリスクに応じて割り当て、安全性や運用性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る運行計画割当装置を含む軌道輸送システムの構成を示す図である。
【
図3】有人運転や無人運転を行った場合のリスク関数の挙動例を説明する図である。
【
図4】運行計画のデータフォーマットの例を示す図である。
【
図5】第1の実施形態における運行計画割当装置によって実行される処理を示すフローチャートである。
【
図6】運行計画割当装置による割当計画の作成を説明する図である。
【
図7】運行計画割当装置によるコスト値の算出を説明する図である。
【
図8】最終的な運行計画のデータフォーマットの例を示す図である。
【
図9】運行計画割当装置による割当計画の作成を説明する図である。
【
図10】運行計画割当装置による複線路線における割当計画の作成を説明する図である。
【
図11】本発明の第2の実施形態に係る運行計画割当装置を含む軌道輸送システムの構成を示す図である。
【
図12】第2の実施形態における運行計画割当装置によって実行される処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0010】
また、以下の説明では、プログラムを実行して行う処理として、運行計画割当装置120、220によって実行される処理を示すフローチャートを説明するが、プログラムは、プロセッサ(例えばCPU、GPU)によって実行されることで、定められた処理を、適宜に記憶資源(例えばメモリ)および/またはインターフェースデバイス(例えば通信ポート)等を用いながら行うため、処理の主体がプロセッサとされてもよい。同様に、プログラムを実行して行う処理の主体が、プロセッサを有するコントローラ、装置、システム、計算機、ノードであってもよい。プログラムを実行して行う処理の主体は、演算部であれば良く、特定の処理を行う専用回路(例えばFPGAやASIC)を含んでいてもよい。
【0011】
プログラムは、プログラムソースから計算機のような装置にインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、プログラム配布サーバまたは計算機が読み取り可能な記憶メディアであってもよい。プログラムソースがプログラム配布サーバの場合、プログラム配布サーバはプロセッサと配布対象のプログラムを記憶する記憶資源を含み、プログラム配布サーバのプロセッサが配布対象のプログラムを他の計算機に配布してもよい。また、以下の説明において、2以上のプログラムが1つのプログラムとして実現されてもよいし、1つのプログラムが2以上のプログラムとして実現されてもよい。
【0012】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る運行計画割当装置120を含む軌道輸送システム1000の構成を示す図である。
軌道輸送システム1000は、運行管理装置110、運行計画割当装置120、列車100を備えて構成される。運行管理装置110、運行計画割当装置120、列車100は、無線もしくは有線により相互に情報を送受信する。
【0013】
列車100は、外界センサ101、障害物検知部102、車両制御装置103を備え、軌道10を走行する。列車100がある駅(通常は路線の始発駅)からある駅(例えば、路線の終着駅)まで走行することを運用と呼ぶ。列車100は、先頭車両に監視要員を乗務させて前方の監視を行う有人運転の区間と監視要員による監視を行わない無人運転の区間とを走行する。監視要員とは、例えば、運転士や添乗員である。本実施形態における軌道輸送システム1000では、後述の運行計画に従い列車100は自動的に出発・停止を行い、無人運転での運行が可能である。詳細は後述するが、リスク値が閾値以下かつ運用コストが最小となる運行計画に基づいて無人運転もしくは有人運転で運行する。なお、列車100の前方を適切に監視できれば、監視要員は必ずしも先頭車両に乗務する必要はない。例えば、先頭車両に設置されたカメラにより列車100の前方を撮影し、その撮影画像を監視要員が列車100内の所定の場所において監視することで、有人運転を行うことも可能である。
【0014】
外界センサ101は、列車の周囲(特に前方)の状態を検知し、検知したデータを障害物検知部102に送信する。外界センサ101は、例えば、カメラ、LIDAR(Light Detection and Ranging)、ミリ波レーダーなどである。カメラは、単眼カメラ、ステレオカメラ、赤外線カメラなどである。外界センサ101は、冗長化のために複数搭載してもよい。
【0015】
障害物検知部102は、外界センサ101から検知したデータを用いて列車の前方の状況を検知する。物体の検知処理は、自動車分野で使用されている技術が使用可能である。例えば、ステレオカメラを用いて視差画像を作成し、視差画像から前方の物体の形状や位置を検知する。また、単眼画像からDNN(Deep Neural Network)を使用して画像上の物体を検知したり、LIDARの点群データから物体を検知してもよい。DNNとは、機械学習に用いられる手法の1つであり、対象物の特徴を抽出して学習することで、様々な対象物を検知し、検知精度を向上させる。本実施形態では、物体を検知できればよく、その手法は問わない。
