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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142202
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/08 20060101AFI20230928BHJP
   B60R 21/00 20060101ALI20230928BHJP
   B60N 2/42 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B60R21/08 P
B60R21/00 321
B60R21/08 C
B60N2/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048961
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】北村 将央
(72)【発明者】
【氏名】橋戸 達矢
(72)【発明者】
【氏名】三浦 渉
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087CD03
3B087CD05
(57)【要約】
【課題】簡便な構成として、ドアを備えないタイプの車両であっても、乗員を的確に保護可能な乗員保護装置を提供すること。
【解決手段】車両の側方から内方に向かうような外力の作用時に、シート1に着座している乗員を保護可能な乗員保護装置S。待機位置P1から乗員における保護対象部位を受け止め可能な受止位置P2に配置可能な乗員受止部14と、シートにおける外力作用側に配置されて外力を受け止め可能な外力受止部20Aと、外力受止部による外力の受止時に乗員受止部を待機位置から受止位置に移動可能な移動機構12,15と、を、有する。乗員受止部が、形状保持性を有した素材から形成されて、待機位置においてシートの側面側に配置され、外力受止部による外力の受止時に、移動機構により、シートにおける座部と背もたれ部との間の空間を塞ぐようにして、保護対象部位の側方を覆うように、受止位置に配置される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の側方から内方に向かうような外力の作用時に、シートに着座している乗員を保護可能な乗員保護装置であって、
前記乗員の側方に配置されて、
待機位置から、前記乗員における保護対象部位を受け止め可能な受止位置に配置可能な乗員受止部と、
前記シートにおける外力作用側に配置されて、前記外力を受け止め可能な外力受止部と、
該外力受止部による前記外力の受止時に、前記乗員受止部を、前記待機位置から前記受止位置に移動可能な移動機構と、
を、有し、
前記乗員受止部が、形状保持性を有した素材から形成されるとともに、前記待機位置において前記シートの側面側に配置され、前記外力受止部による前記外力の受止時に、前記移動機構により、前記シートにおける座部と背もたれ部との間の空間を塞ぐようにして、前記保護対象部位の側方を覆うように、前記受止位置に配置されることを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
前記受止位置において前記乗員受止部の外力作用側を覆うように配設される保護壁部を、備えていることを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項3】
相互に回り対偶により連結されて四節リンク機構を構成するように、軸方向を上下方向側に略沿わせた略四角筒形状として、前壁部、後壁部、内壁部、及び、外壁部、を備え、
前記後壁部が、前記シート側に固定される固定リンクとして配設され、
前記内壁部が、前記乗員受止部を構成し、
前記外壁部が、前記保護壁部を構成し、
前記前壁部、前記後壁部、前記内壁部、及び、前記外壁部が、前記待機位置において、前記外壁部と前記前壁部とを連結させている前外側回り対偶を外方に向けつつ相互に重ねられた略平板状として、前記シートの側面側に、配置される構成とされて、
前記前外側回り対偶付近の部位が、前記外力受止部を構成し、
前記外壁部及び前記前壁部が、前記移動機構を構成していることを特徴とする請求項2に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記受止位置において、前記乗員受止部と前記保護壁部との間に、内部にエアを充満させたエアバッグが、配設される構成であることを特徴とする請求項2または3に記載の乗員保護装置。
【請求項5】
