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2023-142173湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液及び磁粉液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142173
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液及び磁粉液
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/84 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
G01N27/84
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048915
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】390002808
【氏名又は名称】マークテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173406
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 真貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100067301
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 順一
(72)【発明者】
【氏名】幡谷 尚宏
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 渉
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB22
2G053BA03
2G053CA11
2G053DC01
2G053DC04
2G053DC05
(57)【要約】
【課題】
防藻剤を含有するにも関わらず、長期に亘って磁粉が沈降したり、沈殿したりせずに分散状態を維持でき、かつ、該濃厚磁粉分散液を水で希釈するという簡便な方法で、防藻剤を適正量含有する磁粉液を調製でき、調整した磁粉液は、微生物の繁殖を抑制できるので、不快臭や藻状の物質の発生を抑制できるとともに、磁粉液を複数回再利用したとしても磁粉が凝集し難いので高精度の湿式磁粉探傷試験を実施できる湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液を提供する。
【解決手段】
磁粉を10重量%以上かつ20重量%以下と、水酸基価が69.5以上かつ73.6以下のポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤を5重量%以上かつ15重量%以下と、イソチアゾリノン系誘導体及び/又はトリアジン系防藻剤を0.15重量%以上かつ2.5重量%以下と水とを含有する湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁粉を10重量%以上かつ20重量%以下と非イオン系界面活性剤を5重量%以上かつ15重量%以下と防藻剤を0.15重量%以上かつ2.5重量%以下と水とを含有する湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液であり、前記防藻剤はイソチアゾリノン系誘導体及び/又はトリアジン系防藻剤であり、前記非イオン界面活性剤は水酸基価が69.5以上かつ73.6以下のポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤である湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液。
【請求項2】
前記イソチアゾリノン系誘導体が、メチルイソチアゾリノン、クロロメチルイソチアゾリノン、オクチルイソチアゾリノン、ジクロロオクチルイソチアゾリノン、ベンズイソチアゾリノンから選択される1又は2以上の混合物である請求項1記載の湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液。
【請求項3】
前記トリアジン系防藻剤が、ヘキサヒドロ-1,3,5トリス(2-ヒドロキシエチル)1,3,5トリアジンである請求項1又は2記載の湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液。
【請求項4】
前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤がポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリスチリルフェニルエーテルから選択される1又は2以上の混合物である請求項1乃至3いずれか記載の湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液。
【請求項5】
前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤の平均分子量が750以上かつ950以下である請求項1乃至4いずれか記載の湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散剤。
【請求項6】
