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特開2023-142199砂型個体識別システム、砂型データ入力システムおよび砂型データ照合システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142199
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】砂型個体識別システム、砂型データ入力システムおよび砂型データ照合システム
(51)【国際特許分類】
   B22C 23/00 20060101AFI20230928BHJP
   B22C 9/02 20060101ALI20230928BHJP
   B22D 47/02 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B22C23/00 Z
B22C9/02 103A
B22D47/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048957
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】大岩 晋平
(72)【発明者】
【氏名】玉置 充快
【テーマコード(参考)】
4E094
【Fターム(参考)】
4E094EE15
(57)【要約】
【課題】設備コストを抑制しながら、砂型の個体識別を行うことのできる砂型個体識別システムを提供する。
【解決手段】砂型個体識別システムは、砂型の表面の模様を撮影する表面撮影部13と、表面撮影部13により撮影した砂型ごとに、撮影データから得られる第1形状モデルを製造条件と対応付けて記憶する形状モデルデータベース15と、鋳造時における使用段階の砂型の表面の模様を撮影する表面撮影部23と、表面撮影部23の撮影データから得られる第2形状モデルと一致する第1形状モデルを特定する形状モデル照合部25と、形状モデル照合部25によって特定された第1形状モデルと対応して形状モデルデータベース15に記録されている製造条件を、当該砂型を用いて製造された鋳造品に付与される識別用IDと対応付けて記憶する砂型データベース26とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂型の表面の模様を撮影する第1撮影部と、
前記第1撮影部により撮影した砂型ごとに、撮影データから得られる第1形状モデルを当該砂型の製造条件と対応付けて記憶する第1データベースと、
鋳造時に使用される砂型の表面の模様を撮影する第2撮影部と、
前記第2撮影部の撮影データから得られる第2形状モデルと一致する前記第1形状モデルを特定する照合部と、
前記照合部によって特定された前記第1形状モデルと対応して前記第1データベースに記録されている前記製造条件を、当該砂型を用いて製造された鋳造品に付与される識別用IDと対応付けて記憶する第2データベースとを備えることを特徴とする砂型個体識別システム。
【請求項2】
請求項1に記載の砂型個体識別システムであって、
前記第1形状モデルまたは前記第2形状モデルは、前記第1撮影部または前記第2撮影部による撮影データ中の砂粒パターンのエッジ形状を画像処理によって抽出したものであることを特徴とする砂型個体識別システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の砂型個体識別システムであって、
前記第1形状モデルおよび前記第2形状モデルは、砂型の表面の所定箇所の模様を撮影したものであることを特徴とする砂型個体識別システム。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の砂型個体識別システムであって、
前記第1形状モデルおよび前記第2形状モデルが1つの砂型から複数抽出され、
前記照合部は、最初に1つの前記第2形状モデルのみを用いて一致する前記第1形状モデルの特定を行い、当該形状モデルからは一致する前記第1形状モデルの特定に至らなかった場合に、他の前記第2形状モデルを用いて一致する前記第1形状モデルの特定を行うことを特徴とする砂型個体識別システム。
【請求項5】
請求項1から3の何れか1項に記載の砂型個体識別システムであって、
前記第1形状モデルおよび前記第2形状モデルは、1つの撮影データから面積の互いに異なる複数の照合領域が設定されるものであり、
前記照合部は、最初に前記第2形状モデルにおける面積の最も大きい照合領域のみを用いて一致する前記第1形状モデルの特定を行い、当該照合領域からは一致する形状モデルの特定に至らなかった場合に、前記第2形状モデルにおける他の照合領域を用いて一致する前記第1形状モデルの特定を行うことを特徴とする砂型個体識別システム。
