(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142200
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ハニカム構造体、電気加熱式担体及び排気ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
B01J 35/04 20060101AFI20230928BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20230928BHJP
B01J 27/224 20060101ALI20230928BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20230928BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20230928BHJP
B01D 53/94 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
B01J35/04 301H
B01J35/04 301F
B01J35/02 G ZAB
B01J27/224 A
F01N3/20 K
F01N3/24 L
B01D53/94 222
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048959
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】酒井 直希
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AB02
3G091AB03
3G091AB04
3G091BA09
3G091BA10
3G091BA39
3G091CA04
3G091GA07
3G091GA11
3G091GA14
3G091GB05W
3G091GB06W
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3G091GB09W
3G091GB17X
3G091HA05
3G091HA08
4D148AA06
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4D148BB02
4D148CC53
4G169AA01
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4G169EC17Y
4G169EC30
4G169ED03
4G169EE03
(57)【要約】
【課題】良好な耐熱衝撃性を有するハニカム構造体、電気加熱式担体及び排気ガス浄化装置を提供する。
【解決手段】外周壁と、外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有するハニカム構造部を含み、外周壁、及び/または、セルに、充填材で構成された充填材層を含むスリットが設けられており、充填材層が、気孔を有し、かつ、気孔径90μm以上の気孔が、充填材層に含まれる全気孔に対して、30体積%以上である、ハニカム構造体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有するハニカム構造部を含み、
前記外周壁、及び/または、前記セルに、充填材で構成された充填材層を含むスリットが設けられており、
前記充填材層が、気孔を有し、かつ、
気孔径90μm以上の気孔が、前記充填材層に含まれる全気孔に対して、30体積%以上である、ハニカム構造体。
【請求項2】
前記充填材層において、体積基準の累積分布におけるD50の気孔径が、80~500μmである、請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記充填材層のヤング率が、10~1000MPaである、請求項1または2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記ハニカム構造部のヤング率が、1~100GPaである、請求項1~3のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記スリットが、前記ハニカム構造部の外周壁の外面上に形成されており、前記ハニカム構造体の軸方向に平行な方向に延びるスリット、及び/または、前記ハニカム構造部の少なくとも一方の端面に形成されているスリットである、請求項1~4のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項6】
前記ハニカム構造部の中心軸を挟んで、前記外周壁の外面上において、前記セルの流路方向に帯状に延びるように設けられた一対の電極層を更に有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体の前記電極層に電気的に接続された金属電極と、
を備えた電気加熱式担体。
【請求項8】
請求項7に記載の電気加熱式担体と、
前記電気加熱式担体を保持するための金属製の筒状部材と、
を有する排気ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体、電気加熱式担体及び排気ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジン始動直後の排気ガス浄化性能の低下を改善するため、電気加熱触媒(EHC)が提案されている。EHCは、例えば、導電性セラミックスからなる柱状のハニカム構造体に金属電極を接続し、通電によりハニカム構造体自体を発熱させることで、エンジン始動前に触媒の活性温度まで昇温できるようにしたものである。
【0003】
EHCは、エンジンからの熱や衝撃を受けるため、良好な耐熱衝撃性を有することを求められている。エンジンからの熱や衝撃によって、EHCのハニカム構造体にクラックが発生すると、ハニカム構造体内の通電経路が変わってしまい、局所的に発熱するため、触媒の劣化が生じる。また、通電抵抗が上昇し、通電制御が困難になる。その結果、EHCの排気ガス浄化効率が悪化するおそれがある。
【0004】
EHCのハニカム構造体にクラックが発生することを抑制するために、ハニカム構造体に応力緩和用のスリットを形成する技術が知られている。また、特許文献1には、ハニカム構造体の応力緩和用のスリットに充填材を充填する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者の検討の結果、スリットに充填された充填材のヤング率が高すぎると、応力緩和のためのスリットで変形することが困難となることが分かった。それによって、スリット以外の箇所で発生する応力が余計に大きくなってしまい、EHCのハニカム構造体にクラックが発生する場合があり、改善の余地があることが分かった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みて創作されたものであり、良好な耐熱衝撃性を有するハニカム構造体、電気加熱式担体及び排気ガス浄化装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の本発明によって解決されるものであり、本発明は以下のように特定される。