前記非イオン系界面活性剤が、平均分子量750以上かつ950以下のポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤と、水酸基価が55以上かつ85以下で、平均分子量が750以上かつ950以下のポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤を1又は2以上混合してなる平均分子量750以上かつ950以下で、水酸基価が69.5以上かつ73.6以下のポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤である請求項1乃至5いずれか記載の湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれか記載の濃厚磁粉分散液を水で希釈してなる湿式磁粉探傷試験用磁粉液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水で希釈して湿式磁粉探傷試験の磁粉液として使用する湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液に関する。詳しくは、該濃厚磁粉分散液は、防藻剤を含有するにも関わらず、長期に亘って磁粉が沈降したり、沈殿したりせずに分散状態を維持でき、かつ、該濃厚磁粉分散液を水で希釈するという簡便な方法で、防藻剤を適正量含有する磁粉液を調製でき、調製した磁粉液は微生物の繁殖を抑制できるので、不快臭や藻状の物質の発生を抑制できるとともに、磁粉液を複数回再利用したとしても凝集し難いので高精度の磁粉探傷試験を実施できる磁粉液になる湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、磁粉探傷試験方法は、JIS-Z-2320に規格化されており、この試験方法は、磁化されている検査物、例えば、シャフトなどの鋼製部品、磁性体やビレットなどの鋼材、磁性体等に市販の湿式磁粉探傷試験用磁粉(四三酸化鉄粒子や純鉄粒子などの導磁性粒子に酢酸セルローズ系合成樹脂やビニルブチラール系合成樹脂などの合成樹脂バインダーを用いてルモゲンイエロー50790:商品名:BASF社製やフエスタA:商品名:Swada社製などの蛍光顔料を付着させてなる平均粒子径3~70μm:体積基準分布表示-以下、同じ-で真比重2g/cm~5g/cmの粉末を水等の分散液に分散させて調製した磁粉液を接触させ、検査物の開口欠陥部(検査物の表面又は表面近傍に存在する微細なワレやピンホール)に磁粉液に分散している磁性粉を集合させて欠陥指示模様を形成させ、この欠陥指示模様によって表面の開口欠陥部を探傷する試験方法(以下、この試験方法を「湿式磁粉探傷試験」という)である。
【0003】
鋼製部品や鉄鋼材の製造ラインにおける湿式磁粉探傷試験において、検査体に散布された探傷液は、探傷試験が終了した後、回収して再利用される。
【0004】
磁粉液は通常1週間~1カ月程度再利用された後に交換されるが、再利用している間に微生物が繁殖して不快臭が発生したり、藻状の物質が発生したりという問題がある。
【0005】
また、複数回再利用していると、磁粉が凝集するという問題がある。
【0006】
磁粉が凝集すると探傷試験の精度が低下したり、磁粉液を貯蔵するタンクや配管内に磁粉が付着したり、磁粉液を散布するノズルの詰まりを生じさせたりする。
【0007】
メチルイソチアゾリノン等の防藻剤を磁粉液に添加することにより、微生物の繁殖を抑制したり、磁粉の凝集を抑制したりできるが、防藻剤の添加量が少な過ぎると、微生物の繁殖抑制の効果が低く、また、多過ぎると磁粉が凝集するという問題がある。
【0008】
製造のスピードアップを要求される製造ラインにおいて、適正量の防藻剤を秤量して磁粉液に添加する工程を追加することは困難であるため、水で希釈する前の濃厚磁粉分散液に予め防藻剤を添加し、希釈さえすれば、適正量の防藻剤を含有する磁粉液を調製できることが望まれている。
【0009】
しかしながら、希釈した時に適正量になるように濃厚磁粉分散液に予め防藻剤を添加すると、数時間から数日で磁粉が沈降したり、沈殿したりするため、長期に亘って保存することが困難であるという問題がある。
【0010】
そこで、防藻剤を添加した濃厚磁粉分散液であっても、長期に亘って磁粉が沈降したり、沈殿したりせずに保存が可能であって、希釈して調製した磁粉液は、1カ月程度に亘って複数回再利用したとしても、微生物の繁殖を抑制して不快臭や藻状の物質が発生し難く、また、磁粉が凝集せずに探傷試験の精度が低下しない磁粉液になる濃厚磁粉分散液の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2019-128292
【特許文献2】特開2009-109424
【特許文献3】特開平10-332644
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1には、HLB値10~12で平均分子量が750~950のポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤を分散剤とすることで、40℃で90日静置しても磁粉が沈降したり、沈殿したりせずに分散している湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液が記載されている。
【0013】
しかし、特許文献1に記載される濃厚磁粉分散液は、一定のHLB値の範囲及び平均分子量の範囲で濃厚磁粉分散液中の磁粉の沈降等を抑制しているため、防藻剤を添加すると数日で磁粉が沈降するという問題がある。
【0014】
特許文献2には、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤と陰イオン活性剤とを分散剤とすることで、40℃で90日静置しても磁粉が沈降したり、沈殿したりせずに分散している湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液が記載されている。
【0015】
しかしながら、特許文献2に記載の濃厚磁粉分散液もポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤に陰イオン活性剤を一定の割合で混合することで静電反発力が高くなり、沈降や沈殿が抑制されていると考えられることから、防藻剤を添加すれば、数日で濃厚磁粉分散液中の磁粉が沈降したり、沈殿したりするという問題がある。