【請求項6】
砂型の表面の模様を撮影する第1撮影部と、
前記第1撮影部により撮影した砂型ごとに、撮影データから得られる第1形状モデルを当該砂型の製造条件と対応付けて記憶する第1データベースとを備えることを特徴とする砂型データ入力システム。
【請求項7】
第1撮影部により撮影された砂型ごとに、撮影データから得られる第1形状モデルを当該砂型の製造条件と対応付けて記憶する第1データベースと、
鋳造時における使用段階の砂型の表面の模様を撮影する第2撮影部と、
前記第2撮影部の撮影データから得られる第2形状モデルと一致する前記第1形状モデルを特定する照合部と、
前記照合部によって特定された前記第1形状モデルと対応して前記第1データベースに記録されている前記製造条件を、当該砂型を用いて製造された鋳造品に付与される識別用IDと対応付けて記憶する第2データベースとを備えることを特徴とする砂型データ照合システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造に使用する砂型の個体識別を行う砂型個体識別システムと、この砂型個体識別システムを構成する砂型データ入力システムおよび砂型データ照合システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工業製品においては、様々な部品が鋳造によって生産されている。例えば、エンジンにおいてはシリンダブロックやシリンダヘッドが鋳造品(鋳物)として生産される。また、鋳造品が内部に空洞を有する部品である場合、鋳物製造の砂型として主型(おもがた)と中子(なかご)とが使用される。主型とは鋳物の外側を形成する砂型であり、中子とは鋳物の空洞部を形成する砂型である。鋳造に使用される砂型は、砂型から鋳物を取り出す段階で破壊される。
【0003】
砂型鋳造による鋳造品は、一般的に不良率が高い(数%程度)。また、砂型の品質が鋳造品に対して与える影響は大きい。このため、鋳造品の不良率を下げ、歩留まりを向上させるには、最終的な鋳造品から鋳造時に使用した砂型のデータ(砂型の製造条件など)をトレースできるようにする(砂型を個体識別できるようにする)ことが好ましい。これにより、鋳造品の不良発生時に砂型における原因などを特定しやすくなる。
【0004】
特許文献1には、砂型に対してレーザ照射などによって管理符号を刻印し、この管理符号にて砂型を個体識別することが開示されている。砂型に刻印された管理符号は鋳造品に転写されるため、鋳造後(砂型破壊後)であっても管理符号から砂型のデータをトレース可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許6006607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
砂型に管理符号を刻印する場合、レーザ照射装置などの刻印装置が必要となり、設備コストが増大するといった問題がある。特に、これまで個体識別されていなかった砂型(例えば、中子)に対して、製造ライン中に個体識別のために刻印装置を入れようとするとライン変更も必要となり、そのためのコストも発生する。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、設備コストを抑制しながら、砂型の個体識別を行うことのできる砂型個体識別システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様である砂型個体識別システムは、砂型の表面の模様を撮影する第1撮影部と、前記第1撮影部により撮影した砂型ごとに、撮影データから得られる第1形状モデルを当該砂型の製造条件と対応付けて記憶する第1データベースと、鋳造時に使用される砂型の表面の模様を撮影する第2撮影部と、前記第2撮影部の撮影データから得られる第2形状モデルと一致する前記第1形状モデルを特定する照合部と、前記照合部によって特定された前記第1形状モデルと対応して前記第1データベースに記録されている前記製造条件を、当該砂型を用いて製造された鋳造品に付与される識別用IDと対応付けて記憶する第2データベースとを備えることを特徴としている。
【0009】
上記の構成によれば、砂型に管理符号などを刻印することなく、砂型の表面に自然発生するランダム模様(砂粒の形状モデル)を利用して個体識別が行える。すなわち、第2撮影部の撮影にて得られる第2形状モデルを、予め第1撮影部の撮影にて得られた第1形状モデルと照合することで、砂型製造段階で第1形状モデルと対応付けられていた砂型の製造条件を、鋳造段階で当該砂型を用いて製造された鋳造品に付与される識別用IDと対応付けて記憶させることができる。このとき、砂型製造ラインにおいてレーザ照射装置などの刻印装置が不要であり、設備コストを抑制できる。
【0010】
