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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142212
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ガス検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/40 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
G01N1/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048975
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郡司島 造
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏一
(72)【発明者】
【氏名】勝野 高志
(72)【発明者】
【氏名】中村 忠司
(72)【発明者】
【氏名】溝下 倫大
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宏文
(72)【発明者】
【氏名】山寺 秀哉
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 テツヲ
(72)【発明者】
【氏名】内田 浩司
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AD42
2G052ED01
2G052JA09
(57)【要約】
【課題】気体試料中のガス成分を検知可能なガス検知装置を提供する。
【解決手段】ガス検知装置は、第1および第2ガス成分を濃縮可能な第1濃縮器を備える。第1濃縮器は、第1および第2ガス成分の濃縮率の比が第1濃縮比である。ガス検知装置は、第1および第2ガス成分を濃縮可能な第2濃縮器を備える。第2濃縮器は、第1および第2ガス成分の濃縮率の比が第2濃縮比である。ガス検知装置は、第1および第2ガス成分の濃度を測定可能な第1センサおよび第2センサを備える。第1センサは、第1および第2ガス成分の測定感度の比が第1感度比である。第2センサは、第1および第2ガス成分の測定感度の比が第2感度比である。ガス検知装置は、第1濃縮器から第1および第2センサへ至る第1ガス経路と、第2濃縮器から第1および第2センサへ至る第2ガス経路と、を形成可能な流路形成部を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体試料中の第1ガス成分および第2ガス成分を濃縮して放出可能な第1濃縮器であって、前記第1ガス成分の濃縮率と前記第2ガス成分の濃縮率との比が第1濃縮比である、前記第1濃縮器と、
前記気体試料中の前記第1ガス成分および前記第2ガス成分を濃縮して放出可能な第2濃縮器であって、前記第1ガス成分の濃縮率と前記第2ガス成分の濃縮率との比が前記第1濃縮比とは異なる第2濃縮比である、前記第2濃縮器と、
前記第1ガス成分および前記第2ガス成分の濃度を測定可能な第1センサであって、前記第1ガス成分の測定感度と前記第2ガス成分の測定感度との比が第1感度比である、前記第1センサと、
前記第1ガス成分および前記第2ガス成分の濃度を測定可能な第2センサであって、前記第1ガス成分の測定感度と前記第2ガス成分の測定感度との比が前記第1感度比とは異なる第2感度比である、前記第2センサと、
前記第1濃縮器から前記第1センサおよび前記第2センサへ至る第1ガス経路と、前記第2濃縮器から前記第1センサおよび前記第2センサへ至る第2ガス経路と、を形成することが可能に構成されている流路形成部と、
を備える、ガス検知装置。
【請求項2】
前記第1センサの測定値および前記第2センサの測定値に基づいて、前記気体試料中の前記第1ガス成分の濃度および前記第2ガス成分の濃度を算出する算出部をさらに備え、
前記算出部は、前記第1ガス経路を用いて前記第1センサおよび前記第2センサで測定された測定値と、前記第2ガス経路を用いて前記第1センサおよび前記第2センサで測定された測定値との差分に基づいて、前記第1ガス成分の濃度および前記第2ガス成分の濃度を算出する、請求項1に記載のガス検知装置。
【請求項3】
前記流路形成部は、