(1)外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有するハニカム構造部を含み、
前記外周壁、及び/または、前記セルに、充填材で構成された充填材層を含むスリットが設けられており、
前記充填材層が、気孔を有し、かつ、
気孔径90μm以上の気孔が、前記充填材層に含まれる全気孔に対して、30体積%以上である、ハニカム構造体。
(2)前記ハニカム構造部の中心軸を挟んで、前記外周壁の外面上において、前記セルの流路方向に帯状に延びるように設けられた一対の電極層を更に有する、(1)に記載のハニカム構造体。
(3)(2)に記載のハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体の前記電極層に電気的に接続された金属電極と、
を備えた電気加熱式担体。
(4)(3)に記載の電気加熱式担体と、
前記電気加熱式担体を保持するための金属製の筒状部材と、
を有する排気ガス浄化装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な耐熱衝撃性を有するハニカム構造体、電気加熱式担体及び排気ガス浄化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態におけるハニカム構造体の外観模式図である。
【
図2】(A)~(H)は、本発明の実施形態におけるハニカム構造体のスリットが形成された端面の平面模式図である。
【
図3】本発明の実施形態における電気加熱式担体のセルの流路方向に垂直な断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0012】
(1.ハニカム構造体)
図1は、本発明の実施形態におけるハニカム構造体10の外観模式図である。ハニカム構造体10は、ハニカム構造部11と、電極層13a、13bとを備えている。なお、ハニカム構造体10は、電極層13a、13bを備えなくてもよい。
【0013】
(1-1.ハニカム構造部)
ハニカム構造部11は、柱状の部材であり、外周壁12と、外周壁12の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びて流路を形成する複数のセル18を区画形成する隔壁19とを有する。柱状とは、セル18の流路方向(ハニカム構造部11の軸方向)に厚みを有する立体形状と理解できる。ハニカム構造部11の軸方向長さとハニカム構造部11の端面の直径又は幅との比(アスペクト比)は任意である。柱状には、ハニカム構造部11の軸方向長さが端面の直径又は幅よりも短い形状(偏平形状)も含まれていてよい。
【0014】
ハニカム構造部11の外形は柱状である限り特に限定されず、例えば、端面が円形の柱状(円柱形状)、端面がオーバル形状の柱状、端面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の形状とすることができる。また、ハニカム構造部11の大きさは、耐熱性を高める(外周壁の周方向に入るクラックを抑制する)という理由により、端面の面積が2000~20000mm2であることが好ましく、5000~15000mm2であることが更に好ましい。
【0015】
ハニカム構造部11は、セラミックス製であり、導電性を有する。導電性のハニカム構造部11が通電してジュール熱により発熱可能である限り、当該セラミックスの体積抵抗率については特に制限はないが、0.1~200Ωcmであることが好ましく、1~200Ωcmがより好ましい。本発明において、ハニカム構造部11の体積抵抗率は、四端子法により25℃で測定した値とする。
【0016】
ハニカム構造部11の材質としては、限定的ではないが、アルミナ、ムライト、ジルコニア及びコージェライト等の酸化物系セラミックス、炭化珪素、窒化珪素及び窒化アルミ等の非酸化物系セラミックスからなる群から選択することができる。また、炭化珪素-金属珪素複合材や炭化珪素/グラファイト複合材等を用いることもできる。これらの中でも、耐熱性と導電性の両立の観点から、ハニカム構造部11の材質は、珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分とするセラミックスを含有していることが好ましい。ハニカム構造部11の材質が、珪素-炭化珪素複合材を主成分とするものであるというときは、ハニカム構造部11が、珪素-炭化珪素複合材(合計質量)を、全体の90質量%以上含有していることを意味する。ここで、珪素-炭化珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有するものであり、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。ハニカム構造部11の材質が、炭化珪素を主成分とするものであるというときは、ハニカム構造部11が、炭化珪素(合計質量)を、全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0017】
ハニカム構造部11が、珪素-炭化珪素複合材を含んでいる場合、ハニカム構造部11に含有される「骨材としての炭化珪素粒子の質量」と、ハニカム構造部11に含有される「結合材としての珪素の質量」との合計に対する、ハニカム構造部11に含有される「結合材としての珪素の質量」の比率が、10~40質量%であることが好ましく、15~35質量%であることが更に好ましい。
【0018】
セル18の流路方向に垂直な断面におけるセルの形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。これらのなかでも、構造強度及び加熱均一性を両立させやすいという観点から、四角形及び六角形が好ましい。
【0019】
セル18を区画形成する隔壁19の厚みは、0.1~0.3mmであることが好ましく、0.1~0.2mmであることがより好ましい。本発明において、隔壁19の厚みは、セル18の流路方向に垂直な断面において、隣接するセル18の重心同士を結ぶ線分のうち、隔壁19を通過する部分の長さとして定義される。
【0020】
ハニカム構造部11は、セル18の流路方向に垂直な断面において、セル密度が40~150セル/cm2であることが好ましく、70~100セル/cm2であることが更に好ましい。セル密度をこのような範囲にすることにより、排気ガスを流したときの圧力損失を小さくした状態で、触媒の浄化性能を高くすることができる。セル密度は、外周壁12部分を除くハニカム構造部11の一つの端面部分の面積でセル数を除して得られる値である。