【0016】
特許文献3には、HLB10~12のアルキルエーテル型非イオン系界面活性剤とアルコールを分散剤とすることで少なくとも2カ月間の静置によっても磁粉が沈降したり、沈殿したりしない濃厚磁粉分散液が記載されている。
【0017】
しかしながら、特許文献3記載の濃厚磁粉分散液に防藻剤を添加すると数日で磁粉が沈降・沈殿するという問題がある。
【0018】
本発明者は、前記諸問題点を解決することを技術的課題とし、試行錯誤的な数多くの試作・実験を重ねた結果、磁粉を10重量%以上かつ20重量%以下と非イオン系界面活性剤を5重量%以上かつ15重量%以下と防藻剤を0.15重量%以上かつ2.5重量%以下と水とを含有する湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液であり、前記防藻剤はイソチアゾリノン系誘導体及び/又はトリアジン系防藻剤であり、前記非イオン系界面活性剤は水酸基価が69.5以上かつ73.6以下のポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤である湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液であれば、防藻剤を含有するにも関わらず、、40℃の高温中で静置しても1カ月以上という長期に亘って磁粉が沈降したり、沈殿したりせず、また、本発明に係る濃厚磁粉分散液を水で希釈して調製した磁粉液は、1カ月程度に亘って複数回再利用したとしても、微生物の繁殖を抑制し、不快臭や藻状の物質が発生し難く、また、磁粉が凝集し難いので高精度の探傷試験を実施することができると共に、磁粉液を貯蔵するタンクや磁粉液を輸送する配管内に磁粉が付着し難く、磁粉液を散布するノズルの目詰まりも起こり難い磁粉液になるという刮目すべき知見を得て、前記技術的課題を達成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記技術的課題は、次のとおり本発明によって解決できる。
【0020】
本発明は、磁粉を10重量%以上かつ20重量%以下と非イオン系界面活性剤を5重量%以上かつ15重量%以下と防藻剤を0.15重量%以上かつ2.5重量%以下と水とを含有する湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液であり、前記防藻剤はイソチアゾリノン系誘導体及び/又はトリアジン系防藻剤であり、前記非イオン系界面活性剤は水酸基価が69.5以上かつ73.6以下のポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤である湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液である。
【0021】
また本発明は、前記イソチアゾリノン系誘導体が、メチルイソチアゾリノン、クロロメチルイソチアゾリノン、オクチルイソチアゾリノン、ジクロロオクチルイソチアゾリノン、ベンズイソチアゾリノンから選択される1又は2以上の混合物である前記の湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液である。
【0022】
また本発明は、前記トリアジン系防藻剤が、ヘキサヒドロ-1,3,5トリス(2-ヒドロキシエチル)1,3,5トリアジンである前記の湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液である。
【0023】
また本発明は、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤がポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリスチリルフェニルエーテルから選択される1又は2以上の混合物である前記の湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液である。
【0024】
また本発明は、前記ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤の平均分子量が750以上かつ950以下である前記の湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散剤である。
【0025】
また本発明は、前記非イオン系界面活性剤が、平均分子量750以上かつ950以下のポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤と、水酸基価が55以上かつ85以下で、平均分子量が750以上かつ950以下のポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤を1又は2以上混合してなる平均分子量750以上かつ950以下で、水酸基価が69.5以上かつ73.6以下のポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤である前記の湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液である。
【0026】
また本発明は、前記の濃厚磁粉分散液を水で希釈してなる湿式磁粉探傷試験用磁粉液である。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、分散剤として、水酸基価が69.5以上かつ73.6以下のポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤を使用しているので、イソチアゾリノン系誘導体及び/又はトリアジン系防藻剤を含有するにも関わらず、40℃の高温で1カ月以上静置しても、磁粉が沈降したり、沈殿したりせず分散状態を維持できる濃厚磁粉分散液である。