前記エアバッグが、周壁を前記乗員受止部と前記保護壁部とに連結されるとともに、前記乗員受止部の移動時に内部に大気を流入可能な吸気孔を、有する構成とされてていることを特徴とする請求項4に記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突時における外力の作用時に、シートに着座している乗員を保護可能な乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、車両のシートに着座している乗員を保護するための装置としては、膨張したエアバッグによって、乗員の保護対象部位を保護するエアバッグ装置が、使用されている。また、昨今では、一人乗り用で、ドアを備えず、乗員の左右の側方が開放された状態の車両もある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-83858公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、ドアを備えない車両の場合、単にエアバッグを膨張させるだけでは、乗員の側方を的確に保護し難かった。また、通常、エアバッグ装置では、エアバッグは、インフレーターを用いて膨張させる構成であることから、簡便な構成として乗員を保護する点に、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、簡便な構成として、ドアを備えないタイプの車両であっても、乗員を的確に保護可能な乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る乗員保護装置は、車両の側方から内方に向かうような外力の作用時に、シートに着座している乗員を保護可能な乗員保護装置であって、
乗員の側方に配置されて、
待機位置から、乗員における保護対象部位を受け止め可能な受止位置に配置可能な乗員受止部と、
シートにおける外力作用側に配置されて、外力を受け止め可能な外力受止部と、
外力受止部による外力の受止時に、乗員受止部を、待機位置から受止位置に移動可能な移動機構と、
を、有し、
前記乗員受止部が、形状保持性を有した素材から形成されるとともに、待機位置においてシートの側面側に配置され、外力受止部による外力の受止時に、移動機構により、シートにおける座部と背もたれ部との間の空間を塞ぐようにして、保護対象部位の側方を覆うように、受止位置に配置されることを特徴とする。
【0007】
本発明の乗員保護装置では、車両の側方からの外力の作用時に、この外力を利用して、乗員受止部を、乗員における保護対象部位の側方を覆うように受止位置に配置させるように、移動させる構成であり、また、この乗員受止部は、形状保持性を有した素材から形成されている。そのため、本発明の乗員保護装置では、乗員の側方を覆うようなドアを備えないタイプの車両に搭載しても、乗員の側方を、乗員受止部によって迅速に覆うことができ、また、乗員受止部によって、保護対象部位を的確に拘束することができる。その結果、乗員が、外力作用側に向かって移動することを、的確に抑制することができる。さらに、本発明の乗員保護装置では、車両の側方から作用する外力を、外力受止部によって直接受けて、この外力受止部に作用する外力を利用して、移動機構により、乗員受止部を、待機位置から受止位置に移動させる構成であることから、別途駆動源を設ける必要がなく、簡便な構成として、安価に製造することもできる。
【0008】
したがって、本発明の乗員保護装置では、簡便な構成として、ドアを備えないタイプの車両であっても、乗員を的確に保護することができる。
【0009】
また、本発明の乗員保護装置において、受止位置において乗員受止部の外力作用側を覆うように配設される保護壁部を、備える構成とすれば、乗員受止部が、外力を作用させる車両等と直接接触することを抑制できることから、乗員受止部によって、保護対象部位を一層的確に拘束することが可能となって、好ましい。
【0010】
さらに、上記構成の乗員保護装置において、相互に回り対偶により連結されて四節リンク機構を構成するように、軸方向を上下方向側に略沿わせた略四角筒形状として、前壁部、後壁部、内壁部、及び、外壁部、を備え、
後壁部を、シート側に固定される固定リンクとして配設させ、
内壁部により、乗員受止部を構成し、
外壁部により、保護壁部を構成し、
前壁部、後壁部、内壁部、及び、外壁部を、待機位置において、外壁部と前壁部とを連結させている前外側回り対偶を外方に向けつつ相互に重ねられた略平板状として、シートの側面側に、配置させる構成として、
前外側回り対偶付近の部位により、外力受止部を構成し、
外壁部及び前壁部により、移動機構を構成することが、好ましい。
【0011】
乗員保護装置を上記構成とすれば、受止位置において略四角筒形状とされる前壁部、後壁部、内壁部、及び、外壁部が、待機位置においては、相互に重ねられた平板状として、シートの側面側に配置される構成であることから、コンパクトに搭載することができる。また、上記構成の乗員保護装置では、待機位置において最も外側に位置している前外側回り対偶付近の部位が、外力受止部を構成して、外壁部と前壁部とが移動機構を構成していることから、前外側周り待遇付近の部位に、内方に向かって押すような外力が作用すれば、この外力を受けて、平らに展開された状態から、前壁部及び外壁部が、立ち上がりつつ、移動し、この前壁部と外壁部との移動に伴って、内壁部も移動することから、別途駆動源を不要として、待機位置から受止位置に移動させることができ、一層、簡便な構成とすることができる。