【0021】
ハニカム構造部11の外周壁12を設けることは、ハニカム構造部11の構造強度を確保し、また、セル18を流れる流体が外周壁12から漏洩するのを抑制する観点で有用である。具体的には、外周壁12の厚みは好ましくは0.1mm以上であり、より好ましくは0.15mm以上、更により好ましくは0.2mm以上である。但し、外周壁12を厚くしすぎると高強度になりすぎてしまい、隔壁19との強度バランスが崩れて耐熱衝撃性が低下することから、外周壁12の厚みは好ましくは1.0mm以下であり、より好ましくは0.7mm以下であり、更により好ましくは0.5mm以下である。ここで、外周壁12の厚みは、厚みを測定しようとする外周壁12の箇所をセルの流路方向に垂直な断面で観察したときに、当該測定箇所における外周壁12の接線に対する法線方向の厚みとして定義される。
【0022】
隔壁19は多孔質としてもよい。多孔質とする場合、隔壁19の気孔率は、35~60%であることが好ましく、35~45%であることが更に好ましい。気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0023】
ハニカム構造部11の隔壁19の平均細孔径は、2~15μmであることが好ましく、4~8μmであることが更に好ましい。平均細孔径は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0024】
(1-2.電極層)
ハニカム構造部11の中心軸を挟んで、外周壁12の外面上において、セル18の流路方向に帯状に延びるように、一対の電極層13a、13bが設けられている。一対の電極層13a、13bがこのように設けられていることで、ハニカム構造部11の均一発熱性を高めることができる。電極層13a、13bは、ハニカム構造部11の両端面間の80%以上の長さに亘って、好ましくは90%以上の長さに亘って、より好ましくは全長に亘って延びていることが、電極層13a、13bの軸方向へ電流が広がりやすいという観点から望ましい。
【0025】
電極層13a、13bの厚みは、0.01~5mmであることが好ましく、0.01~3mmであることが更に好ましい。このような範囲とすることにより均一発熱性を高めることができる。電極層13a、13bの厚みは、厚みを測定しようとする箇所をセル18の流路方向に垂直な断面で観察したときに、電極層13a、13bの外面の当該測定箇所における接線に対する法線方向の厚みとして定義される。
【0026】
電極層13a、13bの体積抵抗率をハニカム構造部11の体積抵抗率より低くすることにより、電極層13a、13bに優先的に電気が流れやすくなり、通電時に電気がセル18の流路方向及び周方向に広がりやすくなる。電極層13a、13bの体積抵抗率は、ハニカム構造部11の体積抵抗率の1/10以下であることが好ましく、1/20以下であることがより好ましく、1/30以下であることが更により好ましい。但し、両者の体積抵抗率の差が大きくなりすぎると、対向する電極層の端部間に電流が集中してハニカム構造部11の発熱が偏ることから、電極層13a、13bの体積抵抗率は、ハニカム構造部11の体積抵抗率の1/200以上であることが好ましく、1/150以上であることがより好ましく、1/100以上であることが更により好ましい。本発明において、電極層13a、13bの体積抵抗率は、四端子法により25℃で測定した値とする。
【0027】
電極層13a、13bの材質は、導電性セラミックス、金属、又は金属及び導電性セラミックスとの複合材(サーメット)を使用することができる。金属としては、例えばCr、Fe、Co、Ni、Si又はTiの単体金属又はこれらの金属よりなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する合金が挙げられる。導電性セラミックスとしては、限定的ではないが、炭化珪素(SiC)が挙げられ、珪化タンタル(TaSi2)及び珪化クロム(CrSi2)等の金属珪化物等の金属化合物が挙げられる。金属及び導電性セラミックスとの複合材(サーメット)の具体例としては、金属珪素と炭化珪素の複合材、珪化タンタルや珪化クロム等の金属珪化物と金属珪素と炭化珪素の複合材、更には上記の一種又は二種以上の金属に熱膨張低減の観点から、アルミナ、ムライト、ジルコニア、コージェライト、窒化珪素及び窒化アルミ等の絶縁性セラミックスを一種又は二種以上添加した複合材が挙げられる。電極層13a、13bの材質としては、上記の各種金属及び導電性セラミックスの中でも、珪化タンタルや珪化クロム等の金属珪化物と金属珪素と炭化珪素の複合材との組合せとすることが、ハニカム構造部11と同時に焼成できるので製造工程の簡素化に資するという理由により好ましい。
【0028】
(1-3.スリット)
ハニカム構造体10には、充填材で構成された充填材層25を含むスリット21が設けられている。スリット21は、ハニカム構造体10の外周壁12のみに設けてもよく、セル18のみに設けてもよく、外周壁12及びセル18に設けてもよい。なお、セル18にスリットを設けるとは、複数のセルを区画形成する隔壁の一部を欠損させることを意味する。また、スリット21は、ハニカム構造部11の外周壁12の外面上に形成されており、ハニカム構造体10の軸方向に平行な方向に延びるスリットであってもよく、ハニカム構造部11の少なくとも一方の端面(端面のセル)に形成されているスリットであってもよく、それらの両方であってもよい。さらに、スリット21は、
図1に示すように、ハニカム構造部11を軸方向に平行な断面で切断するスリットであってもよい。上述のようにハニカム構造体10に形成された種々のスリット21は、ハニカム構造体10の発熱時に、応力緩和が機能するため、ハニカム構造体10内の熱膨張差の発生によるクラックの発生を良好に抑制することができる。
【0029】
スリット21のハニカム構造体10の端面における形状及び数は特に限定されず、適宜設計することができる。例えば、スリット21はハニカム構造体10の端面において、1本であっても、2本以上であってもよく、それぞれ互いに交差しないように形成されていてもよく、少なくとも一部が交差するように形成されていてもよい。また、ハニカム構造体10の端面におけるスリット21の長さ及び幅は特に限定されない。ハニカム構造体10の端面におけるスリット21の幅はセル18の幅と同程度に形成してもよく、スリット21の幅を、セル18の幅より小さく、または大きく形成してもよい。ハニカム構造体10の端面における、各スリット21の長さは、特に限定されないが、2~80セルであってもよい。各スリット21の幅は、特に限定されないが、1~5セルであってもよい。ハニカム構造体10の端面における、各スリット21の長さ及び幅は、ハニカム構造体10の大きさ、材質、用途、及び、スリット21の本数等によって適宜設計することができる。