また、上記砂型個体識別システムでは、前記第1形状モデルまたは前記第2形状モデルは、前記第1撮影部または前記第2撮影部による撮影データ中の砂粒パターンのエッジ形状を画像処理によって抽出したものである構成とすることができる。
【0011】
上記の構成によれば、エッジ抽出された形状モデルは砂粒の形状を利用するものであることから、工程の途中で砂型表面に色変化や汚れがあっても認識しやすくなる。
【0012】
また、上記砂型個体識別システムでは、前記第1形状モデルおよび前記第2形状モデルは、砂型の表面の所定箇所の模様を撮影したものである構成とすることができる。
【0013】
上記の構成によれば、照合される形状モデルの範囲を絞ることができ、照合速度を向上させることができる。
【0014】
また、上記砂型個体識別システムでは、前記第1形状モデルおよび前記第2形状モデルが1つの砂型から複数抽出され、前記照合部は、最初に1つの前記第2形状モデルのみを用いて一致する前記第1形状モデルの特定を行い、当該形状モデルからは一致する前記第1形状モデルの特定に至らなかった場合に、他の前記第2形状モデルを用いて一致する前記第1形状モデルの特定を行う構成とすることができる。
【0015】
上記の構成によれば、照合作業の効率低下を抑制しながら、照合精度を向上させることができる。
【0016】
また、上記砂型個体識別システムでは、前記第1形状モデルおよび前記第2形状モデルは、1つの撮影データから面積の互いに異なる複数の照合領域が設定されるものであり、前記照合部は、最初に前記第2形状モデルにおける面積の最も大きい照合領域のみを用いて一致する前記第1形状モデルの特定を行い、当該照合領域からは一致する形状モデルの特定に至らなかった場合に、前記第2形状モデルにおける他の照合領域を用いて一致する前記第1形状モデルの特定を行う構成とすることができる。
【0017】
上記の構成によれば、照合作業の効率低下を抑制しながら、照合精度を向上させることができる。
【0018】
また、上記の課題を解決するために、本発明の第2の態様である砂型データ入力システムは、砂型の表面の模様を撮影する第1撮影部と、前記第1撮影部により撮影した砂型ごとに、撮影データから得られる第1形状モデルを当該砂型の製造条件と対応付けて記憶する第1データベースとを備えることを特徴としている。
【0019】
また、上記の課題を解決するために、本発明の第3の態様である砂型データ照合システムは、第1撮影部により撮影された砂型ごとに、撮影データから得られる第1形状モデルを当該砂型の製造条件と対応付けて記憶する第1データベースと、鋳造時における使用段階の砂型の表面の模様を撮影する第2撮影部と、前記第2撮影部の撮影データから得られる第2形状モデルと一致する前記第1形状モデルを特定する照合部と、前記照合部によって特定された前記第1形状モデルと対応して前記第1データベースに記録されている前記製造条件を、当該砂型を用いて製造された鋳造品に付与される識別用IDと対応付けて記憶する第2データベースとを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の砂型個体識別システムは、砂型に管理符号などを刻印することなく、砂型の表面に自然発生するランダム模様(砂粒の形状モデル)を利用することで、砂型製造ラインにおいてレーザ照射装置などの刻印装置が不要となり、設備コストを抑制しながら、砂型の個体識別が可能になるといった効果を奏する。また、本発明の砂型データ入力システムおよび砂型データ照合システムは、これらを組み合わせることで本発明の砂型個体識別システムを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】鋳造ラインの流れを概略的に示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態を示すものであり、砂型個体識別システムの概略構成を説明する説明図である。
図3】砂型個体識別システムにおける表面撮影部を製造ラインに組み込む方法の一例であり、中子製造ラインに表面撮影部として組み込まれる撮影装置の概略構成を示す説明図である。
図4】形状モデル抽出部における形状モデルの作成例を示す説明図である。
図5】形状モデル照合部における形状モデルの照合方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、鋳造ラインの流れを概略的に示すブロック図である。ここでは、内部に空洞を有する鋳造品を製造する鋳造ライン、すなわち砂型として主型および中子を使用する鋳造ラインを例示する。
【0023】