【0012】
さらにまた、上記構成の乗員保護装置において、受止位置において、乗員受止部と保護壁部との間に、内部にエアを充満させたエアバッグを、配設させる構成とすれば、保護壁部が、外力を作用させる車両等と接触することとなっても、内部にエアを充満させて膨張しているエアバッグからの反力により、乗員受止部側に接近することを抑制されることから、外力を作用させる車両等のさらなる進入を抑制することができ、また、反動によって、乗員が、保護壁部側(外方)に向かうように移動しようとしても、保護対象部位の側方を覆うように配置されている乗員受止部によって、保護対象部位を拘束することができ、乗員の保護壁部側へ向かうような移動を、一層、的確に抑制することができる。また、エアバッグを配設させる場合、エアバッグを、周壁を乗員受止部と保護壁部とに連結させるとともに、乗員受止部の移動時に内部に大気を流入可能な吸気孔を有する構成とすれば、乗員受止部の移動時に、吸気孔を経て内部に大気を流入させるようにしてエアバッグが膨張することから、エアバッグを膨張させるためのインフレーター等のガス供給部材が不要となり、エアバッグを配設させる構成であっても、簡便な構成として、安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態である乗員保護装置を搭載させる車両の概略側面図である。
図2】本発明の一実施形態である乗員保護装置を搭載させる車両の概略正面図である。
図3】実施形態の乗員保護装置の側面図であり、待機位置と受止位置との状態を示す。
図4】実施形態の乗員保護装置の平面図であり、待機位置と受止位置との状態を示す。
図5】実施形態の乗員保護装置の正面図であり、待機位置と受止位置との状態を示す。
図6】実施形態の乗員保護装置の概略断面図であり、図5のVI-VI部位に対応する。
図7】実施形態の乗員保護装置の概略端面図であり、図5のVII-VII部位に対応する。
図8】実施形態の乗員保護装置において、保護本体部の待機位置と受止位置との状態を示す概略斜視図である。
図9】実施形態の乗員保護装置の概略断面図であり、図5のIX-IX部位に対応する。
図10】実施形態の乗員保護装置において、受止位置での概略底面図である。
図11】実施形態の乗員保護装置に使用されるエアバッグにおける吸気孔の部位付近を示す概略底面図である。
図12図11のXII-XII部位の概略断面図である。
図13】吸気孔の開閉状態を示す概略断面図である。
図14】実施形態の乗員保護装置において、受止位置の状態での概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。実施形態の乗員保護装置Sは、図1,2に示すように、一人乗り用の車両Vに搭載されている。この車両Vは、図1に示すように、ドアを備えず、乗員としての運転者MDがシート1に着座している状態において、運転者MDの左右の側方は、開放されている。
【0015】
シート1は、座部3と背もたれ部2とを備える構成とされている。具体的には、シート1において、背もたれ部2は、座部3と直接連結されておらず、左右両縁側において、背もたれ部2に略沿うように下方に延びるように配置される連結パイプ5L,5Rを利用して、座部3と連結されている(図2参照)。詳細には、背もたれ部2は、左縁側の領域と右縁側との領域とを、それぞれ、下半分程度を切り欠かれるように構成されて、連結パイプ5L,5Rは、この背もたれ部2における切り欠かれている領域において、背もたれ部2に略沿うように上下方向に略沿って(詳細には、下端側を前方に位置させるように、鉛直方向に対して僅かに傾斜して、図1参照)、配設されている。この連結パイプ5L,5Rは、運転者MDの着座時に、運転者MDの腰部から背中にかけての後左側と後右側とに配置されることとなる。
【0016】
乗員保護装置Sは、乗員としての運転者MDの側方に配置されるもので、実施形態では、右側の連結パイプ5Rに取り付けられるようにして、運転者MDの腰部MWの右方に配置されている(図1,2参照)。乗員保護装置Sは、図3~7に示すように、四節リンク機構としての保護本体部10と、アームレスト部30と、保護本体部10内に配置される内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bと、を備えている。
【0017】