【0016】
障害物検知部102は、物体の検知結果のうち自列車が走行する可能性のある領域である走行領域内に物体の検知結果が存在するか否かを判定する。走行領域内に存在すると判定された物体の検知結果を障害物として認識する。障害物と認識された物体に対して現在の車両速度から停止可能かを判定し、ブレーキを動作すべきか否かを判断する。この判断結果をもとに車両制御装置103にブレーキ動作依頼を出力する。本実施形態では、障害物の検知結果のフォーマット等や障害物認識結果の利用方法等は問わない。
【0017】
車両制御装置103は車両の加速や減速を制御する装置である。車両制御装置103は障害物検知部102からブレーキ出力依頼を受信すると車両内のブレーキ装置(図示せず)にブレーキ指令を出力する。本実施形態ではブレーキ指令を車両制御装置103が行う構成で説明するが、障害物の検知結果を受けて列車100がブレーキ動作に入れればよく、その手段は問わない。例えば列車100同士の衝突などを防止するために搭載されている保安装置(図示せず)が障害物検知部102からのブレーキ出力依頼を受けてブレーキ指令を出力してもよい。また、HMI(Human Machine Interface)(図示せず)を介して監視要員が障害物検知部102からのブレーキ出力依頼を確認して、手動操作によりブレーキ指令を出力してもよい。
【0018】
運行管理装置110は、列車100の運行計画を管理する装置である。運行計画は、運用ごとの各駅の出発時刻、到着時刻等が定義されている。一般的に運行計画は1年単位や季節ごとに改定されることが多い。しかしながら日々の運用では事故や気象条件により運行計画が乱れることがある。その場合は、どの列車100をどの駅で折り返すかを決定したり、列車100の運用自体を取りやめたりといった運行計画の修正が行われる。運行計画の修正は人手で行われることが多いが、システムで自動的に修正してもよい。
【0019】
運行計画は、当初は、運用ごとの各駅の出発時刻、到着時刻が定義されている。この当初の運行計画は、運行計画割当装置120へ提供され、運行計画割当装置120は、詳細は後述するが、有人運転の区間と無人運転の区間とが割り当てられた運行計画を作成する。区間とは、ある駅とある駅との間である。
【0020】
運行管理装置110は、運行計画割当装置120で作成された運行計画に基づいて軌道輸送システム1000の運行を管理する。具体的には、運行計画に基づいて、無人運転に割り当てられた区間を無人運転で列車100を走行させ、有人運転に割り当てられた区間を有人運転で走行させる。
【0021】
運行計画割当装置120は、運行計画を参照して、運行計画における列車100の通過後に所定の値に設定され、列車100が通過した後は経過時間に関連して上昇するリスク値を算出し、リスク値が閾値以下となるように有人運転の区間と無人運転の区間とを運行計画に割り当てる。具体的には、運行管理装置110から当初の運行計画を取得し、取得した当初の運行計画に基づいてどの列車100のどの区間で無人運転を行うかを割り当てて割当計画を作成する。作成した割当計画ごとに後述の手法で算出されるリスク値と、後述の手法で算出される運用コストを求める。そして、割当計画ごとに算出されたリスク値とコスト値を評価し、リスク値があらかじめ定義されている閾値以下かつコスト値が小さい割当計画を最終的な運行計画として決定する。決定した運行計画を運行管理装置110に送信する。本実施形態では当初の運行計画を運行管理装置110より取得する例で説明するが、当初の運行計画はその他の装置より取得できればよく、取得手法や取得間隔は問わない。
【0022】
次に、運行計画割当装置120により算出されるリスク値について説明する。本実施形態の運行計画割当装置120では、以下の2種類のリスク値を想定する。
a:経年劣化に基づくリスク値
b:監視時期に基づくリスク値
aの経年劣化に基づくリスク値としては、枕木の異常、レールの歪み、沿線植生の走行領域への侵入、電柱などの沿線構造物の走行領域への侵入などがある。bの監視時期に基づくリスク値としては、信号機の玉切れ、土砂崩れによる土砂の走行領域内への流入、火災やぼや、走行領域内への車や人・飛来物の進入、作業工具の置き忘れ、置き石、穴あきなどがある。
【0023】
図2は、リスク値の時間推移を表したグラフである。横軸に時間を、縦軸にリスク値を示す。aの経年劣化に基づくリスク値201もbの監視時期に基づくリスク値202も時間経過とともに単調増加する関数を想定する。aの経年劣化に基づくリスク値201とbの監視時期に基づくリスク値202を足し合わせたリスク値が総リスク値203となる。なお、