図1に示す鋳造ラインでは、最初に主型および中子が製造される(主型造形および中子造形)。鋳造時には、主型の中に中子が納められ(中子納め)、中子納めされた砂型に、対となる砂型を組み合わせて保持される(枠合わせ)。枠合わせされた砂型には、溶解された鋳鉄が注ぎ込まれ(注湯)、冷却後、砂型が壊されて鋳造品が取り出される(型バラシ)。取り出された鋳造品は、製品仕上げされた後、検査を経て出荷される。また、型バラシの段階で破壊される砂型は、生砂混錬および砂性状測定の過程を経て、主型造形に再利用できる。
【0024】
従来でも、主型については、最終製品のための識別用ID(機種、製造日付、シリアル番号など)が付されており(刻印されており)、この識別用IDによって砂型の個体識別を行うことが可能であった。これは、主型に付される識別用IDが、最終製品である鋳造品の外表面に転写され、最終製品の管理に利用しやすいためである。一方、中子については、個体識別を行うことは一般的ではなかった。これは、中子に対して識別用IDを刻印しても、この識別用IDが転写されるのは最終製品である鋳造品の内側(空洞部の内表面)となり、最終製品の管理には利用しづらいためである。本発明は、これまで個体識別がされていなかった砂型についても、設備コストを抑制しながら、個体識別が可能となる個体識別方法を提供するものである。
【0025】
鋳造に使用される砂型は、金型に砂を充填し、焼成することなどによって造形される。このため、同じ金型を用いて造形される砂型の形状はほぼ同一である。しかしながら、砂型を構成する砂(砂粒)自体は同じではない。それぞれの砂粒は、形状および色などが異なっているものであり、異なった砂粒が様々な割合および分布で混合されて砂型を構成している。そのため、形状が同じ砂型であっても、その表面を拡大して見れば、同じ砂粒によって構成されているものとはならない。言い換えれば、砂型の表面は、多数の砂粒が集まってなるランダムな模様を有しており、その模様は砂型ごとに異なるものとなり、完全に同一なものは存在しない。したがって、砂型表面の模様の形状パターンを砂型の識別情報として利用可能となる。
【0026】
尚、中子に関しては、焼成するタイプ(シェル中子)の他に、コールドボックスや自硬性鋳型と呼ばれる、接着剤のような化学反応を用いたものもあり、中子の砂型は焼成によって造形されるものには限定されない。本実施の形態においては、中子がシェル中子である場合を例示する。
【0027】
以下、砂型表面の形状パターンによって個体識別を行う砂型個体識別システム(以下、本システム)についての説明を行う。図2は、本システムの概略構成を説明する説明図である。ここでは、本システムによって中子の個体識別を行う場合を例示する。
【0028】
図2に示すように、本システムは、大略的に、砂型データ入力システム10と、砂型データ照合システム20とによって構成される。砂型データ入力システム10は、中子造形ラインにおいて中子を撮影し、撮影した中子表面の形状モデル(形状パターン)と中子の製造データとを対応付けてデータベースに入力するシステムである。砂型データ入力システム10において中子を撮影するタイミングは、少なくとも各中子における製造データが判明しているタイミングであればよく、それには製造直後のタイミングが好ましい。砂型データ照合システム20は、鋳造ラインにおいて、使用する中子を撮影し、撮影した中子表面の形状モデルと、データベースに記憶されている形状モデルとの照合を行うシステムである。
【0029】
砂型データ入力システム10は、製造データ取得部11、中子製造データベース12、表面撮影部(第1撮影部)13、形状モデル抽出部14および形状モデルデータベース(第1データベース)15を備えている。製造データ取得部11は、中子焼成機(中子製造機の一例)における中子の製造データ(温度、圧力、焼成時間などの製造条件)を取得し、取得した製造データを各中子の識別ID(中子ID)と対応付けて中子製造データベース12に記憶させる。表面撮影部13は、製造直後の中子に対して、予め定められた所定箇所の表面を撮影する。形状モデル抽出部14は、表面撮影部13による中子表面の撮影データに対して画像処理を施し、中子表面の形状モデルを抽出する。抽出された形状モデルは、中子製造データベース12の記憶データ(中子IDおよび製造データ)と対応付けられて形状モデルデータベース15に記憶される。すなわち、中子製造データベース12における各中子の記憶データは、中子ID、製造データおよび形状モデルが対応付けられたものとなる。本実施の形態においては、表面撮影部13の撮影データから得られ、形状モデルデータベース15に記憶される形状モデルが、特許請求の範囲に記載の第1形状モデルに相当する。
【0030】