【0030】
スリット21は、ハニカム構造体10の端面におけるスリット21の延伸方向に沿って分割して設けられていてもよい。このとき、ハニカム構造体10の端面において、同程度の長さのスリットに分割されていてもよく、長さの異なるスリットに分割されていてもよい。スリット21を、ハニカム構造体10の端面において分割して形成することで、ハニカム構造体10におけるクラックの発生をより良好に制御することができる。当該スリット21の分割数は特に限定されず、2つ、3つ、または、4つ以上に分割して形成されていてもよい。また、分割して形成されたスリットと、分割していないスリットとの混合による、複数本のスリットが設けられていてもよい。
【0031】
図1では、ハニカム構造体10の端面におけるスリット21が1本である形態について模式的に示している。スリット21は、
図1に示すように、ハニカム構造体10の端面における中心を通るように延びていてもよく、中心を通らなくてもよい。また、スリット21が複数形成されている形態について、
図2(A)~(H)に具体例を示す。なお、
図2(A)~(H)では、ハニカム構造体10の一方の端面の外径と、スリット21の形状のみを模式的に示している。なお、いずれもハニカム構造体10の一方の端面における形態を示しており、これらのスリット21は、ハニカム構造体10の一方の端面のみに形成されていてもよく、ハニカム構造体10の断面において同様の形態を維持しながらハニカム構造体10の他方の端面まで軸方向に延びて貫通するように形成されていてもよい。
【0032】
スリット21は、
図2(A)に示すように、ハニカム構造体10の端面において、外周壁から隔壁に数セル分侵入するように形成されたスリットが、ハニカム構造体10の端面の中心を挟んで対向するように設けられた3組のスリット(合計6本のスリット)であってもよい。また、
図2(B)に示すように、ハニカム構造体10の端面において、それぞれ中心で交差し、両側の外周壁まで延びる3本のスリットであってもよい。
【0033】
スリット21は、
図2(C)に示すように、ハニカム構造体10の端面において、
図2(B)で示した3本のスリットがそれぞれ外周壁の内周端に到達しない長さに形成されていてもよい。また、
図2(D)に示すように、
図2(B)で示した3本のスリットが、それぞれ延伸方向に沿って分割されたスリットであってもよい。
【0034】
スリット21は、
図2(E)に示すように、ハニカム構造体10の端面において、互いに平行に延びる3本のスリットであってもよい。また、
図2(F)に示すように、
図2(E)で示した3本のスリットが、それぞれ延伸方向に沿って分割されたスリットであってもよい。
【0035】
スリット21は、
図2(G)に示すように、ハニカム構造体10の端面において、3本のスリットであって、それらが頂点で交わらない略三角形を形成していてもよい。また、
図2(H)に示すように、4本のスリットであって、それらが頂点で交わらない略四角形を形成していてもよい。
【0036】
(1-4.充填材層)
スリット21には充填材層25が含まれている。1本のスリット21内が、充填材層25で全て充填されていてもよく、スリット21内の一部が充填材層25で充填されていてもよい。ハニカム構造体10の耐熱衝撃性の観点からは、スリット21内が充填材層25で全て充填されていることがより好ましい。
【0037】
スリット21が複数本設けられている場合は、全てのスリット21に充填材層25が含まれていてもよく、一部のスリット21のみに充填材層25が含まれていてもよい。ハニカム構造体10の耐熱衝撃性の観点からは、全てのスリット21に充填材層25を設けることがより好ましい。
【0038】
スリット21内の一部に充填材層25が含まれている形態としては、スリット21内の一方の端面から所定の深さまで充填材層25が充填されている形態であってもよく、スリット21内の一方の端面から他方の端面に亘って、スリット21の内壁に沿って所定の厚みの充填材層25が設けられている形態であってもよい。スリット21の内壁に沿って所定の厚みの充填材層25が設けられている場合、充填材層25の厚みは、スリット21の幅によって適宜調整することができるが、例えば、500~5000μmとしてもよく、1~5セル分の幅としてもよい。充填材層25をスリット21内の一方の端面から他方の端面に亘って設ける形態では、充填材層25がスリット21からのガス漏れを抑制するガスシール材としても機能する。
【0039】
充填材層25は、充填材で構成されている。充填材層25を構成する充填材は、ハニカム構造部11の主成分が炭化珪素、又は炭化珪素-金属珪素複合材である場合、炭化珪素を20質量%以上含有することが好ましく、20~70質量%含有することが更に好ましい。これにより、充填材の熱膨張係数を、ハニカム構造部11の熱膨張係数に近い値にすることができ、ハニカム構造体10の耐熱衝撃性を向上させることができる。充填材は、シリカ、アルミナ等を30質量%以上含有するものであってもよい。充填材層25を構成する充填材としては、複数種の充填材を併用してもよい。例えば、1本のスリット21の中で部位によって使い分けてもよく、複数本のスリット21間で使い分けてもよい。
【0040】
充填材の体積抵抗率は、ハニカム構造部11の体積抵抗率の100~100000%であることが好ましい。また、充填材の体積抵抗率は、ハニカム構造部11の体積抵抗率の200~100000%であることが更に好ましく、300~100000%であることが特に好ましい。充填材の体積抵抗率が、ハニカム構造部11の体積抵抗率の100%以上であると、充填材に電流が流れ難くなるため、ハニカム構造部11に均一に電流を流すことが容易となる。充填材の体積抵抗率は、高くても特に問題はない。充填材は絶縁体であってもよい。充填材の体積抵抗率は、実際には、ハニカム構造部11の体積抵抗率の100000%程度が上限となる。
【0041】
充填材層25は、気孔を有している。充填材層25に含まれる気孔の気孔径は、特に限定されないが、1~500μmであってもよい。充填材層25に含まれる気孔のうち、気孔径90μm以上の気孔が、充填材層25に含まれる全気孔に対して、30体積%以上である。このような構成によれば、充填材層25に含まれる気孔のうち、気孔径90μm以上の大きな気孔の体積割合が大きく、ハニカム構造体10に応力が発生したときに充填材層25にクラックが入りやすくなる。このように、充填材層25に径の大きな気孔を存在させることにより積極的にクラックを発生させることで、充填材層25のヤング率が最適化され、EHC加熱時にスリット21近傍に発生する熱応力を下げることができ、ハニカム構造体10の耐熱衝撃性が向上する。気孔径90μm以上の気孔が、充填材層25に含まれる全気孔に対して、40体積%以上であるのがより好ましい。気孔径90μm以上の気孔が、充填材層25に含まれる全気孔に対して、50体積%以上であるのが更により好ましい。また、90μm未満の小さい気孔が全くない状態では、充填材層25内のクラックが進展しづらいため、充填材層25に含まれる気孔のうち、気孔径90μm以上の気孔が、充填材層25に含まれる全気孔に対して、90体積%以下であるのがより好ましい。