四節リンク機構としての保護本体部10は、軸方向を上下方向側(鉛直方向側)に略沿わせた略四角筒形状として、前壁部12、後壁部13、内壁部14、及び、外壁部15を、備える構成とされている。これらの前壁部12,後壁部13,内壁部14,外壁部15は、相互に、回り対偶20A,20B,20C,20Dにより連結されている。保護本体部10は、車両Vの側方(右方)から内方(左方)に向かうような外力Tの作用時に、待機位置P1の状態(待機状態)から、受止位置P2の状態(受止状態)となるように、変形しつつ移動する構成とされるもので、受止位置P2での外形形状を、軸方向を上下方向側(鉛直方向側)に略沿わせた略四角筒形状とされている(図3のB,4のB,5のB参照)。具体的には、保護本体部10は、受止位置P2での外形形状を、シート1における座部3と背もたれ部2との境界部位付近の空間を塞ぐようにして、保護対象部位としての運転者MDの腰部MWの側方(右方)を広く覆い可能に、前後方向側を幅広として、軸方向を、鉛直方向に略沿わせるような略四角筒形状として、構成されている。実施形態の保護本体部10では、受止位置P2の状態(移動完了状態)において、左右方向側で対向する内壁部14と外壁部15とが、略平行として前後方向に略沿うように配置され、前後方向側で対向する前壁部12と後壁部13とが、内壁部14及び外壁部15と略直交するように左右方向に略沿って配置される構成である(図4のB,8のB,9参照)。保護本体部10(前壁部12、後壁部13、内壁部14、及び、外壁部15)は、形状保持性を有した素材から形成されるもので、実施形態の場合、合成樹脂製(具体的には、発泡スチロール等の軟質合成樹脂製)の板状体とされている。
【0018】
保護本体部10では、後壁部13が、連結パイプ5Rに取り付けられる構成である。具体的には、後壁部13における内端部側には、連結パイプ5Rを挿通させて連結パイプ5Rに取り付け可能な取付部25,25が、後壁部13から後方に延びるようにして、上端側と下端側とに、形成されている。すなわち、実施形態の保護本体部10では、後壁部13が、シート1側に固定される固定リンクとして、配設されている。また、保護本体部10では、受止位置P2において、運転者MD側となる内側に配置される内壁部14が、保護対象部位としての腰部MWの側方(右方)を覆う乗員受止部を構成し、内壁部14の外方(外力作用側)を覆うように配置される外壁部15が、保護壁部を構成している。乗員受止部を構成している内壁部14と、保護壁部を構成している外壁部15とは、ともに、待機位置P1から受止位置P2への移動時に、90°程度回転されつつ、移動することとなる。前壁部12、後壁部13、内壁部14、及び、外壁部15を、それぞれ、相互に連結している各前外回り対偶20A,前内回り対偶20B,後外回り対偶20C,後内回り対偶20Dは、保護本体部10の上端10a側と下端10b側とに、配設されている。
【0019】
保護本体部10は、待機位置P1に配置される待機状態においては、前壁部12,後壁部13,内壁部14,外壁部15を相互に重ねられるような略平板状として、左右方向に略沿って延びるようにして、シート1の右側面側に配置される構成である(図3のA,4のA,5のA参照)。具体的には、保護本体部10は、待機位置P1においては、後壁部13の外側面13aに外壁部15における受止状態での後側面15aを当接させるようにして、後壁部13の外方(右方)に外壁部15を直列的に位置させ、この後壁部13,外壁部15の前側に、内壁部14における受止状態での前側面14aに前壁部12の内側面12aを当接させるようにして、内壁部14と前壁部12とを直列的に配置させたものを重ね、外壁部15と前壁部12とを連結している前外回り対偶20Aを外方(右方)に向けるようにして、配置されている(図6参照)。すなわち、待機位置P1においては、後壁部13の外側面13a,外壁部15の後側面15a、及び、内壁部14の前側面14a,前壁部12の内側面12aが、相互に当接されて、それぞれ、平板状の状態(待機状態)を保持可能なストッパ面を構成している。実施形態の保護本体部10では、待機位置P1において、この最も外側(シート1における外力作用側であって、実施形態の場合、右側)に位置している前外回り対偶20A付近の部位が、外力受止部を、構成している。詳細には、実施形態の保護本体部10では、待機位置P1において、前壁部12が、外側面12bを、外壁部15における受止状態での前側面15bよりも外方に位置させるように、構成されており(図6,8参照)、前壁部12の外側面12bが、外力受止部を構成している。また、実施形態の保護本体部10では、この前壁部12と外壁部15とが、移動機構を、構成している。
【0020】
保護本体部10は、受止位置P2においては、後壁部13の前面内縁13b側に内壁部14の後側面14bを当接させ、前壁部12の後面外縁12c側に外壁部15の前側面15bを当接させるようにして、四角筒状とされることとなる(図9参照)。受止位置P2においては、後壁部13の前面内縁13b,内壁部14の後側面14b、及び、前壁部12の後面外縁12c,外壁部15の前側面15bが、相互に当接されて、それぞれ、さらなる回転移動を規制して、四角筒形状の状態(受止状態)を保持可能なストッパ面を構成している。また、実施形態では、受止位置P2において、相互に当接する後壁部13における前面内縁13b側,内壁部14の後側面14b側,前壁部12の後面外縁12c側,外壁部15の前側面15b側には、受止状態の外形形状(四角筒形状)を維持可能に、それぞれ、相互に吸着可能な磁石24(具体的には、ネオジウム磁石)が、配設されている。各磁石24は、実施形態の場合、保護本体部10の上端10a側と下端10b側とに、配設されている(図3,5参照)。