前記気体試料を前記第1濃縮器および前記第2濃縮器に供給する試料供給流路を形成し、
前記試料供給流路を形成した後に、前記第1ガス経路および前記第2ガス経路の一方を形成し、
前記第1ガス経路および前記第2ガス経路の一方を形成した後に、前記第1ガス経路および前記第2ガス経路の他方を形成する、
請求項1又は2に記載のガス検知装置。
【請求項4】
前記流路形成部は、パージガスを供給する部位を前記第1濃縮器および前記第2濃縮器に接続するとともに、前記第1濃縮器および前記第2濃縮器を前記第1センサおよび前記第2センサを介さずに外部に接続する流路を形成することが可能に構成されている、請求項1~3の何れか1項に記載のガス検知装置。
【請求項5】
前記流路形成部は、パージガスを供給する部位を前記第1センサおよび前記第2センサに接続する経路を形成するとともに、前記第1ガス経路および前記第2ガス経路を遮断することが可能に構成されている、請求項1~3の何れか1項に記載のガス検知装置。
【請求項6】
前記流路形成部は、
前記第1濃縮器と前記第1センサとを接続している第1流路と、
前記第2濃縮器と前記第2センサとを接続している第2流路と、
前記第1流路と前記第2流路とを接続している第3流路と、
前記第1流路と前記第3流路との接続点と、前記第1濃縮器と、の経路上に配置されている第1バルブと、
前記第2流路と前記第3流路との接続点と、前記第2濃縮器と、の経路上に配置されている第2バルブと、
を備えている、請求項1~5の何れか1項に記載のガス検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、気体試料中のガス成分を検知することが可能なガス検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
極低濃度の検知対象ガスを高選択に検出するために、試料ガスを濃縮した後にセンサに検知させる技術が知られている。また試料ガスに、検出対象ガスの濃度測定を妨害する妨害ガスが含まれている場合に、特性の異なる2つの濃縮器を用いることで、妨害ガスの影響を把握する技術が知られている。例えば特許文献1には、2つの濃縮器と2つのセンサがそれぞれ1:1で接続されたガス検知装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-138782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、センサから得られる出力値は、センサの数と同数の2個である。検出対象ガスと妨害ガスとの濃度を切り分けて詳細に測定するためには、出力値の数が十分とは言えない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示するガス検知装置の一実施形態は、気体試料中の第1ガス成分および第2ガス成分を濃縮して放出可能な第1濃縮器を備える。第1濃縮器は、第1ガス成分の濃縮率と第2ガス成分の濃縮率との比が第1濃縮比である。ガス検知装置は、気体試料中の第1ガス成分および第2ガス成分を濃縮して放出可能な第2濃縮器を備える。第2濃縮器は、第1ガス成分の濃縮率と第2ガス成分の濃縮率との比が第1濃縮比とは異なる第2濃縮比である。ガス検知装置は、第1ガス成分および第2ガス成分の濃度を測定可能な第1センサを備える。第1センサは、第1ガス成分の測定感度と第2ガス成分の測定感度との比が第1感度比である。ガス検知装置は、第1ガス成分および第2ガス成分の濃度を測定可能な第2センサを備える。第2センサは、第1ガス成分の測定感度と第2ガス成分の測定感度との比が第1感度比とは異なる第2感度比である。ガス検知装置は、第1濃縮器から第1センサおよび第2センサへ至る第1ガス経路と、第2濃縮器から第1センサおよび第2センサへ至る第2ガス経路と、を形成することが可能に構成されている流路形成部を備える。
【0006】
濃縮選択比が異なる第1および第2濃縮器により、第1および第2ガス成分の各々の濃縮状態が異なる2種類の濃縮ガスを生成することができる。そして、第1濃縮器で生成した濃縮ガスを感度が異なる第1および第2センサの各々で測定するとともに、第2濃縮器で生成した濃縮ガスを感度が異なる第1および第2センサの各々で測定することができる。第1および第2センサから得られる出力値を4つに増加させることができるため、第1および第2ガス成分をより詳細に測定することが可能となる。