【0042】
充填材層25に含まれる気孔の気孔径(μm)、及び、充填材層25に含まれる全気孔に対する所定の気孔径を有する気孔の体積割合(体積%)は、SEMによる断面観察によって測定することができる。具体的には、まず、充填材層を含むスリットが設けられたハニカム構造体から充填材層25の断面を観察するためにサンプルを切り出し、断面の観察を行う。必要に応じて、充填材層25の断面の凹凸を樹脂で埋め、さらに研磨を行い研磨面(断面)の観察を行う。0.5mm×1mmの領域(単位領域)の観察により得られた倍率100倍のSEM像の画像解析により、各気孔の断面積を算出する。そして、気孔を球体とみなして、単位領域に含まれる気孔の断面積の円相当径から各気孔の体積を推算する。推算した各気孔の体積を用いて、単位領域内における充填材層25に含まれる全気孔に対する所定の気孔径を有する気孔の体積割合(体積%)を算出する。この単位領域を4箇所観察し、同様の方法で所定の気孔径を有する気孔の体積割合を算出し、4箇所での平均値を充填材層25に含まれる全気孔に対する所定の気孔径を有する気孔の体積割合(体積%)とする。
【0043】
充填材層25の気孔率は、20~90%であるのが好ましい。充填材層25の気孔率が90%以下であると充填材層25の強度が十分に保持され、充填材層25が崩壊してガス漏れ抑制機能が失われることを抑制することができる。充填材層25の気孔率が20%以上であると、充填材層25のヤング率が高すぎることなく、スリットの応力緩和機能が十分に維持される。充填材層25の気孔率は、30~85%であるのがより好ましく、45~75%であるのが更により好ましい。ここで、充填材層25の気孔率が同じであっても、上述のように、充填材層25に含まれる気孔の気孔径(μm)、及び、充填材層25に含まれる全気孔に対する所定の気孔径を有する気孔の体積割合(体積%)は同じであるとは限らない。本発明では、単に充填材層25の気孔率を制御するものではなく、充填材層25に含まれる気孔のうち、気孔径90μm以上の気孔を、充填材層25に含まれる全気孔に対して30体積%以上に制御することで、EHCが発熱し、スリット周辺に熱応力が発生した場合に、充填材層25内に点在する気孔径90μm以上の気孔がミシン目のように分散して、クラックを充填材層25に優先的に発生させることで、応力緩衝機能を発揮することができる。
【0044】
充填材層25において、体積基準の累積分布におけるD50の気孔径が、80~500μmであるのが好ましい。充填材層25における当該D50の気孔径が80μm以上であると、EHCが発熱し、スリット周辺に熱応力が発生した場合に、充填材層25内に点在する気孔径80μm以上の気孔がミシン目のように分散して、クラックを充填材層25に優先的に発生させることで、応力緩衝機能を発揮することができる。充填材層25における当該D50の気孔径が500μm以下であると、充填材層25にクラックが発生した後にも充填材層25が崩壊しにくく、ガス漏れ抑制効果が持続する。充填材層25における当該D50の気孔径は、80~300μmであるのがより好ましく、80~200μmであるのが更により好ましい。充填材層25における体積基準の累積分布におけるD50の気孔径は、SEMによる断面観察により測定することができる。具体的には、まず、充填材層を含むスリットが設けられたハニカム構造体から充填材層25の断面を観察するためにサンプルを切り出し、断面の観察を行う。必要に応じて、充填材層25の断面の凹凸を樹脂で埋め、さらに研磨を行い研磨面(断面)の観察を行う。0.5mm×1mmの領域を4箇所観察して得られた倍率100倍のSEM像の画像解析により、各気孔の断面積を算出する。そして、断面積から求められる円相当径を気孔の直径とし、各気孔径からD50を算出する。
【0045】
充填材層25のヤング率が、10~1000MPaであるのが好ましい。充填材層25のヤング率が10MPa以上であると、ハニカム構造体10の機械的強度が良好となる。充填材層25のヤング率が1000MPa以下であると、ハニカム構造体10の耐熱衝撃性がより良好となる。充填材層25のヤング率は、20~500MPaであるのがより好ましく、50~200MPaであるのが更により好ましく、70~200MPaであるのが特に好ましい。充填材層25のヤング率は、特許第6259327号公報に記載されているように、4点曲げ強度測定の20~50%の応力負荷時の応力とひずみから算出することができる。
【0046】
ハニカム構造部11のヤング率が、1~100GPaであるのが好ましい。ハニカム構造部11のヤング率が1GPa以上であると、ハニカム構造体10の機械的強度が良好となる。ハニカム構造部11のヤング率が100GPa以下であると、ハニカム構造体10の耐熱衝撃性がより良好となる。ハニカム構造部11のヤング率は、2~50GPaであるのがより好ましく、5~20GPaであるのが更により好ましい。ハニカム構造部11のヤング率は、4点曲げ強度測定の20~50%の応力負荷時の応力とひずみから算出することができる。
【0047】
(2.電気加熱式担体)
図3は、本発明の実施形態における電気加熱式担体30のセルの流路方向に垂直な断面模式図である。電気加熱式担体30は、ハニカム構造体10と、ハニカム構造体10の電極層13a、13bに電気的に接続された金属電極33a、33bとを備えている。
【0048】
(2-1.金属電極)
金属電極33a、33bは、ハニカム構造体10の電極層13a、13b上に設けられている。金属電極33a、33bは、一方の金属電極33aが、他方の金属電極33bに対して、ハニカム構造部11の中心軸を挟んで対向するように配設される一対の金属電極であってもよい。金属電極33a、33bは、電極層13a、13bを介して電圧を印加すると通電してジュール熱によりハニカム構造部11を発熱させることが可能である。このため、電気加熱式担体30はヒーターとしても好適に用いることができる。印加する電圧は12~900Vが好ましく、64~600Vが更に好ましいが、印加する電圧は適宜変更可能である。
【0049】
金属電極33a、33bの材質としては、金属であれば特段の制約はなく、単体金属及び合金等を採用することもできるが、耐食性、電気抵抗率及び線膨張率の観点から例えば、Cr、Fe、Co、Ni及びTiよりなる群から選択される少なくとも一種を含む合金とすることが好ましく、ステンレス鋼及びFe-Ni合金がより好ましい。金属電極33a、33bの形状及び大きさは、特に限定されず、電気加熱式担体30の大きさや通電性能等に応じて、適宜設計することができる。