【0021】
そして、実施形態の保護本体部10では、待機位置P1に配置された待機状態において、車両Vの側方から内方に向かうような外力Tの作用時に、外力受止部を構成している前外回り対偶20A付近の部位(詳細には、前壁部12の外側面12b付近の部位)が、外力Tを受けて内側に押されると、その押圧力を受けて、移動機構を構成している外壁部15及び前壁部12が移動し、内壁部14も追従して移動することとなって、固定リンクを構成している後壁部13を除いた内壁部14,外壁部15,前壁部12が、待機位置P1から移動して、略四角筒形状を構成するようにして、受止位置P2に配置されることとなる(図8参照)。具体的には、前壁部12が、左右方向側に略沿った状態を維持しつつ、前内方に向かって平行移動し、内壁部14及び外壁部15が、左右方向側に略沿った状態から前後方向に略沿うように、略90°回転させるように移動することとなる。そして、上述したごとく、保護本体部10は、磁石24により、受止位置P2に配置された状態(略四角筒形状の状態)を維持されることとなる。
【0022】
保護本体部10の上側には、アームレスト部30が、配設されている。アームレスト部30は、前後方向に略沿った長尺板状とされるもので、前壁部12の上側に取り付けられている。具体的には、アームレスト部30は、待機状態における保護本体部10から前後に延びるように配設されている。前壁部12は、上述したごとく、保護本体部10における待機状態においても、受止状態においても、左右方向に沿って延びるように配置される構成であり(図4のA,B参照)、換言すれば、待機状態から受止状態への変形時(待機位置P1から受止位置P2への移動時)において、僅かに前内方に移動するように平行移動されることから、アームレスト部30も、保護本体部10の変形時に、保護本体部10の変形に伴って、僅かに前内方に移動するように平行移動されることとなる。アームレスト部30は、保護本体部10と同様に、合成樹脂製(具体的には、発泡スチロール等の軟質合成樹脂製)とされている。
【0023】
保護本体部10内に配置される内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bは、可撓性を有したシート体からなる袋状とされるもので、受止状態の略四角筒形状の保護本体部10の内部において、内部にエア(実施形態の場合、大気)を充填させて、この保護本体部10の内側の空間を埋めるように、配設されている。実施形態では、受止位置P2の保護本体部10の内部において、内外方向(左右方向)側で重ねられるように膨張する2つの内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bが、使用されている。これらの内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bは、実施形態の場合、待機位置P1での保護本体部10の内側において、平らに展開された状態で、前後方向側で重ねられるように、配設されている(図6,7参照)。具体的には、各内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bは、それぞれ、平らに展開した状態での外形形状を、待機位置P1における直列的に並べられた後壁部13及び外壁部15(若しくは直列的に並べられた内壁部14及び前壁部12)と幅寸法を略同一とした略長方形状として、上端10a側と下端10b側とに配置される各前外回り対偶20A,前内回り対偶20B,後外回り対偶20C,後内回り対偶20Dの配置領域を除いて(すなわち、上端10a側と下端10b側とを除いて)、保護本体部10の内側を略全面にわたって覆うように、配置されている(図5~7参照)。各内側エアバッグ35A及び外側エアバッグ35Bは、詳細な図示は省略するが、それぞれ、周壁37A,37Bを、保護本体部10側に連結(接着剤等を用いて結合)されている。具体的には、内側エアバッグ35Aは、周壁37Aにおいて外側エアバッグ35Bから離隔した離隔側領域37a(具体的には、周壁37Aの離隔側領域37aにおける上下両端側を除いた部位)を、内壁部14(乗員受止部)と前壁部12とに連結され、外側エアバッグ35Bは、周壁37Bにおいて内側エアバッグ35Aから離隔した離隔側領域37a(周壁37Bの離隔側領域37aにおける上下方向の中間部位の領域)を、外壁部15(保護壁部)と後壁部13とに連結されている。