【0007】
ガス検知装置は、第1センサの測定値および第2センサの測定値に基づいて、気体試料中の第1ガス成分の濃度および第2ガス成分の濃度を算出する算出部をさらに備えていてもよい。算出部は、第1ガス経路を用いて第1センサおよび第2センサで測定された測定値と、第2ガス経路を用いて第1センサおよび第2センサで測定された測定値との差分に基づいて、第1ガス成分の濃度および第2ガス成分の濃度を算出してもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0008】
流路形成部は、気体試料を第1濃縮器および第2濃縮器に供給する試料供給流路を形成してもよい。流路形成部は、試料供給流路を形成した後に、第1ガス経路および第2ガス経路の一方を形成してもよい。流路形成部は、第1ガス経路および第2ガス経路の一方を形成した後に、第1ガス経路および第2ガス経路の他方を形成してもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0009】
流路形成部は、パージガスを供給する部位を第1濃縮器および第2濃縮器に接続するとともに、第1濃縮器および第2濃縮器を第1センサおよび第2センサを介さずに外部に接続する流路を形成することが可能に構成されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0010】
流路形成部は、パージガスを供給する部位を第1センサおよび第2センサに接続する経路を形成するとともに、第1ガス経路および第2ガス経路を遮断することが可能に構成されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0011】
流路形成部は、第1濃縮器と第1センサとを接続している第1流路を備えていてもよい。流路形成部は、第2濃縮器と第2センサとを接続している第2流路を備えていてもよい。流路形成部は、第1流路と第2流路とを接続している第3流路を備えていてもよい。流路形成部は、第1流路と第3流路との接続点と、第1濃縮器と、の経路上に配置されている第1バルブを備えていてもよい。流路形成部は、第2流路と第3流路との接続点と、第2濃縮器と、の経路上に配置されている第2バルブを備えていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1のガス検出システム1の概略ブロック図である。
図2】ガス経路GP1の概略図である。
図3】ガス経路GP2の概略図である。
図4】ガス経路GP3の概略図である。
図5】ガス経路GP4の概略図である。
図6】ガス経路GP5の概略図である。
図7】実施例1における、濃度Xと出力値PS1の関係を示すグラフである。
図8】実施例1における、濃度Yと出力値PS1の関係を示すグラフである。
図9】オフセット変動の影響を説明するグラフである。
図10】実施例2における濃度算出方法を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例0013】
(ガス検出システム1の構成)
図1に、実施例1のガス検出システム1の概略ブロック図を示す。ガス検出システム1は、ガス検知装置2、試料ガス容器3、ポンプ4~6、を備えている。試料ガス容器3は、試料ガスを保持するための容器である。試料ガス容器3は、例えば樹脂フィルム製のパックであってもよい。ポンプ4~6は、吸引することでガスの流れを発生させる部位である。
【0014】
ガス検知装置2は、第1濃縮器C1、第2濃縮器C2、第1センサS1、第2センサS2、バルブV1~V7、バルブ制御部10、算出部11、を主に備えている。第1濃縮器C1は、吸着材AD1およびヒータHE1を備えている。吸着材AD1は、試料ガス中の特定ガス成分を吸着可能であるとともに、ヒータHE1によって所定温度以上に加熱されることで吸着した特定ガス成分を脱離可能である。これにより、特定ガス成分を濃縮して放出可能とされている。吸着材AD1の材料としては、メソポーラス材料(例:メソポーラスシリカ、メソポーラス有機シリカ、メソポーラスカーボン等)、金属有機構造体(MOF:Metal-Organic Framework)、ゼオライト、活性炭等のミクロポーラス材料、を用いることができる。同様にして、第2濃縮器C2は、吸着材AD2およびヒータHE2を備えている。
【0015】