砂型データ照合システム20は、形状モデルデータベース15、製造データ取得部21、主型製造データベース22、表面撮影部(第2撮影部)23、形状モデル抽出部24、形状モデル照合部(照合部)25および砂型データベース(第2データベース)26を備えている。製造データ取得部21は、主型造形ラインにおいて、主型造形機で製造される主型の製造データ(温度、圧力、焼成時間などの製造条件)を取得し、取得した製造データを識別用IDと対応付けて主型製造データベース22に記憶させる。主型には、最終製品のための識別用ID(機種、製造日付、シリアル番号など)が刻印されており、主型製造データベース22ではこの識別用IDが各主型の識別IDとしても用いられる。
【0031】
表面撮影部23は、鋳造時に使用される中子(すなわち、砂型組立により主型と組み合わされた中子)に対して、予め定められた所定箇所の表面を撮影する。形状モデル抽出部24は、表面撮影部23による中子表面の撮影データに対して画像処理を施し、中子表面の形状モデルを抽出する。形状モデル照合部25は、形状モデル抽出部24で抽出した形状モデルを、形状モデルデータベース15に記憶されている形状モデルと照合し、一致する形状モデルを特定する。本実施の形態においては、表面撮影部23の撮影データから得られる形状モデルが、特許請求の範囲に記載の第2形状モデルに相当する。
【0032】
形状モデル照合部25によって一致する形状モデルが特定されると、その形状モデルに対応する製造データが形状モデルデータベース15から読み出され、かつ、このときの中子と組み合わされた主型のデータ(識別用IDおよび製造データ)が主型製造データベース22から読み出され。これらが対応付けられて砂型データベース26に記憶される。すなわち、砂型データベース26における各砂型の記憶データは、識別用ID、主型の製造データおよび中子の製造データが対応付けられたものとなる。砂型データベース26では、中子の製造データが識別用IDに対応付けられることでその後のトレースが可能となるため、中子IDおよび形状モデルの記憶は不要である。
【0033】
製造ラインに本システムが適用された製品(鋳造品)では、不良品などが生じた場合には、その製品に付された識別用IDから鋳造に使用された全ての砂型(主型および中子)をトレースすることが可能となる。すなわち、不良品で使用されていた砂型の製造データを含む製造履歴データを検索可能となる。また、使用中に不具合を生じた製品があった場合などに、同様の不具合を起こす可能性がある製品を速やかに特定し、点検・回収を行うことも可能である。
【0034】
以上のように、本システムでは、シリアル番号などではなく、中子の表面に自然発生するランダム模様(砂粒の形状モデル)を利用して個体識別が行える。すなわち、中子に対する文字やパターンなどの刻印加工が不要であり、中子表面の撮影データを用いて中子の個体識別が可能となる。このため、中子製造ラインにおいてレーザ照射装置などの刻印装置が不要であり、設備コストを抑制できる。尚、中子表面の撮影データを得るための撮影装置(表面撮影部13,23)は必要であるが、このような撮影装置は比較的安価であり、撮影のための作業時間も殆ど掛からない。さらに、撮影装置や、形状モデル抽出部14,24または形状モデル照合部25として機能させるパソコン(PC)などは製造ラインを殆ど変更(改修)することなく組み込むことも容易であり、製造ライン変更のためのコストも抑制できる。また、本システムは、識別用のタグや刻印を付すことの困難な(タグや刻印を付すための表面積が確保しづらい)小型の砂型においても適用が容易であるといったメリットもある。
【0035】
本システムにおける表面撮影部13,23を製造ラインに組み込むための方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。図3は、中子製造ラインに表面撮影部13として組み込まれる撮影装置30の概略構成を示す説明図である。無論、撮影装置30は、鋳造ラインにおいて表面撮影部23として組み込むことも可能である。
【0036】
撮影装置30は、中子製造ラインにおいて、中子焼成機の出口付近に設置できるものであり、撮影台31、撮影カメラ32、照明33を備えている。撮影台31は撮影する中子を載置するための台である。撮影カメラ32は、中子を撮影する手段である。撮影装置30では、省スペース化のために撮影カメラ32を撮影台31の下方に配置し、ミラー34を介して中子を撮影するようになっている。撮影カメラ32による撮影データは、形状モデル抽出部14および形状モデルデータベース15の機能を有するパソコンに入力される。照明33は、撮影される中子に照明光を当てる手段である。撮影カメラ32および照明33に偏光フィルタを備えることで、反射カットした撮影が可能となる。また、他設備からの振動による画像ボケを抑制するには、撮影カメラ32を設置するフレームに減衰器を設置する、あるいは、照明強度を高めてシャッター速度を短くするといった方法がある。
【0037】