【0050】
電気加熱式担体30に触媒を担持することにより、電気加熱式担体30を触媒体として使用することができる。ハニカム構造体10の複数のセル18の流路には、例えば、自動車排気ガス等の流体を流すことができる。触媒としては、例えば、貴金属系触媒又はこれら以外の触媒が挙げられる。貴金属系触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)といった貴金属をアルミナ細孔表面に担持し、セリア、ジルコニア等の助触媒を含む三元触媒や酸化触媒、又は、アルカリ土類金属と白金を窒素酸化物(NOx)の吸蔵成分として含むNOx吸蔵還元触媒(LNT触媒)が例示される。貴金属を用いない触媒として、銅置換又は鉄置換ゼオライトを含むNOx選択還元触媒(SCR触媒)等が例示される。また、これらの触媒からなる群から選択される2種以上の触媒を用いてもよい。なお、触媒の担持方法についても特に制限はなく、従来、ハニカム構造体に触媒を担持する担持方法に準じて行うことができる。
【0051】
(3.ハニカム構造体の製造方法)
次に、本発明の実施形態に係るハニカム構造体の製造方法について説明する。
本発明の実施形態に係るハニカム構造体の製造方法は、ハニカム成形体を作製する成形工程と、ハニカム乾燥体を作製する乾燥工程と、ハニカム焼成体を作製する焼成工程と、を備える。
【0052】
(成形工程)
成形工程では、まず、導電性のセラミックス原料を含有する成形原料を準備する。成形原料は、炭化珪素粉末(炭化珪素)に、金属珪素粉末(金属珪素)、バインダ、界面活性剤、造孔材、水等を添加して作製する。炭化珪素粉末の質量と金属珪素の質量との合計に対して、金属珪素の質量が10~40質量%となるようにすることが好ましい。炭化珪素粉末における炭化珪素粒子の平均粒子径は、3~50μmが好ましく、3~40μmが更に好ましい。金属珪素(金属珪素粉末)の平均粒子径は、2~35μmであることが好ましい。炭化珪素粒子及び金属珪素(金属珪素粒子)の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。炭化珪素粒子は、炭化珪素粉末を構成する炭化珪素の微粒子であり、金属珪素粒子は、金属珪素粉末を構成する金属珪素の微粒子である。なお、これは、ハニカム構造体の材質を、珪素-炭化珪素系複合材とする場合の成形原料の配合であり、当該材質を炭化珪素とする場合には、金属珪素は添加しない。
【0053】
バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、2.0~10.0質量部であることが好ましい。
【0054】
水の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、20~60質量部であることが好ましい。
【0055】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、0.1~2.0質量部であることが好ましい。
【0056】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、0.5~10.0質量部であることが好ましい。造孔材の体積基準の累積分布におけるD50の平均粒子径は、10~30μmであることが好ましい。造孔材が吸水性樹脂の場合には、造孔材の平均粒子径は吸水後の平均粒子径を指す。
【0057】
次に、得られた成形原料を混練して坏土を形成した後、坏土を押出成形してハニカム成形体を作製する。ハニカム成形体は、外周壁と、外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する。
【0058】
(乾燥工程)
次に、得られたハニカム成形体を乾燥してハニカム乾燥体を作製する。乾燥方法は特に限定されず、例えば、マイクロ波加熱乾燥、高周波誘電加熱乾燥等の電磁波加熱方式と、熱風乾燥、過熱水蒸気乾燥等の外部加熱方式とを挙げることができる。これらの中でも、成形体全体を迅速かつ均一に、クラックが生じないように乾燥することができる点で、電磁波加熱方式で一定量の水分を乾燥させた後、残りの水分を外部加熱方式により乾燥させることが好ましい。乾燥の条件として、電磁波加熱方式にて、乾燥前の水分量に対して、30~99質量%の水分を除いた後、外部加熱方式にて、3質量%以下の水分にすることが好ましい。電磁波加熱方式としては、誘電加熱乾燥が好ましく、外部加熱方式としては、熱風乾燥が好ましい。乾燥温度は、50~120℃とすることが好ましい。
【0059】
次に、ハニカム乾燥体の外周壁、及び/または、隔壁に、スリットを形成する。スリットの形成方法は一般的なスリットの形成方法に準じ、切削工具等を用いて形成することができる。なお、スリットは、ハニカム乾燥体に形成しなくてもよく、後述のように、ハニカム乾燥体を焼成してハニカム焼成体を作製した後に、当該ハニカム焼成体にスリットを形成してもよい。また、スリットの形状、本数、交差数、長さ、及び、幅等は、作製するハニカム構造体の所望の特性などに応じてそれぞれ適宜設計することができる。
【0060】
(焼成工程)
次に、スリットが形成されたハニカム乾燥体を焼成してハニカム焼成体を作製する。焼成条件としては、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気において、1400~1500℃で、1~20時間加熱することが好ましい。また、焼成後、耐久性向上のために、1200~1350℃で、1~10時間、酸化処理を行うことが好ましい。脱脂及び焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。
【0061】
(充填工程)
次に、ハニカム乾燥体若しくはハニカム焼成体のスリット内に、充填材用原料を充填し、乾燥することで充填材層を形成する。当該充填材の充填方法は、ヘラによる圧入等、公知の方法で行うことができる。充填材用原料は、骨材(炭化珪素等)に、結合材(金属珪素等)、バインダ、界面活性剤、造孔材、水等を添加して調製する。
充填材用原料に用いる造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、骨材及び結合材の合計質量を100質量部としたときに、0.1~20質量部であることが好ましく、より好ましくは1~15質量部である。造孔材の平均粒子径は、3~150μmであることが好ましい。
造孔材の体積基準の累積分布におけるD50の平均粒子径は50~200μmとすることが好ましい。造孔材が吸水性樹脂の場合には、造孔材の平均粒子径は吸水後の平均粒子径を指す。また、造孔材は、平均粒子径3~90μmの相対的にサイズが小さい造孔材と、平均粒子径90μm超の相対的にサイズが大きい造孔材とを複数種合わせて用いてもよい。相対的にサイズが大きい造孔材の平均粒子径は、より好ましくは100μm以上である。これらの配合比(質量部比)は、当該サイズの小さい造孔材:当該サイズの大きい造孔材=1.5:8.5~7:3であることが好ましい。