第1センサS1および第2センサS2は、第1濃縮器C1および第2濃縮器C2から脱離した特定ガス成分の濃度を測定可能なセンサである。第1センサS1および第2センサS2としては、特定ガス成分の吸着により抵抗、容量、共振周波数、応力等が変化するタイプのセンサを用いることができる。なお第1センサS1および第2センサS2の検出範囲は、1~1000ppmとした。
【0016】
第1濃縮器C1の流入口C1iおよび第2濃縮器C2の流入口C2iには、流路30によって試料ガス容器3が接続されている。また流入口C1iおよびC2iには、バルブV5を介して大気吸入口Aiが接続されている。大気吸入口Aiは、パージガスである大気を吸入する部位である。
【0017】
第1濃縮器C1の排出口C1oは、第1流路31によって第1センサS1の流入口S1iに接続されている。第2濃縮器C2の排出口C2oは、第2流路32によって第2センサS2の流入口S2iに接続されている。第3流路33の一端は、接続点N1で第1流路31に接続されている。第3流路33の他端は、接続点N2で第2流路32に接続されている。これにより、第1流路31と第2流路32とは、第3流路33によって互いに接続されている。
【0018】
排出口C1oと接続点N1との経路上には、バルブV1が配置されている。排出口C2oと接続点N2との経路上には、バルブV2が配置されている。接続点N1と流入口S1iとの経路上には、バルブV3が配置されている。接続点N2と流入口S2iとの経路上には、バルブV4が配置されている。また接続点N1には、バルブV6を介して大気吸入口Aiが接続されている。接続点N2には、バルブV7を介してポンプ6および大気排出口Ao3が接続されている。大気排出口Ao3は、パージガスである大気を外部へ排出する部位である。
【0019】
第1センサS1の排出口S1oには、ポンプ4を介して大気排出口Ao1が接続されている。第2センサS2の排出口S2oには、ポンプ5を介して大気排出口Ao2が接続されている。大気排出口Ao1およびAo2は、センサ内部を通過したガスを大気中へ排出する部位である。
【0020】
バルブ制御部10は、バルブV1~V7の開閉を制御する部位である。バルブ制御部10およびバルブV1~V7によって、流路形成部が構成されている。算出部11は、試料ガス中の特定ガス成分の濃度を算出する装置である。算出部11には、第1センサS1の出力値PS1および第2センサS2の出力値PS2が入力される。算出部11は、出力値PS1およびPS2に基づいて、特定ガス成分濃度を算出する。算出部11は、例えばPCなどであってもよい。
【0021】
(ガス検出システム1のガス検出動作)
図2図6を用いて、ガス検出動作を説明する。なお図2図6では、形成されているガス経路を実線で示し、形成されていないガス経路を破線で示している。
【0022】
ステップST1において、バルブ制御部10は、バルブV1、V2、V5、V7を開状態にするとともに、バルブV3、V4、V6を閉状態にする(図2参照)。これにより、ガス経路GP1が形成される。ガス経路GP1は、大気を供給する大気吸入口Aiを、第1濃縮器C1および第2濃縮器C2に接続する。またガス経路GP1は、第1濃縮器C1および第2濃縮器C2を、第1センサS1および第2センサS2を介さずに大気排出口Ao3に接続する。ポンプ6を吸引動作させることで、大気吸入口Aiから大気排出口Ao3まで大気が強制的に流れる。第1濃縮器C1および第2濃縮器C2をリフレッシュすることができる。
【0023】
ステップST2において、バルブ制御部10は、バルブV3、V4、V6を開状態にするとともに、バルブV1、V2、V5、V7を閉状態にする(図3参照)。これにより、大気を供給する大気吸入口Aiを第1センサS1および第2センサS2に接続する、ガス経路GP2が形成される。また、第1濃縮器C1から第1センサS1および第2センサS2へ至るガス経路、および、第2濃縮器C2から第1センサS1および第2センサS2へ至るガス経路が遮断される。ポンプ4および5を吸引動作させることで、大気吸入口Aiから大気排出口Ao1およびAo2まで大気が強制的に流れる。第1センサS1および第2センサS2をリフレッシュすることができる。
【0024】