図2においてリスク値202を表す点線は、リスク値201を表す一点鎖線を基準にしてリスク値201に積層して図示している。運行計画割当装置120は、一般的にaの経年劣化に基づくリスク値201はリスク値の進行度合いが遅いため、リスク関数の傾きはかなり小さく定義するか、もしくは単調増加ではなく固定値としてもよい。一方、bの監視時期に基づくリスク値202については、突発的に発生する要因も含むため、リスク関数の傾きは大きめの値として定義する。総リスク値203があらかじめ定義した閾値204を超えない範囲で無人運転を行う。
【0024】
bの監視時期に基づくリスク値のリスク関数の傾きは、気象条件(風速、雨量など)によって変更するようにしてもよい。例えば、台風などで雨量が増加している場合は土砂災害の可能性が高まっていると考えられる。そのため、運行計画割当装置120は外部システム(図示せず)から気象条件を取得し、気象条件からリスク関数の傾きを動的に変更するようにしてもよい。
【0025】
図3は、有人運転や無人運転を行った場合のリスク関数の挙動例を説明する図である。横軸に時間を、縦軸にリスク値を示す。有人運転301による列車100がB駅に到着し、その後、無人運転302による列車100がB駅に到着し、さらに、その後、有人運転303による列車100がB駅に到着した例を示す。
【0026】
運行計画割当装置120は、有人運転301が行われるとaの経年劣化に基づくリスク値311とbの監視時期に基づくリスク値312の両方のリスク値を所定値、例えば“0”に設定し、総リスク値313も所定値、例えば“0”に設定する。これは有人運転時に監視要員が車両前方の環境を監視することにより列車100の走行に対するリスク値がないことが確認できたためである。運行計画割当装置120は、このように、運行計画における列車100の通過後に所定の値に設定し、列車100が通過した後は経過時間に関連して上昇するリスク値を算出する。
【0027】
次に、無人運転302が行われると、aの経年劣化に基づくリスク値311とbの監視時期に基づくリスク値312のうち、bの監視時期に基づくリスク値312を所定値、例えば“0”に設定する。運行計画割当装置120は、このように、運行計画における列車100の通過後に所定の値に設定し、列車100が通過した後は経過時間に関連して上昇するリスク値を算出する。
【0028】
一方、aの経年劣化に基づくリスク値311の値は引き継がれる。aの経年劣化に基づくリスク値のうち枕木の異常やレールの歪みは専用のセンサを列車100に搭載すればセンサによる異常検知が可能と考えられるが、このような専用のセンサ装置をすべての列車100に搭載することは現実的ではなく、また前方の外界環境を監視する目的で搭載されるセンサでは異常検知が難しい事象であるため、本実施形態では無人運転の走行によって低下するリスク値には含めないこととする。
【0029】
同様にaの経年劣化に基づくリスク値のうち、沿線植生の走行領域への侵入、沿線構造物(電柱など)の走行領域への侵入についても、変化が非常に緩やかであり前方の外界環境の監視する目的で搭載されるセンサでは異常検知が難しい事象であるため、本実施形態では無人運転の走行によって低下するリスク値には含めないこととする。再度有人運転303が行われるとaの経年劣化に基づくリスク値311とbの監視時期に基づくリスク値312の両方のリスク値を“0”に設定し、総リスク値313も“0”となる。
【0030】
なお、想定するリスク値としてaの経年劣化に基づくリスク値とbの監視時期に基づくリスク値に分類したが、以下の少なくとも2種類のリスク値に分類するようにしてもよい。
c:外界センサで検知不可能なリスク値
d:外界センサで検知可能なリスク値および
列車100の走行により安全が確保されたと見なせるリスク値
【0031】
この場合、有人運転によってcの外界センサで検知不可能なリスク値とdの外界センサで検知可能なリスク値および列車100の走行により安全が確保されたと見なせるリスク値の両方を“0”に設定し、無人運転ではdの外界センサで検知可能なリスク値および列車100の走行により安全が確保されたと見なせるリスク値のみを“0”に設定する。
【0032】
また、想定するリスク値として主に列車100の外界環境のリスク値について定義したが、走行に影響を与える列車100の故障リスク値についても定義するようにしてもよい。例えば、監視要員は異音や異常振動、焦げ臭いなどの異臭により列車100の異常を検知しているケースがある。そのため、列車100の故障リスク値のリスク関数を定義し、総リスク算出時に考慮するようにしてもよい。このようにすることで外界環境だけでなく、列車100の故障による運用停止リスクを低減することが可能となる。
【0033】
リスク値のリスク関数として時間経過とともに単調増加する関数を例に説明したが、異なる形態のリスク関数を用いてもよい。例えば、bの監視時期に基づくリスク値については突発的な要因も含むため、単調増加の一次関数以外の関数を定義してもよい。例えば、人流や交通流予測に基づき混雑が予想される時間帯のリスク値を一時的に上昇させるような関数を定義してもよい。また、時間のみに依存したリスク関数ではなく、位置に依存したリスク関数を定義してもよい。例えば、踏切や切通し区間などの場所としてのリスク値が高い位置については、その位置だけリスク値を高めに設定したリスク関数でもよい。また、想定するリスク値として2種類の構成で説明したが、想定するリスク値は1種類の構成でもよく、3種類以上の構成でもよい。