そして、各内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bにおける膨張完了時の下端側には、保護本体部10の待機状態から受止状態への変形時(待機位置P1から受止位置P2への移動時)に内部に大気を流入可能な吸気孔40A,40Bが、形成されている。吸気孔40A,40Bは、待機位置P1においては閉塞され(図5参照)、待機状態から受止状態への変形時(待機位置P1から受止位置P2への移動時)に、開口されて内部に大気を流入させる構成である。吸気孔40A,40Bは、各内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bにおいて、膨張完了時(保護本体部10の受止位置P2への移動後)の下面側であって、内壁部14と前壁部12との交差部位付近と、外壁部15と後壁部13との交差部位付近と、に、それぞれ、配設されている(図10参照)。
【0024】
各吸気孔40A,40Bは、実施形態の場合、図11,12に示すように、内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bの周壁37A,37Bに開口して形成される穴本体41A,41Bと、内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bの膨張後に内周面側から穴本体41A,41Bを閉塞して穴本体41A,41Bからの膨張用ガスの流出を規制可能な逆止弁機構43A,43Bと、を備えている。穴本体41A,41Bは、保護本体部10の長手方向側、すなわち、前後方向側を幅広とした略長円形状とされている(図10参照)。逆止弁機構43A,43Bは、穴本体41A,41Bを塞ぎ可能な長尺状として、膨張完了時に上下方向側で重ねられるように配置される2枚の弁本体44A,44B,45A,45Bを備える構成とされている。弁本体44A,44B,45A,45Bは、内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bを構成する基材と同様に可撓性を有したシート体から形成されるもので、それぞれ、重ねられた状態で相互に対向する長手方向の一端44a,45a側を、内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bの周壁37A,37B側に、結合され、他端44b,45b側を自由端とされている。これらの各吸気孔40A,40Bは、保護本体部10の待機状態においては、内壁部14と外壁部15との間で挟まれて閉塞されるような態様となり、保護本体部10の待機状態から受止状態への変形時(待機位置P1から受止位置P2への移動時)に、乗員受止部としての内壁部14と保護壁部としての外壁部15との相互に離隔するような移動に伴って、穴本体41A,41Bを開口させることとなる。そして、この保護本体部10の待機状態から受止状態への変形時(待機位置P1から受止位置P2への移動時)に、内側エアバッグ35Aと外側エアバッグ35Bとが、下面側に開口される吸気孔40A,40Bの穴本体41A,41Bから、内部に大気Aを流入させるようにして、膨張することとなる(図13のA参照)。そして、保護本体部10の受止状態への変形完了時(受止位置P2への移動完了時)には、各吸気孔40A,40Bの穴本体41A,41Bは、内部に流入した大気Aの圧を受けて、2枚の弁本体44A,44B,45A,45Bに閉塞されることとなり(図13のB参照)、内部に流入した大気Aが外部に逆流することを抑制されて、内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bが、膨張状態を維持されることとなる。
【0025】
内側エアバッグ35Aと外側エアバッグ35Bとの周壁37A,37Bにおいて、非膨張状態における相互に対向して配置される対向側領域37b,37b(すなわち、保護本体部10側に連結されていない領域)は、水平方向に略沿った横断面における膜長を、待機位置P1における保護本体部10の左右方向側での幅寸法と略同一に設定され、すなわち、受止位置P2における保護本体部10を上下方向側から見た状態での対角線の長さ寸法よりも大きく設定される構成である(図6,9参照)。そのため、内側エアバッグ35Aと外側エアバッグ35Bとは、周壁37A,37Bにおいて相互に離隔した離隔側領域37a,37aを保護本体部10に連結させた状態で、相互に対向して配置される対向側領域37b,37bに皺を生じさせつつ、この対向側領域37b,37bを相互に密接させるようにして、保護本体部10の内部に充満されることとなる(図9参照)。
【0026】