ステップST3において、吸着ステップが行われる。バルブ制御部10は、バルブV1、V2、V7を開状態にするとともに、バルブV3、V4、V5、V6を閉状態にする(図4参照)。これにより、試料ガス容器3から第1濃縮器C1および第2濃縮器C2を介して大気排出口Ao3へ至る、ガス経路GP3が形成される。ガス経路GP3は、気体試料を第1濃縮器C1および第2濃縮器C2に供給する試料供給流路である。ポンプ6を吸引動作させることで、試料ガス容器3から第1濃縮器C1および第2濃縮器C2を介して大気排出口Ao3まで、試料ガスが強制的に流れる。吸着材AD1およびAD2の表面を試料ガスに暴露することで、特定ガス成分を選択的に吸着させることができる。
【0025】
ステップST4において、第1の測定ステップが行われる。バルブ制御部10は、バルブV1、V3、V4、V5を開状態にするとともに、バルブV2、V6、V7を閉状態にする(図5参照)。これにより、第1濃縮器C1から第1センサS1および第2センサS2へ至るガス経路GP4が形成される。ポンプ4および5を吸引動作させることで、第1濃縮器C1から第1センサS1および第2センサS2へのガスの強制的な流れが発生する。このとき、大気吸入口Aiから第1濃縮器C1にNなどのキャリアガスを供給してもよい。
【0026】
そしてヒータHE1による吸着材AD1の加熱を開始する。吸着材AD1が所定温度以上に加熱されると、特定ガス成分が吸着材AD1から離脱する。離脱した特定ガス成分は、ガス経路GP4を介して第1センサS1および第2センサS2へ運ばれ、検知される。第1センサS1および第2センサS2に到達した特定ガス成分は、大気排出口Ao1およびAo2を介して大気中に排出される。
【0027】
ステップST5において、第2の測定ステップが行われる。バルブ制御部10は、バルブV2、V3、V4、V5を開状態にするとともに、バルブV1、V6、V7を閉状態にする(図6参照)。これにより、第2濃縮器C2から第1センサS1および第2センサS2へ至るガス経路GP5が形成される。ポンプ4および5を吸引動作させることで、第2濃縮器C2から第1センサS1および第2センサS2へのガスの強制的な流れが発生する。このとき、大気吸入口Aiから第2濃縮器C2にNなどのキャリアガスを供給してもよい。
【0028】
そしてヒータHE2による吸着材AD2の加熱を開始すると、特定ガス成分が吸着材AD2から離脱する。離脱した特定ガス成分は、ガス経路GP5を介して第1センサS1および第2センサS2へ運ばれ、検知される。
【0029】
(濃度計算式を立式するための仮定)
第1センサS1の出力値PS1および第2センサS2の出力値PS2に基づいてガス成分の濃度を算出するための計算式について、説明する。計算式を立てるために、以下の3つの仮定を用意した。
【0030】
第1の仮定は、ガス成分の仮定である。気体試料である1次ガス中の成分には、成分A、B、Cが含まれていると仮定する。成分AおよびBは、吸着材AD1およびAD2に吸着するとともに、第1センサS1および第2センサS2に反応する成分である。一方、成分Cは、吸着材AD1およびAD2に吸着せず、第1センサS1および第2センサS2に反応しない成分である。成分Aは、例えば測定対象となる目的成分である。成分Bは、例えば成分Aの測定に干渉する、妨害成分である。第1の仮定では、簡略化のため、目的成分に対し、干渉する妨害成分を1つとした。
【0031】
第2の仮定は、第1濃縮器C1および第2濃縮器C2に関する仮定である。第1濃縮器C1および第2濃縮器C2は、成分ごとの選択比に従って吸着し、脱離時はこれに濃縮率を乗じた濃縮ガスを放出する。また、第1濃縮器C1における成分AとBとの濃縮率の比(第1濃縮比)は、第2濃縮器C2における成分AとBとの濃縮率の比(第2濃縮比)とは異なっている。
【0032】
ここで、成分Aの濃度を「X」、成分Bの濃度を「Y」、成分Cの濃度を「Z」、とする。第1濃縮器C1の濃縮率を「m」、第2濃縮器C2の濃縮率を「n」とする。第1濃縮器C1の成分A、B、Cの濃縮率の比を、「(a:b:0)」とする。第2濃縮器C2の成分A、B、Cの濃縮率の比を、「(c:d:0)」とする。第1濃縮器C1の成分AとBとの濃縮率との比(第1濃縮比)は、「(a:b)」である。第2濃縮器C2の成分AとBとの濃縮率との比(第2濃縮比)は、「(c:d)」である。
【0033】
第1濃縮器C1での濃縮後の成分Aの濃度を「XC1」とすると、「XC1=m・a/(a+b)・X」の式が成立する。第1濃縮器C1での濃縮後の成分Bの濃度を「YC1」とすると、「YC1=m・b/(a+b)・Y」の式が成立する。第1濃縮器C1での濃縮後の成分Cの濃度を「ZC1」とすると、「ZC1=0」の式が成立する。