【0034】
dの外界センサで検知可能なリスク値のリスク関数は列車100に搭載されるセンサの性能に応じて傾きを変更してもよい。例えば、センサ分解度が高いセンサを用いた場合はより小さな物体や、より小さな異常も検知できていると想定されるため、リスク関数の傾きを小さくする。要は列車100に搭載されたセンサ構成や経過時間に基づいたリスク値が定義できればよく、本実施形態ではリスク関数の関数式の種類は問わない。
【0035】
図4は、運行計画のデータフォーマットの例を示す図である。運用ごとに番号(1,3,…)が付与されており、それぞれの運用ごとの各駅の出発時刻・到着時刻が記録されている。
図4の例ではA駅からD駅方向の運行計画を示しており、同様のフォーマットでD駅からA駅の運行計画も存在するが、その図示を省略する。
【0036】
図5は、運行計画割当装置120によって実行される処理を示すフローチャートである。
ステップ501では、運行計画割当装置120は、運行管理装置110から運行計画を取得する。取得するタイミングは、例えばダイヤ改正時など運行計画が変更された場合や事故などでダイヤ乱れが発生し、ダイヤが修正された場合である。運行計画は、
図4に示すように、運用ごとの各駅の出発時刻・到着時刻が定義されている。次に、ステップ502に進む。
【0037】
ステップ502では、運行計画割当装置120は、運行計画をもとにどの運用のどの区間を有人運転で運行するかを設定した割当計画を作成する。
図6は、運行計画割当装置120による割当計画の作成を説明する図である。横軸に時間を、縦軸に駅の位置を示す。そして、有人運転を実線で、無人運転を点線で示す。初めに一日の運用のうち最初の運用610の始発列車に係る区間は、有人運転の区間に割り当てる。これは、一日の最初には路線の全区間で総リスク値が“0”であることを意味する。
【0038】
最初の運用610以外では、例えば、リスク超過予測時刻の直前に走行予定の区間を有人運転に割り当る、もしくは、ランダムに任意の区間を有人運転に割り当る。このように、運行計画割当装置120は、所定の区間を、有人運転の区間を割り当てた複数種類の割当計画を作成する。
図6に示す例では、運用633のD駅とC駅の区間は、リスク超過予測時刻620の直前に走行予定の区間であるので有人運転に割り当てる。なお、有人運転を割り当てる手法は、ランダムに任意の区間に割り当ててもよく、普通列車や特急列車といった種別ごとに割り当ててもよい。
【0039】
なお、有人運転に割り当てる運用については始発駅から終着駅までを一括(A駅からD駅)で割り当ててもよいし、区間ごとに有人運転を割り当ててもよい。すなわち
図6の例では運用610のうち、D駅からC駅は有人運転、C駅からB駅は無人運転、B駅からA駅は有人運転といった割り当てを行ってもよい。次に、ステップ503に進む。
【0040】
ステップ503では、運行計画割当装置120は、
図6に示す最初の運用610を起点に、各運用の総リスク値を、
図3~
図4を参照して説明したリスク値の算出方法により算出する。すなわち、有人運転が行われると総リスク値を所定値、例えば“0”に設定し、以後、経過した時刻に応じたリスク値を算出する。次に、ステップ504に進む。
【0041】
ステップ504では、運行計画割当装置120は、総リスク値が所定の閾値を超える時刻であるリスク超過予測時刻を算出する。
図6では、運用610の各区間で算出したリスク超過予測時刻620、621、622を一例として記載する。リスク超過予測時刻は区間の各位置に定義してもよいし、一つの運用で一つのリスク超過予測時刻を定義してもよい。本実施形態では
図6に示すように区間で一つのリスク超過予測時刻を定義する例で説明する。運行計画割当装置120は、駅の到着時刻を基準にリスク関数を用いて総リスク値を算出することができる。次に、ステップ506に進む。
【0042】
ステップ506では、運行計画割当装置120は、割当計画の全てについて、リスク値の算出と、リスク超過予測時刻の算出が終了したかを判定する。全ての割当計画での処理が終わっていない場合はステップ503へ戻り、ステップ503~ステップ504の処理を繰り返す。例えば、ステップ502で、10種類の割当計画が設定された場合、その10種類の割当計画に対してそれぞれ、リスク値の算出、リスク超過予測時間を推定する。たとえば、ステップ502で、一つのリスク超過予測時刻に対して10種類の割当計画が設定されると、次の割当計画の作成時には10×10=100種類の割当計画が設定されることとなる。ステップ506で、全ての割当計画での処理が終わっている場合はステップ507に進む。
【0043】