【0028】
また、水酸基価が69.5以上かつ73.6以下で、平均分子量が750以上かつ950以下のポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤であればさらに磁粉が沈降・沈殿し難い濃厚磁粉分散液になる。
【0029】
また、本発明における濃厚磁粉分散液はイソチアゾリノン系誘導体及び/又はトリアジン系防藻剤を含有するので、湿式磁粉探傷試験の現場で適正量になるように防藻剤を磁粉液に防藻剤を秤量して添加しなくても、水で希釈するという簡便な方法で、防藻剤を適正量含有する磁粉液を調製することができる。
【0030】
また、調製した磁粉液は、1カ月以上に亘って複数回再利用したとしても、微生物の繁殖を抑制することができるため、不快臭や藻状の物質の発生を抑制することができる磁粉液である。
【0031】
また、本発明における磁粉液はイソチアゾリノン系誘導体及び/又はトリアジン系防藻剤を含有するので、磁粉の凝集を抑制することができるから、1カ月以上に亘って複数回再利用したとしても、高精度の湿式磁粉探傷試験を実施できる磁粉液である。
【0032】
また、磁粉が凝集し難いから、磁粉液を貯蔵するタンクや輸送する配管等に磁粉が付着し難く、検査体に散布するノズルも目詰まりし難いので、作業効率に優れる磁粉液である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明における濃厚磁粉分散液は磁粉と分散剤として非イオン系界面活性剤と防藻剤と水を含有する。
【0034】
(磁粉)
本発明における磁粉は、導磁性粒子粉末(四三酸化鉄粒子粉末や純鉄粒子粉末など)の粒子表面が合成樹脂(酢酸セルローズ系合成樹脂やビニルブチラール系合成樹脂)バインダーと蛍光顔料(ルモゲンイエロー50790(BASF社製)やフエスタA(Swada社製))とによって被覆されている蛍光磁粉が好ましい。
【0035】
導磁性粒子はメジアン径3μm~70μmで真比重2g/cm~5g/cmのものが好適である。
【0036】
蛍光磁粉は市販品を用いればよい。
市販品として、湿式磁粉探傷試験用磁粉スーパーマグナLY-10、同スーパーマグナLY-20、同スーパーマグナLY-20P(いずれもマークテック株式会社製)を例示する。
【0037】
濃厚磁粉分散液における磁粉の含有量は10重量%~20重量%である。
【0038】
10重量%未満であると、磁粉液の調製時に多量の磁粉分散液が必要になるため作業効率が悪く、20重量%を超えると分散安定性が悪くなり、長期に亘って静置すると磁粉が沈降したり、沈殿したりする虞があるからである。
【0039】
(非イオン系界面活性剤)
本発明は分散剤として、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤(以下「非イオン系界面活性剤」と言うことがある)を含有する。
【0040】
非イオン系界面活性剤として、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリスチリルフェニルエーテルを例示するがこれらに限定されるものではない。
【0041】
非イオン系界面活性剤は、単独で使用しても良いし2種以上混合して使用してもよい。
【0042】
非イオン系界面活性剤の水酸基価は69.5~73.6であることが好ましく、さらに好ましくは、72.0~73.5である。
【0043】
水酸基価が69.5未満、又は、73.6より高くなると、イソチアゾリノン系誘導体及び/又はトリアジン系防藻剤を添加した際に長期に亘って分散状態を維持できずに、磁粉が沈降したり、沈殿したりするからである。
【0044】
非イオン系界面活性剤の平均分子量は750~950であること好ましい。
【0045】
平均分子量が750未満であると、粘度が低くなり過ぎるため濃厚磁粉分散液中で磁粉を分散して保持する粘度にならずに沈降したり、沈殿したりする虞があり、950を超えると、粘度が高くなりすぎて磁粉液を調製する際の秤量作業の効率が悪くなるからである。
【0046】
本発明においては、水酸基価が69.5~73.6で、平均分子量が750~950の単独の非イオン系界面活性剤であってもよいし、非イオン系界面活性剤を混合して水酸基価が69.5~73.6で、平均分子量が750~950に調製した非イオン系界面活性剤であってもよい。
【0047】
(防藻剤)
本発明における濃厚磁粉分散液は防藻剤としてイソチアゾリノン系誘導体及び/又はトリアジン系防藻剤を含有する。
【0048】
イソチアゾリノン系誘導体として、メチルイソチアゾリノン、クロロメチルイソチアゾリノン、オクチルイソチアゾリノン、ジクロロオクチルイソチアゾリノン、ベンズイソチアゾリノンを例示するがこれらに限定されない。
【0049】
トリアジン系防藻剤として、ヘキサヒドロ-1,3,5トリス(2-ヒドロキシエチル)1,3,5トリアジンを例示するが、これに限定されるものではない。
【0050】
本発明においては、イソチアゾリノン系誘導体を単独で使用してもよく、また、2種以上を混合して使用してもよい。
【0051】
また、トリアジン系防藻剤を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0052】
また、イソチアゾリノン系誘導体とトリアジン系防藻剤を混合して使用してもよい。
【0053】
本発明における防藻剤の含有量は0.15重量%~2.5重量%であり、より好ましくは、0.75重量%~2.5重量%である。
【0054】
防藻剤が0.15重量%未満であると、調製した磁粉液の微生物の繁殖抑制効果が低すぎて、微生物が繁殖する虞があり、また、2.5重量%よりも多ければ、長期に亘って保存した際に磁粉が沈降したり、沈殿したりする虞があり、また、調製した磁粉液の磁粉が凝集する虞があるからである。
【0055】