【0034】
同様に、第2濃縮器C2での濃縮後の成分Aの濃度を「XC2」とすると、「XC2=n・c/(c+d)・X」の式が成立する。第2濃縮器C2での濃縮後の成分Bの濃度を「YC2」とすると、「YC2=n・d/(c+d)・Y」の式が成立する。第2濃縮器C2での濃縮後の成分Cの濃度を「ZC2」とすると、「ZC2=0」の式が成立する。
【0035】
第3の仮定は、第1センサS1および第2センサS2に関する仮定である。第1センサS1および第2センサS2は、成分ごとの感度に従い、それらの和に比例した値を出力する。また、第1センサS1における成分AとBとの測定感度の比(第1感度比)は、第2センサS2における成分AとBとの測定感度の比(第2感度比)とは異なっている。
【0036】
ここで、第1センサS1の成分A、B、Cの測定感度の比を、「(e:f:0)」とする。第2センサS2の成分A、B、Cの測定感度の比を、「(g:h:0)」とする。第1感度比は、「(e:f)」である。第2感度比は、「(g:h)」である。
【0037】
(濃度計算式)
上記の仮定に基づき、1次ガス濃度からセンサ出力を算出するモデルを、数式で表現する。第1濃縮器C1から放出される、濃縮後のガス中の成分A、B、Cの濃度は、下式(1)で表される。
【数1】
同様に、第2濃縮器C2から放出される、濃縮後のガス中の成分A、B、Cの濃度は、下式(2)で表される。
【数2】
【0038】
第1濃縮器C1の放出ガスを第1センサS1で測定した出力値を「PC1S1」とする。出力値PC1S1は、下式(3)(4)で表される。
【数3】
【数4】
【0039】
第2濃縮器C2の放出ガスを第1センサS1で測定した出力値を「PC2S1」とする。出力値PC2S1は、下式(5)(6)で表される。
【数5】
【数6】
【0040】
第1濃縮器C1の放出ガスを第2センサS2で測定した出力値を「PC1S2」とする。出力値PC1S2は、下式(7)(8)で表される。
【数7】
【数8】
【0041】
第2濃縮器C2の放出ガスを第2センサS2で測定した出力値を「PC2S2」とする。出力値PC2S2は、下式(9)(10)で表される。
【数9】
【数10】
【0042】
出力値PC1S1およびPC1S2を求める式は、上式(4)(8)を用いて下式(11)となる。
【数11】
また出力値PC2S1およびPC2S2を求める式は、上式(6)(10)を用いて下式(12)となる。
【数12】
【0043】
成分Aの濃度Xおよび成分Bの濃度Yを算出する式は、上式(11)(12)の逆行列を用いて、下式(13)(14)で表すことができる。
【数13】
【数14】
式(13)(14)を用いることで、第1センサS1の出力値PC1S1、PC2S1、および、第2センサS2の出力値PC1S2、PC2S2によって、濃度XおよびYを算出することが可能となる。濃度XおよびYの算出は、算出部11によって行うことができる。
【0044】
(第1の効果)
成分AとBとの測定感度の比が互いに異なる、第1センサS1と第2センサS2の2つを用いる効果を説明する。式(13)に示すように、成分Aの濃度Xおよび成分Bの濃度Yに対し、第1センサS1の出力値PC1S1および第2センサS2の出力値PC1S2が得られる。よって、2出力を用いて2変数を求めることができる(すなわち方程式を2つ立てることができる)ため、濃度XおよびYを算出することが可能となる。なお式(14)についても、式(13)と同様である。
【0045】
(第2の効果)
成分AとBとの濃縮率の比が互いに異なる、第1濃縮器C1および第2濃縮器C2の2つを用いる効果を説明する。例として、以下のように設定されている場合を説明する。第1濃縮器C1の濃縮率m=100、第2濃縮器C2の濃縮率n=100、第1濃縮器C1の濃縮率の比(成分A:B:C)=(a:b:0)=(2:1:0)、第2濃縮器C2の濃縮率の比(成分A:B:C)=(c:d:0)=(1:2:0)、第1センサS1の測定感度の比(成分A:B:C)=(e:f:0)=(2:1:0)、第2センサS2の測定感度の比(成分A:B:C)=(g:h:0)=(1:2:0)。また第1センサS1および第2センサS2の出力が、0から100までの出力範囲を有している場合を説明する。
【0046】