ステップ507では、運行計画割当装置120は、算出したリスクが予め定義されている閾値を超える時刻をすべての駅間について確認する。そして、一日の運用で最も遅い運用の全ての駅の到着時刻を確認する。それぞれの駅間について閾値を超える時刻が、一日の運用で最も遅い運用での到着時刻よりも遅いかどうかを判定する。全ての駅間で閾値を超える時刻が、一日の運用で最も遅い運用での到着時刻よりも遅い場合はステップ508に進む。すなわち、リスクが予め定義されている閾値以下の場合にステップ508に進む。全ての駅間で閾値を超える時刻が、一日の運用で最も遅い運用での到着時刻よりも遅くない場合はステップ502へ進み、割当計画を作成する。
【0044】
ステップ508では、運行計画割当装置120は、作成した割当計画の全てについてコスト値の算出を行う。コスト値の算出は、監視要員の人件費を基に算出するが、本実施形態では、作成された割当計画で有人運転が割当てられた数、すなわち監視要員の数をコスト値と見做して算出する。基本的には、割当計画で有人運転が割当てられた区間の数を合計してコスト値とする。更には、
図7を参照して以下に説明するように、ある時間帯領域の中で有人運転が重複している運用の数を考慮することでコスト値を算出する。
【0045】
図7は、運行計画割当装置120によるコスト値の算出を説明する図である。横軸に時間を、縦軸に駅の位置を示す。そして、有人運転を実線で、無人運転を点線で示す。運用710はA駅からD駅に向かう運用、運用720はD駅からA駅に向かう運用を表す。
図7の7Aに示すように、運用710、720のうち黒実線の区間711、721が有人運転に割り当てられていたとする。この場合、ある時間帯領域700において、列車100の運行方向別に複数の運用が重複して有人運転に割り当てられている。この場合は、運用ごとに監視要員が必要となる。
図7の7Aの例では監視要員が2人必要となる。
【0046】
一方、
図7の7Bに示すように、運用710、720のうち黒実線の区間712、722に有人運転が割り当てられていたとする。この場合、時間帯領域701、702に重複して有人運転が割り当てられていないので監視要員は1人で可能になる。この場合、コスト値が低くなる。このように、運行計画割当装置120は、ある時間帯領域の中で有人運転が重複している運用の数を数えることや、割当計画を実施するのに必要な監視要員数を算出することでコスト値を算出する。監視要員の数を少なくするために、監視要員の動きを考慮して有人運転を行う列車100や区間を決めてもよい。なお、本実施形態では割当計画ごとの必要な監視要員のコスト値が算出できればよく、その手法は問わない。また、コスト値として人件費そのものを算出するのではなく、有人運転によるコスト増加と比例関係にある値をコスト値として代用してもよい。
【0047】
ステップ508で、コスト値を算出した後に、ステップ509に進む。
ステップ509では、運行計画割当装置120は、作成した割当計画の全てのコスト値算出が完了したかを判定する。全ての割当計画でのコスト値算出が終わっていない場合はステップ508に進み、コスト値算出を行う。全ての割当計画のコスト値算出が終わっている場合はステップ510に進む。
【0048】
ステップ510では、運行計画割当装置120は、作成した割当計画の全てについてリスク値とコスト値とを評価する。具体的には、一日の最初の運用から最後の運用まで、リスク値が閾値を下回っている割当計画を抽出し、この割当計画のなかでコスト値が低い割当計画を最終的な運行計画とする。なお、リスク値が閾値を下回っている割当計画のなかでコスト値が最も低い割当計画を最終的な運行計画としてもよい。更に、リスク値が最も低く、かつコスト値が最も低い割当計画を最終的な運行計画としてもよい。その後、ステップ511に進む。
【0049】
ステップ511では、運行計画割当装置120は、最終的な運行計画を運行管理装置110に送信する。
図8は、最終的な運行計画のデータフォーマットの例を示す図である。
図4で示した運行計画に、各運用の各区間に有人運転を行うのか無人運転を行うかのフラグを設定する項目を追加したデータフォーマットである。
図8の例では、有人運転を行う区間を“0”、無人運転を行う区間を“1”としている。
【0050】
本実施形態によれば、リスク値が閾値以下となるように有人運転の区間と無人運転の区間とを割り当てることが可能となり、運用コストを低減して所定の運行計画を維持しながら安全性や運用性を向上させることができる。
【0051】
本実施形態では、有人運転時に監視要員が車両前方の環境を監視することにより列車100の走行に対するリスクがないことが確認できたと考えられる場合にリスク関数の値を“0”としていた。そして、有人運転時のリスク関数の減少は自路線(有人運転の列車100が走行した線路)のみを対象とした例で説明した。しかしながら、例えば複線路線などで監視要員が対向路線のリスクを判断可能な区間については、対向路線のリスク値も“0”としてよい。以下に、このような場合を例に説明する。
【0052】
図9は、運行計画割当装置120による割当計画の作成を説明する図である。横軸に時間を、縦軸に駅の位置を示す。そして、有人運転を実線で、無人運転を点線で示す。