本発明における濃厚磁粉分散液の粘度は1000mPa・s~5000mPa・sが好ましく、さらに好ましくは、1000mPa・s~3000mPa・sである。
【0056】
製造容器への充填や磁粉液調製の秤量作業に資するからである。
【0057】
(磁粉液)
本発明における濃厚磁粉分散液は水で希釈することで湿式磁粉探傷試験用磁粉液を調製することができる。
【0058】
磁粉液は水1L当たり磁粉0.5g~2.0gであることが好ましい。
【0059】
希釈用の水は水道水を使用することができる。
【0060】
磁粉液における磁粉の含有量は0.05重量%~0.2重量%、非イオン系界面活性剤は0.18重量%~0.72重量%、防藻剤は0.075重量%~0.5重量%であることが好ましい。
【0061】
磁粉液には、市販の消泡剤(例えば、消泡剤KS-537、同KS-538、消泡剤KM-75(信越化学工業株式会社製))を2重量%~8重量%配合することができる。
【0062】
また、防錆剤(例えば、亜硝酸ナトリウム)を適宜配合することもできる。
【0063】
前記の各配合成分をそれぞれ前記の各配合割合の範囲内で残部が水となるように秤取し、ステンレス製タンクに、先ず、分散剤、消泡剤、必要に応じて配合する防錆剤及び水を入れ、室温(約25℃)にて、プロペラ式電動ミキサーを用いて15分間撹拌した後、撹拌を続けながら、磁粉を加え、さらに60分間撹拌すれば、磁粉液を得ることができる。
【実施例0064】
本発明を実施例及び比較例を挙げてより詳しく説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0065】
水道水、分散剤、防藻剤、消泡剤、防錆剤を表2記載の通りステンレス製タンクに投入し、室温(約25℃)にて、プロペラ式電動ミキサーを用いて15分間撹拌した後、撹拌を続けながら湿式磁粉探傷試験用磁粉スーパーマグナLY-10(マークテック株式会社製)を加え、さらに60分間撹拌して実施例及び比較例の各濃厚磁粉分散液を作製した。
【0066】
各実施例及び比較例の分散剤は表1記載のA~Mの各非イオン系界面活性剤を使用した。
【0067】
防藻剤として、ファインサイドC-14BT、ファインサイドHS-20M、ファインサイドLC-430M(東京ファインケミカル株式会社社製)、サンライトIP-50、サンライトIP-51、サンライトP-X(サンワ化成株式会社社製)、スタテクト150(株式会社日新化学研究所社製)、レバナックスBA-200(昌栄化学株式会社社製)、sodium omadine 40%(ロンザジャパン株式会社社製)
BIOSOL-LIQUID(大阪化成株式会社製)を使用した。
【0068】
消泡剤KS-537(信越化学工業株式会社製)、防錆剤として、亜硝酸ナトリウムを使用した。
【0069】
各防藻剤の成分は表4に記載した。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
(評価)
それぞれ各透明ガラス製ビーカーに200g入れ、各ビーカーの口を小穴を開けたアルミホイルによって蓋をした状態にて、恒温槽内においてビーカー内の液温を40℃に保って時間静置した後の分散液の状態を目視にて観察し、上澄み及び沈殿が無い状態を「○」、体積10%以上の上澄みが発生し、外観上明らかな分離が起こっている状態を「×」と評価した。
【0073】
5℃については冷蔵庫内においてビーカー内の液温を5℃に保った以外は、前記40℃の場合と同一条件とした
【0074】
粘度はデジタル回転式粘度計ビスコリード・ワンL(ファンギラブ社製)を用いて20℃・6rpmの条件にて測定した。
【0075】
水1L当たり磁粉が0.5gとなる量の濃厚磁粉分散液を秤量後水に投入し混合攪拌したものを検査液とし、1カ月後の凝集状態を観察した。
【0076】
凝集が見られなかったもの又は少量の凝集はあるが探傷に影響がないものを〇とし、有効磁粉が少なく凝集が多い又は凝集物のみのものを×として評価した。
【0077】
結果を表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
防藻剤を添加する前の実施例6の濃厚磁粉分散液に各防藻剤を0.5重量%になるように添加して、室温で1カ月静置した後、観察して分散性を評価した。
【0080】
凝集が見られなかったもの又は少量の凝集はあるが探傷に影響がないものを〇とし、有効磁粉が少なく凝集が多いまたは凝集物のみの物を×として評価した。
【0081】
結果を表4に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
表3及び表4に示した通り、本発明における濃厚磁粉分散液であれば、防藻剤を添加したとしても1カ月の長期に亘って磁粉が沈降したり、沈殿したりしない濃厚磁粉探傷液であることが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明における湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散剤は、防藻剤を含有するにも関わらず、40℃のような高温で1カ月以上という長期に亘って保存しても磁粉が沈降したり、沈殿したりすることなく分散状態を維持できる。
また、防藻剤を含有するので、水で希釈するという簡便な方法で防藻剤を適正量含有する磁粉液を調製することができるから、磁粉探傷試験の現場で防藻剤を適正量となるよう秤量して磁粉液に添加する必要がない。
また、調製した磁粉液は防藻剤を適正量含有するので、1カ月以上という長期に亘って複数回再利用したとしても微生物の繁殖を抑制して不快臭や藻状の物質の発生を抑制することができ、しかも、磁粉が凝集し難いので、複数回再利用した磁粉液でも高精度の湿式磁粉探傷試験が実施できる。
また、磁粉が凝集し難いので磁粉液を貯蔵するタンクや配管に磁粉が付着し難く、また、磁粉液を散布するノズルの目詰まりも生じ難い磁粉液を調製できる湿式磁粉探傷試験用濃厚磁粉分散液である。
よって、本発明の産業上の利用可能性は高い。