充填材用原料をスリットに充填する際の作業性の観点から、充填材用原料の粘度が1~100Pa・sであることが好ましい。
【0062】
次に、充填材がスリット内に設けられたハニカム乾燥体若しくはハニカム焼成体を加熱することで充填材層が設けられたスリットを備えるハニカム乾燥体若しくはハニカム焼成体(ハニカム構造体)を作製する。加熱条件としては、400~700℃で、10~60分加熱することが好ましい。当該加熱(熱処理)は、充填材の化学結合強化のために実施する。加熱の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。
【0063】
また、電極層を有するハニカム構造体の製造方法としては、まず、ハニカム乾燥体の側面に、セラミックス原料を含有する電極層形成原料を塗布し、乾燥させて、ハニカム乾燥体の中心軸を挟んで、外周壁の外面上において、セルの流路方向に帯状に延びるように一対の未焼成電極層を形成して、未焼成電極層付きハニカム乾燥体を作製する。次に、未焼成電極層付きハニカム乾燥体を焼成して一対の電極層を有するハニカム焼成体を作製する。これにより、電極層を有するハニカム構造体が得られる。なお、電極層はハニカム焼成体を作製した後に形成してもよい。具体的には、一旦、ハニカム焼成体を作製し、ハニカム焼成体上に一対の未焼成電極層を形成し、これを焼成して一対の電極層を有するハニカム焼成体を作製してもよい。
【0064】
電極層形成原料は、電極層の要求特性に応じて配合した原料粉(金属粉末、及び/又は、セラミックス粉末等)に各種添加剤を適宜添加して混練することで形成することができる。
【0065】
電極層形成原料を調合する方法、及び電極層形成原料をハニカム焼成体に塗布する方法については、公知のハニカム構造体の製造方法に準じて行うことができるが、電極層をハニカム構造部に比べて低い電気抵抗率にするために、ハニカム構造部よりも金属の含有比率を高める、または、金属粒子の粒子径を小さくすることができる。
【0066】
未焼成電極層付きハニカム乾燥体を焼成する前に、バインダ等を除去するため、脱脂を行ってもよい。脱脂工程としては、上述の通りである。
【0067】
(焼成工程)
次に、未焼成電極層付きハニカム乾燥体を焼成してハニカム焼成体を作製する。焼成条件としては、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気において、1400~1500℃で、1~20時間加熱することが好ましい。当該焼成を行う前に、バインダ等を除去するため、脱脂を行ってもよい。脱脂工程は、400~500℃で大気雰囲気、不活性雰囲気、または、減圧雰囲気にて実施する。また、焼成後、耐久性向上のために、1200~1350℃で、1~10時間、酸化処理を行うことが好ましい。焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。これにより、本発明の実施形態に係るハニカム構造体10が得られる。
【0068】
(4.電気加熱式担体の製造方法)
本発明の実施形態に係る電気加熱式担体30の製造方法は一実施形態において、ハニカム構造体10の電極層上に、金属電極を固定して電気的に接続する。固定方法としては、例えば、レーザー溶接、溶射、超音波溶接など、従来知られている方法が挙げられる。より具体的には、ハニカム構造体10のハニカム構造部の中心軸を挟んで、電極層の外面上において、一対の金属電極を設ける。このようにして、本発明の実施形態に係る電気加熱式担体30が得られる。
【0069】
(5.排気ガス浄化装置)
上述した本発明の実施形態に係る電気加熱式担体30は、排気ガス浄化装置に用いることができる。当該排気ガス浄化装置は、電気加熱式担体30と、当該電気加熱式担体30を保持するための金属製の筒状部材とを有する。排気ガス浄化装置において、電気加熱式担体30は、エンジンからの排気ガスを流すための排気ガス流路の途中に設置される。排気ガス浄化装置において、ハニカム構造部11の端面にスリット及び充填材が設けられている場合、当該端面が排気ガス流れの上流側に設けられていることが好ましい。このような構成によれば、より高温の排気ガスが通過する端面にハニカム構造体のスリットが形成されていることになり、熱衝撃を良好に緩和することができ、クラック発生をより良好に抑制することができる。
【実施例0070】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0071】
<実施例1>
(1.坏土の作製)
炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末とを80:20の質量割合で混合してセラミックス原料を調製した。そして、セラミックス原料に、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、造孔材として吸水性樹脂を添加すると共に、水を添加して成形原料とした。そして、成形原料を真空土練機により混練し、円柱状の坏土を作製した。バインダの含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに7質量部とした。造孔材の含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに3質量部とした。水の含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに42質量部とした。炭化珪素粉末の平均粒子径は20μmであり、金属珪素粉末の平均粒子径は6μmであった。また、造孔材の平均粒子径は20μmであった。炭化珪素粉末、金属珪素粉末及び造孔材の平均粒子径は、レーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0072】
(2.ハニカム乾燥体の作製)
得られた円柱状の坏土を碁盤目状の口金構造を有する押出成形機を用いて成形し、セルの流路方向に垂直な断面における各セル形状が六角形である円柱状ハニカム成形体を得た。このハニカム成形体を高周波誘電加熱乾燥した後、熱風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥し、ハニカム乾燥体を作製した。
次に、ハニカム乾燥体に
図1に示すスリットとなるように隔壁を取り除くことにより、スリットを形成した。
【0073】
(3.電極層形成ペーストの調製及び塗布)