図9では、複線路線において対向路線が全区間で視認等により監視できる路線のリスク超過予測時刻の例を示す。例えばD駅からA駅に向かう運用910で、D駅からC駅、B駅からA駅まで有人運転を行った場合、通常であればリスク超過予測時刻は911と912となる。また、A駅からD駅に向かう運用920がA駅からD駅まで全区間で有人運転を行った場合、リスク超過予測時刻は921と922となる。このとき、運用920の有人運転により、その対向路線(D駅からA駅に向かう路線)を列車100が走行する運用910のリスクも確認されたと考え、A駅⇔B駅、B駅⇔C駅、C駅⇔D駅の区間のリスク超過予測時刻は方向(A駅からD駅、D駅からA駅)に関わらず時刻921、時刻922、時刻912となる。ここで、C駅⇔D駅の区間については運用910よりも運用920のほうが後の時刻で有人運転を行っているため、当該区間でのリスク超過予測時刻は、運用910に対応したリスク超過予測時刻911に替えて、運用920に対応したリスク超過予測時刻921が採用される。すなわち、運行計画割当装置120は、
図5に示すステップ504において、有人運転の区間には、列車100がそれぞれ走行可能な複数の路線が含まれ、複数の路線のうちいずれかの路線を列車100が走行したときに監視要員が他の路線を監視可能な場合は、複数の路線のリスク超過予測時刻を同一の値に設定し、複数の路線のうちいずれかの路線を列車100が走行したときに監視要員が他の路線を監視できない場合は、複数の路線のリスク超過予測時刻を別々の値に設定する。
【0053】
対向路線のリスク値のうち、aの経年劣化に基づくリスク値とbの監視時期に基づくリスク値の両方を“0”にしてもよい。また、bの監視時期に基づくリスク値のみを“0”にするようにしてもよい。この場合、方向(A駅からD駅、D駅からA駅)で異なるリスク超過予測時刻となる。
【0054】
次に、複線路線において部分的に対向路線が視認できない区間を含む路線の場合について説明する。
図10は、運行計画割当装置120による複線路線における割当計画の作成を説明する図である。横軸に時間を、縦軸に駅の位置を示す。そして、有人運転を実線で、無人運転を点線で示す。
【0055】
図10では、複線路線において部分的に対向路線が視認できない区間を含む路線のリスク超過予測時刻の例を示す。対向路線を視認できない区間とは、例えばトンネルTが各方向で独立している区間や、それぞれの線路の間に距離がある区間、橋梁といった構造物で対向路線の軌道状態の確認が難しい区間などがある。
図10の例ではA駅⇔B駅区間に対向路線が視認できないトンネルTの区間を含む。この場合、例えばA駅からD駅に自路線で運用1001を有人運転で行った場合、対向路線が監視できるB駅⇔C駅、C駅⇔D駅の区間のリスク超過予測時刻は時刻1011、時刻1012となり、方向(A駅からD駅、D駅からA駅)に関わらず同じリスク超過予測時刻となる。
【0056】
一方、A駅⇔B駅区間についてはD駅からA駅方向の有人運転の監視要員からは視認できないトンネルTの区間を含む。そのため運用1002がB駅からA駅を有人運転にしても運用1001でA駅からD駅方向の路線のリスクの有無が確認できなかったため、リスク関数の値はaの経年劣化に基づくリスク値とbの監視時期に基づくリスク値の両方の値が維持される(“0”とならない)。A駅からD駅方向のA駅⇔B駅区間のリスク超過予測時刻1013は、A駅からD駅への運用1001の時刻を基準とする。その結果、A駅からD駅方向のA駅⇔B駅区間のリスク超過予測時刻は時刻1013となり、D駅からA駅方向のA駅⇔B駅区間のリスク超過予測時刻は時刻1013ではなく時刻1014となる。すなわち、運行計画割当装置120は、
図5に示すステップ504において、有人運転の区間を列車100が通過したと想定した場合に、通過した自路線と対向する対向路線が監視できない区間は自路線のリスク超過予測時刻を時刻1014に設定する。
【0057】
[第2の実施形態]
図11は、本発明の第2の実施形態に係る運行計画割当装置220を含む軌道輸送システム2000の構成を示す図である。第1の実施形態では、先頭車両に監視要員を乗務させて前方の監視を行う有人運転の区間と監視要員による監視を行わない無人運転の区間とを運行計画に割り当てる例で説明した。第2の実施形態では、監視要員を常に列車に乗務させ、必要に応じて列車200の先頭車両に監視要員が移動し、列車100の前方を監視する。以下では、説明の便宜上、先頭車両に監視要員を移動させて列車100の前方を監視する場合を有人運転と称し、列車100の前方を監視しない場合を無人運転と称する。また、監視要員とは、例えば、運転士や添乗員である。第1の実施形態と同一の箇所には同一の符号を付してその説明を簡略に行う。
【0058】
軌道輸送システム2000は、運行管理装置110、運行計画割当装置220、列車200を備えて構成される。
列車200は、外界センサ101、障害物検知部102、車両制御装置103、指示装置104を備え、軌道10を走行する。外界センサ101、障害物検知部102、車両制御装置103は、第1の実施形態と同様である。