撮影作業の効率化のため、撮影装置30は撮影台31の所定位置に中子が載せられたときに、これを検知して自動で撮影を行うことが好ましい。撮影装置30は、撮影台31の上に置かれた中子が所定の位置(カメラのピントの合う位置、ミラー34の直前)に置かれるとスイッチ35が入り、撮影を開始する。このとき、確実に撮影が確実に行われるよう、作業者がスイッチ35のあるところに中子を押し付けるようにして置いてもよい。撮影トリガとなるスイッチ35は、焼成直後の高温の中子に対して耐熱スイッチとしてもよく、あるいは光電センサなどの非接触型のスイッチであってもよい。このような撮影装置30は、省スペースに配置できるものであり、中子製造ラインを変更することなく容易に配置できる。
【0038】
形状モデル抽出部14および24は、基本的に同じ構成であり、撮影対象の中子に対して同一箇所の撮影を行い、同様の画像処理によって形状モデルを得る。この形状データは、撮影データの中から所定の検出範囲を絞り込み、この検出範囲の撮影データに画像処理を施すことで得られることが好ましい。すなわち、砂型に対する撮影範囲は、砂型の外形的特徴を含むような広い範囲として、形状データとなる検出範囲は、撮影範囲中の外形的特徴箇所から画像処理などを用いて絞り込まれるものとする。これにより、形状モデル抽出部14および24で得られる形状モデルは、砂型に対して確実に同一箇所とすることができる(形状モデルの位置ずれを防止することができる)。
【0039】
また、形状モデル抽出部14および24で得られる形状モデルは、好ましくは、撮影データ中の砂粒パターンのエッジ形状を画像処理によって抽出したものである(図4参照)。このようにエッジ抽出された形状モデルは、砂粒の形状を利用するものであり、工程の途中で中子表面に色変化や汚れがあっても認識しやすくなる。但し、エッジ抽出された形状モデルを使用することは本発明において必須ではなく、撮影データそのものを形状モデルとして用いてもよい。
【0040】
形状モデル照合部25は、画像処理ソフトによって形状モデルの照合を行うものであるが、画像処理ソフトのアルゴリズムは特に限定されるものではない。形状モデル照合部25の画像処理ソフトとしては、例えば、パターンマッチング、特徴量マッチングなどを利用することができ、処理速度やロバスト性に差異はあるものの、オープンソースコードでも実施可能である。
【0041】
図5は、形状モデル照合部25における形状モデルの照合方法の一例を示すフローチャートである。形状モデル照合部25は、形状モデル抽出部24で抽出された形状モデルを、形状モデルデータベース15に保存された形状モデル、すなわち、形状モデル抽出部14で抽出された形状モデルの一つと比較する(S1)。比較結果はマッチングスコアとして数値化され、比較された形状モデルの類似性が高いほど、マッチングスコアの値が大きくなる。S1の比較において算出されたマッチングスコアが所定の閾値以上である場合(S2でYES)、比較対象であった形状モデルは候補リストへ入れられる(リスト化される:S3)。その後、未比較の形状モデルが形状モデルデータベース15にあれば(S3でYES)S1~S3の処理を繰り返し、無ければS5へ移行する。S5では、候補リストに入れられた形状モデルの中からマッチングスコアが最も高い形状モデルを一致する形状モデルとして特定する。
【0042】
尚、S2のステップにおいて、閾値を設けているのは誤判定防止と計算処理時間の短縮化のためである(閾値がない場合、マッチングスコアがほぼ0になるまで検索・照合を続けてしまうため)。また、S3のステップにおける形状モデルのリスト化は、本発明において必須ではないが、エラーが出た場合の記録(ログ)として行っている。すなわち、砂型の再撮影時において砂型表面に大きな汚れなどがあれば、本来一致するはずの形状データに対してマッチングスコアが大きく低下し、その結果、一致しないはずの形状データに対してのマッチングスコアが最大値となり、誤判定のエラーが生じる可能性がある。S3のステップにおける候補リストは、このようなエラーが出た場合のログとして保持される。
【0043】
尚、本システムを実用するにあたっては、形状モデルの照合(一致する形状モデルの特定)においてほぼ100%の照合精度が求められる。本出願人による実証実験においては、340個のサンプルにおいて100%の照合精度が得られた。
【0044】
形状モデルの照合精度は、形状モデルの数を増やす、あるいは形状モデルの面積(ピクセル数)を大きくするなどの手法により容易に向上させることができる。但し、これらの手法では、照合精度の向上と引き換えに、形状モデル照合部25における負荷が増大し、照合作業の効率も低下する。このため、照合作業の効率を保ちつつ、照合精度を向上させる手法として、以下の(手法1)または(手法2)が考えられる。
【0045】