金属珪素(Si)粉末、炭化珪素(SiC)粉末、メチルセルロース、グリセリン、及び水を、自転公転攪拌機で混合して、電極層形成ペーストを調製した。Si粉末、及びSiC粉末は体積比で、Si粉末:SiC粉末=40:60となるように配合した。また、Si粉末、及びSiC粉末の合計を100質量部としたときに、メチルセルロースは0.5質量部であり、グリセリンは10質量部であり、水は38質量部であった。金属珪素粉末の平均粒子径は6μmであった。炭化珪素粉末の平均粒子径は35μmであった。これらの平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
次に、この電極層形成ペーストを曲面印刷機によって、ハニカム乾燥体に対して適切な面積及び膜厚で塗布した。
【0074】
(4.充填材の充填及び焼成)
次に、充填材用原料は、以下のようにして作製したものを用いた。まず、炭化珪素粉末とシリカ粉末(コロイダルシリカ)を固形分量として68:32の質量割合で混合した。このとき、シリカの質量は、酸化物(SiO2)換算した質量である。これに、バインダとしてカルボキシメチルセルロース、平均粒子径50μmの造孔材および平均粒子径150μmの造孔材、保湿剤としてグリセリンを添加すると共に、水を添加して混合することで、混合物を得た。次に、この混合物を混練して充填材形成原料とした。バインダの含有量は、炭化珪素粉末とシリカ粉末の固形分量の合計を100質量部としたときに1.0質量部であった。平均粒子径50μmの造孔材の含有量は炭化珪素粉末とシリカ粉末の固形分量の合計を100質量部としたときに7質量部であった。平均粒子径150μmの造孔材の含有量は炭化珪素粉末とシリカ粉末の固形分量の合計を100質量部としたときに3質量部であった。体積基準における造孔材のD50は80μmであった。グリセリンの含有量は、炭化珪素粉末とシリカ粉末の固形分量の合計を100質量部としたときに4質量部であった。水の含有量は、炭化珪素粉末とシリカ粉末の合計を100質量部としたときに30質量部であった。炭化珪素粉末の平均粒子径は8μmであった。この平均粒子径は、レーザー回折法で測定した値である。この充填材形成原料を、ヘラを用いて、ハニカム乾燥体のスリット内に充填した。
さらに熱風乾燥機で120℃、30分乾燥した後、ハニカム乾燥体と共にAr雰囲気にて1400℃で3時間焼成し、スリット内に充填材層が設けられた柱状のハニカム構造体とした。
【0075】
ハニカム構造体は、端面が直径100mmの円形であり、高さ(セルの流路方向における長さ)が100mmであった。セル密度は93セル/cm2であり、隔壁の厚みは101.6μmであり、隔壁の気孔率は45%であり、隔壁の平均細孔径は8.6μmであった。電極層の厚みは0.3mmであった。ハニカム構造部のヤング率は、5GPaであった。
【0076】
実施例1のハニカム構造体における、充填材層中の全気孔体積に占める気孔径90μm以上の気孔体積の割合、ヤング率、気孔率、体積基準におけるD50の気孔径、及び、平均粒子径50μm及び平均粒子径150μmの各造孔材含有量を表1に示す。造孔材含有量は充填材層に含まれる炭化珪素粉末とシリカ粉末の合計を100質量部としたときの造孔材の質量の比率(質量部)を示す。
【0077】
得られたハニカム構造体について、以下に示す方法で、「耐熱衝撃性試験」を行った。表に、「耐熱衝撃性試験」の結果として、「縦クラックの発生温度」、及び「端面クラックの発生温度」を示す。
【0078】
[耐熱衝撃性試験(バーナー試験)]
「ハニカム構造体を収納する金属ケースと、当該金属ケース内に加熱ガスを供給することができるプロパンガスバーナーと、を備えたプロパンガスバーナー試験機」を用いてハニカム構造体の加熱冷却試験を実施した。上記加熱ガスは、ガスバーナー(プロパンガスバーナー)でプロパンガスを燃焼させることにより発生する燃焼ガスとした。そして、上記加熱冷却試験によって、ハニカム構造体にクラックが発生するか否かを確認することにより、耐熱衝撃性を評価した。具体的には、まず、プロパンガスバーナー試験機の金属ケースに、得られたハニカム構造体を収納(キャニング)した。そして、金属ケース内に、プロパンガスバーナーにより加熱されたガス(燃焼ガス)を供給し、ハニカム構造体内を通過するようにした。金属ケースに流入する加熱ガスの温度条件(入口ガス温度条件)を以下のようにした。まず、5分で指定温度まで昇温し、指定温度で10分間保持し、その後、5分で100℃まで冷却し、100℃で10分間保持した。このような昇温、冷却、保持の一連の操作を「昇温、冷却操作」と称する。その後、ハニカム構造体のクラックを確認した。そして、指定温度を825℃から25℃ずつ上昇させながら上記「昇温、冷却操作」を繰り返した。指定温度は、サンプルにクラックが発生するまで25℃ずつ上昇させた指定温度が高くなると昇温峻度が大きくなり、中心部に対して外周部の昇温が遅れることにより、中心部と外周部の温度差が拡大し、発生応力が大きくなる。
指定温度が850℃になるまでクラックが発生しないハニカム構造体は、耐熱衝撃性試験が良好であるものとした。つまり、指定温度850℃においてクラックが発生しなければ、更に高い指定温度においてクラックが発生しても良好であり、指定温度850℃未満でクラックが発生した場合は、本発明の耐熱衝撃性の効果が得られていないものとした。本耐熱衝撃性試験では、以下の二種類のクラックについて、発生の有無を確認した。一種類目のクラックは、「縦クラック」と呼ばれるものであり、二種類目のクラックは、「端面クラック」と呼ばれるものである。「縦クラック」は、ハニカム構造体の側面に、当該ハニカム構造体の第一端面から第二端面に向かう方向に発生するクラックである。「端面クラック」は、ハニカム構造体の端面に発生するクラックである。表1の「縦クラックの発生温度」の欄には、上述の縦クラックの発生が確認された温度を示す。表3の「端面クラックの発生温度」の欄には、上述の端面クラックの発生が確認された温度を示す。
【0079】
<実施例2~12、比較例1、2>
充填材の各条件を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製した。実施例1の場合と同様にして、「耐熱衝撃性試験」を行った。
表1に、「耐熱衝撃性試験」の結果として、「縦クラックの発生温度」、及び「端面クラックの発生温度」を示す。
【0080】
【0081】
(評価結果)
表1に示すように、実施例1~12のハニカム構造体は、「縦クラック発生温度」及び「端面クラック発生温度」が、共に850℃以上であり、耐熱衝撃性に優れたものであった。一方、比較例1、2のハニカム構造体は、「縦クラック発生温度」及び「端面クラック発生温度」のうちの少なくとも一方が850℃未満であり、耐熱衝撃性に劣るものだった。以上の結果より、ハニカム構造体のスリットに充填された充填材層が気孔を有し、かつ、気孔径90μm以上の気孔が、当該充填材層に含まれる全気孔に対して30体積%以上とすることにより高温時のクラック発生が抑制されることが分かった。