【0059】
指示装置104は、列車200に乗務している監視要員に対して、先頭車両に移動し前方の監視をする区間を指示する装置である。監視要員は指示装置104を介して前方監視を行う区間(有人運転の区間)を把握する。監視の指示がなく前方監視を行わない区間(無人運転の区間)については列車200内で乗客向けのサービスや車掌業務などを行う。指示装置104は、運行計画を参照して、有人運転の区間では、先頭車両に移動し前方の監視をするように監視要員に表示や音声などにより事前に指示する。指示装置104は持ち運びが可能なスマートデバイスのようなものでもよいし、列車200の運転台に備え付けられた表示装置でもよい。本実施形態では監視要員が前方監視を行う区間を把握できればよく、その他の装置を用いてもよい。
【0060】
運行管理装置110は、列車200の運行計画を管理する装置である。運行管理装置110は、運行計画割当装置220で作成された運行計画に基づいて軌道輸送システム2000の運行を管理する。具体的には、運行計画に基づいて列車200の運行を管理するとともに、運行計画を列車200の指示装置104に提供して、指示装置104を介して、有人運転の区間では、監視要員に先頭車両に移動し前方の監視をするように指示する。監視要員は前方監視業務がどの列車200のどの区間に割当られているかを示す情報が付与された運行計画をもとに把握し、前方監視業務を割り当てられた列車200の区間で先頭車両に移動し、前方監視業務を行う。
【0061】
運行計画割当装置220は、第1の実施形態で
図2~
図3を参照して説明したと同様にリスク値を算出する。すなわち、運行計画を参照して、運行計画における列車200の通過後に所定の値に設定され、列車200が通過した後は経過時間に関連して上昇するリスク値を算出する。具体的には、運行管理装置110から当初の運行計画を取得し、取得した当初の運行計画に基づいてどの列車200のどの区間で無人運転を行うかを割り当てて割当計画を作成する。作成した割当計画ごとに算出されるリスク値と運用コストとを求める。運用コストは、監視要員が列車200の前方を監視している区間の運行時間に係るコストである。そして、割当計画ごとに算出されたリスク値とコスト値を評価し、リスク値があらかじめ定義されている閾値以下かつコスト値が小さい割当計画を最終的な運行計画として決定する。決定した運行計画を運行管理装置110に送信する。
【0062】
図12は、運行計画割当装置220によって実行される処理を示すフローチャートである。
図12において、
図5に示した第1の実施形態の運行計画割当装置120による処理のフローチャートと同一の処理を行うステップには、
図5と同一の符号を付している。以下では、その説明を簡略に行う。
【0063】
ステップ501では、運行計画割当装置220は、運行管理装置110から運行計画を取得する。運行計画は、
図4に示すように、運用ごとの各駅の出発時刻・到着時刻が定義されている。次に、ステップ502に進む。
【0064】
ステップ502では、運行計画割当装置220は、運行計画をもとにどの運用のどの区間を有人運転、すなわち、監視要員に前方監視業務を依頼するか、を設定した割当計画を作成する。割当計画は少なくとも2つ以上作成する。
図6を参照して説明したように、例えば、初めに一日の運用のうち最初の運用610の始発列車に係る区間は、有人運転の区間に割り当てる。最初の運用610以外では、例えば、リスク超過予測時刻の直前に走行予定の区間を有人運転に割り当る、もしくは、ランダムに任意の区間を有人運転に割り当る。次に、ステップ503に進む。
【0065】
ステップ504では、運行計画割当装置220は、総リスク値が所定の閾値を超える時刻であるリスク超過予測時刻を算出する。
図6を参照して説明したように、区間で一つのリスク超過予測時刻を定義する。次に、ステップ506に進む。
【0066】
ステップ506では、運行計画割当装置220は、割当計画の全てについて、リスク値の算出と、リスク超過予測時刻の算出が終了したかを判定する。全ての割当計画での処理が終わっていない場合はステップ503へ戻り、ステップ503~ステップ504の処理を繰り返す。ステップ506で、全ての割当計画での処理が終わっている場合はステップ507に進む。
【0067】
ステップ507では、運行計画割当装置220は、算出したリスクが予め定義されている閾値を超える時刻をすべての駅間について確認する。そして、一日の運用で最も遅い運用の全ての駅の到着時刻を確認する。それぞれの駅間について閾値を超える時刻が、一日の運用で最も遅い運用での到着時刻よりも遅いかどうかを判定する。全ての駅間で閾値を超える時刻が、一日の運用で最も遅い運用での到着時刻よりも遅い場合はステップ512に進む。すなわち、リスクが予め定義されている閾値以下の場合にステップ512に進む。全ての駅間で閾値を超える時刻が、一日の運用で最も遅い運用での到着時刻よりも遅くない場合はステップ502に進み、割当計画を作成する。
【0068】