この場合における、成分Aの濃度Xと第1センサS1の出力値PS1の関係を示すグラフを、図7に示す。図7は、第2センサS2の出力値PS2を「50」で固定し、第1センサS1の出力値PS1を変化させた場合における、成分Aの濃度Xの変化の傾きを示すグラフである。グラフLA1は、式(13)に基づいて(すなわち第1濃縮器C1を用いて)取得された直線である。グラフLA2は、式(14)に基づいて(すなわち第2濃縮器C2を用いて)取得された直線である。成分Aの濃縮率の比は、第1濃縮器C1(成分AとBの選択比が2:1)の方が第2濃縮器C2(成分AとBの選択比が1:2)よりも高い。よって、第1濃縮器C1を用いて生成したグラフLA1の方が、第2濃縮器C2を用いて生成したグラフLA2よりも、傾きを小さくする(すなわち成分Aの検出感度を高める)ことができる。例えば、成分Aの濃度Xが0.4~0.6の範囲RXで変動する場合、グラフLA2での第1センサS1の出力変動範囲RA2よりも、グラフLA1での第1センサS1の出力変動範囲RA1の方を大きく(すなわち感度を高く)することができることが分かる。
【0047】
以上より、第1濃縮器C1を用いることで、成分Aをより高濃度に濃縮することができる。成分Aの濃度Xが第1センサS1および第2センサS2の感度域以下となる場合でも、第1濃縮器C1によって、センサ出力変化を増大することができる。成分Aの濃度Xを、より高精度に測定することが可能となる。
【0048】
また、成分Aについて、濃度Xの範囲の異なる2つの検量線(グラフLA1およびLA2)を求めることができる。グラフLA1(すなわち第1濃縮器C1を用いた検量線)を用いることで、濃度Xの0~0.75までの範囲MR1を測定することができる。グラフLA2(すなわち第2濃縮器C2を用いた検量線)を用いることで、濃度Xの0.75~1.5までの範囲MR2を測定することができる。これにより、濃度Xの測定感度を高めることと、濃度Xの測定範囲を広げることとを両立することが可能となる。
【0049】
同様にして、図8に、成分Bの濃度Yと第1センサS1の出力値PS1の関係を示すグラフを示す。図8は、第2センサS2の出力値PS2を「50」で固定し、第1センサS1の出力値PS1を変化させた場合における、成分Bの濃度Yの変化の傾きを示すグラフである。グラフLB1は、式(13)に基づいて(すなわち第1濃縮器C1を用いて)取得された直線である。グラフLB2は、式(14)に基づいて(すなわち第2濃縮器C2を用いて)取得された直線である。成分Bの濃縮率の比は、第2濃縮器C2(成分AとBの選択比が1:2)の方が第1濃縮器C1(成分AとBの選択比が2:1)よりも高い。よって、第2濃縮器C2を用いて生成したグラフLB2の方が、第1濃縮器C1を用いて生成したグラフLB1よりも、傾きを小さくする(すなわち成分Bの検出感度を高める)ことができる。例えば、成分Bの濃度Yが0.2~0.4の範囲RYで変動する場合、グラフLB1での第1センサS1の出力変動範囲RB1よりも、グラフLB2での第1センサS1の出力変動範囲RB2の方を大きく(すなわち感度を高く)することができることが分かる。
【0050】
以上より、第2濃縮器C2を用いることで、成分Bの濃度Yをより高精度に測定することが可能となる。また、成分Bについて、濃度Yの範囲の異なる2つの検量線(グラフLB1およびLB2)を求めることができる。これにより、濃度Yの測定範囲を広げることが可能となる。
【実施例0051】
実施例2では、センサのオフセット変動の影響を受けない、ガス成分濃度の算出方法について説明する。実施例1と異なる点のみを説明する。図9および図10に、成分Aの濃度Xと第1センサS1の出力値PS1の関係を示すグラフを示す。図9および図10のグラフの作成方法および内容は、実施例1の図7のグラフと同様である。図9および図10において、実線のグラフLA1およびLA2は、オフセット変動前のグラフである。また点線のグラフLA1aおよびLA2aは、オフセット変動後のグラフである。
【0052】
図9を用いて、オフセット変動の影響を説明する。センサは一般的にオフセット変動が生じることが多く、時間の経過とともに、センサ出力値が変動してしまう場合がある。例えば、オフセット変動前のグラフLA1およびLA2(実線)が、第1センサS1の出力値PS1に対して平行移動し、オフセット変動後のグラフLA1aおよびLA2a(点線)に変化してしまう場合がある。すると、第1センサS1の出力値PS1が「80」である場合に、オフセット変動前の濃度X1は約「0.25」と算出されるが、オフセット変動後の濃度X1aは約「0.55」と算出されてしまう。オフセット変動により、濃度Xの算出値にばらつきが発生してしまう。