実施形態の乗員保護装置Sでは、車両Vに、右方側から内方側に向かうような外力Tが作用した際に、この外力Tが、保護本体部10を直接内方に向かって押圧することとなって、保護本体部10が、待機位置P1の状態(待機状態)から受止位置P2の状態(受止状態)に、変形しつつ移動することとなり、受止状態の保護本体部10が、図14に示すように、運転者MDの腰部MWの右方を覆うように配置されることとなる。また、このとき、保護本体部10の内部では、内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bが、内部に大気を流入させて充満された状態で、配置されることとなる。
【0027】
そして、実施形態の乗員保護装置Sでは、車両Vの側方(実施形態の場合、右方)からの外力Tの作用時に、この外力Tを利用して、乗員受止部を構成している保護本体部10の内壁部14を、乗員としての運転者MDの保護対象部位である腰部MWの側方を覆うように配置させるように、移動させる構成であり、また、この内壁部14は、形状保持性を有した素材から形成されている。そのため、実施形態の乗員保護装置Sでは、乗員(運転者MD)の側方を覆うようなドアを備えないタイプの車両Vに搭載しても、運転者MDの右方を、保護本体部10の内壁部14によって迅速に覆うことができ、また、保護本体部10の内壁部14によって、腰部MWを的確に拘束することができる。その結果、運転者MDが、外力作用側(右方)に向かって移動することを、的確に抑制することができる。さらに、実施形態の乗員保護装置Sでは、車両Vの右方から作用する外力Tを、外力受止部を構成している前外回り対偶20A付近の部位(具体的には、前壁部12の外側面12c)によって直接受けて、この前外回り対偶20A付近の部位に作用する外力Tを利用して、移動機構を構成している前壁部12と外壁部15とより、内壁部14を、待機位置P1から受止位置P2に移動させる構成であることから、別途駆動源を設ける必要がなく、簡便な構成として、安価に製造することもできる。
【0028】
したがって、実施形態の乗員保護装置Sでは、簡便な構成として、ドアを備えないタイプの車両Vであっても、乗員としての運転者MDを的確に保護することができる。
【0029】
また、実施形態の乗員保護装置Sでは、受止位置P2(受止状態)において、乗員受止部としての内壁部14の外力作用(右方側)を覆うように、保護壁部としての外壁部15が、配設される構成である。そのため、内壁部14が、外力を作用させる衝突車両等と直接接触することを抑制できることから、内壁部14によって、腰部MWを一層的確に拘束することができる。なお、このような点を考慮しなければ、乗員受止部のみとして、保護壁部を備えない構成としてもよい。
【0030】
さらに、実施形態の乗員保護装置Sでは、受止位置P2においては、略四角筒形状とされる壁部12、後壁部13、内壁部14、及び、外壁部15が、待機位置P1においては、相互に重ねられた略平板状として、シート1の側面側に配置される構成であることから、コンパクトに搭載することができる。また、実施形態の乗員保護装置Sでは、待機位置P1においてもっとも外方(右方)に位置している前外側回り対偶20A付近の部位(具体的には、前壁部12の外側面12c)が、外力受止部を構成して、前壁部12と外壁部15とが、駆動機構を構成していることから、前外側周り対偶20A付近の部位に、内方に向かって押すような外力Tが作用すれば、この外力Tを受けて、平らに展開された状態から、前壁部12及び外壁部15が、立ち上がりつつ、移動し、この前壁部12と外壁部15との移動に伴って、内壁部14も移動することから、別途駆動源を不要として、待機位置P1から受止位置P2に移動させることができ、一層、簡便な構成とすることができる。
【0031】
さらにまた、実施形態の乗員保護装置Sでは、受止位置P2において、乗員受止部としての内壁部14と保護壁部としての外壁部15との間に、内部にエアを充満させたエアバッグ(内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35B)が、配設される構成である。そのため、外壁部15が、外力を作用させる衝突車両等と接触することとなっても、内部にエアを充満させて膨張している内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bからの反力により、内壁部14側に接近することを抑制されることから、外力Tを作用させる車両等のさらなる進入を抑制することができ、また、反動によって、運転者MDが、外壁部15側(外方)に向かうように移動しようとしても、腰部MWの側方を覆うように配置されている内壁部14によって、腰部MWを拘束することができ、運転者MDの外壁部15側(外方)へ向かうような移動を、一層、的確に抑制することができる。
【0032】