ステップ512では、運行計画割当装置220は、作成した割当計画の全てについてコスト値の算出を行う。コスト値の算出は、監視要員の人件費を基に算出するが、本実施形態では、作成された割当計画で有人運転が割当てられた区間の運行時間、すなわち監視要員が前方監視を行った時間をコスト値と見做して算出する。基本的には、割当計画で有人運転が割当てられた区間の運行時間(出発時刻から到着時刻までの運行時間)を合計してコスト値とする。次に、ステップ509に進む。
【0069】
ステップ509では、運行計画割当装置220は、作成した割当計画の全てのコスト値算出が完了したかを判定する。全ての割当計画でのコスト値算出が終わっていない場合はステップ512に進み、コスト値算出を行う。全ての割当計画のコスト値算出が終わっている場合はステップ510に進む。
【0070】
ステップ510では、運行計画割当装置220は、作成した割当計画の全てについてリスク値とコスト値とを評価する。具体的には、一日の最初の運用から最後の運用まで、リスク値が閾値を下回っている割当計画を抽出し、この割当計画のなかでコスト値が低い、すなわち前方監視業務の時間が短い割当計画を最終的な運行計画とする。なお、リスク値が閾値を下回っている割当計画のなかでコスト値が最も低い割当計画を最終的な運行計画としてもよい。更に、リスク値が最も低く、かつコスト値が最も低い割当計画を最終的な運行計画としてもよい。その後、ステップ511に進む。
【0071】
ステップ511では、運行計画割当装置220は、最終的な運行計画を運行管理装置110に送信する。最終的な運行計画は、
図8を参照して説明したデータフォーマットと同様である。
図8の例では、有人運転を行う区間を“0”、無人運転を行う区間を“1”としている。
【0072】
本実施形態では、監視要員の前方監視業務の時間も評価項目として考慮したが、全ての列車200に監視要員が乗務することから人件費に係るコストは一定と考えられる。そのため、運行計画割当装置220の計算負荷を下げるために、ステップ512のコスト値の算出を省略して、リスク値のみで評価するようにしてもよい。この場合、ステップ510では、各区間のリスク値の平均が低い割当計画割当計画を最終的な運行計画とするか、各区間での最大リスク値が小さい割当計画を最終的な運行計画とする。
【0073】
本実施形態によれば、リスク値が閾値以下となるように有人運転の区間と無人運転の区間とを割り当てることが可能となり、運用コストを低減して所定の運行計画を維持しながら安全性や運用性を向上させることができる。また、全ての列車200に乗務している監視要員の業務内容を変更するだけで、列車200の運行の安全性を確保することが可能となる。そのため、第1の実施形態と比較して軌道輸送システムの運用事業者の業務負荷を低減できる。
【0074】
以上説明した実施形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)運行計画割当装置120、220は、軌道10上を走行する列車100、200に監視要員を乗務させて前方の監視を行う有人運転の区間と、監視要員による監視を行わない無人運転の区間とを、列車100、200の運行計画に割り当てる装置であって、運行計画における列車100、200の通過後に所定の値に設定され、列車100、200が通過した後は経過時間に関連して上昇するリスク値を算出し、リスク値が所定の閾値以下となるように、有人運転の区間と無人運転の区間とを運行計画に割り当てる。これにより、有人運転の区間と無人運転の区間とをリスクに応じて割り当て、安全性や運用性を向上させることが可能となる。
【0075】
(2)運行計画割当方法は、軌道10上を走行する列車100、200に監視要員を乗務させて前方の監視を行う有人運転の区間と、監視要員による監視を行わない無人運転の区間とを、列車100、200の運行計画に割り当てる運行計画割当方法であって、運行計画における列車100、200の通過後に所定の値に設定され、列車100、200が通過した後は経過時間に関連して上昇するリスク値を、コンピュータ(運行計画割当装置120、220)により算出し、コンピュータ(運行計画割当装置120、220)により、リスク値が閾値以下となるように有人運転の区間と無人運転の区間とを運行計画に割り当てる。これにより、有人運転の区間と無人運転の区間とをリスクに応じて割り当て、安全性や運用性を向上させることが可能となる。
【0076】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の特徴を損なわない限り、本発明の技術思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。また、上述の各実施形態を組み合わせた構成としてもよい。
【符号の説明】
【0077】
10・・・軌道、100、200・・・列車、101・・・外界センサ、102・・・障害物検知部、103・・・車両制御装置、104・・・指示装置、110・・・運行管理装置、120、220・・・運行計画割当装置、1000、1100・・・軌道輸送システム。