(手法1)1つの砂型から複数の形状モデルを抽出し、これら複数の形状モデルに対して優先順位をつける。例えば、1つの砂型から2つの形状モデルを抽出し、一方をメイン形状モデル、他方をサブ形状モデルとする。形状モデル照合部25では、最初にメイン形状モデルのみを用いての比較を行い、マッチングスコアが所定の閾値以上となる形状モデルを抽出する。抽出された形状モデルが1つであれば、その形状モデルが一致する形状モデルとして特定される。一方、抽出された形状モデルが2つ以上であれば、抽出された形状モデルに対応する砂型のみに対して、サブ形状モデルを用いての比較が再度行われ、マッチングスコアが所定の閾値以上となる形状モデルを選出することで、一致する形状モデルが特定される。
【0046】
(手法2)1つの砂型の撮影データに対し、面積の互いに異なる複数の照合領域を設定し、これら複数の照合領域に対して優先順位をつける。例えば、1つの撮影データから2つの照合領域を設定し、面積の小さい方をメイン領域、面積の大きい方をサブ領域とする。形状モデル照合部25では、最初にメイン領域の形状モデルを用いての比較を行い、マッチングスコアが所定の閾値以上となる形状モデルを抽出する。抽出された形状モデルが1つであれば、その形状モデルが一致する形状モデルとして特定される。一方、抽出された形状モデルが2つ以上であれば、抽出された形状モデルに対応する砂型のみに対して、サブ領域の形状モデルを用いての再度比較が行われ、マッチングスコアが所定の閾値以上となる形状モデルを選出することで、一致する形状モデルが特定される。
【0047】
(手法1)および(手法2)の何れにおいても、最初の比較でスクリーニングが行われ、マッチングスコアの低い(一致する可能性の無い)形状モデルが除外される。そして、2回目以降の比較によって精度の高い照合を行うことで照合精度を向上させることができる。また、2回目以降の比較では、最初のスクリーニングによって比較する形状モデルの数が絞り込まれているため、照合作業の効率低下を抑制することができる。尚、通常、一致する形状モデルのマッチングスコアは、一致しない形状モデルのマッチングスコアに比べて十分に大きな値となる。このため、(手法1)および(手法2)の何れにおいても、最初の比較のみによって一致する形状モデルが特定されることも多くあると考えられる。
【0048】
形状モデルデータベース15における中子の記憶データの内、形状モデル照合部25によって照合が確認された記憶データは、砂型データベース26に記憶されると同時に形状モデルデータベース15からは消去されるようにすればよい。これにより、形状モデルデータベース15における記憶データの数がある程度のレベルに抑えられることになり、これによっても照合精度および照合速度を向上させることができる。
【0049】
また、砂型は、製造から使用までの間にある程度の期間(例えば、1~2週間程度)保管される場合もあり、使用までに破損してしまう場合もある。こうして使用されなかった砂型の記憶データは、形状モデルデータベース15に残されていても照合によって消去されることはない。このため、形状モデルデータベース15における記憶データは、記憶されて所定期間経過後(砂型の保管期間経過後)に消去されるようにすればよい。
【0050】
本システムにおいて、砂型データ入力システム10と砂型データ照合システム20とは、互いに分離したシステムとして存在していてもよい。すなわち、砂型を用いて鋳造品を製造する生産者(鋳造品生産者)が、砂型を他者(砂型生産者)に発注して購入するような場合、砂型データ入力システム10は砂型生産者側に存在し、砂型データ照合システム20は鋳造品生産者側に存在することになる。この場合、図1における形状モデルデータベース15は、砂型データ入力システム10および砂型データ照合システム20のそれぞれに別個に存在する。鋳造品生産者は、砂型生産者から購入する砂型とともに形状モデルデータベース15に記憶すべきデータを受け取り、これを砂型データ照合システム20側の形状モデルデータベース15に入力する。これにより、分離された砂型データ入力システム10と砂型データ照合システム20とで形状モデルデータベース15を仮想的に同一とすることができる。
【0051】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0052】
10 砂型データ入力システム
11 製造データ取得部
12 中子製造データベース
13 表面撮影部(第1撮影部)
14 形状モデル抽出部
15 形状モデルデータベース(第1データベース)
20 砂型データ照合システム
21 製造データ取得部
22 主型製造データベース
23 表面撮影部(第2撮影部)
24 形状モデル抽出部
25 形状モデル照合部(照合部)
26 砂型データベース(第2データベース)
図1
図2
図3
図4
図5