さらに、実施形態の乗員保護装置Sでは、エアバッグ(内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35B)が、周壁を内壁部14(乗員受止部)と外壁部15(保護壁部)とに連結させるとともに、内壁部14の移動時に内部に大気を流入可能な吸気孔40A,40Bを有する構成とされている。そのため、内壁部14(乗員受止部)の移動時に、吸気孔40A,40Bを経て内部に大気を流入させるようにして内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bが膨張することから、内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bを膨張させるためのインフレーター等のガス供給部材が不要となり、内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bを配設させる構成であっても、簡便な構成として、安価に製造することができる。
【0033】
具体的には、実施形態の場合、保護本体部10内には、内側エアバッグ35Aと外側エアバッグ35Bとの二つが配設される構成であり、内側エアバッグ35Aが、周壁37Aにおける離隔側領域37aを、内壁部14と前壁部12とに連結させ、外側エアバッグ35Bが、周壁37Bにおける離隔側領域37aを、外壁部15と後壁部13とに連結させる構成とされている。そして、この内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bは、待機位置P1での保護本体部10内において、平らに展開された状態で、外形形状を略長方形状として、保護本体部10の内部をそれぞれ略全面にわたって覆うように配置される構成であることから、受止位置P2に移動しつつ変形した受止状態の保護本体部10内においては、周壁37A,37Bにおいて相互に対向して配置される対向側領域37b,37bに皺を生じさせつつ、隙間なく密接されるようにして、保護本体部10の内部を埋めるように配置されることとなる。また、内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bに形成される吸気孔40A,40Bは、逆止弁機構43A,43Bを有していることから、一旦内部に流入した大気A(エア)が抜け難く、膨張した内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bの内圧を維持することができる。そのため、保護本体部10が、内方側(運転者MD側)と外方側(外力作用側)との両側から押圧されても、内部からの大気(エア)の抜けを抑制されて膨張状態を維持されている内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bによって、内壁部14と外壁部15とを接近させるように圧縮されることを抑制でき、運転者MDの腰部MWを的確に拘束することができる。
【0034】
実施形態の乗員保護装置Sでは、保護本体部10を待機位置P1から受止位置P2まで移動させる移動機構は、保護本体部10を構成する前壁部12及び外壁部15自体から構成されており、この保護本体部10の変形移動は可逆的な変形移動である。また、保護本体部10内に配置される内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bも、保護本体部10の移動時に、吸気孔40A,40Bによって、内部に大気を流入させることにより膨張する構成である。そのため、保護本体部10を、受止位置まで移動(受止状態に変形)した後に、待機位置(待機状態)に戻すことができる。吸気孔40A,40Bは、逆止弁機構43A,43Bを有する構成であるが、内部に流入した大気(エア)の流出を完全に防止できるものではなく、所定時間の経過後には、内側エアバッグ35A,外側エアバッグ35Bの内部から大気を抜くことができて、平らに展開させることができる。
【0035】
なお、実施形態の乗員保護装置Sでは、保護本体部10(前壁部12,後壁部13,内壁部14(乗員受止部),外壁部15(保護壁部))が、軟質合成樹脂製とされているが、保護本体部の形成材料は実施形態に限定されているものではなく、塑性変形や脆性破壊によってエネルギー吸収可能な材料であればよく、例えば、硬質合成樹脂や金属板等から構成してもよい。また、実施形態の乗員保護装置Sでは、保護本体部10の内部に、内側エアバッグ35Aと外側エアバッグ35Bとの二つのエアバッグが配設されているが、エアバッグの配置数は、勿論、実施形態に限定されるものではなく、1個配設させる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1…シート、2…背もたれ部、3…座部、10…保護本体部(四節リンク機構)、12…前壁部、13…後壁部、14…内壁部(乗員受止部)、15…外壁部(保護壁部)、20A…前外回り対偶(外力受止部)、20B…前内回り対偶、20C…後外回り対偶、20D…後内回り対偶、35A…内側エアバッグ、35B…外側エアバッグ、40A,40B…吸気孔、MD…運転者(乗員)、MW…腰部(保護対象部位)、V…車両、S…乗員保護装置。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図14