【0053】
次に図10を用いて、実施例2の濃度算出方法を説明する。実施例2では、グラフLA1とLA2との差分、および、グラフLA1aとLA2aとの差分を用いて、濃度Xを算出する。グラフLA1およびLA1aは、式(13)に基づいて(すなわち第1濃縮器C1から第1センサS1および第2センサS2へ至るガス経路GP4を用いて)算出されたグラフである。グラフLA2およびLA2aは、式(14)に基づいて(すなわち第2濃縮器C2から第1センサS1および第2センサS2へ至るガス経路GP5を用いて)算出されたグラフである。
【0054】
グラフLA1およびLA2は、互いに傾きの異なる直線である。よってグラフLA1とLA2との差分は、濃度Xに比例する。そしてグラフLA1およびLA2の傾きは、オフセット変動によっては変化しない。従って、グラフLA1とLA2との差分は、オフセット変動の有無に関わらず一定となる。例えば、グラフLA1の出力値PS1とグラフLA2の出力値PS1との差分D1が、約「20」の場合には、濃度Xが「0.4」と算出される。そしてオフセット変動後のグラフLA1aの出力値PS1とグラフLA2aの出力値PS1との差分D1aも、約「20」の場合に、濃度Xが「0.4」と算出される。これにより、センサ特性のオフセットの影響を受けずに濃度Xを算出することが可能となる。
【0055】
なお、成分Bの濃度Yについても同様にして、グラフLB1とLB2との差分を取ることにより、センサ特性のオフセットの影響を受けることなく濃度Yを算出することが可能である(図8参照)。
【0056】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0057】
(変形例)
本実施例では、濃縮器の数が2つであり、センサの数が2つである場合を説明したが、この形態に限られない。濃縮器の数に対し、センサの数の方を多くしてもよい。式(13)で説明した方程式は、センサの数と同数だけ立式することができる。よってセンサの数を多くするほど、変数(測定するガス成分の数)を増やすことが可能となる。例えば、センサの数を3つにすることにより、方程式を3つ立式できるため、試料ガス中の成分A、B、Dの濃度(3つの変数)を特定することが可能となる。
【0058】
また、センサの数に対し、濃縮器の数の方を多くしてもよい。実施例2で説明したグラフLAは、濃縮器の数と同数だけ生成することができる。よって濃縮器の数を多くするほど、グラフ間の差分の数を増加させることが可能となる。すなわち、濃縮器の数をk(kは1以上の自然数)とすると、差分の数は、「k・(k-1)/2」とすることができる。よって例えば、濃縮器を3個備える場合には、グラフLAは3つとなり、差分の数も3つとなる。3つの差分を用いて濃度を算出することができるため、濃度算出の精度を高めることや、オフセット変動の影響をより小さくすることが可能となる。
【0059】
第1濃縮器C1および第2濃縮器C2の濃縮率の比は、互いに異なっていればよく、様々な比率とすることができる。例えば、第1濃縮器C1および第2濃縮器C2の両方において、成分Aの方が成分Bよりも濃縮率が高くてもよい(例:(a:b:0)=(2:1:0)、(c:d:0)=(4:1:0))。
【0060】
ガス検知装置2は、様々な構成であってよい。例えば、ガス検知装置2は、マイクロマシニング技術により作製してもよい。例えば、シリコンウエハを用いて、第1濃縮器C1、第2濃縮器C2、第1センサS1、第2センサS2、各種流路、バルブV1~V7を作成してもよい。ガス検知装置2のコンパクト化が可能となる。
【0061】
成分Aは、第1ガス成分の一例である。成分Bは、第2ガス成分の一例である。ガス経路GP4は、第1ガス経路の一例である。ガス経路GP5は、第2ガス経路の一例である。バルブV1は、第1バルブの一例である。バルブV2は、第2バルブの一例である。
【符号の説明】
【0062】
1:ガス検出システム 2:ガス検知装置 3:試料ガス容器 4~6:ポンプ 10:バルブ制御部 11:算出部 C1:第1濃縮器 C2:第2濃縮器 S1:第1センサ S2:第2センサ GP1~GP5:ガス経路 V1~V7:バルブ
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図10